令和5(ワ)70232 発信者情報開示請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年8月8日 東京地方裁判所
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令和6 年8 月8 日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5 年(ワ)第70232 号発信者情報開示請求事件口頭弁論終結日令和6 年6 月6 日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 略語は別紙略語一覧表のとおり。 第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、原告が、本件発信者らがファイル共有ネットワークであるBitTorrent を 使用して、本件各動画のデータを自動公衆送信したことにより原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとして、本件各通信に係るインターネット接続サービスを提供した被承継会社を承継した被告に対し、法5 条1 項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容 易に認められる事実)(1) 当事者ア原告は、動画の制作等を行う株式会社である。 イ被告は、電気通信事業等を行う株式会社であり、令和5 年7 月1 日、被承継会社を吸収合併した。被告及び被承継会社は、いずれも特定電気通信役務提供者(法 2 条3 項)である。 本件各通信は、被承継会社の特定電気通信設備を介して行われ、被告は、本件発信者情報を保有している。 (2) 本件各動画の著作権者原告は、著作物である本件各動画の著作権者である。(甲18 の1、18 の2、18 の 3 の1、18 の3 の3) (3) BitTorrent の仕組み等BitTorrent とは、いわゆる は、著作物である本件各動画の著作権者である。(甲18 の1、18 の2、18 の 3 の1、18 の3 の3) (3) BitTorrent の仕組み等BitTorrent とは、いわゆるP2P 形式のファイル共有ネットワークであり、その概要や仕様は、次のとおりである。(甲4、5、6 の1、6 の2、9、34 の1、34 の2)ア BitTorrent によりファイルを共有する場合、当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、このピースがBitTorrent ネットワーク上のユーザー(ピア)に共 有される。 イ BitTorrent を通じて特定のファイルをダウンロードしようとするユーザーは、その使用端末にBitTorrent に対応したクライアントソフト(ファイルをダウンロードするためのソフト。以下、対応クライアントソフトを含めて「BitTorrent」ということがある。)をインストールした上で、インデックスサイトと呼ばれるウェブサイ トに接続し、当該ファイルの所在等の情報が記録されたトレントファイルをダウンロードして、これをBitTorrent に読み込ませる。これにより、BitTorrent は、当該トレントファイルに記録されたトラッカーと呼ばれるサーバに接続し、当該特定のファイルを保有する他のユーザーのIP アドレス等の情報を取得する。 ウ他のユーザーのIP アドレス等を取得したユーザーは、当該ファイルのピース を持つ他のピアと接続し、同ピアから当該ピースのダウンロードを開始する。全てのピースのダウンロードが終了すると、自動的に元の1 つの完全なファイルが復元される。 エ完全な状態のファイルを持つユーザーをシーダーといい、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーをリーチャーとい ードが終了すると、自動的に元の1 つの完全なファイルが復元される。 エ完全な状態のファイルを持つユーザーをシーダーといい、目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーをリーチャーという。ダウンロードが完 了して完全な状態のファイルを保有するに至ったユーザーは、自動的にシーダーと なる。シーダーは、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルの一部をアップロードしてリーチャーに提供する。この際、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に保有しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーの求めに応じてアップロードする。リーチャーは、目的のファイルを自らダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送 信することが可能な状態となる。 (4) 本件調査(甲1 の1、1 の3、1 の4、1 の6、5、7 の1、7 の3、7 の4、7の6、8 の1、8 の3、8 の4、8 の6、9、11 の1、11 の2、12、19)ア原告は、本件訴訟提起に先立ち、本件調査会社に対し、BitTorrent を使用した本件各動画の著作権侵害に係る調査(本件調査)を委託した。本件調査会社は、 BitTorrent の制作会社が開発・管理する本件クライアントソフトを使用して本件調査を行った。同ソフトは、ダウンロードするトレントファイルを検索し、BitTorrent を使用しているピアの情報を表示する機能を有している。 イ本件調査は、本件クライアントソフトを利用して、ピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIP アドレス等の調査を行うもので、その概要 は、以下のとおりである。 本件調査会社の担当者は、インデックスサイトにおいて本件各動画に係るファイルを ード及びアップロードを行っているピアのIP アドレス等の調査を行うもので、その概要 は、以下のとおりである。 本件調査会社の担当者は、インデックスサイトにおいて本件各動画に係るファイルを検索して、トレントファイルをダウンロードし、当該トレントファイルを基に、本件クライアントソフト上で本件各動画に係るピースをダウンロードする。その上で、当該ダウンロード中に当該端末にピースのダウンロード及びアップロードを行 っているピアのIP アドレスを確認し、スクリーンショットをする。同担当者は、同ピアからダウンロードした本件動画ファイルと本件各動画とを見比べてその同一性を確認している。 ウ本件調査会社は、原告に対し、本件調査の結果、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時に本件各動画に係るファイルがアップロードされていること、 このアップロードの通信(本件各通信)に本件IP アドレスが使用されていることな どを報告した。 3 本件の主な争点は権利侵害の明白性であり、これに関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)(1) 本件調査会社は、本件調査によって、本件発信者らから本件各動画のピース をダウンロードし、これを保有する本件発信者らが接続しているIP アドレス及び接続日時等を特定した。また、本件調査会社担当者は、ダウンロードしたファイルの動画と本件各動画とを見比べてその同一性を確認している。 したがって、本件発信者らは、本件調査会社の求めに応じて自動的に本件各動画のピースを送信したといえる。このような行為は、原告の本件各動画に係る著作権 (公衆送信権)侵害に当たる。 (2) 被告の主張について本件クライアントソフトは、BitTorrent を管理する会社が提供するソフトウェアで ような行為は、原告の本件各動画に係る著作権 (公衆送信権)侵害に当たる。 (2) 被告の主張について本件クライアントソフトは、BitTorrent を管理する会社が提供するソフトウェアであるから、情報を正確に利用者に提供しているものといえ、信頼できる。本件IP アドレスの特定に関しては、「下り速度」と「上り速度」の記載がなくともダウンロー ドは進行するから、その記載がないことが直ちにダウンロードが行われなかったことを意味するものではない。また、BitTorrent では、ファイル保有率が低い場合であっても再生することは可能であることなどから、本件動画ファイルは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る程度に再生可能であったというべきである。 (被告の主張) (1) 本件調査の信用性等について本件クライアントソフトは、信頼性が認められたシステムではないし、以下の点からも信用性に疑問があり、これを利用した本件調査は信用性を欠く。 ア本件調査において把握される通信としては、本件発信者らと本件調査会社、すなわちピア間の通信に限っても、本件各動画のピースのダウンロードのほか、複 数の通信がある。このため、本件IP アドレスは、本件各動画ファイルの全部又は一 部をダウンロードした時の通信であるとはいえない。 イ本件調査時のキャプチャー画面には、本件各動画のダウンロードの進行を示す「下り速度」や「上り速度」の表示のないものがある。したがって、この通信は、本件各動画のファイルの全部又は一部をダウンロードした時のものとはいえない。 (2) 公衆送信権侵害について 公衆送信権侵害の成立には、本件発信者らによって送信されたピースにより本件各動画の表現の本質的特徴が感得できる必要がある。しか ードした時のものとはいえない。 (2) 公衆送信権侵害について 公衆送信権侵害の成立には、本件発信者らによって送信されたピースにより本件各動画の表現の本質的特徴が感得できる必要がある。しかし、本件発信者らによって送信されたピースは細分化されたものであるから、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得できる映像を再生できない可能性がある。したがって、本件発信者らによる公衆送信権侵害があったとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(権利侵害の明白性)について(1) 前提事実(3)及び(4)により認められるBitTorrent と本件クライアントソフトの仕組み及び本件調査の方法ないし内容を踏まえると、本件発信者らは、その端末にBitTorrent をインストールし、本件各動画のファイルに係るピースをダウンロードす ると共に、当該ピースを不特定の者からの求めに応じてBitTorrent ネットワークを介して自動的に送信し得る状態にし、被承継会社から本件IP アドレスの割当を受けてインターネットに接続された状態の下、別紙発信者情報目録の「日時」欄記載の各日時において、本件調査会社の求めに応じ、自動的に本件各動画のファイル(ピース)をアップロードしたことが認められる。 そうすると、本件各動画に係るファイル(ピース)は、本件IP アドレスが割り当てられた本件発信者らにより、公衆からの求めに応じて自動的に公衆送信されたものといえる。したがって、本件発信者らは、本件各動画に係るデータを自動公衆送信したものであり、これにより、本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(法5 条1 項1 号)。 (2) 被告の主張について ア被告は、本件調査について、本件クライアン 本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである(法5 条1 項1 号)。 (2) 被告の主張について ア被告は、本件調査について、本件クライアントソフトがいわゆる認証ソフトウェアでないことや「下り速度」及び「上り速度」が表示されていないことなどを指摘して、本件調査は信用できない旨主張するとともに、本件発信者らの送信に係る1 つのピースからでは、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得することができる映像を再生できない可能性がある旨主張し、公衆送信権侵害があったとはいえ ないとする。 イ本件調査の信用性について証拠(甲9)並びに前提事実(3)及び(4)イによれば、BitTorrent は、クライアントソフトを利用して特定のファイルを保有する他のユーザーのIP アドレス等の情報を取得することでファイル共有を実現する仕組みを有すること、本件クライアントソ フトは、BitTorrent の制作を行った会社により開発・管理され、BitTorrent のガイドラインを遵守したものであることがそれぞれ認められる。これらによれば、上記ガイドラインを遵守した本件クライアントソフトは、BitTorrent の上記仕組みを的確に機能させるため、対象ファイルのピースのダウンロード及びアップロードを行っているピアのIP アドレスを正確に取得・表示する機能を有しているものと合理的に推 認できる。 以上に加え、証拠(甲1 の1、1 の3、1 の4、1 の6、14)によれば、一般的に、本件クライアントソフト上において、接続しているピアのダウンロード速度を意味する「下り速度」及びアップロード速度を意味する「上り速度」の表示がない場合でも、BitTorrent を介したファイルのダウンロードが進むこ フト上において、接続しているピアのダウンロード速度を意味する「下り速度」及びアップロード速度を意味する「上り速度」の表示がない場合でも、BitTorrent を介したファイルのダウンロードが進むことがあることが認められ るから、その表示の有無をもって直ちにファイルのダウンロードの有無を決することはできない。その上で、本件調査においても、本件クライアントソフト上、本件発信者らによる通信につき、それぞれ「ダウンロード中」との表示がされている。 このように、当該ファイルのダウンロードが進んでいる状態であることが本件クライアントソフト上でも示され、本件各動画のファイル(甲8 の1、8 の3、8 の4、8 の6)が実際にダウンロードされていることも踏まえれば、本件発信者らによるア ップロードが行われていたというべきである。その他、本件調査の信用性を疑わせるに足りる具体的な事情は認められない。 ウファイルの再生可能性について前提事実(4)によれば、本件調査会社の担当者は、本件調査に際し、本件発信者らのIP アドレスを確認すると共に、ダウンロードしたファイルの動画と本件各動画と を見比べてその同一性を確認していることが認められる。さらに、証拠(甲7 の1、 7 の3、7 の4、7 の6、8 の1、8 の3、8 の4、8 の6)によれば、本件動画ファイルと本件各動画には複数の同一シーンが含まれていることが認められる。このため、本件動画ファイルは、少なくとも本件各動画の一部であり、前者は後者を複製したものであることがうかがわれる。その上、証拠(甲20)及び前提事実(4)イによれば、 ダウンロード中であって保有率が相応に少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件動画ファイルが再生できることも認められる。これ の上、証拠(甲20)及び前提事実(4)イによれば、 ダウンロード中であって保有率が相応に少ない場合にも当該ファイルの動画を再生できること及び本件動画ファイルが再生できることも認められる。これによれば、本件発信者らが送信し、本件調査会社担当者がダウンロードした本件動画ファイルを構成するファイル(ピース)は、本件各動画の表現の本質的特徴を直接感得し得る程度に再生可能であったものと推認できる。 エ小括以上によれば、この点に関する被告の主張は採用できない。 2 その他の要件について上記のとおり、本件発信者らによる本件各動画に係る原告の著作権(公衆送信権)侵害が認められるところ、弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者らに対する 不法行為に基づく損害賠償請求等の権利行使を予定しているものと認められる。したがって、原告には、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由(法5 条1 項 2 号)が認められる。 以上より、原告は、被告に対し、本件発信者情報の開示請求権を有する。 第4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれらをいずれも認容することと して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47 部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 石井奈沙 裁判官 志摩祐介 (別紙)当事者目録 原 裁判官 志摩祐介 (別紙)当事者目録 原告株式会社A&T 同訴訟代理人弁護士杉山央 エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社訴訟承継人被告株式会社NTT ドコモ 同訴訟代理人弁護士五島丈裕 (別紙)発信者情報目録以下の日時に以下のIP アドレス及びポート番号を割り当てられていた契約者の氏名又は名称、住所、電話番号及び電子メールアドレス(以下省略) (別紙侵害著作物目録省略) (別紙)略語一覧表本件各通信別紙発信者情報目録記載のIP アドレスを用いて同目録記載の日時に行われた各通信本件発信者ら本件各通信をした氏名不詳者ら本件各動画別紙侵害著作物目録記載の各動画被承継会社エヌ・ティ・ティレゾナント株式会社法特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律本件発信者情報別紙発信者情報目録記載の発信者情報本件調査BitTorrent を利用した本件各動画の著作権侵害に係る調査本件調査会社本件調査を実施した調査会社本件クライアントソフトµtorrent と称するクライアントソフト本件IP アドレス別紙発信者情報目録の「IP アドレス」欄記載の各IP アドレス本件動画ファイル本件調査会社が本件発信者らからダウンロードした動画ファイル るクライアントソフト本件IP アドレス別紙発信者情報目録の「IP アドレス」欄記載の各IP アドレス本件動画ファイル本件調査会社が本件発信者らからダウンロードした動画ファイル

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