- 1 - 主文 1 被告は,原告に対し,30万円及びこれに対する平成26年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は,これを6分し,その5を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 3 この判決は,主文1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,200万円及びこれに対する平成26年4月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,大学教授である原告が,講義時に「阪神タイガースが優勝すれば無条件で単位を与える。」という発言(以下「本件発言」という。)をしていないのに,大学生である被告により,原告が本件発言をした旨をツイッターに投稿され,それがインターネット上で広く取り上げられたために精神的苦痛を被ったと主張して,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,200万円及びこれに対する不法行為日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる本件の前提事実である。 (1) 当事者原告は,A大学大学院B科教授であり,A大学C学部の教授を兼任している(甲1)。 - 2 -被告は,A大学C学部英語専攻の学生である。 (2) 本件投稿等被告は,大学2年生として受講していた平成26年4月14日の「言語学の基礎」の初回講義(以下「本件講義」という。)において,原告が「阪神タイガースがリーグ優勝した場合は,恩赦を発令する。また日本シリーズを制覇した場合,特別恩赦を発令し,全員合格とする。」と記載されたパワーポイントのスライド( 講義」という。)において,原告が「阪神タイガースがリーグ優勝した場合は,恩赦を発令する。また日本シリーズを制覇した場合,特別恩赦を発令し,全員合格とする。」と記載されたパワーポイントのスライド(以下「本件スライド」という。)を用いて話している状況を撮影し,同日,ツイッターにその画像及び「阪神が優勝したら無条件で単位くれるらしい」というコメントを投稿した(以下「本件投稿」という。 甲2)。 本件投稿は,インターネット上の複数のまとめサイトのほか,BIGLOBEニュース(同年4月16日),JCASTニュース(同日)及び産経WEST(同年6月9日)等のニュースサイトで取り上げられた(甲4~8)。 3 争点及び当事者の主張(1) 本件投稿の内容が虚偽であるか(争点1)(原告の主張)原告は,本件スライドを示しながら「かつては,阪神タイガースが優勝した場合,全員合格とするという教授もいたが,現在はそんなことはない。」と説明したのであり,本件発言はしておらず,本件投稿の内容は虚偽である。 (被告の主張)本件投稿の内容は真実である。原告は,本件スライドを示しながら本件発言をした。被告は,そのとおりの内容をツイッターに投稿したにすぎない。 (2) 因果関係の有無(争点2)(原告の主張)被告の本件投稿により,原告が本件発言をしたかのような虚偽の情報がインターネット上で流布され,原告に権利侵害及び損害が生じた。 - 3 -(被告の主張)被告以外にも,本件スライドの撮影画像をツイッターに投稿した者がいる。 被告が本件投稿をしなくても,本件発言はインターネット上に公開されたのであり,被告の行為と原告の権利侵害及び損害との間に因果関係はない。 (3) 権利侵害の有無及び損害額(争点3)(原告の主張)被告の本件投稿により, 本件発言はインターネット上に公開されたのであり,被告の行為と原告の権利侵害及び損害との間に因果関係はない。 (3) 権利侵害の有無及び損害額(争点3)(原告の主張)被告の本件投稿により,原告は,いい加減な授業や単位付与をしているかのような誤解を受け,大学教授としての社会的評価が下落するとともに,業務妨害といえる被告の行為により授業の運営が困難となった。また,本件講義では,携帯及びスマートフォンの利用を禁止し,講義内容をインターネットで公開することを許しておらず,本件投稿の違法性は著しい。これによる原告の精神的苦痛に対する慰謝料の相当額は200万円を下らない。 (被告の主張)被告は,原告が用いた本件スライド及び原告の説明どおりの内容をツイッターに投稿したにすぎず,原告に精神的苦痛が生じたとは思われない。 第3 当裁判所の判断 1 事実経過前提事実,証拠(甲17のほか,文中掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 原告は,平成26年4月14日の本件講義において,「阪神タイガースがリーグ優勝した場合は,恩赦を発令する。また日本シリーズを制覇した場合,特別恩赦を発令し,全員合格とする。」と記載された本件スライドを示しながら,「かつては,阪神タイガースが優勝した場合,全員合格とするという教授もいたが,現在はそんなことはない。」と説明した。 被告は,本件講義を受けていたが,本件スライド及びその横で話す原告の立ち姿を撮影し,同日,その画像に「阪神が優勝したら無条件で単位くれる- 4 -らしい」というコメントを付してツイッターに投稿した(本件投稿)。 (2) 同日,インターネット上の複数のまとめサイトにおいて,本件投稿が紹介された。平成26年4月16日には(ア)BIGLOBEニュース及び(イ コメントを付してツイッターに投稿した(本件投稿)。 (2) 同日,インターネット上の複数のまとめサイトにおいて,本件投稿が紹介された。平成26年4月16日には(ア)BIGLOBEニュース及び(イ)JCASTニュースで,同年6月9日には(ウ)産経WESTで,本件投稿につき「ネットは盛り上がっている」,「物議を醸した」などと紹介された。 (3) 原告は,平成26年5月の連休明けに,インターネット上で本件投稿が広く取り上げられていることを知った。同年8月,原告がこの件につき学部長や専攻代表に相談したところ,専攻代表が,原告と被告を呼んで話し合いの場を設けた。その結果,被告が提出した文書(甲9)には,(ア)本件スライドをみて「面白いジョークだな」と思い,「みんな冗談とわかるだろう」という軽い気持ちで撮影して画像をSNSに掲載したが,事が大きくなってしまったこと,(イ)原告に迷惑をかけたことを謝罪すること,(ウ)転載されたアフィリエイトブログひとつひとつに削除依頼をし,定期的に途中経過や削除依頼の結果等に係る報告のメールを原告に送信することなどが記載されていた。 しかし,被告は,その後,原告に上記報告のメールを送信しなかった。 (4) 原告は,代理人としてD弁護士を選任し,同弁護士は,平成27年11月に被告に対し,内容証明郵便及び簡易書留により削除依頼の状況報告を求める文書を送付したが,いずれも被告が受領せずに返還されたため,同年12月21日付けで普通郵便により同様の文書を送付した。 (5) 被告は,平成27年12月31日にD弁護士に文書(甲13)をファックスで送信した。そこには,(ア)平成26年4月の本件投稿当日,livedoorに記事の削除依頼をしたが応じてもらえなかったこと,(イ)平成27年4月に,3か所のまとめサイトの管理者 13)をファックスで送信した。そこには,(ア)平成26年4月の本件投稿当日,livedoorに記事の削除依頼をしたが応じてもらえなかったこと,(イ)平成27年4月に,3か所のまとめサイトの管理者に削除依頼をして応じてもらい,産経ニュースに削除依頼をして,応じられないが記事は半年で自動的に削除されるとの返答を受けたこと,(ウ)同年12月に1か所のブログの管理者に削除依頼をして応じてもらい,livedoorに改めて削除依頼をしたがブログの管理者と相談し- 5 -て削除するかどうかを決める旨の返答を受けたことなどが記載されていた。 (6) D弁護士は,被告に対し,平成28年1月6日付けで普通郵便により,ツイッターに本件投稿の訂正及び謝罪の投稿をするよう求める旨の文書(甲14)を送付した。被告は,これを放置したが,指導教員から電話で強く求められ,同年5月18日,約2年前の本件投稿は嘘である旨をツイッターに投稿した。もっとも,本件訴訟までそれを原告に報告しなかった。被告は,その後,専攻代表からのメールに返信せず,電話にも出ない状況となった。 (7) 原告は,平成28年5月20日,本件訴訟を提起した。被告は,訴訟代理人弁護士2名を選任し,同年6月20日に第2の3(被告の主張)の内容の答弁書を提出した。同月24日の進行協議期日では,審理に先行して和解協議を進める方針が確認され,同年9月6日の期日では,原告が出席して和解協議がされた。同年10月3日の期日では,被告が出席して和解協議がされる予定であったが,被告が出席せず,被告訴訟代理人らが被告と連絡がとれない状態であると述べた。同月17日,被告訴訟代理人らは辞任届を提出した。被告は,それ以降,弁論終結まで期日に出席しなかった。 2 争点1(本件投稿の内容が虚偽であるか)について前記認 絡がとれない状態であると述べた。同月17日,被告訴訟代理人らは辞任届を提出した。被告は,それ以降,弁論終結まで期日に出席しなかった。 2 争点1(本件投稿の内容が虚偽であるか)について前記認定のとおり,原告は,本件講義時に本件発言をしておらず,本件投稿の内容は虚偽であると認められる。 被告は,原告が実際に本件発言をした旨主張する。しかし,(ア)本件講義に出席した60余名の学生が,原告によるアンケートに対し,原告の説明内容が上記認定のとおりであった旨回答したこと(甲16),(イ)被告も,本件訴訟前は,原告の説明内容が上記認定のとおりであった旨の文書(甲9,15)を原告に提出していたこと,(ウ)本件講義に係る科目につき成績評価がされるのは8月初めであり,時的関係から阪神タイガースの優勝という事情を成績に反映させるのはほぼ不可能であること(弁論の全趣旨)などの事情がある。これらによれば,被告の上記主張は採用することができず,その主張内容は不合理なものと- 6 -いわざるを得ない。 3 争点2(因果関係の有無)について被告の本件投稿により,原告が本件発言をしたという虚偽の情報がインターネット上で広がり,原告に後記の権利侵害及び損害が生じたことが認められる。 被告は,被告以外に本件スライドの撮影画像をツイッターに投稿した者がいるから(甲3),被告の行為と,原告の権利侵害及び損害との間に因果関係がないと主張する。しかし,複数のまとめサイト(甲4,5)及びニュースサイト(甲6~8)が被告の本件投稿を引用していると認められるから,上記虚偽の情報が流布したことについて,被告の本件投稿の寄与は大きいものといえる。 したがって,被告が指摘する上記事情を考慮しても上記因果関係が認められ,被告の上記主張は採用することができない。 4 争点3(権 報が流布したことについて,被告の本件投稿の寄与は大きいものといえる。 したがって,被告が指摘する上記事情を考慮しても上記因果関係が認められ,被告の上記主張は採用することができない。 4 争点3(権利侵害の有無及び損害額)について(1) 権利侵害の有無について本件投稿により,原告が実際に本件講義で本件発言をし,大学教授として正しい成績評価をしていないと受け取った者が一定数はいるものと解される。 したがって,被告が本件投稿をした行為は,原告の社会的評価を低下させ,名誉を毀損する不法行為に当たるものといえる。 (2) 損害についてア被告は,本件投稿により原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料の支払義務を負うが,次の事情からは,高額の慰謝料を認めるべきとはいえない。 (ア) 近年,大学における成績評価の公正さが求められており,本件発言のような形で単位を与えることが許されないのは公知の事実であることなどを考慮すれば,本件投稿に掲載された本件スライドの内容につき真実であると受け取った者が多かったとは解されず,むしろ大学教授の学生に対する冗談であろうと受け取った者が多かったと解される。したがって,原告の社会的評価の低下の程度は小さかったといえる。 - 7 -(イ) 被告は,強い悪意に基づいてではなく,軽い気持ちで本件投稿をしたものであった(甲9)。 イ他方,次の事情からは,慰謝料の額を著しく低額とすべきとはいえない。 (ア) 本件投稿の内容は,虚偽である。その内容は,一般人の興味を惹くものであって,真実であれば原告の大学教授としての職務遂行につき,所属大学において,更には社会的に問題視され得るものであるといえる。 (イ) 本件投稿は,広く一般人の目に触れるツイッターにされた上,多数のサイトに転載され,そのすべてを削除す の職務遂行につき,所属大学において,更には社会的に問題視され得るものであるといえる。 (イ) 本件投稿は,広く一般人の目に触れるツイッターにされた上,多数のサイトに転載され,そのすべてを削除することが困難となった。被告は,大学生にもなっており,ツイッターで虚偽の事実を摘示する行為がこのような大きな事態を招くことを認識することができたといえる。 (ウ) 原告は,原則として本件講義における携帯電話やスマートフォンの使用を禁じており,本件スライドを撮影して本件投稿をした被告の行為は,その禁止に違反するものであったと窺われる。 (エ) 本件投稿が問題となってから現在までの被告の原告への対応は,大学教授に迷惑をかけた学生の対応として不誠実なものであった。すなわち,被告は,(a)平成26年8月に原告に対し,本件投稿を転載した全サイトの管理者等に削除依頼をし,その経過を定期的に報告する旨約束したのに,その報告をせず,約1年4か月後に原告側から催促されてようやくその報告をしたところ,(b)その報告を前提としても,上記約束を果たすための十分な努力をしたとはいえず,(c)その後は大学関係者からの連絡に応じなくなり,(d)本件訴訟においては,原告が実際に本件発言をした旨の不合理な主張をした後,自ら選任した訴訟代理人弁護士らとの連絡を絶ち,その後,期日に出席しなかった。 なお,原告がそのような被告に対して謝罪と事後対応を求めた過程は,教育者という立場を踏まえた相当に辛抱強いものであり,最後に他の適切な手段がなくなったために本件訴訟を提起したものと解される。 - 8 -(オ) 原告は,原告が本件発言をしたという虚偽の事実がインターネット上で話題になっていることを知った後,心労で全身に疱疹ができて2週間休んだ旨を陳述書(甲17)に記載している 。 - 8 -(オ) 原告は,原告が本件発言をしたという虚偽の事実がインターネット上で話題になっていることを知った後,心労で全身に疱疹ができて2週間休んだ旨を陳述書(甲17)に記載しているところ,上記虚偽の事実がインターネット上で流布されて原告を揶揄するコメントが付されたことや,その後の被告の対応の不誠実さを考慮すれば,原告がかなりの精神的苦痛を被ったことは理解することができる。 ウ以上の事情を総合すれば,原告が受けた精神的苦痛に対する慰謝料の額は20万円とするのが相当である。 エ上記認定額その他本件に現れた諸事情を考慮すれば,本件訴訟につき原告が要した弁護士費用のうち10万円を被告に負担させるのが相当である。 5 結論以上によれば,本件請求は,不法行為による損害賠償請求権に基づき30万円及び遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第20民事部 裁判官宮 﨑 朋紀
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