平成14年6月27日宣告平成12年(わ)第537号殺人被告事件判決 主文 被告人を無期懲役に処する。 未決勾留日数中530日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Xは,Aと共謀の上,生命保険金を取得する目的で,被告人が経営する宝石店の従業員B(当時20歳)を被保険者,被告人を受取人とする生命保険契約を締結した上,前記Bを殺害するとともに,同女に対する加害者に偽装してC(当時27歳)をも殺害しようと企て第1 平成2年12月25日ころ,福岡県田川市大字a字bc番地付近路上またはその周辺において,前記Bに対し,殺意をもって,その頭部をバット様のもので数回強打した上,その頸部を所携の果物ナイフ(刃体の長さ約10センチメートル,平成12年押第153号の1)で数回突き刺し,よって,そのころ,同所またはその付近において,同人を頸部刺切創による血液の左右肺内吸引に基づき窒息死させて殺害した。 第2 前同日ころ,福岡県田川郡d町大字e字fg番地付近路上において,同所に駐車中の小型乗用自動車内の助手席に乗車していた前記Cに対し,殺意をもって,その頸部を所携の菜切り包丁(刃体の長さ約14センチメートル,平成12年押第153号の2)で数回突き刺し,よって,そのころ,同所またはその付近において,同人を頸部刺切創による血液の左右肺内吸引に基づき窒息死させて殺害した。 (証拠の標目)(略)(事実認定の補足説明)第1 争点被告人は,第1回公判期日において,「起訴状記載の公訴事実は,すべて間違いありません。」と述べ,第16回公判期日においても,同様に述べているものの,弁護人は,被告人の行為は共同正犯ではなく,幇助犯に止まるものと主張し,被告人も当公判廷においてこれに沿うような供述もしているので, 。」と述べ,第16回公判期日においても,同様に述べているものの,弁護人は,被告人の行為は共同正犯ではなく,幇助犯に止まるものと主張し,被告人も当公判廷においてこれに沿うような供述もしているので,以下,検討する。 第2 証拠上認められる客観的事実関係各証拠によれば,以下の各事実が認められ,これらの事実については概ね争いがない。 1 平成元年11月下旬ころ,Aが,D及びEとともに「Mオークション」という商号を用いて古物市場の開業を企図するとともに,新聞紙上でその従業員募集をしたのに,被告人も応募して採用されたことから,被告人は「Mオークション」で「会長」と呼ばれていたAと知り合うとともに,同様に採用された本件被害者であるBとも知り合うことになった。 2 そのころ,Aは,月形刑務所で服役していたときに知り合ったEに対して,女性社員らに会社が掛け金を払って保険金額1億円の生命保険をかけた上,研修旅行で同女らに酒か睡眠薬を飲ませ,同女らが宿泊している旅館に放火して,同女らを殺害して,保険金を受け取ろうという話をしたことがあった。 3 平成2年1月ころ,被告人は,Aと肉体関係を持つに至り,同月15日から,Mオークションの事務所があったAの実母F方において,Aと同居するようになった。 4 同年3月7日,Aが火災保険金を取得する目的で前記F方に放火した結果,同所は焼失したが,その後も,被告人は,被告人所有の軽自動車(以下,「ミニカ」という。)の中やラブホテルなどに寝泊まりしながら,Aとの共同生活を続けた。 5 同年5月11日か12日ころ,被告人は,N生命保険相互会社の保険外交員をしていたGに架電し,被告人を被保険者とする1億円の生命保険に入りたい旨述べた。そこで,そのころ,Gは,1億円の生命保険の設計書を作成したが,その後,被告人は,同設計 生命保険相互会社の保険外交員をしていたGに架電し,被告人を被保険者とする1億円の生命保険に入りたい旨述べた。そこで,そのころ,Gは,1億円の生命保険の設計書を作成したが,その後,被告人は,同設計書を受領することもなく,契約には至らなかった。 6 同年8月の盆ころ,被告人は,北九州市h区の不動産屋を訪れ,2DKか2LDKクラスの賃貸マンションの部屋を希望し,その際,これから宝石の商売を始める旨話した。 7 同年8月19日ころ,被告人は,北九州市h区i所在の賃貸マンションjk号室(以下,「j」という。)への入居を申し込み,同月26日には正式に契約し,同月27日ころ,同所に入居した。 8 同年8月の盆過ぎから9月25日までの間において,被告人は,O生命保険相互会社の保険外交員であるHに対し,被告人を被保険者とする死亡保障額の大きな保険に入りたい旨述べるとともに,健康保険がないので,会社の契約で従業員にかける保険がないか尋ねた。Hが,被告人を被保険者とする保険として勧めたものと同じ保険に会社の契約で従業員を入れることができる旨答えると,被告人は,近いうちに入社する予定の若い従業員を加入させる旨述べて,Hと別れた。 一方,Hは,被告人が,保険外交員からの勧誘ではないいわゆる飛び込みの客であり,また,若いにもかかわらず,貯蓄型の保険ではなく,死亡保障額の高い保険を希望したことから,不安を抱き,上司であるIと相談の上,後日,被告人に対して,親の承諾を求めたところ,被告人は,親との折り合いが悪いからhに出てきている旨述べて,これを断り,後日連絡する旨述べて,交渉を打ち切ったが,その後,被告人からHに対して連絡はなかった。 9 同年9月10日,被告人は,貴金属類の卸問屋,株式会社P宝飾に架電し,X宝石の屋号で貴金属販売に向け準備中であるとして,販売 ,交渉を打ち切ったが,その後,被告人からHに対して連絡はなかった。 9 同年9月10日,被告人は,貴金属類の卸問屋,株式会社P宝飾に架電し,X宝石の屋号で貴金属販売に向け準備中であるとして,販売カタログ1冊を注文した。 同月12日,被告人は,かつてアルバイトをしていた弁当屋の同僚であったJの紹介で,N生命保険相互会社の保険外交員であるKと面会し,Kに対し,O生命の保険外交員からもらったという設計書を見せた上,生命保険に入ろうと思ってO生命でプランを作ってもらったが,保障額が少なかったので,もっと保障額の大きい保険に入ろうと思って紹介してもらった旨述べるとともに,いまやっている宝石店の4人の従業員も保険に入れたいと思っているが,何かよい保険はないか尋ねた。 そこで,Kは,その日は,被告人を被保険者とする保険について,ロイヤルワイド保険を勧め,その説明をして,被告人と別れ,その後,同月14日ころ,上司であるLと相談の上,ロイヤルワイド保険及び経営者大型保険のパンフレットを被告人あてに送付した。 そして,同月23日,Kは,Lとともに,被告人と面会し,ロイヤルワイド保険及び経営者大型保険の説明をしたが,その際,被告人は,現在従業員が4人いるが,社会保険などがないので,そのかわりに従業員を生命保険に加入させたい旨話した。 同年10月19日,被告人は,Bとともに,N生命のK及びLと面会し,被告人がロイヤルワイド保険(死亡時1億円,災害死亡時1億5000万円)に,Bが経営者大型保険(保険契約者被告人,被保険者B,保険金受取人被告人,普通死亡5000万円,災害死亡1億円)に入る旨申し込み,直ちに,2つの保険の1か月分の掛金を現金で支払った。その際,被告人は,他の従業員もいるが,Bは将来幹部となってもらうので,Bだけ先に経営者大型保険をかけ 0万円,災害死亡1億円)に入る旨申し込み,直ちに,2つの保険の1か月分の掛金を現金で支払った。その際,被告人は,他の従業員もいるが,Bは将来幹部となってもらうので,Bだけ先に経営者大型保険をかける旨述べた。 そこで,同月25日,専属医による検診を行ったところ,被告人,Bの両名とも,異常なしとの結果であったため,K及びLは,保険契約の書類等を本社に送付したが,本社からは,Bの保険金受取人をBの親に変更するよう指示があった。 このようにして,被告人を被保険者とする保険契約は同年11月1日に成立したものの,Bを被保険者とする保険契約が未だ成立していなかった同月中旬ころ,被告人からLに電話があり,Lが,本社からBの保険金受取人をBの親に変更するよう求められている旨伝えたところ,被告人は,自分が掛金を払って保険をかけているのだから,受取人は自分でいいはずであり,また,経営者大型保険の契約ができないのであれば,被告人を被保険者とする契約も解約する旨述べた。また,その後,Bからも,Lに対して,自分はあの契約内容で納得しているし,社会保険がないので早く成立させて欲しい旨の電話があった。 このような経緯を経て,Bを被保険者とする保険契約は,同年12月1日付けで成立した。 11 その間,同年9月15日か16日ころ,被告人は,広告代理店の株式会社Qエージェンシーに架電するなどして,X宝石が女子正社員を募集する旨の広告の掲載を依頼し,同月20日から同月22日までの3日間,その旨の広告がQ新聞に掲載されたが,応募者はいなかった。 また,同年10月6日ころ,被告人は,北九州市h区iの印刷会社を訪れ,X宝石のチラシ並びに被告人及びBの名刺の印刷を注文し,同月20日,これらの印刷物を受け取った。 12 被告人は,賃貸マンションの部屋を探すにあたって,Bに手伝って ,北九州市h区iの印刷会社を訪れ,X宝石のチラシ並びに被告人及びBの名刺の印刷を注文し,同月20日,これらの印刷物を受け取った。 12 被告人は,賃貸マンションの部屋を探すにあたって,Bに手伝ってもらうなどし,その後も,Bは,jに出入りしていたが,X宝石の求人広告に応募してきた者がいなかったことから,BをX宝石の従業員とすることにした。なお,Bの平成2年の日記帳には,8月16日欄には「Xちゃんに会うマンション捜し」との記載が,10月11日欄には「PM1~2時i〔X〕だいじょうぶかな」との記載が,同月12日欄には「印刷屋に行く。19日出本格的にかな」との記載が,同月19日欄には「印刷屋午後から。AM11:00保険会社と会う」との記載が,同月22日欄には「明日から仕事」との記載が,同月23日欄には「仕事」との記載が,11月9日欄には「給料日思ったよりもすくない」との記載が,それぞれ認められ,これらの記載によれば,BをX宝石の従業員にするについて,同女の了承を得た時期は,同年10月11日ころであるとみられる。 13 同年12月23日あるいは24日,Aは,被告人に対して,「明日,テレクラで男を呼んでこい。いいか,これは交通事故だ。女が家の近くで車に跳ねられる。その車の男は責任を感じて死ぬ。明日お前はテレクラに電話して男を呼び出してここに連れて来い。男に薬を飲ませて女を連れて部屋を出ろ。女をいったんlに送って,夕方6時ごろ女を呼び出してロマンスが丘の脇道に連れてきて降ろしてどっかへ行け。」という内容のことを言った。 14 遅くとも同月25日までに,被告人は,Aの指示に従い,実家にあったバットをjへ運び込んだ。 15 同月25日,被告人は,jに出勤してきたBとともに,jを出て,公衆電話から飯塚市内にあるテレホンクラブRに架電し,電話に出 に,被告人は,Aの指示に従い,実家にあったバットをjへ運び込んだ。 15 同月25日,被告人は,jに出勤してきたBとともに,jを出て,公衆電話から飯塚市内にあるテレホンクラブRに架電し,電話に出たCと会う約束を取り付けて,同人を呼び出した。同日昼過ぎに,被告人及びBは,Cとともに,jに戻って,談笑していたが,その間に,被告人は,Cに粉末状にした睡眠薬を入れた缶コーヒーを飲ませた。 その後,被告人は,CにBを自宅まで送ってくると告げ,jを出て,Bを福岡県田川郡l町の自宅まで送っていったが,このときまでに,Bと同日午後6時にl駅で落ち合う約束をした。 16 一方,Aは,被告人がBを送るためにjを出て行った後,jに入ったが,Cは,睡眠薬を飲まされていたものの,未だ意識を失っておらず,Cから車の鍵を奪うことができなかったAは,「家まで送りましょう。」などと言って,Cをjから連れ出し,AがC所有の小型乗用自動車(以下,「クレスタ」という。)を運転して,判示第1記載の福岡県田川市大字a字bc番地付近路上またはその周辺(以下,「第1殺害現場」という)の近辺に至った。そして,Aは,睡眠薬が効いてきたCをクレスタに残し,その離脱を防ぐために,クレスタのエンジンキーを抜いた上,B殺害に用いるためにjから持ち出してきたバットを持って,クレスタを離れ,路傍の草むらにバットを隠して,被告人がBを連れてくるのを待っていたところ,ほどなくBを助手席に乗せた被告人運転のミニカがやってきた。 17 被告人は,当初の約束を変更して,同日午後6時30分ころ,l駅でBと落ち合い,同女をミニカの助手席に乗せ,第1殺害現場へ向けてミニカを運転していたところ,前方の路上にAを認め,Aの横にミニカを停めた。そして,同所にBを降ろすと,同所から少し離れたところにミニカを停めた。 ,同女をミニカの助手席に乗せ,第1殺害現場へ向けてミニカを運転していたところ,前方の路上にAを認め,Aの横にミニカを停めた。そして,同所にBを降ろすと,同所から少し離れたところにミニカを停めた。 一方,Aは,Bに気付かれないようにバットを取り出すと,バットを振りかぶって,同女の頭部目掛けて振り下ろし,同女の頭部を殴りつけた。しかし,Aの予想に反して,Bは,気絶せず,かえって「何で,こんなことするの」などと言いながら,Aの方にすがりついてきたので,慌てたAは,Bを撲殺してからクレスタで轢いてもよいと考え,なおもBの頭部をバットで殴り続けたところ,Bは道路上に仰向けに倒れ込んだものの,殺害するには至らなかった。そこで,Aは,第1殺害現場に戻ってきた被告人に,ナイフと水を買ってくるように頼み,約30分後,戻ってきた被告人が買ってきた果物ナイフを受け取り,果物ナイフでBの頸部を突き刺し,判示第1のとおり,Bの殺害を遂げた。 18 Aは,被告人からクレスタが見当たらないことを聞いたものの,Bの死体を第1殺害現場に放置しておくのはまずいと考え,ミニカにBの死体を乗せた上,とりあえずjに戻ることにした。 Aと被告人がj付近に戻ってみると,スペアキーを使って第1殺害現場から離脱し,j付近に戻っていたCを発見した。そこで,Aは,被告人に対して,jから包丁を持ち出し,Cを判示第2記載の福岡県田川郡d町大字e字fg番地付近路上(以下,「第2殺害現場」という。)の周辺へ連れて行くように指示した。被告人は,被告人の姿を認めてクレスタから出てきたCとともに,jへ入ると,包丁を持ち出した上,Cをjから連れ出した。そして,前記包丁をAに渡し,Cから運転を依頼されたことを奇貨として,助手席にCを乗せたクレスタを運転して,第2殺害現場へ向かった。 第2殺害現場へ至 と,包丁を持ち出した上,Cをjから連れ出した。そして,前記包丁をAに渡し,Cから運転を依頼されたことを奇貨として,助手席にCを乗せたクレスタを運転して,第2殺害現場へ向かった。 第2殺害現場へ至ると,被告人は,クレスタから降り,ミニカを運転してクレスタを追尾してきたAが代わりに運転席に乗り込んだ。そして,Aは,Cの頸部に包丁を突き付け,Cをして「セックスがしたきくて女をさそうたらバカにされたのでやってしまいましたゆるして下さい」と紙に書かせた後,包丁でCの頸部を突き刺し,判示第2のとおり,Cの殺害を遂げた。 19 なお,X宝石の販売実績は,Kが,保険加入のお礼の意味も込めて購入したイヤリング1対のみであった。 第3 A及び被告人の供述等要旨 1 Aの供述要旨Aの証人尋問調書及び検察官調書における供述のうち,A及び被告人の動機・経緯に関する供述の要旨は以下のとおりである。 (1) Eに対して保険金殺人の話をしたことはあったと思うが,本件の保険金殺人を本格的に考え始めたのは,平成2年8月にFから火災保険金の一部である600万円をもらってからである。同月26日にjを借りたときには,この火災保険金を受け取ったら,もう後は金が入るあてがないと思って,焦っていたのは確かだが,まだ具体的な計画はしていなかった。同年9月10日に株式会社P宝飾に販売カタログを電話注文したときには,保険金殺人のために同社を選んでおり,既に本件を具体的に計画していた。また,そのときまでに,被告人にも本件の計画を話しており,その際,保険金額を1億円にするという話もしていた。 (2) 同年12月に保険契約が成立した後,被告人に対して,保険金を取得できたら山分けにするつもりであることを言ったことがあった。その際,被告人は,返事をせずに何かしゅんとしていたが,聞いていた (2) 同年12月に保険契約が成立した後,被告人に対して,保険金を取得できたら山分けにするつもりであることを言ったことがあった。その際,被告人は,返事をせずに何かしゅんとしていたが,聞いていたことは間違いないと思う。 また,jを借りて,本件の計画を立てて,間もなくのころ,被告人に対して,保険金が入ったら,顔を火傷している被告人の弟の顔を整形でもしてやろうかという話をしたこともあった。その際も,被告人から返事などはなかった。 (3) 他人を従業員として雇うつもりが,誰からも求人広告への反応がなく,従業員は面識のあるBだけで,当初の計画通り進まないことがたくさんあったことなどから,本件前に,一度,被告人に対して,今回の計画をやめようかと話したことがあった。しかし,被告人と話しているうちに,折角ここまで準備をしてやってきたんだから最後までやろうということになった。このときは,A一人が一方的に話すのを被告人が黙って聞いていたわけではなく,被告人もそのようなことを言っていた。もっとも,被告人から言われるまでもなく,A自身にもそのような気持ちがあり,被告人から言われたことで気持ちが変わったりした訳ではない。 (4) 本件を実行に移す一連の過程の中で,被告人から反対されたことはない。 2 被告人の供述等要旨被告人の当公判廷における供述,供述書及び乙11号証添付の被告人直筆の書面における各記載のうち,被告人の動機・経緯に関する供述等要旨は以下のとおりである。 (1) Aから,最初に本件に関係する話を聞いたのは,8月初旬ころであり,会社を作って従業員を雇って,その従業員に生命保険をかけて,その従業員が事故かなんかで死んだら大金になるというような話だった。ただ,競艇のレース予想をしながら,金が欲しいという話の延長で出たような感じで,たちの悪い冗 雇って,その従業員に生命保険をかけて,その従業員が事故かなんかで死んだら大金になるというような話だった。ただ,競艇のレース予想をしながら,金が欲しいという話の延長で出たような感じで,たちの悪い冗談を言っていると思い,あまり現実味がなかった。 X宝石の従業員を雇うようAから指示されたときは,その8月初旬の話と結びつけて考えなかったと思う。9月初旬に,保険契約の話を聞きに行くときも,8月初旬の話が全く浮かばなかったというと嘘になると思うが,会社で何かあったときの保障をしてやるのは会社だからという説明をされたので,8月初旬の話とあまり結びつけて考えようとはしなかった。 (2) 12月11日ころ,AからBの家に案内するよう言われて,Aと一緒にBの家に行き,その帰りの車の中で,Aが,Bに薬か何かを飲ませて家に帰らせて,夜中寝込んだところを家にガソリンをずっと撒いて火を付けて,逃げ遅れてくれればいいというようなことを言ったことがあった。しかし,Aは,ずっとそのようなことを言っていたわけではなく,その後は,またいつもどおりの生活を続けていたので,あまり現実味を感じなかった。 Aが,Bを殺害して保険金を取得しようと考えていることをはっきり感じたのは,前記第2の13の話を聞かされたときだったと思う。Aが,はっきりと「B」といったのか,あるいは「女」という言い方だったかははっきりしないが,いずれにしても,Bを殺そうとしていることは分かった。 (3) Aとの間で,保険金の山分けの話が出たことはない。また,被告人の弟の整形手術のために,お金が欲しかったということもない。 (4) 本件前日,Aに対して,翌日を仕事納めにしようと思うと伝えると,逆にAから「今,幾ら金があるのか」と言われ,少し間をおいて,Aから「もう,やめるか。」と言われた。これに対して,「折 もない。 (4) 本件前日,Aに対して,翌日を仕事納めにしようと思うと伝えると,逆にAから「今,幾ら金があるのか」と言われ,少し間をおいて,Aから「もう,やめるか。」と言われた。これに対して,「折角,ここまでしたのにもったいないね。」と答えているが,仕事納めの話のあとだったので,宝石業務の話だと思っていた。Aから,前記第2の13の話を言われたのは,この直後であった。(この(4)は,乙11号証添付書面による。供述書においては,この部分は正確な記憶に基づくものではなく,被告人は何も話していないのが事実だと思う旨供述を訂正している。)第4 検討 1 以上によれば,被告人は,遅くとも平成2年9月10日に宝石の販売カタログを電話注文する前までには,Aから,宝石屋の従業員に生命保険をかけた上で殺害するという本件の計画を聞かされていたと認められるところ,同日以降,被告人自身が,宝石の販売カタログを取り寄せ,従業員募集の求人広告を出すように手配し,KやLから事業主が従業員にかける生命保険についての説明を受けた上,現にBを被保険者とし,被告人を保険金の受取人とする生命保険契約を締結しているのであるから,被告人は,Aから聞かされた計画が着実に実現に向かっていることを十分に認識していたものとみるのが自然である。 殊に,Aの保険金殺人の計画の最大の眼目が,被害者を被保険者とする生命保険の受取人を被告人とする点にあることは極めて見やすい道理であるところ,被告人は,LからBを被保険者とする経営者大型保険の受取人を被告人からBの親とするよう変更を求められた際には,被告人自身を被保険者とする生命保険の解約をちらつかせてまで,強硬にこれを拒んでいるのであって,この事実によれば,Aから聞かされた計画について,本件の直前まで具体性を感じていなかった旨の被告人の供 被告人自身を被保険者とする生命保険の解約をちらつかせてまで,強硬にこれを拒んでいるのであって,この事実によれば,Aから聞かされた計画について,本件の直前まで具体性を感じていなかった旨の被告人の供述は到底信用しがたいというほかなく,被告人は,Aから聞かされた計画通りに事が進んでいることを十分認識した上で,保険金の受取人を被告人としたまま,Bを被保険者とする経営者大型保険を成立させたものとみるのが自然である。 2 加えて,前記第2の13のとおり,被告人は,本件の前日あるいは前々日に,AからB及びテレクラで呼び出した男性を殺害する計画を,殺害の日時,場所,構図等まで具体的に聞かされているのであるから,遅くとも本件当日までには,本件の具体的な計画を十分認識していたと認められるところ,前記第2の15のとおり,被告人は,この具体的な計画に従って,テレクラに電話して,Cをjに連れてきた上,同人に睡眠薬を飲ませ,また,Bを一旦自宅まで送った後,夕方呼び出して人気のない山中にある第1殺害現場まで連れ出したことが認められる。 3 さらに,第1殺害現場において,Aにナイフを買ってくるように指示されると,それに応じて直ちにナイフを購入してAに渡し,また,Aに指示されるままに,jから包丁を持ち出してAに渡した上,包丁を持ったAが追尾してくることを知りつつ,Cを人気のない山中にある第2殺害現場へと連れ出しているが,これらはいずれも本件各犯行に必要不可欠な行為であり,Aの要求するナイフや包丁が殺害に供されることは状況からして極めて明白であるのに,被告人は敢えてこれらの行為に及んでいる。 4 このように,被告人は,本件当日に限っても,本件計画を十分認識しつつ,Cを被害者となるべき者として確保し,B及びCをそれぞれ殺害現場まで連れ出し,凶器を準備してAに渡 らの行為に及んでいる。 4 このように,被告人は,本件当日に限っても,本件計画を十分認識しつつ,Cを被害者となるべき者として確保し,B及びCをそれぞれ殺害現場まで連れ出し,凶器を準備してAに渡すなど,本件各殺害行為と密接に結びつく行為を担当し,それぞれの殺害に必要不可欠な役割を果たしていると認められる。 そうすると,本件当時,被告人は,収入を得る十分な手段を持っておらず,Aが取得した火災保険金の一部で生計を立てており,Aと経済的には一体であったとみられる上,Bを被保険者とする経営者大型保険の受取人は他ならぬ被告人であることなどをも合わせ考えれば,被告人とAとの間に保険金の分配や使途についてのやりとりがなかったとしても,被告人は,Aと共同してB及びCを殺害する意思のもとに,殺害行為に密接に結びついた必要不可欠な行為を分担したものと認めるに十分であるから,判示のとおり,被告人は共同正犯の刑責を負うものと判断した。 (法令の適用)罰条第1及び第2の各行為いずれも平成7年法律第91号附則2条1項本文により同法による改正前(以下,「改正前」という。)の刑法60条,199条刑種の選択いずれも無期懲役刑を選択併合罪の処理改正前の刑法45条前段,46条2項本文,10条(犯情の重い第2の罪につき無期懲役刑に処し,他の刑を科さない。)未決勾留日数の算入刑法21条訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(量刑の理由) 1 本件は,判示のとおり,被告人が,共犯者Aとともに,被害者2名を殺害したという2件の殺人の事案である。 2 被告人らは,被告人を受取人とする生命保険に加入させたBを殺害して保険金を取得することを企て,その際,別の男性をB死亡の加害者に Aとともに,被害者2名を殺害したという2件の殺人の事案である。 2 被告人らは,被告人を受取人とする生命保険に加入させたBを殺害して保険金を取得することを企て,その際,別の男性をB死亡の加害者に偽装して殺害することとして,2件の殺害に及んだものであるが,その極めて自己中心的な動機にはもとより酌量すべき余地など微塵もなく,自らの経済的利欲を満たすためには至高の法益である人命を犠牲にすることもはばからないというこのような姿勢は極めて厳しい非難に値する。また,Aが本件を本格的に計画するようになり,被告人がAから計画を聞かされてから,少なくとも3か月以上の期間が経過した後に,被告人らは本件各犯行を敢行しているのであって,その間,幾度も犯行を断念する機会があったことに鑑みれば,その犯罪意思は強固なものであったといわねばならない。 個別にみても,本件を発案し,積極的に主導したのはAであり,被告人自身が自ら犯行計画を練るなどして,積極的に保険金目的の殺害を企図したとまでは認められないものの,被告人も,遅くとも犯行当日までには,本件の全容を十分理解していたと認められるところであり,その上で被告人は,前示のとおり,Aに指示されるままに,本件に必要不可欠な役割を果たしているのであって,被告人についても同様に人命尊重の精神に著しくもとっていたというほかない。 3 犯行態様についてみるに,まず,被告人らは,予め気絶させておいたBを自動車ではねて殺害し,その後,その自動車の持ち主がそれを苦にして自殺したように装って同人を殺害しようと企て,被告人がいわゆるテレクラに電話して,被害者となるべき自動車の持ち主としてCを確保し,同人に予め準備していた睡眠薬を飲ませた上,被告人とAで手分けして,Bを気絶させるためのバットを持参するとともに同女を殺害するためのC所有 電話して,被害者となるべき自動車の持ち主としてCを確保し,同人に予め準備していた睡眠薬を飲ませた上,被告人とAで手分けして,Bを気絶させるためのバットを持参するとともに同女を殺害するためのC所有の自動車をAが運転して,被害者両名をおよそ他人の救助を期待できないような山中にある第1殺害現場に連れ出しており,その後の予想外の事態を受けて,当初の計画の変更を余儀なくされてはいるものの,十分な準備の上で敢行された計画的犯行であるというべきである。 そして,同所において,Aが,Bの頭部をバットで強打し,「何で,こんなことするの」とすがりつく同女の頭部を非情にもさらにバットで叩き続けた上,Cが同人所有の自動車に乗って現場を離脱しており,また,同女を撲殺することもできなかったことから,わざわざ被告人に果物ナイフを買いに行かせて,その果物ナイフでBの頸部を突き刺してとどめを刺しており,B殺害の手口は残忍で冷酷極まりないものというほかない。 さらに,被告人らは,第1殺害現場へ連れ出したCが同所から離脱したことから,同人殺害を断念する機会を得たにもかかわらず,その後,j付近に戻っていたCを発見するや,これ幸いと,同人を殺害することとし,同人をこれまたおよそ他人の救助を期待できない山中にある第2殺害現場に連れ出し,同人の頸部に包丁を突き付けて無理心中を偽装するための遺書を書かせるや,そのまま同人の頸部に包丁を突き刺して,同人を殺害しており,これまた人命を奪うことを何ら躊躇しない極めて冷酷な犯行であり,まさに鬼畜の所業というほかない。 このような犯行において,被告人自身がB及びCの身体に直接的に危害を加えたわけではないものの,前示のとおり,被告人は,被害者としてCを確保し,同人に睡眠薬を飲ませ,また,B及びCを殺害現場まで連れ出し,Aに果物ナイフ及び包 告人自身がB及びCの身体に直接的に危害を加えたわけではないものの,前示のとおり,被告人は,被害者としてCを確保し,同人に睡眠薬を飲ませ,また,B及びCを殺害現場まで連れ出し,Aに果物ナイフ及び包丁という凶器を渡しているのであって,被告人の果たした役割は各殺害行為と密接に結びついた必要不可欠なものであったといわなければならない。 4 そして,このような犯行の結果,被告人を信頼して,X宝石の仕事を手伝うことを承諾し,保険金の受取人を被告人としたまま生命保険契約が成立するように自ら保険会社に電話までしたBは,その信頼していた被告人により山中へおびき出されて,未だ20歳の若さにして,突然にしてかけがえのない生命を奪われたのであり,その無念さには想像を絶するものがあると思料される。いきなりAに頭部を殴りつけられてから被告人がナイフを買ってくるまでの数十分間,Aをただ見上げていたBの肉体的苦痛,精神的苦痛にも絶大なものがあったと考えられる。 一方,Cは,被告人により,まさに殺害されるためだけに呼び出されたものであり,被告人に飲まされた睡眠薬で朦朧とする意識の中,第1殺害現場から離脱したものの,結局は,被告人らに発見されて,山中に連れ出され,不本意な遺書を無理矢理書かされた上,Aに頸部を包丁で突き刺されて,未だ27歳の若さにして,かけがえのない生命を奪われたのであって,やはりその無念さ並びに肉体的苦痛,精神的苦痛には筆舌に尽くしがたいものがあったとみられるところである。 このように,もとより何の落ち度もない被害者2名のかけがえのない生命を奪ったという犯行結果は,あまりにも重大である。 5 のみならず,被告人らは,本件各犯行後,C所有の小型乗用自動車内に,B及びCの遺体を乗せたまま,車内にガソリンをまいた上火を放つとともに,Cに書かせた前示の内 犯行結果は,あまりにも重大である。 5 のみならず,被告人らは,本件各犯行後,C所有の小型乗用自動車内に,B及びCの遺体を乗せたまま,車内にガソリンをまいた上火を放つとともに,Cに書かせた前示の内容の遺書を捜査機関に発見させるように工作して無理心中を装うことにより,捜査を撹乱するとともに,被告人らの目論見通り無理心中事件と誤解したマスコミの過剰な取材による遺族らに対する二次的被害を生みだしており,犯行後の情状も極めて悪いというほかない。 6 にもかかわらず,被告人からは,被害者両名の遺族に対して,謝罪の手紙をしたためたこと以外に,みるべき慰謝の措置はとられていないのであって,証人として出廷したCの両親は,異口同音に一人息子であり後継者として将来を期待していた長男を突如として失った挙げ句に,事件発覚の当初においては,前記の如きBをCが殺害したかのような工作が施されていたことにより,筆舌に尽くしがたい悲嘆の念と衝撃を受けたことが窺われ,前記両親がいずれも被告人を極刑に処することを望む旨述べているのも無理からぬところである。またBは,事件前被告人と親しい関係にあったものであり,犯行当日には被告人がBの自宅を訪問して同女の実母と挨拶を交わしたり,事件後に被告人がB方に架電した際,同女の母親に自己が旅行中である旨申し向けて事件とは無関係を装ったり,更には平成3年1月4日ころ,被告人自身がB方に赴き,同女の仏前にお参りするなどして更に無関係を装い,その後被告人においては約9年余りの間,所在をくらましたその経緯に照らしても,Bの母親がその検察官調書の中で,「被告人を死刑にして下さい。」と述べているのもまた無理からぬところであって,これら被害者両名の遺族の処罰感情にはなお非常に厳しいものがある。 7 以上に照らせば,被告人の刑事責任は極めて重いも で,「被告人を死刑にして下さい。」と述べているのもまた無理からぬところであって,これら被害者両名の遺族の処罰感情にはなお非常に厳しいものがある。 7 以上に照らせば,被告人の刑事責任は極めて重いものというべきである。 8 他方,本件の首謀者はAであり,本件当時20歳であった被告人はAに指示されるままに犯行に加担したものであること,犯行後9年以上経過した後であるとはいえ,自ら警察に出頭し,Aによっては明らかにされていなかった事実関係を明らかにし,また,被害者両名の遺族に対する謝罪の手紙をしたためるなど,被告人なりの反省の情を示していること,被告人には前科前歴がないことなど,被告人のために酌むことのできる事情も認められる。 9 しかしながら,本件が保険金目的で人一人を殺害し,その加害者に偽装する目的で別の一人を殺害したという悪質極まりない事案であることに鑑みると,これら被告人のために酌むことのできる諸事情を十分合わせ考慮しても,被告人に対しては無期懲役刑をもって臨むほかないと判断した。 よって,主文のとおり判決する。 (検察官壬生隆明,国選弁護人松井仁〔主任〕,同徳永響各出席)(求刑-無期懲役)平成14年6月27日福岡地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官谷敏行裁判官家令和典裁判官古庄研
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