平成4(あ)321 受託収賄

裁判年月日・裁判所
平成7年7月17日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄差戻 東京高等裁判所
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判決文本文9,693 文字)

主文 原判決を破棄する。 本件を東京高等裁判所に差し戻す。 理由 検察官の上告趣意は、判例違反をいう点を含め、実質は事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。 しかしながら、所論にかんがみ職権によって調査すると、原判決は、重大な事実誤認の疑いが顕著であって、刑訴法四一一条三号により破棄を免れない。その理由は以下のとおりである。 一本件公訴事実の要旨は、被告人は、衆議院議員で同院商工委員会(以下「商工委員会」という。)の委員であったものであるが、昭和五七年八月五日ころ(以下、昭和五七年については、年の記載を省略する。)、東京都千代田区永田町所在の衆議院第二議員会館a号室の被告人の議員事務室(以下「被告人事務室」という。)及び同町所在のbホテル(当時)一階の飲食店「c」において、A(以下「A」、という。)の理事長B(以下「B」という。)及び専務理事C(以下「C」という。)から、八月六日に開かれる商工委員会において、被告人が一般質疑をするに当たり、過剰仮より機共同廃棄事業(以下「本件共廃事業」という。)の実施計画の策定等を所掌する通商産業大臣及び通商産業省(以下「通産省」という。)関係部局の幹部に対し、Aが望んでいる昭和五七年度の本件共廃事業を早期に実施するとともに、仮より機の買上げ価格を高額に設定するなど、Aのため有利な取り計らいを求める質問をされたい旨の請託を受け、その報酬として供与されるものであることを知りながら、 1 八月五日ころ、飲食店「c」において、B及びCの両名から、現金一〇〇万円を、- 1 - 2 八月一〇日ごろ、被告人事務室において、右両名から、現金一〇〇万円を、それぞれ収受し、もって、自己の職務に関して収賄した、というものである。 二1 両名から、現金一〇〇万円を、- 1 - 2 八月一〇日ごろ、被告人事務室において、右両名から、現金一〇〇万円を、それぞれ収受し、もって、自己の職務に関して収賄した、というものである。 二1 第一審判決は、本件公訴事実にそうCの証言、Bの検察官に対する供述調書は、二回にわたる現金授受の部分も含め、全体として極めて詳細、具体的で、内容も合理的で自然であり、他の関係証拠ともよく符合しているなど、その信用性は高いとし、これに反する被告人の供述及び二回目の現金授受があったとされる八月一〇日の行動に関する被告人の供述にそうD(以下「D」という。)、E(以下「E」という。)、F(以下「F」という。)の各証言は、関係証拠等に照らし、信用することはできないとして、公訴事実と同旨の事実を認定し、被告人を有罪とした。 2 これに対して、被告人から控訴の申立てがあり、原判決は、第一審判決は事実を誤認したものであるとしてこれを破棄し、被告人に対し無罪を言い渡した。 その理由は、第一審判決が依拠するC証言及びB調書は、同人らが検察官に迎合して供述した可能性を否定できないから、一般的に高度の信用性を認めることができない上、八月五日の現金授受(以下「第一回目の現金授受」という。)の点に関しては、「c」が賄賂を供与するには適当な場所とは思われないなど種々の疑問があり、また、八月一〇日の現金授受(以下「第二回目の現金授受」という。)の点に関しても、ゼンセン新聞昭和六一年五月八日付け号外、被告人の供述、D、E、Fの各証言に照らし、いずれも信用できず、本件各現金授受の事実を認定することはできない、というのである。 三しかしながら、原判決の右各証拠に対する評価は、以下に述べるとおり、著しく合理性を欠いており、是認することができない。 1(一)C証言の内容は、次のと 定することはできない、というのである。 三しかしながら、原判決の右各証拠に対する評価は、以下に述べるとおり、著しく合理性を欠いており、是認することができない。 1(一)C証言の内容は、次のとおりである。① Aは、G事業団から高度化資金の貸付けを受けて、前回並みの買上げ価格による昭和五七年中の本件共廃事業の- 2 -実施を希望していたところ、その実施の前提となる通産省関係部局の協議が難航し、C、Bは、七月ころ、希望どおりに事業が実施できるか危ぐしていた。Cらは、以前から、H衆議院議員(以下「H議員」という。)及びその秘書I(以下「I」という。)に対し、本件共廃事業の実施について相談し、事態の打開を図るため通産省関係部局に対する働き掛け等を依頼していたところ、Cは、八月初めころ、Iから、八月六日の商工委員会で被告人が一般質疑を行うので本件共廃事業の実施についても質問してもらったらどうかとの連絡を受け、Bと相談の上、被告人に質問を依頼するとともに、事前に謝礼を渡すこととし、その金額はIに相談して決めることにした。そこで、Cは、八月四日、Iに被告人を紹介してもらい、被告人から同委員会での質問で本件共廃事業を取り上げてもよいとの承諾を得たので、Iに謝礼額を相談したところ、一〇〇万円が適当であるとの示唆を受け、Bにその旨報告し、両名の間で、被告人に事前に謝礼として同額の現金を渡すことを決めた。② Cは、八月五日、被告人事務室を訪ね、被告人に対し、本件共廃事業の買上げ価格は前回並みとし、実施時期は昭和五七年中ということで、関係する県の九月補正予算に間に合うように早く買上げ価格等を決めてほしいというのがAの希望であり、通産省生活産業局長J(以下「J局長」という。)からその方向で善処する旨の前向きの答弁を引き出すように質問してほしいと依頼し、さ に合うように早く買上げ価格等を決めてほしいというのがAの希望であり、通産省生活産業局長J(以下「J局長」という。)からその方向で善処する旨の前向きの答弁を引き出すように質問してほしいと依頼し、さらに、同日夜、bホテルの「c」で被告人と会食し、途中からBも参加し、同人からも同様の依頼をした。③ 食事を終えた午後九時三〇分ころ、Cは、あらかじめ用意していた現金一〇〇万円の入った封筒をBに渡し、同人から、質問をすることの謝礼の趣旨で被告人に手渡した。 この現金は、当時保管していたAの裏金八一六万円から支出した。④ 八月六日の商工委員会での一般質疑において、被告人は、依頼の趣旨にそった的確な質問をし、J局長から、前回の買上げ価格も頭に入れながら検討し・関係する県の九月補正予算も念頭において作業を進める旨のAに有利な答弁を引き出してくれた。Cは、本- 3 -件共廃事業の実施時期や買上げ価格という懸案もこれでめどがついたと思い、Bにその旨を報告すると同人も喜び、相談の上、被告人の尽力に感謝して更に一〇〇万円の謝礼を渡すこととした。⑤ Cは、Bとともに、八月一〇日正午前ころ、被告人事務室を訪れ・奥の議員執務室に入り、二人で八月六日の質問の礼を述べ、Cから、現金一〇〇万円の入った封筒を謝礼の趣旨で被告人に渡した。この現金も、Aの前記裏金から支出した。 (二)Bの検察官に対する供述調書の内容も右C証言と同趣旨である。なお、Bは、第一審公判廷において、現金授受に関しては記憶がないなどとあいまいな証言をするに至ったが、少なくとも、被告人に対して本件共廃事業の実施について質問を依頼するに至った経緯、J局長からAに有利な答弁を引き出してくれた被告人に感謝し、その礼を述べるために被告人事務室を訪ねたことなどについては、大筋において右調書とほぼ同趣旨の証言をし について質問を依頼するに至った経緯、J局長からAに有利な答弁を引き出してくれた被告人に感謝し、その礼を述べるために被告人事務室を訪ねたことなどについては、大筋において右調書とほぼ同趣旨の証言をしている。 2 右C証言及びB調書の内容は、極めて詳細かつ具体的であって、格別不自然、不合理であるとは認められず、多くの部分が他の証拠により直接裏付けられている。 すなわち、① 本件共廃事業の実施について通産省関係部局の協議が難航し、B、Cの希望どおりに右事業が実施されるかどうか危ぐされる状況にあったことは、通産省関係者の各証言により、② CがBと連絡を取った上、Iから被告人の紹介を受け、被告人が質問依頼に対して好意的に対応してくれたことから、事前に被告人に渡す謝礼の額をIに相談し、一〇〇万円が適当であるとの示唆を受けたことは、Iの検察官に対する供述調書等により、③ B、Cが前記のとおり請託をしたことは、A主催のパーティでの被告人のあいさつを録音したカセットテープ等により、④ 八月六日の商工委員会での一般質疑において、被告人がBらの依頼の趣旨にそった質問をし、J局長から前記内容の答弁を引き出したことは、質疑用原稿、商工委員会議録、通産省関係者の各証言等により、それぞれ裏付けられている。そして、- 4 -現金授受に関する供述部分については、これを直接裏付ける証拠はないものの、Cらが供述する裏金が当時存在していたことは、Kの証言等により裏付けられている。 3 原判決は、右C証言及びB調書について、全体としても、また、その中核となる現金授受の点に関しても、信用性に疑問があるとするのであるが、その理由として挙示するところは、いずれも首肯し難い。 (一) 原判決は、Cが詐欺等の事件で身柄拘束中に本件贈賄について取調べを受けたため、詐欺等の事件で軽い処分 用性に疑問があるとするのであるが、その理由として挙示するところは、いずれも首肯し難い。 (一) 原判決は、Cが詐欺等の事件で身柄拘束中に本件贈賄について取調べを受けたため、詐欺等の事件で軽い処分、あわよくば執行猶予の裁判を受けたいと考えて検察官に迎合した可能性を否定できず、また、詐欺罪等で執行猶予の判決を受けた直後から本件の証人尋問が始まったのであるから、公判廷においても、検察官に迎合した可能性を否定できず、Bも、Cの場合と同様に取調べ検察官に迎合したのではないかとの疑いをぬぐいされないとして、C証言及びB調書に一般的に高度の信用性を認めるのは疑問であるとする。 しかし、C及びBはいずれも、そのようなことはない旨証言しているばかりでなく、右両名に対する捜査段階における取調べの経緯、Cの証人尋問の時期等に照らしても、そのような事情はうかがえず、他にこれを裏付ける証拠もないから、原判決の右判断は肯認することができない。 (二)第一回目の現金授受について(1) 原判決は、Cは、八月四日の被告人との打合せについて、Iから勧められてH議員の議員執務室を使った旨証言しているが、議員用の個室を、秘書が議員の承諾を得ることなく、しかも、野党の議員に貸すようなことはあり得ないことのように思われるとする。 しかし、関係証拠によれば、Iは、H議員の了解の下に、Cに対し、被告人が商工委員会で一般質疑を行うので本件共廃事業の実施について質問を依頼したらどうかと連絡し、これに応じて来訪したCを被告人事務室に案内して被告人に紹介した- 5 -ことが認められ、これらの経緯などからすれば、来客のため被告人事務室を打合せに使うことが不都合であると聞いたIが、H議員不在の同議員の執務室をCと被告人との打合せに使うように勧めたとしても、何ら不自然なことではないとい らの経緯などからすれば、来客のため被告人事務室を打合せに使うことが不都合であると聞いたIが、H議員不在の同議員の執務室をCと被告人との打合せに使うように勧めたとしても、何ら不自然なことではないというべきである。 (2)原判決は、「c」は、他の客や従業員が出入りするほか、周囲がガラス張りになっているため、外部から内部の様子を見ることができ、現金一〇〇万円の賄賂を供与するには適当な場所とは思われないとし、しかも、C証言によれば、人目に付きやすい窓際の席を予約したというのであって、いかにも不合理であるとする。 しかし、関係証拠によって認められる「c」の構造、位置関係からすれば、予約した席は、窓際とはいえ、外部からの人目が気になるような場所ではないことがうかがわれ、また、C証言等によれば、現金授受当時、Cらの周囲はもちろん、店内にはほとんど客がおらず、現金一〇〇万円は事務用の白無地封筒に入れられ、その授受も短時間に行われたというのであり、Cらが「c」を現金授受の場所としたことが不自然、不合理であると断ずることはできない。 (3) 原判決は、B、Cは、被告人に賄賂を供与して質問を依頼しなければならないほどの重要な問題とは考えていなかったのではないかとの疑問があり、両名は、本件共廃事業について、かねてからH議員にJ局長らへの働き掛けを依頼していたし、Bは、「c」での会食に遅れたばかりか、翌日の商工委員会の傍聴もせずに帰っており、被告人の質問に多くを期待していなかったように思われるとする。 しかし、C証言、B調書等によると、B及びCは、前記のような背景事情の下で、H議員及びその秘書のIに対し、それぞれ本件共廃事業の件を相談し、事態の打開を図るため、J局長らに働き掛けることのほか、同議員又は他の議員により本件共廃事業を商工委員会で取り上げてもらう 情の下で、H議員及びその秘書のIに対し、それぞれ本件共廃事業の件を相談し、事態の打開を図るため、J局長らに働き掛けることのほか、同議員又は他の議員により本件共廃事業を商工委員会で取り上げてもらうことをも依頼していたというのであるから、B、Cが、商工委員会における被告人の質問を重要とは考えていなかったとか、こ- 6 -れに多くを期待していなかったとかいうことはできない。Bが遅参した点についても、同人は、他に所用があり遅参せざるを得なかったが、是非とも被告人に直接会って質問を依頼したいと考え、事前にCを通じて遅参することを被告人に説明した上、わざわざ大阪から飛行機で上京したというのであり、被告人の質問を傍聴しなかったのも他にやむを得ない仕事があったためであって、A関係者に自ら電話して傍聴人の動員をしていることが認められ、Bが被告人の質問を重視していなかったということはできない。 (4) 原判決は、Iの検察官に対する供述調書によれば、Cから被告人に対するお礼の相談を受けたIは、「終わってからでいいんじゃないですか。」と答えたというのであるから、Iの助言を無視して、被告人の質問の効果が不明の時点で賄賂を供与したというのは合理的でないとする。 しかし、B、CがAにとって有利な質問を依頼する以上、事前に現金を渡した方がよいと考えたとしても、何ら不自然、不合理なことではない。また、I調書によれば、同人は、Cに対し、当初はともかく、最終的には事前に渡すのであれば一〇〇万円が適当であるとの示唆をしたことが認められ、本件賄賂の供与の時期がIの助言と矛盾するものとも解されない。 (5) その他、原判決は、第一回目の現金授受に関するC証言及びB調書の信用性を否定する理由として、現金入りの封筒を被告人に手渡す前のBのしぐさが不自然であることを挙げている ものとも解されない。 (5) その他、原判決は、第一回目の現金授受に関するC証言及びB調書の信用性を否定する理由として、現金入りの封筒を被告人に手渡す前のBのしぐさが不自然であることを挙げているが、右しぐさが格別不自然であるとは認められない。 (三) 第二回目の現金授受について(1) 右現金授受の点に関して、被告人は、公判廷において、B、Cが八月一〇日正午前ころに被告人事務室を訪ねてきたことはあったが、被告人が秘書室まで出て行き、その入口ドア付近のところで国会質問の礼などのあいさつを受けただけで帰ってもらっており、現金は受け取っていないと供述し、D、Eは、右供述と同- 7 -趣旨を、また、Fは、そのころ奥の議員執務室にいたが、同室に入ってきた客はいなかった旨を証言している。 原判決は、被告人らの右各供述について、後日の口裏合わせによるものとは認められず、いずれも信用するに足りるものであり、これに反するC証言及びB調書は信用できないとし、その理由として、次の各点、すなわち、① ゼンセン新聞昭和六一年五月八日付け号外には、L会長の談話として、Fが当時議員執務室にいたことや、前日に秘書のM(以下「M」という。)が死亡し、被告人事務室は弔問客等でごった返していた状況であったため、B、Cには入口ドア付近で立ち話をしただけで帰ってもらったことなどの記載があり、その情報源は被告人であると推測され、被告人は当時から右のように述べていたことがうかがわれ、後日の打合せで口裏を合わせて虚偽の供述をしたものでないことを示していること、② Mの姉N(以下「N」という。)は、八月一〇日昼ころにDがM方に来たと証言するが、その証言は、八月九日の出来事と紛らわしい供述をしていること等に照らし信用できず、B、Cが訪ねてきた時にDが秘書室にいたとのDらの証言は信 という。)は、八月一〇日昼ころにDがM方に来たと証言するが、その証言は、八月九日の出来事と紛らわしい供述をしていること等に照らし信用できず、B、Cが訪ねてきた時にDが秘書室にいたとのDらの証言は信用できること、③ 福井新聞の記者O(以下「O」という。)は、被告人事務室で被告人にFを紹介してもらったことがあると証言しているが、その日が八月一〇日である可能性が最も強いことを挙げている。 しかし、右ゼンセン新聞の記載からすれば、被告人が昭和六一年五月一日に起訴された直後ころから公判廷供述と同趣旨の弁明をしていたということはいえても、そのことから直ちに右供述が虚偽でないことを示しているとはいえず、その供述内容が真実か否かは別個に検討されるべき事柄である。そこで、被告人、D、E、Fの前記各供述の信用性について検討するに、関係証拠によれば、捜査段階においては、被告人は、八月一〇日正午前ころ、B、Cが被告人事務室に来たと供述しながら、議員執務室にFがいたことやB、Cには入口ドア付近で立ち話をしただけで帰- 8 -ってもらったことについては何ら供述しておらず、Dは、八月一〇日の行動について、M秘書の通夜の手伝いをするため午前一〇時ころに議員会館を出ており、当時不在であった旨供述し、Eも、八月一〇日には被告人事務室で電話番をしていたと思うが、どんな来客があったかは覚えていないなどと供述していたことが認められるところ、被告人、D、Eはいずれも、前記のように供述を変更するに至った理由について合理的な説明をしていない。そして、被告人らはいずれも、公判廷において、Bらが訪ねてきた当時、手前の秘書室には秘書のDとEが、奥の議員執務室には被告人と妻Fがいた旨供述するのみであって、他に来客があってごった返していたなどとは供述しておらず、この点は、前記ゼンセン新聞 Bらが訪ねてきた当時、手前の秘書室には秘書のDとEが、奥の議員執務室には被告人と妻Fがいた旨供述するのみであって、他に来客があってごった返していたなどとは供述しておらず、この点は、前記ゼンセン新聞の内容と異なっており、当時被告人事務室が来客でごった返していたことをうかがわせる証拠も全くない。 そうすると、被告人が、被告人事務室を訪ねてきたBらに対し、廊下に面した入口ドア付近で立ったままあいさつを受けただけで、そのまま帰ってもらったというのは、BらがAの理事長及び専務理事であり、被告人が同人らから数日前に夕食の接待を受けていたことや同人らがわざわざ国会質問の礼を述べに来たものであることにもかんがみると、誠に不自然であるとの感を否めない。さらに、公判廷では現金の授受を否定するに至ったBにおいてすら、議員執務室に入ったことを明確に証言しているのである。また、関係証拠によれば、被告人、D、E、Fは、捜査が終了したころから、八月一〇日の出来事について話し合うなどしていたことが認められ、これらの諸点を総合考慮すると、被告人らが口裏を合わせた可能性を否定できず、公判廷において真に記憶しているところを述べているのか疑わしいといわざるを得ない。 そして、N証言についてみるに、同人は、八月九日と一〇日の出来事を明確に区別した上、両日ともに根本に会っていると具体的に証言しており、その他、同証言に不自然、不合理というべき点はない。O証言についても、その証言内容に照らす- 9 -と、同人が八月一〇日に被告人事務室を訪ねたことがあったとしても、被告人にFを紹介してもらったのは同日とは別の機会であったとみることができる。 右のとおり、第二回目の現金授受の点に関する被告人の供述及びこれにそうD、E、Fの各証言が信用できるとした原判決の証拠の評価には、多くの疑問があ ったのは同日とは別の機会であったとみることができる。 右のとおり、第二回目の現金授受の点に関する被告人の供述及びこれにそうD、E、Fの各証言が信用できるとした原判決の証拠の評価には、多くの疑問があって、到底首肯することができない。原判決は、右各供述が信用できるとの前提の下に、B、Cが被告人事務室を訪ねた際、議員執務室にFはおらず、同室で被告人に対して封筒に入った現金一〇〇万円を供与したとするC証言及びB調書はその信用性に根本的な疑問があるとするのであるが、右判断は、その前提に疑いを差し挟まざるを得ない。 (2) 原判決は、B、Cが被告人の商工委員会での質問について被告人に対して感謝の気持ちを持ったかどうかも疑問であるとし、その理由として、Bらは、かねてからH議員にJ局長らへの働き掛けを依頼し、J局長が用意していた答弁よりも進んだ答弁をしたのは、H議員が「検討ばかりでは駄目だ。」と大声で発言したためであること等を挙げている。 しかし、関係証拠によれば、右答弁を引き出すのにH議員の発言等が一定の役割を果たしたことは否定できないとしても、J局長が本件共廃事業の問題につき今後の作業の方向を決定付けるAに有利な答弁をするに至ったのは、Bらの依頼の趣旨にそった被告人の質問があったからであって、被告人の質問が大きな役割を果たしたことは明らかであり、B、Cが被告人に感謝の気持ちを持ったのは当然のことであるといわなければならない。原判決が挙げるその余の理由もいずれも合理的なものとはいえず、Bらが被告人に対して感謝の気持ちを持ったことに疑問があるとする原判決の判断は首肯し難い。 (3) その他、原判決が第二回目の現金授受に関するC証言及びB調書の信用性を否定する理由として挙示するところは、両供述のささいな違いであって、その- 10 -信用性を否定 の判断は首肯し難い。 (3) その他、原判決が第二回目の現金授受に関するC証言及びB調書の信用性を否定する理由として挙示するところは、両供述のささいな違いであって、その- 10 -信用性を否定する根拠とはし難い。 四以上によれば、原判決は、C証言、B調書等の証拠の評価を誤った結果、重大な事実誤認の疑いが顕著であるというべきであり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものであると認められる。 よって、刑訴法四一一条三号により原判決を破棄し、同法四一三条本文に従い、本件を東京高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 検察官五十嵐紀男、同馬場義宣公判出席平成七年七月一七日最高裁判所第一小法廷裁判長裁判官遠藤光男裁判官小野幹雄裁判官三好達裁判官高橋久子- 11 -

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