昭和45(う)1140 業務上過失致死被告事件

裁判年月日・裁判所
昭和45年10月12日 東京高等裁判所
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【DRY-RUN】主    文      原判決を破棄する。      本件を前橋簡易裁判所に差し戻す。          理    由  (控訴の趣意)  弁護人熊川次男、江村一誠が連名で提出した控訴趣意書記載のとお

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判決文本文3,794 文字)

主文原判決を破棄する。 本件を前橋簡易裁判所に差し戻す。 理由(控訴の趣意)弁護人熊川次男、江村一誠が連名で提出した控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。 (当裁判所の判断)論旨第一点は、原判決は訴因変更の手続をとらないで起訴状の訴因と異なる事実を認定した法令違反があるというのである。 そこで、一件記録を検討するに、起訴状記載の公訴事実は、「被告人は……大型貨物自動車(タンクローリー)を運転し、前橋市a町b丁目c番d号先国道第A号線において本町方面から国領町方面に向け進行中、同方向に進行するB(二四年)操縦の自転車を右側から追い抜くにあたり、その動静を注視し、その速度方法および道路状況に応じ安全な速度により安全な間隔を保つて追い抜くべき業務上の注意義務を怠り、漫然時速約二〇キロメートルで右自転車の右側に接近して進行した過失により自車左後輪フエンダー辺を自転車後部に接触させて転倒させよつて同人に対し左大腿部挫創の傷害を負わせ」たというのである(なお、右接触、受傷の態様につき検察官は、原審公判廷において、加害車両の運転台側部と自転車に乗つた被害者の右肘の高さの部分が第一回目の衝突部位であり、被害者の自転車は右第一回の衝突により安定を失い、左右に自転車がふらついた際加害車両左後輪フエンダー前部が被害自転車後輪タイヤ部分または荷台後部と第二回目に衝突して、被害者は自転車もろとも転落してその際左ハンドルのブレーキレバー先端部が左大腿部に突き刺さつたのである、と釈明している。)。 これに対し、原判決は、「被告人は、……大型貨物自動車(タンクローリー。車両の長さ八メートル八〇センチメートル。)を運転して、前橋市a町b丁目c番d号先国道A号線(車道の幅員一五メートル) 。 これに対し、原判決は、「被告人は、……大型貨物自動車(タンクローリー。車両の長さ八メートル八〇センチメートル。)を運転して、前橋市a町b丁目c番d号先国道A号線(車道の幅員一五メートル)上を時速約二〇キロメートルで北進中、その手前から発見していたB(当二四年)が自転車を操縦して前方道路左側を同一方向に進行するのを、その右側から追い抜こうとした。 当時、右Bの前方約二〇メートルの道路左側には普通貨物自動車が駐車しており、一方被告人の前方には信号待ちのため自動車が行列し、その最後尾は右駐車車両の右側に並進する位置にあつて、被告人運転の自動車と右B操縦の自転車がそのままの速度をもつて進めば、右駐車車両の右後部付近において被告人運転の自動車が右B操縦の自転車の右側を通過するような位置関係にあり、しかも右駐車車両と被告人運転の自動車との間隔は僅か約九〇センチメートルしかなくなるような状況にあつた。 このような場合、自動車運転者としては、進路の前方左右に注意しその安全を確認しながら進行し、ことに右のような状況においては、一般に女性の操縦する自転車はとかく安定を欠き、とりわけ被告人運転の自動車のような巨大な自動車が接近すれば心理的に不安・動揺を生ぜしめ走行の安定を失つて不測の行動に出る等の危険のあることが十分に予見されるのであるから、絶えずその動静に注意を払うはもちろん、これとの間に充分な間隔を保つたままその右側を通過するか、時宜によつては一時停止または極力速度を減じて右自転車が右駐車車両の右側を通過し終るのを待つてから進行する等して事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然右行列車に追尾すべくしばらく右Bに対する注視を欠いたまま右駐車車両との間に約九〇センチメートルの間隔を置いて進行したため、折柄駐車車 を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、漫然右行列車に追尾すべくしばらく右Bに対する注視を欠いたまま右駐車車両との間に約九〇センチメートルの間隔を置いて進行したため、折柄駐車車両の右側に差しかかろうとした右Bをして走行の安全を失わせ、被告人において自車左バツクミラーによつて右Bがふらついているのを発見して直ちに急ブレーキをかけたときには既にこれとの接触を避ける余裕なく自車左後輪で右自転車後輪をひいて同人を路上に転倒させ、よつて同人に対し左大腿部挫傷の傷害を負わせ、……」と認定しているのである。 <要旨>そこで、右訴因事実(釈明事実を含めて)と原判決認定事実を対比考察すると、</要旨>(一) いずれも被告人の車が先行の自転車を追い抜くに際しての注意義務である点では異ならないが、被告人の過失の有無について、訴因では、被告人の車が先行の自転車を追い抜くにあたり、右自転車と直接接触することによる事故を防止するため、これと接触しない程度の間隔を保つべき業務上の注意義務があるのに、右自転車の右側をそれだけの間隔を保つことなく進行した点に被告人の過失がある、というのに対し、原判決認定事実では、被告人の車が、原判示の状況のもとに、先行の自転車のすぐそばを通過する場合、たとえ訴因記載のように先行の自転車と直接接触する危険がなくても、ことに先行の自転車を操縦する者が女性である場合には、走行の不安定性による不測の事故発生の危険が十分予見できるから、右自転車と十分間隔を保つて右側を進行するなどして未然に右危険を回避すべき適切な措置を講ずべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り右自転車に対する注視を欠き、右自転車のすぐそばを漫然進行した点に被告人の過失がある、というのであるから、予見の具体的内容、結果回避の具体的方法を異にするもので 業務上の注意義務があるのに、これを怠り右自転車に対する注視を欠き、右自転車のすぐそばを漫然進行した点に被告人の過失がある、というのであるから、予見の具体的内容、結果回避の具体的方法を異にするものであつて、原判決認定の具体的な注意義務違反の行為は訴因におけるそれとは別個なものと解すべきである。 (二) また訴因では、前記のように被告人の車と被害者・自転車との直接の接触によつて本件人身事故が発生したというのに対し、原判決では、巨大な被告人の車が、原判示の状況のもとに被害者(女性)のすぐそばを進行したことによつて、その走行の安定性を失わせ、その結果本件人身事故を招いたと認定し、この点について原判決は、弁護人の主張に対する判断の項においても、被害者であるBの受傷の原因について「判示認定のように被告人が注意義務を怠つたことに基因し、それによつて右Bに心理的動揺を与え狼狽した同人をして進退の措置を誤まらしめた結果生じたものと認めることができる。」とも判示しているのであつて、因果関係の点において、訴因と原判決の認定とでは、所論指摘のように重要な差異を認めなければならない。 したがつて、原判決の認定するところは、本件訴因事実とは事実関係を異にするものというべく、しかも両者は単に「全体と部分」、「大は小をかねる」という関係にあるともいえず、これを被告人の防禦の観点からみれば、訴因事実を基礎とするか、原判決認定の事実関係を基礎とするかにより、過失責任の有無、程度、因果関係の有無等に関する事実上、法律上の主張において、防禦の範囲、重点の置き方等に差異を生ずることは容易に推認し得るところである。 現に、本件の原審における審理の経過をみても、検察官の訴因、釈明、論告における主張は、終始被告人の運転車両の一部と被害者の身体および自転車との接触を前提としたた とは容易に推認し得るところである。 現に、本件の原審における審理の経過をみても、検察官の訴因、釈明、論告における主張は、終始被告人の運転車両の一部と被害者の身体および自転車との接触を前提としたため、弁護人の弁論も、その接触はなかつたことに重点をおかれ、原判示のように、右接触が認められないとしても、原判示の状況のもとに被害者のすぐそばを進行した場合、被害者の走行不安定性に基因する不測の事故発生を予見しなかつたことや、右のような経過のもとに本件受傷の結果が生じたことの責任が被告人にあるとの点については、原審において審判の対象として明確に提示されなかつたため、争点としてこれに対する十分な防禦の機会が被告人に与えられないままに、判決されるに至つたことが窺知されるのである。 したがつて、本件の場合、訴因変更手続を経ないで原判決のように認定することは、被告人側の防禦に実質的な不利益を与えるおそれがあるので、許されないところであつたといわなくてはならない。 そうだとすると、本件において、訴因変更を要するのに、右手続を経ることなく原判決のように認定したことは、けつきよく審判の請求を受けていない事件について判決をした違法が存在するものといわなくてはならず、原判決は破棄を免れない。 以上の次第で、その他の控訴趣意に対する判断を省略し、刑事訴訟法三九七条一項、三七八条三号により原判決を破棄し、第一審にさらに審理を尽くさせることが相当であると認め、同法四〇〇条本文により、本件を原裁判所である前橋簡易裁判所に差し戻すこととし主文のとおり判決する。 (裁判長判事中野次雄判事藤野英一判事粕谷俊治) 中野次雄判事藤野英一判事粕谷俊治)

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