平成27(ワ)2713 国家賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成30年8月24日 京都地方裁判所 棄却
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判決文本文67,516 文字)

- 1 - 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して,1386万8447円及び被告京都府についてはこれに対する平成25年6月26日から,被告国についてはこれに対する平成25年7月17日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 訴訟物本件は,強制わいせつ致傷の被疑事実で,逮捕・勾留・公訴提起がされ,第1審で有罪判決を受け,控訴審で無罪判決(確定)を受けた原告が,京都府警察の警察官の捜査,並びに,京都地方検察庁の検察官の捜査,公訴提起及び公訴追行が違法なものであったと主張して,被告京都府及び被告国に対し,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,連帯して,損害賠償金1386万8447円の支払を求めるとともに,これに対する被告京都府については原告の逮捕時である平成25年6月26日から,被告国については原告の起訴時である平成25年7月17日から,各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により認められる。)⑴ 刑事事件の経過A(当時55歳の女性。公判手続において被害者特定事項の秘匿決定がされており,本判決では被害申告をした女性を「A」と呼称する。)は,平成25年6月3日,京都府甲警察署(以下「甲警察署」という。)の警察官に対し, - 2 - 「同日,Aが勤務している京都市甲区内のカウンターバー(以下「本件店舗」という。)において,原告から強いてわいせつな行為をされ,傷害を負った。」旨申告した(以下,この申告を端緒とする被疑事件を「本件被疑事件」とい 務している京都市甲区内のカウンターバー(以下「本件店舗」という。)において,原告から強いてわいせつな行為をされ,傷害を負った。」旨申告した(以下,この申告を端緒とする被疑事件を「本件被疑事件」という。)。原告は,同月26日,強制わいせつ致傷罪の被疑事実で逮捕され,その後勾留を経て,同年7月17日に別紙1記載の公訴事実(以下「本件公訴事実」という。)により起訴された(甲1。以下「本件被告事件」という。)。 本件被告事件の第1審で取り調べられた証拠の中には,京都地方検察庁検察事務官h(以下「h事務官」又は「h」という。)作成にかかる統合捜査報告書(以下「本件統合捜査報告書」という。)があり,これには,別紙2の形状の本件店舗内のカウンターの⑦と⑧の場所から,いずれも原告の掌紋が採取され(以下,⑦の場所から採取された原告の左手掌紋を「掌紋7番」,⑧の場所から採取された原告の右手掌紋を「掌紋8番」といい,これらを併せて「本件各掌紋」という。),いずれも,採取場所は「カウンター上面」であり,指先の向き・方角は「カウンター内側(東方向)」である旨が記載されていた(丙16)。 そして,本件統合捜査報告書は,別紙3記載の内容のe検事(以下「e検事」又は「e」という。)作成の電話聴取書(丙20。以下「本件電話聴取書」という。),及び,掌紋7番及び掌紋8番の採取場所を「カウンター上面」と記載したb警察官(以下「b警察官」又は「b」という。)作成の平成25年7月4日付け捜査報告書(丙22。以下「b報告書」という。)を原資料として作成されたものであった(丙16p1~2,丙48,証人h,弁論の全趣旨)。 京都地方裁判所は,本件被告事件について,平成26年7月7日,別紙4記載の犯罪事実を認定した上,原告に対し懲役2年の有罪判決を言い渡した(甲2)。 原告 ~2,丙48,証人h,弁論の全趣旨)。 京都地方裁判所は,本件被告事件について,平成26年7月7日,別紙4記載の犯罪事実を認定した上,原告に対し懲役2年の有罪判決を言い渡した(甲2)。 原告は,これに対し控訴したところ,本件被告事件の控訴審の審理の過程 - 3 - で,本件統合捜査報告書記載の本件各掌紋の指先の向き・方角が間違っていたことが明らかになった。具体的には,掌紋7番は指先がカウンターの外側向き(西向き),掌紋8番は指先がカウンター内側右方向き(南東向き)であった(甲3,丙7,8)。また,本件各掌紋は,カウンターの天板部(水平な部分)ではなく,カウンターの外縁部(カウンター端の曲面の部分)に遺留されていたことも判明した(甲3,丙7,8)。 控訴審である大阪高等裁判所は,平成27年2月13日,原告に対して無罪判決を言い渡し(甲3),同判決は,検察官の上告なく確定した。 ⑵ 当事者等ア原告は,昭和48年2月5日生まれの男性である(甲1ないし3)。 イ a(以下「a警察官」又は「a」という。)は,平成25年6月から平成26年2月まで当時,甲警察署刑事課強行犯係に所属していた警察官であり,本件被疑事件の捜査主任官であった刑事課長を補佐し,捜査指揮を執る立場にあった(乙16,証人ap1)。 ウ b警察官は,平成25年7月当時,甲警察署刑事課強行犯係に所属していた警察官であった。 エ c(以下「c警察官」又は「c」という。)は,平成25年6月当時,京都府警察本部刑事部鑑識課に所属していた警察官であった。本件被疑事件の被害申告直後に本件店舗の鑑識活動を担当し,本件各掌紋を採取した。 オ d(以下「d鑑定官」又は「d」という。)は,平成25年6月当時,京都府警察本部刑事部鑑識課において指掌紋の鑑定 被疑事件の被害申告直後に本件店舗の鑑識活動を担当し,本件各掌紋を採取した。 オ d(以下「d鑑定官」又は「d」という。)は,平成25年6月当時,京都府警察本部刑事部鑑識課において指掌紋の鑑定官として勤務していた一般職員であった(乙7)。c警察官により採取された指掌紋の鑑定を担当し,本件各掌紋が原告の掌紋と一致する旨の判断をした。m(以下「m主任鑑定官」という。)は,前記当時,京都府警察本部刑事部鑑識課において指掌紋の鑑定を行う主任鑑定官として勤務していた一般職員であり,平成26年5月23日,本件被告事件に関し,d鑑定官とともにh事務官と面談し - 4 - た(乙15)。 カ e検事は,平成23年8月から平成26年3月まで京都地方検察庁に勤務していた検察官であり(丙45),本件被疑事件の捜査,本件被告事件の公訴提起及び公訴提起後の補充捜査(本件電話聴取書の作成)を担当した。 キ f(以下「f検事」又は「f」という。)は,平成23年7月から平成26年3月まで京都地方検察庁に勤務していた検察官であり(丙46),同月まで,本件被告事件の第1審の公判を担当した。 ク g(以下「g検事」又は「g」という。)は,平成26年4月から平成28年3月まで京都地方検察庁に勤務していた検察官であり(丙47,証人g),平成26年4月以降,本件被告事件の第1審の公判を担当した。 3 争点及び争点に対する当事者の主張⑴ e検事の公訴提起の過失(原告の主張)平成25年7月17日の公訴提起の時点において,e検事は,Aが「原告が,カウンターを両手で何度もたたいた。」旨供述していたこと及びカウンターから本件各掌紋が採取されたことを知っていたのであるから,本件各掌紋の指先の向き・方角及びカウンターの指掌紋採取状況に関する捜査資 カウンターを両手で何度もたたいた。」旨供述していたこと及びカウンターから本件各掌紋が採取されたことを知っていたのであるから,本件各掌紋の指先の向き・方角及びカウンターの指掌紋採取状況に関する捜査資料を収集し,本件各掌紋の指先の向き・方角及びカウンターの指掌紋の採取状況がAの前記供述と符合するかを確認し,Aの供述の信用性を検討した上で,原告を起訴すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠り,前記収集,確認,検討をすることなく,本件各掌紋の指先の向き・方角及びカウンターの指紋・掌紋の採取状況がAの供述と符合せず原告の嫌疑が不十分であることを看過したまま,原告を起訴し,このような起訴は国賠法上違法である。 本件被疑事件は,犯行を直接裏付ける物証は存在せず,原告が有罪となるかは,被害者であるAの供述の信用性が肯定できるか否かにかかっており, - 5 - 本件各掌紋は,Aの供述を裏付ける最も重要な客観証拠であった。そして,Aの供述において,カウンター上面に原告の掌紋が付着する可能性があるのは,原告がカウンターの外側から内側に向かってカウンターを両手でたたいた場面以外にないから,カウンター上面で発見されたという本件各掌紋については,付着場所のみならず,その指先の向き・方角を特定しておくことが,有罪立証のために不可欠であった。公訴提起前のAの供述は,原告と初めて会った際の状況,わいせつ行為の内容,被害の時刻,被害の際の原告の服装,頭部のたんこぶの傷害があったこと等の重要部分について変遷し,不自然,不合理な部分があった。また,Aが乗ったタクシー運転手は,タクシーの発車を原告が妨害した事実を否定し,本件店舗に戻ったAが原告と10分くらい話をしていたと述べており,このこととAの携帯電話の通話記録等を総合すると,原告による犯行は不可能 クシー運転手は,タクシーの発車を原告が妨害した事実を否定し,本件店舗に戻ったAが原告と10分くらい話をしていたと述べており,このこととAの携帯電話の通話記録等を総合すると,原告による犯行は不可能と考えられた。さらに,AのタイツやTバックに破れはなく,犯行日に本件店舗内外で大声や暴力を見聞きした者はなく,犯行直後にAの携帯電話にかかってきたという暴言の留守番電話の開示はなかった。したがって,Aの公訴提起前の供述は信用性が低いものであり,本件各掌紋の指先の向き・方角は重要であった。 (被告国の主張)公務員の職務行為が違法とされるのは,公権力の行使に当たる公務員が国民に対して負担する職務上の法的義務に違背する場合である。検察官の公訴提起は,起訴時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば国賠法上違法とならない。そして,公訴提起の違法性判断において斟酌すべき証拠は,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料である。 本件被告事件は,Aの供述の信用性が有罪立証の柱になっていたところ,Aの供述は,Aが右足すね及び右大腿部を負傷している旨の診断書(丙15),Aが被害を受けたとする時刻の直後に合計6回原告がAに電話していること - 6 - (丙14),本件店舗のカウンターから原告の掌紋が採取されたことと整合し,本件店舗のオーナーの供述とも整合していた。また,Aに虚偽供述の動機・目的は認められず,Aの供述の変遷には合理的理由があった。被害後にAを乗せたというタクシー運転手の供述は,Aの供述とも原告の供述とも符合しない部分があるため信用性に疑問があり,捜査に非協力的であって記憶の確かさを吟味することもできないものであったから,特段Aの供 Aを乗せたというタクシー運転手の供述は,Aの供述とも原告の供述とも符合しない部分があるため信用性に疑問があり,捜査に非協力的であって記憶の確かさを吟味することもできないものであったから,特段Aの供述の信用性を減ずるものではなかった。したがって,Aの供述は信用することができたといえる。 また,Aは,被害の際,原告はカウンターをたたいただけではなく,カウンターから出てきたAに対し,激しい暴力を加え,Aも激しく抵抗した旨供述していたから,原告の掌紋が指先がカウンターの中から外に向かう方向でカウンターに付着する可能性もあった。したがって,本件各掌紋の指先の向き・方角を確認するか否かによってAの供述の信用性が左右されるわけではなく,現にこれが控訴審における無罪判決の主たる理由となっているわけではない。本件各掌紋の向き・方角に関する捜査を尽くすことは通常要求される捜査とはいえない。 以上から,原告の起訴の時点で,合理的な判断過程により原告が有罪と認められる嫌疑が存在していたといえ,e検事による原告の起訴は国賠法上違法であるとはいえない。 ⑵ e検事の本件電話聴取書作成時の過失(原告の主張)平成25年7月,e検事が,公判前整理手続を担当するf検事から本件各掌紋の向き・方角について問い合わせを受けた際,本件各掌紋は,Aによる「犯行前に,原告が,カウンターを両手で何度もたたいた。」旨の供述と符合し,その信用性を増強する証拠とされており,本件各掌紋の指先の向き・方角はc警察官とd鑑定官の双方が揃わなければ確定できなかったのであるか - 7 - ら,e検事としては,本件各掌紋の採取・鑑定を担当したc警察官及びd鑑定官と面談する等し,本件各掌紋の採取場所・付着部位・向き・方角等を正確に確認し報告する義務があったのに,これを怠ってc警察官 ら,e検事としては,本件各掌紋の採取・鑑定を担当したc警察官及びd鑑定官と面談する等し,本件各掌紋の採取場所・付着部位・向き・方角等を正確に確認し報告する義務があったのに,これを怠ってc警察官及びd鑑定官からの電話聴取のみを行い,「本件各掌紋は,いずれも手の指先が店内のカウンターの内側に向いた状態で採取されたものです。カウンターの内側とは店の従業員が入るスペースのことです。」旨記載されたc警察官を発信者とする本件電話聴取書を作成して,これをf検事に提出した。 この点,指掌紋の向き・方角は,採取をしたc警察官と鑑定をしたd鑑定官の双方が揃って初めて確定できるものであり,e検事がc警察官に架電した際,c警察官の手元には資料がなかったのであるから,c警察官が本件各掌紋の指先の向き・方角を確定することは不可能であり,意見を述べるとは到底考えられないため,同人の「e検事からの電話照会時には,掌紋の向きについては私に聞かれても分からない,採取時はカウンターの端を入れて外側から内側に向かって採取したと回答した。」旨の供述は信用できる。また,e検事は,質問の取り違いや聞き間違いの可能性を否定している。 そのため,e検事は重大な過失に基づき聴取した内容と異なる前記電話聴取書を作成したのであり,内容虚偽の電話聴取書が作成された原因はe検事にあるため,e検事は,職務上の注意義務に違反したものといえる。 (被告国の主張)検察官は,刑罰法令の適正かつ迅速な適用実現のために,捜査・公判の進展に伴い流動的に変化する証拠関係等の下で,専門的な判断に基づき捜査を行うものであるから,検察官の行う公訴提起,捜査には,時期・内容・手段・方法において一定の裁量があり,検察官の捜査行為が違法となるのは,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個 うものであるから,検察官の行う公訴提起,捜査には,時期・内容・手段・方法において一定の裁量があり,検察官の捜査行為が違法となるのは,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定できない程度に達している場合に限られる。 - 8 - 掌紋の指先の向き・方角の確定は,通常要求される捜査であるとはいえないことは前記⑴(被告国の主張)のとおりである。また,e検事は本件各掌紋の向きについてd鑑定官及びc警察官に照会し,回答を受けたが,c警察官から原告が主張するような回答がされた事実はなく,本件電話聴取書記載のとおりの回答がされたもので,その回答内容に疑義を生じさせるような事情もなかった。したがって,e検事が,本件各掌紋の採取・鑑定を担当した警察官らと面談する等しなかったとしても,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとはいえない。 よって,e検事の行為は国賠法上違法となるものではない。 ⑶ f検事の公訴追行の過失(原告の主張)平成25年7月17日の公訴提起から平成26年3月末まで本件被告事件の公判担当をしていたf検事は,①本件各掌紋が「犯行前に,原告が,カウンターを両手で何度もたたいた。」旨のAの供述と符合し,その信用性を増強する唯一かつ重要な客観証拠であると認識し,②捜査記録中に本件各掌紋の向きに関する証拠が存在しなかったため,平成25年7月下旬にe検事に対して問い合わせを行い,c警察官の電話回答に基づいて,「いずれもそれぞれの手の指先が 拠であると認識し,②捜査記録中に本件各掌紋の向きに関する証拠が存在しなかったため,平成25年7月下旬にe検事に対して問い合わせを行い,c警察官の電話回答に基づいて,「いずれもそれぞれの手の指先がカウンターの内側(店の従業員が入るスペース)に向いた状態で採取された」旨の本件電話聴取書が作成され,③公判前整理手続で弁護人が一貫して本件各掌紋がAの供述するところの「原告がカウンターをたたいた」際に付着したことを争い,本件各掌紋を含む遺留指掌紋の遺留場所及び遺留状態が具体的に分かる捜査資料の開示を求めており,④平成26年2月12日にc警察官及びd鑑定官と面談した際(以下「2月面談」という。)には,c警察官から「本件各掌紋は,採取した場所を特定しやすいよ - 9 - うにカウンターの端を入れて掌紋を採取転写した。転写した採取シートは向きを間違えないように南北を軸に裏返し方位を記した。」旨の説明を受け,d鑑定官から「木目を合わせようとすると手のひらは縦と横になるし,同じ方向は向いていないと思う。」旨の説明を受けており,本件各掌紋の向きが同じではないことを認識していたのであるから,2月面談の際に,c警察官が電話聴取書記載の回答を行った根拠及び本件各掌紋の向き及び付着場所を含む付着状況について具体的に確認するなど本件各掌紋の向き・方角を正確に特定した上証拠化して公判に提出し,これを基に公訴を取り消すことを検討すべき注意義務があったにもかかわらず,これを怠り,本件各掌紋の向き・方角及びカウンターの指紋・掌紋の採取状況がAの供述とは符合せず,原告の嫌疑が不十分であることを看過したまま,平成26年3月末まで公訴追行を行った。 2月面談時に,前記④のやりとりがあったことは,c警察官及びd鑑定官が一致して明確に証言している。また,2月面談は,f検 疑が不十分であることを看過したまま,平成26年3月末まで公訴追行を行った。 2月面談時に,前記④のやりとりがあったことは,c警察官及びd鑑定官が一致して明確に証言している。また,2月面談は,f検事が,弁護人から本件各掌紋を含む採取された指掌紋の位置・状態について具体的資料を求められたために行われたものであるところ,f検事自身,本件電話聴取書からは,本件各掌紋の指先がカウンターの内側を向いているといえる理由が分からない状況であったから,c警察官らに対し,本件各掌紋の指先の向き・方角を確認するのが自然であり,確認したと考えられる。また,f検事は,本件各掌紋の指先の向きが分からなくなったとして,d鑑定官のみを再度呼び出しており,本件電話聴取書の発信者であるc警察官が,職務分担上掌紋の指先の向きを確定できる立場にないことを認識していたと考えられる。これに反するf検事の証言は採用し難い。 (被告国の主張)公訴提起が国賠法上違法でないならば,原則として公訴の追行も国賠法上違法とはいえない。 - 10 - 掌紋の指先の向き・方角の確定は,通常要求される捜査であるとはいえないことは前記⑴(被告国の主張)のとおりである。 さらに,2月面談の当時,争点になっていたのは,本件各掌紋の付着時期及び本件各掌紋以外の指掌紋の遺留状況であり,本件各掌紋の向き・方角ではなかった。2月面談時において,原告主張の④のような発言はなく,本件電話聴取書の本件各掌紋の指先の向き・方角についてのc警察官の回答に疑義を生じさせる具体的事情もなかった。 したがって,本件各掌紋の向き・方角について具体的に確認する義務はなく,f検事は通常要求される捜査を尽くしていたといえる。また,f検事の訴訟追行は現に収集した証拠資料及び通常要求されるべき捜査によって取得され得 件各掌紋の向き・方角について具体的に確認する義務はなく,f検事は通常要求される捜査を尽くしていたといえる。また,f検事の訴訟追行は現に収集した証拠資料及び通常要求されるべき捜査によって取得され得る証拠資料に基づき合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑の下になされていたといえ,国賠法上違法ではない。 ⑷ g検事の過失(原告の主張)平成26年4月から本件被告事件の公判担当となったg検事は,本件各掌紋の指先の向き・方角が直接証拠であるAの供述の信用性立証の柱であると考えており,同年5月23日過ぎ頃,「d鑑定官が,h事務官に対して『カウンターの内側に2つの掌紋の指先を向けると,木目線縦方向・横方向になるので,一般的には同じ方向とはいえない。』旨説明した。」という情報に接し,遅くともこの時点で,本件各掌紋が同じ向き・方角に向いていないことを認識していたにもかかわらず,「採取番号7はカウンター上面,向きはカウンター内側(東側),採取番号8はカウンター上面,向きはカウンター内側(東側)」旨記載し,原証拠と写真の向きを変えるなどして本件各掌紋の指先が同じ方向を向いていることを印象付ける同年6月6日付けh事務官作成の本件統合捜査報告書(丙16)の作成を指示し,同月10日に本件統合捜査報告書を証拠として裁判所に提出し,同月30日の冒頭陳述及び同年7月2日の論告 - 11 - において本件各掌紋がAの供述と符合することを強調する主張を行った。 平成26年5月23日,h事務官がm主任鑑定官及びd鑑定官(以下,この2名を「mら」という。)と面談した際(以下「5月面談」という。),mらが,h事務官に対し,本件各掌紋の写真のコピーを,木目にそって並べたり,指先が同じ方向に向くように並べたりしながら,その上に手を添えて,「カウンターの内側に2 た際(以下「5月面談」という。),mらが,h事務官に対し,本件各掌紋の写真のコピーを,木目にそって並べたり,指先が同じ方向に向くように並べたりしながら,その上に手を添えて,「カウンターの内側に2つの掌紋の指先を向けると,木目線が縦方向・横方向になるので,一般的には同じ方向とはいえない。」旨の説明をしたことは,mらの証言・陳述するとおりである。h事務官は,そのやりとりを否定するが,5月面談の際,h事務官は,「mらに対し,『本件各掌紋はカウンターの内側に向かっているとの報告を受けている。』旨を伝えた。」と証言しており,そのような問いかけがあれば,mらが誤りを訂正しないはずはないため,h事務官の前記否定に係る証言は信用できない。そして,h事務官は,5月面談直後,mらの前記説明をg検事に説明し,g検事は,本件各掌紋が同じ方向を向いていないことを認識したといえる。 (被告国の主張)5月面談の際,h事務官が,mらから「本件各掌紋が撮影された写真に木目様の線が写っている。本件各掌紋が同じ方向に向かって印象されていないと思われる。」との説明を受けた事実はない。本件電話聴取書の本件各掌紋の指先の向き・方角についてのc警察官の回答に疑義を生じさせる具体的事情はなかった。 本件各掌紋の指先の向き・方角は本件被告事件の争点にすらなっておらず,本件統合捜査報告書についても弁護人から求められ,作成案を弁護人に示した上で弁護人からの要望を受け入れているのであり,g検事は本件各掌紋に関する捜査を十分に遂行したといえる。 ⑸ c警察官の過失(原告の主張) - 12 - 鑑識活動としての指掌紋採取の目的は,単に現場から被疑者の指掌紋を採取することだけではなく,その採取過程を明確にすることで,他の証拠との整合性や証明力を判断する材料と - 12 - 鑑識活動としての指掌紋採取の目的は,単に現場から被疑者の指掌紋を採取することだけではなく,その採取過程を明確にすることで,他の証拠との整合性や証明力を判断する材料とすることも重要なポイントであり,本件被疑事件においては採取された指掌紋がAの供述内容(特に「原告がカウンターをたたいた」ということ)に合致した場所,方向で付着しているか否かも検証可能な状態で証拠化する必要があるところ,c警察官は,平成25年6月4日,本件各掌紋を採取し遺留指掌紋票を作成した際,Aが「原告が,カウンターを何度もたたいた。」旨供述していたことを認識し,カウンターの外縁部が曲面状であり天板部とは明確に区別できる形状であることを認識していたのであるから,本件各掌紋の採取場所が外縁部であることを記載すべきであったのに,外縁部と天板部とを区別することなく「カウンター上面」旨記載した。 (被告京都府の主張)捜査・公判実務に従事している警察官・検察官にとって,遺留指掌紋は現場に被疑者がいたことを立証する重要な証拠とされるが,指先の向き・方角が関係者の供述と合致しているかによって供述の信用性を吟味する事案はまれであり,本件各掌紋の指先の向き・方角が「犯人がカウンターを両手でたたいた。」旨のAの供述を裏付けるとの証拠評価は,起訴前には一切なく,起訴後,公判担当のf検事によって発案された極めて特異な立証方法であった。 指掌紋採取者の業務は,犯罪現場における鑑識活動であり,関係者の供述や捜査員からの情報等に左右されることなく,現場にある資料をあるがままに迅速に採取することが最も重要となる。本件店舗のカウンターの外縁部は大きななだらかな流線形で上面に出ている部分が多かったこと,透明採取シートの一部が天板部にかかり,天板部と外縁部の境界線を がままに迅速に採取することが最も重要となる。本件店舗のカウンターの外縁部は大きななだらかな流線形で上面に出ている部分が多かったこと,透明採取シートの一部が天板部にかかり,天板部と外縁部の境界線をまたいでいたこと,カウンターの天板部と外縁部が一体となってカウンター上面を構成していることから,遺留指掌紋票には掌紋の位置として「カウンター上面」と記載し - 13 - た。 掌紋は,指紋と異なり,隆線が複雑であり,採取者が掌紋を見て指先の向き・方角を判断することはできなかったし,本件各掌紋の採取時には,Aは,原告が本件店舗のカウンターをたたいた際に用いた手が片手なのか両手なのか,原告とAとの位置関係などを供述しておらず,c警察官はこれらの情報を知ることができなかった。 よって,c警察官には本件各掌紋がAの供述内容(特に「原告がカウンターをたたいた。」ということ)に合致した場所,方向で付着しているか否かを検証可能な状態で証拠化することは不可能であった。 ⑹ b警察官の過失(原告の主張)b警察官は,平成25年7月4日付けのb報告書(丙22)作成時,カウンターの外縁部が曲面状であり天板部とは明確に区別できる形状であることを認識しており,c警察官から正確な採取場所を確認して現場の状況を正確に再現した報告書を作成すべき義務を負っていたにもかかわらず,b報告書に本件各掌紋の採取場所として外縁部と天板部を区別することなく「カウンター上面」と記載した。 (被告京都府の主張)b報告書が作成された目的は,「本件店舗には1歩ないし1,2歩入ったところ,Aによって店外に押し出された。」旨の原告の供述の信用性の検討にあったところ,本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたこと自体が原告の前記供述の信用性を減殺させるも し1,2歩入ったところ,Aによって店外に押し出された。」旨の原告の供述の信用性の検討にあったところ,本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたこと自体が原告の前記供述の信用性を減殺させるものである。Aは,原告がAの両肩等をつかんだり,抱きついたり,髪の毛を引っ張るなどしてもみ合いになったと供述しており,本件各掌紋はこのもみ合いの中でついたものとしても矛盾せず,Aの供述の信用性を裏付けるものであった。 したがって,b警察官はb報告書の作成に際し,正確な採取場所として本 - 14 - 件店舗のカウンターの天板部と外縁部を区別して記載する義務はなかった。 ⑺ a警察官の公訴提起時点の過失(原告の主張)捜査主任官は,すべての情報資料を総合して判断し,かつ公判での立証に耐え得るような捜査,証拠収集活動を尽くす義務を負うところ,a警察官は,遅くとも平成25年6月28日にe検事から本件各掌紋の採取場所の証拠化の指示を受けた時点までに,Aが「原告が,カウンターを両手で何度もたたいた。」旨供述していたこと,A立ち会いの犯行再現写真において,原告がカウンターをバンバンたたいている様子が写されていたこと(丙12の写真④),犯行日にはカウンターをたたいたという場面以外にカウンター上面に原告の指掌紋が付着する機会はなかったこと,犯行日以前に原告は本件店舗を訪れており,その機会にもカウンターに原告の指掌紋が付着する可能性があったことを認識していたことからすれば,原告がカウンターをたたいたという供述と整合する形で本件各掌紋が付着しているかが争点になり得ることは容易に理解できたといえるのであるから,本件各掌紋の付着場所,向き・方角等につき捜査を尽くすよう,捜査担当者に指示又は監督すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを るかが争点になり得ることは容易に理解できたといえるのであるから,本件各掌紋の付着場所,向き・方角等につき捜査を尽くすよう,捜査担当者に指示又は監督すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。 (被告京都府の主張)カウンターを何度もたたくと,掌紋は折り重なる等して対照不能となるから,必ずしもAの供述に符合する指掌紋が採取されるわけではない。Aは捜査段階において,原告からカウンターの外で腕や肩をつかんで振り回す,髪の毛を引っ張る,床の上に仰向けに押し倒す等の暴行を受けた旨供述していた。捜査段階において,原告がカウンターをバンバンたたいた事実は原告による暴行の一つとして評価されていたに過ぎない。Aの供述する原告とAとのもみ合いの中で本件各掌紋が遺留したとすることも極めて自然な状況であった。 - 15 - したがって,本件各掌紋の付着場所,向き・方角等につき捜査を尽くすよう指示する必要性はなかったといえ,a警察官に注意義務違反は認められない。 ⑻ a警察官のe検事からの照会時の過失(原告の主張)警察官は,事件の送致後も常にその事件に注意し,新たな証拠の収集及び参考となるべき事項の発見に努めるべきである。a警察官は,e検事から本件各掌紋について照会を受けた平成25年7月30日までに,原告がカウンターをたたいたか否かが争点になり得ることは容易に理解できたといえるのであるから,捜査主任官として,本件各掌紋の付着場所,向き・方角等につき捜査を尽くすよう,捜査担当者に指示又は監督すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。 (被告京都府の主張)a警察官は,本件店舗内には1,2歩入っただけであるという原告の供述の信用性を吟味し,弾 示又は監督すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。 (被告京都府の主張)a警察官は,本件店舗内には1,2歩入っただけであるという原告の供述の信用性を吟味し,弾劾することを目的として,b報告書が平成25年7月4日作成されたことにより,立証上の目的を達成したと認識していた。 その後起訴からわずか1週間後の検察官・弁護人双方において何らの争点も絞られていない状況下で,必要性の説明もなく同月30日頃にe検事から本件各掌紋の指先の向き・方角について照会を受けたa警察官は,本件各掌紋の指先の向き・方角が訴訟における争点になることを認識することはできなかった。本件各掌紋は,検察官作成の同年8月6日付の証明予定事実記載書(丙52)には犯人性の特定の証拠とされており,Aの供述の信用性を裏付けるという位置づけではなかったところ,同年12月11日付の証明予定事実記載書⑵(丙53)において初めて本件各掌紋の指先の向き・方角がAの供述の信用性の裏付けとして議論の対象となったのである。 したがって,a警察官は第1審において原告がカウンターをたたいたか否 - 16 - かが争点になり得ることを認識し得なかったため,本件各掌紋の向き・方角等について捜査を尽くすよう捜査担当者に指示監督すべき注意義務は負っていなかった。 ⑼ a警察官のf検事からc警察官及びd鑑定官が事情聴取を受けた時点の過失(原告の主張)a警察官は,f検事からc警察官及びd鑑定官が事情聴取を受けた平成26年2月12日(2月面談)までに,原告がカウンターをたたいたか否かが争点になり得ることは容易に理解できたといえ,e検事及びf検事の2名の検察官が警察職員に事情聴取していた状況に鑑みると,捜査主任官として, 日(2月面談)までに,原告がカウンターをたたいたか否かが争点になり得ることは容易に理解できたといえ,e検事及びf検事の2名の検察官が警察職員に事情聴取していた状況に鑑みると,捜査主任官として,2月面談に関与し,本件各掌紋の付着場所,向き・方角等につき捜査を尽くすよう,捜査担当者に指示又は監督すべき注意義務を負っていたにもかかわらず,これを怠った。 (被告京都府の主張)平成25年7月30日のe検事からc警察官及びd鑑定官への電話照会以降,平成26年2月12日(2月面談)までの間,本件被告事件第1審の公判前整理手続において,本件各掌紋の指先の向き・方角が「原告がカウンターを手でたたいた。」旨のAの供述の信用性の立証に用いられていることに関して,a警察官は連絡を受けておらず,そのような特異な立証方法がとられていることを知らなかったし,予想していなかった。 a警察官は,平成26年2月12日にf検事による事情聴取があったこと,Aの供述の裏付けとしてe検事による誤った内容の本件電話聴取書が証拠として用いられていることは知らされておらず,また,知り得なかった。 したがって,a警察官は本件被告事件第1審において原告がカウンターをたたいたか否かが争点になり得ることを認識し得なかったため,本件各掌紋の向き・方角等について捜査を尽くすよう捜査担当者に指示監督すべき注意 - 17 - 義務は負っていなかった。 ⑽ 損害及び因果関係(原告の主張)前記⑴ないし⑼の各過失により以下のとおり損害が生じた。 ア逸失利益被告京都府との関係 460万8447円原告は平成25年6月26日から平成27年1月6日までの560日間, た。 ア逸失利益被告京都府との関係 460万8447円原告は平成25年6月26日から平成27年1月6日までの560日間,本件被疑事件及び本件被告事件により身体拘束を余儀なくされ,その間就労できなかった。逸失利益は,基礎収入を平成25年の高卒男子40~44歳の平均賃金である500万6200円とし,被扶養者が1人であったため生活費控除率を40%とし,次の計算式のとおりの金額となる。 5,006,200 円×560 日間÷365 日×(1-0.4)=4,608,447 円 被告国との関係 443万5630円検察官の違法な公訴提起等による身体拘束は,平成25年7月17日から平成27年1月6日まで539日間であるので次の計算式のとおりの金額となる。 5,006,200 円×539 日間÷365 日×(1-0.4)=4,435,630 円イ慰謝料被告京都府との関係 1500万円原告は,560日間身体を拘束され,無罪判決を受けるまでの約1年8箇月,性犯罪の被疑者・被告人という立場に置かれ,長期間かつ多数回にわたる審理により,多大な精神的苦痛を被った。また,原告の逮捕は新聞で実名報道されたため,たとえ冤罪が晴れたとしても社会的影響は取り返しがつかず,その精神的苦痛は計り知れない。さらに,原告の逮捕・勾留・公訴提起等をきっかけとして原告の内妻の体調が悪化し, - 18 - 原告と内妻との生活が破たんし,内妻は入院を余儀なくされたのであり,原告が受けた精神的苦痛は極めて甚大である。 以上の をきっかけとして原告の内妻の体調が悪化し, - 18 - 原告と内妻との生活が破たんし,内妻は入院を余儀なくされたのであり,原告が受けた精神的苦痛は極めて甚大である。 以上の精神的苦痛を考慮すると,その慰謝料は1500万円を下ることはない。 被告国との関係 1517万2817円有罪判決の原因となったg検事の過失は特に違法性が強い。よって,1517万2817円が相当である。 ウ損益相殺(刑事補償) 700万円エ弁護士費用 126万円本件と因果関係を有する弁護士費用は126万円である。 オ請求額(ア+イ-ウ+エ) 1386万8447円(被告国の主張)ア逸失利益につき,原告がその主張の期間身柄を拘束され,就労できなかったことは認め,その余は不知ないし争う。 イ慰謝料につき,原告の身体拘束の事実,本件被告事件の審理経過については認め,その余は不知ないし争う。 ウ損益相殺につき,原告が刑事補償として700万円を受領したことは認める。 エ弁護士費用は,争う。 (被告京都府の主張)ア逸失利益は争う。 イ慰謝料につき,原告の身体拘束の事実,原告が無罪判決を受けたこと,原告が実名報道されたことは認め,本件被告事件の審理経過はおおむね認め,その余は不知ないし争う。 ウ損益相殺につき,原告が刑事補償として700万円を受領したことは知らない。 - 19 - エ弁護士費用は争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実経過前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣 が刑事補償として700万円を受領したことは知らない。 - 19 - エ弁護士費用は争う。 第3 当裁判所の判断 1 事実経過前記前提事実,後掲各証拠及び弁論の全趣旨から次の事実が認められる。 ⑴ 捜査の端緒及び指掌紋の採取・鑑定ア捜査の端緒(被害申告)平成25年6月3日夜,A(当時55歳の女性)が,連れの男性(後に本件店舗のオーナーと判明)とともに甲警察署乙交番を訪れ,自身の勤務する本件店舗において,名前は知らないが以前にも1度本件店舗に客として来た40歳台の男性から強制わいせつの被害を受けた旨を申告した。この際,Aは,店内で無理やりパンティーを脱がされるなどのわいせつ行為を受けたことを申告したが,犯人がカウンターをたたいたことは述べていなかった。(乙11,丙2)その後,同交番の警察官3名が本件店舗に臨場し,本件店舗内でAから事情聴取を行ったが,この際にもAは犯人がカウンターをたたいたことは述べなかった(乙11)。 当時,本件店舗(カウンターバー)は,別紙2の見取図のとおりの形状であり,中央にL字型のカウンターが設置され,カウンターの外側に客が座る椅子が置かれ,カウンターの内側に従業員がいて,客に酒等を提供する形態になっていた(丙1,10,16)。 イ鑑識活動時の被害申告の状況前記アの被害申告を受け,被害現場の指掌紋や足跡等を採取するため,翌4日午前0時55分から午前1時55分まで,本件店舗内において本部鑑識課機動鑑識隊のc警察官らによる鑑識活動が行われた(乙12,丙22)。 機動鑑識隊長補佐であったj(以下「j」という。)が,鑑識資料の採取 - 20 - 場所を特定するため,本件店舗内でAから事情聴取を行ったところ,Aは,被害当時の状況として, 丙22)。 機動鑑識隊長補佐であったj(以下「j」という。)が,鑑識資料の採取 - 20 - 場所を特定するため,本件店舗内でAから事情聴取を行ったところ,Aは,被害当時の状況として,同月3日午前1時を過ぎたころ,以前にもお店に客として来た男性が酒に酔って来店し,カウンターの出入口寄りの椅子に座ったこと,帰宅を促したところ,興奮してカウンターをたたき始め,本件店舗外に追い出そうとしたところわいせつ行為をされたこと,男性はカウンターの内側には回り込んでいないことを述べた。jは,c警察官らに対し,犯人が座っていたと思われる椅子付近やカウンターはしっかりと鑑識活動を行うよう指示した。(乙6,12,証人c)ウ 12個の指掌紋の採取前記イのjの指示に基づき,c警察官らは出入口付近の椅子やカウンター等を中心に指掌紋の採取作業を実施した(乙6)。 c警察官は,カウンター上にハケで白いアルミ粉末を刷きかけ,指掌紋が浮かびあがると,その上に透明採取シートを貼り付けて白いアルミ粉末を転写し,転写後の透明採取シートを透明採取シート付属の黒色の台紙に貼り付ける方法により,指掌紋の採取を行った(乙6,丙7,証人c。以下,断りのない限り,透明採取シートとこれを貼りつける黒色の台紙を一体のものとして「JPシート」という。)。この指掌紋採取の際,c警察官は,カウンターの客席側(外側)に立ってカウンター客席側(外側)から従業員側(内側)に向かって採取活動を行っていた(乙6p4,証人cp20)。 同日の鑑識作業の結果,本件店舗の別紙2の現場見取図の位置から本件各掌紋を含む12個の指掌紋(カウンターからは10個の指掌紋)が採取された(丙16,22。以下,12個の指掌紋を,採取場所に合わせて「掌紋1番」等という。)。 本件店舗のカウンターの断面は, 本件各掌紋を含む12個の指掌紋(カウンターからは10個の指掌紋)が採取された(丙16,22。以下,12個の指掌紋を,採取場所に合わせて「掌紋1番」等という。)。 本件店舗のカウンターの断面は,別紙5の断面図のとおりであり,幅約45cm の木目のない平らで水平な天板部(以下「天板部」という。)に続 - 21 - き,客席側の縁に木目のある幅約9.5cm の外縁部(以下「外縁部」という。)があり,カウンター縁に向かってなだらかな曲面となっていた(丙8p2)。掌紋7番,掌紋8番は,いずれもカウンターの外縁部に遺留されていた(丙7,8,24,証人c)。 エ JPシートの裏面のメモc警察官は,JPシートで指掌紋を採取した状態における北の方角を確認し,南北を軸にJPシートを反転させ(ペンのブッシュボタン側を北に,ペン先を南に合わせて,JPシートを表面に向けた状態でペンのクリップを挟み,ペンを軸にJPシートを裏返す。),JPシートの裏面に北の方向を「←N」と記載する方法で,JPシートの裏面に指掌紋採取時の北の方角を記載した(JPシートの表面を見たときに,その裏面の「←N」の矢印の先が採取場所の北の方角を指すことになる。)。また,c警察官は,JPシートの裏面に,本件店舗内にL字型のカウンターが配置された簡略な図面を記載した上,同図面において掌紋7番についてはカウンターの南端から135cm,東端から55cm,掌紋8番についてはカウンターの南端から110cm,東端から55cm である旨,指掌紋付着位置は「カウンター上面」であると記載した。本件各掌紋の指先の向き・方角については記載しなかった。(丙7,丙22p9・10,証人c)c警察官は,このJPシートを本部鑑識課へ送付した。この時点では,本件店舗から採取された12個の指掌紋につ 本件各掌紋の指先の向き・方角については記載しなかった。(丙7,丙22p9・10,証人c)c警察官は,このJPシートを本部鑑識課へ送付した。この時点では,本件店舗から採取された12個の指掌紋について,原告の指掌紋と一致するものがあるかは判明していなかった。また,掌紋は,指紋とは異なり隆線(指や掌に浮き出ている線状の隆起)が複雑であって,掌の一部のみが印象される場合も多く,鑑定官以外の者が,JPシートの表面の白い粉末の付着状況(又は,後記オの反転写真の掌紋付着状況)を見ただけでは,掌のどの部分が,どのような向きで遺留されているか直ちに判別できるものではなく,指先の向きについては明らかではなかった。(乙6,9,証人 - 22 - c,丙22,弁論の全趣旨)オ指掌紋の鑑定京都府警察本部鑑識課の鑑定官であるd鑑定官は,c警察官らから送付されたJPシートの指掌紋の鑑定作業を行った。鑑識課の鑑定官は,機動鑑識隊から送付されたJPシートの指掌紋について,警察に保管されている被疑者の指掌紋と一致するかを判断するが,採取場所に行くことはなく,また,先入観・予断を排除するため,基本的には捜査情報の詳細を知ることはない。鑑定官が,指掌紋が一致するという判断をするためには,12点の一致する特徴点を指摘する必要があり,12点以上の一致する特徴点を有しないものは,「対照不能」と判断される。(乙7,9,証人d)d鑑定官は,c警察官らから送付されたJPシートの指掌紋について警察に保管している指掌紋と対照する作業を行った結果,12個の指掌紋のうち,掌紋7番が京都府警察本部に保管されていた原告の左手掌紋と,掌紋8番が原告の右手掌紋とそれぞれ符合した。そして,d鑑定官は,平成25年6月12日,同日付け遺留指掌紋確認通知書(以下「d通知書」という。 7番が京都府警察本部に保管されていた原告の左手掌紋と,掌紋8番が原告の右手掌紋とそれぞれ符合した。そして,d鑑定官は,平成25年6月12日,同日付け遺留指掌紋確認通知書(以下「d通知書」という。)において,掌紋7番及び掌紋8番の各遺留指掌紋票を添付した上,掌紋7番は原告の左手掌紋と,掌紋8番は原告の右手掌紋とそれぞれ符合する旨の報告を行った。(乙7,8,丙22)d通知書に添付された本件各掌紋の各遺留指掌紋票(丙22p7,8)には,c警察官が送付したJPシートの現物の表面(黒色の台紙に白いアルミ粉末の掌紋が浮かび上がって見えるもの。)が貼付され,これを指紋反転焼付機で白黒を反転させた写真(白地に掌紋が黒く浮かび上がって見えるもの。以下「反転写真」という。)が別の台紙に貼られて本体とテープで綴じ付けされていて,JPシートの表面と反転写真とが見開きできるようになっていた。他方で,c警察官が採取場所・方角等をメモ書きしたJPシートの裏面は,遺留指掌紋票の裏面に裏面どうしを内側にしてテープで - 23 - 封じ,封じたテープ上にd鑑定官の契印が押してあったため,d鑑定官が契印及びテープの封を解かない限り,JPシートの裏面の記載内容を確認できない状態となっていた。また,JPシートの表面や反転写真には,現場の方角を示す記載はなかったため,JPシートの表面や反転写真に現れた掌紋の指先が採取場所においてどの方角を向いていたかは,分からない状態であった。(乙7,19,丙22,証人dp4)なお,本件店舗から採取された12個の指掌紋のうち本件各掌紋以外で対照可能であったものは掌紋1番のみであり,その他は対照不能であった(丙22p4,丙25)。 ⑵ 被害届提出から公訴提起までのAの供述内容ア平成25年6月6日の被害届提出から被害再現の 外で対照可能であったものは掌紋1番のみであり,その他は対照不能であった(丙22p4,丙25)。 ⑵ 被害届提出から公訴提起までのAの供述内容ア平成25年6月6日の被害届提出から被害再現の前までAは,同月6日,甲警察署に対し,被害届を提出し,同日,同署の司法警察員に対し,「同月3日午前1時05分頃,本件店舗内において,自称『i』という男から,下着を脱がされる被害を受けた。その男は,その10日前にも午後9時頃に相当酒に酔った状態で1人で来店し,カウンター越しにAの腕や肩をつかむ等しながら,『俺のことを愛してくれ。』等と言ってきたので,知人女性Cや店のオーナーを本件店舗に呼んだ。その男は,自分がヤクザとつながりがある様な下品な話をしていた。携帯電話の番号をしつこく聞かれて仕方なく教えた。2度と店に来ないように言って,追い出した。同月3日午前1時過ぎ頃,Aが本件店舗で1人で後片付けをしていた際,その男が酒に酔って来店した。Aが,閉店である旨告げ,カウンターの内側から出て出入口の方に行き男を追い出そうとしたところ,『俺の話を聞け。』等と大声で怒鳴りながら,Aの腕や肩をつかんで振り回したり,髪を引っ張ったりした。その上,男は,Aを本件店舗の床に仰向けに押し倒して,ストッキングとTバックをわしづかみにし,Aが両手でストッキングをつかんで止めようとしたが,ものすごい力で脱がせた。Aは,この - 24 - ままではレイプされると思い,大声をあげて抵抗し男を足蹴りにして床から起き上がり,男を店外に追い出し,脱がされた下着を手に持ち,本件店舗の出入口の鍵をかけ,本件店舗の前を通りかかったタクシーに乗り,男がタクシーの後部座席等の窓ガラスをたたいたりしている中,タクシーの運転手に発進を促して,自宅にタクシーで逃げ帰った。抵抗した際に 舗の出入口の鍵をかけ,本件店舗の前を通りかかったタクシーに乗り,男がタクシーの後部座席等の窓ガラスをたたいたりしている中,タクシーの運転手に発進を促して,自宅にタクシーで逃げ帰った。抵抗した際に右足のすねを擦りむき,右足の付け根を打撲した。自宅に逃げ帰ってからも,男から携帯電話に何度も電話がかかってきた。乱暴された時間は,閉店直後であったので午前1時05分頃で間違いない。」旨供述した。同月9日,Aは,面割写真台帳の写真から犯人として原告の写真を選ぶとともに,原告がAの下着を脱がす前に怒鳴っていた時の状況について,「怒りにまかせて,カウンターを掌でたたいていた。」旨を付け加えて供述した。(丙30,31,32)イ平成25年6月12日の被害再現以降の警察官に対する供述状況同月12日には,A立ち会いの下,本件店舗において被害の再現が行われ,Aは,女性の警察官を犯人に見立てて被害の状況を説明し,写真が撮影された。そこでは,犯人が本件店舗の壁をたたいている様子や,カウンターの天板部をカウンターの外側から内側に向かって両手の掌でたたいている様子(丙12写真④),Aの両肩をつかみ揺さぶる様子や,Aの髪の毛を引っ張る様子や,床に倒れたA(マネキン)にキスをしようとする様子や,着衣の上から乳房を揉む様子や,陰部を触る様子が犯行状況として説明され写真が撮影された。また,同月13日,Aは,甲警察署の司法警察員に対し,前記写真に沿って,被害状況について,原告が,壁やカウンターを何度もたたいたこと,原告が,Aの髪の毛を引っ張った後にキスしようとしたので手で遮ったこと,床に押し倒した後,何度も床にAの頭を打ち付けたため,Aの頭にたんこぶが3個くらいできたこと,原告が床に倒れたAにキスしようとしたので顔をそむけたこと,原告が,Aを床に倒 - 25 遮ったこと,床に押し倒した後,何度も床にAの頭を打ち付けたため,Aの頭にたんこぶが3個くらいできたこと,原告が床に倒れたAにキスしようとしたので顔をそむけたこと,原告が,Aを床に倒 - 25 - し着衣をめくりあげてタイツとTバックを脱がしAの陰部が露わになったこと,原告がAの乳房を着衣の上から揉んだこと,その後陰部を手で触ったこと等を加えて供述した。(丙12)Aは,同月17日,甲警察署の司法警察員に対し,犯行時の原告の服装につき,「丸エリの白っぽい色のTシャツ,カジュアルなベージュっぽい色のズボン」等と述べ,また,「原告とは被害を受ける10日前に1回会っただけで,本件店舗以外で会ったことはない。」旨供述した(丙13)。 Aは,同月21日,甲警察署の司法警察員に対し,被害に遭う10日くらい前に原告と会った時に,本件店舗の外でも会っていた旨を初めて供述し,「被害に遭う10日くらい前,本件店舗の開店準備をしてから,近所の店Fで食事をしていた際,原告がAのいたテーブルの席にいきなり座ってAに話しかけてきて,身の上等の話を始めたため,気持ち悪く,怖くなり,知人の女性Cを呼び出した。原告は,Aが本件店舗に戻る際に付いて来て,閉店までいた。本件店舗を閉店した後,1人で食事をとるため移動し,エレベーターに乗った際,原告が同じエレベーターに乗って来て,食事の店にも付いてきて,勝手に同席し,しつこく迫ってきた。Aは,原告を無視し,自分で代金を払い,タクシーで帰宅した。本件店舗以外で原告と会ったことはない旨述べたのは,正しい表現ではないが,店の外で会った時はストーカーされたという感覚であったためである。」旨供述した(丙11)。 Aは,同月26日,逮捕された原告を透視鏡で見て犯人に間違いない旨述べ,「被害を受けた前日の晩に開店準備のためカウ 会った時はストーカーされたという感覚であったためである。」旨供述した(丙11)。 Aは,同月26日,逮捕された原告を透視鏡で見て犯人に間違いない旨述べ,「被害を受けた前日の晩に開店準備のためカウンターを雑巾できれいに拭いた。」旨も加えて供述した(丙33)。 ウ公訴提起前の検察官面前調書の内容Aは,平成25年7月15日,e検事に対し,原告との被害前の面識状況,被害の状況,被害の際の時刻,被害時の原告の服装,被害後タクシーに乗ってからの状況について,以下のとおり供述し,検察官面前調書が作 - 26 - 成された(丙1。以下「本件検察官面前調書」という。)。 「原告とは,平成25年5月下旬頃,本件店舗の開店前に,近所の飲食店Fで食事している時,いきなり同じテーブルに座られ話しかけられて知り合った。本件店舗を1人で開けなければならず,つきまとわれたら怖いので,知人の女性Cに電話をかけ,来てもらった。同日,原告は,本件店舗に付いて来て,閉店まで滞在し,自分のことを刑務所帰りと言い,Aに対し,『俺と付き合え。』『俺のことを愛してくれ。』等と口説くようなことを言い,髪の毛を触る等した。携帯電話の番号をしつこく聞かれて教えた。 この日,本件店舗を閉めて,居酒屋で食事するため1人でタクシーで移動しエレベーターに乗ったところ,原告が現れて一緒にエレベーターに乗ってきて,居酒屋で同席して話しかけてきたが,受け流し,食事を済ませて代金を支払って帰宅した。 同年6月2日,本件店舗の午後8時の開店の前,カウンターをいつものとおりダスター(紙製の布巾)でよく拭いてきれいにした。同日夜の客は2名のみであった。客が帰り,Aが1人で閉店準備をしていた際,原告が1人で本件店舗に入ってきた。そのときの時刻は,時計を見ていないが,同月3日午前1時を回った頃 よく拭いてきれいにした。同日夜の客は2名のみであった。客が帰り,Aが1人で閉店準備をしていた際,原告が1人で本件店舗に入ってきた。そのときの時刻は,時計を見ていないが,同月3日午前1時を回った頃であった。Aが,原告に対し,店が終わったことを告げて,帰るよう求めたところ,原告は,『俺の女になれ。』『われ,ただで済むと思うなよ。分かってんのか。われ,承知せえへんぞ。』等と言って,カウンターを両手の掌や拳でバンバンと強くたたいたり,カウンター席の後ろの壁をたたいたりしながら威嚇してきた。Aがバッグと本件店舗の鍵を持ってカウンターの内側から出て,原告に帰るよう求めたところ,原告は,大声で怒鳴り,Aの両肩をつかんで,前後左右に揺さぶり,抵抗するAの体に抱きつき,髪の毛をつかんで引っ張り,キスしようとしてきた。原告は,Aの肩の辺りを押して突き飛ばしてAを床に押し倒した。原告は,仰向けに床に倒れたAの上に覆いかぶさり,肩や手を押さえつけ, - 27 - キスをしようとしてきた。原告は,Aのワンピースを腰の辺りまでまくり上げ,タイツとTバックのショーツを一緒につかんで足の方へずり下げてはぎ取ろうとした。Aはタイツを両手でつかんで脱がされないように抵抗したが,原告は,ものすごい力でタイツとショーツを足の方まで下げて足首から外し,Aの下半身を露出させ,着衣の上から乳房を揉み,その後,陰部を手で触った。Aは,大声をあげて抵抗したが,原告は止める様子がなく,このままではレイプされてしまうと思い,原告の股間を右足で蹴ったところ,原告が立ち上がり,痛そうな様子で前屈みになった。Aは,その隙に,床にあったショーツとタイツを持ち,カウンター上のバッグと鍵を持って,本件店舗の出入口から出ようとし,原告が追ってきてAの左腕をつかんだが,そのまま外に出た。本 子で前屈みになった。Aは,その隙に,床にあったショーツとタイツを持ち,カウンター上のバッグと鍵を持って,本件店舗の出入口から出ようとし,原告が追ってきてAの左腕をつかんだが,そのまま外に出た。本件店舗の出入口のドアを閉めて,本件店舗の前の車道に出たところ,追ってきた原告がAを羽交い絞めにしたが,これを振りほどく等して,ちょうど来たタクシーに乗って,ドアを閉めた。原告はタクシーの助手席側等の窓をたたいて妨害したが,Aは,タクシー運転手に対し,『襲われた。』旨を告げ,発進してもらい,タクシーは,原告から何度か前方を塞がれて停止した後,Aの自宅の方へ走行した。 途中で,本件店舗の出入口のドアの鍵をかけたか心配になり,タクシーに本件店舗へいったん戻ってもらい,鍵がかかっていることを確認してから,そのタクシーで自宅に帰宅した。自宅に帰った直後,原告から午前1時36分から午前2時3分まで合計5回電話がかかってきた。 被害に遭った時刻は,時計を見たわけではないが,閉店時刻の午前1時より後であったこと,電話がかかってくるよりも前であったことから,午前1時頃から午前1時37分頃までの間である。 最初の頃に警察で事情を聞かれた時には,被害に遭ったことで,はっきり覚えていることもあれば,うろ覚えのこともあり,はっきりしないところは,間違っていたらいけないと思って,言えないこともあった。その後, - 28 - 女性の刑事さんを相手に被害時の様子を再現してみたら,襲われたときの状況を鮮明に思い出すことができ,乳房を触られたこと,陰部を触られたことをはっきり思い出すことができた。 自宅に帰ってから,右足のすねや右太ももから腰にかけての辺りに擦り傷のような傷跡があることが分かったが,原告に床に押し倒されたり,倒された後に抵抗するために体を動かしたりし 思い出すことができた。 自宅に帰ってから,右足のすねや右太ももから腰にかけての辺りに擦り傷のような傷跡があることが分かったが,原告に床に押し倒されたり,倒された後に抵抗するために体を動かしたりしたときに負ったものだと思う。床に押し倒された時に後頭部にたんこぶができたが,気づいたのは診察の後であったので,医師には伝えられなかった。 犯行時の原告の服装は,白色っぽいTシャツにベージュっぽいカジュアルズボンであった旨の記憶があるが,顔を知っている人物であるので,服装については注目していなかった。」⑶ 公訴提起前の前記⑴⑵以外の証拠ア Aの受傷の状況平成25年6月4日,Aの右足のすねの擦過傷及び右大腿の付け根の傷が警察官により撮影された(丙15p5)。同月5日,k医師は,右下腿を打撲した旨の訴えに基づきAを診察し,右下腿打撲傷,右大腿打撲傷と診断した(丙15)。 イ Aの携帯電話の原告からの着信履歴Aの携帯電話には,Aが原告から被害を受けたという平成25年6月3日の午前0時31分頃から同日午前2時3分頃までの間,合計6回の原告からの着信履歴があった。午前0時31分頃に着信通話(呼出時間含め15秒),午前1時36分頃に着信通話(同5秒),午前1時37分頃に着信通話(同10秒),午前1時37分頃に着信通話(同10秒),午前1時38分頃に不在着信(留守番電話センターにアクセス),午前2時3分に不在着信があったことが記録されていた。(丙1,14)ウ本件店舗のオーナーの供述 - 29 - 本件店舗のオーナーであった男性は,平成25年6月19日,司法警察員に対し,Aから被害を打ち明けられた状況について,「同月3日の午後9時頃,Aから電話があり,Aが『今日店に男がやってきて,いきなり私に襲いかかってきた。10日 性は,平成25年6月19日,司法警察員に対し,Aから被害を打ち明けられた状況について,「同月3日の午後9時頃,Aから電話があり,Aが『今日店に男がやってきて,いきなり私に襲いかかってきた。10日くらい前に来て,やくざの話をしていた下品な男。』等と述べた。Aがまだ警察に通報していないと言うため,警察に届けるよう説得し,一緒に甲警察署の乙交番に行ったが,その際,Aは引きつったように顔をこわばらせ,かなりおびえていた。」旨供述した(丙2)。 エタクシーの運転手の供述Aが被害を受けたとする時刻の直後にAを乗せたタクシーの運転手(以下「本件タクシー運転手」という。)は,平成25年7月3日,「丙の交差点で,丁通りを東向きに小走りで走ってきたAを乗せた。Aは,タクシーに乗るなり『強姦された。』と言ってかなり慌てている様子であった。戊の交差点付近に来た時に,Aの携帯電話に電話がかかってきて,会話した後,Aの指示で,乙交差点付近まで戻った。丁通りで東向きに止まると,北側に自転車に乗った男性がいて,その女性は,その男性が加害者である旨述べた後,タクシーを降りて,その男性と約10分話して戻ってきた。Aが再びタクシーに乗るとき,その男性がAに暴言を吐いている声が聞こえた。 その男性からタクシーをたたかれたり,追っかけられたりしてはいない。」旨供述した。本件タクシー運転手は,事情聴取に訪れた警察官に対し,当初事情を話すことを拒み,前記の供述をした後も,調書作成や運転記録のコピー提出を拒み,警察官の協力要請にそれ以上応じなかった。(丙18)オ Aの知人Cの供述Aの知人C(女性)は,平成25年6月21日,司法警察員に対し,「Aが被害に遭った日の約10日前の午後8時か9時頃,Aから電話で,『初めての客と2人きりで怖いから店に入れない。来てほしい。 の供述Aの知人C(女性)は,平成25年6月21日,司法警察員に対し,「Aが被害に遭った日の約10日前の午後8時か9時頃,Aから電話で,『初めての客と2人きりで怖いから店に入れない。来てほしい。』旨の連絡があった。Aの声は,本当に嫌そうで困っている様子であった。言われた飲食店 - 30 - Fに行くと,Aがiと名乗る男と食事をしていた。Aは,iに嫌々付き合っている感じであった。食事が終わると本件店舗に3人で行き,お酒を飲んだ。iは,刑務所帰りだと自称し,しゃべり方が荒っぽくて,やくざのような人という印象があった。」等と供述した(丙35の1・2)。 カ飲食店Fの店主の供述Aが原告と初めて会った店という飲食店Fの店主は,平成25年7月10日,警察官から,Aと原告の写真を見せられ,警察官に対し,「Aは,近所のスナックで働いており,毎月2,3回は来ていた。最後に来たのは5月の下旬頃で,原告と一緒に来て,2人で楽しそうに食事し,Aが支払をして出て行った。」旨供述した(丙37)。 ⑷ 原告の公訴提起前の供述の内容ア身柄拘束平成25年6月26日,原告は強制わいせつ致傷罪の疑いで甲警察署警察官に逮捕され,同月28日勾留された(甲5,丙42,弁論の全趣旨)。 イ原告の供述内容原告は,平成25年6月26日,司法警察員に対し,「同月2日,ヤキトリ屋で妻と飲み,妻が先に帰ったので,午前1時頃まで1人で飲み,その後に1箇月以内に1度行ったことのある本件店舗に行ったところ,Aがカウンターの外で顔を下に向けて床に倒れていたため,1歩だけ中に入って,声をかけた。Aが立ち上がり,『帰って。今日は来んといて。』と言って本件店舗の外に出たので自分も一緒に本件店舖の外へ出た。AはJRの己駅の方へ行ったので,私は家に帰った。」旨を( 歩だけ中に入って,声をかけた。Aが立ち上がり,『帰って。今日は来んといて。』と言って本件店舗の外に出たので自分も一緒に本件店舖の外へ出た。AはJRの己駅の方へ行ったので,私は家に帰った。」旨を(丙42),同月27日には検察官(丙44),同年7月8日には司法警察員(丙43)に対し,「本件店舗には1,2歩入った。Aがストッキングなしの生足で床に倒れており,Aに声をかけると,『帰って。』等と言われ,店の外に押し出された。」旨を供述した。 - 31 - また,原告は,同月3日に,司法警察員に対し,「本件被疑事件の前の1箇月以内に本件店舗を初めて訪れたところ,Aからいったん入店を断られた後,誘われて一緒に近所の飲食店に行った。2人で食事をしているとAの知人の女性が合流した。3人で本件店舗に戻り,お酒を飲みながらカラオケをしたりして,閉店までいた。その後,Aと2人で己駅前の居酒屋にタクシーで行ったかもしれない。」旨供述した(丙38)。 原告は,公訴提起前,本件被疑事件を担当したe検事に対しても,警察での供述と同様に,「被害時刻頃,本件店舗を訪れたが,本件店舗には1,2歩しか入っていない。」旨の供述をした(丙45)。 ⑸ 本件各掌紋についてのb報告書の作成ア e検事による報告書作成の指示平成25年6月末頃,e検事は,Aが本件店舗のカウンターを被害日の前日夜にダスターで清掃したとすれば,原告の掌紋と合致する本件各掌紋が本件店舗のカウンターから採取された事実は,Aの供述の裏付けとなり,かつ,本件店舗内に1,2歩しか入っていない旨の原告の供述を排斥する事実であると考え,本件被疑事件の担当警察官に対し,本件各掌紋の採取場所を明らかにする報告書の作成を指示した(丙45,証人ep26,証人ap7)。 イ a警察官の立場・ の原告の供述を排斥する事実であると考え,本件被疑事件の担当警察官に対し,本件各掌紋の採取場所を明らかにする報告書の作成を指示した(丙45,証人ep26,証人ap7)。 イ a警察官の立場・権限等a警察官は,本件被疑事件の捜査主任官である刑事課長を補佐し,捜査指揮を執る立場にあり,本件被疑事件の実質的な捜査主任であった。 a警察官は,本件被疑事件の発覚頃から公訴提起時まで,前記⑴オの本件各掌紋の鑑定の結果,前記⑵アイのAの供述内容,前記⑶アないしカの各証拠の状況,前記⑷イの原告の供述内容を認識し,又は認識し得る立場であった。他方,後記⑺⑻の本件被告事件の公判前整理手続の内容については,検察庁から連絡はなく,知り得る立場にはなかった。 - 32 - (乙16,証人ap10~11)ウ a警察官による報告書作成の指示a警察官は,e検事からの前記アの指示を受けて,平成25年6月末頃,b警察官に対し,本件各掌紋の採取場所を明らかにする報告書の作成を命じた。その際,a警察官は,b警察官に対し,報告書の作成目的は,本件各掌紋の採取場所を明らかにすることにより,本件店舗内で原告からわいせつ行為の被害を受けた旨のAの供述と本件店舗内に1,2歩しか入っていない旨の原告の供述のどちらの信用性が高いか示すことにある旨を伝え,また,作成に当たり,本件店舗の現場に行くよう指示はしていなかった。(乙16,17,証人b,証人ap19~21・31)エ報告書作成のための調査・原資料等b警察官は,検察庁からd通知書を預かり,平成25年7月1日,d鑑定官にd通知書添付の本件各掌紋の各遺留指掌紋票に貼付されたJPシートの表面の契印及びテープを開封してもらい,c警察官が作成したJPシートの裏面の採取場所及び採取時刻に関する記載(丙22p 日,d鑑定官にd通知書添付の本件各掌紋の各遺留指掌紋票に貼付されたJPシートの表面の契印及びテープを開封してもらい,c警察官が作成したJPシートの裏面の採取場所及び採取時刻に関する記載(丙22p9。採取場所についての記載内容は⑴エのとおり。)を確認した(丙22,証人bp3・4)。bは,d通知書及びJPシートの裏面の記載に基づいて,平成25年6月4日午前1時23分に本件店舗の「カウンター上面」から採取された掌紋7番が原告の左手掌紋に符合し,同日午前1時31分に本件店舗の「カウンター上面」から採取された掌紋8番が原告の右手掌紋と符合しており,本件各掌紋の採取場所は別紙6のとおりである旨の同年7月4日付け報告書(b報告書)を作成した(丙22,証人bp3・4)。b報告書には,「遺留指掌紋票裏面」との表題でJPシートの裏面のメモも添付された(丙22p9)。 b報告書作成の時点において,b警察官は,Aが「原告が本件店舗のカウンターを手でたたいた。」と供述していること,犯行再現の写真(丙12 - 33 - 写真③)によれば,本件店舗のカウンターの縁が曲面になっていること,外縁部が天板部と明確に区別できる形状であることを認識していた(証人b)。 ⑹ 公訴提起及び公訴提起直後のe検事による補充捜査ア公訴提起平成25年7月17日,e検事は,原告を別紙1記載の本件公訴事実により強制わいせつ致傷罪で京都地方裁判所に起訴した(甲1)。 イ f検事の依頼本件被告事件の第1審公判を担当することとなったf検事は,本件被疑事件の記録を読み,本件被告事件が裁判員裁判対象事件であり,裁判員にわかりやすい立証をする必要があるところ,本件各掌紋の指先の向き・方角が,「原告がカウンター内のAの方を向いてカウンターをたたいた。」旨のAの供述と 本件被告事件が裁判員裁判対象事件であり,裁判員にわかりやすい立証をする必要があるところ,本件各掌紋の指先の向き・方角が,「原告がカウンター内のAの方を向いてカウンターをたたいた。」旨のAの供述と整合するのであれば,より分かりやすくAの供述の信用性が立証できるのではないかと考え,平成25年7月,e検事に対し,本件各掌紋の指先の向き・方角を警察官に確認するよう依頼した(丙46,証人fp4)。 この際,f検事は,e検事に前記依頼をする理由については特段の説明をしなかった(証人ep17,証人fp14)。 ウ d鑑定官からの聴取e検事は,前記イのf検事からの依頼により,平成25年7月24日頃,a警察官に本件各掌紋の指先の向き・方角を問い合わせ,a警察官は鑑識担当のlに電話を引き継いだ。同日,lは,d鑑定官に対し,本件各掌紋の付着状況に関しe検事が来庁するか電話をする予定である旨伝えた。 (乙18の1,証人e,証人d,証人a)e検事は,同月30日,d鑑定官に電話をかけ,本件各掌紋の指先の向き・方角について質問をしたところ,d鑑定官は,現場に行っていないの - 34 - で分からない,現場に行っている鑑識課のc警察官に聞いてみたらよい旨を述べた(証人ep9。なお,証人dは,「この時の電話では本件各掌紋の指先の向き・方角については聞かれていない。」旨証言する。しかし,そうであるとすれば,前記イのf検事がe検事に対し本件各掌紋の指先の向き・方角を確認するよう依頼を行った事実と沿わないし,d鑑定官との電話の直後にe検事がc警察官に電話をかけて本件各掌紋の指先の向き・方角を質問した事実とも沿わないこととなることから,証人eの証言と対比して,採用できない。)。d鑑定官との電話の際,e検事は,本件各掌紋の部位の名称 がc警察官に電話をかけて本件各掌紋の指先の向き・方角を質問した事実とも沿わないこととなることから,証人eの証言と対比して,採用できない。)。d鑑定官との電話の際,e検事は,本件各掌紋の部位の名称をd鑑定官に尋ね,d鑑定官は,鑑識課内に保管していた反転写真を見ながら「採取番号7の左手掌紋に符合した部分は,具体的には,親指を除く四本の指の付け根に当たる『四指基底部』が採取されたものである。採取番号8の右手掌紋に符合した部分は,具体的には,小指の付け根の下側にある『小指球部』が採取されたものである。」旨回答し,e検事は,その旨の電話聴取書(以下「dからの電話聴取書」という。)を作成した(丙19,証人dp6・8,証人ep9)。 エ本件電話聴取書の作成平成25年7月30日,e検事は,c警察官に電話し,c警察官に対し,本件店舗内における本件各掌紋の指先の向き・方角を確認する趣旨で質問をしたところ,c警察官は,本件各掌紋を採取した際の自分自身の体の向きを質問されたものと理解し,「カウンターの外側から内側に向いた状態であった。」旨回答した。e検事は,c警察官からの聴取に基づいて別紙3の内容の本件電話聴取書を作成した。(丙7,20)なお,この時,本件各掌紋のJPシートが添付されたd通知書は,鑑識課内にはなかった(証人cp9)。 オ遺留指掌紋の指先の向き・方角の問い合わせについてのa警察官の認識等 - 35 - e検事は,前記ウエの問い合わせの際,d鑑定官にもc警察官にも問い合わせた理由の説明はしておらず,a警察官も両名から理由を聞いたことはなかった(証人ep19・20,証人ap24)。 京都府警察本部刑事部鑑識課鑑定官にとっては,遺留指掌紋の指先の向き・方角について質問を受けるのは,年間0~1件程度であり,まれな 理由を聞いたことはなかった(証人ep19・20,証人ap24)。 京都府警察本部刑事部鑑識課鑑定官にとっては,遺留指掌紋の指先の向き・方角について質問を受けるのは,年間0~1件程度であり,まれなことであった(乙9,証人d)。 ⑺ 公判前整理手続におけるf検事による補充捜査・公訴追行ア公判前整理手続に付されたこと本件被告事件は,公判前整理手続に付され,平成26年6月20日まで合計15回の公判前整理手続期日が開かれた。f検事は,もう1名の検察官とともに,同年3月31日まで本件被告事件の公判前整理手続を担当した。(丙3,証人f,弁論の全趣旨)イ公判前整理手続における検察官の証明予定事実等f検事は,平成25年8月6日,本件被告事件の証明予定事実として,「本件店舗のカウンター上から原告の掌紋が検出されたこと等から原告は逮捕された。」旨主張する同日付け証明予定事実記載書を提出し,これを裏付ける証拠として,b報告書,本件電話聴取書及びdからの電話聴取書(以下,この3通を「b報告書等3通」という。)を証拠請求したが,この時には,「本件各掌紋が検出されたことが,Aによる原告がカウンターをたたいた旨の供述と整合する。」旨の主張はしていなかった(丙5,52)。 f検事は,同年12月11日付け証明予定事実記載書において,初めて,「Aは,『カウンター前通路に立った原告がカウンターの内にいたAの方を向き,両手の平でカウンターをたたいた。』旨供述している。本件店舗のカウンターの通路側から,原告の左手及び右手の掌紋がそれぞれ1個ずつ検出されているところ,各掌紋は約25cm 離れ,いずれも手の指先がカウンターの内側に向いた状態であり,本件各掌紋の付着状況とAとの供述は - 36 - 合致する。」旨の主張を行った(丙53)。 原告の弁護 ろ,各掌紋は約25cm 離れ,いずれも手の指先がカウンターの内側に向いた状態であり,本件各掌紋の付着状況とAとの供述は - 36 - 合致する。」旨の主張を行った(丙53)。 原告の弁護人n弁護士及びo弁護士(以下,両名を「弁護人ら」という。)は,別紙1の公訴事実を全面的に争う旨の主張を行い,開示を受けたb報告書等3通については同意・不同意の意見を留保した(丙46)。本件各掌紋について,弁護人らは,同年12月24日付け書面において,「本件各掌紋は,原告が同年5月下旬に本件店舗を訪れた際に付着したものであり,原告がカウンターをたたいた際に付着したものではない。したがって,カウンター上の掌紋の存在は,本件被害に関するAの供述の信用性を何ら補強するものではない。」旨主張した(甲9)。また,弁護人らは,平成26年1月22日付け「統合報告書案等について⑴」と題する書面において,「b報告書記載の本件各掌紋を含む12個の指掌紋のそれぞれが,どの位置にどのような状態で遺留していたのかが具体的に分かる写真又はそれに代わる資料」の証拠開示を求め,これが明らかになればb報告書等3通につき一部を除き同意予定であるとの意見を示した(甲7)。 そこで,f検事は,本件各掌紋に関するb報告書等3通,ないし,これらの内容を統合した捜査報告書に対して弁護人らからの同意を得るため,弁護人らから前記要求された事項を明らかにする捜査報告書を作成することとした(証人fp7)。 ウ 2月5日付けp報告書f検事は,前記イで弁護人らから要求された事項に応えるため,まず,甲警察署の警察官に対し,b報告書の12個の指掌紋のうち本件各掌紋以外の10個の採取場所,部位及び指先の向き等についての報告書を作成するよう依頼し,この依頼により,甲警察署の司法警察員p作成の平成 甲警察署の警察官に対し,b報告書の12個の指掌紋のうち本件各掌紋以外の10個の採取場所,部位及び指先の向き等についての報告書を作成するよう依頼し,この依頼により,甲警察署の司法警察員p作成の平成26年2月5日付け捜査報告書(丙24。以下「2月5日付けp報告書」という。)が作成された。 2月5日付けp報告書は,本件店舗に遺留された12個の指掌紋のうち - 37 - 本件各掌紋以外の10個の指掌紋の採取場所を別紙2と類似の図面等で示したほか,採取された部位,指先の向き等を報告したものであった。同書には,採取された部位,指先の向き等に関し,掌紋1番は「掌紋の一部で左手小指球部,掌紋の上部が北方向」であり,本件各掌紋は「既報のとおり」であり,その他の9個の指掌紋は「対照不能のため詳細内容の記載が困難」である旨記載されていた。(丙24,証人f)エ 2月面談f検事は,平成26年2月12日,前記イで弁護人らから要求された事項のうち前記ウ以外の事項について調査するため,c警察官及びd鑑定官と面談した(2月面談)。 2月面談の際,f検事は,c警察官に対し,掌紋の採取状況等について質問し,「採取した場所を特定しやすいよう角になる部分を入れるので,本件各掌紋に写っている直線はカウンターの端と考えられる。透明採取シートで指掌紋を採取した後,透明採取シート(JPシート)を台紙に貼りつけ,その台紙を裏返し,裏面に採取した場所・方角を記載する。b報告書の『遺留指掌紋票裏面』とのメモ(のコピー)が裏面のメモである。」旨の回答を得た。また,d鑑定官に対しては,本件各掌紋の反転写真を示して,採取された掌の部位の名称及び指先の向きについて質問し,本件各掌紋の反転写真に写った部位の名称及び指先の向きについて教示を受けた。 面談終了後,f検 に対しては,本件各掌紋の反転写真を示して,採取された掌の部位の名称及び指先の向きについて質問し,本件各掌紋の反転写真に写った部位の名称及び指先の向きについて教示を受けた。 面談終了後,f検事は,本件各掌紋の反転写真に写った部位の名称及び指先の向きが分からなくなったため,同日中にd鑑定官のみを再度呼び出し,本件各掌紋の反転写真に掌紋の部位の名称及び指先の向きを朱書きさせて署名させた。その記載内容は,掌紋7番については別紙7の写真部分,掌紋8番については別紙8の写真部分のとおりであった。 2月面談の際,f検事は,c警察官及びd鑑定官に対し,Aの「原告がカウンターをたたいた。」旨の供述を裏付けるために本件各掌紋の指先の - 38 - 向き・方角が問題となっていることは伝えておらず,c警察官及びd鑑定官はそのことを知らなかった。また,2月面談の際,c警察官及びd鑑定官は,「c警察官がe検事の質問に対して『本件各掌紋は手の指先が本件店舗のカウンターの内側を向いた状態で採取されたものである。』と回答した。」旨の本件電話聴取書が作成されたことも,証拠請求されていたことも知らされておらず,認識していなかった。 (乙6,7,丙16,21,46,証人d,証人c,証人f)オ f検事による証拠開示f検事は,平成26年2月12日,c警察官及びd鑑定官から聞き取った内容として,前記エの聴取内容及び本件各掌紋の反転写真にd鑑定官が採取部位の名称・指先の向きを朱書きで記入したものを添付した捜査報告書(丙21。以下「f報告書」という。)を作成したが,同報告書には,本件各掌紋の指先の向き・方角については記載されていなかった(丙21)。 f検事は,同月13日,弁護人らに対し,2月5日付けp報告書及びf報告書を任意開示した(甲6,8)。 ⑻ 報告書には,本件各掌紋の指先の向き・方角については記載されていなかった(丙21)。 f検事は,同月13日,弁護人らに対し,2月5日付けp報告書及びf報告書を任意開示した(甲6,8)。 ⑻ g検事による補充捜査・公訴追行ア統合捜査報告書原案に対する弁護人らの要望等g検事は,平成26年4月1日,f検事らから本件被告事件の第1審の公判を引き継いで担当することとなり,終局まで担当した。 g検事は,弁護人らから,本件各掌紋に関する統合捜査報告書の原案(b報告書等3通に代えて請求予定の報告書原案)に関し,本件各掌紋以外の指掌紋についての情報も加えてほしいとの要望がされたことから,担当警察官に対し,掌紋1番が誰の掌紋であるかを確認した。その結果,掌紋1番が本件店舗のオーナーのものであることが判明した。(丙26,27,証人g)同年5月頃,弁護人らから,掌紋1番の掌の部位及び指先の向き・方角 - 39 - についても前記統合捜査報告書に記載してほしいとの要望がなされたため,g検事は,この点についての補充捜査を行うこととし,h事務官に対し,警察の担当者に,掌紋1番について,本件各掌紋の反転写真にd鑑定官が掌の部位を朱書きしたもの(丙21p3・4。別紙7,8の各写真部分と同じ)と同様のものを作成してもらうように指示した(証人gp5・31,証人hp3)。 イ 5月面談h事務官は,平成26年5月23日,鑑識課のm主任鑑定官及びd鑑定官(mら)と面談した(5月面談)。5月面談時,h事務官は,掌紋1番を鑑定したm主任鑑定官に対し,掌紋1番の掌の部位,指先の向き・方角等を質問し,本件各掌紋にd鑑定官が朱書きしたものの写し(別紙7,8の各写真部分の写し)を示しながら,掌紋1番について,それと同じものを作成するよう依頼した し,掌紋1番の掌の部位,指先の向き・方角等を質問し,本件各掌紋にd鑑定官が朱書きしたものの写し(別紙7,8の各写真部分の写し)を示しながら,掌紋1番について,それと同じものを作成するよう依頼した(丙48,証人hp6)。m主任鑑定官は,掌紋1番の反転写真に掌の部位の名称,指先の向きを朱書きし,これに署名押印した(丙28p3)。5月面談時,h事務官が,mらに対し,掌紋1番の指先の向き・方角について質問したところ,mらは,指先の方角は分からない旨を答えた(乙7,15,証人h)。h事務官は,mらに対し,2月5日付けp報告書(丙24)の「掌紋1番は掌紋の上部が北方向である。」旨の記載を示したところ,mらは,「そのように記載されているのであれば北方向と思われるが,指先が揃っていないので北よりやや東方向であろう。」旨説明した(丙24,28,証人hp18・19)。 同日,h事務官は,5月面談の内容をg検事に報告するとともに,前記の聴取内容及びm主任鑑定官に朱書きしてもらった反転写真を添付した同日付け報告書(以下「h報告書」という。)を作成した。同報告書には,本件各掌紋についての記載はなかった。(丙28)ウ本件統合捜査報告書 - 40 - h事務官は,g検事の指示により,平成26年6月6日,本件店舗から採取された12個の指掌紋の採取場所,鑑定結果,対照可能であった3つの掌紋(本件各掌紋及び掌紋1番)の採取された掌の部位,指先の向き・方角等について報告する同日付け本件統合捜査報告書(丙16)を作成した。h事務官は,本件統合捜査報告書に別紙7及び8を添付した際,本件各掌紋の反転写真の指先の向きが上になるように,掌紋7番の反転写真をf報告書とは90度向きを変えて貼付した(丙21,丙16p9・10)。 本件統合捜査報告書には,本件各掌 紙7及び8を添付した際,本件各掌紋の反転写真の指先の向きが上になるように,掌紋7番の反転写真をf報告書とは90度向きを変えて貼付した(丙21,丙16p9・10)。 本件統合捜査報告書には,本件各掌紋の採取場所が「カウンター上面」であり,指先の向き・方角が「カウンター内側(東方向)」である旨の記載があった(丙16)。h事務官は,本件電話聴取書及びb報告書に基づきこれらの記載をした(丙16,証人h)。 g検事は,同年6月10日,本件統合捜査報告書を証拠請求し,弁護人らはこれに同意し,裁判所は,これを採用する旨の決定をした(丙5)。b報告書等3通の証拠請求は,撤回された(丙5)。 ⑼ 第1審の公判期日での審理及び判決ア公判前整理手続の終了,公判期日での審理平成26年6月20日,第15回公判前整理手続期日において,本件被告事件の争点は,「①被害者Aが強制わいせつの被害にあったか(事件性),②原告が犯人であるか(犯人性)及び③原告が有罪の場合は量刑である。」旨整理され,同手続は終了した(丙3)。 同月,本件被告事件の裁判員等選任手続期日が開催され,同年6月30日から同年7月7日まで4回の裁判員裁判による公判期日が開かれた。原告は一貫して犯行を否認し,弁護人らは無罪を主張した。(甲10,丙4)本件統合捜査報告書は刑訴法326条1項の同意書面として第1回公判期日で取調べがされた(丙3,4)。 g検事は,本件統合捜査報告書に基づき,第1回公判期日の冒頭陳述に - 41 - おいて,「被害者供述のとおり,カウンターから被告人の両手の掌紋が発見された。」旨の主張を行い,第3回公判期日の論告においても,「客観的な証拠」として,「被告人がカウンターをたたいたという話通りの場所,方向に被告人の両手の掌紋があり,Aの証言は 人の両手の掌紋が発見された。」旨の主張を行い,第3回公判期日の論告においても,「客観的な証拠」として,「被告人がカウンターをたたいたという話通りの場所,方向に被告人の両手の掌紋があり,Aの証言は客観的状況とも符合する。」旨の主張を行った(丙40,41)。 イ第1審でのAの証言Aは,本件被告事件の第1審の第1回公判期日において,証言を行った。 その際,Aは,概ね,本件検察官面前調書のとおりの証言を行ったが,一部には異なる内容もあった。具体的には,カウンターの内側から外側に出たAが床に倒される前の状況について,「原告から,肩や胸や腰やあらゆるところを乱暴に触られ,胸をまさぐったり,お尻や腰を触ったりされた。」旨を新たに述べる一方で,本件検察官面前調書で述べていた「両肩をつかまれ左右に揺すぶられたこと」や「髪の毛をつかまれたこと」については述べなかった。また,床に倒された後,原告からショーツとストッキングを脱がされた状況について,「手足をバタバタしている,その一瞬の隙に履いていたショーツとストッキングを脱ぎ取られた。大変巧みな手つきで,ストッキングと下着を同時にお尻の方向から一気に剥がされた。」旨述べた。また,ショーツとストッキングを脱がされた後に,着衣の上から胸を揉まれたり,陰部を触られたりした以外の被害として,「肩や胸や腰やお尻を触られた。」旨を述べた。さらに,傷害の原因について,「右すねの傷は,原告に押し倒された後もみ合った際,原告の靴が当たった時にできたものである。太ももの傷は,原告から斜めに押し倒され仰向けにされたときにできたものである。」旨証言した。また,本件店舗の開店前や閉店後のカウンターの清掃に関し,「閉店の後にカウンターの全体を拭くが,カウンターの外側の角の部分は手を伸ばさないと届かないところなので,一番汚 きたものである。」旨証言した。また,本件店舗の開店前や閉店後のカウンターの清掃に関し,「閉店の後にカウンターの全体を拭くが,カウンターの外側の角の部分は手を伸ばさないと届かないところなので,一番汚れが取りにくいところである。カウンターの外側からも拭くが,毎回丁寧に拭 - 42 - くわけではない。開店の前は汚れが目立っていれば拭いていた。原告の5月末の前回来店時も被害日も,閉店時には適当に拭いた。端から端まで拭かずに,ふわっと,力も入るか入らないか分からない程度に,大雑把に拭いた。」旨の証言をした。(丙39)ウ第1審の有罪判決京都地方裁判所は,平成26年7月7日,原告に対して,本件被告事件について別紙4の犯罪事実を認定した上,懲役2年の実刑判決を言い渡した(甲2)。 同判決は,前記犯罪事実を認定できる理由として,「Aの証言は,その供述態度や供述の変遷状況等に照らして全面的に信用できるものではなく,後に知った事実をもとに辻褄をあわせようとしたり,誇張して供述しているのではないかと疑われる部分もあるが,認定した犯罪事実の時刻頃に原告が本件店舗を訪れていたこと,Aが本件店舗を飛び出して,その直後にタクシーに乗ったことは間違いのない事実であり,Aの身に何らかの突発的な事態が生じなければ,このような行動に出ることは通常考えられないから,この頃,Aの身に何らかの突発的な事態が生じたことは間違いがなく,Aの証言のうち,この突発的な事態の中身を原告からのわいせつ被害であったとする部分が信用できるかが問題となる。」とした上で,「①本件被害当日,Aから被害について相談を受けた本件店舗のオーナーの証言は基本的に信用できるところ,同証言によれば,Aは,原告から下着を脱がされたことを内容とするわいせつ行為を受けたことについて,当初 件被害当日,Aから被害について相談を受けた本件店舗のオーナーの証言は基本的に信用できるところ,同証言によれば,Aは,原告から下着を脱がされたことを内容とするわいせつ行為を受けたことについて,当初から一貫して述べていたこと,②Aが供述する原告が両手で本件店舗のカウンターをたたくという行為に適合する形で,原告の掌紋が採取されていること,③本件被害の2日後に医師に受診した際に,Aは,Aの供述する原告の暴行態様と矛盾しない傷害を負っていたこと,④Aと原告は,本件被害の日まで1度しか会ったことがなく,Aには,ありもしないわいせつ被害をね - 43 - つ造して原告を罪に陥れる動機や利益がないことから,少なくとも,原告から下着を脱がされ下半身を露出させる等のわいせつ行為を受けたとのAの証言部分は信用できる。」というものであった。同判決には,本件統合捜査報告書が証拠の標目に挙げられていた。(甲2)原告はこの判決に対して控訴した(甲4)。 ⑽ 控訴審での審理,判決ア本件各掌紋の指先の向き・方角についての審理本件被告事件の控訴審において,n弁護人は,「本件統合捜査報告書では,本件各掌紋の指先の向き・方角がいずれもカウンターの内側(東)を向いていたとされているが,それだとカウンターの木目の向きと整合しない。」旨の指摘を行い,別紙7及び別紙8の写真部分の木目の向きを揃えたコピー(そのように配置すると,掌紋の指先の向きは同一方向を向かない状態となる。)を提出する等した(甲4p10~)。 イ平成26年11月17日聴取これにより本件各掌紋の指先の向き・方角に疑義が生じ,平成26年11月17日,大阪高等検察庁検事q及びg検事により,c警察官及びd鑑定官に対する聴取が行われた(丙7)。 この際,c警察官は,「e これにより本件各掌紋の指先の向き・方角に疑義が生じ,平成26年11月17日,大阪高等検察庁検事q及びg検事により,c警察官及びd鑑定官に対する聴取が行われた(丙7)。 この際,c警察官は,「e検事からの電話があったことは覚えているが,詳しいことは記憶にない。その際,私は採取係なので,指紋採取のことを聞かれていると思い,カウンターの外側から内側に向かって指掌紋の採取活動をしたことを伝えたような気がする。私自身は,指掌紋採取活動のみを行っていたので,掌紋の採取活動のことを聞かれていると思ったのだと思う。もし,e検事から掌紋の指先の方向を聞かれていると分かっていれば,私だけではお答えできないので,d鑑定官とともに聞いてほしいと答えたはずである。」旨回答した(丙7p7)。また,c警察官は,本件各掌紋のJPシートの裏面のメモ及び反転写真を見たが,反転写真の木目のよ - 44 - うなものが何かは分からず,d鑑定官も,c警察官の説明,反転写真及びJPシートの裏面のメモをもとに指先の向きの方角を検討したが,「現場を見ていないので,木目や直線の位置が分からない。できれば現場のカウンターを確認した方がよい。」旨の意見を述べた。(丙7)ウ本件各掌紋の指先の向き・方角平成26年11月21日には,c警察官及び京都府警本部刑事部鑑識課主任鑑定官r立ち会いの下,本件店舗においてc警察官による採取状況再現見分が行われた(丙8,29)。 c警察官は,前記⑴エの本件各掌紋のJPシートの裏面のメモに基づき,JPシートの貼付の方向を確認し,本件店舗のカウンターを計測する等して採取場所を特定した。そして,r主任鑑定官が本件各掌紋の指先の方角を読影した。その結果,掌紋7番は指先がカウンター外側向き(西向き),掌紋8番は指先がカウンター内側右方向き(南東 ーを計測する等して採取場所を特定した。そして,r主任鑑定官が本件各掌紋の指先の方角を読影した。その結果,掌紋7番は指先がカウンター外側向き(西向き),掌紋8番は指先がカウンター内側右方向き(南東向き)であることが分かり,本件統合捜査報告書の本件各掌紋の「指先の向きはカウンター内側(東方向)」との記載が誤りであることが判明した。また,カウンターの断面図(別紙5)も作成され,本件各掌紋は,いずれもカウンターの外縁部から採取されたことも確認がされた。(丙8)そして,検察官から,その旨を報告する同年12月16日付け捜査報告書(以下「g報告書」という。)及び前記実況見分調書が証拠として請求され,これが採用されて取り調べられた(丙6,7,8)。 エ控訴審での無罪判決平成27年2月13日,大阪高等裁判所は,本件被告事件につき,原告を無罪とする判決を言い渡した。同月28日,同判決は,検察官からの上告なく,確定した。(甲3,弁論の全趣旨)同判決は,「Aの原審証言を補強するとされた本件各掌紋につき,本件統合捜査報告書には,本件店舗のカウンター上面にいずれも指先がカウンタ - 45 - ー内側を向くようにして採取された旨の記載があるが,これは本件電話聴取書が不正確なものであったこと等に起因する誤りであり,正しくは,本件各掌紋は,カウンター上面(天板)ではなく,外側縁部分に遺留されていたものであり,掌紋7番は指先がカウンター外側向き(西向き),掌紋8番は指先がカウンター内側右方向き(南東向き)に遺留されていたものであり,『原告がカウンターをたたいた。』旨のAの原審証言を補強するものとはいえない。原告は,本件に先立つ5月29日から30日にかけての夜間に本件店舗を訪れているところ,Aの原審証言によれば,閉店時にダスターという紙素材の布巾 たいた。』旨のAの原審証言を補強するものとはいえない。原告は,本件に先立つ5月29日から30日にかけての夜間に本件店舗を訪れているところ,Aの原審証言によれば,閉店時にダスターという紙素材の布巾でカウンターを大雑把に拭いている程度だというのであり,本件各掌紋がカウンター内部から遠い位置にある縁にあることも考慮すると,前回来店時のものが残っていた可能性も排斥し難く,本件各掌紋がAの原審証言を補強するとはいえない。」とした。また,同判決は,「①Aの原審証言は,わいせつ行為により触られた部位,タイツ等を脱がされた状況及び右下腿打撲傷等が生じた原因について捜査段階とは異なる証言をしているから,その核心部分には看過できない変遷がある。②第1審判決が動かし難いとした事実のうち,第1審が認定した犯罪事実の時刻頃に原告が本件店舗を訪れていたこと,Aが本件店舗を出てタクシーに乗ったことは間違いないといえるが,被害を受けたという後に,Aが靴を履いたり,本件店舗のドアの鍵をかけたり,本件店舗から150m離れた交差点まで移動してタクシーに乗ったりしたことからすれば,Aが本件店舗を「飛び出した」とか,「直後に」タクシーに乗ったというのは,間違いのない事実とまでは言い難い。③Aは,午前1時には閉店するつもりで準備しており,本件当日以外に閉店後にタクシーを利用するということがあったと述べているから,Aが閉店後の午前1時過ぎに本件店舗を出てタクシーに乗ったことは,特段異常なこととはいえず,Aの身に何らかの突発的な事態が生じたことは間違いがないとはいえない。④本件店舗のオー - 46 - ナーの証言も,Aがパンストないしタイツを脱がされたか否か不明なもので,ショーツについては証言もしていないもので,Aの原審証言を補強する力は強いものではない。⑤Aの負傷は ー - 46 - ナーの証言も,Aがパンストないしタイツを脱がされたか否か不明なもので,ショーツについては証言もしていないもので,Aの原審証言を補強する力は強いものではない。⑤Aの負傷は,日常生活等によっても生じ得る程度のものであり,Aの原審証言との整合性が特に高いとはいえない。⑥Aが原告と会ったのは,本件時で2回目であり,わいせつ被害に遭ったとの虚偽申告をするまでの動機があるとはいい難いが,1度会っただけで強い否定的感情を抱いた相手を2度と店に来ないようにする手段として虚偽申告をすることがおよそないとまではいえない。」とし,「認定の核となるべきAの原審証言の核心部分が信用できないことになるから,第1審判決は,論理則,経験則等に照らして不合理である。」というものであった。 (甲3) 2 争点⑴-e検事の公訴提起の過失⑴ 検察官の公訴提起が国賠法上違法となる場合の判断基準刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留,公訴の提起・追行,起訴後の勾留が違法となるということはない。 なぜならば,逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であり,また,公訴の提起は,検察官が裁判所に対して犯罪の成否,刑罰権の存否につき審判を求める意思表示にほかならないのであるから,起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである(最高裁判所昭和53年10月20日第二小法廷判決民集32巻7号1367頁(以下「昭和53年判決」という。)参照)。 そして,公訴の提起後 れる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるからである(最高裁判所昭和53年10月20日第二小法廷判決民集32巻7号1367頁(以下「昭和53年判決」という。)参照)。 そして,公訴の提起後その追行時に公判廷に初めて現れた証拠資料であって,通常の捜査を遂行しても公訴の提起前に収集することができなかったと - 47 - 認められる証拠資料をもって公訴提起の違法性の有無を判断する資料とすることは許されず,公訴の提起時において,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば,その公訴の提起は違法性を欠くものと解するのが相当である(最高裁判所平成元年6月29日第一小法廷判決民集43巻6号664頁(以下「平成元年判決」という。)参照)。 そして,ここでいう通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料には,被告人にとって有利な証拠資料も含まれる。これを検察官が現に所持していた証拠に限定すれば,不十分な捜査しか行わなかったために不十分な証拠しか収集し得ず,これが誤った公訴提起をもたらした場合も,公訴の提起が違法とされ得ないことになり不合理であるからである。 以上をまとめると,検察官による公訴の提起は,①公訴の提起の時点において,②検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,③合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如している場合に,あえて公訴の提起をしたときに限り,国賠法上違法となる。 ⑵ 本件被告事件の公訴提起の違法性ア本件被告事件の証拠構造本件被告事件においては,検察官が別紙1の事実で公訴を提起した時点において,被害者Aによる「原告から別紙1の事実の 上違法となる。 ⑵ 本件被告事件の公訴提起の違法性ア本件被告事件の証拠構造本件被告事件においては,検察官が別紙1の事実で公訴を提起した時点において,被害者Aによる「原告から別紙1の事実のとおり強制わいせつ致傷の被害を受けた。」旨の供述が存在し,その詳細な内容は,前記1⑵ウのとおり(本件検察官面前調書の内容)であったところ,本件被告事件では,原告のAに対するわいせつ行為を直接裏付ける物的証拠は存在していなかった。 したがって,本件被告事件の公訴提起の時点において,原告に有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如していたといえるかは,被害者であるAの本 - 48 - 件検察官面前調書における供述につき信用性が客観的に欠如していたといえるかによるというべきである。そして,被害者であるAの本件検察官面前調書における供述につき,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,信用性が客観的に欠如していたといえるときは,本件被疑事件の公訴提起は国賠法上違法になる。 イ Aの本件検察官面前調書における供述の信用性そこで,本件被告事件の公訴提起時点において,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,Aの本件検察官面前調書における供述について信用性が客観的に欠如していたといえるかを検討する。 ①Aは,別紙1の被害を受けた当日(以下,別紙1の犯行日時を「被害日」や「被害時刻」等という。)に,本件店舗のオーナーであった男性に被害を打ち明け,同日夜にその男性に連れられて警察官に被害申告をしているところ(1⑴ア,⑶ウ),被害の後,間もなく,身近な者に被害を相談して警察官に申告したことは,性犯罪の被害者として自然な行動であるといえる。②本件 夜にその男性に連れられて警察官に被害申告をしているところ(1⑴ア,⑶ウ),被害の後,間もなく,身近な者に被害を相談して警察官に申告したことは,性犯罪の被害者として自然な行動であるといえる。②本件店舗のオーナーであった男性は,司法警察員に対し,被害日の午後9時頃,Aから電話で,「今日店に来た男から襲われた。」旨を打ち明けられ,Aを説得して一緒に警察に行ったこと,警察に行く際,Aは引きつったように顔をこわばらせ,かなりおびえていたことを供述しており(1⑶ウ),この供述は,Aが被害を受け恐怖を感じている状態であったことを裏付けるものであり,Aの供述の信用性を高めるものと評価できる。 ③原告とAは,被害当日までに本件店舗の客と従業員として1回会っただけという関係であることは,原告も認める事実であったところ(1⑵ア~ウ,⑷イ),そのような関係でしかないAが,ありもしないわいせつ被害を受けたとの虚偽供述をして原告を陥れる動機・利益があるとは直ちには認 - 49 - められなかった。④原告は,被害時刻頃に本件店舗を訪れたことは認めるが,本件店舗には1,2歩しか入っていない旨述べていたところ(1⑷イ),前日の夜,Aがダスターでよく拭いてきれいにしたと供述していた本件店舗のカウンターから,原告の右手及び左手の各掌紋と合致する掌紋が検出され(1⑴オ,⑵イウ),原告の前記供述の信用性は,減殺されていた。⑤被害日の翌々日に医師が診察した際,Aには右下腿打撲傷,右大腿打撲傷の傷害が生じており(1⑶ア),これはAの本件検察官面前調書の供述中の原告から受けた暴行の態様と矛盾しないものであった。⑥Aの携帯電話には,被害時刻の直後頃の午前1時36分から午前2時3分までの間合計5回原告からの着信履歴があり(1⑶イ),これも本件検察官面前調書でAが述べた被害後 の態様と矛盾しないものであった。⑥Aの携帯電話には,被害時刻の直後頃の午前1時36分から午前2時3分までの間合計5回原告からの着信履歴があり(1⑶イ),これも本件検察官面前調書でAが述べた被害後の状況と整合するものであった。⑦被害時刻の直後にAを乗せた本件タクシーの運転手は,Aがタクシーに乗るなり「強姦された。」と言ってかなり慌てている様子であった旨供述し(1⑶エ),強制わいせつの被害を受けたとするAの供述に沿うものであった。 他方,⑧Aはわいせつ行為の被害内容について,当初は,仰向けに押し倒され下着を脱がされたとだけ供述していたが,被害日の9日後の女性の刑事を犯人に見立てた本件店舗での犯行再現時には,これらに加えて,キスされそうになったこと,乳房を揉まれたこと,陰部を触られたこと,頭部が床に当たりたんこぶができたことを供述し(1⑵アイ),供述が変遷していた。その理由について,Aは,本件検察官面前調書において,「はっきりしないところ,うろ覚えのことは,間違っていたらいけないと思って言えないこともあった。女性の刑事さんを相手に被害時の様子を再現してみたら,襲われたときの状況を鮮明に思い出すことができ,乳房を触られたこと,陰部を触られたことをはっきり思い出すことができた。」旨述べているところ(1⑵ウ),性犯罪の被害に遭ってショックを受けた被害者が,当初は被害状況について明確に記憶を喚起できず,被害現場での犯行の再現 - 50 - を契機として記憶が鮮明に喚起されるのは自然な経過といえるから,変遷に合理的な理由がないとはいえなかった。⑨本件タクシー運転手は,タクシーの発車を原告が妨害した事実を否定し,かつ,Aは,本件店舗付近に戻った後,原告と10分くらい話をしていた旨,Aの供述と整合しない事実を述べていた(1⑶エ)。しかし,A 本件タクシー運転手は,タクシーの発車を原告が妨害した事実を否定し,かつ,Aは,本件店舗付近に戻った後,原告と10分くらい話をしていた旨,Aの供述と整合しない事実を述べていた(1⑶エ)。しかし,Aが原告と路上で10分くらい話をしていたとの事実は,原告の供述とも整合しない事実であり(1⑷イ),本件タクシー運転手は,捜査に対する協力を拒み,その信用性の検討ができない状況であったことから(1⑶エ),本件タクシー運転手の供述は,Aの供述の信用性を直ちに失わせるものとはいえなかった。⑩Aは,当初,原告とは本件店舗の外で会ったことはない旨供述していたが,警察官による知人女性Cからの事情聴取後,原告と初めて会った時には,飲食店F及び居酒屋でも会っていた旨を供述し(1⑵アイ),供述内容に変遷が見られた。 しかし,Aは,本件店舗以外で会った時は,原告にストーカーされたという感覚であったため,そのように述べたと説明しており(1⑵イ),その説明は,Aが改めて詳細に供述した初対面時の原告の言動から理解可能といえるものであったし,Aが改めて供述した初対面時の状況は,知人Cの供述と合致し(1⑶オ),飲食店Fの主人の供述(1⑶カ)及び原告自身の供述(1⑷イ)とも矛盾はしない内容であったから,Aの供述の信用性を著しく低下させるとは評価できなかった。⑪被害の時刻(午前1時5分頃で間違いない,とまではいえず,午前1時頃から午前1時37分頃までの間であること),被害の際の原告の服装(丸エリの白っぽい色のTシャツ,カジュアルなベージュっぽいズボンと思うが,はっきりしたことは覚えていないこと)について(1⑵ウ),当初の供述(1⑵アイ)と異なる部分もあるが,大きく違うというわけではなく,時刻については原告が来た時に時計を見たわけではないと言い,服装についても顔見知りであるため ないこと)について(1⑵ウ),当初の供述(1⑵アイ)と異なる部分もあるが,大きく違うというわけではなく,時刻については原告が来た時に時計を見たわけではないと言い,服装についても顔見知りであるため注意していなかったとのAの説明は了解し得るものであり,Aの供述の信用性を - 51 - 失わせるとはいえない。⑫脱がされたショーツ及びタイツ若しくはその他の着衣に破れが見られなかったからといって(甲4,10,丙5p7・18,弁論の全趣旨),Aの供述する被害内容に照らし,それが不合理といえるわけではない。⑬被害当日の午前1時過ぎの壁たたき,怒声,もみあい,床への転倒,床でのもみあい,路上での羽交い絞め等について,近隣にこれを見聞きした者が現れなかったからといって(甲4,10,丙5,弁論の全趣旨),直ちにAの供述内容が不合理であるとはいえなかった。⑭Aの携帯電話の留守番電話の通話記録が取得できなかったからといって(丙5,弁論の全趣旨),1,2回しか面識のないカウンターバーの客が女性従業員に対し深夜・未明の時間帯に約30分間に5回もの頻度で電話をかけた事実の特異性が揺らぐことはなく,Aの供述の信用性が著しく毀損されることはなかった。 ウ小括前記イで検討したところによれば,本件被告事件の公訴提起の時点で,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,被害者であるAの本件検察官面前調書における供述について,その信用性が客観的に欠如していたとはいえない。 とすれば,公訴提起の時点において,有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如していたとはいえないから,e検事による本件被告事件の公訴の提起は国賠法上違法となるとはいえない。 ⑶ e検事が,公訴提起前に,本件各掌紋の指先の向き・方角の確認をしなか められる嫌疑が客観的に欠如していたとはいえないから,e検事による本件被告事件の公訴の提起は国賠法上違法となるとはいえない。 ⑶ e検事が,公訴提起前に,本件各掌紋の指先の向き・方角の確認をしなかったことが違法ではないことについての補足的判断ア原告指摘に係る本件各掌紋の指先の向き・方角の重要性原告は,Aの供述において,カウンター上面に原告の掌紋が付着する可能性があるのは,原告がカウンターの外側から内側に向かってカウンターを両手でたたいた場面以外にはないから,本件各掌紋については,付着場 - 52 - 所のみならず,その指先の向き・方角を特定しておくことが,有罪立証のために不可欠であり,本件各掌紋の指先の向き・方角が,「原告がカウンターをたたいた。」旨のAの供述と整合するかを確認するための捜査は,検察官に通常要求される捜査であったところ,これを怠り,前記Aの供述と整合しないことを看過して原告を起訴したことは違法である旨主張する。 以下,この主張について,特に補足して検討する。 イ Aの供述中には,カウンターをたたいた以外にも,原告の掌紋が付着し得る場面があることしかし,Aの供述によれば,原告は,Aがカウンターの外側に出て,原告に出ていくよう求めた際にも,「大声で怒鳴り,Aの両肩をつかんで,前後左右に揺さぶり,抵抗するAの体に抱きつき,髪の毛をつかんで引っ張り,キスしようとし,Aの肩の辺りを押して突き飛ばしてAを床に押し倒し,その後,Aに覆いかぶさった。」等の行動をとり,また,Aが原告の股間を蹴って,立ちあがった後にも,「Aが床にあったショーツとタイツを持ち,カウンター上のバッグと鍵を持って,本件店舗の出入口から出ようとしたところ,原告が追ってきてAの左腕をつかんだ。」等というのであるから(1⑵ウ),別紙2のとおり が床にあったショーツとタイツを持ち,カウンター上のバッグと鍵を持って,本件店舗の出入口から出ようとしたところ,原告が追ってきてAの左腕をつかんだ。」等というのであるから(1⑵ウ),別紙2のとおり本件店舗のカウンターの外側が幅約86cmの狭い空間であることを考慮すれば(1⑴ア),床に倒す前にAの抵抗に遭った原告がカウンターに手をついたり,Aを逃すまいと追いすがった際に原告がカウンターに手をつく等して,カウンターに原告の掌紋が付着する可能性があり,Aの本件検察官面前調書の供述中,カウンターに原告の掌紋が付着する可能性がある場面は,「原告がカウンターをたたいた。」という場面以外にもあったといえる。 そして,前記⑵イ④のとおり,原告は,被害時刻頃に本件店舗を訪れたことは認めていたが,本件店舗には1,2歩しか入っていない旨を述べていたのであり,本件店舗のカウンターを被害前日の夜にダスターでよく拭 - 53 - いてきれいにしたとの本件検察官面前調書におけるAの供述を前提とする限り,カウンターから原告の右手及び左手の掌紋が検出されたこと自体,原告の供述の信用性を著しく減殺する事実であったというべきである。 したがって,本件各掌紋の指先の向き・方角について確認した結果,本件各掌紋がカウンターの天板部ではなく外縁部にあり,その指先の向き・方角が西方向ないし南東方向に向いている事実が明らかになったとしても,カウンターに本件各掌紋が存在していたことそのものが,原告の供述の信用性を低下させ,かつ,Aの供述を補強することに,変わりなかったといえる。 ウ本件各掌紋の指先の向き・方角がAの供述の虚偽性を示すとはいえないことまた,指掌紋は,対象となる場所に採取用のアルミ粉末を刷きかけて指掌紋が浮かび上がった場合にのみ採取されるものであり(1⑴ ウ本件各掌紋の指先の向き・方角がAの供述の虚偽性を示すとはいえないことまた,指掌紋は,対象となる場所に採取用のアルミ粉末を刷きかけて指掌紋が浮かび上がった場合にのみ採取されるものであり(1⑴ウ),かつ,採取された指掌紋の12点の特徴点が一致して初めて対照可能との鑑定ができるところ(1⑴オ),同じ場所に複数回触った場合には,指掌紋が重なったり着衣等で指掌紋が拭われたりして,不鮮明となり,採取し得ない状況になったり,採取できたとしても12点の特徴点が一致しない状況になることもあるから(乙9p5),原告がカウンターをたたけば必ず対照可能な原告の指掌紋がカウンターから検出されるというわけではない。 他方で,原告が被害日の数日前に本件店舗を訪れたことがあること(1⑵,⑷イ),本件店舗のカウンターから10個の指掌紋が採取されていたことからすれば,(1⑴ウ),原告の前回来店時以降,被害日の前日までに,Aがカウンターをよく拭いてきれいにしたという前提が崩れた場合には,原告の前回来店時に付着した掌紋である可能性もないとはいえなかった。 したがって,本件各掌紋がカウンターの天板部ではなく外縁部にあり,その指先の向き・方角が西方向ないし南東方向に向いている事実が明らか - 54 - になったとしても,必ずしも「原告がカウンターをたたいた。」旨のAの供述が虚偽であることにはならない。 エカウンターをたたく行為の裏付けの有無は有罪・無罪を根本的に左右するとはいえないこと。原告を無罪とした控訴審判決の理由まして,カウンターをたたく行為は,本件被告事件の別紙1の公訴事実のうち,実行行為を構成するものではなく,また,実行行為に密接に関わる行為でもないのであるから,公訴提起の時点において,Aの本件検察官面前調書における供述の信用性について,前 事件の別紙1の公訴事実のうち,実行行為を構成するものではなく,また,実行行為に密接に関わる行為でもないのであるから,公訴提起の時点において,Aの本件検察官面前調書における供述の信用性について,前記⑵イ①ないし⑭のとおりの各証拠評価ができる本件被告事件において,Aの供述中,原告がカウンターをたたいた行為に裏付けがあるか否かによって,Aの供述の信用性が根本的に左右されるとはいえない。 このことは,原告を無罪とした控訴審判決の理由からも見て取れることである。すなわち,控訴審判決が原告を無罪としたのは,「本件統合捜査報告書の本件各掌紋の『カウンター上面』との付着場所が正確ではなく,かつ,本件各掌紋の指先の向き・方角が間違いであったから,『原告がカウンターをたたいた。』旨のAの原審証言を補強するものとはいえない。」という点にのみ,その理由があるわけではない。控訴審判決によれば,原告が無罪となった最大の理由は,「Aの原審証言が,わいせつ行為により触られた部位,タイツ等を脱がされた状況及び右下腿打撲傷等が生じた原因について捜査段階とは異なっており,その核心部分には看過できない変遷がある。」という点にある(1⑽エ)。また,本件各掌紋については,Aが,第1審公判廷の証言において,カウンターの清掃状況について,「閉店時にカウンターを拭くが,カウンターの外側の角の部分は手を伸ばさないと届かず,一番汚れが取りにくいところである。カウンターの外側からも拭くが,毎回丁寧に拭くわけではない。開店の前は汚れが目立っていれば拭いていた。原告の5月末の前回来店時も被害日も,閉店時には適当に拭い - 55 - た。端から端まで拭かずに,ふわっと,力も入るか入らないか分からない程度に,大雑把に拭いた。」旨証言したことによって(1⑼イ),カウンターの清掃・拭き ,閉店時には適当に拭い - 55 - た。端から端まで拭かずに,ふわっと,力も入るか入らないか分からない程度に,大雑把に拭いた。」旨証言したことによって(1⑼イ),カウンターの清掃・拭き取りが徹底していない事実が明らかになったため,控訴審判決は,「本件各掌紋は,原告の前回来店時(被害日の約4日前)のものが残っていた可能性も排斥できない。」とし,「本件各掌紋がAの原審証言を補強するとはいえない。」と判断したものである(1⑽エ)。 そして,Aが第1審公判廷において,わいせつ行為により触られた部位,タイツ等を脱がされた状況及び右下腿打撲傷等が生じた原因について捜査段階と異なる証言をすること及びカウンターの清掃・拭き取りが徹底していない事実について捜査段階と異なる証言をすること(1⑼イ)は,検察官にとって,公訴提起の時点では予測し難いことであるから,公訴の提起後その追行時に公判廷に初めて現れた証拠資料であって,通常の捜査を遂行しても公訴の提起前に収集することができなかった証拠資料であるといえるから,これらを公訴提起の違法性の判断資料とすることは,もとより,許されないことである。 オ小括前記イないしエのとおり,本件各掌紋の指先の向き・方角についての捜査は,公訴提起の段階において,e検事にとって,通常要求される捜査であるとはいえない。また,本件各掌紋の指先の向き・方角についての捜査をすることによって,被害者であるAの本件検察官面前調書における供述の信用性が客観的に欠如していたことが明らかになるとも評価できない。 したがって,e検事が,本件各掌紋の指先の向き・方角についての捜査を行うことなく,公訴提起をしたことについて,通常要求される捜査を行うことなく,有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如していたことを看過したとはいえず,原告の 本件各掌紋の指先の向き・方角についての捜査を行うことなく,公訴提起をしたことについて,通常要求される捜査を行うことなく,有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如していたことを看過したとはいえず,原告の主張は採用できない。 ⑷ 結論 - 56 - 以上より,e検事による公訴の提起は,国賠法上の違法があるとはいえない。 3 争点⑵-e検事の本件電話聴取書作成時の過失⑴ 捜査の違法性についての判断基準前記2⑴のとおり,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留,公訴の提起・追行,起訴後の勾留が違法となるということはなく,逮捕・勾留はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であり,公訴提起は,起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば適法とすべきである(昭和53年判決,平成元年判決参照)。また,司法警察員が行った留置についても,刑訴法所定の留置の必要性を判断する上において,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り,国賠法上違法となる(最高裁判所平成8年3月8日第二小法廷判決民集50巻3号408頁参照)。 つまり,無罪判決が確定したことによって,捜査,身柄拘束,公訴提起等が結果的には妥当ではなかったということになるとしても,刑事手続において,証拠及び嫌疑が捜査の進展・訴訟の進行により流動的に変化していくものであることに鑑みると,原因行為の違法と結果の違法とは区別して考えるべきである。したがって,検察官の捜査行為の違法性においても,①当該捜査行為(又は当該捜査行為の不作為)の時点において,②現に収集し であることに鑑みると,原因行為の違法と結果の違法とは区別して考えるべきである。したがって,検察官の捜査行為の違法性においても,①当該捜査行為(又は当該捜査行為の不作為)の時点において,②現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,③合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて当該捜査をした場合(又は,あえて当該捜査を行わなかった場合)に限り,職務上の義務に違反したものとして違法となると解するのが相当である。そして,この基準は,警察官の捜査行為にも当てはまるというべきであ - 57 - る(以下「捜査官の捜査一般についての基準」という。)。 ⑵ 事実と異なる本件電話聴取書が作成された原因ア e検事の本件電話聴取書作成時の過失を判断する前提として,本件電話聴取書に事実と異なる記載がされた原因について検討する。本件電話聴取書には,「本件各掌紋は,手の指先が店内のカウンターの内側(東側)に向いた状態で採取された。」旨の記載があるが(1⑹エ),掌紋7番は指先がカウンター外側向き(西向き),掌紋8番は指先がカウンター内側右方向き(南東向き)であったから(1⑽ウ),本件電話聴取書は明らかに事実と異なる内容であった。このような事実と異なる記載がされた原因について検討する。 イ本件電話聴取書は,平成25年7月30日のe検事とc警察官の電話での質問と回答に基づいて,e検事が作成したものである(1⑹エ)。 c警察官は,本件各掌紋のJPシートを本件店舗に持参すれば,採取のためJPシートを貼付した向き及び場所が分かり,採取場所・方角を再現できるものの(1⑴エ,⑽イウ),本件各掌紋の反転写真を見ても掌紋の指先の向きは直ちに判断できず,これを判断することができる者(基本的に JPシートを貼付した向き及び場所が分かり,採取場所・方角を再現できるものの(1⑴エ,⑽イウ),本件各掌紋の反転写真を見ても掌紋の指先の向きは直ちに判断できず,これを判断することができる者(基本的には,dやmやrのような鑑定官)の意見を聞かなければ,本件各掌紋の指先の方角は分からなかった(1⑴エ,⑽イウ)。また,c警察官は,e検事からの電話を受けた際,採取場所の方角を記載したJPシートの裏面の記載を確認できる状況にはなく(1⑸エ,⑹エ),本件各掌紋の指先の向き・方角を確認できる資料が手元にあったとは認められない。あらゆる意味において,c警察官は,本件各掌紋の指先の向き・方角を質問された場合,電話で直ちに回答できる状況ではなかった。 したがって,本件電話聴取書は,①e検事が,c警察官に対し,誤解を招く誤った質問をしたか,②e検事が,c警察官の回答を検察官立証に都合がよいように誤解したか,③e検事が,故意にc警察官の回答と異なる - 58 - 記載をしたか,④c警察官が,e検事の質問を誤解して回答をしたか,これらのうちの1つないし複合した原因によって作成されたものであると推察される。 ウ前記イのいずれであるかを検討するに,c警察官は,平成26年11月17日のq検事らからの事情聴取の際,e検事から電話を受けた時の会話について「e検事からの電話の際,指紋採取のことを聞かれていると思い,カウンターの外側から内側に向かって指掌紋の採取活動をしたことを伝えたような気がする。私自身は,指掌紋採取活動のみを行っていたので,掌紋の採取活動のことを聞かれていると思った。」旨回答し,その旨のg報告書が作成された(1⑽イ)。この事情聴取は,本件統合捜査報告書記載の本件各掌紋の指先の向き・方角について疑義が生じたために行われたものであり(1 とを聞かれていると思った。」旨回答し,その旨のg報告書が作成された(1⑽イ)。この事情聴取は,本件統合捜査報告書記載の本件各掌紋の指先の向き・方角について疑義が生じたために行われたものであり(1⑽アイ),聴取を行ったq検事らは,本件統合捜査報告書の原資料となった本件電話聴取書の作成時の電話の会話内容について特に注意して聴取を行い,g報告書には,c警察官が述べたことが漏れなく正確に記載されたと考えられる(証人gも,g報告書に記載した回答が,聴取当時のc警察官の回答のすべてである旨証言している。)。c警察官自身も,e検事からの電話の際,掌紋採取活動の体の向きを質問された旨証言している(乙6,証人c)。もっとも,c警察官は,e検事からの電話の際,最初に,本件各掌紋の指先の向き・方角を質問されたため「分からない。」と回答し,次に,本件各掌紋をカウンターの外側から採取したかを質問された旨証言する(乙6,証人c)。しかし,採取担当者がカウンターの外側から内側に向かって本件各掌紋を採取したことが,本件被告事件の立証において意味があるとはいえないから,e検事がc警察官にそのような質問をするとは考え難い。e検事がc警察官に電話したのは,f検事から本件各掌紋の指先の向き・方角について確認するよう依頼されたためであり(1⑹イ),本件各掌紋の指先の向き・方角について,c警察官が「分からない。」旨回答 - 59 - したのであれば,誰に聞けば分かるか,どのようにしたら分かるかを質問するのが自然であり,採取担当者が本件各掌紋を採取したときの体の向きといった無意味な質問をするとは到底考えられない。また,e検事が確認しようとしていたのは,本件各掌紋の指先の向き・方角という唯一の比較的単純な事項であるから,c警察官に対する質問が,本件各掌紋を採取した際の 意味な質問をするとは到底考えられない。また,e検事が確認しようとしていたのは,本件各掌紋の指先の向き・方角という唯一の比較的単純な事項であるから,c警察官に対する質問が,本件各掌紋を採取した際のc警察官の体の向きを聞いていると誤解を与えるような内容であったということも,考えにくいことである。 以上から,本件電話聴取書に事実と異なる記載がされたのは,c警察官が,e検事からの電話の際,本件各掌紋の指先の向き・方角を尋ねる質問をされたが,その趣旨を取り違え,本件各掌紋を採取した際の自らの体の向きを尋ねられたと誤解して「カウンターの外側から内側に向いた状態であった。」旨回答し,これをe検事が質問に対する回答として記載したためであると認めるのが相当である。 ⑶ e検事の本件電話聴取書作成における過失の検討ア掌紋の指先の向き・方角を正確に知るための方法c警察官は,JPシートの裏面を確認しなければ,採取場所でのJPシートの表面の向き・方角が分からず,また,JPシートの表面の向き・方角が分かっても,掌紋の隆線が複雑であることから,基本的には指先の向きは判断できなかった(1⑴エ)。他方,d鑑定官は,JPシートの表面又は反転写真から,掌紋の指先の向きを判断することはできるものの,現場に行っておらず,JPシートの裏面のメモを作成したわけでもないことから,指先の向き・方角を正確に答えることは困難であった(1⑴オ,⑽イ,丙7p5)。 したがって,本件各掌紋の指先の向き・方角を知るには,少なくとも,c警察官とd鑑定官の双方が揃って,JPシートの表面及び裏面を確認することが必要であり,それを採取場所である本件店舗で行うことが最も確 - 60 - 実であり(1⑽イウ),電話での確認は困難であったといえる。 イ e検事の確認の方法の違法性e を確認することが必要であり,それを採取場所である本件店舗で行うことが最も確 - 60 - 実であり(1⑽イウ),電話での確認は困難であったといえる。 イ e検事の確認の方法の違法性e検事は,f検事から本件各掌紋の指先の向き・方角について確認してほしい旨の依頼を受けたところ,電話で,d鑑定官及びc警察官それぞれに本件各掌紋の指先の向き・方角を質問し,これに対するc警察官の回答を別紙3の内容の本件電話聴取書に記載したのみで,c警察官及びd鑑定官の双方と面談する等して別紙3の内容の正確性を確認することはしなかった。 しかし,検察官は,本件各掌紋の採取の現場や鑑定の現場に臨場しておらず(1⑴ウオ),また,必ずしも指掌紋の採取や鑑定の知識に富んでいるともいえないため(丙7,8,弁論の全趣旨),掌紋の指先の向き・方角を確認するには,採取者であるc警察官と鑑定官であるd鑑定官の両方が揃ってJPシートの表面及び裏面を確認する必要があること,及び,採取現場に行かなければ確実とはいえないことを知らなかったとしてもやむを得ない。また,c警察官は,掌紋鑑定の専門部門である鑑識課に所属している者であり(乙6),本件各掌紋の採取者であったこと(1⑴ウ。b報告書にも採取者であることが記載されている。丙22),c警察官が回答に際して質問を誤解していると疑問を抱くべき事情もなかったことからすれば(証人e),e検事が電話で質問し,その回答をそのまま信用したとしても,やむを得ない状況であった。 したがって,e検事が,f検事から本件各掌紋の指先の向き・方角の確認を依頼された際,c警察官に対し,電話で質問し,その回答を信用し,面談等による詳細の確認を行うことなく,本件電話聴取書を作成したことについては,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであると 認を依頼された際,c警察官に対し,電話で質問し,その回答を信用し,面談等による詳細の確認を行うことなく,本件電話聴取書を作成したことについては,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるとはいえないから,職務上の義務に違反し違法であるとは評価できない。 ウ本件各掌紋の指先の向き・方角の証拠価値 - 61 - また,Aの供述にはカウンターをたたいた場面以外にも原告の掌紋がカウンターに付着する可能性がある場面があり,本件各掌紋は指先の向き・方角如何にかかわらず,それがカウンターに存在することをもって,被害日に本件店舗内に1,2歩しか立ち入っていないとの原告の供述を弾劾し,Aの供述の信用性を高めるものであることは,前記2⑶イのとおりである。 本件各掌紋の指先の向き・方角が,Aの供述の虚偽性を示すとはいえないことは前記2⑶ウのとおりであり,本件各掌紋が有罪立証の証拠としての価値を喪失したのは,被害前日にカウンターがきれいに拭かれていたとの前提事実が崩れたことによるのであり,本件統合捜査報告書の本件各掌紋の指先の向き・方角が間違っていたことによるのではないことは,前記2⑶エのとおりである。 したがって,本件各掌紋の指先の向き・方角の証拠価値という観点からも,e検事が電話のみで確認を行ったことが,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるとは評価できない。 ⑷ 結論以上より,e検事による本件電話聴取書作成は,国賠法上違法であるとはいえない。 4 争点⑶-f検事の公訴追行の過失⑴ 公訴追行の違法性の判断基準検察官の公訴追行が国賠法上違法となるかの判断基準は,前記2⑴で公訴提起について判示したのと同様であり,①公訴追行の時点において,②検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂 判断基準検察官の公訴追行が国賠法上違法となるかの判断基準は,前記2⑴で公訴提起について判示したのと同様であり,①公訴追行の時点において,②検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,③合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如している場合に,あえて公訴の追行を行ったときに限り,国賠法上違法となるというべきである(昭和53年判決,平成元年判決参照)。 ⑵ 2月面談時の木目が合わない旨の会話の存否について - 62 - ア原告は,2月面談時,f検事が,d鑑定官から「木目を合わせようとすると手のひらは縦と横になるし,同じ方向は向いていないと思う。」旨の説明を受け,本件各掌紋の向きが同じではないことを認識していた旨主張するので,まず,この事実の存否について検討する。 イこの点,c警察官及びd鑑定官は,2月面談において,本件各掌紋の指先の向き・方角が話題となり,f検事に対し,「本件各掌紋の指先の向き・方角は現場に行かなければ分からない。」旨を伝え,d鑑定官が「木目を合わせようとすると手のひらは縦と横になるし,同じ方向は向いていないと思う。」旨の説明をした旨証言する(乙7,証人cp16・43,証人dp13・14・51)。 ウ確かに,2月面談は,弁護人らから求められた事項のうち,2月5日付けp報告書以外の事項,すなわち,「本件各掌紋がどの位置にどのような状態で遺留していたのかが具体的に分かる写真又はそれに代わる資料」の開示の準備のため実施されたものであったから(1⑺イないしエ),本件各掌紋の指先の向き・方角が改めて検討されても不自然ではない。 しかし,f検事は,2月面談時までに,本件電話聴取書を証拠請求し,かつ,本件各掌紋の指先の向き・方角が「原告がカウ ⑺イないしエ),本件各掌紋の指先の向き・方角が改めて検討されても不自然ではない。 しかし,f検事は,2月面談時までに,本件電話聴取書を証拠請求し,かつ,本件各掌紋の指先の向き・方角が「原告がカウンターをたたいた。」旨のAの供述と整合する旨の主張をしていたから(1⑺イ),本件各掌紋の指先の向き・方角については,本件電話聴取書により確たる証拠を得たと理解していたと認められ,本件各掌紋の指先の向き・方角を改めて質問する必要があるとは考えていなかったと認められる。また,弁護人らは,本件各掌紋の付着状況について資料を開示するよう求めていたが,主に主張していたのは本件各掌紋が付着したのは被害日ではなく前回来店時であるという点であり,指先の向き・方角に誤りがあるとの明示的な主張はしていなかった(1⑺イ。そのような指摘がされたのは,n弁護人作成の控訴趣意書が最初である。甲4,10)。さらに,2月面談の時点においては, - 63 - c警察官及びd鑑定官は,本件電話聴取書が作成された事実も,それが証拠請求された事実も,検察官が証明予定事実として,本件各掌紋の指先の向き・方角が「原告がカウンターをたたいた。」旨のAの供述と整合する旨主張している事実も知らなかったから(1⑺エ),掌紋の指先の向き・方角が問題になる事案がまれであるというのに(1⑹オ),c警察官らの方から本件各掌紋の指先の向き・方角について話題にするとは考えにくい。そして,仮に,2月面談において,本件各掌紋の指先が同じ方角を向いていたとはいえない旨の話題が出たのであれば,本件電話聴取書の内容が正しいと信じていたf検事としては,本件電話聴取書の発信者であるc警察官に対し,本件電話聴取書の記載内容を知らせて問いただすはずであるが,2月面談でその話は出ていなかったというのであり(証人d 容が正しいと信じていたf検事としては,本件電話聴取書の発信者であるc警察官に対し,本件電話聴取書の記載内容を知らせて問いただすはずであるが,2月面談でその話は出ていなかったというのであり(証人dp14,15,証人cp15),不自然である。また,c警察官は,「d鑑定官が『木目が合わない。』と発言していた。」と述べる一方で(証人cp16,23),「何が合わないという意味かは分かっていなかった。」(証人cp42,43)等と曖昧な証言をしている。f検事は,本件各掌紋の反転写真に写った部位の名称及び指先の向きが分からなくなった際,d鑑定官のみを再度呼び出しているが(1⑺エ),このことは,f検事が,c警察官には掌紋の指先の向きの読影ができないと認識していたことを直ちに意味しない。むしろ,同時期に作成された2月5日付けp報告書には,作成者(同書には鑑定官とは記載されていない。丙24)による掌紋1番の指先の向きについての読影結果が記載されていたから(1⑺ウ),掌紋の指先の向きの読影は鑑定官でなければ難しいとの知識は,当時のf検事にとっては知り難く,鑑識課に所属しているc警察官が掌紋の指先の向きの読影ができないとの認識を持つことは困難であったといえる。また,f検事が,d鑑定官に作成を依頼した本件各掌紋の反転写真への朱書きメモは,別紙7,8の各写真部分のとおりであるところ(1⑺エ),掌紋とともに写っている筋がカウン - 64 - ターの縁や木目であり直線的に繋がっているとの教示を受けてこれらを検討すれば,掌紋7番と掌紋8番の指先の向き・方角が同じとはいえない疑いがあると理解できるが,そのような教示を受けずに見たときは,掌紋7番と掌紋8番の指先の向き・方角が同じではないとの判断はもちろん,その疑いを持つことすら容易ではないと認められる(本件被 いえない疑いがあると理解できるが,そのような教示を受けずに見たときは,掌紋7番と掌紋8番の指先の向き・方角が同じではないとの判断はもちろん,その疑いを持つことすら容易ではないと認められる(本件被告事件でも,n弁護人が控訴趣意書でその指摘を行うまで,担当検察官ら及び担当裁判官らのいずれも気付くことができなかった。1⑼⑽ア)。 エしたがって,2月面談についての,前記イの各証言等は採用できず,f検事が,d鑑定官から「木目を合わせようとすると手のひらは縦と横になるし,同じ方向は向いていないと思う。」旨の説明を受け,本件各掌紋の向きが同じではないことを認識していたとの事実は,認められない。 ⑶ f検事の公訴追行の違法性についてア前記⑵の認定を基に検討するに,本件被告事件の公判を担当したf検事は,①本件被告事件の公判前整理手続において,本件各掌紋の指先の向き・方角が「原告がカウンターを両手でたたいた。」とのAの供述と符合し,Aの供述の信用性を増強する旨の主張を行い(1⑺イ),②e検事に対し,本件各掌紋の指先の向き・方角について補充するよう依頼し,「本件各掌紋の指先はカウンターの内側に向いた状態で採取された。」旨の本件電話聴取書が作成され(1⑹イエ),③弁護人らが,公判前整理手続において,本件各掌紋は犯行があったとされる日とは別の機会に付着したものであると主張し,本件各掌紋を含む採取された指掌紋の採取場所及び採取状況が分かる資料の提出を求めていたことを認識し(1⑺イ),④2月面談の際,c警察官から「本件各掌紋は,採取した場所を特定しやすいようにカウンターの端を入れて掌紋を採取転写した。転写した採取シートは向きを間違えないように南北を軸に裏返し方位を記した。」旨の説明を受けたこと(1⑺エ)は,原告主張のとおりである。 - うにカウンターの端を入れて掌紋を採取転写した。転写した採取シートは向きを間違えないように南北を軸に裏返し方位を記した。」旨の説明を受けたこと(1⑺エ)は,原告主張のとおりである。 - 65 - イこれらの事実を前提に判断するに,確かに,本件各掌紋の指先の向き・方角は,弁護人らからの要求に含まれる事項であったところ,f検事は,本件各掌紋の指先の向きがカウンターの外側から内側へ向いているといえる理由や根拠までは,理解していなかった(証人f)。 しかし,本件電話聴取書は別紙3の内容であって,鑑識課所属の警察官であり,本件各掌紋を採取した者自らが,本件各掌紋の指先の向き・方角について明解に回答したものであるから,特に疑うべき点はなかった。鑑識課に所属している者であっても,鑑定官でなければ掌紋の指先の向きの読影は難しいという事実を認識することが困難であったこと,別紙7,8(本件各掌紋の反転写真に指先方向を朱書したもの)を見ただけでは,掌紋7番と掌紋8番の指先の向き・方角が同じではないという疑いを持つことすら容易ではなかったことは,前記⑵ウのとおりであった。そうすると,2月面談で,本件各掌紋の採取の際にカウンターの端を入れたと言われたことや,別紙7,8の各写真部分を入手し,本件各掌紋の反転写真での指先の向きが明らかになったことを踏まえても,なお本件各掌紋の指先の向き・方角が同じではないことについて認識し得る状態にあったとはいえない。 したがって,2月面談の際に,f検事がc警察官及びd鑑定官に対し,本件電話聴取書記載の回答を行った根拠及び本件各掌紋の指先の向き・方角及び付着場所を含む付着状況について確認することは,通常要求される捜査であったとはいえない。 ウなお,仮に,本件各掌紋の指先の向き・方角について確認した結果,本件 び本件各掌紋の指先の向き・方角及び付着場所を含む付着状況について確認することは,通常要求される捜査であったとはいえない。 ウなお,仮に,本件各掌紋の指先の向き・方角について確認した結果,本件各掌紋がカウンターの天板部ではなく外縁部にあり,その指先の向き・方角が西方向ないし南東方向に向いている事実が明らかになったとしても,Aが公判廷で証言する前の段階である2月面談の後の時点においては,前記2⑵イ①ないし⑭の証拠関係の下,Aの本件検察官面前調書の供述の - 66 - 信用性について,合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如していたとはいえないから,公訴取消が必要であるとはいえない。 ⑷ 結論f検事が,2月面談の際に,c警察官及びd鑑定官に対し,本件電話聴取書記載の回答を行った根拠及び本件各掌紋の指先の向き・方角及び付着場所を確認せず,公訴追行を行ったことは,合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑が客観的に欠如していることが明らかである場合に公訴追行を行ったとはいえず,国賠法上違法であるとはいえない。 5 争点⑷-g検事の過失⑴ 公訴追行の違法性の判断基準前記4⑴と同様の基準による。 ⑵ 5月面談時の木目線についての説明の有無ア原告は,5月面談時,d鑑定官がh事務官に対し,「カウンターの内側に2つの掌紋の指先を向けると,木目線が縦方向・横方向になるので,一般的には同じ方向とはいえない。」旨説明したことを前提として,この説明内容をg検事が知っていた旨主張するので,まず,5月面談の際,前記説明がされたかを検討する。 イこの点,d鑑定官及びm主任鑑定官は,5月面談の際に前記説明をした旨証言・陳述する(乙7,15,証人dp18・19・33)。 しかし,mらの前記証言・陳述は,前記説明があ されたかを検討する。 イこの点,d鑑定官及びm主任鑑定官は,5月面談の際に前記説明をした旨証言・陳述する(乙7,15,証人dp18・19・33)。 しかし,mらの前記証言・陳述は,前記説明があったことを否定する証人hの証言と対比して採用できない。その理由は,次のとおりである。 まず,h事務官は,5月面談後,その結果に基づき直ちに報告書(h報告書)を作成したところ,同報告書には本件各掌紋に関する記載はなく(丙28),一方のmらは5月面談の内容をメモも記録もしていなかったという上(証人dp33),5月面談時,h報告書で明確に言及されている2月5日付けp報告書について,示されたことはない旨証言しており(同p6 - 67 - 6),mらの5月面談時の記憶の正確性には疑問がある。また,採取の現場に行っていない鑑定官らが(1⑴オ),掌紋の指先の向き・方角が問題となる事例は少ないというにもかかわらず(1⑹オ),本件各掌紋についてのみ指先の向き・方角について積極的に意見を述べたというのは不自然さを否めない。 ウ以上より,5月面談の際に,d鑑定官がh事務官に対し,「カウンターの内側に2つの掌紋の指先を向けると,木目線が縦方向・横方向になるので,一般的には同じ方向とはいえない。」旨説明した事実は認められず,これをh事務官がg検事に伝えた事実も認められない。 ⑶ g検事の公訴追行の違法性について前記⑵の認定を前提とすると,本件電話聴取書は,別紙3のとおりの内容であり,掌紋鑑定の専門部門である鑑識課に所属し,本件各掌紋を採取した警察官自らが,発信者として回答したものであって,特に疑うべき点がなかったこと,検察官にとって,鑑識課に所属している者であっても鑑定官でなければ掌紋の指先の向きの読影は難しいという事実を認識することは困難であ ,発信者として回答したものであって,特に疑うべき点がなかったこと,検察官にとって,鑑識課に所属している者であっても鑑定官でなければ掌紋の指先の向きの読影は難しいという事実を認識することは困難であり(3⑶イ,4⑵ウ),g検事がこれを知らなかったとしてもやむを得ないこと,別紙7,8(本件各掌紋の反転写真に指先方向を朱書したもの)を見ただけでは,掌紋7番と掌紋8番の指先の向き・方角が同じではないという疑いを持つことすら容易ではなかったこと(4⑵ウ)からすれば,g検事が,掌紋7番と掌紋8番の指先の向き・方角が同じではなく,掌紋7番及び掌紋8番の指先の向き・方角が「カウンター内側(東方向)」ではないとの認識を持つことは困難であったと認められる。 したがって,g検事が,掌紋7番及び掌紋8番の指先の向き・方角は「カウンター内側(東方向)」である旨の誤った記載のある本件統合捜査報告書の作成を指示し,これを証拠として裁判所に提出し,冒頭陳述及び論告において,本件各掌紋がAの供述と符合することを強調する主張をしたこと(1⑻ - 68 - ウ,⑼ア)は,g検事が,そのような公訴追行を行った時点においては,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案しても,これが誤りであると気付くことは困難であったといえるから,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであったとはいえず,違法とはいえない。 ⑷ 結論以上から,g検事の公訴追行は国賠法上違法であるとはいえない。 6 争点⑸-c警察官の過失⑴ 警察官の捜査行為の違法性の判断基準警察官の捜査行為が国賠法上違法となるかは,前記3⑴の捜査官の捜査一般についての基準による。以下,争点⑼まで同じである。 ⑵ c警察官によるJPシートの裏面の記載等本 査行為の違法性の判断基準警察官の捜査行為が国賠法上違法となるかは,前記3⑴の捜査官の捜査一般についての基準による。以下,争点⑼まで同じである。 ⑵ c警察官によるJPシートの裏面の記載等本件店舗のカウンターには,木目のない平らで水平な天板部と客席側の縁の木目のある曲面の外縁部があり,断面図は別紙5のとおりであり,天板部と外縁部は明確に区別できる状態であったところ,本件各掌紋はいずれもカウンターの外縁部から採取されたものであった(1⑴ウ)。そして,鑑識資料の採取場所を特定するための事情聴取に対し,Aは,鑑識課の警察官jに対し「原告がカウンターをたたいた。」旨供述していた(1⑴イ)。 このような状況下で,c警察官は,本件各掌紋を採取した際,JPシートの裏面に,採取場所として,天板部と外縁部を区別することなく,「カウンター上面」と記載した(1⑴エ)。 ⑶ c警察官の前記⑵の行為の違法性の検討犯罪の捜査・立証において,犯罪の現場に遺留された指掌紋等の客観証拠が重要であることは,いうまでもないことである。したがって,現場における鑑識活動においては,犯罪の現場に遺留された指掌紋等の客観証拠を余すところなく収集することが最も重要であり,それには,捜査の端緒から可及 - 69 - 的に迅速に鑑識活動が遂行されることが必要である。そして,指掌紋の採取の際に採取場所についての詳細な記録作成を要求することは,鑑識活動の迅速性を阻害するから,採取の際には詳細な記録は要求されず,指掌紋が遺留されていた状態を再現できる程度の記録を作成することで足りるというべきである。 犯罪の現場に赴いた鑑識隊が行う被害者・関係者からの聴取は,鑑定資料を採取する場所を絞り込み,特定するためのものであり,指掌紋の遺留状態が被害者の供述と一致しているか否か, るというべきである。 犯罪の現場に赴いた鑑識隊が行う被害者・関係者からの聴取は,鑑定資料を採取する場所を絞り込み,特定するためのものであり,指掌紋の遺留状態が被害者の供述と一致しているか否か,被疑者の供述の信用性を弾劾するものかといった証拠価値の吟味は,後の捜査で実施すれば足りる。まして,指掌紋を採取する際には,採取された指掌紋が対照可能なものか,誰の指掌紋か,どの部位が採取されたのかは判明していないのであるから,指掌紋の採取の際,採取した指掌紋のすべてについて,現場での被害者・関係者の供述との整合性や証明力の資料となるような記録を作成するよう要求することは,採取者に無意味な作業を強いる結果となる。 c警察官は,本件各掌紋の採取場所について,カウンターの端を基線に距離を測定した結果と,表面から見たときの北の方角を記載し,「カウンター上面」と記載したものであり(1⑴エ),指掌紋が遺留されていた状態を再現できる程度の記録を作成したものであるから,必要な記載を行ったものと評価できる。 また,鑑識活動時のc警察官においては,カウンターの天板部をカウンターの外側から内側に向かって両手の掌でたたいている犯行再現写真(丙12写真④)等は作成されていなかったから,カウンターの外縁部と天板部を区別すべき必要性が明らかであったとはいえず,両者を区別することなく「カウンター上面」と呼称したからといって表現が間違いであるとはいえない。 よって,c警察官が,JPシートの裏面に指掌紋の採取場所を外縁部と天板部を区別することなく「カウンター上面」と記載したことは,採取の時点 - 70 - において,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかである,とはいえ は,採取の時点 - 70 - において,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかである,とはいえず,国賠法上違法であるとは認められない。 7 争点⑹-b警察官の過失⑴ b報告書の内容等b警察官は,平成25年7月4日付けのb報告書作成時,本件店舗のカウンターの外縁部が曲面状であり,天板部とは明確に区別できる形状であることを認識していたが(1⑸エ),本件店舗に行って確認することもなく,c警察官に事情を聴くこともなく,c警察官作成のJPシートの裏面のメモに基づいて(1⑸エ),b報告書に本件各掌紋の採取場所として外縁部と天板部を区別することなく「カウンター上面」と記載した。 ⑵ 前記⑴のb報告書作成の違法性の検討b警察官は,本件被疑事件の捜査指揮をとり,実質的な捜査主任であったa警察官から,報告書の作成目的は,本件各掌紋の採取場所を明らかにすることにより,本件店舗内で原告からわいせつ行為の被害を受けた旨のAの供述と本件店舗内に1,2歩しか入っていない旨の原告の供述のどちらの信用性が高いかを示すことにある旨を伝えられ,作成に当たり,本件店舗の現場に行くよう指示はされなかった(1⑸ウ)。 そして,b報告書作成時,原告は,本件店舗内に1,2歩しか入っていない旨供述していたところ(1⑷イ),当時は,Aは,被害日の前日の晩に開店準備のためカウンターを雑巾できれいに拭いた旨供述していたのであるから(1⑵イ),本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたこと自体が,原告の供述の信用性を低下させ,本件店舗内で被害に遭った旨のAの供述の信用性を高めるものであった。Aの供述中には,カウンターをたたいた場面以外にも,原告の掌紋が付着し得る場面 検出されたこと自体が,原告の供述の信用性を低下させ,本件店舗内で被害に遭った旨のAの供述の信用性を高めるものであった。Aの供述中には,カウンターをたたいた場面以外にも,原告の掌紋が付着し得る場面があることは,前記2⑶イのとおりであり,外縁部か天板部かの区別は重要とはいえなかった。さらに,本 - 71 - 件各掌紋がカウンターから検出されたことが「原告がカウンターをたたいた。」とのAの供述と整合する旨の検察官の主張が初めて行われたのは,平成25年12月であり,b報告書作成当時はそのような主張はされていなかった(1⑺イ)。 そのため,カウンターの天板部か外縁部かを区別することなく,本件各掌紋がカウンターから検出された事実を報告すれば,a警察官から指示された報告書作成の目的は達成され,かつ,その目的は,当時の証拠関係から合理的なものであった。 したがって,b警察官が,b報告書に,本件各掌紋の採取場所として外縁部と天板部を区別することなく「カウンター上面」と記載した行為は,その作成の時点において,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるとはいえず,国賠法上違法であるとは認められない。 8 争点⑺-a警察官の公訴提起時点の過失⑴ a警察官が公訴提起時までに本件各掌紋の付着場所及び指先の向き・方角を確認していないことa警察官は,本件被疑事件の捜査指揮を執り,実質的な捜査主任の立場にあった(1⑸イ)。a警察官は,公訴提起時点において,Aが「原告がカウンターを両手でたたいた。」旨供述していることを認識し,その状況を再現した写真(丙12の写真④)も見ていた(1⑸イ)。a警察官は,e検事から,本件各掌紋の採取場所を明らかにする報告書の作成 告がカウンターを両手でたたいた。」旨供述していることを認識し,その状況を再現した写真(丙12の写真④)も見ていた(1⑸イ)。a警察官は,e検事から,本件各掌紋の採取場所を明らかにする報告書の作成を指示された時にも,公訴提起時点においても,本件各掌紋の付着場所がカウンターのどの部分か(天板部か外縁部か),指先の向き・方角はどちらかについて確認しなかったし,確認するよう指示もしなかった(1⑸ウ)。 ⑵ a警察官の前記⑴の不作為の違法性公訴提起の時点で,原告は,被害時刻頃には本件店舗を訪れたことは認め - 72 - ていたが,本件店舗内には1,2歩しか入っていない旨供述していたところ(1⑷イ),当時のAの供述どおり,Aが被害日の前日の晩に開店準備のためカウンターをきれいに拭いたとの事実を前提とする限り(1⑵イウ),カウンターから原告の右手及び左手の掌紋が検出されたこと自体が,原告の供述の信用性を低下させ,本件店舗内で被害に遭った旨のAの供述の信用性を高めるものであった。また,Aの供述中には,カウンターをたたいた場面以外にも原告の掌紋が付着し得る場面があったことは,前記2⑶イのとおりであったから,Aの供述の信用性を検討するにあたって,本件各掌紋の付着場所及び指先の向き・方角がカウンターをたたいた場面と整合するか否かを確認することが不可欠であったとはいえない。また,検察官が,本件各掌紋がカウンターから検出されたことが「原告がカウンターをたたいた。」とのAの供述と整合する旨主張したのは,平成25年12月であり,公訴提起時においてはその主張は行われていなかった(1⑺イ)。 したがって,公訴提起時点においては,本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたこと自体が,原告の供述の信用性を弾劾する重要な意味を有するのであって, 主張は行われていなかった(1⑺イ)。 したがって,公訴提起時点においては,本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたこと自体が,原告の供述の信用性を弾劾する重要な意味を有するのであって,本件各掌紋の付着場所がカウンターの天板部か外縁部か,本件各掌紋の指先の向き・方角がカウンターの内側を向いているか否かは重要ではなかったといえる。 よって,公訴提起時点において,a警察官が,本件各掌紋の付着場所がカウンターのどの部分か(天板部か外縁部か),指先の向き・方角はどちらか確認しなかったことは,当時,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて当該捜査を行わなかったとはいえないから,違法であるとは認められない。 ⑶ 結論a警察官の前記⑴の不作為は,国賠法上違法であるとは認められない。 - 73 - 9 争点⑻-a警察官のe検事からの照会時の過失⑴ a警察官がe検事からの照会時に本件各掌紋の付着場所及び指先の向き・方角を確認していないことa警察官は,平成25年7月24日頃に,e検事から電話で本件各掌紋の指先の向き・方角について質問を受け,これを鑑識担当のlに引き継いだが,a警察官は,本件各掌紋の付着場所がカウンターのどの部分か(天板部か外縁部か),指先の向き・方角はどちらかについて確認しなかったし,確認するよう指示もしなかった(1⑹ウ)。 ⑵ 前記⑴のa警察官の不作為の違法性の検討a警察官は,e検事から本件各掌紋の指先の向き・方角について質問された時,問い合わせの理由を説明されておらず(1⑹ウ),e検事は,d鑑定官にもc警察官にも問い合わせた理由の説明はしておらず,a警察官も両名から理由を聞いた 件各掌紋の指先の向き・方角について質問された時,問い合わせの理由を説明されておらず(1⑹ウ),e検事は,d鑑定官にもc警察官にも問い合わせた理由の説明はしておらず,a警察官も両名から理由を聞いたことはなかった(1⑹オ)。 また,当時のAの供述は,「被害日の前日の夜にカウンターをダスターで拭いてきれいにした。」との内容であったところ,これを含めた当時の証拠関係に照らし,本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたこと自体が原告の供述の信用性を弾劾するものであり,付着場所が外縁部か天板部か,本件各掌紋の指先の向き・方角がカウンターの内側を向いているかは重要ではなかったことは,前記2⑶イウエで説示したとおりである。また,検察官が,本件各掌紋が,「原告がカウンターをたたいた。」とのAの供述と整合する旨主張したのは,平成25年12月であり,e検事からの照会時にはその主張は行われていなかった(1⑺イ)。 よって,e検事からの照会時におけるa警察官の前記⑴の不作為は,その時点において,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて当該捜査を行わなかった場合に該当 - 74 - せず,国賠法上違法であるとは認められない。 争点⑼-a警察官のf検事からc警察官及びd鑑定官が事情聴取を受けた時点の過失⑴ a警察官がf検事の事情聴取時に本件各掌紋の付着場所及び指先の向き・方角を確認していないことc警察官及びd鑑定官は,平成26年2月12日,f検事から本件で採取された指掌紋についての事情聴取を受けた(2月面談。1⑺エ)。この時点で,a警察官は,本件各掌紋の付着場所がカウンターのどの部分か(天板部か外縁部か),指先の 26年2月12日,f検事から本件で採取された指掌紋についての事情聴取を受けた(2月面談。1⑺エ)。この時点で,a警察官は,本件各掌紋の付着場所がカウンターのどの部分か(天板部か外縁部か),指先の向き・方角はどちらかについて確認しなかったし,確認するよう指示もしなかった(証人a)。 ⑵ 前記⑴のa警察官の不作為の違法性の検討a警察官は,検察庁から,本件被告事件の公判前整理手続の内容について連絡を受けておらず,知り得る立場にはなかったため(1⑸イ),検察官が,「本件各掌紋の指先の向き・方角が『原告がカウンターをたたいた。』旨のAの供述を裏付けている。」旨の主張予定事実を提示し,別紙3の内容の本件電話聴取書を証拠請求していることは知り得なかったと認められる。2月面談が行われたことをa警察官が認識していたとも認められない。 また,2月面談当時,得られていたAの供述は,「被害日の前日の夜にカウンターをダスターで拭いてきれいにした。」という内容であったのであり,これを含めた当時の証拠関係に照らし,本件各掌紋が本件店舗内のカウンターから検出されたということ自体が原告の供述の信用性を弾劾するものであり,付着場所が外縁部か天板部か,本件各掌紋の指先の向き・方角がカウンターの内側を向いているかは重要ではなかったことは,前記2⑶イウエで説示したとおりである。 したがって,前記⑴のa警察官の不作為は,その時点において,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総 - 75 - 合勘案し合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて当該捜査を行わなかった場合に該当せず,国賠法上違法であるとは認められない。 結論 以上のとおり,原告の請求は,争点⑽について判断するまでもなく, ることが明らかであるにもかかわらず,あえて当該捜査を行わなかった場合に該当せず,国賠法上違法であるとは認められない。 結論 以上のとおり,原告の請求は,争点⑽について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとする。よって,主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第4民事部 裁判長裁判官伊藤由紀子 裁判官大野祐輔 裁判官伊藤祐貴

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