平成22年11月30日判決言渡平成22年(行コ)第10003号手続却下処分取消請求控訴事件(原審東京地方裁判所平成21年(行ウ)第590号)平成22年10月26日口頭弁論終結判決控訴人ポリアイシーゲーエムベーハーウントコーカーゲー訴訟代理人弁護士松田純一同大橋君平同森田岳人同伊藤卓同西村公芳補佐人弁理士清水善廣被控訴人国処分行政庁特許庁長官訴訟代理人弁護士大西達夫指定代理人千葉智子同市川勉同大江摩弥子同天道正和 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1当事者の求めた裁判 控訴の趣旨(1)原判決を取り消す。 (2)特許庁長官が特願2008-531579について平成20年12月12日付けで原告に対してした平成20年3月24日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分を取り消す。 (3)訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 控訴の趣旨に対する答弁主文同旨第2事案の概要等本件は,控訴人(第一審原告。以下「原告」という。)が千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「特許協力条約」という。)に基づいて行った国際特許出願 同旨第2事案の概要等本件は,控訴人(第一審原告。以下「原告」という。)が千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約(以下「特許協力条約」という。)に基づいて行った国際特許出願について,日本国特許庁長官に対し,国内書面及び明細書等の翻訳文を提出したところ,特許庁長官から,特許法(以下「法」という。)184条の4第1項に規定する国内書面提出期間経過後の提出であること(国内書面提出期間内に明細書等の翻訳文が提出されなかったことにより国際特許出願が取り下げられたものとみなされること)を理由に,国内書面に係る手続の却下処分をされたことから,当該却下処分の取消しを求める事案である。 第一審は,原告の請求を棄却したので,原告が控訴した。 争いのない事実等原判決2頁16行目ないし4頁1行目のとおりであるから,これを引用する。 争点及び争点に対する当事者の主張次のとおり付加するほかは,原判決4頁3行目ないし14頁3行目のとおりであるから,これを引用する。 (1)原判決5頁16行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「後記のとおり,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定は,国内法令に適合するから,特許協力条約の要請は,同条約22条及び24条だけではなく,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定を含めて導き出すべきであり,これらの規定を考慮することなく,同条約22条及び24条の文言だけを拾って,同条約が翻訳文の提出期間の緩和を我が国に求めていないと解することはできない。 また,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定は,国内法令に適合するから,同規則49.6(b)の時期的要件が満たされる場合には,出願人に権利の回復の機会が与えられるべきであるところ,本件では,国内書面提出期間の末日から8日後に,出願人の日本での権 内法令に適合するから,同規則49.6(b)の時期的要件が満たされる場合には,出願人に権利の回復の機会が与えられるべきであるところ,本件では,国内書面提出期間の末日から8日後に,出願人の日本での権利取得の意思が明らかになっており,同規則49.6(b)の時期的要件は満たされている。 したがって,出願人に権利の回復の機会を与えずに直ちに取下擬制したことは,特許協力条約に違反する。」(2)原判決6頁9行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「仮に,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用して,外国語特許出願につき,翻訳文の提出を優先日から最大で42か月まで可能とすることによって,出願審査の請求がされてから最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されない事態が生じ,その間における審査ができないこととなったとしても,特許庁や第三者に何ら実害が生じないし,法の規定との不整合も生じない。 そもそも,法の規定と不整合が生ずるというためには,審査官の審査(着手)時期を拘束するような法の規定があることを要するところ,法は,出願審査の請求の期間を出願日から3年とするだけで,審査時期については何ら定めていないから,法の規定と不整合を生ずることはない。ちなみに,出願日から3年以内に出願審査の請求をしなければならないとするインドネシア,ウクライナ,オマーン,カザフスタン,スロバキア,タジキスタン,チェコ,ブラジル,ベラルーシ及びロシアの各国は,法の規定との不整合を理由とする条約規則49.6の留保を行っていない。 また,審査請求がされてから審査に着手するまで6か月をはるかに超えるという日本国特許庁における審査の実情に照らせば,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用しても審査の実情に反せず,審査は国内法令に則って行われているから,審査の実情に反しないと 月をはるかに超えるという日本国特許庁における審査の実情に照らせば,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用しても審査の実情に反せず,審査は国内法令に則って行われているから,審査の実情に反しないということは,国内法令に適合していることを意味する。」(3)原判決8頁19行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「国際特許出願について瑕疵ある国内移行手続がされた場合に,特許庁長官がその国際特許出願を法184条の5第3項により却下するためには,その前提として,同条2項により補正を命じておかなければならない。そして,特許庁長官が同条2項により補正を命じないのは,「手続の不備が軽微で当該手続全体を総合的に検討すると,客観的に手続者の合理的意思が判断できる場合」や「手続の不備につき補正をする実益がない場合」といった補正を命ずる必要性を欠く場合に限られているから,特許庁長官は,補正を命ずることを原則的に強いられている。したがって,法184条の4第3項を適用することによって法184条の5第2項の適用を排除するのは誤りである。」(4)原判決12頁22行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「条約規則49.6(a)ないし(e)の規定は国内法令に適合しないか ら,それらが国内法令に適合することを前提とする原告の主張は,理由がない。 法47条1項,48条の2によれば,出願審査が請求されたときは,審査官をして速やかに審査に着手させなければならないというのが法の本来の趣旨であり,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定を適用することにより,出願審査の請求がされてから最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されず,審査に着手できないという事態が生じ,法の本来の趣旨と相反することになるのであれば,上記条約規則の規定は,国内法令との不整合があると の請求がされてから最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されず,審査に着手できないという事態が生じ,法の本来の趣旨と相反することになるのであれば,上記条約規則の規定は,国内法令との不整合があるといえる。 ベラルーシは,当初,国内法令との不適合を理由として条約規則49. 6(f)に規定する通告を国際事務局に行っており(その後,2003年7月1日に上記通知の取下げが有効となった。),中国は,出願審査の請求の期間を出願日から3年と定め,かつ国内法令との不適合を理由として条約規則49.6(f)に規定する通告を行っており,これらの国々の対応は,条約規則49.6(f)に規定する通告を行った日本国特許庁の対応に合理性があることを裏付けている。 出願審査が請求されたときは,審査官をして速やかに審査に着手させなければならないというのが法の本来の趣旨であり,条約規則49.6(a)ないし(e)が国内法令に適合するか否かは,このような趣旨の法に適合するかどうかという問題であって,審査請求されてから審査の着手までに6か月を超える実情が存在するとしても,それによって法の本来の趣旨が変わるわけではないから,そのような実情が存在することを根拠として,条約規則49.6(a)ないし(e)が国内法令に適合するということはできない。」(5)原判決14頁3行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「確かに,法184条の5第2項の規定により,同項各号に掲げる手続の不 備がある場合は,その手続の補正をすべきことを命じなければ,同条3項の規定により,その国際特許出願を却下することができない。しかし,法184条の4第1項の規定により提出すべき明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の日本語による翻訳文のうち,明細書及び請求の範囲の翻訳文が,同項に規定する ができない。しかし,法184条の4第1項の規定により提出すべき明細書,請求の範囲,図面(図面の中の説明に限る。)及び要約の日本語による翻訳文のうち,明細書及び請求の範囲の翻訳文が,同項に規定する国内書面提出期間内に提出されないときは,その国際特許出願は,取り下げられたものとみなす旨同条3項に規定されている。そうである以上,明細書及び請求の範囲の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されていない国際特許出願は,取り下げられたものとみなされ,既にその国際特許出願に係る事件が特許庁に係属していないのであるから,そもそも手続の補正の対象とはなり得ず(法17条1項本文参照),法184条の5第2項1号の規定による補正命令の対象にもなり得ないものであり,同条3項の規定により却下することもできないから,手続の不備がある国際特許出願が不備を補正されないまま残存し続けるという事態は生じない。 したがって,法184条の5第2項の規定が補正命令について特許庁長官の裁量を認めた規定であることを前提としても,明細書及び請求の範囲の翻訳文が国内書面提出期間内に提出されていない国際特許出願については,法184条の4第3項の規定が適用される結果,法184条の5第2項の規定による手続補正の対象とはなり得ない。」第3当裁判所の判断次のとおり付加,訂正するほかは,原判決14頁5行目ないし20頁13行目のとおりであるから,これを引用する(1)原判決17頁24行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「原告は,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定が国内法令に適合することを前提として,『特許協力条約の要請は,同条約22条及び24条だけではなく,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定を含めて導 き出すべきであり,これらの規定を考慮することなく,同条約22条及び 前提として,『特許協力条約の要請は,同条約22条及び24条だけではなく,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定を含めて導 き出すべきであり,これらの規定を考慮することなく,同条約22条及び24条の文言だけを拾って,同条約が翻訳文の提出期間の緩和を我が国に求めていないと解することはできない』,『条約規則49.6(b)の時期的要件が満たされる場合には,出願人に権利の回復の機会が与えられるべきであるところ,本件では,国内書面提出期間の末日から8日後に,出願人の日本での権利取得の意思が明らかになっており,同規則49.6(b)の時期的要件は満たされており,したがって,出願人に権利の回復の機会を与えずに直ちに取下擬制したことは,特許協力条約に違反する』と主張する。 しかし,後記のとおり,条約規則49.6(a)ないし(e)の規定は国内法令に適合しないから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。」(2)原判決19頁1行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「原告は,『条約規則49.6(a)ないし(e)を適用して,外国語特許出願につき,翻訳文の提出を優先日から最大で42か月まで可能とすることによって,出願審査の請求がされてから最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されない事態が生じ,その間における審査ができないこととなったとしても,特許庁や第三者に何ら実害が生じないし,法の規定との不整合も生じない』,『法の規定と不整合が生ずるというためには,審査官の審査(着手)時期を拘束するような法の規定があることを要するところ,法は,出願審査の請求の期間を出願日から3年とするだけで,審査時期については何ら定めていないから,法の規定と不整合を生ずることはない』と主張する。 しかし,法47条1項は「特許庁長官は,審査官に特許出願 ,出願審査の請求の期間を出願日から3年とするだけで,審査時期については何ら定めていないから,法の規定と不整合を生ずることはない』と主張する。 しかし,法47条1項は「特許庁長官は,審査官に特許出願を審査させなければならない。」と規定し,法48条の2は「特許出願の審査は,その特許出願についての出願審査の請求をまつて行う。」と規定しており, 出願審査の請求がされたにもかかわらず審査に着手しなくてよい旨を定めた規定がないことからすれば,特許庁長官は,出願審査の請求がされたときには,審査官をして速やかに審査に着手させなければならないというのが法の趣旨であると解される。そうすると,条約規則49.6(a)ないし(e)を適用し,翻訳文の提出を優先日から最大で42か月まで可能とすることによって,出願審査の請求がされてから最大6か月の間,明細書等の翻訳文が提出されず,その間における審査ができないという事態を招くことは,上記の法の趣旨に反し,法の規定との不整合を生ずるというべきであり,条約規則49.6(a)ないし(e)は,我が国の国内法令に適合しないというべきである。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 また,原告は,『出願日から3年以内に出願審査の請求をしなければならないとするインドネシア,ウクライナ,オマーン,カザフスタン,スロバキア,タジキスタン,チェコ,ブラジル,ベラルーシ及びロシアの各国は,法の規定との不整合を理由とする条約規則49.6の留保を行っていない』,『審査請求がされてから審査に着手するまで6か月をはるかに超えるという日本国特許庁における審査の実情に照らせば,条約規則49. 6(a)ないし(e)を適用しても審査の実情に反せず,審査は国内法令に則って行われているから,審査の実情に反しないということは,国内法令に適合 本国特許庁における審査の実情に照らせば,条約規則49. 6(a)ないし(e)を適用しても審査の実情に反せず,審査は国内法令に則って行われているから,審査の実情に反しないということは,国内法令に適合していることを意味する』と主張する。 しかし,諸外国の対応は,条約規則49.6(a)ないし(e)が我が国の国内法令に適合することの直接の根拠とはなり得ないし,その点を措くとしても,ベラルーシは,当初,国内法令との不適合を理由として条約規則49.6(f)に規定する通告を国際事務局に行っており(その後,2003年7月1日に上記通知の取下げが有効となった。),中国は,出願審査の請求の期間を出願日から3年と定め,かつ国内法令との不適合を 理由として条約規則49.6(f)に規定する通告を行っており(乙4の1,2,弁論の全趣旨),審査請求期間を3年とする国の中には,日本と同様に条約規則49.6(f)に規定する通告を行った国もあるので,そのようなことも考慮すると,通告を行わない国が存在することから,通告をしたことが不合理であるということはできない。 また,仮に日本国特許庁において,審査請求がされてから審査に着手するまで6か月をはるかに超えるという審査の実情があったとしても,前記のとおり,特許庁長官は,出願審査の請求がされたときには,審査官をして速やかに審査に着手させなければならないというのが法の趣旨であると解され,審査請求から審査の着手まで6か月を超えるという審査の実情は,法の趣旨に沿うものとはいえないし,そのような審査の実情があることによって法の趣旨が変わることもない。そうすると,条約規則49.6(a)ないし(e)がそのような審査の実情に反しないとしても,そのような審査の実情に反しないことを根拠として,同条約規則が国内法令に適合しているとはいえない。 ともない。そうすると,条約規則49.6(a)ないし(e)がそのような審査の実情に反しないとしても,そのような審査の実情に反しないことを根拠として,同条約規則が国内法令に適合しているとはいえない。」(3)原判決19頁23行目の後に,行を改めて,次のとおり挿入する。 「エ補正命令との関連について原告は,①国際特許出願について瑕疵ある国内移行手続がされた場合に,特許庁長官がその国際特許出願を法184条の5第3項により却下するためには,その前提として,同条2項により補正を命じておかなければならないこと,②特許庁長官が法184条の5第2項により補正を命じないのは,「手続の不備が軽微で当該手続全体を総合的に検討すると,客観的に手続者の合理的意思が判断できる場合」や「手続の不備につき補正をする実益がない場合」といった補正を命ずる必要性を欠く場合に限られているから,特許庁長官は,補正を命ずることを原則的に強いられていること,を理由として,法184条の4第3項を適用することによって法184条 の5第2項の適用を排除するのは誤りであると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。法184条の4第3項は,「国内書面提出期間(・・・)内に第一項に規定する明細書の翻訳文及び前二項に規定する請求の範囲の翻訳文の提出がなかつたときは,その国際特許出願は,取り下げられたものとみなす。」と規定しており,国内書面提出期間内に翻訳文の提出がなかったときは,その国際特許出願は取り下げられたものとみなされ,事件が特許庁に係属していなかったことになるから,その後に手続の補正を行うことはできず,法184条の5第2項に基づいて特許庁長官が手続の補正を命じたり,同条第3項によりその国際特許出願を却下したりする余地はない。したがって,法184条の4第3項が適 後に手続の補正を行うことはできず,法184条の5第2項に基づいて特許庁長官が手続の補正を命じたり,同条第3項によりその国際特許出願を却下したりする余地はない。したがって,法184条の4第3項が適用される場合には,法184条の5第2項を適用する余地がなく,これと異なる前提に立った原告の主張は,採用の限りでない。」(4)原判決19頁24行目の「エ」を「オ」と改める。 (5)原判決20頁13行目の後に,行を改めて,次のとおり付加する。 「4 結論 原告は,これまで摘示した他にも細部にわたり縷々主張するが,独自の見解に立った上での主張であり,いずれも理由がない。 よって,原告の請求は理由がなく,原告の請求を棄却すべきものとした原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。」知的財産高等裁判所第3部裁判長裁判官飯村敏明 裁判官中平健裁判官知野明
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