平成30年(行ク)第44号執行停止申立事件(本案・平成30年(行ウ)第59号指定取消等処分取消請求事件)主文 1 大阪市長が申立人に対し平成30年3月30日付けでした,大阪市(住所省略)所在の事業所「A」について,通所介護に係る指定居宅サービス事業者の 指定を取り消す旨の処分の効力は,本案事件の第1審判決言渡しの後60日を経過するまでの間(ただし,当該経過の前に本案事件が完結した場合には,当該完結時までの間に限る。),これを停止する。 2 申立人のその余の申立てを却下する。 3 申立費用は相手方の負担とする。 理由 第1 申立ての趣旨大阪市長が申立人に対し平成30年3月30日付けでした,大阪市(住所省略)所在の事業所「A」について,通所介護に係る指定居宅サービス事業者の指定を取り消す旨の処分は,本案事件の判決確定までの間,その効力を停止す る。 第2 事案の概要本件は,介護保険法(以下「法」という。)の規定による事業を行う会社である申立人が,大阪市長から,大阪市(住所省略)所在の事業所「A」(以下「本件事業所」という。)について,法77条1項6号(介護給付費の請求に関する 不正)に基づき,居宅介護サービス費の請求に関し不正があったことを理由として,本件事業所について通所介護に係る指定居宅サービス事業者の指定を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたことから,申立人について同号に該当する事由はないなどとして,本件処分の取消訴訟を提起するとともに,これを本案として,本件処分の効力の停止を求める事案である。 なお,申立人は,本件処分の取消訴訟(本案訴訟)のほかに,大阪市長から 平成30年3月30日付けでされた,本件事業所及び大阪市(住所省略 分の効力の停止を求める事案である。 なお,申立人は,本件処分の取消訴訟(本案訴訟)のほかに,大阪市長から 平成30年3月30日付けでされた,本件事業所及び大阪市(住所省略)所在の事業所「B」についての他の処分の取消訴訟も提起している。 1 法の定め(1) 市町村は,要介護認定を受けた被保険者のうち居宅において介護を受けるもの(以下「居宅要介護被保険者」という。)が,都道府県知事(地方自治 法252条の19第1項の指定都市については,市長。以下同じ。)が指定する者(以下「指定居宅サービス事業者」という。)から当該指定に係る居宅サービス事業(居宅サービス(訪問介護,通所介護等。法8条1項)を行う事業)を行う事業所により行われる居宅サービス(以下「指定居宅サービス」という。)を受けたときは,当該居宅要介護被保険者に対し,当該指定 居宅サービスに要した費用(一部を除く。)について,居宅介護サービス費を支給する(法41条1項)。 居宅要介護被保険者が指定居宅サービス事業者から指定居宅サービスを受けたとき(厚生労働省令で定める場合に限る。)は,市町村は,当該居宅要介護被保険者が当該指定居宅サービス事業者に支払うべき当該指定居宅サー ビスに要した費用について,当該居宅要介護被保険者に代わり,当該指定居宅サービス事業者に支払うことができる(法41条6項)。この支払があったときは,居宅要介護被保険者に対し居宅介護サービス費の支給があったものとみなす(同条7項)。市町村は,指定居宅サービス事業者から居宅介護サービス費の請求があったときは,厚生労働大臣が定める基準等に照らして 審査した上,支払う(同条9項)。 (2) 法41条1項本文の指定は,厚生労働省令で定めるところにより,居宅サ 介護サービス費の請求があったときは,厚生労働大臣が定める基準等に照らして 審査した上,支払う(同条9項)。 (2) 法41条1項本文の指定は,厚生労働省令で定めるところにより,居宅サービス事業を行う者の申請により,居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービスを行う事業所ごとに行う(法70条1項)。この指定は,6年ごとにその更新を受けなければ,その期間の経過によって, その効力を失う(法70条の2第1項)。 (3) 都道府県知事は,居宅介護サービス費の請求に関し不正があったときは,当該指定居宅サービス事業者に係る法41条1項本文の指定を取り消し,又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる(法77条1項6号)。 (4) 都道府県知事は,前記(2)の申請があった場合において,通所介護等に係る 指定の申請者が法77条1項等の規定により指定を取り消され,その取消しの日から起算して5年を経過しない者であるときは,法41条1項本文の指定をしてはならない(法70条2項6号)。この規定は,前記(2)の指定の更新について準用される(法70条の2第4項)。 (5) 市町村は,要支援認定を受けた被保険者のうち居宅において支援を受ける もの(以下「居宅要支援被保険者」という。)が,都道府県知事が指定する者(以下「指定介護予防サービス事業者」という。)から当該指定に係る介護予防サービス事業を行う事業所により行われる介護予防サービス(以下「指定介護予防サービス」という。)を受けたとき(厚生労働省令で定める場合に限る。)は,当該居宅要支援被保険者に対し,当該指定介護予防サービス に要した費用(一部を除く。)について,介護予防サービス費を支給する(平成26年 )を受けたとき(厚生労働省令で定める場合に限る。)は,当該居宅要支援被保険者に対し,当該指定介護予防サービス に要した費用(一部を除く。)について,介護予防サービス費を支給する(平成26年法律第83号による改正前の法53条1項(以下,単に「法53条1項」という。))。 2 前提事実(一件記録(本案事件の記録を含む。以下同じ。)により一応認められる事実) (1) 申立人は,法の規定による事業等を目的とする株式会社である。 (2)ア申立人は,平成26年7月1日頃,Bについて,法41条1項本文の指定及び法53条1項本文の指定(訪問介護事業所及び介護予防訪問介護事業所に係る事業者の指定)を受けた。(疎甲2,疎乙15)イ申立人は,平成27年6月1日頃,大阪市長から,本件事業所について, 法41条1項本文の指定及び法53条1項本文の指定(通所介護事業所及 び介護予防通所介護事業所に係る事業者の指定)を受けた。(疎乙15)申立人は,本件事業所において,通所介護に係る居宅サービス事業を行っており,その利用者は現在40名以上いる。(疎甲36の1から5まで,疎甲38の1,2)(3)ア大阪市長は,平成30年2月2日付けで,申立人に対し,本件処分に関 して,予定される不利益処分の内容を本件事業所についての通所介護に係る指定居宅サービス事業者の指定の取消処分,根拠となる法令の条項を法77条1項6号,不利益処分の原因となる事実を,申立人が,平成28年1月から同年5月までの間,利用者30名に対して一部のサービス提供を行っていないにもかかわらず,居宅介護サービス費を不正に請求し,受領 したこと,聴聞の期日を平成30年2月19日午前10時として,聴聞を行う旨を通知した。この通知 に対して一部のサービス提供を行っていないにもかかわらず,居宅介護サービス費を不正に請求し,受領 したこと,聴聞の期日を平成30年2月19日午前10時として,聴聞を行う旨を通知した。この通知においては,ほかに本件事業所についての介護予防通所介護に係る指定介護予防サービス事業者の指定の取消処分等についても記載されていた。(疎甲13)イ聴聞の主宰者である大阪市福祉局総務部法人監理担当課長(以下,単に 「主宰者」という。)は,平成30年2月19日及び同月27日,申立人及びその代理人出頭の下,申立人に対する聴聞を実施した。 申立人及びその代理人は,居宅介護サービス費の請求について過誤はあったが不正の目的も故意もない旨などを記載した意見書(疎甲16)や関係資料(疎甲17の1から15まで,疎甲18の1から8まで)を提出す るなどした。(疎乙9)処分行政庁(福祉局高齢者施策部事業者指導担当課長及び同部介護保険課担当係長)は,不正請求の対象である利用者を30名としていたのを27名に修正するなどした。(疎乙11の1から5まで)ウ主宰者は,平成30年3月23日,大阪市長に対し,本件処分を相当と 認める旨などの意見を記載した報告書を提出した。(疎甲26) (4) 大阪市長は,平成30年3月30日付けで,申立人に対し,本件事業所について,同年4月30日をもって通所介護に係る指定居宅サービス事業者の指定を取り消す旨の処分(本件処分)をした。その理由は,申立人が,平成28年1月から同年5月までの間,利用者27名に対して一部のサービス提供を行っていないにもかかわらず,居宅介護サービス費を不正に請求し,受 領したというものであった。(疎甲27の1)大阪市長は,平成 年5月までの間,利用者27名に対して一部のサービス提供を行っていないにもかかわらず,居宅介護サービス費を不正に請求し,受 領したというものであった。(疎甲27の1)大阪市長は,平成30年3月30日付けで,申立人に対し,本件事業所について不正の行為により支払を受けた居宅介護サービス費は5箇月間で合計60万7338円である旨通知した。申立人代表者は,同年4月5日付けで,大阪市長に対して前記の金額及び法22条3項所定の加算金を相手方等に返 還する旨などを記載した「介護給付費返還同意書」及び「債務確認及び返還(支払)誓約書」と題する各書面に署名押印した。(疎甲28の1,疎乙13の1,2)(5) 申立人は,平成30年4月13日,本案訴訟を提起し,同日,本件申立てをした。 3 当事者の主張申立人の主張は,別紙1及び2記載のとおりであり,これに対する相手方の意見は,別紙3記載のとおりである。 第3 当裁判所の判断 1 「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」に当たるか否かについて (1) 行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)25条1項から3項までの文言,趣旨等に鑑みると,同条2項本文にいう「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」といえるか否かについては,処分の効力,処分の執行又は手続の続行(以下「処分の執行等」という。)により維持される行政目的の達成の必要性を踏まえた処分の内容及び性質と,これによって申立人が被ること となる損害の性質及び程度とを,損害の回復の困難の程度を考慮した上で比 較衡量し,処分の執行等による行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなおこれを停止して申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるか否かの観点から判断すべきものと解される。 た上で比 較衡量し,処分の執行等による行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなおこれを停止して申立人を救済しなければならない緊急の必要性があるか否かの観点から判断すべきものと解される。 以下,前記の観点から検討する。 (2) 前記前提事実によれば,申立人は,本件事業所について平成27年6月1 日頃に法41条1項本文の指定を受けた後,本件事業所において通所介護に係る居宅サービス事業を行っており,その利用者は現在40名以上いるのであるが,本件処分の効力が生じると,申立人は本件事業所において前記事業を行うことができなくなる。そして,疎明資料(疎甲13,36の1から5まで)によれば,申立人は本件事業所において介護予防通所介護の事業も行 っているが,本件事業所における事業の大部分は居宅サービス事業であると一応認められる。そうすると,本件処分が効力を生じた場合,申立人は本件事業所を閉鎖することを余儀なくされるおそれがあるものということができる。 ところで,通所介護は,要介護者であって居宅において介護を受けるもの について,施設に通わせ,当該施設において入浴,排せつ,食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことをいい(法8条7項),指定居宅サービス事業者は,要介護者の人格を尊重するとともに,要介護者のため忠実にその職務を遂行しなければならない(法74条6項)。このような通所介護の性質上,居宅サービス事業を行う事業所及びその従業員と利用者 及びその家族との間には,人格的な接触を通じて,単なるサービスの提供者と利用者という関係にとどまらない信頼関係が醸成されるのであって,居宅要介護被保険者は,このような信頼関係を基礎として,一定程度継続的に,特定の指定居宅サービス事業者から,通所介護に係る スの提供者と利用者という関係にとどまらない信頼関係が醸成されるのであって,居宅要介護被保険者は,このような信頼関係を基礎として,一定程度継続的に,特定の指定居宅サービス事業者から,通所介護に係る居宅サービスの提供を受けるという実態が存するものと考えられる。しかるに,一旦本件事業所が 閉鎖されると,その利用者と申立人との間の信頼関係は断ち切られ,利用者 は,他の事業者の事業所を利用し,新たにその事業所との間で信頼関係を形成し,一定程度継続的に,当該事業所から,通所介護に係る居宅サービスの提供を受けることとなるのであって,申立人が本案訴訟で勝訴したとしても,既に他の事業者との間で信頼関係を形成した利用者を再び獲得し,本件事業所において通所介護に係る居宅サービス事業を再開することは相当困難であ るものと考えられる。 そうすると,本件処分の効力が生じることに基づく損害は,事後の金銭賠償によって回復することが可能な性質・程度の損害であると言い切ることはできない。 他方,居宅介護サービス費の請求に関し不正があったことを理由として指 定居宅サービス事業者に係る法41条1項本文の指定を取り消す処分の行政目的は,当該不正を行った指定居宅サービス事業者を居宅サービス事業から排除することを通じて,居宅介護サービス費の請求及び支給の適正を確保し,介護保険事業の健全かつ円滑な運営を維持し,もって国民の保険医療の向上及び福祉の増進を図ることにあるものと解され(法1条,5条等参照),こ の行政目的は,指定居宅サービス事業者が居宅介護サービス費の不正請求を行うことを防止するという一般予防的な側面も有する重要なものであることは否定できない。しかしながら,㋐例えば,指定居宅サービス事業者において,当該指定に係る事業所の従業 宅介護サービス費の不正請求を行うことを防止するという一般予防的な側面も有する重要なものであることは否定できない。しかしながら,㋐例えば,指定居宅サービス事業者において,当該指定に係る事業所の従業者の知識若しくは技能又は人員について,所定の基準又は員数を満たすことができなくなったこと(法77条1項3号) や所定の指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従って適正な指定居宅サービスの事業の運営をすることができなくなったこと(同項4号)を理由として指定居宅サービス事業者の指定の取消処分を行う場合のように,居宅要介護被保険者が指定居宅サービス事業者から適切な居宅サービスを受けられることを実現することに当該取消処分の行政目的があるときに は,当該指定居宅サービス事業者を居宅サービス事業から可及的に速やかに 排除する必要性が大きいのに対して,㋑居宅介護サービス費の請求に関し不正があったことを理由として指定居宅サービス事業者の指定の取消処分を行う場合については,前記のとおりの当該取消処分の行政目的に照らすと,当該取消処分の効力が一時的に停止されたとしても,①当該処分の取消訴訟や無効確認訴訟につき請求棄却の判決がされることや,②個々の居宅介護サー ビス費の支払につき不正請求があるときには,当該処分とは別に,不当利得の返還を求めることによって,当該目的は相当程度達成され得るといえる。 このことに加えて,本件処分の理由とされている不正請求は最近ではなく本件処分の約2年前の居宅介護サービス費に係るものであり,その額も合計60万円強にとどまることも併せ考慮すると,当該目的を達成するため申立人 を居宅サービス事業から可及的に速やかに排除する必要性が大きいとまではいえない。 以上によれば,本件処分により生ずる 万円強にとどまることも併せ考慮すると,当該目的を達成するため申立人 を居宅サービス事業から可及的に速やかに排除する必要性が大きいとまではいえない。 以上によれば,本件処分により生ずる申立人の損害は,回復が困難であり,その程度も大きく,本件処分による前記行政目的の達成を一時的に犠牲にしてもなおその執行を停止して申立人を救済しなければならない緊急の必要性 があるものと認められる。 (3) これに対して,相手方は,請求に関する不正は介護保険制度の根幹を揺るがしかねない重大なものであるところ,申立人は東大阪市においても同種の不正請求により指定取消処分を受け,本件においても5箇月間にわたり115件もの不正請求が認定されており,このような悪質な事案において指定取 消処分の効力を停止すれば,不正請求がまん延し,介護保険制度の公共性及び公平性を保つことができないとして,本件処分の内容及び性質に鑑み「重大な損害」はない旨主張する。 しかしながら,前記(2)で説示したところに加え,本件処分の理由が,介護の行い方が不適切であるとか,必要な介護の実施を怠ったなどという利用者 の生活の安全や健康状態に影響を与える性質のものでないことなども考慮す ると,相手方の主張に係る事情が「重大な損害」を否定するものであると認めるに足りない。 (4) 以上の次第で,本件については本件処分により生ずる「重大な損害を避けるため緊急の必要がある」というべきである。 2 「本案について理由がないとみえるとき」に当たるか否かについて 一件記録によれば,本件処分が違法であるとの申立人の主張が,本案事件の第1審の審理を経る余地がないほどに理由がないとは認め難い。 したがって,本件申立てが「本案について理由がないとみえるとき 一件記録によれば,本件処分が違法であるとの申立人の主張が,本案事件の第1審の審理を経る余地がないほどに理由がないとは認め難い。 したがって,本件申立てが「本案について理由がないとみえるとき」(行訴法25条4項)に当たるということはできない。 3 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」があるか否かについて 前記1で説示したところを踏まえると,相手方が主張する内容に照らしても,本件処分の効力を停止することにより「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれ」があるとは認められない。 4 執行停止の期間について申立人は,本件処分の効力を本案事件の判決が確定するまで停止することを 求めている。しかしながら,現段階における申立人の疎明の程度等に鑑みると,本案事件の第1審判決の結論を見た上で,改めて本件処分の効力を停止すべき要件があるか否かを判断するのが相当である。 したがって,現段階においては,本案事件の第1審判決の言渡しの後60日を経過するまでの間に限り(ただし,当該経過の前に本案事件が完結した場合 には,当該完結時までの間に限る。),本件処分の効力を停止するのが相当である。 5 結論よって,本件申立ては,本案事件の第1審判決の言渡しの後60日を経過するまでの間(ただし,当該経過の前に本案事件が完結した場合には,当該完結 時までの間に限る。),本件処分の効力を停止することを求める限度で理由が あるから,その限度で認容し,その余は理由がないからこれを却下することとして,主文のとおり決定する。 平成30年4月20日大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官三輪方大 裁判官齋藤毅 裁判官内藤陽子 平成30年4月20日 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 三輪方大 裁判官 齋藤毅 裁判官 内藤陽子 (別紙1省略) (別紙2省略) (別紙3省略)
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