昭和46(う)295 労働基準法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和48年2月1日 広島高等裁判所
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判決文本文4,579 文字)

主文 本件各控訴を棄却する。当審における訴訟費用は全部被告会社ならびに被告人の連帯負担とする。理由 本件各控訴の趣意は弁護人小河正儀作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する検察官の答弁は同作成の答弁書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。所論は要するに、原判決が原判示化学設備の一部をなすダクト(導管)の内部に付着した硫黄粉末を取り除く作業を行なうために、ダクトの掃除口に取り付けられた盲フランジ(管の末端を閉塞する盲板)を取り外して、これを開放することが、労働安全衛生規則(以下、規則という)一三七条の七に規定する化学設備の清掃作業をする場合に該り、かつそれが同条所定の化学設備の分解作業に該当するものとして同条を適用したことは法令の適用を誤つたものである、というのである。よつて按ずるに、同条が化学設備やその付属設備の改造、修理、清掃などのために、これらの設備を分解する作業や内部作業を行なうに際し、あらかじめ作業の方法と順序を定めるとともに、作業の指揮者を定め、その者に危害を防止するため必要な措置を行なわせるべきことを規定したのは、これらの作業に際し、化学設備の内部に残留している危険物や、設備に連絡している配管を通じて漏洩してくる危険物によつて、その作業に従事する労働者が危害を蒙る危険のあることにかんがみ、かかる危険を防止するため、右の措置を行なわせるべきことを定めたものと解される。そこで、いまこれを本件についてみると、原判決挙示の証拠ならびに当審における事実取調の結果によると、(1)原判示工場設備は、ゴムの加硫促進剤等の製造過程において生ずる廃ガスである毒性の強い硫化水素ガスを、水蒸気と硫黄とに分解処理し、同時 判決挙示の証拠ならびに当審における事実取調の結果によると、(1)原判示工場設備は、ゴムの加硫促進剤等の製造過程において生ずる廃ガスである毒性の強い硫化水素ガスを、水蒸気と硫黄とに分解処理し、同時に硫黄を回収することを目的とする化学設備であつて、原判示の作業は、右化学設備の操業に伴なつて、その設備の一部をなす水洗滌塔から出る残留硫化水素ガスを排気塔を通じて大気中に放出する過程において、水洗滌塔上部から排気塔までの間をつなぐダクトの内部に次第に硫黄の粉末が付着し、これが右硫化水素ガスの流通を阻害し、ひいては反応炉の圧力を増大して硫化水素ガスの漏洩をも生ずるおそれがあるため、右化学設備の操業中、八時間毎に一回宛、各種バルブを完全に閉止するなどしたうえ右ダクトの途中に設けられた掃除口を開けて、ダクト内部に付着した硫黄の粉末を取り除く作業をいうものであること、(2)右のダクトは直径二〇センチメートルの円筒形の鉄製導管で、途中四ヶ所において、屈曲して水平部分、垂直部分、傾斜部分をなし、これらの屈曲部にはそれぞれ合計五ケ所に及ぶ掃除口が設けられ、該掃除口にはいずれも盲フランジが取り付けられていること、(3)右盲フランジは直径三三センチメートル、厚さ二センチメートル、円周部に一二個のボルト穴のある鉄製菊型フランジで、ダクトとの接着箇所には、ガスケツト(薄板状のパツキング)を嵌め込み、四分の三インチのボルト、ナツト数本でダクトヘの取付部に緊締する仕組みになつていること、(4)このような掃除口の構造は、もし外気が掃除口からダクトの内部へ流入すれば、水洗滌塔から出る残留硫化水素ガスを排気塔へ導出する排気フアンの効率が低下して、硫化水素ガスの流通を阻害し、ひいては反応炉の圧力が増してダクトの硫化水素ガスの漏洩や、燃焼炉内の硫化水素ガスの爆発する危険があるた のパツキング)を嵌め込み、四分の三インチのボルト、ナツト数本でダクトヘの取付部に緊締する仕組みになつていること、(4)このような掃除口の構造は、もし外気が掃除口からダクトの内部へ流入すれば、水洗滌塔から出る残留硫化水素ガスを排気塔へ導出する排気フアンの効率が低下して、硫化水素ガスの流通を阻害し、ひいては反応炉の圧力が増してダクトの硫化水素ガスの漏洩や、燃焼炉内の硫化水素ガスの爆発する危険があるた 出る残留硫化水素ガスを排気塔へ導出する排気フアンの効率が低下して、硫化水素ガスの流通を阻害し、ひいては反応炉の圧力が増してダクトの硫化水素ガスの漏洩や、燃焼炉内の硫化水素ガスの爆発する危険があるため、これを防止するために操業中は掃除口を厳重に密閉してダクトの内部を外気から完全に遮断する必要を考慮したことによるものであること、(5)原判示工場労働者A、同Bが昭和四四年六月一八日誤つて右化学設備に設置された反応ガスバルブを完全に閉止しないまま、前記ダクトの内部に付着した硫黄の粉末を取り除く作業に着手すべく、右掃除口の盲フランジ一個を取り外したため、該部から硫化水素ガスが漏洩して、右A及び同工場労働者Cが硫化水素中毒によつて死亡し、右Bら同工場労働者五名が同中毒に罹患する事故が発生したことが認められる。<要旨第一>(一) そこでまず、原判示の作業すなわち、右に認定したダクトの内部に付着した硫黄の粉末を取り除く作業</要旨第一>が、果たして規則一三七条の七所定の化学設備の清掃作業に該るか否かの点から検討するに、右に認定した作業の目的、内容、とくにそれが前記のように作業の手順を誤ることによつて、毒性の強い硫化水素ガスの漏洩を生ずる危険のある作業であることと、一方、同条の規定の趣旨、とくにそれが前記のとおり危険物の漏洩による労働災害の防止を立法の眼目としていることに徴すると、右の作業は同条にいう「化学設備の清掃」を行なう場合に該るものといわなければならない。所論は、同条が清掃を改造、修理と併列的に規定している条文上の文理に照らしても、ここにいわゆる「清掃」とは、改造、修理に比すべき程度のもの、すなわち一定の期間を置いて行なう定期検査のように長期間にわたつて設備の運転操作の停止を伴なう場合のみを指称すると解すべきものであつて、本件の場合のよう 「清掃」とは、改造、修理に比すべき程度のもの、すなわち一定の期間を置いて行なう定期検査のように長期間にわたつて設備の運転操作の停止を伴なう場合のみを指称すると解すべきものであつて、本件の場合のように設備の操業中八時間毎に一回という高い頻度で日常的に行なわれる清掃はこれに該らないという。 査のように長期間にわたつて設備の運転操作の停止を伴なう場合のみを指称すると解すべきものであつて、本件の場合のよう 「清掃」とは、改造、修理に比すべき程度のもの、すなわち一定の期間を置いて行なう定期検査のように長期間にわたつて設備の運転操作の停止を伴なう場合のみを指称すると解すべきものであつて、本件の場合のように設備の操業中八時間毎に一回という高い頻度で日常的に行なわれる清掃はこれに該らないという。しかし、同条が「改造、修理、清掃等を行なう場合……」と定めたのは、単に作業規模の大きい設備の改造から、これが小規模なものへと順次列記したにすぎないものと認められるから、同条が所論のように清掃作業のうち、とくに改造、修理に比すべきほど作業規模の大きいもののみに限定して適用されるべき趣旨を定めたものであるとは解されず、また作業の頻度や所要時間の長短のごときは、同条にいう清掃の観念を左右すべき事由とは考えられない。<要旨第二>(二) ついでさらに、右化学設備の一部をなすダクトの掃除口に取り付けられた盲フランジを取り外す作業</要旨第二>が、同条の定める化学設備の分解作業に該るか否かの点について検討するに、前記認定事実に徴して明らかなように右盲フランジを掃除口から取り外してこれを開放することは、ただちに右化学設備の一部をなすダクトの機能を失なわしめ、ひいては残留する硫化水素ガスの漏洩や、燃焼炉内の硫化水素ガスの爆発の危険を生ずるため、右化学設備全体の操業に密接な関係を有するものであるから、このような盲フランジが化学設備全体のうちに果たす機能に着眼すると、それは単にダクトのみならず、右化学設備に不可欠の本質的な構成部分であつて、化学設備の単なる付属的な部品であるということはできないばかりでなく、また右盲フランジの構造、すなわち右化学設備の操業中は、つねに数本のボルト、ナツトによつてダクトの掃除口に緊締され、いわばダクトと一体的、不可分的な構造をなしていることに とはできないばかりでなく、また右盲フランジの構造、すなわち右化学設備の操業中は、つねに数本のボルト、ナツトによつてダクトの掃除口に緊締され、いわばダクトと一体的、不可分的な構造をなしていることにかんがみると、右盲フランジのボルト、ナツトを外してダクトとの緊締状態を解き、ダクトから分離してこれと別個の独立した一個の部品としての状態におくことは、同条にいわゆる「分解」に該るものといわなければならない。 とはできないばかりでなく、また右盲フランジの構造、すなわち右化学設備の操業中は、つねに数本のボルト、ナツトによつてダクトの掃除口に緊締され、いわばダクトと一体的、不可分的な構造をなしていることにかんがみると、右盲フランジのボルト、ナツトを外してダクトとの緊締状態を解き、ダクトから分離してこれと別個の独立した一個の部品としての状態におくことは、同条にいわゆる「分解」に該るものといわなければならない。所論はこの点について、右掃除口の盲フランジは、数本のボルト、ナツトを抜き取ることによつて、容易に取り外すことが可能なのであるから、右盲フランジを取り外すことは、単なる掃除口の「開閉」というべきもので、同条にいう「分解」には該らないという。しかし、同条が労働災害の防止という見地から、分解作業を規制の対象としたその立法の趣旨にかんがみると、化学設備からその一部分を分離する作業が果たして同条にいう「分解」に該るか否かは、単に取り外し作業の難易などによつて決せられるべきものではなく、右にみたように当該部分がその化学設備の中において果たす機能的な役割や、構造にもとずいて判断されるべきものといわなければならない。したがつて、所論指摘の点は到底右の認定を左右すべき事由とは認められない。してみれば、原判決が、原判示作業は同条の定める化学設備の清掃のための分解作業に該るものとして、被告会社ならびに被告人に対する原判示事実につき、同条のほか原判決の掲げる法条をそれぞれ適用処断したことは正当であつて、なんら所論の違法はなく、論旨は理由がない。よつて、刑事訴訟法三九六条に則り本件各控訴を棄却し、当審における訴訟費用については同法一八一条一項本文、一八二条によりその全部を被告会社ならびに被告人に連帯して負担させることとして主文のとおり判決する。(裁判長 三九六条に則り本件各控訴を棄却し、当審における訴訟費用については同法一八一条一項本文、一八二条によりその全部を被告会社ならびに被告人に連帯して負担させることとして主文のとおり判決する。(裁判長裁判官粟田正裁判官久安弘一裁判官片岡聰)

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