- 1 - 主文 1 被告らは,原告に対し,連帯して55万円及びこれに対する平成30年11月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを4分し,その3を原告の負担とし,その余は被告らの負 担とする。 4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求被告らは,原告に対し,連帯して220万円及びこれに対する平成30年1 1月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,原告が,週刊誌「A」(以下「A」という。)の記事により名誉を毀損されるとともに名誉感情を侵害されたと主張して,同誌の編集者である被告Bに対しては不法行為(709条,719条)に基づく損害賠償請求とし て,同誌を発行し被告Bを使用する被告会社に対しては不法行為(709条,719条)又は使用者責任(民法715条)に基づく損害賠償請求として,連帯して損害賠償金220万円(慰謝料200万円,弁護士費用20万円)及びこれに対する不法行為の後である平成30年11月10日(訴状送達日の翌日)以降の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であ る。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)⑴ 当事者等ア原告 (ア) 原告は,平成26年当時,福岡県内に居住していたところ,栄養士免 - 2 -許を取得し,管理栄養士国家試験の受験資格を取得することを希望し,公立大学法人C大学(以下 (ア) 原告は,平成26年当時,福岡県内に居住していたところ,栄養士免 - 2 -許を取得し,管理栄養士国家試験の受験資格を取得することを希望し,公立大学法人C大学(以下「C大学」という。)の平成27年度社会人特別入学試験(以下,同試験を年度で特定して「平成27年度入試」などという。)に係る入学願書を提出したが,同大学は,原告が男性であることを理由に原告の出願を平成26年11月7日付けで不受理とした (以下「本件不受理処分」という。)。 なお,C大学は,福岡市所在の公立大学法人であり,同大学国際文理学部の食・健康学科を卒業すると,栄養士免許及び管理栄養士国家試験の受験資格を取得することができるが,福岡県内でこれらの資格を取得できる国公立大学はC大学だけである。 (イ) 原告は,平成27年1月20日,福岡地方裁判所に対し,本件不受理処分が憲法14条に違反するものである等と主張して,C大学を被告として,①本件不受理処分の無効確認,②原告が平成27年度入試を受験する地位にあることの確認,③本件不受理処分の取消し,④国家賠償法1条1項に基づく損害賠償金66万3426円(本件不受理処分による 損害と平成26年度入試に係る不受理処分による損害の合計)及び遅延損害金の支払並びに⑤原告が平成28年度入試を受験する地位にあることの確認を求める訴訟(同庁平成27年(行ウ)第2号。以下「別件訴訟」という。)を提起したが,平成27年8月20日当該訴えを取り下げた。なお,別件訴訟の訴状には,当事者である原告の氏名,住所等の 情報が記載されていた。(甲6の2,弁論の全趣旨)イ被告ら(ア) 被告会社被告会社は,書籍,文庫,新書,コミック,雑誌等の制作・出版・販売を行う株式会社であり,A 等の 情報が記載されていた。(甲6の2,弁論の全趣旨)イ被告ら(ア) 被告会社被告会社は,書籍,文庫,新書,コミック,雑誌等の制作・出版・販売を行う株式会社であり,Aを発行している。 被告会社は,A平成27年2月5日号(以下「本件雑誌」という。) - 3 -の発行当時,被告Bを使用していた。 (イ) 被告B被告Bは,本件雑誌の編集・発行人である。 ⑵ Aの販売状況Aは,発行部数約53万部の雑誌であり,全国各地の書店で販売されてい る。 ⑶ 本件雑誌への記事の掲載被告会社は,平成27年1月29日,本件雑誌を発売した。本件雑誌には,架空の「D」名義で執筆された体裁をとる「女子大に入りたい男」との表題が付された記事(以下「本件記事」という。甲1)が掲載され,同記事 には,原告がその名誉を毀損され又はその名誉感情を侵害されたと主張する下記の各記事が含まれていた。 ア 「先日,20代の男がC大に入学願書を提出したという。当然,性別を理由に受理されなかったが,男は『法の下の平等を定めた憲法に違反する』として慰謝料の支払いなどを求めて裁判を起こすと言い出したそう な。『ママ』が憤慨する。『バカじゃないかしら。女子トイレに女しか入れないのも男子校に男しか入れないのも違憲になるの? 昨今,アメリカでは〝ユニセックス〟のトイレが増えているそうだけど,なんでもかんでも『性差』の垣根をなくせば,私たちオカマの存在意義がなくなるじゃないの』」(以下「本件記事ア部分」という。) イ 「平等バカ」という見出しの下,「アメリカには建国当初から『法の下の平等』という発想があった。それを極端に解釈した連中が,日本に憲法として押し付けたものだから,戦後,いわゆ という。) イ 「平等バカ」という見出しの下,「アメリカには建国当初から『法の下の平等』という発想があった。それを極端に解釈した連中が,日本に憲法として押し付けたものだから,戦後,いわゆる『平等バカ』が大量発生した。その結果,常識は失われ,相撲の土俵に上ろうとしたオバサン知事まであらわれた。」(以下「本件記事イ部分」という。) ウ 「『江戸時代には女が男を買っていた。歌舞伎役者も芝居より売春の稼 - 4 -ぎのほうがよかった。二代目實じつ川かわ延若えんじゃくは1000人の女を抱いたそうです。ちなみに『女形買い』というのですが,女形は男にも女にも買われていた。歌舞伎役者は指名されるために,色っぽい演技を研究したんです』」(以下「本件記事ウ部分」という。)エ 「『結局C大に文句を言っている男の子も甘ったれているのよ。そんな に小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。そういう経験がゲイの肥やしになるんだから』」(以下「本件記事エ部分」という。)⑷ 先行して掲載された新聞記事(同定可能性に関連して)ア平成26年11月15日付けの東京新聞夕刊に,「男性,女子大入学求 める」という見出しで,原告が別件訴訟を提起する予定であること等を内容とする記事が掲載された。同記事において,原告は「公立C大(福岡市)に入学願書を受理されなかった福岡市の二十代男性」等として表現された。(甲5)イ平成27年1月20日付けの西日本新聞朝刊に,「受験女子のみ『性差 別』」という見出しで,原告が別件訴訟の訴状を福岡地方裁判所に送付したこと等を内容とする記事が掲載された。同記事において,原告は「福岡市東区の公立C大に入学願書を受理されなかった福岡県内の20代の男性」等 いう見出しで,原告が別件訴訟の訴状を福岡地方裁判所に送付したこと等を内容とする記事が掲載された。同記事において,原告は「福岡市東区の公立C大に入学願書を受理されなかった福岡県内の20代の男性」等として表現された。(甲10) 2 争点 ⑴ 名誉毀損による損害賠償請求についてア同定可能性の存否イ事実の摘示及び社会的評価(人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価)の低下の有無ウ違法性阻却事由の有無(公正な論評の法理) エ損害の発生及びその額 - 5 -⑵ 名誉感情侵害による損害賠償請求についてア同定可能性の要否及び存否イ名誉感情の社会通念上許容される限度を超える侵害の有無ウ損害の発生及びその額⑶ 本件訴えの提起が提訴権の濫用に当たるか 3 争点に関する当事者の主張⑴ 名誉毀損による損害賠償請求についてア同定可能性の存否について名誉毀損による損害賠償請求権の発生要件として同定可能性(本件記事の読者において,本件記事の男性〔C大学に入学願書を提出したものの性 別を理由に受理されなかった20代の男性〕と原告が同一人物であることを同定することができること)が必要であることについては当事者間に争いがないが,本件において同定可能性の存在を肯定できるかどうかにつき,当事者間に争いがある。 (原告の主張) (ア) 伝播可能性による同定原告は,別訴訴訟提起以前に,ウェブサイト「弁護士ドットコム」(以下「本件サイト」という。)において同訴訟につき原告の代理人となる弁護士を公募(一括見積依頼)しており,23名の弁護士が同見積依頼を閲覧した。本件サイトにおいては,弁護士が見積依頼を閲覧する 「本件サイト」という。)において同訴訟につき原告の代理人となる弁護士を公募(一括見積依頼)しており,23名の弁護士が同見積依頼を閲覧した。本件サイトにおいては,弁護士が見積依頼を閲覧する と,見積依頼者の氏名,生年月日,住所,相談内容,相手方といった情報が表示されるため,少なくとも前記23名の弁護士は,別件訴訟を提起した男性が原告であると認識していた。 また,別件訴訟は,公開法廷等で開催され,原告の氏名は開廷簿や訴訟記録の閲覧により了知可能であった。原告は,別件訴訟を提起した当 時,報道機関の記者等十数人程度から取材の問合せを受けたが,その - 6 -際,取材担当記者と実名で連絡を取り合うことがあった。報道機関においても,別件訴訟を提起した男性が原告であると認識していたと考えられる。 加えて,原告は,親族や親しい者に対して別件訴訟を提起したことを伝えており,これらの者も原告が別件訴訟を提起したことを認識してい た。 これらの者を通じて,別件訴訟を提起した男性が原告であることが不特定多数の第三者に伝播する可能性があったのであるから,本件記事の男性と原告との同定可能性があるというべきである。 (イ) 本件不受理処分の対象人物又は別件訴訟の原告としての特定 「C大に入学願書を提出して性別を理由に受理されなかった20代の男性」は,世の中に1人しかおらず,同姓同名があり得る名前以上に本人を特定する情報ともいい得る。 また,別件訴訟の提起は,前記前提事実⑷記載のとおり,広く社会に報道され認知されているところ,かかる報道により形成された原告の 「別件訴訟の原告」としての評価は,もはや独立した社会的実在として独立した社会的評価を有すると解すべきであり,本件記事の読 会に報道され認知されているところ,かかる報道により形成された原告の 「別件訴訟の原告」としての評価は,もはや独立した社会的実在として独立した社会的評価を有すると解すべきであり,本件記事の読者にとって,本件記事の男性が本件不受理処分の対象人物であり,別件訴訟の原告であることは当然認識されている。 (被告らの主張) (ア) 本件記事には,C大学に入学願書を提出したものの性別を理由に受理されなかった20代の男性という記述(本件記事ア部分参照)しかなく,氏名や住所,容貌,経歴を含め,その他当該男性を特定する情報はない。先行して掲載された新聞記事(前記前提事実⑷参照)も同様である。また,原告は,別件訴訟において,訴訟記録の閲覧制限の申出をし ている。 - 7 -以上によれば,別件訴訟を提起した男性が原告であることを知る者の存在や,それらの者から情報が伝播する可能性が具体的に立証されておらず,本件記事の読者において,本件記事の男性が原告であると同定することはできない。 (イ) 本件不受理処分の対象人物又は別件訴訟の原告としての特定で足りる とする原告の主張は争う。また,C大に入学願書を提出して性別を理由に受理されなかった20代の男性が原告1人しかいないこと自体が立証されていない。 イ事実の摘示及び社会的評価の低下の有無について(原告の主張) 本件記事は,総体として,原告が別件訴訟を提起した目的が小遣い目的であるという内容虚偽の事実を摘示したものであり,かかる事実の摘示により,教育分野での行政による逆差別がどこまで許容されるのか(他方,本件は,性的マイノリティの問題とは関係がない。)を問うべく別件訴訟を提起した原告の社会的評価は低下した。 の摘示により,教育分野での行政による逆差別がどこまで許容されるのか(他方,本件は,性的マイノリティの問題とは関係がない。)を問うべく別件訴訟を提起した原告の社会的評価は低下した。 (ア) 本件記事ア部分は,20代の男がC大に入学願書を提出した事実を摘示し,性別を理由に不受理となったことを当然としているため,入学願書を提出することに対して否定的な評価をしている。さらに,別件訴訟における各請求のうち慰謝料請求のみを明示して,別件訴訟提起の目的が経済的な利益の追求であると印象付けようとした上で,別件訴訟の提 起に対して「バカ」という侮辱的な評価をしている。 (イ) 本件記事は,全体を通じて別件訴訟を提起した原告に関する記事であり,本件記事イ部分も別件訴訟と無関係なものではない。 先行する本件記事ア部分で原告を「バカ」と評価した上で,本件記事イ部分でも,「平等バカ」という見出しの下,原告を明示してはいない ものの,黙示的に,原告を「平等バカ」と呼び,そのような人間により - 8 -日本の「常識が失われ」たことを指摘しているものということができ,それによって原告の社会的評価を低下させたものである。 (ウ) 本件記事が全体を通じて別件訴訟を提起した原告に関するものであり,本件記事ウ部分も,原告を明示してはいないものの,歌舞伎役者による売春に言及している点で本件記事エ部分と共通するものであって, 別件訴訟を提起した原告に関する記事であることは明らかである。 (エ) 本件記事エ部分は,本件記事ア部分からウ部分までを総括した部分と位置付けられ,「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいい」という記載は,別件訴訟の目的が売春によって代替可能な小遣い 件記事エ部分は,本件記事ア部分からウ部分までを総括した部分と位置付けられ,「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいい」という記載は,別件訴訟の目的が売春によって代替可能な小遣い稼ぎであるとの内容虚偽の事実を摘示して,原告の社会的評価を 低下させるものである。 (被告らの主張)本件記事は,原告による別件訴訟の目的には一切言及しておらず,「小遣いが欲しいなら」という仮定的表現に照らしても明らかなように,原告が主張するように,別件訴訟の目的が売春によって代替できるような小遣 い稼ぎであるとの事実を摘示したものではない。そもそも,「目的」は,主観的な要素を多分に含む当該行為者の内心の問題であり,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項に該当しないから,仮に本件記事が別件訴訟の目的を摘示していたとしても,当該目的の摘示は事実の摘示には当たらない。また,本件記事によって原告の社会評 価を低下させてもいない。 (ア) 本件記事ア部分について本件記事ア部分は,原告(同定可能性の存否について争いがあることは上記ア記載のとおり。以下同じ。)が慰謝料の支払等を求めて別件訴訟を提起した行為について,法の下の平等を実現すべく,性差の垣根を なくすことがよいことだとは思わないという意見・論評にすぎない。 - 9 -(イ) 本件記事イ部分について本件記事イ部分は,日本の文化的環境及び歴史を前提とした一般論にすぎず,「平等バカ」や「常識が失われた」という表現は原告に関するものではない。 (ウ) 本件記事ウ部分について 本件記事ウ部分も,江戸時代における歌舞伎役者の売春事情を取り上げたものに過ぎず, 識が失われた」という表現は原告に関するものではない。 (ウ) 本件記事ウ部分について 本件記事ウ部分も,江戸時代における歌舞伎役者の売春事情を取り上げたものに過ぎず,原告に関する記述ではない。 (エ) 本件記事エ部分について本件記事エ部分は,歌舞伎役者の女形が努力をしている一方で,原告が別件訴訟を提起した行為について,支払を求めた慰謝料が少額である という趣旨で「小遣い」と表現した上で,原告が歌舞伎役者の女形のように努力をしているのかについて疑問を呈し,努力をせずに慰謝料請求をしているだけで甘えていることを指摘した意見・論評である。 ウ違法性阻却事由(公正な論評の法理)について(被告らの主張) (ア) 本件記事は,C大学に入学願書を提出した男性が,性別を理由に願書を受理されなかったことについて,法の下の平等を定めた憲法に違反するとして慰謝料の支払等を求めて別件訴訟を提起した事実を前提とする意見・論評であり,日本社会における性差や平等の意義という重要なテーマに関し憲法訴訟が提起されたという事実を伝えたものであるから, 公共の利害に関する事実について報じていることは明らかである。 (イ) 被告らは,上記公共の利害に関する事実を,専ら公益を図る目的で報道している。 (ウ) 原告は,C大学に入学願書を受理されず,別件訴訟を提起したことを認めているため,意見・論評の前提事実も真実である。 (エ) 被告らは,本件記事において,上記前提事実に関して,性差の垣根を - 10 -なくすことがよいことだとは思わないという意見・論評として「バカ」という表現をし,また歌舞伎役者の女形のような努力もせずに別件訴訟 て,上記前提事実に関して,性差の垣根を - 10 -なくすことがよいことだとは思わないという意見・論評として「バカ」という表現をし,また歌舞伎役者の女形のような努力もせずに別件訴訟で慰謝料請求をしているにすぎないと意見・論評を加えたものである。 そして,本件記事は,日本社会における性差や平等の意義という主題を離れて原告に対する人身攻撃に及ぶ等しておらず,意見・論評として の域を脱しているとはいえない。 (原告の主張)(ア) 本件記事は,原告が小遣い稼ぎの目的で別件訴訟を提起したという事実を摘示して原告の名誉を毀損したものであるから,意見・論評による名誉毀損についての免責法理である公正な論評の法理は妥当しない。 (イ) 原告は,単なる一般市民であって,公務員や特段の権力及び権限を有する者ではく,選挙によって選ばれてもいないうえ,法的手続によらずに反論することもできない。 また,原告が別件訴訟を提起した目的が小遣い目的であることを開示し議論することが市民の発達及び社会の発展に資するとはいえない。 それゆえ,本件記事の内容が公共の利害に関する事実に関するものということはできない。 (ウ) 公正な論評といえるためには,意見ないし論評が前提としている原告が小遣い稼ぎ目的で別件訴訟を提起したという事実について真実であることが証明される必要があるが,原告は行政による男性に対しての逆差 別の是非を問うために別件訴訟を提起したのであるから,本件記事の意見・論評の前提事実が主要な点において真実であるとはいえない。 (エ) 公正な論評といえるためには,表明された意見・論評が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでないことが必要である 評の前提事実が主要な点において真実であるとはいえない。 (エ) 公正な論評といえるためには,表明された意見・論評が人身攻撃に及ぶなど意見・論評としての域を逸脱したものでないことが必要であるところ,本件記事は,原告を「平等バカ」と誹謗中傷し,「そんなに小遣 いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいい」と売春を勧奨して - 11 -いるのであるから,意見・論評としての域を逸脱したものであることが認められる。 エ損害の発生及びその額について(原告の主張)本件記事は,原告が提起した別件訴訟について,「バカ」などと侮辱し たうえ,記事の読み手に対し原告が性的マイノリティであり小遣い稼ぎ目的で提訴したかのような誤解を与え,原告に売春を勧奨するという差別的な内容となっており,権利侵害の度合いは甚だ大きい。被告らの権利侵害による原告の精神的苦痛をあえて金銭に換算すれば200万円を下ることはない。 また,被告らの不法行為と相当因果関係を有する弁護士費用は20万円が相当である。 (被告らの主張)争う。 ⑵ 名誉感情侵害による損害賠償請求について ア同定可能性の要否及び存否について(原告の主張)名誉感情侵害の不法行為において,本件記事の男性と原告の同定可能性は要件ではない。 なぜならば,不法行為における要保護利益としての名誉感情は,人が自 分自身の人格的利益について有する主観的な評価や意識,すなわち主観的名誉であるところ,たとえ一般の読者において,表現の対象とされた者(以下「対象者」という。)の同定が不能であっても,対象者本人が自分についての記事であることを認識できれば,同人の名誉感情 わち主観的名誉であるところ,たとえ一般の読者において,表現の対象とされた者(以下「対象者」という。)の同定が不能であっても,対象者本人が自分についての記事であることを認識できれば,同人の名誉感情は侵害され得るからである。 同定可能性は,表現行為が社会通念上許容される範囲内か否かの考慮要 - 12 -素となり得るにすぎない。 (被告らの主張)名誉感情侵害に関しても,本件記事の男性と原告の同定可能性は,不法行為成立の要件として必要であると解すべきである。 仮に,同定可能性のない表現行為によって名誉感情の侵害が肯定され, 不法行為が成立すると解するならば,個人の感じ方いかんによって訴訟が提起され,不当に表現活動を萎縮させることになる。 イ名誉感情の社会通念上許容される限度を超える侵害の有無について(原告の主張)被告は,原告を女性になりたくてC大を提訴したかのように誤解し, 「女子大に入りたい男」の表題のもと,「オカマバーのママ」や「歌舞伎役者の女形による売春」を引合いに出し,「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。そういう経験がゲイの肥やしになるんだから」という結論を導き出しており,誤った前提に基づくものであって,社会通念上許容される範囲内に止まる表現であるとは到底い えない。 (ア) 本件記事ア部分では,別件訴訟を提起した原告について「バカじゃないかしら。」と記述されており,典型的な誹謗中傷の文言である「バカ」が反語表現によって強調されている。社会通念上許容される範囲内の表現とはいえない。 (イ) 本件記事イ部分は,原告のことを「平等バカ」と評価し,侮辱したものである。 (ウ) 本件記事ウ部分は,原告が努力をし 会通念上許容される範囲内の表現とはいえない。 (イ) 本件記事イ部分は,原告のことを「平等バカ」と評価し,侮辱したものである。 (ウ) 本件記事ウ部分は,原告が努力をしていないと評するための比較対照として歌舞伎役者の女形の売春事情等に言及したもので,原告と無関係の一般論といえない。 (エ) 仮に,本件記事エ部分が意見・論評であるとしても,そこで表明され - 13 -ているのは,小遣い稼ぎの訴訟などせずに売春をした方がよいという意見である。売春が違法行為であることを鑑みれば,別件訴訟を提起したことは違法行為以下であって,社会的に無価値,害悪であるといっているに等しい。 それゆえ,社会通念上許容される限度を超える表現であることは明ら かである。 (被告らの主張)(ア) 本件記事ア部分について本件記事ア部分の「バカじゃないかしら」という記述は,原告に対する断定的な人格非難ではなく,画一的及び形式的に男女を同一に扱うこ とへの疑問を呈し,別件訴訟における平等原則違反の主張について問題を提起するものであって,社会通念上許容される範囲内の表現である。 (イ) 本件記事イ部分及びウ部分について前記⑴イ(被告らの主張)記載のとおり,本件記事イ部分及び同ウ部分は,原告とは無関係の記述である。「平等バカ」等の表現は,原告に 対する人格的評価ではなく,戦後日本の平等概念を念頭においた一般論としての評価である。 (ウ) 本件記事エ部分について前記⑴イ(被告らの主張)記載のとおり,本件記事エ部分は,歌舞伎役者の女形のように努力をせずに別件訴訟を提起したことに対する意見 ・論評であり,別件訴訟の目的が小遣 エ部分について前記⑴イ(被告らの主張)記載のとおり,本件記事エ部分は,歌舞伎役者の女形のように努力をせずに別件訴訟を提起したことに対する意見 ・論評であり,別件訴訟の目的が小遣い稼ぎであると断じるものではなく,ましてや売春を勧奨する内容ではないことはいうまでもなく,さらに,憲法訴訟という公共の利害に関する事実であり,表現された側の受忍すべき範囲も自ずと広くなることを併せ考慮すると,本件記事エ部分は社会通念上許容される範囲内の表現であるといえる。 ウ損害の発生及びその額 - 14 -前記⑴エと同じ。 ⑶ 提訴権の濫用について(被告らの主張)原告が,自ら提訴した別件訴訟に関連した範囲で報道した本件記事に関し,名誉毀損や名誉感情の侵害を理由として本件訴訟を提起することは,提 訴権の濫用というべきであり,本件訴訟は棄却されるべきである。 (原告の主張)争う。 第3 争点に対する判断 1 名誉毀損による損害賠償請求について ⑴ 事実の摘示に当たるか,意見ないし論評の表明に当たるかア不法行為法における名誉毀損の概念は,刑法230条の規定するところよりも広く,事実の摘示によるもののみならず,意見ないし論評の表明によるものを含んでいる。そこで,名誉毀損の不法行為は,問題とされる表現が,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受け る客観的評価(社会的評価)を低下させるものであれば,これが事実を摘示するものであるか,又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず,成立し得るものである。 ただし,事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは,不法行為責任の成否に関する要件が異なるため,問題と 又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず,成立し得るものである。 ただし,事実を摘示しての名誉毀損と意見ないし論評による名誉毀損とでは,不法行為責任の成否に関する要件が異なるため,問題とされている 表現が,事実を摘示するものであるか,意見ないし論評の表明であるかを区別することが必要となる。 そして,事実の摘示とは,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項の主張と解されるところ,事実の摘示であるのか,意見・論評の表明であるのかの区別は,当該記事についての一般の読 者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである。 - 15 -イこれを本件についてみるに,本件記事が,①C大学に入学願書を提出した20代の男性(本件記事の男性。なお,原告との同定可能性については後記4⑶イで検討する。)が本件不受理処分の平等原則違反を理由に別件訴訟を提起した旨の事実を摘示していることは当事者間に争いがなく,次いで,②「結局C大に文句を言っている男の子も甘ったれているのよ。そ んなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。 そういう経験がゲイの肥やしになるんだから」との記載(本件記事エ部分)につき,原告は,原告が小遣い目的で別件訴訟を提起したとする事実摘示であると主張するのに対し,被告らは,本件記事の男性が歌舞伎役者の女形のように努力をしているのかについて疑問を呈し,努力をせずに慰 謝料請求をしているだけで甘えていることを指摘した意見・論評であると主張する。 そこで検討するに,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると,②の記載は,「ママ」の価値判断の結果であって,それ自体,客観的な真実であるかどうかが問題となる性質のものではなく,証拠等をも そこで検討するに,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすると,②の記載は,「ママ」の価値判断の結果であって,それ自体,客観的な真実であるかどうかが問題となる性質のものではなく,証拠等をもって その存否を決することも不可能である。他方,①の事実は,その内容に,人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させる危険を内包するものではないところ,被告らは,①の事実を前提として,②において,①の事実に対する一定の評価を表明したものであるから,本件記事は,意見ないし論評を表明するものに当たると解するのが相当である。 ⑵ 社会的評価の低下の有無ア上記⑴ア記載のとおり,名誉毀損の不法行為が成立するためには,事実の摘示による名誉毀損であるか,意見・論評の表明による名誉毀損であるかを問わず,問題とされる表現が対象者の社会的評価を低下させることが必要となる。 そして,本件記事の記述が原告の社会的評価を低下させるものであるか - 16 -否かについては,各記述の態様及び内容を考慮し,当該記述について一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断するのが相当である。 イこれを本件についてみるに,本件記事は,全体として,本件記事の男性が別件訴訟を提起したことに対する批判がその中心となるものであり,本件記事が取り扱った公立の教育機関において男女別学を維持することの是 非など,社会的な関心が高く議論がある事柄については,多様な意見が述べられることが当然に予定されており,対象者(本件記事の男性)の主張に対して批判的な意見や論評が述べられた場合であっても,そのことから直ちに,対象者の当該主張が誤りであることが導かれるわけではなく,対象者の社会的評価が低下するものとはいえない。 張に対して批判的な意見や論評が述べられた場合であっても,そのことから直ちに,対象者の当該主張が誤りであることが導かれるわけではなく,対象者の社会的評価が低下するものとはいえない。 以下,個別の記載について検討する。 ウ本件記事ア部分及び同イ部分について(ア) 本件記事ア部分及び同イ部分は,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,本件記事の男性が別件訴訟を提起した事実を摘示した上で,性差の垣根は存続すべきでありいわゆる女子大に男性の入学を認め ることは相当でないとの見解に基づき(他方,自説に反対する立場については,「法の下の平等」を極端に解釈する連中と断ずる。),本件記事の男性による別件訴訟の提起及びその理由とする違憲主張について,批判したものと認められる。ただし,本件記事は,自説に反対する立場を「バカ」などと断ずるのみで,本件不受理処分を教育分野での行政に よる逆差別とする本件記事の男性に対する批判の理論的な根拠等については具体的に指摘していない。 また,同部分では,「バカ」,「平等バカ」,「常識は失われ」といった本件記事の男性を侮辱するような表現が用いられているものの,本件記事の男性が別件訴訟を提起した事実以上の具体的事実を基礎とする ものではなく,ゲイバーの「ママ」の意見と対立する見解を有する本件 - 17 -記事の男性を消極評価をするものにとどまる。 なお,被告らは,本件記事イ部分の記述について,本件記事の男性と無関係の一般論にすぎないと主張するところ,確かに,同部分には本件記事の男性に対する直接的な言及は見られないものの,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,平等原則の観点から性差の解消を目指す立 場に対する消極的評価という点で同部分の記述は ,同部分には本件記事の男性に対する直接的な言及は見られないものの,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,平等原則の観点から性差の解消を目指す立 場に対する消極的評価という点で同部分の記述は先行する同ア部分の供述と共通しており,同イ部分の直後にも別件訴訟についての記載が存在すること等から,これらは一連の記載であり,本件記事イ部分は,その含意として,そこに記述があるような「平等バカ」に本件記事の男性も当たる旨評価しているものと解するのが相当である。 (イ) 以上のとおり,本件記事ア部分及び同イ部分は,被告らが創作したゲイバーの「ママ」の主観に基づく本件記事の男性の主張に対する批判であり,本件記事の男性の社会的評価を低下させるものとは認められない。 エ本件記事ウ部分及び同エ部分について (ア) これらの部分にも,本件記事の男性の社会的評価を低下させる「事実」の摘示は存在せず,本件記事ア部分で摘示した①原告が本件不受理処分の平等原則違反を理由に別件訴訟を提起した旨の事実を前提に,②「結局C大に文句を言っている男の子も甘ったれているのよ。そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。そう いう経験がゲイの肥やしになるんだから」という本件記事の男性の行為に対する否定的な意見が述べられている。 本件記事エ部分には,本件記事の男性が別件訴訟において慰謝料請求をしていることに焦点を当て,「そんなに小遣いが欲しいなら」と本件記事の男性が経済的な目的で慰謝料請求をしたものと評価した上で,別 件訴訟上の請求に代えて現代社会では違法であり現実には行うことが許 - 18 -されない売春をあえて勧奨することによって,別件訴訟の提起の価値を否定するとともに,本件記事の男性を侮辱 件訴訟上の請求に代えて現代社会では違法であり現実には行うことが許 - 18 -されない売春をあえて勧奨することによって,別件訴訟の提起の価値を否定するとともに,本件記事の男性を侮辱したものと認められる。 また,「そういう経験がゲイの肥やしになる」という記述については,本件記事の男性が「ゲイ」であると断じたものであるとまでは解されないものの,発言者とされる「ママ」が性的マイノリティ―であると いう設定のもと,「芸の肥やし」という慣用表現を「ゲイの肥やし」と記した駄洒落のようなものと解され,「女子大に入りたい男」という本件記事の表題も併せ考慮すると,本件記事の男性を茶化すという意味において上記批判の延長線上にあると解せられる。 なお,本件記事ウ部分は,江戸時代の歌舞伎役者の売春事情等に関す る記述であり,確かに同部分に本件記事の男性に対する直接的な言及は見られないものの,一般の読者の普通の注意と読み方によれば,そこで記載された売春事情等は,本件記事エ部分の「歌舞伎役者みたいに体を売ればいい」の内容をなすもので,これらは一連の記載であると解するのが相当である。 (イ) 以上のとおり,本件記事の上記部分は,売春を勧める等本件記事の男性に対する侮辱的な表現を用いて,本件記事の男性による別件訴訟の提起を批判したものであるが,一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると,本件記事の男性が慰謝料請求を含む別件訴訟を提起した事実のみを基礎として,それに対する「ママ」のいささか偏った主観や評価が 述べられていると受け取るに過ぎない。かかる批判的な論評を受けたとしても,直ちに本件記事の男性に対する社会的評価が低下するものではないことは,上記イ記載のとおりである。 (ウ) なお,原告は,本件記事エ部分が 受け取るに過ぎない。かかる批判的な論評を受けたとしても,直ちに本件記事の男性に対する社会的評価が低下するものではないことは,上記イ記載のとおりである。 (ウ) なお,原告は,本件記事エ部分が,本件記事の男性が別件訴訟を提起した目的は売春によって代替可能な小遣い稼ぎである旨摘示したもので あると主張する。しかしながら,別件訴訟は,前記前提事実⑴ア(イ)記載 - 19 -のとおり,大別して受験資格に関する請求と慰謝料請求から成るところ,本件記事は,「女子大に入りたい男」の表題のもと,慰謝料請求に関する批判(本件記事ウ部分及び同エ部分)に先立ち,上記ウ記載のとおり,本件記事の男性が女子大への入学を希望して願書を出すこと自体について,法の下の平等を極端に解釈する見解であると批判しているの であるから,本件記事自体,別件訴訟の提起が単なる金銭目的である(ひいては,売春によって代替可能である)ことを想定していないものと解される。 ⑵ 以上のとおり,本件記事の記述によって本件記事の男性の社会的評価が低下したとは認められず,その余の点を判断するまでもなく,名誉毀損にかか る原告の請求には理由がない。 4 名誉感情侵害による損害賠償請求について⑴ 名誉感情,すなわち人が自分自身の人格的価値について有する主観的評価(主観的名誉)も法的保護に値する利益であり,表現態様が著しく下品ないし侮辱的,誹謗中傷的である等,社会通念上許容される限度を超える侮辱行 為は,人格権を侵害するものとして,名誉毀損とは別個に不法行為を構成する。 ⑵ 同定可能性の要否について名誉毀損は,表現行為によってその対象者の社会的評価が低下することを本質とするところ,社会的評価低下の前提として,一般の読者の普通の注意 と読み方を する。 ⑵ 同定可能性の要否について名誉毀損は,表現行為によってその対象者の社会的評価が低下することを本質とするところ,社会的評価低下の前提として,一般の読者の普通の注意 と読み方を基準として,不特定多数の者が対象者を同定することが可能であることを要すると解されるのに対し,名誉感情侵害はその性質上,対象者が当該表現をどのように受け止めるのかが決定的に重要であることからすれば,対象者が自己に関する表現であると認識することができれば成立し得ると解するのが相当である。そして,本件でも,対象者である本件記事の男 性,すなわち原告は本件記事が自己に関する記事であると認識している。 - 20 -これに対し,一般の読者が普通の注意と読み方で表現に接した場合に対象者を同定できるかどうかは,表現が社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素となるにすぎない。 ⑶ 名誉感情の侵害についてア名誉感情侵害については,一般の読者の普通の注意と読み方を基準にし て,当該表現が社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かを判断することによって,その成立範囲を合理的な範囲で確定することができる。 (ア) 本件記事ア部分及び同イ部分本件記事の上記部分においては,「バカじゃないかしら」,「平等バ カ」といった侮辱的な表現を用いて本件記事の男性に対する論評が行われており,原告の名誉感情を一定程度侵害していることは否定できない。 しかしながら,「バカ」という表現は社会生活上頻繁に用いられる侮辱的表現であって,本件記事の男性の人格的価値を貶める程度が大きい とはいえないこと,本件記事には,「バカ」という評価をする具体的な事実や根拠等が示されていない上,本件記事の男性の知能が低いという 表現であって,本件記事の男性の人格的価値を貶める程度が大きい とはいえないこと,本件記事には,「バカ」という評価をする具体的な事実や根拠等が示されていない上,本件記事の男性の知能が低いという意味合いではなく,本件記事の男性の見解に対し到底賛同できないという批判の意味合いで用いられたと考えられること等の事情を考慮すれば,社会通念上許容される限度を超えるとまではいえない。 それゆえ,本件記事ア部分及びイ部分について,名誉感情侵害の不法行為は成立しない。 (イ) 本件記事ウ部分及び同エ部分本件記事の上記部分の,別件訴訟の提起について「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売ればいいじゃない。そういう経験 がゲイの肥やしになるんだから」と論評した部分及び歌舞伎役者の売春 - 21 -事情等を記載した部分は,別件訴訟を提起するよりも売春を行うように勧奨するものであり,今日では売春が社会的な害悪であって違法行為とされていることに鑑みれば,別件訴訟を提起することにより教育分野における逆差別を議論の俎上に載せようとした原告の意向を殊更に無視し,原告が到底受け入れられない提案をあえてすることによって,原告 を攻撃するものということができる。 そうすると,本件記事の上記部分は,もはや原告の行為に対する正当な批判の限度を超えて原告の人格に対する攻撃に及んでいるというべきであって,本件雑誌の社会的影響力等諸般の事情を総合的に考慮すれば,本件記事の上記部分は社会通念上許容される限度を超える侮辱行為 に当たると解するのが相当である。 イ同定可能性の存否について本件記事のように,表現自体に対象者の実名が記載されていない場合であっても,対象者の属性等について一定の情報を有し 侮辱行為 に当たると解するのが相当である。 イ同定可能性の存否について本件記事のように,表現自体に対象者の実名が記載されていない場合であっても,対象者の属性等について一定の情報を有している者らによって,当該表現の内容から対象者が同定される可能性があり,さらに,それ らの者から情報が不特定多数の第三者に伝播する可能性があれば,対象者の同定可能性があるということができる。そして,同定可能性の有無は,上記⑵記載のとおり,表現が社会通念上許容される限度を超える侮辱行為か否かの考慮要素となり得る。 これを本件についてみるに,本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば,① 原告は,別件訴訟の提起に先立ち,別件訴訟の訴訟代理人弁護士を依頼すべく,本件サイト(「弁護士ドットコム」)において,本件サイトに登録されていた弁護士に対して,見積依頼を掲載したところ,かかる見積依頼には,原告の氏名,生年月日,住所,相談したい内容,相手方等が記載されており,本件サイトに登録されていた関東地方,近畿地方をはじめとし て日本各地の弁護士23名が上記見積依頼を閲覧することにより,原告の - 22 -氏名等を認識したこと(甲6の2,12,13),②原告は,平成26年11月18日から同年12月11日にかけて,Eテレビの報道番組「F」のディレクターGからの問合せを受け,同人との間で別件訴訟の提訴予定日や取材の可否等について電子メールの方法によってやり取りを行ったところ,同メールにおいて原告は,実名を名乗って対応していたこと(甲1 1)が認められる。 そうすると,本件において,本件サイトにおいて原告が掲載した見積依頼を閲覧した弁護士らのほか,原告とやりとりをした報道関係者らは,原告が別件訴訟を提起する予定であることを認識していた 認められる。 そうすると,本件において,本件サイトにおいて原告が掲載した見積依頼を閲覧した弁護士らのほか,原告とやりとりをした報道関係者らは,原告が別件訴訟を提起する予定であることを認識していたということができ,本件記事の男性が原告であると同定できたというべきである。さら に,別件訴訟の被告であるC大学においても,訴訟対応のため訴状を確認した者が存在し,その者については訴状に記載されていた氏名等の情報から,本件記事の男性が原告であると同定可能であったといえる。そして,これらの者を起点として,本件記事の男性が原告である旨が伝播する可能性は否定できず,本件記事が読者として想定する者のうち一定の広がりを もった範囲の人々,すなわち不特定多数の人々への伝播可能性が認められるというべきである。 結局,本件では,一般の読者の普通の注意と読み方を基準として,本件記事の男性が原告であると同定することが可能であると認められ,同定可能性が認められない場合に比べ,原告の名誉感情を侵害する程度が大きい ということができる。 ウ以上によれば,本件記事については,原告の名誉感情を侵害する不法行為が成立する。 ⑷ 損害の発生及びその額について本件記事のうち「そんなに小遣いが欲しいなら歌舞伎役者みたいに体を売 ればいいじゃない」とする部分等は,上記⑶記載のとおり,社会通念上許容 - 23 -される限度を越える侮辱行為に当たるところ,本件記事が記載された本件雑誌の社会的影響力,上記侮辱行為は明確な故意に基づくものと認められること,被告会社は本件記事を掲載した本件雑誌の販売により多大の利益を得ていること,個人である原告には有効な反論の機会が乏しいこと等,本件における一切の事情を考慮すると,本件記事の掲載により められること,被告会社は本件記事を掲載した本件雑誌の販売により多大の利益を得ていること,個人である原告には有効な反論の機会が乏しいこと等,本件における一切の事情を考慮すると,本件記事の掲載により原告が被った精神的損 害を慰謝するための費用は,50万円と認めるのが相当である。 また,原告訴訟代理人らについての弁護士費用として,上記慰謝料額の1割である5万円を上記不法行為と相当因果関係がある損害と認めるのが相当である。 5 被告らの責任について 被告BはAの編集者として,被告会社はAの発行所及び被告Bの使用者として,それぞれ原告に対し,不法行為に基づく損害賠償責任を負うというべきである。 6 提訴権の濫用について被告らは,原告が自ら提起した別件訴訟に関連した範囲で報道した本件記事 に関し,名誉毀損や名誉感情の侵害を理由として訴訟を提起することは,提訴権の濫用であると主張する。 しかしながら,別件訴訟における原告の主張が,現代社会における男女の区別という多く議論がある領域に関わる以上,原告と異なる見解からの批判等があり得ることは当然であるが,かかる批判等が社会通念上許容される限度を越 える名誉感情の侵害にわたってはならないことは論を俟たない。 被告らの上記主張は,独自の見解に基づくものであって,採用できない。 第4 結論以上のとおりであるから,被告B及び被告会社は,本件記事の掲載につき,原告に対し,連帯して損害賠償金55万円及びこれに対する遅延損害金を支払 う義務を負う。 - 24 -よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官立川毅 主文 よって,主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官立川毅 裁判官石山仁朗 裁判官田中悠
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