【DRY-RUN】主 文 本件上告を棄却する。 理 由 弁護人山口貞昌上告趣意第一点について。 大審院は、明治憲法と裁判所構成法とに基く組織と構成と権限を有する裁判所で あり
主文 本件上告を棄却する。 理由 弁護人山口貞昌上告趣意第一点について。 大審院は、明治憲法と裁判所構成法とに基く組織と構成と権限を有する裁判所であり、最高裁判所は、厳粛な歴史的背景の下に、日本国憲法と裁判所法とに基く組織と構成と権限を有する裁判所である。共に司法権を行使する機関であり又わが国における最上級の裁判所であるという関係において、相互の間にもとより幾多の類似点がないのではないが、両者の組織、構成、権限、職務、使命及び性格が著しく相違することは、敢て多言を要しないところである。従つて、最高裁判所は所論のように、大審院の後身でもなく、その承継者でもなく、又両者の間に同一性を認めることもできない。されば、論旨のごとく大審院に繋属した事件は、最高裁判所において当然継承して審判しなければならぬという道理もなく、かかる憲法の法意が存在するとも考えられない。最高裁判所の裁判権については、違憲審査を必要とする刑事、民事、行政事件が終審としてその事物管轄に属すべきことは、憲法上要請されているところであるが(第八一条)、その他の刑事、民事、行政事件の裁判権及び審級制度については、憲法は法律の適当に定めるところに一任したものと解すべきである。そして、最高裁判所は必ずしも常に訴訟の終審たる上告審のみを担任すべきものとは限らない。外国の事例も示すように時に第一審を掌ることも差支えない(裁判所法第八条参照)。又必ずしも常に最高裁判所のみが終審たる上告審の全部を担任すべきものとは限らない。他の下級裁判所が同時に上告審の一部を掌ることも差支えない。わが国の過去においても下級裁判所たる控訴院が上告の一部を取扱つた事例もあり、又現在においても下級裁判所たる高等裁判所が地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決 一部を掌ることも差支えない。わが国の過去においても下級裁判所たる控訴院が上告の一部を取扱つた事例もあり、又現在においても下級裁判所たる高等裁判所が地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に対する上告について、裁判権を有してい- 1 -る(裁判所法第一六条)。その間における法律解釈統一の問題は、他におのずから解決の方法が幾らも存在し得る。されば、裁判所法施行令第一条が、「大審院においてした事件の受理その他の手続は、これを東京高等裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなす」旨を規定したのは、毫も憲法の法意又は裁判所法第七条の規定に牴触する違法ありとは考えられない。論旨は、それ故に理由なきものである。 同第二点について。 最高裁判所は、大審院の後身乃至承継者でないこと、並に、裁判管轄及び審級制度は、違憲審査権の最終審を除く外は、一に法律の定めるところに委されていることは、前に述べたとおりである。従つて、憲法及び司法制度の一大変革期にあたり、明治憲法及び裁判所構成法は廃止せられ、代つて日本国憲法及び裁判所法は実施せられ、その施行の際廃止となつた大審院において従来受理していた一群の訴訟事件をいかに処理するかは問題ではあるが、所論のごとく最高裁判所の開設と共に「事物当然の順序として」当裁判所において審理さるべきものと論定し去ることはできない。かかる一群の特殊な事件については特例を設け、法律(裁判所法施行法第二条)をもつて「政令の定めるところによりこれを最高裁判所又は下級裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなす」と規定し、この委任に基き政令(裁判所法施行令第一条)をもつて「大審院においてした事件の受理その他の手続は、これを東京高等裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなし」、同裁判所はかかる事件につき大審院と同一 任に基き政令(裁判所法施行令第一条)をもつて「大審院においてした事件の受理その他の手続は、これを東京高等裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなし」、同裁判所はかかる事件につき大審院と同一の裁判権を有する旨を規定したことは、もとより適法であつて憲法の精神又は裁判所法第七条に違反するところはない。裁判所法第七条は同法施行後新に提起される上告事件(高等裁判所の第二審判決及び地方裁判所の第一審判決に対する上告に限る)に関するものであり、旧事件には適用がないことを明かにしたのが、裁判所法施行法第二条であつて、旧上告事件は同条及び裁判所- 2 -法施行令によつて処理される訳である。これらの規定は、法律改廃の際における経過規定として当然定め得べきことを定めたに過ぎないものであつて、所論のように裁判所法第七条の効用を削減し施行法規の使命に副わざるものであると言うことは当を得ない。又裁判所法施行法第二条は、いわゆる旧事件の裁判権をいかに配属せしめるかを一切政令に委したものと解すべきであるから、政令たる裁判所法施行令が旧大審院事件を東京高等裁判所の管轄に属せしめた結果最高裁判所に配属せしめられる旧事件が全然なくなつたとしても、それは、論旨のごとく、裁判所施行法第二条の委任の趣旨に背いた違法があるとか又裁判所法第十七条に適合しないとかの非難を加えることはできない。又大審院は廃止せられかかる一群の訴訟事件は、最早大審院において審判を受けることができなくなつたから、東京高等裁判所において旧大審院と同様に特に五人の裁判官の構成による合議体をもつて審判すべきものとし、又大審院の裁判権と同様に従来どおり量刑不当及び事実誤認の上告理由をも許すべきことを規定し、更に又実際の運用においても主として従来の大審院判事が引き続きその衝に当ることができるように構想せら とし、又大審院の裁判権と同様に従来どおり量刑不当及び事実誤認の上告理由をも許すべきことを規定し、更に又実際の運用においても主として従来の大審院判事が引き続きその衝に当ることができるように構想せられたものであつて、立法の上で国民の基本的人権は十分に尊重せられている。従つて、憲法の精神に背くところはない。論旨は、それ故に理由がないのである。 同第三点について。 論旨は、「当然最高裁判所において処理すべき事件を殊更下級裁判所の管轄と定めた」ことを前提として既得権侵害を主張するのであるが、かかる前提の採用すべからざることは、前述のとおりであるから、国民の既得の権利利益を不当に抑損したものでないことはおのずから明白である。いわゆる旧事件の訴訟関係人に対しては、裁判所法施行法及び裁判所法施行令によつて裁判所において裁判を受ける権利を明確に認めているのであるから、憲法第三二条に違反するという非難も当らない。 この論旨も、それ故に理由なきものである。 - 3 -本件に対する裁判官沢田竹治郎の意見は次のとおりである。 再上告趣意第一点について。 (一) 日本国憲法(以下憲法と略称する)第七十六条第一項と同第七十九条第一項との二つの規定に鑑みると、憲法は裁判官の員数、下級裁判所の種類員数を定めること則ち裁判所の審級構成の定を挙げて法律に一任しているのだと解せられる。 かように憲法が法律に一任したのは、裁判事務も他の事務と等しく社会情勢の変遷に伴いその裁判の対象となる事件の性質、種類は勿論その数にも、たえず異同を生ずることは必然であるから、司法の使命を十分に達成するにはこの異同に即応して事件の審理を公正に迅速に進めうる裁判所の審級構成を容易に整えることが必要であつて、それには裁判所の審級構成を改正手続の法律に比して厳正複雑な憲法で定めておくよりも、法律 するにはこの異同に即応して事件の審理を公正に迅速に進めうる裁判所の審級構成を容易に整えることが必要であつて、それには裁判所の審級構成を改正手続の法律に比して厳正複雑な憲法で定めておくよりも、法律で定めておくのが時宜に適するからである。そこで裁判所の審級構成を定めるには当然にどういう事件はどの裁判所の管轄とするかということが前提となるのである。従つて憲法で管轄裁判所が規定せられていない事件のすべてを、どの裁判所の管轄とするかということを法律で定めることにしておかないのでは、法律で裁判所の審級構成を定めることができぬわけである。しかるに憲法で管轄裁判所について規定しているのは、その第八十一条だけである。それ故に同条で最高裁判所の管轄として定めている事件即ち法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを終審として決定する事件(以下違憲審査事件と略称する)以外のすべての事件を、どの裁判所の管轄と定めるかは挙げて法律に一任するというのが憲法の精神趣旨だといわなくてはならぬ。従つて仮に法律で違憲審査事件以外のすべての事件を下級裁判所の管轄に属せしめると定めたとしても、その法律は憲法の精神に反するものだとはいえない。しかも最高裁判所が法律、命令、規則が憲法に適合するかしないかの決定をするのは行政事の裁判にのみ限らぬ民事や刑事の裁判にもありうることであるから最高裁判所に違憲審査事件のみを取扱わせるとい- 4 -う法律は最高裁判所に民事刑事の裁判を取扱わせないということを定めたものとはいえぬ。故に右法律は最高裁判所に民事、刑事の裁判を取扱はしめることを精神とする憲法に反するものだとはいえない。 (二) 憲法は特にその第八十一条で違憲審査事件についての法の解釈の統一を最高裁判所の任務と定めているが、その他の事件についての法の解釈の統一については 精神とする憲法に反するものだとはいえない。 (二) 憲法は特にその第八十一条で違憲審査事件についての法の解釈の統一を最高裁判所の任務と定めているが、その他の事件についての法の解釈の統一については何等定めていないところから考へると、その他の事件についての法の解釈の統一をどの裁判所でするかは法律の定むるところに一任する憲法の精神であつて、法の解釈を統一するためにすべての上告を最高裁判所に取扱わせなければならぬとする憲法の精神でないことは明かである。 (三) 裁判所法はその第十六条第三号に「地方裁判所の第二審判決及び簡易裁判所の第一審判決に対する上告」と規定していて上告事件でも、これらは高等裁判所の管轄に属せしめているから同法第七条で最高裁判所の管轄に属すると規定している上告は高等裁判所の第二審判決又は地方裁判所の第一審判決に対する上告のみに限られているのはいうをまたぬ。故に同条の規定があるからといつて同法が上告事件の全部を最高裁判所の管轄に属せしめるという憲法の法意を紹述したものだとはいえない。 (四) 最高裁判所は憲法で直接設けられ、違憲審査事件の終審裁判所たる任務の他に、規則を制定し、下級裁判所の裁判官を指名する権限をあたへられ又裁判所法で最高裁判所の職員並びに下級裁判所及びその職員を監督する権限をあたへられている。しかるに大審院は裁判所構成法で設けられ、しかも最高裁判所の有する任務権限に相当するものの一つもあたへられていない。即ち最高裁判所は立法権及行政権が憲法から逸脱して権限を行使することを抑止する新な国家機関たる地位を占め、嘗て司法大臣に属していた裁判所の人事行政その他の司法行政の権限をもつているのに、大審院はかような地位と権限とをもつていなかつたことだけに見ても、最高- 5 -裁判所の国法上の地位、性格及機能が大審院のそれと に属していた裁判所の人事行政その他の司法行政の権限をもつているのに、大審院はかような地位と権限とをもつていなかつたことだけに見ても、最高- 5 -裁判所の国法上の地位、性格及機能が大審院のそれと異つていることは明かであるから、最高裁判所を大審院の後身とか後継者とかと認めなくてはならぬということはない。 (五) 裁判所法施行令第十九条中の「大審院とあるのは最高裁判所とする」の規定は法律及び政令に特別の定のある場合は適用されないのである。そして裁判所の権限管轄は裁判所施行法及び同法施行令に定められているから権限管轄に関する限り大審院を最高裁判所とよみかへるという施行令の右規定は適用がない。従つて、裁判所法施行令第十九条は最高裁判所を大審院の後身とか後継者とかと認めることが正しいという証明とはならぬ。故に仮に最高裁判所が大審院の後身であり後継者であるとしたら大審院で受理した事件は当然に最高裁判所に引継がるべきであるとしても、前述のように、最高裁判所は大審院の後身でも亦後継者でもないのであるから、大審院の受理した事件は当然に最高裁判所に引継がるべきだということにはならない。 (六) 裁判所構成法で設けられた大審院及びその以下の各裁判所が最高裁判所及び下級裁判所の何れに相応するものであるかは憲法では定められていない。即ち大審院が最高裁判所に相応すると憲法は認めていないのであるから、裁判所の管轄について憲法の定と異なる特別の定を法律でするということがあり得ない。従つて裁判所の管轄に関しては憲法第百三条のような経過的規定は憲法に定められない筋合である。故に裁判所法施行法に基ずいて同法施行令第一条第一項で大審院の受理した事件を東京高等裁判所の管轄とする旨を定めたことは憲法に違背するものでもないのは勿論裁判所法第七条に牴触するものでもない。 上告趣 に裁判所法施行法に基ずいて同法施行令第一条第一項で大審院の受理した事件を東京高等裁判所の管轄とする旨を定めたことは憲法に違背するものでもないのは勿論裁判所法第七条に牴触するものでもない。 上告趣意第二点について。 (一) 裁判所法第七条は憲法施行後の上告の一部を最高裁判所の管轄と定めたのに過ぎないから、同条は憲法施行前の上告についての規定ではない。従つて、裁判- 6 -所法施行令第一条第一項が大審院で受理した上告を東京高等裁判所の管轄とする旨を定めたからといつて同条の規定が裁判所法に違背しその効用を減殺し施行法令の使命に副はないものとはいえない。 (二) 裁判所法施行法第一条第一項には「政令の定むるところにより」と規定していて、その政令が定めるについての条件制限を少しも規定していない。又同項に「最高裁判所又は下級裁判所に」とあるは最高裁判所と下級裁判所との両者にという意味だけでなく何れか一方にと云ふ意味も含まれていることはいうまでもないから、同法は政令が大審院の受理した上告を最高裁判所の管轄と定めないことのあることをも当然予想しているものといえる。従つて裁判所法施行令第一条第一項は裁判所法施行法第二条第一項の委任に反するものとはいえない。 (三) 大審院の受理した上告事件を東京高等裁判所の管轄に属せしめるのには裁判所法第十七条によつて法律の定を要するという所論は正しい。しかし裁判所法施行令第一条中「大審院においてした事件の受理その他の手続はこれを東京高等裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなす」という規定が裁判所法施行法第二条第一項の委任に基いて適法に定められたものであることは前段説明で明かである。そして裁判所法第十七条にいう「他の法律」とはかゝる法律の委任に基いて適法に定められた政令の規定をも意味するものであることは、いうを 委任に基いて適法に定められたものであることは前段説明で明かである。そして裁判所法第十七条にいう「他の法律」とはかゝる法律の委任に基いて適法に定められた政令の規定をも意味するものであることは、いうをまたぬところであるから、裁判所法施行令第一条中の右の定を以て裁判所法第十七条にいわゆる「他の法律において特に定める」に該当しないものといこことはできない。 (四) 裁判所法施行令第一条第一項は裁判所法施行法第二条第一項に基いて定められた規定であつて同法第七条の委任によつて定められた規定ではない。従つて同条の委任についての所論が正当であるとしても、これをもつて裁判所法施行令第一条第一項の規定が裁判所法施行法第二条一項の委任の趣旨に反しているという論拠とはならない。 - 7 -上告趣意第三点について。 しかし憲法第三十二条も明治憲法第二十四条も、ともにその立法趣旨は何人も憲法なり法律なりで管轄裁判所と定められている裁判所で裁判を受ける権利があること及びその権利は憲法で保障するということを宣言するにある。しかるに再上告人が上告の裁判を受けた東京高等裁判所は前述したように憲法の精神に基いた法律で管轄裁判所と定められた裁判所であるから、憲法第三十二条が保障している裁判を受ける権利は毫も侵害されていないといわねばならぬ。しかのみならず、裁判所法施行令第一条第一項によつて東京高等裁判所が取扱うこととなつた事件については、東京高等裁判所が大審院の裁判権と同一の裁判権を有することは、同条第二項第一号の規定により、又東京高等裁判所が右の事件を取扱う場合には、合議体の裁判官の員数は三人ではなく特に五人であることは、同条第三項の規定により明かであるから、東京高等裁判所で審理を受けるのは大審院で審理を受けるのと実質上何等異るところがないといつてよい。故に大審院で審 判官の員数は三人ではなく特に五人であることは、同条第三項の規定により明かであるから、東京高等裁判所で審理を受けるのは大審院で審理を受けるのと実質上何等異るところがないといつてよい。故に大審院で審理されていた事件を憲法施行後東京高等裁判所で審判したからといつて、既得の権利を侵害することにならぬのは勿論憲法の人権尊重の趣旨に反するということにもならぬ。 本件に対する裁判官齋藤悠輔の意見は次のとおりである。 弁護人山口貞昌再上告趣意第一点について。 憲法は、司法機関の権限に関しては、その第七六条第一、二項において同法第五五条第六四条等の例外を除き「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定すると共に特別裁判所の設置及び行政機関による終審裁判を禁止し、同第七七条において最高裁判所にいわゆる規則制定権を与え、同第八一条において「最高裁判所は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定しているに過ぎない。それ故司法裁判権は憲法上原則として最高裁判所及び法律- 8 -の定める下級裁判所に属するけれども下級裁判所の種類並びに最高裁判所と下級裁判所との間にその裁判権限を如何に分配するか、既に旧裁判所に係属した事件の審判を如何にすべきか等の問題については右第八一条の場合を除き憲法上何等の制限がなく、従つて憲法に比し改正手続の容易な法律において、事件の性質、種類、数量並びに裁判所の構成、、負担能力、その審判手続その他諸般の事情を考慮し適当に立法すべきことを一任したものと解すべきである。所論のように最高裁判所は最上級審の裁判所としてあらゆる民事刑事の上告審判を当然担任処理せねばならぬ憲法の精神は毫もこれを発見することはできない。それ故法律は、裁判 とを一任したものと解すべきである。所論のように最高裁判所は最上級審の裁判所としてあらゆる民事刑事の上告審判を当然担任処理せねばならぬ憲法の精神は毫もこれを発見することはできない。それ故法律は、裁判所法第二条において下級裁判所の種類を、同第三条において裁判所の権限を、同第四条において上級審の裁判の拘束力を夫々規定すると共に同第七条第一六条において所論とは異つて上告事件を最高裁判所と高等裁判所に分配し、更に刑訴応急措置法第一五条第一七条において高等裁判所の上告事件につき右憲法第八一条の場合に最高裁判所をして最終の判断を為さしむる道を開き右裁判所法第四条により法律解釈の統一を期したのである。所論のごとく裁判所法第七条は所論のような憲法の法意を紹述し単に憲法の内容趣旨をそのまゝ再確言したと視るべき根拠は何等これを見出すことができない。殊に、一時の経過的規定として既に裁判所構成法による裁判所においてした事件の受理その他の手続を裁判所法による如何なる裁判所の受理その他の手続とすべきかは所論のごとく単に裁判所の本来の地位、権限のみから決定さるべき事項ではなく、裁判所法による各裁判所の構成その他諸般の事情及び訴訟関係人の訴訟手続上の利害等をも考慮して決定すべき事柄であつて所論のごとく旧大審院に係属した事件は当然その後継者と目すべき最高裁判所をしてそのまゝ引続き審判せしめねばならぬものとすることはできない。若し然りとすれば刑事の上告人は旧大審院では常に五人以上の裁判官による事実審理をも受け得られたにかかわらず、最高裁判所においては三人の裁判官による法律点のみの審査を受け量刑不当乃至事実誤- 9 -認の上告理由は許されず、事実の審理は全くこれを受けることができないであらう。 されば法律が裁判所法施行法において右従前の裁判所における事件の受理その他の手続 審査を受け量刑不当乃至事実誤- 9 -認の上告理由は許されず、事実の審理は全くこれを受けることができないであらう。 されば法律が裁判所法施行法において右従前の裁判所における事件の受理その他の手続、従前の裁判官の地位その他の事項について特例を認め、その事件の分配、その裁判権及び裁判所の構成等に関し必要な事項は政令でこれを定める旨規定し、この法律の委任に基き裁判所法施行令第一条を設けたからと言つて憲法の法意並びに裁判所法第七条に違反したものとはいえない。論旨はその理由がない。 同第一、三点について。 しかし裁判所法第七条は、高等裁判所の裁判権に関する同法第一六条第三号と同じく同法施行以後新たに提起される上告事件に対する最高裁判所の裁判権に関する規定であり、同法施行法第二条は従前の上級下級一切の裁判所及び行政裁判所における旧事件の受理その他の手続に関する規定であるから両規定の間に何等本末の関係は存しない。また、裁判所法施行令第一条は右施行法の第二条及び第七条の委任に基く規定である。それ故右施行法第二条及び右施行令第一条は所論のごとく裁判所法第七条の効用を削減するものではなく、また施行法規本来の使命に副わない規定ともいえない。そして右施行法第二条及び第七条の委任は所論のように広汎な範囲に亘るものではなく論旨にいう裁判所法第一七条の外同法第八条、第一八条、第二五条、第二六条、第三四条等の裁判所法で特定した事項に関するもので憲法第七三条第六号の予定するところであるから、もとより、憲法の禁止するところではない。それ故右施行法第二条及び第七条の法律の委任に基く同施行令第一条を以て裁判所法第一七条に適合しないとの論旨はこれを採ることができない。 次に論旨第一点で述べたごとく既に裁判所構成法による裁判所においてした事件の受理その他の手続については所論 基く同施行令第一条を以て裁判所法第一七条に適合しないとの論旨はこれを採ることができない。 次に論旨第一点で述べたごとく既に裁判所構成法による裁判所においてした事件の受理その他の手続については所論のように裁判所の本来の地位権限のみから当然決定さるべき事項ではなく、裁判所法による各裁判所の構成その他諸般の事情及び訴訟関係人の訴訟手続上の利害等をも考慮して決定すべき事柄であるから裁判所法- 10 -施行法第二条は「政令の定めるところによりこれを最高裁判所又は下級裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなす……」と規定し、なお同第七条は「この法律に定めるものの外裁判所法及びこの法律の施行に関し必要な事項は政令でこれを定める」と規定して法律を以て従前の裁判所における事件の受理その他の手続を裁判所法による如何なる裁判所の受理その他の手続とすべきか並びにその裁判権及び裁判所の構成等を如何に規定すべきかを更に政令に委任したのである。そしてこれらの法律規定は前述の理由により憲法の禁止するところでないこと言うまでもないのである。然るに裁判所法の施行と共に大審院は廃止せられ、しかも、その当時最高裁判所は人的にも、物的にも、事実上未だ設置せられず、その事実上設置を見るには、なお、相当の日数を必要とする状態に在り、かくては、最高の裁判所において裁判を受ける上告人の権利は事実上一時奪われる結果となる恐れがあり、また、最高裁判所においては、上告理由を制限し、事実審理を行わず、純然たる法律審とする建前であり、従つて同裁判所をして審判せしめるときは、上告人の訴訟手続上の権益を害する恐れもあつたから、裁判所法施行令は前記施行法の委任に基き一時の応急的措置として、その第一条第一項において「大審院においてした事件の受理その他の手続は、これを東京高等裁判所においてした の権益を害する恐れもあつたから、裁判所法施行令は前記施行法の委任に基き一時の応急的措置として、その第一条第一項において「大審院においてした事件の受理その他の手続は、これを東京高等裁判所においてした事件の受理その他の手続とみなす……」と規定して大審院に係属した旧事件を前記裁判所法施行法第二条所定の下級裁判所たる東京高等裁判所のみに属せしめたのである。この施行令第一条にそれと同時に右第一項の規定の外裁判所法施行法第三条第一項の「裁判所法施行の際現に大審院の裁判官の職に在る者で最高裁判所の裁判官に任命されないものは、判事として東京高等裁判所判事に補せられたものとみなす」との規定に対応して同令第一条第二、三項の規定を設け司法裁判所たる東京高等裁判所をして事実上大審院と同一の権限、組織、構成を以てその事件を取り扱うことを得るようにし、彼の刑訴応急措置法が特にその附則において前記従前の事件については量刑不当乃至事実- 11 -誤認の上告理由、事実の審理その他につき従前と同一の訴訟手続に依ることを許した規定と相待つて、上告人の権利利益を事実上従前と同一に保障したのである。それ故裁判所法施行令第一条は所論のごとく、裁判所法施行法第二条の委任の趣旨に背いたものではなく、また、所論のごとく憲法上の裁判を受ける既得の権益を奪つたものとも言い得ないこと前述の理由に照し明白であるから論旨第二、三点もその理由がない。 本件に関する裁判官栗山茂の意見は次のとおりである。 刑事被告人が起訴後(正確に言えば犯行後である)に裁判所の構成組織乃至管轄を変更する法令が制定実施された為め、刑事被告人が上訴(本件については上告である)しえたであろう裁判所と違つた裁判所へ上訴することになつた場合、刑事被告人は変更されなかつた裁判所へ、若しくは本人がそれと同様であると認める裁判 れた為め、刑事被告人が上訴(本件については上告である)しえたであろう裁判所と違つた裁判所へ上訴することになつた場合、刑事被告人は変更されなかつた裁判所へ、若しくは本人がそれと同様であると認める裁判所へ上訴しうる権利又は既得の権利が果して憲法上保障されているのであるか、もし再上告人の主張が正しいとすれば、その限度に於て法令がかかる変更をなしえないものである。従て多数意見のように最高裁判所の違憲審査権を除いて憲法が裁判所の裁判権乃至組織を法律の定めるところに一任していると言うのでは、論旨を判断する所以ではなく、寧ろ憲法上の保障の有無、その内容について判断すべきものである。 論旨は漠然として正確を欠いているけれども要するに法令が刑事被告人の地位を起訴当時に比して、その不利益に変更することは許されないのが憲法の法意であるとするのである。日本国憲法第三十九条は、何人も、実行の時に適法であつた行為については、刑事上の責任を問はれないと規定しているのであるが、その趣旨は、法律が単に過去の適法な行為を罪としたり又はその罪を加重したりすることを禁ずるに止まらず、法律が刑事被告人の地位を行為当時に比して不利益に変更することができないという保障である。この保障は民主国の成文憲法の下では、一般に事後- 12 -法の原則と(精しく言えば事後法禁止の原則である)呼ばれるものであるが、日本国憲法も第三十九条でこの原則を掲げているものである。つまり論旨のいう憲法の法意は憲法第三十九条の法意であるかの問題として検討すべきものである。 或は訴訟は各審級について別個の訴訟行為から成るものであるから訴訟に関する法規を各審級について適用してもそれを遡及せしめるものではないとも言いうるであろうが、刑事被告人から見れば連続した一つの訴訟であるから、訴訟に関する法規でも、その から成るものであるから訴訟に関する法規を各審級について適用してもそれを遡及せしめるものではないとも言いうるであろうが、刑事被告人から見れば連続した一つの訴訟であるから、訴訟に関する法規でも、その実施前後によつて被告人の地位に不利益な効果を及ぼす場合は、事後法の原則に支配されうるものである。しかし事後法の原則はもともと公正の観念に出ずるものであつて、法令実施前に被告人が上訴しえたであろう裁判所とは別な裁判所へ上訴することになつても、裁判所が審理をする成規の手続に異るところがなければ、被告人の地位を実質的に法律上不利益に陥れたものとは解すべきでない。 従て再上告人の主張は憲法第三十九条の法意にも含まれないものである。 次に憲法第三十二条の特権は、何人も、裁判上の救済を求めることができる権利である。けれどもそれ以上に出でるものではないから上訴審を保障するものではない。加之憲法上保障される国民の基本的人権は国民の既得の権利というものではない。既得の権利とは国民が法律が実施される結果若くはその保護の下で国民の行為によつて獲得した権利である。 元来憲法第三十二条の保障も他の憲法上の保障と同様に、憲法の実施以前に遡るものではない(憲法第百条)。憲法は第三十九条の場合を除いては、憲法施行後の法律がその施行前の行為に効果を及ぼすことを禁じてはいない。従て第三十九条の原則で保障されない限り被告人が大審院へ上告しえた権利が変更されても違憲の問題を生ずるものではない。 最後に多数意見は、裁判所法施行法第二条の委任に基いて、同施行令第一条が旧大審院事件を東京高等裁判所の所管に属せしめても右委任の趣旨に反した違法がないとするのであるが、この点についても不幸にして所見- 13 -を異にするものである。 日本国憲法の下では、政令には特に法律の委任がある場合を除い の所管に属せしめても右委任の趣旨に反した違法がないとするのであるが、この点についても不幸にして所見- 13 -を異にするものである。 日本国憲法の下では、政令には特に法律の委任がある場合を除いては罰則を設けることができない。(第七十三条第六号)法律の委任がなければ、政令は罰則を設けることができないのは明であるが、それ以外でも法律が委任すれば政令で法規を定めうるように解せられなくはないが、成文憲法を以て三権を分立せしめた以上は、特に罰則を設けるために法律が委任した場合を除いては憲法上委任命令は禁じられていると解すべきであり而も日本国憲法では法律が定めた条件の範囲内でのみ政令が法規を制定しうるのである。従て裁判所法施行法第二条の規定は同第七条の規定と共に委任の規定ではなく、内閣が憲法第七十三条第六号に基いて、法律の規定を実施するために政令を制定する場合に於ける条件乃至基準を定めたものである。政令はこの範囲内で裁判所法及び裁判所法施行法に関し必要な事項を定めてよいのであるが法律に特にその条件が定めてない限り政令を以て法律を変更することは許されないというべきである。然るに裁判所法施行令を見ると、第一条第三項のみならず、第三条第三項及第五項、第九条、第十八条第一項で裁判所法の規定の例外を設けているのである。即ちこの例外の限度に於て裁判所法を変更しているものである。 かかる変更は政令を以てしては規定しえないものであつて、法律即ち裁判所法施行法を以て規定すべかりしものである。この意味で裁判所法施行令は再上告人のいうように、委任の範囲を逸脱したのではないが、憲法第七十三条第六号の規定に違反したものである。尤も、この違憲性は本件再上告棄却の理由に影響を与えるものではない。なぜならば被告人は本件法令の違憲性を抗弁として提出する憲法上保障された何等の権 、憲法第七十三条第六号の規定に違反したものである。尤も、この違憲性は本件再上告棄却の理由に影響を与えるものではない。なぜならば被告人は本件法令の違憲性を抗弁として提出する憲法上保障された何等の権利を有していないからである。 以上の理由によつて、論旨は理由がないものである。 よつて、刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。 この判決は、理由に関する少数意見を除き裁判官全員の一致した意見である。 - 14 -検察官福尾彌太郎関与昭和二十三年七月十九日最高裁判所大法廷裁判長裁判官塚崎直義裁判官長谷川太一郎裁判官沢田竹治郎裁判官霜山精一裁判官井上登裁判官栗山茂裁判官真野毅裁判官島保裁判官齋藤悠輔裁判官藤田八郎裁判官岩松三郎裁判官庄野理一は退官につき署名捺印することができない。 裁判長裁判官塚崎直義- 15 -
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