平成12(ワ)4235 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成14年3月27日 東京地方裁判所
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判決文本文17,472 文字)

主文 1 被告は,原告らに対し,それぞれ,2803万5904円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのそのほかの請求を棄却する。 3 訴訟費用は,5分の3を被告の負担とし,そのほかは原告らの負担とする。 4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 原告らの請求被告は,原告らに対し,1億円及びこれに対する平成10年10月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,中学3年生であった原告らの子に対し,同じ中学校の3年生であった被告が一方的に強度で多数の暴行を加え,心停止により死亡させたと主張して,父母である原告らが,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。 1 前提となる事実(証拠を記載したもの以外は争いがない)(1) 原告らは,亡A(昭和59年1月12日生,死亡当時14歳)の父母であり,その相続人である。Aは,平成10年10月8日当時,牛久市立牛久第一中学校の3年7組に在籍し,サッカー部のキャプテンを務めていたが,同日午後6時58分に死亡した。 被告(昭和58年4月8日生)は,父丁と母戊の子であり,平成10年10月8日当時,牛久第一中学校の3年3組に在籍していた。 (2) 被告は,平成10年10月8日午後4時ころ牛久市柏田町9364番地先林道上(以下「本件現場」という)において,Aに対し暴行を加えて傷害を負わせ(以下「本件事件」という),同日午後6時58分にα病院においてAを死亡させたという傷害致死の被疑事実によって,同日午後7時35分に緊急逮捕され,10月10日から勾留された後,10月29日,この被疑事実を犯罪事実として水戸家庭裁判所土浦支部に送致された(乙17の1・2,30の1~3,139,14 実によって,同日午後7時35分に緊急逮捕され,10月10日から勾留された後,10月29日,この被疑事実を犯罪事実として水戸家庭裁判所土浦支部に送致された(乙17の1・2,30の1~3,139,143)。 (3) 水戸家庭裁判所土浦支部において,平成10年11月19日から被告に対する少年審判が開始され,平成11年1月20日,2月17日,2月18日,3月16日,5月12日と審判期日が重ねられて,平成11年8月25日,傷害致死が成立するとしたうえで,被告を保護観察に付するとの決定がされた(甲6,乙1~7)。 この少年審判においては,Aの死因について,Aが体質的因子(大動脈起始部の幅が狭いこと,副腎皮質が薄いこと)を有していたため,喧嘩の際の興奮状態と被告の暴行に起因する情動ストレスにより,ストレス心筋症(心筋の壊死性変化)が誘発されて死亡したものと認定された。 2 争点(1) 被告の暴行とAの死亡との因果関係(原告らの主張)平成10年10月8日,被告は,従前からあったAとの口論に決着をつけようとして,下校の際,制服からジャージに着替えてAに暴行を加えるための準備をし,午後3時50分ころ,本件現場にAを誘導したうえ,話し合いによる決着を考えていたAに対し,同行していた同学年の生徒4人の協力を得てAを逃げ場のないように追い込み,一方的に膀胱を含む下腹部を強く蹴るなどの強力な暴行を多数加え,神経性ショックないし副交感神経麻痺を発症させて,心停止によりAを死亡に至らせたものであり,被告による暴行とAの死亡との間には因果関係がある。 すなわち,Aの肝門部の出血,腹膜外の出血,出血部分周辺の状態,その他の部位の状況,ブリーフに付着した血尿の存在に照らすと,下腹部に強い外力が加わったというべきである。また,Aには他者に対して強い暴行を加えた Aの肝門部の出血,腹膜外の出血,出血部分周辺の状態,その他の部位の状況,ブリーフに付着した血尿の存在に照らすと,下腹部に強い外力が加わったというべきである。また,Aには他者に対して強い暴行を加えた形跡はないこと,Aは被告よりも体格的にも身体能力の面でも優れていることを併せ考えると,Aが不利な状況下に置かれて,ほぼ一方的に暴行を加えられた可能性がきわめて高く,あるいは複数人がAに対する暴行に加担していた可能性も否定できない。 Aには生前,心臓や循環器系の病的体質(体質的因子)は存在せず,むしろ通常人よりも健康体であった。Aのブリーフに付着していた血尿の存在を確認していれば,それは被告の暴行が非常に強度のものであったことを顕著に示すものであるから,ストレス心筋症による死亡と結論づける前提はなくなる。 (被告の反論)本件は,Aの挑発により喧嘩に応じざるを得なかった被告が,Aと1対1の喧嘩をしたものであり,被告のAに対する暴行は,通常人であれば死に至ることは考えられない程度のものであった。ところが,大動脈が起始部においてかなり幅が狭いこと,副腎皮質束状層がかなり薄いことなど,Aの有していた体質的因子によって重篤なストレス心筋症を誘発し,そのためにAが死亡するに至ったのであり,大変不幸な事故であった。 原告らによれば,Aはサッカー選手として活躍するなど日常的にはきわめて健康体であったというのであるから,Aの体質的因子を予見することはおよそ不可能であったといわざるを得ず,被告による暴行とAの死亡との間には因果関係はない。したがって,被告が責任を負うのは,Aに対する傷害の限度においてである。 原告らは,Aのブリーフに付着していた血痕は血尿であり,Aの下腹部に強力な暴行があったことを示していると主張するが,その血痕は,Aの救命救急治療にあた のは,Aに対する傷害の限度においてである。 原告らは,Aのブリーフに付着していた血痕は血尿であり,Aの下腹部に強力な暴行があったことを示していると主張するが,その血痕は,Aの救命救急治療にあたって右鼠径部に中心静脈カテーテルが挿入された際に流れ出した血液である。また,被告に他の生徒が加担した共同暴行であったとの主張は,原告らの一方的な思い込みに基づく根拠のない憶測にすぎない。 (2) 素因による減額と過失相殺(被告の主張)仮に被告による暴行とAの死亡との間に因果関係を認めるのであれば,Aが体質的因子を有していたという事情を考慮して,損害額の減額がされるべきである。 また,本件は,被告とAとの間の1対1の喧嘩によって発生したものであり,被告自身も鼻血を出すなどAから暴行を受けている。しかも,その喧嘩自体がAの挑発によって引き起こされたものであるから,損害額の算定にあたっては,相応の過失相殺がされるべきである。 (原告らの反論)Aには体質的因子はなく,むしろすこぶる健康体であったから,体質的因子をもって損害額の減額をすることはできない。 また,被告はジャージに着替えて乱闘に備えていたのに対し,Aは制服のままであったし,本件現場に誘導したのはAでなく,被告であった。Aの着衣の汚れや身体の損傷状況からすると,Aは腹のあたりを殴られるか蹴られるかして,両手で腹を押さえた状態で前のめりに顔から倒れ,両手をついて起き上がろうとした時に,最後に腹に蹴りが入って,尻をつきながら仰向けに倒れたと考えられるのであり,被告による暴行の態様は一方的かつ強力なものであったから,過失相殺の問題は生じない。 (3) 損害(原告らの主張)ア主位的主張 1億円現在の日本の裁判においては,年齢,性別,学歴などの要素に基づいて技巧的ないし擬制的に損害 強力なものであったから,過失相殺の問題は生じない。 (3) 損害(原告らの主張)ア主位的主張 1億円現在の日本の裁判においては,年齢,性別,学歴などの要素に基づいて技巧的ないし擬制的に損害賠償額が算定されることが多いが,本来,1人の人間の生命が失われた場合に,年齢,性別,学歴などによって損害評価額に差異が設けられることは決して合理的ではない。現在の日本においては,1人の死亡につき1億円という固定的な評価額を設定することが,むしろ社会通念上妥当である。 イ副位的主張 1億円内訳は,病院関係費用,葬儀法要関係費用,調査関係費用が合計800万円,逸失利益が4298万円,慰謝料が4000万円,弁護士費用が902万円である。 第3 争点に対する判断 1 本件事件の事実経過証拠(甲20,21,40~44,乙1,5,76,78~83,86,87,128,129,142,225,226,407の1・4,証人M)によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 平成10年,夏休みの終わりころ,被告がAや同学年のBと偶然出会った際,AとBの2人が被告に対して,被告のクラスメイトのCのことを「声が大きくて,うるせえんだ」「塾で俺が違う人と話をしていても,あいつが口出ししてくる」「一々うるせえんで,むかつくんだ」「調子に乗ってる。おかしいんじゃないか」などと話した。 Cは,Bが自分について話していることを他の生徒から聞いて,被告に対し「B君,私にむかついてるの」と尋ねた。被告は,これに対し「あっちも嫌ってるよ」「言いそうなことだけど,相手にしないほうがいい」などと答えていた。 (2) 10月5日,Cは,AとBに対し「丙(被告)が言っていたんだけど,何で私の悪口を言うの」と言った。 10月7日の放課後,被告は,Bに校舎の3階の一番 にしないほうがいい」などと答えていた。 (2) 10月5日,Cは,AとBに対し「丙(被告)が言っていたんだけど,何で私の悪口を言うの」と言った。 10月7日の放課後,被告は,Bに校舎の3階の一番端にある美術室の前に連れて行かれ,胸倉をつかまれたうえ「Cのこと,なんで言ったんだよ」と言われて,口論となった。その際,AもBと一緒にいて,被告に対し「お前,Cのこと好きなんじゃねえか」などと言ったので,被告がAに対し「お前は関係ねえだろ」と言うと,Aは「俺も関係あんだよ。喧嘩やっぺ。俺とBと,どっちとやんだ」と言った。被告は,AよりはBとのほうが仲がよかったので,Bとであれば本気の喧嘩にはならないだろうと考え,「それじゃBとやるよ」と答えた。しかし,被告は,自分がした悪戯のことで担任の教師から呼び出されていたので,その時は「後で,後で」と言って,その場を去った。その際,Aは「あいつ,全然反省してねえよな」などと言っていた。 その後,AやBらは,普段は使われていない校門のあたりで被告が下校するのを待っていたが,教師に見つかって早く帰るように言われたので,そのまま帰宅し,その日は喧嘩は起こらなかった。 (3) 10月8日,被告は,6時間目の授業終了後,学校内のトイレ脇の水飲み場で水を飲んでいたところ,Aから「丙(被告),ちょっと来いよ」と言われ,トイレの中に連れ込まれた。Aが被告に対し「おめえが悪いんだろう」などと言うので,被告は「俺が悪いんだよ」と言ったが,Aは被告の胸倉をつかんでトイレの壁に押しつけ,被告もAの胸倉をつかみ返した。そのため,Aのワイシャツのボタンが2個取れてしまい,2人はつかみ合っていた手を離したが,その際,被告がAの足を蹴った。すると,Aは再び被告の胸倉をつかみ,手拳で被告の顔面を殴打しようとしたが,被告が避けたため当 イシャツのボタンが2個取れてしまい,2人はつかみ合っていた手を離したが,その際,被告がAの足を蹴った。すると,Aは再び被告の胸倉をつかみ,手拳で被告の顔面を殴打しようとしたが,被告が避けたため当たらなかった。Aは,落ちたボタンを被告に拾わせ,教室に戻ったが,その際,被告に対し「今日は必ずやってやっかんな」「ぶっ殺してやる」などと怒鳴りながら,トイレの壁を蹴った。 その直後,被告が自分の教室に戻ると,Aが入ってきて「今日,放課後やっかんな」などと怒鳴った。被告は,Aと喧嘩になると思ったので,帰りの会が終わった後,学生服が破れたりしないようにTシャツとジャージのズボンに着替え,いつも一緒に帰宅する同学年のD,E,Fとともに教室を出た。被告は,教室を出たところで同学年のGに出会い,「どうすんの」と聞かれたので,「売られたらやるしかない」と答えた。被告らが校舎の階段を降りていくと,ワイシャツと学生服のズボン姿のAが待っていて,一緒に校外へ向かった。 Aは喧嘩の場所はどこでもよいと言ったが,被告は人目につかないほうがよいと考えたので,Aと被告は本件現場のある雑木林の方へ向かった。D,E,Fと,一緒に帰宅しようとしてこれに加わった同学年のHの4人が,Aと被告の歩く5ないし10メートル後ろからついていったが,本件現場の手前で,Aが「あいつら,なんでついてくるんだよ」と言ったので,被告はDら4人に対して「お前らここで待ってろ」と言い,Aと被告の2人だけが本件現場へ向かった。その後すぐ,Fは帰った。 (4) Dらが,被告に待っているように言われた場所で待って約5分が経過したころ,同学年のIが,学校の方から1人で自転車に乗ってDらのいる場所を通過し,本件現場のある方向へ向かっていった。すると,被告が,雑木林の中からゴルフ場の外周道路の方へ飛び出し って約5分が経過したころ,同学年のIが,学校の方から1人で自転車に乗ってDらのいる場所を通過し,本件現場のある方向へ向かっていった。すると,被告が,雑木林の中からゴルフ場の外周道路の方へ飛び出してきて,偶然出会ったIにDを呼ぶよう頼んだので,Iは引き返し,Dに被告が呼んでいることを伝えた。 Dが自転車で本件現場へ行くと,林の中からバシッ,バシッというような音が聞こえ,倒れたAの横で,被告が膝をついて「A,A」と叫びながらAの頬を叩いているのが見えた。Dは,目を半開きにして口も開いたまま倒れているAの様子を見て,すぐ,外周道路で待っていたEらに向かい大声で「医者を呼べ」と叫び,駆けつけてAの様子を見たEが,近くを通りかかった人の携帯電話を借りて,学校への連絡と救急車の要請をした。Dが被告に「何やったんだよ」と聞いたところ,被告は「殴った時に1度倒れて,1回立ち上がったけどまた倒れた」と答えていた。本件現場では,Aに対し,被告とIがマウス・トゥ・マウス法の人工呼吸,Hが心臓マッサージを施した。このような人工呼吸法や心臓マッサージは学校で習っていたものであり,心臓マッサージの際に腹部を押すことはなかった。このころには,近所の人数人が現場の様子を見に来ていた。 その後,牛久第一中学校のJ教諭,K教諭,L教諭が本件現場に到着し,K教諭が,Iらに代わって人工呼吸と心臓マッサージを施した。さらに,午後4時23分に救急隊員が本件現場に到着し,心臓マッサージを施した。被告は,教諭らが本件現場へ来たころには,「どうしよう,どうしよう。俺がやったんだよ。俺の気持ちがわかるかよ」などと言って,錯乱状態になっていた。 (5) 被告が同日,本件事件後に竜ヶ崎警察署で,事件当時の身体,着衣などの状況を保全するために写真撮影をされた際,被告の右手背部には腫脹が 気持ちがわかるかよ」などと言って,錯乱状態になっていた。 (5) 被告が同日,本件事件後に竜ヶ崎警察署で,事件当時の身体,着衣などの状況を保全するために写真撮影をされた際,被告の右手背部には腫脹が見られ,着ていたTシャツの胸あたりには血痕が付着していた。 (6) Aは,同日午後4時33分から37分ころ,救急車でα病院に運び込まれた。 運び込まれたAは,心肺停止状態で,瞳孔は開いたままであった。担当医師らは,心臓マッサージ,気管内挿管による人工呼吸,ボスミン(強心薬)1アンプルの気管内注射,中心静脈カテーテルの挿入によるボスミン20アンプルの投与,さらには開胸心臓マッサージなどの救命処置を行ったが,Aの心拍は再開せず,午後6時58分に死亡が確認された。 Aに対して救命処置を施す際には,ズボンとブリーフは看護婦が両側にはさみを入れて切り,両側に開いてAの体の下に残したまま,処置が続けられた。 中心静脈カテーテルは右鼠径部から挿入されたが,この手技には通常出血を伴う。救命処置の際に,医師や看護婦から,Aに血尿の出ていることが認められるという報告がされたことはない。 2 死因についての鑑定意見(1) N医師の鑑定意見平成10年10月9日,竜ヶ崎警察署長からの嘱託に基づき,筑波大学司法解剖室において,筑波大学社会医学系法医学のN教授らによりAの遺体の解剖検査が実施された。解剖検査の結果と,死因についてのN医師の鑑定意見は,次のとおりである(甲10,乙2,282)。 ア解剖検査の結果外表検査によると,左鼠径部に蚤刺大の表皮剥脱が2個ある。右鼠径部に蚤刺大の表皮剥脱が1個あり,1糸で縫合されている。 胸腹腔を開検すると,右の骨盤腔の下端の腹腔内に林檎大の腹膜下の出血がある。心臓は重さ350グラムである。大動脈起始部の周 個ある。右鼠径部に蚤刺大の表皮剥脱が1個あり,1糸で縫合されている。 胸腹腔を開検すると,右の骨盤腔の下端の腹腔内に林檎大の腹膜下の出血がある。心臓は重さ350グラムである。大動脈起始部の周径は5.3センチメートルである。左肺はうっ血浮腫が著明で,血量は著しく多い。右肺もうっ血浮腫が著明である。胸腹部大動脈は,胸部での幅が4センチメートル,腹部での幅が3センチメートルである。脾臓はうっ血が著明である。膀胱は内に貯留液はなく,血管充盈が強く,蚤刺大から米粒大程度の溢血点が数個ある。胃は漿膜面の血管充盈は中等度,粘膜の血管充盈は高度であり,うっ血が高度で全体にびらん状を呈している。S状結腸から直腸にかけて拇指頭大の粘膜下出血がある。肝臓下大静脈付着部付近には尾状葉のやや左方に実質内及び被膜下の拇指頭大程度の出血がある。 病理組織標本を作製して顕微鏡で鏡検すると,心臓の外膜下の比較的太い冠動脈では所々に中膜の空胞変性が認められる。心筋線維は一部で萎縮性である。間質は浮腫性であるが,出血はない。心室筋の内層部分には収縮帯壊死の像が所々に認められる。肺胞内は浮腫が著明で,一部では著しい出血が見られる。気管支周囲の血管の充盈が顕著である。胸腺,甲状腺,脾臓,腎臓,副腎,胃,膵臓,肝臓,腹部リンパ節はうっ血性である。副腎は皮質の細胞に著変はないが,一般に皮質の厚さは特に束状層で薄い。 イ N医師の鑑定意見内部諸臓器には著しいうっ血があり,特に肺のうっ血浮腫,一部の肺胞内出血と小血管の著しい充盈,胃粘膜の著明なうっ血と粘膜下の血管の著しい充盈,腎髄質のうっ血などは目立った変化であるが,これらの変化は直接的に死亡の原因とするよりも,むしろ急性循環不全の結果としての変化と考えることができる。肺の所見は,最終的には呼吸障害を起こすほど 充盈,腎髄質のうっ血などは目立った変化であるが,これらの変化は直接的に死亡の原因とするよりも,むしろ急性循環不全の結果としての変化と考えることができる。肺の所見は,最終的には呼吸障害を起こすほどの変化ではある。 心臓の重量がやや重いものの(同年齢の日本人男性の平均重量は274±36.1グラムである),直ちに致死的になるほどの変化ではない。しかし,右下腹部には林檎大の腹膜外の出血や肝門部の出血があり,腹部に外力が作用したことが推定される。 一般に頚動脈洞,腹腔神経叢,外陰部などは従来より「危険」領域などと呼ばれ,これらの部位に外力が作用すると急激にショック状態に陥ることが知られている。このような型のショックは神経性ショック(反射性迷走神経抑制,迷走神経ショック)と呼ばれ,軽微な損傷や刺激によってショックが起こり,死亡することがある。 この神経性ショックは,神経性刺激に対して反射的に起こる末梢血管の拡張と血管床の増大,血圧低下とこれに伴う血液の拍出量との間の平衡の破綻によって生じる。臓器所見としては,うっ血や血管の著明な充盈など急性循環不全の際に出現する所見が見られる。Aの場合,諸臓器に直ちに致死的になるほどの変化はないが,腹部に外力が加わった痕跡があること,諸臓器にうっ血などの循環不全を示唆する所見があることなどを併せて考えると,腹腔神経叢が外力により刺激されて神経性ショックが惹起されたことは十分に考え得ることである。 神経性ショックで死亡した例には胸腺,副腎,大動脈などに構造上の異常が認められるという報告がある。Aの心重量は350グラムで重く,その心重量の割には,大動脈の幅が起始部において狭い。心臓の大きさの割に大動脈の幅が狭いと,必要なだけの血液の拍出が妨げられ,血液の拍出量と血管床との均衡関係が破綻する 心重量は350グラムで重く,その心重量の割には,大動脈の幅が起始部において狭い。心臓の大きさの割に大動脈の幅が狭いと,必要なだけの血液の拍出が妨げられ,血液の拍出量と血管床との均衡関係が破綻することは容易に考えられる。 冠動脈分枝の中膜の変性や心筋の収縮帯壊死などの所見も,神経性ショックにより急性循環不全が惹起されたと考えて矛盾しない所見である。 これまでの数多くのショック死例の報告によると,副腎に関しては皮質,特に束状層に萎縮や脂肪変性が認められるとされており,本例でも束状層が薄いことが認められている。 これらの所見を総合して考えると,Aの死亡原因は外力が腹部などに加えられ,これにより神経性ショックが惹起され,急性循環不全によって死亡したと推定される。しかし,本例の場合,心重量の割に大動脈の幅がやや狭く,副腎皮質が特に束状層で薄いなどの構造的不均衡に関連する何らかの体質的因子が死亡に関与したことは否定できず,その関与の度合いは6割程度ではないかと考えられる。 なお,神経性ショックによって行動能力や意識を失うまでの時間は,ボクシングの腹部へのパンチが決まってノックダウンされる場合のようにすぐにでも起こり得るし,20分ほど要する場合もある。また,腹部の内出血は,心臓マッサージを施す部位とは位置がずれているので,心臓マッサージでは起こり得ない。 (2) O医師の鑑定意見平成11年5月28日,水戸家庭裁判所土浦支部裁判官は,被告に対する少年審判事件において,帝京大学医学部法医学教室のO教授に対し,Aの死因などについての鑑定を嘱託した。死因についてのO医師の鑑定意見は,次のとおりである(甲8)。 大動脈の起始部はかなり狭く,副腎皮質では束状層がかなり薄い。冠状動脈については,N医師は中膜には所々に大きな間隙が存在しているとして 死因についてのO医師の鑑定意見は,次のとおりである(甲8)。 大動脈の起始部はかなり狭く,副腎皮質では束状層がかなり薄い。冠状動脈については,N医師は中膜には所々に大きな間隙が存在しているとして空胞変性を認めているが,そのような間隙は存在しない。 心筋の筋肉線維は左右房室壁,中隔を問わず,びまん性に各所においてエオジン好性の凝固壊死が認められ,収縮帯壊死も顕著に出現している。特に注目すべきなのは,内膜に接した筋肉線維にも凝固壊死や収縮帯壊死が随所に出現していることである。したがって,壊死巣の分布状態には血管依存性といったような規則性は存在しない。また,心筋層内には,一部に円形の単核細胞の浸潤巣が散在しており,この周囲には線維化(小さな瘢痕形成)が認められる。その他,主として左心室の筋肉層内には著明な線維化部(小さな瘢痕巣)が多数散在している。 血液が存在している肺胞隔壁には破壊されたような所見は欠落しており,血液自体も血腫状となっているような異常は認められないから,N医師のいう肺出血は,実際には血液吸引像と見なすべき所見と考えられる。 Aの右下腹部の腹膜外出血と肝門部の出血という2つの腹部の創傷が外力作用によって生じたものという点は,N医師と同一見解である。しかし,肝門部への外力作用としては,数人の生徒や教員が現場において救急処置を行っているし,救急病院においても専門家の処置を受けており,このような処置も腹部への外力作用の1つとして排除できず,肝門部の出血は心マッサージによって生じた可能性も存在する。また,右下腹部の腹膜外出血も手拳による殴打や足蹴りなどによって生じたものと見ても矛盾しないが,それに限定されるものではなく,心マッサージの施行者が誤って右下腹部に膝を当て圧迫したというようなことでも生じ得るものである。右下腹部に よる殴打や足蹴りなどによって生じたものと見ても矛盾しないが,それに限定されるものではなく,心マッサージの施行者が誤って右下腹部に膝を当て圧迫したというようなことでも生じ得るものである。右下腹部に作用面積が広い鈍体が作用し,これが腹腔神経叢に波及して神経性ショックを起こしたというのであれば,右下腹部をはじめ腹腔内に甚大な損傷が発生しているはずである。 本件においては,虚血によって収縮帯壊死が発生したことを裏付けるものは認められない。まず,神経性ショックについては,客観的な所見は存在しない。 Aの心臓内における収縮帯壊死の分布パターンからしても,虚血時の所見とは異なり,心内膜の近傍においても収縮帯壊死が発生しているのであり,冠動脈には特記すべき異常が認められないことを併せて考えると,本件における心筋壊死は虚血性変化と結論づけることは無理である。 本件において認められた心筋の病変は,近年,循環器系統の専門家の注目を集めているもので,突然死の病態像を説明する場合にきわめて重要な病理所見であるストレス心筋症,すなわち,身体や精神への情動ストレスによって誘発された心筋の壊死性変化と見なすことができる。このような病巣は心筋挫傷,覚醒剤中毒,中枢神経の侵襲,内因性の突然死でも認められるものであるが,本件においてはストレス心筋症以外には該当するものがない。 ストレス心筋症の形態学的特徴といえば,収縮帯壊死が主軸となったきわめて重篤な局在性病巣が心筋層に播種性に散在しているといったものである。したがって,原因不明といったようなものにしかすぎないから,本件の死因として取り上げるのはいかがなものかという法医学者の批判があることは自明のところであるが,これに対しては,現在の法医学はこういう新しい疾患の概念について認識していないという以外には反論のしようがな として取り上げるのはいかがなものかという法医学者の批判があることは自明のところであるが,これに対しては,現在の法医学はこういう新しい疾患の概念について認識していないという以外には反論のしようがない。 Aの心筋内には円形細胞浸潤や巣状の小さな瘢痕と見なされるような線維化が各所に散在しており,これらは今回の死に至る重篤かつ広範囲のストレス心筋症が発生する以前に生じた心筋性壊死巣の修復過程にあったものと見なすことができ,死に至らぬ程度の軽症のストレス心筋症が何回も繰り返していたものである可能性が高い。したがって,自覚,他覚の有無は別として,Aは健康体であったということはできない。Aの大動脈の幅がやや狭いことや副腎皮質が薄いということも,体質異常の存在をある程度は裏付ける所見と見なすことができる。 (3) P医師の鑑定意見平成11年12月28日,原告ら代理人弁護士は,元東京都監察医務院長のPに対し,Aの死因などについての法医学的見解を求めた。P医師の鑑定意見は,次のとおりである(甲4,証人P)。 腹部は内臓器を防護するような骨格はなく,皮膚と筋肉などによって保護されているだけであるから,柔軟性があり,さらに腹腔内には胃や小腸,大腸など弾力性に富む臓器が納まっているので,外力を吸収する力はきわめて大きい。したがって,O医師がいう腹腔内の甚大な損傷というような外力作用の痕跡がないからといって,死因に関与するような外力作用を直ちに否定することはできない。ボクシングのボディーブローでダウンするケースなどは,正にこの種の侵襲である。 Aのブリーフの右背面は血尿で汚染されている。血尿が生じた原因については,右下腹部の林檎大の腹膜外出血の存在が挙げられる。腹膜外出血は手拳による殴打や心マッサージの際の膝による圧迫などで形成される可能性は少 フの右背面は血尿で汚染されている。血尿が生じた原因については,右下腹部の林檎大の腹膜外出血の存在が挙げられる。腹膜外出血は手拳による殴打や心マッサージの際の膝による圧迫などで形成される可能性は少なく,それよりもダメージの大きい足蹴りや膝蹴りのような強大な外力作用がなければ生じるものではない。Aは右下腹部を蹴られたために,その部分に腹膜外出血を生じ,外力が強大であったから尿を貯留していた膀胱は出血をきたし,血尿が作られた。Aはその後,脳機能麻痺に陥り,膀胱括約筋の弛緩を生じて,血尿の失禁に至ったものと考えられる。膀胱粘膜は血管充盈が強く,溢血点も出現しているのは,膀胱を含めた右下腹部に強大な外力作用があったことを裏付けている。 右下腹部の腹膜外出血と膀胱の所見,血尿の存在は,内臓器にまで外力が波及している証拠である。O医師が鑑定の際に血尿の存在を知っていたならば,神経性ショックを否定し得なかったはずである。 Aのワイシャツの左前胸部には上下方向に擦過状の泥土の付着があり,顔面には表皮剥脱が見られ,ズボンの前面にも両大腿部から両膝部にかけて広範囲に泥土の付着があるので,Aは2,3回前のめりに路上に倒れているものと思われる。また,ズボンの背面,特に両臀部にも前面と同じように上下方向に擦過状の泥土の付着があり,ブリーフの血尿の存在を併せて考えると,Aは喧嘩の最後に右下腹部を足で蹴られ,神経性ショックを起こしながら尻もちをつくように後方へあお向けに倒れ,急死したものと思われる。 本件において,腹部への外力作用を軽視することはできない。しかもその外力は膀胱をはじめとした内臓器に波及し,血尿を生ずるほどに強大であったから,ストレス心筋症という身体的悪条件を有していたとしても,死因は腹部への外力作用による神経性ショックによる急死と考えるべきであ 力は膀胱をはじめとした内臓器に波及し,血尿を生ずるほどに強大であったから,ストレス心筋症という身体的悪条件を有していたとしても,死因は腹部への外力作用による神経性ショックによる急死と考えるべきである。 3 被告の暴行とAの死亡との因果関係(争点(1))について(1) 本件事件は,前記認定のとおり,被告とAとの1対1の喧嘩によるものであり,Aの死亡という思わぬ結果を招いてしまったものである。 その死因について,N医師とP医師は,Aの腹腔神経叢が外力により刺激されて神経性ショックが惹起されたことによるものであるとする。1対1の喧嘩であり,他に目撃者もいないから,被告とAとの間に具体的にどのような攻防があったのかは明らかではない。しかし,前記認定事実によれば,Aの右下腹部には林檎大の腹膜外出血があり,膀胱粘膜は血管充盈が強く溢血点も出現していた。他方,被告は本件事件の直後,本件現場に駆けつけた同学年の生徒に対し「(Aは)殴った時に1度倒れて,1回立ち上がったけどまた倒れた」と答えており,警察で写真撮影をされた際には,被告の右手背部に腫脹が認められているのである。 被告以外の者がAの右下腹部を強く押したというような事情はうかがわれないから,これらの事実によれば,被告は,Aの右下腹部に,決して軽度とはいえない打撃を加えたと考えなければならない。N医師とP医師の鑑定意見は,被告による右下腹部に対する暴行の存在を前提とするものであり,その意味で正当なものということができる。したがって,Aの死因は,神経性ショックであったと考えるのが合理的である。 (2) これに対し,O医師は,Aの死因はストレス心筋症であるとの鑑定意見を述べており,被告も,これに基づき,Aの死因はストレス心筋症であるから,被告による暴行とAの死亡との間には因果関係がないと主張 2) これに対し,O医師は,Aの死因はストレス心筋症であるとの鑑定意見を述べており,被告も,これに基づき,Aの死因はストレス心筋症であるから,被告による暴行とAの死亡との間には因果関係がないと主張する。 O医師の見解は,右下腹部の腹膜外出血が心臓マッサージの際にも誤って生じ得るものであること,右下腹部に作用面積が広い鈍体が作用し,これが腹腔神経叢に波及して神経性ショックを起こしたというのであれば,右下腹部をはじめ腹腔内に甚大な損傷が発生しているはずであることを前提として,Aの右下腹部の腹膜外出血は手拳による殴打や足蹴りなどによって生じたとは限定されないとしている。 しかし,前記認定のとおり,心臓マッサージの際にAの腹部を押すことはなかったし,ほかに,被告以外の者がAの右下腹部を強く押したというような事情もうかがわれない。また,右下腹部への外力の作用が腹腔内に甚大な損傷を発生させるとも限らないから,O医師の見解は,右下腹部の腹膜外出血を正当に評価しているものとはいいがたい。O医師自身,ストレス心筋症という病名は原因不明といったようなものにしかすぎず,本件の死因として取り上げることについては法医学者の批判があると自認もしているのであり,このO医師の鑑定意見は採用することができない。 (3) そうすると,被告がAの右下腹部に対して決して軽度とはいえない打撃を加え,これによってAに神経性ショックが生じて,Aが死亡するに至ったというべきであるから,被告による暴行とAの死亡との間には相当因果関係を認めることができる。 4 素因による減額と過失相殺(争点(2))について(1) 素因による減額被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが,ともに原因となって損害が発生した場合において,その疾患の態様,程度などに照らし,加害 点(2))について(1) 素因による減額被害者に対する加害行為と加害行為前から存在した被害者の疾患とが,ともに原因となって損害が発生した場合において,その疾患の態様,程度などに照らし,加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失するときは,損害賠償の額を定めるにあたり,民法722条2項の規定を類推適用して,被害者の疾患を考慮に入れることができる。しかし,被害者が平均的な体格ないし通常の体質と異なる身体的特徴を有し,これが損害の発生や拡大に寄与したとしても,その身体的特徴が疾患に当たらないときは,損害賠償の額を定めるにあたり,その点を考慮に入れることはできないというべきである。 前記認定のとおり,Aには,平均的な数値と対比すると,心臓の重量の割に大動脈の幅が起始部で狭く,副腎皮質が束状層で薄いという身体的特徴があった。しかし,N医師の鑑定意見がいうように,これに関連する何らかの体質的因子がAの死亡に関与したとしても,この身体的特徴が明らかに疾患として扱われていることを認めるべき事情はなく,また,そのような内臓の構造をAに帰責性のある素因と評価すべき根拠も見いだせない。 したがって,このように一部の内臓の構造が平均的な数値と異なっていて,それが損害の発生や拡大に寄与したと考えられるとしても,損害賠償額の算定にあたり,その点を考慮に入れることは相当でない。 (2) 過失相殺前記認定事実によれば,Aは本件事件の前日に,特に理由もないのに「俺も関係あんだよ。喧嘩やっぺ」と言って,自分と喧嘩をするよう被告を挑発し,本件事件の当日も,被告を学校のトイレに連れ込み,「おめえが悪いんだろう」などと言って,被告の胸倉をつかんでトイレの壁に押しつけ,教室へ戻る際には「今日は必ずやってやっかんな」「ぶっ殺してやる」などと怒鳴り,教室へ戻った 学校のトイレに連れ込み,「おめえが悪いんだろう」などと言って,被告の胸倉をつかんでトイレの壁に押しつけ,教室へ戻る際には「今日は必ずやってやっかんな」「ぶっ殺してやる」などと怒鳴り,教室へ戻った被告に対し,さらに「今日,放課後やっかんな」などと怒鳴っている。そして,放課後には,被告が教室から出てくるのを待ち受けて,一緒に本件現場へ向かっている。 この経過からすると,本件事件は,Aが被告と喧嘩をしようとする姿勢を積極的にもった中で発生したものというべきであるから,Aの被告に対する行動が本件の結果を招く一因となったことは否定できない。この点でAにも落ち度があったというべきである。他方,被告も,トイレではAの胸倉をつかみ返したり足を蹴ったりし,放課後は,喧嘩に備えて学生服からTシャツとジャージのズボンに着替え,他の生徒には「売られたらやるしかない」と話し,喧嘩の場所も自ら選んでいる。このような事情に照らすと,Aの過失割合は2割と認めるのが相当である。 これに対し,原告らは,Aのブリーフに血尿が付着していることを重要な根拠にして,被告による暴行の態様は一方的かつ強力であったと主張する。しかし,獨協医科大学法医学教室のQ教授らによるAのブリーフの検査報告書(甲29の1)によっても,Aのブリーフに血と尿が付着していることは認められているが,それが血尿として膀胱から排出されたものとまでの結論は得られていないし,原告らが血尿だとする血痕は,ブリーフの右背面に付着しているものであって,ブリーフの前面の陰茎を覆う部分には血痕は付着していない。そして,前記認定のとおり,α病院における救命処置の際にも血尿の存在は確認されていないことからすれば,Aのブリーフに血尿が付着しているものとは認めることができない。そのほか,被告のAに対する暴行の態様が一方的 記認定のとおり,α病院における救命処置の際にも血尿の存在は確認されていないことからすれば,Aのブリーフに血尿が付着しているものとは認めることができない。そのほか,被告のAに対する暴行の態様が一方的かつ強力であったことを認めるに足りる証拠もない。 5 損害(争点(3))について(1) 病院関係費用 15万9720円証拠(甲52の1,70)によれば,原告らは,Aのα病院における平成10年10月8日の治療のために,15万9720円を負担したことが認められる。 なお,カルテ等の謄写費用については,Aの死亡に伴って社会通念上,当然に生ずる損害とはいえない。 (2) 葬儀法要関係費用 120万円証拠(甲53~66,67の1・2,70)によれば,原告らは葬儀費用として91万8518円,三七日法要,49日法要,100日法要,初盆,1周忌,3回忌などの費用として合計約478万円を支出したことが認められるが,本件事件と相当因果関係のある損害として賠償を求めることができる葬儀費用と法要費用は,120万円と認めるのが相当である。 (3) 調査関係費用 0円証拠(甲68,69の1~7,70)によれば,原告らは,弁護士相談料として1万円,証拠写真などの費用として7万6045円,資料などの謄写費用として約12万円,医師相談料として合計150万円を負担したことは認められるが,これらは,本件事件と相当因果関係のある損害とは認められない。 (4) 逸失利益  4298万0041円Aは,本件事件当時,14歳の男子の中学生であったから,賃金センサス平成9年第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・男子全年齢平均の年収額である575万0800円を基礎収入とし,生活費は5割を控除し,就労期間を18歳から67歳までとして中 ったから,賃金センサス平成9年第1巻第1表の産業計・企業規模計・学歴計・男子全年齢平均の年収額である575万0800円を基礎収入とし,生活費は5割を控除し,就労期間を18歳から67歳までとして中間利息をライプニッツ方式で控除すると(ライプニッツ係数は,14歳から67歳までの53年の係数18.4934から,14歳から18歳までの4年の係数3.5459を差し引いた14.9475),その逸失利益は,4298万0041円(円未満切捨て)と算定される。 原告らはAの父母であるから,それぞれ,この2分の1にあたる2149万0020円(円未満切捨て)の請求権を相続した。 (5) 慰謝料 2200万円本件事件の態様や,Aが14歳という若年で人生を終えることになったこと,その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,Aの慰謝料として1800万円を認めるほか,父母である原告らに固有の慰謝料として,それぞれ200万円を認めるのが相当である。 原告らは,Aの慰謝料については,それぞれ2分の1にあたる900万円の請求権を相続した。 (6) 過失相殺 2割以上の損害額の合計は,原告らそれぞれにつき3316万9880円となるが,前記のとおり,Aには2割の過失を認めるのが相当であるから,その過失相殺をすると,残額は,原告らそれぞれについて,2653万5904円となる。 (7) 弁護士費用 300万円本件事案の内容,難易度,認容額などを考慮すると,本件事件と相当因果関係のある弁護士費用としては,原告らそれぞれにつき,150万円を認めるのが相当である。 したがって,損害額の合計は,原告らそれぞれにつき,2803万5904円となる(原告ら2人の合計では,5607万1808円)。 (8) なお,原告らは,主位的な主張として, 相当である。 したがって,損害額の合計は,原告らそれぞれにつき,2803万5904円となる(原告ら2人の合計では,5607万1808円)。 (8) なお,原告らは,主位的な主張として,現在の日本においては,1人の死亡につき1億円という固定的な評価額を設定することが妥当であると主張する。しかし,賠償請求の前提となる損害は現実に生じた損害でなくてはならないところ,人の死亡によって現実に生じる損害は,不法行為の態様,不法行為後の事実経過,被害者の職業,年齢,学歴,家族の有無,家族内での地位その他の事情で異なるものにならざるを得ず,人の死亡によって現実に生じる損害が常に1億円であるということはできないから,原告のこの主張は採用することができない。 第4 結論以上によれば,原告らの請求は,それぞれ,不法行為による損害賠償金2803万5904円と,これに対する不法行為の日である平成10年10月8日以降の遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。 東京地方裁判所民事第35部裁判長裁判官片山良広裁判官福島政幸裁判官岡田紀彦

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