昭和28(う)168 虚偽有印公文書作成行使詐欺被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和30年7月13日 広島高等裁判所 松江支部 棄却
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【DRY-RUN】主    文      本件控訴はいずれもこれを棄却する。      当審訴訟費用は被告人A及び同Bの負担とする。          理    由  被告人Cの弁護人原良男並びに被告人A及び同Bの弁護

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判決文本文5,790 文字)

主文 本件控訴はいずれもこれを棄却する。 当審訴訟費用は被告人A及び同Bの負担とする。 理由 被告人Cの弁護人原良男並びに被告人A及び同Bの弁護人和田珍頼の各控訴の趣意は、記録編綴の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。 よつて、各所論に鑑み、訴訟記録及び原裁判所が取調べた証拠を精査し、且当審における証拠調の結果に対しても検討を加えた上、右各控訴趣意に対し、次のとおり判断する。 原弁護人の控訴趣意に対する判断所論は結局「本件において、被告人Cには期待可能性がないという刑事責任阻却事由があるのに拘らず、原審がこの点を看過したのは事実の誤認を犯したものに外ならない」というに帰着する。さて、同被告人が島根県立中央職業補導所長に就任した当時、同補導所の施設が貧弱であつたこと及び同補導所に対する予算の配賦に関し、当時県職業安定課職業補導係長であつたDが事実上かなり重要な影響力を及ぼし得る立場に在つたことが諸般の証拠によつて窺われることは、所論のとおりである。併しながら、一面において、本件騙取に係る金員が必ずしも所論にいうが如き使途にのみ費消され九ものでないことは、証第二号の「特別出納簿」と題する書面に徴しても窺い得るところであり、なお、同被告人が徒にその成功を焦るの余り、補導所長たるの重責、全体の奉仕者としての本分を自覚せず、県財政に及ぼす影響については全く顧慮することなく、敢て本件犯行に出でたものであることは、これ亦極めて明瞭であつて、同被告人と同一の地位及び環境に何人を置いたとしても、本件犯行のような行為に出でざることを期待することができないような事情があつたということは、到底これを首肯せしめるに足る資料がない。されば、これと同趣旨に出で、原審がこの点に関する弁護人 としても、本件犯行のような行為に出でざることを期待することができないような事情があつたということは、到底これを首肯せしめるに足る資料がない。されば、これと同趣旨に出で、原審がこの点に関する弁護人の主張を排斥したのは、まことに相当な判断であるというべく、原判決には、原審が所論の如き事実の誤認を犯した形跡は全くないから、原弁護人の論旨は採用の限りでない。 和田弁護人の控訴趣意に対する判断所論を要約すればその趣旨は結局(1)本件のいわゆる「禀議書」なるものは、文書偽造の罪の客体たる「文書」に該当しない。仮に然らずとするも(2)本件「禀議書」の作成につき、被告人A及び同Bの両名にも共謀の責任ありと断ずべき何等の根拠もない。又(3)支出命令に基いて作成した本件「支払通知書」を目し、これを以て虚偽の公文書ということはできない(所論にいわゆる偽造とは、虚偽の「支払通知書」作成の意味に解する)。従つて(4)これによつて県本金庫から金員を受取つた行為は詐欺罪を構成しない。又、両被告人が欺岡の犯意に出でた覚えもない。元来、本件において、両被告人には期待可能性がないという刑事責任阻却事由が存するのである。然るに、原審が両被告人に対しても有罪の言渡をなしたのは、極めて不当であつて、原判決には事実の誤認若しくは審理不尽の違法がある。というに帰着するから、右所論に対し順次検討を試みよう。 第一点(いわゆる「禀議書」なるものは、文書偽造の罪の客体たる「文書」に該当しないと主張する点)について。 <要旨第一>凡そ、地方公共団体の会計事務、就中支出に関して作成される「禀議書」なるものは、知事或いはその委任を</要旨第一>受けた部局長の所掌事務運営上、物品の購入代金、職員の出張旅費等の支払のため支出を要する場合、分掌事務担当の主任吏員から支出命令権者たる部局長等 議書」なるものは、知事或いはその委任を</要旨第一>受けた部局長の所掌事務運営上、物品の購入代金、職員の出張旅費等の支払のため支出を要する場合、分掌事務担当の主任吏員から支出命令権者たる部局長等に対し、支出の決裁を求めるため「伺」を立てる手続上作成される書面であるから、決裁があるまでは、禀議事項に関する部局長等の意思は未だ確定したものと称し得ないことは、所論のとおりである。即ち、部局長等の所掌事務処理そのものを中心として考えるとさ、決裁以前の諸手続がいわゆる準備的段階に属するものであることは、これ亦所論のとおりであるけれども、法規、慣例に基き、一定の形式を以て必ず作成することを要求される書面である以上「禀議書」が部局長等個人の私的草案、書信の如きものとは、全くその趣を異にすることは、更に贅言を要しない。 本来、地方公共団体の会計事務については、国のそれにおけると同様に、機関分立の原則を以てその根幹とするが、支出に関する執行事務の前提要件たる支出命令が、仮にも違法であり、公正を欠くものであるならば、惹いては地方公共団体の財政を紊乱せしめることとなるのであるから、支出命令をして何等の瑕疵もないものであらしめるため、これを以て支出命令権者たる部局長等の独断専行に委せることを極力避けようとしているのである。ここにおいて、一定の補助機関の補佐を受けるべきものとし、而かも、右補佐の手続を確実、能率的ならしめるため「禀議書」による「伺」という手続が要求される所以である。されば、決裁の直接効果として支出に関する出納員の執行事務が行われるとしても「禀議書」に表示される諸手続は、決裁の前提として欠くべからざる一連の手続であるから、支出命令が前提要件となつている「支払通知書」は、これ亦「禀議書」に基いて作成されるものであるということができる。 <要旨 表示される諸手続は、決裁の前提として欠くべからざる一連の手続であるから、支出命令が前提要件となつている「支払通知書」は、これ亦「禀議書」に基いて作成されるものであるということができる。 <要旨第二>次に「禀議書」の作成者(起案者)は担当主任吏員或いはその補助職員であるけれども、その名義人は担当主</要旨第二>任吏員のみではない。決裁が完了すれば「禀議書」中その関係記載部分については、支出命令権者たる部局長等がその名義人であることは、当然であるが、なお、決裁以前の段階において、稟議事項の性質上、他の関係吏員が何等かの意見を附記するときは、その記入部分については、その吏員も亦名義人であるといわなければならない(何等の記入もなさず単に捺印するに止まるときは、同意の意見を表示したものと解すべきである)。 即ち、一通の「禀議書」につき数人の名義人があり得る訳である。而して、担当主任吏員が物野品の禀受入済等の事実を証明し、意見を具して「伺」を立て、或いは関係吏員が何等かの意見を表示するのは、いずれも部局長等の補助機関たる地位に基き、部局長等を補佐すべき職務を執行することに外ならない。従つて、禀議書」中所定の欄にそれぞれ捺印するのは、決して単に起案、閲覧の事実証明のためではなく、要するに、自ら職務執行者であることを表示し、以て責任の所在を明らかならしめんがためである。つまり自ら「禀議書」の名義人であることを表示するため、公務員としての印章を押捺するものに外ならないと解すべきである。 叙上の説示は、主として一般の「禀議書」に関するものであるが、本件の「禀議書」の性格が一般のそれと全く異らないことについては「禀議書」の形式、その他諸般の証拠に照し、毫も異論を挿む余地がない。即ち、担当主任吏員(弁護人の設例は洋裁科長E)が独断で物品を購入する権限を有 書」の性格が一般のそれと全く異らないことについては「禀議書」の形式、その他諸般の証拠に照し、毫も異論を挿む余地がない。即ち、担当主任吏員(弁護人の設例は洋裁科長E)が独断で物品を購入する権限を有しないことは、所論を俟つまでもなく当然であるが、担当主任吏員としては、補導所長の補助機関たる地位に基き、補導所長を補佐すべき職務の執行として「禀議書」によつて「伺」を立てたものであつて、各担当主任吏員が原判示の如き「禀議書」作成の権限を有していたことは、固より言を俟たない。 各担当主任吏員と補導所長とは、固よりその地位を異にするけれども「禀議書」に押捺された担当主任吏員の認印がその公務員たる地位に基いて使用すべき印章として押捺されたものであることは当然である。 而して、仮に「禀議書」が偽造若しくは変造され、或いは虚偽の「禀議書」が作成されることがあれば、それは部局長等の決裁、即ちその所掌事務の運営を誤らしめ、惹いては地方財政を紊乱せしめる虞があるのであるから「禀議書」の如きは、最も重要なる公交書の一として、法律によつて、その形式及び内容の真正につき保護を受けるに値するものであることは言を俟たない。 <要旨第三>ところで、前叙のような制度上の要求に基いて作成される「禀議書」が、一面、支出に関する重要な証憑書類</要旨第三>として保存されなければならないことは、当然であるから「禀議書」は、決して所論にいうが如く決裁と同時にその価値を失うものではない。寧ろその最終存在目的は、証憑書類として保存されることに在るものといわざるを得ない。されば、仮に「禀議書」が偽造若しくは変造され、或いは虚偽の「禀議書」が作成される場合、それか証憑書類として所定の箇所に備附けられるとき、ここにその行使がなされたものということができる。 要するに、本件のいわゆる「禀議 が偽造若しくは変造され、或いは虚偽の「禀議書」が作成される場合、それか証憑書類として所定の箇所に備附けられるとき、ここにその行使がなされたものということができる。 要するに、本件のいわゆる「禀議書」なるものは、文書偽造の罪の客体たる「文書」に該当するものであることは、極めて明らかであつて、所論は「禀議書」の性格に関し、徒に独自の見解に立脚するものであるから、これを是認することができない。 第二の点(本件「禀議書」の作成につき、被告人A及び同Bの両名にも共謀の責任ありと断ずべき何等の根拠もない)と主張する点について。 本件発生の経緯、事情に関し、両被告人は原審公判審理の際、所論摘録のような弁解をなし居り、又、両被告人提出の各上申書中右同趣旨の記載部分があること及び本件「禀義書」の一部につさ、両被告人において直接作成に加担した事実か認められないことは、所論のとおりである。併しながら、両被告人としては「禀義書」の内容が虚偽であり、従つて、支出命令が違法のものであることを知りながら、支出通知書の作成を拒否告しなかつた事実のみによつても、出納員としての職責に鑑み、既に刑事上の責任を免れることはできない。況んや、本件の如く、虚偽の「支払通知書」を作成するため制度上の手段を弄して虚偽の「禀議書」を作成すべく、相被告人C及び各担当主任吏員との間に、予め共同謀議をなした事実が認められる事案においては、被告人A及び同Bの両名にも、共犯としての責任があるものといわなければならない。唯、両被告としては「禀議書」そのものを作成する権限がなかつたのであるから、身分なき者の共犯としての責任であることは、当然であつて、原審においてもこれと同一の見解に立脚するものであることは、原判決の判文に徴して明かである。 第三点(支出命令に基いて作成した本件「文払通知書」を き者の共犯としての責任であることは、当然であつて、原審においてもこれと同一の見解に立脚するものであることは、原判決の判文に徴して明かである。 第三点(支出命令に基いて作成した本件「文払通知書」を目し、これを以て虚偽の公文書ということはできないと主張する点)について。 部局長たる補導所長の権限と出納員のそれとの制度上の関係は、正に所論のとおりである。併しながら、所論においで主張するところは、通常一般的の場合においてのみ是認し得るものであつて、本件の如き特殊の事情の下においてはその思考方法につき根本的の是正を必要とする。即ち、出納員としては、支出命令に基き当然に「支払通知書」を作成しなければならないということは、支出命令に何等の瑕疵も認められない場合にのみ是認し得るところであつて、仮に、何等かの非違あることが窺知されるときは「支払通知書」の作成を拒否することは、寧ろ出納員に課せられた職務上当然の義務であるといわなければならない。況んや、前叙の如き予め共同謀議をなした事実が認められろ本件において、所論の如き一般的理論を根拠として、共犯の責任を否定するのは当らざるも甚しい。 第四の点(本件「支払通知書」によつて、県本金庫から金員を受取つた行九は、詐欺罪を構成しない。又、被告人A及び同Bの両名が欺岡の犯意に出でた覚えもない。元来、本件において、両被告人には期待可能性がないという刑事責任阻却事由が存するのであると主張する占、)について。 凡そ、詐欺罪に関し、騙取に係る金員の使途等その動機如何は、犯罪の成否に影響を及ぼさない。所論において掲げる「被告人等の操作に係る特別会計は補導所内において一般に知られていた」との事実の如き、寧ろ両被告人が本件において共犯としての責任を免れることができない根拠であるということもできる。所論のうち前段は、詐欺罪の 等の操作に係る特別会計は補導所内において一般に知られていた」との事実の如き、寧ろ両被告人が本件において共犯としての責任を免れることができない根拠であるということもできる。所論のうち前段は、詐欺罪の構成要件に関する法理を無視するものであるから到底これを是認することができない。次に、期待可能性がないとの所論はこれを是認し難いことは、前段原弁護人の控訴趣意に対する判断において説示したところと同一の理由によつて明らかであるから、ここにこれを引用する。 要するに、原判決には、原審が所論の如き事実の誤認を犯した形跡なく又審理不尽の違法と認めるべき点もないから、和田弁護人の論旨も亦採用の限りでない。 よつて刑事訴訟法第三九六条、第一八一条第一項により、主文のとおり判決する。 (裁判長判事岡田建治判事組原政男判事黒川四海)

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