令和5(ネ)10021 特許権侵害差止等請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和5年11月28日 知的財産高等裁判所 2部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成30(ワ)20178
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判決文本文23,230 文字)

- 1 -令和5年11月28日判決言渡令和5年(ネ)第10021号特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成30年(ワ)第20178号)口頭弁論終結日令和5年9月7日判決 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 控訴人のために、この判決に対する上告及び上告 受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 用語の略称及び略称の意味は、本判決で付するもののほかは、原判決に従う。また、原判決の引用部分の「別紙」は全て「原判決別紙」を指す。 第1 控訴の趣旨 1 原判決中、控訴人の損害賠償請求をいずれも棄却した部分を取り消す。 2 被控訴人は、控訴人に対し、1億円及びこれに対する平成30年7月5日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は、第1、2審を通じて被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、発明の名称をいずれも「加熱器が改善された電気加熱式喫煙システム」とする本件各特許(特許第6210610号及び第6210611号)に係る本件各特許権の特許権者である控訴人(原審原告。以下「原告」という。)が、被告製品 1(原判決別紙物件目録記載の加熱式喫煙具)は本件各特許に係る発明の技術的範 - 2 -囲に属しており、被控訴人(原審被告。以下「被告」という。)によるこれらの輸入、販売、輸出及び販売の申出が本件各特許権を侵害すると主張し、被告による被告製品2(加熱式たばこ「Neostiks」)の輸入、販売、輸出及び販売の申出が本件 以下「被告」という。)によるこれらの輸入、販売、輸出及び販売の申出が本件各特許権を侵害すると主張し、被告による被告製品2(加熱式たばこ「Neostiks」)の輸入、販売、輸出及び販売の申出が本件各特許権の間接侵害(特許法101条1号又は2号)に当たると主張して、特許法100条1項及び2項に基づき、被告各製品の譲渡等の差止及び廃棄を求めると ともに、特許権侵害の不法行為(原告は外国法人であるが、加害行為の結果は日本で発生しているので、法の適用に関する通則法17条により日本法が準拠法となる。)に基づく損害賠償請求(一部請求)として、被告に対し、1億円(内訳は、被告製品1に係る不法行為につき5000万円、被告製品2に係る不法行為につき5000万円)及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年7月5日(訴状送達 の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号附則17条3項の規定によりなお従前の例によることとされる場合における同法による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決は、被告製品1は本件各特許に係る発明の技術的範囲に属するが、本件各特許には進歩性欠如の無効理由があるから、特許法104条の3第1項により、原 告は被告に対し、本件各特許権を行使することができないとして、原告の請求をいずれも棄却した。 原告は、原判決のうち、不法行為に基づく損害賠償請求をいずれも棄却した部分について不服があるとして控訴した。したがって、特許法100条1項及び2項に基づく各請求は、当審の審理の対象とはならない。なお、原告が控訴理由書第3に 記載した訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるものとして民事訴訟法297条、157条1項により却下されているため、当審における争点とはならない らない。なお、原告が控訴理由書第3に 記載した訂正の再抗弁は、時機に後れた攻撃防御方法であるものとして民事訴訟法297条、157条1項により却下されているため、当審における争点とはならない。 2 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張以下のとおり補正し、後記3において当審における原告の補充主張を付加するほ かは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2及び3並びに同「第 - 3 - 3 争点に関する当事者の主張」(原判決4頁2行目から171頁2行目まで)に記載するとおりであるから、これを引用する。 (1) 7頁3行目及び10頁1行目の各「に項記載」をいずれも「に記載」と改める。 (2) 12頁14行目を削る。 (3) 13頁15行目の「電気的絶縁基体」を「電気絶縁基体」と、14頁6行目の「好ましい」を「望ましい」と、15頁4行目の「本件明細書」を「本件各明細書」とそれぞれ改める。 (4) 20頁2行目及び26行目の各「接続器」をいずれも「接続部」と改める。 (5) 24頁18行目の「連続して」を「連続していて、」と、28頁21・22行 目の「被告の」を「原告の」とそれぞれ改める。 (6) 30頁12行目(行数は原判決左側欄外の数字による。以下同じ。)及び32頁24行目の各「下のグラフ」を「グラフ」と、31頁4行目の「上の図」を「図」とそれぞれ改める。 (7) 39頁23行目の「102条」を「101条」と、41頁21行目の「その 発明の課題」を「その発明による課題」とそれぞれ改める。 (8) 59頁2・3行目の「乙1発明2」を「乙1発明1」と、60頁14行目及び63頁11行目の各「乙1発明1」を「乙1発明2又は3」と、62頁20行目の「1F」を「1E」と、64頁 れ改める。 (8) 59頁2・3行目の「乙1発明2」を「乙1発明1」と、60頁14行目及び63頁11行目の各「乙1発明1」を「乙1発明2又は3」と、62頁20行目の「1F」を「1E」と、64頁1行目の「乙1発明」を「乙1発明1」と、同頁7行目の「乙1発明1」を「乙1発明2又は3」と、70頁25・26行目の「熱 絶縁によって」を「熱絶縁にとって」と、71頁8行目の「乙1発明2」を「乙1発明1」とそれぞれ改める。 (9) 76頁の10・11行目及び14・15行目をそれぞれ削り、77頁15行目の「相違点7」を「相違点8」と改める。 (10) 94頁11行目の「「管状」」を「「管状に巻かれ」」と、同頁12行目の「電 気絶縁性基体」を「電気絶縁基体」とそれぞれ改める。 - 4 -(11) 103頁25行目、104頁3行目及び同頁13行目の各「ヒータブレード」を「加熱器ブレード」とそれぞれ改める。 (12) 111頁16行目の「本件発明1-1と乙66発明は」を「本件発明2-6と乙68発明は」と改める。 (13) 123頁11行目の「プラグ形態としている」を「プラグ形態をしている」 と、同頁23行目の「エーロゾル形生材料」を「エーロゾル形成材料」とそれぞれ改める。 (14) 134頁の7・8行目及び11行目をそれぞれ削り、136頁7行目及び9行目の各「2C2D」を「2C、2D」とそれぞれ改め、139頁1行目の「から、」から同頁3行目の「3号)」までを削り、同頁8行目の「29条2項」を「29条1 項3号、同条2項」と、141頁8・9行目の「いくものあり」を「いくものであり」とそれぞれ改める。 (15) 153頁5行目の「上記周知技術により制御する」を「上記周知の構成の制御方法とする」と改める。 2項」と、141頁8・9行目の「いくものあり」を「いくものであり」とそれぞれ改める。 (15) 153頁5行目の「上記周知技術により制御する」を「上記周知の構成の制御方法とする」と改める。 (16) 160頁2行目の「別体の」を削り、同頁15行目の「乙7」を「乙7発明」 と改める。 (17) 163頁16行目の「電トラック」を「導電トラック」と改める。 (18) 166頁3行目の「本件明細書」を「本件各明細書」と、167頁20行目、168頁3行目及び5行目並びに170頁10行目の各「ハニカム構造」をいずれも「ハニカム構造体」とそれぞれ改める。 (19) 170頁22行目から171頁2行目までを削る。 3 当審における原告の補充主張本件各発明は、乙68発明から容易に想到できたものではなく、進歩性欠如の無効理由はない。 (1) 相違点11’及び12’の存在について(「エーロゾル形成基体」が「電気 加熱式喫煙システム」とは別体であること) - 5 -ア本件発明1-1及び2-1に係る特許請求の範囲の記載をみると、構成要件1A及び2Aは、「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システム」というものであり、わざわざ「受け取るための」としているのは、加熱器などを含む「電気加熱式喫煙システム」が、エーロゾル形成基体を受け取る前の状態を持ち得るからであって、これは、エーロゾル形成基体と、加熱器などを含む「電気加熱 式喫煙システム」とが別体でなければ成り立たない。 次に、本件各明細書には、「作動中に、エーロゾル形成基体は、電気加熱式喫煙システム内に完全に収容することができる。」、「作動中に、エーロゾル形成基体は、電気加熱式喫煙システム内に部分的に収容することができる。」(【0047】) 動中に、エーロゾル形成基体は、電気加熱式喫煙システム内に完全に収容することができる。」、「作動中に、エーロゾル形成基体は、電気加熱式喫煙システム内に部分的に収容することができる。」(【0047】)といった記載があり、作動中でないときには「収容する」前の状態にあること、すなわち、 エーロゾル形成基体と、電気加熱式喫煙システムが別体であることが端的に示されている。「電気加熱式喫煙システムは、エーロゾル形成基体を受け取るためにユーザによって把持されるように設計されたハウジングを更に含む。」(【0049】)との記載も、使用前の、エーロゾル形成基体を「受け取る前」の状態のものを「電気加熱式喫煙システム」と呼んでいることを示唆している。エーロゾル形成基体につい ての説明(【0038】以下)においても、加熱器まで含めたものを「エーロゾル形成基体」と呼んでいる例はなく、「エーロゾル形成基体」自体が加熱器を備える構成であってもよいことを示唆する記載は全く存在しない。むしろ、「好ましくは、外部加熱器の内径は、エーロゾル形成プラグの外径と同じか又はそれよりも僅かに大きい。」(【0025】)との記載があり、外部加熱器の内径と円筒形プラグの形態であ るエーロゾル形成プラグとの外径の寸法関係をあえて記載し、加熱器の内径がエーロゾル形成プラグの外径よりも「僅かに大きい」ものを好ましい例として記載しているのは、電気加熱式喫煙システムに含まれる加熱器と、エーロゾル形成基体(エーロゾル形成プラグ)とが別体であって、エーロゾル形成基体が加熱器の中に挿入される関係にあるからである。 以上に照らせば、本件発明1-1及び2-1においては、「エーロゾル形成基体」 - 6 -と、加熱器などを含む「電気加熱式喫煙システム」とは、別体である構成が規定さ にあるからである。 以上に照らせば、本件発明1-1及び2-1においては、「エーロゾル形成基体」 - 6 -と、加熱器などを含む「電気加熱式喫煙システム」とは、別体である構成が規定されているというべきである。 なお、本件各明細書に、エーロゾル形成基体を受け取る前の状態が存在しないような電気加熱式喫煙システムについての開示はないことについては争いがないところ、「受け取るための電気加熱式喫煙システム」の解釈として、「受け取るための」 との文言に反してまで、あえて明細書に開示の無い形態まで含めた広い解釈を採る理由がない。また、明細書の記載を参酌して特許請求の範囲の記載を解釈すべきことは、リパーゼ事件最高裁判決も否定していない。 イ本件発明1-1及び2-1においては「電気加熱式喫煙システム」が「加熱器」や「電源」を「含み」とされ、エーロゾル形成基体については電気加熱式喫煙 システムが「受け取るための」ものとされているのに対し、本件発明1-8及び2-8においては「電気加熱式喫煙システム」が「エーロゾル形成基体」を「含む」とされている。本件発明1-1及び2-1の「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システムであって、」は、「エーロゾル形成基体」をまだ受け取っていない状態を念頭に置いて、「電気加熱式喫煙システム」が「エーロゾル形成基体」 を「受け取るための」ものであること(「受け取る」のに適した構造を有していること)を規定しているのに対し、本件発明1-8及び2-8は、この「電気加熱式喫煙システム」がさらに「エーロゾル形成基体」を「含む」状態になったものを規定したものである。 原判決は、請求項8の文言に基づいて、請求項8とは別個の発明を規定する請求 項1の解釈を行っている点において構成要件の 「エーロゾル形成基体」を「含む」状態になったものを規定したものである。 原判決は、請求項8の文言に基づいて、請求項8とは別個の発明を規定する請求 項1の解釈を行っている点において構成要件の解釈手法に誤りがある。また、原判決は、「受け取る」とは、一般的に、「自分の所へ来たものを手で取って持つ。」(甲25)ことを意味するにすぎず、どの時点で「電気加熱式喫煙システム」に備わるかについては特定されていないとするが、かかる判示は「受け取るための」との文言を無視するものである。また、現行法の改善多項制の下では、各請求項の記載は それぞれ別の発明を特定するものとされ、各請求項に記載された発明に重なり合い - 7 -があってもよいとされているから、他の請求項の記載を引用する形式で記載された発明であっても、引用された側の発明(本件では請求項1)と引用した側の発明(本件では請求項8)との間に、前者が後者を包含しているという論理関係は必ずしも成り立たない。 ウこれに対し、乙68発明では、加熱器(包覆部3に縞状に設けられた導電材 料)はエーロゾル形成材料の側にあって一体の基体部分1を構成しているから、「加熱器と電源を含んでいる電気加熱式喫煙システム」がエーロゾル形成基体を「受け取る」ことはあり得ず、したがって、エーロゾル形成基体を「受け取るための」加熱器を含んだ電気加熱式喫煙システムという構成が存在しない。そして、乙68発明において、エーロゾル発生材料を含む基体部分1を「受け取る」側の部材として 記載された「吸入装置」は、電源や制御回路等を有するのみで、加熱器を有していないから、加熱器を含む電気加熱式喫煙システムでもない。 図2b:基体部分1(加熱要素が表面にある) 図5:吸入装置 (1”は基体部分1) 路等を有するのみで、加熱器を有していないから、加熱器を含む電気加熱式喫煙システムでもない。 図2b:基体部分1(加熱要素が表面にある) 図5:吸入装置 (1”は基体部分1) したがって、本件各発明が「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システム」であるのに対し、乙68発明はこのような構成を有しない点(相違点11’及び12’)で相違する。 (2) 相違点11’及び12’の容易想到性について エーロゾル形成材料と加熱器(包覆部3)を一体に設けることは、乙68発明の技術思想の中心をなす本質的な構成である。それにもかかわらず、乙68発明における本質的な構成を変更して、加熱器をエーロゾル形成材料の側ではなく、デバイ - 8 -ス側に設ける構成とし、これによって「加熱器と電源を含む電気加熱式喫煙システム」がエーロゾル形成基体を「受け取る」ことができるようにすることは、およそ当業者が想到するところではない。また、そのように乙68発明の構成を変更しようとすれば、デバイス構造の全面的な再設計が必要となることは明らかであるから、加熱要素がエーロゾル形成材料の至近距離に配置されることにより得られるエネル ギー効率、副煙流の減少、「簡単な基本構造」といった乙68発明の利点を捨ててまで、乙68発明の構成を変更しようとする動機付けは働かない。むしろ、乙68発明を本件発明1-1及び2-1のような「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システム」に変更することには阻害事由がある。 そうすると、本件発明1-1及び2-1は、乙68発明から容易想到とはいえな い。 (3) 相違点10の容易想到性について(「電気絶縁基体は、ポリイミドで形成」について)ア乙68発明は、エーロゾル形成材料と加熱器を び2-1は、乙68発明から容易想到とはいえな い。 (3) 相違点10の容易想到性について(「電気絶縁基体は、ポリイミドで形成」について)ア乙68発明は、エーロゾル形成材料と加熱器を一体の基体部分1として形成したものであり、本件発明1-1とは全く異なる構造であるから、仮にエーロゾル 形成材料の表面を被う包覆部内の一要素としてのポリイミドを採用したとしても本件発明1-1には至らない。 イ乙68発明において導電材料の基体にポリイミドを採用することには、積極的な動機付けが存在せず、かえって、①従来からシガレット製造に用いられてきた装置を用いて簡易な製造プロセスで製造できるという乙68発明の利点が失われる、 ②ポリイミドの「熱絶縁性」によって、発熱した導電材料からエーロゾル形成材料への効率的な熱伝達が妨げられる、③そのため、エーロゾル形成材料に最も近接した位置に加熱要素を配置するという乙68発明の基本的思想に逆行することになる、④紙巻タバコの巻紙として用いられてきた紙などの材料に比べて高価である、などの阻害要因がある。 よって、乙68発明におけるポリイミドの採用は容易に想到できるものではない。 - 9 -(4) 相違点11及び13の容易想到性について(「導電トラックの異なる部分を異なる持続時間・温度で制御する電子回路」について)ア乙68公報には、「逐次的に電流供給する」との記載はあるものの、供給する電流を区域によって変化させるとの記載は一切存在しない。乙68発明では、乙68公報の図2cのような同一幅、同一間隔で配置された「区域15」に逐次的に電 流供給することにより、「複数の吸引に渡って均質なエーロゾル収量が達成される」としているにすぎない。 また、乙68発明は、使用者が一吸いする(パ 、同一間隔で配置された「区域15」に逐次的に電 流供給することにより、「複数の吸引に渡って均質なエーロゾル収量が達成される」としているにすぎない。 また、乙68発明は、使用者が一吸いする(パフ)ごとに、エーロゾル形成材料を含んだ基体部分の異なる区域を順番に加熱していく方式をとっており、使用者の吸引ごとにタバコ材料が熱せられる領域(加熱領域)がほぼ同じ大きさとなること で、複数回の吸引にわたって均一な香味が達成され、「複数の吸引に渡って均質なエーロゾル収量」を達成している。 乙68発明において、相違点11にかかる構成(異なる持続時間・異なる温度で加熱する構成)を採用することについて、示唆も動機付けもなく、むしろ、「複数の吸引に渡って均質なエーロゾル収量」を達成するという乙68発明における本質的 な構成を変更してしまうものであるから阻害事由がある。また、乙68発明の電気加熱式喫煙システムは、加熱要素となる「区域15」がエーロゾル形成材料側(包覆部)に形成されており、これがハウジング20内のコンタクト(電極)21及び22に接触することにより電力の供給を受けて発熱するものであって、その電気的接続状態はコンタクトとの接触状態により変化し必ずしも安定したものとはならな いことは容易に想定される。このような乙68発明は、本来的に「エーロゾル収量」の微細な調整が困難な構造であるうえ、「本件発明のシステムは単純な構造である」(乙77・3頁)と記載されていることに照らせば、乙68発明において、あえて供給する電力を区域によって変化させることについての動機付けは存在しないし、また、そうすることについては阻害事由が存在する。 イ乙68発明の喫煙装置は、「電池ないし蓄電池51」を「電圧源」とするもの - 10 -である についての動機付けは存在しないし、また、そうすることについては阻害事由が存在する。 イ乙68発明の喫煙装置は、「電池ないし蓄電池51」を「電圧源」とするもの - 10 -であるが、乙68公報には、使用に伴う電源電圧の変化についての記載はなく、使用により電源電圧にどの程度の変化が生じ、それがエーロゾル収量にどの程度影響するかについては何ら記載も示唆もない。原判決は、乙68発明について、「電源電圧が徐々に低下し、同じ持続時間、通電したとしても、同じだけの電気エネルギーを供給することができなくなり、その結果、均質なエーロゾル収量が達成されなく なると考えられる」ことを、異なる持続時間・異なる温度で加熱する制御が必要となる理由として挙げている。しかし、仮に電源電圧の低下があったとしても、基体部分1のそれぞれの「区域」には、その低下した電源電圧に基づく電流が逐次供給されるだけで、エーロゾル収量は均一であるから、「電源電圧の低下」がなぜ、均質なエネルギー収量を達成するために「区域」ごとに「異なる持続時間」「異なる持続 温度」の電気エネルギーを供給することにつながるのか、技術的な理由が不明である。 ウ乙68公報の「複数の吸引に渡って均質なエーロゾル収量が達成される」の記載から、供給する電流を区域によって変化させることの示唆があるとする原判決の認定は、本件各発明を知った後の後知恵によるものである。 エ原判決は、内容の異なる制御、すなわち、㋐パフごとにエネルギー供給量を変化させて香味送達を選択的に変化させるための制御と、㋑パフごとに各加熱要素に供給する電力量を一定にするための制御を一括りにして、「加熱要素の異なる部分を異なる持続時間にわたって加熱されるように電力の供給を制御することによって、エーロゾルの発 御と、㋑パフごとに各加熱要素に供給する電力量を一定にするための制御を一括りにして、「加熱要素の異なる部分を異なる持続時間にわたって加熱されるように電力の供給を制御することによって、エーロゾルの発生量を調整することは、周知技術であった」と認定した上で、 乙68公報に上記㋑の示唆があるとして、上記㋐を適用することができるとしており、一貫性がない。また、周知技術の認定に用いた証拠(乙18、21、58、67、70、71)はいずれも同一の出願人(フィリップ・モーリス・インコーポレーテッド)のほぼ同時期の出願に係るもので、その実態は、一つの技術に関するものにすぎないから、これらをもって周知技術であるということはできない。 (5) 相違点12及び13’の容易想到性について(「熱絶縁要素が金属を含む」に - 11 -ついて)ア熱絶縁要素を金属で設けるのであれば、中空の構造などにして空気による断熱を行う必要があるはずであるため、それなりのスペースが必要になるはずであるが、乙68発明の構造上、金属を含む熱絶縁要素部材を設けるようなスペースはない。なお、本件発明2-1の「熱絶縁要素」は、ハウジングとは別の部材である(本 件明細書2の【0015】、【0016】)。 イ原判決は、「乙68発明の「吸入装置」が従来の紙巻タバコに代わる喫煙具を提供するものであり、当然にこれを手に持って使用することが予定されていることを併せ考えると、「区域15」を短時間しか加熱しないものであったとしても、熱絶縁要素を設ける必要性は否定できないというべきである。」などと判断したが、乙6 8公報には熱の問題は記載されていないのであるから、乙68発明ではハウジングを含めた装置の全体として熱の問題を解消している。 乙68発明では、加熱要素をエーロ ある。」などと判断したが、乙6 8公報には熱の問題は記載されていないのであるから、乙68発明ではハウジングを含めた装置の全体として熱の問題を解消している。 乙68発明では、加熱要素をエーロゾル形成材料と一体の包覆部に設けることにより、熱源を可能な限り近い空間に配置した構造となっており、しかも加熱は加熱ゾーンの一つ一つを、1パフの短い時間ごとに順に加熱していく方式であるため、 「熱損失を低減」するための熱絶縁要素の必要はなく、また、その加熱方式では器具自体が特に高温になることもないから、熱損失を低減して加熱器の温度を保ち、使用者をやけどから保護するための熱絶縁要素を設けることも必要ではない。加えて、そのような部材が「金属を含む」必要はないのであるから、金属を含む熱絶縁要素を設ける動機付けはないというべきである。乙68公報に開示も示唆もされて いない熱絶縁要素を採用し、その構成として、種々の中からあえて金属を採用するというのは、いわゆる「容易の容易」であって、それ自体容易とはいえないというべきであるか、少なくとも、相当の動機付けがなければ容易想到とはいえない。 ウ原判決は、乙68発明のように、各々の「区域15」が短時間加熱されるにすぎない場合であっても、熱絶縁要素を設ける必要性は否定できないというが、現 に、過去に原告が販売した乙66発明の実施品である「Accord」や「Hea - 12 -tbar」には熱絶縁要素は設けられていなかった。そして、乙68発明は、「基体部分1」が加熱要素とエーロゾル形成基体とが一体となったものであるから加熱効率が高く、パフ時における「各区域」の到達温度も乙66発明よりも低い。したがって、この種のデバイスを良く知る当業者の常識として、乙68発明において、熱絶縁要素を設ける必要 なったものであるから加熱効率が高く、パフ時における「各区域」の到達温度も乙66発明よりも低い。したがって、この種のデバイスを良く知る当業者の常識として、乙68発明において、熱絶縁要素を設ける必要があるなどとは考えない。原判決の判断は、結局のところ、 熱を発する道具であれば断熱要素が必要であろうという根拠のない推測をしたものにすぎず、技術的裏付けを欠いている。 エしたがって、相違点12及び13’は容易想到とはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、被告製品1は本件各特許の技術的範囲に属するものの、原告は 被告に対し、本件各特許権を行使することはできず、原告の損害賠償請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由は、以下のとおり補正し、後記2において当審における原告の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」(原判決171頁3行目から240頁24行目まで。以下「原判決の第4」という。)に記載するとおりであるから、これを引用す る。 (1) 171頁6行目の「本件明細書1の発明の詳細な説明」を「本件明細書1」と、191頁13行目の「本件明細書2の発明の詳細な説明」を「本件明細書2」と、同頁13・14行目の「本件明細書1の発明の詳細な説明」を「本件明細書1」と、同頁24行目の「過熱して」を「加熱されて」とそれぞれ改め、192頁1行 目から14行目までを次のとおり改める。 「「本発明」(本件各特許に係る発明)は、製造がより簡単で、その構成に必要な構成要素がより少ない電気加熱式喫煙システムを提供することを課題とするものである(【0004】」)。 イ 「本発明」は、前記アの課題を解決するため、第1の態様として、エーロゾ ル形成基体を受け取るための電気 ない電気加熱式喫煙システムを提供することを課題とするものである(【0004】」)。 イ 「本発明」は、前記アの課題を解決するため、第1の態様として、エーロゾ ル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システムを提供し、同システムは、基 - 13 -体を加熱してエーロゾルを形成するための加熱器と、加熱器に電力を供給するための電源とを含み、加熱器は、電気絶縁基体上に導電トラックを含み、導電トラックが抵抗加熱器及び温度センサの両方の作用をすることができるような抵抗温度係数特性を有する構成を採用した(【0005】)。また、第2の態様として、エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システムを提供し、同システムは、基体 を加熱してエーロゾルを形成するために電気絶縁基体上に導電トラックを含む加熱器と、加熱器に電力を供給するための電源と、加熱器を絶縁するための熱絶縁材料とを含む構成を採用した(【0012】)。」(2) 195頁22行目の「いては、」の次に「第2の態様(【0012】)においては採用されていない上、本件各明細書のその余の記載をみても、」を挿入する。 (3) 199頁1・2行目の「インターメタルチューブ」を「インナーメタルチューブ」と改める。 (4) 201頁4行目末尾に改行の上、次のとおり加える。 「 被告は、被告製品1において、本件各発明の「加熱器」に相当するものが、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が本件各発明の電気絶縁基体に対応するものであるとも主張する。しかし、本件各発明における「加熱器」は、「電気絶縁基体上に1つ又はそれよりも多くの導電トラックを含」むものとされているところ(構成要件1D、2C)、その特許請 体に対応するものであるとも主張する。しかし、本件各発明における「加熱器」は、「電気絶縁基体上に1つ又はそれよりも多くの導電トラックを含」むものとされているところ(構成要件1D、2C)、その特許請求の範囲の文言からは、加熱器において、電気絶縁基体の上に一つ以上の導電トラックが存在していれば足り、必ずしも一つの加 熱器が一つの電気絶縁基体及びその上に配された一つ以上の導電トラックのみから構成されることを意味するものと解することはできず、電気絶縁基体の上に存在する導電トラックの更に上に、電気絶縁基体を含む別の部材が存在するような構成もなお、構成要件1D及び2Cの規定する加熱器の構成を有すると解するのが自然である。また、複数の部材がポリマー接着剤等で接着された場合に、各部材の取り外 しが困難であるとの事情があるとしてもそれは複数の部材の組み立て方の問題にす - 14 -ぎず、接着された複数の部材の集合を一つの部材であるものと評価すべきということはできない。そして、このような解釈は、本件各明細書における本件各発明の作用効果その他の記載と矛盾するものではない。」(5) 205頁26行目の「特定の望ましい温度」を「加熱するが燃やさない程度の温度」と改める。 (6) 208頁19行目の「熱絶縁方法」を「熱絶縁材料」と、同頁20行目の「空気腔が」を「空気腔を含むものが」と、209頁19・20行目の「「金属」により」を「熱絶縁要素に含まれる「金属」により」とそれぞれ改める。 (7) 220頁10行目の「と記載」を「、「前記少なくとも1つの加熱器は、前記エーロゾル形成基体を取り囲み又は部分的に取り囲む、」(構成要件1F)と記載」 と改め、同頁25行目の「本件発明1-1」から221頁11行目の「特定されていないというべきで つの加熱器は、前記エーロゾル形成基体を取り囲み又は部分的に取り囲む、」(構成要件1F)と記載」 と改め、同頁25行目の「本件発明1-1」から221頁11行目の「特定されていないというべきである。」までを次のとおり改める。 「上記の本件発明1-1及び2-1に係る特許請求の範囲の記載によると、「エーロゾル形成基体」を「受け取る」のは「電気加熱式喫煙システム」であり、本件発明1-1については「エーロゾル形成基体」を「加熱器」が取り囲む旨の記載は あるものの、「エーロゾル形成基体」を「受け取る」場合の具体的な態様や部材については特定されていない。しかし、上記各記載によると、本件発明1-1及び2-1の「電気加熱式喫煙システム」に含まれる「加熱器」が、「エーロゾル形成基体」を「取り囲む」ことになる以上、「エーロゾル形成基体」は電気加熱式喫煙システムの加熱器に取り囲まれる形で同システムに収容されることが想定されていると考え られる。さらに、本件発明1-8及び2-8は、本件発明1-1及び2-1の「電気加熱式喫煙システム」のうち、「エーロゾル形成基体」を「含む」ことを特徴とするものであるから、結局、本件各発明における「電気加熱式喫煙システム」は、「エーロゾル形成基体」を収容する構成を有するものであると認めるのが相当である。 なお、「電気加熱式喫煙システム」を構成する各要素は、遅くともユーザが喫煙す る時点までには具備される必要があると解されるものの、それ以前のどの時点で「電 - 15 -気加熱式喫煙システム」に備わるかという点については、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載において特定はされていないというべきである。」(8) 222頁1行目から同頁10行目までを次のとおり改める。 「b 前記ア(イ)のとおり、乙68発明 いては、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載において特定はされていないというべきである。」(8) 222頁1行目から同頁10行目までを次のとおり改める。 「b 前記ア(イ)のとおり、乙68発明は、電気加熱式喫煙システムであって、その基体部分において、エーロゾル形成材料が包覆部に取り囲まれているものである から、エーロゾル形成基体を収容する構成を有しているといえる。」(9) 222頁22行目の「本件明細書」を「本件各明細書」と、同頁23行目の「電気加熱器式喫煙システム」を「電気加熱式喫煙システム」と、223頁5行目、8行目及び14行目の各「加熱器」を「電気加熱式喫煙システム」と、同行目の「別体であること」を「別体でなければならないこと」と、それぞれ改め、同頁23行 目から25行目までを次のとおり改める。 「しかし、乙68公報には、ハウジングが熱に対してどのような特徴を有しているかについての記載はなく、ハウジングが加熱器を絶縁するために加熱器の周りに配置された熱絶縁要素であることを示す記載もない。」(10) 225頁5行目の「成形品」を「成型品」と、230頁4行目の「論路回路」 を「論理回路」と、231頁22行目の「抵抗加熱器」を「抵抗加熱機器」と、同頁23行目の「前記ア(ア)a、b(a)」を「前記ア(ア)a、b(a)及び(e)」と、同頁24行目の「それぞれに電力を供給する」を「別々に制御して電気的出力を供給する」と、同頁25行目の「同b(e)」を「同a、b(e)」と、同頁26行目の「電力を供給する」を「電流供給をする」とそれぞれ改める。 (11) 232頁4行目から同頁17行目までを次のとおり改める。 「このように、別々に電流供給を制御できる複数の部分に逐次的に電流を供給することで、順次、新しい部分が それぞれ改める。 (11) 232頁4行目から同頁17行目までを次のとおり改める。 「このように、別々に電流供給を制御できる複数の部分に逐次的に電流を供給することで、順次、新しい部分が加熱されることにより、均質なエーロゾル収量が達成されることが記載されていることからすると、乙68公報には、上記各部分への電流供給を制御することを通じて均質なエーロゾル収量を達成することが望ましい ことが示唆されているといえる。また、前記のとおり、本件優先日当時、電気加熱 - 16 -式喫煙物品の分野において、加熱要素の異なる部分が異なる持続時間にわたって加熱されるように電力の供給を制御することによって、エーロゾル発生量を調整することは、周知技術であったと認められる。そうすると、乙68発明について、均質なエーロゾル収量その他の望ましいエーロゾル収量を得るために、当該周知技術を適用して、加熱要素となる複数の「区域15」のうち異なる部分が、異なる持続時 間にわたって加熱されるように電力の供給を制御することについての動機付けがあるといえるから、当業者は、乙68発明に周知技術を組み合わせることによって、相違点11及び13に係る構成を容易に想到することができたと認めるのが相当である。」(12) 234頁9・10行目の「異なる持続時間となるように」を「エーロゾル発 生量を調整するために」と、同頁11行目の「さらに」から同頁16・17行目の「考えられる。」までを「さらに、乙68発明の電気加熱式喫煙システムは、「電池ないし蓄電池51」を「電圧源」として電力を供給するところ(同a、b(f))、使用中に電源電圧が徐々に低下するなどの問題が生じる可能性があり、このような電圧源の状況その他の要因により、同じ持続時間、通電したとしても、同じだけ 源」として電力を供給するところ(同a、b(f))、使用中に電源電圧が徐々に低下するなどの問題が生じる可能性があり、このような電圧源の状況その他の要因により、同じ持続時間、通電したとしても、同じだけの電 気エネルギーを供給することができなくなり、その結果、均質なエーロゾル収量が達成されなくなる場合があると考えられる。」と、同頁21行目の「上記②について」から同頁24行目の「なお、」までを「上記②に関し、」と、235頁13行目の「前記aの各実施例」を「前記aの各文献に記載された発明」とそれぞれ改める。 (13) 236頁14行目の「利点がある。」」の次に「(【0017】)」を、同頁19 行目の「関する。」」の次に「(8頁)」を、同頁21行目の「を含む。」」の次に「(15頁)」をそれぞれ挿入し、238頁1行目、同頁6行目及び同頁6・7行目の各「抵抗加熱器」を「抵抗加熱機器」と、同頁2行目の「前記ア(ア)a、b(a)」を「前記ア(ア)a、b(a)及び(e)」と、同頁4行目の「エーロゾルを吸収することができる(同b(g))」を「エーロゾルを供給することができる(同a、b(g))」とそれぞれ改め る。 - 17 -(14) 240頁22行目の「本件各特許は無効にされるべき」を「本件特許1のうち請求項1、3、4及び8に係る部分並びに本件特許2のうち請求項1、6、7及び8に係る部分は無効にされるべき」と改める。 2 当審における原告の補充主張に対する判断(争点2-3(本件各発明についての乙68公報を主引用例とする進歩性欠如)について) (1) 相違点11’及び同12’の存在についてア原告は、構成要件1A及び2Aは「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システム」というものであるところ、「受け取るた いて) (1) 相違点11’及び同12’の存在についてア原告は、構成要件1A及び2Aは「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システム」というものであるところ、「受け取るための」としているのは、加熱器等を含む「電気加熱式喫煙システム」が、エーロゾル形成基体を受け取る前の状態を持ち得るからであって、これは、エーロゾル形成基体と、加熱器等を 含む「電気加熱式喫煙システム」とが別体でなければ成り立たないと主張する。 しかしながら、補正の上引用した原判決の第4の3(1)ウ(ア)において判示したとおり、本件各発明における「電気加熱式喫煙システム」は、「加熱器」と「電源」を含み、かつ、「エーロゾル形成基体」を収容する構成を有するものであり、「電気加熱式喫煙システム」を構成する各要素は、遅くともユーザが喫煙する時点までには 具備される必要があると解されるものの、それ以前のどの時点で「電気加熱式喫煙システム」に備わるかという点については、本件各発明に係る特許請求の範囲の記載において特定はされていないと認めるのが相当である。 そもそも、一般に、「システム」が、「複数の要素が有機的に関係しあい、全体としてまとまった機能を発揮している要素の集合体。」(広辞苑第六版。平成20年発 行)を意味することからすると、「電気加熱式喫煙システム」とは、「有機的に関係しあい、全体としてまとまった、電気加熱式喫煙機能を発揮する要素の集合体」といった意味を有することになる。したがって、有機的に関係し、全体としてまとまった喫煙機能を発揮するものである限り、本件各特許の特許請求の範囲の記載からは、本件各発明の「電気加熱式喫煙システム」の各要素が、その使用前、使用後を 通じ、常に物理的に一体であることまでを要件とするものと認めること のである限り、本件各特許の特許請求の範囲の記載からは、本件各発明の「電気加熱式喫煙システム」の各要素が、その使用前、使用後を 通じ、常に物理的に一体であることまでを要件とするものと認めることはできない。 - 18 -使用時に収容されていることにより、全体としてまとまった喫煙機能を発揮するものであれば、本件各発明の「電気加熱式喫煙システム」を構成する要素になるというべきである。 そして、本件各特許の請求項1の文言からは、電気加熱式喫煙システムが、加熱器と電源をその要素として含み、エーロゾル形成基体を収容するものであることが 認められ、同請求項8の文言上、「電気加熱式喫煙システム」にエーロゾル形成基体が含まれ、当該システムの要素となるような状態になることが明らかである一方、「エーロゾル形成基体」の一部又は全部が別体として電気加熱式喫煙システムの要素にはならないことまで特定されているわけではない。そうすると、構成要件1A及び2Aの「電気加熱式喫煙システム」は、その要素として「加熱器」及び「電源」 を含み、かつ、「エーロゾル形成基体」を収容する機能を有し、「エーロゾル形成基体」が「電気加熱式喫煙システム」に含まれることにより、当該システムの要素として機能することができる構成のものであれば足りるのであり、この点において、乙68発明は、本件各発明と構成が異なるところはないというべきである。 以上のように解するならば、原告の指摘するように、本件各明細書に、エーロゾ ル形成基体が電気加熱式喫煙システム内に収容される旨の記載(【0047】)やユーザがハウジングを把持してエーロゾル形成基体を受け取る旨の記載(【0049】)があること、本件各明細書において、加熱器まで含めたものを「エーロゾル形成基体」と呼んでいる例がないこと 047】)やユーザがハウジングを把持してエーロゾル形成基体を受け取る旨の記載(【0049】)があること、本件各明細書において、加熱器まで含めたものを「エーロゾル形成基体」と呼んでいる例がないことは、いずれも、本件各発明において、エーロゾル形成基体が「電気加熱式喫煙システム」の構成要素にならないと解する理由にはなら ない。 イ原告は、本件発明1-8及び2-8に係る請求項の記載は、本件発明1-1及び2-1の「電気加熱式喫煙システム」に「エーロゾル形成基体」を含むことの根拠とはならないと主張するが、本件各明細書に記載された各用語は統一的に理解されるべきであるから、請求項1に用いられた用語の意義を解釈するに当たり、請 求項8の記載も併せて考慮し、特許請求の範囲の記載の全体を通じて矛盾なく解釈 - 19 -しようとすることは正当である。 ウ原告は、乙68発明では、加熱器(包覆部3に縞状に設けられた導電材料)はエーロゾル形成材料の側にあって一体の基体部分1を構成しているから、「加熱器と電源を含んでいる電気加熱式喫煙システム」がエーロゾル形成基体を「受け取る」ことはあり得ないと主張するが、本件各発明における「電気加熱式喫煙システ ム」は、「加熱器」「電源」及び「エーロゾル形成基体」の各部分の一体化の有無やその程度について特定の構成に限定するものであるとは認められない。そして、乙68発明は、引用した原判決の第4の3(1)ア(イ)のとおり、エーロゾル形成材料を取り囲む包覆部に複数の区域15が形成され、これがエーロゾル形成材料を加熱する抵抗加熱機器を形成する「基体部分」と、ハウジング及び電圧源と接続されてい るコンタクト(共通の環状コンタクトと複数の個別のコンタクト)を備える「吸入装置」とからなり、吸入装置が、コン 熱する抵抗加熱機器を形成する「基体部分」と、ハウジング及び電圧源と接続されてい るコンタクト(共通の環状コンタクトと複数の個別のコンタクト)を備える「吸入装置」とからなり、吸入装置が、コンタクトを介して基体部分に電気的出力を供給することで、エーロゾル形成材料を加熱して吸入可能なエーロゾルを供給する電気加熱式喫煙システムであるから、乙68発明のシステムが、エーロゾル形成材料を含む「基体部分」を、ハウジングを含む「吸入装置」に収容する機能を有するとい うことができる。 そうすると、乙68発明は、「エーロゾル形成基体を受け取るための電気加熱式喫煙システム」に相当する構成を有しているものと認められる。 エしたがって、本件各発明と乙68発明の間には、相違点11’及び12’は存在しない。 (2) 相違点10の容易想到性についてア原告は、乙68発明は、エーロゾル形成材料の表面を被う包覆部(いわば紙巻タバコの巻紙に相当する部分)に導電性材料からなる加熱要素を設けることで、エーロゾル形成材料と加熱器を一体の基体部分1として形成したものであり、本件発明1-1とは全く異なる構造であるから、仮に包覆部内の一要素としてのポリイ ミドを採用したとしても本件発明1-1には至らないと主張している。この主張は、 - 20 -本件各発明において、エーロゾル形成材料と加熱器が別体であることを前提としたものであるところ、前記(1)のとおり、本件各発明は、「電気加熱式喫煙システム」について、「加熱器」「電源」及び「エーロゾル形成基体」の各部分の一体化の有無並びにその程度について特定の構成に限定するものではないから、エーロゾル形成材料と加熱器が一体の構成を有する場合であっても、本件各発明の技術的範囲に含 まれ得るのであって、上 部分の一体化の有無並びにその程度について特定の構成に限定するものではないから、エーロゾル形成材料と加熱器が一体の構成を有する場合であっても、本件各発明の技術的範囲に含 まれ得るのであって、上記原告の主張はその前提を欠くものである。 イ原告は、乙68発明に熱絶縁性に優れたポリイミドを用いると、加熱要素15からエーロゾル形成材料への熱伝達効率を下げることとなり、乙68発明の基本的な思想に反すると主張するが、ポリイミドが「熱絶縁性」に優れているとしても、その厚みを調整すること等により、熱伝達効率の低下を回避することが可能である から、原告の上記主張は採用することができない。 ウ原告は、乙68発明の非導電性物質(電気絶縁基体)としてポリイミドを採用することについて動機付けがなく、複数の阻害要因があると主張するが、引用した原判決の第4の3(1)エ(ア)cに判示するとおり、いずれも採用することができない。 (3) 相違点11及び13の容易想到性について ア原告は、乙68公報には、「逐次的に電流供給する」との記載はあるものの、供給する電流を区域によって変化させるとの記載は一切存在しておらず、相違点11及び13に係る構成(異なる持続時間・異なる温度で加熱する構成)を採用することについて示唆がないと主張する。 しかしながら、補正の上引用した原判決の第4の3(1)エ(イ)a(a)のとおり、米国 特許第5505214号明細書(乙21、76)には、「電源22によって供給される電圧はパフごとに変化しうるので、各加熱器が同じ時間にわたって作動させられるとすれば、電源22によって供給される電力およびエネルギーは、一般に、パフごとに変化することになる。…例えば、一定のエネルギーを供給するために、制御回路24は、加熱器が作動し わたって作動させられるとすれば、電源22によって供給される電力およびエネルギーは、一般に、パフごとに変化することになる。…例えば、一定のエネルギーを供給するために、制御回路24は、加熱器が作動している間、電源22の負荷電圧を監視し、約20ジュ ールのエネルギーが供給されるまで加熱器に電力を供給し続ける。」との記載があ - 21 -り、同a(b)のとおり、国際公開第94/06314号(乙67)には「電源37によって供給される電圧はパフごとに変化しうるので、各加熱要素43を同じ時間だけ作動させることにより、可変量の電力及びエネルギーを提供する場合よりも、各パフに対して一定量のエネルギーを供給することが好ましい。一定のエネルギーを供給するために、制御回路541は、加熱器要素43が作動させられている間、電 源37の負荷電圧を監視し、所望のジュール値のエネルギーが供給されるまで加熱器要素に電力を供給し続ける。」との記載がある。これらの記載に照らすと、加熱器が同じ時間にわたって作動したとしても、パフごとに供給される電力が変化し得るため、一定量のエネルギーを供給するために電力の供給時間を変化させる必要があることが認識されていたということができ、このことは、本件優先日当時の周知技 術であったと認められる。すなわち、乙68発明において、複数の加熱要素(「区域15」)が均一の大きさを有しており、かつ、同じ時間にわたって加熱要素を作動させたとしても、パフごとに供給される電力は変化し得るから、各区域が均一な大きさに区分されていることだけから直ちに、複数の吸引にわたって均質なエーロゾル収量が達成されるとはいえない。 そうすると、乙68発明においても、パフごとに変化し得る電圧に対応して均一なエネルギー供給をするため、「電気加熱式 に、複数の吸引にわたって均質なエーロゾル収量が達成されるとはいえない。 そうすると、乙68発明においても、パフごとに変化し得る電圧に対応して均一なエネルギー供給をするため、「電気加熱式喫煙物品の分野において、加熱要素の異なる部分が異なる持続時間にわたって加熱されるように電力の供給を制御することによって、エーロゾル発生量を調整する」という周知技術(補正の上引用した原判決の第4の3(1)エ(イ)b)を適用する動機付けがあったと認めるのが相当である。 イ原告は、内容の異なる制御、すなわち、㋐パフごとにエネルギー供給量を変化させて香味送達を選択的に変化させるための制御と、㋑パフごとに各加熱要素に供給する電力量を一定にするための制御を一括りにして周知技術を認定したり、その適用を検討したりすることは一貫性がないと主張するが、上記㋐と上記㋑の制御は、望ましい香味を得るために加熱要素へのエネルギー供給量を調整するという点 において共通するから、これらの制御を記載した文献を根拠として、「電気加熱式喫 - 22 -煙物品の分野において、加熱要素の異なる部分が異なる持続時間にわたって加熱されるように電力の供給を制御することによって、エーロゾル発生量を調整すること」という周知技術を認定し、その適用を検討することは相当である。 ところで、原告は、上記周知技術の認定に用いた証拠(乙18、21、58、67、70、71)はいずれも同一の出願人(フィリップ・モーリス・インコーポレ ーテッド)のほぼ同時期の出願に係るもので、その実態は、一つの技術に関するものにすぎないから、これらをもって周知技術であるということはできないと主張するが、上記各証拠がいずれも公開された特許文献であることや、当該技術が実際に販売され、市場に広く流通した商品 技術に関するものにすぎないから、これらをもって周知技術であるということはできないと主張するが、上記各証拠がいずれも公開された特許文献であることや、当該技術が実際に販売され、市場に広く流通した商品であると認められる電気加熱式喫煙物品に関するものであることからすれば、これらが、同一の出願人によりほぼ同時期に出願さ れた電気加熱式喫煙物品に係る発明に関する文献であるとしても、上記各証拠から上記周知技術を認定することは妨げられないというべきである。原告の上記主張は採用することができない。 (4) 相違点12及び13’の容易想到性について原告は、乙68発明には熱絶縁要素を設ける動機付けがないと主張する。しかし、 乙68発明のような加熱器を含みかつ手で取り扱うことが予定される物品については、使用者がやけどをすることがないようハウジング又はハウジングと加熱器との間に何らかの熱絶縁要素を要することは自明のことであるから、通常、熱絶縁要素を適用する動機付けが存在すると考えられる。 原告は、乙68公報には熱の問題は記載されていないから、乙68発明ではハウ ジングを含めた装置の全体として熱の問題を解消しており、1パフの短い時間ごとに順に加熱するという乙68発明の加熱方式では器具自体が高温になることもないから、使用者をやけどから保護するための熱絶縁要素部材を設ける必要はないとも主張する。しかし、乙68公報には熱の問題が記載されていないとしても、ハウジングを含めた装置の全体として熱の問題を解決している旨の記載もないから、乙6 8公報の内容から、乙68発明が装置の全体として熱の問題を解決した発明である - 23 -などと認めることはできない。加熱器を用いた物品でかつ手に持って使用する物品に熱の問題があることは、加熱器が作動す 容から、乙68発明が装置の全体として熱の問題を解決した発明である - 23 -などと認めることはできない。加熱器を用いた物品でかつ手に持って使用する物品に熱の問題があることは、加熱器が作動する時間が短い場合でも変わらないから、原告が主張する点は、乙68発明に熱絶縁要素を適用することについて動機付けが存在することを否定する理由にならない。乙68発明の実施においてハウジングが熱絶縁の機能を有している場合があり得るとしても、そのことは、およそ乙68発 明において熱の問題が存在しないことを意味するものではない。 その他、原告は、乙68発明の構造からして熱絶縁要素部材を設けるスペースがないと主張するが、同主張は、乙68公報に記載された特定の図面(図5)における構造を前提とするものであるところ、同図面は乙68公報に記載された発明の実施態様の一つにすぎず、乙68発明において熱の問題を解決する動機が存在しない ことを示すものということはできない。 以上によれば、乙68発明については熱絶縁要素を適用する動機付けが存在し、これを否定し、又は適用を阻害する要因は認められず、補正の上引用した原判決(第4の3(1)エ(ウ)b)のとおり、加熱器の周りに金属を用いた熱絶縁要素を設けることは電気加熱式喫煙物品の分野において周知技術であったから、相違点12及び1 3’に係る構成については容易想到性が認められるというべきである。原告の主張は採用することができない。 3 結論以上の次第で、原告の損害賠償請求をいずれも棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 清水響 裁判官浅井憲 裁判官勝又来未子 別紙当事者目録 控訴人フィリップ・モーリス・プロダクツ・ソシエテ・アノニム 同訴訟代理人弁護士古城春実 堀籠佳典 牧野知彦 岡田健太郎 同訴訟復代理人弁護士岸慶憲 同補佐人弁理士須田洋之 被控訴人ブリティッシュ・アメリカン・タバコ・ジャパン合同会社 同訴訟代理人弁護士設樂隆一 佐藤慧太 菅原高志 橋美智留 大野聖二 小林英了 同訴訟復代理人弁護士高林龍 同訴訟代理人弁理士今村玲英子 同補佐人弁理士 林英了 同訴訟復代理人弁護士高林龍 同訴訟代理人弁理士今村玲英子 同補佐人弁理士小曳満昭 池田成人以上

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