平成23年9月15日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成22年(ワ)第9966号意匠権侵害差止等請求事件口頭弁論終結日平成23年6月30日判決原告株式会社グリーンベル同訴訟代理人弁護士辻本希世士同辻本良知同笠鳥智敬同松田さとみ同補佐人弁理士辻本一義同森田拓生同神吉出同大本久美同丸山英之被告株式会社コスモビューティー(以下「被告コスモ」という。)同訴訟代理人弁護士清田卓宏被告株式会社大創産業(以下「被告大創」という。)同訴訟代理人弁護士山田延廣同藤井裕同寺本佳代同工藤勇行 主文 1 被告株式会社コスモビューティ 同寺本佳代同工藤勇行 主文 - 2 - 1 被告株式会社コスモビューティーは,別紙物件目録記載の商品を販売し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告株式会社大創産業は,別紙物件目録記載の商品を販売し,又は販売の申出をしてはならない。 3 被告らは,別紙物件目録記載の商品を廃棄せよ。 4 被告らは,原告に対し,連帯して,239万9646円及びこれに対する平成22年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 5 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 6 訴訟費用はこれを20分し,その1を被告らの連帯負担とし,その余を原告の負担とする。 7 この判決は,1項,2項,4項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,別紙物件目録記載の商品を製造し,販売し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。 2 被告らは,別紙物件目録記載の商品を廃棄し,同商品の製造に必要な金型を除去せよ。 3 被告らは,原告に対し,連帯して,4290万円及びこれに対する平成22年7月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,後記本件意匠権を有する原告が,被告らに対し,被告らの別紙物件目録記載の商品(以下「被告商品」という。)の製造・販売行為等が,原告の有する本件意匠権を侵害する行為であると主張して,本件意匠権に基づき,被告商品の製造・販売行為等の差止めと被告商品及びその金型の廃棄を求め,本件意匠権侵害の不法行為に基づき,4290万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年7月23日か 基づき,被告商品の製造・販売行為等の差止めと被告商品及びその金型の廃棄を求め,本件意匠権侵害の不法行為に基づき,4290万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の後の日である平成22年7月23日から支払済みま - 3 -で年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。 1 判断の基礎となる事実(1) 当事者ア原告原告は,ネイルケア製品及び化粧小物の製造販売等を業とする株式会社である。 イ被告ら被告コスモは,ネイルケア製品及び化粧小物の販売等を業とする株式会社である。 被告大創は,各種小物の販売等を業とする株式会社である。 (2) 本件意匠権原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意匠」,その実施品を「原告実施品」という。)を有している。 登録番号第1127832号出願日平成13年2月22日登録日平成13年10月19日意匠に係る物品マニキュア用やすり登録意匠別紙本件意匠目録記載のとおり(3) 被告らの行為被告コスモは,平成21年2月頃から,被告商品を輸入し,これを被告大創に卸売販売し,被告大創は,これを被告大創の店舗(いわゆる100円ショップの「ダイソー」)において小売販売していた。 (4) 被告商品の構成被告商品は爪やすりであり,その構成は,別紙被告商品図面(A-A線断面図を除く。)のとおりである(以下,被告商品に係る意匠を「被告意匠」という。)。 - 4 - 2 争点(1) 被告意匠は本件意匠に類似するか (争点1)(2) 原告の損害 (争点2)第3 争点に係る当事者の主張 1 争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について【原告の主張】以下に述べるとおり,被告 争点1)(2) 原告の損害 (争点2)第3 争点に係る当事者の主張 1 争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について【原告の主張】以下に述べるとおり,被告意匠は,本件意匠に類似する。 (1) 本件意匠の構成本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様並びに要部は次のとおりである。 ア基本的構成態様(ア) 構造D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすりとからなる。 (イ) 本体本体は,正面及び背面において,下側より外周縁方向に平面状から緩やかに厚みを増している。 (ウ) 隆起部本体には,本体の外周縁と一体となり緩やかに隆起し,外周縁の途中から外周縁より内側に円弧状に盛り上がる隆起部を有する。 (エ) やすり本体の下端面はやや湾曲し,長方形状のやすりを埋設している。 イ具体的構成態様(ア) 本体本体は,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である。 (イ) 隆起部の形状 - 5 -隆起部は,鋭角で立ち上がる一端から,外周縁と一体となるように緩やかに隆起し,外周縁の半分を過ぎたあたりから,外周縁の内側に円弧状に盛り上がり,さらに内側に進むに従い緩やかに隆起が消失するように形成してなる。 (ウ) 隆起部の傾斜隆起部の傾斜は,外周縁側より内側の方が緩やかに形成されている。 (エ) やすりやすりは,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている。 ウ本件意匠の要部(ア) 需要者本件意匠に係る物品はマニキュア用やすりであり,一般消費者が日用品の一つとして購入するものであるから,需要者の中心は一般消費者である。 (イ) 公知意匠本件意匠の出願前の公知意匠としては,登録第1098852号意 キュア用やすりであり,一般消費者が日用品の一つとして購入するものであるから,需要者の中心は一般消費者である。 (イ) 公知意匠本件意匠の出願前の公知意匠としては,登録第1098852号意匠公報(甲3)記載の「マニキュア用やすり」がある(以下「甲3意匠」という。)。甲3意匠は,D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすりとからなるマニキュア用やすりであり,本体の外周縁側に外周縁に沿った形状の隆起部が形成され,下端側にも隆起部が形成された態様となっている。 これに対し,本件意匠は,本体,隆起部,やすりの態様に関し,前記ア(イ)ないし(エ)及びイのようにした点や,これらの組合せにおいて,新規な特徴を有する。 (ウ) 要部一般消費者は,実際に物品を使用する観点で商品に注目するから, - 6 -最も面積が広い本体の形状は重要であり,特に,手に取った際に物品を見る角度となる,やや上方からの形状は重要である。そして,本件意匠は,前記ア(イ)ないし(エ)及びイの構成により,曲線を多用しながらも,最も目を惹く形状には対称軸を有さず,しなやかでシャープな独特の美感を生じるとともに,本体中央部を掴んだ指が外周縁側にずれることなく安心してやすり方向に力を込められるような印象(機能美)を需要者に提供するから,これらの構成が要部となる。 また,本件意匠に係る物品はやすりであるから,やすり部分の形状も重視されるべきであって,要部となる。 (2) 被告意匠の構成被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりである。 ア基本的構成態様(ア) 構造D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすりとからなる。 なお,球状鎖は,爪やすりにおける基本的骨格とはいえず,基本的構成態様にはあたらない。 (イ) 本体本体 態様(ア) 構造D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすりとからなる。 なお,球状鎖は,爪やすりにおける基本的骨格とはいえず,基本的構成態様にはあたらない。 (イ) 本体本体は,正面及び背面において,下側より外周縁方向に,平面状から緩やかに厚みを増している。 (ウ) 隆起部本体には,本体の外周縁と一体となり緩やかに隆起し,外周縁の途中から外周縁より内側に円弧状に盛り上がる隆起部を有する。 (エ) やすり本体の下端面はやや湾曲し,長方形状のやすりを埋設している。 イ具体的構成態様(ア) 本体 - 7 -本体は,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である。 (イ) 隆起部の形状隆起部は,鋭角で立ち上がる一端から,外周縁と一体となるように緩やかに隆起し,外周縁の半分を過ぎたあたりから,外周縁の内側に円弧状に盛り上がり,さらに内側に進むに従い緩やかに隆起が消失するように形成してなる。 (ウ) 隆起部の傾斜隆起部の傾斜は,外周縁側より内側の方が緩やかに形成されている。 (エ) やすりやすりは,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている。 (オ) 鎖本体の鋭角で立ち上がる一端部を穿孔し,その孔に球状鎖が遊貫するように形成してなる。 (カ) 平面部との境界について(被告らの主張に対する反論)被告意匠の傾斜部の角度は本件意匠と同様に小さく,被告商品は透明樹脂で一体的に形成されているため,需要者が一見しても,平面部との境界を視認することができないから,この点は,構成態様として挙げるほどの要素ではない。 (3) 類否について以上を踏まえ,本件意匠と被告意匠の類否を検討すると次のとおりであり,被告意匠は本件意匠に類似している。 ア いから,この点は,構成態様として挙げるほどの要素ではない。 (3) 類否について以上を踏まえ,本件意匠と被告意匠の類否を検討すると次のとおりであり,被告意匠は本件意匠に類似している。 ア共通点本件意匠と被告意匠とは,基本的構成態様(ア)ないし(エ)と具体的構成態様(ア)ないし(エ)において一致している。 - 8 -イ差異点本件意匠には,被告意匠の具体的構成態様(オ)に相当する態様が存在しない。 ウまとめ前記アのとおり,被告意匠は,本件意匠の要部(前記(1)ウ(ウ))について,共通する構成態様を備えている。 他方,前記イの点は,基本的構成態様に係る差異点ではない。そして,球状鎖は,一般的に広く知られた部材であるし,被告商品が透明パッケージの小さなスペースに折りたたむように詰め込まれて販売されていることからして,本体に付属する部分にすぎないといえ,全体的な美感に影響を及ぼすものでもない。 なお,意匠の大きさは,【意匠の説明】に記載した寸法に限定されないところ,被告商品の左右の幅(約52㎜)は,本件意匠に係る物品の分野において常識的な範囲内のものであり,需要者に与える美感に影響するものではない。 また,平面部との境界(前記(2)イ(カ))は,仮に構成態様として挙げるとしても,被告意匠の全体的な美感に影響を及ぼすほどのものではない。 したがって,被告意匠は本件意匠に類似する。 【被告らの主張】以下に述べるとおり,被告意匠は,本件意匠に類似しない。 (1) 本件意匠の構成本件意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様並びに要部は次のとおりである。 ア基本的構成態様(ア) 構造 - 9 -原告主張の基本的構成態様(ア)は認める。 (イ) 本体本体は,正面及び 本的構成態様及び具体的構成態様並びに要部は次のとおりである。 ア基本的構成態様(ア) 構造 - 9 -原告主張の基本的構成態様(ア)は認める。 (イ) 本体本体は,正面及び背面における外周縁部分において,厚みを増して隆起状を形成している。 (ウ) 隆起部本体には,本体における外周縁の隆起部と一体となり,隆起した外周縁の途中から外周縁より内側に円弧状に盛り上がる隆起部を有する。 (エ) やすり原告主張の基本的構成態様(エ)は認める。 イ具体的構成態様(ア) 本体原告主張の具体的構成態様(ア)は認める。 (イ) 隆起部の形状隆起部は,鋭角で立ち上がる一端から,外周縁と一体となるように形成され,外周縁の半分を過ぎたあたりから,外周縁の内側に円弧状に盛り上がり,さらに内側に進むに従い隆起が消失するように形成してなる。 (ウ) 隆起部の幅及び傾斜隆起部の幅及び傾斜は,内側の円弧状部分の方が外周縁側に比して大きい。 (エ) やすり原告主張の具体的構成態様(エ)は認める。 ウ本件意匠の特徴(要部)被告コスモは原告の主張を認め,被告大創は,本件意匠が甲3意匠と比較して新規性を有することを否認する。 - 10 -(2) 被告意匠の構成被告意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様は次のとおりである。 ア基本的構成態様(ア) 構造D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすり,及び本体正面左端部を遊貫する鎖とからなる。 なお,基本的構成態様とは,意匠を大つかみに把握した態様のことであるし,鎖の存在は,意匠全体から受ける美感に対する影響が大きいから,鎖も基本的構成態様の一つである。 (イ) 本体本体は,正面及び背面における外周縁部分において,厚みをも 握した態様のことであるし,鎖の存在は,意匠全体から受ける美感に対する影響が大きいから,鎖も基本的構成態様の一つである。 (イ) 本体本体は,正面及び背面における外周縁部分において,厚みをもつように,緩やかな隆起状を形成している。 (ウ) 隆起部本体には,本体における外周縁の隆起部と一体となり,隆起した外周縁の途中から外周縁より内側に円弧状に盛り上がる隆起部を有する。 (エ) やすり原告主張の基本的構成態様(エ)は認める。 (オ) 鎖本体の正面左端部に穿孔部分を設け,鎖を遊貫している。 イ具体的構成態様(ア) 本体原告主張の具体的態様(ア)は認める。 (イ) 隆起部の形状隆起部は,鋭角で立ち上がる一端から,外周縁と一体となるよう緩やかに形成され,外周縁の半分を過ぎたあたりから,外周縁の内側に - 11 -円弧状に盛り上がり,さらに内側に進むに従い緩やかに隆起が消失するように形成してなる。 (ウ) 隆起部の幅及び傾斜隆起部の幅及び傾斜は,内側の円弧状部分の方が,外周縁側に比して大きい。 (エ) やすりやすりは,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に貼付されている。 (オ) 鎖本体の鋭角で立ち上がる正面左端部を穿孔し,その孔に球状鎖が遊貫されている。 (カ) 平面部との境界外周縁側及び内側の円弧状の隆起部は,鋭角で立ち上がる一端と内側の円弧状の隆起が消滅する端において,正面下側に向けて,円弧状に傾斜部を形成しており,平面部と明確に境界されている。 (3) 類否について以上を踏まえ,本件意匠と被告意匠の類否を検討すると次のとおりであり,被告意匠は本件意匠に類似していない。 ア共通点本件意匠と被告意匠とは,基本的構成態様(イ)ないし(エ)と,具 ついて以上を踏まえ,本件意匠と被告意匠の類否を検討すると次のとおりであり,被告意匠は本件意匠に類似していない。 ア共通点本件意匠と被告意匠とは,基本的構成態様(イ)ないし(エ)と,具体的構成態様(ア)ないし(エ)において,概ねその構成が共通する。 イ差異点(ア) 大きさ本件意匠と被告意匠とは,正面左右の幅が,それぞれ約70㎜と約52㎜であり,大きさが相違する。 (イ) 鎖 - 12 -被告意匠は,本体の正面左端部において球状鎖が遊貫されている構成を有するが,本件意匠は同構成を有しない。 (ウ) 平面部との境界被告意匠は,傾斜部と平面部とを区切る明確な境界があって,隆起部,傾斜部,平面部から構成されているのに対し,本件意匠には,隆起部から平面部にかけての境界を形成する傾斜部はない。 ウまとめ被告商品は,大きさが約52㎜で,球状鎖が備え付けられていることから,爪やすりであること以上に,携帯しやすくかわいい小物である点に大きな特徴を有しており,この点が需要者の購買動機となっている。 また,被告意匠は,約52㎜という大きさや,平面部との境界が円弧を形成することにより,需要者に対し,小さく丸々とした印象を与えており,しなやかでシャープな印象を与える本件意匠とは,要部において美感が異なる。 以上のような主要な構成態様の相違により,被告意匠と本件意匠とは,全体の美感が大きく相違しており,類似しない。 2 争点2(原告の損害)について【原告の主張】原告は,被告らの意匠権侵害行為による損害を被った。その損害は,以下のとおり意匠法39条1項に基づき算定するならば3900万円を下らず,そうでなく同条2項に基づき算定したとしても2400万円を下らない。 (1) 意匠法39条1項に基づく損 被った。その損害は,以下のとおり意匠法39条1項に基づき算定するならば3900万円を下らず,そうでなく同条2項に基づき算定したとしても2400万円を下らない。 (1) 意匠法39条1項に基づく損害額の算定ア原告が,原告実施品を販売することにより得られる一個当たりの利益は,下記(ア)から(イ)を控除した162.1円である。 (ア) 原告実施品の卸売販売価格 275円(イ) 変動経費合計112.9円 - 13 -本体 61.3円ビニールケース 38円ATシール 8.2円ポスシール(ハート型) 5.4円なお,パッケージがビニールケースではないものもあるが,経費に違いはないから,意匠法39条1項の利益額を算定する上で斟酌する必要はない。 また,被告ら主張に係る他の経費費目は,意匠法39条1項の利益を算定する上で控除すべき経費とはならない。 イ被告大創による被告商品の譲渡数量 30万個ウ損害額以上によれば,意匠法39条1項により推定される原告の損害額は,162.1円×30万個=4863万円であり,3900万円を下らない。 エ販売することができないとする事情の不存在被告らは,① 被告商品の価格,② 販売ルートの違い,③ 競合品の存在,④ 本件意匠の寄与度等を主張して,意匠法39条1項ただし書に該当する事情がある旨主張するが,以下のとおり,これは上記事情に当たらない。 (ア) 被告商品の価格について爪やすりは,機能自体には特筆すべき差異がなく,消費者は,その美的・機能的なデザイン等に最大の関心をもって購入を検討するのが通常である。したがって,わずか数百円程度の価格差であれば,原告実施品の購入を検討していた消費者が被告商品を購入する事 ,消費者は,その美的・機能的なデザイン等に最大の関心をもって購入を検討するのが通常である。したがって,わずか数百円程度の価格差であれば,原告実施品の購入を検討していた消費者が被告商品を購入する事態は,容易に想像できる。 実際,原告実施品の売上げは,被告商品の輸入・販売が始まったころから減少し,被告商品の輸入・販売が停止されたころから回復して - 14 -いる。そして,このころ,被告商品の輸入・販売の他に,原告実施品の売上げに影響を与えるような要因は存在しなかった。 (イ) 販売ルートの違いについて原告実施品は,全国の主要なドラッグストア,ホームセンター,スーパー,百貨店,大型文房具店など,業態を限定することなく,様々な場所において販売されていた。また,爪やすりは日用品であるから,消費者が,手軽で少しでも安価なものを探すため,様々な店舗を比較すべく,各店舗に足を運ぶことは,通常の行動である。 そして,原告実施品と同じデザインの被告商品が廉価で購入できるのであれば,原告実施品の購入を検討していた消費者が,価格等を比較検討の上,被告商品を購入することは不思議ではない。 (ウ) 競合品の存在について爪やすりの販売においては,デザインが極めて重要であるところ,被告らが競合品であると主張する株式会社資生堂(以下「資生堂」という。)の商品(乙4)は,原告実施品とは全く異なるデザインであるから,原告実施品のデザインに着目して購入を検討している購買層が,資生堂の商品の購買層と競合するとは考えられない。 (エ) 本件意匠の寄与度について本件意匠は,本体中央部に向けて滑らかに弧を描く隆起部のデザインが,削った後の爪のなめらかさ,丸みをイメージさせることを可能としている。また,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで, て本件意匠は,本体中央部に向けて滑らかに弧を描く隆起部のデザインが,削った後の爪のなめらかさ,丸みをイメージさせることを可能としている。また,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっている。そして,原告実施品のデザイン性や機能性は,新聞や雑誌等で高く評価されてきた。 被告商品が相当数の売上げとなったのは,原告実施品と同じデザインを用いたことに起因するものであり,被告大創の店舗数が多いこと - 15 -や,被告商品がストラップとして利用できることに起因するものではない。 (2) 意匠法39条2項に基づく損害額の算定ア被告大創の単位数量当たりの利益は,1個当たり80円を下らない。 イ被告大創による被告商品の譲渡数量 30万個ウ損害額以上によれば,意匠法39条2項により推定される原告の損害額は,80円×30万個=2400万円である。 (3) 意匠法41条,特許法105条の3に基づく主張被告らは,被告大創による被告商品の上記譲渡数量を否認し,4万0524個の限度でしか認めていないが,原告が真の譲渡数量を立証することが不可能である事情に照らせば,意匠法41条,特許法105条の3を適用して,弁論の全趣旨に照らし,相当な損害額は,被告商品の譲渡数量が30万個であることを基準として算定されるべきである。 仮にそうでないとしても,原告実施品の販売数量は,被告商品が販売された2年間で6万1712個減少しているから,同数量に原告実施品の一個当たりの利益162.1円を乗じた1000万3515円が,原告の損害額として算定されるべきである。 (4) 弁護士費用被告らの不法行為と因果関係のある弁護士費用相当の 同数量に原告実施品の一個当たりの利益162.1円を乗じた1000万3515円が,原告の損害額として算定されるべきである。 (4) 弁護士費用被告らの不法行為と因果関係のある弁護士費用相当の損害額は390万円を下らない。 【被告らの主張】(1) 意匠法39条1項に基づく損害額の算定についてア原告の単位数量当たりの利益不知ないし否認する。 原告実施品には,プラスチックケースに入れて販売されているものも - 16 -あるから,原告主張の経費額は不正確である。 また,人件費,運送費,倉庫賃料,宣伝費,手数料なども変動経費となるはずであり,これらも経費として控除されるべきである。 イ被告大創による被告商品の譲渡数量譲渡数量を4万0524個の限度で認め,これを超える部分を否認する。 被告大創は,ダイソー各店舗に対し,被告商品4万8650個を出荷したが,このうち8126個を店頭から引き揚げて保管しているから,譲渡数量は4万0524個である。 ウ販売することができないとする事情以下のような事情からすれば,原告が販売することができた原告実施品の数量は,多くとも,被告商品の譲渡数量の1割程度にすぎない。 (ア) 被告商品の価格原告実施品は税抜き500円で販売されているが,被告商品は税抜き100円で販売されており,低価格ゆえに,爪やすりに興味のなかった購買層を新たに開拓した面がある。 また,このような価格差からすれば,被告商品は子供用の玩具といってもよいものであるから,両者が市場において競合する範囲は,仮に認められたとしても,極めて小さい。 (イ) 販売ルートの違い被告商品は,100円ショップのダイソーで独占的に販売されていたが,原告実施品は,化粧品専門店等やウェブサイト上で販売されて 仮に認められたとしても,極めて小さい。 (イ) 販売ルートの違い被告商品は,100円ショップのダイソーで独占的に販売されていたが,原告実施品は,化粧品専門店等やウェブサイト上で販売されている。 100円ショップでは,「通常ではわずか100円では購入できない物が購入できる」という意外性を期待して買い物をする者が少なくないし,ダイソーの店舗数は多く,機能以外の面に着目して被告商品 - 17 -を購入した消費者も,相当数存在したといえる。 (ウ) 競合品の存在資生堂の商品(乙4)は,原告実施品と基本的構成態様を共通にするところ,税抜き952円で販売されており,原告実施品と購買層(成人女性)が重なっている。また,原告実施品と資生堂の商品は,いずれもウェブサイト上で販売されており,顕著な競合関係にある。 これに対し,被告商品は,ウェブサイト上での少数個の販売はされておらず,価格も異なるから,原告実施品と市場において競合した可能性は,仮にそれが認められたとしても,極めて低い。 (エ) 本件意匠の寄与度被告商品の譲渡数量は,ダイソーの店舗数の多さにも依るべき部分が大きい。 また,被告商品は,原告実施品とは異なり,携帯できる,ストラップとして使用できるという機能を備えており,この機能により新たな購買層が開拓されたことは明らかである。 (2) 意匠法39条2項に基づく損害額の算定について被告大創の単位数量当たりの利益は,被告商品の販売価格100円から,本体仕入価格46円及び販売管理費(人件費,運送費,店舗管理費)10円以上を控除した,44円以下である。 (3) 意匠法41条,特許法105条の3に基づく主張について争う。 (4) 弁護士費用について争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件意匠及び 円以上を控除した,44円以下である。 (3) 意匠法41条,特許法105条の3に基づく主張について争う。 (4) 弁護士費用について争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件意匠及び被告意匠の構成態様について(1) 本件意匠の構成態様は,証拠(甲2)によれば,以下のとおりであると - 18 -認められる。 【正面図】 ア基本的構成態様(ア) 構造D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすりからなる。 (イ) 本体本体は,正面及び背面において,下側より外周縁方向に緩やかに厚みを増して,外周縁付近で隆起している。 (ウ) 隆起部本体には,隆起した外周縁と一体となり,外周縁の途中から外周縁より内側に円弧状に盛り上がる隆起部が存在する。 (エ) やすり本体の下端面はやや湾曲し,長方形状のやすりを埋設している。 イ具体的構成態様(ア) 本体本体は,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である。 (イ) 隆起部の形状隆起部は,本体の鋭角で立ち上がる一端から,外周縁と一体となるように形成され,外周縁の半分を過ぎたあたりから,外周縁の内側に円弧状に盛り上がり,さらに内側に進むに従い緩やかに隆起が消失するよう面が連続するよう形成されている。 - 19 -(ウ) 隆起部の傾斜円弧状の隆起部の傾斜は,外周縁側は凸状曲面に形成され,内側は凹状曲面に形成されている。 (エ) やすりやすりは,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている。 (2) 被告意匠の構成態様は,証拠(甲4)によれば,以下のとおりであると認められる。 【正面図】 ア基本的構成態様(ア) 構造D字状の本体と,本 に埋設されている。 (2) 被告意匠の構成態様は,証拠(甲4)によれば,以下のとおりであると認められる。 【正面図】 ア基本的構成態様(ア) 構造D字状の本体と,本体の下端面に埋設するやすりと,本体の一端部を遊貫する鎖とからなる。 (イ) 本体本体は,正面及び背面において,外周縁付近で,緩やかに厚みを増して隆起している。 (ウ) 隆起部本体には,隆起した外周縁と一体となり,外周縁の途中から外周縁より内側に円弧状に盛り上がる隆起部を有する。 - 20 -(エ) やすり本体の下端面はやや湾曲し,長方形状のやすりを貼付している。 (オ) 鎖本体の下側端部に穿孔部分を設け,鎖を遊貫している。 イ具体的構成態様(ア) 本体本体は,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である。 (イ) 隆起部の形状隆起部は,本体の鋭角で立ち上がる一端から,外周縁と一体となるように隆起し,外周縁の半分を過ぎたあたりから,外周縁の内側に円弧状に盛り上がり,さらに内側に進むに従い隆起が消失するように形成されている。 (ウ) 隆起部の傾斜隆起部の傾斜は,外周縁側は凸状曲面に形成され,内側は凹状曲面に形成されている。 (エ) やすりやすりは,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に貼付されている。 (オ) 鎖本体の鋭角で立ち上がる一端部を穿孔し,その孔に球状鎖が遊貫されている。 (カ) 平面部との境界隆起部内側の傾斜下端は,鋭角で立ち上がる一端と内側の円弧状の隆起が消滅する端において平面部との間で曲面の連続性はなく,その境界線は円弧状を形成して,平面部との間に明確な境界を形成してい - 21 -る。 2 争点1(被告意匠は本件意匠に類 の円弧状の隆起が消滅する端において平面部との間で曲面の連続性はなく,その境界線は円弧状を形成して,平面部との間に明確な境界を形成してい - 21 -る。 2 争点1(被告意匠は本件意匠に類似するか)について(1) 意匠に係る物品の類似性について本件意匠の意匠に係る物品である「マニキュア用やすり」とは,爪の手入れ用のやすりを意味するから,爪やすりである被告意匠と本件意匠とは,意匠に係る物品が同一である。 (2) 意匠の形態面における類似性についてア登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は,需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものである(意匠法24条2項)。 したがって,その判断にあたっては,意匠に係る物品の性質,用途,使用態様,さらには公知意匠にない新規な創作部分の存否等を参酌して,需要者の注意が惹き付けられる部分を要部として把握した上で,両意匠が要部において構成態様を共通にするか否かを中心に観察し,全体として美感を共通にするか否かを判断すべきである。 イ本件意匠の要部について(ア) 爪やすりの性質,用途,使用態様爪やすりは,主として女性が使用する,爪の形状を整えるための研磨具である。 そして,爪やすりは,やすり部を備えていれば本来的な機能を果たすことができるが,全体のデザインについては種々のものが考えられ(甲22),これが使い勝手を左右することになる。また,片手で把持して使用するものであるから,大きさも,そのことを前提としたものとなる。 (イ) 公知意匠(甲3意匠) - 22 -【側面図】【正面図】 本件意匠の出願日(平成13年2月22日)より前である,同年1月29日発行の意匠公報(甲3)には,本体がD字状で,底面部が楕円形状のやすり面となっており 22 -【側面図】【正面図】 本件意匠の出願日(平成13年2月22日)より前である,同年1月29日発行の意匠公報(甲3)には,本体がD字状で,底面部が楕円形状のやすり面となっており,本体の外周縁部付近と底面部付近が隆起し,本体側面部の中央が窪んだ形状となっている,マニキュア用やすりが示されている。 (ウ) 要部の判断前記(ア)からすれば,爪やすりについて,需要者は,デザイン全体に着目すると考えられるところ,前記(イ)からすれば,爪やすりにおいて,本体がD字状であること,下端面にやすりが配設されていること,把持する面に隆起部が設けられ凹凸がついていることなどの基本的な構成は,本件意匠の出願時において公知であったと認められる。 したがって,本件意匠において,需要者の注意が惹き付けられる要部は,本体,隆起部,やすりに係る具体的な形状であると認められる。 なお,被告大創は,本件意匠は甲3意匠と比較して新規性が認められないと主張するが,甲3意匠は,本体が厚みを持った左右対称のD字状で,底面部のやすりが楕円形状であるところ,本件意匠は,本体は一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板で,やすりは本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に貼付された長方形状であるし,両者は隆起部の具体的形状も異にするから,上記主張は採用できない。 (3) 本件意匠及び被告意匠の共通点及び差異点本件意匠及び被告意匠の共通点及び差異点は,次のとおりである。 - 23 -ア共通点本件意匠と被告意匠が,基本的構成態様(イ)ないし(エ)と具体的構成態様(ア)ないし(エ)において概ね共通することは,当事者間に争いがない。 イ差異点(ア) 大きさ本体左右の幅が,本件意匠は約70㎜であるが(甲2),被告意匠は ないし(エ)と具体的構成態様(ア)ないし(エ)において概ね共通することは,当事者間に争いがない。 イ差異点(ア) 大きさ本体左右の幅が,本件意匠は約70㎜であるが(甲2),被告意匠は約52㎜である(弁論の全趣旨)。 (イ) 鎖被告意匠は,本体の鋭角で立ち上がる一端部において球状鎖が遊貫されているが,本件意匠は,そのような構成を有しない。 (ウ) 平面部との境界被告意匠は,平面部と隆起部内側の傾斜下端を区切る明確な境界があるが,本件意匠には,隆起部内側の傾斜と平面部とがなだらかな面で連続しており,平面と隆起部を区切る明確な境界(傾斜の下端線)はない。 (4) 本件意匠と被告意匠の類否について前記(2)イ(ウ)のとおり,本件意匠の要部は,本体,隆起部,やすりに係る具体的な形状にあると認められるところ,前記(3)アの共通点は,この要部に係る共通点である。 そして,前記(3)イの個別の差異が美感に与える影響については,以下に個別に述べるとおり,その差異から受ける印象が,前記(3)アの共通点から受ける印象を凌駕するものではないから,本件意匠と被告意匠は,視覚を通じて起こさせる美感を共通にしているということができ,類似するものというべきである。 ア大きさについて本件意匠のような,本体を片手で把持して使用するD字形状板の爪や - 24 -すりは,その使用態様からして,大きさは自ずと一定の範囲に限られる一方で,当該範囲内であれば,種々の大きさのものが考えられる。原告も,原告実施品と類似のデザインで,やや大きなサイズの商品を販売しているところである(乙9)。 確かに,約70㎜と約52㎜という大きさの違いは,現実の使用にあたって使い勝手の違いを生じさせることになるし,被告意匠の大きさは,被告商品に「小 イズの商品を販売しているところである(乙9)。 確かに,約70㎜と約52㎜という大きさの違いは,現実の使用にあたって使い勝手の違いを生じさせることになるし,被告意匠の大きさは,被告商品に「小さくてかわいらしい」という印象を生じさせる要素の一つといえる。 しかしながら,原告実施品にしても,やはり類似形態の商品の中では,小ぶりのほうであって,かわいらしいとの印象を与えないわけではないから,爪やすりという物品に考えられる大きさの範囲内の中での,上記大きさの違いは,それほど大きいものとはいえない。また,被告意匠は,本件意匠の要部において,本件意匠と構成を共通にするため,上記程度の差で大きさが違ったとしても,「同じデザインで異なるサイズのもの」との印象を与えるといえる。 イ鎖について鎖は,本件意匠には全く存在しない要素であるし,爪やすりに一般的に備え付けられているものでもないから,被告商品の特徴の一つである。 しかし,被告意匠は,本件意匠と基本的構成を共通にし,要部を共通にするため,ありふれた形状の球状鎖が付属していたとしても,「同じデザインで鎖付きのもの」との印象を与えるにすぎず,全体として異なる美感を与えるものではない。 ウ平面部との境界について被告意匠では,隆起部内側の傾斜下端と平面部とが面で連続しておらず,これと認識できる境界を形成しているが,これは,本件意匠には存在しない要素であり,被告商品の特徴の一つといえる。 - 25 -しかしながら,上記境界は,視覚的に目立つものではなく,注意して観察して初めて,それと気づかれるものであるし,本件意匠においても,隆起部内側の傾斜と平面部とを区切る線こそ存在しないものの,隆起部,隆起部内側の傾斜,平面部の各範囲が,被告意匠と大きく異なるわけでもない。 それと気づかれるものであるし,本件意匠においても,隆起部内側の傾斜と平面部とを区切る線こそ存在しないものの,隆起部,隆起部内側の傾斜,平面部の各範囲が,被告意匠と大きく異なるわけでもない。 したがって,隆起部内側の傾斜下端と平面部との境界が存在することは,被告意匠に,本件意匠とは異なる美感を生じさせるだけの,強い印象を与えるものではない。 3 争点2(原告の損害)について(1) 意匠法39条1項に基づく損害額の算定についてア原告実施品の一個当たりの利益は,下記(ア)の275円から下記(イ)合計額の112.9円を控除することにより,162.1円と認められる。 (ア) 原告実施品の卸販売価格は,証拠(甲15)によれば,275円と認められる。 (イ) 原告実施品を販売するための経費は次の諸経費(認定証拠は括弧内に記載する。)の合計112.9円である。 本体 61.3円(甲16の1・2)ビニールケース 38円(甲17)ATシール 8.2円(甲18)ポスシール(ハート型) 5.4円(甲19)なお,原告実施品には,ビニールケース入りのもの(甲14の1・2)以外に,プラスチックケース入りのものも存在するが(乙2の1・2,乙3),両者の小売価格は同額(甲21~24,乙3)であるから,経費の合計額に影響するものとは認められない。 また,被告らは,人件費,運送費,倉庫賃料,宣伝費,手数料などを経費として控除すべき旨主張しているが,証拠(甲25)によれば, - 26 -原告は,被告商品の販売開始前には原告実施品を年間10万個以上仕入販売し,被告商品の販売開始後も年間8万個前後の仕入販売をしていたのであるから,原告実施品が小さく軽量であることを考慮すると,これにさらに追加 告商品の販売開始前には原告実施品を年間10万個以上仕入販売し,被告商品の販売開始後も年間8万個前後の仕入販売をしていたのであるから,原告実施品が小さく軽量であることを考慮すると,これにさらに追加で4万個程度(後記イ)の仕入販売を行うことになったとしても,原告実施品の仕入販売のために既に支出している上記費目の経費が特段増加するものとは認められない。したがって,本件においては,上記費目の経費額を控除する必要は認められない(人件費,倉庫賃料,宣伝費,手数料などは,既に一定数量以上の仕入販売があったのであるから,上記数量の増加によって追加的な経費の支出をもたらすとは考えられないし,運送費であっても,小さく軽量である原告実施品は,それのみ単体で運送されることはなく他の商品類と一体となって運送されるものと考えられるから,数量の増大が運送費の追加的支出をもたらすものとは認められない。)。 イ被告大創による被告商品の譲渡数量は,証拠(丙1~10)によれば,被告らが自認する4万0524個の限度で認定するのが相当であり,これを超えた数量について認めるに足りる証拠はない。 ウ販売することができないとする事情(意匠法39条1項ただし書)被告らは,被告大創による被告商品の譲渡数量は,① 被告商品の価格,② 販売ルートの違い,③ 競合品の存在,④ 本件意匠の寄与度など,被告商品固有の事情により販売された部分があるとし,これが意匠法39条1項ただし書の,原告が「販売することができないとする事情」に該当する旨主張するので,以下,そのような事情の存否について個別に検討する。 (ア) 被告商品の価格について被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差で - 27 -は に検討する。 (ア) 被告商品の価格について被告商品の税抜き小売価格は100円であり,原告実施品の税抜き小売価格500円と比較すると,比率では5分の1であり,価格差で - 27 -は約400円安い関係にある。絶対的な価格差でみると,原告がいうように,その差はわずか数百円という見方もできるが,被告商品は,単に原告実施品に比して安価である以上に,100円という,購入に当たって特段逡巡することなく気軽に購入できる絶対的な低価格であることが,商品を特徴づけ需要者の購買意欲をそそる要素になっているといえる。 そうすると,原告実施品が,被告商品の5倍の価格設定であって当該同種商品としては通常の価格帯にあると考えられることからすると,原告が原告実施品を被告商品と同様に販売できたものとは考え難く,したがって,被告商品がそのような著しく低廉な価格に設定されているという事実は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事情の一つになり得るというべきである。 (イ) 販売ルートについて被告商品は,いわゆる100円ショップの最大手であって,全国に数多くの店舗を構えるダイソーで販売されており,実際に被告商品を取り扱った店舗は,2000店以上存在する(丙10)。そして,ダイソーは,多種多様な商品を原則としてすべて100円で販売することを特徴とする営業形態を採用しており,そのため,消費者において,特定の商品を買い求めるのではなく,100円であれば購入するという前提で,商品ジャンルを問わず掘り出し物を探す場合もあると考えられる。そうであれば,そのような消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。 もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある うな消費者が,たまたま被告商品を購入したからといって,その消費者が,原告実施品を購入したはずであるとみるのは難しいといわなければならない。 もちろん,原告実施品が販売されているという知識がある需要者が,より安価で原告実施品に相当する商品を求めてダイソーを訪れる場合も存在すると考えられるが,そうであれば,そのような需要者は, - 28 -もともと原告実施品を購入する可能性が低いものとみなされるのではないかと考えられる。 したがって,被告商品が100円という均一で低廉な価格で多種多様な商品を販売しているダイソーで販売されているという事実自体も,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。 (ウ) 競合品について資生堂の商品(乙4)は,棒状や板状の爪やすり(甲22)ではなく,原告実施品と同じ,ラウンドタイプの爪やすりである。 しかも,資生堂の商品は,本件意匠の要部である隆起部を有しないものの,爪やすりの本体が,一端が鋭角で立ち上がり他端が鈍角で立ち上がるD字形状板である点や,やすりが,本体の下端部の湾曲した側面に設けられた凹部に埋設されている点において,本件意匠の要部と構成を共通にしている。 したがって,資生堂の商品と原告実施品とは,本体の正面・背面のデザインや,価格(資生堂商品は税抜き952円[乙4]ないし1000円[乙7の1~3]で販売されている。)において異なっていても,市場では競合する範囲内のものであると考えられ,被告商品と異なる競合品の存在は,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つになるというべきである。 (エ) 本件意匠の寄与度について原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽 する事実の一つになるというべきである。 (エ) 本件意匠の寄与度について原告は,原告実施品は,隆起部の窪みあたりを指で挟んで使用することで,しっかりと爪やすりを保持することが可能となり,軽くこするだけで爪を綺麗に削ることができるデザインとなっていると主張する。 ところが,被告商品は,サイズが小さい分把持しにくい上,そのパ - 29 -ッケージの使用状態を示す写真(甲4)には,隆起部の窪みとは関係のない部分を指で挟んで使用している様子が示されており(原告実施品のように隆起部の窪みのカーブを利用して指で挟むように把持した場合(甲14の1,甲22),鎖が垂れ下がって邪魔になるはずである。),結局,被告商品にとって隆起部はデザイン以上の意味はないものと考えられ,したがって新聞や雑誌等で高く評価されてきたという,原告実施品のデザイン性や機能性が発揮されている商品であるとはいえないものである。加えて,パッケージの謳い文句を見ても,軽くこするだけで良く削れることや,なめらかに仕上がるという爪ヤスリの本来の機能よりも,可愛くて携帯に便利であることの方が,よりアピールされているとも考えられる(甲4)。 さらに,上記のとおり,被告商品については,かわいくて携帯に便利であることがアピールされているところ,被告商品のかわいらしさには,被告商品の大きさが影響を与えているといえるし,携帯に便利であることについては,被告商品の大きさに加え,鎖の存在が影響を与えているといえる。 他方,原告実施品の販売実績(甲25)を見ても,被告商品の販売開始前である2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増 ある2008(平成20)年と,被告商品の販売開始後である2009(平成21)年以降において,青・黄・緑・白(SS-403)については売上げが半減しているが,ピンク・白(G-1002)については増加ないし横ばいであり,原告実施品についても,本件意匠のデザイン以外の要素が販売数量に影響を及ぼしていたことは否定できない。 したがって,被告商品の販売に対し,被告意匠のうち,本件意匠に類似していない特徴が寄与しているという点は,これもまた,意匠法39条1項ただし書の事情に該当する事実の一つとなるというべき - 30 -である。 (オ) 結論これら意匠法39条1項ただし書の事情に該当する諸事実の存在を考慮すれば,被告大創による被告商品の譲渡数量のうち,原告が販売することができなかったと認められる原告実施品の数量を控除した数量は,被告商品の譲渡数量の3分の1と認めるのが相当である。 エ原告の損害額以上のとおりであるから,意匠法41条,特許法105条の3の規定によるまでもなく,意匠法39条1項に基づき算定される原告の損害額は,原告実施品の一個当たりの利益162.1円(前記ア)に被告商品の譲渡数量4万0524個(前記イ)の3分の1である1万3508個を乗じた218万9646円(円未満切捨て)となるものと認められる。 (2) 意匠法39条2項に基づく損害額の推定について意匠法39条1項に基づく損害額の算定に用いる原告の利益は,上記(1)のとおり162.1円と認定できるところ,この金額は,被告の税抜き小売販売価格100円を超えるから,同条2項に基づき算定される損害額が同条1 項に基づき算定される損害額を上回らないことは明らかである。 (3) 弁護士費用について本件事案の内容や,前記(1)エの認容額からして,被告らが損害 ,同条2項に基づき算定される損害額が同条1 項に基づき算定される損害額を上回らないことは明らかである。 (3) 弁護士費用について本件事案の内容や,前記(1)エの認容額からして,被告らが損害賠償義務を負うべき弁護士費用は,21万円を相当と認める。 (4) 損害額以上のとおりであるから,原告の損害額は,前記(1)エ及び(3)の合計である239万9646円となる。 4 まとめ(1) 差止請求について前記2で認定判断したとおり,被告意匠は,本件意匠に類似しているか - 31 -ら,被告コスモが被告商品を輸入して,これを被告大創に卸売販売し,被告大創がさらにこれを小売販売する行為は,本件意匠権を侵害する行為であるということになり,原告は,被告らに対し,本件意匠権に基づき同行為の差止めを求めることができる(意匠法37条1項)。 もっとも,被告らは,被告商品を製造していないから(前提事実(3)),その行為の差止めを求める原告の請求には理由がなく,原告の被告らに対する差止請求は上記の限度で理由があることになる。 (2) 廃棄請求について被告商品は,本件意匠権の侵害行為を組成した物であるから,原告は,その廃棄を求めることができる(意匠法37条2項)。 もっとも,被告コスモは,被告商品の輸入販売を行う者であって,被告商品の製造に必要な金型を所有しているとは認められないから,金型の除去に係る原告の請求は理由がない。 (3) 損害賠償請求について原告は,本件意匠権の侵害により,前記3(4)のとおり239万9646円の損害を被ったと認められるところ,本件において,被告コスモは被告商品を輸入して被告大創に販売し,被告大創は,これを一般市場で販売しているから,両被告による本件意匠権の侵害行為は,共同不法行為であると 害を被ったと認められるところ,本件において,被告コスモは被告商品を輸入して被告大創に販売し,被告大創は,これを一般市場で販売しているから,両被告による本件意匠権の侵害行為は,共同不法行為であると認められ,被告らは,原告に対し,連帯して損害賠償責任を負うことになる(民法719条)。 なお,被告大創は,被告コスモと被告商品の取引をするに際し,同社に対し,知的財産権の侵害はないことを確認したとして過失がない旨争う。 しかし,それ以上に自ら調査を行った事実が認められるわけではないから,仮に被告大創による被告コスモに対する上記確認がされた事実が認められたとしても,本件意匠権の侵害行為について被告コスモについて過失があったものとする意匠法40条の規定に基づく過失の推定は覆らない - 32 -というべきである。 第5 結論以上のとおりであるから,原告の請求は,主文記載の限度において理由があるからこれを認容し,その余の部分については理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 なお,主文3項に係る仮執行宣言は相当でないから,これを付さないこととする。 大阪地方裁判所第21民事部 裁判長裁判官森崎英二 裁判官達野ゆき 裁判官網田圭亮 - 33 -(別紙) 物件目録 品番発注No.化粧-メイク小物-85商品名爪ヤスリ 以上 - 34 -(別紙)本件意匠目録 【意匠の説明】正面図において左 粧-メイク小物-85商品名爪ヤスリ 以上 【意匠の説明】正面図において左右の幅は,実物の約70㎜を表す。底面図において多数の小点の付いた長方形の部分が爪やすり本体である。背面図は正面図と対称に表されるため省略する。 【正面図】 【左側面図】 【右側面図】 【A-A線断面図】 【平面図】 【底面図】 【被告商品図面】 【正面図】 【左側面図】 【右側面図】 【A-A線断面図】 【平面図】 【底面図】
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