平成18(ネ)1065 自衛隊のイラク派兵差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成20年4月17日 名古屋高等裁判所 棄却 名古屋地方裁判所 平成16(ワ)695
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判決文本文64,572 文字)

- 1 -主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 控訴人(1)原判決を取り消す。 (2)被控訴人は,イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動の実施に関する特別措置法(以下「イラク特措法」という。)により,自衛隊をイラク及びその周辺地域並びに周辺海域に派遣してはならない。 (3)被控訴人がイラク特措法により,自衛隊をイラク及びその周辺地域に派遣したことは,違憲であることを確認する。 (4)被控訴人は,控訴人に対し,1万円を支払え。 (5)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 被控訴人主文と同旨第2事案の概要 本件は,駐レバノン共和国(以下「レバノン」という。)特命全権大使であった控訴人が被控訴人に対し,被控訴人がイラク特措法に基づきイラク及びその周辺地域に自衛隊を派遣したこと(以下「本件派遣」という。また,以下,イラク及びその周辺地域のことを単に「イラク」ということがある。)は違憲であるとして,本件派遣の差止め(以下「本件差止請求」という。),本件派遣が憲法9条に反し違憲であることの確認(以下「本件違憲確認請求」という。)を求めるとともに,本件派遣によって平和的生存権ないしその一内容としての「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」等(以下,一括して「平和的生存権等」ということがある。)の侵害を受けたほか,特命全権大使- 2 -の職について違法な退職強要等を受けたなどとして,国家賠償法1条1項に基づき,1万円の損害賠償の請求(以下「本件損害賠償請求」という。)をした事案である。 原判決は,本件差止請求及び本件違憲確認請求にかかる訴えは不適法であるとして訴えを却下し,本件損害賠償請求については請求を棄却したところ の請求(以下「本件損害賠償請求」という。)をした事案である。 原判決は,本件差止請求及び本件違憲確認請求にかかる訴えは不適法であるとして訴えを却下し,本件損害賠償請求については請求を棄却したところ,控訴人が控訴した。 前提事実(公知の事実,当裁判所に顕著な事実等)(1)平成15年7月26日,第156回国会において,4年間の時限立法であるイラク特措法(平成15年法律第137号)が可決成立し,同年8月1日,公布,施行された。 (2)内閣は,平成15年12月9日,同法に基づく人道復興支援活動又は安全確保支援活動(以下「対応措置」という。)に関する基本計画(以下単に「基本計画」ということがある。)を閣議決定した。 (3)防衛庁長官(平成18年12月法律118号による改正以前。以下同様。)は,基本計画に従って,対応措置として実施される業務としての自衛隊による役務の提供について実施要項を定め,これについて内閣総理大臣の承認を得て,自衛隊に準備命令を発するとともに,航空自衛隊先遣隊に派遣命令を発して,これを同月26日からイラク,クウェート国(以下「クウェート」という。)へ派遣し,その後,陸上自衛隊に派遣命令を発して,これを平成16年1月16日からイラク南部ムサンナ県サマワに派遣するなど,自衛隊をイラクに派遣した。 (4)陸上自衛隊は,平成18年7月17日,サマワから完全撤退した。しかし,航空自衛隊は,その後,クウェートからイラクの首都バグダッド等へ物資・人員の空輸活動を継続している(平成18年8月に基本計画の一部変更を閣議決定)。 (5)平成19年6月20日,第166回国会において,イラクへの自衛隊派- 3 -遣を2年間延長することを内容とする改正イラク特措法(平成19年法律第101号)が可決成立し,現在も航空自衛隊の空輸活動が行わ 19年6月20日,第166回国会において,イラクへの自衛隊派- 3 -遣を2年間延長することを内容とする改正イラク特措法(平成19年法律第101号)が可決成立し,現在も航空自衛隊の空輸活動が行われている。 当事者の主張別紙のとおり第3当裁判所の判断 当裁判所も,控訴人の本件違憲確認請求及び本件差止請求にかかる訴えはいずれも不適法であるから却下すべきであり,控訴人の本件損害賠償請求は棄却すべきであると判断するが,その理由は以下のとおりである。 本件派遣の違憲性について(1)認定事実公知の事実,当裁判所に顕著な事実に加え,証拠(各箇所に掲記のもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。 アイラク攻撃及びイラク占領等の概要(ア)平成15年3月20日,イラクのサダム・フセイン政権(以下「フセイン政権」という。)が大量破壊兵器を保有しており,その無条件査察に応じないことなどを理由として,国際連合(以下「国連」という。)の決議のないまま,アメリカ合衆国(以下「アメリカ」という。)軍,英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)軍を中心とする有志連合軍がイラクへの攻撃を開始した(以下,これを「イラク攻撃」という。)。 これにより,間もなくフセイン政権が崩壊し,同年5月2日,アメリカのブッシュ大統領がイラクにおける主要な戦闘の終結を宣言した。 (イ)フセイン政権の崩壊後,アメリカ国防総省・復興人道支援室(OfficeofReconstructionandHumanitarianAssistance。以下「ORHA」と略称する。)がイラクを統治し,平成15年5月,国連の安全保障理事会(以下「安保理」という。)決議1483号(加盟国にイラク- 4 -での人道,復旧・復興支援並びに安定及び安全の回 「ORHA」と略称する。)がイラクを統治し,平成15年5月,国連の安全保障理事会(以下「安保理」という。)決議1483号(加盟国にイラク- 4 -での人道,復旧・復興支援並びに安定及び安全の回復への貢献を要請するもの)が採択されたことを受け,アメリカを中心とする連合国暫定当局(CoalitionProvisionalAuthority。以下「CPA」と略称する。)がORHAからイラクの統治を引き継いだ。 なお,イラク特措法は,この国連安保理決議1483号を踏まえ,イラクにおける人道復興支援活動及び安全確保支援活動を行うものとして(同法1条),同年7月に制定されたものである。 (ウ)平成16年6月1日,イラク暫定政府が発足し,同月9日,国連安保理において決議1546号が全会一致で採択され(イラク暫定政府設立の是認,占領の終了及びイラクの完全な主権の回復の歓迎,国連の役割の明確化,多国籍軍の任務の明確化等を内容とする。),同月28日には,CPAから主権移譲が行われた。これに伴い,多国籍軍が発足し,この多国籍軍に日本の自衛隊も参加することになった。 (エ)その後,平成17年1月30日,イラク暫定国民議会の議員を選出する選挙が実施され,同年4月28日,移行政府が発足した。同年8月28日,イラク国民議会でイラク新憲法草案が採択され,同年10月15日に同憲法草案の国民投票が実施され,同月25日までの開票の結果,これが承認された。同年12月15日,新憲法下でイラク国民議会の選挙が実施され,平成18年5月20日には,イラクにイスラム・シーア派(以下単に「シーア派」という。)のマリキ首相を首班とする正式政府が発足して,これによりイラクは主権を回復した。しかし,その後も,イラク政府の要請により,多国籍軍がイラクに駐留している。 (オ)もっと 下単に「シーア派」という。)のマリキ首相を首班とする正式政府が発足して,これによりイラクは主権を回復した。しかし,その後も,イラク政府の要請により,多国籍軍がイラクに駐留している。 (オ)もっとも,当初のイラク攻撃の大義名分とされたフセイン政権の大量破壊兵器は,現在に至るまで発見されておらず,むしろこれが存在しなかったものと国際的に理解されており,平成17年12月には,ブッシュ大統領自身も,大量破壊兵器疑惑に関する情報が誤っていたことを- 5 -認めるに至っている。 (カ)イラク攻撃開始当初の有志連合軍及びCPAからの主権委譲後の多国籍軍に参加したのは,最大41か国であり,いわゆる大国のうち,フランス共和国,ロシア連邦,中華人民共和国,ドイツ連邦共和国等は加わっておらず,イラク攻撃への国際的な批判が高まる中,参加国も次々と撤収し,現在(当審における口頭弁論終結時)の参加国は,アメリカ,英国及び我が国を含めて21か国となっている。 イイラク各地における多国籍軍の軍事行動(ア)ファルージャイラク中部のファルージャでは,平成16年3月,アメリカ軍雇用の民間人4人が武装勢力に惨殺されたことから,同年4月5日,武装勢力掃討の名の下に,アメリカ軍による攻撃が開始され,同年6月以降は,間断なく空爆が行われるようになった。 同年11月8日からは,ファルージャにおいて,アメリカ軍兵士4000人以上が投入され,クラスター爆弾並びに国際的に使用が禁止されているナパーム弾,マスタードガス及び神経ガス等の化学兵器を使用して,大規模な掃討作戦が実施された。残虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これにより,ファルージャ市民の多くは,市外へ避難することを余議なくされ,生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され,多くの民間人が死傷し,イラ 虐兵器といわれる白リン弾が使用されたともいわれる。これにより,ファルージャ市民の多くは,市外へ避難することを余議なくされ,生活の基盤となるインフラ設備・住宅は破壊され,多くの民間人が死傷し,イラク暫定政府の発表によれば,死亡者数は少なく見積もって2080人であった。 (以上,甲B5の6,7の2,8の1ないし11,9の1ないし11,13の5・11,36,158)(イ)首都バグダッドa平成16年6月のイラク暫定政府発足後,首都バグダッドにおいて,政府高官を狙った自爆攻撃等が相次いで多数の者が死傷し,武装勢力- 6 -による多国籍軍に対する攻撃も相次ぎ,同月27日及び同年7月末,いずれもバグダッド空港離陸直後にC130輸送機が銃撃を受け,アメリカ人とオーストラリア人の乗組員2人が死亡した。また,平成17年1月30日には,バグダッド近郊を低空で飛行していた英国軍のC130輸送機が,武装勢力(アンサール・イスラム=イスラムの支援者が実行の声明を発したが,実際はイスラム・スンニ派(以下単に「スンニ派」という。)の武装組織ともいわれる。)により撃墜され,乗員全員(少なくとも10人)が死亡する事件が生じた。さらに,バグダッドでは,多国籍軍と武装勢力との衝突が頻繁に生じていた。 このような事態を受けて,多国籍軍は,バグダッドにおいて,武装勢力に対する大規模な掃討作戦を展開するに至った。 b平成17年5月29日,アメリカ軍約1万人,イラク軍約4万人を動員して大規模な掃討作戦が行われた。しかし,武装勢力を掃討することはできず,却ってバグダッドの治安が悪化した。そこで,多国籍軍は,バグダッド及びその周辺における掃討作戦を強化させ,平成18年8月からはアメリカ兵約1万5000人をバグダッドに集中させて,掃討作戦を行うなどした。 c多国籍軍は,バ 化した。そこで,多国籍軍は,バグダッド及びその周辺における掃討作戦を強化させ,平成18年8月からはアメリカ兵約1万5000人をバグダッドに集中させて,掃討作戦を行うなどした。 c多国籍軍は,バグダッド市内において,宗派対立等による武装勢力同士の衝突が激しくなったことを受けて,平成18年末ころからこれらに対する掃討作戦を実施して,その回数を増やし,アメリカ軍もこのころイラク駐留軍を増派した。アメリカ軍は,平成19年1月22日,イラク治安部隊と共同で行った過去45日間の掃討作戦の結果を発表したが,この発表によれば,シーア派民兵に対して52回,スンニ派民兵に対して42回の掃討作戦を実施し,シーア派の強行派といわれるムクタダ・サドル師派(以下「サドル師派」という。)の民兵600人を拘束したものであった。同月24日には,バグダッド中心- 7 -部のハイファ通りでスンニ派に対して猛攻撃を加え,同日だけで30人を殺害した。 d同年2月14日,アメリカ軍は,イラク治安部隊とともに,合計9万人を投入して,イラク戦争開始以来最大規模の作戦といわれ「法の執行作戦」と名付けられた掃討作戦をバグダッドにおいて実施し,多数の一般市民が犠牲となった。 eアメリカ軍は,同年8月8日,バグダッドのシーア派居住区であるサドル・シティを空爆し,イランからの爆弾輸送に関与していた武装勢力30人を殺害したと発表したが,イラク警察は,女性や子どもを含む11人が死亡したと発表している。同年9月6日には,バグダッドのマンスール地区を空爆したが,その中でもサドル師派の民兵が活動し,シーア派住民が多いワシャシュ地域を攻撃し,少なくとも14人が死亡した。同年10月21日には,サドル・シティを攻撃し,市民13人が死亡した。 fこのように,アメリカ軍を中心とする多国籍軍は,時 し,シーア派住民が多いワシャシュ地域を攻撃し,少なくとも14人が死亡した。同年10月21日には,サドル・シティを攻撃し,市民13人が死亡した。 fこのように,アメリカ軍を中心とする多国籍軍は,時にイラク軍等と連携しつつ掃討作戦を行い,特に平成19年に入ってから,バグダッド及びその周辺において,たびたび激しい空爆を行い,同年中にイラクで実施した空爆は,合計1447回に上り,これは前年の平成18年の約6倍の回数となるものであった。 gアメリカ軍は,平成20年1月8日から,イラク軍とともに,イラク全土で大規模な軍事作戦「ファントム・フェニックス」を開始し,同月10日からは,その一環として,バグダッド南郊において大規模な集中爆撃を行い,40箇所に爆弾を投下した。 (以上,甲B21の5,141の1・7・10,144,154の1の1,154の4・5)(ウ)その他の地域- 8 -多国籍軍は,平成16年中に,イラク国内のマハムディヤ,マッサーラ,ラマディ,モスル等において,1000人規模の兵士を投入した掃討作戦を実施した。特に,モスルでは,同年11月14日から,大規模な掃討作戦を実施し,平成17年1月8日,アメリカ軍のF16戦闘機が500トンの爆弾を投下し,民家を爆撃して住民5人が死亡した。 多国籍軍は,平成17年には,カイム,ハディーサ,タルアファル等において,大規模な掃討作戦を実施し,同年9月10日のタルアファルでの攻撃にはアメリカ軍及びイラク治安部隊併せて約8500人が動員された。同年10月16日,スンニ派の地域といわれるラマディにおいて空爆を行い,武装勢力70人を殺害したと発表したが,実際は少なくとも39人が一般市民であったとも報じられている。 平成19年8月には,アメリカ軍がイラク中部のサマラにおいて,武装勢力からの攻撃を受けた 爆を行い,武装勢力70人を殺害したと発表したが,実際は少なくとも39人が一般市民であったとも報じられている。 平成19年8月には,アメリカ軍がイラク中部のサマラにおいて,武装勢力からの攻撃を受けた後に民家をミサイルで爆撃し,女性2人,子ども5人が死亡した。 (以上,甲B21の5,22の1ないし3,35の1・3・5ないし9・14ないし16,38の1,141の9)ウ武装勢力について(ア)ところで,多国籍軍による上記のような掃討作戦の対象となったことがあると認められる武装勢力には,思想や宗派を問わず様々なものがあるが,有力な武装勢力として,少なくとも次のものが認められ,互いに協力又は対立の関係に立ちつつ,時として海外の諸勢力から援助を受けつつ,その活動を行っているものと認められる。 aフセイン政権の残党平成15年5月のブッシュ大統領による主要な戦闘終結宣言の後にも,イラク国内には,旧フセイン政権の軍人等からなる反政府武装勢力が残存しており,その実体は不明な点が多いが,海外に拠点を置き- 9 -つつ,イラク国内においてゲリラ戦を行っているとみられる。平成16年4月及び同年11月になされたファルージャにおける掃討作戦では,実はこの反政府武装勢力が対象であったともいわれており,現在も,スンニ派の一部と連携し,バグダッド市内の一部を実質支配していると見られている。 bシーア派のサドル師派フセイン政権崩壊後,シーア派強硬派のムクタダ・サドル師が率いる民兵組織「マフディー軍」が,各地で多国籍軍と武力衝突しており,特に,イラク中部のナジャフにおいて,平成16年8月,戦車やヘリコプターを用いた大規模な武力衝突が生じたとされている。サドル師派においては,社会福祉事業,交通警備等の公共事業の場で自発的に労働する150万人のイラク人を動員できる て,平成16年8月,戦車やヘリコプターを用いた大規模な武力衝突が生じたとされている。サドル師派においては,社会福祉事業,交通警備等の公共事業の場で自発的に労働する150万人のイラク人を動員できるとの報告もあり,日本においても,同年4月の時点で,内閣法制局が,当時の福田内閣官房長官に対し,マフディー軍を「国に準じるもの」に該当する旨報告していた。 なお,シーア派には,フセイン政権時代から反フセイン・ゲリラ部隊を有しており,現在はマリキ政権を支える最大組織「イラク・イスラム革命最高評議会」があり,サドル師派との間で宗派内対立の状況にある。 cスンニ派武装組織シーア派に対抗するスンニ派にも反米,反占領を掲げる武装組織があり,特に,その中のアンサール・アル・スンナ軍は,イラク西部のラマディやヒートを中心とするスンニ派住民の多いアンバル州一帯を拠点とし,アメリカ軍やイラク軍に兵器で敵対するほか,シーア派やクルド人を襲撃するなどの過激な武力闘争を展開している。平成17年5月に日本人を拘束したのも,アンサール・アル・スンナ軍である- 10 -といわれている。 (以上,甲B17の4の1・2,19の1・2,21の2・4)(イ)武装勢力の兵員数についてイラクにおいて反政府武装勢力とされる者らの人数は,平成15年11月に5000人,16年11月に2万人,17年11月に2万人,18年11月に2万5000人,シーア派民兵の数は,平成15年11月に5000人,16年11月に1万人,17年11月に2万人,18年11月に5万人といわれ,年々増加している。(甲B110)(ウ)武装勢力の用いたとされる強力兵器について現地においては,次のような内容の報道がなされている(なお,以下の武器を使用したとされるのが,具体的にどの武装勢力であるかは,証拠上必ずし 110)(ウ)武装勢力の用いたとされる強力兵器について現地においては,次のような内容の報道がなされている(なお,以下の武器を使用したとされるのが,具体的にどの武装勢力であるかは,証拠上必ずしも明らかではない。)。 aファルージャにおける平成16年11月の掃討作戦においては,武装勢力の側においても,多連型カチューシャ・ロケットの架台を積んだ車両を用い,ファルージャに近いカルマとサクラーウィーヤにおいて,グラーダやリーリク・ミサイル約160発をアメリカ軍の集結地に発射した。 b平成16年11月21日午前8時15分ころ,バグダッドの北方のバラドにあり,アメリカ兵2500人が駐留するバクルアメリカ軍基地に,化学物質の弾頭を装備したロケット弾4発を打ち込まれ,アメリカ兵270人以上が死亡した。抵抗勢力は,過去にもハバーニーヤ,ハドバ,ラマディ,モスル,ドウェイリバの各アメリカ軍基地の攻撃に化学兵器を使用した。 cイスラム抵抗勢力の報道官は,平成16年12月15日,ファルージャにおいて敗走するアメリカ兵を,軽火器とBKS,クラシニコフ銃,RBG携行型ロケットを遣って追撃した,本日少なくとも500- 11 -人のアメリカ兵を殺害し,100両以上の戦車と装甲車を破壊したと述べた。 (以上,甲B9の1・6・11)エ宗派対立による武力抗争(ア)平成18年2月,スンニ派のテロ組織がシーア派聖地サーマッラーのアスカリ廟を爆破し,シーア派・スンニ派の両派が抗議デモを起こしたが,聖廟破壊に怒ったシーア派武装勢力がスンニ派のモスクなどを襲撃して衝突し,200人以上が死亡する事件が起こった。 (イ)平成18年11月ころには,首都バグダッドでシーア派とスンニ派との対立が激化し,街を二分して双方から迫撃砲が飛び交う状況となり,マフディ軍がスンニ派 ,200人以上が死亡する事件が起こった。 (イ)平成18年11月ころには,首都バグダッドでシーア派とスンニ派との対立が激化し,街を二分して双方から迫撃砲が飛び交う状況となり,マフディ軍がスンニ派地区へ迫撃砲を同月初旬の1週間に47発撃ち込み,スンニ派武装勢力のイラク・イスラム軍が,シーア派地区に迫撃砲44発,ロシア製ミサイル4発を打ち込んだ。 また,同月から12月にかけて,バグダッドのシーア派地区で連続爆弾テロが発生し,マフディ軍が治安維持に乗り出してテロは収まったものの,アメリカ軍がマフディ軍をアルカイダ以上の脅威とみなして,本格的に掃討を進め,民兵600人と幹部16人を拘束した。そこで,平成19年1月になってマフディ軍が一時活動を停止したところ,その隙を狙ってスンニ派の武装勢力がシーア派地区で爆弾テロを繰り返し,同年2月3日,バグダッドの市場でテロが発生し,135人の死者が出た。 (ウ)フセイン政権下では,暴力的な宗派対立は殆どなかったが,フセイン政権の崩壊により重しが取れ,占領政策の稚拙さとも相俟って,上記のような武力抗争を伴う激しい宗派対立が生じるようになったものといわれており,多国籍軍はこれらに対応せざるを得ず,前記のとおり,特に平成19年になってから,バグダッド等の都市への掃討作戦が一層激しくなったものと理解される。 - 12 -(以上,甲B104,111,123,156の1)オ多数の被害者(ア)イラク人世界保健機関(WHO)は,平成18年11月9日,イラク戦争開始以来,イラク国内において戦闘等によって死亡したイラク人の数が15万1000人に上ること,最大では22万3000人に及ぶ可能性もあることを発表し,イラク保健省も,このころ,アメリカ軍侵攻後のイラクの死者数が10万人から15万人に及ぶと発表した。なお, の数が15万1000人に上ること,最大では22万3000人に及ぶ可能性もあることを発表し,イラク保健省も,このころ,アメリカ軍侵攻後のイラクの死者数が10万人から15万人に及ぶと発表した。なお,平成18年10月12日発行の英国の臨床医学誌ランセットは,横断的集落抽出調査の結果を基にして,イラク戦争開始後から平成18年6月までの間のイラクにおける死者が65万人を超える旨の考察を発表している。 平成19年の死亡者については,NGO「イラク・ボディ・カウント」が同年中の民間人犠牲者数は約2万4000人に上っていると発表した。イラク政府発表の死亡者数も,同年6月1241人,同年7月1652人,同年8月1771人であることからして,上記約2万4000人という死亡者数は信憑性が高いといわれている。 また,イラクの人口の約7分の1にあたる約400万人が家を追われ,シリアには150万人ないし200万人,ヨルダンには50万人ないし75万人が難民として流れ,イラク国内の避難民は200万人以上になるといわれている。 (甲B99の1・2,140の2・3,154の3,156の3)(イ)アメリカ軍の兵員等平成19年8月の時点で多国籍軍の兵士の死者数が4000人を超えたと報道され,アメリカ国防総省の発表によれば,イラク戦争開始以来現在までのアメリカ軍の死亡者は,約4000人であり,重傷者は1万3000人を超えている。特に,平成19年に死亡した米軍兵士は,同- 13 -年11月の時点で852人に上り,それまで最も多かった平成16年の849人を超えて,過去最高となっている。 (甲B140の2,141の8,154の1の2)カ戦費・兵員数イラク攻撃開始後,イラク駐留アメリカ軍の兵員数は概ね13万人から16万人の間で推移しており,アメリカのイラクにおける戦費は4 いる。 (甲B140の2,141の8,154の1の2)カ戦費・兵員数イラク攻撃開始後,イラク駐留アメリカ軍の兵員数は概ね13万人から16万人の間で推移しており,アメリカのイラクにおける戦費は4400億ドルに達する見込みであり,イラク関連の歳出としてはベトナム戦争の戦費(貨幣価値換算で約5700億ドル)を上回ったともいわれている。 キ航空自衛隊の空輸活動(ア)輸送機について航空自衛隊は,イラクにおける輸送活動にC-130H輸送機3機を用いているが,これはアメリカ軍が開発したパラシュート部隊のための輸送機であり,その輸送能力については,完全武装の空挺隊員(パラシュート隊員)64人を輸送することが可能であり,物資については最大積載量が約20トンである。 (甲B10(平成17年3月14日参議院予算委員会におけるA政府参考人の答弁,同大野防衛庁長官の答弁),47)(イ)フレアの装備と事前訓練後記のとおり,現在,航空自衛隊のC-130H輸送機は,バグダッド空港への輸送活動を行っているが,飛行の際に地対空ミサイルを回避するための兵器であるフレア(火炎弾)を臨時装備しており(フレアは制式兵器ではない。),イラクへの出発前,硫黄島においてフレア訓練を実施しており,実際にバグダッド空港での離着陸時にフレアが自動発射されている。(甲B47,103,139の2,145,159)(ウ)空輸活動についての多国籍軍との連携航空自衛隊は,C-130H輸送機3機の空輸活動にあたり,中東一- 14 -帯の空輸調整を行うカタール国(以下「カタール」という。)のアメリカ中央軍司令部に空輸計画部を設置し,アメリカ軍や英国軍と機体のやりくりを調整して飛行計画を立て,クウェートのアリ・アルサレム空港(アメリカ空軍基地)を拠点とする上記3機に任務を指示している アメリカ中央軍司令部に空輸計画部を設置し,アメリカ軍や英国軍と機体のやりくりを調整して飛行計画を立て,クウェートのアリ・アルサレム空港(アメリカ空軍基地)を拠点とする上記3機に任務を指示している。 (甲B143)(エ)平成18年7月ころ(陸上自衛隊のサマワ撤退時)までの空輸状況航空自衛隊のC-130H輸送機は,平成16年3月2日から物資人員の輸送を行っているところ,クウェートのアリ・アルサレム空港からイラク南部のタリルまで,週に4回前後,物資のほかアメリカ軍を中心とする多国籍軍の兵員を輸送した。その数量は,平成17年3月14日までに,輸送回数129回,輸送物資の総量230トン,平成18年5月末までに,輸送回数322回で,輸送物資の総量449.2トン,同年8月4日までに,輸送回数352回,輸送物資の総量479.4トンとなる。したがって,輸送の対象のほとんどは,人道復興支援のための物資ではなく,多国籍軍の兵員であった。 (甲B10(平成17年3月14日参議院予算委員会における大野防衛庁長官の答弁),52の9,68(平成18年8月11日衆議院特別委員会におけるB政府参考人の答弁),100,115)(オ)平成18年7月から現在までの空輸状況航空自衛隊のイラク派遣当初は,首都バグダッドは安全が確保されないとの理由で,バグダッドへは物資人員の輸送は行われなかったが,陸上自衛隊のサマワ撤退を機に,アメリカからの強い要請により,航空自衛隊がバグダッドへの空輸活動を行うことになり,平成18年7月31日,航空自衛隊のC-130H輸送機が,クウェートのアリ・アルサレム空港からバグダッド空港への輸送を開始した。以後,バグダッドへ2回,うち1回は更に北部のアルビルまで,タリルへは2回,それぞれ往- 15 -復して輸送活動をするようになり,その後, リ・アルサレム空港からバグダッド空港への輸送を開始した。以後,バグダッドへ2回,うち1回は更に北部のアルビルまで,タリルへは2回,それぞれ往- 15 -復して輸送活動をするようになり,その後,週4回から5回,定期的にアリ・アルサレム空港からバグダッド空港への輸送を行っている。 平成18年7月から平成19年3月末までの輸送回数は150回,輸送物資の総量は46.5トンであり,そのうち国連関連の輸送支援として行ったのは,輸送回数が25回で,延べ706人の人員及び2.3トンの事務所維持関連用品等の物資を輸送しており(平成19年4月24日衆議院本会議における安倍首相の答弁),それ以外の大多数は,武装した多国籍軍(主にアメリカ軍)の兵員であると認められる。 (甲B37,52の9,68,100,121,132,139の1・5)(カ)政府の情報不開示と政府答弁a政府は,国会において,航空自衛隊の輸送内容について,多国籍軍や国連からの要請により,これを明らかにすることができないとしており(平成19年5月11日,同月14の衆議院イラク特別委員会における久間防衛大臣の答弁),行政機関の保有する情報の公開に関する法律により国民からなされた行政文書開示請求に対しても,顕微鏡・心電図・保育器などの医療機器を空輸した1件(甲B18の2,1枚目)以外は,全て黒塗りの文書を開示するのみで,航空自衛隊の輸送内容を明らかにしない。(甲B18の2,34,101,113)b他方で,久間防衛大臣は,国会において,「実は結構危険で工夫して飛んでいる」(平成19年5月14日衆議院イラク特別委員会),「刃の上で仕事しているようなもの」(同年6月5日参議院外交防衛委員会),「バグダッド空港の中であっても,外からロケット砲等が撃たれる,迫撃砲等に狙われるということもあり, 議院イラク特別委員会),「刃の上で仕事しているようなもの」(同年6月5日参議院外交防衛委員会),「バグダッド空港の中であっても,外からロケット砲等が撃たれる,迫撃砲等に狙われるということもあり,そういう緊張の中で仕事をしている」,「クウェートから飛び立ってバグダッド空港で降りる,バグダッド空港から飛び立つときにも,ロケット砲が来る危- 16 -険性と裏腹にある」(同月7日参議院外交防衛委員会),「飛行ルートの下で戦闘が行われているときは上空を含め戦闘地域の場合もあると思う」(同月19日参議院外交防衛委員会),などと答弁している。 (2)憲法9条についての政府解釈とイラク特措法ア自衛隊の海外活動に関する憲法9条の政府解釈は,自衛のための必要最小限の武力の行使は許されること(昭和55年12月5日政府答弁書),武力の行使とは,我が国の物的・人的組織体による国際的な武力紛争の一環としての戦闘行為をいうこと(平成3年9月27日衆議院PKO特別理事会提出の政府答弁)を前提とした上で,自衛隊の海外における活動については,①武力行使目的による「海外派兵」は許されないが,武力行使目的でない「海外派遣」は許されること(昭和55年10月28日政府答弁書),②他国による武力の行使への参加に至らない協力(輸送,補給,医療等)については,当該他国による武力の行使と一体となるようなものは自らも武力の行使を行ったとの評価を受けるもので憲法上許されないが,一体とならないものは許されること(平成9年2月13日衆議院予算委員会における大森内閣法制局長官の答弁),③他国による武力行使との一体化の有無は,<ア>戦闘活動が行われているか又は行われようとしている地点と当該行動がなされる場所との地理的関係,<イ>当該行動の具体的内容,<ウ>他国の武力行使の任に当 ③他国による武力行使との一体化の有無は,<ア>戦闘活動が行われているか又は行われようとしている地点と当該行動がなされる場所との地理的関係,<イ>当該行動の具体的内容,<ウ>他国の武力行使の任に当たる者との関係の密接性,<エ>協力しようとする相手の活動の現況,等の諸般の事情を総合的に勘案して,個々的に判断されること(上記大森内閣法制局長官の答弁),を内容とするものである。 イそして,イラク特措法は,このような政府解釈の下,我が国がイラクにおける人道復興支援活動又は安全確保支援活動(以下「対応措置」とい- 17 -う。)を行うこと(1条),対応措置の実施は,武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならないこと(2条2項),対応措置については,我が国領域及び現に戦闘行為(国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為)が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる一定の地域(非戦闘地域)において実施すること(2条3項)を規定するものと理解される。 ウ政府においては,ここにいう「国際的な武力紛争」とは,国又は国に準ずる組織の間において生ずる一国の国内問題にとどまらない武力を用いた争いをいうものであり(平成15年6月26日衆議院特別委員会における石破防衛庁長官の答弁),戦闘行為の有無は,当該行為の実態に応じ,国際性,計画性,組織性,継続性などの観点から個別具体的に判断すべきものであること(平成15年7月2日衆議院特別委員会における石破防衛庁長官の答弁),全くの犯罪集団に対する米英軍等による実力の行使は国際法的な武力紛争における武力の行使ではないが(平成15年6月13日衆議院外務委員会におけるC内閣法制局第二部長の答弁,同年7月2日衆議院イラク特別委員 犯罪集団に対する米英軍等による実力の行使は国際法的な武力紛争における武力の行使ではないが(平成15年6月13日衆議院外務委員会におけるC内閣法制局第二部長の答弁,同年7月2日衆議院イラク特別委員会,同月10日参議院外交防衛委員会における秋山内閣法制局長官の答弁),個別具体的な事案に即して,当該行為の主体が一定の政治的な主張を有し,国際的な紛争の当事者たり得る実力を有する相応の組織や軍事的実力を有する組織体であって,その主体の意思に基づいて破壊活動が行われていると判断されるような場合には,その行為が国に準ずる組織によるものに当たり得ること(上記秋山内閣法制局長官の答弁),国内治安問題にとどまるテロ行為,散発的な発砲や小規模な襲撃などのような,組織性,計画性,継続性が明らかでない偶発的なものは,全体として国又は国に準ずる組織の意思に基づいて遂行されているとは認められず,戦闘行為には当たらないこと,国又は国に準ずる組織についての具体例と- 18 -して,フセイン政権の再興を目指し米英軍に抵抗活動を続けるフセイン政権の残党というものがあれば,これに該当することがあるが,フセイン政権の残党であったとしても,日々の生活の糧を得るために略奪行為を行っているようなものはこれに該当しないこと(平成15年7月2日衆議院特別委員会における石破防衛庁長官の答弁),非戦闘地域イコール安全な地域を意味するわけではなく,米軍が指定するコンバットゾーンが戦闘地域と同義でもないこと(平成15年6月25日衆議院特別委員会における石破防衛庁長官の答弁,平成18年8月11日衆議院特別委員会における麻生外務大臣の答弁・甲B67の2),等の見解が示されている。 (3)以上を前提として検討するに,前記認定事実によれば,平成15年5月になされたブッシュ大統領による主要な戦闘 議院特別委員会における麻生外務大臣の答弁・甲B67の2),等の見解が示されている。 (3)以上を前提として検討するに,前記認定事実によれば,平成15年5月になされたブッシュ大統領による主要な戦闘終結宣言の後にも,アメリカ軍を中心とする多国籍軍は,ファルージャ,バグダッド,ラマディ等の各都市において,多数の兵員を動員して,時に強力な爆弾,化学兵器,残虐兵器等を用い,あるいは戦闘機で激しい空爆を繰り返すなどして,武装勢力の掃討作戦を繰り返し行い,武装勢力の側も,時としてこれに匹敵する強力な兵器を用い,あるいは相応の武器を用いて応戦し,その結果,双方に多数の死者が出るなどしてきているのみならず,子どもたちを含む民間人を多数死傷させ,民家を破壊し,都市機能を失わせ,多数の者が難民となって近隣諸国へ流出することを余儀なくさせるなどの重大かつ深刻な被害を生じさせているものである。そして,これら掃討作戦の標的となったと認められるフセイン政権の残党,シーア派のマフディ軍,スンニ派の過激派等の各武装勢力は,いずれも,単に,散発的な発砲や小規模な襲撃を行うにすぎない集団ではなく,日々の生活の糧を得るために略奪行為を行うような盗賊等の犯罪者集団であるともいえず,その全ての実体は明らかでないものの,海外の諸勢力からもそれぞれ援助を受け,その後ろ盾を得ながら,アメリカ軍の駐留に反対する等の一定の政治的な目的を有していることが認められ,千人,万人単位- 19 -の人員を擁し,しかもその数は年々増えており,相応の兵力を保持して,組織的かつ計画的に多国籍軍に抗戦し,イラク攻撃開始後5年を経た現在まで,継続してこのような抗戦を続けていると認められる。したがって,これらを抑圧しようとする多国籍軍の活動は,単なる治安活動の域を超えたものであって,少なくとも現在,イ ラク攻撃開始後5年を経た現在まで,継続してこのような抗戦を続けていると認められる。したがって,これらを抑圧しようとする多国籍軍の活動は,単なる治安活動の域を超えたものであって,少なくとも現在,イラク国内は,イラク攻撃後に生じた宗派対立に根ざす武装勢力間の抗争がある上に,各武装勢力と多国籍軍との抗争があり,これらが複雑に絡み合って泥沼化した戦争の状態になっているものということができる。このことは,アメリカ軍がこの5年間に13万人から16万人もの多数の兵員を常時イラクに駐留させ,ベトナム戦争を上回る戦費を負担し,単発で非組織的な自爆テロ等による被害も含むとはいえ,双方に多数の死傷者を続出させながら,なお未だ十分に治安の回復がなされていないことに徴しても明らかである。 以上のとおりであるから,現在のイラクにおいては,多国籍軍と,その実質に即して国に準ずる組織と認められる武装勢力との間で一国国内の治安問題にとどまらない武力を用いた争いが行われており,国際的な武力紛争が行われているものということができる。とりわけ,首都バグダッドは,平成19年に入ってからも,アメリカ軍がシーア派及びスンニ派の両武装勢力を標的に多数回の掃討作戦を展開し,これに武装勢力が相応の兵力をもって対抗し,双方及び一般市民に多数の犠牲者を続出させている地域であるから,まさに国際的な武力紛争の一環として行われる人を殺傷し又は物を破壊する行為が現に行われている地域というべきであって,イラク特措法にいう「戦闘地域」に該当するものと認められる。 なお,現在にまで及ぶ多国籍軍によるイラク駐留及び武装勢力との戦闘は,それがイラク政府の要請に基づくものであり,国連の理解ないし支持を得たものであるとしても(前記安保理決議1483号,1546号等),平成15年3月に開始されたイラク攻撃及び 及び武装勢力との戦闘は,それがイラク政府の要請に基づくものであり,国連の理解ないし支持を得たものであるとしても(前記安保理決議1483号,1546号等),平成15年3月に開始されたイラク攻撃及びこれによってもたらされた宗派対立に- 20 -よる混乱が未だ実質的には収束していないことの表れであるといえることや,現在のイラク政府が単独でこれら武装勢力と対抗することができないため,現在も敢えて外国の兵力である多国籍軍の助力を得ているものと理解できることに鑑みれば,多国籍軍と武装勢力との間のイラク国内における戦闘は,実質的には当初のイラク攻撃の延長であって,外国勢力である多国籍軍対イラク国内の武装勢力の国際的な戦闘であるということができ,この点から見ても,現在の戦闘状況は,国際的な紛争であると認められる。 しかるところ,その詳細は政府が国会に対しても国民に対しても開示しないので不明であるが,航空自衛隊は,前記認定のとおり,平成18年7月ころ以降バグダッド空港への空輸活動を行い,現在に至るまで,アメリカが空挺隊員輸送用に開発したC-130H輸送機3機により,週4回から5回,定期的にアリ・アルサレム空港からバグダッド空港へ武装した多国籍軍の兵員を輸送していること,これは陸上自衛隊のサマワ撤退を機にアメリカからの要請でなされているものであり,アメリカ軍はこの輸送時期と重なる平成18年8月ころバグダッドにアメリカ兵を増派し,同年末ころから,バグダッドにおける掃討作戦を一層強化していること,それ以前の空輸活動がカタールのアメリカ中央軍司令部において,アメリカ軍や英国軍と機体のやりくりを調整し飛行計画を立ててなされているものであり,平成18年7月以後も同様にアメリカ軍等との調整の上で空輸活動がなされているものと推認されること,C-130H輸送機には カ軍や英国軍と機体のやりくりを調整し飛行計画を立ててなされているものであり,平成18年7月以後も同様にアメリカ軍等との調整の上で空輸活動がなされているものと推認されること,C-130H輸送機には,地対空ミサイルによる攻撃を防ぐためのフレアが装備され,これが事前訓練を経た上で,実際にバグダッド空港での離着陸時に使用されていること,バグダッド空港はアメリカ軍が固く守備をしているとはいえ,その中にあっても,あるいは離着陸時においても,現実的な攻撃の危険性がある旨防衛大臣が答弁していること,航空自衛隊が多国籍軍の武装兵員を輸送するに際し,バグダッドでの掃討作戦等の武力行使に関与しない者に限定して輸送している形跡はないことが認められる。これ- 21 -らを総合すれば,航空自衛隊の空輸活動は,それが主としてイラク特措法上の安全確保支援活動の名目で行われているものであり,それ自体は武力の行使に該当しないものであるとしても,多国籍軍との密接な連携の下で,多国籍軍と武装勢力との間で戦闘行為がなされている地域と地理的に近接した場所において,対武装勢力の戦闘要員を含むと推認される多国籍軍の武装兵員を定期的かつ確実に輸送しているものであるということができ,現代戦において輸送等の補給活動もまた戦闘行為の重要な要素であるといえることを考慮すれば(甲B159,弁論の全趣旨),多国籍軍の戦闘行為にとって必要不可欠な軍事上の後方支援を行っているものということができる。したがって,このような航空自衛隊の空輸活動のうち,少なくとも多国籍軍の武装兵員をバグダッドへ空輸するものについては,前記平成9年2月13日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる。 については,前記平成9年2月13日の大森内閣法制局長官の答弁に照らし,他国による武力行使と一体化した行動であって,自らも武力の行使を行ったと評価を受けざるを得ない行動であるということができる。 (4)よって,現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法9条1項に違反する活動を含んでいることが認められる。 本件差止請求等の根拠とされる平和的生存権について憲法前文に「平和のうちに生存する権利」と表現される平和的生存権は,例えば,「戦争と軍備及び戦争準備によって破壊されたり侵害ないし抑制されることなく,恐怖と欠乏を免れて平和のうちに生存し,また,そのように平和な国と世界をつくり出していくことのできる核時代の自然権的本質をもつ基本的人権である。」などと定義され,控訴人も「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」,「戦争や軍隊によって他者の生命を奪うことに加担させられな- 22 -い権利」,「他国の民衆への軍事的手段による加害行為と関わることなく,自らの平和的確信に基づいて平和のうちに生きる権利」,「信仰に基づいて平和を希求し,すべての人の幸福を追求し,そのために非戦・非暴力・平和主義に立って生きる権利」などと表現を異にして主張するように,極めて多様で幅の広い権利であるということができる。 このような平和的生存権は,現代において憲法の保障する基本的人権が平和の基盤なしには存立し得ないことからして,全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ,単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない。法規範性を有するという は存立し得ないことからして,全ての基本的人権の基礎にあってその享有を可能ならしめる基底的権利であるということができ,単に憲法の基本的精神や理念を表明したに留まるものではない。法規範性を有するというべき憲法前文が上記のとおり「平和のうちに生存する権利」を明言している上に,憲法9条が国の行為の側から客観的制度として戦争放棄や戦力不保持を規定し,さらに,人格権を規定する憲法13条をはじめ,憲法第3章が個別的な基本的人権を規定していることからすれば,平和的生存権は,憲法上の法的な権利として認められるべきである。そして,この平和的生存権は,局面に応じて自由権的,社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ,裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合があるということができる。 例えば,憲法9条に違反する国の行為,すなわち戦争の遂行,武力の行使等や,戦争の準備行為等によって,個人の生命,自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ,あるいは,現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされるような場合,また,憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるような場合には,平和的生存権の主として自由権的な態様の表れとして,裁判所に対し当該違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法により救済を求めることができる場合があると解することができ,その限りでは平和的生存権に具体的権利性がある。 なお,「平和」が抽象的概念であることや,平和の到達点及び達成する手段- 23 -・方法も多岐多様であること等を根拠に,平和的生存権の権利性や,具体的権利性の可能性を否定する見解があるが,憲法上の概念はおよそ抽象的なものであって,解釈によってそれが充填されていくものであること,例えば「自 岐多様であること等を根拠に,平和的生存権の権利性や,具体的権利性の可能性を否定する見解があるが,憲法上の概念はおよそ抽象的なものであって,解釈によってそれが充填されていくものであること,例えば「自由」や「平等」ですら,その達成手段や方法は多岐多様というべきであることからすれば,ひとり平和的生存権のみ,平和概念の抽象性等のためにその法的権利性や具体的権利性の可能性が否定されなければならない理由はないというべきである。 控訴人の請求について(1)本件違憲確認請求について民事訴訟制度は,当事者間の現在の権利又は法律関係をめぐる紛争を解決することを目的とするものであるから,確認の対象は,現在の権利又は法律関係でなければならない。しかし,本件違憲確認請求は,ある事実行為が抽象的に違法であることの確認を求めるものであって,およそ現在の権利又は法律関係に関するものということはできないから,同請求は,確認の利益を欠き,不適法というべきである。 (2)本件差止請求についてア民事訴訟としての適法性イラク特措法は,対応措置を実施するための具体的手続として,①内閣総理大臣が対応措置の実施及び基本計画案につき閣議の決定を求めること(4条1項,基本計画の変更の場合も同様。同条3項),②当該対応措置について国会の承認を求めなければならないこと(6条1項),③防衛大臣は対応措置についての実施要項を定め,内閣総理大臣の承認を得た上で,自衛隊の部隊等にその実施を命ずること(8条2項。実施要項の変更の場合も同様。同条9項)を規定しているところ,これら規定からすれば,イラク特措法による自衛隊のイラク派遣は,イラク特措法の規定に基づき防衛大臣に付与された行政上の権限による公権力の行使を本質的内容とする- 24 -ものと解されるから,本件派遣の禁止を求める本 ,イラク特措法による自衛隊のイラク派遣は,イラク特措法の規定に基づき防衛大臣に付与された行政上の権限による公権力の行使を本質的内容とする- 24 -ものと解されるから,本件派遣の禁止を求める本件差止請求は,必然的に,防衛大臣の上記行政権の行使の取消変更又はその発動を求める請求を包含するものである。そうすると,このような行政権の行使に対し,私人が民事上の給付請求権を有すると解することはできないことは確立された判例であるから(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁等参照),本件差止請求にかかる訴えは不適法である。 イ行政事件訴訟(抗告訴訟)としての適法性そこで,仮に,本件差止請求にかかる訴えが,行政事件訴訟(抗告訴訟)として提起されたものと理解した場合について検討する。 本件派遣は,前記のとおり違憲違法な活動を含むものであるが,本件派遣は控訴人に対して直接向けられたものではなく,本件派遣によっても,控訴人の生命,自由が侵害され又は侵害の危機にさらされ,あるいは,現実的な戦争等による被害や恐怖にさらされ,また,憲法9条に違反する戦争の遂行等への加担・協力を強制されるまでの事態が生じているとはいえないところであって,全証拠によっても,現時点において,控訴人の具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない。そうすると,控訴人は,本件派遣にかかる防衛大臣の処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず,行政事件訴訟(抗告訴訟)における原告適格性が認められない。したがって,仮に本件差止請求にかかる訴えが行政事件訴訟(抗告訴訟)であったとしても,不適法であることを免れない。 そして,この結論は,控訴人がイラク戦争開戦当時駐レバノン特命全権大使の職にあり,イラク攻撃及びこれに対する日本政府の 訴えが行政事件訴訟(抗告訴訟)であったとしても,不適法であることを免れない。 そして,この結論は,控訴人がイラク戦争開戦当時駐レバノン特命全権大使の職にあり,イラク攻撃及びこれに対する日本政府の支持に反対していたこと,それが故に被控訴人から退職勧奨を受けるなどし,少なくとも不本意にその職を辞したこと等の特殊な事情によっても左右されない。 (3)控訴人の損害賠償請求について- 25 -ア本件派遣による精神的苦痛上記のとおり,本件派遣によっても,控訴人の具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められないところであり,控訴人には,民事訴訟上の損害賠償請求において認められるに足りる程度の被侵害利益が未だ生じているということはできない。 イ被控訴人による違憲違法な退職強要行為について(ア)原判決を以下のとおり付加訂正するほか,原判決56頁22行目冒頭から63頁26行目末尾までのとおりであるから,これを引用する。 (イ)原判決の付加訂正a原判決56頁24行目から25行目にかけて「(甲A8の1・3~6,A8の4の1,乙8ないし11,13ないし15,16の1・2,17,18,19の1・2,原告本人)」とあるのを「(甲A8の1ないし3,甲A8の4(甲A8の4の1ないし3は抜粋),甲A8の5・6・12・13・16,乙8ないし11,13ないし15,16の1・2,17,18,19の1・2,22,原審における控訴人本人)」と改める。 b原判決62頁17行目冒頭から18行目末尾までを次のとおり改める。 「したがって,特命全権大使を免官することについては,内閣及び外務大臣の裁量権に著しい逸脱や濫用がない限り違法とされることはなく,控訴人がその意に反して特命全権大使の地位を失うのは懲戒事由が存する場合に限られるものではない。」c ることについては,内閣及び外務大臣の裁量権に著しい逸脱や濫用がない限り違法とされることはなく,控訴人がその意に反して特命全権大使の地位を失うのは懲戒事由が存する場合に限られるものではない。」c原判決63頁12行目末尾を改行して,次のとおり付加する。 「なお,控訴人に対する退職勧奨が若返り人事の一環であるなどと,E官房長から控訴人に伝えられたことは,控訴人が同期の中で年齢的に最も若く,控訴人よりも年長の者らが多数外務公務員の職に就- 26 -いていたと認められることに照らし,明らかに虚偽の説明であるということができる。しかし,控訴人においても,このような虚偽の説明を真に受けていたわけではなく,上記のような虚偽の説明が控訴人に対する勧奨退職を直ちに違法ならしめるものではない。」d原判決63頁23行目末尾を改行して,次のとおり付加する。 「そして,かかる勧奨行為を受けて,控訴人は,無念と怒りを込めてとはいえ,自ら退官願に署名押捺したものであり,それまでに至る経緯からして控訴人の悔しい思いは十分理解できるところではあるものの,最終的には自らの意思と責任により退職を決断したものと認められる。控訴人は,退官願(乙10)の日付が空欄であるとしてその形式上の不備を主張するが,そうであっても,同書面が控訴人の意思に基づいて作成されたものであることを否定することはできない。」e原判決63頁26行目末尾を改行して,次のとおり付加する。 「なお,控訴人は,控訴人の免官辞令(乙11)に天皇の御名と内閣の印がないことから,控訴人に対する免官の形式的・手続的な瑕疵を主張する。しかし,同書面には「天皇御璽」と刻された天皇の御印が押印されており,同書面に天皇の御名と内閣の印がないことは単に慣例にすぎないものと認められるから,形式的・手続的な瑕疵が 続的な瑕疵を主張する。しかし,同書面には「天皇御璽」と刻された天皇の御印が押印されており,同書面に天皇の御名と内閣の印がないことは単に慣例にすぎないものと認められるから,形式的・手続的な瑕疵があるとはいえず,控訴人の主張は認められない。」ウよって,控訴人の本件損害賠償請求は認められない。 第4 結論 以上のとおりであって,原判決は結論において正当であるから,控訴人の本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 - 27 -名古屋高等裁判所民事第3部裁判長裁判官青山邦夫裁判官坪井宣幸裁判官上杉英司- 28 -(別紙)当事者の主張 控訴人の主張(1)イラク戦争についてア開戦前のイラク(ア)イラクは,その全人口の半数を15歳以下の子どもたちが占めており,子どもがとてもたくさんいる国という側面を有するが,湾岸戦争後の経済制裁により,10年余りの間に多くの子どもたちが命を落としてきた。 (イ)また,湾岸戦争の際,アメリカによってイラク全土に500トンから800トンもの劣化ウラン弾が投下され,その放射能汚染によって多くの市民が被曝し,数え切れない子どもたちが死んでいった。 劣化ウランとは,ウランの濃縮過程で生じる放射性廃棄物であるが,鉛や鉄と比較して比重が大きく貫通力や殺傷力が高い上,廃棄物という性質上極めて安価であることから軍事兵器として利用されている。劣化ウランの放射線量は天然ウラン60パーセントに相当し,小さな粒子として体内に入ると,癌,白血病,リンパ腫,先天性障害等様々な疾病,障害を伴う極めて深刻な体内被曝を引き起こす。そして,その半減期は約45億年といわれ,半永久的にイラクの土地及びイラクで暮らす人々に放射線をあびせ続ける。 イラクでは湾岸戦争から12年がたった時点において,先天 めて深刻な体内被曝を引き起こす。そして,その半減期は約45億年といわれ,半永久的にイラクの土地及びイラクで暮らす人々に放射線をあびせ続ける。 イラクでは湾岸戦争から12年がたった時点において,先天性障害を持って生まれる子どもの数は約7倍に増加し,南部バスラでは,癌発症数が約10倍,癌による死亡者数が約20倍,15歳以下の子どもの発癌率は約3倍強,白血病の発症数は約2倍に増加している。 イラク戦争では,10年以上にわたり経済制裁や劣化ウラン弾等の被害により苦しんできたイラクの国民の上に,再び大量の爆弾が投下され,- 29 -銃口が向けられたのである。 イイラク戦争の実態と占領下のイラク(ア)イラク戦争は,平成15年3月20日,イラクの首都バグダッドへの空爆によって始められた。イギリスの非政府組織(NGO。以下「NGO」という。)であるイラク・ボディ・カウントの発表によれば,イラク兵士の死傷者数は,戦闘終結後の段階で1万人以上,戦後2か月の段階ではイラク人民間人の被害が最低でも5000人と推計されている。 イラク戦争では,劣化ウラン弾をはじめ,クラスター爆弾,バンカーバスター,デージーカッター等,様々な大量破壊兵器が用いられ,多くのイラク市民が犠牲になった。特に,劣化ウラン弾については,アメリカが公式に認めているだけでも500トン,実際は1100トンから2200トンにまで及ぶともいわれており,湾岸戦争をはるかに上回る量が使用された。湾岸戦争後の放射能汚染だけでも既に甚大な被害をもたらしているのに,米英軍は,さらに大規模かつ半永久的な放射能汚染をイラクの地に生じさせたのである。 (イ)そもそも,米英がこのイラク戦争開戦に踏み切った理由は,イラクが大量破壊兵器を保有しているということにあった。 しかし,平成16年7月9日のアメリカ上院 染をイラクの地に生じさせたのである。 (イ)そもそも,米英がこのイラク戦争開戦に踏み切った理由は,イラクが大量破壊兵器を保有しているということにあった。 しかし,平成16年7月9日のアメリカ上院情報特別委員会報告書,同年7月14日のイギリス独立調査委員会報告書,同年10月6日のアメリカの「イラクの大量破壊兵器に関する調査団」最終報告,平成17年3月31日のアメリカ独立調査委員会最終報告書のいずれにおいても,開戦当時,イラクに大量破壊兵器はなかった,若しくは,あったとする米英情報機関の情報は極めて疑わしいとの調査結果が出されている。また,アメリカ国内でもイラク戦争に対する批判が高まり,平成17年12月14日,ブッシュ大統領はついに「イラク開戦に当たってのイラクの大量破壊兵器に関する機密情報が誤っていた。」ことを認めた。 - 30 -今や,イラクが平成15年3月時点で大量破壊兵器を保有していた可能性は全くない。米英によるイラク攻撃が,大義無き侵略戦争そのものであったことは明白な事実である。 (ウ)平成15年5月1日,アメリカのブッシュ大統領は,主要な戦闘の終結を宣言したが,米英軍は,その後もイラクを占領し続けている。 戦闘終結宣言後,復興人道支援局(ORHA。以下「ORHA」という。)がイラクを統治した後,連合国暫定施政当局(CPA。以下「CPA」という。)がこれを引き継ぐとともに,米英軍を中心とする第7連合統合任務軍(CJTF7。以下「占領軍」という。)がイラク全土で活動を続けた。CPAの主導権は米英が握っており,イラク人の自治はもちろん,国連の関与も及んでいない。 また,イラク復興事業は,米国際開発局(USAID)が取り仕切り,米国政権と極めてつながりの強い米企業等に復興事業を独占させるとともに,米軍はイラク占領を開始した当初か ,国連の関与も及んでいない。 また,イラク復興事業は,米国際開発局(USAID)が取り仕切り,米国政権と極めてつながりの強い米企業等に復興事業を独占させるとともに,米軍はイラク占領を開始した当初から,イラクの石油省を警備し,石油利権を独占した。このCPAの占領政策は,イラク市民のために行われたものではなく,アメリカによるイラクの植民地化の過程であった。 (エ)平成16年6月1日,イラク暫定政府が正式に発足した。そして,同月28日,CPAから暫定政府に対して主権移譲が行われた。 暫定政府に対しては,これまでの米英の直接統治ではなく,イラク人による統治となったことから,これを支持する声もあった。しかし,暫定政府閣僚は大統領,首相でさえも,イラク人が自ら選挙によって選んだ人物ではなく,CPA下に設置されたイラクの政治統治機関である統治評議会が選んだ人物であった。そのため,暫定政府の官僚には,首相となったアラウィをはじめ,イラク戦争以前にアメリカに協力して亡命したイラク人が多く起用されていた。 そして,イラクの主権がCPAからイラク暫定政府へ移譲された後も,- 31 -米英は,国連安全保障理事会決議1546号により多国籍軍を発足させ,米英軍をはじめとする占領軍はイラクへの駐留を続けた。 (オ)イラクでは,占領が長期化するにつれ,占領軍・多国籍軍等と武装グループ等との衝突が増え,民間人及び占領軍・多国籍軍などが大勢死亡している。イラク全土は,今なお戦闘状態にあるのである。 占領軍・多国籍軍,特に米軍は,イラクの都市に対する武力勢力掃討作戦,理由のない身柄拘束や家宅捜索を行っている。武装勢力掃討作戦は,ファルージャ市,マハムディヤ地域,サーマッラ,中部ラマディ,モスル,バグダッド等において度々行われており,武装勢力とは全く無縁の市民が生活の本 身柄拘束や家宅捜索を行っている。武装勢力掃討作戦は,ファルージャ市,マハムディヤ地域,サーマッラ,中部ラマディ,モスル,バグダッド等において度々行われており,武装勢力とは全く無縁の市民が生活の本拠としている都市を包囲し,空爆を行い,ライフライン,医療支援を遮断し,多数のイラク人の命を奪っている。 特に,バグダッドの西方約60キロメートルに位置する人口約30万人の都市であるファルージャ市においては,平成16年4月及び11月の2度にわたり掃討作戦が実施された。11月の掃討作戦では,市全体が徹底的に包囲され,多くの住民が殺害され,あるいは傷の手当てを受けることができないまま死亡し,市街地も破壊され,両作戦においては,明らかになっているだけでも,6000人以上の市民が米軍に虐殺された。 また,バグダッドでも,特に航空自衛隊がバグダッドへの空輸を始めた直後の平成18年8月ころから,多数の駐留米兵をバグダッドに集中させて掃討作戦を強化し,平成19年に入っても,バグダッド及びその周辺で激しい空爆を行っており,現在に至るまで戦闘が行われている。 他方,武装グループも,占領軍,多国籍軍に対してだけでなく,イラク警察・イラク治安部隊,イラク暫定政府,多国籍軍の駐留に協力する民間業者,ジャーナリスト,モスクなどにその襲撃対象を広げている。 (カ)報道等によれば,開戦後の米軍死者数は,平成18年12月31日- 32 -の段階で3000人に及び,負傷者数は2万2000人以上となっている。多国籍軍についても多数の死傷者が確認されている。警備会社従業員などの非軍人も多数犠牲になっているが,これをも含めた死傷者数は正確に把握されておらず,現在のイラクがどれだけ危険な状態なのか誰も把握することはできない。その後も,アメリカ兵の死者数は増えており,平成19年には8 数犠牲になっているが,これをも含めた死傷者数は正確に把握されておらず,現在のイラクがどれだけ危険な状態なのか誰も把握することはできない。その後も,アメリカ兵の死者数は増えており,平成19年には852人に上り,これまで最も多かった平成18年の849人を超えて過去最高となった。 また,開戦後,多数の民間人が犠牲となっており,世界保健機関(WHO)は,平成18年11月9日,イラク戦争開始後,イラク国内の戦闘等による死亡者が15万1000人に上り,最大で22万3000人に及ぶ可能性があることを発表しており,イラク保健省も同月,アメリカ軍の侵攻後の死者数が15万人に及ぶと発表した。同年10月12日発行の医学誌「ランセット」では,イラク戦争開始から平成18年6月までの間に約65万5000人のイラク人が死亡したと考察されている。 さらに,NGO「イラク・ボディ・カウント」は,平成19年の民間人犠牲者が約2万4000人に上っていると発表している。戦闘に巻き込まれた市民の被害は甚大である。 (キ)以上のように,今なお,イラク全土が戦闘状態にあることは明らかである。そして,陸上自衛隊が駐屯していたサマワだけがイラク全土の中で例外的に「非戦闘地域」であったといえる根拠はどこにもなく,航空自衛隊が今も空輸を続けるバグダッド周辺も「非戦闘地域」とはいえない。 (2)本件派遣についてア自衛隊の派遣日本政府は,平成15年12月26日,航空自衛隊から約50人の先遣隊をクウェート及びカタールへ派遣し,その後を追うように平成16年1- 33 -月9日,陸上自衛隊から約30人の先遣隊をイラク南部サマワへ派遣した。 また,同年2月20日には海上自衛隊からも輸送艦1隻と護送艦1隻をクウェートへ派遣した。 本件派遣は,まさに,CPAと占領軍の占領下にあるイラク,そして 約30人の先遣隊をイラク南部サマワへ派遣した。 また,同年2月20日には海上自衛隊からも輸送艦1隻と護送艦1隻をクウェートへ派遣した。 本件派遣は,まさに,CPAと占領軍の占領下にあるイラク,そしてそのイラクで占領軍が行動するために必要不可欠な近隣諸国(クウェート・カタール)に対して行われたのであり,その後,自衛隊は,国連安全保障理事会決議1546号によって発足した多国籍軍にも参加した。 イ占領軍・多国籍軍における自衛隊の位置付け(ア)自衛隊は,占領軍の一員であったし,国運安全保障理事会決議1546号に基づく多国籍軍の一員である。 占領軍においては,平成16年2月20日発行の占領軍機関誌「シミタール」に,日本人が初めて連合軍に参加することが一面トップに記載されたほか,現在もイラクで活動を続けている多国籍軍は,そのホームページにおいて「27か国が,イラクにおいて進行中の治安維持活動に貢献している」として,日本の名前と国旗を紹介している。 (イ)自衛隊は,多国籍軍,占領軍の一員としてその指揮下にある。 日本政府は,国会答弁において,多国籍軍の自衛隊に対する指揮権について,イラクに派遣された自衛隊の部隊は,イラク多国籍軍の中で,統合された司令部の下にあって,統合された司令部との間で連絡・調整を行うものの,その指揮下に入るわけではなく,我が国の主体的な判断の下に,我が国の指揮に従い,イラク特措法に規定する基本計画に基づき活動を実施するとして,自衛隊は多国籍軍の支配下にはないかのような答弁をしている。 しかし,軍隊における指揮とは,指揮下にある部隊の人事,管理,後方支援等を含めたすべてについての権限と責任を有するものとされているところ,多国籍軍の指揮権は,多国籍軍の作戦全体に及び,そこには- 34 -物資輸送も含まれている。日本政府が自ら 人事,管理,後方支援等を含めたすべてについての権限と責任を有するものとされているところ,多国籍軍の指揮権は,多国籍軍の作戦全体に及び,そこには- 34 -物資輸送も含まれている。日本政府が自ら認めているように多国籍軍司令部と「連絡・調整を行う」ということは,とりもなおさずその指揮下に入ることにほかならないのである。 ウ自衛隊の活動実態とその意味(ア)航空自衛隊の兵員・物資輸送航空自衛隊は,占領軍・多国籍軍の武装兵士及び物資を輸送する役割を担っている。 航空自衛隊は,平成16年3月,クウェートからイラク南部のタリル空港及びバスラ空港へ多国籍軍の武装兵士及び物資等の空輸を開始し,その後,陸上自衛隊がサマワを撤退した平成18年7月以降は,クウェートからバグダッド空港へ多国籍軍の武装兵士及び物資等の空輸を行っている。 日本政府は,航空自衛隊は武器・弾薬を輸送しないとの方針を示しているが,米軍から託される搭載品にはラッピングが施され,自衛隊員が内容物を確認することはできず,航空自衛隊が武器・弾薬を輸送している可能性も否定できない。 このような航空自衛隊の役割は,いわゆる後方支援に当たる。 後方支援は,作戦に対して,基盤と可能性を付与するものであり,とりわけ,補給及び輸送の所要が極めて膨大である現代戦にとって不可欠である。特に,輸送は,作戦上に必要な部隊及び補給品等を適時適所に移動させることで,作戦そのものを左右する。 航空自衛隊は,人道復興支援ではなく,主に安全確保支援を行ってきたというべきであり,航空自衛隊が果たしている役割は,まさに占領軍・多国籍軍がイラクの人々に対して「武力行使」をするに当たって欠くことのできないものであり,占領軍・多国籍軍の指揮下で共に行動していると評価すべきである。 - 35 -(イ)陸上自衛隊の駐留陸 ・多国籍軍がイラクの人々に対して「武力行使」をするに当たって欠くことのできないものであり,占領軍・多国籍軍の指揮下で共に行動していると評価すべきである。 - 35 -(イ)陸上自衛隊の駐留陸上自衛隊は,ムサンナ州の州都サマワに宿営地を設営し,平成16年2月27日,陸上自衛隊本体がサマワに入って以来,約550人の要員が順次交替しながら駐留を続けていた。陸上自衛隊の宿営地は,約800メートル四方の土地を鉄条網で二重に囲み,堀や壕を掘り,施設の内外に赤外線センサーや監視カメラを設置するなど,軍隊の駐屯地そのものであった。 日本政府は,本件派遣の目的を「人道復興支援活動」と主張しているが,そもそも自衛隊は,軍備を備えた自己完結的な組織であり,雇用をつくり出したり,医療支援を行うための組織ではなく,イラク市民のニーズである高い失業率の解消,医療体制の根本的復旧,劣化ウラン弾の除去と被爆治療などに応えることはできない。陸上自衛隊は,給水支援活動,道路の舗装,学校の補修を行ったとするが,例えば,陸上自衛隊が砂利舗装を行った道路をさらに外務省の資金援助により地元の業者がアスファルト舗装を行うなど,上記活動は,外務省からの資金援助でも十分に行うことができる。自衛隊が迷彩服を着て銃を片手に警戒しながら「復興支援」と称して活動していた中身は全く空虚である。 他方,イラクに派遣される自衛隊員は,銃の水平射撃訓練,無反動砲など大型装備を用いた訓練を受けているほか,その装備も,防弾処置が強化された軽装甲機動車が持ち込まれ,同車両に搭載する機関銃は低空飛行機に対する対空砲としての役割を果たすなど,戦闘があることを前提とした装備が配備されている。 そして,平成16年4月から平成17年3月までの1年間に,明らかに陸上自衛隊の宿営地を狙った攻撃で報道されたものは る対空砲としての役割を果たすなど,戦闘があることを前提とした装備が配備されている。 そして,平成16年4月から平成17年3月までの1年間に,明らかに陸上自衛隊の宿営地を狙った攻撃で報道されたものは10回に及ぶほか,日本において報道されていない攻撃,サマワ市内ないし近郊において多国籍軍を狙った攻撃も多数回に及んでいる。特に,平成17年1月- 36 -11日の攻撃では,2回の攻撃のうちの1回は宿営地内に信管付きのロケット弾が着弾したもので,自衛隊を占領軍と名指しするサマワのサドル師派支持者が自ら実行したと表明した。その後も,同年2月4日及び同月19日の両日,陸上自衛隊宿営地内にグラード・ロケット弾が,それぞれ4発,7発着弾した。同年6月24日には,陸上自衛隊の隊員輸送高機動車が走行していた際,道路脇で爆発が起き,自衛隊が攻撃を受けるという事件が発生した。自衛隊員に死傷者は出なかったが,その爆発により,同車のフロントガラスが損傷した。後の調査により,爆発したのは遠隔操作が可能な爆弾であることが判明しており,日本の陸上自衛隊を攻撃対象とした可能性が極めて高い。 このようなサマワの治安悪化とともに,サマワ市民の日本に対する見方も徐々に反日的なものへと変化し,平成17年5月24日,サマワ市街地で「日本に死を」を意味するアラビア語の落書きが発見され,同年7月には,サマワの「日本友好協会」に脅迫文が寄せられ,また,同年10月1日,サドル師派を支持する群衆が陸上自衛隊車列をとり囲むと事件が起き,同年12月4日にも,陸上自衛隊車列がデモ隊に取り囲まれ,投石によって,装甲機動車のサイドミラーが損傷する事態に至った。 このようにサマワの治安は悪化する一方であるにもかかわらず,日本政府は,平成16年12月と平成17年の12月に2度,陸上自衛隊の派遣延長を によって,装甲機動車のサイドミラーが損傷する事態に至った。 このようにサマワの治安は悪化する一方であるにもかかわらず,日本政府は,平成16年12月と平成17年の12月に2度,陸上自衛隊の派遣延長を閣議決定し,陸上自衛隊のサマワ駐留を継続した。 結局,陸上自衛隊がサマワに駐留を続けていたのは,「土地に張り付く」ことそれ自体が多国籍軍としての役割を果たしていたからにほかならない。すなわち,陸上戦力の本質的役割の第一は,「人間の支配」であり,またその手段としての「陸地の支配」であって,人間を支配するには,生活基盤を占領し,資源の使用を統制・支配して居住住民を権力下に入れなければならない。陸上戦力こそ「土地に張り付く」こと,す- 37 -なわち占領及び確保が可能な戦力なのである。 陸上自衛隊が,イラクの民間人に直接銃を向けたことがないとしても,サマワに宿営地を築き,2年半近くも駐留を続けていたこと自体が,占領軍・多国籍軍のサマワにおける存在を示すことであって重要なのであった。この駐留の重要性は,たとえ陸上自衛隊が給水支援活動を行おうと,公共施設の補修を行おうと失われるものではない。陸上自衛隊は,駐留を継続することによって,占領軍・多国籍軍に参加し,その一員としての役割を果たしている。 なお,陸上自衛隊と同じサマワに駐留していたオランダ軍は,一足早い平成17年3月にイラクから撤退しており,陸上自衛隊がようやくサマワから撤退したのは,平成18年7月18日であった。 (ウ)本件派遣は,アメリカの同盟国であるための派兵である。 本件派遣当初の小泉首相は,本件派遣について,国際社会から信頼を得るためというが,当初,イラク戦争を支持していた国は,国連加盟国191か国のうち,わずか49か国であり,自衛隊を含め何らかの形でイラクに兵士を派遣した国は,37か 派遣について,国際社会から信頼を得るためというが,当初,イラク戦争を支持していた国は,国連加盟国191か国のうち,わずか49か国であり,自衛隊を含め何らかの形でイラクに兵士を派遣した国は,37か国である。多国籍軍に参加したのは34か国であったが,最大1432人の兵士を派遣していたスぺイン,約1400人の兵士を派遣し,陸上自衛隊宿営地のあるサマワを含むムサンナ州の治安維持任務を担ってきたオランダ,約3000人の兵士を派遣しているイタリア等が既にイラクから撤退し,平成19年10月段階で撤退を検討していない多国籍軍参加国は,13か国しかなく,イラクへ派兵を続ける国は世界の中でますます少数になっている。 国際社会に本当に信頼されたいのであれば,自衛隊の派遣などではなく,イラクの人々をはじめ,より多くの国々に支持を得られる形の支援をすべきである。 小泉首相(当時)は,「日米同盟,信頼関係を構築していくことは,- 38 -これからも極めて重要なこと」などと述べており,本件派遣の実質が,まさにアメリカの同盟国として,イラクの占領に直接加担するものであることを自認している。 (エ)イラク戦争では,新たにたくさんのアメリカに対する「憎悪」が生まれた。その「憎悪」が,新たな暴力を生み,暴力の連鎖が生じたとき,もはやこれを止めることは困難である。自衛隊がイラクを「暴力」で支配している占領軍・多国籍軍の一員である以上,いくら「国際貢献」と取り繕ってみてもイラクでの新たな「憎悪」を生み出すことは必至である。 日本は,第二次世界大戦でアジア諸国を「暴力」で支配しようとし,多くの「憎悪」を生み,そして,アジア諸国と日本の人々に多大な犠牲を生じさせた。このようなことを二度と起こさぬよう,日本は「暴力」で他国を支配することを放棄し,非戦の誓いを立てた。私たちが うとし,多くの「憎悪」を生み,そして,アジア諸国と日本の人々に多大な犠牲を生じさせた。このようなことを二度と起こさぬよう,日本は「暴力」で他国を支配することを放棄し,非戦の誓いを立てた。私たちが,今まで非戦の誓いである憲法9条をまがりなりにも維持してきたのは,「暴力による支配」では何も解決しないことを,学んだ結果である。 本件派遣は,まさに,憲法9条を放棄し,再び「暴力による支配」を肯定し,それに直接加担することにほかならず,新たな憎悪の火種をつくりに行くだけである。 (3)本件派遣の違憲性・違法性ア憲法9条の意義(ア)憲法は「国民」ではなく「国家」を規制する「法」である。 すなわち,歴史上,国家は,しばしば国民の自由を奪ってきたことへの反省から,国家の暴走によって国民の自由や基本権を侵害することがないように,国家を規制する目的で設けられたのが憲法であり,憲法は「国家」を暴走させない「安全装置」としての大事な役割を有する。 したがって,政府が憲法に反する行為をしているということは,国家- 39 -が暴走しているということであって,まさに国民の自由や基本権が奪われ始めているということにほかならない。 (イ)憲法9条は,日本がかつて「国益」と「自衛」を理由にアジア諸国を侵略し,世界中を戦渦に巻き込んだ反省から,二度と武力によって人々の命を奪うことのないよう設けられた。 すなわち,日本は,20世紀初め,無謀な戦争により2000万人に及ぶアジアの人々を殺し,300万人に上る日本の人々を犠牲にした。 他国を武力で支配しようとしたために,他国のみならず自国の大勢の人の命と尊厳を奪った。この反省から,二度と武力の行使によって人々の命を奪わないことを誓ったのである。 そして,戦後の日本は二度と加害者にならないという誓いのとおり,一度も武力に ならず自国の大勢の人の命と尊厳を奪った。この反省から,二度と武力の行使によって人々の命を奪わないことを誓ったのである。 そして,戦後の日本は二度と加害者にならないという誓いのとおり,一度も武力によって他国の人を殺したことのない歴史を刻んできた。 しかし,日本政府は,本件派遣により,二度と加害者にならないという誓いを放棄しようとし,日本国民は,再び人を殺し,殺されることを強いられようとしている。 イ本件派遣の憲法9条違反(ア)憲法9条は,憲法制定当時の国会答弁等から明らかなように,立法者としても,憲法制定当時の日本政府としても,自衛戦争を含めて一切の戦争を放棄したものであると解釈され,自衛のための戦争及び陸海空軍に匹敵するような実力を保持することは,憲法9条に反すると考えられていた。そして,今もなお,上記解釈こそが本来的解釈であり,多数の国民によって支持されている。 この立場からは,自衛隊を持つことが既に憲法違反である以上,自衛隊を海外に派遣するイラク特措法が憲法に違反することは明らかである。 そして,イラク特措法は,その17条において自衛隊の武器の使用を認めている点において,憲法9条1項が禁止する「武力による威嚇」に- 40 -該当するし,その3条3項において安全確保支援活動として「医療,輸送,保管(備蓄を含む。),通信,建設,修理若しくは整備,補給又は消毒」を実施するとしている点において,米英軍と一体となって軍事行動たる兵站活動を行うものとして憲法9条1項の禁止する「武力の行使」に該当する。また,憲法9条2項が否認する「交戦権」には,相手国領土の占領及び占領行政も含むところ,イラク特措法に基づく占領軍の指揮下における自衛隊の活動は「交戦権」の行使に該当する。 以上のように,イラク特措法は,違憲の自衛隊を実施主体とするという違 相手国領土の占領及び占領行政も含むところ,イラク特措法に基づく占領軍の指揮下における自衛隊の活動は「交戦権」の行使に該当する。 以上のように,イラク特措法は,違憲の自衛隊を実施主体とするという違憲性に加えて,憲法9条1項の「武力行使の禁止」及び「武力による威嚇の禁止」並びに同条2項の「交戦権の否認」に違反するという極めて重大な違憲性を持つのである。 憲法9条の本来的な解釈は,以上のとおりであるが,日本政府は,憲法制定後,今日に至るまでの間,その解釈を時代情勢に応じて変遷させてきた。しかし,憲法9条をいかに緩やかに解釈したとしても,海外において,他国を占領する軍隊と一体化した行動を自衛隊が行うことは明らかに違憲である。 (イ)政府の憲法9条の解釈の変遷a憲法9条2項の「戦力」について,日本政府は,憲法制定当初,名目のいかんによらず一切の「戦力」を否定していたが,警察予備隊,保安隊の創設を受けて,「『戦力』は近代戦争遂行に役立つ程度の装備・編成をそなえるもの」であるとして,また,自衛隊創設後,「自衛のために必要最小限度」の実力の保持は禁止されていないとして,いずれも合憲であるとの立場をとり,自衛権として認められる範囲を拡大する方向で解釈を変遷させてきた。 また,昭和29年,参議院において「自衛隊の海外出動を為さざることに関する決議」が採択されるなど,憲法制定後の政府解釈は,海- 41 -外へ出動する実力部隊は「戦力」に該当し,憲法上認められないというものであったが,昭和55年,自衛隊が海外出動する場合について,「武力行使の目的」を持つ海外派兵か,「武力行使の目的」を持たない海外出動かによって区別し,後者を合憲とする解釈に変遷した。かかる解釈に基づき,日本政府は,国連PKO活動に対する自衛隊の派遣,あるいは周辺事態法などについて 外派兵か,「武力行使の目的」を持たない海外出動かによって区別し,後者を合憲とする解釈に変遷した。かかる解釈に基づき,日本政府は,国連PKO活動に対する自衛隊の派遣,あるいは周辺事態法などについて「武力行使の目的」を持たないことを理由に憲法に抵触しないと解してきた。 もっとも,「自衛」目的以外で自衛隊を海外へ派遣することを肯定するこの政府解釈は,「自衛のため」であることを理由に自衛隊の存在を肯定してきたそれまでの政府解釈と齟齬するものであり,自衛隊の存在を肯定する政府解釈によっても本来認められないはずの解釈であった。 b憲法9条1項の「武力行使」について,日本政府は一貫して他国による武力行使と一体化する行為は許されないが,武力行使と一体化しなければ許されるという,いわゆる一体化論を採用している。 そして,今回のイラク派遣についても日本政府はこの一体化論によって「自衛隊をイラクへ送ってもそれは海外派遣であるし,他国による武力行使とは一体化しないので違憲ではない。」と解釈している。 c憲法9条2項の「交戦権」については,憲法制定当時から,国際法に従い「交戦国が国際法上有する種々の権利の総称」と解されてきた。 そして,国際法上,「交戦権」には,相手国の領土の占領及びそこにおける占領行政を行うことも含まれ,政府見解にも変遷はない。 (ウ)政府の解釈による本件派遣の違憲性以上のような変遷をたどってきた政府解釈によっても,本件派遣は,憲法9条に反し,違憲である。 a憲法9条2項の「戦力」について,イラク特措法の目的は,「イラ- 42 -ク特別事態を受けて,国家の速やかな再建を図るためにイラクにおいて行われている国民生活の安定と向上,民主的な手段による統治組織の設立等に向けたイラクの国民による自主的な努力を支援し,及び促進しようとする国際社 受けて,国家の速やかな再建を図るためにイラクにおいて行われている国民生活の安定と向上,民主的な手段による統治組織の設立等に向けたイラクの国民による自主的な努力を支援し,及び促進しようとする国際社会の取組に関し,我が国がこれに主体的かつ積極的に寄与」し,「我が国を含む国際社会の平和及び安全の確保に資することを目的」とし(同法1条),自衛隊がその実施主体となることを想定している(同法8条)。 そうすると,同法によって自衛隊が海外出動する目的は,日本の「自衛」に全く無関係であり,同法は,「自衛のための最小限度」であることを理由に自衛隊が憲法9条2項で保持を禁止された「戦力」に当たらないという政府解釈に反し,また,「自衛」のためではない実力部隊たる「戦力」の保持を認めている点で,憲法9条2項に反する。 b憲法9条1項の「武力行使」について,イラク特措法は,「他国による武力行使との一体化」を避けるべく,①「対応措置の実施は,武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」(同法2条2項),②「対応措置については,我が国領域及び現に戦闘行為が行われておらず,かつ,そこで実施される活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる次に掲げる地域において実施する」(同条3項)という制約を設けている。 しかし,同法が成立した平成15年7月26日,既にイラクは,米英をはじめとする占領軍の占領下にあった。そうすると,そのようなイラクに実力部隊としての自衛隊を送ること(陸上自衛隊による駐留),及び自衛隊が「安全確保支援活動」と称して「イラクの国内における安全及び安定を回復する活動を支援する」(同法3条1項2号)ために「医療,輸送,保管(備蓄を含む。),通信,建設,修理- 43 -もしくは整備,補給又は消毒」(同条2項5号)を実施 の国内における安全及び安定を回復する活動を支援する」(同法3条1項2号)ために「医療,輸送,保管(備蓄を含む。),通信,建設,修理- 43 -もしくは整備,補給又は消毒」(同条2項5号)を実施すること(主に航空自衛隊による輸送等)は,それ自体が占領軍・多国籍軍の軍事作戦上,「他国による武力行使との一体化」を免れ得ない行為である。 したがって,同法は,自衛隊の活動が「他国による武力行使と一体化」し,憲法9条1項の禁止する「武力行使」に該当する形態での海外派遣を前提としている点において,同条に反する。 また,イラク特措法が設けた上記制約(同法2条2項,3項)を憲法9条1項に適合するように厳格に解釈をしたとしても,イラクに派遣された自衛隊が占領軍・多国籍軍の一員となっていること,航空自衛隊が米軍等の兵士及び物資を輸送し,占領軍・多国籍軍の後方支援活動の役割を担っていること,陸上自衛隊がイラクを占領・確保すべくイラク全土に駐留する占領軍・多国籍軍の一員としてサマワに駐留を続けていたこと,サマワに駐留する陸上自衛隊を狙った攻撃がなされていたことからすれば,同法が設けた上記制約は全く破られており,本件派遣は,憲法9条に適合するように厳格に解釈されたイラク特措法にも違反し,結局,憲法9条1項に反する。 c憲法9条2項の「交戦権」について,そこには,相手国の領土の占領及びそこにおける占領行政を行うことも含まれる以上,これに加担することは,「交戦権」の行使となり,憲法9条2項に反する。 イラクへ派遣された自衛隊は,占領軍の指揮下に入り,現在は多国籍軍の一員として占領行政の一翼を現実に担っている。航空自衛隊による米軍等の兵士及び物資の輸送,陸上自衛隊によるサマワでの駐留を通じ,多国籍軍の一員としてイラクの実効的支配を実践しており,これはまぎれもな 員として占領行政の一翼を現実に担っている。航空自衛隊による米軍等の兵士及び物資の輸送,陸上自衛隊によるサマワでの駐留を通じ,多国籍軍の一員としてイラクの実効的支配を実践しており,これはまぎれもなく占領行政であり,国際法上「交戦権」の行使に当たることは明らかであり,本件派遣は,憲法9条2項に反する。 ウ本件派遣の国際法違反- 44 -(ア)イラク戦争開始の国際法違反非戦の誓いをうたっているのは,日本国憲法だけではない。 国際法においては,古代ローマ以来,国際社会の動向を踏まえて戦争違法化の流れを遂げてきたが,二度にわたる世界大戦の未曾有の凄惨な被害を前にした国際社会は,昭和20年10月,国際連合(以下「国連」という。)を発足させた。 その目的及び原則を掲げた国際連合憲章(以下「国連憲章」という。)では,「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救う」という決意を鮮明に宣言し(国連憲章前文),加盟国に対し,国際紛争の平和的解決義務を課すとともに,すべての武力の行使を原則として禁止している(国連憲章2条3項,4項)。 この武力行使禁止原則には二つの例外があり,その一つは,国連安全保障理事会が,国際の平和と安全を維持するために国連憲章第7章の下で軍事的な措置をとることを決定した場合(国連憲章42条),もうひとつは,個別国家が自衛権の行使として武力を用いる場合(国連憲章51条)である。 この点,本件派遣では,米英によるイラク攻撃についての安全保障理事会の決定はないから,国連憲章42条に基づくものではなく,また,米英に対するイラクの武力攻撃はなく,国連憲章51条の「自衛権の行使」には,将来の武力行使に対する先制的自衛は含まれないと解されるから,同条に基づく自衛権の行使にも当たらない。 その他, く,また,米英に対するイラクの武力攻撃はなく,国連憲章51条の「自衛権の行使」には,将来の武力行使に対する先制的自衛は含まれないと解されるから,同条に基づく自衛権の行使にも当たらない。 その他,いかなる理由によっても,米英のイラク攻撃は,国際法上全く正当化できず,明らかな国際法違反行為である。 (イ)イラク占領の国際法違反上記のように戦争が違法化された現代国際法の下では,軍事占領も正- 45 -当化されない。米英によるイラク攻撃が国際法上違法なものである以上,攻撃後のORHA,CPAによる占領も違法である。 また,CPA等による占領を国連安全保障理事会決議によって正当化しようとする主張もあるが,同決議1411号,1511号及び1483号は,現に他国領土を占領している以上,占領地の治安を維持し,住民の生活と福祉を尊重,保護するように義務づけるものであり,既に行われていた占領統治を合法化するものではない。 (ウ)イラク戦争遂行の国際法違反イラク戦争において,米英とイラクの双方は,国際武力紛争に適用される人道法の諸原則に拘束される。そして,米英,イラクとも,ジュネーブ諸条約の締約国である。 そうすると,まず,米英軍の空爆は,非軍事物の破壊(損傷)禁止の原則,言い換えれば軍事目標主義(ハーグ陸戦法規25,27条,第1追加議定書52条)に違反する。 また,米軍が使用した武器には,クラスター爆弾,デージーカッター及び劣化ウラン弾があり,これらの使用は「不必要な苦痛を与える害敵手段の禁止」原則(ハーグ陸戦法規23条ホ,第1追加議定書35条,36条,特定通常兵器使用禁止制限条約前文,対人地雷禁止条約前文)の違反であることは間違いない。 さらに,アブグレイプにおける拷問があり,女性に対するレイプを含む数々の拷問が行われたことが明らかになっており 特定通常兵器使用禁止制限条約前文,対人地雷禁止条約前文)の違反であることは間違いない。 さらに,アブグレイプにおける拷問があり,女性に対するレイプを含む数々の拷問が行われたことが明らかになっており,これは重大な国際人道法違反である(ジュネーブ第4条約32条,同第3条約17条4項,同第4条約27条2項)。 また,平成16年4月及び11月に行われたファルージャ市の武力勢力掃討作戦では,明らかになっているだけでも,6000人以上の市民が米軍に虐殺された。これは明らかに,軍事目標主義に違反するもので- 46 -あり(ハーグ規則25条,第1追加議定書48条),ジェノサイドにさえ該当し得るものであると考える。 (エ)本件派遣の国際法違反aまず,米英軍の攻撃とは別に,本件派遣は,国際法に違反する侵略行為であり,イラク市民の自決権を侵害する行為である。すなわち,自衛隊のような国際法上軍隊として取り扱われる集団が,他国領域に同意なく派遣することは,武力行使禁止原則に違反する(国連憲章2条4項)。この点,イラク暫定政府は,本件派遣を歓迎する意向を示したが,同政府には他国の軍隊に対して自国への派遣を同意するような主権を行使する権限は認められず,これを正当化するものではないし,自衛隊の目的が人道支援であるとか,自衛隊の活動地域が「非戦闘地域」に限られるといったことで左右されるものではない。 bまた,国家責任条文16条(国連の国際法委員会(ILC)が作成し,平成13年に国連総会で採択された,国際違法行為に関する国家責任に関する草案(全59か条)のうちの第16条)は,「他の国の国際違法行為の実行を支援し又は援助する国は,次の場合に支援又は援助につき国際責任を負う」とし,次の場合として「その国が国際違法行為の事情を了知して支援又は援助を行い,かつ,その 条)は,「他の国の国際違法行為の実行を支援し又は援助する国は,次の場合に支援又は援助につき国際責任を負う」とし,次の場合として「その国が国際違法行為の事情を了知して支援又は援助を行い,かつ,その国がその行為を行ったとすれば当該行為が国際的に違法となる場合」をあげている。 この点,イラク戦争においては,その開始原因,遂行手段ともに,国際法に違反することは,上記(ア)ないし(ウ)のとおりであり,これを日本が行ったとしても国際違法行為となることは明らかである。そして,この事実は広く知られている以上,本件派遣等様々な支援又は援助行為は,上記国家責任条文16条に該当する。 日本は,国際責任の解除としての原状回復をしなければならず,そ- 47 -れは,イラクからの自衛隊の撤退であり,裁判所による本件派遣の差止めである。そして,国家責任の解除それ自体も国際法上の義務である以上,本訴訟において裁判所が本件派遣を差し止める判決をしなければ,それ自体が国際違法行為となる。 憲法9条を高く掲げ,米英のイラク占領に加担しない多くの国々と同じ立場に立ち,「暴力による支配」の過ちを訴えていくことこそ,日本が真の国際貢献と国際社会の平和の創造のためにすべきことである。 (4)平和的生存権の権利性ア平和的生存権の保障日本国憲法は,その前文において,「日本国民は…われらとわれらの子孫のために,諸国民との協和による成果と,わが国全土にわたって自由のもたらす恵沢を確保し,政府の行為によって再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」,「日本国民は恒久の平和を念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは,平和を維持し,専制と隷従,圧迫と 念願し,人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであって,平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して,われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは,平和を維持し,専制と隷従,圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において,名誉ある地位を占めたいと思う。われらは,全世界の国民が,ひとしく恐怖と欠乏から免かれ,平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と規定する。 これは,日本国憲法が「平和のうちに生存する権利」が基本的な人権であることを確認したものであり,我が国の国民は,その具体的内容として「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」を有すると考える。 イ平和的生存権の成り立ち20世紀は戦争の世紀と呼ばれており,人類は,二度にわたる世界大戦によって,兵士のみならず,多くの一般市民の尊い人命を失った。 - 48 -しかし一方で,前記(3)ウでも見たとおり,20世紀は,国際社会が戦争の悲劇を防ぐために戦争を違法化する努力を重ねた世紀でもあった。 国際連盟規約,不戦条約,国際連合憲章,国際人権規約等はこうした努力の表れであり,国際人権規約A規約・B規約がその前文において「国際連合憲章において宣明された原則によれば,人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由,正義及び平和の基礎をなすものであることを考慮し,これらの権利が人間の固有の尊厳に由来することを認め,世界人権宣言によれば,自由な人間は恐怖及び欠乏からの自由を享受するものであるとの理想は,すべての者がその市民的及び政治的権利とともに経済的,社会的及び文化的権利を享有することのできる条件がつくり出される場合に初めて達成されることになる」とするように,国際社会は「平和と人権の密接不可分性」の認識を の市民的及び政治的権利とともに経済的,社会的及び文化的権利を享有することのできる条件がつくり出される場合に初めて達成されることになる」とするように,国際社会は「平和と人権の密接不可分性」の認識を共有するに至った。 すなわち,近代憲法の下では,平和は代表民主制の領域に属する政治問題であり,人権の問題ではなかった。しかし,憲法がどのように格調高い言葉で人権をうたおうとも,戦争になれば人権は紙くず同然に踏みにじられる。平和は人権確立の最大不可欠の基礎的条件なのである。 日本国憲法の平和的生存権の規定は,こうした国際動向の中で成立したものであり,日本国憲法の平和主義原理全体がそうであるように,立憲主義の発達史を継承し,普遍的な性格を有するのである。 ウ平和的生存権の具体的権利性(ア)被控訴人は,平和的生存権の規定が抽象的で漠然としていることを理由に,平和的生存権は具体的な権利ではないとする。 しかし,この見解は,日本国憲法が平和を代表民主制の問題とする伝統的概念を大きく前進させ,平和を人権の問題としてとらえようとしていることの意味を全く理解しないものである。確かに,「平和」という- 49 -言葉は,一般的用法として抽象的・多義的な概念であるとしても,それは自由や平等という言葉についても同様にあてはまることであるし,そもそも憲法の人権規定自体も多かれ少なかれ理念的色合いを有するが,それをもって具体的な権利ではないということにはならない。むしろ,問題は,日本国憲法の解釈を通じて,そこに定める「平和」に具体的意味内容を見いだし得るかどうかということにある。 (イ)この点,日本国憲法が,その前文において,上記のとおり,平和へのまことに強烈な決意を示し,戦争と戦力を全面的に放棄する徹底した平和主義の姿勢を示した上で,伝統的には統治機構の一部であ ある。 (イ)この点,日本国憲法が,その前文において,上記のとおり,平和へのまことに強烈な決意を示し,戦争と戦力を全面的に放棄する徹底した平和主義の姿勢を示した上で,伝統的には統治機構の一部である「戦争の放棄」を第2章として9条に定め,人権と統治機構に先行させているところにも示されているように,戦争の放棄を人権と民主主義の前提条件と位置づける構造を有していることを重視しなければならない。 そこで,「憲法前文の平和的生存権規定」,「憲法9条」,そして「憲法13条を主要とする第3章の人権規定」が複合的に平和的生存権の根拠をなしていると解すべきである。 すなわち,憲法9条は,それだけでは客観的制度規定としての意味しか有しないが,主観的権利としての平和的生存権と結びつくことによって,憲法9条に違反して政府が行った行為について,それを裁判上,具体的な平和的生存権侵害であると主張し得ると解すべきである。 同時に,平和的生存権は,憲法第3章の個別の人権規定とも結合して理解すべきであり,例えば,平和的生存権が憲法18条に結びつく場合には「徴兵からの自由」が,憲法19条と結びつく場合には「良心的兵役拒否の自由」が,憲法25条と結びつく場合には「軍事徴用を受けない自由」が導かれる。 さらに,平和的生存権が憲法第3章の個別の人権規定と結びつかない場合,つまり,憲法9条違反の国家行為がありながら,憲法第3章の個- 50 -別の人権侵害は惹起されていない場合でも,一定の条件が充足されるなら,平和的生存権のみを単独で主張し得ると解すべきである。 以上のように理解すれば,平和的生存権の内容は,①狭義には,戦争や軍隊によって自己の生命を奪われない権利と併せて戦争や軍隊によって他者の生命を奪うことに加担させられない権利,②広義には,戦争の脅威と軍隊の強制から免れて ,平和的生存権の内容は,①狭義には,戦争や軍隊によって自己の生命を奪われない権利と併せて戦争や軍隊によって他者の生命を奪うことに加担させられない権利,②広義には,戦争の脅威と軍隊の強制から免れて平和のうちに生活し,行動することができ,他国の民衆への軍事的手段による加害行為と関わることなく平穏な生活を享受できる権利を意味するものとなる。 エ平和的生存権の内容平和的生存権の権利構造,享有主体,成立要件,法律効果は,以下のとおりであり,いずれの側面においても権利としての具体性に欠けるところはない。そして,本訴訟においては,いずれの要件も充足している。 (ア)権利構造平和的生存権は,政治的規範と法的規範からなり,その周辺部分に当たる前者は,政治的・立法的指針を示すものであり,その核心部分に当たる後者は,4つの層に整理できる。そこには,第一層として,憲法本文の各条文及び下位の関係法令の解釈基準となり,また具体化法令を立法する際の基準となる部分,第二層として,集団的なジェノサイドや核兵器使用を裁く法規となる部分,第三層として,他の個別の人権と結合し得る部分,第四層として,他の人権の結びつき得ない領域において独自で主張され得る部分がある。 そして,この第四層についても,平和的生存権の侵害の危険性が重大かつ根本的である場合には,平和的生存権を単独で裁判規範とすることができ,当該個人が政府の行為により直接かつ具体的に平和的生存権の侵害を現実に被っていることが出訴要件とされるものと解される。 (イ)享有主体- 51 -憲法は,「人権としての平和」という捉え方に立って,平和的生存権を政府に対して主張される基本的人権として位置づけたものであることから,平和的生存権の主体は,個々の国民であり,この権利は国民の基本的人権そのものである。 (ウ)成 う捉え方に立って,平和的生存権を政府に対して主張される基本的人権として位置づけたものであることから,平和的生存権の主体は,個々の国民であり,この権利は国民の基本的人権そのものである。 (ウ)成立要件平和的生存権は,長い歴史の中で各種の国際条約や国連憲章,各国の憲法において徐々に生成発展し,確立してきたもので,日本国憲法成立後に採択された国連決議等でも確認されている権利であり,その成立を疑うことはできない。 そして,平和的生存権の侵害は,憲法9条に反する国家行為がなされたときに発生する。 (エ)法的効果まず,平和的生存権の複合的性格に関して,自衛隊を海外に派遣し,外国軍と一体となって戦争遂行に加わる国家行為は,憲法9条に明白に違反し,個人の平和的生存権を重大かつ根本的に侵害するものであるから,当該国家行為の違憲無効確認の訴えも承認され,当該国家行為が完結する以前の時点であれば,その差止めの請求をすることもできる。そして,当該個人が当該国家行為によって憲法の基本理念である平和主義を侵害されたことで,自己の種々の自由や権利を侵害されたり,精神的苦痛を被ったといえる場合には,侵害行為の違法性及び被侵害利益のいずれも明白であって,国家賠償請求権も認められる。 また,平和的生存権の射程範囲に関して,前記のとおり,平和的生存権は,憲法9条によって内容が確定された「平和」を人権としてとらえたものであり,それが憲法第3章の個別の人権と結合しうる場合には,それら個別の人権に平和的生存権の内容を付加ないし充填させることになる。また,平和的生存権と結合しうる憲法第3章の個別の人権がない- 52 -場合であっても,ある国家行為が憲法9条違反であると構成できる限り,平和的生存権を単独で主張できる。 (5)控訴人の平和的生存権の侵害ア平和的生存権 る憲法第3章の個別の人権がない- 52 -場合であっても,ある国家行為が憲法9条違反であると構成できる限り,平和的生存権を単独で主張できる。 (5)控訴人の平和的生存権の侵害ア平和的生存権侵害が蔓延する我が国の現状我が国の国民は,現在,本件派遣と同時並行的に行われている軍事国家化によって,イラクの自衛隊の活動に関する報道統制による知る権利の侵害,反戦ビラの配布者などを逮捕することによる表現の自由の侵害,国内外への居住移転の自由や海外旅行の自由の侵害,テロリズム対策と称して主要駅頭など国内の至る所に警官が立ち国民を監視することによるプライバシー権の侵害など,多くの平和的生存権侵害の事態にさらされている。 これらは,我が国を,憲法上の制約を無視して戦争のできる国へ作り替えようとする動きにほかならない。 イ自らの生命や身体の安全が脅かされず生活する権利の侵害日本人外交官やジャーナリストの死,人質事件やIの死は,本件派遣によって,日本国民であるだけで現に生命や身体の安全が脅かされていることを示している。本件派遣は,日本国内にいる日本人にさえ,米英軍の侵略と大量虐殺に加担した日本に対する報復としての生命,身体に対する危険性を飛躍的に大きくさせた。 ウ戦争に加担させられない権利の侵害(ア)以下,詳述するように,控訴人は,「戦争や軍隊によって自己の生命を奪われない権利と併せて戦争や軍隊によって他者の生命を奪うことに加担させられない権利」,換言すれば「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」を侵害された。仮に,これらの権利侵害を憲法上の利益と呼ばないとしても,法律上保護に値する「利益」に当たることはいうまでもない。 (イ)控訴人は,D大学法学部3年生時に昭和43年度外務公務員上級試- 53 -験に合格し,昭和44年4月にD大学を と呼ばないとしても,法律上保護に値する「利益」に当たることはいうまでもない。 (イ)控訴人は,D大学法学部3年生時に昭和43年度外務公務員上級試- 53 -験に合格し,昭和44年4月にD大学を中退して外務省に入省した。 その後,外務省職員として世界各地に赴任し,日本の外交の最先端を担い,平成13年2月より中東の駐レバノン特命全権大使を拝命し,中東の地において日本外交を自ら実践する立場となった。 控訴人は,レバノンに赴任してから,イスラエルがパレスチナを抑圧する毎日を見てきた。レバノンは,イスラエルと国境を接し,イスラエルと数次に渡る戦争を経ており,イスラエル問題とパレスチナ問題に翻弄されてきた過去がある。また,イスラエルの背後にアメリカが控え,常に中東の覇権を握ろうとしてきたことは中東の諸国民にとっては自明のことであり,数え切れないパレスチナ人が命を落としてきた悲惨な過去がある。もともと,中東地域はアラブ社会としての一体性があったにもかかわらず,中東のイラク,ヨルダン,シリア,レバノンなどは欧米列強各国によって政治的に分割された歴史もある。 レバノンという地で控訴人が体験した声はまさにアラブ社会の共通の声であり,大国による覇権に抗するアラブの切実な声である。 実際にパレスチナ問題を大きく抱えるレバノンにおいては,日々若い人たちが命を絶ちあるいは奪われており,そこで控訴人が受け止めた思いは,決して一時的なものではなく,控訴人の人格的生存に不可欠なものとして深く根付いた。 また,多くの日本企業がアラブ社会で経済的に貢献してきたこと,日本が原爆を投下されたこと,日本には憲法9条があり,戦争を放棄した平和を愛する国家であることもアラブ社会では周知の事実であり,アラブ人は日本人を高く評価している。 その中で,控訴人は,中東における日本の平和外 投下されたこと,日本には憲法9条があり,戦争を放棄した平和を愛する国家であることもアラブ社会では周知の事実であり,アラブ人は日本人を高く評価している。 その中で,控訴人は,中東における日本の平和外交に対する期待の大きさと役割の大きさを身をもって実感した。控訴人は,レバノン大使という職務を通じて,多くのアラブ人との交流や経験を経て,アラブの市- 54 -民の期待に応えて,中東の地で日本の平和外交を実践することこそが自己の使命と自覚し,全人格を注いで平和外交を実践してきた。 このような控訴人の「思想,信念,信条」は,中東の地における平和外交の実践を通して控訴人の人格的生存に深く根ざしたものであり,法的保護に値する。 日本のアメリカ支持により,多くのアラブ人が日本に失望した。また,自衛隊の派兵は,アラブで「戦争を放棄する日本国憲法」を遵守し,中東で平和外交を実践しようとしてきた控訴人の思想,信念,信条を否定し,控訴人自身がアラブ社会で積み重ねてきた平和外交の実績を崩壊させた。 控訴人の人としての怒りと悲しみは,想像を絶する。 違憲な自衛隊の派兵が控訴人の人格権を侵害し,控訴人が受忍限度を超える精神的苦痛を被ったことは明らかである。被控訴人の行為が平和憲法に反するが故に,憲法の理念に沿って平和外交を実践してきた控訴人の精神的苦痛も著しいのである。 また,その他にも自衛隊の派兵が,控訴人の外交官としての実績を崩壊させたという明らかな不利益もあり,非財産的権利であるが,法的保護に値するものである。 エ自衛隊員(第三者)の権利を控訴人が援用する可能性憲法訴訟の当事者は,違憲であると主張する国家行為によって不利益を受けている他人(第三者)の権利についての判断を裁判所に求めることができる場合がある。 本訴訟においては第三者であるが,国家行為の名宛人 法訴訟の当事者は,違憲であると主張する国家行為によって不利益を受けている他人(第三者)の権利についての判断を裁判所に求めることができる場合がある。 本訴訟においては第三者であるが,国家行為の名宛人として派遣を余儀なくされ,イラクに派遣された自衛隊員は,憲法上の重要な権利に対する深刻な侵害を受けておりながら,その救済を自己の訴訟で図る実際上の可能性は無いか,無いに等しい。こうしたケースにおいてこそ,控訴人がこ- 55 -れを代位して主張することが肯定されてよい。けだし,憲法訴訟は各自の主観的な権利の救済を主眼としつつ,それを通路にして客観的な憲法秩序の回復を図ることを任務とするものであるから,本件のような場合,他人の憲法上の権利を援用・代位することは,手続上の要件を具備している限りむしろ積極的に認めることが望ましい。 (6)退職強要の違法性ア事実経過(ア)控訴人が平成15年3月24日及び同月30日に意見具申の電報を打った後の同年4月2日,外務省官房長E(以下「E官房長」という。)から控訴人に電話がかかってきた。 その際,E官房長は,「あのような電報を打ってくるとは,辞職するつもりでなのですか。」,「米国では,ブッシュ政権の対イラク攻撃に反対して国務省の職員が辞めています。英国もブレア首相に反対してクック前外務大臣が党の役職を離れ,ショート国務大臣が辞めています。 F大使があのような電報を打ったことが外部に伝わることは時間の問題です。F大使が辞めるつもりであの電報を打ったのかどうか確認したかったのです。」と述べた。 これに対し控訴人は,「自分から辞めるつもりはない。」と伝えた。 E官房長は「F大使が辞職される気持ちがないことがわかりました。 そのことを確認したくて電話をしただけです。」としながらも,「ところでF大使はそちらに赴任し 「自分から辞めるつもりはない。」と伝えた。 E官房長は「F大使が辞職される気持ちがないことがわかりました。 そのことを確認したくて電話をしただけです。」としながらも,「ところでF大使はそちらに赴任してもう2年が過ぎました。いずれ近く交代していただくことになりますので,あらかじめ承知しておいて下さい。」と述べた。 (イ)同年5月下旬,再び,E官房長から控訴人に電話がかかってきた。 E官房長は,「この電話はG次官に代わってかけているものです。夏に帰朝してもらいます。おそらく7月ころに帰朝発令を出すことになり- 56 -ます。帰朝後は外務省を勇退していただくことになります。その後2年は面倒をみますがそれが最後です。某国立大学の国際政治の教授のポストをお世話したいと思っています。あそこの学部長をG次官はよく知っているのでそれでよければ何とかします。大使の給料に比べれば安くなりますが・‥勇退についての願いはいずれG次官より手紙が行くことになります。」と述べて,電話を切った。 同年6月初旬になり,外務省事務次官G(以下「G次官」という。)から,次の内容の手紙が届いた。 「日頃のご活躍を評価しています。そのような貴大使に申しあげるにはまことに心苦しいのですが今夏をもって勇退をお願いすることとしました。川口外務大臣の下で外務省改革を進めていることはご承知かと存じますが,その改革の一環として人事の若返りを断行しており,貴大使にもご協力をお願いせざるを得ません。今後のことにつきましては改めて人事担当者より連絡させて頂きます。」控訴人が発言をする機会も保障されないまま,同年8月には被控訴人から帰国を命じられた。 (ウ)控訴人は,被控訴人の命令により,同年8月29日に外務省に出向いた。 控訴人は次官室に通され,G次官と下記の内容を2,3分だけ話した。 G いまま,同年8月には被控訴人から帰国を命じられた。 (ウ)控訴人は,被控訴人の命令により,同年8月29日に外務省に出向いた。 控訴人は次官室に通され,G次官と下記の内容を2,3分だけ話した。 G次官は,控訴人に対し「ああいう電報を打ったんだから辞める覚悟は出来ているんでしょう。このまま外務省にいてもこの先惨めな思いをするだけだから,結果的にはあなたのためですよ。これからは外務省の外で好きなことをおやりになればいい。」,「外国にいてはわからないだろうが今外務省にはあらゆるところから様々な圧力がかかって大変なんだ。」と述べた。 また,G次官は,控訴人に対し「仕事がなければ繋がりのある大学を- 57 -紹介しますよ。」と持ちかけたが,控訴人は,外務省から仕事先の世話までなるつもりはないと考え,これを断った。 その場でG次官は,控訴人に対し「本人の願いにより任務を解く。」旨記載された辞令を交付した。 控訴人は,この辞令を押しつけられ,部屋を後にさせられた。 イ外務公務員法上の控訴人の法的地位控訴人は,特命全権大使に任命された際,一般職の国家公務員としての地位は失われたことは確かである。 しかし,外務公務員法12条によれば,「在外公館の長たる大使及び公使その他在外公館に勤務する大使及び公使は,その在外公館に勤務することを免ぜられたときは,新たに在外公館に勤務することを命ぜられるまでの間,待命となる。」とされており,内閣が特命全権大使の任を解いた場合でも,その外務公務員は新たな勤務を命じられるまでは原則として待命の大使(以下「待命大使」という。)としての地位が認められる。 したがって,控訴人がその意に反して外務公務員としての地位を失うのは,控訴人に懲戒事由がある場合に限られる。 この点,控訴人は,外交官としての憲法尊重擁護義務を果たすべく,被 ての地位が認められる。 したがって,控訴人がその意に反して外務公務員としての地位を失うのは,控訴人に懲戒事由がある場合に限られる。 この点,控訴人は,外交官としての憲法尊重擁護義務を果たすべく,被控訴人の外交政策を批判する意見具申を行ったのであり,何一つ懲戒事由は存しない。 しかし,被控訴人は,違憲の外交政策を批判する控訴人を嫌悪し,外務省から追放しようとした。被控訴人は,控訴人に対し,免職処分に至るまで,本件派遣を進める違憲違法な目的を持って退職強要を行い,免職処分としたのである。 ウ違法な退職強要(ア)控訴人は,平成15年3月末から4月初旬ころ,E官房長から電話を受け,「あのような公電を打ったのは辞めるつもりなのですか。」と- 58 -切り出されたのに対し,「辞職するつもりはない。」,「繰り返すが辞めるつもりで意見具申したのではない。」と明確に断言し,免職については一貫して拒絶した。 E官房長も「いずれにしても自分からお辞めになるつもりはないというFさんの気持ちはわかりました。」と述べ,控訴人が自らレバノン大使も外務省も辞するつもりはないことを明確に把握していた。 このように,控訴人は,レバノン大使と外務公務員の地位のいずれも自ら辞すことはないと明確に辞職を拒絶していたにもかかわらず,E官房長は,同年5月末ころ,控訴人に電話し,「外務省を辞めてもらう事になりました。」,「G次官からはいずれ書面にてあらためて退職の依頼をお願いする事になります。了解していただくしかない。」と一方的に伝え,電話を切った。この際,E官房長は,「G次官の命令で伝えているのです。」として控訴人の質問などを一切受け付けようともせず,控訴人の意見を汲み取る姿勢は微塵もなかった。 そのため,控訴人は,外務省にはもはや控訴人を残す意思は微塵もなく,退職以外に で伝えているのです。」として控訴人の質問などを一切受け付けようともせず,控訴人の意見を汲み取る姿勢は微塵もなかった。 そのため,控訴人は,外務省にはもはや控訴人を残す意思は微塵もなく,退職以外に道はないと考えざるを得ないところへ追い込まれた。 かかるE官房長からの通告は,控訴人が明確に自ら職を辞すことを拒絶しており,それを承知しながら,その意思を無視し,外務省の方針としての決定事項として一方的に通告しており,その通告の態度は執拗である。被控訴人は,これを「退職勧奨」と呼ぶが,控訴人の「自由な意思決定」が入る余地は全く存在せず,「退職勧奨」と呼べるものではなかった。 したがって,かかるE官房長からの通告は,退職勧奨の限度を逸脱した実質的な退職強要であり,違法な公権力の行使である。 (イ)この点,控訴人は,退官願(乙10)を書いているが,上記のように控訴人の要望等を一切聞く機会も設けられず,同書面を一方的に送り- 59 -つけてきたのである。その結果,控訴人には,免職を拒む選択肢が与えられないまま,発令の日付さえ記されていない白紙委任のごとき紙片を一方的に送りつけてきた外務省に対し,無念と怒りを込めて署名,捺印したのであって,上記退官願の日付も空欄のままであり,控訴人が自らの自由な意思と選択に基づいて署名捺印したものではない。 また,控訴人の帰朝報告(乙14)は,控訴人作成に係る陳述書(甲A8の6)にあるように,「イラク攻撃を支持した日本政府の誤りを前にして何も出来なかった自らの非力さと,こころざし半ばにして外務省を去らねばならなかった無念さを,皮肉をこめて表現したもの」であり,「非礼かつ高圧的なE官房長,G次官の人事処遇に理不尽を感じた私が,熟慮の末に外務省と決別して生きる決意を固めた心境を吐露したもの」であり,この記載をもって, を,皮肉をこめて表現したもの」であり,「非礼かつ高圧的なE官房長,G次官の人事処遇に理不尽を感じた私が,熟慮の末に外務省と決別して生きる決意を固めた心境を吐露したもの」であり,この記載をもって,控訴人が免職をするについて任意,真意の合意があったとすることはできない。 エ退職強要の目的・動機の違憲・違法性(ア)退職強要の目的について,被控訴人は「外務省の若返りのため」と説明している。 しかし,控訴人は,当時,56歳であり,同期生の中でも最年少で採用されている。大使職を務めた者が,懲戒免職や病気その他の特別の理由でもなく,56歳で「退職勧奨」を受けることはあり得ない。 「外務省の若返り」などという理由は単なる口実にすぎず,控訴人に対する退職強要は,別の目的・動機によるものである。 (イ)すなわち,自衛隊をイラクヘ派遣するためのイラク特措法が衆議院本会議に正式に提案されたのは,平成15年6月24日であり,E官房長が控訴人に免職を迫った平成15年5月末は,イラクヘ自衛隊を派兵するためにイラク特措法を実現しようと政府内で具体的な準備を進めていた時期である。当時,自衛隊のイラク派兵については憲法9条に反す- 60 -る疑いが強いことから世論の過半数が反対し,国会議員の中でも批判的な声が少なくなかった。 これまでも述べてきたように,そもそもイラク戦争は,大量破壊兵器を理由とする戦争などではなく,イラクの政権転覆を目的とする侵略戦争であった。そのイラク戦争について,日本政府は国連安保理理事国でなかったにもかかわらず,国連安保理に対してイラク攻撃を支持するよう積極的な外交を展開した。当時理事国であり,経済的・政治的理由によって米国のイラク攻撃に対して強く反対することができない立場にあったアンゴラ,カメルーン,チリ,ギニア,メキシコ及びパキスタ するよう積極的な外交を展開した。当時理事国であり,経済的・政治的理由によって米国のイラク攻撃に対して強く反対することができない立場にあったアンゴラ,カメルーン,チリ,ギニア,メキシコ及びパキスタンの6か国に対して日本から小泉首相との会談あるいは特使の派遣を相次いで行い,イラク戦争を支持する決議を挙げさせるよう外交的圧力を加えた。 日本政府は,積極的に米英による侵略戦争を支持する方針を採っており,平和憲法にのっとった9条の理念に添う平和外交を推進しようとした控訴人とは正反対のものであった。 実際,E官房長は,平成15年4月2日,控訴人に電話し,「あのような公電を打ったのは辞めるつもりなのですか。」,「最近米国や英国でイラク戦争に反対して辞職をした外交官や閣僚が現れています。Fさんもそうではないかと思ったのです。」,「最近ある電報がもとで辞めてもらった大使がいます。気を付けて下さい。」と述べて,控訴人の意見具申を理由として「辞めてもらう。」ことがあると伝えている。 G次官も,控訴人に辞令を交付した際「あの電報を書いた君だから納得ずくだろう。これでよかったんだよ。このまま外務省にいても君がみじめになるだけさ。」,「外国にいてはわからないだろうが今外務省にはあらゆるところから様々な圧力がかかって大変なんだ。」と述べている。 - 61 -矢面に立たされていた政府としては身内の外務省の中で,とりわけイラクと地理的に近い関係にある中東のレバノンの大使が,日本政府の対イラク政策を批判していることを非常に問題視せざるを得なかった。 (ウ)以上のように,当時の外務省・政府の方針は,イラク戦争を積極的に支持し,違憲のイラク派兵を進める違憲・違法なものであり,これは本来日本政府として許されない外交方針であった。 控訴人は,その違憲・違法な外交方針に反し 時の外務省・政府の方針は,イラク戦争を積極的に支持し,違憲のイラク派兵を進める違憲・違法なものであり,これは本来日本政府として許されない外交方針であった。 控訴人は,その違憲・違法な外交方針に反し,憲法遵守の外交方針を提言したために,政府としては,何としてでもイラク派兵を具体化する前に,控訴人からレバノン大使の地位を奪い,さらに国家公務員としての地位をも奪おうとした。政府は,違憲のイラク派兵を進める動機をもって,恣意的かつ一方的な退職強要ないし解職処分を行い,控訴人を外務省から追放したのである。 オ形式的・手続的不備控訴人に対する免官辞令(乙11)には,特命全権大使任命の際の辞令にはあった天皇の御名と内閣の印(甲A8の4の1)がなく,控訴人に対する免官は,形式的にも手続的にも違法というべきである。 カ退職強要による控訴人の権利侵害控訴人は,憲法9条の平和外交を実現すべく,自らの良心に従い(憲法19条),外務公務員としての憲法尊重擁護義務(憲法99条)を尽くそうとしており,控訴人には,その職責及び良心から「平和外交実現の職業的良心」(憲法9条,19条,99条)が憲法上の権利として認められる。 意見具申はこの良心の現れである。 控訴人は,意見具申を出した後も,自ら辞することを拒み,上記の「平和外交実現の職業的良心」を明確に示していた。 しかし,被控訴人は,控訴人に対する退職強要により,控訴人の「平和外交実現の職業的良心」を侵害し,その良心と職責の実現の機会を奪った。 - 62 -被控訴人の退職強要は,控訴人のかかる憲法上の重大な権利を侵害する行為であり,その違法性は重大である。 (7)控訴人の請求ア本件差止請求これまで述べてきたように,自衛隊を海外に派遣し,外国軍と一体となって戦争遂行に加わる本件派遣は,憲法9条に明白に違反し, 行為であり,その違法性は重大である。 (7)控訴人の請求ア本件差止請求これまで述べてきたように,自衛隊を海外に派遣し,外国軍と一体となって戦争遂行に加わる本件派遣は,憲法9条に明白に違反し,平和的生存権の一内容である控訴人の「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」を重大かつ根本的に侵害する場合に当たる。 もし,ひとたび「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」が侵害された場合,その侵害行為を排除することができなければ,この権利を回復することは不可能である。この権利侵害の救済に当たっては,人格権侵害の排除の場合と同様に,侵害行為の差止めが認められるべきである。 したがって,控訴人は,「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」の侵害を根拠に,民事訴訟上の請求として,今後,順次なされる自衛隊のイラクへの派兵の差止めを求める。 イ本件違憲確認請求これまで述べてきたように,本件派遣が,憲法9条等に反することは明らかである。 したがって,控訴人は,民事訴訟上の請求として,本件派遣が違憲であることの確認を求める。 ウ本件損害賠償請求(ア)平和的生存権の侵害これまで述べてきたように,控訴人は,自衛隊を海外に派遣し,外国軍と一体となって戦争遂行に加わる本件派遣という国家行為によって憲法の基本理念である平和主義を侵害されたことで,自らの種々の自由や権利を侵害され,精神的苦痛を被ったのであるから,侵害行為の違法性,- 63 -被侵害利益のいずれも明白である。 国家賠償法1条1項の要件との関係で敷衍すれば,イラク特措法の立法及びその後の改正を行った国会議員,本件派遣を小泉首相(開始当時)及び内閣の構成員並びにその後の首相及び内閣の構成員は,憲法尊重擁護義務に違反しているのみならず,小泉首相(開始当時)及び内閣の構成員並びにその後の首 行った国会議員,本件派遣を小泉首相(開始当時)及び内閣の構成員並びにその後の首相及び内閣の構成員は,憲法尊重擁護義務に違反しているのみならず,小泉首相(開始当時)及び内閣の構成員並びにその後の首相及び内閣の構成員は,イラク特措法にも反した処分行為を,それが違憲違法であることを認識しながら行い又は行った。 そして,控訴人は,日本政府が本件派遣を強行していることで,「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」を既に侵害されており,今後も,日本政府が自衛隊のイラク派兵を続けることにより,イラク市民を武力で抑圧する「加害者」となることを強いられ続け,これにより控訴人は耐え難い精神的苦痛を受ける。この精神的苦痛を金銭に換算することはできないが,敢えて換算した場合,1万円を下回ることは決してない。 (イ)退職強要による権利侵害控訴人は,免職を強いられたことによって,外務公務員としての地位を失っている。 特命全権大使であれば定年は65歳まであるが,控訴人は平成15年当時,56歳であり,その後定年まで得られたであろう経済的利益を不当に奪われたという権利侵害がある。 また,外交官という地位を不当に奪われ,外務公務員としての「平和外交実現の職業的良心」(憲法9条,19条,99条)も侵害されており,その精神的苦痛は著しく,受忍限度を超えることは明らかである。 (ウ)したがって,控訴人が受けた損害の一部として,1万円の慰謝料を請求する。 - 64 -(8)被控訴人の主張に対する反論被控訴人は,本件差止請求及び本件違憲確認請求は,法律上の争訟性を欠くなどとして不適法であるなどと主張する。しかし,以下のように被控訴人の主張は失当である。 アまず,被控訴人は,平和的生存権は具体的権利ではないから法律上の争訟性を欠くと主張するが,平和的生存権が憲法上明 して不適法であるなどと主張する。しかし,以下のように被控訴人の主張は失当である。 アまず,被控訴人は,平和的生存権は具体的権利ではないから法律上の争訟性を欠くと主張するが,平和的生存権が憲法上明確に権利として認められ,その具体的権利性を否定することはできないのは,前記(4)のとおりである。 また,本件においては,まず,平和的生存権の権利性とともに,侵害行為である本件派遣の不法性を検討すべきである。 すなわち,社会に存在する利益は,その種類によって尊重,保護すべき程度に差があり,強い権利に対する侵害行為は,弱い権利の侵害行為と比べて強い違法性を帯びるし,その侵害行為の態様も様々である。したがって,侵害行為の違法性の有無は,被侵害利益の種類と侵害行為の態様を相関的に考慮して判断すべきである。そして,相関関係の検討に際しては,まず,侵害行為の不法性の程度について検討した上で被侵害利益の射程範囲を検討すべきである。 これを本件にあてはめれば,平和的生存権が憲法上の権利として認められているかどうかという問題とともに,本件派遣の違憲・違法性を検討すべきであり,これなくして控訴人の請求を却下することはできない。そして,これまで述べてきたとおり,本件派遣は,憲法9条に反し,違法・違憲であることは明白であるばかりか,本件のように侵害行為の強度の不法性が推認される場合は,被侵害利益についての判断は柔軟になされるべきである。 イ被控訴人は,憲法上の司法権の行使には,具体的事件性が必要であるとして,憲法上の司法権(憲法76条1項)の範囲と裁判所法3条の「法律- 65 -上の争訟」を同視して議論を展開している。 しかし,現行訴訟法上は,客観訴訟のような裁判所法3条の「法律上の争訟」に該当しない訴訟形態も認めており,通説もこれを違憲とは考えていない。そも 65 -上の争訟」を同視して議論を展開している。 しかし,現行訴訟法上は,客観訴訟のような裁判所法3条の「法律上の争訟」に該当しない訴訟形態も認めており,通説もこれを違憲とは考えていない。そもそも裁判所法3条の「法律上の争訟」と憲法上の司法権の範囲が同一であるならば,裁判所法3条が定める「法律で特に定める場合」に該当する客観訴訟は,司法権の範囲を超えることになるはずである。仮に,これらの訴訟が憲法上の司法権の範囲を超えないとするならば,被控訴人の「本件訴訟は,民衆訴訟であり,現行訴訟法上これらの訴訟を認める法律がないから不適法な訴訟である」という主張は,法律レベルでは成り立っても,憲法レベルでは成り立たなくなる。 要するに,憲法レベルでの司法権の概念に内在する要件である具体的事件性とは,現行法上は客観訴訟とされる訴訟をも許容するものであり,本訴訟も裁判所法3条の「法律上の争訟」に入らなくとも憲法上の司法権の行使としては許されると理解すべきである。 ウさらに進んで,日本国憲法制定以来,裁判所の司法審査は,人権が侵害された場面でも,既存の訴訟法の訴訟要件や訴訟類型にあてはまるものだけが救済の対象とされ,これにあてはまらないものは全く救済されない事態が続いてきた。すなわち,現行訴訟法の認める範囲でしか憲法典に定められた人権は保障されていないのである。 しかし,憲法が人権保障のために,基本的人権侵害に対しては,たとえそれが立法による侵害であっても,司法的救済が与えられるべきであるという考えから日本国憲法の下での司法審査制が設けられたことに鑑みれば,憲法上の基本的人権は,単に司法審査の物差しとしての裁判規範性を有するだけではなく,自らの基本的人権を侵害され,あるいは侵害されようとしている者が積極的に憲法訴訟を提起し,実効性ある判決を求める ,憲法上の基本的人権は,単に司法審査の物差しとしての裁判規範性を有するだけではなく,自らの基本的人権を侵害され,あるいは侵害されようとしている者が積極的に憲法訴訟を提起し,実効性ある判決を求めることも憲法が保障していると考えるべきである。その意味で,憲法32条の「裁- 66 -判を受ける権利」は,日本国憲法の基本的人権全体に訴権性を付与することによって実体的請求権たらしめる手続的基本権であると理解されるべきである。 よって,基本的人権を侵害する行為があり,それを救済するために必要があるならば,裁判所が新たな訴訟類型や救済方法を創設すべきなのである(基本権訴訟)。 これは,議員定数不均衡訴訟最高裁判決(最高裁昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁)において,選挙権の平等に対する侵害を選挙無効の訴えで争えることを確認し,さらに救済方法として,事情判決の法理という独特の方法が認められたように,人権が侵害される場合に新たな訴訟類型や救済方法を創設することも裁判所の任務として最高裁自身が認めている。 被控訴人の主張(1)本件差止請求についてア控訴人は,本件派遣の差止めを求め,それを本件派遣という違憲違法の行為により控訴人の有する平和的生存権等が侵害されていることによる民事上の請求であると位置づけている。 イ(ア)ところで,裁判所法3条は,「裁判所は,…一切の法律上の争訟を裁判」すると規定している。すなわち,裁判所の審判の対象は「法律上の争訟」でなければならず,「法律上の争訟」といえるためには,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であること,②それが法令の適用により終局的に解決することのできるものであることの二つの要件を満たすことが必要であるとするのが確定した判例である(最高裁昭和27年 務ないし法律関係の存否に関する紛争であること,②それが法令の適用により終局的に解決することのできるものであることの二つの要件を満たすことが必要であるとするのが確定した判例である(最高裁昭和27年10月8日大法廷判決・民集6巻9号783頁,最高裁平成元年9月8日第二小法廷判決・民集43巻8号889頁)。 - 67 -(イ)この点,控訴人は,本件派遣は平和的生存権を侵害すると主張し,平和的生存権の具体的内容ないし核心部分として,「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」があるという。 しかしながら,平和的生存権の具体的権利性については,最高裁判所平成元年6月20日第三小法廷判決(民集43巻6号385頁)が,「上告人らが平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは,理念ないし目的としての抽象的概念であって,それ自体が独立して,具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえ」ないと判示し,同様の判断は,多数の裁判例によって繰り返し明確にされており,判例理論として確定しているものといえる。 実質的に検討しても,権利には極めて抽象的,一般的なものから,具体的,個別的なものまで各種,各段階のものがあるが,そのうち裁判上の救済が得られるのは具体的,個別的な権利に限られる。しかし,平和的生存権は,その概念そのものが抽象的かつ不明確であるばかりでなく,具体的な権利内容,根拠規定,主体,成立要件,法律効果等のどの点をとってみても,一義性に欠け,その外延を画することさえできない極めてあいまいなものであり,そのような平和的生存権に具体的権利性を認めることはできない。憲法前文2項で確認されている「平和のうちに生存する権利」は,平和主義を人々の生存に結びつけて説明するものであり,これをもって直ちに基本的人権の一つとはいえず,裁判上の 利性を認めることはできない。憲法前文2項で確認されている「平和のうちに生存する権利」は,平和主義を人々の生存に結びつけて説明するものであり,これをもって直ちに基本的人権の一つとはいえず,裁判上の救済が得られる具体的権利性を有するものと認めることはできない。 (ウ)よって,控訴人が主張する平和的生存権は,国民個々人に保障された具体的権利ということはできないし,「戦争や武力行使をしない日本に生存する権利」も平和的生存権を言い換えたものにすぎず実質的に同内容のものであるから,被控訴人との間で具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争が起こり得ないことは明らかである。 - 68 -そもそも,本件派遣は,控訴人に向けられたものではないし,控訴人の具体的な権利義務ないし法律関係に対し,何らの影響を及ぼすものではない。 結局のところ,控訴人は,自身の主観的利益に直接関わらない事柄に関し,国民としての一般的な資格・地位をもって上記請求をするものであり,本件を民事訴訟として維持するため,一見,具体的な争訟事件のごとき形式をとってはいるものの,その実質は,私人としての控訴人と,被控訴人との間に,利害の対立紛争が現存し,その司法的解決のために本件を提起したものではなく,本訴訟の目的が,国民の一人として日本国政府に政策の転換を迫る点にあることは明らかである。 そうすると,このような訴えは,①当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であることとの要件を欠き,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらないから,不適法である。 (エ)これに対して,控訴人は,平和的生存権の憲法上の根拠について,前文,9条,そして13条を主要なものとした第3章の人権規定が複合的に平和的生存権の根拠をなしている旨主張し,いわば,憲法9条に違反した行為 に対して,控訴人は,平和的生存権の憲法上の根拠について,前文,9条,そして13条を主要なものとした第3章の人権規定が複合的に平和的生存権の根拠をなしている旨主張し,いわば,憲法9条に違反した行為が平和的生存権を侵害する行為であるととらえている。しかし,内容面については憲法9条から借用し,主観的権利性については平和的生存権から借用して自らに都合よく切り貼りしたものにすぎず,独自の主張として法解釈論として成立していない。 また,控訴人は,平和的生存権は,政治的規範と法的規範からなり,前者は,政治的・立法的指針を示すものであり,後者は,4つの層に分類でき,その核心部分として他の人権の結びつき得ない領域において独自に主張される第四層があり,「その侵害の危険性が重大かつ根本的である場合」に平和的生存権を単独で裁判規範とすることができる旨主張する。しかし,このような主張では,裁判規範性を有する場合の平和的- 69 -生存権の内容は依然として全く特定されておらず,また,具体的権利性を有するための要件である「その侵害の危険性が重大かつ根本的である場合」とはいかなる意味を有するのか不明であるし,そもそも,権利侵害の危険性の程度によって,裁判規範性を有しなかったりするということはあり得ず,この点においても理論が破綻している。 加えて,控訴人は,実定訴訟法上認められていない訴訟類型であっても,憲法32条により,基本的人権の権利性が付与される旨主張する(基本権訴訟)。しかし,憲法32条は,不適法な訴えについてまで本案の裁判を受ける権利を保障したものではないし,他方,憲法は,訴訟類型・訴訟要件など訴えの適否に関する規定は置かず,憲法81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところに委ねているものと解され(最高裁昭和35年12月7日大法 方,憲法は,訴訟類型・訴訟要件など訴えの適否に関する規定は置かず,憲法81条の規定するところを除いてはこれをすべて立法の適宜に定めるところに委ねているものと解され(最高裁昭和35年12月7日大法廷判決,最高裁平成13年2月13日第三小法廷判決参照),上記控訴人の主張は,憲法の解釈を誤った独自の見解であり,明らかに失当である。 (オ)よって,本件差止請求は不適法であるから,却下されるべきである。 ウ仮に,本件差止請求の適法性の問題を措くとしても,かかる請求が成り立ち得るためには,控訴人が当該行為を差し止め得る私法上の権利を有していることが不可欠である。 ところが,上記のとおり,控訴人が差止請求権の法的根拠として主張する平和的生存権等は,いずれも国民個々人に保障された具体的な権利といえないことは明らかである。 よって,本件差止請求は,主張自体失当である。 (2)本件違憲確認請求についてア控訴人は,本件派遣により控訴人の平和的生存権が侵害されていることを根拠として,本件派遣が憲法違反であることの確認を求めている。 イしかし,上記のとおり,控訴人がその根拠とする平和的生存権等が国民- 70 -個々人に保障された具体的な権利とはいえない以上,本件派遣は,控訴人の具体的な権利義務ないし法律関係に直接関わらないものである。本件違憲確認請求は,控訴人が国民(主権者)としての一般的な資格,地位に基づき,日本国政府に政策の転換を迫るため,本件派遣について,抽象的に憲法適合性の判断を求めるものにほかならず,民衆訴訟の実質を有するものというべきであるから,裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法というほかない。 ウまた,確認の訴えは,原告の有する法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対して確認判決を得ることが必 裁判所法3条1項にいう「法律上の争訟」に当たらず,不適法というほかない。 ウまた,確認の訴えは,原告の有する法律的地位に危険又は不安が存在し,これを除去するため被告に対して確認判決を得ることが必要かつ適切な場合に限り許されるものである(最高裁昭和30年12月26日第三小法廷判決・民集9巻14号2082頁)。 ところで,控訴人が,本件違憲確認請求の根拠として主張する平和的生存権等は,上記のとおり,国民個々人に保障された具体的な権利とはいえないから,控訴人の有する法律的地位に何らの影響を及ぼすものではない。 また,控訴人が,本件派遣により何らかの具体的な権利侵害を被ったというのであれば,控訴人は,それを理由として損害賠償請求を求めれば足りるのであり,現に,本件損害賠償請求をも提起しているのであるから,これとは別個に本件派遣の違憲確認判決を求める利益はない。 エよって,本件違憲確認請求は,不適法であるから,却下されるべきである。 (3)本件損害賠償請求についてア平和的生存権等の侵害について(ア)控訴人は,本件派遣により控訴人の平和的生存権等が侵害され精神的苦痛を被ったとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料を請求している。 (イ)しかしながら,上記のとおり,控訴人が被侵害利益として主張する- 71 -平和的生存権等は,いずれも国民個々人に保障された具体的な法的権利とは認められず,いずれも国家賠償法上保護された利益とも認められない。 (ウ)この点,控訴人は,違法性は,被侵害利益の種類と侵害行為の態様を相関的に考慮して判断するべきであり,まず侵害行為の不法性の程度について検討した上で,被侵害利益の射程範囲を検討すべきであるなどと主張する。しかし,他人の法益を侵害すること自体がおよそ許されない私人間と異なり,公 判断するべきであり,まず侵害行為の不法性の程度について検討した上で,被侵害利益の射程範囲を検討すべきであるなどと主張する。しかし,他人の法益を侵害すること自体がおよそ許されない私人間と異なり,公権力の行使は,刑罰など法の定める一定の要件と手続の下では国民の法益を侵害することが許容されているから,法益の侵害があることをもって公権力の行使を直ちに違法とすることができないのはもちろん,侵害の程度によって違法性の有無が左右されるとすることも不合理である。したがって,国家賠償法上の違法性の判断基準として,上記控訴人の主張を採用することはできない。国家賠償法上の違法性は,法益侵害があることを前提として,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が,個別の国民に対して負う職務上の義務に違背したか否かによって決するのが相当であって,法益侵害が認められない場合には,国家賠償法上の違法性を認める余地はないというべきである。 イ退職強要による権利侵害について(ア)事実経過a控訴人は,平成13年1月,駐レバノン大使に任命され,同年2月に同国に着任した。 b控訴人は,平成15年3月14日,1回目の意見具申を外務大臣あてに電報で送付し,これを全在外公館に転電した(乙8)。 また,同月24日には,2回目の意見具申を外務大臣あてに電報で送付し,これを全公館(秘電報等の送信が可能な公館のみ)に転電した(乙9)。 - 72 -c上記意見具申に接したE官房長は,過去に他国において対イラク武力行使に反対して辞職をした閣僚等がおり,控訴人による意見具申が全在外公館に転電するなどの方法をとっていたことから,抗議の辞職をするつもりであるのか等について,控訴人がどれほどの決意を持って意見を具申したのかを確認するため,控訴人に電話連絡をした。控訴人は,E官房長に対し 電するなどの方法をとっていたことから,抗議の辞職をするつもりであるのか等について,控訴人がどれほどの決意を持って意見を具申したのかを確認するため,控訴人に電話連絡をした。控訴人は,E官房長に対し,我が国政府等に対して抗議する趣旨で辞職をするつもりはない旨を述べた。 また,いくつかの話題について話す中で,控訴人の人事異動の可能性に関する話も出た。 dE官房長は,平成15年の夏の人事異動を控えて各大使に対して異動の内示を行うなどしていたが,駐レバノン大使に着任して2年以上が経過していた控訴人に対しても電話をかけ,この異動期で勇退を求める旨を伝えた。 控訴人は特に異議は述べず,勇退後の国立大学への再就職あっせんに関して質問をした。 eG次官は,E官房長による2回目の電話連絡の後,控訴人宛てに,平成15年夏に勇退を願う旨の書簡を送付した(乙13)。 f我が国政府は,同年6月13日,イラク特措法の法案を衆議院に提出し,同案は同年7月4日に衆議院で,また,同月26日に参議院でそれぞれ可決され,同法が成立した。 g控訴人は,同年7月15日に帰朝を命じられ,このころ,当時の外務省大臣官房人事課長Hと電話で話をし,退職後の再就職先あっせんは不要であること,同年8月29日か同年9月2日ころに辞職し,退職手当をできるだけ早く受け取らせてもらいたい旨を伝えた。 h控訴人は,同年8月8日ころ,退官願(乙10)のほか,「8月29日付辞職で手続を進めていただくようお願いします。」,「退職金- 73 -はなるべくはやく入金できるよう会計課にあらかじめ手配していただくようお伝え下さい。」などと記載した書面(乙16の1・2)を含めた退職関係書類を外務省大臣官房人事課あてに送付し,速やかに退職手続と退職金支払手続を進めるよう依頼した。 i控訴人は,帰朝に当た くようお伝え下さい。」などと記載した書面(乙16の1・2)を含めた退職関係書類を外務省大臣官房人事課あてに送付し,速やかに退職手続と退職金支払手続を進めるよう依頼した。 i控訴人は,帰朝に当たり,同月19日,外務大臣あてに帰朝報告を電報で送付し(乙14),同月21日に帰朝した。この帰朝報告電報には,退職勧奨を受けたときは怒りを覚えたが,自らの言動と能力のなさを自覚して潔くこれを受け入れ,8月29日付をもって勧奨退職をすることになった旨が記載されている。 j外務大臣は,控訴人の退職を認めるよう内閣に対し申出をし,内閣は,同月29日,控訴人の退職を認める旨の閣議決定をし,同日,「願に依り本官を免ずる。」と記載された辞令に天皇による認証を得た(乙11。天皇の御名と内閣の印がないことは慣例によるもので,真正公文書であることは,御璽が押印されていることから明らかである。)。 kG次官は,平成15年9月1日,外務省事務次官室において,控訴人に対して上記辞令を交付し,その後,同室において控訴人の労をねぎらう趣旨で短時間懇談した。その際,控訴人がこれからは外務省批判を行っていく考えである旨を述べたのに対し,G次官は,控訴人が同年8月19日に送付した帰朝報告電報に言及した上で,そのようなことは,これまで外務省で勤務してきた自分自身の人生を否定することにもなってしまうのではないかとの趣旨の発言をした。 (イ)控訴人が待命大使とされていないこと控訴人は,外務公務員法12条を引用して,内閣により特命全権大使の任を解かれた場合でも,原則として待命大使としての地位が認められるとして,控訴人が,待命大使とされたなどと主張する。 - 74 -しかし,同法12条1項は,「在外公館の長たる大使及び公使その他在外公館に勤務する大使及び公使は,その在外公館に勤 の地位が認められるとして,控訴人が,待命大使とされたなどと主張する。 - 74 -しかし,同法12条1項は,「在外公館の長たる大使及び公使その他在外公館に勤務する大使及び公使は,その在外公館に勤務することを免ぜられたときは,新たに在外公館に勤務することを命ぜられるまでの間,待命となる。」と規定しており,この規定により,特命全権大使が待命大使になるのは,「在外公館に勤務することを免ぜられる。」場合である。 控訴人の場合,辞令において「願に依り本官を免ずる。」とされていることから明らかなように,同法8条1項に基づく大使の職を免ずる手続きがされており,同法12条1項に基づく在外公館に勤務することを免ずる手続きではなく,待命大使とはされていないのであって,かかる控訴人の主張は失当である。 (ウ)控訴人は,その意に反して外務公務員としての地位を失うのは懲戒事由がある場合に限られるとの主張が誤りであることa控訴人の退職がその意に反するものではないこと以下のとおり,控訴人は自ら退官願いに署名,押印してこれを提出しており,自らの意思で退官を願い出たことが明らかであるから,この点に関する控訴人の主張は前提を欠き,失当である。 すなわち,控訴人は,退職に当たり,「今般都合により退官いたしたいので御承認あるようお願いします。」と記載した退官願(乙10)に署名,捺印し,これを外務省大臣官房人事課に提出しているのであって(日付が空欄であることは慣例にすぎない。),自らの意思で退官を願い出たことは明らかである。 そして,仮に,控訴人が主張するE官房長やG次官の発言等が存在したとしても,かかる発言等によって,控訴人の自由な意思決定を阻害ないし著しく妨げたものとは到底認められないから,控訴人の退官の願い出が同人の自由な意思決定に基づいてなされたものであるこ 言等が存在したとしても,かかる発言等によって,控訴人の自由な意思決定を阻害ないし著しく妨げたものとは到底認められないから,控訴人の退官の願い出が同人の自由な意思決定に基づいてなされたものであること- 75 -は明らかである。 また,控訴人は,上記帰朝報告電報(乙14)において,「本使は8月29日付をもって勧奨退職をすることになった。自分と比してさして優秀とも思われない同僚や先輩が更なる大使を重ね,先の外務省の醜聞で明らかに責任があったと思われる連中が居残る中で,川口改革の一環であるとの不透明な理由で勧奨退職の命令を一方的に受けた時は,本使として心底怒りを覚えたものであるが,自らの言動と能力のなさを自覚して潔くそれを受け入れた。そして気持ちの整理がついた今となっては今後は外務省と一切関係のないところに身を置き自由な立場で第二の人生を送れることをうれしく思う。」と述べており,自己の意思で退職勧奨を受け入れ,退職を願い出たことを自分の言葉で明確に表明している。 さらに,控訴人は,E官房長による2回目の電話連絡において勇退を求められた際に何ら異議を述べていないし,その後も,外務省大臣官房人事課に対し,「退職関係の書類を同封しますので宜しくお願いします。」,「会計の方には退職金が退職後なるべく早く支給されるよう今から準備を進めるよう伝えておいて下さい。」などと記載した書面(乙16の1)や,「退官願いを同封しますので8月29日付辞職で手続を進めていただくようお願いします。」,「なお退職金は辞職後なるべくはやく入金できるよう会計課にあらかじめ手配していただくようお伝え下さい。」などと記載し,退職金の振込先口座番号を明示した書面(乙16の2)を送付するなどして,退職手続と退職金支払手続を進めるよう繰り返し依頼している。 これらの控訴人の行動 ていただくようお伝え下さい。」などと記載し,退職金の振込先口座番号を明示した書面(乙16の2)を送付するなどして,退職手続と退職金支払手続を進めるよう繰り返し依頼している。 これらの控訴人の行動からしても,また,控訴人自身が作成した文書の記載のみからしても,控訴人が自己の意思で退職勧奨を受け入れたことは明らかである。 - 76 -b特命全権大使の任免について広汎な裁量があることまた,特別職の国家公務員である特命全権大使であった控訴人の任免については,国家公務員法の適用はなく,専ら外務公務員法の定めによるところ,外務公務員法は,特命全権大使の任免については,同法8条1項において「大使及び公使の任免は,外務大臣の申出により内閣が行い,天皇がこれを認証する。」との規定を置き,同法施行令1条において「外務大臣は,特命全権大使の任免について,外務公務員法第8条第1項の規定による申出を行う場合において,必要があると認めるときは,外務人事審議会の意見を求めることができる。」とするのみで,免職事由を定めることもなく,その意に反して免職されることはないとの規定も置いていない。 そうすると,特命全権大使の任免につき,内閣は極めて広汎な裁量を有しており,その裁量権の範囲内である限り,たとえその意に反してでも特命全権大使を免職することができるものと解されるのであって,上記控訴人の主張はこの点においても失当である。 (エ)控訴人は,E官房長との電話のやり取りなどに言及しながら,同人らが行った退職勧奨行為は強要による違法な公権力の行使であり,国家賠償法上の違法行為に該当する旨主張する。しかし,控訴人は,E官房長からの電話連絡とG次官による書簡の送付(乙13)を受けた後,大使の職を失うことを十分に認識した上で退官願(乙10)を作成して提出し,退職の勧奨 行為に該当する旨主張する。しかし,控訴人は,E官房長からの電話連絡とG次官による書簡の送付(乙13)を受けた後,大使の職を失うことを十分に認識した上で退官願(乙10)を作成して提出し,退職の勧奨を受け入れており,その事実経過からして,上記の退職勧奨行為が違法とされる余地はない。 ウよって,本件損害賠償請求は,棄却されるべきである。

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