平成30(ワ)20111 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年6月11日 東京地方裁判所
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令和2年6月11日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第20111号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和2年2月18日判決 原告株式会社九の里 同訴訟代理人弁護士大西洋一村上雅彦長嶺悠介 金澤圭甫同訴訟復代理人弁護士新沼奏之介 被告 A同訴訟代理人弁護士岡崎秀也 荒木陽一主文 1 被告は,原告に対し,金50万3856円及びこれに対する平成28年12月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを10分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 被告は,原告に対し,479万5252円及びこれに対する平成28年12 月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 争いのない事実等(証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。また,証拠番号の枝番の記載を省略することがある(以下同様)。)(1) 原告は,保険会社に代わって損害保険,生命保険の勧誘,契約等を行う保 険代理店である。 (2) 被告は,平成19年7月,AIU保険会社に研修生として入社し,同社の保険商品を勧誘,販売していたが,平成21年9月までに同社を退職した。 (3) その後,被告は, 険代理店である。 (2) 被告は,平成19年7月,AIU保険会社に研修生として入社し,同社の保険商品を勧誘,販売していたが,平成21年9月までに同社を退職した。 (3) その後,被告は,AIU保険会社の紹介により同月24日に原告に入社し,原告において,主に損害保険の勧誘,契約締結,顧客の管理,保全等の業務 に携わってきた。 (4) 被告は,AIU保険会社での研修時等において,別紙記載3ないし9及び11ないし13の各顧客を開拓し,原告での在職時において同各顧客を担当していた(乙4。以下,これらの各顧客についての契約者名,住所,電話番号,加入している保険会社,保険種目,保険期間,銀行口座情報等を内容とする 顧客情報を「本件顧客情報1」という。)。 (5) また,被告は,原告での在職時において,別紙記載1,2及び10の原告の各顧客をも担当していた(以下,これらの原告の各顧客についての契約者名,住所,電話番号,加入している保険会社,保険種目,保険期間,銀行口座情報等を内容とする顧客情報を「本件顧客情報2」という。)。 (6) 被告は,平成27年7月31日付けで原告を退職した。 (7) 被告が原告を退職した時点において,原告には,原告代表者,その妻及び被告のほか,従業員が7名在籍していた。 (8) 被告は,原告を退職した後まもなくして,損害保険,生命保険の募集等に関する業務を行う訴外株式会社Doit プランニング(以下「訴外会社」 という。)に就職した。 (9) 被告が原告を退職した後,原告の従業員であったBは,LINEを通じて,被告に対し,本件顧客情報1を写真で送付した(Bが本件顧客情報2についても被告に送付したかどうかについては,争いがある。)。 (10) 被告が訴外会社に就職して以降,別 ったBは,LINEを通じて,被告に対し,本件顧客情報1を写真で送付した(Bが本件顧客情報2についても被告に送付したかどうかについては,争いがある。)。 (10) 被告が訴外会社に就職して以降,別紙記載1ないし13の各顧客は,いずれも,平成28年12月7日までの間に,保険契約の内容を変えることなく, 保険代理店を原告から訴外会社に変更した(甲9,弁論の全趣旨)。 2 事案の概要本件は,被告において,①退職前に原告の営業秘密である本件顧客情報1,2を不正に持ち出して取得し,又は転職先においてこれを利用して同情報に係る各顧客に営業を行い(不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項4号), または,②原告から示された本件顧客情報1,2を不正の利益を得る目的又は原告に損害を与える目的で使用し(法2条1項7号),または,③原告の従業員から本件顧客情報1,2を不正開示行為であることを知りつつ取得し,又はこれを使用したが(法2条1項8号),かかる被告の行為により原告の営業上の利益が侵害されたとして,予備的に,仮に被告の本件顧客情報1,2に係る行為 につき上記のようにいえなかったとしても,被告の本件顧客情報1,2に係る行為は,いずれもそれぞれ誓約書違反等の債務不履行又は不法行為に当たり,原告が損害を被ったとして,原告が,被告に対し,主位的に,法4条による損害賠償請求,予備的に,債務不履行又は不法行為による損害賠償請求として,保険契約解約による逸失利益(合計435万9320円)に弁護士費用相当額 (合計43万5932円)を加えた総計479万5252円及びこれに対する平成28年12月7日(被告の上記行為よりも後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 3 争点(1) 本件顧 計479万5252円及びこれに対する平成28年12月7日(被告の上記行為よりも後の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 3 争点(1) 本件顧客情報1の原告への帰属の有無(争点1) (2) 営業秘密の不正使用の有無 ア本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか(争点2)イ被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争に該当するか(争点3)(3) 債務不履行に基づく損害賠償請求の可否(争点4)(4) 不法行為による損害賠償請求の可否(争点5) (5) 損害の有無及びその額(争点6)第3 争点に対する当事者の主張 1 争点1(本件顧客情報1の原告への帰属の有無)【原告の主張】本件顧客情報1は,原告の顧客に係る情報であり,これは原告に帰属する情 報である。すなわち,本件顧客情報1に係る各顧客は,被告がAIU保険会社に在籍していた当時に,一担当者として開拓したものであり,本件顧客情報1はそもそもAIU保険会社の情報であった。しかして,被告がAIU保険会社を退職し原告に就職する際,原告からAIU保険会社に金銭を支払い,原告が上記顧客の契約の担当代理店となったことにより,本件顧客情報1は,原告の 情報になったものである。このように,本件顧客情報1は,原告の一担当者にすぎない被告の情報ではない。 【被告の主張】本件顧客情報1の各顧客は,被告が自らの人脈で開拓した顧客であるから,本件顧客情報1は被告に帰属するものであり,被告は,各顧客の了承の下,こ れを原告に提供したにすぎない。 2 争点2(本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか)【原告の主張】本件顧客情報1,2は,保険契約の募集 ,被告は,各顧客の了承の下,こ れを原告に提供したにすぎない。 2 争点2(本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか)【原告の主張】本件顧客情報1,2は,保険契約の募集等を行う事業者にとって,顧客の情報の効率的な管理等に資するものであり,有用性が認められるほか,次のとお り,秘密管理性,非公知性の要件も満たすから,営業秘密に該当する。 (1) 秘密管理性原告は,本件顧客情報1,2を,保険契約の際に作成された申込書の代理店控え(以下「本件申込書控え」という。)とこれを電子データ化したものの2種類で管理していた。 まず原告は,本件申込書控えについては,ファイルに綴じた上で,鍵のか かるロッカーに保管していた。また原告は,電子データ化した本件顧客情報1,2については,社内のデスクトップパソコン内のデータベースで一括管理しており,これらを,原告の住所地にあるデスクトップパソコンでのみ閲覧可能としていた。原告は,当該パソコンを利用するために,会社用と個人用の2つのパスワードを入力する必要があるように設定していたほか,更に 上記データベースにアクセスするために,別のパスワードを入力する必要があるように設定しており,このパスワードは,3か月に1回の頻度で変更していた。そして,原告は,従業員に対し,パソコンの持出しや,USB等の記録媒体による情報の持出しを禁止していた。 原告の従業員は,被告の退職時,合計7名であったところ,原告は,被告 を含む従業員をして,その入社の際に,情報管理に係る「誓約書兼同意書」を提出させた上で,月に1回の頻度で行われる保険会社主催の情報管理等に関するミーティングに出席させており,退職時にも顧客情報の利用を一切禁じる旨の誓約書を提出させるなど,徹底した情報管理 兼同意書」を提出させた上で,月に1回の頻度で行われる保険会社主催の情報管理等に関するミーティングに出席させており,退職時にも顧客情報の利用を一切禁じる旨の誓約書を提出させるなど,徹底した情報管理を行っていた。 以上によれば,本件顧客情報1,2について,秘密管理性の要件を満たす。 (2) 非公知性本件顧客情報1,2は,契約者の氏名,住所,電話番号などが一体となった顧客情報及び加入保険会社,保険種目,保険期間などが一体となった保険契約情報であり,原告及び原告の従業員に限り入手できるものである。そして,原告の従業員には,本件顧客情報1,2について守秘義務が課せられて いることからすれば,本件顧客情報1,2は公然と知られていないといえる。 【被告の主張】本件顧客情報1,2に有用性があることは争わないが,本件顧客情報1,2については,次のとおり,秘密管理性等の要件を満たさず,法2条4項に規定する営業秘密には該当しない。 (1) 秘密管理性 本件顧客情報1,2については,秘密管理性の要件を満たさない。 すなわち,本件顧客情報1,2の電子データを見るためのパスワードは,従業員共通のものであり,原告の従業員であれば誰でもそれを利用して閲覧が可能であった。また,本件申込書控えが保管されたロッカーは施錠されておらず,原告の従業員であれば誰でも閲覧できたものである。 (2) 非公知性本件顧客情報1については,被告が自らの人脈で開拓した顧客に係る情報であり,被告に帰属するものであって,非公知性はない。 3 争点3(被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争に該当するか) 【原告の主張】被告は,原告の営業秘密である本件顧客情報1,2を不正に持ち出し,又は原告の従業員から本件顧 (被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争に該当するか) 【原告の主張】被告は,原告の営業秘密である本件顧客情報1,2を不正に持ち出し,又は原告の従業員から本件顧客情報1,2を不正開示行為であることを知りつつ入手し,これを利用して原告の顧客に営業を行ったものであって,このことは,次のとおり,法2条1項4号,7号又は8号の不正競争に該当する(法2条1 項4号,7号又は8号の不正競争該当性の主張は,選択的な主張である。)。 (1) 法2条1項4号本件顧客情報1,2は,原告に帰属するものであるところ,被告は,原告を退職する以前に,被告所有の携帯電話などに本件顧客情報1,2を移し,これを訴外会社において利用し,本件顧客情報1,2に係る各顧客に営業を かけ,同各顧客につき原告から訴外会社へと保険代理店を変更する契約を取 り付けたものである。被告には,本件顧客情報1,2を手元に留保する権限はないから,これを原告の許諾なく持ち出す行為(携帯電話の登録情報を削除しないなどの行為)は,法2条1項4号の「不正の手段による取得」に当たり,また,これを利用することは不正に取得した営業秘密を「使用した」といえるから,これらの被告の行為は,法2条1項4号の不正競争に該当す る。 (2) 法2条1項7号本件顧客情報1,2は原告に帰属するものであるところ,まず,本件顧客情報2の各顧客は,被告が開拓した顧客ではなく,本件顧客情報2は,被告が同顧客の担当者として業務を行う上で,原告から被告に開示されたもので あるから,法2条1項7号が規定する保有者から示された営業秘密に当たる。 また,本件顧客情報1についても,同じく原告内で営業秘密として一括管理され,被告には守秘義務等が課されていたことからすれば,実 あるから,法2条1項7号が規定する保有者から示された営業秘密に当たる。 また,本件顧客情報1についても,同じく原告内で営業秘密として一括管理され,被告には守秘義務等が課されていたことからすれば,実質的に,原告から示されたものというべきであり,本件顧客情報1も,同号が規定する保有者から示された営業秘密に当たる。 被告は,訴外会社において,本件顧客情報1,2を使用してその各顧客に対して営業活動を行ったものであるところ,被告が,原告を退職する際に,被告が担当する契約が原告に帰属することを確認し,在職中に知り得た顧客の情報等を基に競業的な行為をしない旨記載のある誓約書を提出していることからすれば,被告の行為が原告に損害を与え,不正な利益を得ることがで きることを理解していたといえ,不正の利益を得る目的又は原告に損害を与える目的で,営業秘密である本件顧客情報1,2を使用したといえる。 以上によれば,被告の行為は,法2条1項7号に該当する。 (3) 法2条1項8号被告は,原告を退職した後,原告の従業員であるBからLINEを通じて, 本件顧客情報1,2を写真で送ってもらい,これを,各顧客に対する営業活 動に使用したものである。そうすると,Bが被告に対して本件顧客情報1,2を開示した行為は,法2条1項7号が規定する不正開示行為に該当し,被告は,かかる漏洩行為が不正開示行為であることを認識した上で,本件顧客情報1,2を取得し,これを使用したものであるから,被告の行為は同法2条1項8号の不正競争に当たる。 【被告の主張】被告の行為は,次のとおり,法2条1項4号,7号,8号のいずれの不正競争にも該当しない。 まず,本件顧客情報1については,そもそも被告に帰属する情報であるから,不正取得行為に当たるとはいえない。 被告の行為は,次のとおり,法2条1項4号,7号,8号のいずれの不正競争にも該当しない。 まず,本件顧客情報1については,そもそも被告に帰属する情報であるから,不正取得行為に当たるとはいえない。本件顧客情報1の各顧客の契約が変更に なったのは,原告が十分にフォローできていなかったことが原因で,契約をとり逃しただけである。 また,本件顧客情報2の各顧客は,被告が担当していたものであるところ,被告以外に原告において同各顧客と面識のある者はおらず,被告が本件顧客情報2を持ち出したものではない。上記各顧客については,いずれも契約満了時 に同各顧客の方から被告に連絡があり,被告と契約したいと言われたものであり,不正取得行為もなければ,不正使用行為もない。Bも,本件顧客情報1,2が被告に帰属するものであるから,親切心で被告に連絡したものであるにすぎない。 4 争点4(債務不履行に基づく損害賠償請求の可否) 【原告の主張】被告は,原告への入社時に誓約書等に署名し,被告の行った全契約が原告に帰属することを認め,在職中に知り得た原告及び顧客の一切の情報を不正に使用したり,漏洩しないことを誓うとともに,原告からの退職時にも誓約書に署名し,顧客情報に関する複製物を含む一切の資料を原告に返還し,被告におい てこれを保有していないこと,原告在職中に知り得た顧客情報及び職務遂行上 知り得た一切の情報を基に競業的な行為を行わないことを誓っている。また,原告の就業規則には,退職者が原告のいかなる情報も利用し,運用してはならない旨が定められている。 そうすると,被告は,原告の情報を不正使用しない義務,顧客情報に関する複製物を含む一切の資料を返還する義務,顧客情報等を用いて競業行為を行わ ない義務を負っていたものであるとこ められている。 そうすると,被告は,原告の情報を不正使用しない義務,顧客情報に関する複製物を含む一切の資料を返還する義務,顧客情報等を用いて競業行為を行わ ない義務を負っていたものであるところ,それにもかかわらず,本件顧客情報1,2を持ち出し,これを使用して本件顧客情報の各顧客に対して営業を行い,同各顧客と契約を締結したものであるから,被告のかかる行為は上記義務に違反するものであり,被告は債務不履行責任を負う。 【被告の主張】 原告の上記主張は争う。 被告は,自由競争の範囲内で保険契約者の意向に沿った行為をしたにすぎない。原告が契約を失ったのは,本件顧客情報1の各顧客については,被告の関係者であるから当然であり,本件顧客情報2の各顧客については,原告の怠慢からである。 5 争点5(不法行為による損害賠償請求の可否)【原告の主張】被告が,原告に帰属する本件顧客情報1,2を使用する行為は,自由競争の範疇を超える悪質性の高い行為であり,不法行為に該当する。 【被告の主張】 原告の上記主張は争う。 被告は,自由競争の範囲内で保険契約者の意向に沿った行為をしたにすぎない。原告が契約を失ったのは,本件顧客情報1の各顧客については,被告の関係者であるから当然であり,本件顧客情報2の各顧客については,原告の怠慢からである。 6 争点6(損害の有無及びその額)について 【原告の主張】(1) 原告の逸失利益被告の不正取得行為,不正使用行為のようなものが介在しなければ,通常は,顧客において一度選んだ保険代理店を変更することはないことにも鑑みると,本件顧客情報1,2の各顧客のいずれについても,被告の行為がなけ れば,原告を保険代理店とする契約の更新が行われていたはずである。その場合, んだ保険代理店を変更することはないことにも鑑みると,本件顧客情報1,2の各顧客のいずれについても,被告の行為がなけ れば,原告を保険代理店とする契約の更新が行われていたはずである。その場合,同各顧客の契約は,少なくとも5年間は延長されていたといえる。そして,同各顧客に係る1年間の保険料収入の合計額は,本件顧客情報1,2の各顧客を併せて435万9320円であり,このうち原告の取得する手数料は,保険料収入の20%である。 そうすると,原告の逸失利益は,次のとおり,合計435万9320円である。 (計算式)435万9320円×0.2×5=435万9320円(2) 弁護士費用本訴訟に係る弁護士費用の合計額としては,上記(1)の金額の1割に当たる 43万5932円が相当である。 (3) 損害額合計原告の被った損害額の総計は,上記(1)及び(2)の合計額である479万5252円である。 【被告の主張】 原告の上記主張は争う。 そもそも原告に損害は発生していない。原告が問題とする本件顧客情報1,2に係る顧客のうち,被告の関係者である10名(本件顧客情報1に係る顧客)はもとより,その他の3名(本件顧客情報2に係る顧客)についても,その契約は被告に委ねられていたものであるから,これらの顧客が原告と契約を継続 する選択肢はなかったものである。 第4 当裁判所の判断 1 前記前提となる事実に,各項末尾の証拠等を併せれば,次の各事実を認めることができる。 (1) 被告は,平成19年7月,AIU保険会社に研修生として入社し,同社の保険商品を勧誘,販売していたところ,被告がAIU保険会社の研修生時代 に獲得した保険契約に係る各顧客については,被告が原告に入社するに当たり,原告が,AIU保険会社に 修生として入社し,同社の保険商品を勧誘,販売していたところ,被告がAIU保険会社の研修生時代 に獲得した保険契約に係る各顧客については,被告が原告に入社するに当たり,原告が,AIU保険会社に対して20万3505円を支払うことにより,保険代理店として同各顧客を担当することとなった(甲4,弁論の全趣旨)。 (2) 被告は,原告に対し,平成21年9月24日付け「誓約書兼同意書」を提出し,①原告に在籍中及び退職後,在籍中に知り得た原告及び原告の取引先 (顧客)の一切の情報を業務外の目的に使用するなどの不正使用や,当該情報を知る必要がある会社の従業員以外の者への開示をしないこと,及びこれらの情報の取扱いに関する原告の指示を守り,秘密を保持すること,②在職中,原告から使用を許可されるパソコン等の機器,顧客の情報が含まれた書類,CD-ROM・フロッピーディスク等の記録媒体その他一切の資料を会 社の指示に従って管理し,退職する場合には,その一切(複製物を含む)を原告に返還することを誓約した(甲2)。 (3) 原告においては,本件顧客情報1,2につき,保険契約者の契約者名,住所,電話番号,加入している保険会社名,保険種目,保険期間,銀行口座情報等の顧客情報を電子データ化して,社内のデータベースにおいて一括管理 するとともに,同様の情報が記載されている保険契約の際に作成された本件申込書控えを,ファイルに綴じた上で鍵のかかるロッカーで保管していた(甲5,6,14,15,証人B,原告代表者,弁論の全趣旨)。 (4) 原告においては,本件申込書控えが保管されていたロッカーにつき,執務の都合により就業時間中は施錠していなかったが,就業時間外はこれを施錠 し,その鍵は原告代表者ないし営業部長のBにおいて管理しており,原告の 書控えが保管されていたロッカーにつき,執務の都合により就業時間中は施錠していなかったが,就業時間外はこれを施錠 し,その鍵は原告代表者ないし営業部長のBにおいて管理しており,原告の 従業員であっても自由にアクセスできなかった(証人B,原告代表者,弁論の全趣旨)。 (5) 原告においては,本件顧客情報1,2が管理されているデータベースは,原告住所地にあるデスクトップパソコンにおいてのみ閲覧可能としており,また,パソコンを起動するためには,会社用のパスワードと個人用のパスワ ードをそれぞれ入力する必要がある設定としており,さらに,データベースにアクセスするためには,更に別のパスワードを入力する必要がある設定としていた。さらに,データベースにアクセスするためのパスワードは,3か月に1回の頻度で変更されており,また,パソコン等の社外持ち出しは禁止していた(甲14,15,16,証人B,原告代表者)。 (6) 原告の従業員は,月に1回行われる保険会社主催の情報管理等に関するミーティングに交代で参加しており,被告もこれに参加していた(甲14,15,弁論の全趣旨)。 (7) 被告は,原告に在籍していた当時,本件顧客情報1の各顧客の連絡先を被告の所有する携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教えて 連絡をとっており,本件顧客情報1の顧客(株式会社C)が,保険契約の満期に際し,同社の方から被告に連絡をとったことがあった(乙4の1,被告本人,弁論の全趣旨)。 (8) 被告は,原告に在籍していた当時,本件顧客情報2の各顧客の連絡先を原告から支給された携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教 えて連絡をとっていた。同各顧客には,被告の所有する携帯電話の番号は教えていなかった(被告本人)。 ( 顧客の連絡先を原告から支給された携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教 えて連絡をとっていた。同各顧客には,被告の所有する携帯電話の番号は教えていなかった(被告本人)。 (9) 被告は,原告を退社するに当たり,平成27年7月31日付け「誓約書」を提出し,①原告に在職中に知り得た原告及び原告の取引先(顧客)の一切の情報を退職後も秘密として保持すること,②原告から使用を許可されたパ ソコン等の機器,顧客の情報が含まれた書類,CD-ROM・フロッピーデ ィスク等の記録媒体その他一切の資料を原告に返還し,被告においてこれらの一切の情報を保有していないこと,③在職中に知り得た原告及び顧客の情報並びに職務遂行上知り得た一切の情報を基に競業的な行為を行わないことを誓約した(甲8)。 (10) 被告は,原告を退職する際,原告に対し,原告から支給された携帯電話を 返却した(被告本人)。 2 争点1(本件顧客情報1の原告への帰属の有無)について上記1(1)のとおり,被告がAIU保険会社の研修生時代に獲得した保険契約に係る各顧客(本件顧客情報1の各顧客)については,被告が原告に入社するに当たり,原告が,AIU保険会社に対して20万3505円を支払うこと により,保険代理店として同各顧客を担当することとなったものであり,その情報の具体的内容は,原告を担当代理店とする保険契約を締結していた顧客の契約者名,住所,電話番号,加入している保険会社名,保険種目,保険期間,銀行口座情報等である。 すなわち,本件顧客情報1は,契約者名,住所,電話番号などの顧客の個人 情報と,保険会社名,保険種目,保険期間などの保険契約に係る情報とから構成されるものである。そうすると,本件顧客情報1は,その各顧客に係る契約を取り扱 約者名,住所,電話番号などの顧客の個人 情報と,保険会社名,保険種目,保険期間などの保険契約に係る情報とから構成されるものである。そうすると,本件顧客情報1は,その各顧客に係る契約を取り扱う主体である原告に帰属するものであると認めるのが相当というべきである。 この点,被告は,本件顧客情報1の各顧客は,被告が自らの人脈で開拓した 顧客であるから,本件顧客情報1は被告に帰属するものであると主張する。しかし,上述のとおり,本件顧客情報1は,あくまで保険契約に係る情報を含むものであり,私的に管理している情報とは区別されるべきものであるから,原告が取り扱う保険契約に係る情報をも含む本件顧客情報1が,原告の一従業員であった被告個人に帰属するものとはおよそ認めることができない。 したがって,被告の上記主張は採用することができない。 3 争点2(本件顧客情報1,2は営業秘密(法2条4項)に該当するか)法2条4項にいう「秘密として管理されている」といえるためには,当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることが認識できるような措置が講じられ,当該情報に接した者が,これが秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があったことを要するとい うべきである。 そこで検討するに,まず,原告の規模についてみると,前記第2の1(7)のとおり,原告は,原告代表者,その妻及び被告のほか,従業員が7名在籍しているという,10名程度の小規模な会社(保険代理店)であり,保険代理店である原告の従業員らにおいて,本件顧客情報1,2の内容に照らし,これが営業 秘密であることは十分認識できたというべきところ,前記1(3)及び(4)のとおり,本件申込書控えはファイルに綴じた上で鍵のかかるロッカーで保管し ,本件顧客情報1,2の内容に照らし,これが営業 秘密であることは十分認識できたというべきところ,前記1(3)及び(4)のとおり,本件申込書控えはファイルに綴じた上で鍵のかかるロッカーで保管し,勤務時間外は原告代表者ないし営業部長において鍵を管理しており,また,本件顧客情報1,2のデータは,アクセスするためのパスワード(3か月に1回更新)を必要とする設定としていたというのである。加えて,パソコン等の社外 持ち出しの禁止(前記1(5)),被告を含む原告の従業員の,保険会社主催の情報管理等に関する月1回のミーティングへの参加(前記1(6)),入社時や退職時の誓約書等の提出(前記1(2),(9))などを併せ総合考慮すれば,原告においては,本件顧客情報1,2にアクセスした者に,当該情報が営業秘密であることが認識できるような措置が講じられ,当該情報に接した者が,これが秘密 として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があったというべきである。 この点,被告は,本件顧客情報1,2の秘密管理性について,電子データは従業員であれば誰でも見られたこと,本件申込書控えが保管されていたロッカーは,鍵がかかっていなかったことを指摘する。 しかし,本件顧客情報1,2に係る電子データが,原告の社内にあるデスク トップパソコンからのみアクセスが可能なデータベースにおいて,3か月に1回の頻度で変更されるパスワードを含む複数のパスワードを用いて管理されている状況の下,原告代表者,その妻及び被告を除けば,従業員は7名という人数が,その電子データを見ることができたからといって,本件顧客情報1,2に係る秘密管理性が否定されるものとはいえない。また,前記のとおり,本 件申込書控えが保管されていたロッカーは,就業時間 人数が,その電子データを見ることができたからといって,本件顧客情報1,2に係る秘密管理性が否定されるものとはいえない。また,前記のとおり,本 件申込書控えが保管されていたロッカーは,就業時間中は施錠されていなかったものの,このこと自体は,原告の規模に照らし執務の都合によるものとして営業秘密の取扱いとしても首肯できる範疇にあるといえ,さらに,就業時間外は上記ロッカーを施錠し,その鍵を原告代表者ないし営業部長において管理しており,原告の従業員であっても自由にアクセスできなかったことが認められ ることも併せれば,営業秘密性を否定できるまでの事情に当たるものとはいえない。 そして,前記2のとおり,本件顧客情報1,2は原告に帰属するものであるといえ,その内容自体に照らし,有用性が認められる(当事者間で争いもない。)。 また,本件顧客情報1,2の性質・内容に基づき,前記1の各事実に照らして 検討すれば,その非公知性も肯定できるというべきである(被告は,本件顧客情報1,2が被告に帰属することを前提に,その非公知性を争うが,上記説示に照らし,被告の同主張はその前提を欠くものであって,採用の限りでない。)。 以上によれば,本件顧客情報1,2は,原告の営業秘密(法2条4項)に該当することが認められる。 4 争点3(被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争に該当するか)(1) 原告は,本件顧客情報1,2に係る被告の行為は,法2条1項4号,同項7号又は同項8号の不正競争に該当する旨を選択的に主張するところ,本件事案に鑑み,法2条1項8号の不正競争該当性から検討する。 ア Bから被告に対する本件顧客情報1,2の送付について 原告は,被告が,原告を退職した後に,原告の従業員であったBから,L 案に鑑み,法2条1項8号の不正競争該当性から検討する。 ア Bから被告に対する本件顧客情報1,2の送付について 原告は,被告が,原告を退職した後に,原告の従業員であったBから,LINEを通じて,本件顧客情報1,2を写真で送ってもらった旨主張するところ,Bから被告に本件顧客情報1が送付されたことは,当事者間で争いがない。そして,本件顧客情報2についても,証拠(甲15,証人B)によれば,Bが被告に対して顧客情報を送った趣旨は,被告が原告在籍時 に担当していた顧客について,保険契約の満期が迫っていたにもかかわらず,連絡がとれないことから,被告を問い詰めるためであったことが認められ,Bは,原告において開拓した顧客(本件顧客情報2記載の各顧客)を含め,被告が原告在籍時に担当していた全顧客について,問合せをしたとみるのが自然であって,これに照らせば,Bから被告に対し,本件顧客 情報1のみが送付されたというのは不自然であり,本件顧客情報2についても,Bから被告に対して送付されたものと認めるのが相当である。 イ被告による本件顧客情報1,2の使用について(ア) 本件顧客情報2の各顧客に対する営業行為について本件顧客情報2の各顧客はもともと原告の顧客であって被告が開拓し た顧客ではなく,本件顧客情報1の各顧客と比べ,被告との結び付きはさほど強いとはいえない。しかして,前記1(7)及び(9)のとおり,被告は,原告在籍時,被告が担当していた原告の顧客である本件顧客情報2の各顧客の連絡先を原告から支給された携帯電話に登録し,同各顧客に対してはこの原告支給の携帯電話の番号を教えており,被告の所有する 携帯電話の番号は教えていなかったものであるところ,被告は,原告を退職する際に,同携帯電話を原告に返却しており,Bか 各顧客に対してはこの原告支給の携帯電話の番号を教えており,被告の所有する 携帯電話の番号は教えていなかったものであるところ,被告は,原告を退職する際に,同携帯電話を原告に返却しており,Bから送られた本件顧客情報2以外に,被告が本件顧客情報2の各顧客の情報を保有していたことを客観的,具体的に認めるに足りる証拠はない。 そうすると,Bから被告に対する本件顧客情報2の送付は,原告の従 業員であるBにおいて,秘密を守る法律上の義務に違反して,原告の営 業秘密を,原告からの退職後,当該営業秘密を保有していなかった被告に対して改めて示したものであるから,法2条1項8号にいう不正開示行為であるといわざるを得ない。そして,本件顧客情報2は,各顧客の保険期間(満期)など,保険代理店変更を勧誘するのに必要な情報が含まれており,これに,前記第2の1(9),前記1(2)の各事実を併せれば, 被告は,原告からの退職後等において,Bから送られた本件顧客情報2について,その送付が不正開示行為であることを知りながら,これを取得し,その取得した本件顧客情報2を使用して,同各顧客に対して営業を行ったものというべきである。 この点,被告は,本件顧客情報2の各顧客につき,同各顧客の聴取書 等(乙4,5)を基に,同各顧客の方から被告に連絡がきて契約に至った旨を主張する。 しかし,上記説示のとおり,被告は,原告を退職する際に,原告から支給された上記携帯電話を返却しているものである。そして,被告が指摘する上記聴取書等(乙4,5)の体裁や内容に照らしても,顧客の方 から被告に連絡がきた経緯を客観的,具体的に認めるには至らず,上記説示を覆すには至らないというべきである。この点,被告は,本件顧客情報2の顧客の1人である別紙記載10の顧客(D) ,顧客の方 から被告に連絡がきた経緯を客観的,具体的に認めるには至らず,上記説示を覆すには至らないというべきである。この点,被告は,本件顧客情報2の顧客の1人である別紙記載10の顧客(D)について,同顧客の方から被告に対しFacebookのメッセージが来たとして,これを聴取書中に引用しているが,同顧客の原告を担当代理店とする保険契 約の保険期間は,平成27年8月5日から平成28年8月5日であり,同年12月7日に担当代理店を変更したことが認められるところ(甲6(32頁),弁論の全趣旨),上記メッセージは,平成27年9月2日のものであるから,このような時期の連絡をもって,訴外会社との契約に至る契機となったものと認めるのは相当とはいえない。 (イ) 本件顧客情報1の各顧客に対する営業行為等について 本件顧客情報1の各顧客はもともと被告がAIU時代に開拓した顧客であり,本件顧客情報2の各顧客と比べ,被告との結び付きは弱いとはいえないものであり,また,被告は,原告在籍時,本件顧客情報1の各顧客の連絡先を,原告から支給された携帯電話ではなく,被告の所有する携帯電話に登録し,同各顧客にはこの携帯電話の番号を教えて連絡を とり,通常の業務を行っていたものである。このことに,本件顧客情報1の顧客(株式会社C)が,保険契約の満期に際し,同社の方から被告に連絡をとっていることが認められること(被告の所有する携帯電話に連絡があったとしても不自然とはいえない。)などを併せ考慮すれば,本件顧客情報1の各顧客については,本件顧客情報2の各顧客と異なり, 被告が,原告からの退職後も,本件顧客情報1の各顧客から直接連絡を受けるなどして本件顧客情報1記載の情報を把握し,同各顧客への営業を行ったことが合理的に推認され, 客情報2の各顧客と異なり, 被告が,原告からの退職後も,本件顧客情報1の各顧客から直接連絡を受けるなどして本件顧客情報1記載の情報を把握し,同各顧客への営業を行ったことが合理的に推認され,被告が,本件顧客情報1を使用して各顧客に対して営業を行ったとは認めるに足りないというほかない。 また,前記のとおり,Bが被告に対して顧客情報を送った趣旨は,被 告が原告在籍時に担当していた顧客について,保険契約の満期が迫っていたにもかかわらず,連絡がとれないことから,被告を問い詰めるためであったものである。そして,本件顧客情報1の各顧客はもともと被告がAIU時代に開拓した顧客であり,本件顧客情報1の各顧客の連絡先も,被告の原告在籍時から,被告が退職時に返還した原告支給の携帯電 話(これには本件顧客情報2の各顧客の連絡先が登録されていた。)ではなく,被告の所有する携帯電話に登録されて通常の業務が行われていたものである。これらを併せ考慮すれば,Bから被告に対する本件顧客情報1の送付については,本件顧客情報2の送付とは異なり,原告からの退職後,当該営業秘密を保有していなかった被告に対して改めて示した ものでもなく,その違法性は必ずしも高いものとまではいえず,上記を もって,法2条1項7号に規定する目的での秘密開示行為や,秘密を守る法律上の義務に違反した秘密開示行為とまでは評価されないというほかなく,これらに係る被告の悪意重過失も認められない。 そうすると,被告において,原告からの退職後等において,Bから送られた本件顧客情報1については,その送付が不正開示行為であること を知りながら,これを取得し,その取得した本件顧客情報1を使用して,同各顧客に対して営業を行ったものということはできない。 ウ以上によれば,被告にお いては,その送付が不正開示行為であること を知りながら,これを取得し,その取得した本件顧客情報1を使用して,同各顧客に対して営業を行ったものということはできない。 ウ以上によれば,被告においては,本件顧客情報2に関し,Bからの取得,使用行為につき,法2条1項8号の不正競争に該当するものとして法的責任が生ずるものであるが,本件顧客情報1に関しては,同号所定の取得, 使用行為が認められず,これに基づく法的責任が生ずるものではないというべきである。 (2) 法2条1項4号又は同項7号の不正競争該当性ア本件顧客情報2に係る不正競争該当性については,上記(1)のとおり,本件顧客情報2の各顧客に対する営業行為につき法2条1項8号の不正競争 に該当するものというべきであり,そうすると,選択的主張と解される法2条1項4号又は同項7号該当性については,検討する必要がないこととなる。 イ他方,本件顧客情報1に係る不正競争該当性については,上記(1)の説示内容に照らせば,被告が,原告からの退職後において,本件顧客情報1を 使用してその各顧客に対する営業行為を行ったとは認められないものであるから,その余の点につき検討するまでもなく,法2条1項7号の不正競争に該当しないものというべきである。 また,原告は,被告が本件顧客情報1を持ち出した行為が,法2条1項4号の「不正の手段により営業秘密を取得する行為」に該当すると主張す る。しかし,被告が具体的に行った行為は,本件顧客情報1の各顧客の連 絡先を,もともと被告所有の携帯電話に登録していたところ,これを消去せずに保持して使用し,同顧客に連絡をとったという行為が認められるものの,これにとどまり,本件顧客情報1の積極的な持ち出し行為に及んだことを認めるに足りる的確な 電話に登録していたところ,これを消去せずに保持して使用し,同顧客に連絡をとったという行為が認められるものの,これにとどまり,本件顧客情報1の積極的な持ち出し行為に及んだことを認めるに足りる的確な証拠はない。さらに,上記の被告の行為について「不正の手段により営業秘密を取得する行為」に当たるかを検討する としても,同号の「不正の手段」については,「窃取,詐欺,強迫その他の不正の手段」と規定されており,刑罰法規に抵触するような行為及び社会通念上これと同視し得る程度の高度の違法性が認められるような行為をいうものであると解されるところ,被告は,上記のとおり,同人が開拓した本件顧客情報1の各顧客の連絡先を,原告支給の携帯電話ではなく被告所 有の携帯電話に登録し,これを消去せずに保持して使用し,同各顧客に連絡をとったにとどまるものである。このような被告の行為内容やその態様に照らすと,これをもって,上記のような高度の違法性が認められるような行為であるということは困難であり,被告の上記行為は上記「不正の手段により営業秘密を取得する行為」に当たるとはいえないというほかない。 そうすると,原告の上記主張は採用することができない。 5 争点4(債務不履行に基づく損害賠償請求の可否)本件顧客情報2に係る不正競争該当性については,上記4(1)のとおり,本件顧客情報2の各顧客に対する営業行為につき法2条1項8号の不正競争に該当するものというべきであり,これに基づく請求を認容すべきであるから,こ れについての予備的請求と解される債務不履行に基づく損害賠償請求については,検討する必要がないこととなる。 そこで,本件顧客情報1に係る被告の行為につき,債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるかにつきみるに,原告は,被告が,本件顧客情報1を く損害賠償請求については,検討する必要がないこととなる。 そこで,本件顧客情報1に係る被告の行為につき,債務不履行に基づく損害賠償請求が認められるかにつきみるに,原告は,被告が,本件顧客情報1を持ち出し,これを使用して本件顧客情報1に係る各顧客に対して営業を行い,同 各顧客と契約を締結したことが,原告の情報を不正使用しない義務,顧客情報 に関する複製物を含む一切の資料を返還する義務,顧客情報等を用いて競業行為を行わない義務に違反する旨主張する。 しかし,上記4で説示したとおり,本件顧客情報1の各顧客については,本件顧客情報2の各顧客と異なり,そもそも被告が,原告からの退職後,Bから送られた本件顧客情報1を使用して各顧客に対して営業を行ったとまではい えないものであって,そうである以上,被告が各顧客に対して営業を行ったことを前提とする債務不履行に係る原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がないというべきである。 6 争点5(不法行為による損害賠償請求の可否)本件顧客情報2に係る不正競争該当性については,前記4(1)のとおり,本件 顧客情報2の各顧客に対する営業行為につき法2条1項8号の不正競争に該当するものというべきであり,これに基づく請求を認容すべきであるから,これについての予備的請求と解される不法行為に基づく損害賠償請求については,検討する必要がないこととなる。 そこで,本件顧客情報1に係る被告の行為につき,不法行為に基づく損害賠 償請求が認められるかにつきみるに,原告は,被告が本件顧客情報1を使用した行為は,自由競争の範疇を超える悪質性の高い行為であるとして,被告が不法行為責任を負う旨主張する。 しかし,前記4で説示したとおり,本件顧客情報1の各顧客については,本件顧客情報2の各顧客と異なり 行為は,自由競争の範疇を超える悪質性の高い行為であるとして,被告が不法行為責任を負う旨主張する。 しかし,前記4で説示したとおり,本件顧客情報1の各顧客については,本件顧客情報2の各顧客と異なり,そもそも被告が,原告からの退職後,Bから 送られた本件顧客情報1を使用して各顧客に対して営業を行ったとまではいえないものであって,そうである以上,被告が各顧客に対して営業を行ったことを前提とする不法行為に係る原告の上記主張は,その前提を欠き,理由がないというべきである。 7 争点6(損害の有無及びその額) (1) 以上によれば,原告は,被告の本件顧客情報2の各顧客に対する営業行為 (法2条1項8号の不正競争に該当)に因り損害を被ったというべきであるところ,原告は,被告の営業行為がなければ,各顧客のいずれについても,原告を保険代理店とする契約の更新が行われ,その場合,契約は,少なくとも5年間は延長されていたといえるとして,その間の手数料を,原告の逸失利益として主張する。 そこで検討するに,前記認定事実に証拠(甲15,証人B)を併せれば,本件顧客情報2の各顧客につき,原告の従業員であったBが,保険契約の満了が迫っていたため連絡をとることを試みていたこと,同各顧客においては,保険契約の内容自体は変えることなく,訴外会社との間で各契約を継続していることがそれぞれ認められ,これらからすれば,被告の営業行為がなけれ ば,本件顧客情報2の各顧客は,担当代理店を原告としたまま,保険契約を更新していたものというべきである。 もっとも,実際に担当代理店を変更している上記各顧客について,本件全証拠をみても,被告の営業行為(法2条1項8号の不正競争に該当)がなかった場合に契約の担当代理店としての原告との関係が,原告が主張するよ とも,実際に担当代理店を変更している上記各顧客について,本件全証拠をみても,被告の営業行為(法2条1項8号の不正競争に該当)がなかった場合に契約の担当代理店としての原告との関係が,原告が主張するよう な5年間もの間継続したことを客観的に裏付けるものは見当たらないところであって,本件顧客情報2の各顧客の保険契約の保険期間が1年間であることなど本件に顕れた諸般の事情を考慮すれば,被告の営業行為(法2条1項8号の不正競争に該当)がなかった場合に契約の担当代理店としての原告との関係が継続した期間は,長くとも2年程度と認めるのが相当である。 (2) そうすると,本件顧客情報2の各顧客に係る年間保険料は,別紙記載1の顧客(株式会社E)が33万9840円,別紙記載2の顧客(株式会社F)が40万1760円,別紙記載10の顧客(D)が14万3040円であること,これらの保険料収入により原告が得られる手数料は20%であることがそれぞれ認められるから(甲10,弁論の全趣旨),原告の逸失利益は,上 記保険料の合計額の2年分である176万9280円の20%である,35 万3856円と認められる。 (計算式)176万9280円×20%=35万3856円(3) そして,本件事案の性質や内容,本件訴訟の審理経過など,本件に顕れた一切の諸般の事情を総合すると,被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用は,15万円と認めるのが相当である。 (4) 以上によれば,被告の不正競争による原告の損害額は,上記(2)及び(3)の合計額である50万3856円であると認められる。 8 小括その他,当事者双方は,縷々主張するが,上記説示を左右するに足りるものはない。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,被告は,本件 顧客情報 56円であると認められる。 8 小括その他,当事者双方は,縷々主張するが,上記説示を左右するに足りるものはない。そうすると,その余の点について判断するまでもなく,被告は,本件 顧客情報2の各顧客につき,法2条1項8号に規定する不正競争に当たる行為を行い,同各顧客の保険契約に係る保険代理店を,原告から訴外会社に変更させ,原告の営業上の利益を侵害し,弁護士費用相当額を含めて50万3856円の損害を与えたものというべきであるが,本件顧客情報1の各顧客については,被告において不正競争を行ったとはいえず,これらの各顧客に係る債務不 履行又は不法行為についても認められないというべきである。 9 結論以上によれば,原告は,被告に対し,法4条に基づく損害賠償請求として,損害金50万3856円及びこれに対する被告の不正競争に当たる行為よりも後の日である平成28年12月7日から支払済みまで民法所定の年5分の 割合による金員の支払を求めることができる。 よって,原告の請求は,この限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官田中孝一 裁判官奥俊彦 裁判官本井修平は,てん補のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官田中孝一 (別紙)省略

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