主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人らは、控訴人に対し、連帯して696万2343円及びこれに対する令和4年12月27日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要以下、略称は、本判決で定めるもののほかは、原判決のものによる。 1 本件は、被控訴人法人が設置するa高等学校(本件高校)に在籍し、野球部(本件野球部)に所属していた控訴人が、被控訴人法人の職員で、本件野球部の部長(顧問)である被控訴人bから、本件野球部の練習中に雑用を命じられたり、暴言や不当な批判を受けたりしたことによって次第に体調が悪化し、自殺を試みるようになり、適応障害と診断され本件高校を退学するに至ったと主 張して、①被控訴人法人に対し、不法行為(使用者責任)又は在学契約に付随する安全配慮義務の債務不履行に基づき、②被控訴人bに対し、不法行為に基づき、連帯して696万2343円及びこれに対する令和4年12月27日(被控訴人らに対する訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原審は、控訴人の請求をいずれも棄却したところ、控訴人が同判断を不服として本件控訴を提起した。 2 前提事実並びに争点及び当事者の主張は、下記(1)のとおり補正し、当審における控訴人の補充主張を下記(2)のとおり加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1及び2に記載のとおりであるから、こ れを引用する。以下、補正して引用する原判決第2の1の前提事実を、同1の 符号により「前提事実(1)」などという。 (1) 原判決の補正 の1及び2に記載のとおりであるから、こ れを引用する。以下、補正して引用する原判決第2の1の前提事実を、同1の 符号により「前提事実(1)」などという。 (1) 原判決の補正ア原判決2頁25行目の「原告は、令和3年4月」を「控訴人は、中学生まで和歌山県内で家族とともに生活し、地元の硬式野球チーム「c」に所属していたが、令和3年4月、特別奨学生として、家族の元を離れ」と改 める。 イ原判決3頁1行目の「争いがない。」を「甲1、37、弁論の全趣旨」と改め、同頁7行目から8行目にかけての「指導者だった。」の次に「本件野球部では、同年4月1日から監督を務めていたdが、同年6月末をもって退任し、同年7月1日からeが総監督に就任していた。また、令和3 年4月から、fが本件野球部のコーチを務めていた。本件野球部には、AチームとBチームがあるところ、Aチームが上位のチームと位置づけられており、部員はいずれかのチームに所属することとされていた。」を、同行の「被告b本人43頁」の次に「、弁論の全趣旨」をそれぞれ加える。 ウ原判決別紙の「被告らの主張」欄のうち、「雑用を命じる不法行為(争 点1)」中の「被告bが補食の準備状況の確認を指示したことはあったかもしれない。」を「被控訴人bが控訴人に対し、補食の準備状況の確認を指示したことはあったかもしれないが、本件野球部の部員らが円滑に補食を摂取するために随時準備状況を確認する必要があるため、何らかの練習等に取り組んでいる状況にない部員に状況の確認を指示したものであり、 控訴人に限って確認を指示したものではない。」と、「暴言・不当な批判による不法行為(争点2)」中の「副寮長は」を「なお、副寮長は」とそれぞれ改める。 (2) 当審における控訴人の補充主張 控訴人に限って確認を指示したものではない。」と、「暴言・不当な批判による不法行為(争点2)」中の「副寮長は」を「なお、副寮長は」とそれぞれ改める。 (2) 当審における控訴人の補充主張本件事案の性質上、控訴人が主張する被控訴人bの不法行為につき客観的 証拠は存在しないか、あるいは控訴人が提出することが不可能であることは 明らかであり、そのような事情をしんしゃくした事実認定がされるべきである。控訴人が自殺未遂の直後あるいは適応障害・うつ病と診断された時点において、看護師に対し述べた内容が信用できるのであれば、その後、9月26日までの間に控訴人が両親に対してした供述内容(控訴人両親は、これを記録して、本件学校の校長らと協議をした。)も信用できるというべきであ る。 また、被控訴人bは、控訴人に対して悪感情を抱いていたか、低い評価をしていたことから、練習に参加していた控訴人に対し雑用を指示していた。 被控訴人bが控訴人をBチームからAチームに所属を変えたのは、8月29日(控訴人が自殺を試みた2日前)であるから、被控訴人bが控訴人に対し 殊更悪感情を抱いていたことは否定されない。被控訴人bの妻が、緊急搬送先の病院の看護師に対し、控訴人につき「寮での生活場面で決まり事が守られていないことがあった。寮長なのにと部員から言われ、注意されることもあり、キャプテンがフォローしていた。」などと伝えていたことからも、被控訴人bが、控訴人に対して悪感情を抱いていたか、低い評価をしていたこ とが裏付けられる。 また、被控訴人bが控訴人に対し雑用を指示した行為は、本件野球部における組織内の優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的若しくは身体的な苦痛を与えるものであるから、不法行為を構成するパワーハラスメ 控訴人bが控訴人に対し雑用を指示した行為は、本件野球部における組織内の優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的若しくは身体的な苦痛を与えるものであるから、不法行為を構成するパワーハラスメントに該当する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は、下記2のとおり補正し、当審における控訴人の補充主張に対する判断を下記3のとおり加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決第3」という。)の1から4までに 記載のとおりであるから、これを引用する。以下、補正して引用する原判決第 3の1の認定事実を、同1の符号により「認定事実(1)」などという。 2 原判決の補正(1) 原判決3頁23行目の「もっとも、」を「本件野球部は、夏の予選大会の準々決勝で敗退し、2年生と1年生による新チームが発足した。」と改める。 (2) 原判決4頁4行目の「7月」から7行目の末尾までを「新チーム発足に伴 い、控訴人を含めた本件野球部の2年生が、新たに本件野球部におけるキャプテンに就任することとなり、控訴人は、キャプテン、副キャプテン、外野のリーダーなどの役割分担のある中、本件寮の寮長に就任した(甲26,27、37、乙2、3の1・2、控訴人本人3、4頁、被控訴人b本人2、3頁)」と改める。 (3) 原判決5頁11行目の「本件野球部の」から同頁12行目の「状況で」まで、同頁14行目の「3〔27頁〕、」をいずれも削り、同頁21行目の「トイレの個室内において、」の次に「首にタオルを巻き、」を、同頁23行目の「トイレで首を吊った旨述べた」の次に「(被控訴人らは、控訴人が現実に首を吊って自殺する行為に着手したわけではなく 1行目の「トイレの個室内において、」の次に「首にタオルを巻き、」を、同頁23行目の「トイレで首を吊った旨述べた」の次に「(被控訴人らは、控訴人が現実に首を吊って自殺する行為に着手したわけではなく、その前段階で他の 原因(解離性障害等の精神疾患)のために意識を失った可能性の方が高いと主張するが、控訴人が自殺を考えるくらいまで精神的に落ち込んでいた状況にあったことまで否定しておらず、控訴人にてんかん等の既往症はなく、控訴人及び家族によって構成されるグループを退会し、本件学校のトイレの個室内において、首にタオルを巻き、意識のない状態で発見されたことからす ると、このタオルを使用するなどして自殺を試みようとしたこと自体まで否定されない。)」を、同頁24行目の「40、」の次に「乙3の2、」を、同頁26行目の末尾の次に改行して以下のとおりそれぞれ加える。 「 控訴人は、同月16日から、和歌山県立こころの医療センターに通院した(甲4)。」 (4) 原判決6頁1行目の「退学」を「退学に至る経緯等」と改め、同行と2行 目の間に以下のとおり加える。 「 控訴人の両親は、9月26日、被控訴人bほか本件高校の校長、教頭、fらと、本件につき協議した(甲38の1及び2)。 本件高校の校長は、10月17日付けg宛の報告書によって控訴人の両親に対し、控訴人を追い込んだ原因が究明できない状況下で何とも言いよ うがない、部員全員の資質向上を図り、レギュラーへのチャンスを与える機会をあらゆる場面で作って競争意識を高めさせるとともに、心技体の調和の取れた部員育成に徹していく、今後、保護者の本件高校に復帰させたいとの希望と控訴人の転校したいとの希望が対立する中、いずれかの結論が出るまでの間、控訴人を病気療養中として取り扱う旨を伝 技体の調和の取れた部員育成に徹していく、今後、保護者の本件高校に復帰させたいとの希望と控訴人の転校したいとの希望が対立する中、いずれかの結論が出るまでの間、控訴人を病気療養中として取り扱う旨を伝えた。」 (5) 原判決6頁11行目の冒頭から12行目の「8月下旬、原告を」までを「控訴人は、本件高校に入学する以前は和歌山県で生活しており、被控訴人bは、5月頃、本件野球部の部長に就任し、7月頃から本件野球部の監督代行も兼ねるようになったから(前提事実(2)ア、イ)、5月頃まで両者の間に接点はなく、また、被控訴人bは、7月の夏の大会の試合において、6月 頃まで負傷からのリハビリを続けていた控訴人を試合に起用し、一旦、手首の痛みによりBチーム所属となった控訴人を(認定事実(1))、8月下旬には」と、同頁13行目の「持っていた」を「抱いていたり、控訴人に対して低い評価をしていたりした」と、同頁14行目の「そして」を「また」と、同頁16行目の「認められる」を「認められるから」と、同行の「。そうす ると」から20行目の末尾までを「、被控訴人bが、意図的に、現に練習に参加している控訴人を指名して雑用を指示すべき状況にあったとはいい難い。 これに照らせば、控訴人の上記供述を採用するのは困難である。」と、同頁24行目から7頁3行目までを以下のとおりとそれぞれ改める。 「 しかしながら、被控訴人bは、上記主張内容を否認する供述をするとこ ろ(被控訴人b31、32頁)、被控訴人bが8月中旬頃までに、控訴人 に対して悪感情を抱いていたり、低く評価したりしていた事情は認め難いこと(上記2(1))、他に控訴人の上記主張内容を認めるに足りる証拠がないことからすれば、控訴人の上記主張内容を採用することは困難である。」(6) いたり、低く評価したりしていた事情は認め難いこと(上記2(1))、他に控訴人の上記主張内容を認めるに足りる証拠がないことからすれば、控訴人の上記主張内容を採用することは困難である。」(6) 原判決7頁6行目の冒頭から14行目の「さらに、」までを「しかしなが ら、被控訴人bは、本件野球部の部員が練習中、不測の事故が生じたりしないようにするため、常に注意を払い、練習風景を監視できる場所から離れることができない立場にあったことは否定し難く、また、控訴人に指示した内容は、いずれも本件野球部の活動に関係するものであって、状況に応じて、本件野球部の部員に指示することがおよそ不当といえるものではないし、控 訴人にとって過度の負担となるほど頻繁に雑用を指示していた事情や、指示に従わなければ不利益な扱いを受けることを示唆するような言い方で指示していた事情はうかがわれない。また、」と、同頁16行目の「被告bの上記各指示が」から18行目の末尾までを「控訴人が、被控訴人bから雑用を指示されたことについて、雑用係と扱われているように感じて、自尊心が傷付 けられ、被控訴人bが控訴人に上記雑用を指示する態様につき、多感な時期にある生徒の心情への配慮にいささか欠けるところがあったという余地があるとしても、本件野球部内における地位の優位性を背景に、指導の範囲を超えて行われたものとはいえず、不法行為を構成するような違法なものであったとはいえない。」とそれぞれ改め、同頁23行目の「看護師に対し、」の 次に「「夕べは一睡もしていません。夜は何か聞こえてきて、もう自分ではどうしようもなくて」「きつかったです。居場所がなくて」「(和歌山に)帰りたい。けど、両親に心配を掛けたくない。掛けたくないから両親には相談できないし、話しもしていません。」「スポ て、もう自分ではどうしようもなくて」「きつかったです。居場所がなくて」「(和歌山に)帰りたい。けど、両親に心配を掛けたくない。掛けたくないから両親には相談できないし、話しもしていません。」「スポーツ推薦できているので、ここで学校変わるのも難しい。」などと苦しい胸の内を伝えるほか、」を加え る。 (7) 原判決8頁1行目から2行目にかけての「看護師に対し、」の次に「居場所がなく、帰りたいが、両親に心配をかけたくないなど、これまでの苦しい胸の内を伝える中、」を加え、同頁5行目の冒頭から6行目の「かえって」までを「一方、被控訴人bが、控訴人に対し、悪感情を抱いていたり、低く評価をしたりしていたとの事情は認められず(上記2 (1))、他に被控訴人 bが控訴人に対し、控訴人が主張する暴言や不当な批判をすべき事情があったことをうかがわせる証拠もないこと」と、同頁13行目から14行目の「その内容等からすれば」を「被控訴人bは、本件野球部の上位から2番目の指導者であり(前提事実(2)イ)、本件野球部に関する活動について、控訴人を指導すべき立場にあったこと、控訴人が本件寮の寮長に就任していた のは、本件野球部の活動の一環といえること(認定事実(2))、被控訴人bの指摘は、本件寮の清掃状況が不十分であることを指摘するものであり(認定事実(4))、その指摘の態様につき、多感な時期にある生徒の心情への配慮にいささか欠けるところがあったという余地があるかは格別、いたずらに控訴人の心情を害するようなものであったことを認めるに足りる証拠がない ことに照らせば、控訴人が、被控訴人bの指摘を理不尽なものであると受け止めたとしても」とそれぞれ改める。 3 当審における控訴人の補充主張について控訴人は、①本件事案の性質上、控 ない ことに照らせば、控訴人が、被控訴人bの指摘を理不尽なものであると受け止めたとしても」とそれぞれ改める。 3 当審における控訴人の補充主張について控訴人は、①本件事案の性質上、控訴人が主張する被控訴人bの不法行為につき客観的証拠は存在しないか、あるいは控訴人が提出することが不可能であ ることは明らかであり、そのような事情をしんしゃくした事実認定がされるべきであるし、控訴人が自殺未遂の直後あるいは適応障害・うつ病と診断された時点で看護師に対して述べた内容が信用できるのであれば、その後、9月26日までの間に控訴人が両親に対してした供述内容(控訴人両親は、これを記録して、本件学校の校長らと協議をした。)も信用できるというべきである、② 被控訴人bは、控訴人に対して悪感情を抱いていたか、低い評価をしており、 練習に参加していた控訴人に対して雑用を指示していた、被控訴人bが控訴人をBチームからAチームに所属を変えたのは、8月29日であるから、被控訴人bが控訴人に対し殊更悪感情を抱いていたことは否定されないし、被控訴人bの妻が、控訴人が緊急搬送された病院の看護師に対し、「寮での生活場面で決まり事が守られていないことがあった。寮長なのにと部員から言われ、注意 されることもあり、キャプテンがフォローしていた。」などと伝えていたことからも裏付けられる、③被控訴人bが控訴人に対して雑用を指示した行為は、本件野球部における組織内の優位性を背景に、指導の適正な範囲を超えて、精神的若しくは身体的な苦痛を与えるものであって、それ自体が不法行為を構成するパワーハラスメントであり、被控訴人bが控訴人に対して雑用を指示した 行為は違法である旨を主張する。 しかしながら、①控訴人が指摘する事情を考慮しても、控訴人が主 それ自体が不法行為を構成するパワーハラスメントであり、被控訴人bが控訴人に対して雑用を指示した 行為は違法である旨を主張する。 しかしながら、①控訴人が指摘する事情を考慮しても、控訴人が主張する不法行為を認定することができないことは、前記補正して引用する原判決第3の1から3のとおりである。証拠(甲3、5)によれば、看護師は、控訴人の心情に寄り添って、控訴人から病院に搬送されるに至った経緯につき事情を聴い ていたことを認めることができ、これに対し、控訴人は、居場所がなく、帰りたいが、両親に心配をかけたくないなど、これまでの苦しい胸の内を伝える中、看護師に伝えた内容に高い信用性が認められることは否定し難いというべきである。 また、②被控訴人bが、控訴人に対して悪感情を抱いていたか、低い評価を していた事実や、練習に参加していた控訴人に対し雑用を指示したとの事実を認めることができないことは、前記補正して引用する原判決第3の2(1)のとおりで、控訴人が特別奨学生として本件高校に入学してきたことや(前提事実(2)ア)、もともとAチームに所属し、7月19日以降、手首の痛みが再発し、Bチーム所属となったものの、8月下旬にAチームに復帰させていることから すると、被控訴人bが控訴人に対し悪感情を抱き、選手としての実力を低いも のと評価していたと認めるに足りるものではなく、そのことは、被控訴人bの妻が、控訴人が緊急搬送された病院の看護師に対し伝えた内容によって左右されるものではない。 さらに、③被控訴人bの控訴人に対する雑用の指示が、本件野球部内における地位の優位性を背景に、指導の範囲を超えて行われたものとはいえず、不法 行為を構成するような違法なものであったとはいえないことは、前記補正して引用する原判決 る雑用の指示が、本件野球部内における地位の優位性を背景に、指導の範囲を超えて行われたものとはいえず、不法行為を構成するような違法なものであったとはいえないことは、前記補正して引用する原判決第3の2(3)のとおりであり、当審における控訴人の主張立証内容をしんしゃくしても、上記結論は異ならない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。 第4 結論 以上によれば、控訴人の被控訴人らに対する請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡高等裁判所宮崎支部 裁判長裁判官 西森政一 裁判官 㑨木泰治 裁判官 鈴木麻奈美
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