【DRY-RUN】主 文 原判決を破棄する。 被告人を懲役一年に処する。 理 由 一 同(弁護人小泉英一、同田中稔の控訴趣旨)第一点および同第三点について およそ都
主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役一年に処する。 理由 一同(弁護人小泉英一、同田中稔の控訴趣旨)第一点および同第三点についておよそ都市地方において乗客の搭乗注文を求めて巡回するタクシー(貸自動車)に乗車する場合には、少くとも同車の運転業者間において取りきめている乗車賃金の最低額は当然支払うべき黙契あるものと解するを相当とし、このことは、偶々その乗車当時既に同車の乗車賃額を表示する機械が零点より廻転し始めて或る程度進行していたままであつたと否とによつて区別される事柄ではない。 而して本件においては、被告人が原判示第二のタクシーに乗車したときは、その自動車の運転者Aが丁度同所まで他の客を乗せて来て降ろしたばかりで乗車賃を示す機械が零点より或る点まで進行していたのを右Aが零点に引き戻そうとしたところ、被告人は他の一名と共に乗車して、特にそのままで早く出発せよというが如き趣旨を申し向けたので、Aはその被告人等の風采や態度等に早くも内心やや畏怖し始め、被告人のいうとおり、零点に戻さずに進行し、被告人が降りるため停車したときは乗車賃額を示すメーターには一〇〇円の数字があらわれていたが静岡市内のタクシーの最低料金額たる八〇円の支払を被告人に請求したところ被告人より原判示第二の如く「このやろう」と申すなどの威嚇的態度に出て内金二〇円を支払つたのみなので、もし更に請求を続けておれば被告人より如何なる身体財産等の害悪を受けるやも測り難いとの畏怖の念を生じ、因つて右残金六〇円の支払を受けることを断念するに至らしめたことは、Aの検察官に対する供述調書および原審証人Aの供述(原審第二回公判調書記載)等原判決引用の証拠によつて明らかである。而して恐喝は人に害悪を告知して威嚇し、之により相手の反抗を抑 るに至らしめたことは、Aの検察官に対する供述調書および原審証人Aの供述(原審第二回公判調書記載)等原判決引用の証拠によつて明らかである。而して恐喝は人に害悪を告知して威嚇し、之により相手の反抗を抑圧しない程度内で畏怖せしめて一定の財産上の利得をなすことによつて成立し、その際その被害者において積極的にその財産を放棄する処分行為に及ぶことを必要とするものではない。 従つて、原判決において右金六〇円の支払請求を断念するに至らしめたことにつき被告人に恐喝罪の成立ありとしたことは正当であり、此の点に関して所論のような事実誤認や法令適用の誤あるものではない。論旨は理由がない。 一同第六点について所論は、要するに、原判示第二の場合被告人のAに対する恐喝罪の成立ありと仮定しても、同罪と同判示の被告人の暴行(その結果は傷害に至つた所為)の罪とは併合罪の関係に立つものであり、右判示の如く刑法第五四条第一項前段の想像的競合犯の関係にあるものにあらざる旨主張するものである。 よつて按ずるに、恐喝は、前述の如く、威嚇的方法によつて害悪を告知して人を畏怖せしめることにより一定の財産的利益を取得することを本質とする。而して、その威嚇的方法は、相手方の反抗を抑圧する程度のものでない限り、特に制限はないから、不利益なる事項を告知する内容を有する言語等のほか狂暴なる身体の態度による威嚇等をも包含し、且つ、その方法にして同時に他の罪名に触れる場合には、恐喝罪の成立と同時に右の他の犯罪の成立をも来すことになる。 <要旨>而して本件においては、被告人は、原判示第二の場合運転者Aからタクシーの乗車賃の支払請求を受</要旨>けるや、その支払を免れるため「このやろう」等と叫び且つ同人を殴打負傷するに至らしめ、その後賃金の一部を支払つたが、右言動によりAをして、此の上右請求を続 らタクシーの乗車賃の支払請求を受</要旨>けるや、その支払を免れるため「このやろう」等と叫び且つ同人を殴打負傷するに至らしめ、その後賃金の一部を支払つたが、右言動によりAをして、此の上右請求を続けていては如何なる害悪を受けるやも測り得ないとの畏怖の念を抱かしめ、そのため右賃料残金六〇円の支払請求を断念せしめて財産の利得をしたというのである。故に、右によれば、右殴打傷害による畏怖と、言語による畏怖とが同時に発生し、その双方相俟つて請求断念に至らしめたものであり、而して、此の場合右言語による威嚇は恐喝罪の本来的構成要件を成すに止まるが、殴打傷害は、それ自体犯罪を構成すると同時に一面恐喝罪との交渉を生じ、その畏怖の念発生の起因となつているものである。 故に、原判決において、結局右傷害罪と恐喝罪とを刑法第五四条第一項前段の想像的競合犯の関係にあるものと認めたのは正当であり、所論の如く両者は併合罪の関係にありとなすは首肯し難い。 而して、なお、原判決において想像的競合犯に認定したことを攻撃し同一事実につき之を併合罪の関係にあるものとなすは、その実質において、むしろ被告人に不利益なる結果に到達することを主張するもので、控訴理由としては、事実誤認又は法令適用の誤のいずれよりみるも妥当でない。 故に、論旨は右敦れの点よりみるも理由がない。 (その他の判決理由は省略下る。)(裁判長判事久礼田益喜判事武田軍治判事石井文治)
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