平成25(ネ)10042 特許専用実施権に基づく損害賠償請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
平成25年10月17日 知的財産高等裁判所 4部 判決 控訴棄却 東京地方裁判所 平成23(ワ)34272
ファイル
hanrei-pdf-83674.txt

キーワード

判決文本文13,629 文字)

平成25年10月17日判決言渡同日原本受領裁判所書記官平成25年ネ第10042号特許専用実施権に基づく損害賠償請求控訴事件原審・東京地方裁判所平成23年ワ第34272号口頭弁論終結日平成25年9月5日判決控訴人株式会社スター訴訟代理人弁護士橋爪健訴訟代理人弁理士近藤豊被控訴人 訴訟代理人弁護士伊藤真同平井佑希訴訟代理人弁理士梶原克彦主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,8000万円及びこれに対する平成23年10月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも,被控訴人の負担とする。 4 仮執行宣言第2 事案の概要本判決の略称は,原判決に従う。 1 本件は,発明の名称を「板金用引出し具」とする2つの特許権について,独占的通常実施権ないし専用実施権を有する控訴人が,被控訴人の製造販売に係る板金用引出装置が当該各特許権を侵害しているなどと主張して,不法行為による損害賠償請求権に基づき,特許法102条1項の推定による損害金2億5634万6000円の一部請求として8000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成23年10月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合 に基づき,特許法102条1項の推定による損害金2億5634万6000円の一部請求として8000万円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成23年10月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。原判決は,被控訴人の製造販売に係るイ号製品は本件発明1及び3の技術的範囲に属しない,ロ号製品について間接侵害は成立しない,イ号製品は本件発明2及び4の技術的範囲に属するものの,本件発明2及び4に係る特許はいずれも進歩性を欠くものとして無効とされるべきものであるから,本件発明2及び4に係る特許を侵害するものではないと判断して,控訴人の請求を棄却したため,控訴人が,これを不服として控訴したものである。 2 前提事実原判決の「事実及び理由」の第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。 3 争点原判決の「事実及び理由」の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。第3 争点に関する当事者の主張次のとおり,争点2-2(進歩性要件違反の有無)について,当審における当事者の主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。  1 当審における控訴人の主張 乙1発明の認定の誤りについて乙1の1の英文中「」とあるのを,乙1の2(訳文)では「スライド可能に支持され」と訳されているが,これは「スライドするように維持され」と訳すのが適当であり,同じく「 」とあるのを,乙1の2(訳文)では「スライド可能に支持され」と訳されているが,これは「スライド可能に維持され」と訳すのが適当である。したがって,原判決中,乙1発明の認定において,乙1の1の英文が「 (訳文)では「スライド可能に支持され」と訳されているが,これは「スライド可能に維持され」と訳すのが適当である。したがって,原判決中,乙1発明の認定において,乙1の1の英文が「」とある箇所は「スライドするように維持され」と,「」とある箇所は「スライド可能に維持され」と認定されるべきである。したがって,乙1発明において,「チャックアセンブリ(70)は,フレーム(12)にスライド可能に維持される( )スライドロッド(74)と,スライドロッドの一端に取り付けられるチャック(72)とを備え」るものであって,スライドロッド(74)はフレーム(12)にスライド可能に支持されてはいない。同様に,「チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材(12)を通過する孔(66)内でスライドするように維持される()」のであり,チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材(12)を通過する孔(66)内でスライド可能に支持されるものではない。 一致点の認定の誤りについてア本件発明2では,支持部は「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部」として形成され,この支持部は「手動操作により第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」が備えており,セカンドレバーを引き上げても引き上げなくても,支持部を介してシャフトや第1の操作手段は支持部に支持されている。これに対し,乙1発明では,スライドロッド(74)は「フレーム(12)にスライド可能に維持される(slidablysupported)」ものであり,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持するものではなく,フレーム( スライドロッド(74)は「フレーム(12)にスライド可能に維持される(slidablysupported)」ものであり,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持するものではなく,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持する支持部を形成していない。したがって,原判決にはこの点を相違点3として認定しなかった誤りがある。 イ本件発明2では,第2の操作手段のばねは,常にセカンドレバーを付勢し,第2の操作手段を手に把持しメインレバーとセカンドレバー間をばねに抗しながらつぼめ,その途中で第2の操作手段を把持する手を放しても,その状態で,ばねはセカンドレバーを付勢し続けており,その後に第2の操作手段を使って連続して板金の引き出しを行い,板金面をゆっくりと引き上げ平滑化することができる。これに対し,乙1発明では,バネ(80)はチャンバ(60)内に設けられ,チャック部材(76)の上部(78)と肩部(64)との間に介在させたものであって,静止ハンドル(16)と可動ハンドル(20)との間に介在させたものではないから,バネ(80)は,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(82)と逆の延長方向(83)に移動させるためのものである。したがって,原判決にはこの点を相違点4として認定しなかった誤りがある。 相違点1についてア乙1発明の引き込み部分の係合部材(100)は,チャックアセンブリ(70)を構成するチャック(72)に取り付けられたボルトにより構成されており,シャフト先端部に板金面に溶着可能なビットは配設されておらず,溶着,引き上げ,取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行うためのものではない。 すなわち,乙1発明は,塑性変形を観察及び監視しながら,単に金属外板の表面のくぼみ部分を元の形状 おらず,溶着,引き上げ,取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行うためのものではない。 すなわち,乙1発明は,塑性変形を観察及び監視しながら,単に金属外板の表面のくぼみ部分を元の形状に復帰させるくぼみ矯正装置を提供する発明であり,同発明には,細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出すくぼみ矯正装置を提供する着想はなく,乙1には,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながら,くぼみの矯正を行うことは一切記載されていない。イこれに対し,本件発明2は,板金作業を熟練を要することなく迅速かつ確実にして効率よく行うことができ,しかも板金面の平滑化を容易に達成でき(甲4,【0005】),出し作業を終えた後に更に細部の引き出しを必要とする場合,引き出し箇所が比較的小領域凹部である場合,あるいは引き出し箇所が極めて特殊な場所である場合にも,細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出すのに便利な板金用引出し具を提供する発明であり(甲4,【0006】),自動溶着機能付スタッド溶接機と組み合わせることでビットの溶着,引き出しを連続して行えるようにし,例えば板金作業面が自動車のボディである場合に,あらゆる場所を引き出すことが可能な板金用引出し具を提供する発明である(甲4,【0030】)。ウそして,乙2ないし8の解決課題には,板金面に溶着するビット等の先端に細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出す発明は一切記載されておらず,乙1も含めて,本件発明2が目的としている前記解決課題及び解決課題に関連した記載又は開示はなく,これを示唆する記載もない。したがって,本件相違点1については,乙2ないし8があっても,乙1発明に本件発明に想到するための動機付けとなるものがなく,乙1発明に基づいて当業者が本件発明 開示はなく,これを示唆する記載もない。したがって,本件相違点1については,乙2ないし8があっても,乙1発明に本件発明に想到するための動機付けとなるものがなく,乙1発明に基づいて当業者が本件発明に容易に想到することはない。 相違点2ないし4についてア前記のとおり,乙1発明では,バネ(80)はチャンバ(60)内に設けられ,チャック部材(76)の上部(78)と肩部(64)との間に介在させたものであって,静止ハンドル(16)と可動ハンドル(20)との間に介在させたものではないから,バネ(80)は,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(82)と逆の延長方向(83)に移動させるためのものであり,同発明には,細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出すくぼみ矯正装置を提供する着想はなく,乙1には,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながら,くぼみの矯正を行うことは一切記載されていない。イこれに対し,本件発明2では,前記のとおり,第2の操作手段のばねは,常にセカンドレバーを付勢し,第2の操作手段を手に把持しメインレバーとセカンドレバー間をばねに抗しながらつぼめ,その途中で第2の操作手段を把持する手を放しても,その状態においても,ばねはセカンドレバーを付勢し続けており,その後に第2の操作手段を使って連続して板金の引き出しを行い,板金面をゆっくりと引き上げ平滑化することができる。ウそして,乙9ないし13には,板金面に溶着するビット等の先端に細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出す発明は一切記載されておらず,乙1も含めて,本件発明2が目的としている前記解決課題及び解決課題に関連した記載又は開示はなく,これを示唆する記載もない。したがって,本件相違点2については,乙9ないし1 載されておらず,乙1も含めて,本件発明2が目的としている前記解決課題及び解決課題に関連した記載又は開示はなく,これを示唆する記載もない。したがって,本件相違点2については,乙9ないし13があっても,乙1発明に本件発明に想到するための動機付けとなるものがなく,乙1発明に基づいて当業者が本件発明に容易に想到することはない。エ相違点3については,乙1発明に,乙2ないし13の先行技術を組み合わせることの示唆,教唆あるいは動機付けは皆無であり,乙1発明に基づいて当業者が本件発明に容易に想到することはない。オ相違点4については,乙1発明において,バネ(80)の位置を静止ハンドル(14)と可動ハンドル(20)との間に介在させた場合,チャックアセンブリ(70)はバネからフリー状態になり,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向と逆の延長方向に移動する作用効果は生じ得ないこと,乙1発明に本件発明に想到するための動機付けがないことから,乙1発明に基づいて当業者が本件発明に容易に想到することはない。 2 当審における控訴人の主張に対する被控訴人の主張  乙1発明の認定の誤りについて本件発明2の支持部について,特許請求の範囲の請求項1には「該第1 の操作手段のシャフトを支持する支持部を備え」と記載されているのみであり,支持の方向や態様,支持の時期については何ら限定されていない。そして,「支持」とは,「ささえること。ささえて持ちこたえること。」を意味するから,本件発明2における「支持」は,シャフト又は第1 の操作手段を「ささえて」いれば足り,その支持の方向や態様,支持の時期については何ら限定されるものではない。したがって,乙1発明のフレーム部材(12)がチャックアセンブリ(70)を支持していることは明らかである ささえて」いれば足り,その支持の方向や態様,支持の時期については何ら限定されるものではない。したがって,乙1発明のフレーム部材(12)がチャックアセンブリ(70)を支持していることは明らかである。 また,「support」を,「<物・人を>支える。倒れ[沈み]こまないようにしておく」と訳すことに何らの問題はなく,なぜ控訴人が「支持」が誤りで,「維持」が正しいと主張するのか,その論拠が不明である。 以上のとおり,原判決がフレーム部材(12)が支持部に相当すると認定したことは正当であって何ら誤りはない。  一致点の認定の誤りについてア前記(1)のとおり,原判決がフレーム部材(12)が支持部に相当すると認定したことは正当であって何ら誤りはないから,本件発明2と乙1発明との間には控訴人主張に係る相違点3は存在しない。イ相違点の抽出に際して,特許発明と対比されるべき引用発明として,原判決は,バネ(80)が「チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(32)と逆の延長方向(33)に移動させるため」のものであるという点は認定しておらず,控訴人もこの点を争っていない。引用発明として認定されていない点を相違点の抽出に際して考慮することは進歩性の判断手法として許されない。そもそも控訴人が主張するような,ばねを配置する目的などは,発明の構成ではなく,相違点の認定において考慮されるものではない。相違点の抽出に当たり認定される発明の要旨は,特許請求の範囲に基づいて認定されるものであり,発明の目的や効果,ましてやある部材を配置する目的などを論じること自体が無意味である。 さらに,乙1 発明のバネ(80)と可動ハンドル(20)の作用に関する記載からは,バネ(80)は可動レバー(20)を付勢する作用を果たしていることは明ら る目的などを論じること自体が無意味である。 さらに,乙1 発明のバネ(80)と可動ハンドル(20)の作用に関する記載からは,バネ(80)は可動レバー(20)を付勢する作用を果たしていることは明らかであり,チャックアセンブリ(70)それ自体を付勢することに意味があるものではない。したがって,セカンドレバーを付勢している本件発明2のばねと,可動ハンドル(20)を付勢している乙1発明のバネ(80)との間に目的においても相違はない。 相違点1についてア本件発明2及び引用発明において,係合部材は,第1の操作手段のシャフトの先端に配設されて,板金面と係合して板金面を引き上げるという機能を果たすものであり,そのような機能を果たす限り,どのような係合部材を用いるかは当業者が適宜選択し得る設計事項にすぎない。乙1発明の特許請求の範囲においても,具体的にどのような係合部材を用いるかを当業者の任意の選択に委ねている。そして,係合部材として溶着ビットを用いることは板金用引出し具の分野においては周知な技術であり,任意の設計事項である係合部材の選択において,溶着ビットを選択することは当業者にとって極めて容易かつ自然なことである。イ控訴人は,引用発明の係合部材(100)は,溶着,引き上げ,取り外しという一連の作業により板金面の引き出し作業を行うためのものではないと主張するが,係合部材の相違に由来する効果等の相違を論ずること自体,進歩性の判断においては無意味である。上記一連の作業により板金面の引き出し作業を行うことができるのは,板金面に接触させることで溶着ビットを板金面に係合することができるという自動溶着機能付スタッド溶接機の効果そのものであり,本件発明2の構成から導かれるものではない。また,控訴人は,乙2ないし8には,板金面に せることで溶着ビットを板金面に係合することができるという自動溶着機能付スタッド溶接機の効果そのものであり,本件発明2の構成から導かれるものではない。また,控訴人は,乙2ないし8には,板金面に溶着するビット等の先端に細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出す技術思想はないと主張するが,この点は,従来の板金用引出し具においては,操作用アームを閉成する力に抗するように作用するばねが配設されていないため,細やかな(微妙な)力を加えながら引き出すことには必ずしも適していなかったという課題を,そのような作用をするばねを配設して解決したという意味を有するにすぎず,係合部材の選択に係る相違点1とは無関係の事柄である。 相違点2ないし4についてア引用発明においては,ばね(80)は可動レバー(20)を付勢する作用を果たしているが,当業者がそのために,ばねをどこに配設するかは任意の設計事項にすぎない。そして,レバー間にばねを配設することは,乙9ないし13,乙28ないし30,乙32ないし42のとおり,周知技術である。板金作業場を見渡すだけでもレバー間にばねが配設された工具類はあふれているのであり,このような周知技術に触れた当業者が,引用発明において可動ハンドル(20)を付勢するために,端的にハンドル間にばねを配設することを想到することは当然である。イ控訴人は,本件発明2におけるばねはセカンドレバーを「常に」付勢してい ると主張するが,本件発明2の特許請求の範囲には,「このばねにより前記セカンドレバーを付勢させ,」と記載されているのみであり,常に付勢しなければならないという記載は一切なく,その直後の記載と合わせれば,レバー間をつぼめる際にばねがセカンドレバーを付勢していれば足りることが明らかである。そして,控訴人が引 いるのみであり,常に付勢しなければならないという記載は一切なく,その直後の記載と合わせれば,レバー間をつぼめる際にばねがセカンドレバーを付勢していれば足りることが明らかである。そして,控訴人が引用する記載は,本件2明細書の一実施例に関するものにすぎず,本件特許請求の範囲に記載のない,特定の実施例を根拠に主張すること自体が誤りである。そして,控訴人が主張するような作業の連続性は,前記のとおり本件発明2の構成から導かれる効果ではなく,本件発明2とは別個の機械である自動溶着機能付スタッド溶接機の効果そのものであり,ばねの位置とは無関係である。第4 当裁判所の判断 1 当裁判所も,控訴人の本訴請求は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決の「事実及び理由」の第3の1及び2のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における控訴人の主張に対する判断 乙1発明の認定の誤りについてア控訴人は,乙1の1の英文中「」とあるのを,乙1の2(訳文)では「スライド可能に支持され」と訳されているが,これは「スライドするように維持され」と訳すのが適当であり,同じく「 」とあるのを,乙1の2(訳文)では「スライド可能に支持され」と訳されているが,これは「スライド可能に維持され」と訳すのが適当である旨主張する。 しかしながら,「supported」を「支持され」と訳すことは一般的な用語例である上,控訴人も「supported」の語が単独で使用されるときには「支持され」と訳しており,「supported」の直前に「slidingly」又は「slidably」が置かれた場合のみ「suppo 上,控訴人も「supported」の語が単独で使用されるときには「支持され」と訳しており,「supported」の直前に「slidingly」又は「slidably」が置かれた場合のみ「supported」を「維持され」と訳しているが,かかる区別には何らの合理的理由も見いだせない。また,控訴人の主張によれば,控訴人は控訴人が請求人となって被控訴人の有する甲12の特許権について無効審判(無効2011-800168)を請求した際に,証拠として本件訴訟における乙1の1の刊行物を証拠として提出するとともに,その翻訳文も併せ提出したが,その翻訳文は乙1の2と全く同一の文面であり,乙1の2は控訴人が上記無効審判において提出した翻訳文そのもののコピーであって,乙1の2の作成者は控訴人であるとのことであり,また,控訴人は原審における平成24年5月1日付け第3準備書面及び同年8月3日付け原告第4準備書面で,乙1の1の英文中の上記箇所について乙1の2と同一の訳を付して主張していたことが認められる。そして,「slidingly」を「スライド可能に」と訳すことが正確性を欠くとはいえない。 以上の検討によれば,乙1の2(訳文)の内容に不適切な点はなく,控訴人の上記主張は理由がない。 イ控訴人は,乙1発明において,「チャックアセンブリ(70)は,フレーム(12)にスライド可能に維持される( )スライドロッド(74)と,スライドロッドの一端に取り付けられるチャック(72)とを備え」るものであって,スライドロッド(74)はフレーム(12)にスライド可能に支持されてはおらず,同様に,「チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材(12)を通過する孔(66)内でスライドするように維持される( ーム(12)にスライド可能に支持されてはおらず,同様に,「チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材(12)を通過する孔(66)内でスライドするように維持される()」のであり,チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材(12)を通過する孔(66)内でスライド可能に支持されるものではない旨主張する。 しかし,乙1発明において,「チャックアセンブリ(70)は,フレーム(12)にスライド可能に支持されるスライドロッド(74)と,スライドロッドの一端に取り付けられるチャック(72)とを備え」るものであるから(特許請求の範囲2項。乙1の2・11頁),スライドロッド(74)はフレーム(12)にスライド可能に支持されており,同様に,「チャックアセンブリ(70)は,チャンバ(60)とフレーム部材(12)を通過する孔(66)内でスライド可能に支持される」ものということができる(乙1の2・5頁)。したがって,乙1発明の認定に誤りがある旨の控訴人の上記主張も理由がない。 一致点の認定の誤りについてア控訴人は,本件発明2では,支持部は「第1の操作手段のシャフトを支持する支持部」として形成され,この支持部は「手動操作により第1の操作手段を引き上げる第2の操作手段」が備えているのに対し,乙1発明では,スライドロッド(74)は「フレーム(12)にスライド可能に維持される(slidablysupported)」ものであり,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持するものではなく,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持する支持部を形成していないから,原判決にはこの点を相違点3として認定しなかった誤りがある旨主張する。 しかしながら,前記のとおり, のではなく,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持する支持部を形成していないから,原判決にはこの点を相違点3として認定しなかった誤りがある旨主張する。 しかしながら,前記のとおり,スライドロッド(74)はフレーム(12)にスライド可能に支持されており,フレーム(12)はスライドロッド(74)を支持する支持部を形成していることは明らかであるから,控訴人の上記主張は理由がない。イ控訴人は,本件発明2では,第2の操作手段のばねは,常にセカンドレバーを付勢させているのに対し,乙1発明では,バネ(80)は,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(82)と逆の延長方向(83)に移動させるためのものであるから,原判決にはこの点を相違点4として認定しなかった誤りがある旨主張する。 しかしながら,本件発明2においては,ばねを「メインレバーとセカンドレバーとの間に介在」させて「セカンドレバーを付勢させ」ているのに対し,乙1発明においては,バネをスライドロッド(74)を中心にしてチャンバ(60)内のチャック部材(76)の上端(78)と肩部(64)との間に介在させることによって,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(82)と逆の延長方向(83)に移動させているものであるが,かかるバネの効果の相違は,バネを,本件発明2のようにメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させるか,乙1発明のようにフレーム部材とチャックアセンブリとの間に介在させるかによって生じ得る相違にすぎない。乙1発明は,チャックアセンブリ(70)(第1の操作手段の一部)とフレーム(12)(第2の操作手段の一部)の間にバネ(80)を配置することによって,可動ハンドル(20)を,静止ハンドル(14)との間をバネ(80)に抗しながらつ (70)(第1の操作手段の一部)とフレーム(12)(第2の操作手段の一部)の間にバネ(80)を配置することによって,可動ハンドル(20)を,静止ハンドル(14)との間をバネ(80)に抗しながらつぼめて金属外板(130)の引き出しを行うものであって,バネ(80)の付勢力はチャックアセンブリ(70)を介して可動ハンドル(20)に作用していることは明らかであるから,乙1の記載に接した当業者は,乙1発明のバネの技術的意義について,実質的には可動ハンドルに付勢するバネとしてこれを理解するものである。そうすると,乙1発明においては,バネ(80)は,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(82)と逆の延長方向(83)に移動させるものであるとともに,チャックアセンブリ(70)を介して可動ハンドルに付勢するものとして構成されているのであるから,本件発明2においてばねがセカンドレバーを付勢していることと,乙1発明においてバネがチャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向(82)と逆の延長方向(83)に移動させ,これにより,チャックアセンブリ(70)を介して可動ハンドルに付勢していることとの間には実質的な相違はない。したがって,控訴人主張に係る相違点4は実質的な相違点ではなく,相違点2(本件発明2においては,ばねをメインレバーとセカンドレバーとの間に介在させているのに対し,乙1発明においては,フレーム部材とチャックアセンブリとの間に介在させている点)を検討する以外に,相違点4を独立の相違点として取り上げてこれを検討する必要はないというべきである。また,控訴人は,相違点4について,乙1発明において,バネ(80)の位置を静止ハンドル(14)と可動ハンドル(20)との間に介在させた場合,チャックアセンブリ(70)はバネからフリー状 である。また,控訴人は,相違点4について,乙1発明において,バネ(80)の位置を静止ハンドル(14)と可動ハンドル(20)との間に介在させた場合,チャックアセンブリ(70)はバネからフリー状態になり,チャックアセンブリ(70)をバイアスさせて引き込み方向と逆の延長方向に移動する作用効果は生じ得ない旨主張する。 控訴人の上記主張の趣旨は明らかではないが,本件発明2の特許請求の範囲には,第2の操作手段であるばねが,第1の操作手段を引き上げる方向と逆の延長方向に移動させる作用効果を有するとの記載はないから,控訴人の上記主張は,本件発明2の特許請求の範囲に基づかない主張であり失当というほかない。 (3) 相違点1について控訴人は,乙1発明は,塑性変形を観察及び監視しながら,単に金属外板の表面のくぼみ部分を元の形状に復帰させるくぼみ矯正装置を提供する発明であって,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながらくぼみの矯正を行うとの着想はなく,そのような記載も一切なく,また,乙2ないし8にも,板金面に溶着するビット等の先端に細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出す発明は一切記載されておらず,このように,乙1及び乙2ないし8には,本件発明2が目的としている解決課題及びこれに関連した記載,開示又は示唆はないから,乙2ないし8があっても,乙1発明に基づいて当業者が本件発明2に容易に想到することはない旨主張する。しかしながら,乙2ないし8の開示事項は,いずれも自動車等の板金のくぼみを修正する工具に関するものであり,乙1発明とは技術分野が共通するとともに,板金用引出し具において,シャフトと板金面とを係合させるために,シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えるとの技術は,板金のくぼみを引き上げるため 発明とは技術分野が共通するとともに,板金用引出し具において,シャフトと板金面とを係合させるために,シャフトの先端部に配設し板金面に溶着可能なビットを備えるとの技術は,板金のくぼみを引き上げるために板金面に係合する部材を固定する点で,乙1発明の「くぼみ係合部材」と使用目的において共通する。したがって,乙1発明の「くぼみ係合部材」に代えて,技術分野及び使用目的が共通する「溶着可能なビット」を用いることは,当業者であれば適宜選択し得る事項と認められる。 そして,細やかな(微妙な)力を加えながら板金面を引き出すかどうかは,操作者が凹んだ板金面を見て,どのように引き出したら板金面の修復に合理的かを判断して実施する作業内容にすぎず,係合手段として何を用いるかとの事項と直接関係することではない。そうすると,乙1発明及び乙2ないし8に,仮に,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながらくぼみの矯正を行うとの着想や記載がなかったとしても,そのこと自体は,乙1発明の「くぼみ係合部材」を「溶着可能なビット」に置き換えることの阻害要因となるものではない。 したがって,相違点1についての控訴人の主張は理由がない。 (4) 相違点2について控訴人は,乙1及び乙9ないし13には,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながらくぼみの矯正を行うとの本件発明2が目的としている解決課題及びこれに関連した記載,開示又は示唆はないから,乙9ないし13があっても,乙1発明に基づいて当業者が本件発明2に容易に想到することはない旨主張する。しかしながら,前記(3)と同様に,乙1及び乙9ないし13に,仮に,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながらくぼみの矯正を行うとの記載,開示又は示唆がなかったとしても,そのこと自体は かしながら,前記(3)と同様に,乙1及び乙9ないし13に,仮に,くぼみに係合する係合部材に細やかな(微妙な)力を加えながらくぼみの矯正を行うとの記載,開示又は示唆がなかったとしても,そのこと自体は,乙1発明に乙9ないし13の技術を適用して,静止ハンドルと可動ハンドルとの間にバネを介在させ,このバネにより可動ハンドルを付勢させることに置き換えることの阻害要因となるものではない。 また,乙9ないし13の開示事項は,いずれも,可動ハンドル式手動工具において,可動ハンドルを構成する一対のレバーの間にバネを配置し,バネの付勢力によって,押し出し,引き戻しの動きを与える構成が記載されており,このようにレバー(ハンドル)の間にバネを配置し,ばねの付勢力によって,押し出し,引き戻しの動きを与える手動工具は周知のものであった。そして,乙1発明もバネの付勢力に抗して対向するハンドル操作によって押し出し,引き戻しの動きを与える手動工具である点で技術分野が共通するものであり,一対のレバー間にバネにより付勢力を与える点で作用及び機能も共通する。したがって,相違点2に係る構成については,乙1発明に乙9ないし13の技術を適用することに障害はなく,これにより,当業者が容易に想到し得たものということができる。  3 結論よって,控訴人の本訴請求は理由がなく,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官富田善範裁判官田中芳樹裁判官荒井章光 中芳樹 裁判官 荒井章光

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る