主文 本件上告を棄却する。 上告費用は上告人の負担とする。 理由 上告人の上告受理申立て理由について 1 本件は,上告人が,a町情報公開条例(平成12年a町条例第27号。以下「本件条例」という。)に基づき,a町の議会の議事内容を収録した録音テープの公開を請求したところ,被上告人から,同録音テープは情報公開の対象となる情報には当たらないとして情報公開請求却下処分を受けたため,同処分の取消しを求めた事案である。 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。 (1) 上告人はa町の住民であり,被上告人は本件条例所定の実施機関である。 (2) 上告人は,被上告人に対し,平成12年12月21日,「平成12年12月定例a町議会においてなされたD議員の質問部分及びそれに対する答弁(回答)部分の収録された録音テープの全部」の公開を請求した。これに対し,被上告人は,同月28日,上記請求に係る録音テープ(以下「本件テープ」という。)は本件条例2条2号にいう「情報」には当たらないとして,本件テープにつき,情報公開請求却下処分(以下「本件処分」という。)をした。 (3) 本件条例1条は,「この条例は,町民の情報の公開を求める権利を明らかにするとともに,情報の公開に関し必要な事項を定めることにより,町政に対する理解と信頼を深め,町政への町民参加を一層推進し,もって地方自治の本旨に即した町政の発展に寄与することを目的とする。」と規定し,本件条例2条2号は,この条例において「情報」とは,「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フイルム及び磁気テープであって,決裁又は閲覧の手続が終了し- 1 -,実施機関において管理しているものをいう。」と規定し,同条3号は,こ 施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フイルム及び磁気テープであって,決裁又は閲覧の手続が終了し- 1 -,実施機関において管理しているものをいう。」と規定し,同条3号は,この条例において「情報の公開」とは,「実施機関がこの条例の定めるところにより,情報を閲覧に供し,又はその写しを交付することをいう。」と規定している。また,本件条例3条は,「実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,情報の公開を求める権利を十分尊重するとともに,個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定している。そして,本件条例5条は,「町内に住所を有する者」等は,実施機関に対して情報の公開を請求することができる旨を規定している。 a町議会事務局処務規程(昭和54年a町議会訓令第1号)には,上記の決裁又は閲覧(以下「決裁等」という。)について定めた規定はないが,その6条は,同処務規程に定めるもののほか,事務処理については町の例に準ずるとしており,a町処務規則(昭和42年a町規則第1号)10条1号は,決裁とは町長等の決裁権者がその権限に属する事務の処理につき最終的に意思決定を行うことをいう旨定義している。他方,閲覧については,a町処務規則にもこれを定義する規定はないが,一般には,閲覧とは,当該文書等に係る事務を所掌する上位の職員等が,その内容を確認することをいうものである。 (4) 本件テープは,被上告人の事務局の職員が,被上告人の議長の職務命令を受けて,地方自治法123条所定の会議録を作成するため,議会の議事内容を録音したもので,会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有している。会議録作成のための録音に使用した磁気テープは,通常は,会議録作成後にその録音内容が消去され,再利用され ,議会の議事内容を録音したもので,会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有している。会議録作成のための録音に使用した磁気テープは,通常は,会議録作成後にその録音内容が消去され,再利用される。 (5) 本件テープ等に基づいて作成される会議録については決裁等の手続が予定されているが,本件処分当時,同会議録はいまだ作成されていなかった。 3 原審は,本件条例2条2号において「決裁又は閲覧の手続が終了」したこと- 2 -が「情報の公開」の対象となる「情報」に該当するための要件とされているのは,決裁等の手続が予定されていない「情報」を「情報の公開」の対象から外す趣旨であると解した上で,本件テープは,その性質上,決裁等の手続が予定されていないものというべきであるから,本件条例に基づく「情報の公開」の対象となる「情報」に該当しないと判断して,上告人の請求を棄却すべきものとした。 4 【要旨】本件条例2条2号の「決裁又は閲覧の手続が終了し」という要件が,原審の判示するとおり決裁等の手続を予定していない情報を公開の対象から排除する趣旨のものと解すべきかどうかはともかくとして,本件テープは,被上告人の事務局の職員が会議録を作成するために議事内容を録音したものであって,会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有しており,会議録については決裁等の手続が予定されていることからすると,会議録と同様に決裁等の対象となるものとみるべきであり,決裁等の手続を予定していない情報ではないというべきである。 したがって,会議録が作成され決裁等の手続が終了した後は,本件テープは,実施機関たる被上告人において管理しているものである限り,公開の対象となり得よう。 しかしながら,本件の場合は,本件処分当時には会議録がいまだ作成すらされていなかったのであるから,その 件テープは,実施機関たる被上告人において管理しているものである限り,公開の対象となり得よう。 しかしながら,本件の場合は,本件処分当時には会議録がいまだ作成すらされていなかったのであるから,そのような段階で会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有する本件テープだけが本件条例2条2号にいう情報に当たると解することはできず,仮に本件条例の目的を定めた1条や解釈・運用指針を定めた3条の趣旨から,できる限り公開の対象を広く解釈するとしても,このような場合にまで情報公開請求を認めるべきものとは解されない。 5 以上によれば,本件テープは本件条例2条にいう情報の公開の対象となる情報には当たらず,本件処分の取消しを求める本件請求は理由がないというべきである。これと同旨の原審の判断は是認することができ,論旨は採用することができない。 - 3 -よって,裁判官泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。 私は,原判決を破棄し,第1審判決を取り消して,上告人の請求を認容すべきであると考える。その理由は,次のとおりである。 1(1)本件条例2条2号は,公開請求の対象となる「情報」について,「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画,写真,フイルム及び磁気テープであって,決裁又は閲覧の手続が終了し,実施機関において管理しているものをいう。」と規定している。これを一見すると,決裁等の手続が終了した情報のみが公開請求の対象になることを規定しているように見える。 (2) 決裁等の手続を終了していない情報は,一般に,変更の可能性もある未成熟なものであり,その正確性等を組織的に認知していないものであるから,これに対しては実施機関として責任を負い難く,これが直 (2) 決裁等の手続を終了していない情報は,一般に,変更の可能性もある未成熟なものであり,その正確性等を組織的に認知していないものであるから,これに対しては実施機関として責任を負い難く,これが直ちに公開されると,町政の適正な運営に支障を来すおそれがあり,住民間に無用の誤解や混乱を生じさせ,町政に対する住民の信頼を失わせるおそれがある。a町処務規則10条1号は,「決裁」について,「町長,町長の権限の受任者及び専決権限を有する者等が,その権限に属する事務の処理につき,最終的に意思決定を行うことをいう。」と定義しているが,意思決定のための決裁文書が未確定の案の段階で公開されるとすると,上記のような弊害も生じよう。したがって,上記のような弊害のある情報を公開請求の対象から除外するということも,立法の選択肢の一つとして肯定することができる。 (3) 一方,本件条例2条2号は,公開請求の対象となる情報として,「写真,フイルム及び磁気テープ」を掲げており,これらの情報については,通常の場合,決裁等の手続を想定し難いところ,決裁等の手続が終了していないために公開請求- 4 -の対象から除外されるとすれば,同号が「写真,フイルム及び磁気テープ」を特に掲げていることの意義がほとんどなくなってしまうのである。 (4) また,地方自治体の情報公開条例の解釈も,その背景をなす地方自治体の事務処理の実態に適合するものでなければならないが,地方自治体においては決裁等の手続がそれ程明確に定められているわけではなく,また,職員が職務上作成し又は取得した文書等は原則として決裁等の手続を経るという実態には必ずしもなっていないのであり,上記文書等の中には,決裁等の手続を予定していないものも相当数存すると考えられる。現に,a町には,「閲覧」の定義規定も手続規定もない。 こ 裁等の手続を経るという実態には必ずしもなっていないのであり,上記文書等の中には,決裁等の手続を予定していないものも相当数存すると考えられる。現に,a町には,「閲覧」の定義規定も手続規定もない。 このような実態の中で,決裁等の手続が終了した情報のみが公開請求の対象になるとすると,公開請求の対象から外れる情報が多数残り,また,公開請求の対象についての地方自治体の恣意的コントロールを招くおそれも生じかねず,情報公開制度の趣旨に反することになる。 (5) さらに,本件条例3条は,「実施機関は,この条例の解釈及び運用に当たっては,情報の公開を求める権利を十分尊重」しなければならないと規定している。 また,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成15年法律第61号による改正前のもの)は,その2条2項において,開示請求の対象となる行政文書について,決裁等の手続終了を要件とすることなく,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているものをいうと規定した上,その41条において,「地方公共団体は,この法律の趣旨にのっとり,その保有する情報の公開に関し必要な施策を策定し,及びこれを実施するよう努めなければならない。」と規定している。 (6) 以上を総合して考えると,本件条例2条2号は,最終的な意思決定や組織的な認知を経ておらず,変更の可能性もある未成熟・不安定な情報で,公開するこ- 5 -とにより前記のような弊害のあるものを公開請求の対象から外す趣旨で「決裁又は閲覧の手続が終了し」と規定しているものであって,実施機関の職員が職務上作成し又は取得した情報で,決裁等の手続を経ることが予定されておらず,これを公開しても前記のような弊害のない情報についてま 又は閲覧の手続が終了し」と規定しているものであって,実施機関の職員が職務上作成し又は取得した情報で,決裁等の手続を経ることが予定されておらず,これを公開しても前記のような弊害のない情報についてまで,これを公開請求の対象から排除する趣旨ではないと解すべきである。 (7) 本件テープは,被上告人自らが主張し,原審も認定しているように,そもそも決裁等の手続を経ることが予定されていない情報である。また,本件テープは,会議録作成のために議事内容を録音したものではあるが,それ自体で完成し独立した情報であって,正確性も機械的に担保されたものであり,これを公開しても先に触れたような弊害は生じない。そして,被上告人が本件テープを現実に支配,管理していることについても当事者間に争いがないのであるから,本件テープは公開請求の対象となる本件条例2条2号の情報に該当するというべきである。なお,本件テープは,会議録作成後に録音が消去されるものであるが,未だ録音が消去されずに被上告人の管理下にある以上,公開請求の対象となる情報に当たると解することに何ら妨げはない。 2 私は,以上の理由から本件テープは公開請求の対象となる情報に該当すると考えるものであるが,本件条例の下ではあくまでも決裁等の手続終了が必要であるという立場に仮に立ったとしても,少なくとも本件テープに関しては,決裁等の手続が終了していると評価することが可能である。もし,被上告人の議長が本件テープを再生して会議の経過が正確に録音されていることを確認したとすれば,決裁等の手続が終了したと解することに異論はないであろう。しかし,機械的に正確性を担保された録音テープについて,これを再生してまで録音の正確性を確認するという手続は省略されるのが通常であるから,議長から職務命令を受けた職員が議事場内で録音を終了 あろう。しかし,機械的に正確性を担保された録音テープについて,これを再生してまで録音の正確性を確認するという手続は省略されるのが通常であるから,議長から職務命令を受けた職員が議事場内で録音を終了した時点で,実質的に議長の決裁等の手続が終了したと評価するの- 6 -が妥当である。本件テープは,被上告人の事務局の職員が,議長の職務命令を受けて,会議録を作成するために録音したものである。したがって,本件テープは,いずれにしても公開請求の対象となる情報に当たるというべきである。 3 法廷意見は,本件テープは,会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有するから,会議録が作成され決裁等の手続が終了した後において,公開請求の対象となるという。これは,会議録の決裁等の手続終了と同時に本件テープについても本件条例2条2号の決裁等の手続が終了したと評価する趣旨と考えられるが,実際には本件テープ自体について決裁等が行われるわけではない。また,本件テープは機械的に正確性を担保されたものであって,会議録の決裁等の時点で本件テープに変更が加えられる可能性はない。本件テープは,会議録作成のための基礎となる資料としての性格を有するとしても,会議録とは独立した一つの情報である。 本件テープが公開されることにより,住民は,会議録作成前においても,議事内容を知ることができ,その情報をもって町政に参加することができるのであり,また,会議録の正確性を検証することもできるのである。本件テープについて決裁等の手続終了を擬制するとすれば,2で述べたように,議長から職務命令を受けた職員が議事場内で録音を終了した時点で議長の決裁等があったと評価する方が妥当であると考える。 (裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官島田仁郎裁判官才口千晴)- が議事場内で録音を終了した時点で議長の決裁等があったと評価する方が妥当であると考える。 (裁判長裁判官甲斐中辰夫裁判官横尾和子裁判官泉徳治裁判官島田仁郎裁判官才口千晴)- 7 -
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