【DRY-RUN】主 文 本件控訴を棄却する。 理 由 本件控訴の趣意は弁護人山下卯吉提出の控訴趣意書記載の通りであるからこれを 引用し、次のとおり判断する。 控訴趣意第一点
主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は弁護人山下卯吉提出の控訴趣意書記載の通りであるからこれを引用し、次のとおり判断する。 控訴趣意第一点(イ)について、原判決の掲げた証拠を綜合すれば、原判示事実を認めるに充分であつて、右証拠によれば被告人は日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(以下行政協定と略記する)によつてわが国がアメリカ合衆国(以下合衆国と略記する)にその使用を容認した施設区域である合衆国空軍A基地の空軍憲兵隊の補助機関として使用され、同憲兵隊長以下担当憲兵将校下士官の指揮命令のもとに絶対服従の関係に立つ右基地民間警備隊の一員ではあるが、右警備隊は隊長以下すべて日本国政府によつて供給される日本人を以つて構成されており、被告人もまた日本の国籍のみを有し、合衆国軍隊の構成員軍属またはこれらの者の家族でないことは原判決の認めるとおりであるから、(所論の統一軍法は合衆国の軍事法規であつてもとより日本国の領域内における日本人の身分またはその服すべき裁判権の所在を探究するよすがとなるものではない。)被告人が日本国の裁判権に服すべきものであることは勿論であつて、そうである以上、本件について日本国の裁判所においてわが国の法令に準拠して審判すべきことは当然であり、以上の説明に反する所論はいずれも独自の見解であつて、採用することはできない。 次に所論は被告人の本件行為は正当な業務によるものであるから、違法性を阻却するものであるのに、原判決が被告人を業務上過失致死罪として有罪の言渡をしたのは、法令の解釈を誤つたものであるというのであるが、ある業務に従事する者がその業務の執行に際して業務上遵守すべき注意を怠り、よつて人を死傷に致したときは、その所為は刑法第二百十一条 罪の言渡をしたのは、法令の解釈を誤つたものであるというのであるが、ある業務に従事する者がその業務の執行に際して業務上遵守すべき注意を怠り、よつて人を死傷に致したときは、その所為は刑法第二百十一条前段に該当し、同条所定の処罰を免かれることができないことはいうまでもなく、その業務が適法であつたかどうか、被告人が右業務の適法であることを信じていたかどうかは、その罪責に影響を及ばさないものと解すべきである。 また合衆国当局は合衆国軍隊が行政協定に基いて使用する施設及び区域内においては専属的に逮捕権を有するが、右施設及び区域外においてはただ、その近傍で、当該施設又は区域の安全に対する既遂又は未遂の現行犯人の逮捕をすることができるに止まり、また合衆国軍隊の軍事警察の活動は、右施設又は区域外においては、同軍隊の構成員、軍属及びそれ等の秩序及び紀律の維持竝びにそれ等の者の逮捕に必要な範囲内に限られることは右行政協定の条項中本件行為当時施行されていた第十七条に照して明らかなところである。従つて、合衆国軍及び当局は右施設又は区域外においては、当該施設又は区域の安全に対する犯罪と認められない犯罪については、一私人としての現行犯逮捕は格別、合衆国駐留軍(憲兵隊)又は合衆国当局の権限としてこれをなし得るものではなく、また、右特記の範囲を超えて軍事警察活動をすることはできないものと解すべく、所論の同協定第二十三条は何等右解釈を左右すべき規定ではない。 而して前記証拠によれば被告人の所属する右民間警備隊は右基地の施設区域内において物資等を監視警備するために憲兵隊より交付を受けたカービン銃及び実包を携帯武装して担当地域を警備し不審者を発見したときは誰何検束して憲兵隊に引渡すことを職務とし、その職務遂行のためには必要に応じ、原判示の命令指示等に定められた方法によ 付を受けたカービン銃及び実包を携帯武装して担当地域を警備し不審者を発見したときは誰何検束して憲兵隊に引渡すことを職務とし、その職務遂行のためには必要に応じ、原判示の命令指示等に定められた方法によつて威嚇の為或は命中を期して発砲することをも容認されかつ、その発砲について訓練を受けていたものであり、被告人は原判示日時に右警備隊長から当時駐留軍の軍属等が右区域外の農地を住民から借受けて建設中の住宅地区一帯の盗難火災予防のため、当該住宅地帯の武装警備をなし、不審者を発見したときはこれを検束して憲兵隊に引渡すべき旨の命令を受けて、カービン銃及実砲を携帯し、右施設区域外の住宅地帯を巡回警備中、判示住宅の窓より屋内を覗いていた(まだ窃盗又は住居侵入のいずれにも着手していない)判示Bを発見し、同人を判示道路に連行質問の後逃走する同人を追跡しながらこれを停止させるため威嚇の目的で発砲した際、業務上遵守すべき注意義務をおこたつて発砲し、因つて同人に命中死亡させたものである事実が明かである。 <要旨>以上の事実に徴すれば、たとえ右警備発砲した地点が前記施設区域から百メートル余の近距離にあり、かつ右</要旨>住宅が駐留軍人軍属の住宅として、右軍人軍属が自費をもつて建築し屋内家具什器等がすべて合衆国軍の財産であり電気瓦斯等も同国軍より供給されるものであつたとしても、右住宅地帯が前記施設区域外である以上、合衆国憲兵隊は右財産保護のため右住宅区域における武装警備を実施することは行政協定の認めるところではなくその他条約又は国際慣例等によつて許容されたものということはできない。(さればこそ右基地憲兵司令官は、本件住宅地帯の警戒を命ずるに当つて特に非武装たるべきことを注意指示したのである。)しかるに右民間警備隊長たるCが独断で右司令官の指示に反して武装を命じたのであ い。(さればこそ右基地憲兵司令官は、本件住宅地帯の警戒を命ずるに当つて特に非武装たるべきことを注意指示したのである。)しかるに右民間警備隊長たるCが独断で右司令官の指示に反して武装を命じたのであるから(原審証人Cの証言)もとより、右憲兵隊の補助機関たる前記民間警備隊の隊員たる被告人が武装して警戒し、不審者に発砲するが如き業務が正当なものとは認め難い。 その他正当業務たることを主張する論旨はいずれも独自の見解に基くものであつて採用し難い。 ともあれ被告人がその業務の執行に当り、業務上の注意義務を怠つたために生じた本件致死の結果については刑法第三十五条の適用によつて罪責を免かるべきものではなく、もとより本件について合衆国の法規を適用すべき筋合ではない。論旨は理由がない。 同第一点(ロ)について原判決挙示の証拠によれば、被告人は判示日時に判示場所を巡回中、午前三時三十分頃判示D方西側ガラス窓から同屋内を覗いていたBを発見して道路に連れ出し所携のカービン銃を右手にして同人の徘徊理由を詰問中、同人が隙を見て被告人に殴りかかり、更に被告人の右手首を掴み、これを振り離した隙に逃げ出したものであること、そこで被告人は「逃げると撃つぞ」といいながら約二十四メートル追跡し、同人が原判示鉄道踏切を八高線に沿つて左折南進して逃走するのを、その後方約七メートル九十センチの地点から、同人の左側約二メートルあたりに銃口を向けて、威嚇のために発砲をしたものであることが認められるから、被告人の所為が盗犯等の防止及び処分に関する法律第一条第一項にいう自己又は他人の身体生命財産等に対する現在の危険を排除するための所為であるとは認められないし、また同条第二項の、恐怖驚愕興奮又は狼狽等によつて現場で犯人を殺傷した場合にも該らず、これに該当するものと認められる証拠もな 命財産等に対する現在の危険を排除するための所為であるとは認められないし、また同条第二項の、恐怖驚愕興奮又は狼狽等によつて現場で犯人を殺傷した場合にも該らず、これに該当するものと認められる証拠もない。原判決が、被告人の右所為が右法案に該当する旨の弁護人の主張を排斥したのは相当であつて論旨は理由がない。 同第一点(ハ)について原判決が、被告人の判示所為をもつて、実務上当然遵守すべき準則乃至命令である基地司令官より発せられていた「民間警備員の誰何行為に就いて」と題する命令及び、民間保安警備隊担当憲兵隊下士官より発せられた「民間保安警備隊員発砲に方りての教育事項」という指示の範囲を逸脱し業務上の注意義務に違反した者として業務上過失致死罪に問擬したことは所論のとおりであるが、業務上の注意義務は必らずしも法律命令に規定されるものに限らないのであつて、なかんずく威嚇の目的を以つて発砲する場合は空中に発射すべしという前記教育事項に指示された注意の如きは、指示を俟つまでもなく威嚇発砲者の採るべき当然の注意義務であつて、この指示に違反して、被告人が威嚇のためであるにかかわらず、銃口を空に向けず、銃を腰に構え、被害者の身辺近く命中の虞ある水平の方向に銃口を向けて発砲した行為もまたとりもなおさず原判示職務に従事していた被告人の業務上の注意義務違反に外ならないことは勿論である。 銃砲を携帯して警備に当り、場合によつては発砲を伴うことがあるべき職務に従事する被告人の注意義務が、右の命令指示の範囲に固定されるものでなく、事態の緩急、昼夜、明暗、対象の相異等により遵守すべき注意義務の内容に差異があることは勿論であるが、本件の場合における被告人の発砲の際は少くとも原判決認定の注意が必要であつたことは、前記説明の通りであるから、原判決が被告人の過失を認めるについ すべき注意義務の内容に差異があることは勿論であるが、本件の場合における被告人の発砲の際は少くとも原判決認定の注意が必要であつたことは、前記説明の通りであるから、原判決が被告人の過失を認めるについて前記「教育事項」の指示内容等の不遵守を、他の業務上遵守すべき注意義務の違反と共に併せ掲げたことは正当であつて少しも条理に反するものではない。又発砲の際被告人の発砲を予知し得る状況に在つたかどうかは被告人の過失を認める妨げとなるものではなく、その他右「教育事項」の指示内容が被告人の本件発砲の際に注意義務の基準にならないとか、本件の場合被告人の右指示の遵守を求めることは不可能を強ゆるものである等の論旨は独自の見解であつて採用することはできない。論旨はいずれも理由がない。 (その余の判決理由は省略する。)(裁判長判事谷中董判事荒川省三判事中沢辰男)
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