主文 1(1) 被告らは,原告Aに対し,連帯して1094万0809円及びこれに対する平成7年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2) 被告らは,原告Bに対し,連帯して316万3603円及びこれに対する平成7年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (3) 被告らは,原告Cに対し,連帯して316万3603円及びこれに対する平成7年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を被告らの負担とし,その余を原告らの負担とする。 4 この判決は,仮に執行することができる。 ただし,被告らが,原告Aに対しそれぞれ300万円の担保を供するときは,それぞれその仮執行を免れることができ,原告Bに対しそれぞれ90万円の担保を供するときは,それぞれその仮執行を免れることができ,原告Cに対しそれぞれ90万円の担保を供するときは,それぞれその仮執行を免れることができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告らは,原告Aに対し,連帯して2339万8246円及びこれに対る平成7年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告らは,原告Bに対し,連帯して756万6082円及びこれに対する平成7年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告らは,原告Cに対し,連帯して756万6082円及びこれに対する平成7年6月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,亡Nの相続人である原告らが,被告D医師は,胃がんであった亡Nの胃全摘術を行う際,亡Nやその夫である原告Aの承諾を得ることなく肝切除術まで 分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,亡Nの相続人である原告らが,被告D医師は,胃がんであった亡Nの胃全摘術を行う際,亡Nやその夫である原告Aの承諾を得ることなく肝切除術まで行ったばかりか,その際に誤って肝静脈を損傷し,その止血方法も誤るなどしたため,亡Nを術後出血による肝不全により死亡させたとして,被告D医師に対しては不法行為責任(民法709条,711条)に基づき,被告F株式会社に対しては使用者責任(同法715条)又は債務不履行責任に基づき,損害賠償及び遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠を摘示しない事実は,当事者間に争いがない。)(1) 当事者原告Aは,亡Nの夫であり,訴外O,原告B及び同Cは,原告Aと亡Nの子である。 被告F株式会社は,L病院を開設しており,被告D医師は,被告F株式会社に雇用され,L病院に勤務する医師である。なお,L病院は,平成9年6月1日以降,医療法人社団M病院として法人化された。〔乙9の1・2〕(2) 亡Nの胃がん及び肝転移の判明亡Nは,平成7年5月10日ころ,胃の不調を訴えて,P診療所で受診したところ,検査の必要があるとしてL病院を紹介された。 亡Nは,同月12日,L病院で被告D医師の診察を受け,胃内視鏡検査等を受けたところ,胃がん(食道噴門部がん)であることが判明したため,同月18日にL病院に入院した。 その後の検査の結果,がんが肝臓に転移していることも判明したが,被告D医師は,肝切除術によってその腫瘍を取りきることは困難であると判断した。 そこで,被告D医師は,原告A及び訴外Oに対し,亡Nに胃全摘術を行うにとどめ,肝切除術は行わない旨を説明した。なお,亡Nには,食道噴門部腫瘍とのみ告知され,がん告知 は困難であると判断した。 そこで,被告D医師は,原告A及び訴外Oに対し,亡Nに胃全摘術を行うにとどめ,肝切除術は行わない旨を説明した。なお,亡Nには,食道噴門部腫瘍とのみ告知され,がん告知はされていなかった。 (3) 手術及び亡Nの死亡亡Nは,同月30日,被告D医師による手術を受けた。 被告D医師は,胃の摘出に伴い,がん転移の認められた脾臓及び膵体尾部を切除するとともに,術中所見で,肝臓の腫瘍も切除可能であると判断し,肝切除術を行った。 しかし,肝切除の術中,亡Nの肝静脈が損傷され,同静脈から多量の出血があった。 亡Nは,術後,集中治療室で看護されたが,同年6月8日午前7時5分,術後急性肝不全のため死亡した。 2 争点及び当事者の主張(1) 被告D医師の過失の有無(原告らの主張)被告D医師は,亡Nに対する肝切除術につき,以下のとおり過失があるから,不法行為責任(民法709条,711条)に基づき,亡N及び原告らの被った損害を賠償すべき義務がある。そして,被告D医師の使用者である被告F株式会社は,使用者責任(同法715条)又は診療契約の債務不履行責任に基づき,上記損害を賠償すべき義務がある。 ア説明義務違反肝切除は侵襲が大きく,手術中に出血したり,強く脱転したり,肝の虚血・低酸素状況,肝流入血行遮断等が原因で,術後急性肝不全となり死亡する危険性があるから,被告D医師は,胃全摘術による侵襲の上に肝切除術を行う場合には,事前に,亡N又は原告Aにその危険性を説明して,肝切除術についての承諾を得るべき義務がある。しかし,被告D医師は,原告Aに対して肝切除はしないと述べ,開腹してみないと肝切除が可能かどうか分からないとか,可能であれば肝切除をする等の説明をしなかった 除術についての承諾を得るべき義務がある。しかし,被告D医師は,原告Aに対して肝切除はしないと述べ,開腹してみないと肝切除が可能かどうか分からないとか,可能であれば肝切除をする等の説明をしなかった。被告D医師は,肝切除後の生存率が極めて低いことを認識しながら,亡N又は原告Aの承諾を得ないで肝切除術を行い,同手術の結果,術後急性肝不全により亡Nを死亡させた。 なお,亡Nにはがん告知をしていなかったため,被告D医師は,原告Aに対して亡Nの検査結果や手術内容を説明し,原告Aが,亡Nに対する胃全摘術の承諾をした。したがって,肝切除術について亡Nの承諾を得ることができない場合には,被告D医師は,亡Nの保護者的立場にある者としての原告Aの承諾を得るべき義務があった。 そして,患者や配偶者から有効な承諾を得ることなく手術等の医的侵襲が行われ,それにより死亡等の結果が発生した場合には,説明義務違反と当該結果との間に相当因果関係がある。なお,原告Aが,被告D医師から肝切除術の説明を受けた場合,その内容,成功率,延命率,侵襲によるダメージ等を考慮しなければならないから,これを承諾するとは限らない。 イ手術適応の過失肝切除は侵襲が大きく,術後肝不全により死亡する危険性があるから,肝切除術を行う場合には,被告D医師は,事前に,客観性が高いとされるICG負荷試験を行い,肝予備力を十分に把握した上で行うべき義務がある。しかし,被告D医師は,術中の肉眼的所見のみで,胃,脾臓及び膵臓尾部の切除により既に相当の侵襲を受けている亡Nに対し,更に侵襲の大きい肝切除術を行い,その結果,術後急性肝不全により亡Nを死亡させた。したがって,被告D医師には,肝切除術の手術適応を誤った過失がある。 ウ手術中止義務違反 Nに対し,更に侵襲の大きい肝切除術を行い,その結果,術後急性肝不全により亡Nを死亡させた。したがって,被告D医師には,肝切除術の手術適応を誤った過失がある。 ウ手術中止義務違反被告D医師は,腫瘍が中肝静脈と左肝静脈の合流部にあり,中肝静脈を結紮切離するには腫瘍を回り込んで処理しなければならず,視野が十分に取れないと判明した場合には,肝静脈損傷による術後急性肝不全の危険を回避するため,肝切除術を中止すべき義務がある。しかし,被告D医師は,腫瘍を切除できるものと軽信して肝切除術を続行したため,肝静脈を損傷し,術後急性肝不全により亡Nを死亡させた。 エ肝切除術中の器具操作の過失被告D医師は,亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部が下大静脈流入部から1㎝以内に分岐を持たず,より抹消側で分岐する10人に1人の割合の形態であることを忘れ,中肝静脈と左肝静脈の合流部が下大静脈流入部から1㎝以内にあるものと思い込み,中肝静脈の位置を把握しないまま,モスキートペアンで肝実質を破砕した。そのため,被告D医師は,誤って中肝静脈及び左肝静脈を損傷し,術後急性肝不全により亡Nを死亡させた。 オ止血方法の過失左肝静脈に裂け目ができた場合には,被告D医師は,指で軽く押さえて出血をコントロールし,出血部位を確認した上,5-0,6-0又は7-0という細いネスピレン糸(数値が上がるに従って細くなる。)を使用して縫合閉鎖すべき義務がある。しかし,被告D医師は,サテンスキー鉗子で左肝静脈を挟んだ上,4-0ネスピレン糸を用いたため,その縫合に失敗し,不確実な止血方法であるアビテンフラワー,トロンビン及び熱生理食塩水を使用した圧迫止血を行った。 そのため,被告D医師は,亡Nに多量の出血を招来させ,術後急性肝不全により亡Nを死亡さ の縫合に失敗し,不確実な止血方法であるアビテンフラワー,トロンビン及び熱生理食塩水を使用した圧迫止血を行った。 そのため,被告D医師は,亡Nに多量の出血を招来させ,術後急性肝不全により亡Nを死亡させた。 (被告らの主張)ア説明義務違反について被告D医師が原告Aに対して肝切除はしないと説明した趣旨は,CT画像上でがんの多数転移が認められたため,もはや肝切除ができないというにすぎないのであって,切除可能であれば切除することが前提となっていた。被告D医師は,原告Aに対し,肝切除の詳細は開腹してみないと分からないと説明し,原告Aは,切除可能であれば肝切除を望んでいたものであって,肝切除をしないという説明に積極的な意味はない。 そもそも,術前画像診断では1㎝大未満の病変は読影できず,開腹時に初めて小さな転移が確認されるものであるから,進行胃がんに対し,本件のような治療効果の高い手術を行い得ることを事前に予想することは困難であり,亡Nのように,術前の所見からは肝切除術が不可能であろうと想定される患者が,術中の触診,視診,エコー検査等によりそれが可能であると判明することは,極めて可能性の少ない事態である。したがって,被告D医師には,肝切除術の内容等を事前に亡N又は原告Aに具体的に説明することまでは要求されない。 被告D医師は,術前検査の結果,亡Nの肝臓の予備能に問題がなく,術中所見で肝切除可能と判断したため,亡Nの合理的意思を推測し,医学的に相当な方法で肝切除術を行ったものである。したがって,患者の推定的承諾に基づく行為として,違法性が阻却されるべきものである。 なお,亡Nは,がんと告知されていなかったものの,胃噴門部腫瘍として被告D医師の行う胃全摘術を自ら承諾しており,原告Aが同手術の承諾をし づく行為として,違法性が阻却されるべきものである。 なお,亡Nは,がんと告知されていなかったものの,胃噴門部腫瘍として被告D医師の行う胃全摘術を自ら承諾しており,原告Aが同手術の承諾をしたものではないから,被告D医師が肝切除術を行う場合にも,原告Aの承諾を必要とする根拠はない。しかも,肝切除可能と判断されたのは開腹手術中であるから,被告D医師が,その途中で肝切除術の内容を説明し,亡N又は原告Aの承諾を得ることは不可能である。もっとも,亡Nが肝切除可能な状態であるから肝切除をするという程度の説明であれば,手術室の婦長が原告Aに行っている。 また,被告D医師が肝切除術の説明をすれば,原告Aはそれに承諾したと考えられるから,その説明をしなかったことと亡Nが肝切除術を受けたこととの間には相当因果関係がない。 イ手術適応の過失について亡Nに対しては,胃がんの根治手術ができたのであるから,その治療効果を高め,新たな転移性がんの発生を防止するため,肝切除術が必要であった。 一方,亡Nの術前の理学的所見,血液検査,血糖検査等の結果に異常はなく,亡Nの肝機能は,その障害度を分類するチャイルド(Child)分類や臨床病期分類によっても,肝切除に問題がないものであった。また,術中の触診,視診,エコー検査等は,肝機能評価の重要な所見であり,被告D医師は,これらも踏まえて肝機能,予備能を確認しており,亡Nには肝切除術の適応があった。 原告主張のICG負荷試験は,肝の予備能を直接的に示すものではなく,有効肝血流量を示すもので,そこから肝の予備能を推測するにすぎず,肝予備能検査に必須のものではない。ICG負荷試験は,肝機能障害例や肝硬変合併例の肝切除を行う場合には必須の検査とされるが,亡Nはそのいずれでもな を示すもので,そこから肝の予備能を推測するにすぎず,肝予備能検査に必須のものではない。ICG負荷試験は,肝機能障害例や肝硬変合併例の肝切除を行う場合には必須の検査とされるが,亡Nはそのいずれでもなかった。 ウ手術中止義務違反について中肝静脈処理のための視野が十分に取れないと判明したのは,被告D医師が,肝組織を栄養する肝門グリソン組織(肝動脈,門脈本幹,総肝管)を結紮切離した後であり,この時点で肝切除を中止すれば,血流の途絶えた肝右葉が壊死して腹腔内に感染巣を形成し,ひいては汎発性腹膜炎,敗血症を引き起こすことが明らかであって,肝切除の中止は医学的にあり得ない。 肝門処理を優先させて肝切除を行う場合,視野が十分に取れず,一時的に肝静脈からの出血が起こったとしても,そのまま肝切除を進め,肝組織を摘出した後に十分な止血措置をとるのが正当な処置である。 エ肝切除術中の器具操作の過失について被告D医師は,中肝静脈を結紮切離するため,腫瘍によって十分な視野が得られない状況下で,モスキートペアンを用いて肝実質を破砕,圧挫していったものであるから,これに伴う出血はやむを得ないものである。 オ止血方法の過失について本幹の静脈では出血量が多く,原告主張のように出血を指でコントロールすることができない場合も多いのであって,このような場合には,サテンスキー鉗子を用いなければ止血処置をすることができない。 そもそも,止血方法の選択は,各術者に委ねられており,細い糸で間隔を詰めて縫合止血する方法と,4-0程度のネスピレン糸で,ある程度の間隔をおいて縫合した上,圧迫止血を行う方法では,そのいずれかを用いなければならないというものではない。そして,肝静脈のように比較的太い血管で出血が起こった場 4-0程度のネスピレン糸で,ある程度の間隔をおいて縫合した上,圧迫止血を行う方法では,そのいずれかを用いなければならないというものではない。そして,肝静脈のように比較的太い血管で出血が起こった場合,出血量も多く,出血部位の確認や出血をコントロールしながら的確な止血操作を行うことは困難であるから,局所の止血よりも,大きめの針を使用して出血する血液の中で針先を確認しつつ,大きく損傷部位を拾って縫合することが適切な止血方法であり,4-0ネスピレン糸が最も適したサイズである。通常であればこれで止血できるが,亡Nは,中肝静脈と左肝静脈の合流部が通常より末梢側にあり,同部分の血管が細くて脆弱であったため(末梢側にいくに従って細くなる。),縫合止血できなかったものである。そして,出血部位を確認するための視野の確保すら困難な状況においては,次いで圧迫止血を行うのが最も適切な方法であり,被告D医師は,アビテンフラワー,トロンビン及び熱生理食塩水を用いた圧迫止血を行ったものである。 なお,4-0ネスピレン糸より細い糸を用いれば,縫合止血が可能であったとはいえないし,仮に縫合止血できたとしても,その結果として術後肝不全の発生を回避できた可能性が高かったとはいえない。 (2) 損害額(原告らの主張)ア亡Nの損害合計3219万6492円(ア) 逸失利益(1519万6492円)亡N(死亡時53歳)は,術前元気で主婦として4人家族の家事に従事し,被告D医師の肝切除術が完全に行われていれば,少なくとも5年間は生存できたはずである。したがって,亡Nの逸失利益は,平成7年度賃金センサスの50歳から54歳までの女子労働者の平均年間賃金348万2000円を基礎に,以下の算式により,1519万6492円となる(生活費は原告 ずである。したがって,亡Nの逸失利益は,平成7年度賃金センサスの50歳から54歳までの女子労働者の平均年間賃金348万2000円を基礎に,以下の算式により,1519万6492円となる(生活費は原告Aが負担。)。 348万2000円×4.3643(5年間の新ホフマン係数)=1519万6492円(イ) 慰謝料(1700万円)亡Nは,被告D医師の過失により,意識不明のまま,術後わずか9日で死亡したものであり,その精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも1700万円が相当である。 イ原告Aの損害合計2339万8246円(ア) 亡Nの損害の法定相続分2分の1(1609万8246円)(イ) 葬祭費(130万円)原告Aが負担した亡Nの葬祭費。 (ウ) 慰謝料(400万円)原告Aは,術後9日間,ほとんど睡眠もしないで亡Nの看護に当たったが,心の準備もなく突然妻を失ったものであって,その精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも400万円が相当である。 (エ) 弁護士費用(200万円)ウ原告B及び同Cの損害各756万6082円(ア) 亡Nの損害の法定相続分各6分の1(各536万6082円)(イ) 慰謝料(各150万円)原告B及び同Cは,術後9日間,徹夜で亡Nの看護に当たったが,心の準備もなく突然母を失ったものであって,その精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも各150万円が相当である。 (ウ) 弁護士費用(各70万円)(被告らの主張)いずれも争う。 なお,亡Nは,手術の結果として,胃,脾臓並びに膵臓及び肝臓の一部を失うのであって,術後は静養の上,食餌採取のリハーサル等が必要である上,がん再発防止 被告らの主張)いずれも争う。 なお,亡Nは,手術の結果として,胃,脾臓並びに膵臓及び肝臓の一部を失うのであって,術後は静養の上,食餌採取のリハーサル等が必要である上,がん再発防止のために,化学療法や制がん剤の投与といった入院治療を繰り返さなければならず,その闘病生活において,家事労働に従事することは不可能である。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(被告D医師の過失の有無)について(1) 前記第2の1の事実(争いのない事実等),証拠(甲1,2,6,7の1ないし4,11の1ないし6,16の1ないし4,17の1・2,乙1の1の1ないし4,1の2ないし6,2の1・2,2の3の1ないし11,2の4の1ないし8,3の1ないし4,4の4の7,4の5,5の5の1ないし4,5の6の1ないし15,5の7の1,5の8の1,5の10の1ないし17,6の1,6の3ないし5,6の6の1ないし4,6の7,6の8の1ないし9,6の29,7の1ないし4,8の1ないし4,10の1,2,10ないし12,11の1ないし4,12ないし14,17,20の2《以下の認定に反する部分を除く。》,証人Q,原告A本人,被告D本人《以下の認定に反する部分を除く。》,鑑定の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,末尾に摘示した証拠は,当該事実を認定した主要な証拠を示す。 ア亡Nの胃がんの判明亡N(昭和17年n月o日生)は,平成7年1月ころから(以下,日時は特に記載しない限り平成7年である。),胸痛や固形物が飲み込みにくいことを自覚したが,これを放置していたところ,4月になると,食事摂取時に空気を飲み込むような感じがするようになり,5月になると,食後に心窩部痛や前胃痛が出現するようになった。〔乙1の1の2,2の4の1,8の1〕 が,これを放置していたところ,4月になると,食事摂取時に空気を飲み込むような感じがするようになり,5月になると,食後に心窩部痛や前胃痛が出現するようになった。〔乙1の1の2,2の4の1,8の1〕そこで,亡Nは,同月10日,近医のP診療所で受診したところ,検査の必要があるとしてL病院を紹介された。 亡Nは,同月12日,P診療所の紹介状を持参して,L病院で被告D医師の診察を受けた。〔甲6,乙1の1の1,1の2〕被告D医師は,同日,胃内視鏡検査を実施し,食道と胃噴門部直下の小弯前壁寄りにボールマンⅢ型(潰瘍を形成し,潰瘍を取り巻く胃壁が肥厚し周堤を形成するが,周堤と周辺粘膜との境界が不明なもの。)の腫瘍を認め,胃がんの所見を得るとともに,併せて生検を行った。〔乙1の1の3,6の3,8の1,10の1,被告D本人第8回口頭弁論証人調書15~20項,26項《以下,口頭弁論期日と証人調書の項数のみにより,「被告D本人8-15~20,26」のように記載する。》〕しかし,被告D医師は,亡Nに胃がんである旨を告知することを避け,診療録には食道噴門部腫瘍と記載し,亡Nに対し,手術が必要である旨を告げた。〔乙1の1の1,20の2,被告D本人8-27,28,9-23,24〕そして,被告D医師は,同月16日ころ,上記生検につき,病理診断の結果も胃がんであることを確認した。〔乙6の4,10の2,被告D本人8-21~25〕イ亡Nの入院と手術までの経緯亡Nは,同月18日,手術目的でL病院に入院した。被告D医師は,同行した原告Aに対し,亡Nが胃がんである旨を告げたが,原告Aの希望で,亡Nに対するがん告知は行わないこととなった。〔甲6,乙1の1の3,5の5の1,原告A本人21,24〕被告 医師は,同行した原告Aに対し,亡Nが胃がんである旨を告げたが,原告Aの希望で,亡Nに対するがん告知は行わないこととなった。〔甲6,乙1の1の3,5の5の1,原告A本人21,24〕被告D医師は,翌19日,放射線科にエコー検査及びCT検査を依頼した。同エコー検査の結果,肝臓の両葉に最大3.2㎝の腫瘍を含む多数の腫瘍があること等が判明し,がんが肝臓に多数転移しているとの所見が得られた。また,同CT検査の結果も,肝臓に多数のがん転移があるとの所見であった。〔乙2の3の1,6の5,6の6の1~4,6の7,7の3~5,8の1,被告D本人8-37~41〕被告D医師は,上記各検査の結果に加え,CT画像上で中肝静脈と左肝静脈の合流部に大きな腫瘤を認めたことから,肝臓に転移したがんを取りきる根治術はできないであろうと判断し,亡Nに対し,胃全摘術のみを行う計画を立てた。〔乙7の3,被告D本人8-42~45〕そして,被告D医師は,同月23日,亡Nの血液検査,血液生化学検査,肺機能検査,腫瘍マーカー,血糖検査(耐糖能チェック)等を行った。その結果,血液検査でプロトロンビンは100%(正常値70~100%),血液生化学検査で血清アルブミンは3.9g/å(正常値4.1~4.8g/å),血清総ビリルビンは0.4mg/å(正常値0.2~1.1mg/å)であった。なお,亡Nには,肝予備能検査の1つであるICG負荷試験は行われなかった。〔甲16の3,17の2,乙2の3の1,6の8の1及び3,8の1,17,被告D本人8-35,36〕その後,手術日が同月30日と決まり,被告D医師は,同月29日,亡Nに対し,胃を摘出することになる旨を告げた。〔甲6〕ウ手術の経緯(ア) 同月30日午前,被告D医師は,原告A及び訴外O 後,手術日が同月30日と決まり,被告D医師は,同月29日,亡Nに対し,胃を摘出することになる旨を告げた。〔甲6〕ウ手術の経緯(ア) 同月30日午前,被告D医師は,原告A及び訴外Oに対し,CT画像を示しながら,亡Nは胃も肝臓もがんに冒されていること,今回の手術では胃全摘術を行って食事ができるようにすること,肝臓については手の施しようがないので手術しないこと,術後は化学療法を行うが,1か月程度で退院させること,しかし,退院後の余命は12ないし13か月程度であることを説明するとともに,開腹して腹膜転移が認められた場合には,手術を中止し,余命は3か月程度であること,その場合,原告Aを手術室に呼び入れてその旨告知するので,手術中は隣室で待機してほしいことを説明した。そして,原告Aは,亡Nに対する上記手術を承諾する旨の承諾書に署名押印した。〔甲6,乙4の5,5の6の2,被告D本人9-46,49,83,87,原告A本人29~40,142~145〕(イ) 同日午後零時過ぎころ,亡Nは手術室に搬入され,午後1時過ぎころから手術が開始された。被告D医師は,亡Nに腹水や腹膜播種は認められなかったものの,脾臓と膵臓にがんの転移が認められたことから,胃の摘出に伴い,脾臓及び膵体尾部を切除した。 そして,肝臓の状態が術前の予測と異なる場合があり得ることから,被告D医師は,肝臓の状態を視診,触診,術中エコーで調べたところ,腫瘍は肝両葉にまたがっているものの,左葉外側区域(国際解剖学会は,肝区域を,下大静脈と胆のう床を結んだカントリー線を境に左葉・右葉に分け,さらに,左葉は肝鎌状間膜を境に左を外側区域,右を内側区域,右葉は右肝静脈を境に右を後区域,左を前区域と分類している。)には,ごま粒大の小さな腫瘍を2個認めるだけで,その 線を境に左葉・右葉に分け,さらに,左葉は肝鎌状間膜を境に左を外側区域,右を内側区域,右葉は右肝静脈を境に右を後区域,左を前区域と分類している。)には,ごま粒大の小さな腫瘍を2個認めるだけで,そのほとんどが右葉及び左葉内側区域に存在していた。その上,中肝静脈と左肝静脈の合流部にある大きな腫瘤は,拡大肝右葉切除を行う場合に残存させるべき左肝静脈と接触しておらず,1㎝程度の距離があった。そこで,被告D医師は,亡N及び原告Aに説明していなかったものの,拡大肝右葉切除術を行えば,肝臓のがんの根治術も可能であると判断し,肝切除術を行うこととした。〔甲3,乙3の2,5の7の1,8の2,10の12,証人Q85,被告D本人8-65~70,9-58~60,67~69,78~82〕(ウ) 被告D医師は,キューサー(超音波外科吸引装置)やモスキートペアンを使用しながら,まず肝動脈,胆管,門脈各右枝を結紮切離して肝右葉の血行を遮断し,右肝静脈を処理した後,肝実質を少しずつ圧挫しながら切断・剥離する作業を進め,その結果,中肝静脈と左肝静脈の合流部で中肝静脈を結紮切離すれば,合流部にある大きな腫瘤とともに肝右葉を完全に切除できる状態となった。そこで,被告D医師は,中肝静脈を処理しようと,モスキートペアンを用いて合流部の腫瘤の裏側に回り込んでいったが,腫瘤が手前にあって十分な視野を確保できずにいたところ,モスキートペアンが中肝静脈と左肝静脈の合流部辺りに当たったため,同所の血管が損傷され,そこから出血を来した。 なお,中肝静脈と左肝静脈の合流部の形態は,7割以上が下大静脈流入部から1㎝以内に両静脈の分岐をもつが,亡Nのそれは,下大静脈流入部から1㎝以内は共通管のみで,さらに末梢側で両静脈が分岐する,1割程度の形態であった。被告D医師は,術前 は,7割以上が下大静脈流入部から1㎝以内に両静脈の分岐をもつが,亡Nのそれは,下大静脈流入部から1㎝以内は共通管のみで,さらに末梢側で両静脈が分岐する,1割程度の形態であった。被告D医師は,術前のCT画像により,それを把握していた。〔甲7の1~4,11の3・4,乙8の2,10の11,11の1・3・4,12,証人Q138,139,被告D本人8-75~78,82~98,9-126,135,172〕(エ) 被告D医師は,出血した血液が視野を妨げ,正確な出血部位を確認することができなかったため,出血部位辺りにいったんサテンスキー鉗子をかけて止血し,視野を得るために中肝静脈を手前で切離して,切除すべき肝臓を取り除いた。なお,切除部分は,肝臓の70%程度に及んだ。 次いで,被告D医師は,サテンスキー鉗子を外して出血部位を確認したところ,左肝静脈に沿って長さ1㎝くらいの細い裂け目が確認できた。 そこで,被告D医師は,同人が通常使用する縫合糸である4-0ネスピレン糸(左側の数字が大きくなるほど糸の直径は細くなる。)を用いて,出血部位を縫合止血しようとしたが,血管が裂けて止血することができなかったため,血管外科を専門とするL病院副院長のR医師にその縫合を依頼したが,縫合止血することはできなかった。そのため,被告D医師は,アビテンフラワー,トロンビン,熱生理食塩水を用いて圧迫止血を行った上,食道と空腸を吻合して消化管を再建し,午後11時ころ手術を終えたが,術後出血の管理のため,亡Nを集中治療室に搬入した。なお,出血から上記圧迫止血までに約4時間30分を要し,亡Nの術中の出血量は,1万1000ãに達した。〔甲11の5,乙1の6,3の2・3,7の1,8の2・3,10の10,11の2,20の2,被告D本人8-73,74,104, までに約4時間30分を要し,亡Nの術中の出血量は,1万1000ãに達した。〔甲11の5,乙1の6,3の2・3,7の1,8の2・3,10の10,11の2,20の2,被告D本人8-73,74,104,113,114,127~133,9-98,147〕(オ) 術後,被告D医師は,原告A及び訴外Oらに対し,胃,脾臓及び膵体尾部を切除したこと,それ以外は肝臓への転移がみられるのみで,肝切除術を行えば,亡Nが当時53歳とまだ若く,肝臓も正常で予備能も十分と考えられることから,3人に1人は助かる可能性があること,そのため,肝切除術を併せて行ったが,その際に出血し,手術時間の約半分はその止血に要したこと,術後出血の管理のために亡Nを集中治療室に搬入することを説明した。これに対し原告Aは,被告D医師の実施した手術が術前の説明と異なっていたものの,亡Nのためを思って実施してくれたものであると考え,直ちに苦情を述べることなく,今後の経過を見守ることとした。〔甲4,6,原告A本人50~54〕エ術後の経緯術後,亡Nは,腹痛を訴えたり,呼びかけに対して開眼してうなずくなど,意識は低下していなかった。ところが,6月3日午前8時ころから,開眼しているが眼球は上方に固定し,呼応もしなくなって,それ以後,亡Nの意識が戻ることはなかった。 原告らは,術後,徹夜で亡Nの看護に当たるなどしていたところ,同月5日,被告D医師は,原告ら亡Nの親族約10名に対し,CT画像等を示しながら,亡Nに対して術前予定していなかった肝切除術を行ったこと,その際の出血を契機として亡Nが危篤状態にあること等を説明した。 そして,同月8日午前7時5分,亡Nは,圧迫止血等による左肝静脈の狭窄から循環不全を招き,術後急性肝不全により死亡した。〔甲1,2 の出血を契機として亡Nが危篤状態にあること等を説明した。 そして,同月8日午前7時5分,亡Nは,圧迫止血等による左肝静脈の狭窄から循環不全を招き,術後急性肝不全により死亡した。〔甲1,2,6,乙1の4,5の8の1,5の10の1~17,証人Q107~109,171,原告A本人58~62,鑑定の結果〕(2) 上記認定事実に基づき,被告D医師の過失の有無について検討する。 ア器具操作及び止血方法の過失について証拠(甲17の2,乙12,13,16の3,鑑定の結果)によれば,右葉切除以上の肝切除が行われる場合には,正常に機能している肝臓が大量に切除される結果,術後の肝不全や合併症を併発する危険が高くなること,肝予備能が正常である場合,70ないし80%の肝切除が可能であるが,それは肝の循環動態が安定している場合に限られ,静脈壁の損傷や圧迫止血等により肝静脈が狭窄する場合には,循環不全から肝予備能の低下をもたらし,肝不全に至る危険があることが認められる。そうすると,亡Nに対し,肝臓の70%程度に及ぶ拡大肝右葉切除術を行った被告D医師は,術後の肝予備能を維持し,肝不全の発生を防止するため,左肝静脈の循環動態を安定させる措置を講じなければならず,狭窄の原因となる左肝静脈の損傷や圧迫止血等を回避すべき義務を負うというべきである。ところが,上記認定事実によれば,被告D医師は,術中所見により肝臓の腫瘍切除が可能であると判断し,当初は困難な手術であるとして予定していなかった同切除を断行したものであるところ,モスキートペアンの操作により亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部辺りを損傷した上,その圧迫止血を行った結果,左肝静脈の狭窄から循環不全を招き,術後急性肝不全により亡Nを死亡させたものであるから,左肝静脈の損傷やその圧迫止血がや 亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部辺りを損傷した上,その圧迫止血を行った結果,左肝静脈の狭窄から循環不全を招き,術後急性肝不全により亡Nを死亡させたものであるから,左肝静脈の損傷やその圧迫止血がやむを得ないものであった事情が主張立証されない限り,被告D医師には,亡Nに実施した肝切除術におけるモスキートペアンの操作や止血方法につき,過失があったものと推定されるというべきである。 被告らは,亡Nの左肝静脈が脆弱であったため,4-0ネスピレン糸での縫合止血ができず,圧迫止血はやむを得ない旨を主張する。 しかし,亡Nの左肝静脈が通常に比べて特に脆弱であったことを認めるに足りる証拠はない。鑑定人は,その鑑定意見書において,亡Nの左肝静脈が通常より細いため,静脈壁が薄く脆弱であると記載しているが,これは被告らの主張に基づいて記載したものにすぎず,客観的証拠に基づくものではない(証人Q160~165)。 また,被告らは,亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部が通常より末梢側にあるため,左肝静脈が細くて脆弱である旨を主張する。 確かに,上記認定事実によれば,亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部は,下大静脈から1㎝以内に両静脈の分岐をもたず,さらに末梢側で分岐する,1割程度の形態であったことが認められる。しかし,このことから,亡Nの左肝静脈の出血部位が,下大静脈から1㎝以上末梢側であり,同静脈から1㎝以内の部分に比べて,左肝静脈が細くなった部分であると認められるとしても,そのことから,亡Nの左肝静脈が,どのような縫合方法によっても縫合止血できないほどに脆弱であったとは認めることができない。かえって,被告D医師は,亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部がそのような形態であることを術前のCT画像により把握し,出血部位が合流部であることも 血できないほどに脆弱であったとは認めることができない。かえって,被告D医師は,亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部がそのような形態であることを術前のCT画像により把握し,出血部位が合流部であることも認識していたのであるから,合流部が末梢側にあることにより左肝静脈が細く,そのことから直ちに縫合止血ができないほどに脆弱であるといえるのであれば,縫合止血を行おうとした被告D医師の医療行為を理解することができない。なお,証拠(甲7の2,甲8の2)中には,肝静脈は脆弱である旨の記載があるが,その縫合止血ができないものとはされておらず,鑑定人も,その鑑定意見書において,一般的には縫合止血が可能である旨を述べている。 なお,被告らは,腫瘍があることによって中肝静脈を処理するための十分な視野が得られなかったため,モスキートペアンで左肝静脈を損傷したことがやむを得なかった旨を主張する。 上記(1)ウの認定事実によれば,被告D医師は,亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部に大きな腫瘤があったため,中肝静脈を処理するための十分な視野を確保できなかったものである。しかし,被告D医師は,術前のCT画像で亡Nの中肝静脈と左肝静脈の合流部の形態及び上記腫瘤の存在とそれに伴う手術の困難性を認識していたこと,上記腫瘤と左肝静脈との間には1㎝程度の距離があったこと等に鑑みると,十分な視野を確保できなかったことから,直ちに左肝静脈の損傷がやむを得なかったとまではいい難い。 以上によれば,被告D医師の器具操作及び止血方法には,過失があったものというべきである。 イしたがって,その余について判断するまでもなく,被告D医師は,不法行為責任(民法709条,711条)に基づき,被告F株式会社は,使用者責任(同法715条)に基づき,上記過失によって亡N及び イしたがって,その余について判断するまでもなく,被告D医師は,不法行為責任(民法709条,711条)に基づき,被告F株式会社は,使用者責任(同法715条)に基づき,上記過失によって亡N及び原告らが被った損害を連帯(不真正連帯)して賠償すべき義務がある。 2 争点(2)(損害額)について(1) 逸失利益前記1(1)の認定事実及び証拠(甲6,乙10の15,16の4,鑑定の結果)によれば,①亡Nは,死亡当時53歳で,原告ら家族3名と同居する主婦であったこと,②金沢大学医学部第2外科の清水康一講師及び宮崎逸夫教授は,「PRACTICALONCOLOGY」と題する著書の中で,昭和51年から平成7年までに同外科において行われた胃がんを原発腫瘍とする転移性肝がんの初回肝切除例17例のうち,3年生存率は24%,5年生存率は0%で,肝臓以外に転移がなく,胃と肝臓の治癒切除ができた10例では,3年生存率は40%,5年生存率は0%であったと報告するとともに,5年数か月前で生存率が0%になった旨を図示していること,③京都府立医科大学第2外科の落合登志哉医師は,「肝臓外科の要点と盲点」と題する著書の中で,過去30年間の胃がん肝転移例284例のうち,肝転移巣が手術されたのはわずかに30例で,そのうち胃と肝臓の治癒切除例は22例であったが,4例は肝転移切除後5年以上生存していたと報告するとともに,観察期間の十分あった21例の予後に関し,生存率に有意差のある因子は漿膜浸潤の有無であるとして,漿膜浸潤がない場合には5年生存率は60%で,漿膜浸潤がある場合には,3年6か月で生存率が0%になった旨を図示していること,④鑑定人は,その鑑定意見書において,胃がん肝転移の治癒切除例の予後を論ずることは難しいが,全国の報告例のうち,症例数の比較的多い金 場合には,3年6か月で生存率が0%になった旨を図示していること,④鑑定人は,その鑑定意見書において,胃がん肝転移の治癒切除例の予後を論ずることは難しいが,全国の報告例のうち,症例数の比較的多い金沢大学における胃がん肝転移の治癒切除例の3年生存率は40%,5年生存率は0%で,全国的にもこの予後が良好といえると述べていること,また,胃全摘,膵体尾部切除に加えて拡大肝右葉切除術が行われた亡Nには,抗がん剤の投与等のため,術後3か月の入院が必要であるとともに,退院後も2ないし3か月の介護は必要であろうと述べていること,⑤亡Nは,その後も,抗がん化学療法のために入院も必要となることが認められる。 上記認定事実によれば,亡Nの余命は,被告D医師の過失がなかったとしても,5年を超えることはなかったものと認められるところ,術後の入院期間や退院後の介護期間を考慮しても,亡Nは,少なくとも4年間は主婦として稼働できたものと認められる。 もっとも,亡Nは,胃全摘,膵体尾部切除,拡大肝右葉切除術等に伴う後遺症の発生は避けられず,化学療法を行うための入院も必要であったと認められるから,従前どおりの家事労働に従事することはできず,労働能力の20%喪失の範囲で,被告D医師の過失との因果関係を認めるのが相当である。 そこで,亡Nの逸失利益を,平成7年度賃金センサス産業計,企業規模計,学歴計の女子労働者50歳から54歳までの平均年収額348万2000円を基礎に,生活費として40%を控除し,4年のライプニッツ係数3.5459を用いて計算すると,以下の算式により,148万1618円となる。 3,482,000円×0.2×(1-0.4)×3.5459=1,481,618円(2) 慰謝料亡N及び原告らは,1日でも共に生きようとする亡N より,148万1618円となる。 3,482,000円×0.2×(1-0.4)×3.5459=1,481,618円(2) 慰謝料亡N及び原告らは,1日でも共に生きようとする亡Nの余生を信頼した医師に奪われた結果となったこと,その死亡までの期間,原告らの看護状況,亡Nの年齢や病態等,本件に現れた一切の事情を考慮すると,亡Nの慰謝料は1000万円,原告Aの慰謝料は300万円,原告B及び同Cの慰謝料はそれぞれ100万円と認めるのが相当である。 (3) 葬祭費本件と相当因果関係の認められる葬祭費は,120万円と認めるのが相当である。 (4) 原告らの相続分亡Nの逸失利益148万1618円及び慰謝料1000万円の合計1148万1618円のうち,原告Aの相続分(2分の1)は574万0809円,原告B及び同Cの相続分(各6分の1)は,それぞれ191万3603円である。 その結果,原告Aは,994万0809円(葬祭費を含む。)の,原告B及び同Cは,それぞれ291万3603円の各損害賠償請求権を取得した。 (5) 弁護士費用本件事案の内容,審理経過及び認容額等に照らすと,被告D医師の不法行為と相当因果関係がある弁護士費用は,原告Aにつき100万円,原告B及び同Cにつき,それぞれ25万円と認めるのが相当である。 (6) 合計以上によれば,原告Aの損害額は合計1094万0809円,原告B及び同Cの損害額は,それぞれ合計316万3603円となる。 3 よって,原告Aの請求は,被告らに対し,連帯して損害賠償金1094万0809円及びこれに対する不法行為後である平成7年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告B及び同Cの各請求は,被告らに 帯して損害賠償金1094万0809円及びこれに対する不法行為後である平成7年6月9日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で,原告B及び同Cの各請求は,被告らに対し,連帯して損害賠償金316万3603円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を求める限度でそれぞれ理由があるが,その余は理由がないから,主文のとおり判決する。 (口頭弁論終結日平成13年12月18日)福岡地方裁判所小倉支部第2民事部裁判長裁判官古賀寛裁判官大山徹裁判官村田文也は,転補につき,署名押印することができない。 裁判長裁判官古賀寛
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