平成14(わ)351 業務上過失致死傷,道路交通法違反被告

裁判年月日・裁判所
平成15年1月29日 津地方裁判所
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判決文本文5,137 文字)

主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中90日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,第1 平成14年8月10日午前5時43分ころ,業務として大型貨物自動車を運転し,三重県鈴鹿市a町地内高速自動車国道近畿自動車道名古屋関線(通称東名阪自動車道)下り線68.2キロポスト先路上を名古屋市方面から三重県亀山市方面に向け,時速100キロメートルないし110キロメートルで進行するに当たり,長距離運転等の疲労により眠気を催して前方注視が困難な状態となっていたのであるから,直ちに運転を中止し,眠気を解消させた後運転を再開すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,直ちに運転を中止せず,漫然と上記状態のまま運転を継続した過失により,そのころ,同所付近において仮睡状態に陥り,同所から約1.7キロメートル進行した鈴鹿市b町地内の東名阪自動車道下り線69.9キロポスト先路上において,渋滞により自車走行車線上を減速走行していたA(当時53歳)運転の普通貨物自動車(軽四)を前方約15メートルの地点に至って初めて発見し,急制動の措置を講じるとともにハンドルを右に切ったが及ばず,自車前部を上記A運転車両後部に追突させ,同車を前方に押し出してその前方に停止していたB(当時41歳)運転の普通乗用自動車に追突させ,さらに,自車を走行車線から追い越し車線に進出させて同車線に停止していたC運転の大型貨物自動車左側面に接触させたことにより,自車を再度走行車線に進出させて自車の前方に停止していたD(当時56歳)運転の普通貨物自動車(軽四)後部に自車前部を追突させ,同車を前方に押し出してその前方に停止していたM運転の大型貨物自動車後部に追突させ,上記D運転車両の燃料タンクを損壊させて同車積載のガソリンを流出させるなどし,同 (軽四)後部に自車前部を追突させ,同車を前方に押し出してその前方に停止していたM運転の大型貨物自動車後部に追突させ,上記D運転車両の燃料タンクを損壊させて同車積載のガソリンを流出させるなどし,同ガソリンに引火させて,その火を上記D運転車両及び同A運転車両等に順次燃え移らせ,よって,別紙記載のとおり,上記A外4名を焼死させるとともにE外5名に対し,加療約2か月間を要する第5頸椎脱臼骨折等の傷害をそれぞれ負わせた第2 上記第1記載の日時ころ,同記載の東名阪自動車道下り線68.2キロポスト先路上において,過労により正常な運転ができない恐れがある状態で,同記載の大型貨物自動車を運転したものである。 (法令の適用)罰条判示第1の所為A,F,G,D及びHに対する各業務上過失致死の点につきいずれも刑法211条1項前段(致死の場合)E,B,I,J,K及びLに対する各業務上過失致傷の点につきいずれも刑法211条1項前段(致傷の場合)判示第2の所為道路交通法117条の4第3号,66条観念的競合判示第1の各罪につき,刑法54条1項前段,10条(犯情の最も重いAに対する業務上過失致死罪の刑で処断)刑種の選択いずれも懲役刑を選択併合罪加重刑法45条前段,47条本文,10条,47条ただし書(重い判示第1の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑訴法181条1項ただし書(罪数認定の補足説明)弁護人は,本件において,被告人が判示第2の過労により正常な運転ができない状態で車両を運転する行為と,判示第1の過労により眠気を生じ,車両の運転を中止しなければならない注意義務が発生したのに,それを怠り人身事 本件において,被告人が判示第2の過労により正常な運転ができない状態で車両を運転する行為と,判示第1の過労により眠気を生じ,車両の運転を中止しなければならない注意義務が発生したのに,それを怠り人身事故を起こした行為とは完全に重なり合っているから,判示第1及び第2の各罪は,観念的競合にあたると主張する。 しかしながら,もともと自動車を運転する行為は,その形態が通常,時間的継続と場所的移動を伴うものであるのに対し,その過程において,人身事故を発生させる行為は,運転継続中における一時点,一場所における事象であって,自然的観察からするならば,過労により正常な運転ができない状態で車両を運転する行為と,その運転中,過失により人身事故を発生させた行為とは,社会的見解上,別個のものと評価すべきで,これを1個のものとみることはできない(昭和49年5月29日最高裁判所大法廷判決,刑集28巻4号114頁参照)。したがって,判示第1及び第2の各罪は,刑法45条前段の併合罪と評価すべきであり,弁護人の上記主張は採用できない。 (量刑の理由)本件は,疲労が蓄積して仮睡状態に陥った被告人が,前方で渋滞中の車両を発見するのが遅れたため,玉突き事故を起こし,その結果各被害車両を炎上させ,乗車していた5名を死亡させ,6名に傷害を負わせた判示第1の事実と,被告人が過労により,正常な運転ができないおそれのある状態で,大型貨物自動車を運転した判示第2の事実の事案である。 自動車運転者が,前方注視をすることは安全運転を行う上でもっとも基本的な注意義務であるが,被告人は,その基本的注意義務さえ困難となる仮睡状態に陥るおそれがあったのに,直ちに運転を中止しなかった。しかも,被告人は,積載量20トンの大型貨物自動車の職業運転手であり,高速道路等を通行して茨城県日立市にある勤務先営業 務さえ困難となる仮睡状態に陥るおそれがあったのに,直ちに運転を中止しなかった。しかも,被告人は,積載量20トンの大型貨物自動車の職業運転手であり,高速道路等を通行して茨城県日立市にある勤務先営業所と大阪市住之江区の配送センター間を往復する(以下「大阪定期便」という。)業務に従事していたため,ひとたび仮睡状態に陥って同車両を進行させたならば,極めて重大な事故を起こしかねないことを十分に認識していたはずであるから,同車の運転を開始するに当たって,十分な体調を維持し,仮に運転中に眠気を催したならば,車両を安全な場所に停止させて仮眠をとるなどし,居眠り運転などの事態に陥らないように努めるべきであった。しかるに,被告人は,平成14年8月7日午前5時ころ,上記営業所を出発してから,判示第1の犯行(以下「本件事故」という。)を起こすまでの約73時間の間,断続的に合計17時間程度の仮眠・休憩を取っただけで運転業務を継続していた上,それまでも同様の業務に就いていたため,その疲れも重なり,東名阪自動車道の走行車線を走行中,2回にわたり仮睡状態となり,被告人運転車両を追い越し車線に進出させるなど正常な運転が困難な状態になっていたにもかかわらず,その後も運転を継続し,本件事故現場付近で仮睡状態となった結果,本件事故を招いた。被告人が上記のとおり,自己が正常な運転を行い得ない状態にあることを認識しながらあえて運転を継続し,本件事故を招いた過失は極めて大きい。 ところで,被告人の勤務先運送会社における大阪定期便の業務は,元々運転手が十分な休憩を取らずに運転をせざるを得ないような過密スケジュールであった上,同社は,大阪定期便と次の大阪定期便との間に十分休息できる時間的余裕を取っておらず,全体として過酷な業務形態となっていたもので,このような過酷な勤務実態が本件事 いような過密スケジュールであった上,同社は,大阪定期便と次の大阪定期便との間に十分休息できる時間的余裕を取っておらず,全体として過酷な業務形態となっていたもので,このような過酷な勤務実態が本件事故の背景にあったことは否定できない。しかも,同社は,本件事故が発生する前には,被告人運転車両が目的地に延着するなどの事態がしばしば生じ,タコグラフのチャート上からも同人が疲労のため安定した運転ができない状態に陥っていることを看取したのに適切な措置を取っていないなど労働管理にも多々問題があった。そうすると,被告人が過労を押して運転していたことについて,被告人一人を責めることはできない。 しかしながら,被告人は,より多くの収入を得ようと自ら大阪定期便の業務を志願し,その業務の中,自らが心身ともに疲労していくのを自覚し,同僚から他の者に交代してもらった方がよいのではないかとの助言を受けるなどしながら,なお働けるうちに稼いでおきたいという気持ちもあって,勤務先に自己の疲労状態を申告し,同業務の交代を求めるなどの負担を軽減する措置をとらず,自らの意志で同業務を続けていたものであり,被告人の同業務への従事につき,勤務先から強制や強要等がなされた形跡はない。また,被告人が大阪定期便業務の行程等に関し,一定の裁量を有していたことも認められる。そうしてみると,上記過酷な勤務であったことをもって,被告人の責任が著しく軽減されることはない。 本件事故によって生じた結果は,5名が死亡し,6名が判示各傷害を負ったという極めて重大かつ悲惨なものである。 死亡した被害者らは,いずれも善良な市民として,家族や友人らに囲まれ,平穏な日々を過ごしていたものであり,旅行あるいは旅行を兼ねた仕事のため,家族らとともに渋滞のため停止あるいは減速中の車内にいたところ,後方から,突然,被 れも善良な市民として,家族や友人らに囲まれ,平穏な日々を過ごしていたものであり,旅行あるいは旅行を兼ねた仕事のため,家族らとともに渋滞のため停止あるいは減速中の車内にいたところ,後方から,突然,被告人運転車両に追突等され,その際生じた火災により,何らの落ち度もないのに生命を奪われた。殊にFは当時19歳,Gは当時わずか6歳であり,いずれもまさにこれから人生を謳歌しようとしていた矢先に本件事故によって,あまりにも早く突然その生命を奪われる結果となったものであって,誠に痛ましいと言うほかない。焼死した各被害者らが乗っていた自動車は,他の車両に挟み込まれ,押しつぶされ,焼損するなどして原形をとどめておらず,その状況は本件事故の衝撃や事故後の火災がいかにすさまじかったかを物語っている。 つぶされた自動車内に閉じ込められ身動きもできず,助けを求めるなどしてもかなわず,生きながら炎にまかれ焼け死んでいった被害者らの肉体的苦痛や,恐怖感,絶望感と言った精神的苦痛,家族を残し,このような形で一生を終えることになった無念さは察するに余りある。 また,負傷した被害者らも,本件事故により,判示第1のとおり加療約2週間から2か月間の傷害を負ったばかりか,自らが乗っていた車両が炎上する場面を目撃するなどしたことにより,多大な恐怖や衝撃を受けている。殊に本件事故後,かろうじて車内から脱出したEは,それまでともに車内にいた被害者A,同F及びGが焼け死ぬ場面に直面しており,同人が受けた恐怖感や衝撃は極めて強い。 死亡した被害者の遺族らは,当公判廷において,突然の事故で家族を失ったことに対する苦しみや絶望感,被告人やその勤務先への憤り等を切々と訴えている。同人らの無念さや苦しみも絶大であって,同人らや負傷した被害者らの処罰感情が峻烈を極めているのも当然である。 以上に たことに対する苦しみや絶望感,被告人やその勤務先への憤り等を切々と訴えている。同人らの無念さや苦しみも絶大であって,同人らや負傷した被害者らの処罰感情が峻烈を極めているのも当然である。 以上によれば,被告人の刑事責任は極めて重大である。 そうしてみると,被告人は,本件各犯行について,自己に不利益な事実を含めて率直に供述し,被害者らやその遺族らに謝罪の手紙を送付し,当公判廷においては,遺族の方の悲しみや苦痛を改めて感じ,本件事故に関わったすべての人に,本当に申し訳ないと思うと述べるなど反省の態度を示していること,被告人の家族らや勤務先の上司らが,被害者らの感情を和らげるには至っていないとはいえ,それぞれ各被害者又はその遺族らを見舞って,謝罪し,香典や見舞金を支払うなど慰謝の措置に努めていること,被告人運転車両には,任意保険が付されており,一定金額の支払いは可能であって,既に物損の大半については,示談が成立していること,被告人は,罰金前科1犯を有するだけであるし,扶養すべき家族がいることなど被告人のために酌むべき事情を考慮しても,主文の量刑はやむを得ない。 (求刑-懲役6年)平成15年1月29日津地方裁判所刑事部裁判長裁判官天野登喜治裁判官増田周三裁判官見宮大介

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