平成15(う)63 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成15年11月20日 広島高等裁判所 広島地方裁判所 呉支部 平成13(わ)172
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判決文本文5,987 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 理由 本件控訴の趣意は,主任弁護人恵木尚及び弁護人田上剛連名作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に記載されているとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,要するに,原判決は,平成13年7月29日施行の第19回参議院議員通常選挙に際し,参議院広島県選出議員通常選挙に立候補したAの選挙運動者である被告人が,A候補に当選を得しめる目的をもって,同月17日ころ,広島県安芸郡a町内のB店において,選挙人Cほか8名に対し,黙示にA候補への投票を依頼し,その報酬として,1人あたり2570円相当の酒食の供応接待をしたと認定したが,被告人は,A候補への投票依頼をしたことはなく,投票に関する報酬の趣旨はなかったし,受供応者も供応の趣旨を認識していなかったから,原判決には,事実の誤認がある,というのである。 そこで,検討すると,関係証拠によれば,原判示の「認定した犯罪事実」中の上記の事実認定及び「補足説明」の項における説示は,証人及び被告人の供述の信用性に関する判断を含めて,当裁判所も概ね正当なものとして是認することができるから,原判決には所論のいう事実の誤認はない。そして,上記認定判断は,当審における事実取調べの結果を考慮しても左右されない。以下,所論にかんがみ,付言する。 1 関係証拠によれば,本件の事実経過は,概ね,以下のとおりであると認められる。 (1) 被告人は,かき養殖業を営みながら,昭和52年4月ころからa町議会議員を務めるとともに,D漁業協同組合組合長,E漁業協同組合連合会理事,F漁業共済組合理事を兼務していた。 (2) 受供応者とされるC,G,H,I,J,K,L,M,Nら9名は,いずれも,被告人と同じa町b地区の住民であり,同級生,組 組合長,E漁業協同組合連合会理事,F漁業共済組合理事を兼務していた。 (2) 受供応者とされるC,G,H,I,J,K,L,M,Nら9名は,いずれも,被告人と同じa町b地区の住民であり,同級生,組合員,同業者などの知人や実弟であった。 (3) 第19回参議院議員通常選挙は,平成13年7月12日公示され,同月29日投票が施行された。広島県選出議員の候補者として,O党に所属するAほか5名が届け出た。 (4) 被告人は,政党などの政治団体には加入していないが,平成八,九年ころ,P県議会議員の年始の催しに出席したことから,P議員を応援するようになり,また,P議員がO党所属のQ衆議院議員を支持していたことから,Q議員への投票を依頼するなどして応援するようになった。そして,被告人は,Q議員と同じくO党に所属するA候補についても,前回の通常選挙では選挙事務所での出陣式に出席し,出席者名簿に名前を記入したことがあり,今回も選挙事務所での出陣式にも出席したが,その後はかきの養殖の仕事が忙しいことなどもあって,同候補の選挙運動には参加していなかった。 (5) 選挙公示の数日後,被告人は,P議員の妹から,同月17日に催されるA候補の個人演説会に出席者を集めるよう頼まれ,同日の夕方までに,自ら,あるいは,実弟のMを通じて,被告人が車で送迎するなどと言って,Cら9名に対し,演説会への出席を勧誘した。 (6) 同日,被告人や上記9名は,被告人の運転する車に分乗するなどして,A候補の個人演説会の会場であるR小学校体育館に行った。演説会は,午後7時ころから始まり,a町町議会議長,P議員,Q議員などがA候補への投票を呼びかける演説をしたが,その際,被告人は,一般席ではなく,他の町議会議員などと一緒に来賓席において応援演説を聞いていた。 (7) 午後8時ころ,演 町議会議長,P議員,Q議員などがA候補への投票を呼びかける演説をしたが,その際,被告人は,一般席ではなく,他の町議会議員などと一緒に来賓席において応援演説を聞いていた。 (7) 午後8時ころ,演説会が終了した後,被告人らが車で帰ろうとしたところ,上記9名のうちの1人が「暑かったのう。冷たいのを一杯飲みたいのう。」などと言った。そして,被告人は,同人らに対し,「皆,疲れているのにすまんのう。帰りにBで冷たい物でも飲もう。わしがおごるけえ。」などと声をかけ,被告人の車に分乗するなどして,a町内の飲食店B店に行った。 なお,被告人らは,捜査段階では,上記の事実に沿った内容の供述をしていたが,原審の公判廷においては,被告人が自分のおごりで一杯飲もうと誘う趣旨の発言をしたことはないなどと供述し,捜査段階の供述を変遷させている。しかしながら,飲食後,上記9名は,飲食代金の額や支払いの確認をしないまま,順次,帰宅し,被告人が,当然のことのように飲食代金全額を1人で支払う旨店主に告げていることなどに照らすと,被告人らの原審の公判供述はたやすく信用できない。 (8) 被告人らは,B店において,生ビール,焼酎,つまみなどを飲食した。飲食後,被告人は,自分が飲食代金合計2万5700円を支払うと店主に告げて帰り,同月27日ころ,被告人の妻が代金全額を支払った。 (9) 被告人は,投票日後の同月30日,本件飲食について警察が捜査していることを聞き及び,同日及び翌日にかけて,妻と手分けして,飲食代金は割り勘にするなどと言って,上記9名から1人あたり2570円を徴収した。 (10) 被告人は,同人らを送迎する際,同人らに対し,A候補への投票を要請する発言をしたことはないし,B店の店内においても,被告人らのほかにも,カラオケなどに興じる客が何名かおり,被告 収した。 (10) 被告人は,同人らを送迎する際,同人らに対し,A候補への投票を要請する発言をしたことはないし,B店の店内においても,被告人らのほかにも,カラオケなどに興じる客が何名かおり,被告人が,投票依頼などをしたことはない。 2 なお,捜査状況報告書(原審検第2号証)には,一般の客を装った警察官らは,B店の店内において,被告人らのうちの1人が,ほかの女性客から,「今日は,何の寄り合いね。」と聞かれ,いったんは返答を渋ったが,「Aさんの分じゃろ。」と質問され,「ほうよ,ほうよ。わしらがせんにゃ誰もするもんがおらんけぇ。Sさんがすりゃええんじゃが,あの人がせんけぇ,わしらがするんよ。 この9月には,Tさんのもあるけえ,やったげんにゃいけんのじゃ。」などと話していたことを聴取したとの記載がある。そして,当審における証人U及び証人Mの各供述によれば,MがB店において他の客との会話でA候補の個人演説会に行ってきたなどと話をしたことはうかがわれるものの,他方,U及びMは,いずれも,趣味としているカラオケの話となり,カラオケ大会に参加しないかとか,カラオケグループのSさんが大会に出たらいいなどと話したことはあるが,A候補への応援などについて会話をしたことはないなどと供述しており,Uと一緒にB店で飲食していたVの警察官調書(原審検第12号証)によれば,MがUや自分がいるテーブルでカラオケの話をしたことや,店内では,Sらの女性グループがカラオケをしていたことも認められる。そうすると,捜査状況報告書の上記会話聴取部分の記載が,一連のつながりのある会話としてなされたものかどうかは疑わしく,全体がA候補の選挙応援などに関する趣旨でなされたものと断定することはできない(上記捜査状況報告書の記載部分を裏付ける十分な捜査はなされていない。)のであり,B店の なされたものかどうかは疑わしく,全体がA候補の選挙応援などに関する趣旨でなされたものと断定することはできない(上記捜査状況報告書の記載部分を裏付ける十分な捜査はなされていない。)のであり,B店の店内における飲食の際,被告人らの間で,A候補への投票や応援について何らかの会話がなされたと認めるに足りる証拠はない。 したがって,原判決が上記の捜査状況報告書中の会話部分を受供応者の供応の趣旨の認識を推認させる根拠としたのは相当でなく,この点に関する弁護人の所論は理由がある。 3 これらの事実関係によると,被告人は,本件飲食の際や演説会への送迎の際にも,受供応者とされる9名に対し,言葉に出して,A候補への投票を要請するなどしたことはないし,被告人らが,本件飲食の際,A候補の個人演説会のことなど,参議院選挙について何らかの会話をしたことを認めるに足りる証拠はない。また,本件飲食は,被告人が当初から予定していたものではなく,被告人が個人演説会への出席を勧誘した者のうちの1人が一杯飲みたいなどと言ったことがきっかけとなり,被告人が同人らを飲食に誘うこととなったものである。そうすると,被告人が,検察官調書(原審検第37号証)において,「特に,私が参加を呼びかけたメンバーは,私の頼みで,わざわざ暑い中,仕事の手を休めて来てもらったわけですから,その労をねぎらわなくてはならないと思い,みんなに酒でもごちそうしなければならないと思いました。」などと供述し,自分の頼みで演説会に出席してくれた労をねぎらいたいとの気持ちとなったというのも,十分に首肯できるものである。 しかしながら,他方で,被告人は,長年にわたりa町議員として政治活動をしていたものであり,A候補が所属する政党の衆議院議員の選挙運動をしたことがあるほか,A候補についても,今回の通常選挙を含め,選 しかしながら,他方で,被告人は,長年にわたりa町議員として政治活動をしていたものであり,A候補が所属する政党の衆議院議員の選挙運動をしたことがあるほか,A候補についても,今回の通常選挙を含め,選挙事務所の出陣式に出席するなどして,その選挙応援をしていた。そして,本件当日は選挙期間中であるところ,被告人は,応援している県議会議員の妹から,A候補の個人演説会への出席者を集めるよう依頼され,これに応じて,知り合いら9名を誘って,被告人の運転する車に乗せるなどして,同人らと共に,特定の候補者への投票依頼を目的とする個人演説会に参加し,しかも,一般の聴衆者の席ではなく,選挙運動者らが同席する来賓席において個人演説会に参加していたのであるから,上記9名に対し,直接的ではないにしても,A候補への投票に結びつくことを期待して,個人演説会に勧誘したものであり,同人らから,被告人自身がA候補を応援支持していると理解されることを十分に分かっていたというべきである。被告人は,他の者が言い出したとはいえ,被告人が個人演説会に誘った9名全員を対象として,個人演説会の終了後,これに引き続いて,自分の費用で飲食することを申し出て,居酒屋において1人あたり2570円相当の飲食物の供応接待をしている。被告人は,居酒屋では,同人らに対し,直接的にはA候補への投票依頼をしていないが,これはほかにも客がいたとの事情があったからと考えられる。また,今回の飲食に,特定の候補者の個人演説会に参加したことに対する慰労以外の目的や趣旨があったわけではないから,こうした慰労そのものが,特定の候補者への投票を促すことにつながることは明らかである。そうすると,被告人が自分の費用で受供応者らを接待したのは,主として,個人演説会に出席したことへの慰労であるが,副次的に投票依頼の趣旨を含む行為 補者への投票を促すことにつながることは明らかである。そうすると,被告人が自分の費用で受供応者らを接待したのは,主として,個人演説会に出席したことへの慰労であるが,副次的に投票依頼の趣旨を含む行為であるといわざるを得ない。そして,選挙期間中における,このような供応が特定の候補者への投票を働きかける趣旨を含んでいることは,受供応者をして容易に理解させるに足りるものであるということができる。また,被告人が,本件発覚後,受供応者らから,急遽,飲食代金を徴収しているのも,これを裏付けるものである。 そうすると,本件の飲食物の提供が,A候補への投票を依頼したことへの報酬の趣旨であったとの捜査段階における被告人及び受供応者らの供述は,本件供応接待の経緯とも合致し,十分に信用できる。 4 所論は,原判決が,Iら受供応者らの公判供述は,検察官調書における供述と比べて信用できないと説示しているのは不当である,というのである。 しかしながら,Iらの公判供述は,被告人がA候補の個人演説会への出席を依頼しているのに,被告人がA候補の応援をしているとは思わなかった,個人演説会で演説者が「頼みます。」と言っているのに,その趣旨については投票を依頼するものであるとは思わなかった,B店に行く以前に,B店に行こうという話が出たことはなく,何も話がないまま,B店に行ったなどというものであって,原判決が説示しているとおり,これらの供述は不自然といわざるを得ない。受供応者らは,本件犯行を争っている被告人と親しい関係にあり,被告人の面前では,被告人にとって不利になる事実を供述できない状況にあることが,上記のように不自然な供述をした重要な原因であるとうかがわれる。他方,Iらの検察官調書は,上記の事実経過とも,よく符合しており,十分に信用できる。 また,所論は,被告人は, ない状況にあることが,上記のように不自然な供述をした重要な原因であるとうかがわれる。他方,Iらの検察官調書は,上記の事実経過とも,よく符合しており,十分に信用できる。 また,所論は,被告人は,早く釈放してもらうために警察官の要求する内容に合わせて供述したものであり,被告人の捜査段階の自白には任意性がないし,被告人は,具体的な投票依頼もしていないから,供応の認識はなく,捜査段階の自白には信用性はない,というのである。 しかしながら,被告人の捜査段階での供述調書をみると,被告人が受供応者らに対し投票の依頼を言葉に出したことはない,本件飲食は演説会に出席してくれた人への慰労が主目的であり,投票依頼は副次的な目的であるなどと被告人の言い分や有利な内容も記載されているのであって,原判決が指摘するとおり,その任意性には疑いがないうえ,上記説示のとおり,本件飲食の経緯ともよく合っており,不自然,不合理な点はなく,十分に信用できる。 そのほか,弁護人がいろいろと主張するところを全て検討しても,原判決の上記事実認定は正当であって,事実の誤認はない。 論旨は理由がない。 よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 平成15年11月20日広島高等裁判所第一部裁判長裁判官久保眞人裁判官芦高源裁判官島田一

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