- 1 -令和5年9月12日宣告東京高等裁判所第2刑事部判決令和5年(う)第430号覚醒剤取締法違反被告事件 主文 原判決を破棄する。 被告人を懲役1年に処する。 原審における未決勾留日数中20日をその刑に算入する。 千葉地方検察庁松戸支部で保管中の覚醒剤1袋(令和4年松戸検領第1235号符号1)を没収する。 理由 1 本件控訴の趣意は、主任弁護人澤田剛司及び弁護人立木勇介連名作成の控訴趣意書に記載されたとおりである。論旨は、量刑不当の主張であり、要するに、被告人を懲役1年4月の実刑に処した原判決の量刑は、重過ぎて不当であり、刑の執行を猶予するのが相当である、というのである。 そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討する。 2 本件は、被告人が、第1 令和4年6月28日頃、千葉県柏市内の当時の被告人方において、覚醒剤若干量を加熱し気化させて吸引して使用し、第2 同月29日、同市内のA駅のデッキ上において、覚醒剤の白色結晶状粉末約0.062グラムを所持した、という事案である。 原判決は、量刑の理由として、犯行態様は原判示の各事実(以下「本件各犯行」 という。)のとおりであるとした上で、被告人は、覚醒剤取締法違反等で、懲役1年8月、3年間全部執行猶予の判決(以下、同判決を「名古屋事件判決」、同判決に係る被告事件を「名古屋事件」という。)を受けたのに、その宣告から10日足らずで、またしても覚醒剤に親和的な動機から、本件各犯行に及んでいるとし、そうすると、覚醒剤所持の経緯に被告人なりの言い分があるとして 事件を「名古屋事件」という。)を受けたのに、その宣告から10日足らずで、またしても覚醒剤に親和的な動機から、本件各犯行に及んでいるとし、そうすると、覚醒剤所持の経緯に被告人なりの言い分があるとしても、前記犯情、殊 に被告人の法軽視の意思決定及びこれに付随する人格傾向(覚醒剤親和性)は、そ - 2 -れ相応の責任非難に値し、被告人がその責任に見合った刑期による施設内処遇を受けることはやむを得ないとする。その上で、以上の観点及び本件が名古屋事件判決の確定前の余罪とはいえ、同時審判の利益は見当たらないという点に加え、被告人が罪状を認めて反省の気持ちを示すとともに、薬物依存治療を続けるなどして覚醒剤からの脱却を誓っていること、嘆願書を提出する会社代表者が今後の雇用と更生 への協力を表明していること、支援を期待できる家族の存在等を勘案の上、懲役1年4月の刑が相当であると判断した、とする。 3 以上の原判決の説示は、特に不合理という点はなく、量刑の結論についても相当として是認できる。敷衍すると、被告人は、罪を認め、覚醒剤事犯につき二度と薬物に手を出さないと述べた上で名古屋事件判決を受け、執行猶予に処せられたの であるから、自らの言葉に責任を持ち、反省を深めるべき立場にあったのに、同判決から10日足らずで本件各犯行に及んでおり、覚醒剤に対する親和性が根深く、この種事犯に関する規範意識が薄く、本件各犯行を決意したその意思決定は、無責任であり、相応の非難に値するのであって、犯情は重く、被告人のために酌むべき事情を考慮しても、実刑は免れないから、原判決の判断は相当というべきである。 以下、所論に基いて補足する。 ⑴ 所論は、原判決は被告人に執行猶予を付けなかったが、本件は、覚醒剤所持の量が少なく、覚醒剤使用は1回のみ れないから、原判決の判断は相当というべきである。 以下、所論に基いて補足する。 ⑴ 所論は、原判決は被告人に執行猶予を付けなかったが、本件は、覚醒剤所持の量が少なく、覚醒剤使用は1回のみであって、同種前科もない上、被告人は逮捕直後から素直に捜査に協力したのであるから、一般的には執行猶予が付けられるべき事案であり、原判決が、未だ確定していない名古屋事件判決の存在を示して本件 の刑を量定した点は、本件各犯行を名古屋事件の再犯と捉えたからであって、事実上、無罪推定原則に反するとし、被告人を初犯として扱い、執行猶予を付けるべきである、という。 しかし、原判決は、前記のとおり、覚醒剤事犯の罪等を認めた上で名古屋事件判決を受けたにもかかわらず、それから10日足らずで、またしても薬物犯罪に及ん だという被告人の覚醒剤に対する親和性や無責任な意思決定を非難しているのであ - 3 -り、本件を名古屋事件と再犯関係にあるとして捉えてはいない。そして、本件各犯行に係る態様が同種事犯と比べて重いものではなく、同種前科がないとしても、前記のとおり、覚醒剤に対する親和性や意思決定に対する非難の程度が高く、相応の責任非難に値するとして施設内処遇を受けるのはやむを得ないとした原判決は相当である。 ⑵ 所論は、被告人が令和4年9月5日から同年11月29日までの間、BのCに入所し、同所において、通院を継続するBにおける治療の維持作業等の支援を受けながら、主治医から与えられた更生プログラムやCが行う支援プログラム等を受けており、主治医からは被告人が再犯に及ぶ可能性は極めて小さいとの診断を受けるなど、刑務所内で受ける更生プログラムに匹敵する成果を上げているにもかかわ らず、原判決は、これらの事情の考慮が極めて不十分である、と らは被告人が再犯に及ぶ可能性は極めて小さいとの診断を受けるなど、刑務所内で受ける更生プログラムに匹敵する成果を上げているにもかかわ らず、原判決は、これらの事情の考慮が極めて不十分である、という。 確かに、原判決までの段階で、被告人が薬物依存症からの脱却のため、前記のとおり、Bにおいて入院治療や通院治療を行い、Cに入所して支援プログラムを受けるなどし、その成果も出ていることが認められるが、原判決も、刑を量定する上で、被告人が薬物依存治療を続けるなどして覚醒剤からの脱却を誓っているなどと説示 し、前記の事情を考慮しており、それが不十分であるとまではいえない。 ⑶ 所論は、被告人は、従前芸能活動を行ってきたため、本件により社会的信用が大きく下落し、社会復帰後の生活に甚大な影響が出ており、同種犯罪により処罰された一般人に比べ多大な社会的制裁を受けていることを量刑判断の事情において考慮するべきである、という。 確かに、被告人において、本件により社会的信用が大きく下落し、社会復帰後の生活に甚大な影響が出ていることがうかがわれる。これに対し、原判決は、原審弁論で一般情状として主張された社会的制裁について量刑事情には挙げていないが、一定の社会的制裁を受けていることは一般情状であって、この点を考慮したとしても、原判決の量刑を大きく動かすほどの事情とはいえない。 ⑷ 所論は、判例(最高裁判所第一小法廷平成15年7月10日判決)を引用す - 4 -るなどして、併合罪の処理は、各犯行の個別的な量刑判断の合算による過酷な結果の回避を図る趣旨を含むところ、併合罪の関係にある名古屋事件と本件とが併合審理されれば、一般的に執行猶予が付されるのが相当な事案であるにもかかわらず、原判決が執行猶予を付けなかったことから、両事件が の回避を図る趣旨を含むところ、併合罪の関係にある名古屋事件と本件とが併合審理されれば、一般的に執行猶予が付されるのが相当な事案であるにもかかわらず、原判決が執行猶予を付けなかったことから、両事件が確定すれば、名古屋事件判決の執行猶予も取り消され、被告人は併せて懲役3年の実刑を受けたのと同じ状態と なり、前記合算による過酷な結果は回避できないから、刑法47条に違反する、という。 しかし、名古屋事件の判決宣告後に本件に及んだとの経緯からして、本件と名古屋事件とに同時審判の可能性はなく、両事件が併合罪として処理されなかったことはやむを得ないものであったし、原判決宣告時点において名古屋事件判決は確定し ておらず、原審裁判所は、本件を名古屋事件判決の確定前の余罪として考慮して、併合罪として判断をすることも困難であったのであるから、所論がいうように、本件につき執行猶予を付さないことにより、結果的に通算して懲役3年の刑を受けたのと同じ状態になり得る事態となったとしても、やむを得ないものであって、そのことが違法、不当とはいえない。 ⑸ そうすると、本件各犯行当時における被告人の責任非難の程度は大きく、原判決が指摘する被告人にとって有利な事情や所論が指摘する点を十分踏まえても、原判決宣告の時点では、被告人を懲役1年4月の実刑に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 4 しかしながら、原判決後の事情として、当審における事実取調べの結果によれ ば、①Bの薬物依存治療部長であるD医師作成の意見書によると、原判決後も被告人の治療状況は良好であって、被告人は真面目に医師の指示に従った治療に取り組んでおり、今後も良好な治療状況が続くことが十分期待できること、②Bでの治療を終えた被告人に社会復帰のためのサポートをしているCの 療状況は良好であって、被告人は真面目に医師の指示に従った治療に取り組んでおり、今後も良好な治療状況が続くことが十分期待できること、②Bでの治療を終えた被告人に社会復帰のためのサポートをしているCの施設長作成の上申書によると、被告人は、令和4年12月に入寮後、治療に積極的に取り組み、生活は安 定しており、強い更生意欲を示したことから、同施設長から勧められて、令和5年 - 5 -5月からは同施設の準職員としてミーティングや他の利用者のサポート等の施設の運営に関わる仕事を務めていること、③被告人は、反省したはずの名古屋事件判決後間もなく本件各犯行に及んだ点について、当時の自らの考え方や向き合い方の甘さを深く自覚しており、二度と犯罪行為に及ばないよう、原判決以前から続けている治療を原判決後も継続してきており、今後もこれを継続し続けると共に、Cの職 員として覚醒剤防止のための啓発活動にも取り組みたいと述べるなど反省の気持ちを深めていること、以上の事実が認められる。 原判決が指摘する被告人にとって酌むべき事情と前記の原判決後の事情に加え、名古屋事件判決は令和5年6月27日に確定しており、その結果、本件は名古屋事件の確定前の余罪として、併合罪の関係になることを考慮すると、現時点において は、原判決の量刑は、前記の犯情の重さからして執行猶予を付すまでには至らないが、その刑期の点でいささか重過ぎる結果になったというべきである。 5 よって、刑訴法397条2項により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して、被告事件につき更に判決することとする。 (罪となるべき事実) 原判決が認定した事実のとおり。 (確定裁判)被告人は、令和4年6月20日、名古屋地方裁判所において、覚醒剤取締法違反及び医薬品、医療 することとする。 (罪となるべき事実) 原判決が認定した事実のとおり。 (確定裁判)被告人は、令和4年6月20日、名古屋地方裁判所において、覚醒剤取締法違反及び医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律違反の各罪により、懲役1年8月、3年間執行猶予に処せられ、その裁判は令和5年 6月27日に確定したものであって、この事実は検察事務官作成の捜査報告書(同事件の判決写し、原審乙12)及び裁判確定証明書(当審検1)によって認める。 (法令の適用)原判示第1の所為は、覚醒剤取締法41条の3第1項1号、19条に、原判示 第2の所為は、同法41条の2第1項にそれぞれ該当するところ、以上の各罪と - 6 -前記確定裁判があった罪とは刑法45条後段の併合罪の関係にあるから、同法50条によりまだ確定裁判を経ていない原判示各罪について更に処断することとし、原判示各罪もまた同法45条前段により併合罪の関係にあるから、同法47条本文、10条により犯情の重い原判示第1の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し、同法21条を適用して原審における未決勾留 日数中20日をその刑に算入し、千葉地方検察庁松戸支部で保管中の覚醒剤1袋(令和4年松戸検領第1235号符号1)は、原判示第2の罪に係る覚醒剤で犯人の所有するものであるから、覚醒剤取締法41条の8第1項本文によりこれを没収することとし、主文のとおり判決する。 令和5年9月12日 東京高等裁判所第2刑事部 裁判長裁判官大善文男 裁判官佐藤基 裁判官 刑事部 裁判長裁判官大善文男 裁判官佐藤基 裁判官大野洋
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