主文 1 原判決を次のとおり変更する。 2 控訴人は被控訴人に対し,1260万円及びこれに対する平成14年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被控訴人のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その3を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 控訴人(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求を棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人(1) 本件控訴を棄却する。 (2) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事実関係 1 事実関係は,下記2ないし4のとおり当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」欄の第2記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の補足的主張(預託金据置期間変更の合意について)(1) 意思表示の合致の不存在ア預託金の返還開始日は平成14年11月1日である旨を記載した控訴人から被控訴人代理人宛の書面(甲5,甲6)は,被控訴人代理人から控訴人宛の預託金を即時に支払えとする請求書(甲3,乙3)に対して,それを拒絶する趣旨で送付された文書であって,控訴人は,上記書面において,預託金を平成14年11月1日に返還するという効果意思を有したものではない。 イ被控訴人の本来の預託金償還期限は名義書換がなされた平成11年3月25日から10年後である平成21年3月25日になるところ,甲5,甲6には被控訴人主張にかかる控訴人の意思表示の内容であるとする預託金償還期限を平成14年11月1日に変更する旨の記載は一切されておらず,変更の前後の期間が明示的にも表示されていないから,預託金据置期間変更の意思表示はないと 控訴人の意思表示の内容であるとする預託金償還期限を平成14年11月1日に変更する旨の記載は一切されておらず,変更の前後の期間が明示的にも表示されていないから,預託金据置期間変更の意思表示はないというべきである。 (2) 錯誤無効仮に,預託金償還期限を平成14年11月1日に変更する旨の合意があったとしても,以下のとおり,同合意は錯誤により無効である。 ア本件ゴルフ場規約(以下「本件規約」という。)11条によれば,譲受会員である被控訴人の預託金据置期間は,譲渡承認日である平成11年3月25日から起算され,平成14年11月1日に同期間が満了するものではない。 イ本件ゴルフ場開業の日以前に手続を完了したものは,本件ゴルフ場開業日に資格を取得するとされているところ(本件規約7条2項),多くの会員が入会日から預託金据置期間が起算されると勘違いし,平成12年ころから規約を誤って解釈して預託金返還請求する会員が多数いたため,甲5,甲6のようにその対応をしていた。 被控訴人代理人からの預託金返還請求書(甲3,乙3)も,当時,多々見受けられた会則の解釈を誤った預託金返還請求であると誤解し,平成14年11月1日が預託金据置期間満了日であるとの誤記をしたものであって,要素の錯誤がある。 ウ甲5,甲6の作成名義人であるAは,支配人たる地位を有するが,支配人の業務は,本件ゴルフ場全体の経営等が中心であり,個々の預託金返還に対する対応等についてまで全て管理,掌握することは事実上不可能である。また,預託金返還請求に対する対応はAの担当業務ではなく,しかも,当時は,預託金据置期間の起算日について,開業日ではなく入会日からと誤解する会員が多かったことからすると,Aにおいて,甲5,甲6もそのように誤解をしている会員に向けた説明の趣旨の文書であると誤って判断し ,預託金据置期間の起算日について,開業日ではなく入会日からと誤解する会員が多かったことからすると,Aにおいて,甲5,甲6もそのように誤解をしている会員に向けた説明の趣旨の文書であると誤って判断したことについてはやむを得ない事情がある。したがって,控訴人に重過失はない。 (3) 信義則違反仮に,甲5,甲6の送付が控訴人の錯誤に基づく預託金据置期間満了日を変更する意思表示にあたり,控訴人にその錯誤につき重過失が認められるとしても,本件の場合は,被控訴人がその効果を享受することは信義則に違反して認められない。 すなわち,被控訴人自身,会則を見て,名義書換を行った時点から10年間の預託金据置期間が算定されることは認識し,その代理人も同様であるところ,それにもかかわらず,被控訴人代理人は,明らかな誤解に基づいて作成されている甲5,甲6が送達されたことを奇貨として,預託金返還請求の始期を平成14年11月1日であることを了解したと返答し,本来の預託金償還期限を7年近く短縮しようとするものである。 このような行為は,相手方の誤解に乗じて,不当に利益を得るものであり,信義公平の原則に照らして許されるべきではない。 3 当審における控訴人の新たな主張(1) 本件規約9条による30パーセントの違約金について本件規約9条は「会員資格保証金の据置期間内に退会して保証金の返還を受けようとする場合,・・・・会社は使用損料全額と入会金の30%を徴収するものとする。」と規定している。 被控訴人は,預託金償還期間内である平成13年1月19日に,控訴人に対し退会及び預託金の返還請求をした。 したがって,仮に,被控訴人の請求が認められる場合には,本件規約9条により,預託金の30パーセントである540万円を差し引くべきである。 (2) 預託金据置期間延長について 託金の返還請求をした。 したがって,仮に,被控訴人の請求が認められる場合には,本件規約9条により,預託金の30パーセントである540万円を差し引くべきである。 (2) 預託金据置期間延長についてア預託金据置期間延長決議本件規約8条(1)項によれば,本件ゴルフ場の正式開業日は平成4年11月1日であるから,平成14年11月1日に預託金据置期間が満了することになったが,会員からの預託金については,その全額をゴルフ場用地取得代もしくはコース造成費,クラブハウス建築費に充てていたため,流動資産として蓄えられることはなかった。 そこで,本件ゴルフ場においても,平成14年10月27日,後記の本件規約8条(3)項に基づき,預託金据置期間を10年間延長する旨の決議をしたものである。 イ据置期間延長条項の内容本件規約8条(3)項は,「会社は天災地変その他不可抗力の事態が生じた場合,および会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれのある場合には,理事会の承認を得て,会員資格保証金の据置期間を10年を限度に延長することができる。」と規定しているところ,ゴルフ場における会則(規約)がゴルフ場運営会社と会員との間の契約内容となるから,本件の場合にも,「会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれのある場合」には,理事会の承認を得ることを条件に預託金据置期間を10年間を限度に延長することができる。 ウ私的自治の原則に基づく文言解釈本件ゴルフ場においては,会員から集めた預託金は全てゴルフ場施設に投下され,現金,預金等の流動資産としては蓄えられていないところ,延長決議が行われた平成14年10月時点の本件ゴルフ会員権の相場は約270万円と大きく預託金額を下回っており,預託金据置期間延長決議を行わなければ,いわゆる早い者勝ち的 ては蓄えられていないところ,延長決議が行われた平成14年10月時点の本件ゴルフ会員権の相場は約270万円と大きく預託金額を下回っており,預託金据置期間延長決議を行わなければ,いわゆる早い者勝ち的な預託金返還請求訴訟が提起され,その結果,ゴルフプレーに必要不可欠なカート等の施設,日々のゴルフ場運営に必要な現金等に対する差押えがなされ,円滑な倶楽部ライフを継続することが不可能となる。 よって,本件ゴルフ場の状態は「会員資格保証金の返還により倶楽部の運営が阻害されるおそれのある場合」に該当することが明白であるので,預託金据置期間を延長することができる。 エ倒産手続との関係多数の会員が民事再生等の法的手続ではなく,預託金据置期間の延長により問題の解決を図ろうとする意思を有している場合には,少なくとも延長された期限までは上記問題についてそのゴルフ場における自主的な方策に任せるべきである。本件ゴルフ場においては,平成15年4月21日時点において,総会員数の71.6パーセントの会員から同意を得ているものであり,今後も同意率は上昇していく予定である。本件ゴルフ場の会員は,民事再生等の倒産手続を行うよりも,預託金据置期間を延長することにより,本件ゴルフ場の存続を図ろうとする意思を有する者が大半であるから,多数の会員の意思を可能な限り尊重すべきである。 オしたがって,上記預託金据置期間延長により,被控訴人についても預託金返還開始日は未だ到来していない。 4 当審における被控訴人の新たな主張(控訴人主張の違約金について)(1) 控訴人の違約金に関する主張は,控訴審の終結段階でなされたものであり,時機に後れた防御方法として却下すべきである。 (2) 本件規約9条は,会員が会員資格保証金の据置期間内に退会し,かつ実際に会員資格保証金の返還を受けた場合 は,控訴審の終結段階でなされたものであり,時機に後れた防御方法として却下すべきである。 (2) 本件規約9条は,会員が会員資格保証金の据置期間内に退会し,かつ実際に会員資格保証金の返還を受けた場合に限定して適用されるべき規定である。 本件においては,被控訴人がした据置期間内の退会の意思表示を原因として,控訴人には何ら具体的な損害が発生していない。 被控訴人は,預託金据置期間内に退会の意思表示をしているが,未だ控訴人から預託金の返還を受けておらず,控訴人に何ら財産的損害を発生させていないのであるから,このような場合にまで控訴人が違約金相当分を控除できるとすることは控訴人のみに一方的に有利な解釈であって許されない。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,控訴人は被控訴人に対し,1260万円及びこれに対する平成14年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払義務があるものと判断するが,その理由は,次のとおり補正し,下記2のとおり当審における当事者の新たな主張に対する判断を付加するほか原判決の「事実及び理由」欄第3の2記載のとおりであるからこれを引用する。 (1) 原判決4頁18行目から同20行目までを次のとおり改める。 本件規約(乙1)の9条,17条によれば,本件ゴルフ場において,会員は,預託金の据置期間内であっても,控訴人に対して3ヶ月前に書面により退会を申し入れ,理事会の承認を得ることにより,退会することができ,当該会員がその退会に基づき預託金の返還を受けようとする場合,控訴人は預託金の30パーセントを徴収することができる旨,定められていることが明らかである。しかるところ,被控訴人は,平成13年1月21日到達の書面をもって,控訴人に退会の意思表示とともに預託金の返還請求をし(甲3,甲4),これに対して,控訴人は被控訴人の られていることが明らかである。しかるところ,被控訴人は,平成13年1月21日到達の書面をもって,控訴人に退会の意思表示とともに預託金の返還請求をし(甲3,甲4),これに対して,控訴人は被控訴人の退会について承認したものと認められる(甲5)。したがって,本件規約上,被控訴人は,上記書面到達の3ヶ月後である平成13年4月22日に退会するとともに預託金返還日が到来し,同返還請求権を行使できるに至ったものというべきである。 (2) 同4頁21行目の「しかし」を「ところで」と改める。 (3) 同5頁14行目の「本件預託金返還について」を「本件預託金返還の期日について」と改める。 (4) 同6頁1行目から20行目までを次のとおり改める。 「 この点について,控訴人は,被控訴人の預託金返還開始日を平成14年11月1日とする上記預託金据置期間変更の合意が認められるとしても,同合意は錯誤又は信義則違反により無効である旨主張する。 しかしながら,控訴人の主張は,被控訴人に対する本来の預託金返還開始日が被控訴人において会員資格の譲渡承認を受けた時点から10年間据え置いた平成21年3月25日であることを前提とするものであるところ,本件規約上被控訴人に対する預託金返還開始日が平成13年4月22日であることは上記説示のとおりであるから,その主張の前提を欠くものである。しかも,上記預託金据置期間変更の合意は,かえって被控訴人が預託金返還日を本来の平成13年4月22日から平成14年11月1日まで猶予する趣旨のものとなることからすれば,その変更の合意により控訴人において何ら不利益を被ることはない。そうすると,控訴人についてこれを保護しなければならないような錯誤又は信義則違反を認める余地はないというべきである。 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。」 2 当審 利益を被ることはない。そうすると,控訴人についてこれを保護しなければならないような錯誤又は信義則違反を認める余地はないというべきである。 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。」 2 当審における控訴人の新たな主張に対する判断(1) 本件規約9条による違約金について上記第3の1(1)で説示のとおり,被控訴人は預託金の据置期間内に退会し,その退会に基づいて預託金の返還を請求したものであるから,被控訴人が返還請求できる預託金の額は,本件規約の「会員資格保証金の据置期間内に退会して保証金の返還を受けようとする場合・・・・会社は使用損料全額と入会金の30%を徴収するものとする。」との条項(9条)により,預託金1800万円から30パーセント相当の540万円が控除され,その残額である1260万円となる。 この点,被控訴人は,控訴人の上記主張は時機に後れた防御方法として却下すべきである旨主張する。 しかしながら,同主張が控訴審の終結段階でなされたものであるものの,これが訴訟の完結を遅延させることになるものではないから,被控訴人の上記主張は採用できない。 また,被控訴人は,据置期間内に退会の意思表示をしたが,未だ控訴人から預託金の返還を受けておらず,財産的損害が発生していない以上,違約金相当分を控除すべきでない旨主張する。 しかしながら,本件規約9条は,その文言上,会員が上記据置期間内に退会して預託金の返還を受けようとする場合における返還されるべき金額について定めたものと解され,退会が据置期間内になされる限り,実際に預託金がいつ返還されたかということにより,同規定の適用が左右されるものとは考え難く,また,被控訴人は同規約を前提として本件ゴルフ場の会員となったものであり,預託金の据置期間内に預託金の返還を受けようとする以上,控訴人に ということにより,同規定の適用が左右されるものとは考え難く,また,被控訴人は同規約を前提として本件ゴルフ場の会員となったものであり,預託金の据置期間内に預託金の返還を受けようとする以上,控訴人には期限の利益が存在し,一方,被控訴人においても任意に退会の時期を選択できることを考慮すると,同規約が必ずしも不当であるとはいえないので,被控訴人の上記主張は採用できない。 (2) 預託金据置期間延長について控訴人は,上記第2の3(2)のとおり,本件ゴルフ場においては,平成14年10月27日,本件規約8条(3)項に基づいて,預託金据置期間につき当初の平成14年11月1日から10年間延長する決議をし,その延長がなされたとして,被控訴人についても預託金返還開始日は到来していない旨主張する。 たしかに,本件ゴルフ場において,控訴人が主張するように預託金据置期間延長決議のなされたことが認められる(乙15ないし20)。 しかしながら,上記第3の1(1)(4)で説示のとおり,被控訴人は,既に当初の預託金据置期間内(しかも,据置期間延長決議前)である平成13年4月22日に退会し,預託金返還日も到来していたものであり,控訴人との個別の合意により,その返還日を平成14年11月1日(当初の据置期間満了日)まで猶予したにすぎないものであることにかんがみると,被控訴人において全く関与していない上記預託金据置期間延長決議の効力は,それが有効であるか否かは別として,被控訴人にまで及ぶとは到底解することができない。 したがって,控訴人の上記主張は採用できない。 第4 結論以上のとおり,被控訴人の本訴請求は,1260万円及びこれに対する平成14年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないので棄 以上のとおり,被控訴人の本訴請求は,1260万円及びこれに対する平成14年11月2日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないので棄却することとし,これと異なる原判決を上記の限度で変更し,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部裁判長裁判官熊田士朗 裁判官川添利賢裁判官玉越義雄
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