- 1 -平成22年7月28日判決言渡平成22年(ネ)第10021号商号使用禁止等請求控訴事件(原審・東京地裁平成21年(ワ)第9129号)口頭弁論終結日平成22年6月21日判決控訴人三菱信販株式会社訴訟代理人弁護士小林実同風祭靖之同淺井研被控訴人三菱商事株式会社被控訴人三菱UFJ信託銀行株式会社被控訴人株式会社三菱東京UFJ銀行被控訴人三菱地所株式会社上記4名訴訟代理人弁護士北浦一郎同荻野泰三主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨 原判決を取り消す。 被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人らの負担とする。 第2事案の概要【以下,略称は原判決の例による】。 本件は,いわゆる三菱グループに属する被控訴人ら(一審原告ら)が,同グ- 2 -ループに属せずかつ下記のとおり「三菱信販株式会社」の商号(被告商号)による商業登記を有する控訴人(一審被告)に対し,不正競争防止法2条1項1号(周知表示との混同・2号(著名表示の使用)又は被控訴人三菱商事の原)判決商標権目録記載の商標権ただし原判決26頁6行の指摘役務を指(,「」「定役務」と改める)侵害を理由とする各差止請求として,不正競争防止法3。 条(一審原告全員)又は商標法36条(一審原告三菱商事のみ)に基づき,被告商号の使用禁止と上記商業登記の商号登記部分の抹消登記手続を求めた事案である。 記東京法務局港出張所会社法人等番号0104-01-028745商号三菱信販株式会社会社成立の年月日昭和43年5月23日目的 金銭貸付け業 商品割賦販売の を求めた事案である。 記東京法務局港出張所会社法人等番号0104-01-028745商号三菱信販株式会社会社成立の年月日昭和43年5月23日目的 金銭貸付け業 商品割賦販売の保証 不動産割賦販売の保証 割賦債権の買取業 土地建物の売買・管理・賃貸ならびに斡旋業 上記各号に附帯する一切の業務 原審の東京地裁は,平成22年1月29日,不正競争防止法3条に基づく請求についてのみ判断し,被控訴人らの著名な商品等表示である「三菱」と類似する被告商号の使用により被控訴人らの営業上の利益が侵害されるおそれがあり(不正競争防止法2条1項2号,かつ,被告商号の使用に対する黙示の許)諾及び権利失効の各抗弁はいずれも認められない等として,被控訴人らの請求を認容した。そこで,これに不服の控訴人が本件控訴を提起した。 ,。 当審における主たる争点は上記黙示の許諾と権利失効の抗弁の有無である- 3 -第3当事者の主張当事者双方の主張は,次のとおり付加・訂正するほか,原判決「事実及び理由」中の「第2事案の概要等「4争点に関する当事者の主張」記載のと」,おりであるから,これを引用する。 控訴人(1)ア控訴人は,兼松通商株式会社を筆頭とする兼松通商グループに属する会社であり,控訴人の代表取締役であるA(通称「A。以下「A」という。)」は,数年前まで,兼松通商グループの全ての会社の代表取締役を務めていた。 (「」兼松通商グループに属するワダカン食品工業株式会社以下ワダカンという)は,昭和63年6月4日,三菱グループの一員である三菱重工。 業株式会社(以下「三菱重工業」という)に対し,青森県十和田市近郊。 に建設を計画していた醤油製造工場の新設工事を発注した(以下「新設工事契約」という。 。) 三菱グループの一員である三菱重工。 業株式会社(以下「三菱重工業」という)に対し,青森県十和田市近郊。 に建設を計画していた醤油製造工場の新設工事を発注した(以下「新設工事契約」という。 。)当時,ワダカンの代表取締役でもあったAは,新設工事契約の成立の前から,多数の三菱重工業関係者との契約交渉に関わっており,これらの関係者と初めて面談した際に,裏面に被告商号を含む兼松通商グループ会社の社名一覧が記載された名刺(乙2参照)を渡して,控訴人の説明を行っていた。また,Aは,三菱重工業関係者に対してワダカンの会社概要を説,(),,明する際同社の会社案内乙1参照を配布したがその会社案内にも,,被告商号を含む兼松通商グループ会社の社名一覧が記載されておりAはその会社案内を使って控訴人会社の説明も行っていた。さらに,三菱重工業は,ワダカンから新設工事契約を受注できたお礼として,Aを三菱重工業の本社や東京都港区高輪にある三菱グループの迎賓館に招待したが,そのときも,Aは,三菱重工業の役員等関係者に上記名刺(乙2参照)を渡して,控訴人会社の説明を行っていた。 - 4 -したがって,三菱重工業は,遅くとも上記新設工事を受注した昭和63年には,控訴人の存在及び被告商号の使用について認識していた。 イ三菱重工業と同じ三菱グループの一員である被控訴人らも,三菱金曜会や三菱社名商標委員会等におけるグループ内の情報交換によって,三菱重工業とほぼ同時期に,控訴人の存在及び被告商号の使用を認識していたものというべきである。 控訴人は,昭和43年5月23日の設立から今日まで,長年にわたって被告商号を継続的に使用してきたが,被控訴人らは,遅くとも昭和63年には控訴人の存在及び被告商号の使用を認識していながら,平成20年12月に内容証明郵便 5月23日の設立から今日まで,長年にわたって被告商号を継続的に使用してきたが,被控訴人らは,遅くとも昭和63年には控訴人の存在及び被告商号の使用を認識していながら,平成20年12月に内容証明郵便(甲14の1)を発送するまで,控訴人に対して一度も異議を述べず,差止請求権等も行使しなかった。 したがって,被控訴人らは,控訴人による被告商号の使用につき黙示的に許諾していたものというべきであり,控訴人の被告商号の使用には違法性がない。また,権利失効の原則により,被控訴人らの不正競争防止法3条に基づく差止請求は認められない。 (2)原判決は,ワダカンの会社案内(乙1)及びAの名刺(乙2,3)に記載されている兼松通商グループに属する会社のうち,東京樹脂加工株式会社は平成2年9月12日に,キッコーカン醤油株式会社は平成2年10月30日に設立された会社であり,両社は昭和63年の新設工事契約の際には存在しなかったものであるとして,新設工事契約の際にこれらを三菱重工業の関係者に渡したとする控訴人の主張を認めることはできないなどと判断する。 しかし,ワダカンの会社案内及びAの名刺は,当然に新設工事契約の際にも存在していたのであり,ただ当時のものが現存していないため,現存する最も古いワダカンの会社案内及びAの名刺を書証として提出したにすぎない。 ,,そもそも控訴人は昭和43年5月23日に設立されているのであるから- 5 -昭和63年当時のワダカンの会社案内及び訴外Aの名刺に控訴人に関する記載があることは,乙1ないし3の会社案内及び名刺の記載形式から容易に推認できる。 そして,醤油工場新設という大規模な契約を締結するに当たり,その交渉過程においてワダカンの代表取締役でもあったAが自己の名刺やワダカンの会社案内を三菱重工業の関係者に渡すのは至極当然のこと できる。 そして,醤油工場新設という大規模な契約を締結するに当たり,その交渉過程においてワダカンの代表取締役でもあったAが自己の名刺やワダカンの会社案内を三菱重工業の関係者に渡すのは至極当然のことである。 さらに,被控訴人らは,平成21年7月10日の原審第1回弁論準備手続期日において,新設工事契約の締結過程における三菱重工業の関係者の認識について次回期日までに調査する旨説明していたものの,結局,一度も調査結果を説明することなく今日に至っており,被控訴人らも控訴人の上記主張を積極的に否定できるような調査ができなかったことを暗に認めている。 したがって,新設工事契約の締結の過程で,三菱重工業の関係者が控訴人会社の存在及び被告商号を知るに至ったのはむしろ自然かつ合理的である。 (3)商標権侵害関係原判決は,商標権侵害に関する争点については何ら理由を示さないまま控訴人の抗弁を排斥して,被控訴人三菱商事の請求を認めており,理由不備の大きな誤りがある。 被控訴人ら(1)控訴人は,原審において「名刺(乙2)を渡して」などと主張していた,のであり,上記控訴人の主張(2)は一貫性を欠く後付けの詭弁である。 ,(),(2)また平成2年10月30日以降に作成された名刺乙2の記載から昭和63年当時,同様に被告商号が記載された名刺が当然に存在したとはいえない。 (3)なお,被控訴人らは,平成21年7月10日の原審第1回弁論準備手続期日において,三菱重工業の関係者の認識について,必要性があれば調査を検討するという趣旨を述べたにすぎず,その後の審理の経過等に照らして調- 6 -査の必要性がないと判断したにすぎないものである。 第4当裁判所の判断当裁判所も,被控訴人らの不正競争防止法2条1項2号(著名表示の使用)・3条(差止請求権)に基 の経過等に照らして調- 6 -査の必要性がないと判断したにすぎないものである。 第4当裁判所の判断当裁判所も,被控訴人らの不正競争防止法2条1項2号(著名表示の使用)・3条(差止請求権)に基づく本訴請求は認容すべきものと判断する。その理由は,以下に付加するほかは,原判決のとおりであるから,これを引用する。 ,,「」「」,「」「」なお原判決の引用部分は原告を被控訴人に被告を控訴人に,それぞれ読み替える。 被告商号の使用に対する黙示の許諾の有無及び権利失効の抗弁について控訴人は,昭和63年の新設工事契約の際に,あるいは当該契約に関して三菱重工業の本社等に招待された際に,被告商号の記載されたワダカンの会社案内やAの名刺を三菱重工業の関係者に渡して控訴人に関する説明を行ったことを根拠に,三菱重工業及び被控訴人らが,遅くとも昭和63年には控訴人の存在及び被告商号の使用を認識していた旨主張する。 しかし,証拠(甲16,17,乙1ないし3)によれば,ワダカンの会社案()(,),,内乙1及びAの名刺乙2 には被告商号が記載されているものの他方で,平成2年9月12日に設立された東京樹脂加工株式会社や平成2年10月30日に設立されたキッコーカン醬油株式会社の社名も記載されており,これらの会社案内等は平成2年10月30日以降に作成されたものと認められる。ところで,平成2年10月30日以降に被告商号が記載された会社案内や名刺が存在するからといって,当然にそれ以前にも同様の会社案内等が存在するとは限らず,被告商号が記載されているとも限らない。したがって,これらの事実から直ちに,昭和63年の新設工事契約の時点やその後の招待等の際にも被告商号が記載されたワダカンの会社案内やAの名刺が存在していた事実 ,被告商号が記載されているとも限らない。したがって,これらの事実から直ちに,昭和63年の新設工事契約の時点やその後の招待等の際にも被告商号が記載されたワダカンの会社案内やAの名刺が存在していた事実を推認することはできず,控訴人の上記主張は採用することができない。 また,仮に,昭和63年の時点でそのような会社案内等が存在し,これを三菱重工業の関係者に交付した事実があったとしても,そのような事実のみによ- 7 -って,Aが契約当事者ではない控訴人に関する説明をしたという事実を推認することもできない。 さらにいうならば,仮にそのような説明をした事実が認められるとしても,三菱グループ内部でそのような情報についてまで当然に情報交換されていたという事実を認めるに足りる証拠はなく,説明を受けた三菱重工業の関係者が,控訴人に関する情報を被控訴人らに伝達した事実を推認することもできない。 なお,控訴人は,被控訴人らが新設工事契約当時における三菱重工業の関係者の認識を明らかにしていない旨主張している。しかしながら,グループ企業とはいえ,他社である三菱重工業の関係者の,しかも20年以上前の事実に関する認識が明らかにならないとしても不自然とはいえず,この点により上記判断が左右されるものではない。 したがって,被控訴人らが遅くとも昭和63年には控訴人の存在及び被告商号の使用を認識していたことを前提とする控訴人の主張は,これを認めることはできない。 商標権侵害関係について控訴人は,原判決が商標権侵害に関する争点について理由を示さないまま控訴人の抗弁を排斥して,被控訴人三菱商事の請求を認めた旨主張している。 しかし,本件請求は,被控訴人三菱商事に関しては,不正競争防止法に基づく請求と商標法に基づく請求との選択的併合であるから,いずれか一方を認容する場合には他方 人三菱商事の請求を認めた旨主張している。 しかし,本件請求は,被控訴人三菱商事に関しては,不正競争防止法に基づく請求と商標法に基づく請求との選択的併合であるから,いずれか一方を認容する場合には他方について判断する必要はなく,控訴人の上記主張は失当といわざるを得ない。 なお,被控訴人らは,平成22年5月12日の当審第1回口頭弁論期日において,控訴人が乙12,13を提出したのに対し,時機に後れた攻撃防御方法であると主張し,却下を求めたが,乙12は控訴人の臨時株主総会議事録,乙13は控訴人の請求書・領収書綴りであって,いずれも控訴人の活動実態等を立証趣旨とするものである。これにつき被控訴人らは,上記口頭弁論期日に陳- 8 -述された被控訴人ら第1準備書面において,これらの証拠について既に反論を行っているから,乙12,13の提出により本件訴訟の完結を遅延させるものとはいえず,被控訴人らの上記主張は採用することができない。 結論 以上によれば,当審においてなした控訴人の主張は全て失当であり,被控訴人らの本訴請求はいずれも正当として認容すべきである。よって,これと結論を同じくする原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官中野哲弘裁判官清水節裁判官古谷健二郎
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