平成13(う)1166 詐欺被告

裁判年月日・裁判所
平成14年10月8日 大阪高等裁判所
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判決文本文4,219 文字)

主文 原判決を破棄する。 被告人両名はいずれも無罪。 理由 本件各控訴の趣意は,主任弁護人石松竹雄,弁護人竹村寛及び同後藤貞人共同作成の控訴趣意書,「控訴趣意書正誤表」と題する書面及び控訴趣意補充書に各記載のとおりであるから,これらを引用する(なお,弁護人は,控訴趣意のうち,訴訟手続の法令違反,事実誤認及び法令適用の誤りの主張をいずれも撤回すると述べた。)。 各論旨は,結局のところ,第一審判決である原判決の理由不備(すなわち,原判決は,(1)工事完成払金の支払時期を早めた程度を具体的に示さず,また,その時期を早めたことが本来受領できない工事完成払金を騙取したという詐欺が成立するのかについて理由を付していないし,(2)正規の処理券だけを提出した場合に,工事完成検査に合格し,工事完成払金の支払いを受けられるか否か,あるいは,その支払いが遅延するか否かを検討するに当たり,内容虚偽の処理券も提出され,そのことに検査員が気付いた場合に,同検査に合格するか否かに立証命題をすり替えて判断している。)及び理由そご(すなわち,原判決は,「罪となるべき事実」の項では正規の処理券だけを提出したのでは工事完成検査に合格しないことを前提としながら,他方で,「事実認定の補足説明」及び「量刑の理由」の各項では正規の処理券だけを提出しても同検査に合格することを前提にしている。)を主張するものである。 そこで,所論にかんがみ,記録を調査して,検討する。 第1 本件の審理経過 1 本件公訴事実の要旨は,「被告人Aは,B株式会社(以下「B」という。)大阪支店に勤務し,Bが大阪府から請け負った「大阪府営住宅工事」(以下「本件工事」という。)の現場 。 第1 本件の審理経過 1 本件公訴事実の要旨は,「被告人Aは,B株式会社(以下「B」という。)大阪支店に勤務し,Bが大阪府から請け負った「大阪府営住宅工事」(以下「本件工事」という。)の現場所長として,被告人Cは,B東京本店に勤務し,本件工事の主任技術者として,被告人両名とも,同府及び下請け業者との間での工事の進行状況の打合せ及び工事関係書類の整理など本件工事全般を掌理していたものであるが,本件工事に関し,大阪府から工事完成払金の支払いを受けるためには,同府の係員の完成検査を受け,同府が工事代金を支出するに必要な検査調書を作成させなければならないところ,くい打ち工事の掘削現場から排出された汚泥のうち,資格のある収集運搬業者及び中間処理・最終処分業者に正規に処理させた汚泥の量が,真実は合計約45立方メートルにとどまり,さらに不法投棄した汚泥もあったため,完成検査に合格せず,検査調書も作成してもらえないことから,あたかも,525立方メートルの汚泥を関係法令に基づき場外搬出処分したかのように装って完成検査を受け,検査調書を作成させ,工事完成払金を騙取しようと企て,本件工事の下請け業者であるD株式会社代表取締役E及びF協同組合代表理事Gらと共謀の上,あらかじめ,525立方メートルの汚泥が正規に処理された旨記載された内容虚偽の建設業汚泥排水処理券(以下「処理券」という。)を作成した上,平成4年4月30日ころ,本件工事現場所在の大阪府監理事務所内において,同府技術吏員で本件工事の完成検査検査員であったHに対し,これを真正なもののように装って提出し,同人をして処理券は真正で,525立方メートルの汚泥はすべて正規に処理された旨誤信させて,本件工事は適正に行われた旨の検査調書を作成させ,さらに,同年5月6日ころ,B大阪支店長I名義で,工事完成払金 同人をして処理券は真正で,525立方メートルの汚泥はすべて正規に処理された旨誤信させて,本件工事は適正に行われた旨の検査調書を作成させ,さらに,同年5月6日ころ,B大阪支店長I名義で,工事完成払金として7288万円の支払いを大阪府知事に対し請求し,同検査調書及び工事代金請求書の送付を受けた同府J課課長代理Kをして,同様に誤信させて請求金額どおりの工事代金の支払いを決裁させ,よって,同年6月5日ころ,同府L課M係係員をして,N銀行O支店のB大阪支店名義の当座預金口座に,工事代金として7288万円を振替送金させ,もって,これを騙取した。」というものである。 2 第一審裁判所である原審裁判所は,次のように判示するなどして,公訴事実を一部修正する内容で,被告人両名に詐欺罪の成立を認めた。 (1) 本件工事に使用した安定液を再利用した後に最終的にタンク内に貯留した沈殿部分を残土と共に投棄したことが,汚泥の不法投棄に当たるとするには,合理的な疑いがある。 (2) 本件請負契約においては,汚泥の処理量やその処理費が予定より少なかったからといって,代金額が減額され得たとは認められない。 (3) しかし,本件請負契約において,汚泥を適正に処理することはその内容となっており,検査員が処理券の内容が虚偽であることに気付いた場合には,その原因を調査するため,その間,工事完成払金の支払いの前提となる検査調書は作成されず,平成4年4月30日に行われた完成検査において,少なくとも合格が留保されたことが認められる。したがって,被告人両名の行為は,工事が適正に行われた旨の検査調書の作成及びその後の工事完成払金の支払いの決裁と因果関係があり,工事完成払金の支払時期を不当に早めたものというべきである。 3 これに対し,被告人両名が控訴を申し立てたところ,差戻し前 旨の検査調書の作成及びその後の工事完成払金の支払いの決裁と因果関係があり,工事完成払金の支払時期を不当に早めたものというべきである。 3 これに対し,被告人両名が控訴を申し立てたところ,差戻し前の控訴審裁判所は,次のように判示するなどして,原判決を破棄した上,おおむね公訴事実どおりの犯罪事実を認めて,被告人両名を有罪とした。 (1) 原判決の「罪となるべき事実」の項と「事実認定の補足説明」及び「量刑の理由」の各項との間には,理由のそごがある。また,原判決が,汚泥処理量について実際量を申告した場合と本件のような虚偽の申告をした場合とでは支払時期に差異が生じる点で詐欺罪が成立するとしながら,その差異が期間としておよそどの程度かについて何ら判示していないのは,理由不備に当たる。 (2) 本件請負契約において,汚泥の不法投棄によりその汚泥処理費用の実際額が大阪府の見積額を大幅に下回った場合には,それ相応の請負代金が減額されるべきであった。 (3) 前記沈殿部分は,産業廃棄物である汚泥に当たる。 (4) Bは,産業廃棄物であるベントナイト廃液の汚泥の一部を不法投棄したほか,その処理した汚泥の実際量と大阪府の予想量との間に顕著な差があったから,それ相応の請負代金が減額されるべきであったにもかかわらず,被告人両名は,実費を大幅に上回る汚泥処理費用を含めた請負代金を請求して,大阪府を欺罔した。 4 これに対し,被告人両名が上告を申し立てたところ,上告審裁判所は,次のように判示するなどして,差戻し前の控訴審判決を破棄した上,本件における詐欺罪の成否について更に審理を尽くさせるため,本件を当庁に差し戻した。 (1) 上告趣意は,いずれも適法な上告理由に当たらない。しかしながら,本件請負契約にあっては,汚泥処理費用の実際の額が大阪府の見積額 否について更に審理を尽くさせるため,本件を当庁に差し戻した。 (1) 上告趣意は,いずれも適法な上告理由に当たらない。しかしながら,本件請負契約にあっては,汚泥処理費用の実際の額が大阪府の見積額を大幅に下回った場合でも,同府は請負代金の減額請求をすることができない。また,汚泥を場外搬出することを理由に,大阪府に請負代金の減額請求権が発生するともいえない。したがって,差戻し前の控訴審判決には,判決に影響を及ぼすべき法令解釈の誤り及び重大な事実の誤認がある。 (2) 一方,原判決は,内容虚偽の処理券を提出した被告人両名の行為が工事完成払金の支払時期を不当に早めたものとして,詐欺罪の成立を認めているところ,請負人が本来受領する権利を有する請負代金を欺罔手段を用いて不当に早く受領したことをもって詐欺罪が成立するというためには,欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう請負代金の支払いとは社会通念上別個の支払いに当たるといい得る程度の期間支払時期を早めたものであることを要するのに,被告人両名が内容虚偽の処理券を提出したことにより,これを提出しなかった場合と比較して,工事完成払金の支払時期をどの程度早めたかを認定していないから,詐欺罪の成立を認める場合の判示として不十分である。また,被告人両名の行為が工事完成払金の支払時期をどれだけ早めたかについても,記録上,必ずしも明らかでない。したがって,被告人両名に詐欺罪の成立を認めた原判決の判断も,是認し難い。 第2 当裁判所の判断そうすると,原判決には,上告審判決が指摘する理由不備の違法があって,各論旨はこの点で理由があるから,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄することとする。そして,検察官は,差戻し後の当審公判において,上告審裁判所が当裁判所に審理を尽くすことを求めた「被 論旨はこの点で理由があるから,刑訴法397条1項,378条4号により原判決を破棄することとする。そして,検察官は,差戻し後の当審公判において,上告審裁判所が当裁判所に審理を尽くすことを求めた「被告人両名が内容虚偽の処理券を提出したことにより,これを提出しなかった場合と比較して,工事完成払金の支払時期をどの程度早めたか」について,訴因変更の請求や追加立証をしない旨釈明し,また,前記公訴事実のままでは,上告審判決が説示するとおり,罪とならない(なお,上告審判決も説示するように,被告人両名の行為が工事完成払金の支払時期をどれだけ早めたかは記録上明らかでないから,当裁判所が検察官に訴因変更を促す余地はない。)から,刑訴法400条ただし書により更に判決することとし,同法336条により被告人両名に対しいずれも無罪の言渡しをする。 (裁判長裁判官白井万久裁判官大西良孝裁判官磯貝祐一 )

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