平成27(ワ)12265 不当利得返還請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年9月14日 大阪地方裁判所
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判決文本文38,357 文字)

- 1 -平成29年9月14日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成27年(ワ)第12265号不当利得返還請求事件口頭弁論終結日平成29年7月14日判決原告株式会社西本合成販売 同訴訟代理人弁護士柏木千鶴同洞 良隆被告株式会社ダブリュー・ビー・トランス同訴訟代理人弁護士宮川孝広同川口俊之 同岩本貴晴同訴訟復代理人弁護士横田紀彦 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,3197万3941円及びうち2888万6859円に対する平成27年5月23日から,うち308万7082円に対する同年10月26日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,(1)原告と被告が共有している後記巻鉄心特許に係る特許権について,被告が原告の同意なく第三者に通常実施権を許諾したとして,不当利得返還請求権又は不法行為(特許法73条3項の同意権の侵害)に基づき, 被告が受領した当該特許の実施料の半額に相当する利得の返還又は損害の賠償及び- 2 -これに対する請求日の翌日又は不法行為の後の日である平成27年5月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)原告が被告から変成器用のフレームの製造,販売を委託され,被告に対して販売価格の3%に相当する実施料を支払っていたが,その金員は被告が有していた後 の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,(2)原告が被告から変成器用のフレームの製造,販売を委託され,被告に対して販売価格の3%に相当する実施料を支払っていたが,その金員は被告が有していた後記フレーム特許の実施料であったとして,不当利得返還請求権に基づき,その特許権 が消滅した後に支払った実施料に相当する利得の一部の返還及びこれに対する請求日の翌日である同年10月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 なお,上記(1)の不法行為に基づく損害賠償請求権は,原告準備書面(2)(平成28年4月1日付け)による訴えの変更を経て追加されたものである(なお,請求の 趣旨は変更されなかったから,民事訴訟法143条2項の「請求の変更」には当たらない。)。 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお,本判決における書証の掲記は,枝番号の全てを含むときはその記載を省略する。) (1) 当事者等ア原告は,昭和60年2月16日に設立された電子機器等に関するプラスチック製品の製造販売,トランスホーマーに関する部品の製造販売,電子部品の製造販売等を目的とする株式会社である(乙7)。 イ P1は,平成5年以前から現在に至るまで,原告の代表取締役を務めて いる。 ウ被告は,平成13年2月6日に設立されたコイルボビン式巻鉄心変圧器の開発・製造・販売等を目的とする株式会社である。 エ P2は,昭和37年4月に川崎製鉄株式会社(現在のJFEスチール株式会社。以下「川崎製鉄」という。)に入社し,昭和59年11月からその子会社 である川鉄電設株式会社(現在のJFEプラントエンジ株式会社。以下「川鉄電設」- 3 -という。 FEスチール株式会社。以下「川崎製鉄」という。)に入社し,昭和59年11月からその子会社 である川鉄電設株式会社(現在のJFEプラントエンジ株式会社。以下「川鉄電設」- 3 -という。)に出向し,平成元年4月からは川鉄電設に移籍し,変圧器事業室長を務めるなどし,平成13年3月に同社を退職した。被告代表者は,同年2月に被告を設立し,その後,被告の代表取締役を務めている(乙23)。 (2) WBトランスの開発と基礎出願,甲1契約の締結ア川鉄電設は,平成5年以前から,変成器(変圧器)であるSCトランス (SpiralCoreTransformer)を製造,販売していたが,製造効率の課題やコスト面の問題があり,製造を中止したことから,SCトランスに代わる変成器の開発を行うようになった。 イ川鉄電設は,原告の関与の下,新たな変成器の開発を進め,川鉄電設の変成器事業室長であった被告代表者と原告代表者は,平成6年5月までに,コイル ボビン式巻鉄心変圧器であるWBトランス(Wound-core-TypeTransformerwithCoilBobbin)の発明を完成させ,それぞれ川鉄電設と原告に対し,その発明に関する特許を受ける権利を承継した。 このWBトランスは,プラスチック製のコイルボビンを用い,これに導線を巻き付けて巻線を設け,さらに巻線に鉄心を巻き込んで巻鉄心を形成して製造される。 そのため,SCトランスで従来行われていた,型枠から巻線を取り外したり,巻線の外周を絶縁テープ等の絶縁部材により被覆したりする作業は不要となった(甲6,23,28,34,乙23)。 ウ川鉄電設と原告は,同月2日,「工業所有権に関する共有並びに実施契約書」(甲1)により,次の内容の契約(以下「甲1契約」といい, する作業は不要となった(甲6,23,28,34,乙23)。 ウ川鉄電設と原告は,同月2日,「工業所有権に関する共有並びに実施契約書」(甲1)により,次の内容の契約(以下「甲1契約」といい,この契約書を「甲 1契約書」という。)を締結した(甲1。なお,以下では,甲1における「甲」を「川鉄電設」,「乙」を「原告」とそれぞれ読み替えて記載する。)。 (ア) 川鉄電設と原告とは,両者の「共同名義で出願する添付別紙記載のコイルボビン式巻鉄心トランスに関する特許若しくは実用新案登録並びに意匠登録出願各1件(総称して,以下「本発明」という。)の共有並びに実施に関し,次の通り 契約を締結する。」- 4 -「別紙」「特許若しくは実用新案登録並びに意匠登録出願名称コイルボビン式巻鉄心トランス(仮称)発明者川鉄電設株式会社 P2株式会社西本合成販売 P1 出願者川鉄電設株式会社株式会社西本合成販売出願予定日平成6年5月31日」(イ) 「川鉄電設および原告は,本発明の特許若しくは実用新案登録並びに意匠登録を受ける権利,並びに取得した特許権若しくは実用新案権並びに意匠権を 川鉄電設・原告の共有とし,その権利の持分は,川鉄電設は全体に関して,原告はコイルボビンに関する事項について有するものとする。即ち,トランス用コイルボビンについての権利は川鉄電設・原告の共有とし,トランスについての権利は川鉄電設が有する。」(第1条)(ウ) 「本発明を外国出願しようとする場合は,出願の可否,出願人,費用 の分担等につき,川鉄電設・原告別途協議のうえ,決定する。」(2条2項)(エ) 「本発明に基づく製品…を構成するコイルボビン…の製 発明を外国出願しようとする場合は,出願の可否,出願人,費用 の分担等につき,川鉄電設・原告別途協議のうえ,決定する。」(2条2項)(エ) 「本発明に基づく製品…を構成するコイルボビン…の製造は原告が行う。但し,川鉄電設の製造権は留保される。」(第3条)(オ) 「原告は原則として製造したコイルボビンを川鉄電設に販売する。但し,川鉄電設の承認を得た場合は第三者に販売することができる。販売先ならびに 前条に定める権利の対価等について,川鉄電設・原告別途協議のうえ,決定する。」(第4条)(カ) 「川鉄電設は原告の承認を得ることなく,第三者に本発明を実施許諾することができる。第三者に実施許諾した場合は,相手方名・実施内容を原告に通知しなければならない。ただし,コイルボビンに関しては,第三者に対する実施許 諾について,川鉄電設・原告両者で協議する。」(5条1項)- 5 -(キ) 「本契約は調印の日より発効し,特許権若しくは実用新案権並びに意匠権が,有効な期間,有効とする。不登録が確定したときは,その時点でこの契約は失効する。」(10条)エ川鉄電設と原告は,同月30日,発明の名称を「変成器及び変成器用のコイルボビン」とする特許の出願(以下「本件基礎出願」という。)をした(特願平 6-117023号。甲2,25)。 (3) 国内優先権制度による巻鉄心特許等の出願及び本件契約1の締結ア川鉄電設と原告は,平成7年3月31日,本件基礎出願に基づき,巻鉄心等の発明を追加して,発明の名称を「変成器,変成器用のコイルボビン及び変成器用の巻鉄心」とする特許法41条1項による優先権の主張を伴う特許の出願(以 下「本件優先権出願」という。)をした(特願平7-99735号。甲4)。 イ川鉄電設 のコイルボビン及び変成器用の巻鉄心」とする特許法41条1項による優先権の主張を伴う特許の出願(以 下「本件優先権出願」という。)をした(特願平7-99735号。甲4)。 イ川鉄電設は,同年6月30日,日本磁性材工業株式会社(以下「日本磁性材工業」という。)との間で,「甲(注:川鉄電設のこと)の開発したWBトランス用鉄心であるWBコア」で,「同じく甲が開発したコイルボビンおよび鉄心巻込装置に適応しているもの」(以下「本商品」という。)の製造・販売に関し,次の内容 の契約(以下「本件契約1」という。)を締結した(甲8の3,23)。 (ア) 川鉄電設は,日本磁性材工業に対し,本契約に基づき本商品を本契約存続期間中,製造,販売する非独占的実施権を許諾する(2条1項)。 (イ) 日本磁性材工業は,本商品を製造する場合,本商品の品質確保のため,川鉄電設が指定する者より材料を購入し,本商品の製造のために使用する(同条3 項)。 (ウ) 日本磁性材工業は,本商品を川鉄電設の提示する「鉄心(WBコア)の品質保証条件(KS-3000)」に従って製造する(3条1項)。 川鉄電設は,日本磁性材工業及び同社から再外注された者の本商品の製造が,上記に規定する品質条件を満足しているか否かの確認のため,必要ある都度,日本磁 性材工業等の事業所に立ち入り,検査を行うことができる(同条2項)。 - 6 -(エ) 日本磁性材工業が本商品を販売する販売先は,近畿変成器工業会加盟各社のうち,川鉄電設が事前に承認した先とする(4条)。 (オ) 日本磁性材工業は,上記(ア)の対価(ランニングロイヤルティー)として,本商品の型式別販売価格の3%相当額を川鉄電設に支払う(5条1項)。 (カ) 川鉄電設は, 承認した先とする(4条)。 (オ) 日本磁性材工業は,上記(ア)の対価(ランニングロイヤルティー)として,本商品の型式別販売価格の3%相当額を川鉄電設に支払う(5条1項)。 (カ) 川鉄電設は,川鉄電設が本契約存続期間中において取得する本商品に 関する特許権等について,本契約の履行を条件として,日本磁性材工業に対し通常実施権(出願中の間は非独占的実施権)を許諾する(9条)。 (4) フレーム特許の出願・登録及び本件契約2の締結ア川鉄電設は,本件基礎出願の約1か月後の平成6年7月4日,発明の名称を「変成器用のフレーム」とする特許の出願をした(特願平6-151998号)。 このフレームは,巻鉄心をコイルボビンに巻き付けた状態で保持して固定し,WBトランスを変圧器を要する機械の内部等に取り付けるための器具である(甲14)。 イ川鉄電設と原告は,本件優先権出願の約2週間後の平成7年4月14日,甲1契約書に基づくコイルボビン式巻鉄心変圧器用コイルボビン及び川鉄電設が同変圧器用に開発したフレーム等の製造・販売に関し,次の内容の契約(以下「本件 契約2」という。)を締結した。なお,同契約の内容はその後に改訂され,次の内容は改訂後のものである(甲15。なお,以下では,甲15における「甲」を「川鉄電設」,「乙」を「原告」とそれぞれ読み替えて記載する。)。 (ア) 甲1契約書「にいう川鉄電設・原告共有の工業所有権とは,出願中の下記の特許および意匠をいう。」(1条) ・種別特許名称変成器及び変成器用のコイルボビン出願日平成6年5月30日出願番号平成06年特許願第117023号・種別意匠 名称変成器用コイルボビン- 7 -出願日平成6年 のコイルボビン出願日平成6年5月30日出願番号平成06年特許願第117023号・種別意匠 名称変成器用コイルボビン- 7 -出願日平成6年5月30日出願番号意願平06-015736・種別意匠名称変成器用コイルボビン出願日平成6年6月24日 出願番号意願平06-018744(イ) 「川鉄電設は,原告に,川鉄電設の承認を受けた先への,前条の工業所有権に基づくコイルボビンの販売および第3条に規定するフレームの製造・販売を委託する。」(2条)(ウ) 「原告は,前条に基づきコイルボビンおよびフレームを川鉄電設の承 認を受けた先に販売した場合は,当該販売価格の3%を実施料として川鉄電設に支払う。尚,対象とするフレームは,川鉄電設・原告協議のうえ決定する。」(3条。 以下,この実施料のうちフレームの販売に係るものを「フレーム実施料」という。)(エ) 「本契約は,平成7年4月14日から7年間有効とし,期間満了の3ケ月前までに川鉄電設・原告いずれからも別段の申し出がない場合は,本契約は同 様の条件をもって,更に2年ずつ自動延長される。」(8条1項)「前項にもかかわらず,本工業所有権の不登録が確定したときは,その時点で,本契約の有効期間について川鉄電設・原告協議する。」(同条2項)ウ平成9年4月4日,上記アの特許出願に基づき,次の特許(以下「フレーム特許」という。)に係る特許権が登録された(甲14)。 特許番号第2622502号発明の名称変成器用のフレーム特許権者川鉄電設(5) WBトランスの製造,販売WBトランスは,平成7年10月頃以降,原 許番号第2622502号発明の名称変成器用のフレーム特許権者川鉄電設(5) WBトランスの製造,販売WBトランスは,平成7年10月頃以降,原告がコイルボビンとフレームの製造 を担当し,川崎製鉄が巻鉄心の材料となる方向性珪素鋼板を供給して日本磁性材工- 8 -業が巻鉄心用の鉄心の製造を担当し,近畿変成器工業会加盟のトランスメーカー各社がそれらに基づきWBトランスを製造し,川鉄電設がそれら各社(川鉄電設の親会社である川崎製鉄を除く。)から実施料の支払を受けるという体制で,製造,販売が行われた(甲23,34,乙23,原告代表者50頁)。 (6) 特許権等の移転及び契約上の地位の移転 ア川鉄電設は,被告が平成13年2月6日に設立されたことから,被告に対し,本件優先権出願に係る特許を受ける権利の持分を譲渡し,原告が同年3月ころ,川鉄電設に対し,川鉄電設が被告に対して当該持分を譲渡することを同意するなどして,当該持分が被告に承継された(甲10)。 イ川鉄電設は,同年4月までに,被告に対し,フレーム特許に係る特許権 を譲渡し,同年5月8日,その旨の登録がされた(甲19)。 ウ川鉄電設は,同年3月ころ,被告との間で,甲1契約及び本件契約2に基づく一切の契約上の地位を被告に移転することを合意し,原告はこれを承諾した。 そして,原告はその後,本件契約2に基づきフレームを製造,販売し続け,被告に対して,平成27年2月21日まで,本件契約2に基づくフレーム実施料を支払っ た(甲11,17)。 エ川鉄電設は,平成13年3月ころ,被告との間で,本件契約1に基づく一切の契約上の地位を被告に移転することを合意し,日本磁性材工業はこれを承諾した。そして,日本磁性 た(甲11,17)。 エ川鉄電設は,平成13年3月ころ,被告との間で,本件契約1に基づく一切の契約上の地位を被告に移転することを合意し,日本磁性材工業はこれを承諾した。そして,日本磁性材工業はその後,本件契約1に基づき鉄心であるWBコアを製造,販売し続け,被告に対して,平成27年3月まで,本件契約1に基づくラ ンニングロイヤルティーを支払った(甲8の2,9)。 (7) 巻鉄心特許の分割出願・登録及び変成器・コイルボビン特許の登録ア被告は,平成13年5月1日,本件優先権出願から巻鉄心に係る発明を分割出願(以下「本件分割出願」という。)した(特願2001-134268号。 甲5,7)。 イ被告は,本件分割出願に伴い,本件優先権出願から巻鉄心に係る発明を- 9 -削除する補正を行い,同年9月7日,次の特許(以下「変成器・コイルボビン特許」という。)に係る特許権が登録された(甲5ないし7)。 特許番号第3229512号発明の名称変成器及び変成器用のコイルボビン特許権者原告及び被告 ウ平成17年4月28日,本件分割出願に基づき,次の特許(以下「巻鉄心特許」という。)に係る特許権が登録された(甲7)。 特許番号第3672842号発明の名称変成器用の巻鉄心特許権者被告及び原告 (8) 各特許権の消滅アフレーム特許に係る特許権は,平成21年4月4日,特許料の不納により消滅した(甲19)。 イ変成器・コイルボビン特許及び巻鉄心特許に係る特許権は,平成27年3月31日,存続期間の満了により消滅した(甲12)。 3 争点(1) 巻鉄心特許関係での本件契約1に係る不当利 イ変成器・コイルボビン特許及び巻鉄心特許に係る特許権は,平成27年3月31日,存続期間の満了により消滅した(甲12)。 3 争点(1) 巻鉄心特許関係での本件契約1に係る不当利得返還請求又は不法行為に基づく損害賠償請求(以下「本件契約1に係る請求」という。)について巻鉄心特許については,川鉄電設が本件契約1によって,原告と共有している同特許について日本磁性材工業に通常実施権を許諾し(上記2(3)イ参照),被告がそ の契約上の地位を承継し,その後も日本磁性材工業が鉄心を製造,販売し続けたから(上記2(6)エ参照),被告も実施許諾したことになる。そこで,以下のとおり,共有者である原告の同意(特許法73条3項)の要否や有無等が争点となる。 ア原告は甲1契約において,川鉄電設が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意を不要とする旨合意したか(争点1) イ原告は被告に対し,被告が巻鉄心特許について日本磁性材工業に実施許- 10 -諾することに同意したか(争点2)ウ原告の損失及び損害の有無,被告の不当利得額及び原告の損害額(争点3)(2) フレーム特許関係での本件契約2に係る不当利得返還請求(以下「本件契約2に係る請求」という。)について フレーム特許については,川鉄電設が原告との間で本件契約2を締結し(上記2(4)イ参照),被告がその契約上の地位を承継して,フレーム特許に係る特許権が消滅した後も,原告から本件契約2に基づきフレーム実施料の支払を受けていたから(上記2(6)ウ,(8)ア参照),以下のとおり,当該実施料がフレーム特許の実施料を含んでいるか等が争点となる。 ア原告は本件契約2において,フレーム特許の実施料を支払う合意をしたか(フレーム実施料がフレーム特許の ),以下のとおり,当該実施料がフレーム特許の実施料を含んでいるか等が争点となる。 ア原告は本件契約2において,フレーム特許の実施料を支払う合意をしたか(フレーム実施料がフレーム特許の実施料を含んでいるか)(争点4)イ原告が本件契約2においてしたフレーム実施料を支払う合意は公序良俗に反して無効か(争点5)ウ被告の不当利得額(争点6) 4 争点に関する当事者の主張(1) 争点1(原告は甲1契約において,川鉄電設が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意を不要とする旨合意したか)について(原告の主張)ア原告は巻鉄心特許の共有者であるから,川鉄電設が巻鉄心特許について 第三者に通常実施権を許諾するには原告の同意が必要であり,原告がこれを不要とする旨合意したことはない。 イ被告は甲1契約においてそのような合意がされたと主張しているが,そもそも巻鉄心特許に係る発明は甲1契約にいう「本発明」に含まれない。 すなわち,甲1契約の締結当時,巻鉄心特許に係る発明はいまだなされておらず, 被告代表者が原告代表者に対してその着想を示したことすらなかった。 - 11 -また,甲1契約には合意の対象に改良発明を含むという趣旨の文言は一切ないから,当事者の意思解釈として,合意時に存在しなかった発明まで合意の対象に含むと解釈するのは妥当でない。そもそも巻鉄心特許に係る発明は,巻鉄心を巻線に巻回する作業の効率性を格段に向上させることができるという革新的なものであるから,甲1契約の締結時に予定されていた範囲の改良であるとは到底評価し得ない。 そして,国内優先権制度は特許出願手続上の制度にすぎないから,意思解釈の根拠となる実体法的な規定ではない。 したがって,巻鉄心特許に係る発明は「本 ていた範囲の改良であるとは到底評価し得ない。 そして,国内優先権制度は特許出願手続上の制度にすぎないから,意思解釈の根拠となる実体法的な規定ではない。 したがって,巻鉄心特許に係る発明は「本発明」に含まれず,同特許には甲1契約が適用されない以上,原告が同契約において巻鉄心特許の実施許諾について自らの同意を不要とする旨合意したとはいえない。 ウ仮に,巻鉄心特許に甲1契約が適用されるとしても,巻鉄心の係止部はコイルボビンの係止用切込との関係で進歩性を有するのであるし,巻鉄心特許に係る発明においては,コイルボビンを設計・製造してきた経験や考え方が不可欠である。その発明に着想したのは被告代表者であったが,これを具体化し,発明のレベルにまで創作したのは原告代表者であり,その発明に当たって原告代表者の多大な る貢献があった。 したがって,巻鉄心特許に係る発明は甲1契約の「コイルボビン」に関するものであるから,同発明には同契約の5条1項本文は適用されない。そうすると,被告が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意が必要となる。 (被告の主張) ア巻鉄心特許には甲1契約の5条1項本文が適用されるから,同条項により,川鉄電設が巻鉄心特許について第三者に通常実施権を許諾するのに原告の同意を不要とする旨合意された。そして,被告はその契約上の地位の移転を受けたから,被告も原告の同意なく巻鉄心特許について実施許諾することができる。 イ巻鉄心特許に係る発明は甲1契約にいう「本発明」に含まれ,同特許に は甲1契約が適用される- 12 -(ア) 巻鉄心特許は国内優先権制度によって出願されたところ,これは先の出願後になされた発明で併合できるものについて1つの出願とするために用いられるもので,特許法 契約が適用される- 12 -(ア) 巻鉄心特許は国内優先権制度によって出願されたところ,これは先の出願後になされた発明で併合できるものについて1つの出願とするために用いられるもので,特許法所定の手続・期間を経た後の出願に係る発明(巻鉄心特許に係る発明)は先の出願に係る発明(本件基礎出願に係る発明)と一体のものになる。 また,巻鉄心特許に係る発明は,被告代表者によって,甲1契約の締結前に既に 課題の発見はおろか,その解決までなされていた。原告代表者はコイルボビン以外の部分の考案に寄与しておらず,原告が共同出願者となったのは,自己の取引先であるトランスメーカーを誘引し,WBトランスの普及に尽力すると誓約したのを信頼し,事業への貢献を期待してのことにすぎなかった。そして,甲1契約は,以上のような趣旨で名目上特許権の共有者とされている原告の権利を,川鉄電設との間 では,実態に見合った範囲・内容に限定するために取り交わされたものであるから,その射程はこのような趣旨が妥当する範囲全体に及び,甲1契約にいう「本発明」にはWBトランスに認めることができる全ての価値や権利が含まれると解すべきである。 (イ) 原告は甲1契約に改良発明を含むという趣旨の文言がないと主張して いるが,甲1契約の締結時には,特許出願はおろかクレームも確定されていなかったのであり,未だ無形の存在である発明のどの部分をクレーム化して特許権の対象とするかは流動的であった。したがって,甲1契約にいう「本発明」は,当然に改良発明を念頭に置き,契約締結後に,後日WBトランスと命名されるに至る新型トランスに盛り込まれる発明全般を指すと解すべきであり,巻鉄心特許に係る発明も これに含まれる。 ウ巻鉄心特許に係る発明には甲1契約の5条1項本文が適用され ンスと命名されるに至る新型トランスに盛り込まれる発明全般を指すと解すべきであり,巻鉄心特許に係る発明も これに含まれる。 ウ巻鉄心特許に係る発明には甲1契約の5条1項本文が適用される巻鉄心特許に係る発明は,必ずしもコイルボビン側に専用の係止用切込が設けられることを要求しないし,巻鉄心特許に係る発明は被告代表者がしたのであり,これに原告代表者の寄与はなかった。 したがって,巻鉄心特許に係る発明は「コイルボビン」に関する発明には当たら- 13 -ないから,同発明には甲1契約の5条1項本文が適用される。 エ以上より,被告が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意は不要であるから,被告が日本磁性材工業から巻鉄心特許の実施料全額の支払を受けたことには法律上の原因があるし,被告による実施許諾は原告の同意権を侵害しない。 (2) 争点2(原告は被告に対し,被告が巻鉄心特許について日本磁性材工業に 実施許諾することに同意したか)について(原告の主張)ア原告は,被告が巻鉄心特許について日本磁性材工業に通常実施権を許諾することに同意していない。したがって,被告によりされた日本磁性材工業への巻鉄心特許の実施許諾は無効であり,被告が日本磁性材工業から巻鉄心特許の実施料 全額の支払を受ける法律上の原因はないし,被告による実施許諾は原告の同意権を侵害する。 イ被告の下記主張につき,原告において日本磁性材工業がWBトランスのうち鉄心部分の製造を担うことを知ったのは本件契約1が締結された約半年後であった。また,日本国内で鉄心の材料である厚さ0.2㎜の方向性珪素鋼板を製造し ているのは川崎製鉄だけであったことや,被告代表者は川崎製鉄に人脈があり,材料の供給を確保してもらう必要があったこ った。また,日本国内で鉄心の材料である厚さ0.2㎜の方向性珪素鋼板を製造し ているのは川崎製鉄だけであったことや,被告代表者は川崎製鉄に人脈があり,材料の供給を確保してもらう必要があったことなどから,原告が川鉄電設や被告に対して同意していないことを申し出ることは困難であった。したがって,原告が巻鉄心特許の日本磁性材工業への実施許諾に同意していたとはいえない。 (被告の主張) 仮に被告が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意が必要であるとしても,原告は,川鉄電設と日本磁性材工業との間で本件契約1が締結されたことを知った上で,何らの異を唱えることなく,むしろこれを前提に,日本磁性材工業が製造した鉄心の販売先であるトランスメーカーに対し,自らが製造したコイルボビン及びフレームを販売して利益を得てきた。 原告は自らが同意していないことを申し出ることは困難であったとしてその事情- 14 -を主張しているが,原告はWBトランス事業に参加した一業者にすぎず,そもそも当該事業における材料の調達や商流について心配したり,意見したりする立場にはなかった。 以上の事実からすれば,原告は被告に対し,巻鉄心特許の日本磁性材工業への実施許諾について少なくとも黙示的に同意していたというべきである。 (3) 争点3(原告の損失及び損害の有無,被告の不当利得額及び原告の損害額)について(原告の主張)被告は,平成17年4月から平成27年3月までの間,日本磁性材工業から,巻鉄心特許の実施料として合計5777万3718円の支払を受けており,それが被 告の利得である。他方で,原告の同意なくされた第三者による実施は巻鉄心特許に係る特許権の侵害に当たるところ,本件契約1で定められたランニングロイヤルティーの率(3%)は平 けており,それが被 告の利得である。他方で,原告の同意なくされた第三者による実施は巻鉄心特許に係る特許権の侵害に当たるところ,本件契約1で定められたランニングロイヤルティーの率(3%)は平均の実施料率(3.5%)とほとんど差異がなく,これは同特許権の価値の具体化に他ならないから,被告が支払を受けた金額全額が特許権者の損失・損害である(本件には特許法102条3項が妥当する。)。 そして,巻鉄心特許に係る特許権についての原告の持分は2分の1であるから,原告の損失・損害は上記金額の2分の1(2888万6859円)である。 なお,原告は,平成27年5月12日,被告に対し,上記利得を含む不当利得金の半額を10日以内に返還するよう請求した。 (被告の主張) ア被告が日本磁性材工業から合計5777万3718円の支払を受けたこと,原告と巻鉄心特許を共有していることは認め,原告のその余の主張は否認し,争う。 本件契約1は単なる巻鉄心特許の実施許諾契約ではなく,技術情報の提供及び技術指導を中核的内容としたノウハウライセンス契約である。そして,巻鉄心特許に ついて日本磁性材工業に実施許諾したのは,無許諾実施となる疑義を生じさせない- 15 -ためにすぎず,上記金額は実施の対価ではない。 イ原告の主張によれば,原告は日本磁性材工業に対して特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになり,それは被告が日本磁性材工業から実施料を受領することによっても消滅しない。したがって,原告に損失はない。 また,特許権の共有者間での同意に伴って実施料が支払われることは一般的でな いから,同意権の侵害は特許法102条3項の「特許権…侵害」に当たらない。少なくとも,実施料相当額の損害賠償が認められるためには,原告 共有者間での同意に伴って実施料が支払われることは一般的でな いから,同意権の侵害は特許法102条3項の「特許権…侵害」に当たらない。少なくとも,実施料相当額の損害賠償が認められるためには,原告が被告から実施料を得ることができたことが主張立証される必要があると解すべきであるが,それはされていない。 (4) 争点4(原告は本件契約2において,フレーム特許の実施料を支払う合意 をしたか(フレーム実施料がフレーム特許の実施料を含んでいるか))について(原告の主張)ア原告は,本件契約2に基づいてフレームを製造,販売し,フレーム実施料を支払うことを合意したが,これはフレーム特許の実施許諾契約であり,フレーム実施料はフレーム特許の実施料であると認識していた。本件契約2の契約書には, 川鉄電設がコイルボビン式巻鉄心変圧器用に「開発したフレーム」の製造・販売に関する契約であると明記されており,これはフレーム特許の実施品であるフレームを指すと解するのが自然である。 したがって,フレーム実施料はフレーム特許の実施料であり,フレーム特許に係る特許権が消滅した後に支払った分は被告の不当利得となる。 イ原告はフレーム特許の実施品とはいえないフレームについても実施料を支払っていたが,これは原告の従業員が本来支払う必要のないものを被告から請求されるままに支払ってしまったものにすぎない。確かに,原告は本件契約2を締結した後に,フレーム特許の実施品でないフレームを製造するための金型を製作し,その使用料を支払うことは合意したが,それについてフレーム実施料を支払うこと は合意していない。 - 16 -また,被告の下記主張イは否認し,争う。そもそも川鉄電設や被告が金員の支払を受けられるのは,事業について排他的権利を有していたか ーム実施料を支払うこと は合意していない。 - 16 -また,被告の下記主張イは否認し,争う。そもそも川鉄電設や被告が金員の支払を受けられるのは,事業について排他的権利を有していたからであり,これを法的に根拠付けるのはWBトランスをめぐる特許権に他ならない。川鉄電設や被告は特許によりロイヤリティを得るなどしていたにすぎないのに対し,原告代表者はWBトランス事業の構築(川鉄電設のライセンス先の拡大,収益拡大)に多大なる貢献 をした。そして,被告がフレーム特許に係る特許権を失った以上,わざわざ被告に対して金員を支払って事業に参加する価値もなくなったのであり,被告が事業への参画等のための金員を受領することはできない。 (被告の主張)ア本件契約2では,フレーム特許の実施許諾はおろか,その特許権にすら 言及されていないから,フレーム実施料がフレーム特許の実施料でないことは明らかである。また,契約当事者間でフレーム実施料の対象とするフレームについて協議されたが,フレーム特許に係る特許権とは関連付けられなかった。そして,原告は現に,フレーム特許の実施品とはいえないフレームについても実施報告をし,実施料を払ってきた。このように,原告自身もフレーム実施料がフレーム特許の実施 料であると理解していなかったのである。 イ原告は,本件契約2を締結することによって,川鉄電設が作り上げたWBトランスの製造・販売事業のための企業グループに参画し,他企業と競合することなくフレームを販売して利益を得ることができる地位に就けてもらい,かつ実際にフレームを販売して利益を得ることができていた。本件契約2は,その対価とし てのフィーの支払を定めた契約であり(むしろ,原告に対する製造委託契約に近い。),フレーム特許の実施許諾とい つ実際にフレームを販売して利益を得ることができていた。本件契約2は,その対価とし てのフィーの支払を定めた契約であり(むしろ,原告に対する製造委託契約に近い。),フレーム特許の実施許諾という趣旨を全く含んでいないから,当該フィーがフレーム特許の実施料でないことは明らかである。 (5) 争点5(原告が本件契約2においてしたフレーム実施料を支払う合意は公序良俗に反して無効か)について (原告の主張)- 17 -仮に本件契約2のフレーム実施料がフレーム特許の実施料でないとしても,本件契約2の締結当時,川崎製鉄が鉄心の材料である厚さ0.2㎜の方向性珪素鋼板を日本で唯一製造しており,川鉄電設はその完全子会社であったことなどに鑑みれば,両社が原告との関係で圧倒的に優位な立場に立っていたことは明らかである。そして,被告の主張によれば,川鉄電設は,第三者に対しては,フレーム特許に係る特 許権をもって事業への参入を防いで技術を独占しつつ,原告に対しては,その特許権が消滅した後も本件契約2が存続する限り,フレーム実施料を請求し続けることが可能となる契約を締結したことになる。 このような契約は,特許権の存続期間に関する特許法の規定の趣旨を没却するもので,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(独占禁止法)19条の 「不公正な取引方法」のうち拘束条件付取引(いわゆる一般指定12項)に該当するから,公序良俗に反し無効である。 (被告の主張)本件契約2の締結当時,川崎製鉄が鉄心の材料である厚さ0.2㎜の方向性珪素鋼板を日本で唯一製造しており,川鉄電設がその完全子会社であったことは認め, 原告のその余の主張は否認し,争う。 (6) 争点6(被告の不当利得額)について(原告の主張)原告は,平成21年4月5日 唯一製造しており,川鉄電設がその完全子会社であったことは認め, 原告のその余の主張は否認し,争う。 (6) 争点6(被告の不当利得額)について(原告の主張)原告は,平成21年4月5日から平成27年2月21日までの間,被告に対し,フレーム実施料として合計374万7414円を支払い,この全額が被告の不当利 得となる。 もっとも,原告は,被告に対し,①後記金型投資・使用契約(下記第3の2(12)参照)に基づく平成27年4月1日から同年8月31日までの金型使用料59万1665円(消費税込み)及び②本件契約2に基づくコイルボビンの販売に係る同年3月1日から同月31日までの実施料6万8667円(消費税込み)の合計66万 0332円の支払義務を負っていた。そこで,原告は,同年10月15日,被告に- 18 -対し,上記不当利得の返還請求権をもって,被告の上記①及び②の請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。 なお,原告は,同日,被告に対し,上記不当利得のうち相殺後の残高である308万7082円を10日以内に返還するよう請求した。 (被告の主張) 原告が被告に対してフレーム実施料として合計374万7414円を支払ったこと,原告が後記金型投資・使用契約及び本件契約2を締結したこと,平成27年4月1日から同年8月31日までの金型使用料が合計59万1665円であること,原告が相殺の意思表示及び不当利得の返還請求をしたことは認め,コイルボビンの販売に係る実施料の金額は不知。原告のその余の主張は否認し,争う。 第3 当裁判所の判断 1 本件基礎出願,本件優先権出願及び本件分割出願の経緯及び内容について(1) 本件基礎出願の内容(甲2,25)ア本件基礎出願に係る発明は,従来の変成器の 第3 当裁判所の判断 1 本件基礎出願,本件優先権出願及び本件分割出願の経緯及び内容について(1) 本件基礎出願の内容(甲2,25)ア本件基礎出願に係る発明は,従来の変成器の問題点を解決することを目的とするものであった。 すなわち,従来の変圧器(SCトランスに相当すると認められる。)では,別紙図面の図1及び図2に示すように,環状の巻線2の外周2aを絶縁テープ,絶縁シート等の絶縁部材(図示せず。)により被覆すると共に,この巻線2に電磁鋼板を所定回数巻回して巻鉄心3,3を設けている(甲2の2【0002】,甲25図17及び図18)。また,上記巻鉄心3は,別紙図面の図3のとおり,まず,電磁鋼板8を巻 鉄心3と同一寸法に巻回したもの(鋼板コイル7)を焼鈍した後,(A)に示すように,鋼板コイル7の最も外側の電磁鋼板8を上記巻線2の鉄心巻込部2b,2bの間を通過させ,次に,(B)に示すように,上記電磁鋼板8の先端8aを鋼板コイル7の外周に仮止めして電磁鋼板の大円9を形成し,さらに,鋼板コイル7をローラ11,12で駆動して回転させ,矢印Aに示すように大円9に電磁鋼板を送り込み, 鋼板コイル7を回転させ続けると,(C)に示すように,鋼板コイル7を構成してい- 19 -た電磁鋼板8が全て大円9に送られ,この大円9には電磁鋼板8自体の弾性により縮径する力Bが作用しているため,ローラ11を除去すると共に上記した仮止めを解除すると,(D)に示すように,大円9が縮径して電磁鋼板8が鉄心巻込部2b,2bを締め付け,巻鉄心3が形成される(甲2の2【0004】,甲25図19)。 しかし,巻鉄心を備える変成器では,巻線を整列巻とし,かつ,巻線の外周と巻 鉄心を密着させることが,巻線の温度上昇を低減する点で好ましいが,上記 成される(甲2の2【0004】,甲25図19)。 しかし,巻鉄心を備える変成器では,巻線を整列巻とし,かつ,巻線の外周と巻 鉄心を密着させることが,巻線の温度上昇を低減する点で好ましいが,上記の従来の変成器では,いったん巻型を除去してしまうと巻線2は形崩れしやすく,導線を整列巻で密に巻いた状態のままで維持するのは困難で,巻線2の外周2aを巻鉄心3と密着させることができない(甲2の2【0005】)。 また,巻線2と巻鉄心3の絶縁性が損なわれると機器として使用できないが,上 記のように巻線2を絶縁部材で被覆した構造では,巻鉄心3を巻線の巻回する際に,巻線2と鋼板コイル7が接触し,絶縁部材が損傷して上記絶縁性が損なわれるおそれがあった(甲2の2【0006】)。 さらに,上記のように巻線2の断面形状を巻鉄心3の所望の内径と一致させるのは困難であるため,上記鋼板コイル7の内径と,鉄心巻込部に巻き終えた状態での 巻鉄心3の内径とが異なる場合があり,この場合,巻鉄心3を構成する電磁鋼板に歪みが生じ,磁気特性が低下する原因となっていた(甲2の2【0007】)。 イそこで,本件基礎出願に係る発明は,コイルボビンによる方式を採用した上で,そのコイルボビンの構造を工夫することにより,上記の課題を解決することを意図したものである。 すなわち, その請求項1では,別紙「各出願における請求項の内容」の「本件基礎出願(甲2)」の「請求項1」のとおりの変成器の発明とされ,明細書には,別紙図面の図4を始め,第1実施例から第4実施例が記載されていた。そして,この発明によれば,鉄心巻込部の凹状溝の両側の外周を巻鉄心の内径と等しい曲率としているため,巻鉄心とコイルボビンの外周が密着し,巻鉄心の発生する熱は,コイル ボビン及び巻鉄心を介 た。そして,この発明によれば,鉄心巻込部の凹状溝の両側の外周を巻鉄心の内径と等しい曲率としているため,巻鉄心とコイルボビンの外周が密着し,巻鉄心の発生する熱は,コイル ボビン及び巻鉄心を介して放熱されると共に,巻鉄心の内径が正確に所望の寸法と- 20 -なる等の作用を有するとされた(甲2の2【0025】)。また,請求項2ないし5では,別紙「各出願における請求項の内容」のとおり,請求項1のコイルボビンの構成を更に特定した変成器の発明とされていた。 他方,請求項6ないし10では,同別紙のとおり,請求項1ないし5に対応する形で,各請求項の構成を有する変成器用のコイルボビンの発明とされた。 (2) 本件優先権出願の経緯・内容(甲4)本件優先権出願では,別紙「各出願における請求項の内容」の「本件優先権出願(甲4)」のとおり,請求項を増加し,請求項1から10までは変成器の発明,請求項11から20まではそれらに対応するコイルボビンの発明とされたほか,巻鉄心の発明として請求項21が追加された。このうち,変成器に関する請求項1から7 及び9,それに対応するコイルボビンに関する請求項11から17及び19は,本件基礎出願の明細書及び図面に記載があった事項を請求項として整理したものであるが,コイルボビンの外枠と内枠の接合面の断面径路を折れ線状とする請求項8及び18,巻鉄心の端部に係止部を設け,コイルボビンに係止用切込を設ける請求項10,20及び21は,明細書に第5実施例の記載が追加されたこと(甲4【00 86】から【0099】,図16から23)に基づいて追加されたものである。 そして,本件優先権出願の明細書では,巻鉄心の端部に係止部を設け,コイルボビンに係止用切込を設ける請求項10,20及び21に関して,「さらにまた ,図16から23)に基づいて追加されたものである。 そして,本件優先権出願の明細書では,巻鉄心の端部に係止部を設け,コイルボビンに係止用切込を設ける請求項10,20及び21に関して,「さらにまた,本発明は,巻鉄心を巻線に巻回する作業の作業性を向上することを目的としてなされたものである。」(甲4【0014】)とされ,その作用として,「請求項10,請求項 20では,コイルボビンの鉄心巻込部に巻鉄心を構成する電磁鋼板の端部に形成した係止部を係止する係止用切込を設けているため,巻鉄心を構成する電磁鋼板を鉄心巻込部に容易に固定することができると共に,巻鉄心が鉄心巻込部に対して回転してしまうことがなく,巻鉄心は鉄心巻込部に密着した状態で維持される。」(甲4【0045】),「請求項21の巻鉄心では,内周側の端部に係止部を設けているため, コイルボビンの鉄心巻込部に巻鉄心を巻回した後に,巻鉄心を回転させると,係止- 21 -部がコイルボビンに形成された係止用切込に係止され,巻鉄心の鉄心巻込部に対する回転が阻止され,巻鉄心は鉄心巻込部に密着した状態で維持される。」(甲4【0046】)とされた。 (3) 本件分割出願の経緯・内容(甲5)本件分割出願は,別紙「各出願における請求項の内容」の「本件分割出願(甲5)」 のとおり,本件優先権出願における巻鉄心の発明である請求項21について,若干の変更を施すとともに,本件優先権出願の明細書の第5実施例中に記載のあった巻鉄心の先端部の4つの形状を,請求項として整理して分割出願したものである。 そして,それに伴い,本件優先権出願から,請求項21が取り下げられた。 (4) 各出願の帰趨 ア本件基礎出願は,本件優先権出願が特許法41条1項による優先権の主張を伴う出願と そして,それに伴い,本件優先権出願から,請求項21が取り下げられた。 (4) 各出願の帰趨 ア本件基礎出願は,本件優先権出願が特許法41条1項による優先権の主張を伴う出願としてされたことから,同法42条1項により,取り下げたものとみなされたと推認される。 イ本件優先権出願は,上記のとおり請求項21が取り下げられた後,補正がされ,最終的には,変成器の発明については,出願時の請求項1,2及び4をま とめて修正して請求項1とし,以下,出願時の請求項3を請求項2,出願時の請求項5ないし10を請求項3ないし8とし,同様にコイルボビンの発明についても,請求項9ないし16として,設定登録がされた(甲6)。 ウ本件分割出願は,出願時の請求項1と請求項4をまとめて請求項1とする補正を経た上で,設定登録がされた。その各請求項の記載は,次のとおりである (甲7)。 (ア) 請求項1所要回数円筒状に巻回された電磁鋼板が焼鈍されてなる変成器用の巻鉄心であって,この巻鉄心の内周側の端部に,電磁鋼板を厚さ方向に突出させてなり,この巻鉄心が巻回されるコイルボビンに設けた係止用切込に係止される係止部を設け,か つこの係止部が設けられた巻鉄心の内周側の端部は最先端に向けて狭幅となる三角- 22 -形状であることを特徴とする変成器用の巻鉄心。 (イ) 請求項2上記係止部は,上記電磁鋼板の先端部を折り曲げてなることを特徴とする,請求項1に記載の巻鉄心。 (ウ) 請求項3 上記係止部は,上記電磁鋼板の先端部を折り返してなることを特徴とする,請求項1に記載の巻鉄心。 (エ) 請求項4上記係止部は,上記先端部にポンチ加工により形成した突出部であることを特徴とする,請求項1に記載の 磁鋼板の先端部を折り返してなることを特徴とする,請求項1に記載の巻鉄心。 (エ) 請求項4上記係止部は,上記先端部にポンチ加工により形成した突出部であることを特徴とする,請求項1に記載の巻鉄心。 2 事実経過前提事実に加え,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 (1) 川鉄電設が従来製造していたSCトランス(乙2)は,本件基礎出願の従来技術と同じく,導線を所定回数巻いて環状に形成した巻線の外周を絶縁テープ等で被覆するとともに,この巻線に電磁鋼板を所定回数巻き回して巻鉄心を設ける構 造のものであった。 また,鉄心メーカーでは,SCトランスの巻鉄心に用いる鋼板コイル(鋼板をコイル状に巻いたもの)を製造する際,鋼板の端部を最先端に向けて狭幅となる形状に加工し,ローラーに設けたスリットに差し込んで回転させることによって製造していたことから,必然的に,内側尾端に折れ曲りの余部が生じてしまい,その余部 を切除して鋼板コイルを納品していたが,それを用いて別紙図面の図3のように巻線の鉄心巻込部にSCトランスの巻鉄心を設ける場合には,最終工程(同図のD工程)で巻鉄心を締め付ける際に巻鉄心が空回りしないようにするため,職人が鋼板コイルの先端部分を治具を用いて丸めたり(輪を作ったり),丸め潰したりしていた。 そして,丸めた部分を巻線とこれに貼り付けた絶縁紙の隙間に挿入したり,丸め潰 した部分を巻線に押し付けたりして,巻線の鉄心巻込部に巻鉄心を固定していた- 23 -(甲34,乙23)。 (2) 川鉄電設では,新たな変成器を開発するに当たり,製造工程の簡素化や品質の向上の観点からコイルボビンによる方式を採用することとし,遅くとも平成5年9月頃以降,トランス用コイルボビン専門メーカーの原告 川鉄電設では,新たな変成器を開発するに当たり,製造工程の簡素化や品質の向上の観点からコイルボビンによる方式を採用することとし,遅くとも平成5年9月頃以降,トランス用コイルボビン専門メーカーの原告と共同でコイルボビンの開発を進め,同月9日には原告にコイルボビンの見積りを依頼し(乙4),同年1 1月1日には原告が作成した2つのボビン案について前向きな検討がされた(乙5)。 また,被告代表者は,同月8日,川鉄電設社内でWBトランスの開発における課題等を書面でまとめた際,捲線機や鉄心巻込巻締装置を開発して,導線の巻付けや鉄心の巻込・巻締を自働化することに加え,現状,上記(1)のように,治具で輪を作っているのを自動化のため省略するとして,鉄心内巻端の形状(コイル端固定用) をどうするかということを鉄心巻込・巻締の課題の一つとして挙げていた(乙12,23,被告代表者8頁,9頁)。 さらに,川鉄電設は,同月18日,トランスメーカー各社に対して,新しい変成器の開発の方向性について説明会を行った(甲27)。 (3) 川鉄電設は,コイルボビンの開発の進捗を踏まえ,試作品による技術的検 証と最適形状決定のためのデータ収集を行うこととし,同年12月24日,原告に対し,原告のボビン図によるコイルボビン一式の仕様書が交付され(乙6),平成6年2月から3月にかけて,原告によるWBトランスの手作りの試作品が製作された(乙13)が,そのときのコイルボビンに係止用切込は設けられず,上記(1)のように巻鉄心の内側尾端が丸め潰されていた(甲34,乙14,15,23,被告代表 者41頁)。 (4) 川鉄電設と原告は,コイルボビンの開発が進んだことから特許出願等を行うこととし,同年5月2日,上記第2の2の前提事実(2)ウのとおり,「本発明」の 23,被告代表 者41頁)。 (4) 川鉄電設と原告は,コイルボビンの開発が進んだことから特許出願等を行うこととし,同年5月2日,上記第2の2の前提事実(2)ウのとおり,「本発明」の共有や実施に関して甲1契約を締結し,特許を受ける権利や特許権等は両者の共有とするが,その内部的な権利の持分は,トランス全体については川鉄電設の単独保 有とし,コイルボビンについては両者の共有とされた。 - 24 -(5) 川鉄電設と原告は,同月30日,本件基礎出願をしたが,その願書に添付された明細書や図面には,上記1のとおり,巻鉄心の係止部やコイルボビンの係止用切込に関することが記載されていなかった。なお,原告代表者は,本件基礎出願のほか,その後の本件優先権出願及び本件分割出願についても,出願代理人の弁理士事務所から,出願関係書類の提供を受けていた(原告代表者53頁)。 (6) 川鉄電設は,コイルボビンの開発と並行してフレームの開発を進め,同年7月4日,フレーム特許の特許出願をした(上記第2の2の前提事実(4)ア)。 (7) コイルボビンについてはその製造に取りかかることとなり,同年9月,川鉄電設が原告に基本外形図(甲30)と寸法表(甲31)を交付した後,原告は,同年10月18日にボビン金型製作費等の見積書(乙19)を,同月19日に,コ イルボビン(シングルボビン)の各型番の金型の完成図(乙21)を作成し,同年11月にBSW300Fの型番のコイルボビンの金型を業者に注文して製作したが,これらに係止用切込は設けられていなかった(乙20,原告代表者35頁)。 (8) 川鉄電設と近畿変成器工業会は,同月24日,覚書(甲29)を作成し,川鉄電設が同工業会の会員に最優先的にBSWトランス(後のWBトランス)の通 かった(乙20,原告代表者35頁)。 (8) 川鉄電設と近畿変成器工業会は,同月24日,覚書(甲29)を作成し,川鉄電設が同工業会の会員に最優先的にBSWトランス(後のWBトランス)の通 常実施権を許諾することに合意した(甲29)。 (9) 原告代表者は,平成7年2月20日ころ,BSW500の型番のコイルボビンの金型を製作するに当たり,図面を作成して川鉄電設に送付したが,その図面にコイルボビンの係止用切込は記載されていなかった。そこで,被告代表者は,同月23日,原告に対し,「コイルボビンの鉄心挿入部に下記の如く,切り込みを入れ ていただくようお願いいたします。」,「切り込みの方向は左図の配置で,ボビンの肉厚の最もあるところで作って下さい。(4ケ所)」として,係止用切込と巻鉄心の係止部の形状,位置,方向及び寸法を手書きしたものをファックス送信し,それを記載した図面を作成するよう依頼し,原告代表者は,同月24日までに,係止用切込の位置等を修正した図面を作成し,被告代表者にファックス送信した(乙16ない し18)。原告代表者が係止用切込の位置を修正した理由は,被告代表者が手書きし- 25 -た図面では,係止用切込が円の内側にあり,鉄心を巻き回すときにボビンのつば等により見えないと考えたためであった(原告代表者11頁)。 なお,従来のSCトランスにおいて巻鉄心を巻き締めるのに,治具で輪を作っていたのを省略するため,巻鉄心(鋼板コイル)をコイルボビンに係止することで巻鉄心を固定することを着想したのは被告代表者であった(ただし,その時期につい ては後に検討する。また,原告代表者が関与した部分についても,後に検討する。)。 (10) 川鉄電設と原告は,同年3月31日,本件優先権出願をした。この出願では,上記 だし,その時期につい ては後に検討する。また,原告代表者が関与した部分についても,後に検討する。)。 (10) 川鉄電設と原告は,同年3月31日,本件優先権出願をした。この出願では,上記1のとおり,変成器やコイルボビンに関する請求項として,巻鉄心の係止部やコイルボビンの係止用切込を設ける内容の請求項が追加されるとともに,同内容の巻鉄心に関する請求項が追加された。 (11) 同年4月6日,川鉄電設と近畿変成器工業会加盟の各トランスメーカーはBSWトランス(後のWBトランス)のライセンス契約を締結したが,その際,川鉄電設側は,フレーム形態に係る特許も出願している旨を話し,原告代表者もそのことを認識した(甲35)。 (12) 川鉄電設と原告は,同月14日,コイルボビン及びフレームの製造,販 売に関して本件契約2を締結した(上記第2の2の前提事実(4)イ)。同契約においては,原告は,川崎電設に対し,フレームだけでなく,コイルボビンについても,販売価格の3%を実施料として支払うこととされたが,原告がコイルボビンについては内部的にも共有持分権を有するにもかかわらず,実施料を支払うこととしたのは,川崎電設がコイルボビンの製造,販売を原告に独占して行わせることのメリッ トを考慮したためであった(原告代表者54頁)。 また,川崎電設と原告は,同日,コイルボビン式巻鉄心変圧器に関する金型の投資及び使用料に関し,次の内容の契約(以下「金型投資・使用契約」という。)を締結した(甲16の1)。 ア川鉄電設と原告は,上記変圧器用コイルボビン及びフレームの製造のた め,共同で所有する金型に対する共同投資を行う(1条)。 - 26 -イ投資及び所有の割合は,上記金型全てについて,川鉄電設7割,原告3割とする(2条1項 ボビン及びフレームの製造のた め,共同で所有する金型に対する共同投資を行う(1条)。 - 26 -イ投資及び所有の割合は,上記金型全てについて,川鉄電設7割,原告3割とする(2条1項)。 ウ原告は,川鉄電設が投資をした上記金型の使用料を川鉄電設に支払う(4条1項)。 (13) 川鉄電設と原告は,同月20日,共同投資する金型を,100ないし1 500VAコイルボビン式巻鉄心変圧器用コイルボビン及びフレームを製造する金型とし,金型使用料の対象となるフレームを,この金型を使用して製造・販売したフレームとすることを合意し(甲16の2),さらに,同日,本件契約2のフレーム実施料の対象フレームを,川鉄電設と原告が共同投資をする100~1500VAコイルボビン式巻鉄心変圧器用フレーム金型を使用して製造・販売するフレームと することを合意した(乙11)。 (14) 川鉄電設は当初,鉄心の製造を川鉄電磁鋼板株式会社に委託する予定としていたが,同年1月に阪神・淡路大震災が発生してその工場が被災したことから,日本磁性材工業に鉄心の製造,販売を委託することにした。そして,川鉄電設と日本磁性材工業は,同年6月30日,鉄心の製造,販売に関して本件契約1を締結し た。 なお,川鉄電設や被告は,日本磁性材工業に対し,鉄心の材料である方向性珪素鋼板を基本的に川崎製鉄から購入するよう指定していた(上記第2の2の前提事実(3)イ,乙23,被告代表者21頁)。 (15) 川鉄電設と原告は,海外からの模倣品の流入を防止するため,同年8月 10日,甲1契約の2条2項の外国出願に関して協議し,次の内容の合意をした(甲36,乙8)。 ア外国出願を可とし,出願対象とする国を米国,独国,中国及び韓国の4か国とした(1条)。 イ外 0日,甲1契約の2条2項の外国出願に関して協議し,次の内容の合意をした(甲36,乙8)。 ア外国出願を可とし,出願対象とする国を米国,独国,中国及び韓国の4か国とした(1条)。 イ外国出願する工業所有権とは,外国出願に際し一部追加変更をして出願 中の次の特許をいう(3条)。 - 27 -変更前本件基礎出願に係る特許変更後本件優先権出願に係る特許(16) 同年10月,上記(7)で製作されたBSW300Fの型番のコイルボビンの金型に係止用切込を新設する修正が加えられた(乙24,25の4,原告代表者34頁,35頁)。 (17) こうして,WBトランスについては,同月頃,原告がコイルボビンとフレームの製造を担当し,川崎製鉄が巻鉄心の材料となる方向性珪素鋼板を供給して日本磁性材工業が巻鉄心用の鉄心の製造を担当し,近畿変成器工業会加盟のトランスメーカー各社がそれらに基づきWBトランスを製造して販売し,川鉄電設がそれら各社(川鉄電設の親会社である川崎製鉄を除く。)から実施料の支払を受けるとい う体制が調い,WBトランスの製造,販売が開始された(甲23,34,乙23,原告代表者50頁以下)。 また,完成したWBトランスの巻鉄心には係止部が設けられていた。なお,原告代表者は,遅くとも同年末までには,日本磁性材工業がWBトランスの鉄心を製造,販売していることを知った(原告代表者17頁)。 (18) 原告は,上記体制の下,係止用切込が設けられたコイルボビンを製造して,近畿変成器工業会加盟のトランスメーカー各社に販売し,川鉄電設又は被告に対し,本件契約2の3条に定められたコイルボビンの販売に係る実施料を支払っていた。 また,フレームについて,川鉄電設は,原告に対し,フレームの金型製作に必要 メーカー各社に販売し,川鉄電設又は被告に対し,本件契約2の3条に定められたコイルボビンの販売に係る実施料を支払っていた。 また,フレームについて,川鉄電設は,原告に対し,フレームの金型製作に必要 な図面を渡しただけで,フレーム特許の内容について特段説明せず,原告代表者もその具体的内容を確認しなかった。また,原告は,金型の製作費用として,当初,コイルボビン分2376万4000円,フレーム分750万円を負担した(甲16の2,34,原告代表者3頁,4頁,47頁,48頁)。 本件契約2が締結された当時,製作することとされていたフレームの金型によっ て製造されたフレームは,フレーム特許の実施品であった(甲16の2のC型)が,- 28 -原告は同契約締結後,川鉄電設又は被告との合意によって,この標準タイプ(後にC-1型とされた。)以外に,縦置きタイプ(A型)と横置きタイプ(C-2型)のフレームや,2000VAと2500VAの型番のフレームも製造,販売するようになり,これらはいずれもフレーム特許の実施品ではなかった。原告はこれらのフレームを製造するのに必要な金型の製作費用の3割を追加負担したが,この際に契 約書等は作成されず,フレーム特許の実施品を製造するための金型であるのかを確認しなかった(乙23,原告代表者5頁,6頁,48頁,被告代表者22頁)。 原告の従業員は,本件契約2及び金型投資・使用契約に基づいて,金型実績報告書及びコイルボビン・フレーム販売実施報告書を作成し,川鉄電設又は被告に対してそれを送付し,フレームの販売数量等を報告していた。そして,そのいずれにも フレーム特許の実施品でないフレームの販売数量等が含まれており,原告はそれについても本件契約2で定められたとおりフレーム実施料を支払っていた(甲34,乙9 告していた。そして,そのいずれにも フレーム特許の実施品でないフレームの販売数量等が含まれており,原告はそれについても本件契約2で定められたとおりフレーム実施料を支払っていた(甲34,乙9,10,23,原告代表者49頁,55頁)。 (19) 上記体制に基づくWBトランスの製造,販売は,平成21年4月4日にフレーム特許が特許料未納により消滅した後も継続し,変成器・コイルボビン特許 及び巻鉄心特許が存続期間満了により消滅した平成27年3月頃まで継続していたが,その後の同年5月12日,原告は,被告に対し,①変成器・コイルボビン特許及び巻鉄心特許に係る特許権は,原告と被告との共有であるにもかかわらず,被告は各社から支払われたロイヤリティを独占しているとして,不当利得返還請求権に基づき過去10年分のロイヤリティ合計額の半額の支払を請求するとともに,②フ レーム特許に係る特許権が消滅したとして,本件契約2に基づくフレーム実施料の支払を拒絶する旨を通知し(甲13),これを契機に本件の紛争に至った。 そして,現在,原告,日本磁性材工業及びトランスメーカー各社は,被告とは別に,独自にWBトランスの製造,販売事業を営むに至り,日本磁性材工業は,鉄心の材料である方向性珪素鋼板を川崎製鉄以外の会社から購入している(原告代表者 50頁以下)。 - 29 - 3 争点1(原告は甲1契約において,川鉄電設が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意を不要とする旨合意したか)について(1) 被告は,巻鉄心特許に甲1契約が適用されるから本件契約1に原告の同意を要しないと主張しており,その根拠として,巻鉄心特許に係る発明が甲1契約の締結前に既に被告代表者によってなされていたことを挙げ,被告代表者はそれに沿 う供述をしているのに対 契約1に原告の同意を要しないと主張しており,その根拠として,巻鉄心特許に係る発明が甲1契約の締結前に既に被告代表者によってなされていたことを挙げ,被告代表者はそれに沿 う供述をしているのに対し,原告は,同発明は本件基礎出願後に原告代表者の多大な貢献の下に考案されたものであると主張し,原告代表者もそれに沿う供述をすることから,まず,巻鉄心特許に係る発明がされた時期等を検討する。 上記認定のとおり,川鉄電設では,甲1契約の締結前から,鉄心内巻端の形状をどうするかということがWBトランス製造上の課題として認識されており,手作り の試作品も製作されていたから,被告代表者は甲1契約の締結前から,その課題の解決に向けた検討をしていたとは認められる。また,巻鉄心(鋼板コイル)をコイルボビンに係止して固定するという巻鉄心特許の基本原理を着想したのが被告代表者であることは上記認定のとおりであり(このことは原告代表者も甲34で認めている。),上記認定事実からすると原告代表者がWBトランスの開発に関与したのは 専らコイルボビンについてであったと認められることを考慮すると,従来は鉄心メーカーが納品前に切除していた鋼板コイルの内巻端の屈曲部をそのまま残して利用するとの点も,上記のような課題を認識し,変成器を製作する全工程に関わっていた被告代表者が着想したものであると認めるのが合理的である。 しかし,時期的な側面を見ると,巻鉄心の係止部やコイルボビンの係止用切込が 記載された甲1契約の締結前に作成された図面等の書証はないし,甲1契約の締結後,間もなくされた本件基礎出願の願書に添付された明細書や図面にもこれらに関することは記載されておらず,その後に製造に向けて平成6年10月に作成されたコイルボビンの完成図や同年11月に製作されたコイルボビン なくされた本件基礎出願の願書に添付された明細書や図面にもこれらに関することは記載されておらず,その後に製造に向けて平成6年10月に作成されたコイルボビンの完成図や同年11月に製作されたコイルボビンの金型にも係止用切込は設けられていない。これらからすると,少なくとも同年10月以前に,コイル ボビンに係止用切込を設けることを含めた巻鉄心に係る発明が完成されていたと認- 30 -めることは困難である(なお,被告は巻鉄心特許がコイルボビン側に専用の係止用切込が設けられることを要求しないと主張しているが,巻鉄心特許の請求項の内容(上記1(4)ウ参照)に照らせば,同特許はコイルボビンの係止用切込の存在を前提とするものと認められ,被告の上記主張を採用することはできない。)。 他方,本件で提出された証拠上,コイルボビンの係止用切込に関する資料が現れ るのは,平成7年2月23日に被告代表者が原告代表者に金型図面の修正を求めたファックス(乙16)においてであるから,それまでには,コイルボビンに係止用切込を設け,これに巻鉄心(鋼板コイル)の端部の屈曲部を係止させるという巻鉄心特許に係る発明は完成していたと認められる。そして,被告代表者が上記ファックスで詳しい趣旨の説明なくコイルボビンの係止用切込を図面に加えるよう求めた のに対し,原告代表者が早くも同ファックスを受領した翌日に,特段の協議なくコイルボビンの係止用切込の位置等を修正した図面(乙18)を作成して被告に送付していることからすると,それ以前から原告代表者と被告代表者との間ではコイルボビンに係止用切込を設けることについて協議がされていたと考える方が合理的である。 なお,原告代表者は,巻鉄心の先端の屈曲部及びコイルボビンの係止用切込の形状をL字型とし,コイルボビンの係止用 ンに係止用切込を設けることについて協議がされていたと考える方が合理的である。 なお,原告代表者は,巻鉄心の先端の屈曲部及びコイルボビンの係止用切込の形状をL字型とし,コイルボビンの係止用切込の位置と向きを時計回りでも反時計回りでも係止される本件優先権出願の図面中の図17記載の位置とし,巻鉄心の先端の屈曲部の幅を約2cmとすることは,原告代表者自身が考案したものであると陳述する(甲34)。しかし,鋼板コイルの製造工程で内巻端に台形状の屈曲部が形成さ れることは,SCトランスの時代からあったことであり,それをそのまま利用するとの着想は上記のとおり被告代表者がしたものと認められるから,原告代表者の関与は,専らそれを係止するコイルボビン側の係止用切込の開発にあったと認めるのが相当である。また,コイルボビンの係止用切込の位置と向きについては,原告代表者が考案し,本件優先権出願の図面に取り入れられたのだとしても,位置と向き の点は巻鉄心特許に係る請求項の内容とされていないから,いずれにしても特許法- 31 -上その実施許諾に原告の同意は要求されない。 (2) 以上からすると,巻鉄心特許に係る発明は,甲1契約の締結後にされたと認められるが,被告は,甲1契約にいう「本発明」は改良発明を念頭に置いていたとして,巻鉄心特許も甲1契約の適用対象となるなどと主張していることから,次にその主張について検討する。 ア確かに,甲1契約では,その別紙の記載内容を踏まえると,平成6年5月31日に特許出願予定の発明をもって「本発明」と定義付けているようにも読める。 イしかし,甲1契約が締結されたのは本件基礎出願の前であり,発明の名称も仮称とされていたように,特許の内容だけでなく,その出願の内容さえ確定し ていたわけ けているようにも読める。 イしかし,甲1契約が締結されたのは本件基礎出願の前であり,発明の名称も仮称とされていたように,特許の内容だけでなく,その出願の内容さえ確定し ていたわけではなかったと考えられる。 また,甲1契約は,川鉄電設と原告がWBトランスの事業を開始し,同契約にいう「本発明」に基づく製品を製造,販売することを予定して締結された契約である(甲1,34,乙23)が,契約締結の時点では金型さえ製作されておらず,WBトランスの製品化・量産化に向けた検討が終了していたわけではなかった。特に, WBトランスを開発するに至ったのは,上記認定のとおり,SCトランスに製造効率の課題やコスト面の問題があり,それらを解決するためであったから,甲1契約の締結後も,そのような観点からコストを抑えつつ,効率的にWBトランスの製品を量産するために必要な検討をし,当初の発明に必要な改良を加えるなどしていくことが予定されていたことは明らかである(原告代表者も尋問でそれを認めてい る。)。 以上のことを踏まえると,甲1契約にいう「本発明」の内容が当初の出願内容に限定されるというのは必ずしも合理的なものとはいえず,現に,本件契約2(甲15)では,甲1契約書の別紙に記載されていない平成6年6月24日出願の意匠登録出願も対象として追加されている。 ウそこで,巻鉄心特許の内容を見ると,そもそも巻鉄心特許は,変成器の- 32 -本質的構成要素である巻鉄心に係止部を設けるとともに,コイルボビンに係止用切込を設けることによって,巻鉄心をコイルボビンの鉄心巻込部に対して固定する作業の作業性を向上させるものであるが,巻鉄心を固定する必要性はSCトランスにおいても存しており,巻鉄心特許はSCトランスとは異なる方法で巻鉄心を固 ,巻鉄心をコイルボビンの鉄心巻込部に対して固定する作業の作業性を向上させるものであるが,巻鉄心を固定する必要性はSCトランスにおいても存しており,巻鉄心特許はSCトランスとは異なる方法で巻鉄心を固定することを目的としたものにすぎない。また,係止部が設けられた巻鉄心の内周側の 端部が最先端に向けて狭幅となる形状であることは,巻鉄心用の鋼板コイルの製造のための加工から生じたものにすぎなかった。そして,甲1契約の締結前から,トランス製造の自働化に伴い,鉄心内巻端の形状をどうするかということが課題として認識されていた。以上のことを総合すると,原告が主張するように巻鉄心特許が革新的なものであることを考慮しても,同特許は,WBトランスの製品化・量産化 に向けた検討の過程で,本件基礎出願に係る発明に加えられた改良にとどまるものと認めるほかないというべきであり,同特許を甲1契約の適用対象とすることが不合理であるとはいえない。 エ次に,事後の状況を見ると,上記1のとおり,甲1契約の後にされた本件基礎出願では,請求項1ないし5を変成器の発明とし,それに対応する形で請求 項6ないし10をコイルボビンの発明としているが,このような請求項の構成は,本件基礎出願に係る権利の共有関係のうち,トランス全体は川鉄電設の単独保有とし,コイルボビンについてのみ川鉄電設と原告の共有とするとの甲1契約の規律によく整合している。このことからすると,このような請求項の構成は,甲1契約に基づき,原告の内部的な共有持分権の対象をコイルボビンの発明の実施(すなわち, コイルボビンの製造,販売等)に限定することを明確にする趣旨に出たものと解される。そして,このような甲1契約の規律とそれに基づく請求項の構成は,WBトランスの開発過程における原告代表者の関与が専 コイルボビンの製造,販売等)に限定することを明確にする趣旨に出たものと解される。そして,このような甲1契約の規律とそれに基づく請求項の構成は,WBトランスの開発過程における原告代表者の関与が専らコイルボビンの開発にあり,WBトランスの製造体制における原告の担当もコイルボビンの製造にあったことを反映したものであると考えるのが合理的である。 そして,このような請求項の構成の仕方は,本件優先権出願にも引き継がれてお- 33 -り,その請求項1ないし10を変成器の発明とし,それに対応する形で請求項11ないし20をコイルボビンの発明としており,そのうち請求項10と請求項20が,巻鉄心を構成する電磁鋼板の端部の係止部をコイルボビンの係止用切込に係止させる発明を,それぞれ変成器の発明,コイルボビンの発明として構成したものである。 このことからすると,本件優先権出願においても,甲1契約の規律を前提とし,本 件基礎出願には含まれなかった発明(上記の請求項10及び20のほか,請求項8及び18もこれに当たる。)についても,甲1契約の規律に従わせる趣旨であったと解するのが相当である。 そして,以上のことを踏まえて検討すると,巻鉄心特許に係る本件分割出願の源となった本件優先権出願の請求項21は,上記の請求項10及び20と同内容の発 明を巻鉄心の発明として構成したものであり,これは,巻鉄心をコイルボビンに固定する発明における原告代表者の関与が専らコイルボビンの係止用切込の開発にあったことや,WBトランスの製造体制において巻鉄心用の鋼板コイルの製造は川鉄電磁鋼板株式会社が担当することを予定していたこと(なお,その後,鋼板コイルの製造担当は日本磁性材工業に代わったが,そこでは,上記認定のとおり,川鉄電 設による材料の購入先の指定と品質 は川鉄電磁鋼板株式会社が担当することを予定していたこと(なお,その後,鋼板コイルの製造担当は日本磁性材工業に代わったが,そこでは,上記認定のとおり,川鉄電 設による材料の購入先の指定と品質管理の下,川鉄電設の承認する近畿変成器工業会加盟社への販売のみが認められるというものであるから,川鉄電設による自己実施にも等しく,状況に大きな変更はないといえる。)から,甲1契約の規律を前提に,巻鉄心の発明の実施(すなわち巻鉄心の製造,販売等)を原告の内部的な共有持分権の対象から外すことを明確にする趣旨であったと認めるのが相当である。 以上からすれば,本件優先権出願は,甲1契約の規律を前提とするものであったと認められる。 オまた,原告及び川鉄電設は,平成7年8月10日,甲1契約に基づく外国出願に関する合意をする際,外国出願する工業所有権を,本件基礎出願に係る特許から本件優先権出願に係る特許に変更する旨を明記している。 確かに,この合意は本件優先権出願がされた後,外国出願をしようとする段階で,- 34 -外国出願に関してされた合意にすぎないから,これが直ちに甲1契約にいう「本発明」の範囲に直接影響を及ぼすことにはならない。しかし,甲1契約は特許出願しようとする発明の帰属や実施に関する契約であり,その性質上,国内の出願と外国出願とでその適用範囲を異にするというのは不自然である。また,本件優先権出願は,本件基礎出願に基づき特許法41条1項よる優先権を主張してされた特許出願 であり,そのままいけば同法42条1項により1年3か月後には本件基礎出願は取り下げたとみなされることになるから,甲1契約の当事者において,本件優先権出願を本件基礎出願に代わるものとして扱うことは自然なことである。これらからすると,上記の外国出願に関 後には本件基礎出願は取り下げたとみなされることになるから,甲1契約の当事者において,本件優先権出願を本件基礎出願に代わるものとして扱うことは自然なことである。これらからすると,上記の外国出願に関する合意は,「本発明」に改良発明等も含まれることを前提として,外国出願をする発明の内容を確認・明確化したものと理解することがで きる。 なお,本件優先権出願後に作成された本件契約2の契約書(甲15)では,甲1契約が対象とする工業所有権として,本件優先権出願ではなく本件基礎出願が記されているが,同契約書が作成されたのは本件優先権出願の約2週間後であるから,以前から準備されていた文面が修正されないままとなったにすぎないと考えても不 合理ではない。 カ以上に加え,原告が,本件契約1の存在を認識しながら,変成器・コイルボビンの特許が存続期間満了により消滅した平成27年3月まで20年近くもの間,川鉄電設及び被告に対して何らの異議を述べたことがないことも,甲1契約の規律により,原告が巻鉄心特許について内部的な共有持分権を有しないと解するこ とと整合的である。 キ以上からすると,巻鉄心特許に係る発明は甲1契約にいう「本発明」に含まれ,同発明に甲1契約が適用されると解するのが相当である。これに対し,原告は種々の主張をするが,いずれも上記に照らして採用できない。 (3) 原告は,巻鉄心特許に甲1契約が適用されるとしても,巻鉄心特許に係る 発明は「コイルボビン」に関する発明に当たるから,なお原告は巻鉄心特許につい- 35 -て内部的な共有持分権を有すると主張する。 確かに,巻鉄心特許に係る発明はコイルボビンの係止用切込の存在を前提とするものではあるが,上記判示のとおり,巻鉄心に係止部を設ける発明であり,コイルボ て内部的な共有持分権を有すると主張する。 確かに,巻鉄心特許に係る発明はコイルボビンの係止用切込の存在を前提とするものではあるが,上記判示のとおり,巻鉄心に係止部を設ける発明であり,コイルボビンに係止用切込を設ける発明は別途変成器・コイルボビン特許の内容として特許登録されているから,巻鉄心特許に係る発明がコイルボビンに関する発明に当た るとはいえない。 (4) 以上より,原告は甲1契約において,川鉄電設が巻鉄心特許について実施許諾するのに原告の同意を不要とする旨合意したと認められる。したがって,甲1契約の契約上の地位を承継した被告が日本磁性材工業に実施許諾するのにも原告の同意は不要であり,この同意が必要であることを前提とする本件契約1に係る請求 は,争点2及び3について判断するまでもなく,理由がないこととなる。 4 争点4(原告は本件契約2において,フレーム特許の実施料を支払う合意をしたか(フレーム実施料がフレーム特許の実施料を含んでいるか))について(1) 原告は本件契約2の3条で定められたフレーム実施料がフレーム特許の実施料であると主張し,原告代表者はこれに沿う供述をしている。 ア確かに,本件契約2が締結されるよりも前にフレーム特許の出願がされており,本件契約2に基づき製造,販売されるフレームにはフレーム特許の実施品が含まれていた。 しかし,原告代表者が本件契約2の締結時点で,川鉄電設がフレーム特許の出願をしたことを知っていたにもかかわらず,その契約書では,その文言上,フレーム 特許には何ら触れられていないし,フレーム実施料の定めの前提として,特許権者である川鉄電設が原告に対してフレーム特許の実施を許諾する旨が明記されているわけではなく,フレーム実施料がその実施許諾の対価であるともさ 触れられていないし,フレーム実施料の定めの前提として,特許権者である川鉄電設が原告に対してフレーム特許の実施を許諾する旨が明記されているわけではなく,フレーム実施料がその実施許諾の対価であるともされていない(甲15の1。本件契約1の2条1項,5条1項,9条対照)。また,フレーム特許の存続期間と本件契約2の契約期間を一致させたり,フレーム特許の不登録に備えた条 項が設けられたりすることもなかった(甲15の1の8条参照。甲1契約の10条- 36 -対照)。そして,フレーム実施料の対象とするフレームについては,フレーム特許の実施品かどうかなどというフレーム特許と関連付けた基準ではなく,単に協議の上決定することとされた。これらのように,本件契約2の契約書上,同契約がフレーム特許の存在を前提とし,それと関連付けていることは全くうかがえない。 これに関して,本件契約2の3条ではコイルボビンの販売に係る実施料について も定められているところ,このコイルボビンについては,甲1契約書に基づくものであるとされた上で,さらに本件基礎出願の出願番号を明記することによって特定されており(上記第2の2の前提事実(4)イ),本件契約2が変成器・コイルボビン特許の実施品であるコイルボビンに適用されることが一義的に定められていた。同一の契約書のしかも同一の条項で定められているコイルボビンについてはこのよう に規定されていることに照らすと,これと異なる規定とされているフレームは特許の実施品に限らないと解するのが自然で,整合的である。 なお,原告は,本件契約2の契約書にコイルボビン式巻鉄心変圧器用に「開発したフレーム」と記載されていることを指摘しているが,「開発」という文言が直ちに特許を意味するわけではないし,その契約書には「フレーム等」と記載されてい の契約書にコイルボビン式巻鉄心変圧器用に「開発したフレーム」と記載されていることを指摘しているが,「開発」という文言が直ちに特許を意味するわけではないし,その契約書には「フレーム等」と記載されている から,上記変圧器用に開発されたフレームだけが本件契約2の適用対象であると解することもできない。 以上より,原告代表者の上記供述は,本件契約2の契約書の内容と整合的とはいえない。 イ他方で,被告は,フレーム実施料が,他企業と競合することなくフレー ムを販売して利益を得ることができる地位に就けてもらったことの対価である旨主張し,被告代表者はこれに沿う供述をしていることから,この点についても検討しておく。 (ア) 確かに,原告代表者はコイルボビンの設計に当たって製造効率のよい方法を考案するなどし(甲34,乙5,原告代表者6頁,7頁),WBトランスの開 発に当たって原告代表者が果たした役割は小さくなかった。また,証拠(甲34,- 37 -原告代表者3頁,43頁)及び弁論の全趣旨によれば,原告代表者は近畿変成器工業会の事務局長を務めていたところ,同会に加盟する企業がWBトランスの製造トランスメーカーとなるに際して,相当尽力したことも認められる。 (イ) もっとも,上記認定事実によれば,WBトランスの製造,販売事業に関与する業者やトランスメーカーは,いずれも川鉄電設や被告と契約を締結した上 で事業に関与しており,原告や日本磁性材工業が製造したコイルボビン,フレーム及び鉄心の販売先に加え,日本磁性材工業が製造する鉄心の材料の購入先に至るまで,川鉄電設や被告が承認・指定することとされていた。 そして,変成器の本質的構成要素であるコイルボビンと巻鉄心については,変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許が登録されており,W の購入先に至るまで,川鉄電設や被告が承認・指定することとされていた。 そして,変成器の本質的構成要素であるコイルボビンと巻鉄心については,変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許が登録されており,WBトランスを製造するに 当たってはこれらの特許に係る発明が実施されていたから,上記のように選定された業者やトランスメーカーは,少なくとも変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許の存続中,川鉄電設及び被告の下で,事実上,独占的に対象物を製造,販売することができたことになる。 以上のような事業形態が採用されていたことは,甲1契約及び本件契約2からも うかがうことができる。すなわち,甲1契約では,特許権のうちコイルボビンに関する部分について,内部的にも両者の共有とされたから,本来であれば共有者である原告が自由に特許に係る発明を実施することができるはずのところ(特許法73条2項),原告は川鉄電設との間の契約によって,コイルボビンの販売先を川鉄電設の承認を受けた先に限定したり,川鉄電設に対してその販売価格の3%を実施料と して支払うことを要するものとしたりしている。これは特許法の原則を修正したものであるが,このような修正がされたのは,原告にとって,川鉄電設及び被告の下で,事実上,独占的にコイルボビンを製造,販売することができ,特許法上は支払う必要のない実施料を支払ったとしても十分合理性が認められるためであった。 (ウ) 以上の認定・判断を踏まえてフレームについて検討すると,フレーム は巻鉄心をコイルボビンに保持して固定し,WBトランスを機械の内部等に取り付- 38 -けるための器具であるから,WBトランスを製造,販売するのに必要不可欠な物である。そして,その性質上,フレームが独立の商品として一般ユーザーに販売されることは想定 械の内部等に取り付- 38 -けるための器具であるから,WBトランスを製造,販売するのに必要不可欠な物である。そして,その性質上,フレームが独立の商品として一般ユーザーに販売されることは想定し難く,事実上,フレームを購入するのはWBトランスの製造トランスメーカーに限られ,上記認定のとおり,そのメーカーは,少なくとも変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許の存続中,事実上,独占的にWBトランスを製造,販 売することができる立場にあった。そうすると,フレームの製造,販売業者に選定されると,少なくとも変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許の存続中,川鉄電設及び被告の下で,事実上,独占的にフレームを製造,販売することができることとなる。 以上の事実を踏まえると,川鉄電設ないし被告の下で構築されたWBトランスの 製造販売体制の下で,原告がフレームを事実上,独占的に製造,販売する地位を与えられ,安定した収益を得られることに対する対価を支払うのは経済的に合理的なことであって,このことは,原告がコイルボビンの独占的な製造,販売に係る実施料を支払っていたことや,原告がフレーム特許の消滅後もフレーム実施料の支払を続け,変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許が存続期間満了により消滅し,独占 的な製造販売体制の基礎が崩れて初めて,フレーム実施料の支払について異議を述べ始めたこととも整合的に理解することができる。 (エ) さらに,被告代表者の上記供述は原告の行動とも整合的である。 すなわち,原告代表者は本件契約2が締結された時点でフレーム特許が出願されたことを知っていたにもかかわらず,フレーム特許の具体的内容を確認せず,それ ばかりか,原告は本件契約2の締結後,フレーム特許の実施品でないフレームを製造するために,自ら製作費用を追加負担して たことを知っていたにもかかわらず,フレーム特許の具体的内容を確認せず,それ ばかりか,原告は本件契約2の締結後,フレーム特許の実施品でないフレームを製造するために,自ら製作費用を追加負担して金型を製作し,フレーム特許の実施品でないフレームを製造,販売しており,この際にもフレーム特許の実施品を製造するための金型であるのかを確認しなかった。そして,上記認定のとおり,原告はその金型で製造したフレームについても,本件契約2で定められたとおりフレーム実 施料を支払っていた。これらの原告の行動は,フレーム実施料がフレーム特許の実- 39 -施料であることと整合せず,むしろ原告はフレーム特許の実施品かどうかとは関係なく,単に自らフレームを製造するために一貫して行動してきたものと認められる。 また,川鉄電設や被告と原告は,本件契約2の締結後にフレーム特許の実施品でないフレームを製造するための金型を製作しながら,これに関する契約書等を作成していなかったところ,それまで両者の間では契約書・合意書等が細かく作成され ていたことに照らせば,本件契約2等の当初の契約・合意が適用される前提であったため本件契約2の締結後に契約書等が作成されなかったと認めるのが自然である。 この点について原告は,フレーム特許の実施品でないフレームを製造するための金型について,使用料を支払うことは合意したが,フレーム実施料を支払うことは合意していないなどと主張している。しかし,このように分離して考えることは, 上記認定のとおり,フレーム実施料の対象を,共同投資をする金型を使用して製造・販売するフレームとしたことと整合的ではなく,むしろ,上記認定の経緯からは,本件契約2の3条で定められた協議がされ,フレーム特許の実施品でないフレームもフレーム実施料の対象とされ 型を使用して製造・販売するフレームとしたことと整合的ではなく,むしろ,上記認定の経緯からは,本件契約2の3条で定められた協議がされ,フレーム特許の実施品でないフレームもフレーム実施料の対象とされたものと推認される。原告は原告の従業員が本来支払う必要のないフレーム実施料を支払ってしまったと主張しているが,上記認 定の金型の製作やフレームの製造,販売の経過によると,原告代表者がフレームの実施品とそうでないフレームとを区別していたことはうかがえないから,原告の上記主張は採用できない。 ウ以上の認定・判示を踏まえると,原告代表者の上記供述を採用することはできず,他方で,被告代表者の上記供述は採用することができ,これによると, フレーム実施料は,フレーム特許の実施許諾に対する対価ではなく,原告が事実上,独占的にフレームを製造,販売することができることに対する対価と認められる。 (2) 以上より,原告が本件契約2において,フレーム特許の実施料を支払う合意をした(フレーム実施料がフレーム特許の実施料を含んでいる)とは認められない。 5 争点5(原告が本件契約2においてしたフレーム実施料を支払う合意は公序- 40 -良俗に反して無効か)について(1) 原告は,本件契約2のフレーム実施料がフレーム特許の実施料でないならば,これを支払う合意が独占禁止法の禁止する拘束条件付取引に該当すると主張している。 本件で原告が不当利得として返還請求しているのは,フレーム特許に係る特許権 の消滅後,変成器・コイルボビン特許及び巻鉄心特許に係る特許権の消滅前に支払ったフレーム実施料であるから,その期間中にもフレーム実施料を支払うことを要するとの合意が原告の事業活動を「不当に」拘束するものかということが問題となる。 そこで, 特許に係る特許権の消滅前に支払ったフレーム実施料であるから,その期間中にもフレーム実施料を支払うことを要するとの合意が原告の事業活動を「不当に」拘束するものかということが問題となる。 そこで,この点について検討すると,上記2で認定したとおり,本件のWBトラ ンスの製造,販売事業の形態やフレームの性質に照らせば,フレームの製造,販売業者に選定されると,少なくとも変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許の存続中,事実上,独占的にフレームを製造,販売することができることになるのであるから,原告が少なくとも変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許の存続中,川鉄電設ないし被告の下で構築されたWBトランスの製造販売体制の下で,事実上,独占的にフ レームを製造,販売することができ,安定的な収益を得られることに対する対価としてフレーム実施料を支払うことは経済的に合理的なことと認められる。 そうすると,少なくとも変成器・コイルボビン特許と巻鉄心特許の存続中,原告がフレーム実施料を支払うことを要するとの合意が,原告の事業活動を「不当に」拘束する条件をつけた取引に当たるものということはできない。 (2) したがって,原告の主張はその前提を欠き,採用できないから,本件契約2に係る請求は,争点6について判断するまでもなく,理由がないこととなる。 6 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第26民事部- 41 - 裁判長裁判官 髙松宏之 裁判官 髙松宏之 裁判官 野上誠一 裁判官 大門宏一郎

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