令和6(行コ)33 生存権を守るための行政処分取消請求控訴事件

裁判年月日・裁判所
令和7年9月26日 名古屋高等裁判所 棄却 津地方裁判所 平成26(行ウ)9
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判決文本文6,488 文字)

令和6年(行コ)第33号生存権を守るための行政処分取消請求控訴事件令和7年9月26日名古屋高等裁判所民事第2部判決(原審・津地方裁判所平成26年(行ウ)第9号(原審甲事件)、平成27年(行ウ)第21号(原審乙事件)) 主文 1 控訴人らの控訴をいずれも棄却する。 2 本件訴訟のうち、被控訴人2(原審原告⑥)の訴えは令和5年4月29日同被控訴人の死亡により、被控訴人9(原審原告⑮)の訴えは令和 5年8月31日同被控訴人の死亡により、被控訴人14(原審原告㉔)の訴えは令和7年5月9日同被控訴人の死亡により、被控訴人17(原審原告㉗)の訴えは、令和5年9月1日同被控訴人の死亡により、それぞれ終了した。 3 控訴費用は、控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消す。 2 上記取消しに係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。 第2 事案の概要(略称は、被控訴人らの表記は別紙控訴審当事者目録記載のとお りとし、その余は原判決の例による。) 1 事案の概要⑴ 本件は、三重県内において生活保護を受けていた被控訴人らが、各処分行政庁(各市の社会福祉事務所長)から、保護基準を改定する本件改定に基づき生活扶助を減額する本件各決定を受けたことから、本件改定は憲法25条、 生活保護法8条に違反する違憲、違法なものであり、これに基づく本件各決定も違法であるなどとして、各控訴人らに対し、それぞれ本件各決定の取消 しを求める行政訴訟である。 ⑵ 原審は、被控訴人らの請求(被控訴人4及び被控訴人12の甲事件請求を除く。)をいずれも認容した(被控訴人4及び12の原審甲事件に係る訴えは、出訴期間の経過を理由にいずれも却下し、原審共同原告 ⑵ 原審は、被控訴人らの請求(被控訴人4及び被控訴人12の甲事件請求を除く。)をいずれも認容した(被控訴人4及び12の原審甲事件に係る訴えは、出訴期間の経過を理由にいずれも却下し、原審共同原告3名の訴えはその死亡により終了を宣言した。)。 ⑶ 控訴人らは、原判決中、控訴人ら敗訴部分を取り消し、被控訴人らの請求をいずれも棄却するよう求めて控訴した。 2 前提事実は原判決「事実及び理由」第2の3に、争点は同第2の4⑵、⑶に、争点に対する当事者の主張の要旨は原判決別紙7の2ないし4に、各記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断当裁判所も、被控訴人ら(すでに死亡した被控訴人2、9、14及び17を除く。)の請求はいずれも理由があるものと判断する。その理由は次のとおりである。 1 判断枠組み(争点2-1) 生活保護法(法)3条によれば、同法により保障される最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならないところ、法8条2項によれば、保護基準は、要保護者(同法による保護を必要とする者をいう。)の年齢別、性別、世帯構成別、所在地域別その他保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満 たすに十分なものであって、かつ、これを超えないものでなければならない。これらの規定にいう最低限度の生活は、抽象的かつ相対的な概念であって、その具体的な内容は、その時々における経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体 化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、 しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づい あり、同条1項の委任を受けた厚生労働大臣がこれを保護基準において具体 化するに当たっては、国の財政事情を含めた多方面にわたる複雑多様な、 しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。 そうすると、厚生労働大臣は、生活扶助基準を改定するに当たり、それにより基準生活費を減額されることとなる被保護者の期待的利益についての配慮の要否等を含め、上記のような専門技術的かつ政策的な見地からの 裁量権を有しているものというべきであり、本件改定は、その判断に上記見地からの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用がある場合に、法3条、8条2項に違反して違法となるものと解される。そして、生活扶助基準の改定の要否の判断の前提となる最低限度の生活の需要に係る評価や被保護者の期待的利益についての配慮は、上記のような専門技術的な考察に基づいた 政策的判断であるところ、これまでも生活扶助基準の改定に際しては、専門家により構成される合議制の機関等により、各種の統計や資料等に基づく専門技術的な検討がされてきたところである。これらの経緯等に鑑みると、厚生労働大臣の上記の裁量判断の適否に係る裁判所の審理においては、主として本件改定に至る判断の過程及び手続に過誤、欠落があるか否か等 の観点から、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性の有無等について審査されるべきものと解される(最高裁令和5年(行ヒ)第397号、同第398号令和7年6月27日第三小法廷判決、最高裁令和6年(行ヒ)第170号令和7年6月27日第三小法廷判決)。 2 デフレ調整の合理性(争点2-3) ⑴ 生活扶助基準改定の必要性について控訴人らは、厚生労働大臣がデフレ調整をすることとした理由について、平成20年以降の経済 日第三小法廷判決)。 2 デフレ調整の合理性(争点2-3) ⑴ 生活扶助基準改定の必要性について控訴人らは、厚生労働大臣がデフレ調整をすることとした理由について、平成20年以降の経済情勢により生じた生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間の不均衡を是正することとしたものである旨説明するところ、平成19年報告書において、生活扶助基準額が一般低所得世 帯における生活扶助相当支出額より高い状態にある旨の指摘があったほ か、平成20年頃から平成23年頃にかけて、リーマンショックに端を発する世界的な金融危機が我が国の実体経済に大きな影響を及ぼし、物価が下落していただけでなく、賃金、家計消費がいずれも下落していたというのである。そのような中で、平成20年度から平成24年度までの生活扶助基準について水準均衡方式による改定が行われなかったことからす ると、厚生労働大臣が、本件改定当時、生活扶助基準の水準と一般国民の生活水準との間に不均衡が生じていると判断したことにつき、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性に欠けるところがあるとはいい難い。 ⑵ 生活扶助基準の改定に当たり、物価変動率のみを直接の指標とするこ との合理性控訴人らは、現時点において、厚生労働大臣が物価変動率のみを直接の指標として基準生活費を一律に減ずることとした理由について、平成15年中間取りまとめ(乙14)において消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を踏まえ、 消費そのものではなく、物価変動率を指標として用いた旨説明しているところ、生活扶助基準の改定方式につき、生活保護法その他の法令には何らの定めもなく、同大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認めら のものではなく、物価変動率を指標として用いた旨説明しているところ、生活扶助基準の改定方式につき、生活保護法その他の法令には何らの定めもなく、同大臣に専門技術的かつ政策的な見地からの裁量権が認められることからすれば、生活扶助基準の改定の際にどのような指標を用いるかについても、同大臣の裁量判断に委ねられているものという ことができる。 もっとも、法8条2項は、保護基準は、保護の種類に応じて必要な事情を考慮した最低限度の生活の需要を満たすものとすべき旨を規定しているところ、ここにいう「最低限度の生活の需要を満たす」とは、生活扶助については、最低限度の消費水準を保障することを意味するものとして 理解されてきたものである。昭和58年意見具申を踏まえて昭和59年 度以降採用されてきた水準均衡方式も、当時の生活扶助基準が、一般国民の消費実態との均衡上、最低限度の消費水準を保障するものとしてほぼ妥当なものとなったとの評価を前提として、一般国民の消費動向を踏まえると同時に、前年度までの一般国民の消費実態との調整を図る方式により生活扶助基準を改定していくことによって、一般国民の消費実態と の関係において妥当な生活扶助の水準を維持しようとするものである。 これに対し、物価は、これが変動すれば消費者の消費行動に一定の影響が及ぶとは考えられるものの、飽くまで消費と関連付けられる諸要素の一つにすぎず、物価変動が直ちに同程度の消費水準の変動をもたらすものとはいえない。この点は、昭和58年意見具申においても、賃金や物 価は、そのままでは消費水準を示すものではないので、参考資料にとどめるべきものとされているところである。平成15年中間取りまとめでは、生活扶助基準の改定方式の在り方に関し、改定の指標についても検討が必要であるとされ 消費水準を示すものではないので、参考資料にとどめるべきものとされているところである。平成15年中間取りまとめでは、生活扶助基準の改定方式の在り方に関し、改定の指標についても検討が必要であるとされ、例えば、消費者物価指数の伸びを改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされているが、これも、物価変動率を考え 得る指標の一つとして例示し、その検討の必要性に言及したにすぎないものと解される。平成25年報告書にも、平成25年検証の結果を踏まえて生活扶助基準の見直しを検討する際に、他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合があり得ることを前提とする記載があるところ、ここにいう経済指標に物価変動率が含まれるとしても、それは総合 的に勘案する指標の一つに位置付けられているにすぎないし、平成25年報告書も、これを勘案する場合にはその根拠を明確に示すべきことを求めている。現に、本件改定前において、物価変動率のみを直接の指標として生活扶助基準の改定がされたことはなかったものである。 以上に述べたところによれば、物価変動率は、生活扶助基準の改定の 際の指標の一つとして勘案することが直ちに許容されないものとはいえ ないとしても、それだけでは消費実態を把握するためのものとして限界のある指標であるといわざるを得ない。そうすると、上記⑴の不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として基準生活費の改定率を定めることが、統計等の客観的な数値等との合理的関連性や専門的知見との整合性を有するものというためには、上記限界を踏まえてもなお物 価変動率のみを直接の指標とすることが合理的であることにつき、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性、整合性の観点を含め、専門的知見に基づいた十 てもなお物 価変動率のみを直接の指標とすることが合理的であることにつき、物価と最低限度の消費水準との関係や、従来の水準均衡方式による改定との連続性、整合性の観点を含め、専門的知見に基づいた十分な説明がされる必要があるというべきである。 ⑶ あてはめ しかるに、控訴人らは、平成15年中間取りまとめにおいて、消費者物価指数の伸びも改定の指標の一つとして用いることも考えられるとされていたこと等を指摘するが、その説明は物価変動率のみを直接の指標として用いても専門的知見と整合しないものではないことなどをいうものにすぎず、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標と して用いることが合理的であることについて、専門的知見に基づいた十分な説明がされているということはできない。平成15年中間取りまとめは、消費者物価指数の伸びを指標とすることについての検討の必要性に言及したものにすぎないし、平成25年報告書にも、厚生労働省において他に合理的説明が可能な経済指標を総合的に勘案する場合もあり得る ことを前提とする記載があるにすぎない。そして、物価変動率を指標とすることが、一般論としては専門的知見と整合しないものではないからといって、それまで水準均衡方式によって改定されてきた生活扶助基準を、物価変動率のみを直接の指標として改定することが直ちに合理性を有するものということにはならないところ、上記不均衡を是正するために物 価変動率のみを直接の指標として用いることについて、基準部会等によ る審議検討が経られていないなど、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない。 そうすると、デフレ調整における改定率の設定については、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いたこ など、その合理性を基礎付けるに足りる専門的知見があるとは認められない。 そうすると、デフレ調整における改定率の設定については、上記不均衡を是正するために物価変動率のみを直接の指標として用いたことに、専門的知見との整合性を欠くところがあり、この点において、デフレ調整 に係る厚生労働大臣の判断の過程及び手続には過誤、欠落があったものというべきである。 なお、平成29年報告書において、本件改定後の夫婦子1人世帯における生活扶助基準額が一般低所得世帯の生活扶助相当支出額とおおむね均衡することが確認されたと評価されているが、デフレ調整において物価 変動率のみを直接の指標として用いた厚生労働大臣の判断には、従来の水準均衡方式における改定との連続性等の点において専門的知見との整合性を欠くところがあったというべきことは上記のとおりであって、デフレ調整が基準生活費を一律に4.78%も減ずるものであり、生活扶助を受給していた者の生活に大きな影響を及ぼすものであることも考慮す ると、本件改定後に行われた平成29年検証の結果によって、デフレ調整に係る同大臣の判断の過程及び手続に過誤、欠落があったとの上記評価が左右されることはないものというべきである。 ⑷ 小括以上によれば、本件改定は、物価変動率のみを直接の指標としてデフレ 調整をすることとした点において、厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があり、法3条、8条2項に違反して違法というべきであって、これに反する控訴人らの主張はいずれも採用できない。 3 そうすると、本件改定に基づき被控訴人らに対してされた本件各決定も違法であり、その取消しを求める被控訴人らの請求を認容した原審の判断 は相当である。 4 なお、一件記録によれば、被控訴人2(原審 件改定に基づき被控訴人らに対してされた本件各決定も違法であり、その取消しを求める被控訴人らの請求を認容した原審の判断 は相当である。 4 なお、一件記録によれば、被控訴人2(原審原告⑥)は令和5年4月29日に、被控訴人9(原審原告⑮)は令和5年8月31日に、被控訴人14(原審原告㉔)は令和7年5月9日に、被控訴人17(原審原告㉗)は、令和5年9月1日にそれぞれ死亡していることが明らかであるところ、本件訴訟のうち上記各被控訴人の請求に関する部分は、その死亡と同時に終了したものと 解すべきである。 第4 結論よって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、本件訴訟のうち被控訴人2、9、14及び17の請求に関する部分は、それぞれ、その死亡により終了したことを宣言することとして、主文のとおり判決する。 名古屋高等裁判所民事第2部 裁判長裁判官朝日貴浩 裁判官亀村恵子 裁判官伏見英

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