平成24(わ)265 傷害致死被告事件

裁判年月日・裁判所
平成25年2月27日 高知地方裁判所
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判決文本文7,182 文字)

平成24年(わ)第265号傷害致死被告事件平成25年2月27日宣告高知地方裁判所 主文 被告人を懲役5年に処する。 未決勾留日数中120日をその刑に算入する。 理由 【犯罪事実】被告人は,高知市a町b丁目c番d号eビルf階「g」の常連客であったところ,平成24年4月12日の深夜に同店に来店し,カウンター席で飲酒していた。同じカウンター席には,同日の夕方に来店したA(当時45歳。以下「被害者」という。)が飲酒していたところ,同月13日午前1時過ぎから,女性店員が,閉店するにあたって被害者に飲食代金の支払いについて何度も尋ねたが,被害者はあいまいな返答に終始していた。 被告人は,これを横で見聞きし,被害者が店に迷惑を掛けていると感じて腹を立て,同日午前1時55分ころ,「なんなぁ。」と言って,座っていた椅子から立ち上がり,椅子に座っていた被害者に向かっていき,いきなりその顔面付近をげんこつで立て続けに数回殴った。その結果,被害者は,椅子ごと転倒し,その右側頭部を床面に強打した。被告人は,さらに倒れた被害者の背中を蹴った。これらの暴行によって,被害者は,頭部打撲による硬膜下出血,頭蓋骨骨折,くも膜下出血及び背面の右側腰部打撲傷の傷害を負い,同月20日ころ,高知市h町i番j号kl号同人方において,前記硬膜下出血により死亡した。 【証拠の標目】(省略)【事実認定の補足説明】 1 暴行と死亡との因果関係及び暴行態様について(1) g店内での暴行以外で被害者が右側頭部を打った可能性についてア本件では,被告人が平成24年4月13日午前1時55分ころにg店内で被害者に暴行(その態様には争いがある。)を加えた結果,被害者が椅子ごと転倒して床で頭部(左右のどちらかについては争いがある。)を打った 人が平成24年4月13日午前1時55分ころにg店内で被害者に暴行(その態様には争いがある。)を加えた結果,被害者が椅子ごと転倒して床で頭部(左右のどちらかについては争いがある。)を打ったことに争いはなく,このことはB証人,C証人及び被告人の供述によって容易に認められる。また,自宅内で遺体で発見された被害者を解剖した医師によれば,被害者は,同月20日ころに硬膜下出血により死亡したと見られるが,死亡の約1週間前から数日前に,その硬膜下出血を引き起こした外力を右側頭部に受けたものであると推定され,かつ,g店内で被害者が右側頭部を打ったのであればこの外力が硬膜下出血を引き起こしたと考えて矛盾はないとのことである。 しかしながら,被害者がg店内で転倒し頭部を打ったことを前提にしても,硬膜下出血は外見からだけでは判断できず,被害者は転倒直後に医師の診断を受けたわけではないので,被害者が転倒時に右側頭部を強打し硬膜下出血を起こしたと直ちに断定することはできない。したがって,被害者が死亡の約1週間前から数日前に,g店内で被告人から暴行を受けたのとは異なる場面で,右側頭部を打った合理的疑いがあるかどうかを,死亡時から遡って順に検討する。 イ(ア)平成24年4月13日に被害者が自宅に帰ってから,被害者宅で死亡するに至るまで被害者の携帯電話の発着信の状況や,Dらが被害者宅を訪れた際の被害者の様子から窺える被害者の病状に照らせば,被害者が帰宅後外出した可能性は乏しい。また,解剖医によれば,室外,例えば階段のようなところで倒れれば,頭部とは別の部位にも傷が残るし,アスファルトの上などで倒れれば,本件の被害者の外傷とは異なる傷が残るというのであり,この点からも被害者が室外で転倒したとは考えにくい。 さらに,被害者宅の室内には,転倒をするなどし も傷が残るし,アスファルトの上などで倒れれば,本件の被害者の外傷とは異なる傷が残るというのであり,この点からも被害者が室外で転倒したとは考えにくい。 さらに,被害者宅の室内には,転倒をするなどして右側頭部を骨折する危険のある場所はほとんどない。 加えて,gでの暴行の後警察で撮影された被害者の写真(甲13)によれば,被害者はその時点ですでに右側頭部を打撲しており,解剖医によれば,遺体にはその部位にしか外力を受けた痕跡はないので,その被害者が,転倒して硬膜下出血を負ったとすれば,一度右側頭部を打った被害者がほぼ同じ部位をもう一度打ったということになるが,常識に照らしてそのような偶然は考えがたい。 そうすると,被害者が,自宅に帰ってから,死亡するまでの間に転倒するなどして硬膜下出血の傷害を負ったとは考えられない。 (イ)g店内で転倒した被害者が起き上がった後,被害者が自宅に帰るまでg店内では,C証人,B証人,E証人及びF証人のいずれもが,被害者が倒れたり,頭を打ったところを見ていない。さらに,g店内から被害者がパトカーで警察に向かってから,自宅に帰るまでの場面については,C証人,F証人,D証人及びG証人のいずれもが,被害者が倒れたり,頭を打ったところを見ていない。 したがって,転倒した被害者が起き上がった後,被害者が自宅に帰るまでの場面で,被害者が硬膜下出血の傷害を負ったとは考えられない。また,後に認定するとおり,被告人は,転倒した被害者が起き上がるまでの間にその背中を1回足蹴りにしているが,これによって硬膜下出血の傷害を負った可能性もない。 なお,g店内での暴行の数時間後に本件現場に臨場した救急隊員は,被害者の右側頭部の赤みを確認していない旨供述しているが,これは,その前に現場に臨場した警察官が,無銭飲食の犯人である 能性もない。 なお,g店内での暴行の数時間後に本件現場に臨場した救急隊員は,被害者の右側頭部の赤みを確認していない旨供述しているが,これは,その前に現場に臨場した警察官が,無銭飲食の犯人である被害者が,大したけがでもないのに救急車を要求したと思っていたことが窺われることからすれば,そのような警察からの通報を受けた救急隊員の予断のためか,見落としたものと思われる。 (ウ)g店内における被告人の暴行が始まる以前被告人の暴行が始まる以前からg店内にいたD証人,C証人,B証人及び被告人のいずれもが,被害者が怪我をしていた様子や,頭を打ったところを見ていないから,この場面で被害者が硬膜下出血の傷害を負ったとは考えられない。 ウ以上のとおり,gでの転倒時以外の場面で被害者が硬膜下出血の傷害を負った合理的疑いは全て排除される。 (2) 被告人の暴行態様についてア検察官は,公訴事実記載の主位的訴因として,被害者の「顔面付近をげん骨で数回殴った」と主張し,これに対し,弁護人及び被告人は,「被害者の胸ぐらを手でつかんで前後に揺さぶった」と主張する。そこで,検察官は,前記訴因が認められなかった場合の予備的訴因として,前記の暴行態様に代えて,被害者の「胸ぐらを手でつかんで前後に揺さぶった」との主張を追加した。 この点について,同店の男性店員であり,本件現場においてカウンター席の後方に座っていたBは,公判廷において,「被告人は,被害者の左のこめかみ付近を2,3回殴り,被害者は座っていた椅子から転落して,右側頭部を打った。被告人は,倒れた被害者の背中を蹴った。」と供述した。Bと被告人はもともと友人である一方で,Bと被害者とは,顔見知りではあるもののそれほど親しい関係にあるとは認められないから,ことさら被告人に不利な嘘をつく動機は 被害者の背中を蹴った。」と供述した。Bと被告人はもともと友人である一方で,Bと被害者とは,顔見知りではあるもののそれほど親しい関係にあるとは認められないから,ことさら被告人に不利な嘘をつく動機はない。捜査段階の供述と比較しても信用性に影響するような変遷は認められない。Bは,その目の前で被告人の行動を見ており,もともと酒には強く,本件犯行当時かなり飲酒していたが,前後不覚に酔っていたわけではない。そうすると,そのようなBが,実際に殴ってもいないのに殴ったと勘違いするとは考えられないし,被告人は実際には被害者が床に転倒した後に被害者を殴ったのに,椅子に座っている被害者を殴ったと勘違いしたとも考えられない。 gの女性店員であるCは,公判廷において「自分と被害者が,gでの被害者の飲食代金の支払い方法等について話していると,被告人が突然『なんなぁ。』といって,被害者につかみかかるように見えた。実際につかみかかったかどうかは,被告人の背中で見えていない。その後,一瞬で,被害者が椅子と一緒に倒れるのが見えた。」と供述した。Cは,かなり慎重に証言している様子が窺われたが,店の常連客である被告人にことさらに不利な供述をする動機はない。被害者が一瞬で倒れたのであれば,2,3回殴ったというB証人の供述とは整合しないようにも思えるが,B証人の供述によっても,被告人が殴りかかってから被害者が倒れるまではあっという間の出来事であったというのである。時間をどのように感じて表現するかは,人それぞれ個性があるのであることを踏まえれば,C証人の供述とB証人の供述とは矛盾するものではない。 また,B証人は,被告人は被害者の顔面を殴っていたかもしれないとも供述しているし,被害者は眼鏡を掛けていたことから一部の傷は転倒時についた可能性もあることを考えれば,B証 矛盾するものではない。 また,B証人は,被告人は被害者の顔面を殴っていたかもしれないとも供述しているし,被害者は眼鏡を掛けていたことから一部の傷は転倒時についた可能性もあることを考えれば,B証人の供述は,本件犯行後数時間経過した後に警察署で撮影された被害者の顔の傷の写真(甲13)とも矛盾しない。 さらに,同じころ警察署で撮影された写真(弁4)に写った被告人の手の甲にはっきりとした赤みがなかったとしても,殴った後数時間経てば赤みが引くことも不自然ではないから,B証人の供述とこれらの写真も矛盾しない。 これに対し,被告人は,公判廷において,椅子に座っている被害者の胸ぐらをつかんで前後に揺さぶって手を離した,倒れた後の被害者の頭に足をのせたと供述する。しかしながら,解剖医によれば,前記の被害者の顔面の傷(甲13)の内,口元の傷などは転倒した際についたとは考えられないとのことであり,そうすると,被告人が供述する暴行態様では,これらの傷がついた原因を説明できない。また,被告人の供述は,合理的な理由がなく捜査時点から変遷している。そうすると被告人の供述を信用することはできない。 イ次に,死因と直接結びつくものではないものの,被害者が椅子ごと転倒した後の暴行態様についても,ここで検討する。 前記のとおり信用できるB証人の公判供述によれば,被告人が倒れた被害者に対し,その背中を1回足蹴りにする暴行を加えたことが認められる。Bが見間違えをしたり記憶を混同させたりする可能性は考えられない。 これに対し,被告人は,公判廷において,倒れた被害者の右側頭部に左足を乗せただけである等と供述するが,B証人の供述と矛盾し,信用することはできない。 (3) 以上によれば,被告人が判示認定の態様で椅子に座っている被害者に暴行を加えたことにより,被害者が 部に左足を乗せただけである等と供述するが,B証人の供述と矛盾し,信用することはできない。 (3) 以上によれば,被告人が判示認定の態様で椅子に座っている被害者に暴行を加えたことにより,被害者が椅子ごと転倒し,その右側頭部を床で強打して硬膜下出血の傷害を負ったものと認められる。 2 因果関係の相当性について検察官は被告人の暴行と被害者の死亡結果との間には相当因果関係があると主張し,弁護人は,被害者が被告人の暴行によって硬膜下出血の傷害を負ったとしても,被害者が死亡するまでの経緯を見れば,被害者の死亡の結果について,被告人に責任を負わせることはできないから,被告人の暴行と被害者の死亡結果との間には相当因果関係が認められないと主張する。 解剖医によれば,本件犯行から,被害者が死亡するまでの間に,被害者が病院で医師の診察を受け,適切な治療を受けていれば,死亡結果を避けられた可能性はある。そこで,本件犯行と被害者の死亡結果との間に,通常考えられないような異常な事情が介在した結果,病院で診察を受ける機会を逃し,死亡するに至ったといえるか否かを検討する。 暴行の2時間半後に,被害者の無銭飲食について本件現場に臨場した警察官であるEは,被害者が頭の痛みを訴えたことなどから救急隊員を呼んでいる。Eは,臨場した救急隊員であるFに対し,被害者が頭を打った疑いがあることや頭の痛みを訴えていることを伝えていないが,Eとしては,被害者の話し方などには特に異常を感じておらず,被害者が,無銭飲食の取調べから逃れるために大げさに病状を訴えて,「救急車を呼ばないと何も話さない。」旨述べたことから仕方なく呼んだとも窺えるので,上記の各事情を伝えていないことも異常とはいえない。 Fは,右側頭部の皮下出血を見落としていたものであるが,大した問題で 急車を呼ばないと何も話さない。」旨述べたことから仕方なく呼んだとも窺えるので,上記の各事情を伝えていないことも異常とはいえない。 Fは,右側頭部の皮下出血を見落としていたものであるが,大した問題ではないと考えていたEの態度から,F自身もそのような予断を持っていたとも考えられるし,被害者本人は,話し方や足取りもしっかりしていて,脳疾患を疑わせるような神経症状等はなかったのであるから,救急搬送の必要がないと判断したことも異常とはいえない。 その後,被害者は,警察署において,取調べ中にもかかわらず床で寝るなど,やや不自然な態度を取っているが,被害者を取り調べた警察官であるGは,被害者が酔っ払っていると考えていたのであるから,この時点で119番通報するといった措置を採らなかったことも異常とはいえない。 被害者の友人らは,暴行のあった日に被害者を警察署から自宅まで送る時,被害者に病院に行くよう促しているが,被害者はこれに応じなかった。友人らが平成24年4月14日に一人暮らしの被害者方を心配して訪れた時には,被害者は,友人らの呼びかけにほとんど反応せず,部屋の中を歩く時にも足取りがふらついていた。友人らは,この時も,身体に異常があるようなら病院へ行くなどするようにと促しているのであって,友人にこれ以上のことを期待するのは無理である。したがって,このような経過は異常とはいえない。 また,被害者にしても,自身の体調の異常について,何らかの疾患の疑いは持つにしても,時間が経つにつれ,硬膜下出血等の影響により,判断能力も徐々に低下していたと考えられることも踏まえれば,それが直ちに重篤な結果に繋がるとの危機感を持たず,適切な手段に出ないことがあったとしても,異常な事態とはいえない。 また,これらの経緯全体を見ても異常とはいえない。したがって,被害者は まえれば,それが直ちに重篤な結果に繋がるとの危機感を持たず,適切な手段に出ないことがあったとしても,異常な事態とはいえない。 また,これらの経緯全体を見ても異常とはいえない。したがって,被害者は,異常な事情が介在した結果ではなく,被告人の暴行によって生じた死亡の危険が 現実化した結果,死亡したものといえるから,被告人の暴行と被害者の死亡結果との間には相当因果関係が認められる。 3 被告人が被害者に暴行を振るった動機・経緯について信用できるB証人及びC証人は,被告人がいきなり被害者を殴った,あるいはいきなり被害者につかみかかっていったと供述しており,被害者が被告人に反抗的な態度を取ったとは認められない。被告人とCの関係を考えれば,被告人が被害者の言動に立腹していきなり「なんなぁ。」と声をあげて被害者に殴りかかったのも不自然ではない。 被告人は,この点について,被害者のC証人に対する態度に立腹して,「ちゃんとせえや。」と言ったのに対して,被害者が「うるさい,いらんこと言うな。」などと反抗的な態度を取ったと供述するが,すぐ近くにいたC証人に,これらの発言が聞こえなかったとは考えられず,被告人の供述は信用できない。 【法令の適用】(省略)【量刑の理由】被告人は,突然,椅子に座っていた被害者に殴りかかった。被害者は防御することも,その場で踏ん張ることもできずに倒れ,床で右側頭部を強打したものであり,殴ったのが数回にとどまるとしても,危険な行為であった。しかも,被害者には,gの常連客に過ぎない被告人にいきなり殴られるような落ち度はなく,動機に酌量の余地はない。もっとも,被害者に関わった警察官や救急隊員が救急搬送等の措置を採らなかったことは不適切とまではいえないが,もっと丁寧な対応がなされていれば助かった可能性はあり ち度はなく,動機に酌量の余地はない。もっとも,被害者に関わった警察官や救急隊員が救急搬送等の措置を採らなかったことは不適切とまではいえないが,もっと丁寧な対応がなされていれば助かった可能性はあり,被告人に対する非難の程度はやや弱まる。 以上の事情を考慮すれば,被告人には,懲役5年が相当である。 (検察官野崎高志並びに国選弁護人伊野部啓〔主任〕及び同中内功各出席,検察官の求刑:懲役6年)平成25年3月8日高知地方裁判所刑事部 裁判長裁判官平出喜一 裁判官大橋弘治 裁判官佃良平

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