令和6年5月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和3年(行ウ)第25号生活保護開始申請却下処分取消等請求事件口頭弁論終結日令和6年3月5日判決(当事者の表示:略) 主文 1 被告は、原告に対し、55万円及びうち11万円に対する令和2年12月15日から、うち22万円に対する令和3年4月23日から、うち22万円に対する同年8月4日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用はこれを5分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和2年12月15日か ら支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和3年4月23日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、165万円及びこれに対する令和3年8月4日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨生駒市福祉事務所長(以下「処分行政庁」という。)は、生活保護法(以下「法」という。)に基づく保護を受けていた原告に対し、令和2年10月20日付けで法62条3項に基づく保護停止決定(以下「本件停止処分」という。)をした後、 同年12月15日付けで保護廃止決定(以下「本件廃止処分」という。)をし、 原告が令和3年4月5日にした保護開始の申請を同月23日付けで却下し(以下「第1却下処分」という。)、原告が同年7月9日にした保護開始の申請を同年8月4日付けで却下したが(以下「第2却下処分」という。)、審査請求に対する裁決により第1却下処分が取り消された 却下し(以下「第1却下処分」という。)、原告が同年7月9日にした保護開始の申請を同年8月4日付けで却下したが(以下「第2却下処分」という。)、審査請求に対する裁決により第1却下処分が取り消されたことから、同年12月27日付けで保護開始日を同年4月5日とする保護開始決定をするに至った。 本件は、原告が、本件廃止処分、第1却下処分及び第2却下処分(以下、これら3つの処分を総称して「本件各処分」という。)はいずれも国家賠償法上違法であるとして、被告に対し、同法1条1項に基づき、各処分につき損害賠償金165万円(慰謝料150万円、弁護士費用15万円)及びこれに対する各処分の日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求 める事案である。 2 関係法令等の定め(1) 法(保護の補足性)第4条保護は、生活に困窮する者が、その利用し得る資産、能力その他あ らゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。 2 民法(明治29年法律第89号)に定める扶養義務者の扶養及び他の法律に定める扶助は、すべてこの法律による保護に優先して行われるものとする。 3 前2項の規定は、急迫した事由がある場合に、必要な保護を行うことを妨げるものではない。 (保護の停止及び廃止)第26条保護の実施機関は、被保護者が保護を必要としなくなったときは、速やかに、保護の停止又は廃止を決定し、書面をもって、これを被保護者 に通知しなければならない。第28条第5項及び第62条第3項の規定に より保護の停止又は廃止をするときも、同様とする。 (2) 昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(以下「次官通知」という。 定に より保護の停止又は廃止をするときも、同様とする。 (2) 昭和36年4月1日厚生省発社第123号厚生事務次官通知「生活保護法による保護の実施要領について」(以下「次官通知」という。)(甲12の4)第5 扶養義務の取扱い要保護者に扶養義務者がある場合には、扶養義務者に扶養及びその他の支 援を求めるよう、要保護者を指導すること。また、民法上の扶養義務の履行を期待できる扶養義務者のあるときは、その扶養を保護に優先させること。 この民法上の扶養義務は、法律上の義務ではあるが、これを直ちに法律に訴えて法律上の問題として取り運ぶことは扶養義務の性質上なるべく避けることが望ましいので、努めて当事者間における話合いによって解決し、円満裡 に履行させることを本旨として取り扱うこと。 (3) 昭和38年4月1日社保第34号厚生省社会局保護課長通知(以下「課長通知」という。)(甲28)別紙1のとおり(4) 平成21年3月31日厚生労働省社会・援護局保護課長事務連絡「生活保 護問答集について」(以下「問答集」という。)(甲11、甲16資料①)別紙2のとおり 3 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告は、昭和42年生まれの女性であり、平成27年12月頃までは、生 駒市a所在の実家で、父(昭和16年生まれ、令和2年12月10日死亡)及び母(昭和19年生まれ)と3人で生活していたが、平成28年1月6日、現住所に転居して一人暮らしを始め、同月29日、保護開始の申請をした(甲18、31、乙12、13)。 (2) 生駒市長から権限の委任を受けた処分行政庁は、原告に対し、平成28年 1月29日、保護開始日を同日とする保護開始決定をした(乙12 護開始の申請をした(甲18、31、乙12、13)。 (2) 生駒市長から権限の委任を受けた処分行政庁は、原告に対し、平成28年 1月29日、保護開始日を同日とする保護開始決定をした(乙12)。 (3) 処分行政庁は、原告に対し、令和2年10月20日付けで、法62条3項に基づき保護を停止する旨の本件停止処分をした(甲3、4、12の10)。 (4) 処分行政庁は、原告に対し、令和2年12月15日付けで、本件廃止処分をした。本件廃止処分に係る決定通知書には、廃止の理由について「親類・縁者等の引取り」による旨の記載がある。(甲5、29) (5) 原告は、処分行政庁に対し、令和3年4月5日、保護開始の申請をしたが、処分行政庁は、原告に対し、同月23日付けで、却下の理由を「親類・縁者等の引き取りによる」として第1却下処分をした(甲6、12の10・11)。 (6) 原告は、処分行政庁に対し、令和3年7月9日、保護開始の申請をしたが、処分行政庁は、原告に対し、同年8月4日付けで、却下の理由を「親類・縁者 等の引き取りによる」として第2却下処分をした(甲7、14)。 (7) 原告は、第1却下処分を不服として、令和3年7月13日付けで、奈良県知事に対して審査請求をし(甲8)、同年10月18日、当裁判所に対し、第1却下処分の取消し及び保護開始決定の義務付けを求める本訴の提起並びに仮の義務付けの申立てをした(顕著な事実)。これに対し、処分行政庁は、仮 の義務付け申立て事件の同年11月16日付け書面(乙3)において、「申立人の生活保護申請については、第1却下処分及び第2却下処分をした時点においては、申立人は3万9000円の収入があり、実家に戻ることで生活できるものと判断しましたが、令和3年8月に高齢者施設での仕事を失い、令 保護申請については、第1却下処分及び第2却下処分をした時点においては、申立人は3万9000円の収入があり、実家に戻ることで生活できるものと判断しましたが、令和3年8月に高齢者施設での仕事を失い、令和3年10月以降生活状況が悪化しているのであれば、保護を開始すべき緊 急性が高まっているといえます。」、「現在の状況に鑑みれば、申立人が改めて保護申請を行った場合、緊急的に保護を開始する必要があると認められます。」との意見を述べ、同年11月22日、原告がした3度目の保護開始の申請に基づき、原告に対し、保護開始日を同日とする保護開始決定をした(乙18)。 (8) 奈良県知事は、原告の審査請求について、令和3年12月14日付けで、 第1却下処分を取り消す旨の裁決をした(乙7。以下「本件裁決」という。)。 (9) 処分行政庁は、本件裁決を受けて、原告が令和3年4月5日にした保護開始の申請についての再審査を行い、原告に対し、同年12月27日付けで、保護開始日を同年4月5日とする保護開始決定をした(乙5、6、18)。 (10)原告は、その後、行政事件訴訟法21条1項に基づき、本件訴えを第1却下処分に係る損害賠償請求の訴えに交換的に変更した上、第2却下処分及び 本件廃止処分に係る各損害賠償請求を追加した(顕著な事実)。 4 争点及び当事者の主張(1) 本件廃止処分当時における保護廃止の要件の有無、これがあるとした処分行政庁の判断に係る国家賠償法上の違法性及び過失の有無(原告の主張) ア保護廃止の要件としての「被保護者が保護を必要としなくなったとき」(法26条前段)とは、生計が向上して生活困窮の状態でなくなるとか、あるいは、扶養義務者から実際に扶養を受けられるようになったなどのように、被保護者が法4条の要件を満 保護を必要としなくなったとき」(法26条前段)とは、生計が向上して生活困窮の状態でなくなるとか、あるいは、扶養義務者から実際に扶養を受けられるようになったなどのように、被保護者が法4条の要件を満たさなくなり、保護を継続実施すべき状態でなくなった場合をいう。そして、「廃止」とは、保護を必要としなく なったことが顕著で、固定的な事実に基づいてなされるものである。 原告が令和2年12月15日に処分行政庁の職員に対してした発言内容に係る被告の主張は否認するが、仮に原告が実家に帰る旨述べたとしても、被保護者がそのように述べただけでは「廃止」の要件を満たさないから、本件廃止処分は法26条の要件を満たさず、違法である。 イ保護の廃止に際しては、保護を必要としなくなったことが顕著で、固定的な事実といえるかどうか慎重に判断すべきであることから、収入の増加又は最低生活費の減少による廃止の基準は課長通知第10の問12の答第2項に定められているところであり、引取扶養を理由とする保護の廃止については、課長通知第10の問12の3に定められた辞退届による廃止の 取扱いに照らせば、引取扶養をする者の扶養能力及び現実に引取扶養がな されたことの調査がされなければならない。処分行政庁は、課長通知が求める慎重な事実調査及び判断の手続を経ることなく本件廃止処分をしたものであるから、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたものとして、国家賠償法上の違法性及び過失がある。 ウなお、原告の父の遺産は、本件廃止処分当時、未分割であったことから、 原告において現実に活用し得る資産に該当するものではない。 (被告の主張)ア本件廃止処分は、令和2年12月15日、処分行政庁の職員が原告宅を訪問した際、原告から実家に帰るので ことから、 原告において現実に活用し得る資産に該当するものではない。 (被告の主張)ア本件廃止処分は、令和2年12月15日、処分行政庁の職員が原告宅を訪問した際、原告から実家に帰るので保護を廃止して構わない旨の辞退の申出が口頭でされたことから、親族(母)の引取りがあったものとして保 護の廃止をしたものである。処分行政庁は、原告からの上記申出が、父が亡くなり一人になった母と実家で暮らしていくとの真摯な意思であること、保護開始前に生活していた実家には原告の居室があり、実家に帰れば家賃が不要になり、同月1日に開始した就労による収入も見込まれることなどから保護を廃止しても直ちに急迫状態に陥るとは認められないと判断し、 本件廃止処分を決定したものである。本件廃止処分は、法26条の廃止の要件を欠くものではなく、国家賠償法上の違法も認められない。 イ原告が自らの意思に基づいて実家に戻って母の扶養を受ける旨の申出をしたものであり、かつ、原告が実家に戻って母の扶養を受けることを阻害する要因があることをうかがわせる事情もなかったことからすると、処分 行政庁において原告から上記申出を受けて本件廃止処分をするに当たり、原告の母の扶養能力やその後に原告が実際に実家に戻ったことまでも確認するべき調査義務を負うものではない。 ウなお、原告の父の相続が令和2年12月10日開始し、原告及びその母が法定相続分に応じて父の遺産を取得し得る状況にあったことからすると、 同月15日の本件廃止処分当時、原告には活用し得る資産があったことに なるから、本件廃止処分は違法とはならないし、原告の母は十分な扶養能力を有していたことになるから、仮に処分行政庁が原告の母の扶養能力を調査していない点に違法があったとしても、この点は本件廃止処 なるから、本件廃止処分は違法とはならないし、原告の母は十分な扶養能力を有していたことになるから、仮に処分行政庁が原告の母の扶養能力を調査していない点に違法があったとしても、この点は本件廃止処分を妨げるものとはいえず、損害との間の因果関係が否定されることになる。 (2) 第1却下処分及び第2却下処分当時における保護開始の要件の有無、これ がないとした処分行政庁の判断に係る国家賠償法上の違法性及び過失の有無(原告の主張)ア第1却下処分及び第2却下処分はいずれも「親類・縁者等の引き取り」を理由とするものとされているが、法4条1項の文言上明らかなとおり、親族の扶養は、保護開始の消極要件ではない。扶養は、他の資産と異なり、 極めて不確実なものであるからである。同条2項にいう扶養の優先とは、扶養援助があった場合にその額が保護費から差し引かれることを意味するにすぎない。 処分行政庁は、上記各処分の当時は法4条2項を却下の理由としていたものであるが、上記各処分は同条の解釈適用を誤った違法なものである。 イ引取扶養が法4条1項の資産の活用の問題として保護開始の要件となる場合があり得るとしても、法4条1項にいう「その他あらゆるもの」とは、例えば年金受給権のように、「現実には資産となっていないが、要保護者本人が努力(手続き等)することによって容易に資産となり得るもの」を指しており、扶養義務者による扶養が資産となり得るためには、要保護世帯 以外の第三者である扶養義務者が扶養の能力と扶養する意思を有していることが必要となるのであって、要保護者本人の努力のみで資産となり得るものではなく、それが単なる期待可能性にすぎない状態においては、法4条1項にいう「その他あらゆるもの」に含むことはできない(問答集第5〈生活保護と私 であって、要保護者本人の努力のみで資産となり得るものではなく、それが単なる期待可能性にすぎない状態においては、法4条1項にいう「その他あらゆるもの」に含むことはできない(問答集第5〈生活保護と私的扶養〉参照)。また、問答集第5(問5-9)においては、 「権利者と義務者の間の感情問題のために権利者が義務者の義務の履行を 欲しない場合」に法4条1項の要件を欠くものとして保護申請を却下すべきものとされるのは、扶養義務者の側に扶養の意思があることを前提とし、生活保護制度の趣旨に基づく「説明・説得を十分に行っても、なお要保護者本人が扶養を受けることを拒む」ような場合とされているところである。 本件においては、本件廃止処分後も現在まで引取扶養が実現されなかっ たことからすると、母による引取扶養の現実的可能性があったとはいえず、これについて調査又は検討がされた形跡もないから、問答集の定めに照らしても、法4条1項の要件を欠くものとして保護申請を却下すべき場合に該当しない。したがって、原告の保護開始の申請を却下した第1却下処分及び第2却下処分はいずれも違法であり、問答集を含む関係法令等に反す る処分行政庁の判断は、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と処分をしたものとして、国家賠償法上の違法性及び過失がある。 ウなお、原告の父の遺産は、第1却下処分及び第2却下処分当時、未分割であったことから、原告において現実に活用し得る資産には該当しない。 また、用地買収の対象となった不動産の持分の代金については、これを 代理受領した原告の妹から原告に交付された事実がないから、第2却下処分の時点においても、原告において現実に活用し得る資産には該当しない。 原告の妹は、本件停止処分後、原告宅の賃貸借契約の保証人として家賃等 領した原告の妹から原告に交付された事実がないから、第2却下処分の時点においても、原告において現実に活用し得る資産には該当しない。 原告の妹は、本件停止処分後、原告宅の賃貸借契約の保証人として家賃等を支払ったほか、原告のために携帯電話代等を負担してきたものであり、これらの費用を上記不動産の代金から事実上回収したものである。 (被告の主張)ア法4条の解釈に係る原告の主張は争う。扶養義務者に扶養の意思があり、かつ、扶養能力が認められる場合には、扶養請求権が法4条1項にいう「その他あらゆるもの」に該当することになり、問答集第5問5-9に「扶養義務者の側に扶養の意思がある以上、これを拒むことは認められるもので はなく、これらの説明・説得を十分に行っても、なお要保護者本人が扶養 を受けることを拒むようであれば、法第4条第1項の要件を欠くものとして保護申請を却下すべきである。」と記載されているとおり、この場合には、法4条1項の要件を欠くものとして保護申請を却下すべきである。 本件においては、絶対的扶養義務者(民法877条1項)である原告の母から扶養の申出があり、かつ、同人は持ち家に居住しながら少なくとも 年金によって生計が維持されており、原告を受け入れることが可能な状況にあった中、原告において母と同居することを不可能にするような事情はうかがわれなかったことから、処分行政庁としては、原告の意思次第で扶養を受けることが可能な状況にあると判断せざるを得なかったものである。 仮に法4条1項に係る上記解釈が違法とされたとしても、処分行政庁と しては問答集に記載された解釈に基づいて処分を行ったものであるから、国家賠償法1条1項にいう違法があったということにはならない。 イなお、原告の父の相続が令和2年12月10日開始し 政庁と しては問答集に記載された解釈に基づいて処分を行ったものであるから、国家賠償法1条1項にいう違法があったということにはならない。 イなお、原告の父の相続が令和2年12月10日開始し、原告及びその母が法定相続分に応じて父の遺産を取得し得る状況にあったことに加え、父の遺産である不動産の共有持分が用地買収の対象となり、その対価として 第2却下処分に先立つ令和3年7月20日に原告は30万円、原告の母は60万円を受領していることからすると、第1却下処分及び第2却下処分当時(取り分け第2却下処分の時点では)、原告には活用し得る資産があったことになるから、上記各処分は違法とはならないし、原告の母は十分な扶養能力を有していたことになるから、仮に処分行政庁が原告の母の扶養 能力を調査していない点に違法があったとしても、この点は上記各処分を妨げるものとはいえず、損害との間の因果関係が否定されることになる。 (3) 損害の発生及び額(原告の主張)ア慰謝料各処分につき150万円 本件廃止処分並びにこれに続く第1却下処分及び第2却下処分によって、 原告は、本来法により保障されるべき最低限度の生活を大きく下回る生活を余儀なくされた。生存権が侵害されたことによる精神的苦痛は大きく、あえて金銭的に評価するならば、各処分につき150万円を下らない。 イ弁護士費用各処分につき15万円原告は、違法な本件各処分に係る損害賠償請求訴訟の追行を弁護士に委 任せざるを得なかったものであるから、原告が支払う弁護士費用のうち相当額は本件各処分と相当因果関係を有する原告の損害として認められるべきであり、その額は、各処分につき15万円を下らない。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事 ち相当額は本件各処分と相当因果関係を有する原告の損害として認められるべきであり、その額は、各処分につき15万円を下らない。 (被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実に加え、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) 保護開始当時の事情 ア原告は、平成28年1月29日、これまで実家で両親と生活をしていたが、折り合いが悪く自立を目指して単身で生活を始めたが、預貯金なく、就労収入もわずかばかりしかないため、今後安定した収入が得られるまでの生活ができないとして、保護開始の申請をした。処分行政庁は、同日、原告について保護の必要性を認め、保護開始決定をした。(乙12、13) イ処分行政庁は、平成28年1月29日の保護開始決定に際し、原告の父母については高齢を理由に扶養能力の調査を行わなかったものであるが(乙13)、原告の父は、生駒市a所在の自宅土地建物を所有しているほか(乙1の1・2)、生駒市内に複数の土地(山林、田)を所有していた(乙11の1~6、14)。 ウ原告の父は、平成27年頃後見開始の審判を受け、成年後見人に社会福 祉士が選任されていた(乙10、20の1)。原告の母も、認知症により介護を要する状態にあり、令和3年5月時点で要介護2の認定を受けていた(甲13)。 エ原告の妹(昭和44年生まれ)は、看護師であり、生駒市内に長男(平成12年生まれ)及び長女(平成14年生まれ)とともに居住する母子家庭 である。原告の妹は、父母及び原告とは別居しつつも、父母の介護・支援を行うほか、原告に対しても賃貸借契約の保証人になるなど様々な支援を行っていた。(甲12の11、乙13)(2) 本件停止処分に至る経緯ア処分行政庁の職員 告とは別居しつつも、父母の介護・支援を行うほか、原告に対しても賃貸借契約の保証人になるなど様々な支援を行っていた。(甲12の11、乙13)(2) 本件停止処分に至る経緯ア処分行政庁の職員は、令和2年9月8日、原告宅を訪問し、原告に対し、 法27条に基づく口頭指導として、求職活動のためにも携帯電話を契約し、報告すること(報告期限同月11日まで)、真摯に求職活動を行い、稼働能力を最大限活用できるよう努めることを指導した(乙10)。 イ原告は、処分行政庁の職員に対し、令和2年9月8日、ヘルペス等の持病があるので就労は難しい旨、通院先の奈良県生駒市所在のクリニックに 就労についての意見書を書いてもらいたい旨述べ、同月11日、同クリニックで福祉事務所から意見書を送付してほしいと言われた旨述べた(乙10)。そこで、処分行政庁は、同月14日、同クリニックに対して原告に係る医療要否意見書の提出を求め、同月23日、普通就労・軽就労がいずれも「可」である旨記載された同月16日付け意見書(甲19)を受領した。 なお、同クリニックは、精神科の診療を行う医療機関ではなく、整形外科・内科・脳神経外科・神経内科・リハビリテーション科を標榜する医療機関であり(甲20)、上記意見書に記載された同クリニックへの通院に係る傷病名も慢性頭痛と気管支喘息のみであった(甲19)。 ウ処分行政庁の職員は、令和2年9月25日及び同年10月5日、いずれ も原告宅訪問時に不在であったことから、法27条に基づく文書指導とし て、所定の期限までに現況の求職活動状況申告書を窓口へ提出すること、所定の期限までに携帯電話を購入し、自立に向け真摯に求職活動を行うこと、毎週求職活動状況申告書を提出することを記載した指導指示書(甲21、22)を郵便受 況の求職活動状況申告書を窓口へ提出すること、所定の期限までに携帯電話を購入し、自立に向け真摯に求職活動を行うこと、毎週求職活動状況申告書を提出することを記載した指導指示書(甲21、22)を郵便受けに投函し、同月15日、原告宅訪問時に不在であったことから、法62条4項に基づく弁明の機会を同月20日午前10時に 付与する旨記載した通知書(甲23)を郵便受けに投函した(乙10)。 エ処分行政庁は、原告が前記ア及びウの指導指示に従わず、弁明の機会にも来所しなかったことから、令和2年10月22日、ケース診断会議を開催し、同月20日付けで本件停止処分をした(甲12の10、乙10)。 (3) 本件廃止処分に至る経緯 ア処分行政庁の職員は、令和2年10月28日、原告宅を訪問し、原告に対し、弁明の機会の付与の結果及び本件停止処分について記載した通知書(甲24)を交付した上、本件停止処分に至る経緯を説明するとともに、法27条に基づく指導として、前記(2)ウの指導指示書と同内容を記載し、これに従わない場合には法62条3項に基づき保護を廃止することがある 旨を記載した指導指示書(甲25)を交付した(乙10)。 イ原告の妹は、原告宅の賃貸借契約の保証人になっていたところ、本件停止処分により家賃の支払が停止されたことについて不動産会社から連絡があったことから、原告が保護停止になった事実を知るに至った。原告の妹は、令和2年11月16日、長男(原告の甥)をして原告とともに処分行 政庁の事務所を来訪させ、本件停止処分に至る経緯について説明を求め、同月25日、原告、長男及び父の後見人とともに同事務所を来訪し、処分行政庁の職員に対し、原告が健常者でないことを把握しているか、普通のやり取りができると考えているのかを問いただした。(乙10) め、同月25日、原告、長男及び父の後見人とともに同事務所を来訪し、処分行政庁の職員に対し、原告が健常者でないことを把握しているか、普通のやり取りができると考えているのかを問いただした。(乙10)ウ原告は、令和2年12月4日、甥及び父の後見人とともに処分行政庁の 事務所に来所し、同月1日から特別養護老人ホームA荘(甲9の1参照) の清掃の仕事を始めた旨報告して求職活動状況申告書を提出するとともに、携帯電話については、先日手続をしようとしたところ、過去に滞納履歴があるため審査が下りなかった旨を説明した。原告の甥は、同月4日、処分行政庁の職員に対し、原告は精神障害者であるのでそのことも配慮の上何とか保護停止解除してもらいたい旨述べたところ、処分行政庁の職員は、 原告は精神障害との認定もなく障害者として対応することはできず、原告が就労して自立するしか保護停止解除はできない旨回答した。(乙10)エ処分行政庁の職員は、令和2年12月9日、来所した原告に対し、原告がA荘において開始した1日4時間、週2回の就労は月収二、三万円程度で到底自立できない金額であるとして、法27条に基づく指導として、自 立に向けて、確実に収入が確保できるよう真摯に就職活動を行うこと、毎週「求職活動状況申告書」を提出すること(1回目の提出期日は同月11日まで)、処分行政庁及び関係機関と連絡が取れるよう携帯電話を確保することを記載した指導指示書(甲26)を交付した(乙10)。 オ処分行政庁の職員は、前記エの指導に係る令和2年12月11日の期日 に原告が来所しなかったことから、同月15日午後3時20分頃、原告宅を訪問した。丁度外出しようと自宅から出てきた原告は、処分行政庁の職員に対し、同月11日来所しなかった理由について「父が10日 に原告が来所しなかったことから、同月15日午後3時20分頃、原告宅を訪問した。丁度外出しようと自宅から出てきた原告は、処分行政庁の職員に対し、同月11日来所しなかった理由について「父が10日に亡くなり葬儀の準備などでバタバタしていた」旨述べ、「国保の手続はできましたし、もう停止から廃止にしていただいて構いません。今後はこのアパート は滞納があるので、引き払い実家に戻ろうと思っています。」旨述べ、「生活やっていけますか?」との質問に対して「苦しいですが、頑張っていきます。」旨答えて足早に立ち去った。(乙10、19。なお、原告本人の供述〔甲15及び甲31を含む。〕中、上記認定に反する部分は採用することができない。) (4) 第1却下処分に至る経緯 ア原告が本件停止処分を受けた後も、原告宅の家賃(月額3万5000円)及び共益費(月額5000円。水道代を含む。)は、賃貸借契約の保証人となっていた原告の妹が支払を続けていたが、原告宅の電気・ガスは、本件停止処分後、止まったままの状態が続いていた。原告が処分行政庁から指導を受けていた携帯電話については、原告の妹が、母名義の携帯電話を原 告に所持させ、その料金を支払っていた。(甲12の11、15、31)イ原告は、かつて被害関係妄想を呈して精神科へ通院し、統合失調症と診断された病歴があり、その後、精神科への通院を中断していたものであるが、令和2年11月17日、父の後見人に連れられ、奈良県北葛城郡b町所在のクリニックを受診した。同クリニック精神科医師作成の令和3年1 月3日付け診断書(甲2)によると、現在の病状、状態像等については、統合失調症等残遺状態としての自閉、感情平板化及び意欲の減退が認められ、日常生活能力については、適切な食事摂取は「自発的に 月3日付け診断書(甲2)によると、現在の病状、状態像等については、統合失調症等残遺状態としての自閉、感情平板化及び意欲の減退が認められ、日常生活能力については、適切な食事摂取は「自発的にできるが援助が必要」、身辺の清潔保持、規則正しい生活、金銭管理と買物、他人との意思疎通・対人関係、身辺の安全保持・危機対応、社会的手続や公共施設の利用、 趣味・娯楽への関心、文化的社会的活動への参加はいずれも「援助があればできる」と判定され、「精神障害を認め、日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を必要とする。」とされている。原告は、上記診断書に基づき、同月15日、2級の精神障害者保健福祉手帳(甲1)の交付を受けた。 ウ原告は、令和3年4月5日、支援者とともに処分行政庁の事務所に来所し、保護開始の申請をした。その際、原告は、家賃及び共益費・水道代は妹が支払をしているが、4月から妹の支援が受けられなくなること、電気・ガスは半年間止まったままであること、精神障害者保健福祉手帳2級を取得したこと、令和2年12月に開始したA荘における就労は続けているこ となどを述べた。(甲12の11) エ処分行政庁の職員は、令和3年4月12日、原告宅を訪問した。その際、原告は、令和2年12月15日に実家に戻る旨述べていたことについて、「実家には戻りたいが、妹に反対され戻れなかった。妹に支援してもらっているので負い目を感じており、自分からは言えない。市役所が間に入ってもらうことはできないのか。」旨述べた。(甲12の11) オ処分行政庁の職員は、令和3年4月12日、原告の母宅を訪問した。その際、原告の母は、原告が実家に戻ってくることはできないかと尋ねられたのに対し、「帰ってきたらいい、家賃ももったいないし、今の オ処分行政庁の職員は、令和3年4月12日、原告の母宅を訪問した。その際、原告の母は、原告が実家に戻ってくることはできないかと尋ねられたのに対し、「帰ってきたらいい、家賃ももったいないし、今の状況で一人で暮らしている方が心配。妹と比べて大人しいし、色々気を使う子やから自分から言いにくいんやと思う。戻ってくるように伝えてください」旨述 べた。職員は、同日、原告に母の発言を伝え、母が扶養できる以上保護することはできないので母に連絡するように告げた。(甲12の11)カ原告は、令和3年4月15日、支援者とともに処分行政庁の事務所に来所した。その際、原告の支援者は、原告の母は認知症状があり、一日の中でも症状の変化があり、(同月12日の原告の母の発言については)デイサ ービスの帰りということもあって状態が良かったときであり、そのときの発言だけで判断するのはどうかと思う、一緒に住むことで原告の精神状態が悪化することが懸念される旨を述べ、原告は、母とは会話が成立しないこともある中で、戻ってきたらなんて言うわけがない、一緒に暮らすと要介護の母の世話が必要になるし、今入っているヘルパーの回数も減らされ るかもしれない、そうなると今の自分の体調ではとてもじゃないがやっていけない旨を述べた。(甲12の11)キ処分行政庁は、令和3年4月22日、ケース診断会議を開催して協議検討した結果、「扶養義務者が扶養を申し出ているため、保護申請は却下する。」との結論に至り、同日付けで、原告に対し、第1却下処分をした(甲12 の10)。なお、処分行政庁は、原告が生活保護開始前に実家で生活してお り、実家に帰れば妹から援助を受けている家賃の負担なく生活できるものと判断し、第1却下処分に至る過程において、原告の母の資力の調査を行 処分行政庁は、原告が生活保護開始前に実家で生活してお り、実家に帰れば妹から援助を受けている家賃の負担なく生活できるものと判断し、第1却下処分に至る過程において、原告の母の資力の調査を行わなかった(甲12の8)。 (5) 第2却下処分に至る経緯ア原告が第1却下処分を受けた後も、原告の妹は、原告宅の家賃及び共益 費・水道代の支払を続けるとともに、母名義の携帯電話を原告に所持させ、その料金の支払を続けていた。原告宅の電気・ガスは、本件停止処分後、止まったままの状態が続いていた。原告は、令和3年7月当時、令和2年12月に開始したA荘の清掃の仕事を続け、月額約3万円の収入を得ていたほか、ポスティングの仕事をして月額数千円から1万円強の収入を得て いた。(甲9の1~7、10、14、乙16)イ原告の父は令和2年12月10日死亡し、その相続人は原告の母、原告及び原告の妹の3名であったところ、令和3年7月当時、原告の父の遺産分割は未了であった。原告の父の後見人は、令和2年12月14日、後見人が管理していた本人の財産である現金35万円及び預金(残高2万67 10円)を原告の妹に引き継いで後見事務を終了した(乙20の1~3)。 ウ原告の父が同人の亡養父(原告の祖父)名義で共有持分3分の1を有していた土地1筆が用地買収の対象となったことから、原告の母、原告及び原告の妹は、令和3年7月6日付け売買契約を締結し、上記土地の各持分全部を国土交通省に売却した。ただし、原告が上記契約に関与したのは妹 に対する委任状の作成のみであり、上記契約に基づいて原告に支払われるべき代金43万8786円のうち30万円は同月20日、残金は同年11月10日、いずれも原告が代理受領権限を与えた妹名義の預金口座に振り込まれた。(乙13、1 あり、上記契約に基づいて原告に支払われるべき代金43万8786円のうち30万円は同月20日、残金は同年11月10日、いずれも原告が代理受領権限を与えた妹名義の預金口座に振り込まれた。(乙13、14、調査嘱託の結果、原告本人23頁)エ原告は、令和3年7月9日、知人とともに処分行政庁の事務所に来所し、 保護開始の申請をした。その際、処分行政庁は、前回(同年4月12日)の 原告の母宅の訪問時に原告側関係者が同席していなかったこと及び認知症の母への聞き取りが配慮に欠けていたことについて指摘を受けたことから、今回は原告の母との面談時に原告も同席できるよう日程調整に努めたが、原告と連絡が取れない状況が続き、同年8月3日ようやく原告を同行して原告の母宅を訪問することが実現した。(甲14、乙16) オ処分行政庁の職員は、令和3年8月3日、原告を同行して原告の母宅を訪問した。その際、原告の母は、「帰ってきなさい、無理に一人で暮らさなくても。部屋はいっぱいあるし寝るとこもあるから。心配してるんですよ、皆さんからも言ってくださいよ」旨述べたのに対し、原告は、実家に戻りたい意思はあるが、母のデイサービスの日がバラバラで一緒に住むと自分 の頭がこんがらがる旨、税金がどうなるか心配である旨、実家に帰ることで妹ともめることを懸念している旨述べ、「(令和2年12月15日には)帰っていいと思ったが、妹からデイに行ってる母がいるから無理と言われた。父の葬式の時に実家で生活してもいいと思った。」旨述べた。(乙2、16) カ処分行政庁は、令和3年8月4日、ケース診断会議を開催して協議検討した結果、「(主)の母は介護サービスを受けながら居宅生活(要介護2)を続けており、扶養照会の聞き取り調査をした時も、こちらの問いかけに明確 庁は、令和3年8月4日、ケース診断会議を開催して協議検討した結果、「(主)の母は介護サービスを受けながら居宅生活(要介護2)を続けており、扶養照会の聞き取り調査をした時も、こちらの問いかけに明確に答えられており、判断能力がないとは言えないと考えられるため、親類・縁者等の引き取りにより保護申請は却下する。」との結論に至り、同 日付けで、原告に対し、第2却下処分をした(乙17)。 2 争点(1)(本件廃止処分関係)について(1) 法26条前段にいう「被保護者が保護を必要としなくなったとき」とは、生計が向上して生活困窮の状態でなくなるとか、あるいは、扶養義務者から実際に扶養を受けられるようになったなどのように、被保護者が法4条の要 件を満たさなくなり、保護を継続実施すべき状態でなくなった場合をいうも のと解するのが相当である。 これを本件についてみると、本件廃止処分に係る決定通知書には廃止の理由について「親類・縁者等の引取り」による旨の記載があるが(前提事実(4))、実際に原告が母と同居して引取扶養を受けるには至っていないのであるから、母による引取扶養を理由に「保護を必要としなくなった」として法26条の 保護廃止の要件を充足するに至ったものと認めることはできない。 (2) これに対し、被告は、原告が令和2年12月15日に処分行政庁の職員に対してした発言が口頭での辞退の申出に当たる旨主張する。 そこで検討すると、被保護者からの辞退の申出により保護を廃止するには、少なくともその申出が本人の任意かつ真摯な意思に基づくものであることを 要するものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、原告が、本件廃止処分の当日である令和2年12月15日、原告宅を訪問した処分行政庁の職員に対し、「父が10日に亡く あることを 要するものと解するのが相当である。 これを本件についてみると、原告が、本件廃止処分の当日である令和2年12月15日、原告宅を訪問した処分行政庁の職員に対し、「父が10日に亡くなり葬儀の準備などでバタバタしていた」旨述べ、「国保の手続はできましたし、もう停止から廃止にしていただいて構いません。今後はこのアパート は滞納があるので、引き払い実家に戻ろうと思っています。」旨述べ、「生活やっていけますか?」との質問に対して「苦しいですが、頑張っていきます。」旨答えて足早に立ち去った事実は認められるものの(認定事実(3)オ)、これらの原告の発言は、処分行政庁の職員が出掛けようと自宅から出てきた原告を引き止めて短時間の面談をする中で原告の心境を口頭で聴取したものにす ぎず、同年10月20日に保護が停止されたことにより既に困窮状態にあり、老人ホームでの就労開始によっても保護停止解除の見通しが立たず、滞納した家賃が妹に請求されて妹に迷惑を掛けている状況にある原告が、このまま原告宅を賃借し続ける方途も見いだせないと考え、一時の感情から上記のような発言に至るのも無理のないところであって、このような発言をもって、 保護を受ける権利を自ら放棄する旨の申出として任意かつ真摯な意思に基づ くものと認めるのは相当でない。そうすると、有効な辞退の申出があったとは認められないから、本件廃止処分は保護廃止の要件を欠くものというほかない。 そして、保護受給中の者から提出された「辞退届」の取扱いに係る課長通知第10問12の3の定めに照らせば、処分行政庁は、被保護者から辞退の 申出があった場合には、書面を徴求した上でそれが本人の任意かつ真摯な意思に基づくものであること確認し、かつ、保護を廃止することで直ちに急迫した状況 に照らせば、処分行政庁は、被保護者から辞退の 申出があった場合には、書面を徴求した上でそれが本人の任意かつ真摯な意思に基づくものであること確認し、かつ、保護を廃止することで直ちに急迫した状況に陥ると認められないことを確認すべきであったにもかかわらず、職務上の法的義務に違背して違法に本件廃止処分をしたものといえるから、本件廃止処分について国家賠償法上の違法性及び過失があると認められる。 (3) なお、被告は、原告が令和2年12月10日開始した父の相続により法定相続分に応じてその遺産を取得し得る状況にあった旨主張するが、本件廃止処分の時点までに原告が父の遺産を確定的に取得し、これを直ちに自らの生活資金に充てることができる状態で管理していたことを認めるに足りる証拠はなく、これが原告において活用し得る資産であったとはいえないから、父 の遺産の存在は前記(1)及び(2)の判断を左右し得るものとはいえない。 3 争点(2)(第1却下処分及び第2却下処分関係)について(1) 第1却下処分及び第2却下処分はいずれも「親類・縁者等の引き取り」を却下の理由とするものとされているところ、要保護者が実際に扶養義務者と同居して引取扶養が行われるに至った場合には両者を同一世帯として保護の 要否を判定することになると解されるが、本件においては、上記各処分当時、母による引取扶養が行われるに至っておらず、上記の場合には該当しない。 (2) これに対し、被告は、絶対的扶養義務者(民法877条1項)である母が扶養の意思及び能力を有している以上、扶養請求権が法4条1項にいう「その他あらゆるもの」に該当し、原告がこれを拒むことは認められないから、 問答集第5問5-9の記載によれば保護申請を却下すべきであり、問答集に 記載された解釈 権が法4条1項にいう「その他あらゆるもの」に該当し、原告がこれを拒むことは認められないから、 問答集第5問5-9の記載によれば保護申請を却下すべきであり、問答集に 記載された解釈に従った処分行政庁に国家賠償法上の違法はない旨主張する。 しかしながら、扶養の方法(民法879条)は、金銭的扶養が原則であり、引取扶養は、当事者間の合意を前提とした例外的な扶養の方法と解される。 問答集第5の〈生活保護と私的扶養〉における「例えば、実際に扶養義務者からの金銭的扶養が行われたときに、これを被保護者の収入として取り扱う こと等を意味するものであり、扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものではない。」、「「扶養義務者による扶養」が資産(金銭)となり得るためには、要保護世帯以外の第三者である扶養義務者が扶養の能力と扶養する意思を有していることが必要となる。すなわち、要保護者本人の努力のみで資産となり得るものではなく、それが単なる期待可能 性にすぎない状態においては、第1項の「その他あらゆるもの」に含むことはできない。」、「一方で、例えば、扶養義務者が月々の金銭援助を申し出ている場合など、扶養義務者に扶養能力があり、かつ扶養をする意思があることが明らかである場合においては、扶養義務者の扶養は、要保護者本人の扶養請求権の行使(努力)によって、資産(金銭)となり得ることになる。」など の記載はいずれも金銭的扶養を前提としているものと解されるところであり、問答集第5問5-9についても同様に解される。 しかるところ、本件においては、第1却下処分及び第2却下処分の当時、原告の母は、原告に帰ってきてもらいたい旨の意向を示していたのに対し(認定事実(4)オ、(5)オ)、原告は、実家に戻ることについて妹に反対さ ころ、本件においては、第1却下処分及び第2却下処分の当時、原告の母は、原告に帰ってきてもらいたい旨の意向を示していたのに対し(認定事実(4)オ、(5)オ)、原告は、実家に戻ることについて妹に反対されたこと、 母の認知症の症状にも変動があること、介護サービスとの調整を要すること、自分が介護をしなければならないとすると自分の体調も悪化しかねないことなどの懸念を表明して難色を示していたこと(認定事実(4)エ、カ、(5)オ)が認められるところ、原告が統合失調症の残遺症状により対人関係の折衝に援助を要する状態にあったこと(認定事実(4)イ)に照らせば、原告が独力で 妹を含む関係者間の調整を図った上で実家への帰住を実現することは期待し 難い状況にあったものというほかない。そうすると、問答集第5問5-9の記載が引取扶養について妥当し得るとしても、原告が「単に感情的な理由のみによって受けられる扶養の履行を受けない」場合に該当するとはいえないから、これにより原告の保護申請を却下すべきものということはできない。 そして、処分行政庁は、令和2年12月15日には原告から実家に戻ろう と思う旨の意向を聴取していたにもかかわらず、数か月経過後の第1却下処分及び第2却下処分時点に至っても実家への帰住が実現しないことについて原告及び原告の母の意向を聴取しただけで、実現可能性について何ら具体的な調査・検討をしていないことをも併せ考慮すると、処分行政庁は職務上の法的義務に違背して違法に上記各処分をしたものといえるから、上記各処分 について国家賠償法上の違法性及び過失があると認められる。 (3) なお、被告は、原告が令和2年12月10日開始した父の相続により法定相続分に応じてその遺産を取得し得る状況にあり、令和3年7月20日には用地買収 償法上の違法性及び過失があると認められる。 (3) なお、被告は、原告が令和2年12月10日開始した父の相続により法定相続分に応じてその遺産を取得し得る状況にあり、令和3年7月20日には用地買収の対象となった不動産の代金30万円が支払われた旨主張するが、上記代金30万円は原告の妹が代理受領したものであって(認定事実(5)ウ)、 これが原告に引き渡されたことを認めるに足りる証拠はない上、本件停止処分後の原告宅の家賃や携帯電話代などの本来原告が負担すべき費用を原告の妹が支払ってきたことからすると(認定事実(4)ア、(5)ア)、原告の妹が上記代金30万円から事実上の回収を図るのは不当とはいえないところであり、その他、第1却下処分又は第2却下処分の時点までに原告が父の遺産を確定 的に取得し、これを直ちに自らの生活資金に充てることができる状態で管理していたことを認めるに足りる証拠はないことからすると、これが原告において活用し得る資産であったとはいえない。また、原告の母が用地買収の代金60万円を受領したとの指摘についても、原告の母がこれを原告の扶養に充てることができる資力及び意思を有していたことを裏付ける証拠はなく、 そのような調査がされた形跡もない。したがって、父の遺産の存在は前記(1) 及び(2)の判断を左右し得るものとはいえない。 4 争点(3)(損害の発生及び額)について(1) 原告は、違法な第1却下処分及び第2却下処分により、本来法により保障されるべき最低限度の生活を大幅に下回る生活を余儀なくされたものであり、これによる精神的損害は相当に大きなものであったといえる。そうすると、 本件裁決により第1却下処分が取り消された結果、第1却下処分に係る申請日である令和3年4月5日に遡って保護開始決定がされ(前 これによる精神的損害は相当に大きなものであったといえる。そうすると、 本件裁決により第1却下処分が取り消された結果、第1却下処分に係る申請日である令和3年4月5日に遡って保護開始決定がされ(前提事実(8)(9))、事後的に財産的損害が塡補されたことを考慮しても、第1却下処分及び第2却下処分による精神的損害の全部が慰謝されたと評価するのは相当でない。 (2) また、原告は、第1却下処分に先立つ違法な本件廃止処分により、これが なければ本件停止処分の解除により保護費の支給を受け得る機会を喪失したものである。処分行政庁としては、携帯電話の契約について過去に滞納履歴があるため審査が下りなかった旨の説明を受けるとともに原告が精神障害を有する旨の指摘を受けたのが本件停止処分後の令和2年12月4日であったことからすると(認定事実(3)ウ)、原告に対して携帯電話及び求職活動に関 する指導を行い、その指導に従わなかったとして本件停止処分をしたことがその当時違法であったとまでは認められないものの、本件廃止処分前の令和2年12月4日に上記の説明及び指摘があったことに加え、その後の令和3年1月には原告が精神科医の診断を受けて2級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受け(認定事実(4)イ)、原告の妹が母名義の携帯電話を原告に所持さ せるに至っていること(認定事実(4)ア)も考慮すれば、同年4月5日の保護開始の申請を待つことなく保護停止の解除が検討されてしかるべきであったといえ、この点も本件廃止処分に係る慰謝料の算定上考慮すべきである。 (3) 以上の諸事情を総合考慮すれば、本件各処分に係る慰謝料としては、本件廃止処分につき10万円、第1却下処分及び第2却下処分につき各20万円 を認めるのが相当であり、本件各処分と相当因果関係を有する弁 の諸事情を総合考慮すれば、本件各処分に係る慰謝料としては、本件廃止処分につき10万円、第1却下処分及び第2却下処分につき各20万円 を認めるのが相当であり、本件各処分と相当因果関係を有する弁護士費用と しては、本件廃止処分につき1万円、第1却下処分及び第2却下処分につき各2万円を認めるのが相当である。 5 結論よって、原告の請求は、損害賠償金合計55万円及びうち本件廃止処分に係る損害賠償金11万円に対する令和2年12月15日から、うち第1却下処分 に係る損害賠償金22万円に対する令和3年4月23日から、うち第2却下処分に係る損害賠償金22万円に対する同年8月4日から各支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余の請求はいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部 裁判官石間大輔 裁判官矢島佑一 裁判長裁判官寺本佳子は、転補につき、署名押印することができない。 裁判官石間大輔 (別紙1)課長通知の定め第10 保護の決定問12 法第26条の規定により保護の停止又は廃止を行なう場合の取扱いの基準を示されたい。 答被保護者が保護を要しなくなったときには、法第26条の規定により保護の停止又は廃止を行なうこととなるが、保護を停止すべき場合又は廃止すべき場合は、原則として、次によられたい。 1 保護を停止すべき場合(1) 当該世帯における臨時的な収入の増加、最低生活費の減少等により、一 時的に保護を必要としなくなった場合であって、以後において見込まれるその世帯の最低生活費及び収入の状況から判 き場合(1) 当該世帯における臨時的な収入の増加、最低生活費の減少等により、一 時的に保護を必要としなくなった場合であって、以後において見込まれるその世帯の最低生活費及び収入の状況から判断して、おおむね6か月以内に再び保護を要する状態になることが予想されるとき。 なお、この場合には、以後において見込まれる当該世帯の最低生活費及び収入充当額に基づき、停止期間(原則として日を単位とする。)をあらか じめ定めること。 (2) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、一応保護を要しなくなったと認められるがその状態が今後継続することについて、なお確実性を欠くため、若干期間その世帯の生活状況の経過を観察する必要があるとき。 2 保護を廃止すべき場合(1) 当該世帯における定期収入の恒常的な増加、最低生活費の恒常的な減少等により、以後特別な事由が生じないかぎり、保護を再開する必要がないと認められるとき。 (2) 当該世帯における収入の臨時的な増加、最低生活費の臨時的な減少等に より、以後おおむね6か月を超えて保護を要しない状態が継続すると認め られるとき。 なお、以上の場合における保護の停止又は廃止は保護を要しなくなった日から行なうことを原則とする。ただし、当該保護を要しなくなった日の属する月が、保護の停止又は廃止を決定した日の属する月の3か月以前であるときは、保護を要しなくなった日まで遡及して保護の停廃止を行なうことなく、保護を 要しなくなった日から3か月までの間にかかる保護の費用について、法第63条又は法第78条の規定により費用を徴収することとし、前々月の初日をもって保護の停廃止を行なうこと。 問12の3 保護受給中の者から「保護を辞退する」旨の意思を示し かる保護の費用について、法第63条又は法第78条の規定により費用を徴収することとし、前々月の初日をもって保護の停廃止を行なうこと。 問12の3 保護受給中の者から「保護を辞退する」旨の意思を示した書面(以下「辞退届」という。)が提出された場合には、これに基づき保護を廃止しても 差し支えないか。 答被保護者からが提出された「辞退届」が有効なものであり、かつ、保護を廃止することで直ちに急迫した状況に陥ると認められない場合には、当該保護を廃止して差し支えない。 ただし、「辞退届」が有効となるためには、それが本人の任意かつ真摯な意思 に基づくものであることが必要であり、保護の実施機関が「辞退届」の提出を強要してはならないことは言うまでもなく、本人が「保護を辞退する義務がある」と誤信して提出した「辞退届」や、本人の真意によらない「辞退届」は効力を有せず、これに基づき保護を廃止することはできないものである。 また、「辞退届」が本人の任意かつ真摯な意思に基づいて提出された場合であ っても、保護の廃止決定を行うに当たっては、例えば本人から自立の目途を聴取するなど、保護の廃止によって直ちに急迫した状況に陥ることのないよう留意すること。 さらに、保護の廃止に際しては、国民健康保険への加入など、保護の廃止に伴い必要となる諸手続についても助言指導するとともに、必要に応じて自立相 談支援機関につなぐこと。 (別紙2)問答集の定め第5 扶養義務の取扱い〈生活保護と私的扶養〉「扶養義務者による扶養」は、旧法が私的扶養を受けることができる条件を有し ている者には公的扶養を受ける資格を与えないという立場をとっていたのに対し、現行の生活保護法では、第4条第2項において、「保護に優先して行われる」ものと 私的扶養を受けることができる条件を有し ている者には公的扶養を受ける資格を与えないという立場をとっていたのに対し、現行の生活保護法では、第4条第2項において、「保護に優先して行われる」ものと定めており、同条第1項に定める「保護の要件」とは異なる位置づけのものとして規定している。 この意味するところは、例えば、実際に扶養義務者からの金銭的扶養が行われた ときに、これを被保護者の収入として取り扱うこと等を意味するものであり、扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものではない。 なお、「扶養請求権」は、それが利用し得るものである限りにおいて第1項にいう「その他あらゆるもの」に含まれると解することができるのではないかとの疑問が生じるが、ここでいう「その他あらゆるもの」とは、例えば年金受給権のように、 「現実には資産となっていないが、要保護者本人が努力(手続き等)することによって容易に資産となり得るもの」を指している。 これを扶養にあてはめて考えてみると、「扶養義務者による扶養」が資産(金銭)となり得るためには、要保護世帯以外の第三者である扶養義務者が扶養の能力と扶養する意思を有していることが必要となる。すなわち、要保護者本人の努力のみで 資産となり得るものではなく、それが単なる期待可能性にすぎない状態においては、第1項の「その他あらゆるもの」に含むことはできない。 一方で、例えば、扶養義務者が月々の金銭援助を申し出ている場合など、扶養義務者に扶養能力があり、かつ扶養をする意思があることが明らかである場合においては、扶養義務者の扶養は、要保護者本人の扶養請求権の行使(努力)によって、 資産(金銭)となり得ることになる。したがって、このような場合には、扶養請求 権の行使は保護の要件 においては、扶養義務者の扶養は、要保護者本人の扶養請求権の行使(努力)によって、 資産(金銭)となり得ることになる。したがって、このような場合には、扶養請求 権の行使は保護の要件として位置づけられることになる。 なお、私的扶養の果たす社会的機能や国民の扶養に対する意識は時代とともに変化するものであり、扶養の問題を考えるにあたっては、常にこのような時代の変化や実態をふまえて判断していかなくてはならないものである。 (問5-9)〔扶養義務における感情問題〕保護申請中の要保護者が、扶養義務者が十分に扶養能力があり、かつ扶養する意思があるにもかかわらず、次のような事情で扶養を受けることを拒んでいる場合、本人の意思を尊重し、直ちに保護してよいか。 (1) 相当長期間にわたって扶養されていたが、これ以上扶養を継続してもらうことは扶養義務者に対して道義上できないと申し立てている場合(2) 過去に交流があったが、最近になって感情的な対立があり、扶養義務者の扶養を受けるくらいなら死んだ方がよいと申し立てる場合(3) 扶養義務者の側は、近隣に居住していることもあり、本人が毎月直接お金を取りに来れば扶養すると申し立てているが、本人は、「金をもらいに行けばいろいろと説教されるので絶対に嫌だ」と拒否している場合(答)設問の場合は、いずれも権利者と義務者の間の感情問題のために権利者が義務者の義務の履行を欲しない場合と思われる。このように扶養の問題はきわめてデリケートな側面があり、しばしば感情的な問題を発生しやすいので慎重な対応が求められるところであるが、一方で単に感情的な理由のみによって受けられる扶養の履行を受けないということでは、保護の補足性の原理にもとることとなる。したが って、直ちに保護を行うことは適当ではない められるところであるが、一方で単に感情的な理由のみによって受けられる扶養の履行を受けないということでは、保護の補足性の原理にもとることとなる。したが って、直ちに保護を行うことは適当ではない。 (1)の場合については、過去において長期にわたり扶養が行われていたのであれば、扶養義務者の側にこれを中断すべき事情が発生しない限り、本人に生活保護制度の趣旨を懇切ていねいに説明し、継続して扶養を受けるよう理解させるべきである。 (2)の場合については、過去において交流が続いていた関係上、その感情的な対立 は一時的なものである場合が多いと思われる。少なくとも扶養義務者の側には扶養をしようという意思は見られるわけであるから、まずこの対立を解消させるよう必要に応じて仲介するなど、円満な扶養義務の履行を図ることが望まれる。 (3)の場合については、扶養義務者の側が扶養の履行と引き替えに要保護者に対してかなりの努力を必要とするような行為を要求している場合であれば別として、設 問のような場合は申請者の感情によってこれを拒否しているものと認められるので、さらに申請者を説得するように努める必要がある。ただし、申請者が病弱のために歩行が困難であるなどの事情がある場合には、扶養義務者の側に金銭を郵送するよう依頼することなども必要である。 以上、いずれの場合も扶養義務者の側に扶養の意思がある以上、これを拒むこと は認められるものではなく、これらの説明・説得を十分に行っても、なお要保護者本人が扶養を受けることを拒むようであれば、法第4条第1項の要件を欠くものとして保護申請を却下すべきである。 主文 の要件を欠くものとして保護申請を却下すべきである。
▼ クリックして全文を表示