判決平成14年12月17日神戸地方裁判所平成13年(わ)第792号住居侵入,強盗致傷被告事件 主文 被告人を懲役3年8月に処する。 未決勾留日数中390日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,分離前の相被告人Aと共謀の上,単身赴任中であった被告人の夫V(当時39歳)から金員を強取しようと企て,上記Aが,平成13年6月14日午前1時40分ころ,兵庫県朝来郡山東町Ba番地所在のコーポCb号室の当時の上記V方に無施錠の玄関から侵入した上,同所において,就寝中であった同人に対し,携帯していた金属バット(平成13年押第170号の1)で,その頭部,左腕及び左足を数回殴打する暴行を加えてその反抗を抑圧しようとしたが,同人から反撃を受けたためその目的を遂げず,その際,上記暴行により,同人に対し,約1か月間の加療を必要とする左外傷性鼓膜穿孔,頭部打撲,左耳介部擦過傷,左前頭部挫創,左前腕部打撲及び左大腿部打撲の傷害を負わせた。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明) 1 弁護人は,被告人は,共犯者Aとの間で,被告人の夫V(以下,「V」という。)を殺害し,保険金を分配することについて共謀したことはあるものの,強盗について共謀したことはないから,住居侵入の事実について刑事責任を負うことはともかく,強盗致傷の責任は負わない旨主張し,被告人もそれに沿う供述をするので,以下検討する。 2 証人Aの公判供述の信用性について(1) 分離前の相被告人であって公判廷に証人として出廷したAは,被告人との間でVの所持金を奪う旨の話があったとして,概ね以下のとおり供述する(以下,「A公判供述」という。)。 信用性について(1) 分離前の相被告人であって公判廷に証人として出廷したAは,被告人との間でVの所持金を奪う旨の話があったとして,概ね以下のとおり供述する(以下,「A公判供述」という。)。 すなわち,平成13年5月ころ,Aと被告人との間で,Vを殺害して保険金を取る話が持ち上がり,同年6月7日にVにかけられた保険金額が5000万円であることを確認し,被告人と保険金の分配について話し合い,Aが殺害行為を実行することになった。 ところが,Aは,経済的に困窮しているのにVを殺害してもすぐに保険金が手に入るわけではないことや見ず知らずの人間を殺害することに抵抗を感じたことから,Vを殺害をする気持ちがなくなり,むしろVからその所持金を奪うことを考えるようになった。そこで,Aは,被告人に対し,Vを殺害する気がなくなったことは告げないまま,Vが同月9日及び10日の週末に単身赴任先から和歌山県内の被告人方に帰宅した際に,Vの所持金を確認しておくように指示した。 同月11日朝,Aは,被告人から,Vが三十三,四万円持っていたこと,Vが,Vの小遣いと会社からの預かり金を,それぞれルイ・ヴィトンの財布とベルサーチの黒の長財布の二つの財布に分けて入れ,それらを黒いナイロンのかばんの中に入れていることなどを聞いた。Aは,30万円あれば被告人と折半しても同月15日までにしなければならない車金融等の返済ができると考え,被告人に「所持金取っていいやろ。」と聞いたところ,被告人は,「ええで,私にもちょうだいよ。」と言って,これを承諾した。 (2) このようなA公判供述は,具体的かつ詳細であって,Vを殺害する気持ちがなくなった理由やVの所持金を知るために取った行動等も自然で合理的であること,Aが被告人から教えてもらったとするVの財布 (2) このようなA公判供述は,具体的かつ詳細であって,Vを殺害する気持ちがなくなった理由やVの所持金を知るために取った行動等も自然で合理的であること,Aが被告人から教えてもらったとするVの財布の形状等は,客観的な証拠関係とも符合している上,この内容はAにとっては被告人から教えられなければ知り得ないものであること,弁護人の詳細な反対尋問にも崩れていないこと,Aは,本件の事実関係及び実行犯としての自己の刑事責任をすべて認めた上で,本件の共謀について自分からVの所持金を取る話を持ちかけた旨供述しているのであって,殊更自己の刑事責任を免れたり,被告人に対してその責任を転嫁しようとしているものとは認められないことなどからして,十分信用することができる。 なお,弁護人は,AがVの財布の形状等を供述しうるのは,被告人から聞いたからではなく,取調警察官の方から教えられたからであると主張するけれども,記録を検討してもそのような事実をうかがわせる事情は見いだせない。 3 被告人の供述について(1) これに対し,被告人は,捜査段階において,Aに対しVの財布の個数や所持金について教えたことはあったようだが,Vから所持金を奪うことを持ちかけられ,それを承諾したかについては覚えていない,分からないなどと供述し,公判廷においては,そもそもそのような事実はなかったと供述する。 (2) しかしながら,被告人の供述は,保険金殺人の謀議や本件に至る経緯等に関して相当詳細な供述をしているにもかかわらず,問題となっている場面に至るやその記憶があいまいになったり,前記のとおりVの財布の形状等はAにとっては被告人から教えられなければ知り得ないことであるのに,Aにこれを教えたことを否定している点で不自然・不合理であって,前記の十分信用することができるA公判供述 記のとおりVの財布の形状等はAにとっては被告人から教えられなければ知り得ないことであるのに,Aにこれを教えたことを否定している点で不自然・不合理であって,前記の十分信用することができるA公判供述と対比して信用することができない。 なお,弁護人は,被告人は,生活費に困っていなかったし,また,Vの所持金の中には会社からの預り金がありそれが無くなれば被告人がこれを弁償しなければならないから,AからVの所持金を取ることを持ちかけてきたとしても,被告人がこれを承諾するはずはないのであって,被告人の供述は信用できる旨主張する。 しかしながら,前者については,その主張の根拠と思われる被告人作成の家計簿にはつじつま合わせのための虚偽の記載があることを被告人自身公判廷で認めている上,そもそも被告人はAと共謀の上,Vを殺害し多額の保険金を手に入れることを意図していたことに照らすと,こうした主張には説得力がなく,後者についても,その前提自体納得しうるものではないから,これらの主張は採用することができない。 4 結論そうすると,A公判供述を含む関係証拠を総合すると,平成13年6月11日,被告人は,既にVを殺害することの共謀を遂げていたAからVの所持金を取る話を持ちかけられた際,AがVの所持金を強取する意思を有していることを認識しつつ,自分の分け前を要求してこれを承諾したものと認められるのであって,これによって,Aと被告人との間に強盗の共謀が成立したことが認められるから,被告人が強盗致傷について刑事責任を負うことは優に肯定することができる。 (法令の適用)被告人の判示所為のうち住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗致傷の点は同法60条,240条前段にそれぞれ該当するところ,この住居侵入と強盗致傷との間には手段結果の関係があるので 適用)被告人の判示所為のうち住居侵入の点は刑法60条,130条前段に,強盗致傷の点は同法60条,240条前段にそれぞれ該当するところ,この住居侵入と強盗致傷との間には手段結果の関係があるので,同法54条1項後段,10条により1罪として重い強盗致傷罪の刑で処断し,所定刑中有期懲役刑を選択し,なお犯情を考慮し,同法66条,71条,68条3号を適用して酌量減軽し,その刑期の範囲内で被告人を懲役3年8月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中390日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,自己の夫であるVを殺害して保険金を得ることについて分離前の相被告人Aとの間で一旦共謀を遂げた後,Aから同人が強盗の意思に翻意したことを秘したまま,Vから金員を奪うことを持ちかけられてそれに同調し,AがVの単身赴任先のマンションに侵入し,金属バットでVを殴りつけVに傷害を負わせたが,Vに取り押さえられたという住居侵入,強盗致傷の事案である。 被告人は,当初保険金目当てにVを殺害する計画に関与し,実行犯のAが強盗の意思に翻意したことを聞かされなかったことから,AがVの殺害を実行してくれるものと信じていたが,AからVの所持金を奪うことを持ちかけられて抵抗することもなく承諾したばかりか,Vから奪取した金員を自己に分配するよう求めるなどしており,このような被告人の利欲的な犯行動機には酌量の余地はない。 また,被告人は,本件犯行遂行に際して,事前にAに対してVの所持金をはじめ,財布の形状,個数等について詳細に教示したことに加え,AがV方のマンションの合いかぎを作成する手助けをしたり,本件犯行直前にVの所在確認を行ったりもしていることから,被告人の関与態様は相 をはじめ,財布の形状,個数等について詳細に教示したことに加え,AがV方のマンションの合いかぎを作成する手助けをしたり,本件犯行直前にVの所在確認を行ったりもしていることから,被告人の関与態様は相当積極的であり,本件犯行全体において被告人の果たした役割は重要である。 加えて,Vが受けた約1か月間の外来通院治療を必要とする左外傷性鼓膜穿孔等の傷害の程度も相当重く,信頼する妻が本件犯行に加担していることを本件犯行後に知った時にVが受けた驚愕はかなり大きかったと推測されることも併せ考慮すると,本件の結果はまことに重大である。 このような事情に照らすと,被告人の刑事責任は相当重いといわざるを得ない。 しかしながら,他方,財物奪取は幸いにも未遂に終わっていること,本件Vとなった被告人の夫は,本件に至る経緯において自分にも落ち度があり,被告人に対して厳重な処罰を望まない旨当公判廷で証言していること,被告人には前科がないことなど被告人にとって有利な事情も認められる。 そこで,以上の諸般の事情を総合して考慮し,被告人に対しては,酌量減軽をした上主文の刑を科すのが相当であると判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑・懲役7年)平成14年12月17日神戸地方裁判所第4刑事部裁判長裁判官笹野明義裁判官浦島高広裁判官谷口吉伸
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