- 1 -平成25年2月28日判決言渡平成22年(行ウ)第705号遺族補償給付不支給処分決定取消請求事件主文 1 常総労働基準監督署長が原告Aに対してした労働者災害補償保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の平成22年3月31日付け処分を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求主文同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,B株式会社(以下「本件会社」という。)に勤務していた亡C(以下「被災者」という。)が平成▲年▲月▲日に脳出血を発症して死亡したのは,業務に起因するものであるとして,被災者の父である原告Aが,常総労働基準監督署長(以下「処分庁」という。)に対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが,これらを支給しないという決定(以下「本件処分」という。)を受けたため,被災者の両親である原告らが本件処分の取消しを求めた事案である。 2 前提事実(争いのない事実に加え,該当箇所掲記の証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)(1) 被災者(昭和▲年▲月▲日生まれ。被災時35歳)は,平成9年3月にD短期大学経営情報学科を卒業し,東京の経理専門学校で経理を学んだ後,茨城県内の会計事務所勤務を経て,平成11年1月11日付けで本件会社に入社した。被災者は,一貫して経理業務に従事しており,被災時は,平成19年4月に異動したE事業所の管理部経理グループ経理チームに在籍して - 2 -いた。 (2) 被災者は,平成20年11月から開始された新会計システム導入に係るプロジェクト(本件会社内の会計システムを統合するプロジェクト 部経理グループ経理チームに在籍して - 2 -いた。 (2) 被災者は,平成20年11月から開始された新会計システム導入に係るプロジェクト(本件会社内の会計システムを統合するプロジェクト。以下「新会計システム導入プロジェクト」という。)に関わり,平成21年4月末から同年5月初めには休日出勤し,新会計システムに登録するデータの確認作業や登録作業に従事した。 また,被災者は,平成21年5月から開始されたF株式会社(以下「F」という。)との合併に向けた会計システム統合プロジェクト(以下「会計システム統合プロジェクト」という。)に,同年6月から関わるようになった。 なお,本件会社は,平成21年10月1日,Fに吸収合併され,現在の株式会社G(以下「G」という。)となった。(乙9の1,12,14の1,21)(3) 被災者は,平成▲年▲月▲日から同月▲日にかけて,管理部副部長のH,管理部経理グループ経理チームのI,Jの3名とともに,会計システム統合プロジェクトの打合せのため,FK工場(以下「K工場」という。)へ出張に行った(以下「本件K出張」という。)。本件会社のE事業所からK工場への移動には社用車が使われたが,被災者は,同月▲日の業務終了後,午後5時30分頃E事業所を出発し,α自動車道,β高速道路,γ高速道路を経て,午後9時15分頃沼津市内のホテルに到着するまでの間,一人で社用車の運転を担当した。被災者は,同月▲日の会議終了後も,午後5時30分頃K工場を出発し,γ高速道路,β高速道路,α自動車道を経て,午後10時頃E事業所に到着するまでの間,一人で社用車の運転を担当した。E事業所からK工場までの距離は片道約170㎞程度であるが,同月▲日の往路はδサービスエリアで夕食をとり,同月▲日の復路は沼津市内の飲食店で夕 事業所に到着するまでの間,一人で社用車の運転を担当した。E事業所からK工場までの距離は片道約170㎞程度であるが,同月▲日の往路はδサービスエリアで夕食をとり,同月▲日の復路は沼津市内の飲食店で夕食をとったほか,δサービスエリアで休憩をとった。(甲19,乙23ないし25) - 3 -(4) 被災者は,平成▲年▲月▲日午前7時半ころ,自宅の布団上で冷たくなった状態で発見され,午前7時46分ころ,通報を受けて到着した救急隊員によって死亡が確認された。その後,医師による死体検案が行われ,「顔面がうっ血状態で発見され,明らかな外傷はなく,後頸部より採取した髄液が血性であった」との検案所見から,死因は「脳出血」であり,遺体の状態及び外気温等から,死亡日時は「平成▲年▲月▲日午前1時ころ」と判断された。(乙9の1。以下「本件死亡」という。)(5) 原告Aは,平成21年7月31日,本件死亡は業務に起因するとして,処分庁に対し,労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の請求をしたが,処分庁は,平成22年3月31日付けで本件処分をした。原告Aは,本件処分の取消を求め,同年4月28日,茨城労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが,同年6月29日付けで棄却され,同年7月6日,労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,同日から3か月を経過しても裁決がなかったことから,原告らは,同年12月14日,本件処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。なお,労働保険審査会は,平成23年1月26日付けで原告Aの再審査請求を棄却した。(甲3,乙9の1,10) 3 争点及び当事者の主張本件死亡の業務起因性(原告らの主張)本件死亡は,次のとおり,長時間労働という量的過重性に加え,発症直前の運転業務,不規則な勤務や精神的緊張 ) 3 争点及び当事者の主張本件死亡の業務起因性(原告らの主張)本件死亡は,次のとおり,長時間労働という量的過重性に加え,発症直前の運転業務,不規則な勤務や精神的緊張を伴う業務等の質的過重性を有する業務に従事したことによるものであり,業務起因性が認められる。 (1) 長時間労働ア被災者は,発症前に,少なくとも,次のとおりの時間外労働(詳細は別紙1(原告らの平成24年12月14日付け準備書面(6)添付の別紙1に同じ。)のとおり。)に従事した。これは,本件会社作成にかかる被災 - 4 -者の「勤怠データ一覧」(乙9の1・130頁以降)の始業・終業時刻を原則としつつ,被災者が少なくとも午後9時過ぎまでは勤務していたとの原告Aの証言により,「勤怠データ一覧」の終業時刻が午後9時より早い場合には終業時刻は午後9時とし,また,原告ら関係者の供述,被災者が業務上使用していたパソコンのマイドキュメントのファイル操作記録,Lのイベントビューアの記録(MのNやOなどのアプリケーションソフトを使っているときに発生したイベントの記録。以下「イベント記録」という。),メールの送信時刻履歴等に基づき,勤務日及び勤務時間を修正したものである。 発症前1か月間 139時間19分発症前2か月間 118時間48分平均129時間03分発症前3か月間 100時間16分平均119時間27分発症前4か月間 83時間11分平均110時間23分発症前5か月間 76時間28分平均103時間36分発症前6か月間 48時間50分平均94時間28分イ仮に,平日については,原則として「勤怠データ一覧」を前提としたとしても 76時間28分平均103時間36分発症前6か月間 48時間50分平均94時間28分イ仮に,平日については,原則として「勤怠データ一覧」を前提としたとしても,被災者は,発症前に,少なくとも,次のとおりの時間外労働(詳細は別紙2(原告らの平成24年12月14日付け準備書面(6)添付の別紙2に同じ。)のとおり。)に従事している。 発症前1か月間 113時間31分発症前2か月間 101時間02分平均107時間16分発症前3か月間 78時間55分平均97時間49分発症前4か月間 59時間19分平均88時間11分発症前5か月間 31時間54分平均76時間56分発症前6か月間 32時間11分平均69時間28分ウさらに,被災者が業務上使用していたパソコンの日時の設定を変更して - 5 -いた可能性があることを考慮して,平成21年4月30日,同年5月1日,30日,31日の労働時間を被告主張のとおりに変更したとしても,被災者は,発症前に,次のとおりの時間外労働(詳細は別紙3(原告らの平成24年12月14日付け準備書面(6)添付の別紙3に同じ。)のとおり。)に従事している。 発症前1か月間 89時間30分発症前2か月間 89時間40分平均89時間35分発症前3か月間 78時間55分平均86時間01分発症前4か月間 59時間19分平均79時間21分発症前5か月間 31時間54分平均69時間51分発症前6か月間 32時間11分平均63時間34分エ長時間労働が脳・心臓疾患に与える影響 79時間21分発症前5か月間 31時間54分平均69時間51分発症前6か月間 32時間11分平均63時間34分エ長時間労働が脳・心臓疾患に与える影響についての研究報告によれば,長期間にわたる長時間労働やそれによる睡眠不足に由来する疲労の蓄積が血圧の上昇などを生じさせ,その結果,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させる可能性があることが分かっており,具体的には,1か月概ね45時間の時間外労働に従事したような場合には,1日7.5時間程度の睡眠ないしそれに相当する休息が確保できない状態となり,疲労の蓄積を生じさせるといえる(乙1)。 そこで,原則として月45時間を超える時間外労働に従事しているのであれば,業務の過重性が認められるというべきところ,被災者の発症前6か月間の時間外労働は,前記アないしウのとおりであって,月45時間以上の恒常的な時間外労働が認められ,80時間から100時間を超える時間外労働に従事していた月もあることから,量的にみて過重な業務に従事していたことは明らかである。認定基準に照らしても,前記ア及びイのとおり,被災者の発症前1か月間の時間外労働時間数は,認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できるとする100時間を優に超え, - 6 -また,被災者の発症前2か月間ないし4か月間の平均月間時間外労働時間数は,認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できるとする80時間を超え,発症前5か月間ないし6か月間の平均月間時間外労働時間数も,認定基準においてこれを超えると業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとする45時間を優に超えるから,本件死亡には業務起因性が認められる。 オなお,労災保険給付の不支給決定取消訴訟においては, いてこれを超えると業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できるとする45時間を優に超えるから,本件死亡には業務起因性が認められる。 オなお,労災保険給付の不支給決定取消訴訟においては,労災保険制度における原告の地位(社会保障権の充足を求める立場にあること),証拠への接近可能性,労災保険給付実務における当事者間の衡平等の観点から,業務起因性を基礎付ける事実のうち,とりわけ時間外労働時間の認定については,「被災者が時間外労働をしていないこと」,「被災者の時間外労働が原告主張の時間数以下であること」について,原則として被告側に立証責任があるというべきであり,立証責任の転換または軽減を認めるべきである。 本件では,①業務起因性を基礎付ける証拠のほとんどを行政庁(常総労働基準監督署)またはG側が保持しており,原告側でかかる証拠の全てを入手することは困難であること(証拠への接近可能性),②使用者には労働者の労働時間を管理する義務が認められていることに照らせば,労働者の正確な時間外労働時間は,G側が保持する資料で容易に立証可能なはずであり,また被災者の労働時間に関する記録(パソコンのログイン・ログアウト記録等)は使用者側から行政庁に対して速やかに提出されるべき性質のものであったこと(証拠への接近可能性),③前記②のような実状があるにもかかわらず,常総労働基準監督署が被災者のパソコンのログイン・ログアウト記録を収集しておらず,またGも常総労働基準監督署に被災者のパソコンのログイン・ログアウト記録を提出しておらず,常総労働基準監督署やGの怠慢ないし過失が原因で,被災者の時間外労働時間の認定 - 7 -のために最も重要な証拠(パソコンのログイン・ログアウト記録)が消失してしまったこと(証拠消失の責任が行政庁側及び使用者側に やGの怠慢ないし過失が原因で,被災者の時間外労働時間の認定 - 7 -のために最も重要な証拠(パソコンのログイン・ログアウト記録)が消失してしまったこと(証拠消失の責任が行政庁側及び使用者側に認められること),④原告側は常総労働基準監督署の担当官に対し,被災者のパソコンの調査を早期に依頼しており,また不支給決定処分後には証拠保全手続を行うなど,立証を尽くすためのあらゆる手段をとり,必要な証拠の収集のため最大限の努力をしたこと(当事者間の衡平),⑤原告側が,原告ら及び関係者の証言やレシート等の一定の人証・物証によって,時間外労働・休日労働について相当程度の立証を行っていること等の事情に照らせば,「原告らが主張する当該日時に被災者が勤務していないこと」について,原則として被告側に立証責任があるというべきである(立証責任の転換)。 また,原告側が合理的な証拠に基づいて相当程度の主張・立証を尽くしている以上は,被告の方で「原告らが主張する当該日時に被災者が勤務していないこと」の立証が尽くされない限り,被災者が当該日時に勤務していたことが事実上推認されるというべきである(立証責任の軽減)。 (2) 本件K出張に伴う運転業務の過重性被災者は,平成▲年▲月▲日午前1時頃に脳出血を発症して死亡する2日前から3日前である同月▲日から同月▲日にかけて,本件K出張において社用車の運転業務に従事したが,これは,日中に従事した業務による疲労を抱えたまま,片道約170㎞の長距離を一人で運転したものである上,夜間であること,β高速道路やγ高速道路はカーブや勾配が多く,特にβ高速道路は急カーブ,トンネル,分岐・合流,交通量が多いなど運転が困難で,経路上に事故多発箇所が複数あったことから高度の集中力が要求され,上司らを同乗させている 高速道路はカーブや勾配が多く,特にβ高速道路は急カーブ,トンネル,分岐・合流,交通量が多いなど運転が困難で,経路上に事故多発箇所が複数あったことから高度の集中力が要求され,上司らを同乗させていることから強い緊張による精神的ストレスがあったものであり,肉体的・精神的負担は極めて大きかったということができる。 (3) 経理業務及びプロジェクト業務の質的過重性 - 8 -被災者が担当していた経理業務には繁忙期があり,特に月末から月初めが忙しく,この時期は,報告期限に追われて数字の正確性とともにスピードを要求され,業務に裁量性や自由度はなく,また,帰宅時間が午前1時ないし2時を過ぎ,土日も出勤するなど不規則な勤務を強いられた。 また,被災者は,本件会社の合併準備のため,新会計システム導入プロジェクト及び会計システム統合プロジェクトという,本件会社にとって非常に重要なプロジェクトを任されていたが,これは,期限が設定されていて業務量も多く,対外的責任を負うため失敗の許されない業務であり,精神的緊張を伴う業務に従事していたということができる。 (4) 深夜勤務及びVDT作業の過重性ア被災者は,次のとおり,発症前3か月間に,月間7回ないし8回,月間10時間から17時間以上という高頻度かつ長時間の深夜勤務に従事しており,深夜勤務による肉体的・精神的負担が大きかったということができる。 発症前1か月目 8回,合計14時間47分発症前2か月目 8回,合計17時間23分発症前3か月前 7回,合計10時間07分イ被災者の業務は,パソコンを使用するVDT作業(VisualDisplayTerminals 作業)がほとんどであり,昼休憩以外に定期的に作業を中断する時間 7回,合計10時間07分イ被災者の業務は,パソコンを使用するVDT作業(VisualDisplayTerminals 作業)がほとんどであり,昼休憩以外に定期的に作業を中断する時間も確保できていなかったことからすれば,1日当たりのVDT作業時間が10時間以上に及ぶ日が多かったといえるから,VDT作業による肉体的・精神的負荷が大きかったということができる。 (被告の主張)本件死亡には,業務起因性は認められない。 (1) 脳・心臓疾患の業務起因性の判断枠組みについてア労災保険法に基づく保険給付の要件である業務起因性が認められるた - 9 -めには,当該労働者が当該業務に従事しなければ当該結果(死亡等)は生じなかったという条件関係が認められるだけでは足りず,両者の間に法的にみて労災補償を認めるのを相当とする関係(相当因果関係)があることが必要であり,脳・心臓疾患発症と業務との相当因果関係が認められるためには,当該脳・心臓疾患の発症が当該業務に内在する危険の現実化として発生したといえること,すなわち,①当該業務による負荷が,当該労働者と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者にとって,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させる程度の負荷であると認められること(危険性の要件)及び②当該業務による負荷が,その他の業務外の要因(当該労働者の私的リスクファクター等)に比して相対的に有力な原因となって,当該脳・心臓疾患を発症させたと認められること(現実化の要件)が必要である。 イそして,厚生労働省は,最新の医学的知見である専門検討会報告書(乙1)に基づき,脳・心臓疾患(負傷に起因するものを除く。)の発症が業務上と認定されるための具体的基準 要件)が必要である。 イそして,厚生労働省は,最新の医学的知見である専門検討会報告書(乙1)に基づき,脳・心臓疾患(負傷に起因するものを除く。)の発症が業務上と認定されるための具体的基準である新認定基準(乙2)を定めているところ,脳・心臓疾患の発症が業務に内在する危険等の現実化といえるためには,①発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと(異常な出来事),②発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと(短期間の過重業務),③発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したこと(長期間の過重業務)のいずれかの業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症したと認められることが必要である。 (2) 被災者が従事した業務による負荷の過重性ア(ア) 本件会社では,社内に設置された機械のリーダー部に社員各人所有の社員証を直接通すことで出社時刻と退社時刻が記録されるシステム - 10 -によって把握される出退勤時刻をもって,「勤怠データ一覧」の基礎とし,当該「勤怠データ一覧」について毎日その職場全員の前日の記録を回覧し,自身の出退勤時刻だけでなく,同僚の出退勤時刻も確認し得る状態とし,各自が前日の出退勤時刻を確認の上,必要があれば補正して,確認印を押すという方法によって,労働時間の管理をしていた。したがって,「勤怠データ一覧」は,基本的には労働者の勤務の実態が正しく反映された信頼できるデータであり,被災者の労働時間は基本的には「勤怠データ一覧」に基づいて算定するべきである。 (イ) もっとも,本件会社は,社員が出張したときは所定労働時間(午前8時15分から午後5時00分まで)勤務したものとみなしていたが,出 「勤怠データ一覧」に基づいて算定するべきである。 (イ) もっとも,本件会社は,社員が出張したときは所定労働時間(午前8時15分から午後5時00分まで)勤務したものとみなしていたが,出張先との往復に要する移動時間は労働時間に算入すべきであり,「勤怠データ一覧」を修正する必要がある。 また,社員が出退勤時に社員証をリーダーに通さずに休日出勤し,それを会社に報告せず,「勤怠データ一覧」を補正しなかった場合も,その日の労働時間が「勤怠データ一覧」に反映されないので,「勤怠データ一覧」を修正する必要がある。残業をした日に社員証をリーダーに通さずに退勤し,退勤時刻を正しく申告しなかったときも同様である。そこで,パソコンに操作履歴が残るなどし,その操作履歴の信用性が否定されない場合には,労働時間として認めるべきである。 なお,被災者のパソコンの操作履歴の全てを信用することができないのは,次のような事情による。すなわち,被災者は,伝票発行システムで伝票を発行する業務を担当していたが,翌月の第一,第二営業日にならないとデータが確定せず,発行できない伝票があった。そのような伝票は,月が替わってから前月の日付(前月の勘定)で発行することになるが,伝票発行システムはパソコンの日付を既定値として取得し,それが伝票発行システムで発行される伝票の日付に自動的に反映されるこ - 11 -とから,被災者は,前月の日付で伝票を発行するときは,1枚ごとに伝票発行システム上で訂正入力する手間を省くために,パソコンの日付の設定を前月の日付に変更して作業をしていた。この作業の終了後,日付の設定を現実の日時に戻さずにNなどのアプリケーションソフトを使って作業をしたり,メールを送信すると,イベント記録におけるイベントの発生日時としては に変更して作業をしていた。この作業の終了後,日付の設定を現実の日時に戻さずにNなどのアプリケーションソフトを使って作業をしたり,メールを送信すると,イベント記録におけるイベントの発生日時としてはそのイベントが発生したときにパソコンに設定されていた日時が表示され,メールに表示された送信日時としてもそのときにパソコンに設定されていた日時が表示されることから,これらのイベントの発生日時やメールの送信日時の記録とそれらが現実に発生した日時とが一致しないことが生じることになる。そして,被災者が使用していたパソコンのイベント記録によれば,イベントが現実に発生した順に記録されているにもかかわらず,イベントの発生日時の表示が時系列に沿って並んでいない部分があることから,被災者がそのような伝票入力作業のためにパソコンの日付の設定を変更し,作業終了後に日付の設定を現実の日時に戻すのを失念したままNなどのアプリケーションソフトを使って作業をするなどしていたことが現実にあったことが認められるから,イベント記録のイベントの発生日時やメールの送信日時の記録の全てをそれらが現実に発生した日時であるとして信用することはできない。 (ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,被災者は,次のとおりの時間外労働(詳細は別紙4(被告の平成23年9月12日付け準備書面(2)添付の別表1に同じ。)のとおり。)に従事したものと認められる。 発症前1か月間 72時間15分発症前2か月間 59時間52分平均66時間03分発症前3か月間 66時間10分平均66時間05分発症前4か月間 51時間46分平均62時間30分 - 12 -発症前5か月間 37時間06分平均57時間25分 66時間10分平均66時間05分発症前4か月間 51時間46分平均62時間30分 - 12 -発症前5か月間 37時間06分平均57時間25分発症前6か月間 31時間10分平均53時間03分(エ) なお,原告らは,業務起因性を基礎付ける事実のうち,とりわけ時間外労働時間の認定については,「被災者が時間外労働をしていないこと」,「被災者の時間外労働が原告主張の時間数以下であること」について,原則として被告側に立証責任があるというべきであるなどと主張するが,次のとおり,本件に関し,行政庁(労働基準監督署)や使用者の怠慢による証拠の散逸・消失等によって業務起因性の立証に必要な証拠の収集が困難となった事実を認めることはできないから,原告らの主張はその前提を誤るものであって失当である。 すなわち,本件会社は,前記のとおり,タイムカード機能を持たせた社員証をカードリーダーに通す方法で出社時刻と退社時刻を記録するなど,労働時間を管理する義務を尽くしていた上,原告らの求めに応じ,上記方法により作成された「勤怠データ一覧」を提出している。また,原告側が常総労働基準監督署の担当官に対し被災者のパソコンの調査を早期に依頼した事実は確認できないし,そもそもパソコンのログイン・ログアウト記録は,単に記録が残っている間当該パソコンの電源が入っていたことを示すものであって,被災者が仕事をしていたことを示すものではなく,むしろ原告らが証拠保全手続で収集したイベント記録の方が被災者の時間外労働時間の認定のための重要な資料であると認められ,被告はこのイベント記録を精査して被災者の労働時間を最大限算定している。 イ被災者が,発症直前から前日までの間に,新認定基準に 災者の時間外労働時間の認定のための重要な資料であると認められ,被告はこのイベント記録を精査して被災者の労働時間を最大限算定している。 イ被災者が,発症直前から前日までの間に,新認定基準において「異常な出来事」と評価されるに足りる出来事に遭遇した事実はない。 ウ(ア) 被災者の発症前おおむね1週間における時間外労働時間数は,12時間19分であり,この時間外労働時間数のみをもって,日常業務に比 - 13 -較して特に過重な身体的,精神的負担を生じさせたと客観的に認められる業務に就労したとは認められない。 (イ) また,被災者は,本件K出張において片道約170㎞の距離を往復とも自動車の運転を担当したが,高速道路を利用した4時間程度の行程であり,途中で夕食や休憩をとっていることに加え,被災者が毎日40分から50分かけて本件会社に自動車通勤していたことを併せ考えると,車両の運転に慣れた被災者が,通常の車両運転による疲労を超えて,特別な肉体的・精神的負担を負ったものとは認められず,これを加味して検討しても,発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したとは認められない。 エ(ア) 前記ア(ウ)のとおり,被災者の発症前1か月間の時間外労働時間数は72時間15分であり,業務と発症との関連性が強いと評価できる100時間にはおよそ届かず,また,被災者の発症前2か月間ないし6か月間の平均月間時間外労働時間数は最大66時間5分であり,業務と発症との関連性が強いと評価できる80時間との間に開きがある。よって,被災者の時間外労働時間数のみによっては,長期間の過重業務があったと認めることはできない。 (イ) 被災者が主として従事していた経理業務は,定型的なデスクワークであり,仕事の進め方に対する裁量性・自由度 労働時間数のみによっては,長期間の過重業務があったと認めることはできない。 (イ) 被災者が主として従事していた経理業務は,定型的なデスクワークであり,仕事の進め方に対する裁量性・自由度も高かったと認められ,本件会社で10年間にわたり一貫して経理業務に従事してきた経理業務のベテランであり,十分な知識と経験を有する被災者にとって,困難な業務であったとは認められないし,また,繁忙期が月末から月初めに繰り返し訪れ,月間,年間を通じてみれば,経理業務の性格上当然に一定の規則性があったというべきであるから,「非常に不規則な勤務」であって,肉体的・精神的負荷が高い業務であったと認めることはできない。 (ウ) 新会計システム導入プロジェクトは,被災者の業務量を増加させた - 14 -が,会計システム統合プロジェクトは,本件K出張を除き,被災者の業務量を増加させるものではなかったし,いずれのプロジェクトも,被災者は補助者として関わっていただけであり,各プロジェクトに関する被災者の業務に特段の困難性は認められず,被災者に過大な責任が発生することもないから,被災者の業務が精神的緊張を伴う業務であったとまでは評価できない。 (エ) 被災者の時間外労働時間数に,被災者が担当していた業務の質的側面を総合しても,長期間の過重業務の存在を認めることはできない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え,証拠(甲7,乙6,9の1,11の1,11の2,12,31,証人P,同Q,同I,原告A本人,該当箇所掲記の各書証。ただし,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。 (1) 被災者の労働時間についてア本件会社の所定労働時間は,午前8時15分から午 だし,後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認定することができる。 (1) 被災者の労働時間についてア本件会社の所定労働時間は,午前8時15分から午後5時までであるが,被災者が所属していた経理チームについては,フレックスタイム制が採用されていたこと,午後0時から午後1時まで1時間の休憩時間があり,1日の実労働時間が7時間45分であったこと,休日は週休2日制であったことは,当事者間に争いがない。 イ本件会社においては,従業員が出退勤時にタイムカードの機能を持つ社員証を各階のエレベーター脇の壁に設置してあるリーダー(読取装置)に通すことによって出退勤時刻が記録され,翌日,これを基に作成された「勤怠データ一覧」が職場の全員分について回覧され,打刻漏れ等があれば各自が補正し,確認印を押すこととなっており,さらに1か月毎に1か月分の「勤怠データ一覧」を改めて各自が確認して,不備があれば補正し,確 - 15 -認印を押すという方法によって,労働時間の管理を行っていた。(乙17)ウ被災者が使用していたパソコン(以下「被災者使用PC」という。)の操作履歴としては,パソコンのハードディスクに残っていたデータとして,①メールの送信記録(乙8,27),②マイドキュメントのファイルの操作記録(乙9の1),③Lのイベントビューアの記録(イベント記録。 乙7,15)があり,サーバー(外部記憶)に残っていたデータとして,④新会計システム(会計ソフト:R)へのログイン記録(乙9の1),⑤伝票発行システムによる伝票の発行記録(乙14の5)がある。なお,被災者使用PCの操作履歴の収集の必要性については,遅くとも平成21年9月に常総労働基準監督署の担当官による本件会社の総務・人事担当者の聴取時には確 による伝票の発行記録(乙14の5)がある。なお,被災者使用PCの操作履歴の収集の必要性については,遅くとも平成21年9月に常総労働基準監督署の担当官による本件会社の総務・人事担当者の聴取時には確認され,同年10月26日には上記担当官らが本件会社に臨場し,被災者使用PCから②マイドキュメントのファイルの操作記録のデータを収集し,平成22年3月には本件会社から上記担当官に対し①メールの送信記録,④新会計システムへのログイン記録等が提出されたが,被災者使用PCのログイン,ログオフ履歴については,これが被災者使用PCに残るという知見が上記担当官らにも本件会社担当者にもなかったために収集されず,平成22年10月に原告らが証拠保全を行った際には,平成21年12月の記録が最も古く,本件死亡(▲年▲月▲日)以前の記録は消えてしまっていたため,結局,収集することができなかった。 被災者使用PCの操作履歴のうち,①ないし③は,そのときに被災者使用PCに設定されていた日時が記録されたものであるが,被災者使用PCは,日時の設定をひとたび変更すると,再度手動で設定を元に戻さない限り,変更後の状態が維持される初期設定となっていた。そして,被災者は,月初めの伝票発行システムによる伝票の発行作業において,パソコンの日時を前月末に変更することがあったが,作業終了後にパソコンの日時を元に戻さずにNなどのアプリケーションソフトを使って作業をすると,イベ - 16 -ント記録に表示された発生日時が現実時間の日時から遡った日時となり,イベント自体は現実時間の中で発生した順番に並んでいるにもかかわらず,イベント記録に表示された発生日時が時系列に合わないことになる。 現に,被災者使用PCの③イベント記録には,別紙5のとおり,平成21年5月31日と同年4月30日の した順番に並んでいるにもかかわらず,イベント記録に表示された発生日時が時系列に合わないことになる。 現に,被災者使用PCの③イベント記録には,別紙5のとおり,平成21年5月31日と同年4月30日のところに,明らかな時系列の乱れがある。(甲18,乙14の1,14の2,35ないし38)エ被災者の「勤怠データ一覧」と被災者使用PCの操作履歴とを比較すると,①被災者は平成21年5月5日及び同月6日(いずれも休日)の「勤怠データ一覧」の退勤時刻の打刻漏れをいずれも午後5時と手書きしているが,同月5日は午後10時41分,同月6日は午後7時1分のイベント記録があること,②同年6月15日,同年5月24日,同年3月1日,同年2月1日,同年1月18日(いずれも休日)は「勤怠データ一覧」に出勤の記録がないにもかかわらず,イベント記録があること,③同年5月25日,同年3月19日,同年1月26日,同月23日(いずれも平日)は「勤怠データ一覧」の退勤時刻よりも遅い時間の被災者使用PCの操作履歴があることが認められる。なお,被災者が伝票発行作業のために月初めにパソコンの日時を前月末に変更することがあったことは前記のとおりであるが,上記①ないし③記載の日の前後のイベント記録に時系列の乱れはなく,被災者使用PCの操作履歴の日時が信用できないとする理由は見当たらない。(乙7,8,15,17)オ被災者使用PCの③イベント記録を,同じ経理チームのIが使用するパソコンのイベント記録(乙16)と比較すると,Iのイベント記録には1日当たり概ね10件以上のイベントが記録されているのに対し,被災者使用PCの③イベント記録には1日当たり1件のイベントしか記録されていない日(平成21年6月9日,同年5月29日,同月28日,同月26日,同月24日,同月22日,同月 記録されているのに対し,被災者使用PCの③イベント記録には1日当たり1件のイベントしか記録されていない日(平成21年6月9日,同年5月29日,同月28日,同月26日,同月24日,同月22日,同月15日,同月13日など。)が少なく - 17 -ない。しかも,被災者の勤怠データによって被災者が出勤していると認められるにもかかわらず,被災者使用PCの③イベント記録にイベントが全く記録されていない日(平成21年6月11日,同月10日,同月4日,同月2日,同年5月27日,同月18日,同年4月29日,同月28日,同月27日,同月24日,同月21日など。)が少なからず存在し,その全てを被災者が伝票発行作業のために月初めにパソコンの日時を前月末に変更することがあったことなどにより説明することは困難である。(乙7,15)カこれらを踏まえて検討すると,まず,前記イによれば,「勤怠データ一覧」は,被災者自身が社員証をリーダーに通すことによって機械的に記録されたものを基礎として,被災者のみならず同僚の目にもさらされた上で2回にわたり不備を補正する機会を設けて確定されるものであるから,基本的には信頼できるものということができる。 もっとも,上記「勤怠データ一覧」が信頼できるのは,当該従業員が出勤時と退勤時にリーダーに社員証を確実に通すことと,当該従業員と同じ時間帯に勤務した同僚が存在し,当該同僚が当該従業員の「勤怠データ一覧」が不正確であるときにはその旨を確実に指摘することに依拠するものであるところ,前記エによれば,被災者は,必ずしも同僚が出勤していない所定休日を中心として実労働時間を過少申告していたものと認められ,このことは被災者が生前その旨を述べていたという原告ら及びPの供述とも一致する。 そうすると,被災者の始 が出勤していない所定休日を中心として実労働時間を過少申告していたものと認められ,このことは被災者が生前その旨を述べていたという原告ら及びPの供述とも一致する。 そうすると,被災者の始業時刻及び終業時刻については,一次的には,当事者間に争いがない部分はこれにより,当事者間に争いがある部分は,原則として被災者の「勤怠データ一覧」により,被災者使用PCの操作履歴により「勤怠データ一覧」を修正すべきものと認められるときは被災者使用PCの操作履歴により,把握するほかないが(以下,このような始業 - 18 -時刻及び終業時刻の把握を「本件把握方法」という。),被災者が実労働時間を過少申告していたと認められることから,被災者の実労働時間が本件把握方法により算定される労働時間に止まるものであるか否かについては,なお慎重に検討することが必要である。 そして,被災者は,本件死亡の2日前の平成▲年▲月▲日午後11時24分頃,Pに対して送信したメール(甲22)において,「仕事的にはなんか年内はあたふたしそうな気がします(泣) 最近はなんとか日曜休むのがやっとって感じなので。 会社がグループ再編の煽りで他に合併されることになりてんやわんやなのですよ。 お盆くらいは休むつもりですのでそのときにでも宜しくです。」と記載しているところ,被災者は同月14日午後1時頃からペットの猫の手術に麻酔がかかる時間だけ立ち会った後,午後1時15分頃出社する旨を告げてS獣医科医院を出て行ったこと(甲8,32),被災者は同日午後4時5分頃本件会社から約5.7キロメートルの距離にあるスーパーでおにぎり,カップラーメン,サイダーなどを購入し,同日午後7時12分頃本件会社から約1.8キロメートルの距離にある書店で書籍を購入していたこと(甲29),同日,被災者 ロメートルの距離にあるスーパーでおにぎり,カップラーメン,サイダーなどを購入し,同日午後7時12分頃本件会社から約1.8キロメートルの距離にある書店で書籍を購入していたこと(甲29),同日,被災者が本件会社への出勤以外に自宅から自動車で40分程度離れた本件会社周辺に向かう用件があったことはうかがわれないことからすれば,被災者は,同月14日,本件会社に出社し,数時間程度の勤務を行ったものと推認することができるというべきである。同様に,被災者は同月6日午前10時から午前11時30分頃にかけてペットの猫の避妊手術に最後まで立ち会った後,午後から出社する旨を告げてS獣医科医院を出て行ったこと(甲8,32),上記手術に最後まで立ち会った被災者には外出するに当たり敢えて虚偽の口実を告げなければならない理由は認められない上,同日,被災者が本件会社への出勤以外に自宅から自動車で40分程度離れた本件会社周辺に向かう用件があったことはうかがわれないことからす - 19 -れば,被災者は,同月6日も,本件会社に出社し,数時間程度の勤務を行ったものと推認することができるというべきである。この両日について,いずれも被災者使用PCの操作履歴が残っていないことは被告指摘のとおりであるが,前記オによれば,被災者が出勤しているにもかかわらず,被災者使用PCのイベント記録が存在しない日が少なからず認められるから,被災者使用PCのイベント記録には何らかの原因で記録が欠落している日があるか,被災者にはNやOを使わずに行うことのできる業務が相当程度あったかのいずれかであると認められ,いずれにせよ,被災者使用PCの操作履歴がないことから直ちに被災者が出勤していなかったものということはできず,被災者使用PCの操作履歴がないことは直ちに上記推認を覆すものではない。 められ,いずれにせよ,被災者使用PCの操作履歴がないことから直ちに被災者が出勤していなかったものということはできず,被災者使用PCの操作履歴がないことは直ちに上記推認を覆すものではない。 また,本件把握方法による算定においては,被災者使用PCの操作履歴の最終時刻をもって終業時刻と認定しているが,メールやO,N等の使用終了時が直ちに現実の業務終了時であることは必ずしも一般的ではないから,そのような認定を行った日(別紙6のうちの*を付した日)の被災者の終業時刻については,これを個別具体的に認定することは困難であるものの,被災者使用PCの操作履歴の終了から十数分ないし数十分後であったことが少なくないものと推認されるというべきである。 キ以上によれば,本件把握方法により算定される被災者の労働時間は,別紙6の「始業時刻」から「終業時刻」までの時間である「1日の拘束時間数」から「1日の休憩時間数」を控除した「1日の労働時間数」欄記載のとおりであると認められ,被災者の時間外労働時間数(週40時間を超えた時間数)は,これに基づき算定した以下に掲げる時間に,発症前1か月間においては平成21年6月14日及び同月6日の各数時間,また,全期間を通じて,別紙6のうちの*を付した日の終業時刻後に十数分から数十分程度を加算した時間であるものと認められる。なお,別紙6は,平成2 - 20 -0年12月27日の終業時刻を12時03分,同月22日の終業時刻を22時35分と修正し,週40時間を超える時間数の算定に当たり発症前6か月間を通じて本件死亡前日から1週間単位で算定したほかは,別紙4と同一である。 発症前1か月間 72時間15分発症前2か月間 58時間11分平均65時間13分発症前3か月間 から1週間単位で算定したほかは,別紙4と同一である。 発症前1か月間 72時間15分発症前2か月間 58時間11分平均65時間13分発症前3か月間 73時間55分平均68時間07分発症前4か月間 59時間46分平均66時間02分発症前5か月間 29時間54分平均58時間48分発症前6か月間 24時間35分平均53時間06分クなお,原告らは,被災者の帰宅時間や被災者の出勤する旨の発言に加え,被災者がサービス残業を行っていた旨述べていたこと等を根拠として,前記キを超えて原告ら主張の労働時間を認めるべき旨を主張するが,被災者が勤務時間終了後に直ちに自宅に帰宅していたものと認めるべき格別の事情はなく,かえって被災者は勤務時間外にいわゆるネットカフェや漫画喫茶に行ったことなどを同僚に話しているほか,「T」という日帰り温泉施設を勤務日に利用した記録も残っているのであるから,被災者の帰宅時間のみから被災者の終業時刻を推認することはできない。また,同様に個別・具体的とはいい難い被災者の出勤する旨の発言があったことのみから被災者の就労の事実を一般的に推認することはできないから,被災者が実労働時間を過少申告していたことがうかがわれることを考慮しても,前記キを超えて原告ら主張の労働時間を認定することはできない。 さらに,原告らは,業務起因性を基礎付ける証拠の偏在,被災者のパソコンのログイン・ログアウト記録の消失等を理由として,被災者の時間外労働についての立証責任が転換又は軽減されるべき旨を主張するが,遺族補償給付及び葬祭料の不支給処分取消訴訟における業務起因性の立証責 - 21 -任はこれらの給付を求める原告側にあると解すべ 外労働についての立証責任が転換又は軽減されるべき旨を主張するが,遺族補償給付及び葬祭料の不支給処分取消訴訟における業務起因性の立証責 - 21 -任はこれらの給付を求める原告側にあると解すべきところ,原告ら指摘の上記事情のみから直ちに立証責任の転換又は軽減が認められるものとはいえないから,立証責任の転換又は軽減についての原告らの主張は失当といわざるを得ない。 (2) 新会計システム導入プロジェクト及び会計システム統合プロジェクトについてア被災者は,平成20年11月から,本件会社の本社及び茨城県内の2つの工場で使用されていた共通の会計システムと,U工場の異なる会計システムを,全社で統一するというプロジェクト(新会計システム導入プロジェクト)を,Iとともに担当した。このプロジェクトの経理チームのリーダーはIであり,被災者はサブリーダーであったが,被災者より1歳年上であるに過ぎないIと被災者との間には,被災者が工場業務に関わる経理全般を担当し,Iが会社全体の経理全般を担当するという業務分担があり,Iには分からず,被災者にしか分からない部分があって,被災者もこのプロジェクトの会議の打合せには必ず出席し,意見を述べていた。また,新会計システム自体は外部委託によって構築されたものであるが,経理部門は製品科目が相当数あり,日常業務と平行してのプロジェクトであったことから,業務量は増加し,殊に平成21年4月末から同年5月初めのゴールデンウィークには休日出勤を繰り返して,旧システムの勘定残高の移行作業に従事した。新会計システムは,当初予定どおり,同年4月から稼働しており,同年6月頃には概ね被災者の担当する業務は終了していた。 イまた,被災者は,同年6月から,同年10月のFとの合併に伴う準備として,本件会社の経理システ 予定どおり,同年4月から稼働しており,同年6月頃には概ね被災者の担当する業務は終了していた。 イまた,被災者は,同年6月から,同年10月のFとの合併に伴う準備として,本件会社の経理システムをV株式会社のものと統一化するというプロジェクト(会計システム統合プロジェクト)を,Iとともに担当した。 このプロジェクトの経理チームのリーダーもIであったが,このプロジェクトにおいては,会社毎に異なる会計勘定科目をすり合わせる必要があ - 22 -り,被災者にしか分からない部分もあって,被災者もIの求めに応じて意見を述べ,Iの作成した資料を確認したり,本件K出張におけるこのプロジェクトの打合せで意見を述べるなどした。 (3) 被災者の健康状態被災者は,平成17年4月,平成18年4月,平成19年4月,平成20年4月に実施された健康診断では,BMIが25を超え,肥満気味であり,肝機能(毎年),血中脂質(毎年),糖代謝(平成20年のみ)について要精検と判定されていたが,平成21年4月16日に実施された直近の健康診断では,前年より体重が10キログラム以上減って,BMIが24.1となり,肝機能,血中脂質,糖代謝のいずれも正常と判定されていた。 2 判断(1) 労災保険法に基づく保険給付は,労働者の業務上の死亡等について行われる(同法7条1項1号)のであり,労働者の死亡等を業務上のものと認めるためには,業務と死亡等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・判例時報837号34頁参照)。そして,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在す 参照)。そして,労災保険制度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該死亡等の結果が,当該業務に内在する危険が現実化したものであると評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・判例時報1557号58頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・判例時報1564号137頁参照)。 そこで,本件死亡が被災者の従事した業務に内在する危険が現実化したものであると評価できるか否かについて検討する。 (2) まず,本件死亡の機序について検討すると,W教授及びX医師の各意見書(甲10,11,乙34)によれば,本件においては被災者の死体解剖や死亡後の頭部CTスキャン等が行われていないため,断定するまでには至ら - 23 -ないものの,後頭下穿刺により血性髄液が得られたこと,被災者が本件死亡前に死を連想させるほどの頭痛を訴えていたこと,被災者の横に寝ていた姪が異変に気付かずに突然心肺停止になったと考えられること,被災者に脳内出血のリスクファクターが見当たらないこと等の事実からすると,被災者の死因は,脳内出血ではなく,くも膜下出血である可能性が高いものと認められる。しかし,被災者の本件死亡がくも膜下出血を死因とするものであったとしても,くも膜下出血の原因としては,脳動脈瘤の破裂が最も多いものの,脳動静脈奇形,血液の病気や内臓の病気に合併したものもあることから,その機序は必ずしも明らかではないといわざるを得ない。 そこで,本件死亡の業務起因性の有無については,こうした医学的知見のみによって判断することは困難であるから,被災者の業務の過重性の程度について検討することが必要である。 (3) 前記認定事実によれば,被 件死亡の業務起因性の有無については,こうした医学的知見のみによって判断することは困難であるから,被災者の業務の過重性の程度について検討することが必要である。 (3) 前記認定事実によれば,被災者の時間外労働時間は,本件把握方法により算定される労働時間だけでも,発症前1か月間に72時間15分,発症前2か月間ないし4か月間において,1か月当たり65時間以上(最大68時間07分)に及び,最新の医学的知見に基づく専門検討会報告書(乙1)において,業務と発症との関連性が強いとされる発症前1か月間に概ね100時間,発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね80時間を超える時間外労働までは認められないものの,これを超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まるとされる発症前1か月間ないし6か月間にわたって1か月当たり概ね45時間を超える時間外労働については発症前1か月間ないし4か月間において少なくとも20時間以上は超えており,被災者の実労働時間が本件把握方法により算定される労働時間に加え,発症前1か月間においては平成21年6月14日及び同月6日の各数時間,また,全期間を通じて,別紙6のうちの*を付した日の終業時刻後に十数分から数十分程度を加算した時間であると認められるこ - 24 -とをも考慮すれば,被災者の時間外労働は相当に長時間に及んでいたものということができる。 (4) また,前記前提事実及び認定事実(以下「前記認定事実等」という。)によれば,被災者は,平成20年11月から新会計システム導入プロジェクトに関わり,平成21年4月末から同年5月初めには新会計システムに登録するデータの確認作業や登録作業に従事し,また,同年6月からは会計システム統合プロジェクトに関わり,その打合せのために本件K出張 トに関わり,平成21年4月末から同年5月初めには新会計システムに登録するデータの確認作業や登録作業に従事し,また,同年6月からは会計システム統合プロジェクトに関わり,その打合せのために本件K出張に行ったことが認められる。これらのプロジェクトにおける経理チームのリーダーは,同僚のIではあるものの,同人には分からず,被災者にしか分からない部分もあることから,被災者も主体的に関与することが求められていたものと認められ,また,これらのプロジェクトは,日常業務にはない負担であるのみならず,将来にわたる会計システムの構築に関わる本件会社にとって重要な業務であり,会計システムの導入予定時期という期限の定めもあることから,相応の精神的緊張を伴う業務であったものと認められる。 さらに,前記認定事実等によれば,被災者は,本件K出張において,いずれも所定労働時間内は業務に従事した後に,上司を含む同僚を乗せた社用車の運転を片道約170㎞という長距離かつ不慣れな道について夜間にわたって往復とも一人で担当したことが認められ,往復とも途中で夕食を含む休憩をとっていることや被災者が毎日の通勤に自動車を用いていたことを考慮しても,相当程度の肉体的負担・精神的負担があったものと認められる。 加えて,前記認定事実等によれば,被災者は,月末月初に繁忙期となる経理業務の性質上,特に月末月初において深夜に及ぶ勤務を余儀なくされる傾向にあり,平成21年4月末から同年5月初めには新会計システム導入プロジェクトにおける新会計システムに登録するデータの確認作業や登録作業にも従事したことから,深夜に及ぶ勤務が増加し,終業時刻が午後10時を超える勤務は発症前4か月目は1日間,同5か月目は3日間,同6か月目は - 25 -3日間であるのに対し,発症前3か月目には7日 も従事したことから,深夜に及ぶ勤務が増加し,終業時刻が午後10時を超える勤務は発症前4か月目は1日間,同5か月目は3日間,同6か月目は - 25 -3日間であるのに対し,発症前3か月目には7日間,同2か月目には6日間,同1か月目には6日間に及んでいること,終業時刻が午前0時を超える勤務は発症前4か月目ないし6か月目は0日間であるのに対し,発症前3か月目には3日間,同2か月目には5日間,同1か月目には2日間に及んでいることが認められる。被災者の深夜に及ぶ勤務は,経理業務の性質に由来するものについては一定程度予測可能性があったとはいえるものの,日常業務とは異なる新会計システム導入プロジェクトに従事したこと等の影響もあって発症前3か月間に明らかな増加傾向にあったものと認められ,このような深夜に及ぶ勤務が少なからず睡眠-覚醒のリズムを障害し,生活リズムの悪化をもたらしたものと認められる。 (5) 以上のとおり,被災者は,発症前1か月間ないし4か月間にわたって相当に長時間の時間外労働に従事していた上,新会計システム導入プロジェクト及び会計システム統合プロジェクトという精神的緊張を伴う業務に相次いで従事し,生活リズムの悪化をもたらす可能性がある深夜に及ぶ勤務も増加傾向にあったところ,本件死亡のわずか2日前から3日前にかけて本件K出張に伴う長距離の夜間運転業務に従事したのであって,量的にも質的にも業務による過重な負荷があったものと認められ,他方,前記認定事実によれば,被災者の本件死亡はくも膜下出血である可能性が高いところ,被災者には喫煙習慣,高血圧保有,1週間に150g以上の飲酒といった危険因子(乙34)や基礎疾患があったことは認められないから,本件死亡は被災者が従事した過重な業務に内在する危険が現実化したものであり,本件死亡と業務と 血圧保有,1週間に150g以上の飲酒といった危険因子(乙34)や基礎疾患があったことは認められないから,本件死亡は被災者が従事した過重な業務に内在する危険が現実化したものであり,本件死亡と業務との間には相当因果関係があるものと認めるのが相当である。 3 結論以上によれば,被災者の本件死亡には業務起因性が認められ,これと異なる判断をした本件処分は違法であるから,その取消しを求める原告らの請求は理由がある。 - 26 - 東京地方裁判所民事第36部 裁判長裁判官竹田光広 裁判官松山昇平 裁判官古庄 研
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