平成27年7月30日判決名古屋高等裁判所平成27年(ネ)第227号債務不存在確認等請求控訴事件(原審・名古屋地方裁判所平成26年(ワ)第3088号)主文 1 原判決を取り消す。 2 本件を名古屋地方裁判所に差し戻す。 事実 及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の控訴人に対する請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 第2 事案の概要 1 本件は,弁護士である被控訴人が控訴人から委任を受けて訴訟追行をした民事訴訟事件の終了後に,控訴人が同事件について被控訴人に支払った費用や報酬合計72万5000円の返還を求め,平成26年2月15日から同年7月19日にかけて被控訴人の事務所を訪問するなどしたところ,被控訴人が,上記返還義務は存在せず,控訴人の上記返還請求は通常の請求方法を逸脱し不法行為に該当すると主張して,控訴人に対し,上記返還義務の不存在の確認と,損害賠償請求権に基づき80万円及びこれに対する不法行為の日より後である訴状送達日の翌日以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 原審は,被控訴人の申立てに基づき,控訴人を受送達者として本件に係る訴状(以下「本件訴状」という。)副本等を公示送達の方法により送達し,本件各請求をいずれも理由があるとして認容し,控訴人に対し,原判決を公示送達の方法により送達したところ,控訴人は,原判決について公示送達の方法としての掲示を始めた日の翌日から2週間を経過した後に,原判決を不服として控 訴した。 2 本件の争点は,本件における公示送達の有効性であり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (控訴人の主張)被控訴人は,公示送達申立ての時点において,控訴人 控 訴した。 2 本件の争点は,本件における公示送達の有効性であり,これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (控訴人の主張)被控訴人は,公示送達申立ての時点において,控訴人の肩書住所地である現住所(以下「現住所」という。)の電話番号及び控訴人が使用していたファックス番号を知っていたから,弁護士法23条の2所定の照会申出をするなどして,上記番号から控訴人の現住所を知ることができたのに,上記照会申出をしないまま,公示送達を申し立てた。控訴人は,郵便約款の定めるところにより現住所を届け出て,平成26年7月30日までの間及び同年8月17日から平成27年8月17日までの間,郵便物が現住所に転送される手続をとり,控訴人が平成26年7月24日,原判決に控訴人の最後の住所として記載されている住所(以下「旧住所」という。)に宛てて発送した暑中見舞いのはがきは,現住所に転送され,被控訴人に還付されることはなかったのに,被控訴人は,転居届の有無等について何ら調査しないまま,公示送達を申し立てた。 よって,本件における公示送達は,民事訴訟法110条1項1号の要件を満たしているとはいえないから,違法であり無効である。 (被控訴人の主張)控訴人は,住民基本台帳法に基づく転居届をせず,平成26年7月9日にしたA弁護士会に対する苦情の申出や平成27年2月にした債権差押命令に対する執行抗告の際に,自己の住所を旧住所と偽るなど,転居の事実を秘匿していた。弁護士法23条の2第2項所定の照会により,控訴人の住所の報告を求めても,個人情報保護や守秘義務を理由に回答を得られないことが多いのであるから,意味がない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被控訴 義務を理由に回答を得られないことが多いのであるから,意味がない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 被控訴人は,平成24年1月17日,控訴人から,B協会が控訴人を被告として訴えを提起した債務不存在確認請求事件(名古屋地方裁判所平成23年(ワ)第C号)について訴訟追行の委任を受け,着手金及び費用として42万円を受領し,同年2月9日,同協会を被告とする損害賠償請求反訴事件(同裁判所平成24年(ワ)第D号)を提起した(以下,これらを併せて「別件訴訟事件」という。)(甲1,2)。 被控訴人は,平成25年1月18日頃,別件訴訟事件の訴訟代理人を辞任し,控訴人は,同月24日,別件訴訟事件について,同協会との間で,同協会が控訴人に見舞金100万円を支払う旨の訴訟上の和解をした。 (2) 被控訴人は,平成25年2月22日,A弁護士会に対し,控訴人が被控訴人に対し,別件訴訟事件の着手金及び費用として支払済みの上記42万円の返還を求めていると主張して,控訴人を相手方として,上記金員の返還義務がないことの確認などを求める紛議調停を申し立てたが,控訴人との間で,同年3月6日,控訴人が被控訴人に別件訴訟事件の報酬として10万円を支払い,被控訴人が上記紛議調停申立てを取り下げることなどを合意した(甲6,7)。 被控訴人は,同年3月21日,控訴人から,別件訴訟事件について和解の効力を争うために改めて訴訟追行の委任を受けて費用として5万円を受領し,同年4月2日,同事件の受訴裁判所に対し,口頭弁論期日の指定を求める申立てをしたが,同裁判所は,同年9月17日,別件訴訟事件は上記和解の成立により終了した旨の判決をし,被控訴人は,控訴人から,上記判決に対する控訴の提起及び控訴審に 対し,口頭弁論期日の指定を求める申立てをしたが,同裁判所は,同年9月17日,別件訴訟事件は上記和解の成立により終了した旨の判決をし,被控訴人は,控訴人から,上記判決に対する控訴の提起及び控訴審における訴訟追行の委任を受け,着手金として14万5000円を受領し,名古屋高等裁判所に控訴を提起したが,同裁判所は,平成26年1月31日,控訴を棄却する旨の判決をした(甲8~1 0)。 (3) 控訴人は,被控訴人に別件訴訟事件の追行を委任する前から旧住所に居住し,名古屋市a区の事務所で自動車販売業,保険代理業を経営し,ブティックを経営していたこともあったが,被控訴人は,これらのことを控訴人から聞いていた(甲2)。 控訴人は,平成25年7月頃までに旧住所から現住所に転居したが,電話については従前どおりの番号(以下「本件電話番号」という。)を使用しており,同月末頃,郵便約款の定めるところにより,平成26年7月30日までの間,旧住所宛ての郵便物を現住所に転送することを求める届出をしており,被控訴人が同月24日に旧住所宛てに発送した暑中見舞いのはがきは,同月30日までに現住所に転送された(乙1)。 もっとも,控訴人は,現在に至るまで,住民基本台帳法に基づく転居届をしておらず,住民票上には住所として旧住所が記載されている。 (4) 控訴人は,平成26年7月9日,A弁護士会に対し,別件訴訟事件における被控訴人の訴訟追行が控訴人の意向に反していたから着手金及び報酬等として支払った72万5000円を返してほしいとの苦情を申し入れ,被控訴人は,同弁護士会から,その旨の連絡をファックスにより受信したが,ファックス文書には,申出人として,控訴人の氏名,旧住所及び本件電話番号が記載されていた(甲11)。 控訴人は,同月15日,被控訴人の事務所を訪れ ら,その旨の連絡をファックスにより受信したが,ファックス文書には,申出人として,控訴人の氏名,旧住所及び本件電話番号が記載されていた(甲11)。 控訴人は,同月15日,被控訴人の事務所を訪れ,金員の返還を求めるなどし,警察官複数名が駆けつける騒ぎとなった。 (5) 被控訴人は,平成26年7月23日,名古屋地方裁判所に本件訴状を提出して本件訴えを提起し,受訴裁判所は,第1回口頭弁論期日を同年9月19日午後1時15分と指定した。 (6) 控訴人は,平成26年7月24日,控訴人が以前経営し,現在も役員を務めているブティックに設置されたファックスを使用して被控訴人の事務所に 文書を送信したが,同文書が記載された書面にはそのファックス番号(以下「本件ファックス番号」という。)が印字されていた。 被控訴人は,同月24日頃から同月25日までの間,本件ファックス番号に宛ててファックス文書を送信し,控訴人と複数回,ファックスによるやり取りをした。(以上,甲15~18)(7) 本件の受訴裁判所の書記官は,平成26年8月5日,期日呼出状,本件訴状副本,準備書面副本に加え,同年7月25日に被控訴人から提出された本件電話番号が記載されたA弁護士会からの前記(4)のファックス文書(甲11)を含む書証(甲1~11)写し等(以下「本件訴状副本等」という。)につき,控訴人の住民票上の住所である旧住所に宛てて郵便による送達をしたが,上記書面等は,同年8月7日,宛所に尋ねあたらないとの理由で還付され,担当書記官は,その旨を被控訴人に通知した。 被控訴人は,同月15日,受訴裁判所の書記官に対し,同月8日に取り寄せた控訴人の住民票上の住所は旧住所であり,同所の共同住宅を訪問したところ,表札はなく,室内は消灯され,カーテンが取り外されていた,同共同住宅の 月15日,受訴裁判所の書記官に対し,同月8日に取り寄せた控訴人の住民票上の住所は旧住所であり,同所の共同住宅を訪問したところ,表札はなく,室内は消灯され,カーテンが取り外されていた,同共同住宅の所有者に問い合わせたところ,控訴人は家賃を滞納し,転居先を告げないまま平成25年中に転居したとの回答を得たなどとして,公示送達を申し立て,同月20日,上記申立ての補充として,控訴人の就業場所も不明であり,曜日や時間帯のいかんにかかわらず,被控訴人に面談を求めていたことから,近年は就業していなかったと考えるなどと記載した書面を提出した。 (8) 受訴裁判所の書記官は,平成26年10月3日,上記申立てに基づき,本件訴状副本等に加え,同年9月18日に被控訴人から提出された本件ファックス番号が記載された当事者間の前記(6)のファックス文書(甲15~17)を含む書証(甲12~18)写しを公示送達し,受訴裁判所は,同月31日,第1回口頭弁論期日を実施し,被控訴人による本件訴状及び上記準備 書面の陳述並びに上記各書証の取調べをして弁論を終結し,同期日において,判決言渡期日を同年11月14日午後1時15分と指定する裁判を言い渡した。 受訴裁判所は,同日の第2回口頭弁論期日において,民事訴訟法254条1項2号の方式で原判決を言い渡し,受訴裁判所の書記官は,同日,同期日の調書の正本につき,公示送達の方法としての掲示を始めた。 (9) 被控訴人は,平成27年2月頃,名古屋地方裁判所に対し,執行文の付された原判決の正本に基づき,控訴人の預金債権に対する債権執行を申し立て,同裁判所は,同月2日,上記債権に対する債権差押命令を発し,上記差押命令の正本は,旧住所に宛てて郵便による送達がされたが,現住所に転送され,同月12日,控訴人に交付された。 控訴人は, 申し立て,同裁判所は,同月2日,上記債権に対する債権差押命令を発し,上記差押命令の正本は,旧住所に宛てて郵便による送達がされたが,現住所に転送され,同月12日,控訴人に交付された。 控訴人は,同月18日,名古屋地方裁判所に本件控訴状を提出して控訴を提起した。 2(1) 上記1(7)の認定事実によれば,被控訴人は,控訴人の住民票上に住所と記載された旧住所に赴き,控訴人が同所に居住している形跡があるか否かを調査し,同所の共同住宅の所有者に控訴人の居住の有無を確認し,同所有者から,控訴人が転居先を告げないまま平成25年中に転居した旨の回答を得たほかには,控訴人の現在の住所,営業所又は事務所については探索せず,本件電話番号に架電したり,直前に控訴人とやり取りした本件ファックス番号に宛てて問い合わせ文書を送付したりすることのないまま,公示送達を申し立てたと認められる。 (2) しかし,上記1の認定事実によれば,被控訴人は,控訴人の職業や事務所を聞いていた上,別件訴訟事件が終了した後も,別件訴訟事件における訴訟活動をめぐって控訴人との間で紛争をかかえ,控訴人が平成26年7月にA弁護士会に苦情を申し立てた際には,同弁護士会からの連絡文書により,本件電話番号を知らされたほか,本件訴え提起の直後である同月2 4日頃から同月25日にかけて,本件ファックス番号を使用して控訴人と文書でやり取りしていたのであるから,上記事務所に赴いてその所在地等を調べたり,上記電話番号に架電又は本件ファックス番号に宛てて文書を送信して控訴人と連絡をとり,現在の住所を問い質したりすることは容易にできたと考えられ,仮に,控訴人が現在の住所を明らかにしなかったとしても,弁護士法23条の2所定の照会申出をして自らこれを調査し,民事訴訟法186条の調査嘱託の申立てをし い質したりすることは容易にできたと考えられ,仮に,控訴人が現在の住所を明らかにしなかったとしても,弁護士法23条の2所定の照会申出をして自らこれを調査し,民事訴訟法186条の調査嘱託の申立てをして裁判所に調査を求めることができたと考えられる。また,被控訴人は,本件訴え提起の頃に控訴人宛てに発送した暑中見舞いのはがきの還付を受けていないのであるから,公示送達申立ての時点において,上記はがきが転送された可能性が高いことを容易に推測できたと考えられるが,同申立ての際にこのことを裁判所に申し出ていない。 (3) 本件における公示送達の申立ては,上記のようにその前段階に取るべき種々の調査手段があったにもかかわらず,これらを一切経ることなくされたものであり,民事訴訟法110条1項1号の要件を満たしたものとはおよそ認めることができない。 また,これを受けた受訴裁判所の書記官は,本件電話番号や本件ファックス番号が記載された書証が提出されているにもかかわらず,被控訴人がこれらについて全く言及しないまま公示送達の申立てをしているのであるから,上記番号から控訴人の現住所を探索できないか否かを被控訴人に質すか,又は自ら探索を試みるべきであったと考えられるが,これらの措置が取られた形跡はない。 したがって,本件における公示送達は,その要件を満たさない申立てに基づき,しかも要件の有無を十分に調査せずにされたものであって,無効というほかない。 (4) 被控訴人は,控訴人が住民基本台帳法に基づく転居届をせず,自己の住所 を旧住所と偽り続け,転居の事実を秘匿していたと主張するが,上記(3)で説示したとおり,被控訴人にとって控訴人の現在の住所や事務所等を探索する種々の手段があったのに,これらを一切経ることなく公示送達を申し立てた本件においては,上記の していたと主張するが,上記(3)で説示したとおり,被控訴人にとって控訴人の現在の住所や事務所等を探索する種々の手段があったのに,これらを一切経ることなく公示送達を申し立てた本件においては,上記の事情は,上記判断を左右するものではない。 また,被控訴人は,弁護士法23条の2所定の照会申出をしても,個人情報保護や守秘義務を理由に控訴人の住所について回答を得られないことが多く,意味がないと主張するが,訴えの提起に当たって被告の住所が不明な場合に,これを調査するために弁護士法23条の2所定の照会や民事訴訟法186条の調査嘱託をする場合には,照会先又は嘱託先がこれに回答すべき義務は,秘密保持義務に優先すると解すべきであるから,これらの手段を経ることが無意味であるとは到底いえず,被控訴人の上記主張は理由がない。 3 以上によれば,本件における公示送達は無効であり,原判決について適式な送達がされているとはいえないから,本件控訴は控訴期間が経過する前にされた適法なもので,また,本件訴状が適式に送達されないまま審理判断された点において原審における訴訟手続は法律に違反しており,かつ,本件については更に弁論をする必要があると認められるので,民事訴訟法305条,308条1項に基づき,原判決を取り消し,本件を名古屋地方裁判所に差し戻すこととし,主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第4部 裁判長裁判官藤山雅行 裁判官長谷川恭弘 裁判官秋武郁代 郁代
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