令和3(わ)151 業務上過失致死傷被告事件

裁判年月日・裁判所
令和5年3月24日 福島地方裁判所
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判決文本文16,253 文字)

1 宣 告 日 令和5年3月24日事件番号 令和3年第151号事 件 名 業務上過失致死傷 主文被告人を禁錮2年に処する。 未決勾留日数中40日をその刑に算入する。 訴訟費用は被告人の負担とする。 理由(罪となるべき事実)被告人は、A船(船舶の長さ10.77m、用途プレジャーモーターボート)に船長として乗り組み、同船の操船業務に従事していたものであるが、令和2年9月6日午前10時58分頃、福島県会津若松市甲町(住所省略)所在の株式会社eから東北東286.341m付近の乙湖上を北東に向けて時速約15ないし20kmで航行するに当たり、針路前方左右の見張りを厳に行い、その安全を確認しながら航行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、針路前方左右の見張りを厳に行わず、その安全確認不十分のまま漫然前記速度で航行した過失により、折から、針路前方で、いずれもザップボードに乗るためにライフジャケットを着用して湖上に浮かんでいたa(当時8歳)、b(当時35歳)及びc(当時8歳)に気付かないまま、前記aら3名に自船後部に設置された推進器の回転中のプロペラを接触させ、よって、前記aに脳損傷及び上半身と下半身の離断を含む多発外傷に伴う失血の傷害を負わせ、その頃、同所において、同人を前記傷害により死亡させるとともに、前記bに加療約237日間を要する両下腿不全切断等の傷害を、前記cに加療約142日間を要する両下腿挫創及び左脛骨内果骨折の傷害をそれぞれ負わせたものである。 (証拠の標目)2 省略(事実認定の補足説明)第1 争点関係証拠によれば、判示の日時に、被告人が操船していたA船が、b、a、cに衝突する事故(以下「本件事故」という。)が発生し、 の標目)2 省略(事実認定の補足説明)第1 争点関係証拠によれば、判示の日時に、被告人が操船していたA船が、b、a、cに衝突する事故(以下「本件事故」という。)が発生し、同人らに判示の各死傷結果が生じたことが認められ、当事者間に争いもない(以下、bら3名及びdを併せて「被害者ら」ということがある。)。 本件の争点は、被告人の過失の有無であり、弁護人は、被告人には予見可能性がなく、被告人は前方左右の見張りを適切に行っていたが、被害者らを発見することは困難であったとして、被告人には過失がなく、無罪である旨主張している。 当裁判所は、判示のとおり、被告人に過失が認められると判断したので、以下、その理由を述べる。 第2 認定事実関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 1 乙湖西部に位置する丙浜湾の状況等⑴ 本件事故が発生した乙湖西部に位置する丙浜湾は、東側、南側及び西側が陸地に囲まれた地形である。湾内西側には西側と北側の陸地と東側の岬に囲まれた入り江があり、入り江内には株式会社eが管理する桟橋(以下「本件桟橋」という。)が設置され、船舶の発着に用いられていた。本件事故当時、前記岬の東側には、特殊小型船舶免許試験に使用するブイ12個が6個ずつ東西2列(以下「本件ブイ列」という。)に設置されていた。 ⑵ 乙湖では、乙湖水面利活用基本計画に基づき、水面利活用に係るゾーニング計画が策定されている。当該ゾーニング計画は、各区域の目安を示すためのものであり、明確な線引きの上で区分けされたものではないが、丙浜のある湖西(会津若松)エリアのゾーニング計画によれば、丙浜の西側3 岬から約150m以内の区域は、船舶の航行及び遊泳が禁止される船舶航行禁止区域とされ、150m以遠の区域は遊泳が禁止さ 丙浜のある湖西(会津若松)エリアのゾーニング計画によれば、丙浜の西側3 岬から約150m以内の区域は、船舶の航行及び遊泳が禁止される船舶航行禁止区域とされ、150m以遠の区域は遊泳が禁止される船舶航行区域とされている。 当該ゾーニング計画に関する周知活動は、水面利用関係の各種団体に委ねられていたが、本件事故当時、丙浜周辺には、当該ゾーニング計画の周知を目的とした看板等は設置されていなかった。 2 本件当日の天候及び丙浜湾内の状況等⑴ 本件事故が発生した時間帯には、丙浜周辺は晴れており、猪苗代観測所における平均風速は秒速3.7ないし4.6mであった。 ⑵ 本件事故当時、丙浜湾内では、被告人及びその知人の船舶や、A船の周囲を航行していた複数の水上バイクのほか、複数の水上バイクやトーイングボートが航行していた。 3 A船の形状等⑴ A船は、長さ10.77m、総トン数6.6tで、二基の推進器に取り付けられたプロペラが回転することによって推進する船舶である。9名が乗船した場合の制動距離は、時速10kmでは約8.442mであり、時速15kmでは約14.173mである。 ⑵ A船と同種のプレジャーボートは、増速の過程において船首部が持ち上がって死角が生じるため、一時的に操縦者から見た船首方の見通しが悪化するが、更に増速するのに伴って船首部が下降し、船首方の見通しが良くなるという性質を有する。運輸安全委員会作成の本件事故に係る船舶事故調査報告書によれば、A船の操縦席から最も死角が大きくなる方向は、正船首方の見通し線から左舷方約4.6度の方向であり、停止状態の場合、約19mより手前の水面が死角となり、死角が最大となる時速約16.7kmの場合には、約480mより手前の水面が死角となる。また、時速約16.7kmの場合、操縦席から正 の方向であり、停止状態の場合、約19mより手前の水面が死角となり、死角が最大となる時速約16.7kmの場合には、約480mより手前の水面が死角となる。また、時速約16.7kmの場合、操縦席から正船首方を真っ直ぐ見たときには、約14 90mより手前の水面が死角となる。 4 被害者ら⑴ bとその夫、長男のd及び次男のa4名と、c及びその両親の3名は、本件当日、丙浜湾内において、ザップボードやウエイクボードを水上バイクで引っ張って遊ぶトーイングスポーツに興じていた。 ⑵ 本件事故当時、被害者らは、ザップボードの順番待ちをするために水上バイクから降り、本件ブイ列のうち、東側の列の最も南側のブイ(以下「本件ブイ」という。)の東側の湖上に、北側の沖の方を向いて浮かんでいた(以下、被害者らが浮いていた湖上付近を「本件事故現場」という。)。被害者らの具体的な位置関係は、沖の方を向いているbの左斜め前方の、左手を伸ばして届くか届かないかの距離にa、bの右斜め前方の、右手を伸ばして届く距離にc、bの右斜め前方約2mの位置にdがそれぞれ浮かんでいるというものであった。このとき、被害者らは、仰向けに浮くこともあったが、自ら泳いで移動することはなく、いずれも肩辺りから上が水面から上に出ている状態であった。 bの夫及びcの両親は、被害者らが水上バイクから降りた後、水上バイクに乗って移動しており、本件事故当時、本件事故現場の周辺には水上バイクやザップボード等は存在しなかった。 ⑶ 本件当日に被害者らが着用していたライフジャケットの肩部分の色は、それぞれ、bが黒色、aが青色、cがオレンジ色や青色、dが黄色であり、ラッシュガード(舞子については、パーカーのためフードが付いている。)の色は、それぞれ、bが白色、aが紺色、cが黒色、dが緑色であった。 bが黒色、aが青色、cがオレンジ色や青色、dが黄色であり、ラッシュガード(舞子については、パーカーのためフードが付いている。)の色は、それぞれ、bが白色、aが紺色、cが黒色、dが緑色であった。 ⑷ 被害者らの身長及び体重は、bが身長約150cm、体重約50kg(本件事故当時)、aが身長117.7cm、体重21.1kg(令和2年3月31日当時)、cが身長123.0cm、体重29.0kg(同年11月17日当時)、dが身長127.6cm、体重27.8kg(同年5 3月31日当時)であった。 5 本件事故に至る経緯等⑴ 被告人は、本件当日、知人を多数連れて丙浜を訪れ、株式会社eに到着後、男女合計9名をA船に乗せて本件桟橋から出航した。被告人と共に丙浜を訪れたfは、自己の船(船舶の長さ6.6m、用途プレジャーモーターボート。以下「B船」という。)にg及びhの2名を乗せて、A船の後に続いて本件桟橋から出航した。 ⑵ A船は、南方に航行して前記入り江を出た直後、エンジンが停止し、C地点付近(以下「本件停泊地点」という。)において、船首を東北東方(丙浜湾東側にある丙浜湖水浴場方向)に向けて一時的に停泊状態となった。A船が停泊状態となっていた間、A船に同乗していたi及びjは、A船の前方及び左舷方に向けて画像や動画を撮影した。i及びjが撮影した画像や動画には、いずれも、1個の白色浮遊物及び複数の黒色浮遊物が写っていた。 ⑶ B船は、停泊状態となっていたA船の後方を通過してA船の右舷側に出てから左転し、A船を追い抜いた。B船がA船を追い抜く際、hは、停泊していたA船に向けて動画を撮影した。hが撮影した動画には、A船の左舷方前方の湖上に1個の白色浮遊物及び黒色浮遊物が写っていた。 ⑷ fは、A船を追い抜いた後、湾外に出るために、左に舵を切っ 、停泊していたA船に向けて動画を撮影した。hが撮影した動画には、A船の左舷方前方の湖上に1個の白色浮遊物及び黒色浮遊物が写っていた。 ⑷ fは、A船を追い抜いた後、湾外に出るために、左に舵を切って北東に針路をとり、時速約10ないし15kmで航行していたところ、約141m前方、本件ブイの東側付近の湖上に、ブイではない何かが浮かんでいるのを目にした。fは、目を凝らしてよく見てこれを確認したところ、3人くらいの人が浮かんでいるのを視認し、舵を右に切って同人らの東側を航行して衝突を回避した。 ⑸ 被告人は、A船のエンジンを再始動した後、前記丙浜湖水浴場方向に針路をとり、概ね湾の中心くらいまで航行してから、左転して湾外の方向に6 航行するつもりであったが、前記のとおり、A船を右舷方から追い抜いたB船が、被告人の想定よりも早く左転し、A船の針路前方に進出したことから、A船の左舷方を航行していた2台の水上バイク等の動向も確認しながら、予定していた地点よりも手前で左転し、本件事故現場の方向に針路をとった。 6 本件事故被告人は、被害者らの存在を認識することなく、本件事故現場の方向に針路をとったまま航行を続けた。被害者らは、A船のエンジン音で、A船が迫ってきていることを認識したが、パニック状態で身動きができずに、判示の地点であるD地点付近(湖水際までの距離約128.665m。以下「本件衝突地点」という。)でA船と衝突した。 なお、本件衝突地点については、本件事故後の捜査におけるdの指示説明に基づき認定したものであるところ、同地点が、aの下半身等が発見された地点や、本件事故を間近で目撃したkが衝突地点として指示説明した地点とも非常に近接していることなどからして、dの指示説明は、基本的に信用することができる。もっとも、湖での衝突地点を正 等が発見された地点や、本件事故を間近で目撃したkが衝突地点として指示説明した地点とも非常に近接していることなどからして、dの指示説明は、基本的に信用することができる。もっとも、湖での衝突地点を正確に特定することはそもそも困難であると解されることや、aの遺体も波や風の影響で一定程度流されていた可能性があることなどからすると、衝突地点はある程度広い幅を持った認定とならざるを得ず、判示の「付近」は、そのような幅も含む趣旨である。 7 A船からの視認状況に関する実況見分⑴ A船からの湖上の視認性を確認するため、福島県警は、令和2年11月18日、被告人立会いの実況見分(以下「本件実況見分」という。)を行った。本件実況見分は、被害者らが浮かんでいた状況を再現するため、成人女性を模したマネキン(長さ160cm、重さ6.1kg)1体と、子供を模したマネキン2体(長さ119ないし121cm、重さ4.5k7 g)、上半身型マネキン1体(長さ82cm、重さ2.9kg)を用意し、成人女性を模したマネキンには、bが着用していたものと同様の機能性を有し、肩部分の色が白色又は灰色のライフジャケットを、子どもを模したマネキン及び上半身型マネキンのうち、1体にはcが着用していたものと同様の機能性を有し、肩部分の色が黄色のライフジャケットを、残りの2体にはa及びdが着用していたものと同じライフジャケットをそれぞれ着用させて、本件衝突地点に浮かべ、被告人に、本件桟橋から、本件事故当時と同様の航路でA船を航行させ、マネキンが見えた地点を指示説明させるというものであった。被告人は、本件実況見分において、前記入り江を出てすぐのE地点付近(以下「マネキン発見地点」という。)において、A船の操縦席から、「黄色、白、オレンジ、青の色がはっきり見えます」と指示説明した た。被告人は、本件実況見分において、前記入り江を出てすぐのE地点付近(以下「マネキン発見地点」という。)において、A船の操縦席から、「黄色、白、オレンジ、青の色がはっきり見えます」と指示説明した。本件衝突地点とマネキン発見地点との直線距離は約223mであった。 ⑵ 本件実況見分を行った時間帯には、丙浜周辺は晴れており、猪苗代観測所における平均風速は秒速1.3ないし2.3mであった。 8 被告人の航行経路の再現状況福島県警は、令和2年11月18日、被告人立会いの下、丙浜湾内において実況見分を行い、被告人にA船を航行させて、本件事故当時の航行経路を特定させた上、その後3回にわたり、被告人に同航行経路を航行させ、航行経路の座標、速度、船体の角度、前方及び左前方等の視認状況を精査した。 それによれば、3回目の再現の際に、A船がマネキン発見地点付近から本件衝突地点まで航行するのに要した時間は約78秒であり、その間のA船の速度は、時速約9.5ないし14.7kmであった。また、時速13kmで航行している際に、左前方約59.3m先に浮いた本件ブイ(ただし、本件事故時に敷設されていたものとは色が異なる。)を視認することができた。 9 弁護人が行った再現見分の内容及び結果8 弁護人は、令和4年9月30日、A船からの本件衝突地点の視認状況を明らかにする目的で、被告人立会いの下、再現見分(以下「弁護人再現見分」という。)を行った。弁護人再現見分は、全長約6mのプレジャーボートを用意し、仮想被害者(身長167.1cm、体重53kgの男性)に白色パーカー、黒色ライフジャケットを着用させて、本件衝突地点に、沖の方を向いて仰向けに近い状態で浮かばせ、3地点(前記8のとおり、福島県警が被告人に航行経路を特定させた際に、被告人が、①株式会社eクラブハウ ー、黒色ライフジャケットを着用させて、本件衝突地点に、沖の方を向いて仰向けに近い状態で浮かばせ、3地点(前記8のとおり、福島県警が被告人に航行経路を特定させた際に、被告人が、①株式会社eクラブハウス桟橋先端を避けて舵を切った地点、②湖水浴場に船首を向けて舵を切った地点、③丁山の北端に船首を向けて舵を切った地点として、それぞれ特定した地点)における、前記ボートからの視認状況を確認するというものであった。弁護人再現見分において、被告人は、前記①の地点では、何も見えず、前記②の地点では、仮想被害者がパーカーのフードを被っていれば、10秒以上本件衝突地点を見続けることで白い小さいものが浮いているように見え、前記③の地点では、仮想被害者がフードを被っているか否かにかかわらず、前記の視認方法により白又は黒の小さいものが浮いているように見えたと説明した。 第3 予見可能性について1 前記認定事実1⑴、6のとおり、本件事故現場は、丙浜湾内であり、陸地からの距離も近いことから、沖合と比べて湖上に人が存在する可能性は高い場所といえる。また、認定事実2のとおり、本件事故当時には、複数の水上バイクやトーイングボートが湾内を航行していたところ、水上バイクは、通常の船舶に比して転覆するなどして落水者が生じやすく、トーイングスポーツは、人が搭乗するトーイング遊具をボートなどでえい航するという性質上、人の落水も当然に想定されるものである。そうすると、本件事故現場が、湖上に浮かんでいる人の存在をおよそ想定できない水域であるとはいえない。 そして、被告人の供述によれば、被告人も、本件以前に丙浜湾内を多数回航行した経験を有するのであるから、本件事故現場が、水上バイクやトーイ9 ングボートが航行する水域であることを認識していたと認められ、本件事故当時も、A船 被告人も、本件以前に丙浜湾内を多数回航行した経験を有するのであるから、本件事故現場が、水上バイクやトーイ9 ングボートが航行する水域であることを認識していたと認められ、本件事故当時も、A船の周囲において複数の水上バイクが航行し、トーイングボートが丙浜湾内を航行していることを認識していた。 以上によれば、被告人は、本件事故現場に向けて航行するに当たり、A船の針路上の湖上に浮かんでいる人が存在することを具体的に予見でき、人の存在を見落として航行することにより、長さ10.77m、総トン数6.6tで、プロペラにより推進するA船が人に衝突すれば、人を死傷させることも予見できたと認められる。 2 これに対し、弁護人は、丙浜湾内の水面利用区分上、本件衝突地点は船舶航行区域又はこれに近接する区域であったこと、A船の針路上において現にトーイングスポーツを行っている者はいなかったこと、A船の周囲の水上バイクについて落水者の存在をうかがわせる事情はなかったこと、本件事故当時、湖水浴場は開設されておらず、遊泳者も存在しなかったことなどから、人が目印などを立てず、助けを求めるなどの特段の動きもなくA船の針路上に浮かんでいることを具体的に想定することはできず、予見可能性は認められない旨主張し、50年以上の船舶操縦経験を有する証人lも、同旨の証言をする。 しかし、本件事故現場が浮かんでいる人の存在をおよそ想定できない水域とはいえないことは、前記のとおりであり、弁護人の指摘する事情は、いずれも、過失の程度に影響する事情とはいい得るものの、前記認定を左右する事情とまではいえない。 なお、弁護人は、本件衝突地点に関するdの指示説明は信用できず、fらの指示説明によれば、衝突地点は湖岸から概ね142ないし161mの範囲内であり、船舶航行区域又はこれに極めて近 とまではいえない。 なお、弁護人は、本件衝突地点に関するdの指示説明は信用できず、fらの指示説明によれば、衝突地点は湖岸から概ね142ないし161mの範囲内であり、船舶航行区域又はこれに極めて近接した場所であった旨主張しているところ、前記のとおり、本件において、衝突地点の厳密な特定は困難であり、衝突地点が船舶航行区域又はそれに近接する場所であった可能性自体10 は否定できない(ただし、本件衝突地点は、弁護人の主張する湖岸からの計測方法と同じ方法によれば136.693m付近であり、弁護人の主張する距離との違いはそれほど大きくはない。)が、そもそも、水面利用区分自体が、明確な線引きの上で区分けされたものではなく、また、丙浜におけるゾーニング計画が十分周知されていたともいえないことに照らせば、衝突地点に関する弁護人の主張は、予見可能性の認定を左右しない。 以上によれば、弁護人の主張はいずれも採用できない。 第4 結果回避可能性について1 注意義務の内容法令上、小型船舶操縦者(船長)は、小型船舶を操縦するに当たり、視覚、聴覚及びその時の状況に適した他のすべての手段により、常時適切な見張りを確保することが義務付けられており(船舶職員及び小型船舶操縦者法23条の36第5項、同施行規則138条2号)、小型船舶操縦士の教本によれば、適切な見張りとは、航行中、漂泊中、錨泊中を問わず行う、前方だけでなく全周にわたり行う、同乗者がいる場合には同乗者にも見張りを行わせるなどとされている。 よって、被告人は、小型船舶であるA船で丙浜湾内を航行するに当たり、常時適切な見張りを確保する義務を負っていたものであり、特に、人の存在が想定される水域を航行する際には、人と衝突する事故が発生する危険性が十分に認められるのであるから、針路上に浮遊物を発見し たり、常時適切な見張りを確保する義務を負っていたものであり、特に、人の存在が想定される水域を航行する際には、人と衝突する事故が発生する危険性が十分に認められるのであるから、針路上に浮遊物を発見した場合には、人でないかを確認すべき義務があるといえる。 2 被告人が被害者らを発見できたこと⑴ア 前記認定事実7⑴のとおり、本件実況見分において、被告人は、本件衝突地点から直線距離で約223m離れたマネキン発見地点から、浮いているマネキンを視認することができている。 イ この点、弁護人は、本件実況見分について、本件事故当時の状況とは11 条件が異なる点が多数あり、実施方法も不適切である旨主張する。 確かに、本件実況見分の際にマネキンが着用していたライフジャケットのうち、2つは本件事故当時、被害者らが着用していたものとは異なり、彩度も本件実況見分の際に使用したものの方がやや高いといえる。 しかし、被告人は、当公判廷において、本件実況見分の際に、ライフジャケットの色までは識別できなかったが、マネキンの頭や肩は見えた旨供述しているところ、実況見分調書添付の写真によれば、マネキンは肩から上の部分が湖面上に出ているにすぎず、マネキンと被害者らの重量の違いなどを考慮しても、被害者らがライフジャケットを着用して浮いていた場合と、頭や肩の見え方にそれほど大きな違いがあるとは考え難い。また、そうだとすると、マネキンにラッシュガードを着用させていないことが視認性に影響を与えているともいえない。 さらに、浮き方についても、bは、たまに仰向けになったと供述する一方で、肩辺りから上は湖面上に出ていたとも供述しており、本件実況見分の際のマネキンの浮き方と本件事故当時の被害者らの浮き方が大きく異なるとは考え難い。 加えて、前記認定事実2⑴によれば、本件事 一方で、肩辺りから上は湖面上に出ていたとも供述しており、本件実況見分の際のマネキンの浮き方と本件事故当時の被害者らの浮き方が大きく異なるとは考え難い。 加えて、前記認定事実2⑴によれば、本件事故当時は、本件実況見分のときよりも強い風は吹いていたものの、丙浜は晴れており、本件事故直前の状況を撮影した動画によれば、丙浜湾内に大きな波が生じていたり、白波が多数立っているような状況は見受けられない。よって、気象の影響により、本件実況見分のときと比べて、本件事故当時の視認条件がそれほど悪かったとはいえない。 したがって、弁護人の主張は採用できない。 ウ 以上によれば、本件実況見分において、被告人が、マネキン発見地点から、浮いているマネキンを視認することができたことは、被告人が、本件事故当時も、マネキン発見地点付近において、被害者らを発見する12 ことが可能であったことを相当強く推認させる。 もっとも、本件実況見分の際は、被告人はマネキンが浮いていることを予め把握しており、意識して見る場合とそうでない場合とでは見え方にも差異があると考えられることや、小型船舶の船長は、前方だけではなく、全周にわたって見張りをすべき義務を負っており、特定の場所だけを注視し続けることは困難であると解されること、日照や白波等の影響により、瞬間的に被害者らを視認することができなくなる可能性も否定し難いことなどからすると、被告人が、本件事故当時、マネキン発見地点付近において、被害者らを確実に発見することができたとまでは断定できない。 そこでさらに、マネキン発見地点から本件衝突地点までのA船の航行の状況や、その間の視認状況を踏まえて検討する。 ⑵ まず、A船は、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行することになるところ、前記認 から本件衝突地点までのA船の航行の状況や、その間の視認状況を踏まえて検討する。 ⑵ まず、A船は、マネキン発見地点を通過後、やや左に旋回しながら、本件衝突地点まで航行することになるところ、前記認定事実8によれば、A船がマネキン発見地点付近から本件衝突地点まで航行するのに要する時間は約78秒であり、本件事故当時は、A船が本件停泊地点において、しばらく停泊状態にもなっていたことからすると、更に長い時間を要したものと認められる。 そして、前記認定事実3⑵によれば、A船は、増速の過程において船首部が持ち上がって死角が生じ、船首方の見通しが悪化することから、本件事故現場の方向に針路をとった後は、いずれかの時点で、被害者らがA船の死角に入り、視認できなくなったといえるが、それまでの間は、被害者らが、A船の船首方ではなく左前方にいたことや、時速13kmで航行している際に、左前方約59.3m先に浮いたブイを視認することができること(認定事実8)などに照らすと、被害者らがA船の死角に入っていたとは考え難い(なお、運輸安全委員会の船舶事故調査報告書によれば、A13 船を時速約16.7kmで航行した場合、操縦席から最大480m先が死角となるが、その方向は正船首方の見通し線から左舷方約4.6度であり、ほぼ船体の正面といってよいから、時速13kmで航行している際に、左前方約59.3m先に浮いたブイを視認することができる、との認定との間に矛盾はない。)。 そうすると、マネキン発見地点から、被害者らがA船の死角に入るまでの間には相当長い時間があり、その間、被告人が、常時適切な見張りを行っていれば、被害者らを発見することは可能であったといえる。 取り分け、A船が本件停泊地点において停泊しているときには、死角はほとんど生じておらず、航行中と比べて、 告人が、常時適切な見張りを行っていれば、被害者らを発見することは可能であったといえる。 取り分け、A船が本件停泊地点において停泊しているときには、死角はほとんど生じておらず、航行中と比べて、前方左右の見張りも容易であったといえるのであるから、被告人が、本件停泊地点において被害者らを発見することが可能であったことは明らかである。このことは、i、j及びhが撮影した画像・動画によっても裏付けられている。すなわち、前記認定事実5⑵、⑶のとおり、A船に乗っていたi及びj並びにB船に乗っていたhが撮影した画像・動画には、白色浮遊物及び複数の黒色浮遊物が写っているところ、これらは、いずれもA船が停泊状態にあったときに、ほぼ同時に撮影されたものであると認められ、浮遊物が認められる地点がA船の左舷方前方という点で整合していることから、写っている浮遊物は、いずれも同一の物体であると推認することができる。そして、捜査復命書によれば、本件事故現場は、iの撮影地点から東北東に約207m離れた地点であるところ、前記撮影地点から東北東にそれぞれ約98m離れた地点、約197m離れた地点、約302m離れた地点の3か所に人頭大の風船を浮かべ(なお、風船はいずれも風の影響により南東方向に約19m流されていた。)、同一の機種を用いてこれを撮影した結果、画像上の浮遊物の位置と約197m離れた地点の風船の位置が概ね一致したことや、bが本件事故当時白色のフードを被っていた可能性があることに照らすと、14 この白色浮遊物及び黒色浮遊物は、被害者らであると推認することができるから、被告人も本件停泊地点から被害者らを視認できたこととなる。 ⑶ 以上によれば、被告人は、本件衝突地点を航行するに当たり、マネキン発見地点から、A船が停泊状態となった地点を経て、被害者らがA船の から、被告人も本件停泊地点から被害者らを視認できたこととなる。 ⑶ 以上によれば、被告人は、本件衝突地点を航行するに当たり、マネキン発見地点から、A船が停泊状態となった地点を経て、被害者らがA船の死角に入るまでの間、針路前方左右の見張りを十分に行っていれば、本件衝突地点で浮かんでいる被害者らを視認し、人と認識することができたと認められる。 3 本件事故が回避可能であったこと前記認定事実3⑴によれば、9名乗船時のA船の制動距離は、時速10kmのときが約8.442m、時速15kmのときが約14.173mであり、本件事故当時のA船に乗っていた人数が10名であることや、A船の速度が時速20km程度までは出ていた可能性があることを考慮しても、被害者を視認した時点で、被告人がA船を停止させたり、航路を変更したりすれば本件事故を回避することができたことは明らかである。 第5 弁護人の主張について1 A船の同乗者らが撮影した画像及び動画について弁護人は、①風船を用いて再現した撮影結果は、画像上、浮遊物と風船とでは水際からの距離が異なっていることや、拡大画像における背景の山の稜線との位置関係の差異は、風船が約19m流されたとしても説明できないことから信用できない、②白色浮遊物は白波やブイであった可能性があることなどから、A船の同乗者らが撮影した画像及び動画に浮遊物が写っていたとしても、これが被害者らであるとは認められない旨主張する。 しかし、①について、画像上における距離の違いはごくわずかであり、衝突地点より手前や奥に浮かべた風船の位置と浮遊物の位置は明らかに異なっているのであるから、浮遊物が衝突地点付近に浮かんでいたことに疑いはない。また、iが撮影した画像とこれを再現した画像は、拡大前においては概15 ね合致しており、これを拡大 位置は明らかに異なっているのであるから、浮遊物が衝突地点付近に浮かんでいたことに疑いはない。また、iが撮影した画像とこれを再現した画像は、拡大前においては概15 ね合致しており、これを拡大した結果、撮影地点からは相当離れた地点にあると考えられる背景の山の稜線との位置関係に多少の差異が生じたとしても信用性は揺るがない。 ②について、前記画像における白色浮遊物はいずれも点状であり、前記動画においても終始その形を保っているのであるから、船舶が起こす線状の白波や、風などにより一時的に生じる白波である可能性はない。また、本件ブイ列を構成していたブイは、直径約20cmで、約9cmが水上に出ていたものであるところ、仮に、前記画像及び動画に写る浮遊物がブイであるとすると、水上に出ている部分がより大きいはずの被害者らが全く写っていないのは不自然であるから、浮遊物がブイである可能性もない。 2 f以外の者は被害者らの存在に気付かなかったことについて弁護人は、本件事故当時、A船の同乗者やA船の周囲で水上バイクを操縦していた者など、f以外に被害者らが浮かんでいることに気付いた者はいなかったのであるから、被告人が被害者らを発見することは著しく困難であった可能性がある旨主張し、B船の助手席に同乗していた証人gも被害者らの存在には気付かなかった旨証言する。 しかし、A船の同乗者は船長としての見張り義務を課されておらず、被告人から見張りを指示されてもいなかったのであるから、A船の同乗者が被害者らに気付かなかったことから、被告人も同様に被害者らを発見することが著しく困難であったということはできない。また、gは、水上バイクを運転するような意識で全体を見渡すように見ていた旨証言するが、見張りの対象として最も重要と考えられるA船の位置や速度については覚えてお 著しく困難であったということはできない。また、gは、水上バイクを運転するような意識で全体を見渡すように見ていた旨証言するが、見張りの対象として最も重要と考えられるA船の位置や速度については覚えておらず、B船の後方を航行していた水上バイクの動向もあまり見ていなかった旨証言しており、gが船長と同等の見張りをしていたとは認められない。また、水上バイクの操縦者が本件衝突地点を航行しようとしたという事情はうかがえないし、水上バイクとA船とでは操縦者の視線の高さが大きく異なるため、水16 上バイクの操縦者の視認状況から被告人の視認状況を推認することはできない。 この点について更にいえば、弁護人の指摘するf以外の者の中で、小型船舶の船長として被告人と同等の見張り義務を課せられていた者はおらず、被告人と同等の見張り義務を負っていたfは、本件衝突地点に向けて航行しようとするに際し、被害者らを視認でき、かつ、衝突を回避する行動を取れたことは、同じように本件衝突地点を航行しようとした被告人にも被害者らを視認できたことの裏付けとなる事情でもある。確かに、fの視認状況と被告人の視認状況とが前提条件において異なっており、fが視認できたから被告人にも視認できたと短絡的にいえないことは弁護人の主張するとおりではあるが、fと被告人の前提条件の違いを考慮しても、被告人と同等の見張り義務を課せられたfが被害者らを視認できている以上、被告人が、本件衝突地点を航行するに当たり、被告人の置かれた状況に応じて、小型船舶の船長として常時適切な見張りを行っていれば、被害者らを視認できたことをより強く推認させる事情といえる。 なお、弁護人は、fは動きが見えたために人と気付いた旨供述しており、fが被害者らを視認できた理由は、fが目をやったちょうどそのタイミングで被害者らに人 きたことをより強く推認させる事情といえる。 なお、弁護人は、fは動きが見えたために人と気付いた旨供述しており、fが被害者らを視認できた理由は、fが目をやったちょうどそのタイミングで被害者らに人としての動きがあったからである旨主張するが、fは動いていたことは覚えている旨供述するのみで、動きが見えたために人と気付いたとは供述しておらず、弁護人の主張は前提を欠く。 3 弁護人再現見分について弁護人は、弁護人再現見分の結果によれば、被害者らが被告人の死角に入り、視認することができなくなる地点より手前の地点において、被告人が被害者らを視認することは不可能であった旨主張する。 しかし、弁護人再現見分は、bを再現した仮装被害者1名のみで実施したものであるが、本件事故時は、それぞれ異なる色のライフジャケットを着用17 した成人女性1名と子供3名が約2mの範囲で浮かんでいたのであり、仮装被害者1名のみでは本件事故当時よりも視認性は悪いといえる。また、前記再現見分に立ち会った証人(弁護人)mによれば、仮装被害者の姿勢は、首の方まで水につかる状況で、仰向けに近い状態であったとのことであるが、前記のとおり、被害者らは仰向けに浮くこともあったが、いずれも肩辺りから上が水面から出ている状態であったことからすると、仮装被害者は被害者らより見えづらい姿勢であったといえる。 そうすると、弁護人再現見分の結果は、本件事故当時に被告人が被害者らを視認することができたとの事実を揺るがすものではない。弁護人の主張は採用できない。 第6 結論以上によれば、被告人は、本件事故当時、A船の針路上に浮かんでいる人が存在し得ることを具体的に予見することができ、A船の針路前方左右の見張りを厳に行い、安全を確認して航行していれば、被害者らを発見して停止や航路の変更の 、本件事故当時、A船の針路上に浮かんでいる人が存在し得ることを具体的に予見することができ、A船の針路前方左右の見張りを厳に行い、安全を確認して航行していれば、被害者らを発見して停止や航路の変更の措置を講じて、被害者らとの衝突を回避することができたと認められる。 そして、被告人がA船の針路前方左右の見張りを怠ったこと以外に、被告人が被害者らを発見できなかった原因は考えられないから、被告人には、針路前方左右の見張りを厳に行い、その安全を確認しながら航行すべき業務上の注意義務を怠った過失が認められる。 (法令の適用)省略(量刑の理由)被告人は、針路前方左右の見張りという船舶航行上の最も基本的な注意義務に違反し、被害者らを見落として本件事故を発生させたものである。被害者らが浮かんでいた場所は、遊泳が禁止されている区域であり、通常人が遊泳していない水域18 であることや、被害者らの周囲にボート等が存在せず、被害者らも自身らの存在を第三者に容易に発見できるようにする措置を講じることなく浮かんでいたことなどの本件事故当時の状況に照らすと、被告人が被害者らを発見しにくい状況にあったことは否定できないが、そのことを考慮しても、被告人の過失の程度が小さいとまではいえない。 本件事故により、aは、回転するプロペラに巻き込まれて一瞬にして上半身と下半身とが離断されるなどするという真に痛ましい死をわずか8歳にして余儀なくされた。aが感じたであろう恐怖や、このような形で命を落とすこととなった無念さは察するに余りある。aの尊い命が失われた結果はいうまでもなく重大である。bは、両足を切断するという極めて重大な傷害を負い、義足での不自由な生活を強いられることとなった。aの死を目の当たりにさせられたことによる苦痛も大きい。 aの遺族らの心痛は計 うまでもなく重大である。bは、両足を切断するという極めて重大な傷害を負い、義足での不自由な生活を強いられることとなった。aの死を目の当たりにさせられたことによる苦痛も大きい。 aの遺族らの心痛は計り知れないものがある。cについても、5か月近い加療を要する重傷を負った。結果は非常に重大である。 他方、被告人のために酌むべき事情について検討すると、d及びその両親との関係では示談が成立していること、前科前歴がないこと、本件事故が広く報道され、被告人がインターネット上で誹謗中傷を受けたことなどが認められる。しかし、a及びbとの関係では、本件事故から2年以上が経過しているにもかかわらず、未だ何らの被害弁償もなされていない。被告人は、本件事故の報道内容について、報道機関に対する損害賠償請求訴訟を提起しており、その賠償金額の全額を被害弁償に充てるつもりである旨供述するが、その金額や支払時期はもとより、賠償の有無すら具体的に定まっていないことに鑑みると、被告人に有利に斟酌することはできない。A船には対人賠償責任保険がかけられておらず、その他の被害弁償の見込みもない。 以上によれば、被告人の刑事責任は重大である。被告人のために酌むべき事情を踏まえても、本件は、実刑をもって臨むのが相当な事案であるといえ、これまでにみた犯情及び一般情状を総合考慮し、被告人に主文の刑を科すことが相当と判断し19 た。 (求刑 禁錮3年6月)令和5年3月27日福島地方裁判所刑事部 裁判長裁判官 三 浦 隆 昭 裁判官 岩 竹 遼 裁判官 田 邊 将 高 浦 隆 昭 裁判官 岩 竹 遼 裁判官 田 邊 将 高

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