平成21(ワ)8030 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成26年10月9日 大阪地方裁判所
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判決文本文38,546 文字)

- 1 -主文 1 被告は,別紙3「認容額一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告に対し,各「合計額」欄記載の金員及びうち各「元本額」欄記載の金員に対する各「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 前項の原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求をいずれも棄却する。 3 訴訟費用は,別紙4「費用負担一覧表」のとおりの各負担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求被告は,別紙5「請求金額一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告に対し,各「合計額」欄記載の金員及びうち各「損害額元本」欄記載の金員に対する各「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 請求原因の要旨本件は,国有林野に成育している樹木共有持分を国以外の者(以下「費用負担者」という。)に譲渡し,費用負担者から持分の対価並びに樹木についての保育及び管理に要する費用の一部の支払を受け,成長した樹木を公売するなどして得た収益を国及び費用負担者が分収するという分収育林制度(通称「緑のオーナー制度」。以下「本件分収育林制度」といい,同制度に伴う事業を「本件分収育林事業」ということがある。)に関し,被告との間で分収育林契約を締結した費用負担者又はその承継人である別紙5「請求金額一覧表」の「原告氏名」欄記載の各原告が,被告に対し,被告の違法な勧誘によって被告との間で分収育林契約を締結し,払込額相当の損害を被ったとして,主位的に国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,予備的に不法行- 2 -為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,下記金 被告との間で分収育林契約を締結し,払込額相当の損害を被ったとして,主位的に国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として,予備的に不法行- 2 -為又は債務不履行に基づく損害賠償請求として,下記金員の支払を求めた事案である。 (1) 同別紙の「損害額元本」欄記載の損害額元本及び「弁護士費用」欄記載の弁護士費用(2) 上記損害額元本に対する不法行為の日である分収育林契約締結日から「遅延損害金起算日」欄記載の日の前日まで民法所定の年5分の割合による確定遅延損害金の全額又は残金(3) 上記元本に対する「遅延損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで上記の割合による遅延損害金 2 前提事実(当事者間に争いのない事実に加え,証拠(甲6,乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。)(1) 本件分収育林制度の創設と概要ア本件分収育林制度は,国民の参加による国有林野の整備を促進するとともに,併せて生育途上にある人工林の育成等のための資金の確保にも資することを目的として,スギ,ヒノキ等一般的な造林樹種からなる林齢おおむね21年生以上30年生以下の人工林で,造林木の材積歩合が75%以上の森林を対象森林として,契約によりその対象森林を国と費用負担者の共有とし,契約期間(おおむね20年ないし30年程度)満了時に,その対象樹木を販売し,販売代金を国と費用負担者が持分に応じて分配する制度である(国有林野の管理経営に関する法律(以下「管理経営法」という。)17条の2参照)。 イ昭和58年5月からの林政審議会国有林野部会において,国有林を対象とする分収育林の制度化が検討され,昭和59年2月27日,制度化のための改正法案が国会に提出され,衆議院での審議・可決を経て,同年4月27日,参議院本会議で可決され,も 野部会において,国有林を対象とする分収育林の制度化が検討され,昭和59年2月27日,制度化のための改正法案が国会に提出され,衆議院での審議・可決を経て,同年4月27日,参議院本会議で可決され,もって管理経営法(当時の題名は「国有林野法」)の一部を改正する法律(昭和59年法律第27号)- 3 -が成立し,同年10月1日,同法の施行により,本件分収育林制度が創設された。 (2) 分収育林契約の内容ア分収育林契約書の交付被告と費用負担者が分収育林契約を締結する際には,以下の内容が記載された分収育林契約書が作成され,被告から費用負担者に対して交付される(管理経営法17条の3参照)。 Ⅰ 分収育林契約の目的たる国有林野(分収林)の所在及び面積並びに当該契約の目的たる樹木(以下「分収木」という。)の樹種別及び樹齢別の本数Ⅱ 当該契約の存続期間Ⅲ 分収木に係る費用負担者の持分の割合Ⅳ 費用負担者が支払うべき額Ⅴ 育林の方法Ⅵ 伐採の時期及び方法Ⅶ その他必要な事項なお,上記「その他必要な事項」としては,費用負担者の権利の保全方法,費用負担者が行方不明等の場合の取扱い,森林損害塡補制度への加入,分収育林台帳の整備及び契約の解除等が挙げられる。 イ費用負担者が支払うべき額について上記費用負担者が支払うべき額は,分収木に係る費用負担者の持分の対価並びに当該分収木について国が行う保育及び管理に要する費用の一部である(管理経営法17条の2,分収育林契約5条1項)。 具体的には,Ⅰ樹種別,林齢別,立木度別の評価時における立木評価額と,Ⅱ種別,林齢別,立木度別の契約時から分収(主伐)時までの期間における保育・管理に要する費用(土地使用料相当額を含む。 具体的には,Ⅰ樹種別,林齢別,立木度別の評価時における立木評価額と,Ⅱ種別,林齢別,立木度別の契約時から分収(主伐)時までの期間における保育・管理に要する費用(土地使用料相当額を含む。以下「育- 4 -林費」という。)の合計額(以下「分収育林価格」という。)に対する持分相当額である。 持分は,総口数(対象となる分収林の分収育林価格の総額を,1口当たりの費用負担額で除したもの。1口当たりの費用負担額と1口当たりの森林損害塡補制度のための保険料又は共済掛金の合計が50万円となるように設定された。なお,募集口数は総口数の約2分の1であり,残りは被告に留保された。)に対する費用負担者が取得した口数で表される。 費用負担者から支払われた費用は,国有林野事業の収入(分収育林収入)となる。 ウ上記Ⅰの立木評価額の算定について上記Ⅰの立木評価額は,グラーゼル式の一部を変形した補正式を用いて算定された。 グラーゼル式とは,林木成長による単位面積当たりの価格の変動が,立木材積とその価格差の2要素の変動によるという事実に着目して,樹種ごとに多数の林木売買資料を収集・解析してその価格変動をグラフ化し,統計的手法により林木価の近似式を導き出した評価法である。 育成林業においては,造林投資額の多くが造林初期の10年間に偏在することが考慮され,上記Ⅰの立木評価額を算定するに当たっては,グラーゼル式の一部を変形した下記補正式(以下「変形グラーゼル式」という。)が用いられた。 (i-10)2Ai=(Au-C 10) +C 10(u-10) 2i:評価時林齢Ai:評価時における立木評価額u:主伐林 Ai=(Au-C 10) +C 10(u-10) 2i:評価時林齢Ai:評価時における立木評価額u:主伐林齢- 5 -Au:主伐時における立木の評価額(間伐を含む。)。これは,評価対象森林が主伐林齢に達したときの主伐の推定立木評価額と間伐の主伐時の換算した推定立木評価額との合計額であり,各評価額は,林分収穫表等から主伐時又は間伐時の収穫見込量を推定し,市場可逆算式により算定する。 C 10:植栽以後10年間の造林費を評価時現在の時価に換算した額の後価合計額エ収益の分収について分収林につき,国と費用負担者は,分収育林契約に定められた分収木に係る持分割合に応じて,分収木に係る収益を分収することになる(管理経営法17条の4)。 この「分収木に係る収益」には,主伐に係る販売収益のほか,間伐に係る販売収益及び分収木に関して第三者から受けた保険金や損害賠償金等も含まれる(分収育林契約7条2項,8条参照)。 そして,収益分収の方法は,分収木の販売代金を分収する代金分収方法によることとしており,販売については,分収木を立木のままで販売する立木販売方式(かかる方式による販売価格を山元立木価格といい,一般には,丸太の市場価格から伐採や搬出等に必要な経費を控除して算出される。)により行われる。 (3) 原告らによる分収育林契約の締結被告は,昭和59年10月から平成10年にかけて,全国各地の営林署において,国民に対し,広く分収育林制度への参加を募集した。 別紙6「契約内容等一覧表」の「契約行為者」欄記載の者(空欄の場合は,原告本人を指す。以下,原告以外の者も含めて「原告ら」ということがある 国民に対し,広く分収育林制度への参加を募集した。 別紙6「契約内容等一覧表」の「契約行為者」欄記載の者(空欄の場合は,原告本人を指す。以下,原告以外の者も含めて「原告ら」ということがある。)は,同「契約締結日」欄記載の年月日に,被告との間で,同「契約番号」欄記載の契約番号の分収育林契約を締結し,被告に対し,「払込額」- 6 -欄記載の金額を支払った。 同別紙の「原告への承継の原因」欄に記載のある各原告については,同「契約締結日」欄記載の年月日以降現在までに,同「契約時の費用負担者」欄記載の者から,同「原告への承継の原因」欄記載の事由により,その分収育林契約を承継するとともに,同契約に伴う損害賠償請求債権も承継した。 (4) 分収状況平成11年度以降,各地で分収育林契約の満期(主伐期)を迎えた山林が次々と公売されるようになったが,売却により得ることができた分収額のほとんどが払込額を大きく下回る状態となり,また,「不落」として売却困難な山林が続出する事態となり,原告らは,分収金として,別紙7「原告ら受取額一覧表」の「受取日」欄の年月日に,「名目」欄記載の名目で「受取額」欄記載の金額を得るにとどまった。 (5) 分収育林契約の申込みの募集の中止被告は,本件分収育林事業において,分収状況が上記(4)のとおりに陥ったことを踏まえ,平成11年度からの分収育林契約の一般公募を中止した。 第3 争点及びこれに対する当事者の主張 1 本件分収育林事業の公権力性(争点1)(原告らの主張)本件分収育林事業は,国が営林事業の一環として行う公権力の行使に該当するものである。 すなわち,本件分収育林制度は,本来,国が事業として行うべき森林の育成事業に国民を参画させ,その費用の一 本件分収育林事業は,国が営林事業の一環として行う公権力の行使に該当するものである。 すなわち,本件分収育林制度は,本来,国が事業として行うべき森林の育成事業に国民を参画させ,その費用の一部を負担させようというものである。国の事業を国民と共同で行おうとする点に制度の趣旨があり,林野行政そのものであって,非権力的作用ではあるが,公行政作用である。しかも,木材価格の下落により払込額を下回る分収金しか得られず,費用負担- 7 -者である国民の財産権を侵害する危険性を孕むという意味で,「行政指導」を誤って国民に財産的損害を与えたり,「勧奨」によって予防接種被害を与えたりした場合と同様の関係にあり,公権力の行使にほかならない。 被告は,被告と費用負担した国民との関係について単なる私的な経済取引関係にあると主張するが,仮に純然たる投資であるならば,売却あるいは中途解約等によるリスク回避あるいは損失を抑えるための手段が制度として用意されるはずであるにもかかわらず,本件分収育林制度にはそのような回避手段は用意されていない。 (被告の主張)ア分収育林契約は,土地所有者である国が土地の提供と保育・管理を,費用負担者(契約者)が保育・管理費用の負担を受け持つことを内容とする双務契約であり,その法的性質は,Ⅰ国が費用負担者に対し,当該樹木の持分を付与する契約(売買契約),Ⅱ費用負担者が国に対し,その持分相当分について保育・管理を委託する契約(準委任契約)及びⅢ国が費用負担者に対し,土地の使用収益を認める契約(賃貸借契約)の三つの契約要素を含んだ混合契約であり,非典型契約である。 したがって,民法上の双務契約であって,民有林の分収育林(特定分収)契約と同様の性質を有するものであるから,国の公務員による分収育林契 契約要素を含んだ混合契約であり,非典型契約である。 したがって,民法上の双務契約であって,民有林の分収育林(特定分収)契約と同様の性質を有するものであるから,国の公務員による分収育林契約の締結ないし勧誘行為は,私人と同様の立場でする取引行為にすぎず,純然たる私経済作用であって,本件分収育林事業は,「公権力の行使」に該当しない。 イまた,「公権力の行使」に該当する場合とは,事実上のものであれ,相手方の任意性を損なうもの,強制に渡るものを含む場合であるところ,分収育林契約は,あくまで募集に基づく任意の契約の形態を採っており,相手方となった費用負担者の任意性を損なったり,強制にわたったりするものではない。 - 8 - 2 分収育林制度の違法性及び被告の過失(1) 説明義務違反の有無(争点2-(1))(原告らの主張)ア本件分収育林事業は,典型的な金融商品ではないとしても,以下の点に鑑みれば,被告と国民の情報格差等は,金融商品取引業におけるそれと変わるところはないから,被告には,金融商品取引におけるものと同様の信義則上の説明義務が課せられているというべきである。 (ア) 分収育林制度における将来の収益性や危険性の判断には,分収育林価格の算定根拠を始め,木材の需給関係や価格動向,物価や為替相場の変動,対象となる土地の立地条件,植栽樹種,保育の時期及び内容等,様々な要素を総合的に考慮する必要があるところ,かかる情報を収集・分析する能力において,制度設計者である被告と原告らとの間には大きな格差があること(イ) 本件分収育林事業は,取引の当事者が自由な意思決定に基づいて出捐をする以上,適切な情報が提供されなければならないことは当然である上,被告は,国民の国に対する絶大な信用を利用し こと(イ) 本件分収育林事業は,取引の当事者が自由な意思決定に基づいて出捐をする以上,適切な情報が提供されなければならないことは当然である上,被告は,国民の国に対する絶大な信用を利用して,安心確実な投資として多数の国民を勧誘したものであるから,憲法が国民の財産権を保障している趣旨に鑑み,不十分・不正確な情報を提供して国民に財産処分について誤った判断をさせないよう万全の注意を払うべきであることイそして,下記のとおり,本件分収育林制度の複雑な商品特性に照らせば,被告には,分収育林価格の算定方法や木材価格の下落による元本割れのリスクにつき説明すべき義務があったが,被告は,何ら説明義務を尽くさなかった。 (ア) 分収育林価格の算定方法等についての説明義務本件分収育林制度は,分収契約当時伐採期にある立木の評価額を基礎とし,これに分収契約時までに被告が投下した費用を加えて分収育林- 9 -価格としての立木評価額を算定する変形グラーゼル式を採用したことにより,被告において,初期造林費用を早期に回収し,未だ市場性のない若年木を売り抜けることで将来の木材価格の下落リスクを回避できるという結果となる。他方,かかるリスクは買主である原告らに転嫁されるところ,買主には途中解約権は認められていないため,将来の分収時期まで長期にわたり資金拘束を余儀なくされるとともに,上記リスクを回避する手段がない。 このように,分収育林価格を算定するに当たっては,その算定方式の複雑さ,買主への木材価格の下落リスクの転嫁という問題が本来的に包含されていたのであるから,被告には,変形グラーゼル式を採用したことによる契約の基本的な仕組み,すなわち分収育林価格としての立木評価額がいかに算定されているのかについて具体的に説 う問題が本来的に包含されていたのであるから,被告には,変形グラーゼル式を採用したことによる契約の基本的な仕組み,すなわち分収育林価格としての立木評価額がいかに算定されているのかについて具体的に説明すべき義務があった。 しかしながら,実際には,上記評価額の適正を判断する材料は,被告から買主たる一般国民に一切提供されず,原告らは,売買の対象がいかなる価値を有するものであるかについて,判断材料すら提供されなかった。 (イ) 木材価格下落リスクについての説明義務変形グラーゼル式は,数十年後に到来する伐採期の立木価格が,現在伐採期にある立木価格が同じであることを前提とするものであることから,将来的に木材価格が下落すれば,分収木の販売代金が原告らの払込額を下回る元本割れの危険があるものであった。 しかも,山元立木価格は,本件分収育林制度の発足5年前の昭和55年ころから下落傾向にあったから,制度創設当時,既に分収時に元本割れとなる具体的リスクが顕在化していたというべきところ,被告は,このような傾向を林業白書等により容易に把握できる立場にあった。 - 10 -さらに,平成5年当時には,より明らかに実態として木材価格が下落しており,被告もこれを明確に認識していた。 以上からすれば,被告には,買主たる一般国民との分収育林契約締結時,下落傾向にある木材市況の現実を説明する義務があったというべきであり,平成5年以降は,より積極的にかつ明確に元本割れのリスクの存在を説明すべき義務があった。 しかしながら,被告は,原告らに対し,木材価格の動向によって将来分収時に元本割れのリスクが生じることについて何ら説明をしていない。 (被告の主張)ア私的自治の原則からすれば, しかしながら,被告は,原告らに対し,木材価格の動向によって将来分収時に元本割れのリスクが生じることについて何ら説明をしていない。 (被告の主張)ア私的自治の原則からすれば,契約を締結するか否かを決断するために必要な情報収集は,各人が自己の責任において行うことが求められているから,契約の給付内容に含まれるリスクが通常の予想の範囲内である場合には,顧客の交渉相手方に説明義務が生ずる余地はなく,これが生じるのは,契約の給付内容に,顧客の立場からみて通常の予想を超えるリスクが内在していることが必要というべきである。 イそもそも本件分収育林制度は,専ら,国民が森林の整備充実に参加することを目的とするものであり,金融商品の取引とは異なり,営利性や投機的な目的を有するものではなく,一般的にみて契約当事者が木材価格の変動に着目して行う取引とはいえないから,その価格変動による投資リスクは,契約当事者本人が契約を締結するか否かの判断に当たっての重要な考慮要素になるとはいえない。 ウまた,分収育林契約の内容は,法律によって定められたものであり,一般人においても理解できる内容の契約であって,通常の予想を超えるリスクが内在しているものとはいえないものである。そして,分収育林契約の内容は,分かりやすい記載のあるパンフレットによって,原告らに- 11 -了知されており,その記載によれば,契約者に分配される収益(分収額)は,分収時における山元立木価格の相場に左右されるものであることが分かるものであり,木材価格の変動状況によっては,20年から30年後の将来に受け取るであろう分収額が払込額を下回る可能性があることも認識できたといえるものである。 さらに,山元立木価格は上下動を繰り返してきたのであり,本件分収育林 ,20年から30年後の将来に受け取るであろう分収額が払込額を下回る可能性があることも認識できたといえるものである。 さらに,山元立木価格は上下動を繰り返してきたのであり,本件分収育林制度創設後も,平成3年度以降の立木価格の下落傾向をもって,その後長期的に山元立木価格が下落する具体的,現実的な可能性があったとはいえない。 エしたがって,各契約の締結に当たり原告らに対して行われた被告の担当者の説明がパンフレットの記載程度にとどまるものであったからといって,被告の担当者に説明義務違反があったということはできない。 (2) 断定的判断の提供の有無(争点2-(2))(原告らの主張)被告は,立木価格の動向等について全く知識がない原告らと分収育林契約を締結するに際し,将来の分収額を想定するのに最も重要な山元立木価格の動向についてあえて情報を開示せず,価格の下落に伴うリスクについての説明もしないまま,下記のとおり,一方的に財産形成に資することを強調して契約に至らせており,「確実な利益が得られる取引」又は「少なくとも損はしない取引」との断定的判断の提供をした。 ア募集パンフレットの記載内容について被告は,原告らを勧誘するに当たって使用した林野庁作成のパンフレットや,各地の営林署作成のチラシに,下記内容を記載し,被告の「国」という信用を背景に,「緑のオーナー制度」について「確実な利益が得られる取引」,あるいは「少なくとも損はしない取引」であるかのような断定的な情報を与えた。 - 12 -Ⅰ あなたの財産を形成しながら,わが国の森林を守っていくシステムです。 Ⅱ 一足先の投資です。 Ⅲ 分収(収益分配)時の収益も税制上優遇されます。 Ⅰ あなたの財産を形成しながら,わが国の森林を守っていくシステムです。 Ⅱ 一足先の投資です。 Ⅲ 分収(収益分配)時の収益も税制上優遇されます。 Ⅳ 伐採時の収入は「50万円で100㎡の木造2階建住宅に使用する木材に相当する立木の売却収入が見込まれます(1口50万円の場合)。 Ⅴ お子様やお孫さんへ。長ぁ~ぃ緑の贈り物Ⅵ 長期契約の安全確実な資産としてⅦ 長期経済変動に強く,資産作りに最適です。 イ個別の営林署の説明また,個別の営林署においては,将来の配当見込みに関して,銀行預金程度の配当(昭和60年前後は金利5%以上)が見込まれると説明している場合もあった。 (被告の主張)アそもそも,分収育林契約の締結当時,分収育林契約については,断定的判断の提供を禁ずる行政取締法規は存在していなかったし,消費者契約法の適用を受けるものでもなかったから,各契約について断定的判断の提供を理由に不法行為責任を追及しようとする原告らの主張は,その前提において失当である。 イ募集パンフレット等の記載内容について仮に,断定的判断の提供が義務違反になり得るとしても,ある勧誘が断定的判断の提供に該当するか否かの判断については,勧誘文言のみにとらわれることなく,当該事案にかかわる一切の具体的事情,すなわち,顧客側の事情と勧誘側の行為態様その他一切の事情を総合考慮して,不法行為と評価し得るほどの社会的相当性の逸脱があった場合,より具体- 13 -的には当該契約を締結するか否かの的確な判断を妨げるほどに社会的相当性の逸脱があった場合に初めて断定的判断の提供に該当するものというべきである。 そして,分収育林制度は 合,より具体- 13 -的には当該契約を締結するか否かの的確な判断を妨げるほどに社会的相当性の逸脱があった場合に初めて断定的判断の提供に該当するものというべきである。 そして,分収育林制度は,国民が森林の整備充実に参加することを目的とするものであり,分収育林契約の内容は,パンフレット等を通じて周知されていたが,これらの中に各契約者に出資額を上回る金銭的な利益が確実に得られることを表示ないし示唆する記載はない。原告らが指摘するパンフレット等の記載や国の担当者の説明も,分収育林契約が「確実な利益が得られる取引」,「少なくとも損はしない取引」,又は「元本保証の取引」であると読まれたり,受け止められたりする内容のものではなく,原告らとの各分収育林契約締結当時,長期的に木材価格が下落する具体的,現実的危険性もなかったことからすると,社会的に許容される範囲内の勧誘行為であり,不法行為と評価し得るほどの社会的相当性の逸脱があったものとまではいえない。 ウ個別の営林署職員の説明について被告は,分収育林制度創設当初から,個々の被告の担当者が分収育林制度の趣旨や仕組みを正確に理解するとともに,その趣旨に沿って適切に契約の募集を行い,国民からの問合せに適切な説明をすることができるよう,関係通達を定め,分収育林制度に係るパンフレット,問合せをしてきた者に対する応答例を明記した国有林分収育林制度Q&A及び国有林分収育林契約の概要等を作成し,また,それらの資料を一元化した「国有林分収育林制度の解説」等を作成して,これらを国の担当者に交付し,その内容を周知徹底させていた。 被告の各担当者は,外部からの問合せ対応に当たって,これらの資料に沿って適切な説明をしていたのであり,原告らが主張するような,断定的判断の提供をした事実 ,その内容を周知徹底させていた。 被告の各担当者は,外部からの問合せ対応に当たって,これらの資料に沿って適切な説明をしていたのであり,原告らが主張するような,断定的判断の提供をした事実や虚偽の説明をした事実は到底認められない。 - 14 - 3 原告らの損害の発生時期(争点3)(原告らの主張)被告は,本来説明すべき事項について一切の説明をすることなく,原告らをして,元本割れのリスク等存在しない等の信頼をさせて払込額を出資させたものであり,違法不当な取引をさせている。すなわち,説明義務に違反した不当な取引においては,原告らには,合理的意思判断を行うに足りる情報が提供されておらず,選択の自由,意思決定の自由を奪い,契約を締結させたことが違法であり,このような意思決定の自由を奪われた上での出捐は,それ自体が損害である原告らの出捐があった後,分収木の販売代金の一部が原告らに支払われたとしても,それは被告の違法な取引により誘引された原告らの出捐後の損益相殺の問題になるにすぎない。 (被告の主張)(1) 原告らは,契約締結時に,払込額を負担する一方で,これに見合う財産的利益(分収木の共有持分,分収木の保育及び管理といった被告による分収育林契約の履行など)を得ているから,原告らに分収育林契約時点において払込額相当の損害が生じたということはできない。 (2) 原告らの損害は,実際に分収木が売却され,分収金額が持分の対価に相当する額を下回ることが確定した時点(国による持分の買受けにより買受金が支払われたものについては,買受金額が持分の対価に相当する額を下回ることが確定した時点)における差額相当額に限定される以上,本件各契約のうちいまだ分収木が売却されていないもの(別紙7「原告ら受取額一覧表 れたものについては,買受金額が持分の対価に相当する額を下回ることが確定した時点)における差額相当額に限定される以上,本件各契約のうちいまだ分収木が売却されていないもの(別紙7「原告ら受取額一覧表」の「名目」欄に「主伐による分収金」又は「国による持分買受金」の支払を受けた旨の記載のない者)については,契約の存続期間の前後を問わず,損害が発生しているとはいえない。 4 除斥期間の経過の有無(争点4)- 15 -(被告の主張)原告らの損害が契約締結時に拠出した出捐額(払込額)相当額であるとすると,遅くとも分収育林契約締結時が加害行為時として除斥期間の起算点となる。本件においては,除斥期間の適用による権利消滅を是認することが著しく正義・公平の理念に反する事情(原告らの権利行使が客観的に不可能な状況があり,かつ,それが被告の行為に起因するといった事情)はなく,法令上も,法定代理人の不存在による時効の停止等のような,除斥期間経過の効果を阻害する根拠となり得る規定は全く存しないから,契約締結時から本訴訟提起までに20年以上を経過した原告らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権は,除斥期間の経過により既に消滅している。 (原告らの主張)(1) 民法724条後段の規定は,除斥期間を定めたものではなく消滅時効を定めたものと解すべきであり,除斥期間であると判示した最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁は,変更されるべきである。 (2) 仮に除斥期間と解するとしても,以下の理由により,いずれの原告についても除斥期間は経過していない。 ア本件の事案において,被告の説明義務違反(不法行為)により原告らは,分収育林契約を締結した時点で自らの出 するとしても,以下の理由により,いずれの原告についても除斥期間は経過していない。 ア本件の事案において,被告の説明義務違反(不法行為)により原告らは,分収育林契約を締結した時点で自らの出捐を行い抽象的な損害が発生しているものの,具体的損害が発生(顕在化)したのは分収時あるいは本件被害が社会問題化した訴訟提起の直前であるから,これらの時点から除斥期間が進行すると解すべきである。分収育林契約の分収が開始されたのは,平成11年からであるから,いずれの原告についても除斥期間は経過していない。 イ仮に除斥期間の起算点を不法行為時である分収育林契約締結時と解する- 16 -としても,損害の公平な分担という不法行為制度の理念に反するような特段の事情,すなわち,権利不行使について,権利の上に眠る者との評価が妥当せず,義務の不履行が明白で時の経過による攻撃防御・採証上の困難がなく,権利の性質や加害者と被害者の関係などから,時の経過の一事によって権利を消滅させる公益性に乏しい場合には,除斥期間の適用制限を認めるべきである。本件では,原告らは弁護士から分収育林契約の問題点について説明を受け,損害賠償請求が可能であることを認識できた時までは,権利行使の期待可能性がなかったのであるから,除斥期間の適用は制限されるべきである。 5 消滅時効期間経過及びその援用の許否(1) 国家賠償法1条1項又は不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間経過及びその援用の許否(争点5-(1))(被告の主張)ア国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権については,遅くとも主伐期に実際に分収木が売却され,原告らが払込額を下回る分収金を受け取った時点(現実の受取日が特定できない場合でも,遅くとも分 損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権については,遅くとも主伐期に実際に分収木が売却され,原告らが払込額を下回る分収金を受け取った時点(現実の受取日が特定できない場合でも,遅くとも分収育林契約終了の通知文書上の記載から最も遅いと認められる分収金受取日には受け取ったと認められるべきである。)が消滅時効の起算点となる。原告らの上記請求権は,いずれも主伐期から本訴訟提起までに3年を経過しており,消滅時効期間が満了している。そして,本件においては,被告による消滅時効の援用につき,信義則違反や権利濫用を基礎付けるような事情は何ら存しない。 被告は,上記原告らの上記請求権について,消滅時効を援用する。 イまた,原告らは,被告において説明義務に反して説明を尽くさなかったという違法行為により,原告らが分収育林契約の締結を余儀なくされ,その結果,出捐額相当額の損害を被ったとの主張もしているところ,原- 17 -告ら各人に対する説明義務違反という不法行為により本件各契約が締結されて出資額が払い込まれた後,平成5年当時に分収育林制度に関して「元本を割る可能性がある。」,「元本保証がない」という報道がなされ,同年度後期以降の林野庁作成の募集用パンフレットには,「分収金については,分収時の樹木の販売代金に応じて決まりますが,20~30年後の樹木の販売代金がどの程度になるかを契約時点で見通すことは難しいため,具体的な金額でお示しすることができず,また,このような制度の趣旨から元本の保証がされているものではありません。」と記載されることとなったことから,原告らは,少なくとも平成6年頃(それ以後の契約については契約締結時)には,加害者及び損害を知ったとみるべきである。そうすると,原告ら全員について,遅くともこの時点から本訴訟提 ととなったことから,原告らは,少なくとも平成6年頃(それ以後の契約については契約締結時)には,加害者及び損害を知ったとみるべきである。そうすると,原告ら全員について,遅くともこの時点から本訴訟提起までに3年を経過しているから,被告は,原告らの上記主張を前提とする国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権ないし不法行為に基づく損害賠償請求権について,仮定的抗弁として,原告ら全員について,消滅時効を援用する。 (原告らの主張)ア分収期が到来した原告らは,契約後も被告から同制度が抱える問題点について何ら説明を受けておらず,原告ら代理人らによる被害弁護団が結成され,分収育林制度の問題点について説明を受けるに至って,ようやく自らの損害が被告の不法行為によるものと認識するに至ったのであって,消滅時効の起算点は,原告らが弁護士から分収育林制度の問題点について説明を受けた時である。 イ仮に,分収金を受け取った時点が消滅時効の起算点になるとしても,被告が設計した本件分収育林制度は,国有林野事業の赤字を軽減することに目的があった上,被告は,元本割れのリスクについて原告らに説明することなく,逆に,安心確実な利殖手段であるかのような宣伝をしてい- 18 -たのであって,このような被告を保護すべき必要性は存在せず,被告が設計した制度の欠陥ないし分収育林契約時の説明義務違反によって生じた原告らの損害について,被告の責任を免れさせ,原告らにその負担を強いることはあまりにも不当であるから,被告が消滅時効を援用することは,信義則に反し,許されない。 (2) 債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間経過の有無(争点5-(2))(被告の主張)債務不履行に基づく損害賠償請求の消滅時効の起算点は,分収育林契約締結時 。 (2) 債務不履行に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間経過の有無(争点5-(2))(被告の主張)債務不履行に基づく損害賠償請求の消滅時効の起算点は,分収育林契約締結時であるところ,原告らの本件請求に係る分収育林契約の全てについて,その締結時から10年以上を経過した後に本件訴えが提起されている。被告は,消滅時効を援用する。 (原告らの主張)上記被告の主張は争う。 6 過失相殺及び損益相殺の可否(争点6)(被告の主張)(1) 原告らは,各分収育林契約締結に当たり,パンフレットや契約書等の内容を確認することによって,分収金が分収林の売却価額によって賄われることなどの分収育林制度の仕組みを認識することができ,各契約を締結するか否かについて熟慮する機会があったのであり,他方,本件各契約締結当時,原告らの中に年齢等により知識や能力が減退していた者は見当たらないから,相当割合で過失相殺がされるべきである。 (2) 仮に損害が契約締結時に拠出した出捐額(払込額)相当額であるとしても,被告は,原告らに対し,第1審の口頭弁論終結時までに,別紙7「原告ら受取額一覧表」の「受取日」欄記載の年月日に「受取額」欄に記載のとおりの分収金等を既に支払っているから,これらについては損害の塡補がさ- 19 -れている。 (原告らの主張)争う。 第4 争点に対する判断 1 認定事実前提事実及び当事者間に争いのない事実に加え,後掲の各証拠(なお,書証の枝番を全て掲記する場合には,その記載を省略する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 木材価格の動向等ア昭和45年から平成20年にかけてのスギ,ヒノキ及びマツの山元立木価格と消費者物価指数は を省略する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 木材価格の動向等ア昭和45年から平成20年にかけてのスギ,ヒノキ及びマツの山元立木価格と消費者物価指数は,昭和45年におけるものを100とした場合,別紙10のとおり変動した。また,同期間における山元立木価格と労務単価は,別紙11のとおり変動した。 イ木材需要は,高度経済成長の鈍化,昭和40年代後半に既に需要が高水準に達したこと,建築の非木造化,代替材の進出等を要因として,昭和48年を境に,減少基調に変化した。その結果,木材価格も,木材需要の減少,外材輸入の増大及び間伐材の増大を要因として,昭和43年まで上昇傾向が続き,それ以降は実質的に横ばいであったものが,昭和55年以降は実質下落傾向に転じた。 そして,立木価格は,丸太価格が実質的に横ばいの中で,素材生産コストが実質的に上昇し,特に素材生産労賃が著しく上昇した結果,スギ,ヒノキ及びマツの立木価格は,昭和40年から昭和55年までは,短期的には若干の変動を伴いながらも傾向的には一応名目的に上昇を続けてきたが,実質価格は,昭和43~44年を境に下落傾向に転じ,昭和55年以降については,実質的にも名目的にも下落が激しい状況にあった(甲26)。 - 20 -これ以降は,昭和62年から平成2年にかけて若干上昇したものの,以降は下落を続けている。 ウ木材価格の動向に関する被告の見通し(ア) 林野庁は,毎年,林業白書(乙6)や林業統計要覧(乙7)において,山元立木価格を公表していた。 (イ) 被告は,昭和41年4月,昭和48年2月及び昭和55年5月に,林業基本法10条に基づき林産物の需給の長期見通しを公表した(甲27)。 木材の需要量は, 公表していた。 (イ) 被告は,昭和41年4月,昭和48年2月及び昭和55年5月に,林業基本法10条に基づき林産物の需給の長期見通しを公表した(甲27)。 木材の需要量は,昭和41年に公表された見通しが昭和48年の見通しで上方修正されたが,他方で,木材の供給量のうち国産材供給量は,昭和41年の見通しでは将来顕著な増大傾向をたどるとみていたものが,昭和48年の見通しでは供給増加を大きく下方修正され,外材供給量については,逆に実績が著しく大きかったため,同見通しでは上方修正された。 このように,昭和48年の見通しでは,木材需要量も供給量も増大するとみていたが,その後も実績は減少傾向を示したため,昭和55年の見通しでは,将来の木材需給量を下方修正し,特に需要量の下方修正の方が大幅であった。 (ウ) 被告は,昭和55年の見通しにおいて,木材需要量を,以下のとおり予測した。 Ⅰ 木材需要は,石油危機以降の経済の減速安定成長が今後も長期にわたって続くとみられることから,大幅に増大することは見込まれず,非木質系材料との競合もあって,需要構造も変化していくものと考えられる。 Ⅱ 戦後植栽された人工林が徐々に伐期に達してくることから,木材生産量は漸増していくとみられる。 - 21 -Ⅲ 木材の総供給量の68%を占めるに至っている木材輸入は,当面現状程度の輸入量で推移するものと見込まれるが,近い将来は流動的となり,外材供給量が減少に転ずることも考えられる。 また,被告は,昭和55年の見通しにおいて,住宅建築の大幅な減少による木材需要の減少や木材価格の低迷などから,林業生産活動が停滞する等厳しい状況にあるとし,森林資源に関する基本計画を改定した。 また,被告は,昭和55年の見通しにおいて,住宅建築の大幅な減少による木材需要の減少や木材価格の低迷などから,林業生産活動が停滞する等厳しい状況にあるとし,森林資源に関する基本計画を改定した。 (2) 本件分収育林制度創設の経緯等ア上記制度導入の趣旨上記制度は,昭和50年代に,発展途上国を中心に地球的規模における森林資源の減少がみられるようになったところ,国内では,都市化の進展等により森林環境が減少することに対応して,国民の間で森林資源を確保しようという関心,要請が高まる一方,林業の経営という面からみても,我が国の森林資源は,経営の主体となる人工林は昭和30年代からの造林によるものが多く,民有林,国有林共に若齢林が全体の8割強を占める状況にあり,当面,その収入が見込めないばかりか,健全な森林を育成するための間伐・保育等を必要とする時期に達しており,早急な森林整備が必要であったことを背景に,林業への外部資金の導入,特に広く国民一般から資金を募り,その参加の下に間伐・保育等の森林の育成を行う林業経営の方式について検討がされ,その結果,育成途上の人工林について,都市住民を中心とする多数の者と樹木を共有し,育林費用を負担してもらい,伐採収益を分け合う制度として導入されたものである。 イ国有林野法の一部を改正する法律案の審議状況昭和59年4月24日開催の参議院農林水産委員会における法案審議の際,A林野庁長官は,本件分収育林制度の意義として,都市部に住む国民に国有林の経営に参加してもらうことにあるとし,同制度に参加する意欲- 22 -のある国民の関心は,国土の緑化に参加することのほか,子どもや孫に資産として残してやることにある旨答弁した。 また,費用負担者となった国民は当然に収益を期待するものであるところ, - 22 -のある国民の関心は,国土の緑化に参加することのほか,子どもや孫に資産として残してやることにある旨答弁した。 また,費用負担者となった国民は当然に収益を期待するものであるところ,その収益をどの程度見込んでいるのかという質問に対し,B林野庁次長は,材木価格の動向によって最終的な利回りが変わることについては募集時に説明が必要である旨答弁した。 更に,木材価格の将来動向に関する質問に対し,上記A長官は,本件分収育林事業の収益性についても,木材価格の変動等の見通しが難しいものの,地球的規模における森林資源の減少の見通しから,ある程度の木材価格の上昇が期待できる旨答弁し,木材価格下落を想定した答弁はしなかった(甲9)。 (3) 本件分収育林事業における対象森林の評価等についてア変形グラーゼル式の採用被告は,分収育林契約の募集がなされた当時,相続税及び贈与税の課税標準の時価評価(相続税法22条)に当たって立木の価額を評価する方法として変形グラーゼル式を採用しており(財産評価基本通達115項(2)ハ。乙44の2),森林国営保険に係る立木の評価基準(昭和54年農林水産省告示第165号)2(1)(乙45),保安林整備臨時措置法に基づく国による保安林の買入れ等に係る立木の評価基準(同法施行令5条2号,附録第2。乙46)等にも用いていた。 イ変形グラーゼル式により得られた評価額の特徴等(乙2,甲6)(ア) 変形グラーゼル式は,グラーゼル式に実用的見地から補正を加えたもので,理論的な根拠はないとされているが,不確定な林業利率による影響が小さく,経済的理論に基づく評価式に近似した評価額が得られることなどの利点がある。 (イ) 変形グラーゼル式によると,地利の悪い奥地などでAu(主伐 されているが,不確定な林業利率による影響が小さく,経済的理論に基づく評価式に近似した評価額が得られることなどの利点がある。 (イ) 変形グラーゼル式によると,地利の悪い奥地などでAu(主伐時におけ- 23 -る立木の評価額)がC 10(植栽以後10年間の造林費を評価時現在の時価に換算した額の後価合計額)を下回るような材木に対しても,C 10が最低価格となり得る。被告における「分収育林価格算定要領」(乙19の1)においても, C 10がAuを上回る場合は,C 10の算定額をもってAi(評価時点の立木評価額)とする旨の記載がある。 もっとも,被告においては,分収育林価格を算定した場合には,その森林が分収育林契約の対象森林としてふさわしいものであるか検証することとされていた。すなわち,分収育林は,都市住民の分収育林への参加が全く経済性を無視して行われるものではなく,また,分収育林の育林利回りに関心が寄せられていたことから,公募対象森林を決定するに当たっては,分収育林価格に分収育林契約存続期間中の保険料又は共済掛金を加えたものが,分収時における立木の評価額Au を下回るものでなければならないとしていた。 (ウ) 昭和58年頃にされた被告による試算によると,評価時点において推計した主伐時における立木の評価額(Au)は,542万7000円から712万2000円(費用負担者らの持分2分の1に相当する額は271万3500円から356万1000円)に分布し,費用負担者が支払うべき額(分収育林価格に森林保険料等を加えたもの)は154万5000円から182万4000円に分布しており(乙26の1~4),主伐時の立木の販売額(分収金額)が上記Au の5~6割程度となると,費用負担者らの払込額が分収金額を下回り,元本割れする危険があった 00円から182万4000円に分布しており(乙26の1~4),主伐時の立木の販売額(分収金額)が上記Au の5~6割程度となると,費用負担者らの払込額が分収金額を下回り,元本割れする危険があった。 ウ分収育林価格の内訳の非公表について(甲6)被告は,分収育林制度を運営するに際し,分収育林価格の取扱いについては,会計法上,その費用負担額の内訳(係数を含む。)を公にすることは妥当でないとし,分収育林価格の内訳を公表せずに費用負担者を募集した。 (4) 被告による分収育林契約の申込みの勧誘- 24 -ア解説書の作成,配布林野庁は,本件分収育林制度の創設及び導入に際して,国有林分収育林ワーキンググループを設置し,分収育林契約における契約者の法的地位,契約条項,並びに対象森林の選定方法及び評価方法等,分収育林制度の骨子を検討し,国有林野法の一部を改正する法律案及び関係通達等の検討を行った。 そして,林野庁は,この検討結果を踏まえて,既に民有林で導入されていた分収育林事業を国有林に導入することに伴う問題点,改善点及び現場職員が有する疑問等に対する対応策を現場の職員に周知徹底させるため,一般職員向けに,下記(ア)のQ&A及び下記(イ)の担当職員向けガイドペーパーを作成し,関係通達とともに,各営林局及び営林署に配布し,周知させた(甲11)。また,契約申込者等に対する本件分収育林制度の説明に用いるため,パンフレット(甲12,13,乙3,4)も作成し,各営林局及び営林署に配布した。 さらに,林野庁(国有林分収育林制度研究会)は,本件分収育林制度開始後の昭和61年3月,個別の担当者において本件分収育林制度の実務に当たり,その制度の趣旨や仕組みを正確に理解し,適切な募集活動や国民への対応を行う 国有林分収育林制度研究会)は,本件分収育林制度開始後の昭和61年3月,個別の担当者において本件分収育林制度の実務に当たり,その制度の趣旨や仕組みを正確に理解し,適切な募集活動や国民への対応を行うための手引書として,本件分収育林制度に関する通達,Q&A及びガイドペーパー等を一元化した「国有林分収育林制度の解説」(以下「解説書」という。甲6)を作成し,各営林局及び営林署に備え付けるとともに,解説書の内容について理解を深めるよう,周知させていた(乙56,57)。 (ア) Q&Aの内容分収育林契約の申込みの勧誘業務を取り扱う被告職員のための想定問答集であるQ&Aには,「Q-28 1口50万円は,分収時にはどのくらいになりますか。」との質問に対して,まず,「20年~30- 25 -年後の木材価格を現段階で見通すことは困難ですので,いくらと言い切ることは不可能です」と回答した上で,「スギを例にとるとおおむね100㎡(30坪)の木造住宅に使われる木材を生産する立木価格に相当する収益を上げられると思います。」と回答するよう記載されている(甲6・394頁)。 現に,営林局又は営林署では,将来の分収金額について問い合わせがあった場合には,木材価格の変動などの要因から予測できないことや,仮に木材価格が評価時と同一であり,かつ,推定通りに分収林が成長すれば,1年当たりの利回りが約2%になる旨回答したことがあった(乙59,60)。 (イ) ガイドペーパーの内容分収育林契約申込みの勧誘担当者向けの簡易な説明資料であるガイドペーパーには,本件分収育林制度のあらましとして,「育成途上の森林を対象に森林所有者と費用負担者が契約を結び,費用負担者が共有持分の対価及び育林費用の一部を負担して共有持分を取得 明資料であるガイドペーパーには,本件分収育林制度のあらましとして,「育成途上の森林を対象に森林所有者と費用負担者が契約を結び,費用負担者が共有持分の対価及び育林費用の一部を負担して共有持分を取得し,当該林分を伐採する時点で契約に基づき持分の割合で販売収益を分収する制度です。」と記載された上,「分収育林の経済性について」との項目において,「分収育林の場合をも含め,造林の利回り試算については,契約期間が極めて長期間にわたるため労賃,諸物価,木材価格の変動を確実に見通し難いこと,対象となる土地の立地条件,植栽樹種,保育等の時期及び内容いかん等によって大きく影響されること等から,その結果はかなり幅のあるものと考えられ,一概にはいい難い。」,「なお,物量的に将来を見通せば,例えば関東地方の25年生のスギ,地位Ⅱ等地では,上表(25年生時点で面積が約0.15ha 相当,本数が約230本,材積が約20㎥であるものが,50年生時点では,同面積において本数約120本で材積が約50㎥となり,これは丸太- 26 -材積約40㎥に相当し,100㎡(30坪)程度の木造2階建の住宅の資材を賄うことができる旨記載された表)のとおりになる。」と記載され,利回りについては,「現時点の木材価格を前提に,あえて試算すれば,地域,樹種,木材価格等によって差はあるが,スギ・ヒノキの人工林について一般的には2~3%程度になるものと見込まれる。」と記載されている(甲6,11)。 イ被告による分収育林契約の申込みの勧誘方法(ア) 被告は,本件分収育林事業を開始した昭和59年から平成11年に募集を停止するまでの間,国民に対して,新聞,雑誌及び広報誌等による本件分収育林事業の広報を行うとともに,各地の営林署において,説明会や対象森林の現地案内を実施し,下記 た昭和59年から平成11年に募集を停止するまでの間,国民に対して,新聞,雑誌及び広報誌等による本件分収育林事業の広報を行うとともに,各地の営林署において,説明会や対象森林の現地案内を実施し,下記(ウ)のチラシを配布するなどして,分収育林契約の申込みの勧誘を行った。 また,被告は,契約申込者等への説明資料として下記(イ)の内容を記載したパンフレットを作成し,電話勧誘などを通じて分収育林契約について興味を示した者に対し,パンフレット及び契約申込書を送付した(乙56,61~64)。 (イ) パンフレットの記載内容林野庁が作成したパンフレットには,おおむね以下の内容が記載されている(甲12,13,甲D47,116の3,乙3~5)。 a 分収育林制度の概要について「森林浴を心ゆくまで楽しみたい,お子さまやお孫さんに資産として残したい,など幅広いご要望にも同時にお応えできる制度です。」b 分収育林制度の仕組みについて「参加される皆さまと国有林の間で,育成途上のスギ,ヒノキ等の人工林(おおよそ植えてから21~30年の森林)について,成林し伐採するまでの間(20~30年程度),共同で育てる契約を結- 27 -びます。契約の主な内容は,次のようになっています。 参加される皆さまはⅠ 1口当たり50万円(森林保険料を含みます)を負担していただき,契約の対象となる森林の立木の共有者となり,持分を取得します。 Ⅱ 契約で定めた時期に,立木を販売して,その収益の分配を受けます。 Ⅲ 万一の災害に備えて,森林保険に加入していただきます。 国有林は,Ⅰ 契約書に定めた計画 た時期に,立木を販売して,その収益の分配を受けます。 Ⅲ 万一の災害に備えて,森林保険に加入していただきます。 国有林は,Ⅰ 契約書に定めた計画にしたがって,必要な手入れを行い,森林を良好に管理します。 Ⅱ 森林の生育状況を参加いただいた皆さまに定期的にご報告します。 Ⅲ 契約した森林の台帳をととのえ,ご要望に応じていつでも閲覧していただきます。」c 伐採時の収入について(a) 「契約期間が20~30年と非常に長いことから,将来の収入を現時点で正確に申し上げることはできませんが,例えば,スギの場合ですと,おおむね100㎡の木造2階建住宅に使用される木材に相当する立木を販売して得られる収入が見込まれます。(1口50万円の場合)」「契約いただく時には若い森林ですが,20~30年後には立派に成長して,例えばスギでは,1口でおおむね100㎡の木造2階建の住宅に使われる木材に相当する収益を受け取っていただけるものと思います。将来が楽しみな”緑の資産”といえましょう。」「例えば関東地方のスギ林の場合ですと,契約時の1口当たりの面積は,1000㎡~1500㎡,樹- 28 -木の本数では200~250本程度となります。」(b) 「分収(収益の分配)時に受け取る収益は,税法上,山林所得として取り扱われ優遇されています。」(c) なお,被告が平成5年後期以降の募集に用いたパンフレットには,「分収金については,分収時の樹木の販売代金に応じて決まりますが,20~30年後の樹木の販売代金がどの程度になるかを契約時点で見通すことは難しいため,具体的な金額をお示しすることはできず,また,このような制度の趣旨から元 時の樹木の販売代金に応じて決まりますが,20~30年後の樹木の販売代金がどの程度になるかを契約時点で見通すことは難しいため,具体的な金額をお示しすることはできず,また,このような制度の趣旨から元本の保証がされているものではありません。」と記載されている(甲D116の3,乙5)。 (ウ) 営林局又は営林署が作成したチラシの記載内容各営林局又は営林署が作成したチラシの中には,下記内容が記載されているものもあった。 a C営林署(甲14の1)「お子様やお孫さんへ。長ぁ~ぃ緑の贈り物。」「1口50万円で木の家1戸分の木材を育てる夢があります」(なお,昭和60年度の募集に用いられたチラシである。)b D営林局(甲14の3)「ひと足先の投資です。1口50万円」「あなたの財産を形成しながら,わが国の森林を守っていくシステムです。」(なお,昭和63年度の募集に用いられたチラシである。)c E営林署(甲14の2)「長期契約の安全確実な資産としてお子さん,お孫さんへのプレゼントに!!」(なお,平成2年度の募集に用いられたチラシである。)- 29 -d F営林署(甲14の4)「長期経済変動に強く,資産づくりに最適です。」(なお,昭和62年度の募集に用いられたチラシである。)(エ) 分収育林契約の締結分収育林契約締結の申込みをする者は,被告に対して契約申込書を提出することにより,申込みを行う。 被告は,申込みをした者の中から,抽選により契約締結の内定者を選定した上,その内定者に対し,契約条件や契約手続等の詳細を明らかにした分収育林契約書及び契約締 ことにより,申込みを行う。 被告は,申込みをした者の中から,抽選により契約締結の内定者を選定した上,その内定者に対し,契約条件や契約手続等の詳細を明らかにした分収育林契約書及び契約締結の意思確認をするための郵便はがきを送付し,同郵便はがきを管轄営林局に返送させることで,分収育林契約を締結した。なお,被告がその際に送付した資料には,分収育林契約書の内容を確認するよう明記されていた(甲6,乙8,9)。 (5) 分収育林の落札状況ア平成11年度以降,各地で満期(主伐期)を迎えた分収育林契約の対象山林が順次公売されるようになったところ,平成11年度から平成20年度末までに契約が満期を迎えた約1000か所のうち,767か所で対象樹木が販売されたが,そのうち,1口当たりの分収額が1口当たりの払込額である50万円を上回ったのは35か所であり,その余は分収額が払込額を下回ることとなった。 イ被告は,その後,分収育林契約の契約期間の延長には対象林の契約者全員の同意が必要であったところ,これに同意しない契約者が国による持分買取りに同意した場合に,契約期間の延長が可能となる制度を導入し,販売予定箇所の契約者に対し,契約期間の延長や持分の買取りについて,意向確認を行った。 2 争点1(本件分収育林事業の公権力性)について国家賠償法1条所定の「公権力の行使」とは,国又は公共団体の行為のうち,- 30 -純粋な私経済的作用と同法2条所定の「公の営造物の設置又は管理」を除くその他の全ての作用を包含するものと解すべきである。 前記前提事実(1)及び(2)によれば,本件分収育林事業が,被告と個々の国民との間で分収育林契約が締結されることによって成り立ち,法的性質として売買,準委任及び賃貸借の要素を含むもので る。 前記前提事実(1)及び(2)によれば,本件分収育林事業が,被告と個々の国民との間で分収育林契約が締結されることによって成り立ち,法的性質として売買,準委任及び賃貸借の要素を含むものであり,私経済的作用としての側面があることは認められる。他方で,本件分収育林事業は,広く国民各層から森林造成への参加促進を図ることを目的とし(甲6),国土の緑化という公益的側面が重視されていることも考慮すると(甲9),国有林の管理経営という行政作用の一環としてされたものであることは明らかである。 したがって,本件分収育林事業は,純粋な私経済作用であると解することはできず,公権力の行使に該当する。 3 争点2-(1)(説明義務違反の有無)について(1) 説明義務の根拠及び内容についてア前記前提事実(2)のとおり,本件分収育林制度は,原告ら参加者が持分に対応する分収育林価格を支払う一方で,分収金を受け取ることができるものであるところ,その分収金額は,分収時における木材価格の動向によって変動し,木材価格の動向次第では,分収金の総額が払込額を下回る事態が生じ得る側面を有している。このようなリスクを判断するための基礎となるのは,木材の成長度合い(材積の増大)や立木の販売価格の動向であるところ,後者について,原告らは,林野庁が公表した林業白書等を調査すれば認識することができた。しかし,その多くは林業に縁がなく,材積の増大や立木の販売価格の動向等の知識を持たない都市部住民であり,被告もそのような都市部住民が費用負担者となることを期待していた。 また,資産形成に役立つ旨の被告の広告内容や,投資の側面に関する管理経営法の立法過程における議論状況に照らせば,本件分収育林制度に- 31 -営利的かつ投資的な性質があることも いた。 また,資産形成に役立つ旨の被告の広告内容や,投資の側面に関する管理経営法の立法過程における議論状況に照らせば,本件分収育林制度に- 31 -営利的かつ投資的な性質があることも否定し難く,かつ,被告がこれを認識していたことも明らかである。 イ上記アのような本件分収育林制度の性質に鑑みると,材積の増大,木材価格の動向及びそれに伴う分収金額の変動については,一般にこれらについて格別の専門的知識を有しない費用負担者らと,林野行政を担う被告の間に情報格差があり,費用負担者らは,そのような被告を信頼して分収育林契約を締結するのであるから,被告は,分収育林契約の申込みの勧誘を行うに当たり,分収育林契約の内容等について,分収金の総額が払込額を下回ることはないとの誤解が生じ得るような場合には,このような誤解に基づいて契約を締結させることのないよう,費用負担者らに理解させるために必要な方法及び程度により説明すべき信義則上の義務を負い,この義務に違反した場合には,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を負うと解すべきである。もっとも,収益を度外視して森林造成に参加する目的で分収育林契約を締結しようとする者に対して,被告が上記義務を負うと解することはできない。 なお,原告らは,被告が,元本割れの危険性のみならず,持分価格の算定過程についても説明義務を負う旨主張するが,本件分収育林制度は,将来の分収時において,立木が予想どおり成長しているか,立木価格の変動予測が当たるか等によって結果の有利不利が左右されるものであるところ,その基本的な構造ないし原理自体は単純であり,分収金の総額が払込額を下回ることもあり得ることを理解している費用負担者らにとっては,持分価格の算定過程が妥当であるか否かというような事柄は,その自己責 その基本的な構造ないし原理自体は単純であり,分収金の総額が払込額を下回ることもあり得ることを理解している費用負担者らにとっては,持分価格の算定過程が妥当であるか否かというような事柄は,その自己責任に属すべきものであるから,被告が,この点に関して説明する義務も負うと解することはできない。 (2) 被告による説明義務違反の有無について前記1(4)イのとおり,被告は,分収育林契約の申込みの勧誘を行うに当- 32 -たり,主に林野庁作成のパンフレットや各営林局又は営林署作成のチラシを配布することにより分収育林契約の申込みの勧誘を行い,電話で勧誘する際にも,パンフレット等を読むように指示していたのである。 そして,前記1(4)イ(イ) c(c) のとおり,平成5年後期以降のパンフレットには,元本を保証しない旨明記されていたのであるから,勧誘においてその旨の記載のないパンフレットが使用されていた同年前期までと,その旨の記載のあるパンフレットが使用されていた同年後期以降に分けて検討する。 (3) 平成5年前期以前の契約者に対する説明義務違反についてア前記1(4)イ(イ) c のとおり,林野庁作成のパンフレットには,出資1口当たりの分収育林が,木造2階建住宅1軒に使用される量に相当する木材に成長する旨の記載,又は面積が1000㎡~1500㎡,樹木の本数が200~250本程度のスギ林となる旨の記載があるところ,契約期間が非常に長く,将来の収入を契約時点で予想することはできない旨の記載はあるものの,その具体的価格や変動が生じ得ることについて何ら記載がない。かえって,立木価格の形成要因や動向を知らない者にとっては,自身が有する住宅建築に要する費用に関する知識と照らし合わせることで,住宅の建築に当たり主たる材料と が生じ得ることについて何ら記載がない。かえって,立木価格の形成要因や動向を知らない者にとっては,自身が有する住宅建築に要する費用に関する知識と照らし合わせることで,住宅の建築に当たり主たる材料となる木材の価格が,分収育林契約の1口当たりの出資額である50万円を優に超えるのではないかとの誤解を有するに至り,又はスギ林の面積及び樹木の本数の記載から,相応の収益を上げられるものと誤解することも十分に考えられるものである。 また,前記1(4)イ(ウ)のとおり,各地の営林局又は営林署が作成したチラシにおいても,安全確実で資産作りに最適である旨の記載があり,この点でも,少なくとも,分収金の総額が払込額を下回らないとの誤解を生じさせ得る記載であったと認められる。 - 33 -イこの点に関し,被告は,木材価格の変動によって分収金の総額が払込額を下回る可能性があることは容易に認識することができたと主張するが,木材価格の動向については国民が容易に知り得る情報ではなく,住宅1軒分の木材がどのくらいの価格か,又は面積1000㎡~1500㎡,200~250本程度のスギの木材としての価格がいくらであるかについても把握し難いことからすれば,元本割れのリスクについて,この時期に分収育林契約を締結しようとする者にとって容易に認識することができたとはいい難い。 ウしたがって,平成5年前期までの募集に関し使用されたパンフレットの記載は,分収林が成長により肥大化することを強調する余り,分収金の総額が払込額を下回ることはないとの誤解を生じさせ得るものであったということができる。このようなパンフレットを使用して分収育林契約の申込みの勧誘を行った被告としては,費用負担者において分収金の総額が払込額を下回る可能性を認識し得る特段の事情がない限り のであったということができる。このようなパンフレットを使用して分収育林契約の申込みの勧誘を行った被告としては,費用負担者において分収金の総額が払込額を下回る可能性を認識し得る特段の事情がない限り,上記誤解に基づいて契約を締結することがないように,必要な方法及び程度により説明すべき信義則上の義務を負い,上記誤解に陥らないように又は上記誤解を取り除くように適切な措置を講じなければ説明義務を十分に果たしていなかったといわざるを得ず,このような場合には,説明義務違反があったというべきである。 エ証拠(甲C3,5~8,11~13,20,22,23,26,34,39,45,53,58,63,72の1・2,76,77,80,87,100,105,113,114,117,119,120,123,129,131,146,151,158,165,167,168,173,181,188,190,192,194,195,203,213,232,235,238,240,242,証人G,原告41本人,原告13本人)及び弁論の全趣旨によれば,平成5年前期以- 34 -前に締結された別紙8「判決理由一覧表」の「判決理由」・「過失相殺」欄に「3割」の記載がある分収育林契約に関して,その締結をした者は,木材価格の動向等について格別の専門的知識を有することはなく,分収金の総額が払込額を下回る可能性があることを認識し得る特段の事情がないにもかかわらず,上記パンフレットの記載又はこれと同趣旨の勧誘を受けて,上記可能性があることを認識しないまま契約を締結したものであり,被告の担当者から,上記誤解に陥らないように,又は上記誤解を取り除くように説明を受ければ,契約を締結することはなかったにもかかわらず,そのような説明を受けることはなかったことが認められる。 し ,被告の担当者から,上記誤解に陥らないように,又は上記誤解を取り除くように説明を受ければ,契約を締結することはなかったにもかかわらず,そのような説明を受けることはなかったことが認められる。 したがって,被告には,少なくとも,平成5年前期以前に締結された上記各分収育林契約に関し,木材価格の動向によっては分収金総額が払込額を下回る可能性があることについての説明義務違反があったということができる。(なお,この時期に締結された契約のうち別紙8「判決理由一覧表」の「判決理由」・「除斥期間」欄又は「消滅時効」欄に「×」の記載があるものについては,除斥期間の経過又は消滅時効の完成により,被告が国家賠償法1条1項に基づく責任を負わないことは,後記6のとおりである。)(4) 平成5年後期以降の契約者に対する説明義務違反の有無について平成5年後期以降の分収育林契約において使用されたパンフレットには,元本の保証がされているものではないことが明記されているから,これを受け取った者は,木材価格の変動により将来の分収金の総額が払込額を下回る可能性があることを通常は認識することができたということができる。 したがって,当該パンフレットを受け取ることにより分収育林契約の申込みの勧誘を受けた者は,住宅1軒分の木材の価格が払込額の1口分である50万円を下回る可能性について認識することができたというべきであり,平成5年後期以降に分収育林契約を締結した者については,そのような認- 35 -識を有し得なかった特段の事情がない限り,被告に説明義務違反があったということはできない。 そこで,以下,平成5年後期以降に分収育林契約を締結した原告ら(本件においては,平成5年7月の契約がなく,すべて同年8月以降の契約である。)を,Ⅰ同年前期以前 ったということはできない。 そこで,以下,平成5年後期以降に分収育林契約を締結した原告ら(本件においては,平成5年7月の契約がなく,すべて同年8月以降の契約である。)を,Ⅰ同年前期以前に分収育林契約を締結し,かつ,同年後期以降に追加で分収育林契約を締結した者(以下「追加契約者」という。),Ⅱ同年後期以降に初めて分収育林契約を締結した者(以下「新規契約者」という。),Ⅲ同年後期以降に分収育林の持分を譲り受けた者(以下「持分譲受人」という。)に分け,それぞれ説明義務違反の有無について検討する。 ア追加契約者について(ア) 後掲の各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 a 原告39は,平成4年9月16日,子である原告35及び原告37の法定代理人として該当する原告名義で1口ずつ分収育林契約を締結した。その後,原告39は,平成5年12月21日,妻の原告38と共に,分収育林契約を締結した。(甲A35~39,甲C39)b 原告41及び原告40は,昭和60年8月頃,新聞等で本件分収育林制度について知り,H営林局からパンフレットなどの資料の送付を受け,原告40については枝番1及び2,原告41については枝番1の分収育林契約を締結した。その後,原告41及び原告40は,平成7年に,被告から送付された本件分収育林事業の案内を見て,原告41については枝番2,原告40については枝番3の分収育林契約を締結した。(甲A40の1,2,甲A41の2,甲C41の1,原告41本人)c Iは,自己名義で,又は子である原告52,原告53若しくは原告55の代理人として該当する原告名義で,平成4年12月までの間- 36 -に,原告52については枝番1ないし50,原告53については枝番1 ,自己名義で,又は子である原告52,原告53若しくは原告55の代理人として該当する原告名義で,平成4年12月までの間- 36 -に,原告52については枝番1ないし50,原告53については枝番1ないし16,原告55については枝番1ないし41(ただし,枝番15及び22を除く。)の分収育林契約を締結した。その後,Jは,平成5年8月以降,原告52については枝番51ないし64,原告53については枝番17,原告55については枝番42及び43の分収育林契約を締結した。(甲A52,53,55,甲C53)d Jは,平成4年9月(それぞれ枝番1について)及び平成8年12月(それぞれ枝番2について)に,それぞれ,子である原告146及び原告147の代理人として該当する原告名義で分収育林契約を締結した(甲A146,147,甲C146)。 e Kは,昭和60年9月25日,自己名義で,又は妻の原告183の代理人として同人名義で1口ずつ分収育林契約(枝番1,2)を締結し,平成7年8月31日,さらに原告183の代理人として同人名義で2口分の分収育林契約(枝番3,4)を締結した。その後,原告183は,平成20年2月15日,K名義で締結した1口分の分収育林契約の契約者を原告183名義へ変更した。(甲A183,甲C183)f 原告203は,昭和62年12月16日から平成4年9月22日にかけて,枝番1ないし5の分収育林契約を締結し,さらに,平成9年11月26日,枝番6の分収育林契約を締結した(甲A203,甲C203)。 g Lは,平成4年3月19日,子である原告236の代理人として同人名義で分収育林契約を締結した。また,Lは,平成6年12月21日,子である原告235の代理人として同人名義で分収育林契約を締結した g Lは,平成4年3月19日,子である原告236の代理人として同人名義で分収育林契約を締結した。また,Lは,平成6年12月21日,子である原告235の代理人として同人名義で分収育林契約を締結した(甲A235,236,甲C235)。 (イ) 以上の追加契約者が,平成5年6月末日までに締結した分収育林契約- 37 -に関して,被告に説明義務違反が認められることは,前記(3)のとおりである。そして,追加契約者において,同年8月以降の契約締結に当たり,元本割れのおそれがある旨の記載があるパンフレットを受領していたとしても,分収育林契約の内容は従前のものと異ならない以上,当該パンフレットを閲読しないこともあり得るから,パンフレットを受領したことによって,直ちにそれ以前の契約の際に生じた誤解が除去されたとはいい難いところ,証拠(甲C39,41,53,146,183,203,235,原告41本人)及び弁論の全趣旨によれば,これらの追加の契約に際して,被告の担当者が,上記パンフレットを読むことを徹底し,又は以前の契約の際に生じた誤解を取り除くような説明をすることがなかったことが認められる。そうすると,平成5年8月以降の契約についても,それ以前の契約の際に生じた誤解に基づき締結したものとして,被告に説明義務違反があるというべきである。 イ新規契約者について(ア) 前記前提事実(3)のとおり,原告4,同15,同17,同79,同86,同92,同93,同95,同104,同116,同126,同140,同145,同182,同189,同197,同200,同215,同216,同217,同237は,それぞれ,平成5年8月以降の日である別紙6「契約内容等一覧表」の「契約締結日」欄記載の日に分収育林契約を締結した新規契約者である(ただ 197,同200,同215,同216,同217,同237は,それぞれ,平成5年8月以降の日である別紙6「契約内容等一覧表」の「契約締結日」欄記載の日に分収育林契約を締結した新規契約者である(ただし,原告17,同93,同95,同104,同200,同215,同216及び同217についてはその親が,同140についてはその妻が,それぞれ代理人として契約締結の手続を行い,同79については,Mが分収育林契約を締結し,その子である同原告がこの契約者の地位を承継し,同145については亡Nが分収育林契約を締結し,妻である同原告がこの- 38 -契約者の地位を相続した。)ところ,被告は,これらの者に対し,前記のとおり,分収育林契約の締結に際してパンフレットを送付しており,そのパンフレットには,元本割れの可能性について明記されているのであるから,前記のとおり,その認識を有し得なかった特段の事情のない限り,分収育林契約の締結に関して説明義務違反があったと認めることはできない。 (イ) そして,本件全証拠によっても,上記新規契約者については,特段の事情の存在はうかがわれないから,説明義務違反があったと認めることはできないというべきである。 上記新規契約者(ただし,原告92及び同116を除く。)作成の陳述書(甲C4,15,17,79,86,93,95,104,126,140,145,182,189,197,200,215~217,237)には,被告から送付を受けたパンフレットに元本保証はない旨の記載はなかったか,又はそのような記載を見た記憶がない旨の記載があり,原告4本人及び証人Oの供述もこれに沿うが,被告が当時の契約希望者に対し,契約関係書類と共に送付する取扱いにしていたパンフレットには,元本保証はない旨記載したパンフレットを がない旨の記載があり,原告4本人及び証人Oの供述もこれに沿うが,被告が当時の契約希望者に対し,契約関係書類と共に送付する取扱いにしていたパンフレットには,元本保証はない旨記載したパンフレットを送付していたのは明らかである以上,パンフレットの記載を確認しなかったことはこれらの原告の落ち度というほかないから,上記判断を左右するものではない。 また,原告86作成の陳述書(甲C86)には,分収育林契約を締結するに当たり,林野庁に電話し,元本割れをしないかどうか質問したところ,担当者から,国債のような国の事業であるから安心するようにとの回答を得た旨,原告182作成の陳述書(甲C182)には,営林署から電話で資産を形成して子や孫に資産を残せる制度だということや,期間が満期になれば出資した金額は少なくとも戻るとの説明- 39 -を受けた旨,それぞれ記載があるが,当時,被告がこれらの原告に交付したパンフレットに元本保証がない旨明記されていたこと照らすと,担当者がこのような回答をしたかどうかは疑わしく,上記各記載は採用することができない。 (ウ) 原告74について証拠(甲A74,甲C74)によれば,原告74の父は,取引関係のあったP生活協同組合から斡旋を受けて分収育林契約の締結を申し込み,平成5年7月20日付けで被告から契約締結の内定通知を受け,同年8月19日,自身の経営する有限会社Qの代表者として同社名義で,2口分(1口25万円)の分収育林契約を締結し,平成16年5月7日,同店の廃業に伴い契約名義を原告74に変更し,これに伴い,有限会社Qの被告に対する損害賠償請求権も原告74に承継されたことが認められる。 原告74作成の陳述書(甲C74の2)には,分収育林契約の締結に際してパンフレットの交 し,これに伴い,有限会社Qの被告に対する損害賠償請求権も原告74に承継されたことが認められる。 原告74作成の陳述書(甲C74の2)には,分収育林契約の締結に際してパンフレットの交付を受けていない旨の記載があるところ,被告においては,契約関係書類と共にパンフレットを送付する取扱いとなっており,上記陳述書も,平成5年前期までに用いられたパンフレットを受け取っていた可能性を排除しないことからすると,上記パンフレットの交付自体がない旨の陳述書の記載は直ちに採用することができない。しかし,上記内定通知の時期からうかがわれる契約締結の経緯に照らせば,交付を受けたパンフレットは平成5年6月以前に被告が契約希望者に交付した元本割れの可能性について記載のないものであったと認めるのが相当である。 そして,有限会社Qの代表者については,平成5年前期までの募集に使用されていたパンフレットの記載又はこれと同趣旨の勧誘を受けて,分収金の総額が払込額を下回る可能性があることを認識しないま- 40 -ま契約を締結したものであるところ,証拠(甲C74の2)によれば,同代表者は,被告の担当者から,上記誤解に陥らないように,又は上記誤解を取り除くように説明を受ければ,契約を締結することはなかったにもかかわらず,そのような説明を受けることはなかったことが認められる。 そうすると,被告には,分収育林契約の締結に関し,説明義務違反があったというべきである。 ウ持分譲受人について証拠(甲C121)によれば,原告121及び原告122(以下,両名を併せて「原告121ら」という。)の祖父であるRは,平成12年1月頃,孫である原告121らに贈り物をすると共に国有林管理の一助になればと考えて,S森林管理局を訪れ,本件分収育林制度 2(以下,両名を併せて「原告121ら」という。)の祖父であるRは,平成12年1月頃,孫である原告121らに贈り物をすると共に国有林管理の一助になればと考えて,S森林管理局を訪れ,本件分収育林制度の費用負担者で持分を譲渡してくれる者を紹介するよう依頼し,同年6月,同局から,昭和60年8月29日付け分収育林契約により分収林の持分を有していたTの紹介を受け,同月14日,同人から分収林の持分を譲り受け,同月30日,これらの持分につき原告121らの名義に変更したことが認められる。 このようにRは,被告に対して直接に分収育林契約を申し込んだものではなく,持分を譲渡する者の紹介を依頼したものであるところ,前提事実(5)のとおり,平成11年度以降においては,極めて悪い分収状況にあったことから分収育林契約の募集は停止されており,そうであるからこそ,Rは,新規契約ではなく持分譲渡契約を締結せざるを得なかったと考えられることに照らせば,Rは,上記持分譲受け当時,S森林管理局から募集停止の理由を聞いていた可能性を否定することができない。 このような持分譲受けの経緯に照らせば,被告に,説明義務違反があったとは認め難く,仮に,被告の担当者において,元本割れの可能性を説- 41 -明しなかったとしても,当時の状況の下において持分の譲渡をする費用負担者の紹介を求める者について,専ら森林造成に参加することを目的としているものと扱ったとしても過失があるということはできない。 4 争点2-(2)(断定的判断の提供の有無)について前記1(4)イ(イ)及び(ウ)のとおり,林野庁作成のパンフレットや各地の営林局又は営林署作成のチラシには,「長期契約の安全確実な資産として」や「長期経済変動に強く,資産作りに最適です」といった,分収育林契約が イ(イ)及び(ウ)のとおり,林野庁作成のパンフレットや各地の営林局又は営林署作成のチラシには,「長期契約の安全確実な資産として」や「長期経済変動に強く,資産作りに最適です」といった,分収育林契約が変動の少ない安定した商品である旨や,伐採時の収入が「50万円で100㎡の木造2階建住宅に使用する木材に相当する立木の売却収入が見込まれます(1口50万円の場合)」といった,分収林が育つことによって価値が大きくなる旨記載されているところ,平成5年前期以前のパンフレットにおいても将来の収入予想は困難である旨記載されており,これらの記載が,払込額と分収金の総額との比較において,当然に利益が生じることや損失が発生しないことまで明らかに示すものであると解することはできない。また,原告らが断定的判断の提供であると主張するその余の記載は,いずれも,確実な利益を得ることや,少なくとも損をしないことを明示したものということはできない。 したがって,被告による分収育林契約の申込みの勧誘において,断定的判断の提供があったと認めることはできない。 5 争点3(原告らの損害の発生時期)について前記3のとおり,被告には,平成5年前期以前における分収育林契約の申込みの勧誘において説明義務違反があるところ,原告らは,被告から分収育林契約について適切な説明を受けていれば,払込額相当額を支払うことはなかったといえるから,原告らが被告の説明義務違反により被った損害とは,払込額相当額であるというべきである。 被告は,原告らが,契約締結時に,払込額を負担する一方で,分収木の共有- 42 -持分等のこれに見合う財産的利益を得ている点を指摘して,払込額相当の損害が生じたとはいえないと主張する。しかし,持分の処分については被告の同意を要する上に,育成途上の若 ,分収木の共有- 42 -持分等のこれに見合う財産的利益を得ている点を指摘して,払込額相当の損害が生じたとはいえないと主張する。しかし,持分の処分については被告の同意を要する上に,育成途上の若年木に確立した流通市場がないことからすると,原告らが契約締結時に払込額に相当する利益を得ているということはできず,被告の上記主張を採用することはできない。 6 除斥期間経過の有無(争点4)並びに消滅時効期間経過及びその援用の許否(争点5-(1))について(1) 争点4(除斥期間経過の有無)についてア民法724条後段の規定は,不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものである(最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁)。 そして,前記5のとおり,被告の説明義務違反により原告らに生じた損害は,分収育林契約締結時における払込額相当額であることに照らせば,除斥期間の起算点である「不法行為の時」とは,原告らがそれぞれ分収育林契約を締結した時点であると解すべきである。 イこれに対し,原告らは,分収時又は訴訟提起の直前に具体的な損害が顕在化したとして,これらの時点を除斥期間の起算点とすべきと主張するが,払込額相当の損害が,分収育林契約締結の時点で顕在化したことは明らかであるから,原告らの主張を採用することはできない。 また,原告らは,本件では除斥期間の適用が制限されるべきであると主張するが,民法724条後段の効果を制限すべき著しく正義・公平の理念に反する事情を認めることができず,同主張を採用することができない。 ウしたがって,分収育林契約締結時から起算して訴え提起時まで20年が経過している原告については,除斥期間の経過により,損害賠償請求権を行使することはでき 同主張を採用することができない。 ウしたがって,分収育林契約締結時から起算して訴え提起時まで20年が経過している原告については,除斥期間の経過により,損害賠償請求権を行使することはできないというべきである。 - 43 -(2) 争点5-(1)(消滅時効期間経過及びその援用の許否)についてア民法724条前段にいう「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時と解するのが相当である(最高裁昭和48年11月16日第二小法廷判決・民集27巻10号1374頁参照)。 イ前記5のとおり,原告らの損害は,分収育林契約締結時に発生するものの,間伐及び主伐による分収金を受け取ることを目的とする分収育林契約の性質に鑑みれば,主伐による最終的な分収金の支払を受けることにより元本割れの有無を認識することができるのであり,被告の説明義務違反により自己に損害が発生していることを確定的に認識することができたというべきである。 そうすると,主伐による最終的な分収金の支払を受けた時点で,被告に対して賠償請求をすることが可能な程度に損害及び加害者を知ったということができるから,原告らの国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権の消滅時効の起算点は,主伐による分収金の支払を受けた日であると解すべきである。 ウこれに対し,被告は,平成5年から,本件分収育林事業において元本割れの可能性について報道がされるようになったこと,パンフレット等においても元本保証がないことが明記されるようになったことを指摘して,消滅時効の起算点は,少なくとも平成6年頃(それ以降の契約については契約締結時)からであると主張するが,当該時点では ンフレット等においても元本保証がないことが明記されるようになったことを指摘して,消滅時効の起算点は,少なくとも平成6年頃(それ以降の契約については契約締結時)からであると主張するが,当該時点では元本割れの可能性が指摘されているのみであり,分収育林契約に基づく最終的な受取金の総額が明らかにならない限り,元本割れが生じているかどうかを認識することは困難であるから,被告の主張を採用することはできない。 他方で,原告らは,原告ら代理人により被害弁護団が結成され,分収育- 44 -林制度の問題点について説明を受けて初めて損害が被告の不法行為によるものと認識するに至ったと主張するが,元本割れについての認識は上記のとおりであるから,原告らの主張を採用することはできない。 エまた,原告らは,被告による消滅時効の援用が信義則に反すると主張する。しかし,原告らがその根拠として主張する事情は,被告の不法行為の悪質性に関するもののみであり,事後の対応等,原告らの信頼を害するといった事情や,権利濫用といえるような事情ではないから,原告らの上記主張を採用することはできない。 オしたがって,分収育林契約に基づく最初の主伐完了時から起算して,訴え提起時までに3年が経過している原告については,消滅時効が完成し,損害賠償請求権を行使することができないというべきである。 (3) 小括以上のとおり,原告らのうち,分収育林契約締結時から本件訴え提起時までの間に20年が経過した者については除斥期間の経過により,主伐完了時から本件訴え提起時までの間に3年が経過した者については消滅時効の完成により,それぞれ損害賠償請求権を行使することはできないということができる。 各原告が分収育林契約を締結した日,主伐による分収金又は持分 時までの間に3年が経過した者については消滅時効の完成により,それぞれ損害賠償請求権を行使することはできないということができる。 各原告が分収育林契約を締結した日,主伐による分収金又は持分買受金の支払を受けた日,及び本件訴えを提起した日は,それぞれ,別紙8「判決理由一覧表」の「契約締結日」欄,「主伐による分収金又は持分買受金の支払を受けた日」欄及び「訴え提起日」欄に記載のとおりであるから,同表「判決理由」・「除斥期間」欄に「×」が記載されている契約分については除斥期間の経過により,同表「判決理由」・「消滅時効」欄に「×」が記載されている契約分については消滅時効の完成により,それぞれ国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を行使することができないというべきである。 - 45 - 7 原告らの損害額について(1) 争点6(過失相殺及び損益相殺の可否)についてア過失相殺について前記3のとおり,原告らのうち平成5年前期以前に分収育林契約を締結した者及び原告74(別紙8「判決理由一覧表」の「判決理由」・「過失相殺」欄に「3割」の記載がある契約分)については,パンフレットに元本割れのおそれの記載がなかったことについて被告に説明義務違反が認められるものの,他方で,パンフレットに非常に長期間の契約期間であり将来の収入を予想することは困難である旨の記載があること,別紙11によれば,分収育林制度が創設された昭和59年に比べて立木価格が5ないし6割程度に低下し,元本割れのおそれが生じたのは,平成9ないし平成11年頃に至ってからであり,かかるリスクは,形式的には上記記載の範疇といえることに照らせば,過失相殺により,上記原告らの該当する損害から3割を控除するのが相当である。 そして,前記3(4)アのとお ってからであり,かかるリスクは,形式的には上記記載の範疇といえることに照らせば,過失相殺により,上記原告らの該当する損害から3割を控除するのが相当である。 そして,前記3(4)アのとおり,原告らのうち,追加契約者(別紙8「判決理由一覧表」の「判決理由」・「過失相殺」欄に「5割」の記載がある契約分)については,平成5年後期以降に追加で分収育林契約を締結する際に被告から交付されたパンフレットを閲覧すれば,元本割れのおそれについて容易に認識することが可能であったことを考慮すると,その点で落ち度があったことを否定することはできず,過失相殺により,上記原告らの該当する損害から5割を控除するのが相当である。 イ損益相殺について原告らは,分収育林契約を締結した結果,別紙7「原告ら受取額一覧表」のとおり,分収金等を取得しているから,これらの金員については,損益相殺の対象となると解すべきである。 (2) 小括- 46 -したがって,原告らのうち,別紙8「判決理由一覧表」の「判決理由」・「過失相殺」欄に「3割」又は「5割」の記載のある者について,受領した分収金等を過失相殺後の損害額に対する遅延損害金及び同損害額の順に充当すると,損益相殺後の損害額は,別紙9「認容額計算表」のとおりとなり,これに弁護士費用として,損害のうち元本額に対する1割相当額を加算した損害額は,別紙3「認容額一覧表」のとおりとなる。 8 原告らの予備的請求(債務不履行に基づく損害賠償請求)について契約の一方当事者が,当該契約の締結に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損 に先立ち,信義則上の説明義務に違反して,当該契約を締結するか否かに関する判断に影響を及ぼすべき情報を相手方に提供しなかった場合には,上記一方当事者は,相手方が当該契約を締結したことにより被った損害につき,不法行為による賠償責任を負うことがあるのは格別,当該契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはない(最高裁平成23年4月22日第二小法廷判決・民集65巻3号1405頁)。 前記4のとおり,被告による分収育林契約の申込みの勧誘において断定的判断の提供があったとは認めることはできず,分収育林契約の締結に際しての説明義務違反については,被告が同契約上の債務の不履行による賠償責任を負うことはないから,原告らの予備的請求は,その余の争点(争点5-(2),及び6)について検討するまでもなく,理由がない。 第5 結論以上のとおり,別紙3「認容額一覧表」記載の原告らの請求は,同表に記載の限度で理由があるからこれを認容し,上記原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決することとする。 なお,仮執行免脱宣言は,相当ではないから付さないこととする。 大阪地方裁判所第13民事部- 47 - 裁判長裁判官阪本勝 裁判官進藤千絵 裁判官奥山浩平は,差し支えにつき,署名押印することができない。 裁判長裁判官阪本勝

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