- 1 - 主文 1 被告は、原告Aに対し、5991万9948円及びこれに対する令和2年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告B及び原告Cに対し、それぞれ2985万5924円及びこれに対する令和2年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金 員を支払え。 3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 4 訴訟費用は、これを50分し、その7を原告らの連帯負担とし、その余を被告の負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 事実 及び理由 第1 請求 1 被告は、原告Aに対し、6906万6000円及びこれに対する令和2年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、原告B及び原告Cに対し、それぞれ3363万3000円及びこれ に対する令和2年▲月▲日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の要旨本件は、D(以下「被災職員」という。)の相続人である原告らが、被災職員が高架橋側道から飛び降りて死亡したのは過重な公務によるものであり、被告 に安全配慮義務違反が認められるなどと主張して、国家賠償法1条1項又は民法415条に基づく損害賠償請求として、死亡慰謝料及び逸失利益の各相続分、弁護士費用、原告Aにつき葬祭料並びにこれらの合計額に対する不法行為日以降の日(被災職員の死亡日)である令和2年▲月▲日から支払い済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の 年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 - 2 - 2 前 年▲月▲日から支払い済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前民法」という。)所定の 年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 - 2 - 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) 当事者等ア被災職員は、昭和55年▲月生まれの男性であり、平成24年4月1日に被告に採用された。被災職員は、令和2年▲月▲日、兵庫県▲の高架橋 側道から飛び降り、頭蓋骨骨折・脳挫傷等により死亡した。被災職員は、死亡当時39歳であった。 イ原告Aは、被災職員の妻であり、原告B及び原告Cは、原告A及び被災職員の子である。相続分は、原告Aが2分の1、原告B及び原告Cが各4分の1である。 ⑵ 被災職員の担当業務等(甲1ないし3、乙1)ア被災職員は、平成24年4月1日に被告に任用され、同月23日にみなと総局みなと振興部振興課、平成27年4月14日に市長室国際交流推進部に配属され、平成29年4月1日からは危機管理室担当係長として勤務していた。 被災職員は、平成31年4月1日、教育委員会事務局総務部総務課に異動した。被災職員は、調整担当係長として教育委員会会議、総合教育会議、スクールミーティング、防災等の業務を担当し、そのうち、教育委員会会議等、教育委員との連絡調整が業務の中心であった。 イ被災職員の上司は、平成31年4月1日時点では、E総務部長(以下「E 部長」という。)及びF総務課長(以下「F課長」という。)であり、令和元年11月1日、改革特命担当課長であるG課長も上司となった。 被災職員には部下が二人おり、同年7月1日の事務分担の変更に伴い、うち一人が交代した。また、同年10月、 いう。)であり、令和元年11月1日、改革特命担当課長であるG課長も上司となった。 被災職員には部下が二人おり、同年7月1日の事務分担の変更に伴い、うち一人が交代した。また、同年10月、部下職員の一人が減員となったことに伴ってスクールミーティングに関する業務が被災職員の事務分担 から外れ、同年11月には、総合教育会議に関する業務が被災職員の事務- 3 - 分担から外れた。さらに、同年12月には、教育委員会会議の議事録の作成・公開が遅れていたことから、被災職員のラインの事務負担を軽減するため、派遣職員が配置された。 ウ令和元年10月4日、神戸市立小学校における職員間ハラスメント事案(以下「本件職員間ハラスメント事案」という。)が報道された。これを受 け、通常月2回開催される教育委員会会議が、同月には4回開催され、総合教育会議も1回開催された。これらの会議の開催により、調整担当であった被災職員の業務量は、増大した。 ⑶ 被災職員の死亡前の状況等(甲1ないし3、乙1、16ないし20)ア被災職員の上司であるE部長及びF課長は、令和2年1月30日、被災 職員の顔色が悪く体調が優れない様子であると感じ、E部長は、被災職員に対し、早く帰るように声をかけた。 イ G課長は、同月31日、被災職員に対し、昨日は体調が悪そうであったことから早く帰って通院する方が良いのではないかなどと勧めた。被災職員は、同日、内科を受診し、半年前から眠れなくなった、仕事のことを考 えると眠れないなどと訴え、睡眠薬を処方された。 ウ被災職員は、同年2月2日、以前の部署の上司に対し、仕事がつらく、毎日ではないが睡眠薬を飲んでいること、心配は不要であることなどを記載したメッセージを送信した。同上司は、 を処方された。 ウ被災職員は、同年2月2日、以前の部署の上司に対し、仕事がつらく、毎日ではないが睡眠薬を飲んでいること、心配は不要であることなどを記載したメッセージを送信した。同上司は、被災職員に対し、産業医を受診することを勧め、被災職員から、考えてみますとの返信を受けた。 被災職員は、同日、F課長に対し、「だいぶ前からですが仕事がきになり寝られなかったりすることがよくあります。睡眠薬を飲むこともあります。 明け方近くまでねられずに飲めば朝方もくらくらしてよくわからなくなったりすることもあります」などと記載したメールを送信した。F課長は、「無理しないでください。とりあえず明日は休めば?日曜日の夕方はつら いので、明日の朝判断したらいいよ。なんとなくそうなんじゃないかなと- 4 - 思っていました。ずっと走り続けたもんね」、「一人で抱え込まず、適当に怠けてください。また私でよければ遠慮なく相談してください」などと返信した。 エ被災職員は、同月3日、職場に出勤し、以前の部署の上司から「無理したらあかんで」などと声をかけられ、笑顔で応じた。また、被災職員は、 F課長やG課長から、「大丈夫か」などと確認されると「大丈夫です」などと答えた。G課長は、同月4日にも体調を確認したが、被災職員は同様の回答をした。 オ被災職員は、同月5日、G課長に対し、睡眠薬を飲んでいる旨を告げた。 G課長は、「仕事上の悩みがあるなら教えてほしい」、「専門的な医療機関で 受診すればどうか」などと勧めたが、被災職員は「大丈夫です」などと回答した。 カ G課長は、同月6日、E部長に対し、被災職員からの聴取内容を報告し、E部長から「無理をさせず、慎重に様子を見るように」との指示を受けた。 G課長は、同 員は「大丈夫です」などと回答した。 カ G課長は、同月6日、E部長に対し、被災職員からの聴取内容を報告し、E部長から「無理をさせず、慎重に様子を見るように」との指示を受けた。 G課長は、同日、教育長に対し、被災職員からの聴取内容を報告し、教育 長から同様の指示がされた。 G課長は、同日、被災職員に対し、睡眠薬をどこで処方してもらったかを質問し、被災職員から耳鼻科であるとの回答がされたことから、「心療内科等の専門機関で診てもらった方がいいのではないか」などと勧めた。 キ被災職員は、同月7日午後6時13分、自身の私用メールアドレスに、 週明けの月曜日である同月10日の朝礼のための文案を送信した後、帰宅した。 ク被災職員は、▲月▲日、「でも、もう自信がナイ。教育委員さんからの強い要求、不満がどんどん強まり、板挟み!どんどん色んなことが起きて、部下もこれ以上倒れさせられないと強がったけれども。力不足だ。前から 眠れなくなって、睡眠薬も飲んだけど、朝近くに飲むとよく分からないま- 5 - ま会社にいる。入庁以来、色々あったけど、特に今年度はありすぎだ。そして、これから、再び、あの10月のようなこと、そして大量の懸案の処分がなされる。もう乗り越えられない。総合教育会議でも、委員会会議でも、公開の場で教育委員さんにはおしかりを受けた。議事録の通りだ。2月の委員会会議では、前代未聞の、委員発議だ。ふがいない。こんな自分 では、教委に迷惑をかけるだけだ」、「ダメだダメだ。これじゃあ死のうとしてるみたいだ。死んではいけない。生きる。寝られないけど今日は酒の力を借りて寝る。そして明日も生きるぞ。絶対自分では死なない。踏み留まるぞ!」などと記載したメモ(甲8)を残した上で自宅を出た。 原告A みたいだ。死んではいけない。生きる。寝られないけど今日は酒の力を借りて寝る。そして明日も生きるぞ。絶対自分では死なない。踏み留まるぞ!」などと記載したメモ(甲8)を残した上で自宅を出た。 原告Aは、同日午前4時頃に目を覚ましたところ、被災職員がいないこ とや上記メモに気づき、警察に捜索願を出した。 被災職員は、同日午後6時頃、兵庫県▲の高架橋側道から飛び降り、頭蓋骨骨折・脳挫傷等により死亡した。 ⑷ 公務災害認定(甲1)地方公務員災害補償基金神戸市支部長は、令和3年12月2日付けで、 ① 専門医の医学的知見において、被災職員が令和2年1月末頃にはICD-10の分類でいう「F3 気分(感情)障害」に分類される精神疾患(以下「本件精神疾患」という。)を発症していたものと認められる旨判断されたこと② 本件精神疾患発症前のおおむね6か月間についての業務による負荷を見 ると、被災職員は、平成31年4月の異動により大きな職務内容の変更を伴う業務に従事し、多忙な状況が続く中、令和元年10月以降は、職員間ハラスメント事案という社会問題化した重大事案に対応するため、多忙を極め、相当の精神的又は肉体的負荷を受けていたことが認められる上、重大事案の発生等により不信感が増大した当時の教育委員と教育委員会事務 局との関係下において、教育委員との連絡・調整の唯一の窓口として、相- 6 - 当な精神的又は肉体的負荷を受けていたと認められ、これらの負荷を総合的に考慮すると、「精神疾患等の公務災害の認定について(通知)」(甲15)の「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的な過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」又は「機構・組織等の改革又は人 (甲15)の「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的な過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」又は「機構・組織等の改革又は人事異動等による、 急激かつ著しい職務内容の変化を伴う業務に従事したと認められる場合」に準ずるような業務による強度の精神的又は肉体的負荷があったと認められること③ 業務以外の負荷や個体側要因は確認されないことなどを踏まえ、本件精神疾患の公務起因性及び自殺の公務起因性をいずれも 認め、被災職員が自殺したことにつき、公務上の災害と認定した。 第3 争点及び当事者の主張本件の争点は、安全配慮義務違反の有無(争点1)及び損害額等(争点2)であり、当事者双方の主張は、以下のとおりである。 1 安全配慮義務違反の有無(争点1) ⑴ 原告らの主張ア精神的負荷被災職員は、調整担当係長として、教育委員会会議、総合教育会議、スクールミーティング、防災等の業務を担当しており、被災職員が教育委員会に所属していたほぼ全ての期間につき、教育委員会事務局側の唯一の窓 口になっていた。 また、被災職員が教育委員会に出向する以前から、教育委員と教育委員会事務局との間に不信感があり、その不信感が本件職員間ハラスメント事案での第三者委員会への資料提出漏れによりますます増大し、被災職員は、教育委員と教育委員会事務局との間で板挟みの状況になっていた。 イ時間外業務の状況- 7 - 被災職員の始業時刻、終業時刻を算定するに当たっては、教育委員会の執務室への出退勤時刻についての客観的記録であるIDカードの出退勤時刻の打刻によるべきである。「教育委員会事務局職員の勤務状況等 被災職員の始業時刻、終業時刻を算定するに当たっては、教育委員会の執務室への出退勤時刻についての客観的記録であるIDカードの出退勤時刻の打刻によるべきである。「教育委員会事務局職員の勤務状況等に関する調査報告書」(甲2、乙1。以下「本件調査報告書」という。)においても「出勤打刻時刻及び退勤打刻時刻が、実際の職場における拘束時間と 考える」とされている。 本件調査報告書添付の労働時間集計表によれば、令和元年10月の拘束時間は、296時間48分に及んでいる。同月の所定労働時間(7時間45分)を超える時間外勤務時間は、休憩時間を所定の1時間としても113時間48分、休憩時間を30分とすると124時間18分となる。この ように、被災職員は、本件職員間ハラスメント事案への対応という過重な勤務の下、令和元年10月の時間外勤務時間が月100時間を超え、また、休憩時間がとれておらず、退勤後や休日もスマートフォンでの連絡によって業務から解放されていなかった。 ウ安全配慮義務違反 以上のように、被災職員は、平成31年4月、教育委員会事務局への異動により大きな職務内容の変化を伴う業務に従事し、多忙な状況が続く中、令和元年10月以降は、本件職員間ハラスメント事案という社会問題化した重大事案に対応するため、多忙を極め、相当の精神的又は肉体的負荷を受けていた。 さらに、本件職員間ハラスメント事案が発生した後は、教育委員と教育委員会事務局との緊張関係の下、唯一の窓口としての精神的負荷が加わっていた上、教育委員による教育委員会への対応への不満・不信は、被災職員に向けられていた。このように心身にとって過重な勤務の下、本件職員間ハラスメント事案が生じた令和元年10月の被災職員の時間外勤務は、 上、教育委員による教育委員会への対応への不満・不信は、被災職員に向けられていた。このように心身にとって過重な勤務の下、本件職員間ハラスメント事案が生じた令和元年10月の被災職員の時間外勤務は、 100時間を優に超える長時間のものとなっている。 - 8 - 被告は、これらの被災職員の過重な勤務を認識しながら、それに対する安全配慮義務(国家賠償法1条1項、民法415条)を懈怠したものであるから、被災職員の死亡に係る損害賠償責任を負う。 ⑵ 被告の主張ア時間外勤務の状況 業務の過重性の検討における労働時間の認定については、厚生労働省の認定基準を参酌してなされるべきであるところ、被災職員の時間外勤務の状況は、令和元年8月5日から同年9月3日までの1か月間が14時間45分、同月4日から同年10月3日までの1か月間が65時間15分、同月4日から同年11月2日までの1か月間が74時間37分、同月3日か ら同年12月2日までの1か月間が64時間30分、同月3日から令和2年1月1日までの1か月間が29時間30分、同月2日から同月31日までの1か月間が41時間15分であり、被告における平均的な労働者にとって過重な業務であったとはいえない。また、被災職員が体調不良を訴える3か月前の令和元年11月からは、時間外勤務が減少しており、体調不 良を訴える1か月前の期間は41時間15分にとどまっているのであって、発症前にかけて業務量が軽減されてきたものである。 したがって、被災職員の労働時間から見て、心身の健康を損なうような業務の過重性は認められない。 原告らは、出勤打刻時刻を始業時刻、退勤打刻時刻を終業時刻として認 定すべきであると主張するが、被告が認める以上の時間については、労働が義 なうような業務の過重性は認められない。 原告らは、出勤打刻時刻を始業時刻、退勤打刻時刻を終業時刻として認 定すべきであると主張するが、被告が認める以上の時間については、労働が義務付けられておらず、具体的な労務提供も認められないのであるから、原告らの主張を採用すべきではない。 原告らは、本件調査報告書の記載を根拠に昼の休憩時間をとれていなかったと主張するが、本件調査報告書の記載は恒常的に休憩時間をとること ができなかったことを指摘しているものではないこと、休憩時間内にパソ- 9 - コンへのアクセスが存在したことをもって業務を行っていたと認定することはできないこと、所定の休憩時間以外の時間帯に休憩することもあったことなどから、原告らの主張には理由がない。 原告らは、被災職員が時間外や休日もスマートフォンを通じて業務から解放されなかったと主張するが、平成31年4月から令和2年1月までの 42件のメールのうち28件は転送メール等であって被災職員自身がメールの内容を作成していないものであり、10か月の間に14件のメールを作成したことをもって業務の過重性を裏付けるとはいえない。 イ精神的負荷原告らは、教育委員会会議等における教育委員の発言が、被災職員の業 務上の強い精神的負荷になっていたと主張するが、原告らの指摘する教育委員らの発言は、事務局幹部に対する発言であって被災職員個人の職務遂行に対する評価や非難を含んでいないなど、いずれも被災職員の精神的負荷となり得るものとはいえない。 ウ予見可能性 以上のとおり、被災職員について、過重な業務上の負荷が課せられている状況にはない上、令和2年1月末頃までは被災職員が心身の不調を訴えることなどもなく、被災職員の上司ら職員 ウ予見可能性 以上のとおり、被災職員について、過重な業務上の負荷が課せられている状況にはない上、令和2年1月末頃までは被災職員が心身の不調を訴えることなどもなく、被災職員の上司ら職員においても、被災職員の体調が悪化しているという兆候の認識もなかったから、被災職員が心身の健康を損なっていると認識することは不可能であった。 また、被災職員は、同年1月末以降、不調を訴えるようになったが、客観的に過重な業務上の負荷が課せられている状況にはなく、令和元年11月以降は時間外勤務も減少傾向にあった上、上司らの声掛けにも「大丈夫」と回答していたから、上司らにおいて、被災職員が業務上の負荷をかけられているとも、被災職員の不調が重篤なものであるとも認識することはで きなかった。 - 10 - エ結果回避可能性上記の状況に照らせば、令和2年1月末頃までは、被災職員を特に対象として健康上の被害を回避する義務を講じる余地はなかった一方、被告教育委員会事務局においては、メンタルヘルスチェック制度等を設け、職員が業務上の負担により心身の健康を損なうことを回避するための措置を 十分に整備していたし、令和元年10月頃から本件職員間ハラスメント事案を契機とする苦情が増加したことを受け、メンタルヘルス相談に関する周知を改めて行っている。 また、令和2年1月末以降も、被災職員の上司らは、被災職員の体調を慎重に見守り、被災職員自身が「大丈夫」と述べている状況下においても 休むよう勧め、専門医の受診を促す等の声掛けを行うなど、考え得る限りの対応を尽くしていた。 オ結論以上のように、被告において、令和2年1月末頃までの間は、被災職員の業務上の負荷や体調不良についての予見可能性が全くなく、同年1月末 行うなど、考え得る限りの対応を尽くしていた。 オ結論以上のように、被告において、令和2年1月末頃までの間は、被災職員の業務上の負荷や体調不良についての予見可能性が全くなく、同年1月末 以降も考え得る限りの対応を尽くしていたものであるから、可能な限りの結果回避措置を講じている。 したがって、被告に安全配慮義務違反は認められない。 2 損害額等(争点2) 原告らの主張 以下のとおり、原告らの損害は、原告Aにつき6906万6000円、原告B及び原告Cにつきそれぞれ3363万3000円である。 ア死亡慰謝料 2800万円被災職員は、原告ら一家の経済的支柱となっていたことから、死亡慰謝料は2800万円(原告Aにつき1400万円、原告B及び原告Cにつき ぞれぞれ700万円)が相当である。 - 11 - イ死亡逸失利益 9453万2000円被災職員は、死亡時39歳であり、就労可能な67歳に至るまでの28年間(ライプニッツ係数14.898)、令和元年分の年収額である906万4729円を得ることができた。生活費控除は3割が相当であるから、逸失利益は、9453万2000円(原告Aにつき4726万6000円、 原告B及び原告Cにつきそれぞれ2363万3000円)が相当である。 ウ葬祭料 160万円葬祭料は、原告Aが全額負担した。 エ弁護士費用 1220万円弁護士費用は、原告Aが620万円、原告B及び原告Cがそれぞれ30 0万円を負担した。 被告の主張原告ら主張の損害額は、いずれも否認又は争う。また、以下のとおり、過失相殺又はその類推適用、損益相殺がなされるべきである。 ア過失相殺等 0万円を負担した。 被告の主張原告ら主張の損害額は、いずれも否認又は争う。また、以下のとおり、過失相殺又はその類推適用、損益相殺がなされるべきである。 ア過失相殺等 被災職員は、出退勤時刻を指示されていたものではなく、係長として自らの裁量によって勤務時間を調整することができる立場にあった。また、被災職員は、令和元年1月末頃に至るまで、職場において体調不良を訴えることもなく、メンタルヘルス相談制度も令和元年11月以降は利用することもなかったし、上司から専門医の受診を勧められても受診しなかった。 これらの事情を勘案すれば、8割以上の過失相殺又はその類推適用がなされるべきである。 イ損益相殺原告らが被告から支給された公務災害等見舞金2700万円(甲26の1)、地方公務員災害補償基金からの支給額のうち、遺族補償年金1078 万0624円(甲23の1ないし7の各第1項)及び葬祭補償131万1- 12 - 900円(甲24)並びに口頭弁論終結時までに支給される遺族補償年金については、損益相殺の対象として控除されるべきである。 また、地方公務員災害補償基金からの支給額のうち、遺族特別給付金(甲23の1ないし7の各第2項)及び遺族特別援護金(甲25)並びに口頭弁論終結時までに支給される遺族特別給付金についても、損益相殺を検討 すべきである。 第4 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実のほか、証拠(甲1ないし3、乙1のほか後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 時間外勤務時間等ア被災職員の時間外勤務時間は、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻までを基準とした場合には、令和元年8月5日から同年9月3日ま 認められる。 ⑴ 時間外勤務時間等ア被災職員の時間外勤務時間は、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻までを基準とした場合には、令和元年8月5日から同年9月3日までの1か月間が14時間45分、同月4日から同年10月3日までの1か月間が65時間15分、同月4日から同年11月2日までの 1か月間が66時間30分、同月3日から同年12月2日までの1か月間が64時間30分、同月3日から令和2年1月1日までの1か月間が29時間30分、同月2日から同月31日までの1か月間が41時間15分である。 イ被災職員は、執務室入口ドアに置かれたIDカードの読取機に職員証 を通して出勤及び退勤をしていたところ、職員証に基づく出退勤打刻時刻を基準とした場合には、被災職員の時間外勤務時間(毎月1日から末日まで)は、令和元年8月が39時間15分、同年9月が59時間15分、同年10月が92時間29分、同年11月が64時間30分、同年12月が39時間30分、令和2年1月が49時間45分である。 本件調査報告書においては、この出退勤時刻は、被災職員のパソコンの- 13 - ログイン、ログオフ時刻と矛盾しないことから、実際の職場における拘束時間と考えられるとされたほか、部下職員も被災職員と同程度の時刻に出勤打刻をしていること、退勤時刻と超過勤務申請時間とが大きく乖離しているとの事実は認められないこと等から、被災職員は毎日おおむね午前8時30分前後に出勤し、おおむね超過勤務申請を行っている終業 時刻まで業務を行っていることが認められたなどとされている。 ⑵ 被災職員の業務状況等ア被災職員の異動前から令和元年9月頃までの間教育委員からの窓口を一本化してほしいとの要望に基づき、基本的に を行っていることが認められたなどとされている。 ⑵ 被災職員の業務状況等ア被災職員の異動前から令和元年9月頃までの間教育委員からの窓口を一本化してほしいとの要望に基づき、基本的には、教育委員との連絡調整担当である被災職員が教育委員とのメールの 送受信を行っていた。ただし、同報送信(CC)には、他の職員もメールの送受信先に含まれていた。(乙19)被災職員が教育委員会事務局に異動することになった平成31年4月当時、神戸市立中学校生徒自死事件の神戸市いじめ問題再調査委員会による調査報告書がとりまとめられたところであった。被災職員は、教育委 員会事務局での業務経験はなく、着任早々、業務の把握が不十分なときから、同報告書を受けて行われる教育委員会会議や総合教育会議の調整で多忙となり、同僚や母親に対し、仕事が多忙であることや昼食を食べる時間がないことなどを記載したメール等を送っており、令和元年5月も多忙な状況は変わらなかった。その後も、同年9月前半には教育委員会事務 局の移転があり、同月後半には決算市会において議員から教育委員会や教育委員の在り方について質問が相次ぐなど、被災職員は業務に追われていた。 イ令和元年10月頃令和元年9月頃、被告に対し、本件職員間ハラスメント事案に係る訴え があり、教育委員会内でも対応策を検討していた。そのため、同月から被- 14 - 災職員を含む教育委員会事務局全体の超過勤務申請時間が増加した。 本件職員間ハラスメント事案は、同年10月4日に報道された後、各メディアにおいて連日大々的に報道された。同月15日には、文部科学省の副大臣らが、教育長に対し、原因究明と事実確認を行い、加害教員には厳正な処分を下すことを求め、教育長は、教育行 に報道された後、各メディアにおいて連日大々的に報道された。同月15日には、文部科学省の副大臣らが、教育長に対し、原因究明と事実確認を行い、加害教員には厳正な処分を下すことを求め、教育長は、教育行政への信頼を著しく失態さ せたことを深く謝罪する事態となった。このように、本件職員間ハラスメント事案は、大きな社会問題となり、同月には、通常月2回である教育委員会会議が、4回開催され、総合教育会議も開催されるに至った。 本件職員間ハラスメント事案に係る報道を受け、教育委員会事務局に対し、全国から苦情の電話が殺到した。教育委員会事務局では、苦情電話 の対応をする職員のローテーション表を作成したり、事務局職員に対し、苦情電話に対する職員のメンタルヘルス案内がされたりしていた。その苦情の矛先は、教育委員にも向かい、教育委員自身も本件職員間ハラスメント事案への対応に相当に緊張感を持っていた。 同年9月から同年11月までは、本件職員間ハラスメント事案の発生 により、教育委員会事務局全体が通常生じ得ないほどの繁忙状況にあった。 被災職員は、同年10月及び11月、母親や妻である原告Aに対し、仕事が多忙であることや昼食を食べることができていないことなどを記載したメールを送っていた。また、この頃の被災職員のパソコンログを見る と、昼食時間中にメールの送信を含む何らかの作業をしていたことがうかがわれる。 ⑶ 教育委員会事務局と教育委員との関係性等ア被災職員が教育委員会事務局に異動する前から、教育委員会事務局と教育委員との間には相互に不信感があり、本件職員間ハラスメント事案 の前から、教育委員から教育委員会事務局に対し、情報提供が遅いとの指- 15 - 摘がされていた。 イ令和元年10月、11月頃、本件職 不信感があり、本件職員間ハラスメント事案 の前から、教育委員から教育委員会事務局に対し、情報提供が遅いとの指- 15 - 摘がされていた。 イ令和元年10月、11月頃、本件職員間ハラスメント事案のみならず、学校等での事件等につき、教育委員会事務局から教育委員に対する情報提供よりもマスコミ報道が先行するということが頻発した。教育委員から、被災職員等に対し、早期の情報提供を求めるメールや、教育委員会事 務局幹部職員からの返信がされないこと等に関する苦情のメールが送信された。被災職員は、これに対し、謝罪等を記載したメールを返信した。 ウ本件職員間ハラスメント事案に係る調査報告書は、令和元年内の提出を予定していたが、同年12月14日、第三者委員会への資料提供漏れがあり、同年内の提出が不可能となったことが判明し、被災職員は、同月1 6日、教育委員への報告を行った。同資料提供漏れは、教育委員に相当な不信感を抱かせ、教育委員の一部から、被災職員等に対し、情報提供が遅いことに関する苦情のメールが送信された。被災職員は、教育委員に対し、同資料提供漏れに関して、教育委員の学校訪問の開始前に説明の機会を求めたが、教育委員からは、今回の件に関しての流れは同意しておらず、 説明は聞かない、学校訪問をそのような場と考えているようであれば欠席する旨の回答がされ、当日まで教育委員が学校訪問に参加するかどうかを把握することができなかった。 エ令和2年1月16日の総合教育会議においては、教育委員から、市長に対し、議案に関する検討期間が丸二日ないことを指摘する発言や、1週間 ぐらい前には情報提供が行われることを希望する旨の発言がされた。同月27日の教育委員会会議においては、教育委員から、資料送付の時期、会議 する検討期間が丸二日ないことを指摘する発言や、1週間 ぐらい前には情報提供が行われることを希望する旨の発言がされた。同月27日の教育委員会会議においては、教育委員から、資料送付の時期、会議の在り方、教育委員への情報提供、教育委員による指示事項への対応、会議外における教育長、幹部との意思疎通の在り方、スクールミーティング、意見交換会及び教育委員会事務局職員の働き方改革との7項目にわ たる要求をする発言がされた。本件調査報告書作成に当たって行われた- 16 - ヒアリングの結果、複数の職員から、この頃の被災職員の不調について指摘があり、同日の教育委員会会議の際、被災職員が顔色を失っていたと述べる者もいた。 オ教育長は、令和2年2月7日、G課長に対し、同月10日の教育委員会会議において、教育委員の発議による議案を審議してほしいとの連絡が 来ていることを伝えた。G課長は、同日、被災職員に対し、議案の内容は伝えず、教育委員からの発議がある旨を伝えた(乙17)。なお、同議案の内容は、教育次長及び総務部長の更迭であり、公務災害認定通知書(甲1。以下「本件公務災害認定通知書」という。)においては、同議案の内容が、前代未聞のものであり、教育委員と教育委員会事務局との間の緊張 状態が頂点に達していたなどとされている。 カ教育委員と教育委員会事務局との関係性について、公務災害認定に係る追加調査においては、直接の窓口を被災職員に一本化していたため、教育委員からの依頼事項等を吸い上げて教育委員事務局上層部に伝えなければならなかったが、上層部は教育委員からの意見等を横槍と捉えて著 しく嫌がる空気があったように感じられ、教育委員の意見を上層部に伝えると上層部から叱責にも似た愚痴を言われ、行政のすることを丁寧に ならなかったが、上層部は教育委員からの意見等を横槍と捉えて著 しく嫌がる空気があったように感じられ、教育委員の意見を上層部に伝えると上層部から叱責にも似た愚痴を言われ、行政のすることを丁寧に説明し、異論を言わせないようにというようなミッションを課せられていたように感じる、まさに板挟みだったといえる、などと回答する職員もいた。 2 争点1(安全配慮義務違反の有無)について⑴ア被災職員は、平成31年4月に教育委員会事務局に異動するまで教育委員会事務局での業務経験はなかったが、着任早々から教育委員会会議や総合教育会議の調整で多忙となり、令和元年10月には、本件職員間ハラスメント事案が各メディアにおいて連日大々的に報道されて社会問題 となり、多忙を極めていた(前提事実⑵ア、認定事実⑵ア、イ)。 - 17 - 被災職員の時間外勤務時間は、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻までを基準とした場合には、令和元年9月4日から同年10月3日までの1か月間が65時間15分、同月4日から同年11月2日までの1か月間が66時間30分であり(認定事実⑴ア)、これ自体、相当の負荷があるというべきであるが、職員証に基づく出退勤打刻時刻 を基準とした場合には、令和元年9月が59時間15分、同年10月が92時間29分、同年11月が64時間30分である(認定事実⑴イ)。同出退勤打刻時刻は、本件職員間ハラスメント事案を受けた教育委員会事務局全体の多忙さに照らして不自然なものではないこと、パソコンのログイン、ログアウトの時刻とも矛盾しないとされていること(認定事実⑴ イ)、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻以外の時間帯について被災職員が労働をせず単に休憩等をしていたとうかがわせるような事情も認められ も矛盾しないとされていること(認定事実⑴ イ)、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻以外の時間帯について被災職員が労働をせず単に休憩等をしていたとうかがわせるような事情も認められないことなどからすると、同出退勤打刻時刻をそのまま全て労働時間とみるかは措くとしても、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻を超える時間外勤務があったものというべきであ る。 被災職員は、教育委員と教育委員会事務局との窓口として、連絡調整を担当していたものであり、従前から教育委員と教育委員会事務局との間には不信感があった上、本件職員間ハラスメント事案が社会問題化したことを受け、教育委員自身も本件職員間ハラスメント事案への対応に相 当に緊張感を持っており(認定事実⑵イ、⑶)、窓口として教育委員に対応する被災職員の精神的負荷は相当に強いものであったといえる。 このように、被災職員は、平成31年4月の教育委員会事務局への異動以降、特に令和元年9月から同年11月までの間は、本件職員間ハラスメント事案という社会問題化した重大事案を受けて、時間外労働の長さだ けをとっても相当に強い負荷があった上に、従前経験のなかった教育委- 18 - 員と教育委員会事務局との窓口として強度の精神的負荷を受けていたものと認められる。本件公務災害認定通知書においても、「精神疾患等の公務災害の認定について(通知)」の「発症直前の1か月以上の長期間にわたって、質的な過重な業務を行ったこと等により、1月当たりおおむね100時間以上の時間外勤務を行ったと認められる場合」又は「機構・組織 等の改革又は人事異動等による、急激かつ著しい職務内容の変化を伴う業務に従事したと認められる場合」に準ずるような業務による強度の精神的又は 時間外勤務を行ったと認められる場合」又は「機構・組織 等の改革又は人事異動等による、急激かつ著しい職務内容の変化を伴う業務に従事したと認められる場合」に準ずるような業務による強度の精神的又は肉体的負荷があったと認められるとされている(前提事実⑷)。 イ令和元年12月以降の被災職員の時間外勤務時間は、所定始業時間から時間外勤務の申請に係る終業時刻までを基準とした場合には、同月3 日から令和2年1月1日までの1か月間が29時間30分、同月2日から同月31日までの1か月間が41時間15分であり(認定事実⑴ア)、令和元年11月に被災職員の事務分担から総合教育会議が外れたこと(前提事実⑵イ)等もあって、従前に比すれば落ち着いた状況にはなっているものの、なお一定の負荷があったものといえる。 また、同年12月には、本件職員間ハラスメント事案に関する第三者委員会への資料提供漏れが判明して教育委員に相当な不信感を抱かせ、被災職員等に対して情報提供が遅いことに関する苦情のメールがされ、令和2年1月には、総合教育会議や教育委員会会議において、教育委員への情報提供や対応等についての発言がされるに至っている(認定事実⑶ウ、 エ)。教育委員の発言等は、直接的には被災職員に向けられたものではないが、教育委員との窓口である被災職員がその責任を感じるのは無理からぬところであって、強い精神的負荷があったものといえる。本件公務災害認定通知書においても、被災職員は、同月末頃に、本件精神疾患を発症したものとされている。 そのようななか、被災職員は、同年2月7日、教育委員からの発議があ- 19 - る旨を伝えられており、被災職員が議案の内容自体は知らなかったとしても、教育委員と教育委員会事務局との間の緊張状 そのようななか、被災職員は、同年2月7日、教育委員からの発議があ- 19 - る旨を伝えられており、被災職員が議案の内容自体は知らなかったとしても、教育委員と教育委員会事務局との間の緊張状態において生じた前代未聞の出来事として受け止め、窓口担当として、極めて強い精神的負荷を覚えたことは想像に難くない。実際に、被災職員が死亡した日に残したメモにおいても、同旨の記載がされている(前提事実⑶ク)。 ウ以上のように、被災職員には、平成31年4月の教育委員会事務局への異動以降、とりわけ令和元年9月から同年11月までの間は、本件職員間ハラスメント事案という社会問題化した重大事案を受けて、従前経験のなかった教育委員と教育委員会事務局との窓口として強度の負荷があり、その後も、特に精神的負荷という観点から強度の負荷が継続していたも のと認められる。 エ前提事実⑶のとおり、被災職員の上司らは、本件精神疾患を発症した頃である令和2年1月30日には、被災職員の顔色が悪く体調が優れない様子であると感じ、同日以降、同年2月2日には、被災職員から、だいぶ前から仕事が気になって眠れず、睡眠薬を飲んでいるというメールがさ れ、同月5日にも睡眠薬を飲んでいる旨の申告があるなど、被災職員が睡眠薬を飲まなければならないほどに追い詰められた状況にあることを認識し、これが業務による強い負荷を原因とするものであることも容易に認識することができたものといえる。 被告は、メンタルヘルスチェック制度等を設け、専門家による相談を受 ける体制を構築しているほか、本件職員間ハラスメント事案を受けてメンタルヘルス相談に関する周知を改めて行い、被災職員についても令和元年11月に産業医によるメンタルヘルス相談が実施された(乙7ないし12(枝番を含む ているほか、本件職員間ハラスメント事案を受けてメンタルヘルス相談に関する周知を改めて行い、被災職員についても令和元年11月に産業医によるメンタルヘルス相談が実施された(乙7ないし12(枝番を含む。))。また、被告は、同月に総合教育会議を被災職員の担当業務から外すなどの業務量の平準化に努め、これによって実際に 被災職員の時間外勤務が減ったほか、令和2年2月2日に被災職員から- 20 - 睡眠薬を飲んでいる旨のメールがあった以降も、上司らが被災職員に寄り添う返信をしたり、積極的な声掛けをしたり、面談の機会を持った上で専門医の受診を勧めたりするなどの配慮・対応をしている(前提事実⑶、認定事実⑴)。しかし、業務内容については、強い精神的負荷の原因である教育委員との窓口としての業務を継続させている上、被災職員から睡 眠薬を飲んでいる旨の申告等があった以降も、被災職員が「大丈夫です」と回答したことなどを踏まえて、直ちに産業医への診察を受けさせる、少なくとも当座の間について他の職員が被災職員の業務をフォローするなどの措置をとらず、対応を被災職員本人に委ねたにすぎない。 被告には、疲労や精神的負荷が過度に蓄積して職員の心身の健康を損 なわないようにする注意義務があり、特に本件職員間ハラスメント事案を受けて強い負荷が認められる被災職員の時間外勤務の状況や業務内容に照らせば、被災職員の心身の健康状況等について特に注視しなければならなかった。そして、被災職員が睡眠薬を飲まなければならないほどに追い詰められた状況にあることを認識し、これが業務による強い負荷を 原因とするものであることも容易に認識することができたのであるから、遅くとも令和2年2月5日には、直ちに産業医への診察を受けさせるなどのより緊急的かつ具体的な措置をとるべ 務による強い負荷を 原因とするものであることも容易に認識することができたのであるから、遅くとも令和2年2月5日には、直ちに産業医への診察を受けさせるなどのより緊急的かつ具体的な措置をとるべき義務があったというべきである。 被告は、それにもかかわらず、上記義務を怠って、被災職員本人に対応 を委ねるにとどまり、被災職員が自殺するに至ったものと認められる。 ⑵ア被告は、教育委員らの発言は、事務局幹部に対するものであって被災職員の精神的負荷となり得るものとはいえないなどと主張する。 しかし、被災職員は、従前から教育委員会事務局と教育委員との間に不信感があり、本件職員間ハラスメント事案やその後の資料提供漏れを受 けて更にその不信感や緊張感が高まっているなか、教育委員との窓口と- 21 - しての業務をしてきたものであり、教育委員らの発言が直接的には被災職員を対象としておらず、同報送信先(CC)に他の職員等も加わっているからといって、強い精神的負荷とならないなどという主張は、連絡調整業務の重要性やそれに伴う責任、更には本件調査報告書や本件公務災害認定通知においても指摘されている本件職員間ハラスメント事案を受け た教育委員と教育委員会事務局との間の不信感、緊張関係等を正しく理解せず、軽視するものであって、採用することができない。 イ被告は、上司らにおいて、被災職員が業務上の負荷をかけられているとも、被災職員の不調が重篤なものであるとも認識することはできなかったなどとして被災職員が自殺することについての予見可能性を否定する。 しかし、特に本件職員間ハラスメント事案以降、被災職員には強い負荷があり、令和元年12月以降も時間外勤務時間は従前に比すれば落ち着いた状況にあるものの、 の予見可能性を否定する。 しかし、特に本件職員間ハラスメント事案以降、被災職員には強い負荷があり、令和元年12月以降も時間外勤務時間は従前に比すれば落ち着いた状況にあるものの、精神的負荷は依然強いものがあったことは上記のとおりであり、仕事が気になって寝ることができず、睡眠薬を飲んでいる旨のメールや、睡眠薬を飲んでいる旨の申告がされながらも、被災職員 の上司らにおいて、被災職員の業務上の負荷を認識していなかったとか、被災職員の不調が重篤なものであると認識していなかったなどとは考えられず、仮にこれらを認識していなかったとしても、その負荷の重さを軽視していたにすぎない。被災職員が強い業務上の負荷を理由に睡眠薬を飲まなければならないほどに追い詰められていたことを認識することが できた以上、被災職員が自殺することを予見することができなかったとはいえず、被告の主張を採用することはできない。 ウ被告は、考え得る限りの対応を尽くしており、結果回避可能性がないと主張するが、被告として一定の配慮・対応をしていたことを踏まえても、本件における被災職員の負荷の強さや、そのような状況でされた睡眠薬 を飲んでいる旨の申告を踏まえた対応として十分なものといえないこと- 22 - はこれまで認定・説示してきたところであって、被告の主張を採用することはできない。 ⑶ 以上のとおり、被告は、遅くとも令和2年2月5日には、被災職員が睡眠薬を飲まなければならないほどに追い詰められた状況にあることを認識し、これが業務による強い負荷を原因とするものであることも容易に認識する ことができたのであるから、直ちに産業医への診察を受けさせるなどの措置をとるべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったものと認められ(以下、この 荷を原因とするものであることも容易に認識する ことができたのであるから、直ちに産業医への診察を受けさせるなどの措置をとるべき義務があったにもかかわらず、これを怠ったものと認められ(以下、この義務違反を「本件不法行為」という。)、被告は、国家賠償法1条1項に基づき、その損害賠償責任を負う。 3 争点2(損害額等)について ⑴ 損害額(過失相殺及び損益相殺前のもの)ア死亡慰謝料 2800万円被災職員は、妻及び二人の子供(被災職員の死亡当時9歳及び5歳)の経済的支柱であった者であり、死亡慰謝料は2800万円と認めるのが相当である。 イ死亡逸失利益 9453万2000円被災職員は、死亡当時39歳であり、令和元年の収入は906万4729円であったこと(乙5)、妻及び二人の子供を扶養していたことを踏まえると、死亡逸失利益は、9453万2000円(906万4729円×0.7(生活費控除率は3割とみるのが相当である。)×14.898(就 労可能な67歳までの28年間のライプニッツ係数)。千円未満切捨て)と認められる。 ウ葬祭料 150万円本件不法行為と相当因果関係のある葬祭料は150万円と認めることが相当である。 ⑵ 過失相殺等- 23 - 被告は、被災職員が、係長として自らの裁量によって勤務時間を調整することができる立場にあったこと、メンタルヘルス相談制度も利用せず、上司から専門医の受診を勧められても受診しなかったこと等を指摘して、過失相殺又はその類推適用がされるべきであると主張する。 しかし、本件における被災職員の負荷の強さや、そのような状況でされた 睡眠薬を飲んでいる旨の申告を踏まえると、被告の指摘する諸点を考慮しても、被告において産 適用がされるべきであると主張する。 しかし、本件における被災職員の負荷の強さや、そのような状況でされた 睡眠薬を飲んでいる旨の申告を踏まえると、被告の指摘する諸点を考慮しても、被告において産業医の診察を受けさせるなどの措置をとるべきであったのであって、被告の指摘する諸点を被災職員の過失として過失相殺又はその類推適用をすべきとまではいえない。 したがって、被告の主張は採用できない。 ⑶ 損益相殺原告らは、遺族補償年金として令和4年3月18日から令和5年12月8日までの間に1394万8304円(甲23、29(いずれも枝番を含む。))、葬祭補償として131万1900円(甲24)の支給を受けており、これらは、本件不法行為による損害の補として支給されたものと認められ るから、遺族補償年金については上記イの逸失利益と、葬祭補償については上記ウの葬祭料との損益相殺がされるべきである。 原告らは、上記のほか、遺族特別給付金、遺族特別支給金、遺族特別援護金の支給を受けているが、これらは、地方公務員災害補償法47条1項、同法施行規則38条に基づき、地方公務員災害補償基金が、被災職員及びその 遺族に対する福祉事業の一環として行っているものであって、本件不法行為による損害の補として支給されたものとはいえないから、損益相殺の対象とはならないと解するのが相当である。 また、原告らは、公務災害等見舞金として2700万円(甲26の1)の支給を受けているが、被告が定める公務災害等見舞金支給要綱(乙6)によ れば、同要綱は、職員が公務上若しくは通勤により死亡した場合、又は公務- 24 - 上若しくは通勤による傷病がなおり、地方公務員災害補償法別表に定める程度の身体障害が存する場合において支給する公務災害等見 は、職員が公務上若しくは通勤により死亡した場合、又は公務- 24 - 上若しくは通勤による傷病がなおり、地方公務員災害補償法別表に定める程度の身体障害が存する場合において支給する公務災害等見舞金に関して必要な事項を定めることを目的として定められ(1条)、支給対象(2条)や遺族の範囲(3条)、見舞金の額(4条)の定めのほか、支給制限として、職員が故意若しくは重大な過失により2条所定の支給対象となったと認め られる場合には、見舞金の全部又は一部を支給しないことができ(5条)、支給額の調整として、4条の規定により見舞金の額を定めた別表第1欄が適用される場合に同一の事由について地方公務員災害補償基金神戸市支部より特別支給金が支給されるときには、見舞金の額は、4条の規定にかかわらず、当該特別支給金の額を減じた額とする(6条)こと等が定められてい る。そして、上記要綱上、公務災害等見舞金が支給された場合に、同一の事由に基づいて第三者が損害賠償責任を負う場合の当該第三者に対する損害賠償請求の代位に関する規定は存在せず、見舞金の支給額の調整に関する上記規定(6条)は、損益相殺の対象とはならないと解されている地方公務員災害補償法に基づく特別支給金との支給調整を定めたものにとどまり、 損益相殺の対象となる遺族補償年金との支給調整を定めたものではない。 そうすると、公務災害等見舞金は、被告が、被災職員及びその遺族に対し、福祉事業の一環として支給するものであって、本件不法行為による損害の補として支給されたものとはいえないから、損益相殺の対象とはならないと解するのが相当である。 これらに反する当事者双方の主張は、上記各説示に照らして採用することができない。 原告らの相続等上記の損益相殺後(ただし、葬祭料を ならないと解するのが相当である。 これらに反する当事者双方の主張は、上記各説示に照らして採用することができない。 原告らの相続等上記の損益相殺後(ただし、葬祭料を除く。)の残額は1億0858万3696円となる。 (計算式)- 25 - 2800 万円+(9453 万2000 円−1394 万8304 円)=1億0858 万3696 円そして、上記1億0858万3696円に対し、原告Aは法定相続分2分の1を乗じた5429万1848円、原告B及び原告Cは法定相続分各4分の1を乗じた2714万5924円について、被災職員の有する損害賠償請求権を相続により取得したものと認められる。また、原告Aは、葬祭料 から葬祭補償を差し引いた18万8100円の損害を被ったものと認められる(原告Aにつき、損害額合計5447万9948円)。 ⑸ 弁護士費用本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、原告Aにつき544万円、原告B及び原告Cにつきそれぞれ271万円と認めるの が相当である。 ⑹ まとめしたがって、原告らは、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として、原告Aについては、5991万9948円及びこれに対する不法行為日以降の日である令和2年▲月▲日(被災職員の死亡日)から支払 済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金、原告B及び原告Cについては、それぞれ2985万5924円及びこれに対する同日から支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 第5 結論 以上によれば、原告らの請求は、第4・3⑹の限度で理由があるからその限度で認容し、その余を棄却することと 前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。 第5 結論 以上によれば、原告らの請求は、第4・3⑹の限度で理由があるからその限度で認容し、その余を棄却することとして、主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第6民事部 裁判官 植田類 裁判官 石渡圭 裁判長裁判官島岡大雄は、差支えのため署名押印することができない。 裁判官 植田類
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