主文 1 被告が,原告に対し,平成15年12月17日付けでした異議申立て却下決定を取り消す。 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,甲,乙両事件を通じてこれを4分し,その3を原告の,その余を被告の各負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求める裁判 1 甲事件(原告)(1) 被告が,原告に対し,平成15年8月11日付けでした児童手当(特例給付)支給事由消滅処分を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 (被告)(1) 原告の請求を棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 2 乙事件(原告)(1) 被告が,原告に対し,平成15年7月付けでした名古屋市乳幼児医療費助成制度に係る被助成資格喪失処分を取り消す。 (2) 主文1項同旨(3) 訴訟費用は被告の負担とする。 (被告)(1)(本案前の答弁)本件訴えを却下する。 (本案の答弁)原告の請求をいずれも棄却する。 (2) 訴訟費用は原告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,原告が,児童手当法(以下,条文を示すときは「法」ともいう。)に基づく児童手当の特例給付(同法附則6条に基づく給付。以下「本件手当」という。)の受給資格の認定を受け,さらに,名古屋市乳幼児医療費助成条例(昭和47年10月28日条例第73号。以下「本件条例」という。)に基づく乳幼児医療費の助成(以下「本件助成」といい,本件手当と併せて「本件手当等」という。)を受けていたところ,被告から,平成14年中の原告の所得がそれぞれの所得制限に係る限度額(以下「所得限度額」という。)を上回ることを理由に,本件手当については支給事由の消滅処分を受け,本件助成についてはその「資格喪失のお知らせ」の送付を受けたため,原告がそれらの取消しを に係る限度額(以下「所得限度額」という。)を上回ることを理由に,本件手当については支給事由の消滅処分を受け,本件助成についてはその「資格喪失のお知らせ」の送付を受けたため,原告がそれらの取消しを求めるとともに(甲事件と乙事件における原告の求める裁判の各(1)),原告が上記「お知らせ」の送付について異議申立てをしたのに対し,被告が却下決定をしたため,その取消しを求めた(同じく乙事件の(2))抗告訴訟である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実)(1) 当事者ア原告は,名古屋市内に居住し,その妻Aとの間にもうけたB(平成○年○月○日生)及びC(平成○年○月○日生)を監護し,その生計を主として維持している。 原告は,平成14年まで,上記2人の子について,本件手当の受給資格及び手当の額についての認定を受け(法附則6条2項,法7条),さらに,医療証の交付を受けて本件助成の対象となっていた(本件条例2条,4条)。 イ被告は,法7条に基づき,名古屋市民について上記の認定を行う権限を有するとともに,本件条例4条に基づき,医療証を交付することにより本件助成を行う権限を有する。 (2) 所得限度額法5条1項は,「児童手当は,……前年の所得が,……政令で定める額以上であるときは,支給しない。」と,同2項は,「前項に規定する所得の範囲及びその額の計算方法は,政令で定める。」とそれぞれ規定している(附則6条2項によって,特例給付にも準用されている。)ところ,同法施行令1条,11条は,所得限度額について,原則として460万円に扶養親族等及び児童1人につき38万円を加算した額としている。原告の場合,平成14年には,児童2人を有していたから,所得限度額は,536万円となる。 また,後記のとおり,本件条例2条4項は,「 万円に扶養親族等及び児童1人につき38万円を加算した額としている。原告の場合,平成14年には,児童2人を有していたから,所得限度額は,536万円となる。 また,後記のとおり,本件条例2条4項は,「第1項の規定にかかわらず,……乳幼児の保護者であって前年の所得……が規則で定める額を超える者は,対象者としない。」と,同5項は,「前項に規定する所得の範囲及びその額の計算方法は,規則で定める。」とそれぞれ規定しているところ,同条例施行細則(昭和47年12月1日規則第131号。以下「本件細則」という。)2条の2は,所得限度額について,原則として459万6000円に扶養親族等1人につき38万円を加算した額としている。原告の場合,平成14年の所得限度額は,535万6000円となる(以下,本件手当等についての所得制限に関する各規定を総称して「本件各所得制限規定」という。)。 (3) 所得制限における所得の範囲及び計算方法上記各所得に含まれる所得の範囲は,本件手当については,地方税法5条2項1号に掲げる市町村民税についての同法その他の市町村民税に関する法令の規定による所得であって非課税所得以外のものとされ(児童手当法施行令11条,2条),本件助成についても,地方税法4条2項1号に掲げる道府県民税についての同法その他の道府県民税に関する法令の規定による所得であって,非課税所得以外のものとされている(本件細則2条の3,特別児童扶養手当等の支給に関する法律10条,同法施行令4条)。 そして,上記各所得額の計算は,いずれも,まず,総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額(本件助成については地方税法32条1項,本件手当については同法313条1項),土地等に係る事業所得等の金額(本件助成については同法附則33条の3第1項,本件手当については同項を5項で準用。以下同 額(本件助成については地方税法32条1項,本件手当については同法313条1項),土地等に係る事業所得等の金額(本件助成については同法附則33条の3第1項,本件手当については同項を5項で準用。以下同じ。),長期譲渡所得の金額(同法附則34条1項,5項),短期譲渡所得の金額(同法附則35条1項,5項),商品先物取引に係る雑所得等の金額(同法附則35条の4第1項,4項)の合計額から8万円を控除し,次に,その額から,医療費控除等の控除を受けた者については,所定の額を控除して算出すると定められている(児童手当法施行令3条1項,2項,特別児童扶養手当等の支給に関する法律10条,同法施行令5条1項,2項)。 (4) 原告による土地売却原告は,名古屋市熱田区○○丁目○○番地所在の宅地70.13平方メートルを所有していたところ,平成14年2月22日,名古屋都市計画道路事業3・1・29江川線のために,同土地(譲渡の際には同所○○番1及び同所○○番2に分筆されている。)を,名古屋市に対し,売買代金合計1473万4313円で売り渡した(以下「本件契約」という。甲8ないし10)。 (5) 原告による特例給付現況届の提出原告は,平成14年中の給与収入が481万5627円(給与所得控除後の給与所得330万9600円)であったことから,平成15年6月26日,名古屋市熱田区社会福祉事務所に対し,同額が所得に当たるとして,平成15年度特例給付現況届を提出した(法26条1項)。 (6) 原告に対する本件助成制度の「資格喪失のお知らせ」の送付と本件手当支給事由消滅処分熱田区保険年金課長は,平成15年7月22日,上記現況届等に基づき原告の所得を確認した上で,原告に対し,「乳幼児医療費助成制度の資格喪失のお知らせ」と題する書面(甲2)を送付し,原告は,そのころ,これを受け取っ 金課長は,平成15年7月22日,上記現況届等に基づき原告の所得を確認した上で,原告に対し,「乳幼児医療費助成制度の資格喪失のお知らせ」と題する書面(甲2)を送付し,原告は,そのころ,これを受け取った(以下「本件通知」という。なお,同書面には,原告とその子Bをあて先として記載されているが,全体の文面から原告にあてた書面と解される。乙1,甲5)。そして,同書面には,同年8月1日付けで本件助成の受給資格が喪失すること,その理由は,原告の平成14年中の所得額(1722万7198円)が所得限度額である535万6000円を超えるためである旨記載されている。 さらに,被告は,同様に,上記現況届等に基づいて審査した上で,平成14年分の所得額が児童手当法施行令1条で定める所得限度額を超過することを理由として,平成15年8月11日,原告に対し,本件手当支給事由消滅処分をし(以下「本件処分」といい,本件通知と併せて「本件処分等」という。),そのころ,原告にその旨通知した。 (7) 本件助成の具体的態様本件助成は,乳幼児の保護者が,市長から交付を受けた医療証を,病院等の医療担当者等に提示し,名古屋市が,原則として,医療担当者等に所定の助成額を支払うことによって行われる(本件条例4条2項,5条1項)。そして,この医療証には,有効期限が定められている(本件細則3条,第1号様式の2)ため,この期限を超えて本件助成を受けようとすれば,医療証の更新を要するところ,その更新を申請するためには,本来,更新申請書を区長を通じて市長に提出することを要する(本件細則2条の5第1項,第2項,2条の4第1項)が,名古屋市においては,医療証の交付申請がなされた場合には,その後は自動的に医療証の更新申請がなされたものとして扱っており(甲4),原告も,平成15年7月15日までに医療証 2項,2条の4第1項)が,名古屋市においては,医療証の交付申請がなされた場合には,その後は自動的に医療証の更新申請がなされたものとして扱っており(甲4),原告も,平成15年7月15日までに医療証の更新申請書を被告に提出していない。 (8) 原告による異議申立てと被告による決定等原告は,被告に対し,平成15年9月2日付けで,本件通知に対して異議を申し立てたところ(以下「本件異議申立て」という。甲5),被告は,本件条例及び本件細則には,市長が公権力の主体として,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することを認める規定はなく,不服申立手続の規定も設けられていないため,資格を喪失させる行為に対し,処分性を与えているものとは認められないから,本件通知は,行政不服審査法に定める処分に当たらず,それゆえ,本件異議申立ては不適法であるから却下するとの決定をした(以下「本件決定」という。甲6の2)。 さらに,原告は,愛知県知事に対し,平成15年9月2日付けで,本件処分について,審査請求を申し立てたところ,愛知県知事は,同年12月5日付けで,同申立てを棄却するとの裁決をした(甲1)。 (9) 本件条例等の抜粋ア本件条例(趣旨)1条この条例は,乳幼児の福祉の増進を図るため,乳幼児の医療費の助成について必要な事項を定めるものとする。 (対象者)2条この条例により医療費の助成を受けることができる者は,国民健康保険法(昭和33年法律第192号)による被保険者又は規則で定める社会保険各法(以下「社会保険各法」という。)による被保険者,組合員,加入者若しくは被扶養者(これらの者であった者を含む。)であって,乳幼児の保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,乳幼児を現に監護するものをいい,これらの者であった者を含む。以下同じ。)であるもの( くは被扶養者(これらの者であった者を含む。)であって,乳幼児の保護者(親権を行う者,未成年後見人その他の者で,乳幼児を現に監護するものをいい,これらの者であった者を含む。以下同じ。)であるもの(以下「対象者」という。)とする。 2項前項の乳幼児は,次の各号に掲げる要件を備えた者とする。 (1) 本市の区域内に住所を有する者であること。 (2) 6歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者であること。 (3) 生活保護法(昭和25年法律第144号)による保護を受けていない者であること。 3項第1項の場合において,親権を行う父及び母がともに乳幼児を現に監護するときは,当該父又は母のうちいずれか当該乳幼児の生計を維持する程度の高い者を保護者とみなす。 4項第1項の規定にかかわらず,出生の日後1年(出生の日が月の末日以外の日である場合にあっては,出生の日後1年を経過する日の属する月の末日までの期間)を経過した乳幼児の保護者であって前年の所得(1月から7月までの間に医療を受ける場合にあっては,前前年の所得)が規則で定める額を超える者は,対象者としない。 5項前項に規定する所得の範囲及びその額の計算方法は,規則で定める。 (助成の範囲)3条本市は,乳幼児の疾病又は負傷について国民健康保険法又は社会保険各法の規定による医療に関する給付が行われた場合(社会保険各法による附加給付にあっては,当該給付が行われる場合を含む。)において,当該医療に関する給付の額(その者が国民健康保険法による療養の給付を受けたときは,当該療養の給付の額から当該療養の給付に関する同法の規定による一部負担金に相当する額を控除した額)が当該医療に要する費用の額に満たないときは,対象者に対し,その満たない額に相当する額を助成する。ただし,当該疾病又は負傷について法令の規定 関する同法の規定による一部負担金に相当する額を控除した額)が当該医療に要する費用の額に満たないときは,対象者に対し,その満たない額に相当する額を助成する。ただし,当該疾病又は負傷について法令の規定により国又は地方公共団体の負担による医療に関する給付が行われたときは,この限りでない。 2項前項の医療に要する費用の額は,健康保険の療養に要する費用の額の算定方法の例により算定した額とする。ただし,現に要した費用の額をこえることができない。 (医療証)4条市長は,対象者に対し,その申請に基づき,規則の定めるところにより,医療証を交付する。 2項対象者は,前条第1項の規定により医療費の助成を受けようとする場合は,病院,診療所若しくは薬局又はその他の者(以下「医療担当者等」という。)について,診療,薬剤の支給又は手当を受ける際,当該医療担当者等に医療証を提示するものとする。 (助成の方法)5条医療費の助成は,助成する額を医療担当者等に支払うことによって行なう。 2項略(届出義務)6条対象者は,氏名若しくは住所を変更したとき,又は規則で定める事由が発生したときは,その旨をすみやかに市長に届け出なければならない。 (譲渡又は担保の禁止)6条の2 この条例による助成を受ける権利は,譲渡し,又は担保に供してはならない。 イ本件細則(所得基準額)2条の2 条例第2条第4項に規定する規則で定める額は,同条第1項に規定する者の所得税法(昭和40年法律第33号)に規定する控除対象配偶者及び扶養親族(以下「扶養親族等」という。)並びに扶養親族等でない18歳未満の者(20歳未満で児童扶養手当法施行令(略)別表第1に定める程度の障害の状態にある者を含む。)で当該者が前年(1月から7月までの間に医療を受ける場合にあっては,前前年)の12月31日に 18歳未満の者(20歳未満で児童扶養手当法施行令(略)別表第1に定める程度の障害の状態にある者を含む。)で当該者が前年(1月から7月までの間に医療を受ける場合にあっては,前前年)の12月31日において生計を維持したものがいないときは,4,596,000円とし,これらの者があるときは,4,596,000円にこれらの者1人につき38万円(扶養親族等が所得税法に規定する老人控除対象配偶者又は老人扶養親族であるときは,当該老人控除対象配偶者又は老人扶養親族1人につき48万円とし,扶養親族等が同法に規定する特定扶養親族であるときは,当該特定扶養親族1人につき63万円とする。)を加算した額とする。 (所得の範囲及びその額の計算方法)2条の3 条例第2条第4項に規定する所得の範囲及びその額の計算方法は,特別児童扶養手当等の支給に関する法律(略)による特別児童扶養手当に係る所得の範囲及びその額の計算方法の例による。 (医療証の交付申請)2条の4 条例第4条第1項の規定による医療証の交付の申請は,医療証交付申請書(略)を,保護者であることを証する書類及び前年の所得(1月から7月までの間に医療を受ける場合にあっては,前前年の所得)を明らかにすることができる書類を添付して,乳幼児の住所地を所管する区長(以下「区長」という。)を経由して市長に提出することによって行わなければならない。 2項略(医療証の更新申請等)2条の5 条例第2条に規定する対象者(略)は,毎年6月16日から7月15日までの間に,医療証更新申請書(第1号様式)により医療証の更新を申請することができる。 2項前条の規定は,前項の規定による医療証の更新申請について準用する。 3項対象者は,医療証の有効期間が満了したときは,当該医療証を,直ちに,区長を経由して市長に返還しなければならない。 できる。 2項前条の規定は,前項の規定による医療証の更新申請について準用する。 3項対象者は,医療証の有効期間が満了したときは,当該医療証を,直ちに,区長を経由して市長に返還しなければならない。 2 本件の争点(1) 本件通知の行政処分性-本件通知は抗告訴訟の対象となるか。また,本件通知が行政処分でないことを理由に本件異議申立てを却下した本件決定は適法か。 (2) 本件処分等の違法性-本件各所得制限規定にいう所得は,公共事業のために居住用土地を売却したことによる所得を含むか。含むと解される場合,本件各所得制限規定は憲法13条,14条,25条に違反するか。 3 当事者の主張の要旨(1) 本件通知の行政処分性について(原告)ア抗告訴訟の対象となる「公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)とは,公権力の主体たる国又は公共団体の行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。どのような行為が上記の行政処分性を有するかは,「法の認めた優越的地位に基づき,行政庁が法の執行としてする権力的な意思活動」に当たるか否かを,諸般の事情を総合的に考慮して判断することを要するが,その際には,①法が行政庁の優越的地位に基づく意思発動の結果を私人に受忍させる一般的効果を与えているか,②法が意思発動のための要件を定め,行政庁がこの要件の充足の有無を判断して行動すべきことを要求しているか否か,③公定力を付与することの相当性,④不服申立てを予定する規定の有無などの点に着目することを要する。 イしかるところ,本件通知のような乳幼児医療費助成資格を喪失した旨の通知は,行政庁である被告が,本件条例に従い,相手方の意思にかかわらず一方的に被助成資格の該当性を判断して行うものであり(本件 。 イしかるところ,本件通知のような乳幼児医療費助成資格を喪失した旨の通知は,行政庁である被告が,本件条例に従い,相手方の意思にかかわらず一方的に被助成資格の該当性を判断して行うものであり(本件助成の申請がなくとも,被告において一方的に被助成資格の有無を判断している運用実態に照らせば,その判断の優越性,一方向性は明らかである。),それによって本件助成が受けられなくなるという一般的効果が生ずるのであるから,上記①,②を満たす。そして,仮に行政処分性が否定され,③の公定力が存在しないのであれば,その適否を争う者は,個別に民事訴訟によって名古屋市に対する損害賠償請求訴訟を提起することが可能となるが,乳幼児医療費助成資格の判断は,一律的大量的になされるべきであることからすると,そのような結果は,甚だ妥当性を欠くというべきである。さらに,本件条例には,確かに,④の不服申立手続が規定されていないが,乳幼児医療費助成制度と児童手当制度とは近似しているにもかかわらず,後者については不服申立制度があり,前者については不服申立てができないとするのは不合理であり,そもそも,不服申立手続を置くか否かは立法者の一方的な判断にゆだねられているから,そのような判断で処分を受ける者の権利性が左右されるのは不合理である。そもそも,本件条例には,被助成資格を有する者からの申請権が規定され,その要件を満たす限り,被告としては裁量の余地なく本件助成を行わねばならないのであって,不服申立手続の有無にかかわらず,本件条例によって乳幼児医療費助成制度は法的統制の実効性が保障されている。 したがって,本件通知は,行政処分性を有するというべきである。 ウそうすると,本件通知が行政処分性を有するにもかかわらず,これを否定することにより本件異議申立てを却下して門前払いした本件決定は,原 したがって,本件通知は,行政処分性を有するというべきである。 ウそうすると,本件通知が行政処分性を有するにもかかわらず,これを否定することにより本件異議申立てを却下して門前払いした本件決定は,原告の再審査を受ける権利を侵害したものであるから,この点だけでも,その違法性は明らかである。 (被告)原告の主張は争う。 ア乳幼児医療費助成制度のようないわゆる給付行政における法律関係は,本来,乳幼児医療費の助成を受けたいという私人の申込みに対する承諾という契約的な性質を有する非権力的な関係であって,その場合の行政庁の行為は,原則として行政処分性を有するものではない。 本件条例及び本件細則は,被助成者を定め,その者の申請に基づいて医療証を交付すべきことを定めているが,被告が,公権力の主体としてその優越的地位に基づき,申請者の権利の存否を判断し,調査を行う権限を定める規定はないから,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することを認める趣旨と解すべきではない。 本件通知は,本件助成の対象者とならなくなった者に,その資格の喪失という事実を告知することにより,便宜を図るという行政サービスに過ぎず,行政処分性を有するものとは解し得ない。 また,児童手当法は,不服申立手続を定めている(25条)のに対し,本件条例及び本件細則には,不服申立手続の規定も設けられていない。 これらによれば,本件通知は行政処分には当たらない。 イなお,行政処分性の有無を判断するに当たり,当該行為が条例に基づいているか否かを基準とする見解が存するところ,名古屋市は,本件条例に基づいて乳幼児医療費助成制度を定めている。しかし,本件条例は,地方自治法14条1項に基づく自主立法として定められたものであって,上記事務の処理について,行政内部の事務処理基準である要綱によって実施する て乳幼児医療費助成制度を定めている。しかし,本件条例は,地方自治法14条1項に基づく自主立法として定められたものであって,上記事務の処理について,行政内部の事務処理基準である要綱によって実施することも可能であった。ただ,事務の内容・手続等について市民に対して説明責任を果たし,大量に発生する事務を明確化し,統一的かつ平等に実施するための合目的的な技術として,条例をもって定めたに過ぎない。 したがって,条例によって行われているか要綱によって行われているかという形式のみによって,行政処分性の有無を判定すべきではない。 ウ以上のとおり,本件通知は行政処分に当たらない以上,その取消しを求める本件訴えは却下を免れないし,本件通知についてなされた本件異議申立てを却下した本件決定も,そもそも原処分が存在しない以上,行政処分に当たらないので,その取消しを求める本件訴えも却下を免れない。 (2) 本件処分等の適法性について(被告)ア本件手当等の支給を制限する場合の「所得」は,地方税法に規定する総所得金額,退職所得金額,山林所得金額,土地等に係る事業所得金額,長期譲渡所得金額,短期譲渡所得金額,商品先物取引に係る雑所得の合計額から8万円を控除した額であるところ(児童手当法施行令3条1項,特別児童扶養手当等の支給に関する法律施行令5条),原告は,平成14年中に,所得額合計1730万7198円(給与所得330万9600円,長期譲渡所得1399万7598円)を得ており,それから8万円を控除すると1722万7198円となる。そうすると,原告の所得は,児童手当法施行令11条で準用する同施行令1条で定める特定給付基準額536万円を超え,しかも,本件細則2条の2で定める535万6000円を超える。 したがって,原告は,本件手当の受給資格や本件助成の被助成資格を喪失 11条で準用する同施行令1条で定める特定給付基準額536万円を超え,しかも,本件細則2条の2で定める535万6000円を超える。 したがって,原告は,本件手当の受給資格や本件助成の被助成資格を喪失したものであるから,本件処分等は適法である。 イ原告は,さらに,本件各所得制限規定が憲法13条,14条,25条に違反する旨主張するが,最高裁判所が判示するように,憲法25条で定める「健康で文化的な最低限度の生活」なるものはきわめて抽象的・相対的な概念であって,その具体的な内容は,その時々における文化の発展の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであるとともに,上記規定を現実の立法として具体化するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがって,憲法25条の規定の趣旨にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は,立法機関の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所が審査判断するのに適しない事柄であるといわなければならない。もっとも,憲法25条の規定の要請にこたえて制定された法令において,受給者の範囲,支給要件,支給金額等につき何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いをしたり,あるいは個人の尊厳を毀損するような内容の定めを設けているときは,憲法13条及び14条違反の問題を生じ得ることは否定し得ない。 しかるところ,本件手当等は,憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるが,どのような者に対して支給・助成をするかの選択決定は,立法機関の裁量の範囲に属する事柄と見るべき い。 しかるところ,本件手当等は,憲法25条の趣旨を実現するために設けられた社会保障上の制度であるが,どのような者に対して支給・助成をするかの選択決定は,立法機関の裁量の範囲に属する事柄と見るべきところ,上記各制度は,家庭における生活の安定及び児童の健全な育成並びに乳幼児の福祉の増進を図ることを目的として,手当や助成を行う制度であるから,児童又は乳幼児を育成する者の所得という経済的な状況によって支給等の対象とするか否かを判断することは合理的である。また,その所得の計算において,原告が主張するような個別具体的な理由による控除を設けていないのは,社会的事情,財政事情などによる政策的判断によるものであって,著しく合理性を欠き,明らかに裁量の逸脱・濫用があるとはいえず,憲法25条に違反しない。 また,原告の居住地が,都市計画区域内に存在していたことにより支給等を打ち切ったわけではないから,原告の主張するような合理的理由のない不当な差別的取扱いをしたとはいえず,憲法13条,14条にも違反しない。 (原告)被告の主張は争う。 ア原告は,本件土地において出生し,40年来,同土地において居住してきたところ,名古屋市は,本件土地が昭和59年愛知県告示第1176号,平成13年愛知県告示第223号で告知された都市計画の区域内にあったため,平成12年ころから,原告に対してその譲渡を申し入れてきた。そのため,原告は,遅かれ早かれ本件土地を収用されると考え,やむなく本件契約を締結したのであって,実質上強制的に本件土地を売却させられたものである。その上,原告のように長年居住していた土地を売却すれば,同水準の移転先不動産を確保し,移転費用を確保するなどの必要が生じ,売却の前後で,収入が支出を上回ることはないのが通常である。 ところで,原告の所得は,平成13年から平 居住していた土地を売却すれば,同水準の移転先不動産を確保し,移転費用を確保するなどの必要が生じ,売却の前後で,収入が支出を上回ることはないのが通常である。 ところで,原告の所得は,平成13年から平成15年まで,本件土地の売却による所得を除くと,概ね330万円から350万円程度で推移してきたものであり,本件土地の売却がなければ,問題となっている平成15年において本件手当等を受けられたことは明らかである。所得税のように,土地譲渡に一定の担税力を認め,大量的安定的な課税を必要とする租税上の関係では,実質上は強制的な譲渡であっても,その税額の算定に当たり,売却代金は全く控除されないのもやむを得ないが,より具体的に福祉に適する行政行為を考えねばならない福祉行政の分野においては,土地収用あるいは実質上強制的に居住用不動産を売却させられた場合には,それによって取得した所得を基準所得額から控除するという相対的な解釈が採られるべきである。 イ本件手当等は,憲法25条に基づくものであり,文化的で最低限度の生活は,同法13条で保障される個人の尊厳を確保するにも必要であるといえる。そして,個人の尊厳は,人の存在基盤であるから,その侵害が適法であるかについては,厳格な基準によって判断されなければならず,具体的にはそれを制約する手段がその目的との関係で具体的妥当性を有することを要する。 本件では,前記のとおり,原告が手にした本件土地の譲渡代金は,新たな居住用資産の確保のために費消されているにもかかわらず,本件土地の売却代金を所得とみなされたため,本件手当等を打ち切られ,その結果,平成15年4月1日から平成16年2月9日までの間に,2児につき総額20万円以上の負担を強いられるのは,手段としての合理性を欠き,憲法13条,25条に違反する。 また,都市計画区域外に居住 その結果,平成15年4月1日から平成16年2月9日までの間に,2児につき総額20万円以上の負担を強いられるのは,手段としての合理性を欠き,憲法13条,25条に違反する。 また,都市計画区域外に居住し,かつ原告と同水準の収入状況にある家庭で養育される児童・乳幼児であれば,何ら問題なく本件手当等の支給,助成が受けられたのに対し,たまたま都市計画区域内で居住していた原告の子らはこれらを打ち切られるのであるから,このような差別ないし区別が適法かが問題となるところ,これは,個人の尊厳という局面における差別ないし区別であるから,その判断は厳格な基準によるべきであり,目的の重要性と手段の具体的妥当性を要するところ,本件処分等は,収入より支出が上回っている原告に対して本件手当等を打ち切る具体的妥当性はなく,憲法14条にも違反する。 第3 当裁判所の判断 1 本件通知の処分性(争点(1))について(1) 行政事件訴訟法3条2項において取消訴訟の対象として定められる行政庁の「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁判所昭和39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁等参照)ところ,ここでいう「公権力」の行使とは,一般に,行政庁が,法令による特別の授権に基づき,優越的な意思の主体として,相手方の意思のいかんにかかわらず,一方的に意思決定し,その結果につき相手方の受忍を強制し得るという効果,すなわち公定力を有するような性質の行為と解される。 ところで,いわゆる給付行政の分野における補助金や助成金等の支給関係は,本来の権力的作用を伴わないことから,その根拠法令(要綱等の内部的準則が根拠となっている場合には,上記のような公 為と解される。 ところで,いわゆる給付行政の分野における補助金や助成金等の支給関係は,本来の権力的作用を伴わないことから,その根拠法令(要綱等の内部的準則が根拠となっている場合には,上記のような公権力性を有しないことはいうまでもない。)が国民からの申請とこれに対応する行政庁の給付という手続形式を採っているとしても,支給を求める者の申込みとこれに対する行政庁の承諾によって成立する契約関係と実質的に類似することが多く,その意味で,私法上の法律関係になじみやすいことは否定できない。 もっとも,このような給付行政の分野においても,立法政策として,一定の者に補助金等の支給を受ける権利を与えるとともに,行政庁による一方的な支給(ないし不支給)決定という形式を採ることによって,当該行為を行政処分として構成する場合がある。このように,どのような行為を行政処分とするかは,個別的な立法政策によって定まる問題であるから,行政庁の当該行為が処分性を有するか否かは,その根拠となる法令の目的,要件,手続,効果などを個別具体的に検討し,当該行為を行政庁の優越的な意思の発動として行わせ,私人に対してその結果を受忍すべき一般的拘束を課することとしているか否か,またこのような意思の発動を適法とするための要件を定めて行政庁がこの要件の充足の有無を判断して行動すべきことを要求しているか否かを総合的に判断して決すべきものであり,つまるところ,当該法令の解釈問題に帰するというべきである。 (2) 以上の見地に立って,本件通知の行政処分性について検討する。 ア前記前提事実(2),(3),(7)及び(9)並びに証拠(甲2,3)を総合すれば,本件条例上,①乳幼児医療費助成制度は,乳幼児が病気にかかることが多く,その負担を軽減するために,乳幼児が医療機関の診療・投薬等を受けた場合にその (7)及び(9)並びに証拠(甲2,3)を総合すれば,本件条例上,①乳幼児医療費助成制度は,乳幼児が病気にかかることが多く,その負担を軽減するために,乳幼児が医療機関の診療・投薬等を受けた場合にその医療費の一部を助成することによって,乳幼児の福祉の増進を図ることを目的としていること,②本件条例は,被助成者の範囲,その所得限度額,所得の範囲,所得の計算方法などの要件を一義的明確に定めていること,③申請者は,市長に対して,医療証交付申請書を,保護者であることを証する書類及び前年の所得を明らかにする書類とともに区長を通じて提出し,被告は,その申請に基づいて,被助成資格を有するか否かを審査の上,規則の定めるところにより,その資格を有すると認めた場合には,医療証を交付すると定められていること,④資格を有しない場合の応答方法については本件条例及び本件細則で明定されていないが,医療証の更新の際に,保護者の前年の所得を確認した上で,所得限度額を超過する場合には資格を喪失したことを通知する運用がなされていたこと,⑤被助成者は,医療証を医療担当者等に提示して医療等を受け,名古屋市は,その費用の一部を医療担当者等に支払うことによって本件助成は行われ,医療証の提示がなければ本件助成は受けられないこと,⑥本件条例及び本件細則には不服申立手続について格別の定めはないこと,以上のとおり認められる。 イ上記①によれば,本件助成は,名古屋市に居住する乳幼児(の監護者)全体という広範囲な者を対象として,その医療費を助成することにより福祉の増進を図るという一般的な行政目的を達成するためのものであり,個別的な助成の必要性を根拠とするものではないから,大量かつ反復して行われることが予定されていることが明らかである。 そして,本件条例は,上記②,③のとおり,本件助成を受ける資格 るためのものであり,個別的な助成の必要性を根拠とするものではないから,大量かつ反復して行われることが予定されていることが明らかである。 そして,本件条例は,上記②,③のとおり,本件助成を受ける資格を一義的明確に定めるとともに,申請者に対し,申請書にその資格を有することを証する書類を添付することを求めていることからすれば,本件条例は,市長に対し,申請に基づいてその添付された書類等を調査・確認して,申請者が上記資格を有するか否かについて判断する権限(及び義務)を付与しているものと解される。 その上で,本件条例4条1項は,上記資格を有する申請者に対し,被告は「医療証を交付する」ものと定め,「医療証を交付することができる」という裁量の存在をうかがわせる表現を用いていないことに照らすと,上記資格を有する申請者はすべからく本件助成を受けられる反面,これを欠く者は一律に助成を受けられないという簡明な構造を採用していると解されるから,本件助成を行うか否かを被告の任意にゆだねていないことが明らかである(これを私法上の契約関係と把握すると,被告は,上記要件の充足の有無にかかわらず,本件助成を与えるか否かを決定する自由を有することになる。)。また,本件助成の内容についても,上記⑤のとおり,定型的なものとして定められており,被告が,申請者の個別的,具体的な事情に基づいて,その金額を増減したり,内容を変更することは想定されていない。 なお,本件条例には,本件助成を求める申請に対する応答の方式,手続について定めた規定が存しないが,被告は被助成資格を有する申請者に対して医療証を交付する(4条1項)ものとされ,申請者は,医療証の交付を受けることによって初めて医療費の助成を受けることが可能となる(4条2項,5条1項)ことに照らすと,本件条例は,被告に対し,申請を相当と認 を交付する(4条1項)ものとされ,申請者は,医療証の交付を受けることによって初めて医療費の助成を受けることが可能となる(4条2項,5条1項)ことに照らすと,本件条例は,被告に対し,申請を相当と認めた場合には医療証を交付し,そうでない場合には,医療証を交付しない旨を適宜の方法で告知することにより,申請に対して応答すべきことを定めていると解される。現に,名古屋市においては,前記「お知らせ」のような書面を送付することにより,被助成資格の喪失を通知する取扱いをしていることが認められる(甲4)が,このことは,単なる行政サービスではなく,上記の応答義務の履行として行われていると解される。 ウこの点につき,被告は,本件条例及び細則には不服申立手続を定めた規定がない旨主張するところ,確かに,本件条例及び本件細則上,被告が本件助成を行うことを拒否した場合に,申請者がどのような救済方法を取ることができるか明らかではない。しかしながら,個別法において不服申立手続についての定めがない場合には,一般法である行政不服審査法及び行政事件訴訟法が適用される(ちなみに,被告が児童手当についての不服申立手続を定めた規定として指摘する法25条も,自由選択主義を定めた行政事件訴訟法8条1項本文に対する特則を定めたものにすぎない。)から,そのような規定があることが行政処分性を認めるための必要条件であると解することはできない上,仮に本件通知の行政処分性を否定すると,被助成資格を有しながら本件助成を拒否された申請者は,せいぜい平等原則違反を理由として事後的に民事上の損害賠償請求をするほかないが,本件の乳幼児医療費助成制度のように大量かつ反復的な処理を行うものにあっては,この救済方法はあまりに迂遠に過ぎるといわざるを得ず,かえって,乳幼児の医療費助成を通じてその福祉の増進を図る かないが,本件の乳幼児医療費助成制度のように大量かつ反復的な処理を行うものにあっては,この救済方法はあまりに迂遠に過ぎるといわざるを得ず,かえって,乳幼児の医療費助成を通じてその福祉の増進を図るという目的に照らせば,端的に行政処分性を認めて抗告訴訟による救済を図るのが相当と解される。 また,被告は,乳幼児医療費助成制度を内部的準則である要綱で定めることも可能であったが,事務処理を明確化し,統一的に処理することなどのために条例の形式で定めたに過ぎない旨主張するが,まさしく,乳幼児医療費助成制度に係る事務が,大量かつ反復して処理すべきものであって,その事務を明確,統一的かつ平等に処理するためにも,名古屋市は,本件条例を制定したのであるから,そこに定められた目的,要件,効果,手続を検討した結果,本件通知に行政処分性を認めるのが相当と判断される以上,他の形式を採用する可能性があったからといって,行政処分性を否定する根拠となるものではなく,被告の上記主張は採用できない。 さらに,被告は,本件通知が公権力の行使に当たらない旨主張するが,本件助成が申請者と被告との間の契約に基づくものだとすると,申請者が中途で被助成資格を喪失した場合においても,被告が本件助成を停止するには,申請者との間で合意解除をしなければならないと考えられるが,このような結論は,本件条例で定められた乳幼児医療費助成制度の趣旨,構造に沿わないことが明らかであり,申請者の意思にかかわらず,被告の一方的判断によって,被助成資格を奪うことを肯定するためには,本件助成(ないし本件助成を拒否すること)が被告による行政処分の性質を有すると解するほかない。 エ以上の検討結果によれば,本件条例に基づく乳幼児医療費助成制度の法律関係は,名古屋市民からの個別的な申込みと被告による承諾の一致を要件とする が被告による行政処分の性質を有すると解するほかない。 エ以上の検討結果によれば,本件条例に基づく乳幼児医療費助成制度の法律関係は,名古屋市民からの個別的な申込みと被告による承諾の一致を要件とする私法上の契約関係ではなく,被告による要件審査に基づく一方的な被助成資格の認定(ないし不認定)と見るべきであり,したがって,本件通知は,行政処分に当たると解するのが相当である。 (3) ところで,行政不服審査制度は,行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し,国民に対して広く行政庁に対する不服申立てのみちを開くことによって,簡易迅速な手続による国民の権利利益の救済を図るとともに,行政の適正な運営を確保することを目的とするところ(行政不服審査法1条1項),同法4条は,行政庁の処分に不服がある者は,審査請求又は異議申立てができると規定しているが,ここにいう「処分」とは,行政事件訴訟法における「処分」と同義であり,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう。そして,行政不服審査法6条は,審査請求中心主義を採用しつつ,処分庁に上級庁がなく,審査請求できない場合及び法律に特別の定めのある場合等に異議申立てをすることができると定めており,地方公共団体の自治事務に係る執行機関の処分については,上級行政庁が存しないことから,異議申立てをすることができると解される。 しかるところ,乳幼児医療費助成制度は,名古屋市の自治事務に属するものであって,前記のとおり,本件通知は行政処分に当たると判断するのが相当であるから,本件通知に対する不服申立てである本件異議申立ては適法であると解される。したがって,被告は,本件通知の当否及び適法性を審査すべき 前記のとおり,本件通知は行政処分に当たると判断するのが相当であるから,本件通知に対する不服申立てである本件異議申立ては適法であると解される。したがって,被告は,本件通知の当否及び適法性を審査すべきところ,前記前提事実(8)のとおり,被告は,本件通知が行政処分に当たらないことを理由として本件異議申立てを却下し,その当否及び違法性について判断をしていないのであるから,本件決定は違法であるというほかない。 なお,後記のとおり,原処分である本件通知自体は適法と判断されるから,その取消請求は棄却を免れず,したがって,このような場合にも本件決定の取消しを求める利益が存するかが問題となり得る。しかしながら,行政不服審査制度の上記目的に照らせば,本件決定が取り消されれば,原告は原処分の違法性についてのみならず,当・不当についても改めて審査を受けることができるから,本件決定の取消しを求める本件訴えの利益は失われないと解するのが相当である。 2 本件処分等の適法性(争点(2))について(1) 前記前提事実(4)及び(5)のとおり,原告は,平成14年中に本件土地を代金1473万4313円にて売却しているところ,同土地は親から相続したものであるから,その譲渡所得の額は,収入額から取得費として5パーセントを控除した1399万7598円となり(租税特別措置法31条の4第1項),これに同年中の給与所得330万9600円(給与収入481万5627円)を加算した合計所得額は,1730万7198円となる。しかるところ,本件各所得制限規定に係る所得額を計算するには,前記前提事実(3)のとおり,上記合計所得額から8万円を控除すべきものであるから,1722万7198円となり,本件手当についての所得限度額536万円,本件助成についての所得限度額535万6000円を上回っている 3)のとおり,上記合計所得額から8万円を控除すべきものであるから,1722万7198円となり,本件手当についての所得限度額536万円,本件助成についての所得限度額535万6000円を上回っていることが明らかである。 この点について,原告は,福祉行政の分野においては,本件のように実質上強制的に居住用不動産を売却させられた場合には,それによって得られた所得を基準所得額から控除するという相対的な解釈が採られるべきである旨主張するが,児童手当法及び本件条例並びにこれらの関連法令を精査しても,所得概念についてこのような解釈を許容する規定は見いだせず,法的安定性の観点からも,原告の上記主張は採用できるものではない。 (2) また,原告は,本件土地の売却代金は,新たな居住用資産の確保のために費消されたにもかかわらず,これを所得とみなされた結果,総額20万円以上の負担をもたらし,さらには都市計画区域外に居住する同水準の収入状況にある家庭の児童と差別的な扱いを受けることは,憲法13条,14条及び25条に違反する旨主張する。 しかしながら,被告も主張するとおり,憲法25条の定める「健康で文化的な最低限度の生活」なるものは,極めて抽象的・相対的な概念であって,その具体的内容は,その時々における文化の発達の程度,経済的・社会的条件,一般的な国民生活の状況等の相関関係において判断決定されるべきものであるとともに,上記規定を現実の立法として具体化するに当たっては,国や地方公共団体の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがって,憲法25条の要請にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定の適否は,立法機関の広い裁量にゆだねられており,それが著しく 察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものである。したがって,憲法25条の要請にこたえて具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定の適否は,立法機関の広い裁量にゆだねられており,それが著しく合理性を欠き,明らかに裁量権の逸脱・濫用と見ざるを得ないような場合を除き,裁判所による司法審査の対象とならないというべきである(最高裁判所昭和57年7月7日大法廷判決・民集36巻7号1235頁)。 ところで,児童手当制度は,児童を養育している保護者に手当を支給することによって児童の生活の安定と健全な育成及び資質の向上を図ることを目的として設けられたものであり,また,乳幼児医療費助成制度も,乳幼児の医療費を助成することによってその福祉の増進を目的とするものであり,いずれも児童を養育していることによる支出の増加や乳幼児が医療機関にかかることによる支出の増加に着目して,その負担の軽減を行う社会保障の性質を有する制度である。このような制度趣旨に照らせば,児童又は乳幼児を保護育成する者の所得に応じて,その支給ないし助成の対象者を制限することは十分に合理的であり,その場合に,その所得の範囲にどのような所得を含めるか,所得額の計算方法をどのように定めるかは,立法機関の裁量の範囲に属する事柄と見るべきである。 しかるところ,居住用不動産の売却による所得の使途やその動機などの個別具体的な事情を考慮して所得の範囲や計算方法を定めることは,法技術的に困難であると考えられることをさておいても,人の満足を得るための財貨を取得している以上,それが新たな居住用資産の確保のために費消されたからといって,所得制限の対象となるかを判定するに当たり,これを所得の範囲に加え,特別の控除をすることなく,その額を合計することが著しく合理性を欠き,明らかに裁量権の逸脱・濫用があるとはいえ されたからといって,所得制限の対象となるかを判定するに当たり,これを所得の範囲に加え,特別の控除をすることなく,その額を合計することが著しく合理性を欠き,明らかに裁量権の逸脱・濫用があるとはいえないから,本件各所得制限規定は憲法25条に反するものではないというべきである。 同様に,本件手当等の所得制限の対象となるかを判定するに当たり,所得の使途や動機を考慮せず,都市計画区域内に居住しているか否かを区別していない本件各所得制限規定は,児童手当制度や乳幼児医療費助成制度の上記趣旨に照らせば,個人の尊厳や幸福追求権について定めた憲法13条や法の下の平等を定めた同法14条に違反する恣意的かつ不合理な規定であるといえないことも明らかである。 (3) そうすると,原告の平成14年中の所得額は,本件各所得制限規定に係る所得限度額を上回っており,かつ同規定は憲法に違反するものではないから,本件手当等の支給資格や被助成資格の消滅ないし喪失を内容とする本件処分等はいずれも適法というべきである。 3 結論以上の次第で,原告の本訴各請求のうち,本件決定の取消しを求める部分は,理由があるから認容し,その余はいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条を適用して,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第9部裁判長裁判官加藤幸雄裁判官舟橋恭子裁判官尾河吉久 裁判官 尾河吉久
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