平成15(ワ)35 保険金請求事件

裁判年月日・裁判所
平成15年9月17日 札幌地方裁判所
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判決文本文4,283 文字)

主文 1 被告は,原告に対し,375万5708円及びこれに対する平成14年11月28日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要本件は,保険会社である被告との間で車両保険契約を締結していた原告が,被保険車両について交通事故が発生し,修理費相当額375万5708円の損害を被ったと主張して,当該契約に基づき,前記金額の保険金及びこれに対する被告による保険金の支払拒絶がされた日の翌日である平成14年11月28日から支払済みまで民法所定の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1 争いのない事実等(証拠上明らかな事実については,証拠を掲記している。)(1) 原告は,平成13年12月25日ころ,被告との間で,原告を保険契約者,原告所有の車両(以下「本件車両」という。)を被保険車両とし,限度額を640万円とする車両保険を含む自家用自動車総合保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。 (2) 訴外Aは,平成14年8月17日午後9時30分ころ,札幌市a区bc条de丁目f番地付近十字路交差点において,本件車両を運転していたところ,訴外Bの運転する車両と衝突した(以下「本件事故」という。)。その際,Aは,対面信号が赤の状態で当該交差点を直進しており,他方,Bは,対面信号が右折青矢印が出る直前の赤の状態で当該交差点を右折しようとしていた(乙8の1等)。 本件事故の前に,Aは,原告同席の下,飲酒していた。また,本件事故当時,本件車両の後部座席には原告が同乗していた。 (3) 被告は,原告から,本件車両について,本件事故に基づき修理代金相当額として375万5708円の損害が生じたとして,当該金額の保険金を支払う 故当時,本件車両の後部座席には原告が同乗していた。 (3) 被告は,原告から,本件車両について,本件事故に基づき修理代金相当額として375万5708円の損害が生じたとして,当該金額の保険金を支払うよう催告を受けたが,遅くとも平成14年11月27日までに,原告に対し,当該保険金の支払を拒絶した。 (4) 本件契約中には,1保険契約者,被保険者又は保険金を受け取るべき者,2所有権留保条項付売買契約に基づく被保険自動車の買主等,3これらの者の法定代理人,4これらの者の業務に従事中の使用人,5これらの者の父母,配偶者又は子が,酒酔い等により正常な運転ができないおそれのある状態で被保険車両を運転している場合に生じた損害については,保険金を支払わないという内容の条項(以下「本件免責条項」という。)が含まれていた(甲5)。 2 争点(1) 保険金額(原告の主張)本件事故により,本件車両には,修理代金相当額である375万5708円の損害が発生した。 (被告の主張)不知(2) 免責(被告の主張)本件免責条項において,保険契約者が酒酔い等により正常な運転ができない状態で被保険車両を運転していた場合に保険会社を免責させるとした趣旨は,このような違法性のある運転の場合に保険金を支払うことは公益に反し,また,信義則上も保険契約者を保護すべきではないからである。このような趣旨からすると,酒酔い運転をした者が保険契約者以外の者であっても,酒酔い運転をした者の行為が保険契約者の行為と同一のものと評価することができる場合には,本件免責条項に含まれる(免責の対象に含まれる)べきである。 そして,原告は,本件契約の保険契約者であるところ,直接本件車両を運転してはいないが,Aと一緒に飲食し,同人が飲酒していることを承知の上で,本件車両を運転させ,しかも,原告も本 まれる)べきである。 そして,原告は,本件契約の保険契約者であるところ,直接本件車両を運転してはいないが,Aと一緒に飲食し,同人が飲酒していることを承知の上で,本件車両を運転させ,しかも,原告も本件車両に同乗していたのであるから,いわば酒酔い運転の共同正犯的事案である。したがって,Aの運転行為は,保険契約者たる原告の行為と同一のものと評価することができるし,このような事案について保険金を支払うことは公益上も信義則上も認められるべきではないから,被告は免責条項により保険金の支払義務を負わない。 (原告の主張)否認する。 本件免責条項では,契約当事者以外には,保険契約者等の法定代理人,使用人,父母,配偶者,子が飲酒運転等を行った場合に保険会社が免責されると定められている。したがって,本件免責条項の文理上,それ以外の場合には免責対象とならないという合意がされているといえる。また,本件のような場合,保険会社は,実際に酒酔い運転を行ったAに対して求償(商法662条)することができるから,保険金の支払が信義則等に反することにもならない。 なお,原告は,Aが2,3杯の酒を頼んでいたものの,その後は,ウーロン茶ばかり頼んでいると認識していた。また,本件車両に同乗した経緯も,Aから,車を貸してほしいと言われ,消極的に黙認して同乗したにすぎず,原告がAに積極的に働きかけて運転をさせたり,同乗したものではない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)について証拠(甲2)によれば,本件事故により,本件車両には,修理代金相当額である375万5708円の損害が発生している事実が認められる。 したがって,争点(1)に関する原告の主張は理由がある。 2 争点(2)について(1) 被告は,1 本件免責条項において,保険契約者が酒酔い等の影響により正常な運転ができない状態で 実が認められる。 したがって,争点(1)に関する原告の主張は理由がある。 2 争点(2)について(1) 被告は,1 本件免責条項において,保険契約者が酒酔い等の影響により正常な運転ができない状態で被保険車両を運転していた場合に保険会社を免責させるとした趣旨は,このような違法性のある運転の場合に保険金を支払うことは公益に反し,また,信義則上も保険契約者を保護すべきではないからであるという主張を前提とした上で,2 このような趣旨からすると,酒酔い運転をした者が保険契約者以外の者であっても,酒酔い運転をした者の行為が保険契約者の行為と同一のものと評価することができる場合には,本件免責条項に含まれる(免責の対象に含まれる)べきであると主張する。 (2) しかしながら,被告の当該主張は,次の理由から採用できない。 まず,公益や信義則の違反については,これらがいわゆる一般条項であることや安易にこれを認めると法的安定性を害することに照らすと,特定の事実関係や法律関係が公益に反する,あるいは信義則に反するというためには,当該事実関係や法律関係が軽微な違法性を帯びるというだけでは足りず,強度の違法性を帯びる必要があると解すべきである。 そして,本件免責条項が,被告の主張する趣旨(このような場合に保険金を支払うことが,公益に反する,あるいは信義則に反する(すなわち,それほど強い違法性を帯びる))から設けられた規定であるという事実を認めるに足りる的確な証拠はない。 また,証拠(甲5)によれば,本件契約においては,本件免責条項とは別に,保険契約者等が故意により事故を発生させた場合の免責について規定した条項の存在が認められる。したがって,本件免責条項は,保険契約者等に故意がなかった場合(過失により事故が発生した場合)の免責を規定するものと解される。ところで,故意 させた場合の免責について規定した条項の存在が認められる。したがって,本件免責条項は,保険契約者等に故意がなかった場合(過失により事故が発生した場合)の免責を規定するものと解される。ところで,故意による事故の場合には,保険契約者等が結果の発生を表象・認容している点で,保険契約者等に対する非難可能性が相対的に高いと解されるから,これに保険金を支払うことは公益等に反すると解される可能性もある。 他方,過失による事故の場合には,保険契約者等が結果の発生を表象・認容していない以上,保険契約者等に対する非難可能性も相対的に低いと解するのが相当であるから,この点からも,過失により事故が発生した場合について免責を定めた本件免責条項が,公益や信義則に反するといった強度の違法性に基づいて設けられた規定であると解することは困難といわざるを得ない。 さらに,そもそも,車両保険において,運転者の違法な運転により事故が発生した場合がすべて免責の対象とされているわけではない。たとえば,信号無視,前方不注視,速度違反,一時停止義務違反など,運転者の違法な(過失による)運転行為によって事故が発生することは多々あるが,このような違法性のある運転がされた場合であっても,必ずしも免責の対象とはされていないのである。 そして,信号無視などと酒酔い運転とで違法性に著しい差があるとは解されないから,運転者の違法な運転のうち,いかなる類型を免責の対象とし,あるいは,免責の対象としないかは,結局,当事者間の合意により定められたものと解するほかない。 以上のとおり,本件免責条項は,公益あるいは信義則といった観点から定められたものではなく,当事者間の合意により免責の対象とされたにすぎないものと解されるところ,前記争いのない事実等記載のとおり,本件免責条項では,免責の対象となる酒酔い運転の主 則といった観点から定められたものではなく,当事者間の合意により免責の対象とされたにすぎないものと解されるところ,前記争いのない事実等記載のとおり,本件免責条項では,免責の対象となる酒酔い運転の主体が詳細に規定されているから,それ以外の者が酒酔い運転をした場合についてまで免責の対象を広げることは,当事者間の合理的な意思に反するというべきである。そして,本件車両の運転者であるAが本件免責条項で規定された免責の対象となる運転者に該当しないことは,争いのない事実等記載の本件免責条項の文言に照らし明らかである。 (3) したがって,その余の点について判断するまでもなく,争点(2)に関する被告の主張は理由がない。 4 まとめよって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部裁判官古谷健二郎

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