- 1 - 主文 各原決定を取り消す。 警視庁司法警察員が令和3年3月20日Aに対して押収物を還付した処分のうち現金1500万円(内訳一万円札1500枚、100枚ごとに帯封されスーツケースに在中していたもの)を還付した部分及び東京地方検察庁検察官が令和6年2月29日申立人に対してした前記現金1500万円の還付をしない処分をいずれも取り消す。 理由 本件各抗告の趣意は、いずれも、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。 しかしながら、所論に鑑み、職権により調査すると、各原決定は、取消しを免れない。その理由は、以下のとおりである。 1 本件の事実関係各原決定の認定及び記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。 ⑴ 警視庁組織犯罪対策部組織犯罪対策第二課司法警察員は、申立人が令和3年3月1日にホテルのロビーにおいてAが持参した不動産購入代金1億5000万円等在中のスーツケース1個を持ち去り窃取したという窃盗被疑事件について、同月20日、申立人使用の自動車を捜索してスーツケース1個(以下「本件スーツケース」という。)を差し押さえた(以下「本件差押え」という。)。同課司法警察員令和7年(し)第177号、第178号司法警察員がした押収物の還付に関する処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件、検察官がした押収物の還付に関する処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件令和7年11月10日第三小法廷決定- 2 -は、同日、A及びその母親で前記1億5000万円の所有者とされるBを立ち会わせて本件スーツケースを開け、その中から主文掲記の現金1500万円(以下「本 7年11月10日第三小法廷決定- 2 -は、同日、A及びその母親で前記1億5000万円の所有者とされるBを立ち会わせて本件スーツケースを開け、その中から主文掲記の現金1500万円(以下「本件現金」という。)を発見し、本件現金在中の本件スーツケースを前記窃盗被疑事件の被害品と認めてAに還付した後、Aから改めて本件現金及び本件スーツケースの任意提出を受けて領置した。本件現金は、その後、東京地方検察庁検察官に送致され、保管されている。 ⑵ 申立人は、令和3年3月1日にホテルのロビーにおいてAに対し一時的に預かる旨うそを言って同人が持参した不動産購入代金1億5000万円等在中のスーツケース1個の交付を受けてだまし取ったという詐欺の公訴事実で起訴されたが、令和5年11月17日、無罪判決を受けた。同判決は、検察官から控訴がなく、確定した。 ⑶ 申立人は、本件現金の還付を請求したが、東京地方検察庁検察官は、令和6年2月29日、還付請求に応じず還付をしない処分(以下「本件還付拒否処分」という。)をした。 2 司法警察員がした押収物の還付に関する処分に係る特別抗告について⑴ 申立人は、司法警察員がした本件現金在中の本件スーツケースをAに還付する処分のうち本件現金を還付した部分(以下「本件還付処分」という。)の取消しを求めて刑訴法430条2項の準抗告を申し立て、前記無罪判決が認定した事実関係によれば、本件現金が贓物であるとは認められない旨主張した。 原決定は、捜査経過等について事実の取調べを行い、司法警察員が本件還付処分に際して、本件現金を前記窃盗被疑事件に係る贓物であると認めたことは、その当時の判断として合理的であったとし、本件還付処分に違法はないとして、前記準抗告を棄却した。申立人は、これに対し、特別抗告を申し立てた。 ⑵ を前記窃盗被疑事件に係る贓物であると認めたことは、その当時の判断として合理的であったとし、本件還付処分に違法はないとして、前記準抗告を棄却した。申立人は、これに対し、特別抗告を申し立てた。 ⑵ そこで検討すると、刑訴法430条の準抗告が、裁判に対するものではなく、捜査機関の処分に対する不服申立ての制度であることに鑑みれば、同条の準抗告裁判所は、捜査機関の処分の当否を判断するに当たり、捜査機関が当該処分当時- 3 -に収集していた資料のみならず、その当時の事実に関する資料であって、その後に捜査機関が収集し、又は裁判所に提出されたものについても考慮に入れるべきである。 しかるに、原決定は、専ら捜査機関が本件還付処分当時に収集していた資料を考慮して、その当時の事実に関する資料であって、その後に捜査機関が収集し、又は裁判所に提出されたものを考慮に入れていない。本件詐欺被告事件の記録等によれば、申立人は、第三者の依頼を受けて、当該第三者とBとの間の外貨両替取引に供するものとして、Aから現金1億5000万円を受け取った可能性が否定できないから、本件現金が贓物であったとは認められない。したがって、本件現金が贓物であると認定した本件還付処分を是認した原決定は、刑訴法430条、426条の解釈適用を誤り、ひいては同法222条1項、124条1項の適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。 3 検察官がした押収物の還付に関する処分に係る特別抗告について⑴ 申立人は、前記2⑴の本件還付処分に対する準抗告と同時に、本件還付拒否処分に対してもその取消しと検察官に対して本件現金を申立人に還付するよう命ずる裁判を求めて刑訴法430条1項の準抗告を申し立てた。 原決定は、本件現金は適 処分に対する準抗告と同時に、本件還付拒否処分に対してもその取消しと検察官に対して本件現金を申立人に還付するよう命ずる裁判を求めて刑訴法430条1項の準抗告を申し立てた。 原決定は、本件現金は適法に還付を受けたAから任意提出を受けて領置されているものであるから、申立人は押収処分を受けた者に当たらず、本件還付拒否処分に違法はないとして、前記準抗告を棄却した。申立人は、これに対し、特別抗告を申し立てた。 ⑵ そこで検討すると、前記1⑴の事実関係のほか、前記2のとおり本件還付処分が取り消されるべきであることを踏まえれば、本件差押えに基づく押収の効果は失われておらず、申立人は、押収処分を受けた者に当たると解される。 本件現金を申立人に還付すべき場合に当たるかについてみると、前記1⑵のとおり、無罪判決が確定しているものの、本件還付拒否処分及び原決定は、申立人が押- 4 -収処分を受けた者に当たることを前提とせず、申立人以外の者に還付することを相当とする事情の有無についての調査及び検討を欠いたままされており、当該事情の有無はなお明らかとはいえない。 ⑶ 以上によれば、原決定は、取り消されるべき本件還付処分が有効であることを前提に、申立人が押収処分を受けた者に当たらないとして本件還付拒否処分を是認しており、刑訴法222条1項、123条1項の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反するものと認められる。申立人の還付請求については、検察官において、記録や検察官が把握している事情に基づき、申立人以外の者に還付することが相当な場合に当たるかを検討した上、改めて判断すべきである。 4 よって、刑訴法411条1号、434条、426条2項により、各原決定を取り消した上、更に本件還付処分及び本件還 の者に還付することが相当な場合に当たるかを検討した上、改めて判断すべきである。 4 よって、刑訴法411条1号、434条、426条2項により、各原決定を取り消した上、更に本件還付処分及び本件還付拒否処分を取り消すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官平木正洋裁判官林道晴裁判官渡辺惠理子裁判官石兼公博裁判官沖野眞已)
▼ クリックして全文を表示