令和元年9月30日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成30年(ワ)第26043号損害賠償請求事件口頭弁論終結日令和元年6月17日判決 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告らに対し,それぞれ5円を支払え。 第2 事案の概要本件は,夫婦である原告らが,夫婦が婚姻の際に定めるところに従い夫又は妻の氏を称すると定める民法750条の規定が憲法24条1項及び14条1項に違反するものであって,夫婦同氏制に加えて夫婦別氏制という選択肢を新たに設けない立法不作為が国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項の適用 上違法の評価を受けると主張して,被告に対し,それぞれ慰謝料5円の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)⑴ 原告X(氏)x1(名)(以下「原告x1」という。)は,平成14年●月● 日,B(氏)b1(以下「前夫」という。)と婚姻し,その氏を自身の氏である「A」から前夫の氏である「B」に改めた(甲2の2)。 ⑵ 原告x1は,前夫との間に,平成15年に長女b2を,平成18年に二女b3をそれぞれもうけた(以下,長女b2と二女b3とを併せて「原告x1の子ら」という。)(甲2の2)。 ⑶ 原告x1は,平成27年●月●日,原告x1の子らの親権者を原告x1と 定め,前夫と離婚した(甲2の2)。原告x1は,同日,戸籍法77条の2に基づく届出を行い,離婚前の氏である「B」を称することとしたが(甲2の3),その後,東京家庭裁判所に氏の変更許可の申立てをし,同年●月 前夫と離婚した(甲2の2)。原告x1は,同日,戸籍法77条の2に基づく届出を行い,離婚前の氏である「B」を称することとしたが(甲2の3),その後,東京家庭裁判所に氏の変更許可の申立てをし,同年●月●日,同裁判所の許可を得て,「B」から「A」に復氏した(甲2の4)。原告x1及び前夫は,離婚に際して,原告x1の子らの氏を同人らが15歳に達する までは変更しない旨を合意したため,原告x1の子らは,引き続き「B」を称することとなった(甲35,原告x1本人)。 ⑷ 原告らは,平成30年●月●日,東京都●区長に対し,婚姻後の夫婦の氏の欄について「夫の氏」と「妻の氏」の両方にチェックをした婚姻の届出書を提出したが,同日,民法750条及び戸籍法74条1号に違反しているこ とを理由に不受理とされた(甲1の1・3)。そこで,原告らは,同日,東京都●区長に対し,婚姻後の夫婦の氏を原告X(氏)x2(名)(以下「原告x2」という。)の氏である「X」とする婚姻の届出書を提出し,受理された(甲1の4)。原告x1の子らは,現在まで氏を変更することなく,前夫の氏である「B」を称している。 ⑸ 原告x1は,原告x2 との婚姻後,自らの仕事において,派遣元企業には婚姻により氏を変更した旨の届出が必要であったため,氏を「X」に変更した旨を届け出たが,派遣就業先では婚姻前の氏である「A」を使用している(甲27の1・2)。また,原告x1の子らとともに参加している地域活動では,原告x1の子らと同じ氏である「B」を使用し(甲28の1~3),氏の上記 使い分けに応じて「B(氏)x1(名)」,「A(氏)x1(名)」及び「X(氏)x1(名)」の各名義の銀行預金口座を開設し,使用している(甲30の1~3)。 さらに,原告x1の子らの医療証の保護者氏名欄には「X に応じて「B(氏)x1(名)」,「A(氏)x1(名)」及び「X(氏)x1(名)」の各名義の銀行預金口座を開設し,使用している(甲30の1~3)。 さらに,原告x1の子らの医療証の保護者氏名欄には「Xx1」と記載されている(甲31の1・2)。 2 争点及び当事者の主張 本件の争点は,①民法750条の規定を改廃して選択的夫婦別氏制を導入し なかったことは国賠法上違法か,②原告らの婚姻について民法750条を適用したことは国賠法上違法か,③原告らに生じた損害である。 ⑴ 争点①(民法750条の規定を改廃して選択的夫婦別氏制を導入しなかったことは国賠法上違法か)についてア原告らの主張 民法750条の規定が憲法24条1項に違反すること憲法24条1項は,婚姻の自由及び婚姻における夫婦間の権利の平等を定めている。氏名は,個人として尊重される基礎であり,人格の象徴として人格権の一内容を構成するものであって,当該個人の同一性識別に支障の及ぶことを避けるため,婚姻後に婚姻前の氏を使用する利益は 保護に値するものである。 憲法24条1項に基づく権利利益は,個人の人格価値そのものにかかわるものであるから,その制約について立法裁量が広範に認められるべきではない。したがって,憲法24条1項に基づく権利利益の制約については,その目的が必要不可欠であり,かつ,他に選び得るより制限的 でない手段がないといえない限り,憲法24条1項に違反するものである。 夫婦同氏制は,共同生活者が同氏を称していたという慣習に依拠するものであるところ,日本の氏制度の歴史的変遷からしても夫婦同氏が必然的なものとはいえないし,諸外国においても夫婦同氏が強制されては いないから,民法750条 氏を称していたという慣習に依拠するものであるところ,日本の氏制度の歴史的変遷からしても夫婦同氏が必然的なものとはいえないし,諸外国においても夫婦同氏が強制されては いないから,民法750条の立法目的は必要不可欠なものではない。仮に,夫婦同氏制の目的を婚姻や家族の安定,夫婦や家族の一体感の醸成,子の利益等と捉えるとしても,それらは必要不可欠とはいえない。そして,上記目的は,選択的夫婦別氏制の導入という他に選び得るより制限的でない手段により達成することができる。 原告x1が連れ子(原告x1の子ら)を伴って原告x2 と再婚したこと により,原告x1の氏である「X」と原告x1の子らの氏である「B」に不一致が生じ,また,原告x1の子らは,15歳になったら氏を「A」にすることを希望していたのに,原告x1の氏が「X」となったことによってそれが叶わなくなってしまったものであるところ,最高裁平成26年(オ)第1023号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8 号2586頁(以下「夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決」という。)で問題となった事案は,連れ子のいる者が再婚をしたというものではないから,本件においては,原告らの上記事情を考慮し,民法750条の規定の憲法24条1項への適合性について,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決とは異なった判断がされるべきである。 したがって,民法750条の規定は,憲法24条1項に違反するものである。 民法750条の規定が憲法14条1項に違反すること憲法14条1項は,合理的理由なくして異なる取扱いを受けず,平等な取扱いを受けることを保障するものであるところ,同項に基づく権利 利益は,個人の人格価値そのものにかかわるものであるから,その制約につ 条1項は,合理的理由なくして異なる取扱いを受けず,平等な取扱いを受けることを保障するものであるところ,同項に基づく権利 利益は,個人の人格価値そのものにかかわるものであるから,その制約について立法裁量が広範に認められるべきではない。したがって,憲法14条1項に基づく権利利益の制約については,その目的が必要不可欠であり,かつ,他に選びうるより制限的でない手段がないといえない限り,憲法14条1項に違反するものである。 日本人同士の婚姻について夫婦別氏を一切認めない民法750条は,外国人と日本人の婚姻について夫婦別氏が認められていること(戸籍法107条2項参照)との比較において,取扱いの不平等を生じさせているところ,日本人同士の婚姻について夫婦別氏を一切認めないことを正当化する理由はなく,民法750条の立法目的は必要不可欠なものでは ない。また,日本人同士の婚姻についても,選択的夫婦別氏制の導入と いうより制限的でない手段が存在する。さらに,民法750条は,夫婦同氏を希望する者か夫婦別氏を希望する者かで法的な差別的取扱いをするものでもある。 したがって,民法750条の規定は,憲法14条1項に違反するものである。 民法750条を改廃しなかったことが国賠法上違法であること の規定は憲法24条1項及び14条1項に違反するところ,国内における検討動向を見るに,平成8年,法制審議会が選択的夫婦別氏制の導入等を内容とする「民法の一部を改正する法律案要綱」(以下「法律案要綱」という。)を答申した後,男女 共同参画基本計画(平成12年)と平成男女共同参画会議基本問題専門調査会(平成13年)において選択的夫婦別氏制の導入が提言され,平成22年には,第三次男女共同参画基 う。)を答申した後,男女 共同参画基本計画(平成12年)と平成男女共同参画会議基本問題専門調査会(平成13年)において選択的夫婦別氏制の導入が提言され,平成22年には,第三次男女共同参画基本計画において,女子差別撤廃委員会の最終見解も踏まえ,選択的夫婦別氏制の導入等の民法改正について引き続き検討を進めるなどとしている。また,内閣府が実施した「家 族の法制に関する世論調査」の結果によれば,選択的夫婦別氏制の導入への賛成の割合と通称使用を求める割合の合計は66.9%に達し,氏が違っても家族の一体感に影響がないと思う者の割合が64.3%に達するなどといった国内における国民意識の変化が見られること,女子差別撤廃委員会から平成15年,平成21年及び平成28年に民法750 条を改正するよう繰り返し勧告されるなどといった国際情勢の変化からすれば,国会は,民法750条を正当な理由なく長期間改廃せず放置しているものである。 そして,遅くとも法律案要綱が公表された平成8年時点において,民法750条の違憲状態を解消するために採るべき措置が明らかになって いたにもかかわらず,国会は現在までこれを改廃して選択的夫婦別氏制 を導入することを怠ったものである。 したがって,国会が民法750条の規定を改廃して選択的夫婦別氏制を導入しなかったことは,国賠法上違法である。 イ被告の主張 民法750条が憲法24条1項に違反しないこと 夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決は,婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するかは,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるかという観点 度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するかは,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるものとみざるを得ないような場合に当たるかという観点から判断すべきとして,夫婦同氏制は,家族という一つの集団を構成する一 員であることを対外的に公示し,識別する機能を有するものであり,子にとっても,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいこと,夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではないこと等を総合的に考慮して,民法750条は,直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠く制度であ るとは認めることができず,憲法24条に違反しないとした。夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決における上記判断を前提とすると,同判決後現在に至るまでの間,民法750条の規定が憲法24条に違反するに至ったといえるような事情の変更があったとはいえない。 したがって,民法750条の規定は,憲法24条1項に違反しない。 民法750条が憲法14条1項に違反しないこと夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決は,憲法14条1項は事柄の性質に応じた合理的な根拠に基づくものでない限り法的な差別的取扱いを禁止する趣旨のものであると解すべきとした上で,民法750条は,その定める夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではな く,憲法14条1項に違反しないとした。夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判 決における上記判断を前提とすると,同判決後現在に至るまでの間,民法750条が憲法14条に違反するに至ったといえるような事情の変更があったとはいえない。 また,民法750条は外国人と日本人との婚姻には適用されないから,同 判決後現在に至るまでの間,民法750条が憲法14条に違反するに至ったといえるような事情の変更があったとはいえない。 また,民法750条は外国人と日本人との婚姻には適用されないから,同条の適用のある日本人同士の婚姻と同条の適用のない外国人と日本人 との婚姻を同列に論じることはできないし,民法750条は,夫婦同氏を希望する者か夫婦別氏を希望する者かで法的な差別的取扱いを定めているものではない。 したがって,民法750条の規定は,憲法14条1項に違反しない。 よって,国会が民法750条を改廃して選択的夫婦別氏制を導入しな かったことは,国賠法上違法ではない。 ⑵ 争点②(原告らの婚姻について民法750条を適用したことは国賠法上違法か)についてア原告らの主張原告x1は,原告x2 との婚姻について民法750条が適用されたことに より,その氏を「A」から「X」に改めたところ,前夫の氏である「B」を称している原告x1の子らは,多感な年齢にあることもあって,携帯電話の購入手続を行う際に,原告x1が必要書類に「Xx1」と署名するのを目にしたり,旅券の発給申請をした際,窓口担当者から,原告x1の身分を確認する書類の追加提出を求められたりするなどして,母と子との氏が 異なることへの不満を感じ,「X」という氏との縁が乏しいことから,原告x1とともに氏を「A」にしたいと述べている。しかし,選択的夫婦別氏制が導入されない限り,原告x1の子らの上記希望を叶えるためには,原告らが離婚した上で,原告x1において「A」に復氏するしか方法がない。 原告らの上記事情に鑑みれば,民法750条は,連れ子のいる者が再婚す ることによりその者と連れ子との間に氏の不一致が生じるという類型であ 原告x1において「A」に復氏するしか方法がない。 原告らの上記事情に鑑みれば,民法750条は,連れ子のいる者が再婚す ることによりその者と連れ子との間に氏の不一致が生じるという類型であ る原告らの婚姻について適用される限りにおいて,憲法24条1項及び14条1項に違反するものであり,したがって,原告らの婚姻について民法750条を適用したことは,国賠法上違法である。 イ被告の主張原告x1と原告x1の子らの間の氏の不一致は,原告x1と前夫との間の 離婚に際し,原告x1の子らの氏を「B」のままとする一方,その後原告x1の氏を「A」に変更したことにより生じたものである。したがって,原告らの婚姻に伴う原告x1の氏の変更は,原告x1及び原告x1の子らの各氏にもともと存在していた「A」と「B」という不一致を「X」と「B」という不一致に移行させるものにすぎない。また,原告x1の子らは,氏 を「X」に変更することにより原告x1と同じ氏を称することができるところ(民法791条1項),原告x1の婚姻前の氏である「A」への変更を希望しているというのであるから,原告x1と原告x1の子らとの間の氏の不一致は,原告らの婚姻から直接生ずるものではなく,原告x1の子らが原告x1の婚姻前の氏である「A」に氏を変更することによって生ずる ものである。このように,原告x1と原告x1の子らとの間に氏の不一致が生じたことは,個別の経緯や事情によるものであるから,連れ子のいる者が再婚することによりその者と連れ子との間に氏の不一致が生じる適用類型を抽出することは不可能であり,適用違憲の審査の前提を欠くものというべきである。 ⑶ 争点③(原告らに生じた損害)についてア原告らの主張原告x1は,原告x2 との 型を抽出することは不可能であり,適用違憲の審査の前提を欠くものというべきである。 ⑶ 争点③(原告らに生じた損害)についてア原告らの主張原告x1は,原告x2 との婚姻により氏を「X」に改めると,15歳に達したら原告x1とともに氏を「A」にしたいという原告x1の子らの希望を叶えることができなくなるため同婚姻を逡巡し,事実婚への法律上の保護 が法律婚に比して弱いことへの不安もあって葛藤を生じ,最終的には原告 x2 と婚姻したが,氏を「X」に改めることを余儀なくされ,原告x1の子らの上記希望を叶えるためには,原告x2 と離婚した上で「A」に復氏するしかなくなったため,精神的苦痛を受けたものであって,これらに対する慰謝料は5円を下らない。 原告x2 は,原告x1の抱える上記事情を踏まえ,夫婦別氏のまま婚姻す ることを望んでいたがこれが叶わず,やむなく一時的に事実婚を継続するなどし,精神的苦痛を受けたものであり,これに対する慰謝料は5円を下らない。 イ被告の主張原告らの主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点①(民法750条の規定を改廃して選択的夫婦別氏制を導入しなかったことは国賠法上違法か)について⑴ 民法750条の規定の憲法24条1項への適合性についてア氏は,家族の呼称としての意義があるところ,現行の民法の下において も,家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位と捉えられ,その呼称を一つに定めることには合理性が認められる。そして,夫婦が同一の氏を称することは,上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡 して,夫婦が同一の氏を称することは,上記の家族という一つの集団を構成する一員であることを対外的に公示し,識別する機能を有している。特に,婚姻の重要な効果として夫婦間の子が夫婦の共同親権に服する嫡出子となるということがあるとこ ろ,嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することにも一定の意義があると考えられ,また,夫婦同氏制の下においては,子の立場として,いずれの親とも等しく氏を同じくすることによる利益を享受しやすいといえる。加えて,夫婦同氏制それ自体に男女間の形式的な不平等が存在するわけではなく,夫婦がいずれの氏を称するかは, 夫婦となろうとする者の間の協議による自由な選択に委ねられている。 これに対し,夫婦同氏制の下においては,婚姻に伴い,夫婦となろうとする者の一方は必ず氏を改めることになるところ,婚姻によって氏を改める者にとって,そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり,婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用,評価,名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益を受ける 場合があることは否定できない。そして,氏の選択に関し,夫の氏を選択する夫婦が圧倒的多数を占めている現状からすれば,妻となる女性が上記の不利益を受ける場合が多い状況が生じているものと推認できる。しかし,夫婦同氏制は,婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく,近時,婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広 まっているところ,上記の不利益は,このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。 以上の点を総合的に考慮すると,民法750条の採用した夫婦同氏制が,夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても, のような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。 以上の点を総合的に考慮すると,民法750条の採用した夫婦同氏制が,夫婦が別の氏を称することを認めないものであるとしても,上記のような状況の下で直ちに個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理 性を欠く制度であるとは認めることはできない。したがって,民法750条の規定は,憲法24条に違反するものではない。 (夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決参照)イ原告らは,連れ子のいる者(原告x1)が再婚して氏を改め,連れ子の氏と不一致となった事案である本件においては,そのような事情を考慮し て,民法750条の規定の憲法24条1項への適合性の判断がされるべきである旨主張する。 しかし,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決には,上記アのとおり,①嫡出子であることを示すために子が両親双方と同氏である仕組みを確保することに一定の意義がある,②子の立場として,いずれの親とも等しく氏を 同じくすることによる利益を享受しやすいといった説示があるものの,民 法750条の規定が憲法24条に違反するものではないという判断が,初婚が維持されている夫婦及びその間の子という,上記説示が直接妥当する者の利益だけを考慮することによって導かれたものでないことは明らかである。すなわち,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決は,氏が,親子関係など一定の身分関係を反映し,婚姻を含めた身分関係の変動に伴って改めら れることがあり得ることがその性質上予定されていることを前提として,婚姻及び家族に関する法制度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照 る法制度を定めた法律の規定が憲法24条に適合するものとして是認されるか否かは,当該法制度の趣旨や同制度を採用することにより生ずる影響につき検討し,当該規定が個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き,国会の立法裁量の範囲を超えるも のとみざるを得ないような場合に当たるか否かという観点から判断すべきものであるという判断枠組みを示しているのであって,人は,出生の際に,嫡出である子については父母の氏を,嫡出でない子については母の氏を称することによって氏を取得し(民法790条),婚姻の際に,夫婦の一方は,他方の氏を称することによって氏が改められ(同法750条),離婚 や婚姻の取消しの際に,婚姻によって氏を定めた者は婚姻前の氏に復する(同法767条1項,771条,749条)といった規定により,子が両親と同じ氏を称することによる利益を享受しない場面もあることは,当然に考慮の対象とされているものというべきである。したがって,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決において,連れ子のいる者が再婚した場合が考慮さ れていないということはできず,民法750条の規定の憲法24条への適合性に関する上記アの判断は左右されないものである。 ウ証拠(甲17,23の1~6,38の1~39の6)によれば,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決以降,平成29年には,内閣府が実施した「家族の法制に関する世論調査」において,選択的夫婦別氏制の導入に賛成する 者と婚姻によって氏を改めた者が婚姻前の氏を通称としてどこでも使え る制度を設けることに賛成する者の割合の合計は66.9%に達すること,婚姻に際しての氏の変更について違和感を覚える者が22.7%,氏が違っても家族の一体感に影響がないと思う者の割合が64.3%に増加したこと,夫婦同氏制 成する者の割合の合計は66.9%に達すること,婚姻に際しての氏の変更について違和感を覚える者が22.7%,氏が違っても家族の一体感に影響がないと思う者の割合が64.3%に増加したこと,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決が夫婦同氏制の在り方について国会に委ねたことを踏まえ,複数の地方議会が選択的夫婦別氏制の導入を求め る意見書を採択し,複数の新聞社が選択的夫婦別氏制を導入すべきであるとする社説を掲載するなど,夫婦別氏制の導入について議論の高まりが見られること等が認められる。しかし,上記事情をもってしても,夫婦同氏制国賠訴訟大法廷判決後現在に至るまでの間に民法750条の規定が憲法24条1項に違反するに至ったといえるような事情の変更があったと は認めるに足りないというべきである。 したがって,現在においても,民法750条の規定が憲法24条1項に違反するとはいえない。 ⑵ 民法750条の規定の憲法14条1項への適合性についてア憲法14条1項は,法の下の平等を定め,事柄の性質に応じた合理的な 根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止するものである(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁等)。 イ原告らは,日本人同士の婚姻について夫婦別氏を一切認めない民法75 0条が,外国人と日本人の婚姻について夫婦別氏が認められていることとの比較において取扱いの不平等を生じさせるものであって,憲法14条1項に違反すると主張する。しかし,外国人と婚姻した日本人の氏が当然には変わらないのは,民法750条が適用されないからである(昭和40年4月12日付民事甲第838号 じさせるものであって,憲法14条1項に違反すると主張する。しかし,外国人と婚姻した日本人の氏が当然には変わらないのは,民法750条が適用されないからである(昭和40年4月12日付民事甲第838号民事局長回答)(乙3)が,これは,外国人 と日本人の婚姻による氏の問題が,法の適用に関する通則法25条の定め る準拠法によるのではなく,当事者の本国法によるものとされ,日本人と婚姻した外国人には民法上の氏がないものと解されていることの帰結と考えられるのであり,渉外婚姻の性質に応じた合理的な根拠に基づき,外国人と日本人の婚姻について日本人同士の婚姻と異なる取扱いをするものであるから,合理的な根拠に基づかない法的な差別的取扱いとはいえな い。 したがって,原告らの上記主張は採用することができない。 ウさらに,原告らは,民法750条について,夫婦同氏を希望する者か夫婦別氏を希望する者かで法的な差別的取扱いをするものであると主張するが,上記⑴のとおり,民法750条は,個人の尊厳と両性の本質的平等 の要請に照らして合理性を欠くものではなく,合理的根拠に基づき,夫婦同氏を希望する者及び夫婦別氏を希望する者のいずれに対しても,婚姻をする場合には夫婦同氏とすることを求めるものにすぎないから,夫婦同氏を希望する者か夫婦別氏を希望する者かで法的な差別的取扱いをするものとは認められない。 エしたがって,民法750条の規定が憲法14条1項に違反するとはいえない。 ⑶ 国賠法上の違法について法律の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白である にもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃 の規定が憲法上保障され又は保護されている権利利益を合理的な理由なく制約するものとして憲法の規定に違反するものであることが明白である にもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠る場合などにおいては,国会議員の立法過程における行動が職務上の法的義務に違反したものとして,例外的に,その立法不作為は,国賠法1条1項の規定の適用上違法の評価を受けることがある(最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号151 2頁,最高裁平成13年(行ツ)第82号,第83号,同年(行ヒ)第76 号,第77号同17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁,最高裁平成25年(オ)第1079号同27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)が,上記⑴及び⑵のとおり,民法750条は憲法24条1項又は14条1項に違反するものではないから,国会が民法750条の規定を改廃して選択的夫婦別氏制を導入しなかったことは,国賠法 上違法とはいえない。 2 争点②(原告らの婚姻について民法750条を適用したことは国賠法上違法か)について原告らは,原告らの婚姻について民法750条を適用すると,原告x1の氏「X」と連れ子である原告x1の子らの氏「B」との間に不一致が生じ,また, 原告x1の子らにおいて氏を「A」とすることもできないという不都合が生じるから,民法750条は,原告らの婚姻について適用される限りにおいて憲法24条1項及び14条1項に違反し,したがって,原告らの婚姻について民法750条を適用したことは国賠法上違法であると主張する。 しかし,民法750条の規定が憲法24条1項又は14条1項に違反すると はいえないことは,上記1⑴及び⑵で て,原告らの婚姻について民法750条を適用したことは国賠法上違法であると主張する。 しかし,民法750条の規定が憲法24条1項又は14条1項に違反すると はいえないことは,上記1⑴及び⑵で説示したとおりであるところ,原告らの婚姻は,民法750条の適用が当然に予定されている場面というべきであって,同条について,原告らの婚姻に適用される限りにおいて憲法24条1項及び14条1項に違反すると解する余地はないというべきである。 なお,原告らの個別事情について念のため検討すると,前提事実⑶のとおり, 原告x1は前夫との離婚後に「A」に復氏したが,家庭裁判所の許可を得て原告x1の子らの氏を「A」に変更することにより(民法791条1項),原告x1の子らとの間で氏を一致させることができたものであるところ,前夫と離婚する際に,前夫との間で,原告x1の子らの氏を,同人らが15歳に達するまで「B」から変更しない旨を合意していたため,上記変更をせず,原告x1の 子らとの間で氏の不一致が生じたものである。したがって,原告x1と原告x1 の子らとの間の氏の不一致は,原告らが婚姻する前から存在していたものであって,原告らの婚姻によって生じたものではない。また,氏は,個人の呼称としての意義があり,名とあいまって社会的に個人を他人から識別し特定する機能を有するものであることからすれば,自らの意思のみによって自由に定めたり,又は改めたりすることを認めることは本来の性質に沿わないものであり(夫 婦同氏制国賠訴訟大法廷判決参照),「A」という氏をこれまで称したことがない原告x1の子らにおいて氏を「A」に変更できなかったことを,実際に「A」という氏を変更した原告x1の不利益とは別のものとして取り上げる必要性を見いだすことはできない。さらに,現 まで称したことがない原告x1の子らにおいて氏を「A」に変更できなかったことを,実際に「A」という氏を変更した原告x1の不利益とは別のものとして取り上げる必要性を見いだすことはできない。さらに,現在においても,原告x1の子らは,家庭裁判所の許可を得て,その氏を「X」に変更することにより,原告x1と氏を 一致させることができるものである。原告らは,原告x1の子らが氏を「X」に変更した場合,前夫との間でトラブルが発生し,前夫が原告x1の子らに対する養育費の支払を滞らせる懸念があると主張するが,そのような事態となる蓋然性が高いことを認めるに足りる証拠はないし,仮に前夫において上記のような行動に出たとしても,それが不当なことは明らかであるから,これに対し ては適切な対応がされるべきなのであって,原告x1の子らにおいて氏を「X」に変更できない理由にはならないというべきである。 したがって,原告らの上記主張は理由がない。 第4 結論以上のとおりであって,その余の争点について判断するまでもなく,原告ら の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第18部 裁判長裁判官品田幸男 裁判官長谷川秀治 裁判官上野瑞穂
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