平成28年2月25日判決言渡平成26年(行コ)第102号原爆症認定義務付等請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成22年(行ウ)第56号[第1事件],同第139号[第2事件]) 主文 1 原判決主文第2項及び第3項を取り消す。 2 被控訴人らの訴えのうち,厚生労働大臣が承継前原審第1事件原告亡Z1に対して原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律11条1項の規定による認定をすることの義務付けを求める部分を却下する。 3 被控訴人らのその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 事実 及び理由第1章当事者の求めた裁判第1 控訴人主文同旨第2 被控訴人ら 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2章事案の概要等第1 事案の要旨本件は,原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律(以下「被爆者援護法」という。)1条所定の被爆者である亡Z1が,平成20年3月6日に被爆者援護法11条1項の規定による認定(以下「原爆症認定」という。)の申請(以下「本件Z1申請」という。)をしたところ,厚生労働大臣が平成22年8月26日付けで本件Z1申請を却 下する旨の処分(以下「本件Z1却下処分」という。)をしたことから,亡Z1が控訴人に対し,本件Z1却下処分の違法を主張して,本件Z1却下処分の取消し及び本件Z1申請に係る原爆症認定の義務付けを求めるとともに,本件Z1却下処分が国家賠償法上違法であり,これにより亡Z1が精神的苦痛を受けた旨主張して,同法1条1項に基づき,300万円(慰謝料200万円と弁護士費用100万円との合計)及びこれに対する平成22年9月16日(第1事 賠償法上違法であり,これにより亡Z1が精神的苦痛を受けた旨主張して,同法1条1項に基づき,300万円(慰謝料200万円と弁護士費用100万円との合計)及びこれに対する平成22年9月16日(第1事件に係る平成22年9月15日付け請求の趣旨変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 亡Z1は,原審係属中の平成23年○月○日に死亡し,亡Z1の妻である被控訴人Z2並びに亡Z1と被控訴人Z2との間の子である被控訴人Z3(長女)及び被控訴人Z4(長男)が亡Z1の有する一切の権利義務を共同相続し,亡Z1の訴訟手続を受継した。 原審は,被控訴人らの請求のうち,本件Z1却下処分の取消請求及び本件Z1申請に係る原爆症認定義務付け請求を認容し(原判決主文第2,3項),その余の請求を棄却した(同第6項)。 これに対し,控訴人が自己の敗訴部分を不服として控訴した(被控訴人らは自己の敗訴部分について控訴ないし附帯控訴しなかった。)。 したがって,被控訴人らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求の当否は,当審における審判の対象とはならない。 なお,原審では,亡Z5訴訟承継人原審第2事件原告Z6の控訴人に対する第2事件に係る訴えが第1事件と併合審理され,原判決で第2事件についても判断が示されたが,亡Z5訴訟承継人原審第2事件原告Z6及び控訴人がいずれも控訴ないし附帯控訴しなかったた め,原判決中,第2事件に関する部分は既に確定している。 第2 法令の定め,前提となる事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実),争点及び当事者の主張これらの点については,後記第3のとおり原判決を補正し,後記第4の控訴人の当審における補充主 の定め,前提となる事実(証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実),争点及び当事者の主張これらの点については,後記第3のとおり原判決を補正し,後記第4の控訴人の当審における補充主張及び後記第5の被控訴人らの当審における補充主張を各付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2章の第1ないし第3(原判決3頁4行目から25頁21行目まで)並びに原判決別紙2の「原告らの主張」及び同別紙3の「被告の主張」(原判決89頁1行目から236頁末行まで)のうち本件Z1却下処分取消請求及び本件Z1申請に係る原爆症認定義務付け請求関係部分のとおりであるから,これを引用する。 第3 原判決の補正 1 4頁7行目の「広島県安芸郡等」を「広島県安芸郡」と,8頁17行目の「同条2項」を「同条3項」と各改める。 2 10頁21行目を「エ原爆放射線の被曝線量の算定」と改める。 3 12頁17行目末尾の次に行を改め,次のとおり加える。 「(3) 新審査の方針の再改訂医療分科会は,平成25年12月16日付けで新審査の方針(改定版)を更に改訂し,放射線起因性の要件該当性の判断について,「科学的知見を基本としながら,総合的に実施する」が,「特に,被爆者救済及び審査の迅速性の見地から,現在の科学的知見として放射性被曝による健康影響を肯定できる範囲に加え,放射性被曝による健康影響が必ずしも明らかでない範囲を含め」るとして,積極認定の範囲を次のとおり設定した(以下,上記改訂後の方針を「平成25年新方針」という。)(乙A25)。 ア悪性腫瘍(固形がんなど),白血病,副甲状腺機能亢進症 新審査の方針(改定版)と同様の要件に該当する者から申請がある場合,格段に反対すべき事由がない限り,原則的に認定する。 イ心筋梗塞,甲状腺機能 ),白血病,副甲状腺機能亢進症 新審査の方針(改定版)と同様の要件に該当する者から申請がある場合,格段に反対すべき事由がない限り,原則的に認定する。 イ心筋梗塞,甲状腺機能低下症,慢性肝炎・肝硬変①被爆地点が爆心地より約2.0㎞以内である者,②原爆投下より翌日までに爆心地から約1.0㎞以内に入市した者のいずれかに該当する者から申請がある場合,格段に反対すべき事由がない限り,積極的に認定する。 ウ放射線白内障(加齢性白内障を除く。)被爆地点が爆心地より約1.5㎞以内である者から申請がある場合,格段に反対すべき事由がない限り,積極的に認定する。」 4 12頁20行目の「承継前第1事件原告亡Z1」を「亡Z1」と,同頁24行目の「(以下「本件Z1申請」という。)」を「(本件Z1申請)」と各改める。 5 13頁7行目の「(以下「本件Z1却下処分」という。)」を「(本件Z1却下処分)」と改め,同頁12行目から14行目までを次のとおり改める。 「キ亡Z1は,原審係属中の平成23年○月○日に死亡し,亡Z1の妻である被控訴人Z2並びに亡Z1と被控訴人Z2との間の子である被控訴人Z3(長女)及び被控訴人Z4(長男)が亡Z1の有する一切の権利義務を共同相続し,亡Z1の訴訟手続を受継した(弁論の全趣旨[なお,亡Z1訴訟代理人弁護士塩見卓也作成の2012(平成24年)7月6日付け「受継の申立」と題する書面には,亡Z1の相続人の一人である被控訴人Z2が亡Z1の訴訟手続を受継する旨の記載があるが,同書面に添付された承継同意書(3通)には,亡Z1の訴訟手続を共同相続人であ る被控訴人Z2が受継することに被控訴人らがそれぞれ同意する旨の記載があるにとどまり,被控訴人らの間に亡Z1の有する一切 付された承継同意書(3通)には,亡Z1の訴訟手続を共同相続人であ る被控訴人Z2が受継することに被控訴人らがそれぞれ同意する旨の記載があるにとどまり,被控訴人らの間に亡Z1の有する一切の権利義務を被控訴人Z2が単独相続する旨の遺産分割協議が成立したものとは解されないから,亡Z1の共同相続人である被控訴人らがそれぞれ亡Z1の訴訟手続を受継したものと解するのが相当である。])。」 6 90頁23行目の「2002年の被曝線量評価体系」を「2002年に取りまとめた被曝線量評価体系」と,94頁15行目の「0. 5nm」を「0.5mm」と各改める。 第4 控訴人の当審における補充主張 1 放射線起因性の要件該当性判断の論理的構造本件Z1申請に係る疾病である心筋梗塞のように,放射線被曝によらずとも一般的に発症し得る疾病については,その発症の時期や症状の経過について被爆者に特異な事情を見いだすことはおよそ困難である。そのため,通常人にとっては,被爆者に生じた当該疾病の発症が放射線被曝によることの確信を持つことは困難であり,ましてや通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持つことは相当困難であるといわざるを得ない。 そこで,最高裁平成12年判決に依拠しつつ,心筋梗塞のように原爆放射線被曝によらずとも一般的に発症し得る疾病について放射線起因性の要件該当性を判断する場合の論理的構造を考察すると,次の3点を順次検討することが不可欠である。 ① 放射線被曝と疾病の発症との関係に係る疫学的な知見の的確な分析(因果関係の有無の判断の基礎となるべき科学的経験則の有無及びその内容の認定)② 上記①の科学的経験則を特定の原告に当てはめ,特定の原告に ついて原爆放射線被曝による疾病の発症リスク 因果関係の有無の判断の基礎となるべき科学的経験則の有無及びその内容の認定)② 上記①の科学的経験則を特定の原告に当てはめ,特定の原告に ついて原爆放射線被曝による疾病の発症リスクを導くための科学的な知見に基づく的確な線量評価(上記①の科学的経験則に当てはめるべき事実としての被曝線量の認定)③ 原爆放射線被曝による発症リスクとそれ以外の原因による発症リスク(原爆放射線被曝にかかわらずに発症することが医学的に一般的に認められている場合の発症リスク等)とを対比した上で,なお,高度の蓋然性をもって当該原告が原爆放射線に被曝したことにより当該原告の申請疾病が発症したと評価し得るかというリスクの的確な評価 2 心筋梗塞の放射線起因性を検討するに当たって前提とされるべき科学的経験則の内容本件Z1申請に係る疾病である心筋梗塞については,放射線被曝と心筋梗塞発症との関係についての疫学研究が少なからず存在し,両者の関連性の有無という観点からみれば,放射線被曝と心筋梗塞発症との間におよそ関係がないとはされていない。 しかしながら,このことは,いかなる線量においても放射線被曝があれば心筋梗塞が発症するという意味での因果関係についての科学的経験則が存在することを意味するものではない。上記疫学研究から認められるのは,放射線被曝と心筋梗塞発症との間に一定の量反応関係(被曝線量が多くなるに従って疾病の発症リスクも上昇するという関係)があるということであり,このような放射線被曝と心筋梗塞発症との間の関連性の程度に十分留意されなければならない。そして,被曝線量と心筋梗塞の発症リスクとの関係については,最近の国際的な知見において,心筋梗塞はしきい値のある確定的影響のある疾病であるとされている。すなわち,UNS 分留意されなければならない。そして,被曝線量と心筋梗塞の発症リスクとの関係については,最近の国際的な知見において,心筋梗塞はしきい値のある確定的影響のある疾病であるとされている。すなわち,UNSCER2010年報告書において,心筋梗塞と1ないし2グレイ未満の放射線被曝との間に直接 的な因果関係は認められていないし,最新のICRP2012勧告(ICRP118)においても,放射線防護の観点から広く見積もったしきい値は0.5グレイとされている。かえって,放射線被曝と心筋梗塞発症との関連性を肯定する根拠として挙げられる個々の論文をみても,0.5グレイを下回るような低線量被曝と心筋梗塞発症との間の関連性を肯定し得るような科学的知見はない(乙D29)。 3 亡Z1の被曝線量が0.5グレイに達するとは考えられないこと(1) 特定の個人について原爆放射線被曝による疾病の発症リスクを的確に評価するには,当該個人が被曝した放射線量について的確に推定することが必要になる。すなわち,放射線被曝と疾病の発症との間の量反応関係の有無及び内容(科学的経験則)と被曝線量の両者が正しく認定されることにより,初めて当該個人についての原爆放射線被曝による疾病の発症リスクを的確に評価することが可能となる。そして,このような定量的な被曝線量を推定することの重要性は,有意な量反応関係が一定の線量以上の放射線被曝の場合のみに認められる疾病,いわゆるしきい値がある疾病をみれば明らかである。 しかしながら,このことは,しきい値がない疾病の場合に定量的な被曝線量を推定する必要がないことを意味するものではない。 すなわち,しきい値の有無にかかわらず,放射線被曝と疾病の発症との間に一定の量反応関係が認められ,被曝線量によって疾病を発症するリスクが異な 被曝線量を推定する必要がないことを意味するものではない。 すなわち,しきい値の有無にかかわらず,放射線被曝と疾病の発症との間に一定の量反応関係が認められ,被曝線量によって疾病を発症するリスクが異なる限りは,当該個人の被曝線量が低ければ,疾病の発症リスクもまた低くなることに留意すべきである。 (2) 以上を踏まえ,亡Z1が原爆放射線から受けた被曝線量を推定すると,0.02064グレイを更に大幅に下回るものであり,これはCT検査1回分程度という極めて微量の線量である。 このように,亡Z1の被曝線量は,放射線防護の観点から広く見積もったしきい値である0.5グレイの20分の1以下である。 放射線被曝の未解明等を考慮して,なお推定被曝線量に誤差があり得るとしても,そのような誤差のみで20倍もの差を説明できるとは到底解し難い。 4 亡Z1の心筋梗塞の原爆放射線被曝以外の発症リスクの検討及び評価(1) 本件Z1申請に係る疾病である心筋梗塞は,被爆者でない通常人においても一般的に発症するような,いわばありふれた疾病である。このような一般的な疾病については,放射線被曝に原因を求めるまでもなく,放射線被曝以外の他の危険因子のみを原因としても一般的に起こり得るものであり,放射線被曝を受けたこと及び当該疾病を発症したことだけでは,「あれ(放射線被曝)なければこれ(当該疾病の発症)なし」という因果関係の定式を満たさないのである。 そして,特定の事実が特定の損害の発生を招来したことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたというためには,他原因の可能性を原告が高度の蓋然性をもって否定する必要があり,個別の原告は,本証として,他原因の不存在を高度の蓋然性をもって立証する必要があるのに対し,被告は,反証として,当該 たというためには,他原因の可能性を原告が高度の蓋然性をもって否定する必要があり,個別の原告は,本証として,他原因の不存在を高度の蓋然性をもって立証する必要があるのに対し,被告は,反証として,当該結果の発生が専ら他原因によるのではないかとの疑いを抱かせる程度の立証をすれば足りるものと解されている(松並重雄・最高裁判所判例解説民事篇平成18年度(下)737,738頁)。 このように,特定の個人について放射線起因性の有無を判断するためには,特定の個人ごとに原爆放射線以外の他原因と当該疾病の発症との間の因果関係の存否についても検討する必要があり,当 該因果関係が存在する可能性が否定できないときに,放射線起因性の要件該当性を認めることは許されない。いいかえると,本件Z1申請に係る疾病である心筋梗塞のように一般的に発症する疾病については,被爆者でない通常の日本人が亡Z1と同様の年齢や生活習慣の下で申請疾病を発症した場合との差異を合理的に説明することができなければ,上記疾病について放射線起因性を認めることは許されない。上記のような差異を合理的に説明することができないのであれば,本件Z1申請に係る疾病が専ら原爆放射線以外の原因により発症したものである疑いが残ることになるから,放射線起因性について,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るとは到底いえず,高度の蓋然性の証明があったとはいえない。 (2) 亡Z1には,後記5以下で述べるとおり,加齢,喫煙,脂質異常症等の心筋梗塞発症の危険因子が重畳的に存在しており,その程度は当該危険因子のみで優に心筋梗塞を発症し得るものであったことからすれば,亡Z1の昭和61年10月及び平成6年の心筋梗塞発症は,重畳的に有していた発症リスク(危険因子)が現実化したものと優 の程度は当該危険因子のみで優に心筋梗塞を発症し得るものであったことからすれば,亡Z1の昭和61年10月及び平成6年の心筋梗塞発症は,重畳的に有していた発症リスク(危険因子)が現実化したものと優に合理的に説明することが可能であり,少なくとも,亡Z1の上記2回の心筋梗塞の放射線起因性について,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえない。 5 心筋梗塞の一般的な知見(1) 心筋梗塞の機序等心筋梗塞は,冠動脈が何らかの原因で閉塞して心筋への血液供給が阻害されて心筋細胞が酸素不足(虚血)に陥る虚血性心疾患であって心筋壊死を伴うものである。そして,冠動脈の閉塞に至る最 も多い原因とされるのは,冠動脈硬化症(冠動脈に生ずる粥状動脈硬化)により形成された粥腫の破綻であり,この破綻は粥腫の性状が関わっているとされている。このため,粥腫の破綻は,必ずしも狭窄度が高い部位で生じるものではないことが近時の研究によって明らかにされている(乙D27の資料4)。 また,心筋梗塞を発症した患者は,一般に冠動脈の病変が進行した結果,責任病変部位だけでなく,冠動脈全体に不安定プラークが多数存在するに至っている(乙D27の資料4)ため,心筋梗塞の既往歴のある患者の冠動脈は,既に発症した心筋梗塞の責任病変部位以外の部位に形成される粥腫が破綻して心筋梗塞が再発する可能性がある状態といえる。 (2) 心筋梗塞の危険因子心筋梗塞の危険因子としては,加齢,高血圧,糖尿病,喫煙,脂質異常症,肥満等があり,危険因子が複数存在する場合には,危険因子が「2つだと4倍,3つだと8倍,4つだと16倍」という形で有病率が加速度的に増加するとされている(乙A506の 圧,糖尿病,喫煙,脂質異常症,肥満等があり,危険因子が複数存在する場合には,危険因子が「2つだと4倍,3つだと8倍,4つだと16倍」という形で有病率が加速度的に増加するとされている(乙A506の7枚目の図4)。 ア加齢加齢は,加齢そのものが虚血性心疾患の独立した危険因子であり,急性心筋梗塞の発症は50歳代より増加がみられ,虚血性心疾患は高齢者で圧倒的に多く,70歳以降で発症率がピークになる。「循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」(2015年2月5日更新版)では,日本人における虚血性心疾患の危険因子として,「年齢要因は,男性は45歳以上とし,女性は55歳以上とする。」とされている(乙 D27の資料1)。 また,加齢は,虚血性心疾患の予後不良因子であるとされており,心筋梗塞後の長期予後では,生存退院後の平均20か月の追跡調査において,60歳未満の心臓死が0.3%であったのに対し,70歳以上では2.6%と高率であるなど,高齢者は予後不良である。 さらに,高齢者の虚血性心疾患では,石灰化を伴ったびまん性冠動脈病変や左主幹部病変,三枝病変などの重症多枝病変の頻度が高いとされている(乙D27の資料1)。 イ脂質異常症脂質異常症が虚血性心疾患の危険因子となることは,これまでに多くの研究結果で報告されており,その中でも,高コレステロール血症が冠動脈疾患の重要な危険因子であることが明らかにされている。そして,日本人における総コレステロール値と虚血性心疾患の関連性については,男女ともに総コレステロール値の増加とともに虚血性心疾患の相対危険度も上昇するとされ,総コ あることが明らかにされている。そして,日本人における総コレステロール値と虚血性心疾患の関連性については,男女ともに総コレステロール値の増加とともに虚血性心疾患の相対危険度も上昇するとされ,総コレステロール値160~179mg/dl 以下の群と比較して,男性では200mg/dl の群で1.7倍から2倍に,200mg/dl 以上の群では2倍から5倍に上昇する(乙D27の資料1)。 また,HDLコレステロール値が冠動脈疾患その他の動脈硬化性疾患の罹患率と負の相関関係を示すことが多くの疫学調査で報告されており,大多数は肯定されている。例えば,日本における疫学調査では,HDLコレステロール値が56.1~63. 8mg/dl の群,48.0~55.7mg/dl の群,48.0mg/dl 以下の群では,64.2mg/dl 以上の群と比較して,冠動脈疾患の相対危険度は,それぞれ1.8倍,1.61倍,4.17倍高値 となったとされている(乙D27の資料1)。 ウ喫煙(ア) 喫煙単独での影響喫煙と虚血性心疾患との関連については,喫煙が虚血性心疾患の発症率及び死亡率を高めていることが証明されている。 例えば,1日の喫煙本数に応じて冠動脈疾患の危険度が高まることが示されており,MRFIT検査(多危険因子介入試験)では,1日1~25本喫煙した場合の相対危険度は2.1,25本以上では2.9と高くなるとされている(乙D27の資料1)。 また,喫煙習慣を有する男性が虚血性心疾患を発症する率は,1日当たりの喫煙本数が15~34本の場合において非喫煙者の3倍であるとされている(乙A513)。 さらに,煙草に含まれる一酸化炭素は,組織酸素欠乏を生じ動脈硬化の促進因子とな は,1日当たりの喫煙本数が15~34本の場合において非喫煙者の3倍であるとされている(乙A513)。 さらに,煙草に含まれる一酸化炭素は,組織酸素欠乏を生じ動脈硬化の促進因子となり,活性酸素は細胞の酸化過程や炎症に関与し虚血性心疾患を進行させるとされている(乙D27の資料2)。 (イ) 喫煙が他の危険因子に与える影響喫煙と合併する主要危険因子(高血圧,脂質異常症,糖尿病)が重なると,死亡,心筋梗塞のリスクが20倍高くなるといった研究結果もある(乙D27の資料2)。 また,特に高齢者については,喫煙が病変の進行及び新たな心事故(心臓死及び非致死性心筋梗塞)の発生に関与しており,特に多枝病変との関連が示されている(乙D27の資料1)。 (ウ) 禁煙の影響禁煙することによって心血管疾患発症や死亡のリスクが低 下するとの報告があるが,このような報告を読み解く際には,これらの報告があくまでも喫煙者と禁煙した者との間の比較である点に注意する必要がある。すなわち,禁煙した者の心血管疾患発症や死亡のリスクについて,喫煙者のそれと比較すれば低下しているとしても,非喫煙者(全く喫煙したことのない者)と比較すると,依然として高いリスクを有している。例えば,禁煙が冠動脈疾患死亡率に与える影響については,非喫煙者群の死亡率を1.0とした場合,毎日喫煙した群の死亡率は1. 76,1ないし4年以下の禁煙者群では1.47,5年以上の禁煙者群では1.31とされており,これによれば,喫煙していた者が禁煙しても,冠動脈疾患で死亡する危険性は非喫煙者と比較して3割ないし7割以上も高く,5年以上禁煙している者についても非喫煙者と同等にはならないとされている(乙D27の資料 れば,喫煙していた者が禁煙しても,冠動脈疾患で死亡する危険性は非喫煙者と比較して3割ないし7割以上も高く,5年以上禁煙している者についても非喫煙者と同等にはならないとされている(乙D27の資料3)。 一般に長期間にわたり喫煙していた者の血管は,粥状硬化が進み,粥腫(不安定なものを含む。)が血管内の広範囲にわたって沈着していることが多い。このような血管の状態である喫煙者が禁煙すると,禁煙したことによって不安定な粥腫が安定化して破綻しにくくなると考えられ,これによって虚血性心疾患の発症率及び死亡率が低下することはあり得るものの,禁煙したことによって既に形成された粥腫が退縮したり消失するといった報告は見当たらず,心筋梗塞発症リスクがなくなることはないと考えられている(乙D27)。 エ慢性腎臓病慢性腎臓病(CKD)は,心血管疾患のリスクとして確定されており,軽度の腎機能低下や蛋白尿が心筋梗塞や脳卒中等の大 きな危険因子となる。慢性腎臓病は動脈硬化を反映し,動脈硬化を促進するとされ,慢性腎臓病のステージが高くなるに従って,冠動脈の狭窄病変が高度になり,冠動脈組織の粥状硬化病変の程度が強くなる。 そして,尿異常(特に蛋白尿の存在),糸球体濾過量(GFR)60ml/分/1.73㎡未満のいずれか,又は両方が3か月以上持続する状態が虚血性心疾患の危険因子になる(乙D27の資料1)。 オ耐糖能異常欧米の研究において,糖尿病患者では非糖尿病患者と比較して虚血性心疾患の頻度が2ないし4倍に増加するとされており,我が国においても,複数の研究において,有意なリスク上昇が認められている。また,糖尿病に至らない耐糖能異常については,更なる研究が必要であるとされて 疾患の頻度が2ないし4倍に増加するとされており,我が国においても,複数の研究において,有意なリスク上昇が認められている。また,糖尿病に至らない耐糖能異常については,更なる研究が必要であるとされてはいるが,顕性糖尿病患者よりは低いものの,虚血性心疾患の発症リスクが正常耐糖能者よりも増すものと考えられている。 そして,①早期空腹時血糖値126mg/dl 以上,②75g糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dl 以上,③随時血糖値200mg/dl 以上,④HbA1c値がJDS値6.1%以上(NGSP値6.5%以上)のいずれかが認められた糖尿病型,及び糖尿病型ではないが,空腹時血糖値110mg/dl 以上又は75g糖負荷試験(OGTT)2時間値140mg/dl 以上の境界型が,虚血性心疾患の危険因子とされている(乙D27の資料1)。 6 亡Z1の昭和61年10月発症の心筋梗塞は重畳的に有していた危険因子の現実化であると優に合理的に説明することが可能であること (1) 亡Z1が昭和61年10月当時に有していた危険因子ア加齢亡Z1は,昭和61年10月当時,加齢(63歳)という危険因子を有していた。 イ亡Z1の40年以上にわたる喫煙歴は,亡Z1の昭和61年10月発症の心筋梗塞の危険因子として心筋梗塞発症に影響を与えたものと考えられる。なお,亡Z1は,心筋梗塞を発症する約1か月前の同年9月頃から禁煙したようであるが,このような短期間の禁煙により弱腫を安定化させ,心筋梗塞の発症リスクを低下させる効果は認められない。 ウ脂質異常症亡Z1は,昭和61年10月当時,脂質異常症(総コレステロール高値,中性脂肪高値)という心筋梗塞の危険因子を 梗塞の発症リスクを低下させる効果は認められない。 ウ脂質異常症亡Z1は,昭和61年10月当時,脂質異常症(総コレステロール高値,中性脂肪高値)という心筋梗塞の危険因子を有していた。 エ慢性腎臓病亡Z1は,昭和61年9月17日の血液検査の結果によれば,腎機能の状態を示す血清クレアチニン値(CRN値)が1.1mg/dl で,基準値(0.61mg/dl~1.04mg/dl)を超えており(乙D27),腎機能の代表的な指標の一つである推算糸球体濾過量(eGFR)を計算すると53.2ml/分/1.73㎡となる。その後,同月30日のクレアチニン値は1.3mg/dl であり,そこから導かれるeGFRは44.3ml/分/1.73㎡,同年11月11日のクレアチニン値は1.2mg/dl,eGFRは48. 4ml/分/1.73㎡であり,昭和62年1月10日のクレアチニン値は1.11mg/dl,eGFRは52.5ml/分/1.73㎡となる(乙D17)。 これらを踏まえると,GFR値60ml/分/1.73㎡未満の状態が3か月以上持続するという前記5(2)エの基準を満たしており,亡Z1は,GFR区分G3b(中等度から高度低下)に当たる慢性腎臓病に罹患していたといえ,かかる亡Z1の慢性腎臓病は,昭和61年10月に発症した心筋梗塞の危険因子といえる(乙D27)。 オ耐糖能異常昭和62年1月20日の心臓バイパス手術前の記載と思われるZ7病院の「Preoperationsummary」(乙D17)には,HbA1c値6.7%(JDS値と思われる。)と記載されており,前記5(2)オの基準(HbA1c値[JDS値]6.1%以上)を満たしている。 また summary」(乙D17)には,HbA1c値6.7%(JDS値と思われる。)と記載されており,前記5(2)オの基準(HbA1c値[JDS値]6.1%以上)を満たしている。 また,昭和62年1月20日の血液検査の結果では,血糖値は305mg/dl とされており(乙D32),空腹時血糖値と随時血糖値のいずれであっても,前記5(2)オの基準(早朝空腹時血糖値126mg/dl 以上,随時血糖値200mg/dl 以上)を満たしている。 このほか,昭和62年1月24日の血液検査の結果では,血糖値は186mg/dl とされており(乙D17),空腹時血糖値であれば上記基準を満たしている。 以上のとおり,亡Z1は,昭和61年10月当時,心筋梗塞の危険因子である耐糖能異常の状態であったといえる。 (2) 亡Z1の昭和61年10月発症の心筋梗塞は,亡Z1が重畳的に有していた危険因子が現実化したものと優に合理的に説明することが可能であること前記(1)のとおり,亡Z1は,昭和61年10月の最初の心筋梗 塞発症当時,心筋梗塞の危険因子を重畳的に有していたところ,危険因子が多数存在すればするほど有病率が加速度的に増加するから,亡Z1は,前記(1)の危険因子により相当高い心筋梗塞発症リスクを有していたといえる。 そして,亡Z1は,昭和61年9月の心臓カテーテル検査の結果から,亡Z1の冠動脈には広範にわたって粥腫が形成されており,複数の箇所が狭窄する三枝病変の状態であったことが明らかとなっている。このような血管の状態は,上記検査時までに亡Z1が重畳的に有していた上記危険因子によって形成されたものと考えて何ら矛盾はなく,亡Z1の同年10月の心筋梗塞は,当該危険因子によって冠 となっている。このような血管の状態は,上記検査時までに亡Z1が重畳的に有していた上記危険因子によって形成されたものと考えて何ら矛盾はなく,亡Z1の同年10月の心筋梗塞は,当該危険因子によって冠動脈全体に多数形成されていた粥腫の一部が破綻して発症したものと考えられる。 以上の諸事情を総合すれば,亡Z1の昭和61年10月の心筋梗塞発症は,亡Z1が重畳的に有していた危険因子が現実化したものと優に合理的に説明することが可能である。 7 亡Z1の平成6年発症の心筋梗塞は重畳的に有していた危険因子が現実化したものと優に合理的な説明が可能であること(1) 亡Z1の禁煙について一般に,一旦粥腫が形成されて動脈硬化が生じた後には,禁煙や投薬治療がされたとしても,血管内皮障害が生じる前のきれいな血管の状態に戻ることはなく,禁煙によって既に形成された粥腫が退縮したり消失したりすることはないから,心筋梗塞発症リスクがなくなることはない。したがって,亡Z1が昭和61年9月頃以降禁煙したからといって,心筋梗塞を発症しなくなるということはできない。 なお,「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年 改訂版)」では,「禁煙により2年未満で冠動脈疾患の発症リスクは低下し,それ以降非喫煙者と同じレベルになる」とされている(乙D27の資料2)が,これは,「日本人実年男女での喫煙と冠動脈疾患の発症:JPHCStudyコホートⅠ」という文献(甲D33の1・2,乙D27の資料2-文献21)を引用するものである。そして,上記ガイドラインの上記記載部分は,危険因子に係る一般的知見を記載した部分であって,二次予防に限定した記載ではない。上記文献21も,「心筋梗塞(MI)や狭心症,脳卒中,がんの既往症のなかっ そして,上記ガイドラインの上記記載部分は,危険因子に係る一般的知見を記載した部分であって,二次予防に限定した記載ではない。上記文献21も,「心筋梗塞(MI)や狭心症,脳卒中,がんの既往症のなかった男性19,794名と女性21,513名を今回の解析に含めた」と記載されているとおり,一次予防の観点から禁煙の影響を研究したものである。このため,平成6年に発症した亡Z1の心筋梗塞のように,心筋梗塞の既往を有する者,すなわち,既に粥状動脈硬化が進展している者についての二次予防の場合にそのまま当てはめることができるものではない。これに対し,既に冠動脈に粥腫が形成されている者を対象とする二次予防では,禁煙したことによって既に形成された粥腫が退縮したり消失したりすることはないから,心筋梗塞発症リスクがなくなるものではない。また,上記文献21が「禁煙すると2年以内にCHDのリスク増が消失する」とする根拠についても,1名ないし12名の喫煙者の症例について検討されたものにすぎない上,相対リスクの程度も禁煙年数との相関関係が認められていないなどからすると,必ずしも信頼性が高いものではない。 (2) 医師による管理について甲D25(Z8内科循環器科のZ9医師作成の平成27年8月21日付け回答書)には,亡Z1が昭和62年から平成8年まで医師によるメディカル・コントロールを受けていた趣旨の記載がある が,上記回答書からは,亡Z1が上記期間中継続的に通院していたことが認められるにすぎず,亡Z1が虚血性心疾患に関する何らかの治療を受けていたのか否か,受けていたとしてもその具体的内容については明らかではない。 仮に,亡Z1が医師による継続的な管理を受けていたとしても,心筋梗塞を発症した患者2653例の追跡調査中(各患者平均 たのか否か,受けていたとしてもその具体的内容については明らかではない。 仮に,亡Z1が医師による継続的な管理を受けていたとしても,心筋梗塞を発症した患者2653例の追跡調査中(各患者平均3. 1±1.8年間)に発症した再梗塞とその危険因子について検討した研究等において,医師による継続的な治療が実施されていたとしても,心筋梗塞の再発を完全に防ぐことは困難であることが示されている(乙D27の資料5)。また,東京医科大学循環器内科学分野主任教授であるZ10医師(以下「Z10教授」という。)は,当審証人尋問において,一般論として,一旦粥腫が形成されて動脈硬化が発生した後には,禁煙や投薬治療がされたとしても,血管内皮障害が生じる前のきれいな血管の状態に戻ることはなく,医師による継続的な管理を受けていた患者について,そのような管理を受けていない場合と比較すると,その後の心筋梗塞発症リスクが低下するとしても,発症リスクがなくなることはなく,亡Z1の平成6年の心筋梗塞発症について,昭和61年10月の心筋梗塞発症時の亡Z1の冠動脈の状態に照らし,平成6年までの8年間何もなく過ごせたのは,バイパス手術を翌年の昭和62年に受けたことと,内科的な治療を受け,あるいは禁煙等をしたことがよい方向に影響したと思われるが,平成6年に心筋梗塞を発症することは十分起こり得る旨の証言をしている。 更にいえば,平成15年10月8日,平成16年11月18日及び平成19年6月23日の各時点における亡Z1の冠動脈造影の結果によれば,いずれの時点においても,亡Z1の冠動脈には粥 状動脈硬化がびまん性にみられる(乙D30)。このような経過は,仮に亡Z1が昭和61年9月以降禁煙し,同年10月以降医師による管理を受けていたとしても,亡Z1の冠動脈の状態 冠動脈には粥 状動脈硬化がびまん性にみられる(乙D30)。このような経過は,仮に亡Z1が昭和61年9月以降禁煙し,同年10月以降医師による管理を受けていたとしても,亡Z1の冠動脈の状態が改善されることなく,上記のような粥状動脈硬化が進展した状態が維持されていたことを示すものであり,禁煙や医師による管理によっても亡Z1の心筋梗塞発症リスクがなくなるものではないことを裏付けている。 (3) 脂質異常症について一般的に,総コレステロール値220mg/dl,LDLコレステロール値140mg/dl を基準値として用いているのは,心筋梗塞の一次予防の観点からであって,心筋梗塞の既往を有する者,すなわち,既に粥状動脈硬化が進展している者についての二次予防の観点からは異なる基準が用いられる。そして,高LDLコレステロール血症は冠動脈疾患の重要な危険因子であり,「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版)」では,「LDL-C値の管理目標値は100mg/dl 未満である。ただし,管理目標値よりも強力に低下させることにより,さらなるイベント抑制効果が期待できるエビデンスが海外だけでなく,我が国でも確立されつつある。」とされている(乙D27の資料2)。これによれば,二次予防においては,少なくともLDLコレステロール値を100mg/dl 未満とすることが必要といえる。 そこで,亡Z1のLDLコレステロール値をみると,被控訴人らが2015年11月25日付け被控訴人準備書面(4)で計算している亡Z1のLDLコレステロール値を前提としても,二度目の心筋梗塞を発症し,より厳格な医師による管理を受けていたと考えられる平成8年4月以降の検査結果でさえも,同年7月3日,平成9 年1月23日,平成11年 ステロール値を前提としても,二度目の心筋梗塞を発症し,より厳格な医師による管理を受けていたと考えられる平成8年4月以降の検査結果でさえも,同年7月3日,平成9 年1月23日,平成11年5月20日,同年7月21日及び平成12年3月15日の数値は,上記100mg/dl を上回っているのであって,亡Z1の診療録が存在しない昭和62年から平成8年までの間,亡Z1の脂質異常症の状態は良好ではなかったものと推認することができる。また,上記ガイドラインにおいて,ESTABLISH試験ではLDLコレステロール値を70mg/dl まで低下させることでプラークの進展が抑制することができたとされるが,亡Z1のLDLコレステロール値が70mg/dl を下回ったことを裏付ける記録はない。 (4) 大伏在静脈グラフトについて亡Z1の平成19年6月23日の心臓造影MDCT検査報告書(甲D11-2枚目)には,昭和62年1月の心臓バイパス手術時に移植された大伏在静脈グラフト(SVG)が90%狭窄していた旨の記載があるが,そもそも大伏在静脈などの静脈グラフト(SVG)を用いる場合には,手術直後から内膜の脱落,血小板凝集沈着・微小血栓の形成,線維性内膜肥厚といった組織学的変化が生じ,やがて粥状動脈硬化へと進展するとされ,このような組織学的変化による静脈グラフトの閉塞は,医師による継続的な管理を経ても,10年間で50%以上の患者が狭窄を生じるとされている(乙D33)から,亡Z1の心臓バイパス手術時に有意狭窄がなかった大伏在静脈に上記手術から20年以上が経過した平成19年6月23日に狭窄が認められたとしても,何ら特異な経過ではない。 したがって,亡Z1の大伏在静脈グラフトの狭窄をもって,同狭窄自体並びに昭和61年10月及び平成6年の 上が経過した平成19年6月23日に狭窄が認められたとしても,何ら特異な経過ではない。 したがって,亡Z1の大伏在静脈グラフトの狭窄をもって,同狭窄自体並びに昭和61年10月及び平成6年の心筋梗塞の放射性起因性を肯定することはできない。 (5) まとめ 前記6(2)のとおり,亡Z1は,昭和61年10月の心筋梗塞発症時点において,心筋梗塞の危険因子である加齢,喫煙,脂質異常症,慢性腎臓病及び耐糖能異常を重畳的に有しており,心筋梗塞発症リスクの高い状態にあって,実際に亡Z1の冠動脈は粥状動脈硬化が高度に進んだ状態であったのであるから,同月の亡Z1の心筋梗塞発症は,放射線被曝に原因を求めるまでもなく,上記各危険因子が原因となったと考えることが十分可能である。そして,亡Z1の平成6年発症の心筋梗塞については,上記のように粥状動脈硬化が進展した状態で,更に亡Z1が年齢を重ねたこと等により発症したものといえる。亡Z1が昭和61年9月頃から禁煙しており,医師による継続的な管理を受けていた後の平成6年に心筋梗塞を再発したことについても,心筋梗塞患者の経過としてごく自然なものであり,被爆者に特異な経過とはいえない。この点は,循環器内科医として30年以上のキャリアを有し,年間150例の心筋梗塞及び狭心症の症例に日常的に接しているZ10教授が,培ってきた経験と専門的知見に基づき,昭和61年9月の時点において亡Z1の冠動脈には広範囲にわたってプラークが存在していたこと,禁煙や治療によっても血管の状態を改善することはできないことという合理的根拠を示しながら証言をしている。 したがって,亡Z1の平成6年発症の心筋梗塞については,亡Z1の危険因子が現在化したことにより生じたものと優に合理的に説明することが可能 ことという合理的根拠を示しながら証言をしている。 したがって,亡Z1の平成6年発症の心筋梗塞については,亡Z1の危険因子が現在化したことにより生じたものと優に合理的に説明することが可能である。 8 結語前記2及び3のとおり,放射線被曝と心筋梗塞との関連性については,心筋梗塞と1ないし2グレイ未満の放射線被曝との間に直接的な因果関係は認められていないというのが現在の疫学的知見であり, 放射線防護の観点から広く見積もったしきい値でさえ0.5グレイにとどまるとされるところ,亡Z1の放射線被曝の程度はごく僅かであり,放射線被曝の未解明性等を考慮しても,その被曝線量が放射線防護の観点から定められた循環器疾患のしきい値である0.5グレイに達するものとはおよそ考えられない。他方,前記5以下のとおり,亡Z1には,心筋梗塞発症の危険因子が重畳的に存在しており,昭和61年10月に発症した心筋梗塞は,加齢や喫煙,脂質異常症,慢性腎臓病及び耐糖能異常といった危険因子によって血管病変が進行することで発症したものであることが優に合理的に説明することが可能であり,また,平成6年発症の心筋梗塞についても,昭和61年の時点で既に不安定な粥腫が広範囲に付着沈着した状態であったと考えられる亡Z1の冠動脈の状態が,年齢を重ねる等したことにより,更に悪化して発症したものであることが優に合理的に説明することが可能である。 そうだとすると,亡Z1の心筋梗塞は,既知の危険因子により血管病変が進行し,そのリスクが現実化したことにより発症したものと考えるのが合理的であり,少なくとも,亡Z1の心筋梗塞が,亡Z1が受けた原爆放射線被曝により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証 と考えるのが合理的であり,少なくとも,亡Z1の心筋梗塞が,亡Z1が受けた原爆放射線被曝により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があるとはいえない。 第5 被控訴人らの当審における補充主張 1 原爆症認定要件の立証責任とその程度(1) 原爆症認定の2要件の立証は,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要 するから,原爆症認定要件の一つである放射線起因性についても同様の枠組みで判断することになる。しかしながら,一般に,疾病は多くの要因が複合的に関連して発症するのが通常であり,疾病発症の特定の要因やその機序を一義的に証明することは医学的にも困難であり,特に非特異性疾患についてのその証明は不可能ともいうべきものである。殊に原爆放射線の人体への影響(後障害)については,物理学者や医学者を中心として,国際的な機関等を含め,長年にわたる大規模な疫学調査等が展開され,放射線医療によるデータも集積され,相当なレベルで疫学的解析による有意性の判定等がされてきているが,それでもなお,とりわけ低線量被曝領域においては,人体への影響の有無や機序等について,次々に新たな見解が示される状況にあって,未だ帰一した基準が定立されているとはいえない状況にある。しかも,放射線の確定的影響とされる一部の疾患については,しきい値が設定されており,これを超える放射線被曝がある場合や,確率的影響とされる疾患であっても統計的な有意性が認められた疾患である場合には,一般的には放射線起因性が認められることになるが,それらの場合で が設定されており,これを超える放射線被曝がある場合や,確率的影響とされる疾患であっても統計的な有意性が認められた疾患である場合には,一般的には放射線起因性が認められることになるが,それらの場合でさえも,個々の症例を観察する上においては,放射線に起因することを示すような特異な症状を呈するわけではないから,具体的な起因性が明らかになるものではない。 (2) 以上のような状況と被爆者援護法の趣旨を勘案すれば,放射線起因性の判断に当たっては,原爆放射線被曝の事実が疾病等の発生又は進行に影響を与えた関係(専ら又は主として放射線が起因している場合のほか,体質や被爆時の体調等の要因,ストレス等の他要因が影響している可能性が否定できない場合においても,他要因が主たる原因と認められない場合を含む。)を立証の対象とするのが 相当であり,その立証方法は,疾病等が発生するに至った医学的,病理学的な機序を直接証明することを求めるのではなく,被爆状況,急性症状の有無や経過,被爆後の行動やその後の生活状況,疾病等の具体的症状や発症に至る経緯,健康診断や検診の結果,治療状況等を全体的・総合的に把握し,これらの事実と放射線被曝による人体への影響に関する統計学的・疫学的知見等を考慮した上で,原爆放射線被曝の事実が疾病等の発生又は進行に影響を与えた関係が合理的に是認できる場合には,放射線起因性の存在について高度の蓋然性をもって立証されたものと評価すべきである。 そして,入市被爆者や遠距離被爆者については,初期放射線による被曝が過小評価されていることを考慮し,更に放射性降下物による被曝の可能性や内部被曝の可能性をも念頭に置いた上で,当該被爆者の被爆状況,急性症状の有無や経過,被爆後の行動やその後の生活状況,疾病等の具体的症状や発症に至る経緯,健康診 ,更に放射性降下物による被曝の可能性や内部被曝の可能性をも念頭に置いた上で,当該被爆者の被爆状況,急性症状の有無や経過,被爆後の行動やその後の生活状況,疾病等の具体的症状や発症に至る経緯,健康診断や検診の結果,治療状況等を全体的・総合的に把握し,これらの事実と放射線被曝による人体への影響に関する統計学的・疫学的知見等を慎重に検討し,総合考慮の上で全体としての被曝線量の評価を行うのが相当である(大阪高裁平成20年5月30日判決・判例タイムズ1308号124頁を始めとする原爆症認定集団訴訟における判決参照)。 2 亡Z1の被爆状況,体質の変化亡Z1の被爆状況や体質の変化については,これまで一貫して主張してきたとおりであり,控訴人も現時点ではこれを争わないものと思われる。 3 亡Z1が相当量の放射線に被曝していること(1) 亡Z1は,昭和20年8月6日から同月9日にわたり,爆心地 近くで多量の放射線を浴び,かつ,身体に放射性物質の付着した被爆者の救援をマスクも手袋もない状況で行ったことにより,放射性降下物等からの外部被曝及び内部被曝をした。また,亡Z1は,同月10日から同月12日にかけて,マスクや手袋もない状態で爆心地近くで遺体を掘り起こす作業や荼毘に付す作業等を行ったことにより,残留放射線による外部被曝や,土埃,焼いた遺体の煤を吸う等したことによる内部被曝をした。 亡Z1は,被爆前はZ11部隊の小隊長を務めるほどの健康体であったが,被爆直後から通常3,4日で治癒する軽い切り傷や軽い虫刺されが治癒まで半月程度かかるようになり,30歳代の頃には蜂に刺されたときの腫れが1年以上治らなかったというエピソードもある。このような亡Z1の体質の変化は,放射線被曝によって免疫力が落ちたものといえる。 まで半月程度かかるようになり,30歳代の頃には蜂に刺されたときの腫れが1年以上治らなかったというエピソードもある。このような亡Z1の体質の変化は,放射線被曝によって免疫力が落ちたものといえる。 このように,亡Z1は,原爆で被爆したことにより免疫力が落ちて体質が変化するなど,健康状態に影響を受ける程度の相当量の放射線被曝を受けたことは明らかである。 なお,亡Z1は,昭和20年8月10日の午前中には爆心地付近を通過してα において作業を行っていることから,新審査の方針において積極認定の対象とされている爆心地から2㎞以内に原爆投下後100時間以内に入市した入市被爆者であり,新審査の方針の考え方からしても,亡Z1が健康状態に影響を受ける程度の相当量の放射線被曝を受けた被爆者であることは明らかである。 (2) 亡Z1が受けた原爆放射線被曝の線量評価についての控訴人の指摘は,そもそも客観的に信用できる証拠に基づくものではないことがこれまでの一連の原爆症認定訴訟の判決で既に完全に決着済みのものであり,被爆者が受けた放射線被曝線量を細かく論ずるこ とに大きな意味はない。 4 亡Z1の医療経過亡Z1の医療経過について,昭和61年から昭和62年にかけてのカルテと,亡Z1がZ8内科循環器科に通院するようになった平成8年4月からのカルテは残っているものの,昭和62年から平成8年4月までのカルテは残っていない。しかしながら,亡Z1は,カルテの存在しない上記期間中も,Z12病院に定期的に通院し,主治医(当初はZ13医師,その後はZ9医師)の指導の下,処方された薬を毎日服用し,主治医の指導に従っていた(甲D25)。亡Z1は,Z9医師が平成8年にZ8内科循環器科を開業したことから,通院先をZ12病院からZ8内科循環器科に変えて 医師)の指導の下,処方された薬を毎日服用し,主治医の指導に従っていた(甲D25)。亡Z1は,Z9医師が平成8年にZ8内科循環器科を開業したことから,通院先をZ12病院からZ8内科循環器科に変えて受診を継続していたのである。 このように,亡Z1は,昭和62年1月に心臓バイパス手術を受けてからも,平成6年に心筋梗塞を再発し,更に平成15年10月8日以降にカルテ上も明確に冠動脈の他部位での心筋梗塞の再発が確認される時期まで,継続的にメディカル・コントロールを受けていた。 5 亡Z1の心筋梗塞再発の放射線起因性(1) 心筋梗塞の放射線起因性を認める知見は交絡因子を織り込み済みであることLSSやAHS等の調査結果は,喫煙等を始めとする控訴人指摘の危険因子を織り込んだ上で判断をしており,Z14報告(甲D14)やZ15論文(甲D13の1・2)においても同様である。 また,Z16医師は,別件訴訟の証人尋問において,「もちろん一般には高血圧とか高脂血症というのが独立因子としてあって,独自に心筋梗塞,狭心症等を起こすリスク因子なんですけれども,(中略)被爆者の方には必ずしも独立因子とは言えない。どういう ことかというと,放射線に被曝すると高血圧になりやすいと,血圧が上昇すると,あるいは放射線に被爆するとコレステロール値が上がるといった,放射線と高血圧,放射線と高脂血症ということが証明されているからです。(中略)どうも血圧を上げやすいし,コレステロールも上げるという多因子に悪い作用をするということが放射線はあって,そういう総合的な作用として心筋梗塞,脳血管障害が多いんじゃないかという具合に考えられています。」と思われる旨の証言をしている(甲D12)。 また,大阪地裁 が放射線はあって,そういう総合的な作用として心筋梗塞,脳血管障害が多いんじゃないかという具合に考えられています。」と思われる旨の証言をしている(甲D12)。 また,大阪地裁平成25年8月2日判決(甲A299)においても,控訴人が主張する危険因子の存在によって被爆者の発症した心血管疾患の放射線起因性が否定されることはないとされており,上記危険因子の存在によって亡Z1の心筋梗塞発症の放射線起因性が否定されることはない。 (2) 亡Z1のコレステロール値はHDLコレステロールを除きコントロールされていたこと亡Z1の心筋梗塞発症との関係で一番問題となるLDLコレステロール値,総コレステロール値に大きな問題はない。すなわち,亡Z1は,昭和62年1月の心臓バイパス手術の直前の時期を除き,コレステロール値は正常範囲内であり,特に最初に狭心症を発症した昭和61年9月時点でコレステロール値が正常値であったことなどからすれば,上記狭心症の発症に亡Z1の高脂血症は影響していないといえる。他方,コレステロール値のうち,心筋梗塞の発症に悪影響を与えるものとして着目すべきLDLコレステロールが高値か否か,HDLコレステロールが低値か否かについて,亡Z1のカルテが残っているZ8内科循環器科の検査結果のうち,一番古いものである平成8年4月23日の検査結果から算出したL DLコレステロール値は正常値である。そして,それ以降の亡Z1のコレステロール値をみると,HDLコレステロール値が正常値より低い傾向が続く一方で,LDLコレステロール値については正常値の状態が続いていた。 そうすると,亡Z1の心筋梗塞発症ないしその再発について,コレステロール値との関係で寄与があったといえるのは,低HDLコレステ DLコレステロール値については正常値の状態が続いていた。 そうすると,亡Z1の心筋梗塞発症ないしその再発について,コレステロール値との関係で寄与があったといえるのは,低HDLコレステロール血症以外にはなく,Z10教授自身,当審証人尋問において,亡Z1の心筋梗塞の再発要因として,加齢以外には低HDLコレステロール血症が最も大きな要因であることを認める証言をしているところ,低HDLコレステロール血症については,それ自体が放射線被曝による影響で生じるものである。 したがって,亡Z1のHDLコレステロール値が正常値より低い状態が続いていたとしても,亡Z1の心筋梗塞再発の放射線起因性を否定する要因とはならない。 (3) 亡Z1の心筋梗塞再発に喫煙の影響は考えられないことZ16医師は,別件訴訟の証人尋問において,喫煙による心筋梗塞等の発症について,喫煙による血管の攣縮,血小板の凝集,LDLコレステロールを増加させる等の影響によって心筋梗塞等の疾病を発症しやすくなるのは事実であるが,これらはいずれも動脈硬化に対する間接的な影響であって,血管に炎症を与えることによって直接的,永続的に動脈硬化を起こさせる放射線被曝とは本質的な機序の違いがある旨,このような喫煙の影響は,禁煙することで比較的短期間に解消され(短いもので1年で消え,一般的には2年から4年で消える。),禁煙すれば心筋梗塞等の発症リスクは非喫煙者と同程度まで下がる旨の証言をしており(甲D12),Z17医師も原審証人尋問で同旨の証言をしている。そして,このことは, Z10教授の意見書(乙D27)添付資料2の「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年版)」等でも明確に述べられているほか,これまでの各文献や研究報告においても,期間の差はあ Z10教授の意見書(乙D27)添付資料2の「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年版)」等でも明確に述べられているほか,これまでの各文献や研究報告においても,期間の差はあるものの禁煙による心筋梗塞等の発症リスク低下の効果は比較的短期間に現れ,早いもので1年,長いものでも数年から10年以内に非喫煙者と同レベルまで低下するとされている(甲D16ないし21)。 このように,動脈硬化を生じさせるメカニズムやリスクの持続期間等の点において,喫煙による発症リスクと放射線による発症リスクとは本質的に異なっている。上記のとおり,放射線による動脈硬化発症のリスクは直接的かつ永続的であるから,喫煙の事実をもって心筋梗塞等の心血管疾患の放射線起因性を否定することは到底不可能である。 亡Z1は,昭和61年9月の最初の狭心症診断時に医師から禁煙を指導されて以来,全く喫煙をしていないにもかかわらず,禁煙を開始してから8年が経過した平成6年に心筋梗塞の再発により2度の入院治療を受けており,その後,何度か心筋梗塞を再発して入院している。 以上のとおり,亡Z1の心筋梗塞発症は,喫煙が原因ではなく原爆放射線に起因するものというべきである。 (4) 狭窄が全く認められていない部位で心筋梗塞が再発したこと一般に,冠動脈のある部位に狭窄が生じたとしても,その患者が入院治療を受けるなどして医師によるメディカル・コントロールを受けた後においては,糖尿病の合併症でコントロールができていないなどの大きなリスクがある場合を除き,冠動脈のうち当初狭窄が生じた枝とは別の枝に狭窄が生じて心筋梗塞が再発することは稀 である。 そして,亡Z1の平成6年の心筋梗塞は,禁煙してから8年以上経過してからの発症である上,昭和61年10 初狭窄が生じた枝とは別の枝に狭窄が生じて心筋梗塞が再発することは稀 である。 そして,亡Z1の平成6年の心筋梗塞は,禁煙してから8年以上経過してからの発症である上,昭和61年10月発症の心筋梗塞とは別の枝に狭窄が生じて再発したものである。亡Z1の平成15年10月8日の心臓造影MDCT検査では,右冠動脈№2の狭窄が90%となり,左回旋枝№11についても狭窄が生じているが,昭和61年ないし昭和62年当時には狭窄すら認められていなかったのである。加えて,亡Z1の平成19年6月28日の検査報告書では,昭和62年の時点では全く問題がないはずの心臓バイパス手術により移植した血管(大伏在静脈グラフト)についてまで90%の狭窄が認められている。そして,これらの狭窄について,少なくとも喫煙の影響は考えられないことからすると,昭和61年10月の心筋梗塞についても,喫煙が原因ではなく原爆放射線被曝が原因であるといえる。 仮に,昭和61年10月及び平成6年の心筋梗塞発症に喫煙の影響があったと考えたとしても,禁煙から8年以上経過して再発した心筋梗塞は,被曝の影響ないし被曝の影響による低HDLコレステロール血症によって生じたものと考えられるのであって,亡Z1の心筋梗塞発症には放射線起因性が認められる。 (5) 加齢は心筋梗塞再発の放射線起因性を否定する理由とはならないこと前記(1)のとおり,心筋梗塞の発症に対する放射線被曝の影響についての知見は,加齢を含む交絡因子を織り込み済みである。 また,戦後70年を過ぎた現在において,加齢を理由に被爆者の発症した心筋梗塞について放射線起因性を否定すること自体が,被爆者援護法の趣旨に反する考え方というべきである。 そして,近時の内部被曝に関する研究報告(平 加齢を理由に被爆者の発症した心筋梗塞について放射線起因性を否定すること自体が,被爆者援護法の趣旨に反する考え方というべきである。 そして,近時の内部被曝に関する研究報告(平成27年6月7日に広島市で開かれた「原子爆弾後障害研究所」におけるZ18,Z19ほかによる研究報告)は,どれだけ加齢しようとも,高齢者においても明らかに放射線被曝による悪影響を受け続けていることが明らかにされている。すなわち,上記研究報告からは,被爆から53年もの時間が経過しても未だ被爆者の人体に内部被曝による放射線の影響が続いており,82歳の高齢者であっても,原子爆弾に被爆したこと,特に内部被曝の影響により放射線被曝による人体への悪影響の特徴である多重がん発症のリスクがあることが明らかとなっている。(甲D28ないし30)。 また,原雅義らによる「虚血性心疾患の冠動脈造影所見,慢性期運動耐容能および慢性期日常活動からみた加齢の影響」では,一枝病変/多枝病変の比率について,40歳未満,40歳代,50歳代,60歳代以上は,それぞれ1,50,1,09,0,96,0,90というように加齢とともに多枝病変者率が上がっていると指摘する一方で,NYHA(日常活動度)Ⅳと心死をみると,一枝病変では全員60歳以上であったが,多枝病変では約3割が50歳代であったとされ,多枝病変では,加齢以外の因子の関与が強いものと推測されると結論づけている(甲D35)。 このように,亡Z1が高齢であることは,亡Z1の心筋梗塞が放射線起因性を有することを否定する根拠とはならない。 (6) 慢性腎臓病,糖尿病は心筋梗塞の放射線起因性を肯定する要因となること仮に,亡Z1の検査結果の数値から亡Z1が慢性腎臓病,糖尿病に罹患していたとしても,これらは放射 とはならない。 (6) 慢性腎臓病,糖尿病は心筋梗塞の放射線起因性を肯定する要因となること仮に,亡Z1の検査結果の数値から亡Z1が慢性腎臓病,糖尿病に罹患していたとしても,これらは放射線被曝による影響が現れたものというべきである。すなわち,2013年に発表された放影研 のZ20研究員らによる調査報告「原爆被爆者における慢性腎臓病と心血管疾患危険因子との関連:横断調査」では,被曝放射線量と慢性腎臓病,高度腎機能障害との関連が示され,また,慢性腎臓病が高血圧,糖尿病,高脂血症,メタボリック症候群といった心血管疾患の危険因子とも関連があることが明らかとなった旨が報告されている(甲D36)。つまり,仮に亡Z1が慢性腎臓病であるとしても,その発症については原爆放射線に被曝したことの影響によるものというべきなのである。そして,仮に亡Z1が糖尿病であるとしても,それは原爆放射線被曝の影響によって生じた慢性腎臓病によりリスクが上がった影響によるものというべきである。 したがって,慢性腎臓病,糖尿病は,亡Z1の心筋梗塞発症の放射線起因性を否定するものではなく,むしろ放射線起因性を裏付けるというべきである。 (7) Z10教授は証人として不適格であることZ10教授は,心疾患の専門家として意見書(乙D27)を作成し,当審証人尋問で証言をしているが,そもそもZ10教授は放射線被曝による人体への影響についての専門家ではなく,また,心疾患の専門家として亡Z1のカルテ等をまともに検討しておらず,むしろ,結論ありきの穿った見方でしかカルテ等を検討していない。 したがって,Z10教授は,証人としての適格を欠いており,上記意見書及びZ10教授の当審証人尋問における証言は,亡Z1の心筋梗塞発症の放射線起因性を否定する根拠とはな ルテ等を検討していない。 したがって,Z10教授は,証人としての適格を欠いており,上記意見書及びZ10教授の当審証人尋問における証言は,亡Z1の心筋梗塞発症の放射線起因性を否定する根拠とはならない。 (8) まとめ以上のとおり,①亡Z1は,昭和61年9月に最初の狭心症を発症した時点では,コレステロール値に問題はなく,リスク要因は喫煙以外にはなかったこと,②亡Z1は,上記狭心症発症を契機に禁 煙し,以後一切喫煙を行っていないこと,③亡Z1は,上記狭心症発症以降,昭和62年の心臓バイパス手術の直前時以外の時期においては,コレステロール値が異常値を示したことはないこと,④亡Z1は,上記心臓バイパス手術以降,主治医の指示に従い,継続的に通院し,投薬等のメディカル・コントロールを受けていたこと,⑤亡Z1の平成6年の心筋梗塞再発の時点からみて一番直近の検査結果によれば,亡Z1のLDLコレステロール値はコントロールされていたことが推認されること,⑥平成6年の心筋梗塞の再発は,亡Z1が禁煙を開始してから8年が経過した後の発症であること,⑦平成15年から平成19年までの亡Z1のカルテでは,最初の心筋梗塞発症時である昭和61年10月から心臓バイパス手術を受けた昭和62年の時点では狭窄すら認められていない右冠動脈№2及び左回旋枝№11に90%ないし100%の狭窄が認められたこと,⑧平成19年の亡Z1のカルテでは,昭和62年1月の心臓バイパス手術の時点では全く異常がないはずの移植された血管(大伏在静脈グラフト)にまで90%の狭窄が認められたこと,⑨亡Z1の動脈硬化を悪化させた要因として考えられる低HDLコレステロール血症自体が原爆放射線に被曝した者に多い症状であること,⑩仮に亡Z1が慢性腎臓病や糖尿病の問題を有していた が認められたこと,⑨亡Z1の動脈硬化を悪化させた要因として考えられる低HDLコレステロール血症自体が原爆放射線に被曝した者に多い症状であること,⑩仮に亡Z1が慢性腎臓病や糖尿病の問題を有していたとしても,それらの疾病は原爆放射線に被曝した者に有意に多い疾病であること,⑪原爆被爆者については,ほとんど被爆していないとされる者であっても,被爆後53年を経過しても原爆由来の放射性物質による内部被曝を受け続け,82歳にして多重がんを発症している実例があるなど,加齢は放射線起因性を否定する要因とはならないこと,⑫Z10教授は証人として不適格であり,Z10教授の意見書及び当審証人尋問における証言をもって放射線起因性を 否定する根拠とはならないことを全体的・総合的に把握し,これらの事実と放射線被曝による人体への影響に関する統計学的,疫学的知見等を考慮すれば,亡Z1の原爆放射線被曝の事実が,亡Z1の心筋梗塞再発又は進行に影響を与えた関係が十分合理的に是認できる。 したがって,亡Z1の心筋梗塞再発については,放射線起因性の存在について,高度の蓋然性をもって立証されたというべきである。 第3章当裁判所の判断第1 原爆症認定における放射線起因性の判断基準(争点①)この点についての当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」第3章の第1(原判決25頁23行目から45頁16行目まで)のとおりであるから,これを引用する(ただし,原判決26頁24行目の「裁判集民事198号529頁」の次に「(最高裁平成12年判決)」を加える。)。控訴人の原審及び当審における主張に鑑み,関係証拠を改めて検討しても,上記の認定判断は左右されない。 第2 原爆症認定要件該当性(争点②) 1 認定事実前記前提となる事実に加え,後掲の証拠 審及び当審における主張に鑑み,関係証拠を改めて検討しても,上記の認定判断は左右されない。 第2 原爆症認定要件該当性(争点②) 1 認定事実前記前提となる事実に加え,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 亡Z1の被爆状況等ア昭和20年8月6日の広島原爆投下当時,亡Z1(大正12年○月○日生。当時22歳)は,陸軍船舶整備隊教育隊(Z11部隊)に所属しており,広島県β 村γ (爆心地から約7㎞)の兵舎内の将校室に居た(甲D1,2,5,乙D1,11)。 イ亡Z1は,昭和20年8月6日午前,広島市内に派遣されてい た分隊の捜索のため,船で広島市δ(爆心地から約4㎞)に行き,同日昼頃,γ に戻った。亡Z1は,同日から同月9日まで,γ の兵舎に運び込まれた負傷者の救護・看護や遺体の運搬等に従事したが,その際,手袋やマスクを着用していなかった(甲D1,2,5,乙D1,11)。 ウ亡Z1は,昭和20年8月10日朝,広島市内で救護活動を行うため,部隊と共にγ から船でδ に向かい,そこから徒歩でε 付近まで北上して,同日午前中には元安橋付近(爆心地付近)を通過し,その後,α 町(爆心地から約1.5㎞)に入った。亡Z1は,同月12日まで,α 町付近の倒壊家屋の下から遺体を掘り出して運搬し,火葬する作業に従事したが,その際,手袋やマスクを着用していなかった(甲D1,2,5,乙D1,11)。 (2) 亡Z1の被爆後に生じた症状,被爆後の生活状況,病歴等ア亡Z1は,広島原爆に被爆した直後から,通常であれば3,4日で治癒する軽い切り傷や虫刺されが治癒するまで半月程度かかるようになったと感じ,また,長男である被控訴人Z4(昭和34年○月○日生)が小学生の頃,同人と共に山に出か た直後から,通常であれば3,4日で治癒する軽い切り傷や虫刺されが治癒するまで半月程度かかるようになったと感じ,また,長男である被控訴人Z4(昭和34年○月○日生)が小学生の頃,同人と共に山に出かけた際に蜂に襲われ,被控訴人Z4は1か月ほどで治癒したが,腕を数か所刺された亡Z1は,快癒するまで約1年間通院したことがあった(甲D2[亡Z1が平成13年6月22日に作成した「原爆体験記録」と題する書面]。)。 イ亡Z1は,22歳(昭和20年)から57歳(昭和55年)まで,産業機械の製造業を営む日本スピンドル製造株式会社に勤務して生産管理の業務に従事しており(乙D18),後記エのとおりZ7病院に入院した昭和61年9月当時も会社員(図面設計)であった(乙D17-右下番号51)。 亡Z1は,20歳の頃から喫煙しており,喫煙量は1日当たり平均20本である一方,飲酒量は1日当たり平均日本酒0.5合であった(乙D18)。 また,勤務先の健康診断において,高脂血症と指摘されていた(乙D18)。 ウ亡Z1(当時63歳)は,昭和61年8月初旬頃から朝の通勤時に胸焼け等の自覚症状が現れたことから,同月14日,Z12病院を受診したところ,入院加療が必要であると診断され,同病院に入院して検査を受けた結果,不安定狭心症と診断された(甲D22,乙D17-右下番号11,22)。 エ亡Z1(当時63歳)は,昭和61年9月16日,心臓カテーテルの検査目的でZ7病院を受診し,同日から同月22日まで同病院に入院した。同病院では,労作性狭心症,心室性期外収縮と確定診断され,心臓カテーテル検査の結果,右冠動脈№1に50%,左冠動脈左前下行枝№6に90%,同№9に99%,同№7に50%,左冠動脈左回旋枝№13に75%,同№14に50%の狭窄が 期外収縮と確定診断され,心臓カテーテル検査の結果,右冠動脈№1に50%,左冠動脈左前下行枝№6に90%,同№9に99%,同№7に50%,左冠動脈左回旋枝№13に75%,同№14に50%の狭窄がみられ,三枝病変(三つある冠動脈の枝のすべてに病変が生じていること[乙D27-7頁])の状態であったが,№6はPTCA(経皮的冠動脈形成術)が可能であることから,PTCAを施行することになった(乙D7の2-1ないし4枚目,乙D17-右下番号5ないし7)。 亡Z1は,同月29日,Z7病院に入院し,同年10月3日,№6につきPTCAの施行を受けた。その結果,90%の狭窄は50%に改善された(乙D17-右下番号101,乙D20)。 亡Z1は,同月15日に退院予定であったが,同日午前10時頃,急性心筋梗塞を発症し,緊急PTCR(経皮的冠動脈血栓溶 解療法)及びPTCAの施行を受けた。同病院の担当医は,亡Z1の冠動脈について,今後も心筋梗塞の再発等の危険があると指摘した(乙D20)。 亡Z1は,同年11月26日にZ7病院を退院した(乙D17-右下番号101)。 亡Z1は,入院中の同年10月30日,「どうしてこの病気になったと思いますか。」との看護師の問いかけに対し,「そりゃあんた,1番は年取ったからやん。2番はうどんやラーメンの汁たくさん飲んだし,たばこも20本しか吸わなかったけど,それもあかんかった。中華料理や天ぷらを食べ過ぎたのもあかんかった。」と返答した(乙D17-右下番号233)。 オ亡Z1(当時64歳)は,昭和62年1月9日,Z7病院に入院し,同月20日,胸部外科において左大腿の血管(大伏在静脈グラフト)を移植する心臓バイパス手術(冠動脈大動脈吻合術[CABG])を受け,同年2月10日,術後の心臓カテー 2年1月9日,Z7病院に入院し,同月20日,胸部外科において左大腿の血管(大伏在静脈グラフト)を移植する心臓バイパス手術(冠動脈大動脈吻合術[CABG])を受け,同年2月10日,術後の心臓カテーテルのチェックのため,内科に転科し,同月19日に退院した。同病院における確定診断名は,陳旧性心筋梗塞(前壁,中隔)・冠状動脈大動脈バイパス術・高脂血症である(乙D7の3,8,17-右下番号306)。 カその後,亡Z1は,1か月に1回程度の割合でZ12病院に通院し(当初の主治医はZ13医師であり,その後,Z9医師に代わった。),投薬等の治療を受けていた。亡Z1は,この間の平成5年6月14日(当時70歳)から同月17日まで同病院に入院したことがあるほか,平成6年(当時71歳)に心筋梗塞を発症して救急車で同病院に搬送され,同年4月20日から同年5月28日まで同病院に入院し,また,その後も心筋梗塞を発症して 救急車で同病院に搬送され,同年9月21日から同年10月5日まで同病院に入院した(甲D1-5頁,甲D11-27枚目,甲D22-2枚目,甲D25,乙D5)。 キ亡Z1は,Z9医師が平成8年にZ8内科循環器科を開設したことに伴い,同年4月9日(当時73歳)から同病院に1か月に2,3回の割合で通院するようになった(甲D11,甲D23,24)。通院開始時の亡Z1の診断名は,虚血性心臓病,冠動脈バイパスの術後及び高脂血症であり,その後,Z1は,Z9医師から同年5月7日には心室性期外収縮,平成9年10月15日(当時74歳)にはC型慢性肝炎の診断を受けた(甲D11,甲D23)。 ク亡Z1(当時80歳)は,平成15年,Z21病院において両眼白内障の手術を受けた(甲D8)。 ケ Z9医師は,平成16年12月4日,亡Z1(当時81歳)の を受けた(甲D11,甲D23)。 ク亡Z1(当時80歳)は,平成15年,Z21病院において両眼白内障の手術を受けた(甲D8)。 ケ Z9医師は,平成16年12月4日,亡Z1(当時81歳)の右冠動脈に狭窄病変を認め,狭心症発作と発作性心房細動の可能性があるが手術は可能であるなどと記載したZ21病院眼科Z22医師宛ての同日付け診療情報提供書を作成した(甲D11-末尾)。 コ亡Z1(当時84歳)は,平成19年6月23日のZ8内科循環器科における心臓造影MDCT検査の結果,右冠動脈№1ないし2に99ないし100%,左冠動脈左前下行枝№6に90ないし99%,左冠動脈左回旋枝№11に100%の狭窄が認められ,同年10月1日から同月3日まで,Z21病院に入院して冠動脈造影検査を受けた上,同月15日,同病院に再入院し,同月16日,同病院において右冠動脈の狭窄に対しPTCAの施行を受けた(甲D11-2,25,28ないし30枚目)。 サ亡Z1(当時87歳)は,平成22年2月9日,Z21病院に入院して同月10日冠動脈造影検査を受け,その結果右冠動脈№1に90%の狭窄が認められ,同年3月8日再入院し,同月9日,同病院において右冠動脈の狭窄に対しPTCAの施行を受けた(甲D11-15,16,19枚目)。 シ亡Z1(当時88歳)は,平成23年6月23日,心不全によりZ21病院に入院し,同年○月○日,消化管出血により死亡した(甲D8,被控訴人Z2[原審]-8,14頁)。 ス亡Z1は,20歳の頃から昭和61年9月頃までの約43年間にわたり,1日当たり平均して20本程度のたばこを吸っていたが,同月頃以降,禁煙するようになった(乙D17-右下番号231,被控訴人Z2[原審]-9,10頁)。 セ亡Z1(当時63歳) 間にわたり,1日当たり平均して20本程度のたばこを吸っていたが,同月頃以降,禁煙するようになった(乙D17-右下番号231,被控訴人Z2[原審]-9,10頁)。 セ亡Z1(当時63歳)がZ7病院に入院中の昭和61年11月21日付け栄養指導録(乙D17-右下番号174)には,「嗜好飲料」欄に「コーヒー1日1杯(角砂糖3ケ)」,「紅茶時々1杯(角砂糖3ケ)」の記載があるほか,「食生活状況」欄に「好きな食品及び料理」として「油っこい料理(天プラ,フライ)」,「塩辛い物(漬物,佃煮)」,「汁物」,「香辛料(からし,七味)」の記載があり,更に「味付」欄の「甘口」,「辛口」,「濃味」,「油こい」,「香辛料」にはそれぞれ丸印が付され,「摂取状況」欄の「間食」欄には甘い物を毎日食べている旨の記載がされていた。 ソ亡Z1は,昭和62年1月頃(当時64歳)にZ7病院で高脂血症と指摘されている(その後,前記オのとおり,高脂血症である旨の確定診断がされている。)ところ,亡Z1の総コレステロール値(T-CHO)(単位㎎/dl,基準値150~219) は,昭和61年9月17日が216,同月30日が242,昭和62年1月12日が326,同月19日が291であったほか,平成8年4月から平成20年11月までの間は144~233(概ね基準値の範囲内)で推移し,中性脂肪値(TG)(単位㎎/dl,基準値50~149)は,昭和61年9月17日が115,同月30日が197,昭和62年1月12日が300,同月19日が241であったほか,平成8年4月から平成20年11月までの間は142~265(ほぼ一貫して基準値の上限超)で推移し,HDLコレステロール値(単位㎎/dl,基準値40~80)は,平成8年4月から平成20年11月までの間,23~4 から平成20年11月までの間は142~265(ほぼ一貫して基準値の上限超)で推移し,HDLコレステロール値(単位㎎/dl,基準値40~80)は,平成8年4月から平成20年11月までの間,23~40(ほぼ一貫して基準値の下限未満)で推移していた(乙D6,7の2,14の2,17,19,21ないし23)。 タ亡Z1は,昭和61年に心筋梗塞を発症した後,平成23年○月○日に死亡するまで,再発を防ぐための抗凝固剤,冠血管拡張剤等を服用していた(乙D4,弁論の全趣旨)。 (3) 事実認定の補足説明被控訴人らは,亡Z1が被爆後は下痢が多くなった旨主張し,弁護士塩見卓也作成に係る2012年2月13日付け聴取書(甲D1)には,亡Z1が同弁護士に上記主張に沿う陳述をした旨の記載がある。 しかしながら,亡Z1の作成に係る平成13年11月12日受付の被爆者健康手帳交付申請書(乙D11)には,「6カ月以内にあらわれた症状の有無」を記載する欄があり,「下痢」も選択肢として明示されているにもかかわらず,「8 何もなかった」の「8」のところに丸印が付されていること,亡Z1が同年6月22日に作成した「原爆体験記録」と題する書面(甲D2)や本件Z1申請に 係る認定申請書(乙D1)にも,外傷の治癒の遅れについての記載はあるのに対し,下痢については何らの記載がないことに照らすと,亡Z1が被爆後は下痢が多くなったとの事実を認めることはできないというべきであり,他にこれを認めるに足りる的確な証拠は見当たらない。 したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。 2 亡Z1の放射線被曝の程度についてこの点についての当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」第3章の第2の1(3)ア(原判決48頁11行目から49頁17行目まで は採用することができない。 2 亡Z1の放射線被曝の程度についてこの点についての当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」第3章の第2の1(3)ア(原判決48頁11行目から49頁17行目まで)のとおりであるから,これを引用する。控訴人並びに被控訴人らの原審及び当審における主張内容に鑑み,関係証拠を改めて検討しても,上記の認定判断を左右するに足りない。 ただし,原判決49頁1行目の「相当量の」を「ある程度の」と改め,同頁3行目の「可能性が高い」から11行目末尾までを次のとおり改める。 「可能性が十分にあるというべきである。 なお,新審査の方針によれば,「放射線白内障(加齢性白内障を除く。)」及び「放射線起因性が認められる慢性肝炎・肝硬変」を放射線起因性の積極認定の対象疾病とされており,前記認定事実によれば,亡Z1は,平成8年5月にZ8内科循環器科においてC型慢性肝炎と診断され,平成15年にZ21病院で両眼白内障と診断されているが,亡Z1のC型慢性肝炎及び両眼白内障がいずれも放射線被爆に起因するものであるのかどうかは必ずしも明らかではない。 以上の諸事情を総合すれば,亡Z1は,誘導放射化物質や放射性落下物からの放射線により外部被曝及び内部被曝をした可能性が 十分にあるというべきであるが,被曝の程度については,具体的・数量的に示すことは性質上困難というほかない。」 3 心筋梗塞と放射線被曝との関連性についてこの点についての当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」第3章の第2の1(3)イ(原判決49頁18行目から56頁13行目まで)のとおりであるから,これを引用する。控訴人並びに被控訴人らの原審及び当審における主張内容に鑑み,関係証拠を改めて検討しても,上記の認定判断を左右するに足りない。 ただ ら56頁13行目まで)のとおりであるから,これを引用する。控訴人並びに被控訴人らの原審及び当審における主張内容に鑑み,関係証拠を改めて検討しても,上記の認定判断を左右するに足りない。 ただし,原判決54頁16行目の「心筋梗塞も相当数含まれている」を「心筋梗塞もある程度の数が含まれている」と,55頁15行目の「相当数が」を「ある程度は」と,同頁17行目の「相当数の」を「ある程度の」と各改める。 4 心筋梗塞の危険因子と亡Z1の危険因子の有無(1) 心筋梗塞発症の一般的な機序前記3のとおり,心筋梗塞は,冠動脈が何らかの原因で閉塞して心筋への血液供給が阻害されて心筋細胞が酸素不足(虚血)に陥る虚血性心疾患であって心筋壊死を伴うものである。 そして,証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,冠動脈の閉塞に至る最も多い原因とされるのは,冠動脈硬化症(冠動脈に生ずる粥状動脈硬化)により形成された粥腫(アテローム)の破綻であり,この破綻は粥腫の性状が関わっているとされているため,粥腫の破綻は,必ずしも狭窄度が高い部位で生じるものではないことが近時の研究によって明らかにされていること,心筋梗塞を発症した患者は,一般に冠動脈の病変が進行した結果,責任病変部位だけでなく,冠動脈全体に不安定プラークが多数存在するに至っており,心筋梗塞の既往歴のある患者の冠動脈 は,既に発症した心筋梗塞の責任病変部位以外の部位に形成される粥腫が破綻して再び心筋梗塞が発症する可能性がある状態にあることが認められる。 (2) 心筋梗塞の危険因子と亡Z1の危険因子の有無証拠(乙A506,乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,心筋梗塞の危険因子としては,加齢,高血圧,糖尿病,喫 (2) 心筋梗塞の危険因子と亡Z1の危険因子の有無証拠(乙A506,乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,心筋梗塞の危険因子としては,加齢,高血圧,糖尿病,喫煙,脂質異常症,肥満などがあり,危険因子が複数存在する場合には,危険因子が「2つだと4倍,3つだと8倍,4つだと16倍」という形で有病率が加速度的に増加するとされていることが認められる。 上記危険因子の具体的内容及び亡Z1の危険因子の有無については,次のとおりである。 ア加齢(ア) 証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,加齢は,加齢そのものが虚血性心疾患の独立した危険因子であり,急性心筋梗塞の発症は50歳代より増加がみられ,虚血性心疾患は高齢者で圧倒的に多く,70歳以降で発症率がピークになるとされていること,「循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2011年度合同研究班報告)虚血性心疾患の一次予防ガイドライン(2012年改訂版)」(2015年2月5日更新版)(乙D27の資料1)では,日本人における虚血性心疾患の危険因子として,「年齢要因は,男性は45歳以上とし,女性は55歳以上とする。」とされていること,加齢は,虚血性心疾患の予後不良因子であるとされており,心筋梗塞後の長期予後では,生存退院後の平均20か月の追跡調査において,60歳未満の心臓死が0.3%であったの に対し,70歳以上では2.6%と高率であるなど,高齢者は予後不良であるとされていること,高齢者の虚血性心疾患では,石灰化を伴ったびまん性冠動脈病変や左主幹部病変,三枝病変などの重症多枝病変の頻度が高いとされていることが認められる。 (イ) 前記認定事実のとおり,亡Z1(大正12年○月○日生 では,石灰化を伴ったびまん性冠動脈病変や左主幹部病変,三枝病変などの重症多枝病変の頻度が高いとされていることが認められる。 (イ) 前記認定事実のとおり,亡Z1(大正12年○月○日生)は,昭和61年10月(当時63歳)及び平成6年(当時71歳)にそれぞれ心筋梗塞を発症しており,加齢の危険因子があったことは明らかである。 イ脂質異常症(ア) 証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,高コレステロール血症が冠動脈疾患の重要な危険因子であることがこれまでの多くの疫学調査によって明らかにされていること,日本人における総コレステロール値と虚血性心疾患の関連性については,男女ともに総コレステロール値の増加とともに虚血性心疾患の相対危険度も上昇するとされ,総コレステロール値160~179mg/dl 以下の群を1とした場合,男性では240~259mg/dl 以上の群では6.79倍に上昇するとされていること,このほかHDLコレステロール値が冠動脈疾患その他の動脈硬化性疾患の罹患率と負の相関関係を示すことが多くの疫学調査で報告され,例えば,日本における疫学調査では,HDLコレステロール値が56.1~63. 8mg/dl の群,48.0~55.7mg/dl の群,48.0mg/dl以下の群では,64.2mg/dl 以上の群と比較して,冠動脈疾患の相対危険度は,それぞれ1.8倍,1.61倍,4.17倍というように高値となったことが認められる。 また,証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,LDLコレステロール値80mg/dl 未満の群に対し,80~99mg/dl の群では1.35倍,100~119mg/dl の群では1.66倍,120~139mg/ 審])及び弁論の全趣旨によれば,LDLコレステロール値80mg/dl 未満の群に対し,80~99mg/dl の群では1.35倍,100~119mg/dl の群では1.66倍,120~139mg/dl の群では2. 15倍,140mg/dl 以上の群では2.8倍の冠動脈疾患の発症が増加することが示されたとの研究報告があることが認められる。 もっとも,Z16医師は,別件訴訟の証人尋問において,一般的に高脂血症が心筋梗塞や狭心症を引き起こす独立の危険因子であるが,他方で,放射線に被曝すると高脂血症になりやすいことが証明されている旨の証言をしていることが認められ(甲D12),また,高脂血症それ自体に放射線被曝が関与しているとするZ14報告(甲D14)や,被曝放射線量が低HDLコレステロール血症及び高中性脂肪血症と正の相関を示したとするZ14論文(甲D9の1・2)等の知見があることをも考慮すれば,放射線被曝と高脂血症ないしコレステロール値の不良との関連性を直ちに否定することはできないことに留意する必要がある(なお,この点に関し,控訴人は,Z14論文の上記指摘は,被曝線量1グレイ当たりのオッズ比として算出された値に基づいて導かれたものであり,被曝線量が1グレイ未満の場合においても同旨の結論を導くことにはならないし,疫学的因果関係の判定基準とされる「関連の強固性」に関してはオッズ比の値は2以上であることが要求されており,また,疫学的因果関係が認定できたとしても,その特質から,具体的個人の罹患した疾病の原因を直ちに導き出すことはできないところ,Z14論文の上記オッズ比の値は,低HDLコレステロ ール血症で1.24,高中性脂肪血症で1.19程度にすぎないから,Z14論文によっても,推定被曝線量が約0.03グレイ以下で ところ,Z14論文の上記オッズ比の値は,低HDLコレステロ ール血症で1.24,高中性脂肪血症で1.19程度にすぎないから,Z14論文によっても,推定被曝線量が約0.03グレイ以下である亡Z1の脂質異常症が放射線被曝の影響によるとはいえないと主張するが,前記2のとおり,亡Z1は,誘導放射化物質や放射性落下物からの放射線により外部被曝及び内部被曝をした可能性が十分にあるものの,被曝の程度程度については,具体的・数量的に示すことは性質上困難というほかないのであるから,控訴人の上記主張は,前提事実を異にするものであり,採用することができない。)。 (イ) 前記認定事実のとおり,亡Z1は,昭和61年10月の心筋梗塞発症前から勤務先の健康診断で高脂血症と指摘され,昭和62年1月にZ7病院で心臓バイパス手術を受けた際,同病院において高脂血症である旨の確定診断がされていたことが認められる。そして,亡Z1の総コレステロール値をみると,昭和61年9月17日が216,同月30日が242,昭和62年1月12日が326,同月19日が291であったほか,平成8年4月から平成20年11月までの間は144~233(概ね基準値の範囲内)で推移し,中性脂肪値(単位㎎/dl,基準値50~149)は,昭和61年9月17日が115,同月30日が197,昭和62年1月12日が300,同月19日が241であったほか,平成8年4月から平成20年11月までの間は142~265(ほぼ一貫して基準値の上限超)で推移し,HDLコレステロール値(単位㎎/dl,基準値40~80)は,平成8年4月から平成20年11月までの間,23~40(ほぼ一貫して基準値の下限未満)で推移していたことからすると,亡Z1は,昭和61年10月の心筋梗塞発症の時点では, 0~80)は,平成8年4月から平成20年11月までの間,23~40(ほぼ一貫して基準値の下限未満)で推移していたことからすると,亡Z1は,昭和61年10月の心筋梗塞発症の時点では, 高脂血症のほか,総コレステロール値,中性脂肪値及びHDLコレステロール値が基準値の範囲内ではなく,脂質異常の危険因子を有していたものと認められる。 また,平成6年の心筋梗塞発症の時点では,総コレステロール値及び中性脂肪値は基準値の範囲内であったものの,HDLコレステロール値は基準値の範囲内にはなかったといわざるを得ない。 そして,証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,冠動脈疾患の重要な危険因子であるLDLコレステロールについて,「心筋梗塞二次予防に関するガイドライン(2011年改訂版」(乙D27の資料2)によれば,心筋梗塞の二次予防(心筋梗塞後の症例を心血管系事故から予防すること)においては,LDLコレステロール値を100mg/dl 未満とすることが目標とされていたことが認められ,亡Z1のカルテ等が残っている平成8年4月以降の検査結果をもとに被控訴人らが計算したLDLコレステロール値は,同年7月3日,平成9年1月22日,平成11年5月20日,同年7月21日,同年12月14日及び平成12年3月15日の時点において,いずれも上記100mg/dl を上回る結果であったことが認められる(弁論の全趣旨[被控訴人らの2015年11月25日付け被控訴人準備書面(4)-18,19頁])ことからすると,平成6年の心筋梗塞発症当時,亡Z1のLDLコレステロール値は,心筋梗塞再発の危険因子となり得る数値であったと推認することができる。 ウ喫煙(ア) 証拠(乙A513,乙D27, の心筋梗塞発症当時,亡Z1のLDLコレステロール値は,心筋梗塞再発の危険因子となり得る数値であったと推認することができる。 ウ喫煙(ア) 証拠(乙A513,乙D27,証人Z10[当審])及 び弁論の全趣旨によれば,喫煙が虚血性心疾患の発症率及び死亡率を高めていることが証明されており,例えば,MRFIT検査(多危険因子介入試験)では,1日1~25本喫煙した場合の相対危険度は2.1とされ,25本以上では2.9と高くなっているとされていること,喫煙習慣を有する男性が虚血性心疾患を発症する率は,1日当たりの喫煙本数が15~34本の場合において非喫煙者の3倍であるとされていること,煙草に含まれる一酸化炭素は,組織酸素欠乏を生じ動脈硬化の促進因子となり,活性酸素は細胞の酸化過程や炎症に関与し虚血性心疾患を進行させるとされていること,喫煙と合併する主要危険因子(高血圧,脂質異常症,糖尿病)が重なると,死亡,心筋梗塞のリスクが20倍高くなるといった研究結果があり,特に高齢者については,喫煙が病変の進行及び新たな心事故(心臓死及び非致死性心筋梗塞)の発生に関与しており,特に多枝病変との関連が示されていることが認められる。 そして,証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,禁煙が冠動脈疾患死亡率に与える影響については,非喫煙者群の死亡率を1.0とした場合,毎日喫煙した群の死亡率は1.76,1ないし4年以下の禁煙者群では1. 47,5年以上の禁煙者群では1.31とされており,喫煙していた者が禁煙しても,冠動脈疾患で死亡する危険性は非喫煙者と比較して3割ないし7割以上も高く,5年以上禁煙している者についても非喫煙者と同等にはならないとされていること,一般に長期間にわたり喫煙し いた者が禁煙しても,冠動脈疾患で死亡する危険性は非喫煙者と比較して3割ないし7割以上も高く,5年以上禁煙している者についても非喫煙者と同等にはならないとされていること,一般に長期間にわたり喫煙していた者の血管は,粥状硬化が進み,粥腫(不安定なものを含む。)が血管内の広範囲にわたって沈着していることが多く,このような血管の状態である 喫煙者が禁煙すると,不安定な粥腫が安定化して破綻しにくくなると考えられ,これによって虚血性心疾患の発症率及び死亡率が低下するものの,禁煙したことによって既に形成された粥腫が退縮したり消失するといった報告は見当たらず,心筋梗塞発症リスク自体がなくなるものではないことが認められる。 この点に関し,喫煙による心血管疾患発症リスクについては,高齢者群では禁煙後1年程度で低下が見られ,2,3年程度で非喫煙者と変わらなくなるとの指摘(甲D21)のほか,禁煙期間によってばらつきはあるが,喫煙者が禁煙をすると喫煙を続けている者に比べ危険性が半分から10分の1まで下がったとする厚生労働省研究班の調査結果(乙A513)や,禁煙が冠動脈疾患の二次予防に有用であることが証明されており,心筋梗塞後の禁煙は死亡率を30ないし60%まで減少させることができるとする「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)」における指摘(乙A522)等があることが認められる。しかしながら,前判示のとおり,一般に長期間にわたり喫煙していた者の血管は,粥状硬化が進み,粥腫(不安定なものを含む。)が血管内の広範囲にわたって沈着していることが多く,このような血管の状態である喫煙者が禁煙したことによって既に形成された粥腫が退縮したり消失するといった報告は見当たらず,心筋梗塞発症リスク自体がなくなるものではないのであるから ていることが多く,このような血管の状態である喫煙者が禁煙したことによって既に形成された粥腫が退縮したり消失するといった報告は見当たらず,心筋梗塞発症リスク自体がなくなるものではないのであるから,喫煙者の禁煙と心筋梗塞の発症との関連については,これらの知見を十分考慮する必要がある。 (イ) 前記認定事実のとおり,亡Z1は,20歳の頃から約43年以上,1日当たり平均して20本の喫煙をしていたのであるから,亡Z1の喫煙歴が心筋梗塞発症の危険因子となること は明らかであり,亡Z1が昭和61年以降禁煙していたことにより,心筋梗塞の発症リスクは低下したということはできるものの,発症リスクそのものがなくなったわけではない。 エ慢性腎臓病(ア) 証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,慢性腎臓病(CKD)は,心血管疾患のリスクとして確定されており,軽度の腎機能低下や蛋白尿が心筋梗塞や脳卒中等の大きな危険因子となること,慢性腎臓病は動脈硬化を反映し,動脈硬化を促進するとされ,慢性腎臓病のステージが高くなるに従って冠動脈の狭窄病変が高度になり,冠動脈組織の粥状硬化病変の程度が強くなるとされていること,尿異常(特に蛋白尿の存在),糸球体濾過量(GFR)60ml/分/1.73㎡未満のいずれか,又は両方が3か月以上持続する状態が虚血性心疾患の危険因子になるとされていることが認められる。 もっとも,証拠(甲D36)及び弁論の全趣旨によれば,2013年に発表された放影研のZ20研究員らによる調査報告「原爆被爆者における慢性腎臓病と心血管疾患危険因子との関連:横断調査」では,被曝放射線量と慢性腎臓病,高度腎機能障害との関連が示され,また,慢性腎臓病が高血圧,糖尿病,高脂血症,メタボリック症候 「原爆被爆者における慢性腎臓病と心血管疾患危険因子との関連:横断調査」では,被曝放射線量と慢性腎臓病,高度腎機能障害との関連が示され,また,慢性腎臓病が高血圧,糖尿病,高脂血症,メタボリック症候群といった心血管疾患の危険因子とも関連があることが明らかとなった旨が報告されていることが認められることからすると,放射線被曝と慢性腎臓病ないし高度腎機能障害との関連性を否定することはできないことに留意する必要がある。 (イ) 証拠(乙D7の2,17,27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨(控訴人の平成27年11月27日付け控訴人 第5準備書面-17,18頁)によれば,亡Z1は,昭和61年9月17日の血液検査において,腎機能の状態を示す血清クレアチニン値(CRN値)が1.1mg/dl であって,基準値(0. 61mg/dl~1.04mg/dl)を超えており(乙D7の2-7枚目),腎機能の代表的な指標の一つである推算糸球体濾過量(eGFR)を計算すると53.2ml/分/1.73㎡となったこと,その後,同月30日のクレアチニン値は1.3mg/dl であり(乙D17-右下番号155),そこから導かれるeGFRは44. 3ml/分/1.73㎡となり,同年11月11日のクレアチニン値は1.2mg/dl であり(乙D17-右下番号174),eGFRは48.4ml/分/1.73㎡となり,昭和62年1月10日のクレアチニン値は1.11mg/dl であり(乙D17-右下番号311),eGFRは52.5ml/分/1.73㎡となることが認められる。 以上の事実によれば,亡Z1は,GFR値60ml/分/1.73㎡未満の状態が3か月以上持続するという前記の基準を満たしており,亡Z1は,検査結果上では,GFR区分G3b(中等度から高度低下。乙D 以上の事実によれば,亡Z1は,GFR値60ml/分/1.73㎡未満の状態が3か月以上持続するという前記の基準を満たしており,亡Z1は,検査結果上では,GFR区分G3b(中等度から高度低下。乙D27の資料1-27頁)に当たる慢性腎臓病に罹患していたということができる。 したがって,亡Z1のかかる慢性腎臓病は,昭和61年10月当時,心筋梗塞の危険因子であったということができる。 オ耐糖能異常(ア) 証拠(乙D27,証人Z10[当審])及び弁論の全趣旨によれば,糖尿病については,欧米の研究において,糖尿病患者では非糖尿病患者と比較して虚血性心疾患の頻度が2ないし4倍に増加するとされており,我が国においても,複数の研 究で有意なリスク上昇が認められていること,糖尿病に至らない耐糖能異常については,更なる研究が必要であるとされているものの,虚血性心疾患の発症リスクが正常耐糖能者よりも増すものと考えられていること,①早期空腹時血糖値126mg/dl以上,②75g糖負荷試験(OGTT)2時間値200mg/dl以上,③随時血糖値200mg/dl 以上,④HbA1c値がJDS値6.1%以上(NGSP値6.5%以上)のいずれかが認められた糖尿病型,及び糖尿病型ではないが,空腹時血糖値110mg/dl 以上又は75g糖負荷試験(OGTT)2時間値140mg/dl 以上の境界型が,虚血性心疾患の危険因子とされていることが認められる。 もっとも,上記エで説示したとおり,被曝放射線量と慢性腎臓病,高度腎機能障害との関連が示されており,証拠(甲D36)によれば,慢性腎臓病が心筋梗塞の危険因子の一つである糖尿病とも関連があることが明らかとなった旨が報告されていることが認められることからすると,放射線 能障害との関連が示されており,証拠(甲D36)によれば,慢性腎臓病が心筋梗塞の危険因子の一つである糖尿病とも関連があることが明らかとなった旨が報告されていることが認められることからすると,放射線被曝と耐糖能異常との関連性を完全に否定することはできないことに留意する必要がある。 (イ) 証拠(乙D17)及び弁論の全趣旨によれば,亡Z1の昭和62年1月20日の心臓バイパス手術前の記載と思われるZ7病院の「Preoperationsummary」(乙D17-右下番号319ないし321)には,HbA1c値が6.7%(JDS値と認める。)と記載されており,前記の基準(HbA1c値[JDS値]6.1%以上)を満たしていることが認められる。 また,証拠(乙D32)及び弁論の全趣旨によれば,亡Z1の昭和62年1月20日の血液検査の結果では,血糖値が3 05mg/dl とされていることが認められ,前記の基準(早朝空腹時血糖値126mg/dl 以上,随時血糖値200mg/dl 以上)を満たしていることが認められる。 さらに,証拠(乙D17-右下番号311)及び弁論の全趣旨によれば,亡Z1の昭和62年1月24日の血液検査の結果では,血糖値が186mg/dl とされており,上記早朝空腹時血糖値の基準を満たしているということができる。 以上によれば,亡Z1は,昭和61年10月当時,心筋梗塞の危険因子と評価し得る耐糖能異常の状態であったということができる。 (3) 被控訴人らの主張の検討ア被控訴人らは,LSSやAHS等の調査結果は喫煙等の危険因子についても織り込み済みの判断である旨主張する。 しかしながら,例えば,Z15論文は,心疾患の放射線リスクを認めた上で,喫 検討ア被控訴人らは,LSSやAHS等の調査結果は喫煙等の危険因子についても織り込み済みの判断である旨主張する。 しかしながら,例えば,Z15論文は,心疾患の放射線リスクを認めた上で,喫煙,飲酒,教育,職業,肥満,糖尿病等の交絡因子を調整しても心疾患の放射線リスクの評価にほとんど影響を及ぼさなかったとするものの(甲D13の1・2),このような交絡因子の調整は,一般的な疫学的因果関係の判断のために行われるものであるから(乙A191),これによっても,個々の具体的事例において当該疾患が他の危険因子によって発症したものとみることが否定されるものではなく,放射線起因性の証明の有無を判断するに当たっては,当該疾病等に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度の検討が必要というべきである(他方,これらの危険因子があるからといって,動脈硬化やこれを原因とする心筋梗塞と放射線被曝との間の関連性が直ちに否定されるものではない。)。 したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。 イ被控訴人らは,Z10教授は,そもそも放射線被曝による人体への影響についての専門家ではなく,心疾患の専門家としてまともにカルテ等を検討しておらず,結論ありきの穿った見方でしかカルテ等を検討していないから,証人としての適格を欠いているなどと主張する。 しかしながら,Z10教授は,循環器の専門医として,30年以上にわたり心筋梗塞や狭心症の患者を年150人近く診ており,亡Z1の昭和61年10月と平成6年に発症した心筋梗塞について,亡Z1の危険因子によって一般的に心筋梗塞が発症することを合理的に説明できるという観点から上記意見書を作成し,当審証人尋問で証言をしていることが認められる(弁論の全趣旨)のであって,Z10教授が放射線被曝による 子によって一般的に心筋梗塞が発症することを合理的に説明できるという観点から上記意見書を作成し,当審証人尋問で証言をしていることが認められる(弁論の全趣旨)のであって,Z10教授が放射線被曝による人体への影響についての専門家ではないからといって,Z10教授の証人の適格性が否定されることにはならない。そして,Z10教授の当審証人尋問における証言を仔細に検討しても,Z10教授が心疾患の専門家として亡Z1のカルテをまともに検討していないとか,結論ありきの穿った見方でカルテ等を検討していたような事情は認められない。 したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。 5 亡Z1の心筋梗塞発症の放射線起因性の検討(1) 昭和61年10月発症の心筋梗塞についてア前記2のとおり,亡Z1は,広島原爆の爆心地から約7㎞離れた地点の屋内で被爆したものであるから,初期放射線による有 意な被曝はないというべきであるが,他方で,誘導放射化物質や放射性落下物からの放射線により外部被曝及び内部被曝をした可能性は十分にあるということができる(もっとも,被曝の程度については,具体的・数量的に示すことが性質上困難である。)。 ところで,亡Z1作成の平成13年11月12日受付の被爆者健康手帳交付申請書(乙D11)には,「6カ月以内にあらわれた症状の有無」の欄に,「1 やけど」,「2 けが」,「3下痢」,「4 歯ぐきからの出血,皮膚に斑点が出た」,「5 発熱」,「6 脱毛」,「7 貧血」,「8 何もなかった」に該当する番号を丸で囲む箇所があるところ,亡Z1は,「8」を丸で囲っていることが認められ,また,本件記録を検討しても,亡Z1は被爆による放射線被曝によって急性症状が現れたような事情は認められない。 当する番号を丸で囲む箇所があるところ,亡Z1は,「8」を丸で囲っていることが認められ,また,本件記録を検討しても,亡Z1は被爆による放射線被曝によって急性症状が現れたような事情は認められない。 前記1の認定事実のとおり,亡Z1は,被爆直後から通常であれば3,4日で治癒する軽い切り傷や虫刺されが治癒するまで半月程度かかるようになったと感じ,また,被控訴人Z4(昭和34年○月○日生)が小学生の頃に蜂に刺された際,治癒するまで約1年間通院したことがあったことが認められるが,上記のとおり,被爆後6か月以内に格別症状は現れなかったというのであるから,亡Z1が原爆投下から100時間以内に爆心地から約2㎞以内であるα 町(爆心地から約1.5㎞)に入市しており,平成25年新方針によれば,悪性腫瘍(固形がんなど),白血病,副甲状腺機能亢進症については,格段に反対すべき事由のない限り,原則的に放射線起因性を認定するとされていることや,誘導放射化物質や放射性落下物からの放射線により外部被曝及び内部被曝をした可能性が十分にあることを考慮しても,上記の切り 傷や虫刺され等の治癒の遅れが放射線被曝による影響で免疫力が落ちたからであると直ちに認めることは困難である。 イ前記1の認定事実のとおり,亡Z1は,昭和61年8月初旬頃から朝の通勤時の胸焼け等を訴えて同年9月には不安定狭心症と診断され,同年9月16日のZ7病院における心臓カテーテル検査の結果,右冠動脈№1に50%,左冠動脈左前下行枝№6に90%,同№9に99%,同№7に50%,左冠動脈左回旋枝№13に75%,同№14に50%の狭窄がみられ,三枝病変の状態であったところ,同年10月3日に№6の狭窄につきPTCA(経皮的冠動脈形成術)の施行を受けたものの,同月15日に ,左冠動脈左回旋枝№13に75%,同№14に50%の狭窄がみられ,三枝病変の状態であったところ,同年10月3日に№6の狭窄につきPTCA(経皮的冠動脈形成術)の施行を受けたものの,同月15日に急性心筋梗塞を発症し,緊急PTCR(経皮的冠動脈血栓溶解療法)及びPTCAの施行を受けたことが認められる。 そして,前記4(2)のとおり,心筋梗塞発症の危険因子としては,加齢,高血圧,糖尿病,喫煙,脂質異常症,肥満などが挙げられ,危険因子が複数存在する場合には有病率が加速度的に増加するとされているところ,昭和61年9月当時,亡Z1(大正12年○月○日生)は63歳の高齢者であり,同(2)ウ(イ)のとおり,約43年にわたり1日当たり平均20本の煙草の喫煙歴を有していた。また,前記1の認定事実のとおり,亡Z1は,その食生活において,油っこい料理や塩辛い物,汁物,香辛料を好み,甘口,辛口,濃味,油っこい,香辛料の味付けを好み,毎日甘い物を間食するという習慣であり(亡Z1は,Z7病院に入院中の昭和61年10月30日,看護師に対し,心筋梗塞になった原因について,うどんやラーメンの汁をたくさん飲んだことや,中華料理や天ぷらを食べ過ぎたことを挙げていた。),しかも,勤務先の健康診断で高脂血症と指摘され,昭和62年1月にZ7病院 で心臓バイパス手術を受けた際も同病院で高脂血症との確定診断がされていたことが認められる。加えて,同(2)イ(イ)のとおり,亡Z1のコレステロール値をみると,総コレステロール値及び中性脂肪値は基準値を超えており,HDLコレステロール値についても基準値の範囲内にはなかったものであり,脂質異常の状態であった。さらに,同(2)エ及びオの各(イ)のとおり,亡Z1は,検査結果の数値からは,慢性腎臓病の状態にあったとい Lコレステロール値についても基準値の範囲内にはなかったものであり,脂質異常の状態であった。さらに,同(2)エ及びオの各(イ)のとおり,亡Z1は,検査結果の数値からは,慢性腎臓病の状態にあったといえ,糖尿病ではないものの,心筋梗塞の危険因子と評価し得る耐糖能異常の状態であったものということができる。 ウ以上の諸事情を総合すると,亡Z1の昭和61年10月発症の心筋梗塞は,亡Z1の年齢(当時63歳)や長年にわたる喫煙歴に加え,いわゆる生活習慣病といわれる高脂血症やコレステロール値の不良といった脂質異常症のほか,慢性腎臓病や耐糖能異常といった心筋梗塞の危険因子ないし危険因子と評価し得る健康不良状態が重なり合って粥状動脈硬化が進行し,広範囲にわたって形成された粥腫が破綻したことにより心筋梗塞が発症したものと合理的に説明することが十分に可能であり,亡Z1が誘導放射化物質や放射性落下物からの放射線により外部被曝及び内部被曝をした可能性が十分にあることや,広島原爆の被爆による放射線被曝と心筋梗塞ないしその危険因子である高脂血症や慢性腎臓病,糖尿病との関連性に関する知見をも考慮しても,亡Z1の心筋梗塞が,亡Z1が受けた広島原爆の放射線被曝により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があると認めることはできないというべきである。 (2) 平成6年発症の心筋梗塞について ア前記1の認定事実のとおり,亡Z1は,昭和61年10月の心筋梗塞の発症後,昭和62年1月20日(当時64歳)にZ7病院で心臓バイパス手術(冠動脈大動脈吻合術)を受け,同年2月19日の退院後は1か月に1回の割合でZ12病院に通院して投薬等の処置を受けていたが,平成6年(当時71歳)に 20日(当時64歳)にZ7病院で心臓バイパス手術(冠動脈大動脈吻合術)を受け,同年2月19日の退院後は1か月に1回の割合でZ12病院に通院して投薬等の処置を受けていたが,平成6年(当時71歳)に心筋梗塞を発症して救急車で同病院に搬送され,同年4月20日から同年5月28日まで入院し,その後も心筋梗塞を発症して救急車で同病院に搬送され,同年9月21日から同年10月5日まで入院したことが認められる。 亡Z1の平成6年発症の心筋梗塞は,当時のカルテ等が現存していないため,冠動脈のどの部位で心筋梗塞が発症したのかは明らかではない。 もっとも,前記4(1)の心筋梗塞発症の一般的な機序のとおり,心筋梗塞の原因である冠動脈の閉塞に至る最も多い原因とされるのは,冠動脈硬化症(冠動脈に生ずる粥状動脈硬化)により形成された粥腫の破綻であり,この破綻は粥腫の性状が関わっていることから,必ずしも冠動脈の狭窄度の高い部位で生じるものではなく,また,心筋梗塞を発症した患者は,一般に冠動脈の病変が進行した結果,責任病変部位だけでなく冠動脈全体に不安定なプラークが多数存在するに至っており,心筋梗塞の既往歴のある患者の冠動脈は,既に発症した心筋梗塞の責任病変部位以外の部位に形成される粥腫が破綻して再び心筋梗塞が発症する可能性がある状態であることが認められる。そして,前記(1)イで説示したとおり,亡Z1の昭和61年9月時点の冠動脈は,三枝すべての複数部位に50%ないし99%の狭窄がみられる三枝病変の状態であったことからすると,亡Z1の冠動脈は,広範囲に わたって粥状動脈硬化が進行し,形成された粥腫が血管に付着沈着していたものであり,心筋梗塞が再発する可能性のある状態であったということができる。前記1の認定事実のとおり,Z7病 広範囲に わたって粥状動脈硬化が進行し,形成された粥腫が血管に付着沈着していたものであり,心筋梗塞が再発する可能性のある状態であったということができる。前記1の認定事実のとおり,Z7病院の担当医は,昭和61年10月の心筋梗塞発症後,亡Z1の冠動脈については今後も心筋梗塞の再発等の危険があると指摘していたことが認められる。 イところで,前記1の認定事実のとおり,亡Z1は,昭和61年9月以降は禁煙をしており,また,心臓バイパスの手術を受けてZ7病院を退院した昭和62年2月19日以降,1か月に1回の割合でZ12病院を受診して投薬等を受けていたことが認められる。 しかしながら,亡Z1が心筋梗塞を再発した平成6年当時,亡Z1は71歳と高齢であり,前記4(2)イ(イ)のとおり,心筋梗塞の危険因子とされる亡Z1のHDLコレステロール値は基準値の範囲内にはなく,また,LDLコレステロール値についても,心筋梗塞再発の危険因子となり得る数値であったということができる。 また,前記4(2)ウのとおり,喫煙による心血管疾患発症リスクについては,高齢者群では禁煙後1年程度で低下がみられ,2,3年程度で非喫煙者と変わらなくなるとの指摘や,禁煙期間によってばらつきはあるが,喫煙者が禁煙をすると喫煙を続けている者に比べ危険性が半分から10分の1まで下がったとする厚生労働省研究班の調査結果,禁煙が冠動脈疾患の二次予防に有用であることが証明されており,心筋梗塞後の禁煙は死亡率を30ないし60%まで減少させることができるとする「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)」における指摘等があり, 亡Z1が禁煙したことにより,亡Z1の冠動脈に広範囲にわたり付着沈着していた粥腫が安定化して破綻しにくくな とする「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2007年版)」における指摘等があり, 亡Z1が禁煙したことにより,亡Z1の冠動脈に広範囲にわたり付着沈着していた粥腫が安定化して破綻しにくくなった(乙D27,証人Z10[当審])ということができるものの,前判示のとおり,一般に長期間にわたり喫煙していた者の血管は,粥状硬化が進み,粥腫(不安定なものを含む。)が血管内の広範囲にわたって沈着していることが多く,このような血管の状態である喫煙者が禁煙したことによって既に形成された粥腫が退縮したり消失するといった報告は見当たらず(なお,Z10教授は,当審証人尋問において,HDLコレステロール値が正常値でLDLコレステロール値が60以下に下げれば粥状硬化の進んだ動脈が改善する,粥腫の退縮が起こり得るが,証明はされていない趣旨の証言をしている。),心筋梗塞の発症リスク自体がなくなるものではない。 ウ以上の諸事情を総合すると,亡Z1の平成6年発症の心筋梗塞は,昭和61年9月の時点で亡Z1の冠動脈が三枝病変の状態であるなど,粥状動脈硬化が進行しており,広範囲にわたって粥腫が形成されて血管に付着沈着して不安定な状態であったところ,亡Z1が同月以降禁煙し,昭和62年1月に心臓バイパス手術を受けた後,1か月に1回の割合で病院を受診して投薬等を受ける等をしていたことから粥腫が安定化して破綻しにくい状態であったものの,昭和61年10月の心筋梗塞発症から8年が経過して亡Z1が歳を重ね,また,HDLコレステロール値が基準値の範囲内にはなく,LDLコレステロール値についても心筋梗塞二次予防の観点から望まれる目標数値(100mg/dl)を達成していなかったことなどの事情が重なり,平成6年になって既に形成されていた粥腫が破綻し,心筋梗塞が再発した ステロール値についても心筋梗塞二次予防の観点から望まれる目標数値(100mg/dl)を達成していなかったことなどの事情が重なり,平成6年になって既に形成されていた粥腫が破綻し,心筋梗塞が再発したものとみるこ とが医学的にみて不自然,不合理な経過とはいえない。 そうすると,前判示のとおり,亡Z1が誘導放射化物質や放射性落下物からの放射線により外部被曝及び内部被曝をした可能性が十分にあることや,広島原爆の被爆による放射線被曝と心筋梗塞ないしその危険因子である高脂血症や慢性腎臓病,糖尿病との関連性に関する知見を考慮しても,亡Z1の平成6年の心筋梗塞が,亡Z1が受けた広島原爆の放射線被曝により発症したことについて,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るに足りる高度の蓋然性の証明があると認めることはできないというべきである。 (3) 被控訴人らの主張の検討被控訴人らは,前記第2章の第5の5(8)のとおり主張するが,前記(1)及び(2)で認定判断したところに照らし,採用することができない。 その他,被控訴人らの原審及び当審における主張に鑑み,関係証拠を改めて検討しても,上記の認定判断は左右されない。 (4) まとめ以上によれば,本件Z1申請に係る申請疾病である平成6年発症の心筋梗塞の放射線起因性を肯定することはできないから,本件Z1却下処分に違法はなく,被控訴人らの本件Z1却下処分取消請求は理由がない。 6 義務付けの訴えの適法性等(争点③)本件Z1申請に係る原爆症認定の義務付けを求める被控訴人らの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,前判示のとおり,本件Z1却下処分の取消請求は理由がないから,上記訴えは,同法37条の3第1項2号の要件 けを求める被控訴人らの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号の申請型義務付けの訴えであるところ,前判示のとおり,本件Z1却下処分の取消請求は理由がないから,上記訴えは,同法37条の3第1項2号の要件を満たさない不 適法なものであり,却下を免れない。 第4章結論以上によれば,被控訴人の訴えのうち,本件Z1申請に係る原爆症認定の義務付けを求める部分は不適法であり,本件Z1却下処分取消請求は理由がないところ,これと結論を異にする原判決主文第2項及び第3項は失当であり,本件控訴は理由がある。 よって,原判決主文第2項及び第3項を取り消して,被控訴人らの訴えのうち,本件Z1申請に係る原爆症認定の義務付けを求める部分を却下し,被控訴人らのその余の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第7民事部 裁判長裁判官池田光宏 裁判官村田龍平 裁判官島岡大雄
▼ クリックして全文を表示