平成12(ワ)21303 損害賠償

裁判年月日・裁判所
平成20年2月12日 東京地方裁判所 棄却
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判決文本文72,992 文字)

- 1 -平成20年2月12日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成12年ワ第21303号損害賠償請求事件()口頭弁論終結日平成19年12月11日判決主文 原告らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1請求被告らは,原告各自に対し,連帯してそれぞれ4480万1983円及びこれらに対する平成11年7月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要 本件は,原告らの子が,綿菓子の割りばしをくわえたまま転倒し,軟口蓋に受傷したとして,被告学校法人杏林学園(以下「被告杏林学園」という)が。 (「」。),開設する杏林大学医学部付属病院以下被告病院というを受診したが担当医師被告Aは十分な診察を行わず,子の頭蓋内損傷を看過し,適切な治療を行わなかった診療上の注意義務違反(過失)があり,これによって子が死亡するに至ったことに加え,子の治療方法に関する被告病院医師らの不適切な説明により精神的損害を被ったとして,原告らが被告らに対して,債務不履行及び不法行為(使用者責任)に基づき,連帯して,子の逸失利益及び慰謝料並びに原告ら固有の慰謝料等合計4480万1983円並びにこれに対する平成11年7月11日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。 前提となる事実(証拠を記載していない事実は当事者間に争いがないか,弁- 2 -論の全趣旨から認められる)。 ⑴当事者等,(。 。)。 ア原告B及び原告Cは亡D平成6年○月○日生三男の父母である原告Bは,都立高校で生物の教師を,原告Cは,都立高校で英語の教師をしている(甲A6,B1)。 Dは,平成11年7月10日(当時4歳9か月,被 原告Cは亡D平成6年○月○日生三男の父母である原告Bは,都立高校で生物の教師を,原告Cは,都立高校で英語の教師をしている(甲A6,B1)。 Dは,平成11年7月10日(当時4歳9か月,被告病院において,被)告Aの診察を受けたが,翌11日死亡した。 イ被告杏林学園は,教育基本法及び学校教育法に従い学校教育を行うことを目的とする学校法人であり,被告杏林学園肩書地において,被告病院を開設・経営している(甲B2)。 被告病院は特定機能病院であり,1次,2次及び3次救急に対応し得る高度救命救急センターを設けている(甲B2,3。1次救急は入院や手術を)伴わない医療,2次救急は入院や手術を要する症例に対応する医療,3次救急は2次救急まででは対応できない重篤な疾患や多発外傷に対する医療を行うものとされている(乙イB9。被告病院における救急外来は,1・2次)救急外来及び3次救急外来の2つに分けられている(乙ロB11。 )ウ被告Aは,平成9年3月,杏林大学医学部を卒業し,同年4月,医師国家試験に合格した。同年5月,被告病院耳鼻咽喉科に研修医として入職し,1年間勤務した後,平成10年4月から○大学○病院耳鼻咽喉科に1年間出向し,平成11年4月から被告病院耳鼻咽喉科に戻り,専攻医として勤務していた(乙ロB1)。 ⑵事実経過の概要ア転倒事故の発生と,Dが被告病院に搬送されるまで,(。 ,,Dは平成11年7月10日土曜日以下単に時刻を記載したものは同日のことをいう,東京都杉並区○町○番○号所在の福祉施設「○○園」。)において開催されていた盆踊り大会に,ボランティアとして参加していた原- 3 -告C,次男のEと同行していたところ,午後6時5分ころ,綿菓子の割りば,。(,しをくわえたまま転倒しその割りばしが いて開催されていた盆踊り大会に,ボランティアとして参加していた原- 3 -告C,次男のEと同行していたところ,午後6時5分ころ,綿菓子の割りば,。(,しをくわえたまま転倒しその割りばしがDの軟口蓋に刺さった甲A6乙ロB31,33)○○園に勤務するF看護師の指示で救急車が呼ばれ,午後6時12分,Dは救急車(東京消防庁石神井消防署救急隊1部・G救急隊長(救急救命士の資格を有する。甲A17)に収容された。その後,G救急隊長は,原告)。 ,,Cに対して耳鼻咽喉科のある設備の整った大学病院を選定する旨を説明し搬送先として被告病院を選定した。被告病院1・2次救急外来の管理当直医に連絡した後,午後6時20分,G救急隊長らは,○○園を出発し,Dは,同乗した原告C及びEとともに救急車で搬送され,午後6時40分,被告病院に到着した(甲A5,6,乙ロB34)。 イ被告病院での被告Aによる診察Dは,被告病院到着後,1・2次救急外来に搬入された(甲A16)。 Dは,ストレッチャーに寝かせられたまま運ばれ,耳鼻咽喉科診察室の外にある処置室のベッドに移された。 午後6時50分ころ,被告Aが処置室に現れ,G救急隊長から引継ぎを受けた。その後,受付手続きを済ませて待合室で待っていた原告Cが診察室に。 ,。 呼ばれた原告Cが診察室に入るとDはH看護師に抱きかかえられていたH看護師は,Dを原告Cの膝の上に乗せた。 午後6時55分ころ,被告Aの診察が終わり,原告Cは,Dを待合室の長椅子に寝かせ,自宅にいた原告Bに,保険証とお金を持って病院に迎えに来てくれるよう電話した(甲A13,49)。 午後7時30分ころ,原告Bは被告病院に到着し,午後8時ころ,Dと原告Cは,原告Bが運転する自家用車で帰宅した(原告C本人)。 ウDが死亡するに至るまで同月1 よう電話した(甲A13,49)。 午後7時30分ころ,原告Bは被告病院に到着し,午後8時ころ,Dと原告Cは,原告Bが運転する自家用車で帰宅した(原告C本人)。 ウDが死亡するに至るまで同月11日午前7時30分ころ,EはDの異常を発見し,原告Cは救急車- 4 -を呼んだ。救急隊到着時,Dは心肺停止状態であったため,直ちに救急車で被告病院に搬送され同日午前8時15分3次救急外来に収容された甲,,。(A2,原告C本人)被告病院の医師らは,既に心停止しているDに対して,気管内挿管による人工呼吸,心臓マッサージ等を施したが,同日午前9時2分,Dの死亡が確認された(甲A2)。 その後被告病院はDの髄液検査頭部のCT検査を行ったところ後,,,,「頭蓋窩に硬膜外血腫とAirの混入あり」との所見が得られた(甲A2)。 その後,被告病院において,被告病院救急救命センター外来医長I医師,杏林大学医学部耳鼻咽喉科教授J医師及び被告Aにより,原告らに対して,Dの診療・治療経過等についての説明が行われ,また,警察医による検死が行われた(甲A2,4)。 エDの死亡後の経緯ア同月12日,慶應義塾大学医学部法医学教室K医師により,Dの司法解()剖が行われ,その結果,Dの頭蓋内に長さ約7.6センチメートルの割りばし片が残存したままであったことが判明した(甲A8,30)。 イ同月13日午後2時30分ころ,J医師,I医師及びL事務長は,原告()らのマンションを訪問し,原告らに対して,被告Aの診療・治療について説明をした(甲A6)。 同日午後4時30分ころ,被告病院において,Dの診療経過,司法解剖の結果についての記者会見が行われた(甲A6)。 同日夜,Dの通夜が営まれた。 オ証拠保全手続原告らは,平成11年9月1日 )。 同日午後4時30分ころ,被告病院において,Dの診療経過,司法解剖の結果についての記者会見が行われた(甲A6)。 同日夜,Dの通夜が営まれた。 オ証拠保全手続原告らは,平成11年9月1日,東京地方裁判所八王子支部に対して,証拠保全の申立てを行い,同月17日,被告病院において検証が実施された。 (東京地方裁判所八王子支部平成11年モ第2172号)()- 5 -カ刑事手続の経緯平成12年7月7日,警視庁荻窪警察署は,被告Aを被疑者とする業務上過失致死被疑事件を東京地方検察庁に送致し,平成14年,東京地方検察庁検察官は,被告Aを被告人とする同被告事件を東京地方裁判所に起訴した。 平成18年3月28日,東京地方裁判所は,被告Aに対して,無罪を言い渡した(乙ロB48)。 東京地方検察庁検察官は,これを不服として,東京高等裁判所に控訴し,現在,控訴審に係属中である。 争点 ⑴被告Aの過失の有無【原告らの主張】ア前提となる事実関係アDの身体状態()被告Aによる診察時のDの身体状態は次のとおりであった。 ①目を閉じたままである。 ②泣くことも言葉を発することもない。 ③原告Cが言葉をかけると聞こえているような印象を受けるが,頷くというような明確な反応はない。 ④被告Aが「口を開けて」というが,聞こえているのかどうか明確ではない。 ⑤顔色は悪く(血の気がない状態,唇は紫色である。 )⑥呼吸はしている。 ⑦嘔吐を,処置室で1回,被告Aの診察の際に1回した。 ⑧嘔気を繰り返す(何回ももどしそうになっている。 。)⑨運動麻痺を起こしている。手足,指すら動かさない。起きる,座る,立つ,歩くことも一切できない。寝返りをすることもない。 - 6 -⑩全体としてぐったりしている。いつものように寝ている状態とは違う 運動麻痺を起こしている。手足,指すら動かさない。起きる,座る,立つ,歩くことも一切できない。寝返りをすることもない。 - 6 -⑩全体としてぐったりしている。いつものように寝ている状態とは違う。 イ割りばしの状態()割りばしが折れ始めた部分から尖った方の先端までの約2センチメートルが,咽頭後壁から上咽頭腔内に,肉眼的に見ても明らかに突き出ていた。 イ被告Aの過失Dは,割りばしをくわえたまま転んで割りばしが軟口蓋に刺さり,割りばしが完全に抜けたのかどうか明らかでなく,転んだ際,頭部を強く打った可能性も否定できないという状況にあったのであるから,被告Aは,割りばしの刺入による頭蓋内損傷及び頭部打撲等による頭蓋内損傷を予見し,適切な診療・治療を行う義務があった。 ,,,しかし以下のとおり被告Aの診察はすべての面において不十分であり被告Aに過失があることは明らかである。 ア初期的印象診断()上記のDの診察時における身体状況と原告Cの不安な態度・表情からして,被告Aとしては,そもそも診察の最初から,Dの身体状態に異常があることを念頭に置くべきであった。 被告Aには,初期的印象診断(問診や理学的診察を始める前に,子供の表情の観察から疾患,病態,病状等を推察すること)を慎重に行わず,診察。 をするに際し,Dの身体状態に異常があることを念頭に置かなかった点について過失がある。 イ異物による口腔や中咽頭の外傷の場合の注意点()a異物による口腔や中咽頭の外傷の場合,異物の形状や転倒の仕方によっては,異物が頸部の深部にまで到達することがあり,生命にかかわることもあることから,医師としては注意深く慎重に診察を行うべきであり,異物が創傷内に残存している可能性を念頭に置いて診察すべきである。 特に,割りばしのように折れやすいもので とがあり,生命にかかわることもあることから,医師としては注意深く慎重に診察を行うべきであり,異物が創傷内に残存している可能性を念頭に置いて診察すべきである。 特に,割りばしのように折れやすいものであれば,なおさら異物が創傷- 7 -内に残存する可能性を念頭に置くべきである。 さらに,救急の場合は特に,見逃すと非常に重篤な事態に陥ることを避けるため,否定するための検査及び重篤な疾患の除外診断をすることは基本である。 しかし,被告Aの診療行為は,その全般にわたり,慎重さを欠くものであった。 bまた,患者の状態をよく観察すること,出血の有無と異物が上咽頭の方に突き抜けていないかを確認すること,意識状態とバイタルサインを診ること,問診,特に負傷の状況をよく聞くこと,外傷を発生させた異物そのものを必ず確認すること等が必要である。 ,,,しかし被告AはDの全身状態の確認を十分に行っていなかったこと傷の深さ・方向や異物が上咽頭の方に突き抜けていないかの確認もしていないこと,意識状態の検査も不十分であり,かつその判断も誤っていたこと(少なくとも,JCS(ジャパン・コーマ・スケール)によればⅡ-20以上であった,バイタルサインの計測もしていないこと,問診も不。)十分であったこと,さらに異物そのものの確認もしていないこと等から,被告Aの過失は明らかである。 ,,,cDが泣き声を出さないぐったりして発語がないという状態について医師としてはおかしいと感じなければならないにもかかわらず,被告Aが安易に疲れて眠っているだけであると判断し,傷口に軟膏を塗るだけの処置で帰宅させた行為は,過失といわざるを得ない。 ウ創傷内における異物残存の可能性と傷の深さ及び方向等()a異物による軟口蓋の損傷の場合,咽頭壁の損傷,頭蓋骨の損傷,小脳の損傷 塗るだけの処置で帰宅させた行為は,過失といわざるを得ない。 ウ創傷内における異物残存の可能性と傷の深さ及び方向等()a異物による軟口蓋の損傷の場合,咽頭壁の損傷,頭蓋骨の損傷,小脳の損傷,大血管の損傷,中枢神経系の損傷等の可能性があることから,傷の深さ・方向,創洞内の異物の全体像の確認は非常に重要なことであり,診療及び治療上不可欠である。 - 8 -しかし,被告Aは,傷の深さ・方向,創洞内の異物の有無,異物の全体像を確認していない。 bゾンデ・ファイバースコープによる確認傷の深さ・方向,創洞内の異物の有無,異物の全体像の確認には,ゾンデ,ファイバースコープが有用であり,本件においては,診察時にゾンデで損傷部を探るという触診,又はファイバースコープを鼻から入れて,咽頭部を見れば,咽頭後壁から突き出ていた割りばし片(あるいは傷が咽頭後壁まで達している状態等)を確認することができた。 しかし,被告Aは「深さについては不明」としたまま,その確認もせ,ずに傷は浅いと判断した。 c画像検査及び入院措置ゾンデ又はファイバースコープで,咽頭後壁から突き出ていた割りばし片を確認した場合や,傷が咽頭後壁まで達している状態を確認することができたとすれば,脳外科医に協力を求め,レントゲン撮影,CT検査,MRI検査等により,割りばし片の位置,頭蓋内の傷の状態,その他の損傷状況などを徹底的に検査し,入院させる必要があった。 しかし,被告Aは,CT等の検査も実施せず,入院措置も講ずることなく,安易に帰宅させた。 エ問診()a患者本人に対する問診けがをした本人からいろいろな情報を聞くというのは当然である。 子供に問いかけをして,いろいろ情報を得る必要があり,さらに,子供への問診は,子供がどういう状態かをみる視点からも,意識レベルが落ちてい けがをした本人からいろいろな情報を聞くというのは当然である。 子供に問いかけをして,いろいろ情報を得る必要があり,さらに,子供への問診は,子供がどういう状態かをみる視点からも,意識レベルが落ちているかどうかを確認する意味でも必要である。 また,4歳9か月の子供であれば,きちんと言葉で回答することはできる年齢で,ある程度の会話は可能であり,ぐったりしている時でも子供へ- 9 -の問診は必要であり,むしろ,意識レベルの判定には不可欠ともいえる。 さらに,被告Aが主張するように,Dが「開口命令に対してきちんと反応して,口を開ける状態」であったと仮定すれば,当然に,どのように転んだのか,どこが痛いのか,どんな状態なのか,痛い,かゆい,気持ち悪いという程度は簡単に回答できたはずである。 b親に対する問診親からは,頭部外傷があるかどうか,けがをした前後の状況,異物等について,転倒の状況,異物の有無,意識状態等を集中的に,一生懸命聴取し,広く情報を集める必要がある。 また,常日頃から吐きっぽい子供であるかどうかも,嘔吐の原因を判断する資料となるため,問診すべきである。 c救急隊からの情報収集医師が救急隊から話を聞くことは有益であるが,本件においては,被告Aから救急隊への質問は一切なく,救急隊長のGが一方的に説明しただけであり,被告Aが救急隊に対して情報収集を行ったと評価できる事実はない。 d看護師からの情報収集医師としては,当然に看護師からも,病院に来た後,医師が診察するまでの間の患者の状態を聞くべきであるが,被告Aは,H看護師と会話すらしていない。 e問診後の対応医師としては,本人,親,救急隊,看護師等からの問診による情報,特に,転倒時に頭をぶつけたかどうかに関する情報が不足していると考えられる場合には,1つの可能性として頭部打撲を念 。 e問診後の対応医師としては,本人,親,救急隊,看護師等からの問診による情報,特に,転倒時に頭をぶつけたかどうかに関する情報が不足していると考えられる場合には,1つの可能性として頭部打撲を念頭に置き,ゾンデ,レントゲン撮影,CT等の検査を行う必要がある。 f被告Aの問診の状況- 10 -被告Aは,Dに対して何ら質問をしていないし,原告Cに対して行った「どうしましたか」という程度の問いかけでは,問診として全く不十分。 である。 また,医療行為に必要な情報が何であるかということを理解しているのは医師であって,医師がイニシアティブをとり積極的に問診をするのは診察の第一歩である。付添いの母親から自発的に受傷及び受傷後の状況についての説明がなかったからといって,医師がそのままそれ以上母親から問診をしないというようなことは適切でない。医師としては,広く情報を集,,めるために単に母親が話をしなかったからといって放置するのではなく母親からより詳しく話を聞いたり,また,それ以上に周りにけがを見ていた人がいなかったのかどうかを母親等に確認するという作業が必要である。 ,,,本件は小児の口腔内に割りばしが刺さった事案であるから被告Aは事故状況,刺入の部位,方向,深さ等について十分な問診を行うべきであるしかし被告AはぐったりしているDを抱きかかえた原告Cから綿。 ,,「菓子の割りばしをくわえたまま転んで,割りばしが刺さりました」とい。 う説明を聞いたにもかかわらず,事故状況,受傷機転,事故後病院に到着するまでの症状等につき全く聴取を行わなかった。 g的確な問診から得られる情報,,,,被告Aが原告Cに対して的確な問診をしていたとすれば被告AはDに関して,次のような情報を聴取できたはずである。 ①割りばしをく を行わなかった。 g的確な問診から得られる情報,,,,被告Aが原告Cに対して的確な問診をしていたとすれば被告AはDに関して,次のような情報を聴取できたはずである。 ①割りばしをくわえたまま俯せに転んで割りばしが喉に刺さったと思われるが,事故の情況は明らかでないこと。 ②割りばしがどの程度喉に刺さったのかが明らかでなく,割りばしそのものが見つかっていないため,完全に抜けたかどうかも明らかでないこと(割りばしの先端の方の部分が残存している可能性を否定できない。 - 11 -こと)。 ,。 ③転倒時に頭部あるいは顔面を強く打った可能性も否定できないこと④転んだ直後からぐったりしている状態が続いており,泣いたり,痛が。 (,。)ったりしていないこと小児としては異常な状態が続いていること⑤30分くらい前に救急車の中で1度大きく吐き,病院でも2度吐いており,嘔気が続いていること。 オ嘔吐()Dは,救急車内,処置室,処置室から診察室への移動の際,診察の際にそ,,,れぞれ嘔吐しておりまた嘔気が継続している状態にあったのであるから医師としては,特に中枢神経系の損傷を念頭に置いて,嘔吐の原因について調べる必要があった。 本件においては,血液を飲み込んだ場合の嘔吐,舌圧子を使ったことによる嘔吐,心因性による嘔吐,咽頭部への刺激による嘔吐はいずれも可能性が低く,Dが短時間に3回の嘔吐をしており,かつ嘔気が持続していたこと,さらに他の情報(割りばしが口蓋に刺さったこと,元気がなくぐったりしていること,4歳の子供が言葉も発せず泣いてもいないこと等)を総合して判断すれば,小児における嘔吐の重要性からしても,中枢神経系の刺激による嘔吐を疑うべきであった。 それにもかかわらず,被告Aは,安易に,しかも生命維持の点から も発せず泣いてもいないこと等)を総合して判断すれば,小児における嘔吐の重要性からしても,中枢神経系の刺激による嘔吐を疑うべきであった。 それにもかかわらず,被告Aは,安易に,しかも生命維持の点からは重要性の低い,血液を飲み込んだ場合の嘔吐,舌圧子を使ったことによる嘔吐,心因性による嘔吐と判断していたもので,被告Aの過失は明らかである。 カバイタルサイン()Dがぐったりしていて横になっており,歩行もしていない状態であれば,医師自らがバイタルサインを調べることは不可欠である。開口命令に従ったとか,瞳孔に異常がないからといって,バイタルサインを計測する必要がないことにはならない。 - 12 -そして,的確な問診の結果得られたはずの情報と小児における嘔吐の症状の重要性を前提とすれば,被告Aは,当然,救急隊員や看護師からの「異常がない」との報告を鵜呑みにしてはならず,バイタルサインを自ら又は看護師に指示して計測すべきであった。被告Aがバイタルサインの計測を自ら行っていれば,中枢性の異常呼吸などを計測できた可能性も高い。 しかし,被告Aは,脈拍数,血圧,体温,呼吸数等のバイタルサインを計測しなかった。 キ意識状態・意識レベル()意識レベルを評価するためには,本人からは「こちらの問いかけに対し,てどういう応答をしてくるか,痛みや刺激を加えて反応をみたり,自発的に,,」四肢が動くかどうかとそうでない場合は痛み刺激を加えて動くかどうか等により情報を得る必要がある。さらに,親からも「診察時の子供の状態,が,普段生活している時の状態と同じかどうか,いつもの状態であるかどうか」を聞く必要がある。 仮に,救急隊員から意識レベルについての引継ぎがあったとしても,医師自らが専門的な知識に基づいて,新たに自分で意識レベルの観察をする必要があ どうか,いつもの状態であるかどうか」を聞く必要がある。 仮に,救急隊員から意識レベルについての引継ぎがあったとしても,医師自らが専門的な知識に基づいて,新たに自分で意識レベルの観察をする必要があり,診断時の意識レベルの状況が悪化していなかったとしても,医師としてはそのことに安心してはいけない。 被告Aは,Dに問いかけて応対をみたり,痛みや刺激を加えて反応をみたり,自発的な運動があるかどうか等を総合的に観察し,意識レベルを判断すべきであったにもかかわらず,救急隊員から意識清明との引継ぎを受けたこととDが開口命令に従ったことから,安易に意識清明と判断した。 本件において,Dが「目はつぶっていた。自分で立ち上がったり歩いたりしたことはなかった。口は閉じていたけれども,いわゆる開口命令には応じた。しかし言葉をしゃべることはなかった」の状態にあったとすれば,そ。 の意識レベルは,意識清明ではなく,またⅠ-2(年長児の「見当識障害が- 13 -ある」あるいは乳児の「あやしても笑わないが視線は合う)でもなく,Ⅱ」-20(年長児の「大きな声または体をゆさぶることにより開眼する」あるいは乳児の「呼び掛けると開眼して目を向ける)であると考えられる。 」被告Aには,Dに対して,意識状態を判断するための働きかけを全く行わず,慎重・正確にDの意識状態を判断しなかった点において過失がある。 ク神経学的診察()上記Dの診察時の身体状態からすると,当時,Dは昏睡状態にあった。上記の的確な問診から得られるはずの情報,嘔吐の症状の重要性及びDの意識状態を前提とすれば,被告Aは,なるべく詳細・丁寧に神経学的診察を行うべきであったのであり,仮に行っていればDに何らかの神経学的な異常を発見できたはずである。 しかし,被告Aは,Dに指示をして立たせたり,歩かせたり,手 被告Aは,なるべく詳細・丁寧に神経学的診察を行うべきであったのであり,仮に行っていればDに何らかの神経学的な異常を発見できたはずである。 しかし,被告Aは,Dに指示をして立たせたり,歩かせたり,手を前に出させたり,また,Dに刺激を加えて反応をみるなどの行為もしておらず,神経学的診察を行っていない。 ケCT・MRI検査()医師は,患者に頭部外傷が疑われる場合には,必ずCT検査又はMRI検査を行わなければならない。 特に,本件のように,救急車で運ばれてきた患者について,その患者が割りばしをくわえた状態で転び,はしで軟口蓋を刺していること,救急車で搬送中に車内で1回嘔吐したこと,病院到着後,医師が診察を始めるまでに1回嘔吐したこと,嘔気も継続していること,医師が診察を始めた時点で患者はぐったりとした状態で,意識レベルはⅠ-1ないしⅠ-2であった場合,医師としては,患者の頭蓋内や中枢神経に何か起きていないかどうかを可能性として考えるのではなく,否定するという検査を行う必要がある。 また,外傷性の髄膜炎を想定する場合にもCTの撮影をする必要があり,時間的余裕がある場合には,頭蓋内に異物があるかどうかを徹底的に検査す- 14 -る必要があり,その際の診断手段としてはMRI検査がある。 加えて,医師が割りばしが頭蓋内に達した例を知らなかった,あるいは,そのような症例は過去になかったからといって,CT等を撮らない理由にはならない。 本件において,平成11年7月10日午後7時ころ,CT検査を実施していれば,Dの頭蓋内に空気が入っていることが判明していたし,MRI検査を実施していれば割りばしが写った可能性も否定できない。 被告Aには,CT検査又はMRI検査を行わなかった点において過失がある。 コ他科への相談等()耳鼻咽喉科の医師が子供の髄膜 ,MRI検査を実施していれば割りばしが写った可能性も否定できない。 被告Aには,CT検査又はMRI検査を行わなかった点において過失がある。 コ他科への相談等()耳鼻咽喉科の医師が子供の髄膜炎を疑った場合,当然に脳外科や小児科に相談する必要があり,おかしいと思ったり自分の知識あるいは範囲を超えて,。 いると思ったら他科の医師あるいは耳鼻咽喉科の上司に相談すべきである被告Aが作成したカルテ上の「髄膜刺激症状なし「髄膜炎の可能性も」,あるので」などという記載からすると,同日の診察の際に,被告Aは,Dが中枢神経を損傷している可能性を念頭に置いていたものと推測される。そうであれば,耳鼻咽喉科の上司に相談したり,脳外科医や小児科の医師の意見を聞くべきであったにもかかわらず,自己の判断のみで,Dの傷にケナログを塗って帰宅させたのであるから,被告Aの過失は明白である。 仮に,被告Aが,同日の診察の際に,髄膜刺激症状の検査をしておらず,また,髄膜炎の可能性も一切疑っていなかったとすれば,Dの全身状態,意識レベル,問診,嘔吐等のあらゆる観点から,頭蓋内損傷,中枢神経の損傷を疑うべきであったのであるから,その点において被告Aには誤診の過失が。 ,,,あるさらにこれらの損傷は生命の危険を生ずる重大な損傷であるから少なくとも損傷の可能性を否定する検査(除外診断)は必要不可欠であるところ,被告Aが何らの検査をしていないことからも,この検査不実施の点に- 15 -ついて過失がある。 サ入院措置()診察時のDの身体状態,2次救急に運ばれ,咽頭異物,頭部顔面外傷打撲が疑われる状況,小児の場合,症状の進行が速く,急変する可能性も高いことに照らせば,被告Aは,当然Dを入院させ,慎重な経過観察をしなければならなかった。 また,一般的に髄膜 頭異物,頭部顔面外傷打撲が疑われる状況,小児の場合,症状の進行が速く,急変する可能性も高いことに照らせば,被告Aは,当然Dを入院させ,慎重な経過観察をしなければならなかった。 また,一般的に髄膜炎を疑っている場合は入院させるべきであり,その後の意識レベルの低下をも想定している場合であれば,入院させるか,少なくとも経過をみる必要があった。また,頭蓋内に空気が入っている場合,それだけ頭蓋内にまで至る損傷があったということであるから,出血や浮腫が生じる可能性があり,少なくとも急性期は入院させて集中的にみることが必要となる。 被告Aが,平成11年7月10日午後7時ころの段階で,Dの頭蓋内に異,,物の残存が確認できない場合であってもレントゲン検査やCT検査の結果頭蓋内に空気が入っているということが分かれば,集中治療室に入院させる必要があった。そして,看護師に意識,瞳孔,呼吸状態,バイタルサイン,局所的な神経症状等をみてもらうべきであった。 ,,,被告Aが傷の深さや方向創洞内の異物の存在などを調べることもせず,,,またレントゲンやCT検査をすることもなく傷口に軟膏を塗っただけで入院させることもなく帰宅させたことには,明らかに過失がある。 【被告らの主張】ア前提となる事実関係アDの受傷状況()①Dは,転倒による受傷直後,自ら軟口蓋に突き刺さった割りばしを抜き出した。 ②その後,Dが意識喪失状態に陥ったことはない。 - 16 -③Dは,F看護師の問いかけに反応した。 イ搬送中の状況()①G救急隊長は,Dを耳鼻科のある1・2次救急に搬送するのが適当と判断した。 ②Dは,1回嘔吐し,嘔気が数回継続していた。 ③Dは,大丈夫か,との問いに軽く頷いた。 ウ被告Aに引き継がれるまでの状況等()①Dは,受傷直 1・2次救急に搬送するのが適当と判断した。 ②Dは,1回嘔吐し,嘔気が数回継続していた。 ③Dは,大丈夫か,との問いに軽く頷いた。 ウ被告Aに引き継がれるまでの状況等()①Dは,受傷直後に意識喪失状態に陥った可能性はなく,また,そのよう,。 なことはG救急隊長に告げられなかったし被告Aもこれを知らなかった②G救急隊長は,被告Aに,Dが歩行中転倒したと告げた。 ③G救急隊長は,被告Aに,割りばしはDが抜いた旨を告げた。 ④G救急隊長が,意識清明,バイタル正常等から1・2次救急と判断したことは,被告Aも了知していた。 ⑤被告Aが舌圧子を使い患部を診たところ,出血は止まっており,大出血等もなかったことから,軽傷と判断できる程度のものであり,また,被告Aの開口命令に対して,Dはすぐに開口しており,H看護師に対しても同様であったのであって,意識清明を裏付けるものと判断した。 ⑥Dの嘔吐物には血液が混じっていた。 ⑦被告Aが髄膜刺激症状を調べる項部硬直検査を行ったが,異常はなかった。 エ診察室での状況()①原告Cの被告Aに対する説明は「割りばしが喉に刺さった(割りばし,で喉を突いた)が持って来ていない」ということのみであった。 。 ②診察室での嘔吐を含めた嘔吐のうち,被告Aが確実に認識したのは,救急車内1回(G救急隊長から被告Aに告知,処置室1回,診察室1回で)あり,しかも,処置室及び診察室の嘔吐は,自然的なものというより,前- 17 -者は舌圧子,後者は倦綿子の使用により誘発されたものである。 ③Dの外観上の状況も,被告Aが把握したそれまでの状況からみて「元,気のない状態」の域を超えるものではなかった。 ④被告Aが診た口蓋内の傷の形状も非常に小さなもので,軟口蓋を貫通しているとは認められなかった。 オ割 被告Aが把握したそれまでの状況からみて「元,気のない状態」の域を超えるものではなかった。 ④被告Aが診た口蓋内の傷の形状も非常に小さなもので,軟口蓋を貫通しているとは認められなかった。 オ割りばしの状況()割りばしは,硬口蓋の骨面を滑ってひびが入るなどして方向を変え,軟口蓋に入り,上咽頭腔は通らずに側壁の筋肉組織内を通って左頸静脈孔に刺入した。割りばしの先端は,上咽頭腔に突き出ておらず,軟口蓋と側壁の筋肉組織の中にあった。 イ初期的印象診断について被告Aは,Dの全身状態を観察するなど,初期的印象診断を行っている。 上記のとおり,診察時において,Dの意識状態に異常があるとはみられなかったし,脳内損傷を疑わせるような所見はなかった。 ウ口腔・中咽頭の外傷の場合の診察・診断についてア医師の注意義務違反については,いわゆる診療当時の臨床医学の実践に(),,おける医療水準に照らし判断されるべきであるところ口腔外傷については医療水準といったものが確立されている状況にない。 したがって,本来的に,診療にあたっては,医師の裁量が許されるべき領域である。 イDに意識障害や脳内損傷の疑いがなく,また,被告AはG救急隊長から()「歩行中転倒した「割りばしは患児が抜いた」と告げられ,原告Cか。」,。 ら「割りばしは持ってきていない」と言われ,さらに,傷口に異物は残っ。 ていなかったのであり,折れている状態の抜けた割りばしが持参されたわけではない本件にあっては,折れて抜かれなかった割りばしが頭蓋内に残存する可能性を考慮しない診断であっても,それは自然なことであり,何ら過失- 18 -はない。 ウ軟口蓋の後方には大血管,頭蓋等枢要部があるからこれらの損傷の可能()性も考えるべきであるという考え方もあるが,このような意見は, も,それは自然なことであり,何ら過失- 18 -はない。 ウ軟口蓋の後方には大血管,頭蓋等枢要部があるからこれらの損傷の可能()性も考えるべきであるという考え方もあるが,このような意見は,経験科学という医学の本質を無視し,単に解剖学的位置関係を根拠としたものであって,到底採り得ない。 まず,同意見の根拠となる参考文献中には,異物による頭蓋内損傷の症例報告は存在しない。 そして,軟口蓋から頭蓋内に異物が到達するためには,解剖学的にみて頸静脈孔を通過するルートと頭蓋底を穿破するルートの2つが考えられるが,前者については前例となる症例が本件以前には皆無であって,経験則上これを想定して診察にあたることはなかったし,後者については,そもそも解剖学的に頭蓋底が容易に穿破されない厚い骨であることは医学生ですら認識している事実であって,実際にも木片が口腔内から刺入して頭蓋底を穿破した症例報告は確認できない。 また,脳幹部に異物が達した場合には,高度の意識障害,四肢麻痺が起こるのに,本件ではそれが見られず,出血の程度,傷の深さからも,この点を疑うべき根拠はない。 エ創傷内の異物の確認ア被告Aには,傷の深さ,方向や創洞内の異物の有無を調査すべき必要性()や義務はない。 本件において,救急救命士の資格を持つ救急隊員と,同人から電話連絡を受けた被告病院の救急受付医が,3次救急ではなく,1・2次救急と判断しているのであるから,これを知った被告AがDは重篤でないと考えたことについて相当の理由があった。 また,被告Aは,救急隊長から,①Dの意識は清明であること,②バイタルサインにも異常はないこと,③出血は止まっていること,④受傷原因は,- 19 -歩行中転倒した際,割りばしが喉に刺さったが,その割りばしはDによって抜かれており,持ってきていない こと,②バイタルサインにも異常はないこと,③出血は止まっていること,④受傷原因は,- 19 -歩行中転倒した際,割りばしが喉に刺さったが,その割りばしはDによって抜かれており,持ってきていないこと,を伝えられており,このような場合は,割りばしは既に体内にないと考えるのが自然である。 イゾンデ・ファイバースコープによる確認について()上記のとおり,被告Aには,傷の深さ,方向や創洞内の異物の有無を調査すべき必要性や義務はないのであるから,ゾンデによる確認も不要であるばかりでなく,そもそもゾンデの使用自体不適切である。 また,Dの上咽頭部をファイバースコープで観察し,頭蓋内損傷を確認する義務については,口腔外傷につき異物の存在を確認するため,ファイバースコープで上咽頭腔を観察するという手技が医療水準として確立していたものではないことに加えて,上記のとおり,頭蓋内損傷を予見する義務がなかった以上当然に否定される。 一般に,各種検査は,ある疾患が疑われた時に,それを確定,除外,鑑別するために行われるものであるがその検査の侵襲性や患者に対する負担経,(済的負担も含む)等を考慮して実施されるものであって,疾患の可能性が。 考えられても,その可能性が検査閾値にまで達していなければ検査は行われないものである。上記の被告Aが得ていた情報及び診察時のDの状態からすれば,このような特殊な検査が必要と判断される状態ではなかった。 本件において,割りばし片は上咽頭腔に突き出ておらず,仮に上咽頭腔に出ていたとしても,その部位はファイバースコープで観察することができる視野の範囲外にあったのであるから,ファイバースコープによる観察等の措置によって頭蓋内損傷の確認をすることは不可能であった。 オ問診ア被告Aは,救急救命士の国家資格を有する救急隊長から事故 きる視野の範囲外にあったのであるから,ファイバースコープによる観察等の措置によって頭蓋内損傷の確認をすることは不可能であった。 オ問診ア被告Aは,救急救命士の国家資格を有する救急隊長から事故態様や患者()の状態などの基本的な情報につき聴取しており,さらに,上記の初期的印象診断により,意識障害がないことや大出血がないことなど,患者の全身状態- 20 -に関する情報を獲得した上で,必要と思われる問診をした。 上記諸情報からは,Dの状態は,ごく通常の口腔内刺傷であると診断できたが,さらなる「どうしましたか」との問いは,患者側が自由に特別な情。 報を提供できる機会を与えるためのものであったところ,原告Cからは,特別な事情の申告は何もなかった。 ほとんどの場合,医師が知り得ないような特別な事情がある場合,患者側は極めて積極的に情報を提供するものである。本件では,却って,刺さった割りばしを持ってきておらず,それを探した様子もないことなどから,割りばしはそれほど深くは刺さらなかったため,捨ててしまったのであろうと推測させるような状態だった。 ,,被告Aには割りばしの刺入による頭蓋内損傷の予見義務がなかった以上Dが受傷直後数分間意識喪失状態にあったことや,割りばしの全部が発見されていないことなどについて,原告Cから聴取する義務はない。 イ原告らは,原告Cに対する問診とは別に,Dに対しても問診すべきでは(),,なかったかを問題にするがその目的が意識状態の確認ということであれば開口命令に応じていることで確認済みであり,また情報の取得ということであれば,転倒事故につき本人から得られる情報がほとんどないことは容易に推測されるところである。受傷直後で精神的にも動揺している幼児には,安心させるといった観点から問いかけるということはあるにせ とであれば,転倒事故につき本人から得られる情報がほとんどないことは容易に推測されるところである。受傷直後で精神的にも動揺している幼児には,安心させるといった観点から問いかけるということはあるにせよ,本件においては,原告Cに対して問診をすれば足りる。 カ嘔吐ア被告Aが中枢神経系の嘔吐の疑いを持たなかったことに過失はない。 ()原告らは,Dの嘔吐は中枢神経系の嘔吐であると主張するが,そもそも,小脳挫傷によって中枢神経系の嘔吐は起きない。本件において,嘔吐中枢が刺激されたか否かは明らかでなく,却って,帰宅後嘔吐はおさまっていることからして中枢性の嘔吐とは考え難い。 - 21 -また,臨床的には,血液を飲み込むなどして,口腔内損傷の患者が嘔気を催し,嘔吐することは極めて常識的な知見に属する。 被告Aの面前での嘔吐は,いずれも舌圧子をかけた後のものであり,反射による嘔吐と理解すべきである。 ,,,()イ被告Aが認識できたDの嘔吐は救急車の搬送中に1回処置室で1回診察室で1回の合計3回である。 ,,この点につき嘔吐から中枢神経系の原因を考えるべきとの意見もあるが脳内損傷による嘔吐の場合に,この程度の嘔吐で済むかは疑問であり,却って,①救急車中の嘔吐は,救急車による恐怖と車酔いのためのものであること,②診察時の嘔吐は,舌圧子又は倦綿子の影響によるものと考えてよいこと,③口腔内裂傷による出血を飲み込んだ後の吐気が続いていたとみる余地もあること,④アセトン血性嘔吐症も考えられることなどからすれば,この点から脳内損傷を疑うべきであるとすることは妥当でない。 本件において,嘔吐の原因については,舌圧子による刺激など種々のものが考えられるが,転倒前に,綿菓子のほか,メロンを2個も一度に食べていたのであるから,嘔吐しやすいのは当然で することは妥当でない。 本件において,嘔吐の原因については,舌圧子による刺激など種々のものが考えられるが,転倒前に,綿菓子のほか,メロンを2個も一度に食べていたのであるから,嘔吐しやすいのは当然である。しかも,軟口蓋の刺傷による相当量の血液を飲み込んでしまっている。このような状態で救急車に乗せられてストレッチャーに寝かせられたり,いろいろなことをされれば,繰り返し嘔吐したり,嘔気がおさまらなかったりしても一向に不自然ではない。 キバイタルサイン被告Aは,救急隊長からバイタルサインに異常のないことを引き継いでおり,さらに自分でも呼吸を確認し,頸動脈を触診して脈も診て,その結果,異常呼吸も含め,バイタルサインの異常は認めなかった。 ,,原告らは被告A自らがバイタルサインを計測すべきであると主張するが救急救命士の資格を持つ救急隊長からバイタルサインは正常である旨の報告を受けているのであるから,基本的には医師自らバイタルサインを計測する- 22 -必要がないことはいうまでもない。 ク意識状態の把握ア診察当時,Dが覚醒していたことは明らかであって,ただ,少し元気が()なかったことから,カルテに,H看護師はJCSⅠ-1ないし2,被告AはⅠ-2と記載したのである。 イJCSは,主として成人を対象とするもので,Dのような子供,しかも()軽傷の者に対しては曖昧な面のあることは否定できない。そのため,子供に対してこれを用いる場合は,診察にあたった医師が子供の症状をどう考えたかにかかるところが大きい。そして,患児について嘔吐があり元気のない状態との趣旨でⅠ-2と記載することはあり得る。したがって,この記載を捉えて,被告Aが当時,Dにつき脳内損傷あるいは中枢神経障害を疑っていたとか疑うべきであったとすることは全く当を得ていない。 そもそ 態との趣旨でⅠ-2と記載することはあり得る。したがって,この記載を捉えて,被告Aが当時,Dにつき脳内損傷あるいは中枢神経障害を疑っていたとか疑うべきであったとすることは全く当を得ていない。 そもそも,小脳という部位は,割りばしが刺さったとしても意識障害を生じない場所である。そして,Dの元気のない状態は,①口腔内損傷による痛み又はショック,泣き疲れ,これに引き続く嘔吐によるものとも認められること,②救急車に乗せられ,会ったことのない医療従事者に取り囲まれた緊張感によるものとも考えられること,③反面,Dにつき麻痺又は片麻痺症状は見られなかったことからすれば,脳内損傷を疑うということは飛躍に過ぎる。 救急車で来院する患児は,むしろ元気がないのが普通であり,そのことが直ちに症状の重大性を示すものではない。 ケ神経学的診察被告Aの観察の結果,Dに神経学的な異常は発見できなかったし,この時には,運動神経障害などの神経学的な異常は発生していなかった。 ,,,,,すなわちDはH看護師に抱っこを求め自ら抱きつけたこと診察中運動麻痺がある場合にように手足がだらんとした感じはなく,普通の状態で- 23 -あったこと,開口命令に対し直ちに大きく開口したこと,髄膜刺激症状を診るため首の後ろに手を回した際にも,異常はなかったことなどから,神経学的な異常は否定される。 原告らは,Dは診察時昏睡状態にあったと主張するが,昏睡とは「自発,運動がなく,外界の刺激に全く反応しない状態」であるところ,この定義のような状態になかったことは余りにも明らかである。 コ頭部外傷を疑うべきであったか原告らは,転倒により,頭部打撲の可能性があるから,頭部外傷を疑っていれば,結果的に頭蓋内損傷を発見できたと主張するようである。 しかし,Dが受傷時に頭部を打ったこと コ頭部外傷を疑うべきであったか原告らは,転倒により,頭部打撲の可能性があるから,頭部外傷を疑っていれば,結果的に頭蓋内損傷を発見できたと主張するようである。 しかし,Dが受傷時に頭部を打ったことを示すものはなかったし,また,救急隊員の調査の結果からは,頭部打撲の事実は存在しなかったこと,頭部外表に外傷は見られなかったこと,発現している症状を軟口蓋損傷のものとして矛盾しなかったことなどから,頭部外傷を疑う状況にはなかった。 サCT・MRI検査についてア原告らは,患者に頭部外傷が疑われる場合には,必ずCT検査又はMR()I検査を行わなければならないと主張するが,本件では,そもそも脳内損傷の疑いはなかった。 原告らは,口腔内に異物が刺入した報告例を挙げ,CT・MRI検査を行うべきであったと主張する。しかし,これらの報告例は極めてまれであり,いまだこれらの症例に関する医療水準というべきものは確立していない。 また,これらの症例で画像診断を行ったものは,異物が口腔内に刺さったまま来院した症例であるなど,異物刺入の状態が明らかなものであること,意識障害や運動麻痺が見られること,眼振などの脳内病変特有の症状が現れていることなど,本件とは症例を異にしている。 現実の医療においては,すべての患者にあらゆる検査を行うことは,医療サイドから見れば,人的・物的に不可能であるし,患者サイドから見れば,- 24 -放射線を浴びる被害や過剰な医療を強いられることになり,その意味で,検査の要否を決するスクリーニングが不可欠である。観念的に,口腔内刺傷があればCT・MRI検査を行うべしとすることは現実的でなく,決して医療水準を画するものとはならない。 イ被告Aは,Dにつき,髄膜刺激症状を調べる項部硬直検査を行った。こ()の検査はルーティンの検査としてス MRI検査を行うべしとすることは現実的でなく,決して医療水準を画するものとはならない。 イ被告Aは,Dにつき,髄膜刺激症状を調べる項部硬直検査を行った。こ()の検査はルーティンの検査としてスクリーニング的に行ったものであって,Dの頭蓋内損傷を疑っていたわけではない。 ウCTスキャンによる検査については,画像診断の基準について確立した()ものはないとされる一方,幼児に対してのCTスキャン検査には,被爆の問題等から特別な配慮が必要であるとされており,本件当時は,機械の性能から現在よりも被ばくの弊害が大きかったことなどからすれば,被告AにおいてCT検査を行うべきであったということはできない。 本件においては,被告AがDを診察した当時,CTスキャンにより脳を撮影しても,割りばしの画像が写るとは限らず,空気が入ったことが分かる程度であり,現にDが死亡した後に撮影されたCTにも割りばしの画像は写っていない。したがって,被告Aが,仮に割りばしの刺入を疑ったとしても,その確認ないし否定のためにCT検査を実施すべきであったとはいえない。 仮に,頸静脈孔付近の空気の存在が認められたとしても,直ちに頭蓋内に異物が入って損傷を生じている事実を想定することは困難であり,その事実を確認するためには,さらにMRIによる検査,血管内撮影が必要である。 このような義務を,脳外科医師についてならば格別,耳鼻科医師である被告Aに負わせるのは酷に過ぎる。仮に,被告Aに頭蓋内損傷の確認のための義務を負わせるとするならば,検査の通常性・容易性の限度等からみて,ファイバースコープ等による確認義務の限度内であり,それで異常を認めた場合に,例外的に自らCT写真を撮るべき義務(あるいは脳外科医師への引継ぎ義務)が生ずるとすべきである。 - 25 -エCT検査の必要がない以上 等による確認義務の限度内であり,それで異常を認めた場合に,例外的に自らCT写真を撮るべき義務(あるいは脳外科医師への引継ぎ義務)が生ずるとすべきである。 - 25 -エCT検査の必要がない以上,MRIの検査は必要ない。また,MRIが()救急部にはなく,平成11年7月10日の救急において利用可能ではなかった。 シ上司や他科への相談被告Aは,中枢神経系の損傷の可能性があるとは認識していなかったのであり,また,その予見可能性や予見義務もなかったのであって,耳鼻咽喉科の上司に相談するとか,他科の医師の意見を聞くべき義務はない。 被告Aは,診療当時の状態からして,むしろ経過観察の方が大事であると考え,抗生物質を処方することにより感染を防止し,原告CにDの容態の観察を怠らないよう指導し,注意事項を与え,次回診察日を決めるなどしたものである。 ス入院について口腔内損傷について,入院を原則とする見解は,臨床的根拠を持たない。 本件においては,原告らがDを入院させるべきであったと主張する前提事実(髄膜炎の疑いや脳内損傷の疑い,意識レベルの低下)がなかったのであり,さらにそれらを前提とするCT等の検査義務もなかった。 Dの状態などからしても,外来にて経過観察とした処置に問題はなく,直ちに入院させるべき義務はなかった。被告Aが経過観察の判断をしたことに何ら過失はない。 ⑵被告病院の過失の有無【原告らの主張】被告Aが,平成11年春に研修を終えたばかりの医師であったことを考えれば,被告Aに対して,上記のすべてを完璧に行うことを期待するのは無理があるかもしれないが,そうであれば,被告Aは,自分の力量を過信せず,慎重に診察を行い,経験豊富な耳鼻咽喉科の医師又は他の診療科の医師に相談すべきであった。 - 26 -被告病院としては,被告Aのような経験 しれないが,そうであれば,被告Aは,自分の力量を過信せず,慎重に診察を行い,経験豊富な耳鼻咽喉科の医師又は他の診療科の医師に相談すべきであった。 - 26 -被告病院としては,被告Aのような経験不足の医師が救急医療を担当している時には,その医師が診断に少しでも不安を感じた時には,経験豊富な同じ診療科及び他の診療科の医師にすぐに相談できる体制を作っていなければならなかった。 特定機能病院は「高度の医療を提供すること」が義務付けられており,救,命救急センターは,その「整備基準」の「医師」について「内科,外科,循,環器科,脳神経外科,心臓血管外科,整形外科,小児科,眼科,耳鼻科,麻酔科及び精神科等の医師を必要に応じ適時確保できる体制を有するものとする」とされ,これらの「高度医療「整備基準」の「医師「最高医療」は,被」,」,告病院内に上記のような体制を作ることを当然に含んでいる。 したがって,被告病院には,このような意味でのチーム医療体制を作っていなかった点において過失がある。 【被告杏林学園の主張】争う。 ⑶被告らの過失とDの死亡との間の因果関係の有無【原告らの主張】ア死因Dの死因は,割りばしの頭蓋内穿通により生じた「後頭蓋窩の急性硬膜下血腫」及び「小脳半球の挫傷による「小脳扁桃ヘルニア及び上行性テント」切痕ヘルニア」である。 水頭症は,二次的病態として頭蓋内圧亢進に寄与した。左側頸静脈孔における静脈洞閉塞が頭蓋内圧亢進に寄与した可能性は否定できない。 イ救命可能性アDを入院させた上,必要な診察・検査・観察を行い,CTなどの画像診()断で後頭蓋窩の病変部を明らかにした上で,後頭蓋窩血腫除去及び割りばし抜去のため,時期を逸することなく手術を行っていれば,救命の可能性は相- 27 -当に高率であった。 イ本件 の画像診()断で後頭蓋窩の病変部を明らかにした上で,後頭蓋窩血腫除去及び割りばし抜去のため,時期を逸することなく手術を行っていれば,救命の可能性は相- 27 -当に高率であった。 イ本件において,CT検査を行えば,空気,後頭蓋窩血腫,小脳の挫傷は()容易に判明する。 空気は,割りばしの穿通と同時に侵入したものであるから,受傷直後から認められた。小脳半球を穿通した割りばしの周囲にある血液は,受傷直後からあったと考えられる。後頭蓋窩血腫については,割りばしの穿通による出血によるものであるから,一部はかなり早期に形成されており,CTを用いれば,少量であっても診断は難しくない。 ウ急性硬膜下血腫は,後頭下開頭術を行えば簡単に除去できる。 ()出血や浮腫を伴う小脳の挫傷部を除去するため,割りばしに沿って小脳半球を切除する。こうすることで,割りばしの頭蓋内の全貌を視野に入れることができるため,抜去の手順を考慮しやすくなる。小脳半球の外側の3分の1を切除することは,脳神経外科手術ではしばしば行われており,目立った神経学的症状を残さないことが知られている。 刺入した割りばしの太さと頸静脈孔の大きさの比較,割りばし周辺は軟部組織であること,筋弛緩の効いた全身麻酔下であることを考慮すると,割りばしの抜去は可能であると推定される。 エ感染症対策のため,早期から十分な抗生剤投与が必要であるが,今日の()感染症治療の発達もあり,感染が顕著になっても治癒する可能性が高い。 オ以上の治療に加え,手術後の頭蓋内圧コントロールを非常に慣れた医師()が行えば,80パーセントないし90パーセントの確率で救命できた。 ウ生存の相当程度の可能性本件においては,DをICUに入院させ,慎重な経過観察とともに画像検査(レントゲン,CT,MRI等)を行い, 行えば,80パーセントないし90パーセントの確率で救命できた。 ウ生存の相当程度の可能性本件においては,DをICUに入院させ,慎重な経過観察とともに画像検査(レントゲン,CT,MRI等)を行い,急性硬膜下血腫と小脳半球挫傷部分の除去を行っていれば,Dがその死亡の時点(平成11年7月11日午前8時49分ころ)においてなお生存していたことは確実であった。したが- 28 -って,生存の「相当程度の可能性」は当然にあった。 また,頭蓋内圧のコントロールを薬物治療によって行うことによっても,Dの生存可能性を高めることができた。 【被告らの主張】ア死因,「,,Dの死因は左内頸静脈洞内に血栓が形成され静脈洞が完全に閉塞し静脈の還流障害が生じた結果,著しい脳の腫れが生じたために起きた頭蓋内圧亢進による脳幹圧迫」である。 イ救命可能性Dの死因が,上記のものであることを否定できないとしたならば,手術等の治療によるDの救命可能性は極めて低い。 したがって,仮に,被告AがDを診察した際,直ちに脳神経外科医に引き継いだとしても,Dがその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性があったとはいえない。 よって,被告Aの行為と結果との間の因果関係は存在しない。 ウ延命可能性Dが死に至った機序が上記のものであるならば,直ちに救命のための措置を採ったとしても救命は著しく困難であり,その間,これと区別して効果的な延命のための措置を採るということも極めて困難である。 ⑷被告病院の医師らによる不適切な説明・発言の有無【原告らの主張】ア医療機関においては,死亡した患者の遺族から求めがある場合は,信義則上,これらの者に対して,患者の死因について適切に説明を行うべき義務を負い,また,自己が診察した患者が死亡するに至った場合,患 ア医療機関においては,死亡した患者の遺族から求めがある場合は,信義則上,これらの者に対して,患者の死因について適切に説明を行うべき義務を負い,また,自己が診察した患者が死亡するに至った場合,患者が死亡するに至った経緯・原因について,診療を通じて知り得た事実に基づいて,遺族に対して適切な説明を行うことも,医師の遺族に対する法的な義務である。 - 29 -イDの死亡確認直後の発言についてDの死亡確認直後,I医師は,死後のCT検査により死因が割りばしによる脳内出血であることを知りながら,子供が脳内出血により死亡するケースとして,転んで頭を打った,くも膜下出血,もともと先天的に動脈異常があったなど,Dの突然の死を受け入れられず動揺し,かつ憔悴しきっている原告らに対して,虚偽の説明・発言をした。 また「脳内出血の原因が割りばしが刺さったことだとすれば,脳まで達,した瞬間に死亡する。つまり事故現場で即死ということになるはず」という説明は,明らかに虚偽である。 さらに「だいたいこんなに出血していれば,救命されたとしても,植物,状態になっていただろう」という説明も,早期に頭蓋内損傷が発見され,緊急手術等の適切な治療が行われていれば,受傷前の状態,又はそれに近くまで回復する可能性は高いのであるから,明らかに虚偽の説明である。 また「脳内の異常事態を疑い,CTを撮るということは,この意識状態,では100パーセント撮らない。自分の子でも撮らない。レントゲンについては被ばくの方が怖い。この状態で撮るなら,ここに運ばれてくる子供全員を撮らなければならないことになる。この病院はたまたまCTを撮る設備があったが,ないところに運ばれたらそもそも撮れなかった」などと,CT。 を撮らなかった理由を説明しているが本件においては脳内の異常事態頭,,() とになる。この病院はたまたまCTを撮る設備があったが,ないところに運ばれたらそもそも撮れなかった」などと,CT。 を撮らなかった理由を説明しているが本件においては脳内の異常事態頭,,(),蓋内損傷等の重篤な症状を疑い100パーセントCTを撮るべきであって「100パーセント撮らない」などという説明は明らかに虚偽である。 そして「被ばくの危険の方が怖い「そもそも設備がなかったら撮れな,」,かった」などという説明は,責任逃れの言葉としかいえず,遺族の神経を逆なでする不当な説明であり,高度救命救急センター・特定機能病院である被,。 告病院に救急車で搬送され受診した患者の遺族としては到底納得できないウDの死亡当日の発言について- 30 -Dの死亡当日のJ医師及び被告Aらの「割りばしが口内に刺さり,亡くなったということは聞いたことがない」あるいは「割りばしは,先端が鋭利。 でないし,それが頭蓋底を貫通するなどということはあり得ないので,CTを撮る医者などいない」などという説明も,明らかに虚偽の説明である。 エ平成11年7月13日の発言についてまた,平成11年7月13日,Dの通夜直前にも「割りばしが喉の奥か,ら頭蓋底を貫通しているが,頭の骨は硬く,頭蓋底を貫通するなどあり得ないと考えたJ医師法医学書様々な資料などを見てもそんな例割」(),「,,(りばしが頭蓋底を貫通する例)は今までになかった(I医師「割りばし」),が頭蓋内に達したという例は過去になく,とても脳内の出血など予測できる,」(),ものではなくCTを撮らなかったのはやむを得ない判断であるJ医師「自分の子供でもCTを撮らない(I医師)と説明・発言したが,これら」も明らかに虚偽である。 オ被告病院の遺族らに対する説明は,概ねCT はなくCTを撮らなかったのはやむを得ない判断であるJ医師「自分の子供でもCTを撮らない(I医師)と説明・発言したが,これら」も明らかに虚偽である。 オ被告病院の遺族らに対する説明は,概ねCT検査等をしなかったことが適切であった旨の説明に終始し,文献や症例報告からみても明らかに虚偽の内,,,容でありさらに原告らが少しでも納得できる内容は全く含まれておらず逆にますます被告病院及び被告Aの診療行為に対する不信感と精神的苦痛を増大させるものである。 原告らは,被告病院による一連の診療経過事実及び不適切な説明と発言等から,Dの死に対してあきらめきれない思いが募り,Dが一層不憫で納得がいかず,精神的にも一段と大きな苦痛を被った。 【被告杏林学園の主張】アDが死亡した直後に行われたI医師の説明内容は,カルテ(甲A2)の7月11日10時40分の欄に記載されたとおりである。 イJ医師は「CTを撮る医者などいない」とは言っていない「普通は撮,。 らない」と言ったと記憶している。 - 31 -ウ平成11年7月13日のJ医師らの発言は概ね認める。 エI医師らの説明・発言は虚偽ではない。 被告病院においては,医師としての見解を表明し,遺族の理解を求め,遺族を慰めようとしたものである。 ⑸被告らの責任【原告らの主張】ア不法行為責任被告杏林学園及びその被用者である被告Aは,重大な過失ある診療行為により,Dの死という結果を生じさせた。さらに,被告A及び被告病院の被用者である他の医師らは,原告らに対しても不適切な説明により多大な精神的損害を与えた。 したがって,被告杏林学園は,自己の不法行為又は被用者の不法行為についての使用者責任に基づき,被告Aは,自己の不法行為に基づき,原告らに対して,各自連帯して損害額の全額を賠償する義務を負う。 イ したがって,被告杏林学園は,自己の不法行為又は被用者の不法行為についての使用者責任に基づき,被告Aは,自己の不法行為に基づき,原告らに対して,各自連帯して損害額の全額を賠償する義務を負う。 イ債務不履行責任原告らは,平成11年7月10日,被告杏林学園との間で,Dの治療に関して,的確に診療・検査・診断した上,その症状に応じた適切な手術・治療を行い,その他,Dの身体に異常症状があれば,これを医学的に解明し,その原因ないし病名を診断し適当な処置を採ることを内容とする診療契約を締結した。 しかし,被告杏林学園は,不完全履行により,Dの死という重大な結果を生じさせ,かつ不適切な説明により原告らに多大な精神的損害を与えた。 したがって,被告杏林学園は,債務不履行に基づき,原告らに対して損害額の全額につき賠償する義務がある。 【被告らの主張】争う。 - 32 -⑹損害額【原告らの主張】アDの損害①逸失利益3510万3966円②慰謝料3500万円③葬儀費用150万円原告B及び原告Cは,上記合計7160万3966円について,それぞれ2分の1ずつ相続により取得した。 イ原告Bの損害固有の慰謝料500万円ウ原告Cの損害固有の慰謝料500万円エ弁護士費用原告らそれぞれについて400万円オ合計原告らそれぞれについて4480万1983円【被告らの主張】争う。 第3争点に対する判断 前記前提となる事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ⑴事実経過アDの受傷状況ア平成11年7月10日(土曜日。以下,単に時刻を記載したものは,同()日のことをいう,原告Cは,○○園で午後6時から開催される盆踊り大。)会に,当時勤務していた都立高校の生徒6名とともにボランティアとして参- 曜日。以下,単に時刻を記載したものは,同()日のことをいう,原告Cは,○○園で午後6時から開催される盆踊り大。)会に,当時勤務していた都立高校の生徒6名とともにボランティアとして参- 33 -加することになっていた。 原告Cは,Dを自転車の後ろに乗せて自宅を出て,待ち合わせ場所の西武新宿線下井草駅で生徒らと合流し,○○園に向かった。途中,公園から帰宅しようとしていた長男のM及びE(当時小学校2年生)と出会い,声をかけたところ,Eも○○園に同行することになった。なお,Dに心身の障害はなかった(甲A6,47から49,乙ロB33)。 イ原告Cらは,午後6時少し前ころ,○○園に到着した。EとDは,綿菓()子の模擬店から,それぞれ試作品の綿菓子をもらい食べ始めた。2人が綿菓,,,子を食べ終えかけていたころ原告Cはゲーム券をもらってこようと考えEに「Dちゃんを見ていてね」と言って,2人をその場に残して券売場に。 向かった(甲A6,49,乙ロB33,35,原告C本人)。 その間に綿菓子を食べ終えたDは,走り出したEの後を追って,綿菓子の割りばしをくわえたまま走り,俯せに転倒し,割りばしがDの軟口蓋に刺さった(甲A44,49,乙ロB33,35)。 Dは,四つばいの状態のまま,力を込めて口の中から自ら割りばしを引き抜き,割りばしを放り投げた(乙ロB31・1-1頁,32・3頁)。 なお,Dが転倒した地点は,土のグラウンドであった(甲A11,49。 ・2-5頁)ウ「転んで割りばしが喉に刺さった」という女性の声に気づいた原告C()。 ,,。 ,は倒れているDのもとに駆け寄りDを抱きかかえた○○園の職員からけが人が出たとの連絡を受けたF看護師(平成4年に看護短期大学を卒業した。当時浴衣を着ていた)が,原告Cに抱かれ ,,。 ,は倒れているDのもとに駆け寄りDを抱きかかえた○○園の職員からけが人が出たとの連絡を受けたF看護師(平成4年に看護短期大学を卒業した。当時浴衣を着ていた)が,原告Cに抱かれたDを見たところ,Dは,。 ,,,顔面蒼白で唇の血色も悪く目を閉じたまま声を出したり泣くこともなく呼び掛けても反応しない状態であった。F看護師は,その様子を見て,すぐに○○園の職員に救急車を呼ぶよう依頼し,Dの口の中を見るために,原告CにDを地面の上に下ろすよう言い,地面の上に仰向けに寝かされたDの顎- 34 -に手をかけ少し下に引いたところ,Dはびっくりしたような感じで声をあげて泣き始め,血色も元に戻ってきた。F看護師がDの口の中を見たところ,口蓋の真ん中から少し後ろ側にへこみがあるのが確認できた。F看護師が原告Cに対して「何か穴があいているみたいですね」と声をかけたところ,,。 原告Cは何か割りばしを刺しちゃったみたいなんですとこたえた乙,「。」。(ロB31,33,34,原告C本人)エF看護師は,Dを横抱きに抱きかかえ,○○園の保健室に運び,仰向け()にベッドに寝かせた。Dは,手足を動かしたり,しがみつくことはなかったが,抱きかかえるのに協調する程度の力の入り具合がみられ,保健室までの移動中も泣き続けていた。原告Cは,Eを呼びに行くと言って,保健室を出た(乙ロB34)。 ,,。 Dは保健室のベッドで横になりながら泣き声をあげて泣き続けていたF看護師は,懐中電灯で口の中を確認しようと,Dに対して口を開けるよう指示したところ,Dは半開き状態から十分に口の中が見える程度に口を開けた。F看護師は,Dの口蓋にへこみのような傷があるのを確認したが,出血は完全に止まっていた。F看護師は,Dの手足を視診したが出血や腫れ したところ,Dは半開き状態から十分に口の中が見える程度に口を開けた。F看護師は,Dの口蓋にへこみのような傷があるのを確認したが,出血は完全に止まっていた。F看護師は,Dの手足を視診したが出血や腫れなどは認められず,また,後頭部を除く頭部を両手で抱え込むように軽く触診したが,こぶなどはなかった(乙ロB34・3-1頁)。 その後間もなく,原告Cは,Eを連れて保健室に戻って来た(甲A6,。 乙ロB34)イ被告病院への搬送状況,,()ア石神井消防署への119番通報は午後6時7分にされ午後6時11分G救急隊長(昭和35年生)を隊長とする同署救急隊(G救急隊長,救急救命士の資格を有するN隊員,O機関員の3名)が,○○園(同園の北側を。 東西に走る新青梅街道の北側車線上)に到着した(甲A5,11,16,。 17,29,乙ロB49)- 35 -F看護師は,救急車が来たので,Dを横抱きにして保健室を出た。G救急隊長がDの顔を観察したところ,顔色は正常で,寝ている子供が抱かれているような状態であることを確認した。F看護師は,救急隊員に対して,転ん,,で綿菓子の割りばしを刺したみたいであること口の中に傷ができているがもう止血していることを伝えた(この点,F看護師は,救急隊員に対して,転んで最初意識がなかったが,今はもう戻っている旨を伝えたと供述している(乙ロB34・3-14頁,6-1頁)が,G救急隊長は,当該申告は聞いていない,N隊員もO機関員も聞いていないことは確実である旨供述しており(甲A16・1-16頁,17・2-14頁,救急活動記録票にも,)かかる申告がされたことをうかがわせる記載が何らないことに照らせば,F看護師の当該供述部分を採用することはできないといわざるを得ない。 。)午後6時12分,Dは,救急車内のストレッチ 票にも,)かかる申告がされたことをうかがわせる記載が何らないことに照らせば,F看護師の当該供述部分を採用することはできないといわざるを得ない。 。)午後6時12分,Dは,救急車内のストレッチャーに頭部を車前方に向けて寝かされた(甲A5,16,17,乙ロB34,49)。 G救急隊長が原告Cに対して「どうしましたか」と聞いたところ,原,。 告Cは,盆踊り会場で歩行中に転倒し,綿菓子の割りばしが喉に刺さった旨を伝えた。そのころ,救急車に近づいてきた中高年の女性が,G救急隊長に対して「綿あめの割りばしは本人が抜いたよ」と伝えた(甲A16,1,。 。 7)G救急隊長がDに対して「どこか痛いの,口開けられる?」と呼び掛け,たところ,Dは,すぐに口を開けた。G救急隊長は,ペンライトで口の中を,,。 照らし傷の状態をみたところ軟口蓋の部位に傷口があることを確認した出血は,にじむ程度で,舌に若干血液が付着していることが認められた。G救急隊長は,Dの頭をくるむように触診し,首から下については保温用毛布をはいで視診したが,他に傷や出血,こぶなどは発見できなかった。G救急隊長は,Dに対して「目を開けられる?」と問いかけたところ,Dはすぐ,。 ,,,,,に大きく目を開けたその後G救急隊長は瞳孔径対光反射呼吸状態- 36 -脈拍,体温,動脈血酸素飽和度を確認した(甲A5,16,17,乙ロB。 49)イG救急隊長は,原告Cから,Dが今までにかかった病気や既往症,かか()りつけの病院,搬送を希望する病院などを聴取し,受傷部位等から,耳鼻咽喉科のある設備の整った大学病院を選定する旨を説明した後,原告Cの了解を得て,搬送可能な病院の中から,搬送先として被告病院を選定した。O機,,関員は救急車備え付けの無線電話で被告 等から,耳鼻咽喉科のある設備の整った大学病院を選定する旨を説明した後,原告Cの了解を得て,搬送可能な病院の中から,搬送先として被告病院を選定した。O機,,関員は救急車備え付けの無線電話で被告病院の1・2次救急外来に連絡し管理当直医P医師(皮膚科専任講師)に対して,4歳の男児が転倒し,綿菓,,,,子の割りばしを持って転んで喉にけがをした傷の程度は軽い意識清明約20分で到着する旨を伝えた。P医師は,これらの情報から,患児は喉の皮膚に傷を負ったものと考え,形成外科が担当することが妥当と判断した。 P医師は,救急隊に対して,受入れが可能である旨を伝えた(甲A16,。 17,乙ロB7,10,33)午後6時20分,原告C,Eとともに,Dを乗せた救急車は,被告病院に向けて,○○園を出発した(甲A5,16,17,原告C本人)。 ウ午後6時30分ころ,Dは,上半身や顔を徐々に向かって左に動かした()後,いきなり車の左側壁に向けて勢いよく多量に嘔吐した。吐瀉物は,薄ベ,,ージュ色を帯びた少し甘いにおいの液状のもので血液の混入は認められず20から30センチメートル前後の距離に達した。Dの向かって右側にいたG救急隊長は,Dの口の周りを拭き,口の中に吐瀉物が残っていないことを確認した後,Dに対して,大丈夫か,と尋ねたところ,Dは軽く頷いたが,声に出して返事をすることはなかった。被告病院に到着するまでの間も,Dの嘔気は続いていたが,救急車内での嘔吐はこの1回のみであった(甲A。 5,16,17,29,乙ロB49)エ救急活動記録票(作成者・N隊員,作成責任者・G救急隊長。大部分は()G救急隊長が記入した)には,次の記載がある(甲A5,16,乙ロB。 。 - 37 -49)a救急要請の概要指令内容杉並区○-○-○わた ・N隊員,作成責任者・G救急隊長。大部分は()G救急隊長が記入した)には,次の記載がある(甲A5,16,乙ロB。 。 - 37 -49)a救急要請の概要指令内容杉並区○-○-○わたあめの割ばし喉に刺った模様すぎの木園内において,わたあめの割ばしを口に入れて歩行中転倒受傷したもの情報源氏名原告C(母親)b現場到着時の状況出場番地先路上にいた女性と母親に抱かれていた(割ばしは口の内になかった)cその他摘要[不搬送の理由及び傷病者家族への対応も含む]・母親に対し耳鼻咽喉科のある大学病院を選定することを母親に了解を得る・わたあめの割ばしは本人が抜いた(路上の女性談)d現場到着時の外見観察状態「歩行可能」欄のチェックが二重線で抹消され「歩行不能」欄に,チェック「他」欄にチェックがあり「女性と母親に抱かれていた」と付記表情苦痛顔貌正常嘔吐有嘔気有(車内で1回嘔吐)失禁無出血有外出血小に○印四肢変形無e現場到着から医師引継ぎまで実施した観察結果観察開始時分18時12分意識(300・200・100・30・20・10・- 38 -3・2・1・清)の清に○印呼吸30回/分性状(記載なし)脈拍102回/分性状(記載なし)血圧(記載なし)瞳孔R(3)L(3)対光+/+酸素飽和度96%との記載の上に二重線で抹消その他の観察所見・軟口蓋の挫創有.出血は止っていた. ・車内搬出途上嘔吐有(1回)左側臥位介助する(18時30分頃)観察開始時分18時19分意識清に○印(18時12分と同じ)呼吸30回/分性状(記載なし)脈拍96回/分性状(記載なし)血圧(記載なし)瞳孔R(3)L(3)対光+/+酸素飽和度96%その他の観察所見 清に○印(18時12分と同じ)呼吸30回/分性状(記載なし)脈拍96回/分性状(記載なし)血圧(記載なし)瞳孔R(3)L(3)対光+/+酸素飽和度96%その他の観察所見(記載なし)医師引継ぎ時意識清に○印(同上)呼吸30回/分性状(記載なし)脈拍102回/分性状(記載なし)血圧(記載なし)瞳孔R(3)L(3)対光+/+酸素飽和度(記載なし)その他の観察所見- 39 -メインストレッチャーにて救急処置室に搬送するウ被告Aへの引継ぎの状況ア午後6時40分,Dらは被告病院に到着した。G救急隊長らは,Dを乗()せたストレッチャーを救急車から降ろし,被告病院の1・2次救急外来の入口から救急処置室に搬入した。G救急隊長は原告Cに対して,救急外来受付で手続きをするよう指示し,原告Cは受付に向かった(甲A16・3-1。 5頁),,,Dの到着前当初被告病院では形成外科が担当することになっていたが,,担当医が他の処置に時間がかかっていたこと口腔内のけがであることから耳鼻咽喉科が担当することになった(甲A1,20・2-1頁,21・1。 -1頁,28)イ担当看護師のH看護師は,Dがストレッチャーの上で目を閉じており,()ぐったりしているように感じたため,G救急隊長に対して「意識はいいですか」と尋ねたところ,G救急隊長は「いいですよ」とこたえた。G救急。 。 隊長は,Dを抱き上げて処置台に移した。Dは,目や口を閉じたままであったが,完全に力が抜けているような状況ではなく,G救急隊長は,寝ている子供を抱きかかえているように感じた。G救急隊長は,H看護師に対して,綿菓子の棒をくわえて走っていて転倒したこと,割りばしは探したが見つからなかったこと,周りの人は自分で抜いて捨てて 長は,寝ている子供を抱きかかえているように感じた。G救急隊長は,H看護師に対して,綿菓子の棒をくわえて走っていて転倒したこと,割りばしは探したが見つからなかったこと,周りの人は自分で抜いて捨ててしまったようだと言っている,転倒した場所は土のグラウンドである旨を伝えた。H看護師がDを見たところ,頭部にこぶやぶつけたような痕は見当たらず,G救急隊長からも頭。(,,,,)部をぶつけたとの申送りはなかった甲A16 H看護師は,傷の状態を確認するため,処置台の上で横になっているDに対して,口を開けるよう言った。Dはすぐに口を開けたが,開け方がやや小さかったことから,H看護師は,もっと大きく開けるように言ったところ,Dは傷を確認できる程度に口を開いた。H看護師は,G救急隊長に受傷部位- 40 -をペンライトで照らしてもらい,一緒に傷を確認をした。救急車内でG救急隊長が確認した時とは異なり,Dの舌には血液が付着していなかった(甲A16,18,20,28。続いて,H看護師は,Dの瞼を指で開き,瞳孔)を確認したところ,瞳孔径は左右共に3ミリメートル,対光反射は正常であった(甲A17,18,21,乙イA1。H看護師は,Dの呼吸にも異常)を感じることはなく,それ以外のバイタルサインについては,直ちに調べる必要はないと思い,確認をしなかった(甲A21。 )ウa午後6時50分ころ,被告Aは,処置室に現れた。 ()G救急隊長は,被告Aに対して,綿菓子の割りばしをくわえて歩行中転倒し喉に刺さったこと,割りばしは抜けていること,D本人が自分で割りばしを抜いたこと,傷の深さは不明であること,バイタルサインには問題がないこと,搬送途上の救急車内で嘔吐が1回あった旨を伝えた(甲A。 16,17,乙ロB2,被告A本人)G と,D本人が自分で割りばしを抜いたこと,傷の深さは不明であること,バイタルサインには問題がないこと,搬送途上の救急車内で嘔吐が1回あった旨を伝えた(甲A。 16,17,乙ロB2,被告A本人)G救急隊長がDに対して「口を開けて」と声をかけたところ,Dは,。 口を開けた。被告Aは,G救急隊長にペンライトで受傷部位を照らしてもらい,傷口を確認した後「はい,わかりました」とこたえた(甲A1,。 。 6,17,乙ロB1)被告Aは,傷病者搬送通知書の傷病名欄に「軟口蓋裂傷,初診時程度」別の「5軽症軽易で入院を要しないもの」欄の「5」に丸印を記入して,G救急隊長に渡した(甲A16,乙イA2,乙ロB49)。 bH看護師は,Dが処置台の上で,抱きかかえてほしそうな様子をしていることに気づいたことから,Dに「だっこ?」と聞いたところ,Dは,何も言わずに頷いた。そこで,H看護師がDを頭を上にして抱きかかえたところ,Dは,H看護師が着用していたエプロンの肩ひもをつかんだ。その際,H看護師は,Dが,眠っている子供のように体全体に力が入っていない状態ではないと感じた(甲A18,20,21,27)。 - 41 -また,処置室にいる間,Dは数回嘔気を催したため,H看護師が「気持ち悪いの?」と聞いたところ,Dは頷いた後,H看護師が手に持っていた膿盆の中に嘔吐した。吐瀉物は,りんご飴のような甘い臭いのする透明のもので,少量の血液が混入していた(甲A18から20,28)。 その際,G救急隊長は,H看護師に,Dが救急車の中でも1回嘔吐した旨を伝えた(甲A18)。 エ被告Aは,H看護師に,Dを診察室に連れて行くよう指示し,H看護師()はDを抱きかかえて診察室に向かった(甲A16,被告A本人)。 G救急隊長は,受付手続きを終えて待合室で待っていた原 。 エ被告Aは,H看護師に,Dを診察室に連れて行くよう指示し,H看護師()はDを抱きかかえて診察室に向かった(甲A16,被告A本人)。 G救急隊長は,受付手続きを終えて待合室で待っていた原告Cに対して,診察室に行き,詳しい状況を医師に話すよう伝えた。G救急隊長は,救急車に戻り(車内は隊員により清掃されていた,石神井消防署に戻った(甲。)。 A16,17)被告A及びH看護師がDとともに診察室に向かう途中,待合室から来た原告Cと合流し,一緒に診察室に入った(原告C本人,被告A本人)。 エ被告Aによる診察の状況アH看護師は,原告Cを診察室の椅子に座らせ,抱きかかえていたDを原()告Cの膝の上に乗せた。H看護師は,被告Aに「眼は3,3です」と報,。 告した後,Dを被告病院の観察ベッド室で休ませることになる場合に備え,ベッドの準備をするために診察室を出た(甲A18,20,28)。 原告Cは,Dを自分の膝の上に座らせ,被告Aの方を向くように抱きかかえた(原告C本人,被告A本人)。 イ被告Aは,原告Cに対して「どうしましたか」と尋ねたところ,原告(),。 Cは「転んで割りばしが喉に刺さりました」又は「転んで割りばしで喉,。 を突きました」との趣旨を伝えた(原告C本人,被告A本人)。 。 (,,,,「。」なお被告Aは原告Cに対してさらに割りばしはどうしましたかと質問したと供述するが(乙ロB1・19頁,2・56頁,被告A本人・7- 42 -),,(,頁原告Cはこの点について明確に否定しており甲A49・4-9頁乙ロB33・2-10頁,原告C本人・11頁,外来診療録等にも,それ)をうかがわせる記載がないことに照らせば,被告Aがかかる質問をしたとまでは認めることができない)。 被告 甲A49・4-9頁乙ロB33・2-10頁,原告C本人・11頁,外来診療録等にも,それ)をうかがわせる記載がないことに照らせば,被告Aがかかる質問をしたとまでは認めることができない)。 被告Aは,Dに対して,口を開けるように言い,舌圧子と倦綿子を用いて受傷部位を観察したが,裂傷があるものの出血はなく,硬いものなどが触れることもなかった(乙ロB1・27頁,被告A本人)。 (この点,原告Cは,Dが被告Aの開口命令に続けて,原告Cが「ライオン。」,,さんの大きなお口だよと声をかけても口を余り開けなかったことから原告CはDの顎に手を添えて口を開けた,Dは被告Aの指示を理解して口を開けたと思うと供述する(甲A49・1-1頁,5-7頁,乙ロB33・2-11頁,原告C本人・13頁。これに対して,被告Aは,診察中,Dに)特に異常な点はなかったと供述していること(被告A本人・16頁)に加えて,原告C及びDが椅子に腰掛けている態様や,Dの抱き方等につき,原告Cと被告Aの供述に齟齬があること(原告Cにつき,甲A49・5-2頁,乙ロB33・2-8頁,被告Aにつき,乙ロB1・14頁,乙ロB36・3),,5頁などにかんがみれば被告AがDに対して口を開けるように言った後Dが口を開けるまでの具体的経緯については,証拠上,これを認めることができないというべきである)。 被告Aは,Dに「しみるよ」と言って,消毒液を付けた倦綿子で口腔,。 ,,()内の受傷部位を消毒し続いてケナログ消炎剤及び抗生剤を含んだ軟膏を倦綿子に付けて傷口に塗布した(乙ロB1・27頁,47頁,原告C本。 人,被告A本人)被告Aの処置の直後,Dは1度嘔吐した(乙ロB1・28頁,被告A本。 人)被告Aは,原告Cに対して,疲れているのでその日はゆっくり休ませる (乙ロB1・27頁,47頁,原告C本。 人,被告A本人)被告Aの処置の直後,Dは1度嘔吐した(乙ロB1・28頁,被告A本。 人)被告Aは,原告Cに対して,疲れているのでその日はゆっくり休ませるこ- 43 -と,入浴させないこと,食べ物は軟らかいものを食べさせること,薬は飲ませること,吐いて食べ物が詰まるといけないため,横向きに寝かせること,呼び掛けても反応しなかったり,傷があるため,再出血するようであれば病院に連絡するか来院すること縫うかどうかを決めるため7月12日月,,,(),曜日午前9時30分までに被告病院の外来に来ることを指示するとともに呼吸も普通であり,この様子であれば大丈夫でしょう,との趣旨を伝えた。 (甲A1)被告Aは,原告Cに対して,Dに喘息の既往歴がないことを確認し,Dにメイアクト(抗生物質)とポンタール(消炎鎮痛剤)を処方して,診察を終了した(甲A49・1-4頁,乙ロB1・29頁,被告A本人)。 診察室での被告AによるDの診察時間は,約5分程度であった(原告C。 本人)ウ被告Aが記入した外来診療録には,次の記載がある(甲A1)()。 「ChiefComplaint口の中をハシでつついた。 HistoryofPresentIllness7/10PM6:15頃おハシをくわえてころび軟口蓋にささった. 救急車内で嘔吐1回サインAPastHistoryAsthma(-)FamilyHistory出血性素因については不明」「StatusPresens上部中央に- 44 -『PM6:50A』上部左側に,『ハシはすでにぬけていたため深さについては不明』上部やや右側に,『・救急車にて来院開口命令に対し開口O.K. ・意識レベル1-2と思われる. ・髄 -『PM6:50A』上部左側に,『ハシはすでにぬけていたため深さについては不明』上部やや右側に,『・救急車にて来院開口命令に対し開口O.K. ・意識レベル1-2と思われる. ・髄膜刺激症状なし』中央部左側に,口腔内の図とともに,『裂傷出血(-)0.7cm×0.5cmケナログBep』上記記載の下に,『7/12(月)再(○が付されている)⇒A逢合するかどうか決める』. 中央部右側に,『Bw)16kgRp)メイアクト(DS)160mgポンタール(Sy)9ml/3×2TD』下部に,『意識レベルの低下,出血の増強した時には- 45 -再度来院を指示髄膜炎の可能性もあるので抗生物質を投与』オDが死亡するに至るまでア午後6時55分ころ,診察を終えた原告Cは,Dを待合室の長椅子に寝()かせ,自宅にいた原告Bに電話し,保険証とお金を持って病院に迎えに来て。 ,,。(,くれるよう頼んだDは待合室にいる間にも1度嘔吐した甲A1349・8-3頁,乙ロB33・3-11頁)午後7時30分ころ,原告Bは被告病院に自家用車(ワンボックスカー。 日産セレナ)で到着し,Dを2列目シートに寝かせて,原告らは帰途についた。原告Cは,途中,○○園で下車し,近くのファミリーレストランにいた引率してきた生徒らの様子を確認した後,自転車で自宅に向かった(甲A。 12,乙ロB33)午後8時ころ,原告らは帰宅した。帰宅後間もなく,原告Cは,Dに薬を流し込むようにして飲ませようとしたが,ほとんど喉を通らなかった。原告Cは,Dがもう眠っているのかと思い,布団に寝かせた(甲A49,乙ロ。 B33,原告C本人)原告Cは,隣室でDの様子をうかがいながら,夜を徹して,勤務先の高校の1学期末の成績処理をしていた。Dは,夜中に Dがもう眠っているのかと思い,布団に寝かせた(甲A49,乙ロ。 B33,原告C本人)原告Cは,隣室でDの様子をうかがいながら,夜を徹して,勤務先の高校の1学期末の成績処理をしていた。Dは,夜中にも2度ほど嘔吐した(甲。 A49・7-1頁,乙ロB33・4-8頁)翌11日(以下,単に時刻を記載したものは,同日のことをいう)午前。 6時ころ,原告CがDに声をかけたところ,Dの瞼や唇に動きがあった。その後,原告Cは寝入ってしまった(甲A6,49・7-3頁,乙ロB33。 ・5-2頁,原告C本人)イ同日午前7時30分ころ,Eは,いつも観ている子供向けのテレビ番組()を一緒に観るためにDを起こそうとして,Dの唇が紫色になっているのを発見した。原告Cは,直ちに救急車を呼んだが,救急隊到着時,Dは心肺停止- 46 -状態であった。Dは救急車で被告病院に搬送され,午前8時15分,3次救急外来に収容された(甲A2,乙イA3,乙ロB33,原告C本人)。 Dが3次救急外来に搬送されてきたことを知ったH看護師は「救急患者,. 」,。(,データベースNo と題する書面に次のとおり記入した甲A20乙イA1)「―省略―来院日時H11年7月10日PM6:50―省略―現病歴,,,,わたあめの棒を口にくわえて走っていたところ転倒し口腔内に,,。 棒が刺さってしまったため救急車を呼び1・2次ERへ搬送される既往歴救急車内で嘔吐あり。 来院時フィジカルデータ主訴口腔内刺傷Ⅰ-1.2(1及び2の双方を含むように丸印)Bp(血圧,P(脈拍数,BT(体温,R(呼吸数)記載なし)))心血管系:①胸痛無②動機無③チアノーゼ無呼吸器系:①呼吸音(記載なし)②咳嗽無③呼吸困難無④酸素吸入無 )Bp(血圧,P(脈拍数,BT(体温,R(呼吸数)記載なし)))心血管系:①胸痛無②動機無③チアノーゼ無呼吸器系:①呼吸音(記載なし)②咳嗽無③呼吸困難無④酸素吸入無脳神経系:①瞳孔右3mm・左3mm②対光有③運動麻痺(記載なし)④視覚障害無⑤聴覚障害無⑥言語障害無()消化器系:①腹痛無②嘔気有・嘔吐有③排便状態記載なし外傷部位:記載なし- 47 -1・2次救急外来での処置・検査・経過18:50軟口蓋に,0.5~1cm程度の裂傷あり。 出血はごく少量認める。 ぐったりとして,横になっているが「口を開けて」と言,うと,指示に従う。Ⓢだっこと訴えがあったため,抱く。 嘔気は持続しているようで,しきりと吐こうとしている。 。 ,,。 嘔吐あり吐物内に食残中等量及び血液も少量認める抱いたまま,母と共に,耳鼻科診察室へ。 19:00母に抱かれ,診察開始となる。 帰宅」ウ被告病院の医師Q及びRは,既に心停止しているDに対して,気管内挿()管による人工呼吸,心臓マッサージ等を施したが,午前9時2分,Dの死亡が確認された(甲A2,乙イA3)。 Q医師からDの診察を依頼されたI医師は,Dの心肺蘇生術中,Q医師とともにDの軟口蓋の傷を視診及び触診したが,異物等は確認できなかった。 (乙ロB8・3頁,11頁)エR医師は「病歴要約」と題する書面の「経過概要欄」に,次のとおり(),記載した(甲A2)。 「H11.7/10誤って口腔内に棒をさしてしまった為,当院耳鼻科受診.受傷後より,嘔気,嘔吐あり.ぐったりしていた.帰宅してもぐったりしていた。 H11.7/11.AM6頃「大丈夫」と声をかけたところ「うん」,,という返事はあった. 7:30頃再度声をかけた 診.受傷後より,嘔気,嘔吐あり.ぐったりしていた.帰宅してもぐったりしていた。 H11.7/11.AM6頃「大丈夫」と声をかけたところ「うん」,,という返事はあった. 7:30頃再度声をかけたところ,返答なく上辰. チアノーゼ著明であり,救急隊要請,到着時,CPAにCPR施行し,3次搬送. 来院時,CPA状態で直ちに挿管.心臓マッサージ.CVline確保し- 48 -ボスミン計10A使用したが反応なく,H117/11午前9:02死亡確認」. カDの死亡確認後,司法解剖されるまでの経過アDの死亡確認後に行われた腰椎穿刺による髄液検査の結果,血性髄液の()所見があり,何らかの脳内出血(脳血管障害)が疑われた。そこで,頭部のCT検査を実施したところ,小脳付近の後頭蓋窩に硬膜外血腫,浮腫,空気の混入が認められた。この結果から,I医師は,割りばしによって何らかのかたちで当該箇所が損傷を受けた可能性も考えたが,割りばしの有無等は分からなかった(甲A2,乙ロB1・38頁,乙ロB8,11)。 I医師が被告Aから,前日のDの診察状況を聞いたところ,被告Aは,Dの喉のところに傷があった,うとうとしていた,嘔吐があった旨を伝えた。 イ午前10時40分から,I医師はQ医師とともに,Dの心肺蘇生術中に()行った軟口蓋の傷口の確認や髄液検査,CT検査,被告Aからの聞き取りの結果に基づき,約40分間にわたり,原告らに対して,3次救急外来での治療,死因,前日の耳鼻科における診療,今後の措置等について説明した。I医師は,死因について,子供の場合,死亡するような脳出血としては,くも膜下出血,脳動静脈の奇形や外傷による動静脈血管の破綻などが原因であることが多い,昨夜割りばしを咽頭部に刺したことも,深く刺さっていれば原因の可能性があるが,刺入した割 るような脳出血としては,くも膜下出血,脳動静脈の奇形や外傷による動静脈血管の破綻などが原因であることが多い,昨夜割りばしを咽頭部に刺したことも,深く刺さっていれば原因の可能性があるが,刺入した割りばしがどの位刺入したかは,すぐに現場。(,,で抜いて捨ててしまったので判断がつかない旨を説明した甲A2 乙ロB8,11)その後,J医師は,被告A及びI医師からの説明を受けて,被告Aとともに,原告らに対して,割りばしが喉に刺さるという例は何十例とあり,前日も同じようなものがあったが,死亡に至るような例はない「割りばしは,,先端が鋭利でないし,それが頭蓋底を貫通するなどということはあり得ないので,普通はCTを撮らない」と説明した(甲A45,49)。 。 - 49 -ウ被告病院は,原告らの承諾を得て,Dの検死を依頼した。担当した警察()医Sは,I医師らの説明を受けながらDの口腔内を観察したが,異物等は発見されなかった(甲A4,乙ロB8・10頁,乙ロB11)。 同医師が作成した死体検案書の「死亡したとき」欄には「平成11年7月11日午前8時14分推定,死亡の原因欄には「ア直接死因・頭蓋内損」()傷,イアの原因・軟口蓋から頭蓋内に達する刺創」との記載がある(甲()()。 A4)エ同月12日午前10時30分から午後1時30分にかけて,慶應義塾大()学医学部法医学教室において,K医師によるDの司法解剖が行われた。この解剖に基づいて作成された鑑定書(以下「K鑑定書」という)には,次の。 記載がある(甲A8,9,30)。 「第1章解剖検査記録第1節外表所見【1.全身所見】一男性小児死体.身長105.0cm,体重16.6kg. ―省略―第2節内部所見A.頭部―省略―【12.脳】重さは151 「第1章解剖検査記録第1節外表所見【1.全身所見】一男性小児死体.身長105.0cm,体重16.6kg. ―省略―第2節内部所見A.頭部―省略―【12.脳】重さは1510g,大きさは19.8×17.5×6.7cm.脳軟膜は浮腫状で,中等度に充血し,脳回は扁平化している.左右側脳室内には無色透明液少量がある.脳室壁はやや充血し,脈絡叢は紫赤色で,血量は中等である.脳底部の血管系に特に硬化や動脈瘤などの異常はない. 後記創傷がある(第3章【1】参照(なお,第3節【1】の誤記と認)める。甲A36・5-16頁)- 50 -―省略―第3節創傷などの所見―省略―A.咽頭・頭部【1】軟口蓋左半の後端に近いところ(硬口蓋と軟口蓋との移行部の直後方)に,全体として左右径0.7cm,前後径0.8cm大の創口の開いた創傷1個.本創傷は付写真に示すように,右やや後方から左やや前方に細長い長方形を呈する創傷と,その周囲に幅約0.2~0.1cmの粘膜剥脱ないし浅い粘膜挫傷を伴った形態を呈している.その中心部の長方形を呈する部分は,左右径0.5cm×前後径0.3cmで,その左前端は左上顎第2乳臼歯(頬側面)の右わずか後方1.8cm,同中切歯(頬側面)の後わずかに左方3.3cmのところに位置している.創洞は軟口蓋を貫通して上咽頭腔内に入り,ついで上咽頭後壁の左半を損傷して咽頭後部の軟部組織に刺入して同軟部組織内を後やや左上方に向い,ついで頭蓋底において左頸静脈孔内を通り(頭蓋骨の損傷なし,頭蓋腔(左後頭蓋)窩)に達している.左後頭蓋窩の硬膜損傷部は,大後頭孔左縁中央の左前方1.0cmのところに位置し,大きさは約0.6×0.4cm,軟口蓋の損傷部から左後頭蓋窩の硬膜損傷部までの距離は約5.0cmである。 軟口蓋の上咽 .左後頭蓋窩の硬膜損傷部は,大後頭孔左縁中央の左前方1.0cmのところに位置し,大きさは約0.6×0.4cm,軟口蓋の損傷部から左後頭蓋窩の硬膜損傷部までの距離は約5.0cmである。 軟口蓋の上咽頭側における刺出部附近の咽頭腔内から頭蓋腔内にかけて,長さは約7.6cm,太さは最大で約0.45×0.4cmの「割り箸」の一部と考えられる棒状の木片1個がある.本木片は頭蓋腔内に約2.0cm程度嵌入しており,頭蓋内における木片先端の形状はほぼ長方形を呈しほぼ正鋭で,その大きさは約0.4×0.3cm,咽頭腔における木片の断端は不整で,やや斜めに折れた形態を呈している. ,,本木片の嵌入により左内頸静脈は頸静脈孔部で挫滅して内腔は閉塞し同部から左S状静脈洞および左横静脈洞にかけて血栓形成がみられる.ま- 51 -た,左小脳半球前下面にほぼ前後方向に走る,約2.0cm長のくも膜損傷部がみられ,小脳実質の損傷(深さ約3.5cm)を伴っている.本損傷部周囲の小脳実質内に中等層の出血がみられる.また,本小脳損傷部の周囲の硬膜下腔に,大部分は左後頭蓋窩の小脳天幕下,一部は左小脳天幕上と右後頭蓋窩の天幕下にわたり,合計約24ml(重さ26g・大部分は軟凝性血液)の出血がみられる. なお,下口唇粘膜ほぼ中央右側寄りに,下わずかに右方から上わずかに左方に向かう長さ約0.6cm,幅約0.1cm程度の赤褐色線状表皮剥脱がみられ,その延長線上に軟口蓋の損傷がほぼ位置している.本表皮剥脱は医療行為により生じた可能性もあるが,軟口蓋の損傷と同一機会に生じた疑いがある. [鈍的な刺創:致命傷]―省略―C.上肢【3】右前腕後外側上端,右肘頭の直下方からその下方にかけて,上下径5.5cm,左右径4.0cm大の範囲に,主として下右方から上左方に向かって走る1.2× 的な刺創:致命傷]―省略―C.上肢【3】右前腕後外側上端,右肘頭の直下方からその下方にかけて,上下径5.5cm,左右径4.0cm大の範囲に,主として下右方から上左方に向かって走る1.2×0.1cm大以下の赤褐色の線状ないし破線上の表皮剥脱10数個,この部の皮下組織に極めて薄層の出血がみられる[擦. 過傷:軽傷]―省略―第2章説明第1節死因,および異常体質の有無について,【】本死体には第1章第3節に記載したような創傷がみられるが創傷1は軟口蓋から刺入して頭蓋内に達する鈍的刺創であり,左内頸静脈及び小脳を損傷している.このような損傷に伴い,硬膜下血腫および脳浮腫が生じて脳回は扁平化し,頭蓋内圧の亢進が強く示唆される.また,本損傷に- 52 -伴う感染症としての髄膜炎が組織学的に認められる.このような頭蓋内損傷の状態は高度の脳機能障害を生じうる極めて重篤なものと言え,一般的に考えて充分に死因となるものである.なお,このような脳機能障害に伴って生じたとみられる急性気管支炎が認められる. 【】【】,. その他の創傷 は軽微なものでいずれも死因とはならないなお,創傷【2】は明らかな生活反応を欠いており,死後に生じた可能性も否定できない. なお,本死体には重大な内因的疾患は解剖所見から認められない.また本死体には異常体質の存在を積極的に疑わせるような解剖所見は認められない. 以上のことから,本死体の死因は軟口蓋から頭蓋内に達する刺創による頭蓋内損傷群と考えられる. ―省略―第3章鑑定主文―省略― 死因軟口蓋から頭蓋内に達する刺創による頭蓋内損傷群と考えられる 創傷の部位,程度A.咽頭・頭部【1】軟口蓋左半の後端に近いところから左頸静脈孔を経て頭蓋内に至る鈍的な刺創(小脳損傷を 死因軟口蓋から頭蓋内に達する刺創による頭蓋内損傷群と考えられる 創傷の部位,程度A.咽頭・頭部【1】軟口蓋左半の後端に近いところから左頸静脈孔を経て頭蓋内に至る鈍的な刺創(小脳損傷を伴う[致命傷])B.背部【2】腰部左側に擦過傷[死後に生じた可能性もあり,生前に生じたとしても極めて軽傷]C.上肢【3】右前腕後外側の上端に擦過傷[軽傷]- 53 - 凶器の種類,その用法本死体にみられる創傷のうち,創傷【1】は割り箸とみられる棒状の木片が刺さって生じたとみてよい.本創傷は,たとえば割り箸を口にくわえ,. た状態で前方に転倒することなどにより形成が可能であると考えられる右前腕の創傷【3】もそのような転倒時に路面などで擦過して生じたとみて矛盾しない. ,,【】なお刺創管の長さと軟口蓋における刺入口に位置からみて創傷 の成傷器(棒状木片)の長さは約10cm以上と推定される. ―省略―」キ原告らに対する説明の状況同年7月13日午後2時30分ころ,J医師,I医師及びL事務長は,原告らのマンションを訪問し,原告らに対して「割りばしが,喉の奥から頭,蓋底を貫通しているが,頭の骨は硬く,頭蓋底を貫通するなどあり得ないと考えた(J医師「法医学書,様々な資料などを見ても,そんな例(割。」),りばしが頭蓋底を貫通する例)は今までになかった(I医師「割りば。」),しが頭蓋内に達したという例は過去になく,とても脳内の出血など予測できるものではなく,CTを撮らなかったのはやむを得ない判断である(J。」)。」()。()医師自分の子供でもCTを撮らないI医師旨を説明した甲A6同日午後4時30分ころ,被告病院において,Dの診療経過,司法解剖の結果についての記者会見が行われた(甲A )。」()。()医師自分の子供でもCTを撮らないI医師旨を説明した甲A6同日午後4時30分ころ,被告病院において,Dの診療経過,司法解剖の結果についての記者会見が行われた(甲A6)。 同日,原告Bは,警察からDの司法解剖の結果の報告を受け,Dの頭蓋内に割りばし片が残存していたことを知った。原告Bは,警察に対して,頭蓋内に割りばし片が残存していたことを原告Cに伝えないよう依頼した(甲。 A6,原告C本人)その約2週間後,原告Bは,原告Cに対して,Dの頭蓋内に割りばし片が残存していたことを伝えた(甲A6)。 - 54 -⑵口腔外傷に関する医学的知見ア口腔外傷に関する医療水準ア口腔外傷について,治療手順やマニュアル等のガイドラインに則った医()療水準が確立されていると認めるに足りる的確な証拠はない(甲A33・。 19頁,甲A43・37頁,乙ロB3・29頁参照)イなお「今日の耳鼻咽喉科頭頸部外科治療指針」と題する書籍(平成4(),年発行)においては,口腔部外傷の刺創及び裂傷の救急治療の手順として,次のとおり記載されている(乙ロB19)。 a口腔内の創は,まず止血を行う。動脈損傷がない限り,大抵自然に止血する。 bしかし,出血が多く,意識がなければ,気道閉塞の恐れもあるので,挿管,気管切開の準備が必要。 c止血されていれば,よほど大きな創でない限りほとんどの創で,縫合は不要であり,そのままでも感染も生じないで,自然治癒する。しかし,おおまかでも合成吸収糸で縫合しておけば安心ではある。 d異物が創内にあったり,突き刺さったりしていれば,除去が必要。 e経過をみていくが,大抵そのままで摂食可能である。念のため,感染防止に抗生物質を投与する。 ウまた「今日の治療指針1997年版」と題する書籍(平 あったり,突き刺さったりしていれば,除去が必要。 e経過をみていくが,大抵そのままで摂食可能である。念のため,感染防止に抗生物質を投与する。 ウまた「今日の治療指針1997年版」と題する書籍(平成9年発行)(),においては,顔面口腔外傷につき,「顔面・顎・口腔外傷症例では,重症であるほど脳損傷や頭蓋内出血を伴うことが多く,救命の意味から脳外科的診断処置をまず第1に考えなければならない」. とした上で,口腔内損傷の治療指針として,「口腔内挫創は,止血さえ完了していれば開放創として治療する場合が多い.しかし,舌損傷の場合には多量出血や再出血をきたしやすいため,デ- 55 -()。 クソン糸4-0などの吸収糸により筋層に及ぶ強い縫合が必要であるまた,皮膚表面から口腔内へと続く貫通創の場合,唾液瘻を防止するために口腔粘膜・筋層・皮膚と少なくとも3層に縫合し,外界との交通を遮断することが重要である」。 としている(乙イB13)。 イ口腔外傷の治療指針に関する論文ア平成5年に発表されたラドコウスキーほかの論文において「1981(),年から1990年までの間にボストン小児病院で見られた77例の患者に基づき,これらの患者に対してひとつの治療指針が描けるほどの一定の条件が見いだせるかどうかについて検討した」結果「口腔咽頭外傷はまれなもの,ではあるが,ある一定の比率で救急外来において見られる。非常に致死的な脳神経損傷は内頸動脈の内皮の剥脱(軟口蓋の後側方に急速な強い力が加わ,,ると動脈は圧迫した物体と第2あるいは第3頸椎の横突起の間にはさまれ圧迫されると思われる。このようなずれの動きにより血管の内皮がはがれ,直接の動脈外傷や穿通が無くても内頸動脈血栓が引き起こされる)とそれ。 に伴う血栓に深く関連していると信じられ 突起の間にはさまれ圧迫されると思われる。このようなずれの動きにより血管の内皮がはがれ,直接の動脈外傷や穿通が無くても内頸動脈血栓が引き起こされる)とそれ。 に伴う血栓に深く関連していると信じられている。しかしながら,このような悲惨な合併症の発現は極めてまれで,我々の病院では9年間に一例も見られなかった。内頸動脈損傷が極めてまれであるという点と,脳神経の病巣症状が発現するまでに最高48時間の無症状期間があることから,口腔咽頭外傷のすべての子供を入院させるということは,実際的ではないし,また臨床的に正当なこととは言えない。もし神経学的に正常であれば,嘔吐や興奮性の出現,無頓着,精神状態の変化,あるいは脳神経の病巣症状が認められた時には,再度救急外来を訪れるように説明しておけば,ほとんどの患者は自宅に帰してよいかもしれない。手術的な治療を必要とする患者や精神状態を評価するのが難しい幼児,あるいは自宅での観察に信頼性がもてないような患者については,入院を予約すべきであろう」との報告がされている。な。 - 56 -お,当該論文では,口腔内から侵入した異物による頭蓋内損傷については言及されていない(乙ロB3・資料⑪1頁,3頁,5頁)。 イ平成9年に発表されたT医師による異物による外傷と題する論文耳()「」(喉頭頸69巻6号・1997年増刊号・93頁)において,解剖学的には,口腔・咽頭の後方に大血管や神経,頭蓋,頸椎などがあり,異物刺入の直達力,方向によってはこれらの器官まで損傷する可能性があり,また実際にそのような報告例もあると指摘されている(甲A32・資料1)。 ウ軟口蓋から頭蓋内への異物の侵入経路ア軟口蓋から頭蓋内に異物が到達するためには,解剖学的な現時点での通()常の理解に照らせば,頸静脈孔(頭蓋底を構成す 摘されている(甲A32・資料1)。 ウ軟口蓋から頭蓋内への異物の侵入経路ア軟口蓋から頭蓋内に異物が到達するためには,解剖学的な現時点での通()常の理解に照らせば,頸静脈孔(頭蓋底を構成する後頭骨と側頭骨との接合,。)部で頸椎につながっていく大後頭孔の前端と同じかやや後方に位置するを通過するルートと頭蓋底を穿破するルートの2つが考えられる(甲A3。 8・56頁,41・141頁,乙ロB3・31頁,弁論の全趣旨)そして,前者の頸静脈孔を通過して異物が軟口蓋から頭蓋内に侵襲した症例が本件以前にあったと認めるに足りる証拠はない。 一方,頭蓋底を穿破するルートについては,頭蓋底は容易に穿破されない厚い骨であるとされており(甲A36・5-13頁,38・18頁,乙ロB3・33頁,19,割りばし様の木片が口腔内から刺入して頭蓋底を穿破)したとの症例が報告されていると認めるに足りる証拠も存在しない(後記。 エア及びイ記載の症例は,口腔内から頭蓋底を構成する後頭骨の大後頭()()孔の前端部分に位置する斜台下端を穿通して大後頭孔を経て延髄左側から小脳内に達したもので,頭蓋底の骨を穿破した典型的な症例であると評価することには疑問を容れる余地があるというべきである。乙ロB3・32頁)イ頸静脈孔内には迷走神経,副神経,舌咽神経が通過している。迷走神経()を損傷した場合は咽喉頭部の運動障害,副神経を損傷した場合は,胸鎖乳突筋,僧帽筋の運動障害(首の動き,肩の動きの障害,舌咽神経を損傷した)- 57 -場合は,咽喉頭部の知覚障害,舌部の後半部3分の1の味覚障害などの所見が現れる(甲A38・56頁,41,乙ロB9・7頁)。 また,脳幹部に異物が達した場合は,即死となるか,高度の意識障害,四肢麻痺の所見が現れる(乙ロB3・60頁,4・ 部3分の1の味覚障害などの所見が現れる(甲A38・56頁,41,乙ロB9・7頁)。 また,脳幹部に異物が達した場合は,即死となるか,高度の意識障害,四肢麻痺の所見が現れる(乙ロB3・60頁,4・58頁)。 エ軟口蓋への受傷から頭蓋内損傷が生じた症例報告ア平成2年7月に開催された第52回耳鼻咽喉科臨床学会の講演「軟口蓋()から頭蓋内に穿通した異物(箸)の一例」での報告(甲B18)「. . ,,症例は3才男性である箸をくわえて遊んでいるうちに前方に転倒し箸が咽頭に穿入したため,当科を受診した.初診時,軟口蓋右側より上咽頭へ穿入した箸を認め,上下肢の運動麻痺と意識障害がみられた.CT,MRI検査で,異物が上咽頭後壁より斜台軸椎歯突起間を貫いていた.さらに延髄に穿入し,先端は小脳半球にまで達していることが判った。同日に,後頭開頭で異物を確認しつつ口腔側から異物を抜去した.そして硬膜を修復後,経口蓋的に瘻孔を閉鎖した.術後,髄液漏や,著明な髄膜炎はなく,上下肢の運動麻痺も良好に改善し,現在軽度の跛行を認めるのみである」. 質疑応答において,垂直性眼振を術前に認めた旨も報告された。 なお,本症例の報告者は,久留米大学の者である。 イ「小児頭部外傷」と題する書籍(重森稔ら編集,医学書院発行。なお,()発行年は証拠上明らかでない)において紹介された症例(乙ロB37)。 「症例】3歳・男児【●主訴意識障害,四肢麻痺●現病歴1989年7月29日,箸を持って遊んでいるうち,誤って右口腔内より箸が刺入したため緊急入院した。 ●入院時現症および経過来院時,軽度の意識障害と呼吸不整・四肢不全麻痺の状態であった。右口腔内に箸の断端を認めた。直ちにMRIを撮影したところ,箸は口腔内から斜台下端を穿通し,延髄左側から小脳内- 時現症および経過来院時,軽度の意識障害と呼吸不整・四肢不全麻痺の状態であった。右口腔内に箸の断端を認めた。直ちにMRIを撮影したところ,箸は口腔内から斜台下端を穿通し,延髄左側から小脳内- 58 -に刺入していた」。 「,。 本例ではその後脳血管撮影を行い頭蓋内血管の損傷の有無を確認した異物が頭蓋内に残存する場合には,脳血管撮影はぜひ必要である。 以上の所見をもとに,直ちに後頭下開頭を行ったところ(―省略― ,)箸片は左側延髄を貫通していた。そこで口腔内から少しずつこの箸片を抜去したうえで,大後頭孔腹側の硬膜穿通部を筋肉片とフィブリン糊で閉鎖した。その後,脳幹と小脳部の穿通部の止血を確認して手術を終了した。 本例は術後徐々に意識レベルが改善し,感染の合併もなく,四肢麻痺も術後3か月時には歩行が可能となるまで改善した。術後のMRIでは,穿通部もほとんど不鮮明となっていた」。 なお,本症例は,久留米大学医学部の重森教授が扱ったものであるとされていることから,上記アと同一の症例を扱ったものと認められる。 ()ウ平成2年12月10日に発行された日本救急医学会関東地方会雑誌Vo()l.ⅩⅠ,No.2における「穿通性頭部外傷の4例」の1症例としての報告(甲B6)「症例1:3歳,男児。口にキセルをくわえて遊んでいて転倒し,キセルが咽頭に刺さった。約12時間後に右不全麻痺と失語が出現した。CTでは左中大動脈領域に低吸収域が認められた。脳血管写では左頚部内頚動脈に動脈瘤を認め,左中大脳動脈が閉塞していた。咽頭より刺入したキセルが頚部内頚動脈まで達しこれを損傷,動脈瘤を形成,さらに瘤内血栓が遊離し中大脳動脈に塞栓をおこしたものと考えられた。保存的加療にて,軽度の麻痺を残して退院した」。 エ平成10年11月20日に発行された日本口 脈まで達しこれを損傷,動脈瘤を形成,さらに瘤内血栓が遊離し中大脳動脈に塞栓をおこしたものと考えられた。保存的加療にて,軽度の麻痺を残して退院した」。 エ平成10年11月20日に発行された日本口腔外科學會雑誌第44巻第()11号における「硬口蓋から下垂体部にまで達した木箸による穿通性外傷の1例」での報告(甲B5)「患者:9か月,男児. - 59 -初診:平成9年11月10日. 主訴:木箸刺入による口蓋部出血. 既往歴,家族歴:特記事項なし. 現病歴:平成9年11月10日18時30分頃,木箸を口にくわえて遊んでいたところ前方に転倒し,木箸が口蓋部に刺入したため,18時50分に救急車にて当院に搬送された. 来院時所見:患児は啼泣しており,約25cmの木箸が,左口蓋部より頭部方向に約3cm刺入しており,同部位より少量の出血を認めた. 処置:箸を抜去したところ口腔および鼻腔より,血餅を含む多量の出血を認めた.出血部の圧迫,血液吸引,気道確保,酸素吸入を行った.顔面蒼白,血圧94/56mmHg,意識レベルの低下を認め,約200mlの出血が推定されたため,濃厚赤血球1単位を輸血した.ミダゾラム1mg,ケタラール10mgにて静脈麻酔を行い,刺入部縫合後,CTを撮影した. CT所見:迂回槽,橋前槽,脚間槽,交叉槽に気泡による陰影,蝶形骨に穿通部と思われる円形の骨欠損を認めた(―省略― . )MRI所見:下垂体下方の蝶形骨に穿通部と思われる索状のT1,T2低信号像を認めた。 血液検査:―省略―髄液検査:―省略―臨床経過:小児科医と共観のもと,ただちに入院させ,CTX1600mg/day,PAPM/BP800mg/dayを投与し,脳神経外科医と相談の上,経過観察を行った.髄液検査において徐々に血液成分,細胞数が,. ,減少し4日目 ただちに入院させ,CTX1600mg/day,PAPM/BP800mg/dayを投与し,脳神経外科医と相談の上,経過観察を行った.髄液検査において徐々に血液成分,細胞数が,. ,減少し4日目には細菌検査陰性となった8日目には細胞数14/3㎣と高値を示していたが,蛋白,糖定量は正常範囲であり,髄液に血液の混入を認めなかった.受傷後7日目に痙攣を認めたが,特に運動障害を認めず,8日目にはCT,MRIにて気泡と思われた陰影は消失し,血液検査,体温と- 60 -もほぼ正常範囲に回復したため18日目に軽快退院となった」. ,,「,なお考察において本症例では来院時に箸が刺さったままであったが意識障害がなく出血も軽度であったため重度の外傷と考えず,安易に抜去したことは反省すべき点であった.抜去後に多量の出血を認めたことにより,受傷後に家庭で抜去されておれば,出血による気道閉塞や出血性ショックにより不幸な転帰をとっていた可能性が十分に考えられた」旨が記載されて. いる。 オなお,平成12年1月20日に発行された日本耳鼻咽喉科学会会報第1()03巻1号の「2カ月以上介在した乳児の咽頭異物2症例」の報告中「軟,口蓋から上咽頭を経て頭蓋内にまで刺入した例」として,口腔・咽頭科第3巻1号(平成2年9月8日及び9日に開催された第3回日本口腔・咽頭科学会総会の報告をまとめたもの)の「頭蓋内に刺入したと思われる上咽頭異。 物の一例」の報告が引用されているが,U医師の供述内容に照らせば,当該症例は異物が頸髄に刺入したものであることを否定できないというべきである(乙ロB19,20)。 被告Aの過失の有無(争点⑴)⑴人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を うべきである(乙ロB19,20)。 被告Aの過失の有無(争点⑴)⑴人の生命及び健康を管理すべき業務に従事する者は,その業務の性質に照らし,危険防止のため実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるが(最高裁昭和36年2月16日第一小法廷判決・民集15巻2号244頁参照,こ)の注意義務の基準となるべきものは,診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である(最高裁昭和57年3月30日第三小法廷判決・集民135号563頁。 )⑵Dに頭蓋内損傷が生じていることを診断すべき義務があったか。 ア原告らが,被告Aが行うべきであったと主張する診療・治療は,いずれもDに頭蓋内損傷が生じていることを診断すべき義務を基礎とするものと解されることから,まず,被告Aにおいて,割りばしが刺入したことによる頭蓋- 61 -内損傷及び頭部打撲等による頭蓋内損傷を診断する義務があったかどうかについて検討する。 イDの意識状態についてア原告らは,Dの意識状態について,診察時の身体状態からすると,Dは()そもそも覚醒しておらず,起こしても話ができるような状態にはなく,被告AがDの意識状態を判断するための働きかけをきちんと行い慎重に判断していれば,Dの意識状態はより重度の意識障害(刺激すると覚醒する」以上「の意識障害)があるという判断になったはずであると主張する。 イ前示のとおり,Dの意識レベルにつき,被告Aは外来診療録に「意識レ()ベルⅠ-2と思われる,H看護師は「救急患者データベースNo.1」と」題する書面に「Ⅰ-1.2(1及び2の双方を含むように丸印」とそれぞ)れ記載している。 しかし,被告A及びH看護師は,Dの意識レベルを確認するために,Dに対して意識的に氏名や生年月日を尋ねたり,体を揺さぶったりしていないこと(被告A 方を含むように丸印」とそれぞ)れ記載している。 しかし,被告A及びH看護師は,Dの意識レベルを確認するために,Dに対して意識的に氏名や生年月日を尋ねたり,体を揺さぶったりしていないこと(被告A本人・36頁,これらの記載について,被告Aは,元気がなか)った趣旨でⅠ-2と記載した(被告A本人・40頁,H看護師は,Dは目)は開けてくれないが,開口命令に従っていることから,意識清明に元気に歩き回ったりする状況にはないが,言っていることをきちんと分かっていると判断してⅠ-1から2と記載した(甲A21・5-5頁)と供述していること,JCSによる小児の意識レベルの評価は曖昧になり得るものであり,特に意識レベルがⅠ-2であると厳密に評価することは困難な場合があること(,,,,。 甲A3740・25頁乙ロB3・66頁4・110頁13・7頁この点,V医師は,状態から判断した意識レベルがJCSのⅡ-10であったとしても,実は眠いだけで何ともなかったケースが多くあると指摘する。 甲A40・17頁)からすると上記外来診療録及び「救急患者データベー,スNo.1」と題する書面の記載内容から,直ちにDの意識レベルが,JC- 62 -SのⅠ-2程度に低下していたということはできない。 そして,F看護師は,Dが受傷直後に意識を回復した後,○○園の保健室に向かう途中や,同室のベッド上で泣き続けていたと供述していること(乙ロB34,G救急隊長らは救急活動記録票に,搬送中のDの意識レベルが)清明であった旨を記載し,G救急隊長はH看護師からの意識レベルに関する問いに対して,ただ「いいですよ」とのみ回答していること(医師でない。 とはいえ,救急救命士の資格を持ち,様々な症状の患者の搬送を多数回経験しているG救急隊長が,約30分間にわたってDの状態を する問いに対して,ただ「いいですよ」とのみ回答していること(医師でない。 とはいえ,救急救命士の資格を持ち,様々な症状の患者の搬送を多数回経験しているG救急隊長が,約30分間にわたってDの状態を観察した上,医学的見地からみて看過し難い程度の意識レベルの低下が認められる場合に,看護師ないし医師に対して,意識レベルについて特段の指摘をすることなく,「いいですよ」といった回答をすることは容易に考え難い,Dは,F看。 。)護師,G救急隊長,H看護師及び被告Aらの問いかけや開眼命令,開口命令,,,,に対して即座に応じていることG救急隊長は処置室で被告Aを待つ間Dの状態に大きな変化はなかったと供述し(甲A17,原告Cも,Dの状)態について,救急車にいたときとH看護師に抱かれていたときとで変わっていないようであった旨を供述していること(原告C本人)に照らせば,Dが声を発することがなく,全体として目を閉じた状態が継続していたことを考慮しても,被告AがDを診察した時点において,Dの意識レベルが低下していたとまでは認めることができない(なお,Dは,混雑した祭の会場で転。 倒した後,泣き続けたり,見知らぬ人に囲まれて救急車で病院に搬送されるという,成人であっても疲弊しやすい状況にあったこと,当日,Dは昼寝をしておらず(通常,Dは毎日2時間程度昼寝をしていた。甲A49・7-6頁,被告Aによる診察は午後7時ころであったことにかんがみれば,Dは)眠気を催す状態であった可能性も否定できず,前示のDの身体状態がかかる状態と矛盾するとはいえない)。 ウ神経学的所見について- 63 -前記認定の事実によれば,Dは,○○園での受傷後,F看護師に抱かれて,,保健室に運ばれるまでの間手足を動かしたりしがみつくことはなかったが抱きかかえるの ウ神経学的所見について- 63 -前記認定の事実によれば,Dは,○○園での受傷後,F看護師に抱かれて,,保健室に運ばれるまでの間手足を動かしたりしがみつくことはなかったが抱きかかえるのに協調する程度の力の入り具合がみられたこと,救急車内での嘔吐時に,自ら上半身や顔をやや左に動かしていたこと,被告病院の処置室において,H看護師がDを抱きかかえたところ,DはH看護師が着用していたエプロンのひもをつかんでおり,体全体に力が入っていない状態ではなかったこと,F看護師,G救急隊長,H看護師及び被告Aらの開眼命令や開口命令に従い,目や口を開けていること,瞳孔径や対光反射に異常はみられなかったことが認められる一方,Dに四肢麻痺等の所見があったと認めるに足りる的確な証拠がないこと(H看護師が記入した「救急患者データベースNo.1」と題する書面には,Dにかかる異常があったことを示す記載はなく,Dを抱きかかえたF看護師,G救急隊長及びH看護師は,Dに四肢麻痺が生じていたことをうかがわせる供述をしていない。なお,G救急隊長らが作成した救急活動記録票には,歩行不能欄にチェックが付されているが,G救急隊長は,あえて歩行させていないため歩行不能に記載したもので,不明という欄があれば不明に記載をしたと思うと供述していることからすると,当該記載が,Dに歩行ができないほどの異常が生じていたことを示すものであるということはできない。甲A16・1-13頁,17・4-9頁)に照らせば,被告Aの診察時に,Dに神経学的な異常があったとまでは認めることができない。 この点,原告Cは,被告Aによる診察時には,Dの首がすわらず,力が入らない状態であったと供述しているが(甲A6・4頁,原告C本人・25頁,この状態について,熟睡してしまうと,横に抱っこしても首が垂れて) 原告Cは,被告Aによる診察時には,Dの首がすわらず,力が入らない状態であったと供述しているが(甲A6・4頁,原告C本人・25頁,この状態について,熟睡してしまうと,横に抱っこしても首が垂れて)しまうような状態であると表現しており,医療従事者でない原告Cが医学的な見地に基づく神経学的な異常の有無を判断できるとまではいい難いことを考え合わせると,原告Cの当該供述は上記判断を左右しないというべきであ- 64 -る。 エ嘔吐について前記認定の事実のとおり,Dは,少なくとも,搬送中の救急車内,処置室及び診察室において,それぞれ1回ずつ,合計3回嘔吐し,それ以外にも搬送中の嘔吐以後,頻回に嘔気を催していたことが認められる。 オ割りばし片の状態原告らは,割りばし片は,折れ始めた部分から尖った方の先端までの約2センチメートルが,咽頭後壁から上咽頭腔内に,肉眼的に見ても明らかに突き出ていたと主張する。 この点,K医師は,Dの解剖時,割りばしの折れた方の先端が上咽頭腔内に約2センチメートル突き出ていたことを確認しており,K鑑定書「第3節創傷などの所見」中「A.咽頭・頭部【1」における「軟口蓋の上咽頭】側における刺出部附近の咽頭腔内から頭蓋腔内にかけて」との記載は,その。(,,趣旨を示すものであると供述している甲A36・1-7頁1-13頁51・1頁)これに対して,W医師(口腔外科医)は,日本人の4,5歳児の頭蓋骨標本を入手し,4,5歳児の平均値により上咽頭腔の模型及びK鑑定書記載の形状による割りばし様の木片を作成して検証を行い,頭蓋底の蝶形骨の翼突鉤との位置関係も矛盾しないことを明らかにした上で,本件において,割りばし片は,口蓋帆張筋や口蓋帆挙筋などの軟部組織内に埋没して上咽頭腔内に突き出ていない(乙ロB15,16。この点,上咽頭 骨の翼突鉤との位置関係も矛盾しないことを明らかにした上で,本件において,割りばし片は,口蓋帆張筋や口蓋帆挙筋などの軟部組織内に埋没して上咽頭腔内に突き出ていない(乙ロB15,16。この点,上咽頭腔の大きさや左頸静脈孔・翼突鉤との位置関係に個人差があることは否定できないが,3種類のインドアーリア系人種の頭蓋骨標本について,歯列弓幅,歯列弓長等の違いがそれぞれ2ミリメートル程度にとどまっており,Dの静脈孔や上咽頭腔の大きさ,相互の位置関係が平均的な4,5歳児と大きく異なっていることを認めるに足りる的確な証拠がないことを考慮すると,この指摘が合理性を欠- 65 -くものとはいえない,X医師(法医学医)は,Dの左軟口蓋の損傷部及。)び左頸静脈孔の位置関係を写真から概算して検討した結果,割りばし片は上咽頭腔内をほとんど通過していない(乙ロB17,40,U医師は,慶應)義塾大学医学部法医学教室に保存されていたDの上咽頭標本をX医師とともに観察した結果を踏まえて,割りばしが咽頭腔に突き出ていたとは考えられない(乙ロB23,24,とそれぞれ指摘している。 )そして,咽頭後壁における割りばし片の穿通痕や,割りばし片が上咽頭腔内に突き出ていたことを直接示す写真がないこと,K医師は,Dの解剖時の切開方法では,筋肉層に割りばし片が埋もれていたとしても,空間に出ている状態に見える可能性がある旨を供述していること(甲A51・34頁)にかんがみると,割りばし片が上咽頭腔内に突き出ていたことを確認したとのK医師の供述には,合理的な疑いを差し挟む余地があるというべきである。 そうすると,割りばし片の先端が上咽頭腔に突き出ていたとの原告らの主張を採用することはできない。 したがって,割りばし片は,軟口蓋から,上咽頭腔は通らずに側壁の筋肉組織内を通って左頸静脈 きである。 そうすると,割りばし片の先端が上咽頭腔に突き出ていたとの原告らの主張を採用することはできない。 したがって,割りばし片は,軟口蓋から,上咽頭腔は通らずに側壁の筋肉組織内を通って左頸静脈孔に刺入したもので,割りばし片の先端は,上咽頭腔に突き出ておらず,軟口蓋と側壁の筋肉組織の中にあったものと認めるのが相当である。 カ頭蓋内損傷の予見可能性についてア以上の事実を前提として,被告AにDの頭蓋内損傷を予見することが可()能であったかを検討する。 イ前示のとおり,解剖学的な現時点での通常の理解に照らせば,軟口蓋か()ら刺入した異物が頭蓋内に到達するためには,頭蓋底を穿破するルートと頸静脈孔を通過するルートの2つがあるとされている。 ,,この点軟口蓋から刺入した異物が頭蓋底に刺突するなどして衝撃を与えこれにより頭蓋内に損傷が生じることも考えられなくはない。 - 66 -しかし,割りばしは,塗りばしや鉄箸,串などと異なり,一般的に先端が鈍形で,折れやすい材質・形状である一方,頭蓋底の骨が厚く硬いものであること(甲A36・5-13頁,乙ロB19・10頁)からすると,割りばしが強い勢いで頭蓋底に刺突した場合には,割りばしの曲げや破断等によって,その衝撃が吸収される可能性が高い。本件においても,割りばしは頸静脈孔に刺入する前に,硬口蓋に当たり途中でひびが入るなどしたのではないかとの指摘がされているし(乙ロB15・18頁,16・28頁,頸静脈)孔からの刺入に伴う頭蓋内損傷以外に,頭蓋底の骨折や,割りばしが頭蓋底に衝撃を与えたことに起因する頭蓋内損傷又はそれに起因することを普通に疑わせる症状が生じていたと認めるに足りる証拠はない。 確かに,割りばしが頭蓋底に刺突する角度によっては,割りばしの曲げや破断等によって衝撃が吸収される 因する頭蓋内損傷又はそれに起因することを普通に疑わせる症状が生じていたと認めるに足りる証拠はない。 確かに,割りばしが頭蓋底に刺突する角度によっては,割りばしの曲げや破断等によって衝撃が吸収されることなく,頭蓋底に相応の衝撃が加わることも否定できないが,しかし,割りばし様の木片が頭蓋底を刺突し,頭蓋骨そのものを損傷することなく,刺突の際の衝撃が頭蓋骨中を伝播することによって頭蓋内損傷が生じるとの医学的知見が確立していたり,このような症例が報告されていることを認めるに足りる証拠はない。 ウ本件においては,頭蓋底の骨折を疑わせる髄液の漏出や,頸動静脈損傷()等を疑わせる大量の出血,頸静脈孔内の迷走神経,副神経,舌咽神経の損傷に伴う神経学的な障害が生じていたことを認めるに足りる証拠はない。さらに,軟口蓋を刺したとされる割りばしが持参されていないこと,D本人が割りばしを抜いたと告知されていたことを考慮すると,傷の深さは,子供の力でも割りばしを容易に抜去することができる程度にとどまると考えるのが通常である。 そして,中枢神経系の疾患により嘔吐が惹起され得ることについては多くの医師ないし文献が指摘するところであるが,Dの嘔吐が客観的に中枢神経系の疾患を原因とするものであったと認めるに足りる証拠がないこと(嘔気- 67 -を伴わない嘔吐で噴射状のものは中枢神経病変の特徴であり,中枢神経系の疾患による二次的な嘔吐では嘔気が存在することが多いと指摘する文献もあり(乙イB5,Y医師も,頭蓋内圧が上がったときの嘔吐は噴水のように)吐く旨供述している(乙ロB6・37頁)が,一方で,吐き方は胃の内容物の状態によっても変わり得るのではないかと指摘している(乙ロB6・38頁)ことからすると,Dの嘔吐が中枢神経系の疾患によるものであったと断定することはで B6・37頁)が,一方で,吐き方は胃の内容物の状態によっても変わり得るのではないかと指摘している(乙ロB6・38頁)ことからすると,Dの嘔吐が中枢神経系の疾患によるものであったと断定することはできないというべきである,前示の事実関係の下では,①。)救急車内の嘔吐は,救急車に乗ったことによる恐怖と車酔いのためのものである可能性がある,②診察時の嘔吐は,舌圧子ないし倦綿子による軟口蓋の刺激の影響によるものと考えられる,③口腔内裂傷による出血を飲み込んだ後の吐気が続いていたとみる余地がある,④アセトン血性嘔吐症の可能性も考えられることに照らせば,軟口蓋から頭蓋内へ異物が侵入する症例についての解剖学的・臨床学的知見,歩行中転倒して割りばしが喉に刺さったという受傷機転,Dの意識レベル,バイタルサイン,神経学的症状を総合考慮すると,被告Aが,Dの嘔吐につき,中枢神経系の疾患の可能性を除外したことが,合理性を欠くものであったということはできない(乙ロB3・55。 頁,19・17頁,20・46頁)なお,T医師は前記「異物による外傷」と題する論文において,解剖学的には,口腔・咽頭の後方に内頸動脈などの大血管や神経,頭蓋,頸椎などがあり,異物刺入の直達力,方向によってはこれらの器官まで損傷する可能性があり,また実際にそのような報告例もあると指摘し(甲A32,Z医師)も同趣旨の供述をしている(甲A42・4頁。しかし,上記論文には,生)命に危険が生じた症例報告は引用されていないこと(甲A33・42頁,)T医師は,上記論文の趣旨は,生命に危険が及んだという症例がないからといって,頭蓋内を損傷する危険も考えられるから注意せよとのいうものであると供述していること(甲A33・45頁)に照らせば,上記論文は,当時- 68 -の臨床医学の実践における医 う症例がないからといって,頭蓋内を損傷する危険も考えられるから注意せよとのいうものであると供述していること(甲A33・45頁)に照らせば,上記論文は,当時- 68 -の臨床医学の実践における医療水準を指摘したものではなく,抽象的な注意喚起を提言したものにとどまるというべきである。 エそうすると,Dが嘔吐し頻回に嘔気を催していたことを考慮しても,口()腔外傷に関する医療水準や解剖学的・臨床学的知見,Dの意識レベル,バイタルサイン,神経学的症状等の身体状態,受傷機転,受傷部位の状態,頭蓋内に残存していた割りばし片が確認困難な状態であったことにかんがみれば,被告Aにおいて,割りばしの刺入を原因とする頭蓋内損傷を予見することが可能であったということはできない。 オまた,G救急隊長及びH看護師は,Dの触診や視診の結果,頭部にこぶ()やぶつけたような痕跡は見当たらなかったと供述していること,転倒の際に割りばしが口腔内に刺さるという態様からすると,転倒時に頭部を強打したとは考え難いこと,そのほかにDが転倒の際に頭部を強打したと認めるに足りる証拠がなく,前示の被告Aが診察したときまでのDの心身の状態にかんがみると,被告A自らが頭部の視診及び触診を行ったと認めるに足りる的確な証拠がないことを考慮しても,被告Aにおいて,頭部打撲を原因とする頭蓋内損傷を予見することが可能であったとはいえない。 なお,入院診療録のI医師作成部分には,診察内容について「昨日来院,したときには意識レベルはI-2と比較的子供が頭部を打撲したときに起こりえる位の意識レベルであったと記載されていることが認められるが甲。」(A2,45,I医師が被告Aから聞き取りを行った際の具体的なやりとり)が明らかでなく「頭部を打撲したとき」とは意識レベルを説明するための, あったと記載されていることが認められるが甲。」(A2,45,I医師が被告Aから聞き取りを行った際の具体的なやりとり)が明らかでなく「頭部を打撲したとき」とは意識レベルを説明するための,例示に用いられた可能性も否定できないのであるから,当該記述を根拠として,直ちに,被告AにおいてDの診察時に頭部打撲を予見していたと認めることはできないというべきである。 キ以上の事実関係及び診療当時の臨床医学の実践における医療水準に照らせば,Dの頭蓋内損傷を予見することが可能であったとは認められないから,- 69 -被告Aにおいて,Dに頭蓋内損傷が生じていることを診断すべき義務があったとはいえない。 ⑶そうすると,被告Aの診療・治療における過失行為として原告らが主張するその余の事実について認定・判断するまでもなく,被告Aの診療行為に過失があったとは認められないことに帰する。 ⑷被告Aの問診についてなお,受傷直後,Dの意識が一時的に消失したとの事実が,G救急隊長に引き継がれたり,被告Aの原告Cに対する問診によって,原告Cから伝えられたと認めるに足りる証拠はないところ,J医師が指摘するように,この事実が明らかとなっていれば,被告Aは,Dに何かしらの中枢神経障害が生じている可能性が高いと診断すべきであったというべきである(乙ロB4・98頁)。 被告Aが,原告Cに対して「どうしましたか」と尋ねるだけではなく,,。 Dの受傷機転や受傷後の状況等について,当を得た質問を行っていれば,Dが意識を喪失した事実が明らかとなった可能性もなかったとはいえない。 もっとも,前示のとおり,本件の事実関係及び診療当時の臨床医学の実践における医療水準に照らせば,被告Aにおいて,当該質問を行う前提である,Dに頭蓋内損傷が生じていることを予見できたとはいえないのであ もっとも,前示のとおり,本件の事実関係及び診療当時の臨床医学の実践における医療水準に照らせば,被告Aにおいて,当該質問を行う前提である,Dに頭蓋内損傷が生じていることを予見できたとはいえないのであるから,被告Aが当該質問を行わなかったことにつき,法律上の注意義務に違反するものと評価することはできないというべきである。 被告病院の過失の有無(争点⑵)原告らは,被告病院としては,被告Aのような経験不足の医師が救急医療を担当している時には,その医師が診断に少しでも不安を感じた時には,経験豊富な同じ診療科及び他の診療科の医師にすぐに相談できる体制,すなわち,チーム医療体制を作っていなかった点において過失があると主張する。 しかし,前示のとおり,被告Aの診察において過失があったとはいえず,そのほかに被告病院の体制に不備があったと認めるに足りる証拠はないから,こ- 70 -の点についての原告らの主張を採用することはできない。 被告らの過失とDの死亡との間の因果関係の有無(争点⑶)⑴ア前示のとおり,被告Aの診察及び被告病院の体制に関し過失があったとは認められないから,その余の事実について認定・判断するまでもなく,これらの点についての原告らの請求は理由がないことに帰するが,本件の事案にかんがみ,被告Aの診察行為とDの死亡との間の因果関係の有無についても検討する。 イこの点,原告らは,Dの死因は,割りばしの頭蓋内穿通により生じた「後頭蓋窩の急性硬膜下血腫」及び「小脳半球の挫傷による「小脳扁桃ヘルニ」ア及び上行性テント切痕ヘルニア」であり,Dを入院させた上,必要な診察・検査・観察,適時の手術を行うことにより,80パーセントないし90パーセントの確率で救命できたと主張する。 これに対して,被告らは,Dの死因は「左内頸静脈洞内に血栓が形成さ, させた上,必要な診察・検査・観察,適時の手術を行うことにより,80パーセントないし90パーセントの確率で救命できたと主張する。 これに対して,被告らは,Dの死因は「左内頸静脈洞内に血栓が形成さ,れ,静脈洞が完全に閉塞し,静脈の還流障害が生じた結果,著しい脳の腫れが生じたために起きた頭蓋内圧亢進による脳幹圧迫」であり,手術等の治療によるDの救命可能性は極めて低く,仮に被告AがDを診察した際,直ちに脳神経外科医に引き継いだとしても,Dがその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性があったとはいえないと反論する。 ウそして,訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とし,かつ,それで足りるものである(最高裁昭和50)。 ,年10月24日第二小法廷判決・民集29巻9号1417頁参照そして医師が注意義務に従って行うべき診療行為を行わなかった不作為と患者の死- 71 -亡との間の因果関係の存否の判断は,経験則に照らして統計資料その他の医学的知見に関するものを含む全証拠を総合的に検討し,医師の当該不作為が患者の当該時点における死亡を招来したこと,換言すると,医師が注意義務を尽くして診療行為を行っていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されれば,医師の当該不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである(最高裁平成11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照。 )⑵証拠によれば,D 然性が証明されれば,医師の当該不作為と患者の死亡との間の因果関係は肯定されるものと解すべきである(最高裁平成11年2月25日第一小法廷判決・民集53巻2号235頁参照。 )⑵証拠によれば,Dの死因及び救命可能性についての医師らの意見は,以下のとおりである。 アK医師(法医学医。甲A30,34,36から38)ア死因は,軟口蓋から頭蓋内に達する刺創による頭蓋内損傷群と考えられ()る。 頭蓋内損傷群の具体的内容は,①脳損傷(左小脳半球)②左内頸静脈損傷③硬膜下出血(24ミリリットル:主として上記②,一部は①から生じ)たものとみられるの3種類が主体であり,さらにこれらに伴って生じたとみられる④髄膜炎(異物の侵入から生じた感染症)⑤硬膜静脈洞血栓症(内頸静脈損傷に伴うもの)⑥脳浮腫(脳の循環障害)などが解剖所見として認められる。 (),(),脳はそれ自体①の損傷に加えて硬膜下血腫③によって圧迫されこのような脳圧迫・脳損傷に加えて硬膜静脈洞血栓症に伴う脳の循環障害によって高度の脳浮腫(⑥)を生じて結果的に致命的な脳機能障害に至ったも- 72 -のと考えられる。感染による髄膜炎(④)も脳浮腫を生じる過程で悪影響を及ぼした可能性がある。 このようなことから,本例では脳自体の損傷,硬膜下血腫に加えて頸静脈孔から割りばしが刺入したことによる静脈血栓症を伴っていたことが,致命的な脳浮腫の成因の1つとして特徴的であるといえる。 イ割りばし片が頸静脈孔から頭蓋内に至ったとの診断がついた場合,本例()における治療法は,開頭手術を施行して異物(割りばし片)の除去,血腫の除去,減圧,内頸静脈損傷部の止血を行った上で,脳浮腫と髄膜炎に対する強力な内科的療法を併用することになるであろう。 しかしながら,比較的軽いとはい 開頭手術を施行して異物(割りばし片)の除去,血腫の除去,減圧,内頸静脈損傷部の止血を行った上で,脳浮腫と髄膜炎に対する強力な内科的療法を併用することになるであろう。 しかしながら,比較的軽いとはいえ脳自体の損傷があることや合併損傷の程度,損傷部位へのアプローチの困難さ,年齢(小児は頭蓋腔の余裕が少ない)などの悪条件を考慮すると,迅速な診断に基づいて外科的・内科的な処,。 置が適切になされたとしても致命的な脳浮腫を生じた可能性も十分にある本例と全く同じ損傷形態を示す事例が過去に認められないので明確にはいえ,,ないが大学病院程度の規模の病院に入院して適切な治療がされたとしても救命できた可能性は50パーセントないしそれ以下ではないかと思われる。 イV医師(脳神経外科医。甲A40,41)脳損傷による浮腫が生じ,頭蓋内圧が上がって血液の循環が悪くなり浮腫の範囲が広がり,さらに硬膜下血腫によっても内圧が上昇し,血腫と脳浮腫(脳腫脹)によって脳幹を圧迫し,呼吸障害で死亡した。血栓症はそれほど影響していない。 集中治療室が備わり,状態をゆっくり観察することができ,タイミングを逸することなく手術が行えるような設備があり,ある程度の経験を有した脳,。 外科医が複数存在するような施設であれば90パーセント以上救命できるウY医師(脳神経外科医。乙ロB5・27頁,43頁,6)本例では,静脈洞の血栓により,平成11年7月11日午前6時前後以降- 73 -に急速な脳腫脹が生じ,脳内圧が上昇して脳ヘルニアが起こり,脳幹を圧迫して呼吸が停止した。 仮に,受診直後にCT撮影をして小脳内に空気が見られた場合,3時間程,,度後に再度CT撮影を行って血腫の大きさや脳の腫れの程度を観察するがいかなる処置をするかは患者の意識の変化を重要視する。Dは,同日午前6 にCT撮影をして小脳内に空気が見られた場合,3時間程,,度後に再度CT撮影を行って血腫の大きさや脳の腫れの程度を観察するがいかなる処置をするかは患者の意識の変化を重要視する。Dは,同日午前6時ころの原告Cの問いかけに反応しており,意識レベルはそれまで変化していないと考えられるため,経過観察のため入院させたとしても,外科医としては緊急性を感じなかったと思われる。そのため,血腫を取り除いたり,減圧開頭術を施すという対応にはならない。DをICUに収容して心臓のモニター中に急に心停止が起こった場合,間髪を入れず人工呼吸や心臓マッサージをしても,若干の延命はできても救命は難しい。 そうすると,本件における救命確率は極めて低く,限りなくゼロに近い。 エa医師(脳神経外科医。乙ロB13,14)死亡の直接の原因は,脳自体の損傷でも硬膜下血腫でもなく,静脈血栓症ができて脳の還流障害が起き,それによって広範囲の脳浮腫及び脳腫脹が生じたことによる脳幹障害である。脳幹部にも脳浮腫が及んでいる。非優位側の静脈が閉塞した場合も,優位側からの導出不足(積み残し)によって脳の還流が少しずつ阻害されていくことはあり得る。 治療は,血栓が生じないように割りばしが刺さった側の頸静脈孔の血液の流れを保ちながら行う必要がある。薬剤を使用して血栓の進行を抑えることができても6時間が限界であるが,CT,MRI,ディスカッションに3時間以上はかかることからすると,それを終えるころには,既に血栓ができつつあると考えられる。直接的に外傷により静脈洞全体が傷ついた場合の止血が困難であり,割りばしで損傷した頸静脈孔の血管の再建も極めて難しいことからすると,血栓により広範囲な脳浮腫が起こり脳幹の機能を途絶させることは避けられない。 - 74 -救命率は,良くても5パーセント程度である りばしで損傷した頸静脈孔の血管の再建も極めて難しいことからすると,血栓により広範囲な脳浮腫が起こり脳幹の機能を途絶させることは避けられない。 - 74 -救命率は,良くても5パーセント程度である。 オb医師(脳神経外科医)及びc医師(脳神経外科医。甲A52から54)死亡原因は,割りばしの頭蓋穿通により生じた後頭蓋窩の急性硬膜下血腫及び小脳半球の挫傷による小脳扁桃ヘルニア及び上行性テント切痕ヘルニアである。水頭症は二次的病態として頭蓋内圧亢進に寄与した。左側の頸静脈孔における静脈洞閉塞が頭蓋内圧亢進に寄与した可能性は否定できない。 後頭蓋窩血腫は,死因につながる最も重要な要因であり,これにより左の小脳半球そして第4脳室が押され,後頭蓋窩腔の圧が高くなった。静脈還流については致死的な障害ではない。 硬膜下血腫を除去し,減圧開頭術を施せば,80ないし90パーセント救命できる。 カd医師(脳神経外科医。乙ロB25から30,53,54)死亡原因は,左側の頸静脈孔に割りばしが貫通したために,頸静脈が損傷を受け,その結果,静脈洞内に血栓が形成され,そして,静脈洞が完全に閉塞した結果,大脳,小脳,脳幹に著しい脳の腫れが生じたために起きた頭蓋内圧亢進である。水頭症は二次的病態として頭蓋内圧亢進に寄与した。 割りばしの頭蓋穿通により生じた後頭蓋窩の急性硬膜下血腫及び小脳半球の挫傷によって,小脳扁桃ヘルニア及び上行性テント切痕ヘルニアが起きたという確証はない。ただし,後頭蓋窩の急性硬膜下血腫及び小脳半球の挫傷は,副次的に,上記頭蓋内圧亢進に寄与した可能性は否定できない。 脳全体の重量が1510グラムと異常に重くなっている(4,5歳児の脳脳平均重量は,せいぜい約1240グラムである,すなわち,血腫量か。)ら説明できない脳腫脹がみられること,比較的意識状 きない。 脳全体の重量が1510グラムと異常に重くなっている(4,5歳児の脳脳平均重量は,せいぜい約1240グラムである,すなわち,血腫量か。)ら説明できない脳腫脹がみられること,比較的意識状態が良いにもかかわらず頭蓋内圧が亢進することは,静脈洞血栓症の臨床的な特徴である。そうすると,本件においては,割りばしが静脈洞を貫通し,内皮の損傷及び割りばしという異物の存在により静脈洞に血栓が形成され,静脈洞が完全に閉塞し- 75 -た結果,頭蓋内の静脈内に血液のうっ滞が生じ,大脳,小脳,脳幹に著しい,,,脳浮腫及び脳腫脹が起こりそれによって頭蓋内圧が亢進し脳血流の低下脳幹の循環障害を経て心停止に至った。小脳半球の挫傷や水頭症は副次的なもので,硬膜下血腫を除去しても救命できるものではない。 静脈洞を修復し再建することは不可能である。血栓による静脈の循環障害がもたらす脳の腫れを回避することができなければ,死亡は避けられず,低体温療法などの保存的な集中治療に期待して数パーセント助かる可能性があるかもしれないという程度である。 キe医師(法医学医。甲A68,71,72)小脳刺創及び左内頸静脈刺創によって生じた硬膜下血腫(主として後頭蓋窩)や小脳浮腫が,急性閉塞性水頭症及びこれによって発生した脳浮腫や脳腫脹とともに小脳扁桃ヘルニア及び上行性ヘルニアを発生させ,最終段階においては,呼吸中枢や循環中枢の重篤な障害が起こり,これにより低酸素血症が誘発され,脳浮腫・脳腫脹がさらに悪化し,それまでに生じていた水頭症とともに,中心性ヘルニアの影響が加わり,一気に小脳扁桃ヘルニアが悪化し,延髄を圧迫し,呼吸及び循環麻痺によって急死した。 静脈洞血栓症が発生していたことを示唆する所見はなく,死因は静脈洞血栓ではない。 後頭蓋窩を開放し,硬膜下血腫及び小脳 気に小脳扁桃ヘルニアが悪化し,延髄を圧迫し,呼吸及び循環麻痺によって急死した。 静脈洞血栓症が発生していたことを示唆する所見はなく,死因は静脈洞血栓ではない。 後頭蓋窩を開放し,硬膜下血腫及び小脳挫傷部の処置により頭蓋内圧の減圧治療を実施すれば,相当な延命効果が期待できた可能性が高い。なお,救命の可能性については,左内頸静脈部の損傷の回復が可能か否かによる。 ⑶Dの死因についての当裁判所の判断ア小脳扁桃ヘルニアの有無アb医師及びc医師は,K鑑定書,平成17年2月21日付け捜査報告書()(乙ロB39)及び同月24日付け捜査報告書(乙ロB42)添付の写真等に明らかなプレッシャーコーン(圧迫円錐。小脳扁桃が大後頭孔にくさび状- 76 -に落ち込み,小脳下面に大後頭孔による圧迫の跡が残ること)が記録され。 ,。 ているとしてDの脳に致命的な小脳扁桃ヘルニアが生じていたと指摘する(甲52)そして,e医師は,上記各捜査報告書添付の写真には,かなり明瞭な圧迫円錐の存在を示唆するような所見が存在するとして,Dの脳に認められた病的所見として小脳扁桃ヘルニアが認められるとしている(甲A68)。 また,K鑑定書及びK医師が作成した意見書には,小脳扁桃ヘルニアに関する記述は何ら存在しないが,K医師は,多少,小脳扁桃が大後頭孔に落ち込んだような所見があったが,形態的な変化は脳ヘルニアとしては軽い旨を供述している(甲A30,34,38・32頁)。 イこれに対して,d医師は,解剖時の写真では,どこにプレッシャーコー()ンがあるかは分からないと指摘するとともに,知り合いの脳外科医2名に見てもらったが脳ヘルニアの所見があると答えた者はいなかったと供述し,仮に脳ヘルニアの所見が存在していたとしても,それは被告病院において行われた腰椎穿刺の影響に るとともに,知り合いの脳外科医2名に見てもらったが脳ヘルニアの所見があると答えた者はいなかったと供述し,仮に脳ヘルニアの所見が存在していたとしても,それは被告病院において行われた腰椎穿刺の影響による可能性も否定できないとしている(乙ロB25。 ・7頁,12頁,27・20頁)ウDの後頭蓋窩の脳圧を定量的に認めるに足りる証拠はないが,前示のと()おり,後頭蓋窩には相当量(K鑑定書によれば,頭蓋内の血腫合計約24ミリリットルのうち,大部分は左後頭蓋窩の小脳テント下のものであった。なお,成人の後頭蓋窩の容積は約230ミリリットルとされている。甲A52・14頁)の硬膜下血腫があったこと,割りばしの刺入による小脳挫傷によって脳浮腫が生じていた可能性が高いこと(甲A41・19頁,53・43頁)からすると,後頭蓋窩の脳圧はある程度上昇しており,それによって小脳扁桃部分に下向きの力がかかっていた可能性は高い。 しかし,致命的な小脳扁桃ヘルニアが生じていたとのb医師,c医師及びe医師の指摘は,主として写真の画像からの判断にとどまり,小脳扁桃の立- 77 -体的な形態観察に基づくものではないこと(b医師も,写真だけを見て,本当にそこがせり出しているかということは言いにくい旨を供述している。甲A53・14頁,d医師を含む複数の医師が,b医師,c医師及びe医師)が判断に用いたものと同じ写真を見ても,プレッシャーコーンがあるかは分からないと指摘していること(e医師も,b医師及びc医師が明らかなプレッシャーコーンが記録されていると指摘する写真(上記平成17年2月24日付け捜査報告書(乙ロB42)添付の63から66)について,圧迫円錐と見て納得できる所見は認められなかったとしている。甲A68,K医師)は,小脳扁桃が大後頭孔に落ち込んだような所見があっ 月24日付け捜査報告書(乙ロB42)添付の63から66)について,圧迫円錐と見て納得できる所見は認められなかったとしている。甲A68,K医師)は,小脳扁桃が大後頭孔に落ち込んだような所見があったが,形態的な変化は脳ヘルニアとしては軽い旨を供述し,K鑑定書及びK医師が作成した意見書には,小脳扁桃ヘルニアに関する記述は何ら存在しないこと,ヘルニアが生じていたとされる部位の組織学的な裏付けが何ら存在しないことを総合考慮すると,本件において,致死的な程度の小脳扁桃ヘルニアが生じていたとまでは認めることができないというべきである。 イ上行性テント切痕ヘルニアの有無アb医師及びc医師は,四丘体槽が閉塞し,同時に第3脳室及び側脳室が()拡大しているCT画像及びK鑑定書添付の写真から,上行性テント切痕ヘルニアの所見が明らかに認められる(甲A52・6頁,乙ロB41,e医師)は,平成17年2月21日付け捜査報告書(乙ロB39)添付の写真に,小脳天幕切痕の印象痕が示されている(甲A68・42頁)とそれぞれ指摘している。 イしかし,d医師は,四丘体槽の閉塞は中心性ヘルニアでも生じ得るし,()b医師らが根拠として挙げる写真には,小脳テントの辺縁によって圧迫された跡はないと指摘していること(乙ロB25・10頁,27・30頁,K)(),鑑定書には上行性テント切痕ヘルニアに関する記載が全くなく甲A30K医師は当該ヘルニアについて何らの供述もしていないこと,同ヘルニアの- 78 -所見が存在すると指摘するe医師も「上行性ヘルニア気味」と指摘するにとどまっていること(甲A68・43頁,甲A71・25頁,72・28頁)からすると,本件において,上行性テント切痕ヘルニアが生じていたと認めることはできない。 ウ静脈洞血栓症による還流障害の有無 とどまっていること(甲A68・43頁,甲A71・25頁,72・28頁)からすると,本件において,上行性テント切痕ヘルニアが生じていたと認めることはできない。 ウ静脈洞血栓症による還流障害の有無ア血栓症の程度()証拠(甲A30・K鑑定書)によれば,少なくとも左内頸静脈及び左S状静脈洞に血栓が生じていたことが認められる。 イ左右の頸静脈ないしS状静脈洞の優劣()Dの頸静脈ないしS状静脈洞につき,左右のいずれが優位であったかを直接認めるに足りる的確な証拠はない。 この点,b医師及びc医師は,CT画像に基づき,Dの右の頸静脈孔は左より明らかに大きく,頸静脈孔は右側が優位であると指摘する(甲A52・11頁,53・45頁。しかし,CTを撮影する際の人体の傾きや,左右)の頸動脈孔の部位の高さの違い等によって,CT画像における頸静脈孔の断面の大きさに差異が生じ得ることに加え,頸静脈孔の大きさと頸静脈ないしS状静脈洞の太さとの間の具体的な相関関係は証拠上明らかとはいえない。 そして,静脈洞の左右差につき,統計上特段の偏りがあることを認めるに足りる証拠がないこと(d医師は,右優位が5割,左右同位が3割,左優位が2割である(乙ロB30・134頁,e医師は,通常人の60から70)パーセントは先天的に右優位型である(甲A71・43頁)とそれぞれ指摘するが,左右の頸静脈孔の大きさは,左側が大きい例が多いとする文献もある(甲A54,72)を考慮すると,Dの頸静脈ないしS状静脈洞につ)。 いて,左右いずれが優位であったかを認定することはできないというべきである。 ウ還流障害の有無()- 79 -aa医師は,脳自体の損傷や,硬膜下血腫そのものが死因であるとすることには無理があるが,非優位側の静脈が閉塞した場合も,優位側からの導出不足 きである。 ウ還流障害の有無()- 79 -aa医師は,脳自体の損傷や,硬膜下血腫そのものが死因であるとすることには無理があるが,非優位側の静脈が閉塞した場合も,優位側からの導出不足(積み残し)によって脳の還流が少しずつ阻害されていくことはあり得るとして,本件においては,Dの左頸静脈孔が挫滅し,静脈洞に生じた血栓による還流障害によって広範囲の脳浮腫を惹起し,脳幹の機能障害(脳幹への脳浮腫の進展)により死亡するに至ったと指摘する(乙ロB。 13,14)また,d医師は,静脈洞が完全に閉塞した結果,頭蓋内の静脈内に血液のうっ滞が生じ,急性脳腫脹及び脳浮腫が惹起され,それに伴う著しい頭蓋内圧亢進によって,脳血流が低下し,脳幹の循環障害から心停止に至ったと指摘し,Dの脳重量が1510グラムと,同年代の小児の平均重量として仮定した1240グラム(文献上,4から5歳で1200グラム,5歳で1100から1200グラム,約1200グラム,1237グラムなどとされている)と比較して270グラムも増加していることが,これ。 ()。 ,,を証明しているとする乙ロB25から27そしてa医師が述べる非優位側が閉塞した場合にも還流の積み残しが生じ得るとの考え方については,ごくごく常識的なことであろうと指摘する。 そして,Y医師も,本例では,静脈洞の血栓により,平成11年7月11日午前6時前後以降に急速な脳腫脹が生じ,脳内圧が上昇して脳ヘルニアが起こり,脳幹を圧迫して呼吸が停止したと指摘している。 bこれに対して,b医師及びc医師は,静脈系は側副路が豊富であることに加え,血栓は静脈洞交会部に至っておらず,上記のとおり,優位側である右側の横静脈洞などを通って,静脈血は体循環に還流することから,脳静脈還流の致死的停滞は起きていないと指摘し, 路が豊富であることに加え,血栓は静脈洞交会部に至っておらず,上記のとおり,優位側である右側の横静脈洞などを通って,静脈血は体循環に還流することから,脳静脈還流の致死的停滞は起きていないと指摘し,a医師が述べる静脈洞血流の積み残し理論は脳神経外科領域では知られておらず,文献にも見られないとする(甲A52,53。 。 )- 80 -そして,e医師は,上記各捜査報告書添付の写真につき,左横洞に流入する静脈領域である左側頭葉や後頭葉の側面から底部においては,静脈血の還流阻害による脳組織の局所的な異常所見,左小脳の髄質や中脳における静脈性のうっ血や,梗塞性出血の前段階である脳浮腫や脳腫脹等は存在,,しておらずむしろ中脳自体は虚血状態にあったというような印象が強く左横静脈洞は閉塞していなかった(K医師が存在していたとする左静脈洞の血栓は単なる死後の血管内血液凝固である)可能性があり,左横静脈。 洞内が閉塞されていなければ,左から右への血流は保持されているのだから,本件において認められた脳腫脹ないし脳浮腫は静脈血の還流不全によって生じたものではない可能性を強く示唆していると指摘するとともに,a医師が述べる上記積み残し説に疑問を呈している(甲A68,71)。 cこの点,頭蓋内圧亢進は,静脈洞血栓症の代表的な病態とされているところ(乙ロB25・資料9Dの頭蓋内圧が上昇していたことは多くの),医師が指摘するところである。そして,b医師は,S状静脈洞の切断により血液循環に問題が生じたとの例も報告されていると供述している(もっとも,切断した側が優位側か劣位側かは明らかでない(甲A53・3。)9頁。 )しかし,上記のとおり,Dの頸静脈ないしS状静脈洞につき,左右いずれが優位であったかを認めることはできないこと,Dの脳に静脈血の還流阻害 側か劣位側かは明らかでない(甲A53・3。)9頁。 )しかし,上記のとおり,Dの頸静脈ないしS状静脈洞につき,左右いずれが優位であったかを認めることはできないこと,Dの脳に静脈血の還流阻害による脳組織の局所的な異常所見等が生じていたと認めるに足りる証拠がないこと,d医師はDの脳重量が増加していることを重視するが,Dの平常時の脳重量を認めるに足りる証拠がないこと,a医師が指摘する静脈洞血流の優位側からの導出不足(積み残し)によって脳の還流が少しずつ阻害されていくことはあり得るとの点についても,これが医学的な一般,,的な知見であると認める的確な証拠がないことに照らせば本件において致命的な還流障害が生じていたとまでは認めることができないというべき- 81 -である。 エ以上によれば,Dは,軟口蓋から左内頸静脈孔を経て刺入した割りばし片が刺入したことによって,左内頸静脈は頸静脈孔部で挫滅し,同部から少なくとも左S状静脈洞にかけて血栓が形成されるとともに小脳実質の損傷深,(. ),さ約35センチメートル及び小脳損傷部の周囲の硬膜下腔の出血が生じ脳の腫れ(その原因については,医師の意見が分かれるところであるが,K鑑定書及びその他の医師の意見に照らし,脳浮腫ないし脳腫脹によるものであった可能性が高いというべきである)及び頭蓋内圧の亢進に伴い,最終。 的に呼吸ないし循環中枢の障害により死亡したものと認められるが,これに至る具体的な機序は不明といわざるを得ない。 ⑷救命可能性についてア仮に,被告Aの診察時において,Dに頭蓋内損傷が生じていることが診断できた場合の救命可能性について検討する。 イ証拠及び弁論の全趣旨によれば,その後に行われたと予想される治療は次のとおりであると認めることができる。 ア予想される治療経過( じていることが診断できた場合の救命可能性について検討する。 イ証拠及び弁論の全趣旨によれば,その後に行われたと予想される治療は次のとおりであると認めることができる。 ア予想される治療経過()頭蓋内損傷が疑われる患者に対し,CT検査などの画像診断を行い,病変部を明らかにすることは,当時の医療水準に照らしても,通常行われる検査方法であった。 前示のとおり,Dの死亡確認後,被告病院において撮影されたCT画像には,小脳付近の後頭蓋窩に硬膜下血腫(この点,入院診療録のCT検査欄には,後頭蓋窩に硬膜外血腫との記載があるが,I医師の供述に照らせば,当該記載は硬膜下血腫の存在を否定する趣旨ではないと認められる(甲A2,乙ロB8・9頁,浮腫,空気混入の所見が存在することが認められる。 )。)これらの所見のうち,空気は割りばしの刺入と同時に侵入したものである可能性が高く,後頭蓋窩の血腫については,その出血源や受傷後,死亡するま- 82 -での血腫量の変化を認めるに足りる的確な証拠はないものの,内頸静脈や小脳そのものが損傷していることからすると,早期に血腫の一部が生じていた可能性が高いというべきである。 後頭蓋窩の硬膜下血腫は後頭下開頭術による血腫の除去により,小脳挫傷による頭蓋内圧を抑制するためには減圧開頭術等の外科的処置により,それぞれ対応し(甲A52,53,54,71,乙ロB5,9,14,手術適)応は,血腫量の変化,頭蓋内圧の程度,患者の神経症状や意識レベル等の変,(,,,化異物の存否などを総合考慮して判断される甲A40乙ロB9 14。 )そうすると,本件においては,Dの頭部のCT検査により,頭蓋内に空気が混入していたこと,後頭蓋窩の硬膜下に血腫が存在することが容易に判明していたというべきであり,手術適応の判断の 14。 )そうすると,本件においては,Dの頭部のCT検査により,頭蓋内に空気が混入していたこと,後頭蓋窩の硬膜下に血腫が存在することが容易に判明していたというべきであり,手術適応の判断のため,Dは直ちに入院し,ICUに収容して,バイタルサインのモニターや1時間毎のCT検査を行いつつ,経過観察がされたであろうと認めるのが相当である(甲A40,乙ロ。 B5)イ頭蓋内に残存していた割りばし片の予見ないし発見可能性()上記のとおり,頭蓋内の異物の存否は,Dの手術適応の有無の判断要素となることから,頭蓋内の割りばし片の存在を予見ないし発見し得たかについて検討する。 原告らは,割りばしは,折れ始めた部分から尖った方の先端までの約2センチメートルが,咽頭後壁から上咽頭腔内に,肉眼的に見ても明らかに突き出ており,ゾンデやファイバースコープによる確認のほか,CT検査を実施していれば,Dの頭蓋内に空気が入っていることが判明していたし,MRI検査を実施していれば割りばしが写った可能性も否定できないと主張する。 しかし,前示のとおり,割りばし片の先端が上咽頭腔に突き出ていたとまでは認めることができないこと,割りばしはD自らが抜いて捨ててしまった- 83 -と伝えられていたこと,平成11年7月11日にDが再び被告病院に搬入された以降は,Dの死亡が割りばしを喉に刺したことに起因するものである可能性を十分予見し得た(後記認定のとおり,Dの死亡が確認された直後,I医師が原告らに対して診療経過等について説明した際にも,同趣旨の発言をしている。甲A2)にもかかわらず,司法解剖によって発見されるまで,Q医師,R医師,I医師らの診察や警察医による検死においても発見できなかったこと,司法解剖を施術したK医師も,脳を取り出した際に初めて割りばしの存在を確認 かわらず,司法解剖によって発見されるまで,Q医師,R医師,I医師らの診察や警察医による検死においても発見できなかったこと,司法解剖を施術したK医師も,脳を取り出した際に初めて割りばしの存在を確認したこと(甲A50・7頁。なお,K医師は,軟口蓋を切開して咽頭腔を開いた時に割りばし片を発見したとも供述しているが(甲A36・4-7頁,5-2頁,解剖経過を撮影した写真(乙ロB38,39))の順序に照らし,当該供述部分を採用することはできない)からすると,。 手術適応の判断のため,より慎重な検討が期待できることを考慮しても,被告病院の医師らにおいて,Dの経過観察中に,Dの頭蓋内に割りばし片が残存していたことを予見ないし発見可能であったであろうとまでは認めることができない。 ウDの手術適応の有無()以上の事実を前提として,Dの手術適応の有無を検討する。 この点,b医師及びc医師は,小脳テント下(後頭蓋窩)の容積は小さい上,生命に直結した脳幹が前方にあることを根拠に,小脳テント下の血腫は小脳テント上の血腫よりはるかに少量で手術適応が生じると指摘する(甲。 A52・15頁)これに対して,Y医師は,本件においては,同日午前6時以前には手術適応にならなかったのではないかと供述し(乙ロB5・38頁,a医師も,)CTのみの所見では,場合によっては手術をしなくてもいいかもしれないと指摘している(乙ロB14・9頁。また,複数の医師は,手術適応か否か)は,意識レベルないし神経症状の推移を最も重視すると供述している(甲A- 84 -,,,,)。 40・59頁乙ロB5・34頁9・8頁12・18頁14・11頁そして,後頭蓋窩の硬膜下血腫の手術適応について,具体的に指摘する的確な証拠がないこと,前示のとおり,後頭蓋窩の血腫の出血源や受傷から 0・59頁乙ロB5・34頁9・8頁12・18頁14・11頁そして,後頭蓋窩の硬膜下血腫の手術適応について,具体的に指摘する的確な証拠がないこと,前示のとおり,後頭蓋窩の血腫の出血源や受傷から死亡するまでの血腫量の変化,頭蓋内圧の変化を認めるに足りる的確な証拠がなく,少なくとも同日午前6時ころまでは,Dの意識状態に大きな変化はなかったこと(甲A49・6-6頁,7-3頁,原告C本人)に加えて,頭蓋内に空気が混入した部位が明らかであったとはいえず,その機序や異物の存否も含め,通常の後頭蓋窩硬膜下血腫の場合以上に,手術の適否について慎重な検討が必要となったことがうかがわれることを考慮すると,Dが心肺停止状態に至る以前に手術適応の判断がされたとまでは認めることができないというべきである(V医師は,頭蓋内に異物が存在する場合には,6時間。 以内に緊急手術が必要であると指摘するが(甲A40・57頁,41・158頁,前示のとおり,頭蓋内の異物の存在を確認し得たとはいえないし,)Y医師が,近年は抗生物質が進んでいることから6時間にはこだわらずに手術をしていると供述している(乙ロB6・100頁)ことに照らせば,当該指摘は上記判断を左右しない)。 エそうすると,Dは,ICU等での経過観察中,同日午前6時ころから午()前7時30分ころまでの間に心肺停止状態となった可能性が高いというべきである。もっとも,ICUに収容されていることからすると,適時に適切な措置を採ることができた蓋然性が高いが,かかる措置によっていかなる程度に救命が可能であったのか,その後にいかなる措置をすべきであったのかなどについて,これを認めるに足りる的確な証拠はない。 ウ以上のとおり,Dが死亡するに至った具体的な機序が不明であること,被告Aによる診察の後,Dが死亡した時点 後にいかなる措置をすべきであったのかなどについて,これを認めるに足りる的確な証拠はない。 ウ以上のとおり,Dが死亡するに至った具体的な機序が不明であること,被告Aによる診察の後,Dが死亡した時点以前に手術適応の判断がされたとまでは認めることができないことに照らせば,被告AがDに頭蓋内損傷が生じていることを診断し,被告病院において入院・治療を行ったとしても,Dが- 85 -その死亡の時点においてなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性が証明されたとはいえない。 ⑸小括したがって,被告Aの診療行為とDの死亡との間に因果関係があると認めることはできない。 ⑹生存の相当程度の可能性についてなお,疾病のため死亡した患者の診療にあたった医師の医療行為が,その過失により,当時の医療水準にかなったものでなかった場合において,医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども,医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは,医師は,患者に対し,不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である(最高裁。 平成12年9月22日第二小法廷判決・民集54巻7号2574頁)しかし,本件においては,前示のとおり,Dが死亡するに至った具体的な機序が不明であり,平成11年7月11日午前6時ころから午前7時30分ころまでの約1時間30分の間に容態が急激に悪化し心肺停止状態となったこと,延命のために具体的にいかなる措置を採るべきであったかについて,これを認めるに足りる的確な証拠がないことにかんがみれば,Dがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明できたということはできない。 被告病院の医師らによる不適切な説明・ れを認めるに足りる的確な証拠がないことにかんがみれば,Dがその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明できたということはできない。 被告病院の医師らによる不適切な説明・発言の有無(争点⑷)⑴Dの死亡確認直後の発言について前記認定した事実及び証拠(甲A2,45,46,乙ロB11)によれば,I医師は,原告らに対して「子供の場合死亡する様な脳出血としては,くも,膜下出血,脳動静脈の奇形や外傷による動静脈血管の破綻などが原因である事が多い。昨夜割りばしを咽頭部に刺したことももしかして深くささっていれば- 86 -可能性はあるが‥刺入したわりばしがどの位刺入したかはすぐに現場で抜いてしまい,捨ててしまったので判断がつかない。あくまでも可能性の1つとしては考えうる」旨を説明したことが認められるが,I医師がDの死因は割り。 ばしの刺入による脳出血であることを確定的に診断していたと認めるに足りる証拠はないから,I医師の説明ないし発言が虚偽であったということはできない。 また「脳内出血の原因が割りばしが刺さったことだとすれば,脳まで達し,た瞬間に死亡する。つまり事故現場で即死ということになるはず「だいた」,いこんなに出血していれば,救命されたとしても,植物状態になっていただろう「脳内の異常事態を疑い,CTを撮るということは,この意識状態では」,100パーセント撮らない。自分の子でも撮らない。レントゲンについては被ばくの方が怖い。この状態で撮るなら,ここに運ばれてくる子供全員を撮らなければならないことになる。この病院はたまたまCTを撮る設備があったが,ないところに運ばれたらそもそも撮れなかった」との説明をしたと認めるに。 足りる的確な証拠はない。 したがって,この点についての原告らの主張を採用することはでき 院はたまたまCTを撮る設備があったが,ないところに運ばれたらそもそも撮れなかった」との説明をしたと認めるに。 足りる的確な証拠はない。 したがって,この点についての原告らの主張を採用することはできない。 ⑵Dの死亡当日の発言についてJ医師及び被告Aらが,原告らに対して「割りばしが口内に刺さり,亡く,なったということは聞いたことがない」と説明したことは争いがなく,弁論。 の全趣旨によれば,J医師及び被告Aらが,原告に対して「割りばしは,先,,,端が鋭利でないしそれが頭蓋底を貫通するなどということはあり得ないのでCTを普通は撮らない」と説明したと認めることができる。 。 この点,J医師及び被告Aが,口腔内に割りばしが刺入したことにより死亡(,した症例について知っていたと認めるに足りる証拠がないこと複数の医師が本件以前に同様の症例があったことは知らなかったと供述していることは,証拠上明らかである,口腔内から刺入した割りばしが頭蓋底を穿破したとの。)- 87 -症例が報告されていると認めるに足りる証拠がないこと(前記の症例報告のうち,1⑵エア及びイが当該症例といい得るかどうか疑問の余地があること()()は,前示のとおりである,本件においては,Dの頭蓋内損傷を予見するこ。)とが可能であったとはいえないところ,当時の医療水準に照らし,割りばしによる口腔内損傷の場合には当然にCT検査を行うべきとの知見が確立されていたと認めるに足りる証拠もないことからすると,J医師及び被告Aの説明が,明らかに虚偽であったということはできない。 ⑶平成11年7月13日の発言について平成11年7月13日のDの通夜直前に「割りばしが喉の奥から頭蓋底を,貫通しているが,頭の骨は硬く,頭蓋底を貫通するなどあり得ないと考えた」(J医師「法医 ⑶平成11年7月13日の発言について平成11年7月13日のDの通夜直前に「割りばしが喉の奥から頭蓋底を,貫通しているが,頭の骨は硬く,頭蓋底を貫通するなどあり得ないと考えた」(J医師「法医学書,様々な資料などを見ても,そんな例(割りばしが頭),蓋底を貫通する例)は今までになかった(I医師「割りばしが頭蓋内に達」),したという例は過去になく,とても脳内の出血など予測できるものではなく,CTを撮らなかったのはやむを得ない判断である(J医師「自分の子供で」),もCTを撮らない(I医師)と説明・発言したことは争いがないが,上記の」とおり,これらの発言が明らかに虚偽であったと認めることはできない。 ⑷したがって,被告A及び被告病院の医師らの説明・発言が不適切であったとの原告らの主張を採用することはできないというべきである。 そうすると,その余の事実について認定・判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないことに帰する。 第4 結論 よって,原告らの請求は,いずれも理由がないので,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第28部裁判長裁判官加藤謙一- 88 -裁判官杉本宏之裁判官間明宏充

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