平成15刑(わ)910 傷害被告

裁判年月日・裁判所
平成15年6月12日 東京地方裁判所
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判決文本文3,211 文字)

JR日暮里駅暴行傷害事件平成15年刑(わ)第910号傷害被告事件判決本籍茨城県住居同県職業内装工被告人 A 主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中40日をその刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,平成14年11月9日午前7時2分ころ,東京都荒川区西日暮里2丁目19番1号所在のJR日暮里駅11番線ホーム上において,B(当時41歳)に対し,その顔面を手拳で1回殴打して同人をホーム上に転倒させて左側頭部を強打させる暴行を加え,よって,同人に全治不明の左急性硬膜外血腫,左急性硬膜下血腫,右急性硬膜下出血,頭蓋骨骨折,脳挫傷,遷延性意識障害の傷害を負わせたものである。 (法令の適用)罰条刑法204条刑種の選択懲役刑を選択未決勾留日数算入同法21条訴訟費用不負担刑訴法181条1項ただし書(量刑の理由)本件は,被告人が,JR日暮里駅のホーム上において,停車した山手線内回り電車に乗り込もうとした際,電車から降りてきた被害者の右肩が被告人の右肩にぶつかっただけでなく,その際被害者から「邪魔なんだ」という趣旨のことを言われたことから,罵倒されたと思って激高し,一旦乗り込んだ電車から降りて被害者の後を追いかけ,ホームの階段付近で被害者に追いつくや,その背後から左手で被害者の襟首を掴み,後ろを振り向いた被害者の右顎付近を右手拳で1回下から上に突き上げるようにして殴打してホーム上に転倒させ,その際被害者の左側頭部を路面に強打させて全治不明の頭蓋骨骨折等の重篤な傷害を負わせたという事案である。 まず,被告人が本件犯行に及ぶに至った経 上に突き上げるようにして殴打してホーム上に転倒させ,その際被害者の左側頭部を路面に強打させて全治不明の頭蓋骨骨折等の重篤な傷害を負わせたという事案である。 まず,被告人が本件犯行に及ぶに至った経緯をみると,被告人は,上記のとおり,電車に乗り込む際に被害者の右肩とぶつかったことに加え,被害者から「邪魔なんだ」という趣旨のことを言われて激高したというに過ぎないものであって,本件は余りにも衝動的かつ短絡的な犯行であったと言わざるを得ない。しかも,そもそも電車の乗り降りに当たっては降りる人を優先させるのが社会の一般的なマナーとも言える状況の中で,被告人は,椅子に座って行きたいとの気持ちから,被害者が電車から降りてしまうのを待たないで電車に乗り込もうとしたため被害者の身体にぶつかったもので,その際被害者が「邪魔なんだ」という趣旨の発言をしたことをもって挑発的な言動であったと非難することはできない。まして,そのこと故に被害者が被告人から判示のような暴行を加えられるいわれはなく,被告人が本件犯行に及んだ経緯に酌むべき事情があるとは言えない。 また,本件犯行の態様を見ると,被告人は,当時被告人からの攻撃を全く予期しておらず無防備の状態にあった被害者に対し,無言のままいきなり一方的にその顔面を右手拳で1回殴打したものであって,悪質な犯行と言うほかない。その結果,被害者は,ホーム上に転倒して左側頭部を強打し,頭蓋骨骨折や左急性硬膜外血腫,左急性硬膜下血腫等の判示傷害を負い,当初しばらくの間は意識があったものの,やがて昏睡状態に陥り,緊急手術を受けて一命を取り留めたとはいえ,その後も今日に至るまで意識を回復することがないまま,目を開けることも,声を出すことも,身体を動かすこともほとんどない植物状態に陥っており,医師による治療がなければ生命を維持すること めたとはいえ,その後も今日に至るまで意識を回復することがないまま,目を開けることも,声を出すことも,身体を動かすこともほとんどない植物状態に陥っており,医師による治療がなければ生命を維持することができず,回復の可能性さえ乏しい状態で入院生活を余儀なくされており,その結果は重大である。ところで,被害者は,本件当時41歳と働き盛りの年齢にあって,これまで真面目に仕事に励み母親らの家族に囲まれて平穏で幸せな生活を送ってきていた中で,夜勤明けの帰宅途上に本件被害に遭い,己が置かれた状況さえ理解できないまま回復不能の重篤な傷害を負わされたものであって,その無念さは察するに余りある。また,被害者は,元々温厚で争いごとを好まない性格であり,母親にとっては親の言う事をよく聞く孝行息子であり,兄弟にとっては優しい弟であったのに,本件被害に遭って重態に陥り依然として意識を回復しないまま入院生活を送っているため,日々被害者の看護に当たっている母親をはじめとする家族の絶望感や悲嘆の情は深く,本件が被害者の家族らに与えた衝撃も甚大であって,被害者の家族らが,被告人側からの金銭の提供を拒絶し,被告人に対する厳重処罰を求めているのも,けだし当然と言うべきである。 その上,被告人は,被害者がホームに転倒した際に「パコン」という大きな音を聞いて重大な怪我を負わせたのではないかとの不安を抱いたのに,被害者をその場に放置したまま逃走したばかりか,本件当時着用していたコートやリュックサックを焼却するなどして罪証隠滅行為に及んでいる。また,本件から1月余り経った12月11日には本件を取材したテレビ番組を見て被害者が重篤な傷害を負っていることを知り,また,本件について相談した友人等からは自首を勧められたのに,その後も警察官に逮捕されるまで無為に時を過ごしてきたものであって,こ を取材したテレビ番組を見て被害者が重篤な傷害を負っていることを知り,また,本件について相談した友人等からは自首を勧められたのに,その後も警察官に逮捕されるまで無為に時を過ごしてきたものであって,このような被告人の態度からは,当時被告人が本件を真摯に受け止め反省していたと窺うことはできない。 以上のような諸事情に加え,本件は,多数の通勤客が利用するJR日暮里駅の早朝の通勤時間帯において,電車の乗り降りの際の些細な出来事を切っ掛けに,犯人が被害者に暴行を加えて意識不明の重態に陥らせたというショッキングな事件であった上,犯人がその場から逃走して名乗り出ないまま警察による地道な捜査が続けられていたことなどもあって,マスコミで大きく取り上げられ,社会の注目を浴びるとともに,通勤等で駅を利用している多くの人たちに対し,何時わが身が被害者と同じ状況に陥るかも分からないという不安や恐怖感を与えたもので,本件が社会に与えた影響には大きなものがあったことをも併せ考えると,被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ない。 他方,本件は,被告人が一時の激情に駆られて敢行した偶発的な犯行であったこと,また,被告人は,本件で逮捕された後は,素直に事実を認めて反省する態度を示し,公判廷においても,被害者やその家族に対する謝罪の意思を表明するとともに,その気持ちを表すために父親に頼んで被害者の治療費等の一部の提供を申し出,今後もできる限りの金銭負担をしたい旨述べていること,さらに,被告人にはこれまで交通事件による罰金前科しかなく,仕事は実父の下で長期間にわたって真面目に内装工を続けてきたこと,また,従前住居地の消防団員として地域の福祉にも貢献してきたこと,父親や職場の上司が被告人に対する今後の監督や更生への援助を誓っていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められ を続けてきたこと,また,従前住居地の消防団員として地域の福祉にも貢献してきたこと,父親や職場の上司が被告人に対する今後の監督や更生への援助を誓っていることなど,被告人のために酌むべき事情も認められる。 そこで,これら本件に表れた諸般の事情を総合考慮し,被告人に対しては,主文の刑を科すのが相当であると判断した。 (求刑懲役7年)平成15年6月12日東京地方裁判所刑事第1部裁判官川口宰護

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