平成12(わ)736 現住建造物等放火,殺人,殺人未遂被告

裁判年月日・裁判所
平成14年3月4日 水戸地方裁判所
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判決文本文22,942 文字)

主文 被告人を死刑に処する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,昭和22年,岩手県岩手郡a村で出生し,地元の小中学校を経て,盛岡市内の工業高校を卒業後,神奈川県内で約3年間会社勤めをしたが,実兄が茨城県日立市内に自宅を新築したのをきっかけにそこを退職し,同市に移り住み,実母及び兄弟と同居するようになった。被告人は,手に職をつけて独立しようと考え,同市内の職業訓練所で約1年間自動車塗装等の職業訓練を受けた後,多様な経験を積むため,同市内や横浜市内,東京都内の自動車板金塗装工場等で約6年間稼働した後,昭和51年12月ころ,肩書住居地に工場と家を建てて,「甲板金塗装」の屋号で自動車板金塗装業を営むようになり,まじめに稼働していた。 ところで,被告人と同じ町内に住む漁師のAは,被告人に自動車の塗装修理を頼んだ際の印象やその仕事振りから,被告人がまじめで礼儀正しい人間であると感じ,昭和52年秋ころ,同人の妻Bの姪の乙子との縁談を持ちかけたところ,被告人は,これに応じて見合いをし,その後も数回会うなどするうち,自己が適齢期にあったことやお互いに好印象を持ったことから,同年11月,A夫婦の仲人で結婚式を挙げ,同年12月に乙子と婚姻した。 一方,A夫婦や乙子,その母の己らは宗教団体である丙会の会員としてその教義を信じ,これにのっとった生活をしていたところ,乙子は,結婚後もその信仰を続けてゆきたいと考えていたものの,被告人が丙会員ではないことがその妨げになるのではないかと危ぐしていたことから,そのことを聞かれたAは,被告人らが新婚旅行から戻った直後から,数日おきに被告人方を訪れては,被告人に丙会の教義を説き聞かせるなどして丙会員になるよう誘い始 なるのではないかと危ぐしていたことから,そのことを聞かれたAは,被告人らが新婚旅行から戻った直後から,数日おきに被告人方を訪れては,被告人に丙会の教義を説き聞かせるなどして丙会員になるよう誘い始めた。ところが,被告人は,勧誘を受けても丙会員になろうとしなかった亡父の影響や,入会すれば病気が治る,金が貯まるなどといった勧誘の言葉に対する反発から丙会を快く思っていなかったため,Aから繰り返し勧誘を受けることを苦痛に感じ,次第に,仕事があるなどとして話を切り上げ,丙会員になろうとはしなかったため,Aも無理強いはせず,昭和53年夏ころには,Aが被告人方を訪ねて丙会の話をすることはなくなった。このようなこともあって,被告人は,乙子も丙会員であることを知り,良い気持ちはしなかったものの,いったん結婚した以上,乙子の信仰も尊重しようと考え,同女が丙会員でいることを了承した。 ところが,乙子は,結婚して約1年たったころ,被告人が自宅の柱に貼った神社の御札が剥がれているのを認め,丙会以外の宗教は邪教であるとの考えから,これを無断で捨てたところ,これに立腹した被告人が同女を怒鳴りつけたことがあり,また,昭和54年ころ,乙子とAが,被告人が使っている洋服だんすに丙会の信仰に用いる曼陀羅を安置したい旨言ってきたことから,被告人が,「なんでおれの洋服だんすを仏壇にしなければならないんだ。」などと激怒し,同女らにこれを断念させたことがあり,さらに,乙子が長女を妊娠した際,被告人の実母が成田山でもらってきてくれた安産祈願の御札を,乙子が前同様の考えから捨ててしまったため,被告人が憤慨し,「もしお前が丙会を続けるというのなら,子供を堕ろして出て行ってくれ。」などと迫ったことから,乙子は,以後丙会の信仰はしないと約束したが,被告人は,乙子に対する不信感を払拭できな め,被告人が憤慨し,「もしお前が丙会を続けるというのなら,子供を堕ろして出て行ってくれ。」などと迫ったことから,乙子は,以後丙会の信仰はしないと約束したが,被告人は,乙子に対する不信感を払拭できないでいた。そして,昭和56年ころ,丙会の方式で行われた親戚の葬儀に出席した際,被告人は,己が長女を膝に乗せて丙会の題目を唱えるのを見て,己らが長女を丙会に入会させようとしているものと思い込み,乙子に言わせてこれをやめさせたことがあった。このような乙子ら丙会員との関わりの中で,被告人は,丙会に対する反感を強めるとともに,丙会では題目を唱えるよりも折伏して会員を増やすことが大事であるとしていることから,丙会員の勧誘は執ようであるとの考えを深め,子供らが無理やり丙会員にされないよう非常に警戒するようになり,そのころ,A家が日立市b町c丁目に引っ越しをした際には手伝いに行くなどしたものの,翌年に長男が生まれた後は,丙会員である乙子の親族らが子供らを丙会に引き込もうとしていると考え,親戚付き合いもあまりしなくなっていった。 昭和58年ころ,被告人は,乙子に性交を拒まれたことや,同女がカンジタ膣炎に罹患したことなどから,同女が浮気をして性病を移されたものと思い込んでその旨問いただし,これを強く否定されても聞き入れなかったことから,夫婦仲は次第に悪化していった。その後の昭和61年ころ,被告人が己の悪口を言ったため,乙子が被告人に殴りかかろうとし,これに対して被告人が乙子の顔面を平手で殴打したことなどから,乙子が子供らを連れて実家に帰ったことがあり,昭和62年に入って,被告人が謝罪して再び同居するようになったものの,そのころから数年間,夫婦間での性交渉はなくなり,被告人は,乙子と離婚するしかないと考えるようになったが,子供のためを思い,長男が18歳になるま って,被告人が謝罪して再び同居するようになったものの,そのころから数年間,夫婦間での性交渉はなくなり,被告人は,乙子と離婚するしかないと考えるようになったが,子供のためを思い,長男が18歳になるまでは離婚せずに乙子らとの生活を続けることにした。 平成7年に,被告人は,背中の痛み等のために入院したことを機に板金の仕事を辞め,数か月間千葉県内の不動産会社で営業員をした後,警備会社で稼働していたが,同年秋ころ,知人から,乙子が,同女の勤務先のゴルフ場関係者を駅まで送ったと聞き,乙子がそのゴルフ場関係者と浮気をしているなどとして同女を責めるようになり,平成8年秋ころからは,乙子に対し,その頭髪を引っ張り回したり,平手で顔を殴打したり,足をけったりするなどの暴力を振るうようになった。平成9年3月に,被告人が,浮気していることを白状させようとして乙子に対し,その頭部を多数回殴打するなどしたことから,これに耐えかねた同女が子供らを連れて被告人方を出て,茨城県日立市内のアパートで暮らすようになったが,同年5月ころには,被告人が,窓ガラスを割るなどして同女方に入り込み,乙子に暴力を振るうなどしたため,被告人の実母らを交えて相談した結果,子供らは乙子が引き取って被告人と乙子は離婚することとなり,不本意ながら,被告人は,同年9月,調停により離婚した。 被告人は,離婚後,生活に張りがなくなり,警備会社の仕事を辞め,数百万円もあった預貯金を取り崩しながら,昼過ぎに起きてテレビを見たり,社交ダンスをしたり,深夜にドライブをしたりするなどして無為に過ごすようになった。他方で,被告人は,子供らの様子が気になって,深夜,同人らが住むアパートのそばまで行き,子供らの様子をうかがうなどし,平成10年8月ころには,乙子に,長男の勉強を見てやろうなどと話したが,にべもなく 方で,被告人は,子供らの様子が気になって,深夜,同人らが住むアパートのそばまで行き,子供らの様子をうかがうなどし,平成10年8月ころには,乙子に,長男の勉強を見てやろうなどと話したが,にべもなく断られたため,A方に行き,Aからも乙子に口添えをしてくれるよう頼んだが,Aにもこれを断られ,さらに,借金を申し込んでも,「お墓を買ったばかりで金がない。」などと言われて断られた。そのころから,被告人は,不本意な離婚をした挙げ句,愛する子供とも別れなければならなくなったのは,丙会員であった乙子と結婚したためであり,事前に同女が丙会員である事実を告げないまま,これを隠して同女と結婚させ,被告人を丙会員にさせようとしたとして,A夫婦にだまされたと感じ,自分の結婚生活の失敗は,元をただせばA夫婦が原因であると考えるようになり,さらには,さしたる根拠もないのに,自らが丙会から監視されているように感じたり,被告人がプールの駐車場で他人とトラブルになったこと,警備会社の食堂で食事をした際に腹痛になったことや電話に雑音が入ることなどは,すべて丙会の嫌がらせであると確信したりするようになった。 平成10年11月ころ,被告人は,ヒッチハイクで茨城県下館方面に行った際,自動車を盗んで逮捕され,平成11年1月,窃盗罪により懲役10月,3年間執行猶予の判決を受けたが,その後も前記のとおりの無為な生活を続け,平成12年2月ころには預貯金の残高も少なくなった上,それまでの自分の人生を振り返って自棄な気持ちが高じ,自殺を考えるようになった。そこで,被告人は,自分が死んだ後の子供たちの生活のことを考え,同月9日付けで,子供らあてに,財産の処分や学費の手当て等のほかに,「丙会をやらないで俺が死ぬのもその為なのだから元気で生きて行ってください。」などという記載のある遺書を作成 ちの生活のことを考え,同月9日付けで,子供らあてに,財産の処分や学費の手当て等のほかに,「丙会をやらないで俺が死ぬのもその為なのだから元気で生きて行ってください。」などという記載のある遺書を作成した。このように,自殺について思いめぐらすうち,被告人は,乙子やA夫婦を始めとする乙子の親族に人生をめちゃくちゃにされたのに,自分一人が自殺するのでは悔しいと考え,自殺するにしても同人らに一矢報いたいと考えるようになり,当初は乙子を道連れにしようと考えたが,子供たちから母親を奪うのは哀れであるとして,更に考えをめぐらすうち,乙子よりも同女を操っている丙会や,被告人をだまして乙子と結婚させ,丙会に引き入れようとしたA夫婦が諸悪の根元であるから,自殺の道連れとして同夫婦を殺害しようと考えるようになり,同人方にガソリンを撒いて火をつけて,A夫婦のみならずその娘夫婦や孫らをも道連れにして自分が焼死してしまえば,騒ぎが大きくなって,世間に丙会やA夫婦らが自分に対してどれだけひどい仕打ちをしてきたかがよく分かってもらえるなどと考えるようになった。 平成12年2月29日深夜,被告人は,乙子方の様子を見に行った帰りに,大型トラックにパッシングをされたり,クラクションを鳴らされたことから,これも丙会による嫌がらせであると考え,それまでの丙会に対する反感が高じるとともに,自暴自棄な気持ちから,もう死んでもいいと思い,自殺を決意するとともに,その道連れにA夫婦らを殺害して一矢報いようと決意した。帰宅後,被告人は,母親らにあて,迷惑をかけることを詫びる書き置きをし,乙子あてに,「恨みがどんな物か教えてやる特に逆恨みを見ろ丁と戊は丙会にするなよ,だからお前も丙会はできないと言うことだ」とのメモを書いた。 その後,被告人は,補助燃料やごみを燃やす際の着火燃料にするため に,「恨みがどんな物か教えてやる特に逆恨みを見ろ丁と戊は丙会にするなよ,だからお前も丙会はできないと言うことだ」とのメモを書いた。 その後,被告人は,補助燃料やごみを燃やす際の着火燃料にするためのガソリンをペットボトルに入れて車庫内の流しの下に入れてあったことから,そのペットボトルのうち,500ミリリットル入りのもの4本を赤色ショルダーバッグに入れ,1500ミリリットル入りのもの6本を二重に重ねたビニール袋に入れると,下着をはき替え,これを他の汚れた下着とともに買い物袋に入れ,着火に用いるためのライターを10個用意し,乙子あてのメモをシャツの胸ポケットに入れた。被告人は,前記バッグを首にかけ,前記ビニール袋等を持って車庫に行くと,これらを自動車に載せ,A方に入る際に使用するため,バール2本を持ち出して自動車に積み込んだ上,同年3月1日午前3時15分ころ,被告人方を出て,e川にかかる橋上から前記下着を投棄した後,乙子方に立ち寄って郵便受けに前記メモを差し込むと,A方に向かった。そのころ,A方においては,西側寝室においてBとその孫のEが,東側寝室においてA夫婦の養子のC,同夫婦の一人娘でCの妻のD,同夫婦の孫のFがそれぞれ就寝していたが,Aは出漁中で不在であった。 同日午前3時30分ころ,被告人は,A方付近路上で自動車を降りると,前記バッグを首にかけて袈裟がけにし,前記ビニール袋とバール2本を持ち,A方敷地北側の出入口を経て勝手口に至り,バール2本を使って勝手戸をこじ開けると,前記ビニール袋に入れたガソリン入りのペットボトル6本を勝手場に置き,そのうちの1本を取り出し,前記バッグを首にかけた状態で,A夫婦の寝室を探し,西側寝室に向かった。 被告人が西側寝室の戸を開けると,頭を南側に向けて布団が2組敷かれていたので,A夫婦が寝ているも そのうちの1本を取り出し,前記バッグを首にかけた状態で,A夫婦の寝室を探し,西側寝室に向かった。 被告人が西側寝室の戸を開けると,頭を南側に向けて布団が2組敷かれていたので,A夫婦が寝ているものと思い,これらの布団にガソリンをかけて火を放ち,一家全員を皆殺しにするとともに同人方を焼損しようと決意した。 (罪となるべき事実)被告人は,前記経緯から,茨城県日立市b町c丁目f番g号所在のA方居宅(木造瓦葺平家建・床面積約163.68平方メートル)に放火して現在するその家族全員を殺害しようと企て,平成12年3月1日午前3時30分ころ,B(当時71歳),C(当時45歳),D(当時40歳),E(当時13歳)及びF(当時11歳)が現在する前記居宅の西側寝室において,殺意をもって,就寝中のB及びEが使用している掛け布団にそれぞれガソリンを撒いた上,所携のライターでその掛け布団2枚に点火し,前記居宅仏間において,畳にガソリンを撒いて前記ライターで点火するなどして火を放ち,次いで,前記居宅の西側寝室において,起き出してきたBの背後から,その着衣にガソリンを浴びせかけて同室内で炎上中の火を燃え移らせ,前記居宅の居間において,起き出してきたCの背後から,その着衣にガソリンを浴びせかけて同室内で炎上中の火を燃え移らせ,さらに,前記居宅中央勝手場において,鉢合わせしたDの正面からその着衣にガソリンを浴びせかけて同室内で炎上中の火を燃え移らせ,よって,そのころ,Aほか5名が現に住居に使用し,かつ,Bほか4名が現在する前記居宅を全焼させて焼損するとともに,同年4月3日午後5時8分ころ,同市h町i丁目j番k号所在の株式会社△△総合病院において,Bを全身熱傷による多臓器不全により死亡させて殺害したが,Cに全治不明の顔面・背部・両上肢・足部熱傷の,Dに加療約6か月間 午後5時8分ころ,同市h町i丁目j番k号所在の株式会社△△総合病院において,Bを全身熱傷による多臓器不全により死亡させて殺害したが,Cに全治不明の顔面・背部・両上肢・足部熱傷の,Dに加療約6か月間を要する顔面・左上肢・左胸部熱傷の,Eに加療約6か月間を要する顔面・両手熱傷の傷害をそれぞれ負わせたにとどまり,また,Fは戸外へ逃れたため,同人ら4名を殺害する目的を遂げなかったものである。 (証拠の標目) <省略>なお,被告人は,公判廷において,Bら5名を殺すつもりはなかったし,Bは,被告人の行為によって死亡したのではなく,丙会の指示を受けた医師に殺害されたなどと供述して,犯行の一部を否認しているが,関係各証拠によって認められる事実,すなわち,前判示の犯行に至る経緯のとおり自殺の道連れにA夫婦を家族もろとも殺害しようなどと考えたという本件犯行の動機,合計で約11リットルものガソリンと10個ものライターを準備・携行した上,午前3時30分ころという深夜,一見して木造と分かるA方居宅で,就寝中のE及びBが使用する布団にガソリンを撒き,ライターで点火して火を放つとともに,火災に気付いて起き出したBらの身体に向けてガソリンをかけるという実行行為の態様及び被告人が,板金工の経験から,爆発的に燃焼するというガソリンの性質を知悉していたことからすれば,被告人にBら5名に対する確定的殺意があったことは明らかであるばかりか,医師G作成の意見書(甲16),同人の司法警察員に対する供述調書(甲115),司法警察員作成の解剖立会報告書(甲17)等の関係各証拠によれば,Bが,被告人の判示行為によって全身熱傷等の傷害を負い,これによる多臓器不全によって死亡したことも明らかである。被告人の主張は,それ自体荒唐無稽で,何ら合理的根拠のないもので,およそ採用の限りではない ,被告人の判示行為によって全身熱傷等の傷害を負い,これによる多臓器不全によって死亡したことも明らかである。被告人の主張は,それ自体荒唐無稽で,何ら合理的根拠のないもので,およそ採用の限りではない。 (法令の適用) 1 罰条現住建造物等放火の点刑法108条殺人の点刑法199条C,D,E及びFに対する各殺人未遂の点いずれも刑法203条,199条 2 観念的競合刑法54条1項前段,10条(犯情の最も重い殺人罪の刑で処断) 3 刑種の選択死刑 4 訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(弁護人の主張に対する判断) 1 弁護人は,本件犯行当時,被告人は,妄想性障害(いわゆるパラノイア)に罹患しており,事理を弁識する能力に欠けるところはなかったものの,乙子の浮気や丙会の嫌がらせ等の妄想を抱いていたため,その弁識に従って行為する能力が著しく減退していたから,心神耗弱の状態にあった旨主張するので,この点について検討する。 2 関係各証拠によれば,本件犯行前後における被告人の精神状態,被告人の言動等に関し,前記「犯行に至る経緯」及び「罪となるべき事実」のほか,以下の事実が認められる。 被告人は,犯行後,A方において,ペットボトルのガソリンを自らの頭にかぶり,焼身自殺をしようとしたが,あまりの熱さに耐えきれず,戸外に駆け出し,もう一度屋内に入ろうとしたが,熱さのため中に入ることができず,そのまま,髪や服がくすぶった状態で,呆然とA方勝手口付近に立ちつくしていたところ,近所に住むHやIがこれを認め,被告人を道路脇まで連れて行き,「こんなことやったら死刑だぞ。」な 入ることができず,そのまま,髪や服がくすぶった状態で,呆然とA方勝手口付近に立ちつくしていたところ,近所に住むHやIがこれを認め,被告人を道路脇まで連れて行き,「こんなことやったら死刑だぞ。」などと問い詰めたところ,被告人は,「分かってる。死刑覚悟でやったんだ。恨みがあるからやったんだ。」などと言い,その後,救急車が到着してBがこれに乗り込もうとして被告人のそばを通ろうとした際,同人に襲いかかろうとしてIらに取り押さえられた。 なお,本件犯行後,精神鑑定の際に実施された各種検査の結果,被告人の脳波は正常範囲内で,粗大な脳器質性障害は見られず,被告人の全検査知能指数は126であり,その知能水準は「すぐれている」に分類されることが判明した。 3 次に,被告人が受けていたとする丙会からの嫌がらせについて,被告人は,捜査段階において,板金工場から何度もスプレーガンがなくなったこと,空気を送り込む塗装用ブースを作った際,逆に送風装置からワックスの粉が降ってきてうまく塗装ができなかったこと,町内の旅行会で幹事をしていた際,参加しなかった人に積立金を返金したのに,受け取っていないと言われて騒ぎになったため,自腹を切って支払わざるを得なくなったこと,本件直前,A方付近で,深夜,自動車が壊されたことがあったが,その犯人が被告人であると疑われたことを挙げ,さらに,公判廷においては,結婚して半年か1年くらいしたころ,防錆管理士や危険物取扱資格の証書がなくなっていたこと,車を乗り替えるとすぐにラジオが壊れてしまうこと,板金作業用のつなぎのポケットの同じ場所に度々穴が空いたこと,プールの駐車場で駐車をめぐって他人とトラブルになったこと,友人との電話が盗聴されていてしばしば雑音が入ったこと,警備会社の食堂で食事をすると腹痛が起きたこと,夜間,治療中の歯が痛ん が空いたこと,プールの駐車場で駐車をめぐって他人とトラブルになったこと,友人との電話が盗聴されていてしばしば雑音が入ったこと,警備会社の食堂で食事をすると腹痛が起きたこと,夜間,治療中の歯が痛んだこと,丙会員に終始監視されていたことなどを挙げる。 しかしながら,以上の事象に丙会が関与していたことをうかがわせるに足りる証拠は全く見当たらない上,被告人が指摘する事象の多くは,被告人自身のミスであったり,日常生活上,頻繁に起こり得るものであることからすると,以上の事象に丙会が関与していたとの事実は認められず,いずれも被告人の思い込みにすぎないものといえる。なお,被告人自身も,これらの点につき,丙会の嫌がらせであると認めるだけの証拠はなかった旨繰り返し述べていることからすると,被告人は自らの主張の根拠が薄弱であることを自覚しながらも,自らの考えに固執しているものと認められる。 4 以上の事実を前提に,本件犯行当時の被告人の精神状態について,以下,検討する。 まず,被告人は,本件犯行に至る経緯,動機,犯行態様,犯行後の行動等について,おおむね前判示のとおりの内容を詳細かつ具体的に述べており,犯行前後の意識も清明で,記憶もよく保たれていると認められる上,その内容は他の客観的な証拠によって裏付けられている。また,前記3記載の被告人主張の各事実については,それらが丙会の嫌がらせであるとする点は別として,スプレーガンがなくなったことやプールの駐車場で駐車をめぐり他人とトラブルになったこと等の事実自体は,客観的な裏付けはないものの,被告人の供述内容が具体的かつ自然であり,その存在を疑わせるに足りる事情もないから,被告人が現実に体験,認識したものと認められるとともに,本件犯行当時,被告人が幻覚,幻聴を覚えていなかったことが認められる。 また,被告 かつ自然であり,その存在を疑わせるに足りる事情もないから,被告人が現実に体験,認識したものと認められるとともに,本件犯行当時,被告人が幻覚,幻聴を覚えていなかったことが認められる。 また,被告人は,本件犯行が及ぼす社会的影響までをも考慮して被害者を選択し,放火という犯行態様を決め,周到な準備をしていること,犯行の約1か月前には子供らの将来に対する配慮から,周到な内容の遺書を作成し,犯行当日にも,実母らに迷惑をかけることを考えて書き置きを残したり,自宅に汚れた下着を残すのをはばかってこれを投棄したりするなど,本件犯行当時も合理的な思考,活動をしていたことからすれば,本件犯行当時,被告人の人格に特段の破綻はなかったと認められる。 次に,被告人は,前記3記載のとおり,丙会から監視されるなど種々の嫌がらせを受けていた旨供述している上,A夫婦は,被告人を丙会に引き込む目的で,乙子が丙会員であることを隠したまま,被告人に結婚を勧めたのであり,その後,被告人が度重なる勧誘にもかかわらず丙会員にならなかったことから,乙子が浮気をしたり,被告人の子供らを丙会に引き込もうとしているなどと考えるに至っているのであるが,被告人がこのような被害妄想ともいうべき考えに至った背景には,実父の影響もあって元来丙会に対して反感を抱いていたこと,結婚するまで乙子が丙会員であることを知らされていなかったこと,結婚生活が始まると,Aが数日おきに被告人方を訪ねては丙会の教義を説くなどして入信を勧誘したこと,乙子が安産祈願の御札を被告人に無断で捨ててしまったこと等の事情が認められ,一応,現実的な裏付けがあるというべきである。また,被告人は,昭和58年ころから乙子が浮気してると確信しており,いわゆる嫉妬妄想を抱いていたと認められるが,これについても,同女がカンジタ膣炎に罹患 一応,現実的な裏付けがあるというべきである。また,被告人は,昭和58年ころから乙子が浮気してると確信しており,いわゆる嫉妬妄想を抱いていたと認められるが,これについても,同女がカンジタ膣炎に罹患したことを契機にそのような妄想を抱くようになったという点で一応現実面において裏付けがあったというべきである。他方で,被告人の人格,思考が前記の被害妄想や嫉妬妄想に支配されていたとすれば,被告人としては,自己の信条を曲げてでも丙会に入会することも,あるいは逆に,早々に乙子と離婚して丙会員である同女やその親族と縁を切ることも十分可能であったと考えられるが,被告人は,丙会へ入会することもなく,また,長男が18歳になるまでは離婚しないとの考えから,子供のためを思って平成9年9月まで乙子との結婚生活を継続していたとの事実が認められることに加え,嫉妬妄想を抱くようになった後も,平成8年ころまでは,この妄想に基づいて乙子に暴力を振るうといったこともなかった上,離婚後の平成10年8月ころ,A方に行き,Aに,長男の勉強を見てやりたいのに乙子に断られたとして,乙子へとりなしをしてくれるよう頼み,さらに,借金を申し込むなど,自ら,反感を抱いているはずのAと話をしていることからすると,被告人が,些細な事象を取り上げて,これが丙会による嫌がらせであるなどと考えたことは,訂正不能な誤った観念という意味では一応妄想というべきものであるが,その妄想によって被告人の思考や行動が支配されていたとは認められないから,本件犯行当時,被告人には,その人格を支配するほど強度な妄想はなかったというべきである。 このことに加え,被告人の元来の人格,特に,まじめで,物事を機械的に考え,自らの考えに固執しがちな被告人の性格や信条からすれば,被告人自身がかねてから丙会に対して強い不快感や敵意を うべきである。 このことに加え,被告人の元来の人格,特に,まじめで,物事を機械的に考え,自らの考えに固執しがちな被告人の性格や信条からすれば,被告人自身がかねてから丙会に対して強い不快感や敵意を抱いていたことの投影として,丙会からの敵意を感じ,嫌がらせを受けていると感じるようになることや,本件犯行は恨みに基づく犯行であると被告人なりに正当化しようとして,被告人に不都合なことをことごとく丙会の嫌がらせであると主張するに至ることも,十分理解できるところである。 そうすると,被告人が,本件犯行に及んだのは,被害者らが被告人に嫌がらせ等を行っているという妄想に支配されたことが原因であるとは認められない。 5 この点,医師Jの鑑定書(甲139)及び第11回公判調書中の同証人の供述部分によれば,同医師は,本件犯行当時の被告人の精神状態について,「従来診断では,粘着-爆発性精神病質者であり,パラノイアである。その障害の程度であるが,被告人は,父の影響もあり,小学校低学年から丙会に対して嫌悪感を有しており,被告人に言わせれば,丙会員にだまされて,その親戚に当たる丙会員の女性と結婚することになったのである。元妻に対する嫉妬妄想は,子供のために離婚したくなかったのに,妄想に基づく元妻への暴力から離婚することになったことからすると,被告人の生活を相当に支配しているのであり,中程度の重さにあったと考えられる。一方,丙会に対する被害妄想は,被告人の元来の性格(物事を機械的に見る傾向,被害感情を持続する傾向)と現実の状況(丙会員により元妻の信仰を隠されて紹介され結婚したこと,自分の信条に反する信仰を勧められたこと)から了解される部分が多く,妄想ではあるが,強い感情を伴った観念(優格観念)あるいは妄想様観念レベルである。すなわち,丙会が嫌がらせ,追跡・監視をす したこと,自分の信条に反する信仰を勧められたこと)から了解される部分が多く,妄想ではあるが,強い感情を伴った観念(優格観念)あるいは妄想様観念レベルである。すなわち,丙会が嫌がらせ,追跡・監視をする組織であるという強い確信があるなら,自ら離婚して丙会員の多い親戚と縁を切ることもあったと思われるが,被告人は,子供のため,子供が18歳になるまでは我慢しようと考え,自らの個人的信条から,丙会との縁切りは先に延ばしていたのであるから,個人的信条を改変させ,生活を支配してしまうほどの強さをもった妄想があったとはいい難い。したがって,被告人の場合,丙会への被害妄想は,元来の信条・生活史から了解できる部分が多いし,本人の全生活を支配する程度にはなかったと考えられる。」とした上,鑑定主文として,「被告人は,妄想性人格障害並びに強迫性人格障害の傾向にあったが,36歳ころから,妄想性障害に陥っている。本件犯行は,元妻を対象としての嫉妬妄想と被告人本人が元々嫌悪する丙会を対象とする被害妄想を基盤にして,元来の性格と自暴自棄的感情及び報復感情の混合した状態でなされたものと考えられる。妄想といっても,元来の信条と現実状況から了解される部分が大きく,その程度は重症とまでは言えない。したがって,被告人は,犯行当時,事理を弁識し弁識に従って行為する能力を障害されていたが,その程度は著しいとまでは言えない。」としている。加えて,同医師は,被告人の被害妄想の程度について,「人格を持った人の経験を通して抱かれた考えと妄想を区別するのは困難であるが,全く了解し難いものを妄想とすると,被告人の場合はいささか了解し得る部分もある。被告人の本件犯行当時の行動を見ると,ある衝撃を受けて,即反応するのではなくて,行動にためがあり,遺書を書くなど様々な手続をしている。子供たちへ非常に と,被告人の場合はいささか了解し得る部分もある。被告人の本件犯行当時の行動を見ると,ある衝撃を受けて,即反応するのではなくて,行動にためがあり,遺書を書くなど様々な手続をしている。子供たちへ非常によく配慮しており,殺られるから殺っちゃうというのであれば,すぐ実行するであろうが,いったん段落をおいて,冷静にしていく部分があることからすると,妄想の影響は少ないと見ることができる。また,自分が被害を受けているという考えにありながらも,それによって他の生活ができなくなることはなく,社交ダンス等の別の活動はきちんとできている。」旨供述し,さらに,被告人が,公判段階に至って,確定的な殺意や被告人の行為とBの死亡との間の因果関係を否認するに至った点につき,「医師がBを殺害したと主張するという面で,妄想の程度は鑑定書を作成した平成12年9月当時よりも発展しているが,これは,自己防衛本能や拘禁反応によるものと考えることができ,それらは健常な人の心理機制に近いものがあり,妄想性障害によってそのような心理機制までは妨げられていないという意味で,障害の程度は軽いし,自己の社会的な立場や被告人個人の防御という面があり,自分が置かれている現実を認識できている。」旨供述している。 以上のとおり,同医師の各種所見は,本件犯行当時,被告人は,妄想性障害の状態にあったものの,事理を弁識する能力に欠けるところはなく,これに基づいて行動する能力が十分あったとするもので,当裁判所の前記判断と整合するものである。 6 以上によれば,被告人は,本件犯行当時,妄想性障害の病態にあったと認められるものの,本件犯行自体は,妄想を動機として決意されたものではなく,前記のとおり了解可能な動機,経緯から敢行されたものであり,本件犯行当時,被告人は,事理を弁識し,これに従って自己の行動を制 められるものの,本件犯行自体は,妄想を動機として決意されたものではなく,前記のとおり了解可能な動機,経緯から敢行されたものであり,本件犯行当時,被告人は,事理を弁識し,これに従って自己の行動を制御する能力に欠けるところはないことはもちろん,このような能力が著しく減退した状態にもなかったことが認められる。 したがって,弁護人の主張は理由がない。 (量刑の事情) 1 事案の概要本件は,元妻と離婚し,家庭が崩壊せざるを得なくなったのは,同女が丙会員であることを隠して見合いを勧め,仲人にもなったA夫婦の責任であるなどと考えた被告人が,同人方に放火して一家全員を殺害した上で自殺することを企て,深夜,同人方において,就寝中の被害者らの布団等にガソリンをかけるなどして火をつけ,さらに,被害者らにガソリンを浴びせかけるなどし,よって,同人方を全焼させるとともに,被害者Bを殺害したほか,他の被害者のうち3名に重篤な傷害を負わせたにとどまり,殺害に至らなかった現住建造物等放火,殺人,殺人未遂の事案である。 2 犯行の動機,経緯について被告人は,前判示の経緯から,離婚を余儀なくされ,子供らとも別居せざるを得なくなったこと等から自棄になり,生きる意欲を失って自殺をしようなどと考えるうち,このような惨めな境遇に至った原因は,A夫婦が,乙子が丙会員であることを被告人に告げないまま同女と結婚させたためであると考えるようになり,また,結婚後は,Aから丙会に入るよう執ような勧誘を受けて精神的に苦しめられたなどとして,A夫婦や丙会への不満を募らせ,さらに,被害妄想から丙会が被告人に対して嫌がらせを繰り返していると確信するようになった挙げ句,被告人をだまして乙子と結婚させ,熱心に被告人を丙会に勧誘してきたA夫婦が諸悪の根元であるなどの考えから,その恨みに基づ ら丙会が被告人に対して嫌がらせを繰り返していると確信するようになった挙げ句,被告人をだまして乙子と結婚させ,熱心に被告人を丙会に勧誘してきたA夫婦が諸悪の根元であるなどの考えから,その恨みに基づく仕返しとして,自殺の道連れにA夫婦を殺害しようと決意し,さらに,A夫婦の娘夫婦も丙会員に違いないし,孫らも巻き添えにしてもかまわないなどとして一家全員の殺害を企図したものであって,その動機,経緯に酌量の余地は全くない。被告人は,A方居宅にガソリンを撒いて火をつけて騒ぎを大きくし,その娘夫婦や孫らをも道連れにして自分も焼死してしまえば,世間は丙会やA夫婦らが悪いと思い,自分に同情してくれるであろうなどと考え,いわば他人の生命を手段として,自らの極めて理不尽かつ身勝手な目的を達しようとしたもので,言語道断というほかない。 そもそも,被害者Bは被告人を丙会に勧誘したこともなければ,Aが被告人を勧誘した期間も昭和52年12月ころから翌53年夏ころまでという短期間にすぎず,その方法も言葉による説得の域を出ていない上,その後は,被告人が丙会員である乙子の親族との付き合いを控えたこともあって,A夫婦との行き来はさほど多くはなかったのであるから,被告人がA夫婦に苦しめられたというのは単なる言いがかりでしかなく,また,被告人と乙子との婚姻が破綻した原因は,被告人がさしたる根拠もないのに同女の浮気を疑い,同女に暴力を振るったことにある上,そもそも被告人は自らの意思によって乙子と結婚したのであるから,被告人が離婚した点について,A夫婦には何らの責任もないのであって,被告人の抱いた恨みなるものは,全く落ち度のないA夫婦に対する筋違いのものでしかない。まして,Dは丙会員としての活動をしておらず,C,E及びFに至っては,丙会員でないばかりか,被告人とほとんど交流がな 人の抱いた恨みなるものは,全く落ち度のないA夫婦に対する筋違いのものでしかない。まして,Dは丙会員としての活動をしておらず,C,E及びFに至っては,丙会員でないばかりか,被告人とほとんど交流がなく,被告人に対して何らの害を及ぼしたこともないのであるから,結局,本件犯行は,保険金目的や身代金目的の殺人のような利欲的な動機に基づくものではないにしても,自殺の道連れに被害者らをすべて殺害するという極めて理不尽かつ身勝手な動機によるものであって,悪質さにおいてこれらに勝るとも劣らないものというべきである。 3 計画性等について被告人は,犯行を決意すると,合計で約11リットルのペットボトル入りガソリンをショルダーバッグやビニール袋に入れ,点火用のライター10個や,被害者方に入る際に用いるバール等を準備した上で本件犯行を敢行しているところ,板金工としての経験から,ガソリンが揮発性が高く空気と混合すると爆発的に燃焼する危険性の高いものであることを熟知しながら,あえて,これを用いて放火殺人を敢行する旨企てたこと,携行したガソリンの量も非常に多い上,着火不良に備えて多数のライターを携行していること,人が寝静まっている深夜をねらって敢行していること,被害者らが起き出してくれば直接ガソリンを浴びせかけようと考えていたこと等に照らすと,本件は,強固な確定的殺意に基づく,周到に準備された計画的犯行である。 4 犯行態様について被告人は,午前3時30分ころ,被害者方の西側寝室で就寝中のBとEを認めるや,被害者らに気付かれないようにその足下付近にしゃがみ込んで,その掛け布団に約750ミリリットルのガソリンをかけ,ほぼ同量のガソリンが入っているペットボトルを畳の上に投げ捨ててガソリンを畳の上にまき散らし,ガソリンのかかったEの使用する布団に所携のライター その掛け布団に約750ミリリットルのガソリンをかけ,ほぼ同量のガソリンが入っているペットボトルを畳の上に投げ捨ててガソリンを畳の上にまき散らし,ガソリンのかかったEの使用する布団に所携のライターで点火し,炎が約40センチメートルの高さになって広がってゆくのを確認すると,2人とも焼死するであろうと考え,勝手場に戻ってペットボトルを1本取って被害者方仏間に行き,仏壇があることを認めると,それが丙会の仏壇であると考え,同仏間の畳の上にガソリンを撒き,ライターで点火したところ,Bの声が聞こえたことから,同人がさしたる痛手を受けていないとして直接ガソリンをかけて殺害しようと考え,勝手場に戻ってペットボトルを1本取って前記寝室に戻り,同室内に立っていたBの身体めがけて,ペットボトルからガソリンを飛ばして浴びせかけたため,周囲の火がそれに引火して燃え上がり,さらに,Dらを殺害するため同人らの寝室を探そうと勝手場付近に至った際,同所に立っているCを認めると,同人を殺害しようと考え,同人が居間に入るやその背後に近付き,同人の身体めがけてガソリンを浴びせかけ,これに周囲の火が引火して燃え上がると,Dの寝室に向かおうとして玄関に行ったが,周囲が暗かったことから引き返し,勝手場を経て裏口を開けようとしたもののうまく行かず,再び勝手場を経て玄関に出ようとし,東側寝室から出てきたDと鉢合わせになり,同人も殺害しようとして,ショルダーバッグからペットボトルを取り出すと,同人の左肩付近にガソリンを浴びせかけ,これに周囲の火が引火して燃え上がり,同人が玄関から戸外へ逃れると,その後を追って行くなどし,その後,ショルダーバッグとペットボトル1本を投げ捨てた上,玄関から屋内に入ったところ,Fと鉢合わせになってその左腕をつかみ,同人にもガソリンをかけようと考えたが,自殺 ,その後を追って行くなどし,その後,ショルダーバッグとペットボトル1本を投げ捨てた上,玄関から屋内に入ったところ,Fと鉢合わせになってその左腕をつかみ,同人にもガソリンをかけようと考えたが,自殺に用いる分しかガソリンが残っていなかったので手を離したところ,同人がそのまま逃走したというものである。 以上のとおり,本件犯行の態様は,被害者らが無防備となる就寝中をねらった卑劣極まりないものである上,爆発的に燃焼するガソリンを用いて被害者らを生きたまま焼き殺そうとして家屋内に火を放ったという極めて冷酷,非情かつ残忍なものであるばかりか,被告人は,火災に気付いて起き出したB,Cの背後から,同人らの体に直接ガソリンを浴びせかけ,Dに対しては,目の前からその左肩等にガソリンを浴びせかけるなど,人を人とも思わない残虐な殺害行為を執ように繰り返しているのであるから,本件は,まれに見る残虐非道な犯行というほかない。しかも,被告人の供述するところによっても,C及びDに対して恨みを抱くような事情は全く認められず,A夫婦殺害の巻き添えにしようとしたに過ぎないにもかかわらず,前記のとおり,同人らの体に直接ガソリンを浴びせかけるなどして殺害しようとしており,その行為には人間性の片鱗すら見出すことができない。 5 結果の重大性について被告人は,Bを全身熱傷による多臓器不全により死亡させ,Cに全治不明の傷害を,D及びEに加療約6か月間を要する傷害をそれぞれ負わせ,さらに,被害者ら6名が現に住居として使用し,かつ,被害者5名が現在する居宅を全焼させるに至ったのであるから,本件犯行の結果が極めて重大であることはいうまでもない。深夜,自宅において就寝中,布団にガソリンをかけられて火をつけられ,あるいは体に直接ガソリンを浴びせかけられるなどして一家全員が皆殺しにされそう 本件犯行の結果が極めて重大であることはいうまでもない。深夜,自宅において就寝中,布団にガソリンをかけられて火をつけられ,あるいは体に直接ガソリンを浴びせかけられるなどして一家全員が皆殺しにされそうになった被害者らが受けた恐怖・驚がくは計り知れない。 Bは,就寝中,掛け布団にガソリンをかけられて火をつけられ,これに気付いて起き上がり,叫び声を上げていたところ,さらに,背後から,その身体にガソリンを浴びせかけられ,気化したガソリンが爆発的に燃焼する炎の中で生きながら焼かれたものであり,その肉体的苦痛は,自殺を決意してガソリンをかぶった被告人自身が,これに引火するやあまりの熱さに耐えきれなかった旨供述しているとおり,常人の想像を絶するものであるばかりか,その後約1か月もの間,麻酔下で意識の戻らないまま治療を余儀なくされた挙げ句,理不尽にも,姪の元夫である被告人の手によって,その貴い生命を絶たれなければならなかったのであるから,同人が受けた衝撃,恐怖・驚がくは筆舌に尽くし難く,その無念は察するに余りある。 Cは,就寝中,物音で目を覚まし,火災を認めて消火器を取るため勝手場に行き,居間に入って消火器を操作していたところ,突然,背後からガソリンを浴びせかけられ,一瞬のうちに体全体が炎で包まれる状態となり,事態を把握しきれないまま戸外に出て,水をかぶり,着衣を脱ぐなどして懸命に消火したものの,全体表面積の約40パーセントの熱傷という重篤な傷害を負わされ,約1か月もの間,麻酔下での治療を余儀なくされたばかりか,治療を担当した医師が生存率20パーセントであったと述べるとおり,死亡する危険性が極めて高い状態に陥り,医師の献身的な治療と度重なる植皮手術の結果,奇跡的に一命はとりとめたものの,その傷は全治することはなく,現在でも瘢痕の拘縮や,首や手指の可動 たと述べるとおり,死亡する危険性が極めて高い状態に陥り,医師の献身的な治療と度重なる植皮手術の結果,奇跡的に一命はとりとめたものの,その傷は全治することはなく,現在でも瘢痕の拘縮や,首や手指の可動領域が制限されるなどの重大な後遺症に苦しんでいる上,長期間の入院治療のために休職を余儀なくされるなど,その生活全般にわたって重大な損失を被り,その影響は極めて深刻である。 Dは,119番通報をしながら消火器を取るため勝手場に行った際に被告人と鉢合わせになり,正面から左肩付近にガソリンを浴びせかけられ,燃え上がる炎に包まれて恐怖の余り叫び声を上げながら逃げ,着衣を脱ぐなどして火を消すなどしたため殺害されずにすんだものの,加療約6か月間を要する判示の重篤な傷害を負わされており,同傷害により日常生活にも多大な支障を来すに至っている。Eも,就寝中にその布団に火をつけられた上,BやCを助けようとして,手でその火を振り払ったこともあって,加療約6か月間を要する重篤な傷害を負わされたばかりか,その顔面,手指等には色素脱失等,目視可能な熱傷の跡が残っており,単に加療期間のみでは評価し尽くすことのできない重大な結果を残している。 また,生き残ったCら4名は,突然理由も分からないまま殺害されかけただけではなく,敬愛する母であり,祖母であるBを失うとともに,その生活の拠点や形見となるべき品々をも同時に失ってしまったのであり,被害者らの被った苦痛,無念の情は察するに余りある。Dには,本件以降,しばしば家が燃えたり,殺害されたりする夢を見るなどの症状が見られ,その精神的苦痛は極めて重大であるとともに,いまだそれが軽快するに至っていない状況にある。また,本件当時,わずか11歳であったFや13歳であったEが,本件犯行により受けた衝撃は誠に大きく,同人らの精神状態,更に は極めて重大であるとともに,いまだそれが軽快するに至っていない状況にある。また,本件当時,わずか11歳であったFや13歳であったEが,本件犯行により受けた衝撃は誠に大きく,同人らの精神状態,更には将来に及ぼす影響が重大であることは想像に難くない。 6 放火の点について現住建造物等放火の点について見ると,爆発的に燃焼するガソリン約750ミリリットルを,現に人が就寝している布団にかけ,ライターで点火して火を放ち,さらに,別室において,畳の上にガソリンを撒いて同様に火を放つなどして,これらの火を容易に燃焼する木造家屋に燃え移らせたというもので,極めて危険かつ執ようなもので,悪質極まりない。本件犯行当時,本件家屋内には5名が就寝していたばかりか,本件家屋は住宅街に位置し,その北東側には,道路をはさんで約14. 4メートルの距離に木造家屋が,北側には,道路をはさんで約20.7メートルの距離に木造家屋が,北西側には,約6.6メートルの距離に鉄骨造スレート葺の工場があるなど,他の家屋等への延焼の危険性も高かったと認められる。また,本件により,床面積約163.68平方メートルの被害家屋を全焼させており,財産的被害は甚大であるばかりか,被害者らの生活の拠点である居宅を失わせ,約5000万円もの費用を投じて取り壊しの上新築することを余儀なくさせているのであり,その結果は誠に重大である。 7 被害感情,社会的影響等について被害者らの処罰感情が峻烈であることは,前記のとおりの犯行の態様,結果等からすれば当然であるが,特に,Aは,長年苦楽を共にしてきた最愛の妻を前記の理不尽な理由から極めて残忍な方法により殺害されたばかりか,子や孫までもが殺害されそうになった上,それまでの人生の結晶ともいうべき本件居宅を思い出の品々とともに失うに至ったのであるから,A を前記の理不尽な理由から極めて残忍な方法により殺害されたばかりか,子や孫までもが殺害されそうになった上,それまでの人生の結晶ともいうべき本件居宅を思い出の品々とともに失うに至ったのであるから,Aの被告人に対する怒り・恨みが言葉では言い表せないほど峻烈であることは明らかである。それにもかかわらず,被告人は,公判廷において,申し訳ないなどと述べて反省しているかのような態度を取ることがあるものの,被害者らが傍聴している公判廷において,被害者らの心情を逆なでするかのごとく,何ら合理的な根拠のないまま,Bは治療に当たった医師が殺害したなどと述べ,あるいは,自己の被害者らに対する恨みが正当なものであるとの考えを声高に主張し続けるなど,真摯な反省の態度を見せないのであるから,前記の反省の弁は見せかけのものにすぎないというほかなく,被害者らが,皆,被告人に対する極刑を望み,それ以外の刑は考えられない旨述べるのも当然といわなければならない。 また,住宅街において,深夜,逆恨みからガソリンを使って仲人方に放火して,一家全員を皆殺しにしようとし,実際に1名を殺害したという本件犯行が,近隣社会に与えた不安は大きく,その社会的影響も軽視できない。自己中心的かつ身勝手な理由から,あるいは自己の正当性に固執するあまり,何ら落ち度のない他者の生命等をいとも簡単に侵害する凶悪犯罪が頻発する近時の社会情勢に照らすと,一般予防の見地からも,かかる理不尽な動機,経緯に基づく本件のような凶悪犯罪に対しては,厳しい態度で臨む必要がある。 8 犯行後の行動等について被告人は,本件犯行の社会的影響を考慮し,本件のような凶悪な犯行を行うについては相当の理由があったのであろうとして,周囲から被告人に同情が寄せられることを等を期待して,本件犯行直後に,自らもガソリンをかぶって焼身 犯行の社会的影響を考慮し,本件のような凶悪な犯行を行うについては相当の理由があったのであろうとして,周囲から被告人に同情が寄せられることを等を期待して,本件犯行直後に,自らもガソリンをかぶって焼身自殺を試みている上,Bが歩いて救急車へ乗り込もうとするのを認めるや,襲いかかろうとして近隣住民に取り押さえられるなどしており,犯行後の行動も,極めて悪質である。 そして,被告人は,公判廷において,自己の行為を真摯に反省悔悟する態度を見せることも,被害者らに対し心からのお詫びの言葉を述べることもなく,不合理な弁解や自己正当化に終始しているのであり,それが改まる可能性は乏しいことからすると,今後も被害者らに対する慰謝に努めることはおよそ期待できない。これらが妄想性障害や拘禁反応に基づくものであるとしても,その妄想は被告人自身の元来の性格に由来するものであって,同情の余地はなく,被告人の反省の念の乏しさを示しているものというべきである。 9 刑種の検討以上のとおり,被告人が何の落ち度もない被害者1名の貴い生命を奪っていること,殺人未遂の被害者のうち3名に対して重篤な傷害を負わせていること,被害家屋を全焼させ,重大な公共の危険を生じさせていること,本件犯行に至る経緯,犯行の動機に何ら酌むべき事情がないこと,一家全員を皆殺しにしようとした計画的犯行であること,被害者らに直接ガソリンをかけて焼き殺そうとした殺害行為は残忍かつ執ようであること,被害者・遺族らの被害感情が峻烈であること等の事情を踏まえて,検察官は,被告人の刑事責任は極めて重大であり,被告人に対しては死刑をもって臨むほかない旨意見を述べている。本件のような殺人等の事件においては,犯行の罪質,動機,態様殊に殺害方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情, しては死刑をもって臨むほかない旨意見を述べている。本件のような殺人等の事件においては,犯行の罪質,動機,態様殊に殺害方法の執よう性・残虐性,結果の重大性殊に殺害された被害者の数,遺族の被害感情,社会的影響,犯人の年齢,前科,犯行後の情状等各般の情状を併せ考察したとき,その罪責が誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも極刑がやむを得ないと認められる場合には,死刑をもって処断することも許されるところである。もとより,その適用が慎重に行われるべきことは当然であるが,殺害された被害者が1名の事案においても,前記諸般の情状を考慮して,極刑がやむを得ないと認められる場合があることはいうまでもない。そこで,以下,被告人のために斟酌すべき事情を中心に,死刑の選択の是非について検討する。 まず,被告人は,丙会から監視されるなどの嫌がらせを受け,事故を装って殺されるのではないかと思ったなどと述べており,弁護人は,被告人が妄想性障害による被害妄想のため,正常な判断ができない状態で本件犯行を決意したと主張するが,既に詳細に検討したとおり,被告人は事理を弁識し,その弁識に従って行動する能力を十分有していたばかりか,被告人が丙会からの嫌がらせであると供述する種々の事柄は,被告人自身,繰り返し,証拠がないなどと述べるとおり,その現実的,具体的な根拠を欠く言いがかりに過ぎないものであり,まして,これらにA夫婦が関与しているとの根拠も何ら存しないのであって,前記のとおり,丙会からの嫌がらせによって精神的に追い詰められたことが本件犯行の直接的な動機になったものとは到底認められないのである。むしろ,被告人は,結婚生活の破綻の原因が,主に乙子に対する自己の暴力等,被告人自身の責めに帰すべき事情によることを頑なに否定し,この原因を乙子が丙会員として信心 ものとは到底認められないのである。むしろ,被告人は,結婚生活の破綻の原因が,主に乙子に対する自己の暴力等,被告人自身の責めに帰すべき事情によることを頑なに否定し,この原因を乙子が丙会員として信心を続けていたことや同女の浮気にあるとした上,その責任を丙会や,丙会員であり仲人であったA夫婦に転嫁し,自己の考えとは整合しない事実関係を受け入れることなく被害妄想を抱くに至ったもので,そのような妄想自体,被告人の元来の性格に由来するものであるから,このことを被告人に有利な事情として過大に評価することは相当ではない。 次に,被告人は,不動産を売却して得た金員から被害者らに約1500万円を提供しており,一応被害の弁償が一部なされているとみることができるものの,その金額は,本件犯行による被害の甚大さに比ぶべくもなく,その経緯も被告人の実兄が主導したものであって,被告人が真摯に本件犯行を反省した結果,その償いの一部として進んで提供したものでもないのであり,これを被告人に有利な事情として斟酌する際にも,自ずと限度があるといわざるを得ない。 また,被告人には,業務上過失傷害罪による罰金前科と窃盗罪による執行猶予付きの懲役前科が各1犯あるだけで,凶悪,重大犯罪の前科はなく,乙子に暴力を振るったほかには粗暴な言動があったことも証拠上認められないことから,その矯正可能性に期待することも一応考えられるのであるが,前記のとおり,被告人は,現在,妄想性障害の病態にあり,妄想性障害は,本人に対して圧力が加われば,それに抗して妄想が作られるため,改善の見込みは乏しいと認められ,そうすると,被告人が,将来社会復帰して更生する可能性は極めて乏しいといわざるを得ず,些事にこだわり,被害妄想を発展させ,具体的な根拠もないまま他者に対する恨みを抱くなどして,更なる同種犯行に及 ,そうすると,被告人が,将来社会復帰して更生する可能性は極めて乏しいといわざるを得ず,些事にこだわり,被害妄想を発展させ,具体的な根拠もないまま他者に対する恨みを抱くなどして,更なる同種犯行に及ぶ危険性も相当程度あるというべきである。 その他,幸い,4名に対する殺人は未遂に終わっていること,火災は延焼することなく消火されたこと,被告人は,捜査段階では一貫して,公判に至っても,当初は,事実関係をおおむね認めていたこと,被告人自身,本件直後に自殺しようとして重度の熱傷を負い,体調が万全ではないこと等,証拠上認められる一切の事情を考慮したが,被告人に対して,極刑の選択を否定すべき事情は見当たらない。 そうすると,被告人に有利な事情を十分に斟酌し,前記犯行の罪質,動機,態様,結果,被害感情等すべての事情を総合考慮すると,被告人の刑責は誠に重大であって,罪刑の均衡の見地からも一般予防の見地からも,被告人に対しては,死刑をもって臨むほかないと判断した。 よって,主文のとおり判決する。 平成14年3月4日水戸地方裁判所刑事部裁判長裁判官鈴木秀行裁判官下津健司裁判官日野浩一郎

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