平成23(ワ)2103 保険金請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年10月17日 広島地方裁判所
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判決文本文11,857 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求被告は,原告に対し,540万円及びこれに対する平成22年12月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,原告所有の家屋が火災により全焼したことについて,原告との間で上記建物に対する火災保険契約を締結していた被告に対し,同保険契約に基づき保険金540万円及びこれに対する被告が支払拒絶の意思表示をした平成22年12月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めたのに対し,被告は,上記火災は偶然の事故により生じたものではないとして保険金支払義務の存在を争った事案である。 第3 前提となる事実(争いのない事実及び証拠により容易に認められる事実) 1 当事者等(1) 被告は,損害保険の引受等を業とする株式会社である。(弁論の全趣旨)(2) 原告は,平成15年頃,有限会社A(以下「A」という。)に入社し,平成21年12月31日に退職した。(乙5[枝番を含む。],6[枝番を含む。],弁論の全趣旨)(3) Bは,Aの代表取締役であり,CはBの父,DはBの弟である。 2 本件建物の売買の経緯等(1) 原告は,Bとの間で,平成20年12月24日付けで,島根県益田市a町b番地cの土地及び同土地上に所在する家屋番号b番cの木造瓦葺2階建居宅(以下「本件建物」という。)を代金300万円で購入する旨の売買契約書を作成し,同月25日,株式会社E銀行(以下「E」という。)に300 万円の住宅ローン借入れを申し込んだ。(甲4,5)(2) 原告及びBは,平成21年5月22日,同日付けで本件建物及びその敷地を売買した旨の所有 会社E銀行(以下「E」という。)に300 万円の住宅ローン借入れを申し込んだ。(甲4,5)(2) 原告及びBは,平成21年5月22日,同日付けで本件建物及びその敷地を売買した旨の所有権移転登記手続を行った。 また,原告は,同日付けでEから300万円を借り入れてこれをBの銀行口座に振り込み,Eは,同日,本件建物及びその敷地に抵当権を設定した。 (甲3,7,8,乙5の15)(3) 前記(1)ないし(2)の売買契約後も,本件建物には,C及びDが居住していた。 3 本件保険契約の内容等(1) 平成21年5月11日,被告は,原告を保険契約者として,以下の内容のホームガード保険(個人財産総合保険)契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。(甲1,21)ア保険約款個人財産総合保険普通保険約款イ保険期間平成21年5月22日午後4時から平成26年5月22日午後4時まで5年間ウ保険の目的島根県益田市a町b-c 木骨サイディング板張瓦葺2階建専用住宅1棟エ補償パターン火災,風災,水災,日常災害オ損害額の決定方法再取得価額カ保険料 8710円(年額)キ建物基本保険金額 540万円ク建物評価額 900万円(2) 本件保険契約の約款には,以下の内容(ただし,抜粋である。)の条項が定められている(以下「本件免責条項」という。)。(乙1)「当会社は,次の各号のいずれかに該当する事由によって生じた損害に対しては,保険金を支払いません。 (1) 保険契約者,被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反」 4 火災事故の発生平成22年 生じた損害に対しては,保険金を支払いません。 (1) 保険契約者,被保険者またはこれらの者の法定代理人の故意もしくは重大な過失または法令違反」 4 火災事故の発生平成22年7月15日昼頃,本件建物は,火災により全焼した(以下「本件火災」という。)。 第4 争点及びこれに対する当事者の主張 1 本件火災は原告の故意又は重大な過失により発生したものであるか(被告の主張)本件火災は,下記の各事実によれば,原告の故意又は重大な過失により発生したものといえるから,被告は,本件免責条項により,保険金の支払義務を免れる。 (1) 本件火災は,家人不在中,火の気のない所から出火しており,しかも,出火部が2か所と判断されている上,出火部とその周辺から採取された焼残物より灯油成分が検出されているから,家人の不在を知り得る人物が,灯油を散布した上,何らかの方法により放火したものと考えられる。 また,本件火災は人目に付きやすい真昼の時間帯に発生しており,C及びDが不在のわずか2時間程度の間に,本件建物内部に侵入して灯油を散布して放火した状況からすれば,第三者による放火の蓋然性はない。 (2) C及びDは,本件建物がBから原告に売却された事実を全く知らないまま本件建物に居住していた。 また,原告は,本件訴訟提起前は,本件建物購入のため住宅ローンを組んでいたにもかかわらず,C及びD並びにBとの間で,本件建物につき賃貸借契約を締結していないと明言していた。それにもかかわらず,Bが毎月4万円程度の金員を原告に手交しており,これは,Eの住宅ローン300万円及び固定資産税支払の資金と見るべきである。そして,Bの経済状態及びAの経営状況は極めて悪化しており,Bは自己の名義では新たな借入れが困難な 状態にあった。 Eの住宅ローン300万円及び固定資産税支払の資金と見るべきである。そして,Bの経済状態及びAの経営状況は極めて悪化しており,Bは自己の名義では新たな借入れが困難な 状態にあった。 そうすると,原告とBとの間の本件建物売買契約は,BがEから資金を借り入れるための虚偽表示であり,本件建物の実質的所有者はBのままであったというべきである。 (3) 本件火災後,原告は,本件保険契約に基づく保険金請求権のうち,189万円を超える部分について,Aに債権譲渡しており,保険金の受取人も実質的所有者であるBであった。なお,上記債権譲渡は,本件訴訟が提起される直前の平成23年10月17日に解除されている。 (4) 上記のとおり,B及びAは経済的に困窮しており,火災保険金目的で本件建物に放火するだけの動機を有していた。 原告は,Bの資金繰りに協力するなどしており,放火についても,原告自身に動機がなくても同様に協力したものと考えられる。 (5) 原告とBには,本件火災の出火時刻前後にアリバイがない。 原告がF有限会社のトラックに乗っていたことについては,同行者がいたわけではないから,裏付ける証拠はない。 また,本件火災は,原告と共謀したBによる放火と考えられるから,仮に原告本人にアリバイが認められたとしても,原告が本件放火に関与したことを否定する事実とはいえない。 Bについては,アリバイに係る供述が本件訴訟前から大きく変遷しており,その供述に信用性はなく,アリバイは認められない。 (原告の主張)(1) 本件火災は,放火によるものではない。 本件火災の原因は,当日Cがコンロの火を消し忘れた可能性があること,火災の初期段階で台所付近からの炎が確認されていることから,失火である。 本件火災の消火に当たった益田広域 よるものではない。 本件火災の原因は,当日Cがコンロの火を消し忘れた可能性があること,火災の初期段階で台所付近からの炎が確認されていることから,失火である。 本件火災の消火に当たった益田広域消防本部の実況見分調書によっても,本件火災の原因は特定に至らず,不明とされている。 なお,灯油成分の検出については,本件建物内にはストーブが何台か置かれていたから,そのストーブに給油する際に灯油がこぼれ,木材等にしみ込んでいた可能性も考えられるし,灯油成分が検出されたとされる部分の2階には石油ストーブが置かれていたから,これが本件火災により1階に落下して灯油が飛び散った可能性もある。 仮に本件火災が何者かによる放火であったとしても,原告がそれに何らかの関与をしたという確たる証拠がない限り,被告は保険金請求を拒むことはできない。 (2) 原告は,平成20年8月頃,結婚して所帯を持ちたいと考えていた女性がいたことから,その旨を勤務先のBに話したところ,Bから本件建物を300万円で買ってほしいと相談を受けた。同年9月17日にEに融資の事前審査の申込みをしたところ,可能であるとの回答を得たことから,原告は本件建物をBから買うことにし,同年12月24日に前記前提となる事実2(1)の売買契約を締結したものである。 その後,公道から本件建物への進入路の通行権確保に時間を要し,最終的に平成21年5月22日にEから300万円を借り入れ,同時にこれを売買代金としてBの銀行口座に振り込んで支払った。Bは,原告から支払を受けた金員に16万6638円を加えた金額を,独立行政法人住宅金融支援機構に振込送金し,借入金残額を返済して本件建物に設定されていた抵当権を抹消しており,Bの手元に残った金はない。 (3) 本件建物売買契約が 万6638円を加えた金額を,独立行政法人住宅金融支援機構に振込送金し,借入金残額を返済して本件建物に設定されていた抵当権を抹消しており,Bの手元に残った金はない。 (3) 本件建物売買契約が成立した後,原告の結婚話に進展がなく,原告が本件建物に直ちに入居する必要がなかったこと,原告のローンの支払額が月額3万8000円余りであったこと等から,Bから原告に対して月4万円の賃料で1年ほど本件建物を貸してもらいたいとの依頼があったので,原告はこれを承諾し,引き続きC及びDが本件建物に居住することになった。 (4) 原告が,本件火災の保険金請求権のうち,189万円を超える部分につい てBに債権譲渡したのは,本件建物の撤去と整地に要する費用の見積額が189万円であったところ,Bからその余の金員をAの運転資金のため貸してもらいたいと依頼を受けたことによるものである。 (5) 原告には本件火災によるメリットは全くなく,本件建物の住宅ローン以外に債務がなく経済的に困窮していた事情はないから,火災保険金を得るために放火をするような動機はないし,犯罪行為に加担してまでBに協力する理由もない。 また,Bについても,本件建物を原告に売却する以前,本件建物と家財について本件金額1500万円以上の火災保険契約を締結していたから,火災保険金を得たければそのまま放火すればよく,原告に本件建物を譲渡する必要性はない。 (6) 原告は,本件火災当日,勤務先であるF有限会社のトラックで運送業務に従事していたものであり,同日午前11時15分頃には広島県廿日市市内の工場に立ち寄り,午前11時40分頃に同工場を出発して午後0時10分頃には広島県大竹市内のガソリンスタンドで給油をし,午後0時45分頃には山口県岩国市内のdで休憩するなどしていたから, 廿日市市内の工場に立ち寄り,午前11時40分頃に同工場を出発して午後0時10分頃には広島県大竹市内のガソリンスタンドで給油をし,午後0時45分頃には山口県岩国市内のdで休憩するなどしていたから,原告には出火時刻前後のアリバイがある。 また,Bも,本件火災の推定出火時刻である同日午後0時40分頃は,島根県浜田市のGでHという知り合いの女性と会っていたから,Bが本件建物に放火することも不可能である。 2 Bは本件保険契約の実質的契約者に当たるといえるか(被告の主張)前記1の各事実によれば,本件建物の実質的所有者は未だBであり,本件保険契約の被保険者及び保険契約者もBであるといえる上,本件保険契約により火災保険金も一時Bが経営するAに債権譲渡されていたのであるから,これによる利益を享受するのもBである。 このように,本件保険契約による利益を直接享受する立場にあるB又はその指示する者による故意の放火と考えられる本件においては,契約名義上は第三者の立場であっても,信義誠実の原則より,この者の故意を理由として本件免責条項により被告は保険金の支払を免れる。 (原告の主張)争う。 第5 当裁判所の判断 1 争点1(本件火災の原因及び原告の故意重過失の有無)について(1) 後掲各証拠によれば,次の各事実が認められる。 ア Bは,平成6年4月8日,本件建物及びその敷地を購入した。その際,住宅金融公庫が債務額1000万円の抵当権を本件建物に設定した。(甲3,乙5[枝番を含む。])イ本件建物については,平成15年2月24日に同月1日付けでBからCに対し贈与された旨及び平成17年9月13日に同年8月1日付けでかかる贈与契約が解除された旨の所有権移転登記がそれぞれなされている。 (甲3)ウ本件建物 5年2月24日に同月1日付けでBからCに対し贈与された旨及び平成17年9月13日に同年8月1日付けでかかる贈与契約が解除された旨の所有権移転登記がそれぞれなされている。 (甲3)ウ本件建物には,前記アの本件建物購入当初頃からC及びCの妻(Bの母)が居住していたが,Cの妻は,平成21年6月に亡くなった。 Dは,平成18年頃から本件建物に居住して生活するようになった。 C及びDは,外出時も本件建物の施錠はしていなかった。 Bは,月に1回程度,本件建物に行っており,Dの勤務状況やCの普段の行動について概ね知っていた。(乙5[枝番を含む。],乙6[枝番を含む。],証人B,証人C,弁論の全趣旨)エ平成20年頃,Bの本件建物に係る住宅ローンの残高は,約300万円であり,毎月の支払額はもともと約7万5000円であったが,平成19年ないし平成20年頃に支払条件を変更し,2年間は利息の約1万円のみ を支払うこととしていた。 また,Bは,本件建物以外にも元妻と子供が居住する住宅の住宅ローンも支払っていたが,同じ頃に支払条件を毎月約15万円から約8万5000円に変更した。 なお,Bは,この頃,自身がいわゆるブラックリストに載っており,金融機関から借入れをすることができない状態であると考えていた。 Aの経営状況については,平成19年4月から平成22年3月までの間,3期連続で純利益がマイナスとなり,8000万円余りの借入れがある状態であった。(乙5[[枝番を含む。],乙6[枝番を含む。],証人B)オ平成20年8月頃,Bは,原告に対し,本件建物及びその敷地を300万円で購入するよう持ち掛け,原告はこれを承諾した。原告は同年9月17日,Eに住宅ローンの事前審査を申し込み,融資が可能との返事を得た。 (甲6,17, Bは,原告に対し,本件建物及びその敷地を300万円で購入するよう持ち掛け,原告はこれを承諾した。原告は同年9月17日,Eに住宅ローンの事前審査を申し込み,融資が可能との返事を得た。 (甲6,17,原告本人)カ平成20年末ないし平成21年初め頃,Bは,Dに対し,本件建物の名義を変更するような話をしていた。(乙6[枝番を含む]。)キ平成21年1月頃,Bは,本件建物の敷地と公道とを結ぶ土地の所有者の破産管財人と交渉し,同土地に本件建物の敷地を要役地とする通行地役権を設定させた。(甲15,16)ク平成21年5月21日,原告名義のEの普通預金口座から,8710円がカード振込みにより送金されている。(甲10)ケ Bは,平成21年5月22日,独立法人住宅金融支援機構(旧住宅金融公庫)に316万6638円を振り込んだ。これを受けて,本件建物及びその敷地に設定されていた前記アの抵当権が抹消された。(甲3,9)コ同年6月から平成23年11月まで,BないしAから原告名義のEの普通預金口座へ,毎月(ただし平成23年4月を除く)4万円が振り込まれていた。 なお,Eへの住宅ローンの返済額は初回を除いて毎月3万8567円であった。(甲10,証人B,原告本人)サ平成21年7月ないし10月頃,Bは,Cに対し,江津市ないし浜田市へ転居しないかと尋ねたが,Cはこれを断った。(乙6[枝番を含む。],証人C)シ原告は,平成21年12月にAを退職し,平成22年1月にF有限会社に入社した。(甲17,証人B)ス平成22年4月15日,Bは,Aを通じて,原告名義のEの普通預金口座へ8710円を振り込んだ。 同月26日,上記口座から,被告への保険料8710円が引き落とされている。(甲10,証人B,原告本人)セ同年7月15日 ,Aを通じて,原告名義のEの普通預金口座へ8710円を振り込んだ。 同月26日,上記口座から,被告への保険料8710円が引き落とされている。(甲10,証人B,原告本人)セ同年7月15日午前8時頃,Dは出勤した。 午前11時過ぎ頃,Cは飼犬を連れて親戚方等へ出掛け,畑仕事をするなどしていた。 午後0時30分過ぎ頃,本件建物の近隣住人が,本件建物の台所窓付近から火が出ているのを発見し,消火に当たった。 午後0時44分頃,本件建物の火災に気付いた近隣住人が消防署へ119番通報し,消防車が出動して午後0時56分頃から放水を開始し,午後1時39分頃鎮火した。(乙4[枝番を含む。],5[枝番を含む。],証人C,証人I)ソ C及びDは,本件建物がBから原告に売却されていたことについて,本件火災後初めて知った。(乙5[枝番を含む。],証人C)タ同年11月12日,原告は,被告に対し,本件保険契約に基づく火災保険金のうち,189万円を超える部分を同月10日付けでAに譲渡した旨通知した。(乙2,証人B,原告本人)チ平成23年10月18日,原告は,被告に対し,前記タの債権譲渡を解 除した旨通知した。 (2) 本件火災の原因について被告は,本件火災は放火によるものであると主張するのに対し,原告は,失火によるものであると主張する。 そこで検討するに,被告の調査会社から依頼を受けて本件火災の原因を調査した証人Jは,本件火災の出火場所が,本件建物1階のLDKのソファー付近及び和室の押し入れの2か所であったことと,本件建物の焼け残った部分6か所から資料を採取したところ,うち5か所から灯油成分が検出されたことを理由に,本件火災は放火によるものであると判断した旨証言している。 このうち,前者の点について,証人J 物の焼け残った部分6か所から資料を採取したところ,うち5か所から灯油成分が検出されたことを理由に,本件火災は放火によるものであると判断した旨証言している。 このうち,前者の点について,証人Jは,火災は木材等が加熱されて発生する可燃性ガスが燃えることにより燃え広がるものであるから,通常は建物の上部に向けて燃え広がっていくところ,同証人が本件火災の出火場所と判断した部分については,床が焼け落ちるまで燃えていることから早期の段階から燃焼していたといえる上,LDKのソファー付近と押し入れとの間には燃え残っている部分があることから,別個の出火場所であると考えられる旨証言しており,かかる証言は科学的かつ合理的な根拠に基づくものであり,信用できる。 これに対し,原告は,近隣住人が本件火災を発見した際,台所付近からの炎を発見していることから台所が出火場所であると主張するが,証人Jは台所部分の壁や床板の燃え方が上記LDK等と比べて弱いことや,火災が延焼して台所まで回り,その炎を目撃したとしても矛盾がないことからこれを否定する証言をしているし,台所のみが火元であったとすると,LDKのソファー付近及び和室の押し入れについて,床が焼け落ちるまで火勢が強かったことや,両地点の間に焼け残った部分があることについて合理的な説明をすることができないから,原告の上記主張は採用できない。 そして,本件火災の出火場所が複数個所であることは,本件火災が失火に よるものではなく,放火によるものであることを強く推認させる事実であると評価できる。 この点に,本件建物の焼け残った部分6か所から採取された資料のうち,5か所から灯油成分が検出されていること(乙7の1,証人J)を併せ考慮すれば,本件火災の原因は,何者かによる放火であることが認められるとい に,本件建物の焼け残った部分6か所から採取された資料のうち,5か所から灯油成分が検出されていること(乙7の1,証人J)を併せ考慮すれば,本件火災の原因は,何者かによる放火であることが認められるというべきである。 原告は,上記灯油成分については,本件建物内で使用されていた石油ストーブによるものであるなどと主張するが,資料が採取された6か所のうち,5か所もの部分において,そのような偶然の事情で灯油成分が検出されるに至ったとはとうてい認められないし,灯油成分が検出された部分には,本件建物1階の廊下や階段上り口付近など,石油ストーブを使用していたとは考え難い部分も含まれているから,原告の上記主張は採用できない。 (3) 本件建物の放火に原告が関与したかどうかについてア被告は,本件建物の放火は原告とBが共謀の上実行したものであると主張するのに対し,原告は,原告は本件建物の放火には関与していないと主張する。 イそこで検討するに,前記(2)で判示したとおり,本件火災の出火場所は,本件建物内であると認められるところ,本件火災が人目につきやすい日中に発生していることや,家人の帰宅時間を知り得ない者が建物内に侵入してまで放火を実行する事態が想定し難いことからすれば,本件建物の放火は,第三者によるものではなく,本件建物の居住者の動静をよく知る者により実行されたものというべきである。 このうち,C及びDについては,本件火災により大きな被害を受けたものと認められる上,出火時刻頃のアリバイも認められる(乙5[枝番を含む。])ことから,放火の実行者であるとは認められない。 これに対し,Bについては,前記(1)ウのとおり,本件建物によく出入 りしており,CやDの普段の日課等についても知っていたものと認められる上,本件建物 行者であるとは認められない。 これに対し,Bについては,前記(1)ウのとおり,本件建物によく出入 りしており,CやDの普段の日課等についても知っていたものと認められる上,本件建物に居住していなかったことから本件火災により直接被害をうけることもない。また,前記(1)エ,オ及びソ並びに前記前提となる事実2(1)及び(2)のとおり,住宅ローンの支払条件を変更してもらったり,本件建物をC及びDに相談することなく原告に売却したりするなど(なお,前記(1)カ及びサによれば,Bが本件建物を現実に原告に明け渡すことを検討していたと認められるから,本件建物の売買が仮装のものであったとまでは認められないものの,かかる売買により,Bは前記(1)エの本件建物に係る住宅ローンの返済を免れることができたといえるから,これにより経済的に利益を得たと認められる。),経済的に窮していた様子もうかがえるところ,本件建物の売買やその後のC及びDの本件建物への居住継続について原告の協力を得られたことから,火災が発生した後の保険金請求の場面においても,原告の援助を得られるのではないかと期待し得る状況にあったといえる。 さらに,証拠(乙5[枝番を含む。],6[枝番を含む。],証人K)によれば,Bが,被告の依頼により本件火災の原因等の調査に当たっていたKに対し,本件火災当日の行動について,当初は,Aの従業員であったLの仕事を手伝うために浜田市のGに午前中行っていたと話していたのに対し,その後,知り合いであるHと午前10時20分ぐらいから二,三時間ぐらい上記スーパーで会っていたと供述を変え,さらに本件訴訟の証人尋問においては,午前11時半から上記Hと会っていたと証言するなど,その供述は大きく変遷しており,変遷に合理的な理由も認め難い。加えて,その供述内 パーで会っていたと供述を変え,さらに本件訴訟の証人尋問においては,午前11時半から上記Hと会っていたと証言するなど,その供述は大きく変遷しており,変遷に合理的な理由も認め難い。加えて,その供述内容自体をみても,上記Hと会っていたはずの午後0時26分頃にHからBに携帯電話で通話しているなど(乙6の9),不自然な点も存在している上,Bの証人尋問後に作成された上記Hの陳述回答書(甲19,23)の記載内容と,会っていたとされる時間や上記の通話内容について, 食い違いが生じている。これらの点からすると,本件火災当日の行動に関するBの証言は信用できない。 以上を総合考慮すれば,Bにおいては,本件建物の放火を実行するための知識を持っており,本件建物の火災による利益を得られる可能性も有していた上,本件火災発生時におけるアリバイを有していたと認められないところ,他に本件建物の家人の日頃の動静に詳しく,かつ本件火災により利益を得る可能性のある人物が見当たらないことからすれば,本件建物の放火は,Bにより実行されたものであると推認するのが合理的である。 ウこれに対し,原告が,Bと共謀の上,本件建物の放火に関与していたかどうかについては,確かに,前記(1)オ及び前記前提となる事実2のとおり,Bからの申出により本件建物を購入したり,その後もC及びDを住まわせることを認めるなど,Bに対し協力的な対応をしていた事実は認められるところではある。 もっとも,前記アのとおり,BはC及びDの日頃の動静を自ら知悉しており,Bにおいて,本件建物の放火を実行する上で,原告の協力を仰ぐ必要性があったとは認められないし,原告において,Bとの間に,犯罪に協力しなければならないほどの人的関係があったと認めるに足りる証拠もなく,Bが原告に無断で本件建物の放火に及 上で,原告の協力を仰ぐ必要性があったとは認められないし,原告において,Bとの間に,犯罪に協力しなければならないほどの人的関係があったと認めるに足りる証拠もなく,Bが原告に無断で本件建物の放火に及び,そのことを秘して本件保険契約に基づく火災保険金の譲渡を原告に持ち掛けてその合意を得た可能性も否定できないから,原告がBと共謀の上,本件建物の放火に関与していたとまでは認めることができないというべきである。 2 争点2(Bの本件保険契約における地位)について被告は,本件火災を故意により起こしたBが本件保険契約により利益を享受する立場にあったことから,信義則上,火災保険金の支払義務を負わないと主張する。 この点,本件免責条項は,保険契約者又は保険金受取人そのものが故意によ り保険事故を招致した場合のみならず,公益や信義誠実の原則という本件免責条項の趣旨に照らして,第三者の故意による保険事故の招致をもって保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価することができる場合をも含むと解すべきである。したがって,第三者の故意により保険事故が発生したときには,当該第三者と保険契約者又は保険金受取人との経済的利害の共通性ないし当該第三者が保険金を管理又は処分する権限の有無,行為の動機等の諸事情を総合して,当該第三者が保険金の受領による利益を直接享受し得る立場にあるなど,本件免責条項の趣旨に照らして,当該第三者の故意による保険事故の招致をもって保険契約者又は保険金受取人の行為と同一のものと評価することができる場合には,本件免責条項に該当するというべきである。 これを本件についてみるに,被告への本件保険契約に係る保険料の支払は,前記1(1)ク及びスの2回のみであったと認められるところ,前記1(1)スのとおり,少なくともそのうち1回につい うべきである。 これを本件についてみるに,被告への本件保険契約に係る保険料の支払は,前記1(1)ク及びスの2回のみであったと認められるところ,前記1(1)スのとおり,少なくともそのうち1回については,Bがこれを実質的に支払ったものと評価できること,前記1(1)タのとおり,Bは,原告から本件保険契約に基づく火災保険金請求権のうち約3分の2に当たる金額を譲り受けており,かつ前記1(3)イのとおり,原告のBへの従前の協力状況から,Bは,本件火災前に,火災保険金請求権の譲受け等の協力を得ることを期待し得る状態にあったといえること,そしてこれを企図して本件建物の放火を実行したと認められることからすると,Bは,本件建物の火災保険金の受領による利益を直接享受し得る立場にあったということができ,公益や信義誠実の原則という本件免責条項の趣旨に照らして,Bが故意に本件建物の放火に及んだ行為をもって原告の行為と同一のものと評価することができる場合に当たるというべきである。 そうすると,被告は,本件免責条項により,本件保険契約に基づく火災保険金の支払を免れることができる。 第6 結論以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のと おり判決する。 広島地方裁判所民事第1部 裁判官岡部絵理子

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