平成17(行ウ)298 行政文書不開示処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成20年1月18日 東京地方裁判所 情報公開
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判決文本文6,426 文字)

- 1 -主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1請求処分行政庁が,原告に対し平成16年1月15日付けでした「設計原図(大阪拘置所ただし,死刑場に関する部分)」を不開示とした決定を取り消す。 第2事案の概要本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「法」という)。 の規定に基づき,原告が,処分行政庁に対し大阪拘置所の死刑場に関する図面の開示請求をしたところ,処分行政庁が,その全部を不開示とする決定をしたことから,原告が,その処分の取消しを求めた事案である。 法令の定め(1)法5条柱書きは「行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請,求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という)。 のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない」と定めている。 。 (2)法5条4号は,不開示情報として「公にすることにより,犯罪の予防,,鎮圧又は捜査,公訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」と定めている。 (3)法6条1項は「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不,開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない」。 - 2 -と定めている。 争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実は,末尾にその証拠を掲記した)。 (1)原告は,法3条に基づき,平成15年11月 れるときは,この限りでない」。 - 2 -と定めている。 争いのない事実等(証拠により容易に認められる事実は,末尾にその証拠を掲記した)。 (1)原告は,法3条に基づき,平成15年11月28日付けで処分行政庁に対し,請求する行政文書の名称等を「大阪拘置所の死刑場の設備,位置関係等,その客観的状況を示した図面」等とする開示請求をした(甲1)。 (2)処分行政庁は,上記の開示請求に係る「大阪拘置所の死刑場の設備,位置関係等,その客観的状況を示した図面」を「設計原図(大阪拘置所ただし,死刑場に関する部分(以下「本件対象文書」という)と特定し,本)」。 件対象文書は,大阪拘置所の死刑場の平面図及び断面図で,壁等の形状その他の保安警備に係る内部構造が詳細に記載されており,公にすることにより,逃走など,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあり,法5条4号に該当するとの理由により,本件対象文書の全部を不開示とする決定(以下「本件不開示決定」という)を行い,平成16年1月。 15日付けで原告に通知した(甲2)。 (3)原告は,法務大臣に対し,平成16年3月16日付けで本件不開示決定の取消しを求める審査請求をした。これを受けて,法務大臣は,情報公開審査会に諮問し,同審査会は,同年12月21日,本件不開示決定は妥当である旨の答申をした。これを受け,法務大臣は,平成17年1月6日,原告の上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。原告は,同月12日,同裁決がされたことを知った(甲3,6,7)。 (4)原告は,平成17年7月7日,本件訴えを提起した。 争点 (1)本件対象文書に記録された情報は,法5条4号の不開示情報に該当するか。 (2)本件対象文書の部分開示の要否。 - 3 - 争点に関する当事者の主張 月7日,本件訴えを提起した。 争点 (1)本件対象文書に記録された情報は,法5条4号の不開示情報に該当するか。 (2)本件対象文書の部分開示の要否。 - 3 - 争点に関する当事者の主張(1)本件対象文書に記録された情報は,法5条4号の不開示情報に該当するか。 (原告の主張)ア法5条柱書きが行政文書の原則開示を義務付けていることに鑑みれば,例外事由である法5条4号は,厳格に解釈されなければならず,同号の「おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」とは,行政機関の長の広範な裁量を認めない趣旨であり,上記のおそれが,具体的に存在するか,合理的に予見できることを被告が主張立証すべきである。 イ本件対象文書が公にされても,大阪拘置所における死刑場の位置関係は,インターネット上で事実上公開されているから,死刑確定者の逃走援助及び身柄奪取並びに外部攻撃による死刑執行阻止を企図する者がいるならば,既に実行可能な状態にあるが,実際にはそのような事案は生じておらず,被告が主張するおそれがおよそ存在しないことは明らかである。 (被告の主張)ア法5条4号が「行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情,報」と規定した理由は,公共の安全等に関する情報には,開示不開示の判断に高度の政策的判断を伴うことから,同号該当性の判断について,行政機関の長に比較的広範な裁量権を付与することが適当であり,司法審査においては,行政機関の長の第一次的判断を尊重すべきと考えられたからであって,同号該当性を認めて不開示とした処分の司法審査においては,当該処分に社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱,濫用があるか否かを審査すべきであり,不開示決定の違法を主張する原告が,裁量権の逸脱,濫用を基礎付ける事実について主張立証すべ においては,当該処分に社会通念上著しく妥当性を欠くなどの裁量権の逸脱,濫用があるか否かを審査すべきであり,不開示決定の違法を主張する原告が,裁量権の逸脱,濫用を基礎付ける事実について主張立証すべきである。 イ本件対象文書は,一定の縮尺の下に正確に作成された大阪拘置所の死刑- 4 -場に係る設計図面であって,当該図面には,建物内の各室の配置,保安上重要な意味を持つ外部との出入口の位置,建物の構造,部材の材質,壁の形状等が詳細に記録されており,これらの情報が公になれば,付近の航空写真等と照合し,大阪拘置所における死刑場の位置等の概略が明らかになり,死刑確定者の逃走援助や身柄奪取,外部攻撃による死刑執行阻止を行うことが容易になる。 また,死刑確定者は,死刑執行を待つという極限的状況に置かれており,些細なことで精神的動揺と苦悩に陥りやすく,上記の情報が公にされると,死刑確定者が自己の死刑執行を現実的に実感するなどして絶望し,自傷自殺を試みたり逃走を図るなどして死刑の執行に支障が生じるおそれがある。 したがって,処分行政庁が,本件対象文書を公にすることにより,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると認めたことには「相当の理由」があり,本件不開示決定は適法である。 (2)本件対象文書の部分開示の要否。 (原告の主張)法6条1項は,部分開示の要件として「開示請求に係る行政文書の一部,に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるとき」と定めるところ,本件対象文書には,出入口の位置,部材の材質,壁の厚さ,床や壁の形状に関する複数の有意な情報が記載されているというべきであり,それぞれの情報を区分して不開示情報部分を除くことも容易であるから,各情報ごとに法5条4号 ,出入口の位置,部材の材質,壁の厚さ,床や壁の形状に関する複数の有意な情報が記載されているというべきであり,それぞれの情報を区分して不開示情報部分を除くことも容易であるから,各情報ごとに法5条4号の不開示情報該当性を判断し,法6条1項に基づいて不開示情報を除いた残りの情報が開示されるべきである。 (被告の主張)法6条1項が,部分開示の要件として「開示請求に係る行政文書の一部,に不開示情報が記録されている場合において」と定めているのは,開示請求- 5 -に係る行政文書に複数の情報が記録されている場合をいうと解されるところ,本件対象文書は,特定の目的のため一体として機能する建造物である死刑場施設の設計図面であり,出入口の位置,部材の材質,壁・天井・床の形状等の保安警備上重要な意味を持つ記載が,一定の縮尺で全体にわたって記載されており,全体として一個の情報であるから,処分行政庁には,法6条1項に基づく部分開示をすべき義務はない。 仮に,本件対象文書に複数の情報が記載されているとしても,それらは,いずれも法5条4号の不開示情報であり,法6条1項の「行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合」に当たらないから,処分行政庁には,本件対象文書について,法6条1項に基づく部分開示をすべき義務はない。 第3当裁判所の判断 争点(1)(本件対象文書に記録された情報は,法5条4号の不開示情報に該当するか)について。 (1)法5条4号は「公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧又は捜査,公,訴の維持,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報とする旨規定しているところ,これは,公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧,捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼ おそれがあると行政機関の長が認めることにつき相当の理由がある情報」を不開示情報とする旨規定しているところ,これは,公にすることにより,犯罪の予防,鎮圧,捜査等の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報については,その性質上,開示・不開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性があることから,裁判所としても行政機関の長の第一次的判断を尊重すべきであるとした趣旨であると解されるのであり,裁判所は,同号に規定する情報に該当するかどうかについて行った行政庁の判断について,その判断に「相当の理由がある」か否か,すなわち,その判断が,合理性を持つ判断として許容される範囲内のものであるか否かについて審理・判断すべきである。 (2)そこで,本件対象文書の内容について検討するに,証拠(甲2,6,- 6 -7)によれば,本件対象文書は,大阪拘置所の死刑場を建設するために昭和40年に法務省において作成されたA1版1枚の文書であり,建物建築のために,一定の縮尺の下に作成された正確かつ詳細な設計図面(平面図及び断面図)であって,死刑場建物内の各室の配置,外部との出入口の位置,建物の構造,壁,天井及び床等の部材の材質や形状,壁の厚さ等の実測値が記載されていることが認められる。 そして,本件対象文書が,上記のように一定の縮尺の下に作成された正確かつ詳細な設計図面であることからするならば,容易に現実の建築物の形状等をほぼ正確に復元することが可能になると解されるから,これに,一般に入手可能な航空写真やこれを元に作成された地図,さらには建物の外形上の特徴などに関する情報等と組み合わせることにより,上記のような死刑場建物の内部構造に加えて,死刑場建物の位置関係までをもほぼ正確に特定することが可能になると推認される た地図,さらには建物の外形上の特徴などに関する情報等と組み合わせることにより,上記のような死刑場建物の内部構造に加えて,死刑場建物の位置関係までをもほぼ正確に特定することが可能になると推認される。 そうすると,建物の外部から,死刑場建物内に侵入したり,同建物を襲撃したりすることを企てる者は,死刑場建物と外部との出入口の位置や,壁の材質や厚さ等に関する記載から死刑場建物内への侵入や襲撃をするために最適な場所や方法を知ることができることになる。また,本件対象文書の建物内の各室の配置,建物の構造,壁や天井や床等の材質や形状に関する記載から,死刑場建物内に種々の混乱を惹起させるなどして死刑執行等を妨害しようと企図する者に,その適切な手法を知るための資料を提供することになるということができる。 さらに,死刑確定者は,法務大臣の命令があればすぐにでも死刑の執行を受ける立場にあり,それまでの間,死と直面した極限的な精神状態に置かれるため,些細なことでも大きな精神的動揺や苦悩を感じる状況にあると解されるところ,自らがいずれ死刑の執行をされる死刑場建物内の構造や形状等を具体的に知悉することにより,もはや精神的安定を保つことができず,自- 7 -殺,自傷行為を図ったり,最適な逃走経路を辿って逃走することを試みたりするなど,死刑の執行を不能にさせ,あるいは遅延させるなど,刑の執行に支障を生じさせるおそれがあると認められる。 そうすると,処分行政庁が,本件対象文書を公にすることにより,犯罪の予防,刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を生じるおそれがあると判断したことには,十分な合理性があると認められ,処分行政庁の当該判断には,法5条4号にいう「相当の理由がある」というべきである。 争点(2)(本件対象文書の部分開示の要否)について(1)原告 判断したことには,十分な合理性があると認められ,処分行政庁の当該判断には,法5条4号にいう「相当の理由がある」というべきである。 争点(2)(本件対象文書の部分開示の要否)について(1)原告は,法5条4号に該当する部分があるとしても,その部分を除外して法6条1項に基づく部分開示がされるべきである旨主張するので,この点について検討する。 前示のとおり,本件対象文書は,死刑場建物内の各室の配置,外部との出入口の位置,建物の構造,壁・天井・床等の部材の材質や形状,壁の厚さ等の実測値が記載されている設計図面であり,一定の縮尺の下で正確かつ詳細に記載されているものであるから,各室の位置関係,出入口,構造や,材質,実測値等の記載部分はもとより,壁や天井や床それ自体についても,幅や高さや厚み等が図面から明確になると解されるから,本件対象文書記載の上記の各情報は,いずれも前記1で記載したような死刑場建物への外部からの侵入や襲撃,死刑執行等の妨害,死刑確定者の自殺や逃走等を助長させるおそれを生じさせるものであって,すべて不開示情報として除かれることにならざるを得ない。 そして,本件対象文書から,上記の各情報が記載されている部分を除くならば,有意の情報は残らないものと推認され,これを覆すに足りる証拠はないから,法6条1項ただし書により,そもそも部分開示をすべきことにはならないと解される。 (2)そうすると,処分行政庁は,本件対象文書については,法6条1項に基- 8 -づく部分開示をすべき義務を負うものではないと解すべきであるから,その余の点について判断するまでもなく,処分行政庁が部分開示をしなかったことについて違法とはいえない。 以上によれば,処分行政庁が,法5条4号の不開示情報に該当するとして本件対象文書の全部を不開示とした本件不開示決定 するまでもなく,処分行政庁が部分開示をしなかったことについて違法とはいえない。 以上によれば,処分行政庁が,法5条4号の不開示情報に該当するとして本件対象文書の全部を不開示とした本件不開示決定は適法であり,他に,この処分を違法と解すべき事情は見出し難い。 したがって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第3部裁判長裁判官定塚誠裁判官古田孝夫裁判官工藤哲郎

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