令和2(わ)1350 覚醒剤取締法違反

裁判年月日・裁判所
令和3年8月5日 名古屋地方裁判所
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判決文本文10,890 文字)

主文 被告人を懲役3年に処する。 未決勾留日数中300日をその刑に算入する。 この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。 名古屋地方検察庁で保管中の覚醒剤4袋(同庁令和2年領第2424号符号1ないし4)を没収する。 理由 【罪となるべき事実】被告人は,第1 みだりに,令和2年6月22日,名古屋市(住所省略)当時の被告人方において,甲に対し,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約0.8グラムを有償の約束で譲り渡した。 第2 法定の除外事由がないのに,同月中旬頃から同月23日までの間に,愛知県内又はその周辺において,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン又はその塩類若干量を自己の身体に摂取し,もって覚醒剤を使用した。 第3 同日,前記当時の被告人方において,みだりに,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約0.811グラム(名古屋地方検察庁令和2年領第2424号符号1はその鑑定残量)を所持するとともに,氏名不詳者と共謀の上,みだりに,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩を含有する結晶約11.719グラム(名古屋地方検察庁令和2年領第2424号符号2ないし4はその鑑定残量)を所持した。 【争点に対する判断】 1 判示第1(覚醒剤有償譲渡)について⑴ 判示第1につき,甲が,令和2年6月22日(以下,この「争点に対する判断」の項中の日付けはいずれも令和2年のものである。),当時の被告人方(以下,単に「被告人方」ともいう。)にあった覚醒剤約0.8グラムを,代金に ついては(その最終的な支払先が誰かはさておき)後払いとして持ち帰ったこと自体は,被告人も基本的に認めており,その他関係証拠によって十分に認める にあった覚醒剤約0.8グラムを,代金に ついては(その最終的な支払先が誰かはさておき)後払いとして持ち帰ったこと自体は,被告人も基本的に認めており,その他関係証拠によって十分に認めることができる(なお,この1の項では,判示第1の事件を指して「本件」ということがあり,また,甲が持ち帰った上記覚醒剤を「本件覚醒剤」ともいう。)。 もっとも,弁護人は,後記⑵アの被告人の公判供述等にも依拠し,本件覚醒剤の譲渡人は密売人A(匿名の人物であり,以下「A」ともいう。)であって被告人ではなく,本件で被告人が甲に覚醒剤を譲り渡したという事実はないから,被告人は無罪であると主張する。 ⑵アそこで検討すると,本件に至るまでの経過や事件時の状況等について,被告人の公判供述の概要は以下のとおりである。 すなわち,被告人は,「以前から,甲は,自分で使うための覚醒剤が欲しいときは,被告人に連絡した上,被告人と一緒に,Aの居る場所の近くに自動車で行くと,1グラムにつき3万円の購入代金を被告人に預け,被告人は,これを持って1人でAのところに赴き,上記購入代金と引き換えにAから覚醒剤1グラムないし2グラムくらいを受け取って,この覚醒剤を待っている甲に渡していた。令和2年6月初め頃,Aは,被告人に対し,覚醒剤の商売を辞めたいから,Aが持っている覚醒剤を甲に全部買ってもらいたいと言ってきた。そこで,被告人は,このことを甲に伝えた上,甲が金を持っていなかったことから,10グラム以上の覚醒剤をAからひとまず預かったものの,その後,Aの言葉に自身への不審を感じたため,いったんAにこの覚醒剤を戻した。もっとも,後にAから被告人のもとに覚醒剤を持っていきたいと再度言われたことなどから,被告人は,代金を支払うことは後日になることを念のためAに確認した上, じたため,いったんAにこの覚醒剤を戻した。もっとも,後にAから被告人のもとに覚醒剤を持っていきたいと再度言われたことなどから,被告人は,代金を支払うことは後日になることを念のためAに確認した上,再び覚醒剤を預かることとした。そして,6月15日,甲に対して,明日からまた覚醒剤を預かることになった旨を伝え,6月17日頃,Aから10グラム以上の覚醒剤を預かった。6月22日未明の 電話で,甲は,被告人に対し,覚醒剤を1グラム分欲しい,金がないので金は25日でいいですかなどと言ってきたので,被告人は『いいよ。』と言い,受取りに便利なように,Aから預かった覚醒剤から約1グラムずつを複数袋小分けして用意した。その後,甲が被告人方を訪れ,本件覚醒剤1袋を持って帰った。」などと供述している。 この被告人の公判供述については,捜査段階供述から変遷していると見るべき部分もあるものの,その述べる経過は甲の公判供述とも大きく齟齬はしておらず(ちなみに,甲は,Aから覚醒剤を受け取るため被告人と一緒に行っていた場所について,愛知県小牧市にある公団住宅のようなところの付近と述べている。),大筋において前提とすることはできるものと考えられる。 イ前記アで見た事実経過等をも踏まえつつ,被告人は,被告人方にあった10グラム以上の覚醒剤はそもそも甲のものであって,これをAの直接の知り合いである被告人が一時的に保管してあげていたに過ぎず,6月22日には甲は自分の覚醒剤を持ち帰っただけであるという趣旨を述べている(本件につき覚醒剤有償譲渡罪の成立を争う弁護人の前記⑴の主張も,基本的に同旨と考えられる。)。 しかし,覚醒剤取締法41条の2所定の「譲り渡し」とは,相手方に対し,当該覚醒剤についての事実上の処分権限を与え,かつ,自己の支配下にある覚醒剤の 主張も,基本的に同旨と考えられる。)。 しかし,覚醒剤取締法41条の2所定の「譲り渡し」とは,相手方に対し,当該覚醒剤についての事実上の処分権限を与え,かつ,自己の支配下にある覚醒剤の支配を相手方に事実上移転させることをもって足りると解される。 これを本件について見ると,6月22日に甲が被告人方から持ち帰った本件覚醒剤は,その数日前から被告人が単身生活する自宅に置いていた10グラム以上の覚醒剤の一部であり(前記ア),被告人の事実上の支配下にあったというべきものである。そして,被告人は,甲が金を持っていなかったこともあって,Aから受け取ったこの10グラム以上の覚醒剤を甲に全部渡すことなく,被告人自身で保管していたものであるところ,6月22日に,甲から3日後に代金を支払うとして覚醒剤1グラム分を求められこれを自ら了承 し,一部小分けにした覚醒剤を用意した上,その中から本件覚醒剤1袋を訪れた甲に持ち帰ってもらったというのである(前記ア)。こうした経過等に照らすと,覚醒剤購入代金の後払いに関しては予めAに一般的な了解を得ていたのだとしても,甲との個々直接の関係では,本件覚醒剤1袋について事実上の処分権限を与えたのはあくまで被告人であると評価することができ,また,被告人は,これを甲に持ち帰ってもらうことで本件覚醒剤1袋の支配を甲に事実上移転したものといえる。 したがって,(6月22日の前後において被告人自身は本件覚醒剤を所有したことはなく,さらに,被告人が甲に本件覚醒剤1袋を直接手渡ししてはいなかったとしても,)被告人が6月22日に甲に本件覚醒剤を持ち帰らせたことは,覚醒剤取締法の解釈適用上,(代金後払いの約束による有償での)覚醒剤の譲渡しに当たるということになる。 ウよって,判示第1のとおり覚醒剤有償譲渡罪の成 日に甲に本件覚醒剤を持ち帰らせたことは,覚醒剤取締法の解釈適用上,(代金後払いの約束による有償での)覚醒剤の譲渡しに当たるということになる。 ウよって,判示第1のとおり覚醒剤有償譲渡罪の成立を認めた(なお,関係証拠中には本件覚醒剤の量が「約0.8グラム」であることを端的に示す証拠は見当たらないが,甲及び被告人とも,本件覚醒剤の量につき「約1グラム」という趣旨を供述しているから,この「約1グラム」の範囲内で,公訴事実のとおりの本件覚醒剤の量を認定した。)。 ⑶ ところで本件に関して補足すると,検察官は,甲は令和2年8月3日一宮警察署留置施設で勾留中の被告人に対し,本件覚醒剤の譲渡しに際して後払いとされた購入代金3万円と同額の現金を差し入れているところ,これは甲が上記代金の支払とする趣旨を込めて差し入れたものであるから,被告人が本件覚醒剤有償譲渡に係る「薬物犯罪の犯罪行為により得た財産(薬物犯罪収益)」に当たるとして,「愛知県一宮警察署会計課会計課金庫内に委託保管中の令和2年(む)第7924号の没収保全命令に係る現金3万円(内訳,1万円札3枚)」の没収を求めている。 確かに,甲は,本件第5回公判期日等で,8月3日に差し入れた現金3万円 については,(その供述内容には相当曖昧な部分があるものの,)本件で後払いの約束をしていた覚醒剤購入代金3万円の借金を被告人に返したものであるという趣旨も述べている。しかし,①甲が購入する覚醒剤の代金の支払は,以前から,Aのもとに持参するという仕方で行われていたものであり(前記⑵ア),Aとの間の購入代金の授受自体は被告人が仲介していたとはいえ,最終的な支払先は本来Aのはずであるし,また,例えば,本件覚醒剤の購入代金を,被告人が予めAに立替払いしており,かつ,その旨甲に告げていた Aとの間の購入代金の授受自体は被告人が仲介していたとはいえ,最終的な支払先は本来Aのはずであるし,また,例えば,本件覚醒剤の購入代金を,被告人が予めAに立替払いしており,かつ,その旨甲に告げていたという事情もうかがわれない。そうであるとすると,勾留中でAのところに金銭を持参することもできない状況にある被告人に対し,甲が覚醒剤購入代金を支払うというのは得心がいかない。②甲は,本件第5回公判期日において,「8月3日に差し入れしようとした金額が本件覚醒剤の購入代金と一緒だったので,後払いの代金の代わりになればと思って差し入れた。」との趣旨を供述するようであるが,この3万円の差入れをした8月3日の時点では,甲は,本件覚醒剤の購入代金は3万5000円であると思っていたはずであるから(後記③),後払いの代金と金額が一緒だったと言う甲の上記供述は理解が困難である。この点,甲は,自分が覚醒剤の入手を被告人に頼まなければ事件になることはなく,被告人に対して負い目を感じていたため,この3万円の差入れ以外にも勾留中の被告人に対し複数回現金を差し入れているというのであって,前記3万円の差入れもただ単にこうした迷惑料等の趣旨のものであった(そして,一宮警察署留置施設で差入れ可能な金額の上限は3万円であるため,結果として同額の現金を差し入れることとなった)に過ぎないとの可能性も多分にあるように思われる。 なお,③甲は,自身の覚醒剤所持等の事件でも,捜査段階から公判段階(令和2年9月16日の第1回公判期日)にかけて,本件覚醒剤の値段は3万5000円であると供述していたところ,本件第5回公判期日では,令和2年12月末くらいになって,ATMから自身の預貯金を引き出したときの以前の明細を見た際に3万円であることを思い出したと供述しているが,その供述内容は極 ろ,本件第5回公判期日では,令和2年12月末くらいになって,ATMから自身の預貯金を引き出したときの以前の明細を見た際に3万円であることを思い出したと供述しているが,その供述内容は極 めて曖昧であって,上記金額についての記憶や供述を変遷させたことの合理的な理由とはなし得ない。 このように,検察官が,8月3日に差し入れられた現金3万円が本件覚醒剤の購入代金の支払でもあったことの根拠とする甲の供述には,曖昧不自然な点が少なくなく,この供述をそのまま前提とすることはできない。そして,その他関係証拠によっても,前記現金3万円の差入れに覚醒剤購入代金の支払とする趣旨が込められていたと認めるには足りない。 よって,前記の現金3万円について判示第1の薬物犯罪収益と認めることはできないから,この現金を没収する旨の言渡しはしない。 2 判示第2(覚醒剤自己使用)について⑴ 弁護人は,判示第2の覚醒剤自己使用の事件(以下,この2の項では,判示第2の事件を指して「本件」ともいう。)に関する警察官の捜査には重大な違法があり,その過程で収集された証拠は違法収集証拠として排除されるべきものであって,その結果,被告人の覚醒剤自己使用の事実を証明するに足りる証拠はないことに帰するから,被告人は無罪であると主張する。 ⑵アここで,違法収集証拠をいう弁護人の主張を更に具体的に見ると,弁護人は,「令和2年6月23日に被告人方の捜索がなされた際,被告人は,警察官の1人から,使用済みの注射器が出た,と言われ,袋に入った注射器1本を見せられた(以下,警察官の上記発言を指して『本件発言』と,また,上記注射器1本を指して『本件注射器』ともいう。)。この警察官の近くにいた乙警察官も,『ポンプ出た,ポンプ出た。』などと言っていた。被告人は,使用済みの注 官の上記発言を指して『本件発言』と,また,上記注射器1本を指して『本件注射器』ともいう。)。この警察官の近くにいた乙警察官も,『ポンプ出た,ポンプ出た。』などと言っていた。被告人は,使用済みの注射器が出たということならば自分が使用したということなのだろうと観念して,自分が注射器で覚醒剤を使用したということを前提に捜査に協力してきた。しかし,その後,捜査の過程で,被告人が警察官に対していくら尋ねても本件注射器が示されることはなく,本件発言は全くの虚偽であり,本件注射器も捏造されたものとしか考えられない。こうした重大違法な 捜査手続を出発点としてなされた,被告人の尿についての鑑定,被告人の自白に係る証拠は違法収集証拠として排除されるべきである。」というのである。 イこの点,6月23日の被告人方での捜索の際に使用済みの注射器が発見されたことを記した捜査報告書等は一切提出されておらず,検察官は,同日に押収された未開封の注射器を,被告人は使用済みの注射器を示されたと勘違いした可能性があるなどとしている。 しかし,被告人は,捜査段階から,警察官に対し,6月23日の捜索の際に見つかった注射器を出すように繰り返し求めていたようにうかがわれる。 これが検察官のいうような勘違いの可能性などとにわかに断ずることはできないし,また,被告人にあえて本件につき自己の罪責を軽減させようとする態度は見受けられず,被告人において,身体拘束の長期化を押してまで本件発言や本件注射器の存在に関して殊更虚偽の主張に固執する理由は見い出せない。 これに対し,6月23日の捜索を実施した警察官らのうち一部の警察官(いずれも,被告人がいう本件発言をした警察官とは別の丙警察官,丁警察官)は,使用済みの注射器が6月23日の押収品にはなかったので本件発言は し,6月23日の捜索を実施した警察官らのうち一部の警察官(いずれも,被告人がいう本件発言をした警察官とは別の丙警察官,丁警察官)は,使用済みの注射器が6月23日の押収品にはなかったので本件発言はないと思うとか,本件発言については記憶にないと供述しているが,いずれも被告人と他の警察官とのやり取りを始終聞いていたというわけではなく,両警察官の供述によって被告人の前記主張が直ちに排斥されるものではない。 ウそれに加え,7月8日に,乙警察官らが被告人方の捜索を改めて実施した際,室内床上に,袋に入っていない由来不明の注射器1本(液体入りのもの)が落ちているのを発見したとされているところ,7月8日の捜索を実施した警察官のうち丁警察官は,たぶん6月23日の捜索漏れだと思うと供述し,戊警察官は,捜索漏れの可能性や,1回目(6月23日)と2回目(7月8日)の捜索の間に誰かが入って置いていった可能性を述べ,また,丙警察官 は,自分たちの捜索の見落としか,捏造があったとしか考えられないと供述している。 まず,6月23日の捜索漏れの可能性については,当該注射器が物の散乱していない床上に置かれていたとされていることや(なお,6月23日の捜索の際に被告人方室内を撮影した写真撮影報告書では,この床上に注射器は存在していない。),戊警察官も,以前捜索差押えをしていた場所だったので,なぜそういったものがあるのかと思ったと供述し,丙警察官も,そこに注射器が落ちていたらさすがに気付くはずという場所にあったと述べていることなどからすると,この捜索漏れの可能性が高いとは思われない。また,6月23日の捜索終了後,被告人方は施錠がされ,それ以降被告人方の鍵は7月8日まで留置施設で保管されていたことなどからすると,その間に捜査機関以外の第三者が,被告人方に立ち入 とは思われない。また,6月23日の捜索終了後,被告人方は施錠がされ,それ以降被告人方の鍵は7月8日まで留置施設で保管されていたことなどからすると,その間に捜査機関以外の第三者が,被告人方に立ち入って注射器を置いて行ったという状況も具体的に想定はし難い。 ところで,捏造の可能性について,検察官は,既に提出されていた被告人の尿から覚醒剤成分が検出されていたなどの当時の状況下で,警察官が使用済みの注射器をあえて捏造する動機は全くないとする。しかし,乙警察官は,7月8日の捜索終了後一宮警察署に向かう警察車両内で,被告人が「あの注射器を使って最後の覚醒剤を使った。最後の覚醒剤をやってから,次回に覚醒剤ができるように注射器に覚醒剤水溶液を入れた」と申し立てたとの捜査報告書を作成しているが,この由来不明の注射器からは人由来の成分のみならず覚醒剤成分も検出されておらず,この捜査報告書は信用できないものといわなければならない。以上の一連の捜査に携わった乙警察官は,本件第4回公判期日への証人出廷が予定されていた矢先の▲▲月▲▲日に自殺をしており,上記捜査報告書が作成された理由などはもはや不明であるが,いずれにせよ,7月8日における由来不明の注射器の発見状況だけでなく,こうした不自然な捜査報告書まで存在するということも併せるならば,これら捜査 の過程には少なくとも警察官による何らかの作為が介在した疑いが払拭できない。 そして,このように本件捜査の過程に疑義があることは,6月23日の捜査状況に関する警察官の供述の信用性を慎重に見ることに繋がり,その反面として,本件発言があったことや本件注射器を実際に示されたことについての被告人の供述の信用性を高める一事情にもなると思われる。 エもっとも,こと6月23日における捜索の場面に限っては,捜 反面として,本件発言があったことや本件注射器を実際に示されたことについての被告人の供述の信用性を高める一事情にもなると思われる。 エもっとも,こと6月23日における捜索の場面に限っては,捜索開始後ほどなく被告人方からは覚醒剤様の白色結晶等が発見され,被告人自身もこれが覚醒剤であると認めていたという状況があり,そうした状況の下で,警察官が本件注射器に関してあえて虚偽の言動等をしなければならない必然性はあるかという視点も働き得る。それに加えて,被告人自身も,「室内のテーブルの下から警察官が『使用済みの注射器出たぞ。』と言って示してきた袋入りの注射器について,自分は誰がいつどういう理由で置いたのかを知っていたので,出たぞと言われたときに,あの注射器が出たんだとすっと分かった。」などと,本件注射器が以前から被告人方に存在していた状況を述べているところである。 その上で,被告人は,こうした経過等も踏まえ,同日に判示第3の覚醒剤所持の嫌疑によって現行犯逮捕され一宮警察署に引致された後は,抵抗することも文句を言うこともなく尿の提出に応じた,ともしている。 被告人が,覚醒剤を素直に提出するなどしていた上記の状況で,「仮に本件発言や本件注射器の提示がなければ尿の任意提出はしなかった」とはにわかにいい難いようにも思われるが,その点はさておくとしても,いずれにせよ,被告人の上記供述を前提にするとなおさら,6月23日の捜索の時点で,警察官が,殊更虚偽の本件発言を口にしたり被告人方には存在していなかった注射器を捏造するなどし,これにより被告人が尿の提出に至ったなどという状況にもないことになる。すなわち,6月23日における尿の任意提出ま での捜査経緯自体には,(本件注射器の保全等に関しては不備があったということになるかもしれないものの ったなどという状況にもないことになる。すなわち,6月23日における尿の任意提出ま での捜査経緯自体には,(本件注射器の保全等に関しては不備があったということになるかもしれないものの,)少なくとも重大な違法とまでの事情は見い出せないというべきである。なお,前述したように,それ以降の捜査過程には警察官による作為が介在した疑いを容れざるを得ないものの,前記ウで検討したところからうかがわれる程度の捜査上の疑義によって,尿提出に至るまでの過程自体に遡って重大な違法があったとか,その重大違法な捜査手続によって被告人が尿を提出したということに直ちになるものではない。 そして,このように提出された尿がそのまま科捜研での鑑定に付され,これにより被告人の尿についての鑑定書が作成されたと認められるから,結局,この鑑定書は違法収集証拠には当たらず,本件の事実認定に供することに格別問題はないといえる。 ⑶ そこで更に検討を進めると,このように証拠能力が肯定される鑑定書により,被告人の尿から覚醒剤成分が検出されたことが認められるということ自体,尿提出日(令和2年6月23日)から遡った合理的な期間内に,被告人が覚醒剤をそれと知って身体に摂取したことを十分推認させるものである。そして,当時,被告人の生活の本拠が名古屋市であり,被告人が,令和2年6月初めや中旬頃以降も名古屋市に居たことを前提とする趣旨の供述をしていること(前記1⑵ア)のほか,被告人の供述によれば,当時,被告人と覚醒剤との接点は愛知県小牧市付近に居住するAのみであったことなども併せると,被告人が令和2年6月中旬頃から同月23日までの間に覚醒剤を摂取したのが,愛知県内又はその周辺であったことも推認できる。 ところで,判示第2の主位的訴因(令和2年7月31日付け起訴状公訴事実) 人が令和2年6月中旬頃から同月23日までの間に覚醒剤を摂取したのが,愛知県内又はその周辺であったことも推認できる。 ところで,判示第2の主位的訴因(令和2年7月31日付け起訴状公訴事実)は,「被告人は,法定の除外事由がないのに,令和2年6月22日頃,名古屋市(住所省略)被告人方において,覚醒剤であるフェニルメチルアミノプロパン塩酸塩若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚醒剤を使用した」というものである。 しかし,被告人は,本件捜査の過程に不審を抱き,公判段階では,本件覚醒剤自己使用の有無等についてはほぼ黙秘に徹したところ,前述したような警察官による作為が介在した疑いなどに照らすと,被告人がこうした応訴態度を示した心情には相応に理解できる面があるように思われる。このような審理経過や,本件についての取調べ等の過程が十分に解明されていない(乙警察官が死亡したことによりそもそも十分な解明ができない)状況で,被告人が覚醒剤の使用状況等を述べる各検察官調書については,検察官の取調べ自体には特段の問題がなかったとしても,その信用性を十分に吟味することは困難というべきである。そうすると,(前記⑵エの点等を踏まえると必ずしも違法収集証拠として証拠排除にまでは至らないとしても,)これら検察官調書にも依拠して前記主位的訴因に係る事実を認定することは相当ではないと判断する。 以上の検討結果により,令和3年6月10日付け予備的訴因追加請求書記載の公訴事実同旨の判示第2覚醒剤自己使用の事実を認定した次第である。 【法令の適用】罰条判示第1の所為につき覚醒剤取締法41条の2第1項判示第2の所為につき同法41条の3第1項1号,19条判示第3の所為につき同法41条の2第1項(氏 令の適用】罰条判示第1の所為につき覚醒剤取締法41条の2第1項判示第2の所為につき同法41条の3第1項1号,19条判示第3の所為につき同法41条の2第1項(氏名不詳者と共謀の上行った行為について更に刑法60条)併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第3の罪の刑に法定の加重)未決勾留日数の算入刑法21条刑の執行猶予刑法25条1項没収(判示第3) 覚醒剤取締法41条の8第1項本文訴訟費用の処理刑事訴訟法181条1項ただし書(不負担)なお,判示第1の譲渡に係る覚醒剤と思料されるものの残量(名古屋地方検察庁 令和2年領第2201号符号1)については,甲に対する判決で既に没収の言渡しがされ,この判決は確定していると認められるから,本件で重ねて没収の言渡しはしない。 【量刑の理由】本件で被告人が所持した覚醒剤の量は相当量に上り(判示第3),これが拡散した場合に社会に及ぼす悪影響は大きいものであった。被告人が,現に甲に覚醒剤を譲渡したと認めるべきことや(判示第1),覚醒剤を自己使用したこと(判示第2)も含め,被告人の刑事責任は全体として決して軽視できない。もっとも,被告人は判示第1から第3までの基本的な事実関係については認めるか又は殊更に争うものではないと評価できるところ,今後は犯罪と関わるような人物や組織には近づかないことを決意している。覚せい剤取締法違反罪による服役終了からは25年以上が,また,異種前科による最後の服役からも10年以上が経過していることに加え,今般,旧来の知人が被告人の更生を支えていく旨を上申している。そして,被告人は,本件で長期間勾留されており,相当程度の社会的制裁を受けたともいい得る 後の服役からも10年以上が経過していることに加え,今般,旧来の知人が被告人の更生を支えていく旨を上申している。そして,被告人は,本件で長期間勾留されており,相当程度の社会的制裁を受けたともいい得る。そこで,これらの諸事情を総合考慮して,主文の量刑とした。 (求刑懲役3年,覚醒剤〔判示第3〕及び薬物犯罪収益〔判示第1〕の各没収)令和3年8月12日名古屋地方裁判所刑事第4部 裁判長裁判官辛島 明 裁判官井上敦子 裁判官後藤沙彩

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